JP2012223882A - 繊維強化複合材の穴あけ工具と穴あけ方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】FRPに代表される繊維強化複合材にバリや毛羽立ちの少ない高品位な穴をあけることができ、しかも、工具寿命を経済負担の増加を抑えながら延ばして優れた加工品位を長時間維持できる穴あけ工具を提供することを課題としている。
【解決手段】ツイストドリルを基本形にした穴あけ工具であり、本体部2の先端に回転中心から外周に至る回転中心対称の切れ刃4を有し、その切れ刃4が、少なくとも回転中心刃部4aと中間刃部4bと最外周刃部4cの3部によって構成され、回転中心刃部4aと最外周刃部4cが直線形状をなし、各刃部の先端角が、回転中心側から外周側の刃部にかけて段階的に減少し、回転中心刃部4aの先端角が140°以上、170°以下であり、
最外周刃部4cの先端角が5°以上、45°以下である構造にした。
【選択図】図1

Description

この発明は、炭素繊維などの補強繊維を用いてマトリックス樹脂を強化した繊維強化複合材にいわゆるバリや毛羽立ち、むしれ、チッピングの少ない高品位な穴をあけることを可能にした回転切削式の穴あけ工具と、その工具を用いる繊維強化複合材の穴あけ方法に関する。
FRP(繊維強化プラスチックス)に代表される繊維強化複合材、中でも、CFRP(炭素繊維強化プラスチックス)は、比強度、比弾性率が大きいことから、近年、航空機や車両の外板などとして多用される傾向にある。このFRPで形成された部材は、ボルトやリベットなどの締結要素を用いて構造体に固定される。このため、航空機部品などの構造体にFRP材を使用するときには、締結要素を通すための穴をFRP材に多数あけることが必要になる。
FRP材に対するその穴あけは、通常ドリルを用いてなされるが、一般的なドリルによる穴あけでは、加工した穴の出口部に図4に示すような繊維の毛羽立ちが発生しやすい。また、積層された繊維層の層間剥離も発生しやすく、加工品位上の問題が生じる可能性が高い。これに対し、航空機用の構造体などの製造では特に、高品位加工が求められており、上記の毛羽立ちや層間剥離などを回避することが極めて重要になる。
加工品位を悪くする上記の毛羽立ちなどは、工具摩耗が進展して切削抵抗が増大するほど発生し易くなる。一方、高強度のCFRP材の加工などでは工具の摩耗進行が速くなりがちであり、結果的に加工品位維持のために工具交換を早めることになり、加工コストに占める工具費の割合が高くなっているのが実情である。
このような問題を解消するために、既にいくつかの技術が提案されている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。これらのうち、特許文献1は、ねじれ溝を通常とは逆ねじれの溝(先端側から基端側に向ってドリル回転方向にねじれる溝)にするとともに、先端の切れ刃を回転方向から見て内周部と外周部とがそれらの中間部で交差するV字状に形成したツイストドリルを提案しており、そのドリルは、ねじれ溝を逆ねじれの溝にすることで切れ刃のアキシャルレーキが負の角度になってFRP中の繊維が押し切るような形で切断され、また、切れ刃をV字形状にすることで加工中の振動が防止され、穴縁部のバリ、むしれを抑制できるとしている。
また、特許文献2は、先端の切れ刃を径方向に2区画に分けた切れ刃部によって構成し、外周側切れ刃部の先端角を回転中心側の切れ刃部の先端角よりも小さくし、さらに、切れ刃の外周側に回転中心側よりも高硬度部材を配置したドリルを提案している。そのドリルは、切削速度が大きくなる切れ刃外周部の耐摩耗性が高硬度部材によって高められ、この高硬度部材に案内されつつ回転中心部の切れ刃の摩耗が進行するので、ドリル回転の振れが抑えられるとしている。さらに、外周側切れ刃部の先端角が回転中心側の切れ刃部の先端角よりも小さいために切れ刃外周部による穴の押し広げ作用が低減されてバリの発生が抑制されるとしている。
