JP2017176141A - 発酵乳製品の製造方法 - Google Patents
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レアチーズケーキはゼラチンのゲル化によって固化したものであり、ゲル状の食感を有するのに対して、ベイクドチーズケーキではデンプンやタンパク質の熱変性による硬い食感を有する。
例えば非特許文献1、2には、水切りヨーグルト、砂糖、小麦粉、卵等を混合した生地を型に流し入れ、オーブン等で焼成したベイクドチーズケーキ風のデザートが記載されている。
本発明は、小麦粉を用いず、焼成しなくてもベイクドチーズケーキ風の食感を有する、新規な発酵乳製品を提供することを目的とする。
[1] 乳原料を含み、乳タンパク質含有量が7.5質量%以上であり、かつリン含有量が乳タンパク質1g当り15mg以下である調乳液を調製する工程と、該調乳液を発酵させて発酵乳を得る工程と、該発酵乳を成型する工程とを有する、発酵乳製品の製造方法。
[2] 前記調乳液の無脂乳固形分が21〜30質量%である、[1]の発酵乳製品の製造方法。
[3] 前記発酵乳のメジアン径が50μm以上である、[1]または[2]の発酵乳製品の製造方法。
[4] 前記発酵乳の、下記の方法で測定される硬さが5,000N/m2以上であり、下記の方法で測定される凝集性が0.6以下である、[1]〜[3]のいずれかの発酵乳製品の製造方法。
本発明における発酵乳の硬さ及び凝集性は、消食表第277号(平成23年6月23日)「特別用途食品の表示許可等について」の第18頁、別添1の別紙3 えん下困難者用食品の試験方法、(1)硬さ、付着性及び凝集性の試験方法に準処する方法で測定して得られる値で表されるものである。
具体的には、直径40mm、高さ15mmの容器に、試料(発酵乳)を高さ15mmになるように充填し(試料温度:10±2℃)、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置(例えば、SUN RHEO METER COMPAC−100(製品名)、株式会社サン科学製)によって、この試料を直径20mm、高さ8mm樹脂製のプランジャーにより、圧縮速度10mm/秒で、容器底面からのクリアランスが5mmになるように圧縮したときの最大圧縮応力(抵抗の最大値)を硬さの測定値(単位:N/m2)とする。
さらに、上記と同様の操作で試料を2回圧縮し、1回目に圧縮した際の圧縮応力と時間とのグラフの面積に対する、2回目に圧縮した際の圧縮応力と時間とのグラフの面積の比率を凝集性の測定値とする。
本発明において発酵乳のメジアン径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定した累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(d50)である。
本発明の発酵乳製品は、従来の一般的なヨーグルトとは食感が大きく異なっており、発酵乳でありながらベイクドチーズケーキに近い食感を有する新規な発酵乳製品である。
本発明の発酵乳製品は、流動性が無い固体状の発酵乳を成型したものである。本発明における発酵乳のメジアン径は、一般的な発酵乳よりも大きい。発酵乳のなめらかさの点ではメジアン径が小さい方が好ましく、市販のヨーグルトのメジアン径は大きくても40μm程度である。これに対して、本発明における発酵乳のメジアン径は、ベイクドチーズケーキに近い食感に優れる点で、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましく、150μm以上がさらに好ましい。発酵乳のメジアン径の上限値は、ベイクドチーズケーキに近い食感に優れる点で250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。
本発明における発酵乳の凝集性は、ベイクドチーズケーキに近い食感に優れる点で、0.6以下が好ましく、0.3〜0.6がより好ましい。
本発明の発酵乳製品の製造方法は、乳原料を含む調乳液を調製する工程(以下、調乳工程ともいう。)と、調乳液を発酵させて発酵乳を得る工程(以下、発酵工程ともいう。)と、得られた発酵乳を成型する工程(以下、成型工程ともいう。)とを有する。
