JP2017024168A - ドリル及びドリルヘッド - Google Patents

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Abstract

【課題】加工穴の内周の品位及び内径精度を高められること。【解決手段】軸線O回りに回転させられるドリル本体1と、ドリル本体1の外周に形成されて、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝2と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとドリル本体1の先端面6との交差稜線部に形成された先端刃7と、を備え、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aのうち、先端刃7を介して先端面6に連なる先端部には、軸線Oに平行となるようにギャッシュすくい面2cが形成されており、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、先端刃7は、軸線Oに直交する径方向に沿うように延びている。【選択図】図20

Description

本発明は、例えばCFRP(炭素繊維強化樹脂)や、該CFRPにチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料等の被削材に、穴あけ加工を行うドリル、及び、刃先交換式ドリルの工具本体の先端部に着脱可能に装着されたり、工具本体の先端部にろう付け等により固定状態で装着されるドリルヘッドに関するものである。
従来、例えば航空機部品等に用いられるCFRP(炭素繊維強化樹脂)や、該CFRPにチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料等の被削材に対して、ドリルによる穴あけ加工が行われている。
この種の被削材においては、穴あけ加工時にドリルから伝播されるスラスト荷重(ドリルから被削材に対して、ドリル送り方向へ向けて作用する力)により、加工穴の内周に繊維層の層間剥離(デラミネーション)が生じやすい。また、繊維の切り残しや伸展性の抜けバリ、ひげ等(以下、バリ等と省略)が生じることがある。このような問題を解消するためのドリルとして、例えば下記特許文献1〜5に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載されたドリルは、先端角を70〜100°と小さく設定することにより、スラスト荷重を低減させている。
特許文献2、3に記載されたドリルは、ドリル側面視において先端部が尖るように鋭角に形成されており、切れ刃の先端角が、先端から基端側へ向かうに従い漸次又は段階的に小さくなるように変化していて、スラスト荷重を低減させている。
特許文献4に記載されたドリルは、ドリル先端部に、ドリル軸線方向に隣り合う小径部と大径部が形成されており、まず小径部が被削材を穴あけ加工(粗加工)した後、大径部が被削材に切り込んで、加工穴の内周を仕上げ加工するようになっている。つまり、小径部の穴あけ加工によって層間剥離やバリ等の不具合が生じた場合でも、その後に切り込む大径部が、前記不具合の生じた部分ごと加工穴の内周を切除する。
特許文献5に記載されたドリルは、いわゆるロウソク型ドリルであり、切れ刃(先端刃)の径方向外側の端部が、ドリル先端側へ向けて突出するように形成されているとともに、この端部が加工穴の内周に鋭く切り込んで、層間剥離やバリ等の発生を抑制する。
米国特許出願公開第2008/0019787号明細書 特許第5087744号公報 特許第5258677号公報 特開2014−34079号公報 米国特許第8540463号明細書
しかしながら、上記従来のドリルでは、下記の課題を有していた。
本明細書に添付した図29〜図33を用いて、従来のドリル100、110の問題点について、具体的に説明する。
ドリル100、110は、軸線O回りに回転させられるドリル本体101と、ドリル本体101の外周に形成されて、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝102と、切屑排出溝102のドリル回転方向Tを向く壁面とドリル本体101の先端面との交差稜線部に形成された先端刃107と、を備えている。
なお、先端刃107の中でも、穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度に密接に関係するのは、該先端刃107における径方向の外端(外周コーナ)107c近傍である。
図29及び図30に示されるドリル100においては、切屑排出溝102が、ドリル本体101の先端面に開口しているとともに、該先端面から軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。このため、先端刃107のアキシャルレーキ角(軸方向すくい角)は、ポジティブ角とされている。また、図30に示されるように、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角(径方向すくい角)Rは、ポジティブ角(+)とされている。
このドリル100を用いて、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Aで示される領域(周方向の領域)にバリ等が発生しやすい。
すなわち、CFRP等からなる被削材Wには繊維の方向性があり、図33においては繊維の方向性が、上下方向(縦方向)とされている。このため、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rがポジティブ角(+)とされていると、加工穴の内周のうち領域Aにおいて、刃先が鋭角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して逆目に鋭く切り込んで)繊維が引き剥がされやすくなり、バリ等が発生する。
また、図31及び図32に示されるドリル110においては、切屑排出溝102の先端部に、軸線Oに平行なギャッシュすくい面102cが形成されている。このため、先端刃107のアキシャルレーキ角は、ネガティブ角(0°)とされている。また、図32に示されるように、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rは、0°よりも負角側に大きいネガティブ角(−)とされている。
このドリル110を用いて、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Bで示される領域(周方向の領域)にバリ等が発生しやすい。
すなわち、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rがネガティブ角(−)とされていると、加工穴の内周のうち領域Bにおいて、刃先が鈍角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して順目だが鈍く切り込んで)繊維の切り残しが生じやすくなり、バリ等が発生する。
このため、加工穴の内周の周方向全域にわたって、バリ等の発生を抑制して、仕上げ精度を向上することが望まれていた。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被削材に穿設される加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができるドリル及びドリルヘッドを提供することを目的とする。
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明のドリルは、軸線回りに回転させられるドリル本体と、前記ドリル本体の外周に形成されて、前記軸線方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝と、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記ドリル本体の先端面との交差稜線部に形成された先端刃と、を備え、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面のうち、前記先端刃を介して前記先端面に連なる先端部には、前記軸線に平行となるようにギャッシュすくい面が形成されており、前記ドリル本体を前記軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記先端刃は、前記軸線に直交する径方向に沿うように延びていることを特徴とする。
また本発明は、工具本体の先端部に装着されるドリルヘッドであって、前記工具本体とともに軸線回りに回転させられるヘッド本体と、前記ヘッド本体の外周に形成されて、前記軸線方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝と、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記ヘッド本体の先端面との交差稜線部に形成された先端刃と、を備え、前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面のうち、前記先端刃を介して前記先端面に連なる先端部には、前記軸線に平行となるようにギャッシュすくい面が形成されており、前記ヘッド本体を前記軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記先端刃は、前記軸線に直交する径方向に沿うように延びていることを特徴とする。
本発明のドリル及びドリルヘッドによれば、先端刃のすくい面となる切屑排出溝のギャッシュすくい面が、ドリル本体の軸線に平行となるように形成されているので、該先端刃のアキシャルレーキ角(軸方向すくい角)は、ネガティブ角(0°)とされる。そして、ドリル正面視において、先端刃が、ドリル本体の径方向に沿うように延びている。つまり、この先端刃は、芯上がりでも芯下がりでもない、芯高ゼロとなるように設定されている。
ここで、上記「芯高」について説明する。芯高(芯高寸法)とは周知のように、ドリル正面視において、先端刃の刃長方向に平行で軸線を通る仮想直線に対して、該先端刃が離間させられる距離である。具体的には、図29(b)及び図31(b)に示される従来のドリル100、110において、先端刃107の刃長方向に平行で軸線Oを通る仮想直線に対して、先端刃107が離間させられる距離Lが、芯高である。そして、前記仮想直線に対して先端刃107がドリル回転方向Tに位置する場合は「芯上がり」、ドリル回転方向Tとは反対側に位置する場合は「芯下がり」である。
従来のドリル100、110は、すべて芯上がりとなっている。
本発明では、ドリル正面視で、先端刃が径方向に沿うように延びており、芯高が略ゼロである。なお、上記「先端刃が径方向に沿うように延び」るとは、ドリル正面視において、先端刃の径方向の外端(外周コーナ)及び軸線を通る仮想直線と、該先端刃の刃長方向と、の間に形成される角度が、ゼロに近い小さな値(略0°)とされていることを指し、具体的には前記角度が、例えば5°以下(0〜5°)である。
このように、先端刃のアキシャルレーキ角がネガティブ角(0°)とされ、かつ、先端刃が径方向に沿うように延びている(芯高ゼロとされている)と、先端刃の外周コーナのラジアルレーキ角は、ネガティブ角(0°)となる。
このため、本発明のドリル及びドリルヘッドにより、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Aで示される領域(周方向の領域)においても、符号Bで示される領域(周方向の領域)においても、バリ等が発生することが顕著に抑制される。
具体的に、被削材Wの加工穴の内周のうち、領域Aにおいては、従来では刃先が鋭角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して逆目に鋭く切り込んで)繊維が引き剥がされやすかったが、本発明では刃先が直角に切り込むため、繊維を引き剥がすことが抑制される。また、領域Bにおいては、従来では刃先が鈍角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して順目だが鈍く切り込んで)繊維の切り残しが生じやすかったが、本発明では刃先が直角に切り込むため、繊維の切り残しの発生が抑制される。
従って本発明のドリル及びドリルヘッドは、加工穴の内周の周方向全域にわたって、バリ等の発生を抑制することができるのである。
以上より本発明によれば、被削材に穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度を、安定して高めることができる。
また、本発明のドリルにおいて、前記切屑排出溝のうち、前記ギャッシュすくい面よりも前記軸線方向の基端側に位置する部分は、前記ギャッシュすくい面から前記軸線方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向とは反対側へ向けてねじれて延びていることとしてもよい。
この場合、切屑排出溝は、ドリル本体の外周において螺旋状に延びるねじれ溝となる。従って、切屑排出性が良好に維持される。
また、本発明のドリルにおいて、前記切屑排出溝は、前記軸線に平行に延びていることとしてもよい。
この場合、切屑排出溝は、ドリル本体の外周において直線状に延びる直溝となる。従って、ドリル製造時に切屑排出溝を成形しやすい。
本発明のドリル及びドリルヘッドによれば、被削材に穿設される加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができる。
本発明の第1参考例に係るドリルを示す側面図である。 図1のドリルの先端面を正面に見た図(正面図)である。 図1のドリルの先端部を拡大して示す側面図である。 図1のドリルの先端部を拡大して示す側面図であり、図3とは異なる向きからこの先端部を見た図である。 図3のV部を拡大して示す図であり、穴あけ加工時にドリルから被削材に対して作用する切削力(スラスト荷重、ラジアル荷重)を説明する図である。 本発明の第1参考例に係るドリルの各構成要素の角度、径方向位置等を説明する図である。 本発明の第1参考例に係るドリルの変形例を示す側面図である。 図7のドリルの先端面を正面に見た図(正面図)である。 図7のドリルの先端部を拡大して示す側面図である。 図7のドリルの先端部を拡大して示す側面図であり、図9とは異なる向きからこの先端部を見た図である。 本発明の第2参考例に係るドリルを示す側面図である。 図11のドリルの先端面を正面に見た図(正面図)である。 図11のドリルの先端部を拡大して示す側面図である。 図11のドリルの先端部を拡大して示す側面図であり、図13とは異なる向きからこの先端部を見た図である。 本発明の第2参考例に係るドリルの各構成要素の角度、径方向位置等を説明する図である。 本発明の第2参考例に係るドリルの変形例を示す側面図である。 図16のドリルの先端面を正面に見た図(正面図)である。 図16のドリルの先端部を拡大して示す側面図である。 図16のドリルの先端部を拡大して示す側面図であり、図18とは異なる向きからこの先端部を見た図である。 本発明の第1実施形態に係るドリルを示す(a)側面図、(b)正面図である。 図20(a)のII−II断面を示す図である。 本発明の第2実施形態に係るドリルを示す(a)側面図、(b)正面図である。 本発明の第2実施形態に係るドリルの変形例を示す(a)側面図、(b)正面図である。 図23(a)のドリルの要部を拡大して示す図であり、穴あけ加工時にドリルから被削材に対して作用する切削力(スラスト荷重、ラジアル荷重)を説明する図である。 図23に示されるドリルの各構成要素の角度、径方向位置等を説明する図である。 本発明の第3実施形態に係るドリルを示す(a)側面図、(b)正面図である。 本発明の第2参考例に係るドリルの変形例を示す(a)側面図、(b)正面図である。 本発明の第2実施形態に係るドリルの変形例を示す正面図である。 従来のドリルを示す(a)側面図、(b)正面図である。 図29(a)のIX−IX断面を示す図である。 従来のドリルを示す(a)側面図、(b)正面図である。 図31(a)のXI−XI断面を示す図である。 被削材に穴あけ加工した加工穴の内周において、バリ等が発生しやすい領域を説明する図である。