さらに、特許文献3は、先端からシャンク部に向うに従って外径が所定の割合で減少するバックテーパ部を、ドリル径の0.5〜1.0倍の軸方向長さ範囲にわたってドリルの先端部に形成し、そのバックテーパ部に続く部分の径を一定にすること、さらには、特許文献2と同様に切れ刃を先端角の大きい先端切れ刃部と先端角の小さい外周側切れ刃部の2部分に分け、各切れ刃部に切屑分断用の複数のニックを設ける構造を提案している。このドリルは、前記バックテーパ部の設置やニックによる切屑の分断によって切削抵抗が低減され、そのために工具摩耗が減少して良好な加工品位を維持できる時間を長くすることが可能になるとしている。
さらに、下記特許文献4には、プラスチック板加工用のドリルが開示されている。その
ドリルは、先端角を145°〜165°にし、切れ刃の全長域の先端角を全て同じ角度にしている。このような角度にすることで、ドリル全周の切り込み速度を等しくし、加工穴の周辺の切り込みを綺麗に仕上げようとしている。
特許第2699527号公報 特許第2984446号公報 特許第3534839号公報 実開昭62−168207号公報
特許文献4に記載されたドリルは、プラスチック主体の板材の加工では効果があるかもしれないが、先端角が切れ刃の全域で一定しているため、繊維強化プラスチックス(FRP材)の加工では、加工した穴の出口部におけるバリの発生を抑制することができない。
前掲の特許文献1〜3が開示しているようなドリルは、繊維強化複合材の加工で良好な加工品位をより長時間にわたって維持する要求に十分に応えたものとは言えない。例えば、特許文献1のドリルは、加工時の負荷が切れ刃の尖った外周部に集中し、同部に摩耗やチッピングが生じやすい。また、刃先が損傷している状態で加工がなされるとバリや毛羽立ちが不可避的に発生するが、切れ刃の外周部の全域が同時に被削材を切り抜ける上に、アキシャルレーキが負の角度になっているために、発生したバリや毛羽立ちが除去されずに残り、良好な加工品位を維持することが難しい。
また、特許文献2,3のドリルは、外周側切れ刃で加工穴を徐々に拡大していくので、一旦発生したバリ、毛羽立ちの後続の刃による再切削が繰り返され、その再切削によってバリ、毛羽立ちを削り取ることが可能である。しかし、切れ刃を2区画に分けた特許文献2,3の構造では、回転中心側切れ刃部の先端角を大きくし、なおかつ、外周側切れ刃部の先端角を小さくすると、回転中心側切れ刃と外周側切れ刃のつなぎ目における角度変化が大きくなって鋭利になりすぎ、加工数を増やしたときに同箇所に異常損傷が発生しやすく、その結果、バリの除去が不十分になって加工品位が低下する。また、ダイヤモンドなどの高硬度部材を外周部に配置することは摩耗の抑制に関しては効果があるが、工具のコストアップを招くため、摩耗量の抑制は、超硬合金等で形成される基材のみでの対応や、その基材に対する硬質膜のコーティング処理程度にとどめるべきである。
なお、FRP材そのものをバリや毛羽立ちの起こり難いものに改善する試みもなされているが、航空機用材料などとして利用実績のある既存の材料の穴あけにおいて上記の問題を無くすには、工具の改善や穴あけ方法の改善で対処する必要がある。
この発明は、繊維強化複合材にバリや毛羽立ち、むしれ、チッピングの少ない高品位な穴をあけることができ、しかも、工具寿命を経済負担の増加を抑えながら延ばして優れた加工品位を長時間維持できるようにすることを課題としている。
発明者等は、種々の工具形状による穴あけテストを繰り返した結果、上記の課題を解決できる穴あけ工具と穴あけ方法を見出した。前者の穴あけ工具は、回転切削式であって、本体部の先端に回転中心から外周に至る回転中心対称の切れ刃を有し、その切れ刃が、少なくとも回転中心刃部とその回転中心刃部の外端に順に連なる中間刃部及び最外周刃部の3部によって構成され、前記最外周刃部が直線形状をなし、各刃部の先端角が、回転中心側から外周側の刃部にかけて段階的に減少しており、
前記回転中心刃部を、切れ刃の軌跡を表す図において直線形状にし、その回転中心刃部に140°以上、170°以下の先端角を付与し、