まず調乳液を調製する。調乳液は、これに乳酸菌または酵母を含む発酵菌を作用させて発酵させて発酵乳とするものであり、乳原料および必要に応じて水を含む。さらに、その他の成分を添加してもよい。
乳原料は乳由来の原料であり、発酵乳の製造において用いられる公知の乳原料を用いることができる。乳原料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
例えば生乳、牛乳、水牛乳、やぎ乳、羊乳、馬乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、脱脂乳、脱脂粉乳、クリーム、バター、乳清タンパク質濃縮物(WPC)、乳清タンパク質分離物(WPI)、乳タンパク質濃縮物(MPC)、ミセラカゼインアイソレート(MCI)、ミルクプロテインアイソレート(MPI)等が挙げられる。
乳原料の少なくとも一部として、リン含有量が低減された成分調整乳を用いることが好ましい。該成分調整乳におけるリン含有量は全固形分100gに対して341〜620mgが好ましく、341〜558mgがより好ましい。また、リン含有量が低減された成分調整乳として、全固形分100gに対する脂肪含有量が5.9g以下である低リン脱脂乳または低リン脱脂粉乳を用いることが好ましい。かかる成分調整乳は、下記の成分調整乳製造工程を有する方法で製造できる。
本発明の発酵乳製品の製造方法は、調乳工程の前に、リン含有量が低減された成分調整乳を製造する成分調整乳製造工程を有し、得られた成分調整乳を含む乳原料を調乳工程で用いてもよい。
成分調整乳製造工程の好ましい態様において、まず、乳固形分を含み、脂肪含有量が全固形分100g当たり5.9g以下であり、かつ固形分濃度が1〜25質量%である原料液に塩酸を加えてpH(25℃)が5.5〜6の第1の処理液を調製する。
次いで、第1の処理液をナノろ過膜で処理し、塩素イオン濃度が全固形分100gあたり8mmol以下である保持液画分(第2の処理液)を得る。
次いで、第2の処理液を塩素イオン型陰イオン交換樹脂に接触させて、リン含有量が全固形分100g当たり620mg以下である分画物(成分調整乳)を調製する。
こうして得られる成分調整乳をそのままの状態で液状の成分調整乳として用いてもよく、必要に応じて、公知の方法で濃縮または乾燥させてもよい。例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥等の乾燥工程を経て、粉末状の成分調整乳(成分調整粉乳)としてもよい。
その他の成分として、例えば、蔗糖、オリゴ糖等の糖類、植物性脂肪、安定剤、香料、甘味料等の発酵乳の製造において添加される公知の成分を適宜、含有させることができる。
安定剤として、例えば寒天、ゼラチン、ペクチン等が挙げられる。
甘味料としては、例えばスクラロース、エリスリトール等が挙げられる。
調乳液における乳タンパク質含有量の上限値は食感および風味の点からは11質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましい。
乳タンパク質1g当りのリン含有量の下限値は風味の点からは10mg以上が好ましく、10.2mg以上がより好ましい。
より好ましい範囲は、乳タンパク質含有量が7.5〜9質量%以上であり、かつリン含有量が乳タンパク質1g当り10.2〜14.8mgである。
調乳液における脂肪含有量は1〜12質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。脂肪含有量が上記の範囲であると、ベイクドチーズケーキに近い食感が得られやすい。
次いで、調乳液の加熱殺菌を行うことが好ましい。該加熱殺菌は、発酵乳の製造において一般的な条件で行うことができる。例えば90〜95℃で5〜15分保持する条件、またはこれと同等の殺菌効果が得られる条件でもよい。
調乳液の加熱殺菌後、発酵温度にまで冷却することが好ましい。または加熱殺菌後の調乳液をすぐに発酵させず、一旦タンク等に保存する場合は、加熱殺菌後10℃以下に冷却することが好ましい。