<第1参考例>
以下、本発明の第1参考例に係るドリル10について、図1〜図6を参照して説明する。
図1〜図4に示されるように、本参考例のドリル10は、軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、超硬合金等の硬質材料により形成されたドリル本体1を有している。ドリル本体1は、その軸線O方向の基端側部分が円柱状のままのシャンク部とされるとともに、軸線O方向の先端側部分が切れ刃を有する刃部とされる。なお、前記切れ刃には、後述する先端刃7及び外周刃4が含まれる。
ドリル10は、ドリル本体1のシャンク部が工作機械の主軸や、ボール盤・電動ドリルの三爪チャック等に着脱可能に装着され、軸線O回りに沿うドリル回転方向Tに回転させられつつ、軸線O方向に沿う先端側(図1における下側)へ送り出されて、刃部により被削材に切り込んで穴あけ加工を行う。なお、この被削材としては、例えば、航空機部品等に用いられるCFRP(炭素繊維強化樹脂)や、該CFRPにチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料や、伸展性の高い金属材料等が挙げられる。
本明細書では、ドリル本体1の軸線O方向に沿う刃部側(図1における下側)を先端側といい、刃部とは反対側の、工作機械の主軸等に把持されるシャンク部側(図1における上側)を基端側という。
また、軸線Oに直交する方向を径方向といい、この径方向のうち、軸線Oに接近する向きを径方向の内側といい、軸線Oから離間する向きを径方向の外側という。
また、軸線O回りに周回する方向を周方向といい、この周方向のうち、切削加工時にドリル10が回転させられる向きをドリル回転方向Tといい、これとは反対側へ向かう向きを、ドリル回転方向Tとは反対側(反ドリル回転方向)という。
ドリル本体1の外周には、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝2と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとドリル本体1の外周面との交差稜線部に形成された外周刃4と、が備えられる。
また、ドリル本体1の外周のうち、切屑排出溝2以外の外周面には、外周刃4のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、該外周刃4に沿って延びるとともに、この外周刃4と同径とされてドリル本体1の刃部における最外径部分をなすマージン部11と、マージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、外周刃4及びマージン部11よりも小径とされた二番取り面15と、が形成されている。
本参考例では、ドリル本体1の外周において切屑排出溝2が、周方向に互いに間隔をあけて複数形成されており、これらの切屑排出溝2が、ドリル本体1の先端面6にそれぞれ開口しているとともに、該先端面6から軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。
また、これら切屑排出溝2は、軸線Oに関して回転対称位置となるように、ドリル本体1の外周において、周方向に等間隔をあけて(等ピッチで)配置されている。具体的に、本参考例のドリル10は、ドリル本体1に2条の切屑排出溝2が軸線Oに関して180°回転対称に配置された、ツイストドリルとなっている。
図1において、切屑排出溝2は、ドリル本体1の先端面6に開口して基端側へ向けて延びているとともに、ドリル本体1の軸線O方向に沿う中央部付近(図示の例では、中央部よりもやや基端側に位置する部分)において、径方向外側へ向けて外周面に切れ上がっている。そして、ドリル本体1において、軸線O方向に沿う切屑排出溝2が形成された範囲が刃部とされ、この範囲よりも基端側がシャンク部とされている。
図2において、切屑排出溝2は、溝の内周が凹曲面状をなしており、径方向内側及びドリル回転方向Tへ向けて窪むように形成されている。また切屑排出溝2は、その周方向に沿う中央部付近において、溝深さが最も深くなる(溝の内周が軸線Oに最も接近する)ように形成されている。
図1、図3及び図4において、外周刃4は、その軸線O方向の先端部がリーディングエッジとされている。具体的に、ドリル本体1の刃部の外径は、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次僅かに小さくされていて、バックテーパが与えられており、これに応じて、外周刃4の外径もドリル本体1の先端から基端側へ向けて、徐々に小さくされている。ただしこれに限定されるものではなく、ドリル本体1の刃部には、バックテーパが付与されていなくてもよい。
図2において、マージン部11は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aに連なり、後述する先端刃7の最外径(先端刃7の径方向の外端が軸線O回りに回転して形成される回転軌跡の円の直径φD)と略等しい外径の仮想円筒面上に位置するように形成されている。そして、ドリル本体1において、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとマージン部11との交差稜線部が、外周刃4とされている。
図1、図3及び図4において、本参考例では、切屑排出溝2が上述のように螺旋状にねじれて形成されているため、切屑排出溝2に沿う外周刃4及びマージン部11も、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。つまり、切屑排出溝2、外周刃4及びマージン部11は、互いにねじれ角(リード、軸方向傾斜角)が等しくされている。
図2において、ドリル本体1の外周面のうち、マージン部11と該マージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2との間に位置する部分が、二番取り面15とされている。外周刃4の軸線O回りの回転軌跡(図2に示されるドリル本体1のシャンク部の外径に相当する仮想円)に対して、二番取り面15は、径方向内側に後退して配置されている。
具体的に、二番取り面15は、ドリル本体1の外周面におけるマージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に連なっており、該マージン部11の外径よりも小さい外径とされている。なお、図示の例では、二番取り面15は、外周刃4の前記回転軌跡から径方向内側へ向けた後退量(二番取り深さ)が、周方向の全域にわたって一定とされている。ただし、これに限定されるものではなく、例えば、二番取り面15は、そのドリル回転方向Tの端部からドリル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い漸次外周刃4の前記回転軌跡から径方向内側へ向けた後退量が大きくされていてもよい。
また、ドリル本体1の外周のうち、二番取り面15と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面2bとの交差稜線部が、ヒール部13とされている。ヒール部13は、ドリル回転方向Tとは反対側に向けて尖るとともに、切屑排出溝2に沿って延びる稜線状をなしている。
図1〜図4において、ドリル本体1の先端部には、ドリル10の先端側(ドリル送り方向)を向く先端面6と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aと先端面6との交差稜線部に形成された先端刃7と、先端面6と該先端面6のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2との間に位置するシンニング部9と、が備えられる。
図2において、先端面(先端逃げ面)6は、先端刃7の後述する第1〜第3先端刃21〜23のうち、最も径方向の内側に位置する第1先端刃21からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第1逃げ面31と、第1〜第3先端刃21〜23のうち、最も径方向の外側に位置する第3先端刃23からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第3逃げ面33と、第1先端刃21と第3先端刃23との間に位置する第2先端刃22からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第2逃げ面32と、を備えている。
これらの第1〜第3逃げ面31〜33が、ドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けてそれぞれ傾斜していることで、第1〜第3先端刃21〜23には、逃げ角γ1〜γ3がそれぞれ付与されている。
図6において、第1逃げ面31の逃げ角γ1と、第3逃げ面33の逃げ角γ3とは、互いに等しくされている。また、第2逃げ面32の逃げ角γ2は、第1逃げ面31の逃げ角γ1及び第3逃げ面33の逃げ角γ3よりも、小さくされている。本参考例では、逃げ角γ1、γ3が例えば25°程度であり、逃げ角γ2が例えば5〜15°程度である。
図3及び図4に示されるように、第1逃げ面31及び第3逃げ面33は、径方向外側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜している。また、第2逃げ面32は、径方向外側に向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜している。
図2において、先端面6は、先端刃7のドリル回転方向Tとは反対側に連なるとともに上述した第1〜第3逃げ面31〜33が配置される、径方向に長い矩形状をなす前方部分と、この前方部分のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、該前方部分よりも大きな逃げ角に設定された扇形状の後方部分と、を有している。ただし、これに限定されるものではなく、先端面6は、前方部分と後方部分の逃げ角が互いに同一に設定されているとともに、これら前方部分及び後方部分が面一に形成されていてもよい。
また、先端面6は、先端刃7からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びるとともに、軸線O方向の基端側へ向けて窪むように形成された凹部8を有する。本参考例では、凹部8が、先端刃7からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びる溝状をなしており、先端面6における前方部分から後方部分にわたって形成されている。
凹部8は、軸線O方向の先端側を向く底面と、径方向の外側を向く壁面と、を有しており、前記底面が、上述した第2逃げ面32とされている。
また、先端面6には、クーラント孔14が開口している。クーラント孔14は、ドリル本体1内を切屑排出溝2に沿うように(切屑排出溝2と略等しいリードで)ねじれて延びているとともに、ドリル本体1を軸線O方向に貫通している。クーラント孔14内には、工作機械の主軸等から供給されるクーラント(圧縮エアや、油性又は水溶性の切削剤)が流通し、このクーラントは、ドリル本体1の先端部及び被削材の加工部位に流出させられる。
本参考例では、ドリル本体1の先端部においてクーラント孔14が開口させられる位置が、凹部8よりも径方向の内側に設定されている。また、クーラント孔14は、先端面6及び後述するシンニング面9bにわたって開口している。
図2に示されるドリル正面視において、クーラント孔14の開口形状は、円形状をなしているが、これに限定されるものではなく、例えばそれ以外の多角形状や楕円形状等であってもよい。
先端刃7は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aの先端部と、ドリル本体1の先端面6のうち、前記壁面2aの先端部からドリル回転方向Tとは反対側に連なる部分(上述した前方部分)との交差稜線部に形成されていて、壁面2aをすくい面とし、先端面6を逃げ面としている。なお、上記壁面2aには、後述するシンニング壁面9aが含まれる。
そして、この先端刃7は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びる第1先端刃21と、第1先端刃21の径方向の外側に配置された第2先端刃22と、第2先端刃22の径方向の外側に配置された第3先端刃23と、を有している。
図6に示されるドリル本体1を径方向から見た側面視で、第1先端刃21と軸線Oとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の2倍の角度に相当する当該ドリル10の先端角αが、100〜170°の範囲とされている。なお、本参考例のドリル10はツイストドリルであるので、前記先端角αとは、このドリル側面視で、一対の先端刃7の各第1先端刃21の延長線同士の間に形成される角度に等しい。
また図6において、先端刃7を軸線O回りの周方向に回転させて得られる回転軌跡の直径(最外径)をφDとして、第1先端刃21の径方向の外端は、先端刃7の径方向の外端から、φD×25%以下の範囲に配置されている。具体的には、図6のドリル側面視で、符号aで示される距離(径方向の長さ)が、上記φD×25%以下に設定される。
図3及び図6において、先端刃7のうち第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、又は、軸線Oに垂直に延びている。本参考例において図示される例では、第2先端刃22が、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜している。
図6のドリル側面視で、軸線Oに垂直な仮想平面VSと、第2先端刃22との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度βは、25°以下に設定されている。具体的に、この角度βは、0〜25°である。
また、第2先端刃22の径方向の内端は、第1先端刃21の径方向の外端に対して、軸線O方向の基端側に配置されている。
また本参考例では、第2先端刃22の径方向の内端は、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の内側又は径方向の同一位置に配置されている。本参考例において図示される例では、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の内側に配置されている。
図3及び図4において、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aと、凹部8において径方向外側を向く壁面との交差稜線部には、稜線16が形成されている。稜線16は、切削に寄与することのないみせかけの切れ刃であり、軸線O方向に沿うように延びているとともに、第1先端刃21の径方向の外端と、第2先端刃22の径方向の内端とを繋いでいる。ただし、切削に寄与しないこの稜線16に対しても逃げ角は付与されており、本参考例では、前記逃げ角が10°以下となっている。つまり、先端面6において稜線16のドリル回転方向Tとは反対側に連なる部分(凹部8において径方向外側を向く壁面)は、ドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い漸次径方向の内側へ向けて傾斜する逃げ面とされている。
図6のドリル側面視で、軸線Oと稜線16との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度θ1は、10°以下に設定されている。具体的に、この角度θ1は、0〜10°である。
そして、図5及び図6に示されるように、第2先端刃22の径方向の外端は、第1先端刃21を径方向の外側へ向けて延ばした仮想延長線VL上に配置されている。
また図6において、先端刃7を軸線O回りの周方向に回転させて得られる回転軌跡の直径(最外径)をφDとして、第2先端刃22の径方向の外端は、先端刃7の径方向の外端から、φD×10%以下の範囲に配置されている。具体的には、図6のドリル側面視で、符号bで示される距離(径方向の長さ)が、上記φD×10%以下に設定される。なお、距離bの下限は、b=0であり、よってこの場合、第3先端刃23は形成しなくてもよい。
