しかしながら、植物由来の材料を炭化処理する技術は十分とは云えず、製造された炭素材料には、機能性の一層の向上が望まれている。また、植物由来の炭素材料をリチウムイオン二次電池といった電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いた場合、十分な特性が得られているとは云い難い。そのため、電気化学デバイスに用いる場合、より良い特性を発揮する炭素材料が強く望まれている。更には、腎疾患や肝疾患における経口投与吸着剤のための多孔質炭素材料の開発や、人体に悪影響を及ぼす蛋白質やウイルスの吸着を目的とした、あるいは又、より一層、吸着性能に優れた医療用吸着剤としての多孔質炭素材料の開発、薬剤放出速度を適切に制御し得る担持体としての使用に適した多孔質炭素材料の開発が強く望まれている。
従って、本発明の目的は、機能性が高く、例えば、リチウムイオン二次電池といった電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いた場合、優れた特性が得られ、また、吸着性能や薬剤放出性能に優れた多孔質炭素材料及びその製造方法、並びに、吸着剤、マスク、吸着シート及び担持体を提供することにある。
上記の目的を達成するための本発明の多孔質炭素材料は、ケイ素(Si)の含有率が5重量%以上である植物由来の材料を原料とし、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である。
本発明の多孔質炭素材料においては、限定するものではないが、マグネシウム(Mg)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カリウム(K)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カルシウム(Ca)の含有率が0.05重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
上記の目的を達成するための植物由来の材料を原料とした本発明の多孔質炭素材料の製造方法は、植物由来の材料を800゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸又はアルカリで処理する。
ここで、炭素化とは、一般に、有機物質(本発明においては、植物由来の材料)を熱処理して炭素質物質に変換することを意味する(例えば、JIS M0104−1984参照)。尚、炭素化のための雰囲気として、酸素を遮断した雰囲気を挙げることができ、具体的には、真空雰囲気、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とする雰囲気を挙げることができる。炭素化温度に至るまでの昇温速度として、係る雰囲気下、1゜C/分以上、好ましくは3゜C/分以上、より好ましくは5゜C/分以上を挙げることができる。また、炭素化時間の上限として、10時間、好ましくは7時間、より好ましくは5時間を挙げることができるが、これに限定するものではない。炭素化時間の下限は、植物由来の材料が確実に炭素化される時間とすればよい。また、植物由来の材料を、所望に応じて粉砕して所望の粒度としてもよいし、更には、分級してもよい。また、植物由来の材料を予め洗浄してもよい。
本発明の多孔質炭素材料の製造方法においては、酸又はアルカリでの処理の後、賦活処理を施す形態とすることで、孔径が2nmよりも小さいマイクロ細孔(後述する)を増加させることができる。賦活処理の方法として、ガス賦活法、薬品賦活法を挙げることができる。ここで、ガス賦活法とは、賦活剤として酸素や水蒸気、炭酸ガス、空気等を用い、係るガス雰囲気下、700゜C乃至1000゜Cにて、数十分から数時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させる方法である。尚、加熱温度は、植物由来の材料の種類、ガスの種類や濃度等に基づき、適宜、選択すればよいが、好ましくは、800゜C以上950゜C以下である。薬品賦活法とは、ガス賦活法で用いられる酸素や水蒸気の替わりに、塩化亜鉛、塩化鉄、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸等を用いて賦活させ、塩酸で洗浄、アルカリ性水溶液でpHを調整し、乾燥させる方法である。
上記の好ましい形態を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、酸又はアルカリでの処理によって、炭素化後の植物由来の材料中のケイ素成分を除去する。ここで、ケイ素成分として、二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素酸化物を挙げることができる。
上記の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、植物由来の材料におけるケイ素(Si)の含有率は5重量%以上であり、多孔質炭素材料の窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上である構成とすることができる。そして、これらの好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、多孔質炭素材料におけるマグネシウム(Mg)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カリウム(K)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カルシウム(Ca)の含有率が0.05重量%以上3重量%以下であることが好ましい。更には、以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料の製造方法にあっては、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料を炭素化する前に、炭素化のための温度よりも低い温度(例えば、400゜C〜700゜C)にて、酸素を遮断した状態で植物由来の材料に加熱処理(予備炭素化処理)を施すことが好ましい。これによって、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を抽出することが出来る結果、炭素化の過程において生成するであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。尚、酸素を遮断した状態は、例えば、窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気とすることで、あるいは又、真空雰囲気とすることで、あるいは又、植物由来の材料を一種の蒸し焼き状態とすることで達成することができる。あるいは又、使用する植物由来の材料にも依るが、植物由来の材料中に含まれるミネラル成分や水分を減少させるために、また、炭素化の過程での異臭の発生を防止するために、植物由来の材料を炭素化する前に、植物由来の材料をアルコール(例えば、メチルアルコールやエチルアルコール、イソプロピルアルコール)に浸漬することが好ましい。尚、その後、予備炭素化処理を実行してもよい。不活性ガス中で加熱処理を施すことが好ましい材料として、例えば、木酢液(タールや軽質油分)を多く発生する植物を挙げることができる。また、アルコールによる前処理を施すことが好ましい材料として、例えば、ヨウ素や各種ミネラルを多く含む海藻類を挙げることができる。