次いで、調乳液に発酵菌を添加し(発酵開始)、発酵温度に保持して発酵させ、発酵乳を得る。
[発酵菌]
発酵菌は、発酵乳の製造において公知の、乳酸菌、ビフィズス菌、または酵母を使用できる。発酵菌は2種以上組み合せて使用することができる。
発酵菌として乳酸菌スターターを用いることが好ましい。例えば、ラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)、ラクトコッカス・ラクチス(L.lactis)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)等のヨーグルト製造に通常用いられている乳酸菌スターターの1種または2種以上を用いることが好ましい。乳酸菌スターターを用いる場合、ビフィズス菌スターター、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)等を併用してもよい。これらのスターターは市販品から入手可能である。
発酵によりカードが形成される。乳酸菌による発酵においては酸が生成されるため、発酵が開始された後の調乳液のpHは経時的に低下する。調乳液のpHを常法により測定し、予め設定された到達pHに達したら、10℃以下に冷却して発酵乳を得る。冷却することにより、発酵菌の活性が低下し発酵が抑えられる。10℃以下に冷却された時点を発酵工程の終了時とする。
到達pHは4〜5.3が好ましく、4.3〜5.1がより好ましく、4.6〜4.9が特に好ましい。到達pHが上記の範囲であると、ベイクドチーズケーキに近い食感が得られやすい。
本発明の発酵工程で得られる発酵乳は流動性を有しない固体状である。発酵乳の無脂乳固形分の含有量は、調乳液における無脂乳固形分の含有量と同じである。
発酵工程で得られた発酵乳に、撹拌等の外力を加えて流動性が得られるまで粉砕し、発酵乳粉砕物とする。この発酵乳粉砕物を型に詰めて圧縮することによって成型し、発酵乳製品を得る。発酵乳粉砕物の流動性は型に詰めやすくなる程度であればよい。
または、発酵工程で得られた発酵乳を粉砕せずに、所望の形状に切断して発酵乳製品としてもよい。
<測定方法>
成分組成は以下の方法により測定した。無脂乳固形分は固形分から乳原料以外の固形分および脂肪分を差し引いて得られる値である。
[水分]
混砂乾燥法を用いて水分を定量した。試料を一定条件で恒量となるまで乾燥し、乾燥物質量を求め算出した乾燥減量を水分量とする。
[固形分]
固形分(%)=100−水分(%)にて求めた。
[脂肪]
クリーム用のバブコックボトルに試料9gを採取し、温湯9mlで頚部をよく洗いながら入れ、混合する。次いで硫酸17.5mlを、同様に頚部を洗いながら徐々に入れ、試料と硫酸をよく混ぜ合わせる。発生したカードが完全に溶解してから60℃に温度調節した遠心分離機にて遠心した。回転数は1000rpmにて5分間行う。
その後、温湯を加え再び遠心した後、脂肪柱の目盛を読み取った。
タンパク量は、分析機器SUMIGRAPH NC−220F(住化分析センター社製)を用い、デュマ法(酸素循環燃焼方式)によって測定した。測定条件は下記のとおりである。
電気炉温度:反応炉870℃、還元炉:600℃
酸素パージ:0.2±0.02L/min
カラム温度:70±5℃
検出器:検出器温度:100℃、CURRENT:160mA
キャリアーガス:カラム温度70±5℃の時にヘリウム流量80±5mL/min
構成基準物質:Aspartic acid
測定試料量:500±100mg
基準物質量:500±100mg
炭水化物(%)=100−(脂肪分+タンパク量+水分+灰分)、にて算出した。
[リン]
質量基準のリン(P)含有量は、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)により測定した。
以下の原料を用いた。
成分調整粉乳:下記製造例1で得られた成分調整粉乳。
脱脂粉乳:森永乳業社製、脂肪1質量%、タンパク質34質量%、無脂乳固形分95.2質量%、粉乳全量100gに対するリン含有量1000mg/100g。
クリーム:森永乳業社製、脂肪45質量%、タンパク質1.6質量%、無脂乳固形分4.5質量%。
蔗糖:北海道糖業株式会社製。
