JP2017228747A - 通信用フィルタ - Google Patents
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Abstract
Description
<1>磁界を印加させていない状態では電波透過性を有し、かつ、磁界を印加させた状態では電波透過性を有さない通信用フィルタであって、前記通信用フィルタが、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された平均一次粒子径が5nm〜55nmである磁性粒子と、バインダーと、を含むことを特徴とする通信用フィルタ。
<2>前記磁性粒子の含有量が、通信用フィルタの全量に対し、20質量%〜90質量%である<1>に記載の通信用フィルタ。
<3>前記界面活性剤が、炭素数が8〜22の範囲である脂肪酸塩である<1>または<2>に記載の通信用フィルタ。
<4><1>〜<3>何れかに記載の通信用フィルタと、磁界発生手段と、を有する電波遮蔽装置。
一般に用いられる金属材料を格子状の形態とした電波遮断材は、格子状に組まれた金属線が相当の直径を有することにより、金属の影響を受け、電波は格子の空隙を透過することなく電波が遮断される。一方、本発明に用いられる表面の少なくとも一部が界面活性剤により被覆された平均一次粒径が5nm〜55nmである磁性粒子とバインダーとを含む組成物中では磁性粒子間の間隙を通じて電波が透過する。
磁界発生手段により磁界を発生させ本発明の通信用フィルタに磁界を印加させた場合には、磁界の影響により照射する電波の一部が熱エネルギーへと変化し特定の周波数の電波が遮蔽されることになるものと推定している。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書において、「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基を更に有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基を更に有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本発明の通信用フィルタは、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された平均一次粒子径が5〜50nmである磁性粒子と、バインダーと、を含む。
本明細書においては以下、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された平均一次粒子径が5〜50nmである磁性粒子を被覆磁性粒子と称する場合がある。
本発明の通信用フィルタは、磁界を印加させていない状態では電波透過性を有している。
本発明の通信用フィルタにおける電波透過性とは、同軸管透過法で測定した場合に1GHz〜18GHzの周波数帯の全域において透過減衰量が5db以上の周波数帯が存在していないことを意味する。
通信用フィルタの材料は以下のものを用いる。
本発明の通信用フィルタは、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された平均一次粒子径が5〜50nmである磁性粒子と、バインダーと、を含む。
前記磁性粒子は、例えば、マグネタイト、γ酸化鉄、マンガンフェライト、コバルトフェライト、もしくはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライトやバリウムフェライトなどの強磁性酸化物、または、鉄、コバルト、希土類などの強磁性金属、窒化金属などが挙げられる。この中でもマグネタイトが量産性の点から好ましい。
なお、磁性粒子は、超常磁性を発現する範囲の平均粒子径、つまり臨界粒子径以下のものであることがより好ましい。例えば、マグネタイトやγ酸化鉄の場合、50nm以下が好ましく、10nm〜40nmの範囲であるものが特に好ましい。
磁性粒子の平均粒子径は、動的光散乱法で測定される平均一次粒子径である。
被覆磁性粒子の平均粒子径は、5〜55nmであり、11nm〜45nmであることが好ましい。被覆磁性粒子の平均粒子径は、平均一次粒子径のことである。また、被覆磁性粒子は、表面に1nm〜5nm程度の界面活性剤が吸着して、表面の少なくとも一部が界面活性剤に被覆されている磁性粒子であることが好ましく、表面に2nm〜3nm程度の界面活性剤が吸着している磁性粒子であることがより好ましい。