図5及び図6に示されるように、第3先端刃23は、第2先端刃22の径方向の外端から、径方向の外側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びている。第3先端刃23は、先端刃7の最外径部分に位置しており、該第3先端刃23の径方向の外端は、外周刃4の先端に接続している。
そして、第3先端刃23は、第1先端刃21の仮想延長線VLに沿って延びている。つまり、第3先端刃23は、仮想延長線VL上に一致するように形成されている。
なお、本参考例の先端刃7は、上述した第1〜第3先端刃21〜23を構成する切れ刃要素として、主切れ刃7aと、シンニング刃7bと、を有している。これらの刃7a、7bについては、シンニング部9の説明後に、別途説明する。
図3において、ドリル本体1の先端部のうち、切屑排出溝2の先端部におけるドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面2bから溝底(切屑排出溝2のうち最も径方向内側に位置する壁面部分)にかけての領域と、先端面6(の後方部分)との間に位置する部分には、シンニング部9が形成されている。
シンニング部9は、ドリル回転方向Tを向くとともに、先端刃7の第1先端刃21のうち、後述するシンニング刃7bに連なるシンニング壁面(シンニングすくい面)9aと、該シンニング壁面9aのドリル回転方向Tに位置して軸線O方向の先端側及びドリル回転方向Tとは反対側を向くように傾斜した平面状をなすとともに、先端面6に連なるシンニング面9bと、を備えている。
図6において、シンニング部9におけるシンニング壁面9aと、シンニング面9bとの間に形成される角度δは、例えば100〜110°の範囲である。
また、図2に示されるように、本参考例ではシンニング面9bが、ドリル本体1のヒール部13に達するように延びている。
図2〜図4に示されるように、先端刃7は、上述した第1〜第3先端刃21〜23を構成する切れ刃要素として、主切れ刃7aと、シンニング刃7bと、を有している。
シンニング刃7bは、シンニング部9のシンニング壁面9aと、先端面6との交差稜線部に形成されている。シンニング刃7bの径方向の内端は、軸線O上に位置している。そして、先端刃7のうち、シンニング刃7b以外の部位が、主切れ刃7aとなっている。
従って、先端刃7のうち、第2先端刃22及び第3先端刃23は、主切れ刃7aに含まれる。また、先端刃7のうち、第1先端刃21は、シンニング刃7b、及び、主切れ刃7aのうち第2先端刃22よりも径方向内側に位置する部位を含んでいる。
次に、図5を参照して、穴あけ加工時にドリル10から被削材に対して作用する切削力と、そのスラスト荷重及びラジアル荷重について、説明する。
図5は、ドリル10の先端刃7の要部を拡大して示す縦断面図であり、この断面視において、符号F1は、先端刃7のうち第1先端刃21の所定のポイントにおいて被削材に対して作用する切削力を表しており、符号F2は、先端刃7のうち第2先端刃22の所定のポイントにおいて被削材に対して作用する切削力を表している。また、実際にはこのような切削力F1、F2が、第1、第2先端刃21、22の刃長全域において生じている。
切削力F1においては、ドリル送りfr方向の分力がスラスト荷重F1tであり、ドリル径方向の分力がラジアル荷重F1rである。また、切削力F2においては、ドリル送りfr方向の分力がスラスト荷重F2tであり、ドリル径方向の分力がラジアル荷重F2rである。
そして、本参考例のドリル10においては、スラスト荷重F1t、F2tの向きは互いに同一であるが、ラジアル荷重F1r、F2rの向きが、互いに異なっている。或いは、ラジアル荷重F2rが、略ゼロである。
以上説明した本参考例のドリル10によれば、ドリル10の先端面6に位置する先端刃7が、第1先端刃21と、該第1先端刃21の径方向外側に配置された第2先端刃22と、を備えている。具体的には、第1先端刃21が径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜しているのに対して、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜しており、或いは、軸線Oに垂直に延びている。そして、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端よりも軸線O方向の基端側に配置され、第2先端刃22の径方向の外端は、第1先端刃21を径方向の外側へ延ばした仮想延長線VL上に位置しているので、下記の作用効果を奏する。
つまり、先端刃7が、ドリル10先端において径方向内側に位置する第1先端刃21と、径方向外側に位置する第2先端刃22と、を別々に備えているので、図5に示されるように、第1先端刃21が被削材を穴あけ加工するときに生じるスラスト荷重(ドリル10から被削材に対してドリル送りfr方向へ向けて作用する力)F1tは、被削材における加工穴の内周(ここでいう内周とは、加工後に加工穴の内周となる予定部を指しており、以下、内周予定部という)よりも径方向の内側に位置する部分に対して作用し、このスラスト荷重F1tが、ドリル10外周部(被削材においては加工穴の内周予定部)へ伝播することは防止されている。
詳しくは、一般に、穴あけ加工時に被削材に作用するスラスト荷重は、ドリル先端における径方向内側の部分(軸線Oを含む径方向の中央部付近)で大きくなりやすく、従来のドリルでは、被削材に対してドリル先端の中央部付近から作用するスラスト荷重が、加工穴の内周予定部に伝播することで、層間剥離が生じやすかった。
一方、本参考例によれば、被削材に対してドリル10先端の中央部付近から作用するスラスト荷重F1tが、第1、第2先端刃21、22が互いに分離されていることによって、加工穴の内周予定部に伝播することが防止されるため、加工後の加工穴の内周に層間剥離が発生することを抑制できる。
また、第1、第2先端刃21、22を別々に形成することにより層間剥離を抑制したので、従来のドリルのように、層間剥離を抑制するためにドリルの先端角αを小さく設定したり、ドリルの先端部を尖らすように鋭角に形成したりする必要はなく、よって本参考例によれば、先端刃7の刃長を短く抑えることができる。これにより、穴あけ加工時の切削抵抗を抑制できる。
また、先端刃7の軸線O方向の長さを小さく抑えることが可能となり、穴あけ加工時のストローク(ドリル送りfr方向の加工長さ)を小さく抑えることができて、加工効率(生産性)が向上する。
ところで、穴あけ加工時には、図5に示されるように、第1、第2先端刃21、22から被削材に作用する切削力F1、F2のうち、軸線O方向の先端側(ドリル送りfr方向)へ向けた分力がスラスト荷重F1t、F2tとなり、径方向へ向けた分力がラジアル荷重F1r、F2rとなる。
そして本参考例では、先端刃7のうち第1先端刃21が、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜しているのに対して、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜しているか、或いは、軸線Oに垂直に延びている。
従って、第1、第2先端刃21、22から被削材に作用するスラスト荷重F1t、F2tの向きは、互いに同一である一方、第1先端刃21から被削材に作用するラジアル荷重F1rの向きと、第2先端刃22から被削材に作用するラジアル荷重F2rの向きとは、互いに異なっている。
具体的に、第1先端刃21のラジアル荷重F1rは、被削材に対して径方向外側へ向けて作用するが、第2先端刃22のラジアル荷重F2rは、被削材に対して径方向内側へ向けて作用するか、或いは略ゼロとなる(作用しない)。
ここで、例えば従来のドリルにおいて、先端角αを小さく設定しているもの、又はドリルの先端部が尖るように鋭角に形成されたものでは、被削材に対して径方向外側へ向けて作用するラジアル荷重が大きくなるため、加工穴を径方向に押し広げつつ穴あけ加工が行われて、加工後に加工穴の縮径現象(スプリングバック)が生じ、加工穴の内径精度を確保することが難しかった。
一方、本参考例によれば、第1先端刃21から被削材に作用する径方向外側へ向けたラジアル荷重F1rが、このラジアル荷重F1rとは異なる向きの、第2先端刃22から被削材に作用するラジアル荷重F2rによって低減させられるか、或いは、それ以上に増大させられないようになっている。つまり、本参考例に係るドリル10の先端刃7全体のラジアル荷重は、従来のドリルの先端刃全体のラジアル荷重に対して、低減させられている。さらに本参考例では、被削材の加工穴の内周予定部の近くに第2先端刃22を配置することができ、この場合、第2先端刃22の径方向内側へ向けたラジアル荷重を、加工穴の内周予定部に直接的に作用させることが可能である。
従って、加工穴の内周に縮径現象が生じることを効果的に抑制することができ、加工穴の内径精度が高められる。
また、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、或いは、軸線Oに垂直に延びているので、この第2先端刃22が、加工穴の内周予定部付近に鋭く切り込むようにされている。
なお、本参考例で説明したように、切屑排出溝2が、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれる螺旋状をなしている場合には、第2先端刃22を、径方向の外端から内側へ向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けて傾斜させることにより、第2先端刃22のラジアルレーキ角(径方向すくい角)を、第1先端刃21のラジアルレーキ角よりも容易に正角(ポジティブ角)側に設定することが可能であり、第2先端刃22の切れ味をさらに高めることができる(図6のドリル正面図を参照)。
従って、加工穴の内周にバリ等が生じることを効果的に抑制して、加工穴の内周の品位を高めることができる。
また、第2先端刃22は、その径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置していることから、これら第1、第2先端刃21、22は、穴あけ加工時においてほぼ同時に被削材に切り込むことになる。
従って、穴あけ加工時において、第2先端刃22に対して過大な切削抵抗が作用することはなく、上述の構成により第2先端刃22の切れ味を十分に高めつつも、該第2先端刃22の摩耗や欠損を抑制することができる。
さらに、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置しているので、これら第1、第2先端刃21、22同士が、軸線O方向に大きく離間して配置されることもない。
従って、穴あけ加工時のストロークを小さく抑えることができるという上述した効果が、確実に得られることになる。
また、ドリル10の製造時においては、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置していることから、例えば先端刃7全体の刃長の一部に凹状部分(凹部8)を成形することによって、容易に第1、第2先端刃21、22を形成できる。従って、ドリル10の製造が容易である。
また、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置しているので、先端刃7の再研磨代を大きく確保することが容易である。従って、工具寿命を長寿命化できる。
以上より本参考例によれば、被削材に穿設される加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができ、穴あけ加工時の切削抵抗を抑えられ、加工効率を向上でき、切れ刃(先端刃7)の摩耗や欠損を抑制でき、再研磨代を十分に確保できて、工具寿命を延長できるのである。
また本参考例では、先端刃7が、さらに第2先端刃22の径方向の外側に配置された第3先端刃23を有しており、この第3先端刃23が、仮想延長線VLに沿って延びているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、第1、第2先端刃21、22により上述した顕著な作用効果が得られつつ、さらに被削材に対して、第1、第2先端刃21、22とほぼ同時に第3先端刃23が切り込むこととなり、安定して加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができる。
また、第3先端刃23は、第2先端刃22の径方向の外端と、切屑排出溝2に沿って延びる外周刃4の先端(リーディングエッジ)との間に設けられるので、この第3先端刃によって、先端刃7と外周刃4との間に尖った角部が形成されることを防止でき、これらを鈍角の角部で接続することが可能になる(図5を参照)。つまり、先端刃7と外周刃4との接続部分において、刃先強度を十分に高めることができるので、切れ刃の摩耗や欠損が顕著に抑制される。
特に、例えばCFRP(炭素繊維強化樹脂)にチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料や、伸展性の高い金属材料等からなる被削材に対して穴あけ加工を行う場合には、上記構成(第3先端刃23)を採用することにより、高精度に安定して切削を行うことができ、好ましい。
ただし、本参考例は、第3先端刃23を設けなくてもよく、例えばCFRP単体からなる被削材に対しては、第2先端刃22の径方向の外端と、外周刃4の先端とを直接接続して(つまり図6において距離b=0として)、先端刃7と外周刃4との間に尖った角部を積極的に形成することにより、切れ味を高めることがより好ましい。
また本参考例では、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の内側又は径方向の同一位置に配置されているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、第1先端刃21と第2先端刃22とが径方向にオーバーラップするように穴あけ加工が行われるので、これら第1、第2先端刃21、22同士の間で、切り残しが生じることがない。つまり、第1先端刃21の径方向の外端と、第2先端刃22の径方向の内端とを繋ぐ接続部分(稜線16)に対して、切れ刃の機能を付与することなく、これらの間に切り残しが生じることを防止できる。
従って、本参考例で説明したツイストドリルなどの複数刃のドリル10に上記構成を適用するにあたって、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃7)同士において、第1、第2先端刃21、22同士の分離位置(第1先端刃21の径方向の外端及び第2先端刃22の径方向の内端に相当する位置)を、刃長方向に互いにずらす必要がない。
具体的に説明すると、例えば、特開平11−129109号公報に記載されたドリルヘッドにおいては、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃)同士において、ニックの位置を刃長方向に互いにずらさなければ、切り残しが生じてしまう。
一方、本参考例によれば上述した特別な構成によって、周方向に隣り合う先端刃7それぞれにおいて切り残しが生じることがないので、第1、第2先端刃21、22を所期する位置に比較的自由に配置できる。従って、種々のドリル10への要望に対して、容易に対応可能である。
なお、本参考例の上記構成を採用したドリル10は、被削材として特にCFRPを穴あけ加工する場合において、格別顕著な効果を発揮できる。
また、ドリル本体1を径方向から見た側面視で、当該ドリル10の先端角αが、100〜170°であるので、下記の作用効果を奏する。
すなわち、ドリル10の先端角αが100°以上であるので、該先端角αが小さくなり過ぎることがなく、穴あけ加工時にラジアル荷重(被削材に対して径方向の外側へ向けて作用する力)F1rが過大になるようなことが防止される。これにより、加工後の加工穴の縮径現象を抑制する効果が、さらに格別顕著なものとなる。
また、ドリル10の先端角αが170°以下であるので、該先端角αが大きくなり過ぎることがなく、穴あけ加工時にスラスト荷重(被削材に対してドリル送り方向へ向けて作用する力)F1tが過大になるようなことが防止される。これにより、層間剥離を抑制する効果が、さらに確実なものとなる。