ゼラチン:GU250MB(製品名)、新田ゼラチン株式会社製。
乳酸菌スターター:YF−L904(製品名)、クリスチャン・ハンセン社製。
予め原料液として、市販の脱脂粉乳(全固形分100gに対して、脂肪含有量が1.1g、リン含有量が約874mg)を、固形分濃度が7質量%となるように水(25℃)に溶解させて脱脂乳水溶液を調製した。
該脱脂乳水溶液を10℃に冷却し、撹拌しながら塩酸水溶液(濃度0.5質量%)を加えてpH(25℃)を5.7として第1の処理液を得た。
第1の処理液をナノろ過膜(NTR7450HG−S2F(製品名)、日東電工株式会社製。0.2質量%塩化ナトリウム溶液に対する阻止率が40%以上。)で処理した。
ナノろ過膜を透過しない保持液中の塩素イオン含有量が5mmol/100g固形分(目標値)以下となるまで処理した。得られた保持液を第2の処理液とした。
第2の処理液に水を加えて固形分濃度が5質量%の希釈液とした。該希釈液を塩素イオン型(Cl−型)陰イオン交換樹脂(IRA402BL(製品名)、ダウケミカル社製。)に接触させて、リン含有量が低減された成分調整乳を得た。かかる成分調整乳を噴霧乾燥して成分調整粉乳を得た。製造された成分調整粉乳は、脂肪含有量1.2質量%、タンパク質含有量33.7質量%、無脂乳固形分95.2質量%、リン含有量(粉乳全量100gに対するリン含有量)は348mg/100gであった。
例1、2は実施例、例3〜5は比較例である。
表1に示す配合で、製造例1で製造された成分調整粉乳、市販の脱脂粉乳、クリーム、蔗糖、ゼラチン、水を混合し、75℃に加温して溶解した後、15MPaの圧力で均質化した。得られた溶液を85℃で10分間加熱殺菌し、43℃に冷却した後、乳酸菌スターターを添加して調乳液とした。調乳液の成分組成を表2に示す。
この調乳液を静置した状態で43℃で、pHが4.8になるまで発酵させ、5℃に冷却して発酵乳を得た。
例3〜5で得られた発酵乳の性状は市販のプレーンヨーグルトに類似しているのに対して、例1、2で得られた発酵乳は流動性が無い固体状であり、市販のプレーンヨーグルトとは外観および性状が明らかに異なるものであった。
例1、2で得られた発酵乳を、プロペラ式攪拌装置を用いて破砕し、三角柱状の型に詰めて圧縮して成型し、型から取り出して三角柱状の自立する発酵乳製品を得た。
[物性の測定]
例1〜5で得られた発酵乳の物性(メジアン径、硬さ、および凝集性)を測定した。
また、市販のベイクドチーズケーキ2種(チーズケーキA、チーズケーキBとする)および市販のプレーンヨーグルトについて、同様の物性を測定した。結果を表2に示す。
例1、2で得られた発酵乳製品および上記市販のベイクドチーズケーキ2種について下記の方法で官能評価を行った。結果を表2に示す。
専門パネラー10名が試食し、粒状感および抵抗感について下記の基準で評価した。10名の平均値を表2に示す。
[粒状感]
5:強い
4:やや強い
3:どちらとも言えない
2:やや弱い
1:弱い
[抵抗感]
5:強い
4:やや強い
3:どちらとも言えない
2:やや弱い
1:弱い
物性の測定結果から明らかなとおり、調乳液中のリン含有量を低下させることによって、市販のベイクドチーズケーキの食感に近くなることがわかる。
すなわち例1、2では、小麦粉を用いず、焼成しなくてもベイクドチーズケーキ風の食感を有する発酵乳製品が得られた。
Claims (4)
- 乳原料を含み、乳タンパク質含有量が7.5質量%以上であり、かつリン含有量が乳タンパク質1g当り15mg以下である調乳液を調製する工程と、
該調乳液を発酵させて発酵乳を得る工程と、
該発酵乳を成型する工程とを有する、発酵乳製品の製造方法。 - 前記調乳液の無脂乳固形分が21〜30質量%である、請求項1記載の発酵乳製品の製造方法。
- 前記発酵乳のメジアン径が50μm以上である、請求項1または2に記載の発酵乳製品の製造方法。
- 前記発酵乳の、硬さが5,000N/m2以上であり、凝集性が0.6以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発酵乳製品の製造方法。
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