前記最外周刃部の先端角を5°以上、45°以下にした構造になっている。
この発明の穴あけ工具の具体的形態や好ましい形態を以下に列挙する。
(1)前記最外周刃部が切れ刃の軌跡を表す図において工具半径に占める領域をA、穴あけ工具の直径をDとして、その両者の比A/Dを、0.03以上、0.14以下にしたもの。
なお、ここで言う切れ刃の軌跡を表す図とは、工具が振れずに回転したとして、このときに工具の輪郭が転写されて描かれる穴形状を軸心に沿って回転中心で切断した図を言う。
(2)本体部を含めた基部をWC基超硬合金で形成して表面に硬質炭素膜を設けたもの。
この発明の穴あけ方法では、上記したこの発明の穴あけ工具を用い、補強繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化複合材に対して、穴あけ時の工具の1刃当たりの送り量fを0.03mm以下にして穴あけ加工を行う。
この穴あけ方法は、切屑吸引手段を用いて穴あけ時に発生する切屑を吸引しながら穴あけ加工を行うと好ましい。
なお、この発明の方法は、GFRP(ガラス繊維強化プラスチックス)やKFRP(ポリエステル繊維強化プラスチックス)などに対する穴あけにも勿論利用できるが、他のFRP材の加工に比べて工具が摩耗し易く、加工品位の長時間の維持が難しくなるCFRP材の貫通穴加工に利用すると特に大きな効果を期待できる。
繊維強化複合材の加工においては、上述したように繊維を切断する必要があり、良好な繊維切断のために、繊維の向き(長手方向)に対して切れ刃が極力垂直に近い角度で当たることが望まれる。特に、穴出口部においては被削材が下に支えがなくて撓みやすいため、繊維に対して切れ刃の向きを垂直にして繊維を切断しやすくすることが高品位の穴あけにつながる。また、一方で、穴入口部では加工対象の複合材(板材)の剛性を利用し、工具で繊維を押えつけながら繊維に対して角度の小さい(平行に近い)切れ刃で繊維を切るのではなく削った方が、切削抵抗の抑制、切屑詰まりによる加工品位低下の抑制が図れて有利となる。この発明の穴あけ工具を使用することで上記の要求に応えることが可能になる。
繊維強化複合材にあける穴は、繊維の向きに対して垂直となる。一般的な先端角が付された直線の切れ刃を有する工具、例えば汎用ドリルなどでは、繊維の配向方向に対する切れ刃の当たり角度が小さすぎて良好な繊維切断ができないのに対し、この発明の穴あけ工具は、切れ刃が径方向に少なくとも3部に分けられ各刃部の先端角が回転中心側から外周側の刃部にかけて段階的に減少している。回転中心刃部の先端角は140°〜170°に設定されおり、この部分の切れ刃の角度が繊維に対して平行に近づく。その一方で、先端角を外周側に向って段階的に減少させることで、切れ刃の最外周刃部は繊維の向きに対して垂直に近づけて繊維の切断機能を外周側で高めることができる。また、切れ刃を径方向に少なくとも3部に分けることで、前記の特許文献2,3の工具に比べて回転中心刃部の先端角を大きくし、各刃部のつなぎ目における切れ刃の角度変化は緩やかにすることができる。この切れ刃形状により穴広げの加工が徐々に進行し、加工中に発生したバリ、毛羽立ちが、穴広げが終わるまでの間に後続の刃によって効果的に削り取られる。また、切れ刃は本体部の外周に近づくほど立ち上がり角(繊維に対する交差角)が急になるので、被
削域の外周側が加工されるときの新たなバリの発生が抑えられ、穴面のさらえ効果も得られるようになって穴の面粗さも良くなる。これに加えて、穴が広がるにつれて先端角が小さくなって切削抵抗(スラスト力)が低減されるため、これによる穴の加工品位向上も期待できるようになる。
また、切れ刃を少なくとも3つの刃部に分けて各刃部の先端角を漸減させることで、最外周刃部の長さの増加を抑え、切れ刃が無駄に軸方向に長くなることによる加工能率低下の問題を回避することもできる。さらに、切削負荷を切れ刃の広い領域で分担可能であるので切れ刃の各部の摩耗状況も安定し、切れ刃の局部損傷の問題も起こりにくい。