また、第2先端刃22の径方向の外端が、先端刃7全体としての径方向の最外端から、φD×10%以下の範囲に配置される(つまり、図6における距離bがφD×10%以下である)ので、下記の効果を奏する。
すなわち、第2先端刃22を、被削材の加工穴の内周予定部の近くに配置することができ、該第2先端刃22の径方向内側へ向けたラジアル荷重F2rを、加工穴の内周予定部に直接的に作用させることができる。
従って、加工穴の内周に縮径現象が生じることをより効果的に抑制することができ、加工穴の内径精度が高められる。
また、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、或いは、軸線Oに垂直に延びているので、この第2先端刃22が、加工穴の内周予定部付近に鋭く切り込むことになる。
従って、加工穴の内周にバリ等が生じることをより効果的に抑制することができ、加工穴の内周の品位が高められる。
また、第1先端刃21の径方向の外端が、先端刃7全体としての径方向の最外端から、φD×25%以下の範囲に配置される(つまり、図6における距離aがφD×25%以下である)ので、下記の効果を奏する。
すなわち、第1先端刃21の刃長を、先端刃7全体としての刃長に対してほぼ半分以上確保することができ、この第1先端刃21の径方向の外側に配置される第2先端刃22を形成するにあたり、大きな凹部8を切り欠くなどしてドリル10先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。
また、図6のドリル側面視で、軸線Oに垂直な仮想平面VSと第2先端刃22との間に形成される角度βが25°以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、第2先端刃22の径方向の内端における軸線O方向の位置が、第1先端刃21から大きく軸線O方向の基端側へ向けて離間させられるようなことが防止される。これにより、第2先端刃22を形成するにあたり、大きな凹部8を切り欠くなどしてドリル10先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。また、穴あけ加工時のストロークを小さく抑える効果が、さらに確実なものとなる。
また、図6のドリル側面視で、軸線Oと稜線16との間に形成される角度θ1が10°以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、第1、第2先端刃21、22同士の間で、切り残しが生じることを防止しつつも、第2先端刃22を形成するにあたり、径方向内側へ向けて大きな凹部8を切り欠くなどしてドリル10先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。
なお、本参考例では、切屑排出溝2が、ドリル本体1の先端面6から軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれる、ねじれ溝タイプのドリル10について説明したが、本参考例はこれに限定されるものではない。
ここで、図7〜図10に示されるものは、第1参考例で説明したドリル10の変形例であり、直溝タイプのドリル20を表している。
図7に示されるように、この変形例のドリル20においては、切屑排出溝2が、周方向にねじれることなく軸線O方向に沿って真っ直ぐに延びている。このような直溝タイプのドリル20に対しても、本参考例を適用することが可能である。
このドリル20が、第1参考例で説明したドリル10に対して相違するその他の点について、下記に説明する。
図8に示されるように、この変形例のドリル20は、切屑排出溝2の溝の内周形状が、横断面視でL字状をなしている。また、マージン部11(第1マージン部)以外のマージン部として、第2マージン部12を有している。
それ以外の点については、ドリル10、20は、互いに同様の構成を有しているので、図7〜図10において、第1参考例で説明したものと同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
<第2参考例>
次に、本発明の第2参考例に係るドリル30について、図11〜図15を参照して説明する。
なお、前述の第1参考例と同じ構成要素については詳細な説明を省略し、主として異なる点についてのみ、下記に説明する。
本参考例のドリル30は、前述のドリル10で説明した稜線16の代わりに、先端刃7の一部を構成するとともに切れ刃として機能する、第4先端刃24を備えている。また、第4先端刃24を形成したことにより、凹部38の形状が、第1参考例で説明した凹部8の形状とは異なっており、本参考例の凹部38には、第4逃げ面34が形成されている。
具体的に本参考例では、図12〜図15に示されるように、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の外側に配置されている。また、先端刃7は、前述した第1〜第3先端刃21〜23以外の切れ刃として、第4先端刃24を備えている。
第4先端刃24は、第1先端刃21の径方向の外端と、第2先端刃22の径方向の内端とを繋いでいるとともに、径方向の外側へ向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けて延びている。またこれにより、第4先端刃24は、径方向に沿う第1先端刃21と第2先端刃22との間で、被削材に切り込むようにされている。
つまり、本参考例の先端刃7は、軸線O上(径方向の中央)から径方向の外側へ向かって、第1先端刃21、第4先端刃24、第2先端刃22、及び第3先端刃23を、この順に有している。
また、先端面6は、前述した第1〜第3逃げ面31〜33以外の逃げ面として、第4先端刃24のドリル回転方向Tとは反対側に連なるとともに、この第4先端刃24に逃げ角γ4を付与する第4逃げ面34を備えている。
具体的に、先端面6には、先端刃7からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びる溝状の凹部38が形成されており、該凹部38には、軸線O方向の先端側を向く底面(第2逃げ面32)と、径方向の外側を向く壁面と、が形成されていて、前記壁面が、上記第4逃げ面34とされている。第4逃げ面34は、第4先端刃24からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い、径方向の内側へ向けて傾斜し、かつ、軸線O方向の基端側へ向けて傾斜している。
図15に示されるドリル側面視で、第4逃げ面34の逃げ角γ4は、例えば15〜20°程度である。
また、図15のドリル側面視において、軸線Oと第4先端刃24との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度θ2は、30°以下に設定されている。具体的に、この角度θ2は、0°を超え30°以下である。
以上説明した本参考例のドリル30によれば、前述した第1参考例と同様の作用効果を得ることができる。
また本参考例では、第1先端刃21と第2先端刃22との間に、これらを接続する第4先端刃24が配置されているので、第1、第2先端刃21、22同士の間で切り残しが生じるようなことが、さらに確実に防止される。
従って、例えば2枚刃や3枚刃などの複数刃のドリル30に上記構成を適用するにあたって、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃7)同士において、第1、第2先端刃21、22同士の分離位置(第4先端刃24が配置される位置)を、刃長方向に互いにずらす必要がない。
このように、本参考例の上記構成によれば、周方向に隣り合う先端刃7それぞれにおいて切り残しが生じることがないので、第1、第2先端刃21、22を所期する位置に比較的自由に配置できる。従って、種々のドリル30への要望に対して、容易に対応可能である。
なお、本参考例の上記構成を採用したドリル30は、被削材として特に、CFRPにチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料(その中でもドリル貫通側の端部に金属板が配置されたもの)や、伸展性の高い金属材料等を穴あけ加工する場合において、格別顕著な効果を発揮できる。
また、図15のドリル側面視で、軸線Oと第4先端刃24との間に形成される角度θ2が30°以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわち、角度θ2が30°以下とされているので、第4先端刃24が軸線Oに対して大きく傾くことなく、該軸線Oに概ね沿うように延びることになり、この第4先端刃24の刃長を短くすることができる。これにより、第2先端刃22の刃長を長くすることができて、上述した第2先端刃22を設けたことによる作用効果がより顕著なものとなる。
なお、本参考例では、切屑排出溝2が、ドリル本体1の先端面6から軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれる、ねじれ溝タイプのドリル30について説明したが、本参考例はこれに限定されるものではない。
ここで、図16〜図19に示されるものは、第2参考例で説明したドリル30の変形例であり、直溝タイプのドリル40を表している。
図16に示されるように、この変形例のドリル40においては、切屑排出溝2が、周方向にねじれることなく軸線O方向に沿って真っ直ぐに延びている。このような直溝タイプのドリル40に対しても、本参考例を適用することが可能である。
このドリル40が、第2参考例で説明したドリル30に対して相違するその他の点について、下記に説明する。
図17に示されるように、この変形例のドリル40は、切屑排出溝2の溝の内周形状が、横断面視でL字状をなしている。また、マージン部11(第1マージン部)以外のマージン部として、第2マージン部12を有している。
それ以外の点については、ドリル30、40は、互いに同様の構成を有しているので、図16〜図19において、第1、第2参考例で説明したものと同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
なお、前述の参考例に限定されるものではなく、本参考例の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の参考例で説明したドリル10〜40は、ドリル本体1の外周に、一対(2条)の切屑排出溝2が周方向に間隔をあけて配置されるとともに、先端刃7が一対(2つ)形成された2枚刃のドリル(ツイストドリル)であるが、これに限定されるものではない。すなわち本参考例は、ドリル本体1の外周に、3条以上の切屑排出溝2が周方向に間隔をあけて配置されるとともに、先端刃7が3つ以上形成された3枚刃以上のドリル10〜40にも適用可能である。
また前述の参考例では、ドリル本体1が、超硬合金等の硬質材料により形成されているとしたが、ドリル本体1の材質はこれに限定されるものではない。或いは、ドリル本体1の刃部に対して、ダイヤモンド被膜等のコーティング膜が被覆されていてもよい。
また、前述したドリル10〜40は、ソリッドタイプの一体成形されたドリルであるが、本参考例は、刃先交換式ドリルの工具本体の先端部に着脱可能に装着されるドリルヘッドや、工具本体の先端部にろう付け等により固定状態で装着されるドリルヘッドに対しても適用可能である。
すなわち、特に図示していないが、本参考例は、工具本体とともに軸線O回りに回転させられるヘッド本体(前述の参考例で説明したドリル本体1に相当)と、ヘッド本体の外周に形成されて、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝2と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとヘッド本体の先端面6との交差稜線部に形成された先端刃7と、を備えたドリルヘッドに対しても、採用することができる。この場合、ドリルヘッドは、その先端刃7が、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びる第1先端刃21と、第1先端刃21の径方向の外側に配置された第2先端刃22と、を有し、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、又は、軸線Oに垂直に延びており、第2先端刃22の径方向の内端は、第1先端刃21の径方向の外端に対して、軸線O方向の基端側に配置され、第2先端刃22の径方向の外端は、第1先端刃21を径方向の外側へ向けて延ばした仮想延長線VL上に配置される。またこのドリルヘッドに対して、前述の参考例で説明した種々の構成を組み合わせてよい。
また、先端角α、角度β、δ、θ1、θ2、逃げ角γ1〜γ4、及び距離a、bは、前述の参考例で説明した各数値範囲に限定されるものではない。
<第1実施形態>
以下、本発明の第1実施形態に係るドリル50について、図20及び図21を参照して説明する。
〔ドリルの概略構成〕
図20(a)(b)に示されるように、本実施形態のドリル50は、軸線Oを中心とした概略円柱状をなし、超硬合金等の硬質材料により形成されたドリル本体1を有している。ドリル本体1は、その軸線O方向の基端側部分が円柱状のままのシャンク部(不図示)とされ、軸線O方向の先端側部分が切れ刃を有する刃部とされる。なお、前記切れ刃には、後述する先端刃7及び外周刃4が含まれる。
ドリル50は、ドリル本体1のシャンク部が工作機械の主軸や、ボール盤及び電動ドリルの三爪チャック等に着脱可能に装着され、該ドリル本体1が軸線O回りのうちドリル回転方向Tに回転させられつつ、軸線O方向に沿う先端側(図20(a)における下側)へ送り出されて、刃部により被削材に切り込んで穴あけ加工する。
また、被削材としては、例えば、航空機部品等に用いられるCFRP(炭素繊維強化樹脂)や、該CFRPにチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料等が挙げられる。本明細書では、これらを総じてCFRP等ということがある。
〔本明細書で用いる向き(方向)の定義〕
本明細書では、ドリル本体1の軸線Oに沿う方向(軸線O方向)のうち、シャンク部から刃部へ向かう方向を先端側(図20(a)における下側)といい、刃部からシャンク部へ向かう方向を基端側(図20(a)における上側)という。
また、軸線Oに直交する方向を径方向といい、径方向のうち、軸線Oに接近する向きを径方向の内側といい、軸線Oから離間する向きを径方向の外側という。
また、軸線O回りに周回する方向を周方向といい、周方向のうち、切削時にドリル50が回転させられる向きをドリル回転方向Tといい、これとは反対の回転方向を、ドリル回転方向Tとは反対側(反ドリル回転方向)という。
〔ドリル本体の外周〕
ドリル本体1の外周には、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝2と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとドリル本体1の外周面との交差稜線部に形成された外周刃4と、が備えられる。
また、ドリル本体1の外周のうち、切屑排出溝2以外の外周面には、外周刃4のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、該外周刃4に沿って延びるとともに、この外周刃4と同径とされてドリル本体1の刃部における最外径部分をなすマージン部11と、マージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、外周刃4及びマージン部11よりも小径とされた二番取り面15と、が形成されている。
〔切屑排出溝〕
本実施形態では、ドリル本体1の外周において切屑排出溝2が、周方向に互いに間隔をあけて複数形成されており、これらの切屑排出溝2が、ドリル本体1の先端面6にそれぞれ開口しているとともに、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。
詳しくは、切屑排出溝2においてドリル回転方向Tを向く壁面2aのうち、後述する先端刃7を介して先端面6に連なる先端部には、軸線Oに平行となるようにギャッシュすくい面2cが形成されている。図20(a)に示される例では、ギャッシュすくい面2cが、平行四辺形状をなしている。そして、切屑排出溝2のうち、ギャッシュすくい面2cよりも軸線O方向の基端側に位置する部分(つまりギャッシュすくい面2c以外の部位)が、該ギャッシュすくい面2cから軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて延びている。