被覆磁性粒子は、超常磁性を発現するものである。超常磁性とは強磁性体の微粒子の集合体でヒステリシスを示さず残留磁化もないものを意味し、常磁性の原子磁気モーメントと比較して100〜100000倍の値を示す。
本明細書における被覆磁性粒子の平均粒子径は、堀場製作所社製のナノ粒子解析装置 nano Partica SZ−100シリーズを使用し、動的光散乱法により測定される値である。
なお、被覆磁性粒子は例えば、磁性流体から分散媒を除去することで得ることができる。
以下に、被覆磁性粒子について磁性流体とともに説明する。
磁性流体とは、磁性粒子を分散媒中に分散させたコロイド溶液であり、その分散性が非常に良いため、重力、磁界などによって沈殿あるいは分離などの固−液分離が生じることなく、それ自身磁性を持った均一な液体と見なすことができる流体である。
本発明で用いる磁性流体は、適宜調製してもよく、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、EXPシリーズ、Pシリーズ、APGシリーズ、RENシリーズ(以上、商品名:フェローテック社製)などが挙げられる。
前者に属する方法としては、粉砕法、スパークエロージョン法が挙げられる。後者に属する方法としては、化学共沈法(湿式法)、金属カルボニルの熱分解法、真空蒸着法などが挙げられる。本発明においては、生産性に優れる点で、化学共沈法が適している。
化学共沈法により磁性流体を調製する方法としては、例えば、硫酸第1鉄水溶液と硫酸第2鉄水溶液より調製したマグネタイト水スラリーにオレイン酸ナトリウムを添加し、マグネタイト粒子表面にオレイン酸イオンを吸着させ、水洗、乾燥後、有機溶媒に分散させる方法が挙げられる。
磁性流体中に含有する磁性粒子は、既述の磁性粒子と同一のものが用いられる。
界面活性剤は、磁性流体中において、磁性粒子の分散媒への分散性を向上させるために添加される。界面活性剤として特に制限はなく、陰イオン性、非イオン性、陽イオン性及び両性界面活性剤が挙げられる。
磁性流体中に前記磁性粒子と界面活性剤とを含むことで、界面活性剤の少なくとも一部が磁性粒子に吸着し、磁性粒子の表面の少なくとも一部が、界面活性剤で被覆される。磁性粒子の表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆されることで、界面活性剤の親水基が磁性粒子の表面に向けて吸着され、かつ、疎水基が分散媒へ配向するため、磁性粒子が安定に分散媒中に分散する。
界面活性剤は、疎水性部位としてアルキル基又はアルケニル基を有することが好ましく、その炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは炭素数10以上であり、その上限は、好ましくは22以下、より好ましくは18以下である。
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレン(硬化)ヒマシ油などのポリエチレングリコール型非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
両性界面活性剤としては、アルキルジアミノエチルグリシンなどを用いることができる。
これらの中で安価であり入手のしやすさからオレイン酸ナトリウムが好ましい。
磁性流体中の界面活性剤の含有量は、磁性粒子同士の凝集を防ぐことができる量であればよいが、5質量%〜25質量%がより好ましく、10質量%〜20質量%が特に好ましい。なお、上記含有量は、界面活性剤を複数種含む場合はその総量を表す。
磁性流体の分散媒としては、常温で液状であり、磁性粒子を分散しうるものであれば特に制限はなく、水、有機溶剤などから選ばれる1種以上が用いられる。
有機溶剤としては、ポリオレフィン、イソパラフィン、ヘプタン、トルエンなどの分子量5000以下の炭化水素類、ポリオールエステルなどのエステル類、シリコーンオイルなどが挙げられる。相溶性が良好であれば、複数種の有機溶剤を混合して用いてもよい。