なお、本体部の外周にマージン部を形成すると、穴の直進性改善や加工中の振動抑制に加え、工具の摩耗による外径減少が抑制されて加工の安定性の長期維持が可能となる。CFRP材の加工では長さがmm単位となる一般の金属に比べると各段に細かな切屑が形成されるため、工具と穴内壁面の間で切屑詰まりが発生しやすいが、マージン部を設けてそのマージン部に当該マージン部を長手方向に分断する溝やマージン幅を長手方向の各部において変動させる溝を設けると、溝の働きによって切屑の排出性が高まり、そのために、切屑詰まりとそれに起因した穴壁面のむしれなどが減少して穴壁面の品位向上につながる。
穴径寸法自体がそれほど重要でない場合には、むしろマージン部を形成しないことが穴壁面のむしれ抑制の観点で好適である。また、穴径減少に対しても、例えば、ダイヤモンドコーティングを施すことで高い耐摩耗性を付与すれば、その穴径減少とそれによる悪影響をある程度抑制することが可能である。
また、後述する理由から刃先強化用のホーニング処理は無い方がよい。本体部も含めて基部は超硬合金で形成するのが好ましい。
この発明の穴あけ方法では、切れ刃が少なくとも3つの刃部に分かれ、各刃部の先端角が回転中心側から外周側に向って漸減し、最外周刃部は直線で形成された工具を使用するので、回転中心刃部による繊維を押さえつけながらの削りと、最外周刃部による繊維の良好な切断、加工中に発生したバリ、毛羽立ちの除去、穴面の仕上げの作用・効果が得られる。これに加え、加工時の送り量を一定範囲内に制限する、具体的には、穴あけ時の工具の1刃当たりの送り量fを0.03mm以下にすることで、加工品位向上の効果をより一層高めることができる。この方法での切屑の排出性は、発生した切屑を、切屑吸引手段を用いて強制的に吸引除去するとより良くなり、穴壁面の品位低下の原因になる工具外周と穴壁面との間への切屑詰まりがより確実に防止されて切屑詰まりに起因した加工品位の低下がなくなる。
この発明の穴あけ工具の実施の形態を示す側面図 評価試験に代替品として用いた参考形態の穴あけ工具を示す側面図 切屑吸引手段を採用した穴あけ方法の概要説明図 FRP材に加工された穴あけの出口部の繊維の毛羽立ちを示す図
−実施形態−
図1に、この発明の穴あけ工具の実施の形態を示す。この穴あけ工具1は、2枚刃のツイストドリルを基本形とするものであって、本体部2と工作機械のホルダに把持されるシャンク3とからなり、本体部2の先端に回転中心対称形状の切れ刃4を有し、また、本体部2の外周に2条のねじれ溝5を有する。ねじれ溝5,5間にはランド部6があり、そのランド部6のねじれ溝5に沿った工具回転方向前方の縁に一定幅のマージン部7が形成されている。このマージン部7は、加工穴の穴径精度が重視されないときには省くことがある。
また、この発明の穴あけ工具1は、切れ刃4を回転中心刃部4a、その外側に順次連なる中間刃部4b及び最外周刃部4cの3部に区画し、各刃部に先端角を付与してその先端角を回転中心側から外周側の刃部にかけて段階的に減少させている。
この穴あけ工具1は、切れ刃4の軌跡を表す図(図1で代用)において、回転中心刃部4a、中間刃部4bを共に直線形状にし、回転中心刃部4aに先端角θ1を付与している。
また、最外周刃部4cも、図1において直線形状となし、その最外周刃部4cの外端をマージン部7のリーディングエッジに小さな角度をもって連ならせている。また、その直線の最外周刃部4cを、図1に示すように、その設置領域が工具半径においてAの径方向範囲を占め、軸方向においてはCの範囲を占めるものにしている。
この図1の形態となすことで、回転中心刃部4aと最外周刃部4cに要求される機能を両立させることができ、加えて、各刃部のつなぎ目における切れ刃の角度変化を緩やかにすることもできる。
なお、最外周刃部4cの先端角は、5°以上、45°以下とする。その最外周刃部4cの先端角が小さすぎると、最外周刃部4cによる穴広げに時間がかかり、大きすぎると繊維との角度差が大きくなって繊維の切断が良好になされなくなる。