図20及び図21に示されるように、これら切屑排出溝2は、軸線Oに関して回転対称位置となるように、ドリル本体1の外周において、周方向に等間隔をあけて(等ピッチで)配置されている。具体的に、本実施形態のドリル50は、ドリル本体1に2条の切屑排出溝2が軸線Oに関して180°回転対称に配置された、ツイストドリルとなっている。
切屑排出溝2は、ドリル本体1の先端面6に開口して基端側へ向けて延びているとともに、特に図示していないが、ドリル本体1の軸線O方向に沿う例えば中央部付近において、径方向外側へ向けて外周面に切れ上がっている。そして、ドリル本体1において、軸線O方向に沿う切屑排出溝2が形成された範囲が刃部とされ、この範囲よりも基端側がシャンク部とされている。
図21に示される軸線Oに垂直な断面視(横断面視)において、切屑排出溝2は、溝の内周が凹曲面状をなしており、径方向内側及びドリル回転方向Tへ向けて凹状に窪むように形成されている。また切屑排出溝2は、その周方向に沿う中央部付近において、溝深さが最も深くなる(溝の内周が軸線Oに最も接近する)ように形成されている。
〔外周刃、マージン部〕
図20(a)(b)において、外周刃4は、その軸線O方向の先端部がリーディングエッジとされている。具体的に、ドリル本体1の刃部の外径は、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次僅かに小さくされていて、バックテーパが与えられており、これに応じて、外周刃4の外径もドリル本体1の先端から基端側へ向けて、徐々に小さくされている。ただしこれに限定されるものではなく、ドリル本体1の刃部には、バックテーパが付与されていなくてもよい。
マージン部11は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aに連なり、後述する先端刃7の最外径(先端刃7の径方向の外端が軸線O回りに回転して形成される回転軌跡の円の直径φD)と略等しい外径の仮想円筒面上に位置するように形成されている。そして、ドリル本体1において、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとマージン部11との交差稜線部が、外周刃4とされている。
本実施形態では、切屑排出溝2が上述のように螺旋状にねじれて形成されているため、切屑排出溝2に沿う外周刃4及びマージン部11も、軸線O方向の先端から基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。つまり、切屑排出溝2、外周刃4及びマージン部11は、互いにねじれ角(リード、軸方向傾斜角)が等しくされている。外周刃4のねじれ角は、例えば、40°以下である。
〔二番取り面〕
ドリル本体1の外周面のうち、マージン部11と該マージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2との間に位置する部分が、二番取り面15とされている。特に図示していないが、外周刃4の軸線O回りの回転軌跡に対して、二番取り面15は、径方向内側に後退して配置されている。
具体的に、二番取り面15は、ドリル本体1の外周面におけるマージン部11のドリル回転方向Tとは反対側に連なっており、該マージン部11の外径よりも小さい外径とされている。二番取り面15が外周刃4の前記回転軌跡から径方向内側へ向けて後退する後退量(二番取り深さ)は、該二番取り面15における周方向の全域にわたって、一定とされていてもよい。或いは、二番取り面15は、そのドリル回転方向Tの端部からドリル回転方向Tとは反対側へ向かうに従い漸次外周刃4の前記回転軌跡から径方向内側へ向けた後退量が大きくされていてもよい。
〔ヒール部〕
また、ドリル本体1の外周のうち、二番取り面15と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面2bとの交差稜線部が、ヒール部13とされている。ヒール部13は、ドリル回転方向Tとは反対側に向けて尖っているとともに、切屑排出溝2に沿って延びる稜線状をなしている。
〔ドリル本体の先端〕
ドリル本体1の先端部には、ドリル50の先端側(ドリル送り方向)を向く先端面6と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aと先端面6との交差稜線部に形成された先端刃7と、先端面6と該先端面6のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2との間に位置するシンニング面19と、が備えられる。
〔先端面〕
図20(b)において、先端面(先端逃げ面)6は、先端刃7の後述する先端内刃27a及び先端外刃27bのうち、径方向内側に位置する先端内刃27aからドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する先端内逃げ面6aと、径方向の外側に位置する先端外刃27bからドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する先端外逃げ面6bと、を備えている。
これらの先端内逃げ面6a及び先端外逃げ面6bが、ドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けてそれぞれ傾斜していることで、先端内刃27a及び先端外刃27bには、それぞれ逃げ角が付与されている。
図20(b)に示されるドリル正面視において、先端内逃げ面6aは、径方向に長い矩形状をなす前方部分と、この前方部分のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、該前方部分よりも大きな逃げ角に設定された扇形状の後方部分と、を有している。ただし、これに限定されるものではなく、先端内逃げ面6aは、前方部分と後方部分の逃げ角が互いに同一に設定されているとともに、これら前方部分及び後方部分が面一に形成されていてもよい。
また、このドリル正面視で、先端外逃げ面6bは、周方向に沿って延びる円弧帯状をなしている。
先端面6及びシンニング面19のうち少なくともいずれか一方には、クーラント孔14が開口している。本実施形態では、クーラント孔14が、先端面6における先端内逃げ面6aの前記後方部分に開口している。
図20(b)に示されるドリル正面視において、クーラント孔14の開口形状は、円形状をなしているが、これに限定されるものではなく、例えばそれ以外の多角形状や楕円形状等であってもよい。
また、特に図示していないが、クーラント孔14は、ドリル本体1内を切屑排出溝2に沿うように(切屑排出溝2と略等しいリードで)ねじれて延びているとともに、ドリル本体1を軸線O方向に貫通している。クーラント孔14内には、工作機械の主軸等から供給されるクーラント(圧縮エアや、油性又は水溶性の切削液剤)が流通し、このクーラントは、ドリル本体1の先端部及び被削材の加工部位に流出させられる。
〔先端刃〕
図20(a)(b)に示されるように、先端刃7は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aの先端部(つまりギャッシュすくい面2c)と、ドリル本体1の先端面6のうちギャッシュすくい面2cからドリル回転方向Tとは反対側に連なる部分と、の交差稜線部に形成されていて、ギャッシュすくい面2cをすくい面とし、先端面6を逃げ面としている。先端刃7は、ドリル本体1における軸線O上から径方向の外端(最外周)にわたって延びている。
本実施形態の先端刃7は、軸線O上から径方向の外側へ向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けて延びる先端内刃27aと、該先端内刃27aの径方向の外端に連なり、この外端から径方向の外側へ向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けて延びるとともに、径方向に沿う単位長さあたりの軸線O方向へ向けた変位量(つまり傾き)が前記先端内刃27aよりも大きくされた先端外刃27bと、を有している。
つまり、先端刃7は、互いに径方向に接続された先端内刃27a及び先端外刃27bを有しており、先端内刃27aは、先端外刃27bの径方向内側に配置され、先端外刃27bは、先端内刃27aの径方向外側に配置されている。
また、図20(a)に示されるように、ギャッシュすくい面2cを正面に見たドリル側面視において、軸線Oに対する先端内刃27aの傾斜角(軸線Oと先端内刃27aとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度)に比べて、軸線Oに対する先端外刃27bの傾斜角(軸線Oと先端外刃27bとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度)が、小さくされている。
そして、図20(b)に示されるように、ドリル本体1を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、先端刃7は、径方向に沿うように延びている。なお、上記「先端刃7は、径方向に沿うように延びている」とは、このドリル正面視において、先端刃7の径方向の外端(外周コーナ)7c及び軸線Oを通る仮想直線と、該先端刃7の刃長方向と、の間に形成される角度が、ゼロに近い小さな値(略0°)とされていることを指し、具体的には前記角度が、例えば5°以下(0〜5°)である。なお、本実施形態において図示する例では、前記角度が0°となっている。
つまり、本実施形態の先端刃7は、芯上がりでも芯下がりでもない、芯高ゼロとなるように設定されている。
ここで、上記「芯高」について説明する。芯高(芯高寸法)とは周知のように、ドリル正面視において、先端刃の刃長方向に平行で軸線を通る仮想直線に対して、該先端刃が離間させられる距離である。具体的には、図29(b)及び図31(b)に示される従来のドリル100、110において、先端刃107の刃長方向に平行で軸線Oを通る仮想直線に対して、先端刃107が離間させられる距離Lが、芯高である。そして、前記仮想直線に対して先端刃107がドリル回転方向Tに位置する場合は「芯上がり」、ドリル回転方向Tとは反対側に位置する場合は「芯下がり」である。
従来のドリル100、110は、すべて芯上がりとなっている。
これに対し、本実施形態のドリル50は、図20(b)に示されるように、先端刃7の芯高がゼロである。具体的には、このドリル正面視において、先端刃7が直線状をなしており、該先端刃7の刃長全域にわたって(先端内刃27a及び先端外刃27bの全体にわたって)、芯高がゼロに設定されている。
また、上述したように、先端刃7のすくい面となる切屑排出溝2のギャッシュすくい面2cは、ドリル本体1の軸線Oに平行となるように形成されているので、該先端刃7のアキシャルレーキ角(軸方向すくい角)は、この先端刃7の刃長全域にわたって(先端内刃27a及び先端外刃27bの全体にわたって)、ネガティブ角(0°)とされている。
このように、先端刃7のアキシャルレーキ角がネガティブ角(0°)とされ、かつ、先端刃7が径方向に沿うように延びている(芯高ゼロとされている)ので、図21に示されるように、先端刃7の外周コーナ7cのラジアルレーキ角Rは、ネガティブ角(0°)とされている。
〔シンニング面〕
図20(a)(b)において、ドリル本体1の先端部のうち、切屑排出溝2の先端部におけるドリル回転方向Tとは反対側を向く壁面2bから溝底(切屑排出溝2のうち最も径方向内側に位置する壁面部分)にかけての領域と、先端面6との間に位置する部分には、シンニング面19が形成されている。
シンニング面19は、先端面6からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜している。シンニング面19におけるドリル回転方向Tに沿う単位長さあたりの軸線O方向へ向けた変位量(つまり傾き)は、先端面6における前記変位量よりも大きくなっている。
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のドリル50によれば、先端刃7のすくい面となる切屑排出溝2のギャッシュすくい面2cが、ドリル本体1の軸線Oに平行となるように形成されているので、該先端刃7のアキシャルレーキ角は、ネガティブ角(0°)とされる。
そして、図20(b)に示されるドリル正面視において、先端刃7が、ドリル本体1の径方向に沿うように延びているとともに、芯上がりでも芯下がりでもない、芯高ゼロとなるように設定されている。詳しくは、このドリル正面視において、先端刃7の径方向の外端(外周コーナ)7c及び軸線Oを通る仮想直線と、該先端刃7の刃長方向と、の間に形成される角度が、略0°である。
本実施形態による作用効果を説明するにあたり、まず、図29〜図33を用いて、従来のドリル100、110の問題点について、具体的に説明する。
ドリル100、110は、軸線O回りに回転させられるドリル本体101と、ドリル本体101の外周に形成されて、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝102と、切屑排出溝102のドリル回転方向Tを向く壁面とドリル本体101の先端面との交差稜線部に形成された先端刃107と、を備えている。
なお、先端刃107の中でも、穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度に密接に関係するのは、該先端刃107における径方向の外端(外周コーナ)107c近傍である。
図29及び図30に示されるドリル100においては、切屑排出溝102が、ドリル本体101の先端面に開口しているとともに、該先端面から軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて、螺旋状に延びている。このため、先端刃107のアキシャルレーキ角(軸方向すくい角)は、ポジティブ角とされている。また、図30に示されるように、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角(径方向すくい角)Rは、ポジティブ角(+)とされている。
このドリル100を用いて、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Aで示される領域(周方向の領域)にバリ等が発生しやすい。
すなわち、CFRP等からなる被削材Wには繊維の方向性があり、図33においては繊維の方向性が、上下方向(縦方向)とされている。このため、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rがポジティブ角(+)とされていると、加工穴の内周のうち領域Aにおいて、刃先が鋭角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して逆目に鋭く切り込んで)繊維が引き剥がされやすくなり、バリ等が発生する。
また、図31及び図32に示されるドリル110においては、切屑排出溝102の先端部に、軸線Oに平行なギャッシュすくい面102cが形成されている。このため、先端刃107のアキシャルレーキ角は、ネガティブ角(0°)とされている。また、図32に示されるように、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rは、0°よりも負角側に大きいネガティブ角(−)とされている。
このドリル110を用いて、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Bで示される領域(周方向の領域)にバリ等が発生しやすい。
すなわち、先端刃107の外周コーナ107cのラジアルレーキ角Rがネガティブ角(−)とされていると、加工穴の内周のうち領域Bにおいて、刃先が鈍角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して順目だが鈍く切り込んで)繊維の切り残しが生じやすくなり、バリ等が発生する。
このため、加工穴の内周の周方向全域にわたって、バリ等の発生を抑制して、仕上げ精度を向上することが望まれていた。