また、分散媒として、水、水と水溶性有機溶剤との混合物なども好ましく使用される。水溶性有機溶剤としては、エタノール、メタノールなどが挙げられる。分散媒として水を用いる場合、不純物の少ない純水、イオン交換水などを用いることが好ましい。
分散媒に対する各成分の濃度は特に問わないが、後の工程における作業性などの観点から分散媒は、前記各成分を合計した固形分濃度が30質量%〜90質量%の範囲であることが好ましく、60質量%〜80質量%の範囲であることがより好ましい。
固体成分における磁性粒子(無機成分)の合計含有量と、界面活性剤などの有機成分の合計含有量との割合は、超常磁性を発現する範囲であれば特に問わないが一般的には磁性粒子と界面活性剤の質量比としては、60:40〜90:10が好ましく、70:30〜85:15の範囲であることがより好ましい。
磁性流体中の無機成分、有機成分の含有比率は、示差熱熱容量測定により確認することができる。本明細書中の各成分の含有量は、SII社製、EXSTAR6000TG/DTAにて、測定した数値を採用している。
磁性流体には、本発明の効果を損なわない範囲において、磁性粒子、界面活性剤及び分散媒に加え、目的に応じて、さらに種々の他の成分を併用してもよい。
他の成分としては、例えば、水酸化カリウム、トリエチルアミンなどのpHコントロール剤が挙げられる。pHコントロール剤を含むことで、磁性粒子の平均一次粒子径を制御することができる。
本発明に用いる被覆磁性粒子は、前記の如く磁性流体から、常法により、磁性流体に含まれる表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された磁性粒子を取り出すことで得ることができる。
本工程では、好ましくは、磁性流体から分散媒を除去し、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された磁性粒子を含む固体成分を得る。
分散媒を除去する方法には特に制限はなく、例えば、磁性流体に凝集成分を添加することで、磁性流体に含まれる被覆磁性粒子を凝集沈降させ、上澄みである分散媒を除去する方法、固体成分を、適切な開口部を有するフィルタやろ紙を用いてろ別する方法、分散媒の沸点以上の温度で加熱して分散媒を蒸発除去する方法、磁性流体に対して遠心力をかけることにより、磁性流体に含まれる被覆磁性粒子を分離する遠心分離による方法、マグネットにより分離する方法などが挙げられる。
なお、このとき、磁性粒子に付着しなかった残余の界面活性剤なども、分散媒とともに除去されることがある。
本発明に用いる被覆磁性粒子は、既述のように磁性流体を用いることにより得ることができるが、被覆磁性粒子は極めて微小であるために、通常の被覆方法、例えば、静電接触法やスプレー法などにより磁性流体表面に有機材料を被覆処理しても、超常磁性を有する被覆磁性粒子を得ることは極めて困難である。
本実施形態では、まず、磁性流体に、凝集成分を添加することで、磁性流体に含まれる被覆磁性粒子を凝集沈降させる。
凝集沈降する方法としては、例えば、磁性流体の分散媒である有機溶剤としてイソパラフィンを用いた場合、凝集成分としては、アルコール、なかでも、エタノールを含有する溶剤を添加する方法が挙げられる。凝集成分を添加して、撹拌することで、均一分散していた被覆磁性粒子が互いに凝集して沈降する。エタノールは、原液でもよいが、80質量%以上の濃度の水溶液であれば使用しうる。
撹拌して安定に被覆磁性粒子を沈降させるため、本工程における沈降時間は、室温(25℃)の温度条件下で、1時間〜36時間程度であることが好ましく、20時間〜28時間程度であることがより好ましい。
このとき、粒子の沈降には、凝集成分として、アルコールなどの有機溶剤を用いることが好ましい。他方、通常、効率のよい粒子の凝集を生じさせる目的で用いられる共沈剤などは、共沈剤など自体が導電性を有するために、得られる被覆磁性粒子や硬化物の磁気特性に影響を与える虞があることから使用しないことが好ましい。
分散媒を除去する工程は、分散媒を除去し、分散媒と分離された界面活性剤で被覆された磁性粒子を含む固体成分を加熱して、残存する溶媒の量をさらに減少させることが好ましい。そして、その後、固体成分が見かけ上凝集していた場合には、これを再粉末化する工程をさらに有する。
まず、凝集沈降物などの固体成分をさらにろ別してアルコールや残余の分散媒を分離し、加熱する。