また、最外周刃部4cの工具半径に占める範囲Aが小さすぎると最外周刃部4cによる穴広げや仕上げの効果が十分に得られず、その範囲Aが大きすぎると最外周刃部4cの軸方向長さが長くなって加工能率が悪くなり、或いは、最外周刃部4cの先端角が大きくなって加工品位向上の効果が薄れるので、工具径Dとの比A/Dを、0.03以上、0.14以下にするのがよい。
この発明の工具は、回転中心刃部4aを切れ刃の軌跡を表す図において直線形状にし、その回転中心刃部4aに先端角θ1を付与している。
回転中心刃部4aの先端角θ1は中間刃部4bの先端角よりも大きい。その先端角θ1は、140°以上、170°以下とする。この角度が小さすぎると回転中心刃部4aによる繊維を押さえつけながらの削りの効果などが薄れ、逆にこの角度が大きすぎると被削材に対する良好な食い付き性の確保などが難しくなる。
この図1の工具は、回転中心刃部4aの先端角θ1を140°以上、170°以下としたことによって、穴入口部では工具で繊維を押えつけながら繊維に対して角度の小さい切れ刃で繊維を削ることができ、切削抵抗の抑制、切屑詰まりによる加工品位低下の抑制が図れる。穴位置精度の向上と穴入口部での削りによる加工を両立させることが可能であり、また、板材を複数枚重ねて加工するときの上側の板材の浮き上がりを抑制することもでき、剛性の確保が難しいときに有効である。
切れ刃4は、ホーニング処理のなされていない鋭利な刃として形成されている。そのために、繊維の切断が良好になされて高い加工品位が得られる。この点において、工具材料は刃立ち性の良い超硬合金が適している。刃先を鈍らせるホーニング処理は無い方がよい。本体部も含めて基部を超硬合金で形成すると耐摩耗性やコスト面でもバランスの取れた工具を実現できる。基部の超硬合金を硬質炭素膜で覆った被覆工具となすことで耐摩耗性をさらに高めることができ、これは耐摩耗性が重視されるときに有効である。
−参考形態−
図2に、参考形態の穴あけ工具を示す。この穴あけ工具1は、切れ刃4の軌跡を表す図(図2で代用)において、回転中心刃部4aを半径rの凸円弧の曲線で形成している。
なお、図1の工具の中間刃部4bは、切れ刃4の軌跡を表す図において直線になっているが、この部分は凸曲線をなす刃にしてもよい。
図1の穴あけ工具1は、マージン部7によって工具の摩耗による外径減少が抑制され、加工の安定性の長期維持が可能となる。また、一方で、CFRP材の加工では粉状の切屑が生成されるため、連続したマージン部が外周にあるとそのマージン部と加工した穴の穴壁面との間に切屑が詰まりやすくなって穴壁面のむしれなどが起こるが、マージン部7を長手方向に分断するか又はマージン幅を長手方向の各部において変動させる溝を設けることでその問題は解消される。マージン部に溝が形成されているとマージン部7と穴壁面との間に切屑が詰まり難くなり、繊維強化複合材、特にCFRPの穴あけ加工においては、切屑詰まりとそれに起因した穴壁面のむしれなどが減少して穴壁面の品位低下が抑制される。
図3に、この発明の穴あけ方法の実施の形態を示す。例示の穴あけ方法は、発生する切屑を切屑吸引手段9で強制的に除去しながら加工を進めるものである。図3に示すように、マシニングセンタ10の主軸11に、通常実施されるのと同様に工具ホルダ12を介して穴あけ工具1(第1形態の符号を代表して使用する)を装着し、その後、加工部を覆うカバー14を取り付ける。カバー14は、切屑吸引手段9の構成要素となるものである。切屑吸引手段9は、吸引装置13とカバー14とその両者間を接続するホース15とからなる。カバー14は、マシニングセンタ10に取り付ける固定カバー14aの下部に軸方向相対スライドが可能な筒状の可動カバー14bを有しており、その可動カバー14bが工具に先行して被削材Wの上面に押し当てられ、この状態で主軸11がさらに降下して穴あけ工具1による穴あけがなされる。従って、加工中は常時加工部がカバー14に囲われ、発生した切屑が強制的に吸引除去されることになる。