一方、本実施形態の上記構成では、先端刃7のアキシャルレーキ角がネガティブ角(0°)とされ、かつ、先端刃7が径方向に沿うように延びている(芯高ゼロとされている)ので、図21に示されるドリル正面視で、先端刃7の外周コーナ7cのラジアルレーキ角Rは、ネガティブ角(0°)となる。
このため、本実施形態のドリル50により、CFRP等の被削材を穴あけ加工すると、図33に示される被削材Wの加工穴の内周のうち、符号Aで示される領域(周方向の領域)においても、符号Bで示される領域(周方向の領域)においても、バリ等が発生することが顕著に抑制される。
具体的に、被削材Wの加工穴の内周のうち、領域Aにおいては、従来のドリル100(図29及び図30参照)では刃先が鋭角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して逆目に鋭く切り込んで)繊維が引き剥がされやすかったが、本実施形態のドリル50では刃先が直角に切り込むため、繊維を引き剥がすことが抑制される。また、領域Bにおいては、従来のドリル110(図31及び図32参照)では刃先が鈍角に切り込んで(刃先が繊維のスジに対して順目だが鈍く切り込んで)繊維の切り残しが生じやすかったが、本実施形態のドリル50では刃先が直角に切り込むため、繊維の切り残しの発生が抑制される。
従って本実施形態のドリル50は、加工穴の内周の周方向全域にわたって、バリ等の発生を抑制することができるのである。
以上より本実施形態によれば、被削材Wに穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度を、安定して高めることができる。
また本実施形態では、切屑排出溝2のうちギャッシュすくい面2cよりも軸線O方向の基端側に位置する部分が、ギャッシュすくい面2cから軸線O方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向Tとは反対側へ向けてねじれて延びており、該切屑排出溝2は、ドリル本体1の外周において螺旋状に延びるねじれ溝とされているので、切屑排出性が良好に維持される。
また本実施形態では、先端刃7が、先端内刃27a及び先端外刃27bを有しており、図20(a)に示されるドリル側面視において、軸線Oに対する先端内刃27aの傾斜角に比べて、軸線Oに対する先端外刃27bの傾斜角が小さくされているので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、先端刃7(の先端外刃27b)と、外周刃4(のリーディングエッジ)とが接続する角部(外周コーナ7c)が、大きな鈍角に形成されて、この角部での刃先欠損が顕著に抑制されるとともに工具寿命が延長し、安定した穴あけ加工が行える。
また、図20(a)に示されるように、先端刃7を正面に見たドリル側面視において、先端外刃27bと軸線Oとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の2倍の角度に相当する当該ドリル50の先端角(一対の先端外刃27b同士の間の先端角)が小さくなる。このため、被削材を穴あけ加工したときに、先端外刃27bから被削材に作用するスラスト荷重を低減することができ、加工穴の内周における層間剥離等が抑制される。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係るドリル60について、図22〜図25を参照して説明する。
なお、前述の第1実施形態と同じ構成要素については詳細な説明を省略し、主として異なる点についてのみ、下記に説明する。
〔前述の第1実施形態との相違点〕
本実施形態のドリル60は、前述の第1実施形態で説明したドリル50とは、主にドリル本体1の先端(先端面26、先端刃17)の形状が異なっている。
〔先端面〕
図22(a)(b)に示される本実施形態のドリル60において、ドリル本体1の先端面(先端逃げ面)26は、先端刃17の後述する第1〜第4先端刃21〜24のうち、最も径方向の内側に位置する第1先端刃21からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第1逃げ面31と、第1〜第4先端刃21〜24のうち、最も径方向の外側に位置する第3先端刃23からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第3逃げ面33と、第1先端刃21と第3先端刃23との間に位置する第2先端刃22及び第4先端刃24のうち、径方向外側に位置する第2先端刃22からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第2逃げ面32と、径方向内側に位置する第4先端刃24からドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜する第4逃げ面34と、を備えている。
これらの第1〜第4逃げ面31〜34が、ドリル回転方向Tとは反対側に向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けてそれぞれ傾斜していることで、第1〜第4先端刃21〜24には、それぞれ逃げ角が付与されている。
図22(a)に示されるように、第1逃げ面31、第3逃げ面33及び第4逃げ面34は、径方向外側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜している。また、第2逃げ面32は、径方向外側に向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜している。
図22(b)に示されるドリル正面視において、先端面26は、先端刃17のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、全体として径方向に長い概略矩形状をなす前方部分と、この前方部分のドリル回転方向Tとは反対側に連なり、該前方部分よりも大きな逃げ角に設定された扇形状の後方部分と、を有している。ただし、これに限定されるものではなく、先端面26の第1〜第4逃げ面31〜34のうち、第1逃げ面31及び第3逃げ面33については、前記前方部分と前記後方部分の逃げ角が互いに同一に設定されているとともに、これら前方部分及び後方部分が面一に形成されていてもよい。
また、先端面26は、先端刃17からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びるとともに、軸線O方向の基端側へ向けて窪むように形成された凹部18を有する。本実施形態では、凹部18が、先端刃17からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びる溝状をなしており、先端面26における前方部分から後方部分にわたって形成されている。
凹部18は、該凹部18のうち径方向外側に位置するとともに軸線O方向の先端側を向く底面と、該凹部18のうち径方向内側に位置するとともに径方向の外側を向く壁面と、を有している。そして、凹部18の前記底面が第2逃げ面32とされており、前記壁面が第4逃げ面34とされている。
本実施形態では、ドリル本体1の先端部においてクーラント孔14が開口させられる位置が、凹部18よりも径方向の内側に設定されている。
〔先端刃〕
図22(a)(b)に示されるように、先端刃17は、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aの先端部(ギャッシュすくい面2c)と、ドリル本体1の先端面26のうちギャッシュすくい面2cからドリル回転方向Tとは反対側に連なる部分と、の交差稜線部に形成されていて、ギャッシュすくい面2cをすくい面とし、先端面26を逃げ面としている。先端刃17は、ドリル本体1における軸線O上から径方向の外端(最外周)にわたって延びている。
本実施形態の先端刃17は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びる第1先端刃21と、第1先端刃21の径方向の外側に配置された第2先端刃22と、第2先端刃22の径方向の外側に配置された第3先端刃23と、第1先端刃21の径方向の外端と第2先端刃22の径方向の内端とを繋ぐ第4先端刃24と、を有している。
図22(a)において、先端刃17のうち第1先端刃21は、軸線O上から径方向の外側へ向かうに従い漸次軸線O方向の基端側へ向けて延びている。
第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、又は、軸線Oに垂直に延びている。本実施形態の例では、第2先端刃22が、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜している。
第2先端刃22の径方向の内端は、第1先端刃21の径方向の外端に対して、軸線O方向の基端側に配置されている。
また本実施形態では、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の外側に配置されている。このため、第2先端刃22の径方向内端と、第1先端刃21の径方向外端とを繋ぐ第4先端刃24は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びることになり、被削材に切り込む切れ刃として作用する。
また、第2先端刃22の径方向の外端は、第1先端刃21を径方向の外側へ向けて延ばした仮想延長線VL上に配置されている。
また、先端刃17を軸線O回りの周方向に回転させて得られる回転軌跡の直径(最外径)をφDとして、第2先端刃22の径方向の外端は、先端刃17の径方向の外端(外周コーナ17c)から、φD×10%以下の範囲に配置されている。具体的には、図22(a)に示されるドリル側面視で、符号bで示される距離(径方向の長さ)が、上記φD×10%以下に設定される。なお、距離bの下限は、b=0であり、よってこの場合、第3先端刃23は形成しなくてもよい。第3先端刃23を形成しない場合のドリル60の変形例については、別途後述する。
第3先端刃23は、第2先端刃22の径方向の外端から、径方向の外側に向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて延びている。第3先端刃23は、先端刃17の最外径部分に位置しており、該第3先端刃23の径方向の外端(外周コーナ17c)は、外周刃4の先端(リーディングエッジ)に接続している。
また、第3先端刃23は、第1先端刃21の仮想延長線VLに沿って延びている。つまり、第3先端刃23は、仮想延長線VL上に一致するように形成されている。
このように、本実施形態の先端刃17は、軸線O上(径方向の中央)から径方向の外側へ向かって、第1先端刃21、第4先端刃24、第2先端刃22、及び第3先端刃23を、この順に有している。
ここで、図23〜図25は、本実施形態のドリル60の変形例を示している。
この変形例では、先端刃17が第3先端刃23を有しておらず、第2先端刃22の径方向の外端が外周コーナ17cとされて、外周刃4のリーディングエッジに接続している。
〔ドリルの各構成要素の角度、径方向位置等〕
図25を用いて、本実施形態のドリル60の各構成要素の角度、径方向位置等について説明する。
図25に示されるように、第1先端刃21(第1逃げ面31)の逃げ角γ1と、第3先端刃23(第3逃げ面33)の逃げ角γ3とは、互いに等しくされている。また、第2先端刃22(第2逃げ面32)の逃げ角γ2は、逃げ角γ1及び逃げ角γ3よりも、小さくされている。本実施形態では、逃げ角γ1、γ3が例えば15°程度であり、逃げ角γ2が例えば10°程度である。第4先端刃24(第4逃げ面34)の逃げ角γ4は、逃げ角γ2よりも大きくされており、本実施形態では、例えば15°程度である。
図25に示されるドリル側面視で、第1先端刃21と軸線Oとの間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の2倍の角度に相当する当該ドリル60の先端角αは、100〜170°の範囲とされている。なお、本実施形態のドリル60はツイストドリルであるので、前記先端角αとは、このドリル側面視で、一対の先端刃17の各第1先端刃21の延長線同士の間に形成される角度に等しい。
また、先端刃17を軸線O回りの周方向に回転させて得られる回転軌跡の直径(最外径)をφDとして、第1先端刃21の径方向の外端は、先端刃17の径方向の外端から、φD×25%以下の範囲に配置されている。具体的には、図25のドリル側面視で、符号aで示される距離(径方向の長さ)が、上記φD×25%以下に設定される。
また、図25のドリル側面視で、軸線Oに垂直な仮想平面VSと、第2先端刃22との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度βは、25°以下に設定されている。具体的に、この角度βは、0〜25°である。
また、このドリル側面視において、軸線Oと第4先端刃24との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度θ2は、30°以下に設定されている。具体的に、この角度θ2は、0°を超え30°以下である。
また図25において、切屑排出溝2の先端部に位置するギャッシュすくい面2cと、シンニング面19との間に形成される角度δは、例えば120°程度である。
〔穴あけ加工時の切削力(スラスト荷重及びラジアル荷重)〕
次に、図24を参照して、穴あけ加工時にドリル60から被削材に対して作用する切削力と、そのスラスト荷重及びラジアル荷重について、説明する。
図24は、ドリル60の先端刃17近傍を拡大して示す図であり、図中の符号F1は、先端刃17のうち第1先端刃21の所定のポイントにおいて被削材に対して作用する切削力を表しており、符号F2は、先端刃17のうち第2先端刃22の所定のポイントにおいて被削材に対して作用する切削力を表している。また、実際にはこのような切削力F1、F2が、第1、第2先端刃21、22の刃長全域において生じている。なお、第4先端刃24においても同様に切削力が生じているが、図示を省略している。
切削力F1においては、ドリル送りfr方向の分力がスラスト荷重F1tであり、ドリル径方向の分力がラジアル荷重F1rである。また、切削力F2においては、ドリル送りfr方向の分力がスラスト荷重F2tであり、ドリル径方向の分力がラジアル荷重F2rである。
そして、本実施形態のドリル60においては、スラスト荷重F1t、F2tの向きは互いに同一であるが、ラジアル荷重F1r、F2rの向きが、互いに異なっている。或いは、ラジアル荷重F2rが、略ゼロである(第2先端刃22が、軸線Oに垂直に延びている場合)。
〔本実施形態による作用効果〕
本実施形態のドリル60においても、前述の第1実施形態と同様に、先端刃17のアキシャルレーキ角がネガティブ角(0°)とされ、かつ、先端刃17が径方向に沿うように延びている(芯高ゼロとされている)ので、先端刃17の外周コーナ17cのラジアルレーキ角Rはネガティブ角(0°)となる。
従って、本実施形態のドリル60においても、前述の第1実施形態と同様の作用効果が得られ、被削材Wに穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度を安定して高めることができる。
また本実施形態では、ドリル60の先端面26に位置する先端刃17が、第1先端刃21と、該第1先端刃21の径方向外側に配置された第2先端刃22と、を備えている。具体的には、第1先端刃21が径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜しているのに対して、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜しており、或いは、軸線Oに垂直に延びている。そして、第2先端刃22の径方向の内端が、第1先端刃21の径方向の外端よりも軸線O方向の基端側に配置され、第2先端刃22の径方向の外端は、第1先端刃21を径方向の外側へ延ばした仮想延長線VL上に位置しているので、下記の作用効果を奏する。