急速な高温の加熱を行うと被覆磁性粒子が均一に乾燥されなかったり、被覆磁性粒子間に残存するアルコールが急速に体積膨張することにより磁性粒子が飛び散ったりする虞があるため、乾燥温度は、70℃〜200℃の範囲とすることが好ましく、100℃〜150℃の範囲とすることがより好ましい。またはじめは60℃〜80℃にて1時間程度乾燥し、その後、温度を100℃〜150℃とするなど、2段階の乾燥工程としてもよい。
溶剤が残存している場合、磁性粒子表面がべたつくので、手指接触により、ベタつきを感じない程度まで乾燥することが好ましい。
粉砕を行う場合、粉砕前の乾燥状態において、シランカップリング剤を均一に乾燥後の粒子表面に散布することも好ましい。シランカップリング剤は、磁性粒子表面に吸着して後述するバインダーとの密着性を向上させることができる。
本発明に用いうるシランカップリング剤としては、磁性粒子に吸着しうる官能基を有するものであれば、公知のものを適宜使用すればよい。
シランカップリング剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤の添加量は、乾燥した粒子100質量部に対して、0.5質量部〜1.5質量部の範囲であることが好ましい。
被覆磁性粒子の表面に有機成分が存在することは、熱示差分析などにより確認することができる。
本発明の通信用フィルタは、バインダーを含む。本発明で用いるバインダーは、被覆磁性粒子を結着させる目的で使用され、成形体を得る際の成形材料として機能する。上記の目的を満足するものであれば特に制限されず、有機バインダーあるいは無機バインダーを使用することができる。
有機バインダーとしては、ゴム材料、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの樹脂材料などを使用することができる。無機バインダーとしては、ガラスフリット、コロイダルシリカ、アルミナゾル、珪酸ソーダ、ジルコニアゾル、チタニアゾル、珪酸リチウム、モンモリロナイトといった粘土鉱物、水ガラスなどを使用することができる。
ゴム材料としては、特に制限はなく、通信用フィルタの使用目的または求められる性状などに応じて選択すればよく、例えば、天然ゴム、合成ゴム〔例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、シリコーンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴムなど〕などが挙げられる。中でも、耐油性や入手が容易な点で、シリコーンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)などが好ましい。
樹脂材料としては、特に制限はなく、通信用フィルタの使用目的に応じて、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂から適宜選択される。
本発明に使用しうる樹脂材料の代表的な例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、フッ素樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられ、通信用フィルタの使用目的に応じて1種または2種以上を適宜選択して用いることができる。
通信用フィルタには、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、更に他の成分を含んでいてもよい。
通信用フィルタが含みうる他の成分としては、例えば、架橋剤、磁性を有しない無機粒子、発泡剤、充填剤、老化防止剤、加硫剤、硬化促進剤、離型剤や充填剤などが挙げられる。
架橋剤としては、特に限定されず、熱硬化性樹脂と架橋し得るものであれば適宜使用することができる。例えば、アミン系架橋剤、酸無水物系架橋剤、フェノール系硬化剤、イミダゾール系架橋剤、尿素系架橋剤、高級脂肪酸金属塩、トリフェニルホスフィンなどが挙げられる。
離型剤としては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、エステルワックスなどのワックス類などが挙げられる。
本発明の通信用フィルタは、被覆磁性粒子とバインダーとの混合物を得る工程と、必要に応じて得られた混合物を成形して成形体を作製する工程と、を実施することにより得ることができる。