以下に、より詳細な実施例を挙げる。
−実施例1−
この発明の工具の代替品として先に説明した図2の穴あけ工具(参考形態)を準備した。この図2の工具は、回転中心刃部の構成が発明品とは異なるが、外周刃部は図1の発明品と殆ど差が無く、また、被削材に喰いつく回転中心刃部の先端角は発明品のように広がっているため、発明品と同等の効果を有すると考えられる。
比較のために、ツイストドリルも準備した。これらの工具の詳細を表1に示す。工具の材質は、JIS Z20種超硬合金であり、一部の工具には、物理蒸着法で合成した非晶質炭素(DLC)被膜と気相合成法で合成したダイヤモンド被膜を表面に設けている。
比較例のツイストドリルは、先端角140°で、直線の切れ刃を有する一般的な形状のドリルである。一方、参考形態の工具の中間刃部の先端角は100°、回転中心刃部の曲率半径はr=2mmとした。また、回転中心刃部の径方向に占める範囲はB=0.8mmとした。切れ刃の稜線はホーニング処理をせずに鋭利な状態にした。各工具の直径はφ6mmである。
加工対象の材料(被削材)はCFRPの板材であり、その板材の面内方向に炭素繊維で補強したプリプレグを8層重ねて接合し、全体の厚みを2.78mmにしている。
このCFRP材に、上記の各工具を用いて穴あけを行った。このときの加工条件は、切削速度90m/min、1刃当たりの工具送り量f=0.03mm/tooth、ドライ方式での貫通穴加工とした。
加工した穴の1穴目および100穴目の穴出口におけるバリ(毛羽立ち)の最大長さ、工具最外周部の逃げ面の摩耗量を表1に併せて示す。
この表1のデータから、図2の工具は比較例のドリルに対して、加工品位、耐摩耗性のいずれにおいても勝っていることがわかる。最外周刃部の先端角については、試料2と3の比較から、45°以下であることが望ましい。また、最外周刃部が径方向に占める範囲については、試料4と5の比較から、A/Dが0.03以上であることが望ましい。
なお、最外周刃部の先端角が小さいほど、あるいは径方向に占める範囲が大きいほど加工品位の面では有利になるが、最外周刃部の軸方向長さCが長くなり、所定径に貫通するまでに必要な加工時間も長く成りすぎる。最外周刃部が半径方向に占める範囲Aについては大きくても工具半径の半分(すなわちA/D=0.14)程度にとどめるべきである。最外周刃部の先端角については、例えば、A/Dを好適範囲の中間値である0.14とした場合、5°であればC/Dの値が3強にとどまるため、最外周刃部の先端角は5°以上とすることでおおむね加工時間の増大の問題を回避できると考えられる。
また、工具材質に関しては、DLC被膜やダイヤモンド被膜などの硬質被膜を施した工具で特に優れた摩耗抑制の効果が確認できる。その効果により、100穴目の穴のバリ長さが短くなり、長い期間にわたって高加工品位を維持できることがわかる。
−実施例2−
次に、加工時の工具送り量の加工品位に及ぼす影響を確認する試験を行った。ここでは、実施例1と同じ穴あけ工具を使用し、1刃当たりの送り量を変化させて加工して得られた穴の性状を比較した。加工の条件も含めて他の条件は実施例1と同じにした。試験結果を表2に示す。
表2からわかるように、工具送り量が増すにつれて加工品位は低下傾向を示す。従って、この発明の穴あけ工具を用いた繊維強化複合材の穴あけ方法としては、1刃当たりの工具送り量fを0.03mm/tooth以下にして加工を行うことが望まれる。
−実施例3−
CFRPの板材を重ねた被削材に穴あけを行って切れ刃の先端中心部(回転中心刃部)の形状が加工に及ぼす影響を評価した。この試験には、図1、図2の形態の穴あけ工具を使用した。工具の材質は、JIS Z20種の超硬合金である。また、切れ刃の稜線はホーニング処理が施されておらず、鋭利な状態になっている。工具の外径はφ6mmである。図2の穴あけ工具については、回転中心刃部の半径rを変化させ、工具半径に占める領域Bを0.7mm、中間刃部の先端角を100°、最外周刃部の先端角を25°、最外周刃部の工具半径に占める領域A=0.6mmとした。図1の穴あけ工具は、回転中心刃部を直線で形成した。この点を除いて他の構成は図2の工具と同じにした。また、回転中心刃部の先端角は160°とした。比較例の工具は汎用のツイストドリルである。