つまり、先端刃17が、ドリル60先端において径方向内側に位置する第1先端刃21と、径方向外側に位置する第2先端刃22と、を別々に備えているので、図24に示されるように、第1先端刃21が被削材を穴あけ加工するときに生じるスラスト荷重(ドリル60から被削材に対してドリル送りfr方向へ向けて作用する力)F1tは、被削材における加工穴の内周(ここでいう内周とは、加工後に加工穴の内周となる予定部を指しており、以下、内周予定部という)よりも径方向の内側に位置する部分に対して作用し、このスラスト荷重F1tが、ドリル60外周部(被削材においては加工穴の内周予定部)へ伝播することは防止されている。
詳しくは、一般に、穴あけ加工時に被削材に作用するスラスト荷重は、ドリル先端における径方向内側の部分(軸線Oを含む径方向の中央部付近)で大きくなりやすく、従来のドリルでは、被削材に対してドリル先端の中央部付近から作用するスラスト荷重が、加工穴の内周予定部に伝播することで、層間剥離が生じやすかった。
一方、本実施形態によれば、被削材に対してドリル60先端の中央部付近から作用するスラスト荷重F1tが、第1、第2先端刃21、22が互いに分離されていることによって、加工穴の内周予定部に伝播することが防止されるため、加工後の加工穴の内周に層間剥離が発生することを抑制できる。
また、第1、第2先端刃21、22を別々に形成することにより層間剥離を抑制したので、従来のドリルのように、層間剥離を抑制するためにドリルの先端角αを小さく(例えば100°よりも小さく)設定したり、ドリルの先端部を尖らすように鋭角に形成したりする必要はなく、よって本実施形態によれば、先端刃17の刃長を短く抑えることができる。これにより、穴あけ加工時の切削抵抗を抑制できる。
また、先端刃17の軸線O方向の長さを小さく抑えることが可能となり、穴あけ加工時のストローク(ドリル送りfr方向の加工長さ)を小さく抑えることができて、加工効率(生産性)が向上する。
ところで、穴あけ加工時には、図24に示されるように、第1、第2先端刃21、22から被削材に作用する切削力F1、F2のうち、軸線O方向の先端側(ドリル送りfr方向)へ向けた分力がスラスト荷重F1t、F2tとなり、径方向へ向けた分力がラジアル荷重F1r、F2rとなる。
そして本実施形態では、先端刃17のうち第1先端刃21が、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の基端側へ向けて傾斜しているのに対して、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて傾斜しているか、或いは、軸線Oに垂直に延びている。
従って、第1、第2先端刃21、22から被削材に作用するスラスト荷重F1t、F2tの向きは、互いに同一である一方、第1先端刃21から被削材に作用するラジアル荷重F1rの向きと、第2先端刃22から被削材に作用するラジアル荷重F2rの向きとは、互いに異なっている。
具体的に、第1先端刃21のラジアル荷重F1rは、被削材に対して径方向外側へ向けて作用するが、第2先端刃22のラジアル荷重F2rは、被削材に対して径方向内側へ向けて作用するか、或いは略ゼロとなる(作用しない)。
ここで、例えば従来のドリルにおいて、先端角αを小さく設定しているもの、又はドリルの先端部が尖るように鋭角に形成されたものでは、被削材に対して径方向外側へ向けて作用するラジアル荷重が大きくなるため、加工穴を径方向に押し広げつつ穴あけ加工が行われて、加工後に加工穴の縮径現象(スプリングバック)が生じ、加工穴の内径精度を確保することが難しくなる場合がある。
一方、本実施形態によれば、第1先端刃21から被削材に作用する径方向外側へ向けたラジアル荷重F1rが、このラジアル荷重F1rとは異なる向きの、第2先端刃22から被削材に作用するラジアル荷重F2rによって低減させられるか、或いは、それ以上に増大させられないようになっている。つまり、本実施形態に係るドリル60の先端刃17全体のラジアル荷重は、従来のドリルの先端刃全体のラジアル荷重に対して、低減させられている。さらに本実施形態では、被削材の加工穴の内周予定部の近くに第2先端刃22を配置することができ、この場合、第2先端刃22の径方向内側へ向けたラジアル荷重を、加工穴の内周予定部に直接的に作用させることが可能である。
従って、加工穴の内周に縮径現象が生じることを効果的に抑制することができ、加工穴の内径精度が高められる。
また、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、或いは、軸線Oに垂直に延びているので、この第2先端刃22が、加工穴の内周予定部付近に鋭く切り込むようにされている。
従って、加工穴の内周にバリ等が生じることを効果的に抑制して、加工穴の内周の品位を高めることができる。
また、第2先端刃22は、その径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置していることから、これら第1、第2先端刃21、22は、穴あけ加工時においてほぼ同時に被削材に切り込むことになる。
従って、穴あけ加工時において、第2先端刃22に対して過大な切削抵抗が作用することはなく、上述の構成により第2先端刃22の切れ味を十分に高めつつも、該第2先端刃22の摩耗や欠損を抑制することができる。
さらに、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置しているので、これら第1、第2先端刃21、22同士が、軸線O方向に大きく離間して配置されることもない。
従って、穴あけ加工時のストロークを小さく抑えることができるという上述した効果が、確実に得られることになる。
また、ドリル60の製造時においては、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置していることから、例えば先端刃17全体の刃長の一部に凹状部分(凹部18)を成形することによって、容易に第1、第2先端刃21、22を形成できる。従って、ドリル60の製造が容易である。
また、第2先端刃22の径方向の外端が第1先端刃21の仮想延長線VL上に位置しているので、先端刃17の再研磨代を大きく確保することが容易である。従って、工具寿命を長寿命化できる。
以上より本実施形態によれば、被削材に穿設される加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができ、穴あけ加工時の切削抵抗を抑えられ、加工効率を向上でき、切れ刃(先端刃17)の摩耗や欠損を抑制でき、再研磨代を十分に確保できて、工具寿命を延長できる。
また、図22(a)(b)に示されるドリル60によれば、先端刃17が、第2先端刃22の径方向の外側に配置された第3先端刃23を有しており、この第3先端刃23が、仮想延長線VLに沿って延びているので、下記の作用効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、第1、第2先端刃21、22により上述した顕著な作用効果が得られつつ、さらに被削材に対して、第1、第2先端刃21、22とほぼ同時に第3先端刃23が切り込むこととなり、安定して加工穴の内周の品位及び内径精度を高めることができる。
また、第3先端刃23は、第2先端刃22の径方向の外端と、切屑排出溝2に沿って延びる外周刃4の先端(リーディングエッジ)との間に設けられるので、この第3先端刃によって、先端刃17と外周刃4との間に尖った角部が形成されることを防止でき、これらを鈍角の角部で接続することが可能になる。つまり、先端刃17と外周刃4との接続部分(外周コーナ17c)において、刃先強度を十分に高めることができるので、切れ刃の摩耗や欠損が顕著に抑制される。
特に、例えばCFRP(炭素繊維強化樹脂)にチタンやアルミニウム等の金属板が積層されてなる複合材料や、伸展性の高い金属材料等からなる被削材に対して穴あけ加工を行う場合には、上記構成(第3先端刃23)を採用することにより、高精度に安定して切削を行うことができ、好ましい。
ただし、図23(a)(b)に示されるように本実施形態のドリル60には、第3先端刃23を設けなくてもよく、例えばCFRP単体からなる被削材に対しては、第2先端刃22の径方向の外端と、外周刃4の先端とを直接接続して(つまり図22(a)において距離b=0として)、先端刃17と外周刃4との間に尖った角部(外周コーナ17c)を積極的に形成することにより、切れ味を高めることとしてもよい。
また本実施形態では、第1先端刃21と第2先端刃22との間に、これらを接続する第4先端刃24が配置されているので、第1、第2先端刃21、22同士の間で切り残しが生じるようなことが防止される。
従って、例えば2枚刃や3枚刃などの複数刃のドリル60に上記構成を適用するにあたって、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃17)同士において、第1、第2先端刃21、22同士の分離位置(第4先端刃24が配置される位置)を、刃長方向(径方向)に互いにずらす必要がない。
このように、本実施形態の上記構成によれば、周方向に隣り合う先端刃17それぞれにおいて切り残しが生じることがないので、第1、第2先端刃21、22を所期する位置に比較的自由に配置できる。従って、種々のドリル60への要望に対して、容易に対応可能である。
また、図25に示されるようにドリル本体1を径方向から見た側面視で、当該ドリル60の先端角αが、100〜170°であるので、下記の作用効果を奏する。
すなわち、ドリル60の先端角αが100°以上であるので、該先端角αが小さくなり過ぎることがなく、穴あけ加工時にラジアル荷重(被削材に対して径方向の外側へ向けて作用する力)F1rが過大になるようなことが防止される。これにより、加工後の加工穴の縮径現象を抑制する効果が、さらに格別顕著なものとなる。
また、ドリル60の先端角αが170°以下であるので、該先端角αが大きくなり過ぎることがなく、穴あけ加工時にスラスト荷重(被削材に対してドリル送り方向へ向けて作用する力)F1tが過大になるようなことが防止される。これにより、層間剥離を抑制する効果が、さらに確実なものとなる。
また、第2先端刃22の径方向の外端が、先端刃17全体としての径方向の最外端から、φD(先端刃17の回転軌跡の直径)×10%以下の範囲に配置される(つまり、図22(a)における距離bがφD×10%以下である)ので、下記の効果を奏する。
すなわち、第2先端刃22を、被削材の加工穴の内周予定部の近くに配置することができ、該第2先端刃22の径方向内側へ向けたラジアル荷重F2rを、加工穴の内周予定部に直接的に作用させることができる。
従って、加工穴の内周に縮径現象が生じることをより効果的に抑制することができ、加工穴の内径精度が高められる。
また、第2先端刃22は、径方向の外側へ向かうに従い軸線O方向の先端側へ向けて、或いは、軸線Oに垂直に延びているので、この第2先端刃22が、加工穴の内周予定部付近に鋭く切り込むことになる。
従って、加工穴の内周にバリ等が生じることをより効果的に抑制することができ、加工穴の内周の品位が高められる。
また、第1先端刃21の径方向の外端が、先端刃17全体としての径方向の最外端から、φD(先端刃17の回転軌跡の直径)×25%以下の範囲に配置される(つまり、図25における距離aがφD×25%以下である)ので、下記の効果を奏する。
すなわち、第1先端刃21の刃長を、先端刃17全体としての刃長に対してほぼ半分以上確保することができ、この第1先端刃21の径方向の外側に配置される第2先端刃22を形成するにあたり、大きな凹部18を切り欠くなどしてドリル60先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。
また、図25に示されるドリル側面視で、軸線Oに垂直な仮想平面VSと第2先端刃22との間に形成される角度βが25°以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、第2先端刃22の径方向の内端における軸線O方向の位置が、第1先端刃21から大きく軸線O方向の基端側へ向けて離間させられるようなことが防止される。これにより、第2先端刃22を形成するにあたり、大きな凹部18を切り欠くなどしてドリル60先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。また、穴あけ加工時のストロークを小さく抑える効果が、さらに確実なものとなる。
また、図25に示されるドリル側面視で、軸線Oと第4先端刃24との間に形成される角度θ2が30°以下であるので、下記の効果を奏する。
すなわちこの場合、角度θ2が30°以下とされているので、第4先端刃24が軸線Oに対して大きく傾くことなく、該軸線Oに概ね沿うように延びることになり、この第4先端刃24の刃長を短くすることができる。これにより、第2先端刃22の刃長を長くすることができて、上述した第2先端刃22を設けたことによる作用効果がより顕著なものとなる。
また、特に図示していないが、本実施形態のドリル60の先端刃17において、第2先端刃22の径方向の内端は、第1先端刃21の径方向の外端に対して、径方向の内側又は径方向の同一位置に配置されていてもよい。この場合、第4先端刃24は切れ刃として作用することはなく、単なる稜線に形成される(みせかけの切れ刃とされる)。
上記構成によれば、第1先端刃21と第2先端刃22とが径方向にオーバーラップするように穴あけ加工が行われるので、これら第1、第2先端刃21、22同士の間で、切り残しが生じることがない。つまり、第1先端刃21の径方向の外端と、第2先端刃22の径方向の内端とを繋ぐ接続部分(上記稜線)に対して、特に切れ刃の機能を付与することなく、これらの間に切り残しが生じることを防止できる。
従って、本実施形態で説明したツイストドリルなどの複数刃のドリル60に上記構成を適用するにあたって、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃17)同士において、第1、第2先端刃21、22同士の分離位置(第1先端刃21の径方向の外端及び第2先端刃22の径方向の内端に相当する位置)を、刃長方向(径方向)に互いにずらす必要がない。
具体的に説明すると、例えば、特開平11−129109号公報に記載された従来のドリルヘッドにおいては、周方向に隣り合う切れ刃(先端刃)同士において、ニックの位置を刃長方向に互いにずらさなければ、切り残しが生じてしまう。
一方、本実施形態の上記構成によれば、周方向に隣り合う先端刃17それぞれにおいて切り残しが生じることがないので、第1、第2先端刃21、22を所期する位置に比較的自由に配置できる。従って、種々のドリル60への要望に対して、容易に対応可能である。
さらに、このドリル側面視で、軸線Oと上記稜線との間に形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度が10°以下であることが好ましい。
すなわちこの場合、第1、第2先端刃21、22同士の間で、切り残しが生じることを防止しつつも、第2先端刃22を形成するにあたり、径方向内側へ向けて大きな凹部18を切り欠くなどしてドリル60先端の剛性を低下させてしまうようなことが防止される。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るドリル70について、図26を参照して説明する。
なお、前述の第1実施形態及び第2実施形態と同じ構成要素については詳細な説明を省略し、主として異なる点についてのみ、下記に説明する。
〔前述の第1実施形態及び第2実施形態との相違点〕
本実施形態のドリル70は、前述の第1実施形態及び第2実施形態で説明したドリル50、60とは、主にドリル本体1の切屑排出溝2の形状、及び第2マージン部12を有している点が異なっている。
〔切屑排出溝〕
図26(a)(b)に示されるように、本実施形態のドリル70においては、切屑排出溝2が、軸線Oに平行に延びている。つまり、切屑排出溝2が、周方向にねじれることなく軸線O方向に沿って真っ直ぐに延びている。つまりこのドリル70は、直溝タイプのドリルとされている。そして、切屑排出溝2の壁面2aにおける先端部に、ギャッシュすくい面2cが形成されている。
また、本実施形態のドリル70は、切屑排出溝2の溝の内周形状が、横断面視でL字状をなしている。
〔第2マージン部〕
また、本実施形態のドリル70は、マージン部11(第1マージン部)以外のマージン部として、第2マージン部12を有している。第2マージン部12は、第1マージン部11と略同径に形成されており、二番取り面15と、該二番取り面15のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2と、の間に配置されている。