前記混合物を得る工程は、既述の工程にて得られた被覆磁性粒子と、バインダーと、を混合する工程または既述の磁性流体にバインダーを混合し、磁性流体中に含まれる分散媒を除去する工程である。
本工程では、既述の工程にて得られた被覆磁性粒子とバインダーとを混合して、被覆磁性粒子とバインダーとの混合物を得る。混合物には、所望により他の成分を含んでいてもよい。得られた混合物に含まれるバインダーが、通信用フィルタの成形用材料となる。
混合物の均一性をより向上させる観点からは、被覆磁性粒子に粉末状、ペレット状、或いは粘土状のバインダーを投入し、一軸または二軸押出機もしくは2本ロールで混練することが好ましい。混練する温度や混練時間は使用する樹脂材料に応じて適宜調整すればよい。
混練が溶融混練の場合、均一混合の観点からは、予め溶融したバインダーに本発明に係る被覆磁性粒子を投入するよりも、粉体状或いはペレット状などの固体状態のバインダーと被覆磁性粒子とを混合し、昇温して溶融混練する方が好適である。
溶融混練としては、例えば、ローラー型などの各種ブレードを使用した高剪断型二軸混合装置などを用いて、樹脂材料の軟化温度以上の温度に加熱して混練する方法などが挙げられる。
混練が2本ロールを用いて行なわれる場合、粘土状のバインダーをローラー上で圧縮混練後、被覆磁性粒子を加えて混練する方法が挙げられる。
バインダーと被覆磁性粒子との混合比率は、目的とする磁力の強さ、成形体の強度など、必要に応じて適宜選択される。
通信用フィルタに十分な磁力を付与することができ、且つ、被覆磁性粒子の均一分散が容易であるという観点からは、通信用フィルタに含まれる被覆磁性粒子の含有量の下限は、通信用フィルタ全量に対して20質量%であることが好ましく、30質量%であることがより好ましい。通信用フィルタに含まれる被覆磁性粒子の含有量の上限は90質量%であることが好ましく85質量%であることがより好ましい。
磁性流体とバインダーを混合する方法としては、各種の方法を採用することができ、バインダーを必要に応じ加温し軟化または溶融させた後に磁性流体と混合する方法、バインダーを溶媒に溶解させた後に磁性流体と混合する方法などが挙げられる。
上記の方法により得られた混合物を加温することにより磁性流体中に含まれる分散媒と
所望により加えられた溶媒を除去することができる。
なお、本工程で使用するバインダーは、既述のバインダーを用いることができる。その中でも骨格内に可とう性を有する樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、炭素数2〜9のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールやポリテトラメチレンエーテルグリコールなどを含む長鎖ポリオール、(メタ)アクリレートとエチレン、酢酸ビニルもしくは(メタ)アクリル酸エステルなどのラジカル重合性モノマーとの共重合体、共役ジエン化合物の(共)重合体、ポリエステル樹脂、ダイマー酸又はその誘導体、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)、カルボキシル末端ブタジエンニトリルゴム(CTBN)、ブタジエンゴム(BR)、アクリルゴムなどのゴム成分などを骨格内に有している樹脂が挙げられる。
前工程で得られた被覆磁性粒子と、バインダーとからなる混合物を、必要に応じて、バインダーの種類、物性などに応じて成形加工することで、目的とする形状の通信用フィルタを得ることができる。
通信用フィルタの形状には、特段の定めはなく、何れの形状であってもよい。
既述の本発明の通信用フィルタに、磁界発生手段を設けることにより、電波遮蔽装置とすることができる。
磁界発生手段は、磁石やコイルが挙げられる。磁界発生手段の形状も特に限定されないが、例えば、環状の磁石やコイルとすることができる。
磁界発生手段としてコイルを用いる場合、コイルに流す電流の量を調節することによって、通信用フィルタに印加する磁界を制御することができる。
1.被覆磁性粒子の調製