被削材は実施例1,2で用いたものと同様のCFRPの板材である。この板材を5枚
接着せずに重ね合わせて加工テーブル上にクランプし、試料の工具で貫通穴の加工を行った。そして、加工中の切削抵抗(スラスト力)を測定し、全板材を加工し終える間のスラ
スト力の変動幅(その最大値)を調べた。また、加工中の様子をビデオカメラで撮影し、加工中に板材が浮き上がる現象の有無を検証した。加工条件は実施例1と同じである。その結果を表3に示す。
この試験結果から切れ刃の回転中心刃部の曲率半径が大きいほど切削抵抗の変動幅が小さく、板材の浮き上がり抑制されることがわかる。また、加工例8の結果から、切れ刃の回転中心刃部が、切れ刃の軌跡を表す図において直線をなしていても、同部の先端角を大きくすることで同様の効果が得られることがわかる。
図3に示すように、切屑吸引手段9を用い、発生する切屑を吸引しながらの加工も行ったところ、加工穴の穴壁面のむしれは目視確認が困難なレベルにまで小さくなり、切屑の強制除去が加工品位をさらに向上させるのに有効であることも確認された。
なお、この発明は、上記の実施例に限定されるものではない。
1 穴あけ工具
2 本体部
3 シャンク
4 切れ刃
4a 回転中心刃部
4b 中間刃部
4c 最外周刃部
5 ねじれ溝
6 ランド部
7 マージン部
8 溝
9 切屑吸引手段
10 マシニングセンタ
11 主軸
12 工具ホルダ
13 吸引装置
14 カバー
14a 固定カバー
14b 可動カバー
15 ホース
r 回転中心刃部の曲率半径
A 最外周刃部の径方向範囲
B 回転中心刃部の径方向範囲
C 最外周刃部の軸方向寸法
D 穴あけ工具の直径
W 被削材

Claims (6)

  1. 補強繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化複合材の穴あけに用いる回転切削式の穴あけ工具であって、本体部(2)の先端に回転中心から外周に至る回転中心対称の切れ刃(4)を有し、その切れ刃(4)が、少なくとも回転中心刃部(4a)とその回転中心刃部(4a)の外端に順に連なる中間刃部(4b)及び最外周刃部(4c)の3部によって構成され、前記最外周刃部(4c)が直線形状をなし、各刃部の先端角が、回転中心側から外周側の刃部にかけて段階的に減少しており、
    前記回転中心刃部(4a)を、切れ刃の軌跡を表す図において直線形状にし、その回転中心刃部(4a)に140°以上、170°以下の先端角(θ1)を付与し、
    前記最外周刃部(4c)の先端角を5°以上、45°以下にしたことを特徴とする繊維強化複合材の穴あけ工具。
  2. 前記最外周刃部(4c)が切れ刃の軌跡を表す図において工具半径に占める領域をA、穴あけ工具の直径をDとして、その両者の比A/Dを、0.03以上、0.14以下にした請求項1に記載の繊維強化複合材の穴あけ工具。
  3. 本体部(2)を含めた基部をWC基超硬合金で形成して表面に硬質炭素膜を設けた請求項1又は2に記載の繊維強化複合材の穴あけ工具。
  4. 補強繊維とマトリックス樹脂を含む繊維強化複合材に、請求項1〜3のいずれかに記載の穴あけ工具(1)を用いて穴あけ加工を行う繊維強化複合材の穴あけ方法であって、穴あけ時の工具の1刃当たりの送り量fを、0.03mm以下にして加工を行う繊維強化複合材の穴あけ方法。
  5. 切屑吸引手段(9)を用いて穴あけ時に発生する切屑を吸引しながら穴あけ加工を行う請求項4に記載の繊維強化複合材の穴あけ方法。
  6. 前記繊維強化複合材が炭素繊維強化プラスチックスであり、この炭素繊維強化プラスチックスに貫通穴をあける請求項4又は5に記載の繊維強化複合材の穴あけ方法。
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