〔本実施形態による作用効果〕
本実施形態のドリル70においても、前述の第1実施形態及び第2実施形態と同様に、先端刃17のアキシャルレーキ角がネガティブ角(0°)とされ、かつ、先端刃17が径方向に沿うように延びている(芯高ゼロとされている)ので、先端刃17の外周コーナ17cのラジアルレーキ角Rはネガティブ角(0°)となる。
従って、本実施形態のドリル70においても、前述の第1実施形態及び第2実施形態と同様の作用効果が得られ、被削材Wに穴あけ加工した加工穴の内周の仕上げ精度を安定して高めることができる。
また本実施形態では、切屑排出溝2が、ドリル本体1の外周において直線状に延びる直溝とされている。従って、ドリル製造時に切屑排出溝を成形しやすい。
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前述の第1〜第3実施形態で説明したドリル50〜70は、ドリル本体1の外周に、一対(2条)の切屑排出溝2が周方向に間隔をあけて配置されるとともに、先端刃7、17が一対(2つ)形成された2枚刃のドリル(ツイストドリル)であるが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち本発明は、ドリル本体1の外周に、3条以上の切屑排出溝2が周方向に間隔をあけて配置されるとともに、先端刃が3つ以上形成された3枚刃以上のドリルにも適用可能である。
また前述の実施形態では、ドリル本体1が、超硬合金等の硬質材料により形成されているとしたが、ドリル本体1の材質はこれに限定されるものではない。また、ドリル本体1の刃部に対して、ダイヤモンド被膜等のコーティング膜が被覆されていてもよい。
また、前述したドリル50〜70は、ソリッドタイプの一体成形されたドリルであるが、本発明は、刃先交換式ドリルの工具本体の先端部に着脱可能に装着されるドリルヘッドや、工具本体の先端部にろう付け等により固定状態で装着されるドリルヘッドに対しても適用可能である。
すなわち、特に図示していないが、本発明は、工具本体とともに軸線O回りに回転させられるヘッド本体(前述の実施形態で説明したドリル本体1に相当)と、ヘッド本体の外周に形成されて、軸線O方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝2と、切屑排出溝2のドリル回転方向Tを向く壁面2aとヘッド本体の先端面との交差稜線部に形成された先端刃と、を備えたドリルヘッドに対しても、採用することができる。この場合、ドリルヘッドは、切屑排出溝2の壁面2aのうち、先端刃を介して先端面に連なる先端部に、軸線Oに平行となるようにギャッシュすくい面2cが形成されており、ヘッド本体を軸線O方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、先端刃が、軸線Oに直交する径方向に沿うように延びることになる。またこのドリルヘッドに対して、前述の実施形態で説明した種々の構成要素を組み合わせてもよい。
また、先端角α、角度β、δ、θ2、逃げ角γ1〜γ4、及び距離a、bは、前述の実施形態で説明した各数値範囲に限定されるものではない。
ここで、図27は、前述した第2参考例のドリル30の変形例(図12及び図13に示されるドリル30の変形例)を表している。また、図28は、前述した第2実施形態のドリル60の変形例(図22(b)に示されるドリル60の変形例)を表している。
これらの変形例では、ドリル本体1の内部を軸線O方向に貫通するクーラント孔14が、先端面6、26に開口しており、かつ、クーラント孔14の少なくとも一部が、凹部38、18に配置されている。なお、前述の参考例及び実施形態と同じ構成要素については詳細な説明を省略し、主として異なる点についてのみ、下記に説明する。
具体的に、図27(a)(b)に示されるドリル30の変形例では、先端面6に形成された凹部38が、先端刃7のうち少なくとも第2先端刃22からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びているとともに、軸線O方向の基端側へ向けて窪んでいる。図示の例では、凹部38が、先端刃7の第2先端刃22及び第4先端刃24からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びており、先端面6の凹部38以外の部位よりも窪んで形成されている。
より詳しくは、凹部38は、第2先端刃22からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びる壁面(底面)である第2逃げ面32と、第4先端刃24からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びる壁面である第4逃げ面34と、を有しており、これら一対の壁面同士がこの凹部38の最深部で接続されることにより、凹部38は断面凹V字状をなしている。また図示の例では、凹部38の一対の壁面(第2逃げ面32及び第4逃げ面34)が、それぞれ平面状に形成されている。
凹部38のうち、ドリル回転方向Tの端部は、この凹部38が配置される先端面6のドリル回転方向Tに隣接する切屑排出溝2に開口している。また、凹部38のうち、ドリル回転方向Tとは反対側の端部は、この凹部38が配置される先端面6のドリル回転方向Tとは反対側に隣接するシンニング面9b上に位置している。つまり、図27(a)(b)に示される例においては、凹部38は、先端刃7から先端面(先端逃げ面)6及びシンニング面9bにわたって切り欠かれるように形成されている。
なお、特に図示していないが、先端刃7には、第4先端刃24の代わりに図5に示される稜線16が形成されていてもよく、この場合、凹部38は、先端刃7の第2先端刃22及び稜線16からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びることになる。
そして、一対の凹部38のうち少なくとも一方に、クーラント孔14が開口している。図27に示される例では、先端面6に開口する一対のクーラント孔14が、一対の凹部38に配置されており、つまり各凹部38に対して、クーラント孔14が1つずつ開口している(一対の凹部38の両方に対してクーラント孔14が開口する)。また、クーラント孔14の開口部は、凹部38におけるドリル回転方向Tの端部と、ドリル回転方向Tとは反対側の端部と、の間に位置する中間部分に配置されている。言い換えると、凹部38は、クーラント孔14の開口部からドリル回転方向T及びドリル回転方向Tとは反対側へ向けて、それぞれ延びている。
また、クーラント孔14の開口部は、凹部38の一対の壁面(第2逃げ面32及び第4逃げ面34)の両方に開口している。つまり図27に示される例では、クーラント孔14の開口部が、凹部38の最深部に配置されているとともに、該最深部に位置する一対の壁面の各部分に開口している。
なお、図示の例では、クーラント孔14の開口部が、凹部38から外部にはみ出ることなく、凹部38内に配置(収容)されているが、クーラント孔14は、凹部38内に少なくとも一部以上が開口していればよく、クーラント孔14の開口部の領域すべてが、凹部38内に配置されていなくてもよい。
また、図28に示されるドリル60の変形例では、先端面26に形成される一対の凹部18同士の形状が、互いに異なっている。これらの凹部18は、径方向に沿う位置が互いに異なっており、ドリル回転方向Tの長さが互いに異なっている。つまり、一対の凹部18同士は、軸線Oを中心とした回転対称形状とされてはいない。このため、一対の先端刃17同士についても、軸線Oを中心とした回転対称形状となっていない。
また、図28に示される例では、一対の凹部18のうち、一方の凹部18のみにクーラント孔14が開口しており、他方の凹部18にはクーラント孔14が開口していない。また、図示の例では、凹部18のドリル回転方向Tとは反対側の端部が、シンニング面19には達していない。
なお、特に図示していないが、ギャッシュすくい面2cに開口する凹部18の先端刃17部分(図示の例では第2先端刃22及び第4先端刃24)の刃先には、0.010〜0.200mmのネガティブ角(負角)のホーニング処理、及び、すくい角0°以下のギャッシュ等の刃先処理のいずれかが施されていてもよい。
以上説明した変形例によれば、クーラント孔14から凹部38、18内に流出するクーラント(圧縮エアや、油性又は水溶性の切削液剤)が、穴あけ加工時の遠心力の作用等により、該凹部38、18から第2先端刃22及びその径方向外側に位置する先端刃7、17部分(第3先端刃23や外周コーナ17c等)、並びに外周刃4の先端(リーディングエッジ)等へ安定して流れやすくなる。
具体的には、クーラントが凹部38、18内を通して、先端面(先端逃げ面)6、26から該先端面6、26のドリル回転方向Tに隣接する切屑排出溝(すくい面)2へと流れつつ、切れ刃(先端刃7、17及び外周刃4)並びにその近傍に供給される。つまりクーラントは、すくい面上を流れる切屑の影響を受けるようなことなく、先端面6、26から切れ刃へと到達する。これにより、切れ刃及び被削材の加工穴の内周近傍(加工部位)が効果的に冷却されて、加工精度を顕著に向上させることができる。
詳しくは、従来においては、クーラントが、ドリルの先端面に開口するクーラント孔から流出した後、流れの向きが定まらないまま不安定に流れて、該先端面のドリル回転方向とは反対側に位置する切屑排出溝の内部やドリルの外周面等を通して、切れ刃に供給されていた。このため、切れ刃近傍に到達しない無駄なクーラントが多くなり、十分な冷却効果を得ることができなかった。また、切屑排出溝内の切屑の排出性を高めることも難しかった。特に、例えばCFRPやCFRPに金属板が積層されてなる複合材料等の被削材の穴あけ加工においては、前記加工部位の温度が切削熱により上昇し、CFRPが脆化することにより、バリや層間剥離(デラミネーション)が生じやすくなる。また、前記加工部位に切屑が滞留することにより、噛み込んだ切屑が加工穴の内周を擦って加工面を傷付け、加工品位を低下させてしまう。
これに対し、変形例で説明した上記構成によれば、クーラントが、先端面6、26の凹部38、18内を通してドリル回転方向Tに隣接する切屑排出溝2内へと、切れ刃に近い位置から無駄なく流入する。このため、クーラントが前記加工部位に安定して供給され、この加工部位の温度上昇を顕著に抑制でき、加工品位を安定的に高めることができる。また、クーラントが前記加工部位へ安定して流れることにより、この加工部位に切屑が滞留することを抑えて、切屑の噛み込み等による加工品位の低下を顕著に防止することができる。
また、切削負荷が大きくなりがちな先端刃7、17の外周コーナ17cや外周刃4のリーディングエッジの摩耗や損傷を効果的に抑制して、切削性能を長期に亘り良好に維持することができる。
また、この変形例では、凹部38、18が、クーラント孔14の開口部からドリル回転方向T及びドリル回転方向Tとは反対側へ向けて、それぞれ延びているので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、凹部38、18が、クーラント孔14の開口部からドリル回転方向Tへ向けて延びているので、この凹部38、18内を流れるクーラントが、ドリル先端面6、26から該先端面6、26のドリル回転方向Tに隣接する切屑排出溝2へと安定して流れて、上述した作用効果がより顕著なものとなる。
また、凹部38、18が、クーラント孔14の開口部からドリル回転方向Tとは反対側へ向けて延びているので、この凹部38、18内を流れるクーラントが、ドリル先端面6、26のドリル回転方向Tとは反対側に隣り合う切屑排出溝2内にも安定して流入させられる。これにより、切屑排出溝2内の切屑の排出を促して、切屑排出性を高めることができ、切屑詰まりが顕著に抑制されて、高精度な穴あけ加工を良好に維持し続けることができる。
特に、図27(a)(b)に示される例のように、凹部38のドリル回転方向Tとは反対側の端部が、シンニング面9bに達している(シンニング面9b上に配置されている)場合には、凹部38から該凹部38のドリル回転方向Tとは反対側に位置する切屑排出溝2内へと、クーラントがより安定的に流れやすくなり、上述した切屑排出性を高める効果がさらに格別なものとなる。
また、上述の変形例では、凹部38、18が、該凹部38、18の最深部で接続される一対の壁面(第2逃げ面32及び第4逃げ面34)を有するとともに、断面凹V字状をなしており、クーラント孔14の開口部が、前記一対の壁面の両方に開口しているので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、クーラント孔14が、凹部38、18の最深部で接続される一対の壁面のうち、両方に開口しているので、該クーラント孔14から流出するクーラントが、これらの壁面にそれぞれ沿うように流れて均等に分散させられ、凹部38、18内において偏り少ない安定した流れを形成しつつ、該凹部38、18から流れ出て前記加工部位へと安定的に供給される。従って、上述した作用効果がより格別顕著なものとなる。
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例、参考例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
1 ドリル本体
2 切屑排出溝
2a 壁面
2c ギャッシュすくい面
6、26 先端面(先端逃げ面)
7、17 先端刃
8、18、38 凹部
10、20、30、40、60、70 ドリル
14 クーラント孔
16 稜線
21 第1先端刃
22 第2先端刃
23 第3先端刃
24 第4先端刃
32 第2逃げ面(凹部の壁面)
34 第4逃げ面(凹部の壁面)
φD 先端刃の回転軌跡の直径(最外径)
O 軸線
T ドリル回転方向
VL 仮想延長線
VS 仮想平面
α 先端角
β 角度
θ1、θ2 角度

Claims (4)

  1. 軸線回りに回転させられるドリル本体と、
    前記ドリル本体の外周に形成されて、前記軸線方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝と、
    前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記ドリル本体の先端面との交差稜線部に形成された先端刃と、を備え、
    前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面のうち、前記先端刃を介して前記先端面に連なる先端部には、前記軸線に平行となるようにギャッシュすくい面が形成されており、
    前記ドリル本体を前記軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記先端刃は、前記軸線に直交する径方向に沿うように延びていることを特徴とするドリル。
  2. 請求項1に記載のドリルであって、
    前記切屑排出溝のうち、前記ギャッシュすくい面よりも前記軸線方向の基端側に位置する部分は、前記ギャッシュすくい面から前記軸線方向の基端側へ向かうに従い漸次ドリル回転方向とは反対側へ向けてねじれて延びていることを特徴とするドリル。
  3. 請求項1に記載のドリルであって、
    前記切屑排出溝は、前記軸線に平行に延びていることを特徴とするドリル。
  4. 工具本体の先端部に装着されるドリルヘッドであって、
    前記工具本体とともに軸線回りに回転させられるヘッド本体と、
    前記ヘッド本体の外周に形成されて、前記軸線方向に沿うように先端から基端側へ向けて延びる切屑排出溝と、
    前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面と前記ヘッド本体の先端面との交差稜線部に形成された先端刃と、を備え、
    前記切屑排出溝のドリル回転方向を向く壁面のうち、前記先端刃を介して前記先端面に連なる先端部には、前記軸線に平行となるようにギャッシュすくい面が形成されており、
    前記ヘッド本体を前記軸線方向の先端から基端側へ向けて見たドリル正面視で、前記先端刃は、前記軸線に直交する径方向に沿うように延びていることを特徴とするドリルヘッド。
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