磁性流体(EXP.12038、フェローテック社製、界面活性剤により被覆された磁性粒子(平均一次粒子径:15nm、磁性粒子:マグネタイト、界面活性剤:オレイン酸ナトリウム、分散媒:イソパラフィン)を50ml分取し、エタノール(85%水溶液)を50ml添加して、よく撹拌し、磁性粒子を凝集沈降させる。沈降時間は24時間とした。その後、エタノールをろ別し、磁性粒子の凝集沈降物を得た。
シリコーン樹脂主剤(ミラブル型シリコーン TSE221−5U、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン製)及び加硫剤(ミラブル型シリコーン TC8、モメンテイブ・パフォーマンス・ジャパン製)を、混練装置(2本ロール、東洋精機製作所)にて下記の条件で混練し、混練物が透明になった時点で、上記の被覆磁性粒子を、被覆磁性粒子とシリコーン樹脂材料との総量に対する被覆磁性粒子の含有比率が40%となるように投入し、さらに混練することにより、シリコーン樹脂を含有する被覆磁性粒子組成物を得た。
<混練条件>
・配合割合:シリコーン主剤 100質量部、加硫剤0.5質量部
・混練温度:40℃
・回転数:定速回転(機器由来)
・混練時間:30分間
上記のようにして得られた被覆磁性粒子組成物を用いて、下記の加熱条件にてプレス成形し縦15mm×横15mm×厚さ2mmの成形体を得た。その後、その成形体を下記の再加熱条件で再加熱して、実施例1−1の成形体を得た。
<a.加熱条件>
・プレス圧:30トン
・プレス温度:170℃
・プレス時間:10分間
<b.再加熱条件>
・装置:熱対流式オーブン
・再加熱温度:200℃
・再加熱時間:30分間
(外観評価)
得られた板状の成形体の外観を目視で観察したところ、被覆磁性粒子と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、外観に優れた成形体であった。
得られた実施例1−1の成形体の電波透過性を1GHzから18GHzの範囲の周波数帯において同軸管透過法により測定した。
同軸管透過法は、電波シールド性を測定する方法の一種である。具体的には、テーパ状同軸管を2本対にして、内導体と外導体の間に、板状の成形体を中心に設置したヘルムホルツコイルヘルムを取り付け、ネットワークアナライザ(アンリツ社製、商品名37247C)を用いて周波数が1GHz〜18GHzの範囲における透過減衰量(S21)を測定する方法である。なお、透過減衰量の測定は、ヘルムホイルコイルに磁界を発生させた場合と発生させていない場合の双方について行った。発生させる磁界はコイル軸中心点で1.8mTである。
磁界を印加させていない状態では透過減衰量は1GHz〜18GHzの全域に渡って5db未満であり、実施例1−1の通信用フィルタは電波透過性を有することが確認された。
磁界を印加させた状態で、透過減衰量が5db以上の周波数帯が存在しており電波透過性を有さないことが確認された。
この結果、通信用フィルタとしての可能性を有していることが確認できた。
実施例1において用いた被覆磁性粒子の含有比率をそれぞれ60%(実施例1−2)、65%(実施例1−3)、及び70%(実施例1−4)に変更した以外は、実施例1−1と同様にして板状の成形体を作製した。
実施例1−2〜1−4の板状の成形体について、実施例1−1と同様に外観評価を行なった。
外観評価では、得られた板状の成形体の外観を目視で観察したところ、被覆磁性粒子と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、いずれも、外観に優れた成形体であった。
実施例1−2〜1−4の板状の成形体について、実施例1−1と同様に電波透過性の評価を行なった。実施例1−1と同様に、実施例1−2〜1−4の成形体の透過減衰量はそれぞれ、磁界を印加させていない状態では1GHz〜18GHzの全域に渡って5db未満であり、電波透過性を有することが確認された。磁界を印加させた状態では、透過減衰量が5db以上の周波数帯が存在しており、電波透過性を有さないことが確認できた。この結果、通信用フィルタとしての可能性を有していることが確認できた。
実施例1−1において用いたシリコーン樹脂を含有する被覆磁性粒子組成物を、以下のように調製したABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)を含有する被覆磁性粒子組成物に代えた以外は、実施例1−1と同様にして板状の通信用フィルタを作製した。
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製、クララスチック K−2540A(パウダー):商品名)を、質量比1:1でメチルエチルケトン(MEK)にて溶解した後、実施例1−1で用いた被覆磁性粒子を、ABS樹脂と被覆磁性粒子とを含む被覆磁性粒子組成物に対し、被覆磁性粒子が40%となる量添加し、十分に混合した。得られた混合物を型に入れ、7日間放置して溶媒を除去し、板状の被覆磁性粒子組成物の成形体を得た。
得られた成形体について、実施例1−1と同様の外観評価を行なった。得られた板状の成形体の外観を目視で観察したところ、被覆磁性粒子と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、外観に優れた成形体であった。
熱硬化性樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の混合物、商品名:ZX−1059、新日鉄化学社製、エポキシ当量:160〜170)100質量部、硬化剤(ポリ(アルキレンオキシド)ジアミン、商品名:ジェファーミンD−230、ハインツマン社製)35質量部、実施例1−1で用いた被覆磁性粒子を、被覆磁性粒子、熱硬化性樹脂及び硬化剤との総量に対する含有比率が40%となるようにして、手撹拌にて混合し以下の手順により板状の成形体を作製した。熱硬化性樹脂と硬化剤と被覆磁性粒子の混合物をテストピース用金型に投入し、80℃で1時間加熱硬化させ長さ15mm、幅15mm、厚さ0.5mmの板状の成形体を得た。
混合物は、混練性、及び成形性共に問題がないことを確認した。
得られた成形体について、実施例1−1と同様に外観評価を行なった。外観を目視で観察したところ、被覆磁性粒子と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、外観に優れた成形体であった。
実施例1−1に記載の被覆磁性粒子の代わりに鉄粉(純鉄、73μm:平均粒子径、JFE製、JIP KB90:商品名)を使用した以外は実施例1−1と同様にして磁性粒子組成物の成形体を得た。
比較例1の板状の成形体について、実施例1−1と同様の外観評価を行なった。得られた板状の成形体の外観を目視で観察したところ、磁性粒子と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、外観に優れた成形体であった。
比較例1の板状の磁性粒子組成物成形体について、実施例1−1と同様にして、磁界を印加させていない状態で電波シールド性の評価を行なった。その結果、透過減衰量が5db以上の周波数帯が一部に存在し、電波透過性を有していないことが確認された。
実施例1−1に記載の磁性粒子の凝集沈降物を300℃で8時間加熱し、磁性流体に由来する有機成分(分散剤)を除去し磁性粉体を得た。この磁性粉体は明らかに酸化が進んでいたが実施例1−1に記載した方法により磁性粉体組成物を用いて比較例2の成形体を得た。ここでの混練条件は、実施例1−1と同様とした。
比較例2の板状の磁性粉体組成物成形体について、実施例1−1と同様にして外観評価を行なった。得られた板状の成形体の外観を目視で観察したところ、磁性粉体と樹脂との分離に起因する亀裂や表面凹凸などは観察されず、外観に優れた成形体であった。なお、成形体は、磁性粉体組成物に含まれる磁性粉体の酸化に起因して成形体は赤茶けた色相であった。
Claims (4)
- 磁界を印加させていない状態では電波透過性を有し、かつ、磁界を印加させた状態では電波透過性を有さない通信用フィルタであって、前記通信用フィルタが、表面の少なくとも一部が界面活性剤で被覆された平均一次粒子径が5nm〜55nmである磁性粒子と、バインダーと、を含むことを特徴とする通信用フィルタ。
- 前記磁性粒子の含有量が、通信用フィルタの全量に対し、20質量%〜90質量%である請求項1に記載の通信用フィルタ。
- 前記界面活性剤が、炭素数が8〜22の範囲である脂肪酸塩である請求項1または2に記載の通信用フィルタ。
- 請求項1〜3何れか一項に記載の通信用フィルタと、磁界発生手段と、を有する電波遮蔽装置。
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