以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料あるいはその製造方法において、植物由来の材料として、米(稲)、大麦、小麦、ライ麦、稗(ヒエ)、粟(アワ)等の籾殻や藁、あるいは又、葦、茎ワカメを挙げることができるが、これらに限定するものではなく、その他、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類、海草を挙げることができる。尚、これらの材料を、原料として、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、植物由来の材料の形状や形態も特に限定はなく、例えば、籾殻や藁そのものでもよいし、あるいは乾燥処理品でもよい。更には、ビールや洋酒等の飲食品加工において、発酵処理、焙煎処理、抽出処理等の種々の処理を施されたものを使用することもできる。特に、産業廃棄物の資源化を図るという観点から、脱穀等の加工後の藁や籾殻を使用することが好ましい。これらの加工後の藁や籾殻は、例えば、農業協同組合や酒類製造会社、食品会社から、大量、且つ、容易に入手することができる。
以上に説明した各種の好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料あるいはその製造方法を総称して、以下の説明においては、単に、『本発明』と呼ぶ。また、以上に説明した好ましい形態、構成を含む本発明の多孔質炭素材料あるいはその製造方法によって得られた多孔質炭素材料を総称して、単に、『本発明における多孔質炭素材料』と呼ぶ。更には、植物由来の材料を800゜C乃至1400゜Cにて炭素化することにより得られた材料であって、酸又はアルカリでの処理を行う前の材料を、『多孔質炭素材料前駆体』あるいは『炭素質物質』と呼ぶ。
本発明における多孔質炭素材料には、リン(P)あるいは硫黄(S)等の非金属元素や、遷移元素等の金属元素が含まれていてもよい。リン(P)の含有率として0.01重量%以上3重量%以下、硫黄(S)の含有率として0.01重量%以上3重量%以下を挙げることができる。尚、これらの元素や上述したマグネシウム(Mg)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)の含有率は、多孔質炭素材料の使用用途によって異なるが、比表面積の値の増加といった観点からは、少ない方が好ましい。多孔質炭素材料には、上記した元素以外の元素を含んでいてもよく、上記した各種元素の含有率の範囲も、多孔質炭素材料の使用用途によって変更し得ることは云うまでもない。
本発明において、各種元素の分析は、例えば、エネルギー分散型X線分析装置(例えば、日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により行うことができる。ここで、測定条件を、例えば、走査電圧15kV、照射電流13μAとすればよい。
リチウムイオン二次電池といった電池や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いた場合、容量及びサイクル特性等の特性を向上させるといった観点から、多孔質炭素材料には、リン(P)や硫黄(S)が含まれていることが好ましい。例えば、本発明における多孔質炭素材料をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、多孔質炭素材料がリン(P)を含むことにより、高いリチウムドープ量を得ることができる結果、電池容量の向上を図ることができる。また、本発明における多孔質炭素材料が硫黄(S)を含むことにより、電解液の分解が抑制され、サイクル特性や高温特性の向上を図ることができる。
本発明における多孔質炭素材料を、体内の様々な不要な分子を選択的に吸着するために用いることができる。即ち、本発明における多孔質炭素材料を、疾患の治療及び予防に有用な医薬内服薬等の経口投与吸着剤あるいは医療用吸着剤として用いることができる。具体的には、本発明における多孔質炭素材料を経口投与吸着剤あるいは医療用吸着剤の分野に適用する場合、本発明の吸着剤として、例えば、本発明における多孔質炭素材料から成り、クレアチニンを吸着する吸着剤、アリザリンシアニングリーンを吸着する吸着剤、リゾチームを吸着する吸着剤、アルブミンを吸着する吸着剤、数平均分子量が1×103乃至1×104の有機物(例えば、有機分子、若しくは、蛋白質)を吸着する吸着剤を挙げることができる。あるいは又、本発明における多孔質炭素材料を、血液浄化カラム用の充填剤(吸収剤)として用いることができる。更には、例えば、花粉症対策マスクといった各種のマスクにおける吸着剤に、本発明における多孔質炭素材料を適用することができ、例えば、蛋白質を吸着することができる。即ち、本発明のマスクは、本発明における多孔質炭素材料から成る吸着剤を備えている形態とすることができる。あるいは又、吸着シートに本発明における多孔質炭素材料を適用することができる。即ち、本発明の吸着シートは、本発明における多孔質炭素材料から成るシート状部材、並びに、シート状部材を支持する支持部材から成る形態とすることができる。あるいは又、本発明における多孔質炭素材料を、水を浄化する水浄化用吸着剤に用いることもできる。尚、本発明における多孔質炭素材料の表面に対して、化学処理又は分子修飾を行ってもよい。化学処理として、例えば、硝酸処理により表面にカルボキシル基を生成させる処理を挙げることができる。また、水蒸気、酸素、アルカリ等による賦活処理と同様の処理を行うことにより、多孔質炭素材料の表面に水酸基、カルボキシル基、ケトン基、エステル基等、種々の官能基を生成させることもできる。更には、多孔質炭素材料と反応可能な水酸基、カルボキシル基、アミノ基等を有する化学種又は蛋白質とを化学反応させることでも、分子修飾が可能である。
また、薬剤を担持するための本発明の担持体を、本発明における多孔質炭素材料から構成することができる。即ち、本発明における多孔質炭素材料を100重量部としたとき、1重量部乃至200重量部の薬剤を、本発明における多孔質炭素材料に吸着、担持させることにより、薬剤を放出可能な複合体(薬剤放出速度を適切に制御し得る薬剤/担持体の複合体)を得ることができる。ここで、係る薬剤/担持体の複合体(薬剤放出剤)は、本発明における多孔質炭素材料、及び、薬剤から成り、多孔質炭素材料と薬剤の重量割合は、本発明における多孔質炭素材料を100重量部としたとき、薬剤が1重量部乃至200重量部である形態とすることができる。
本発明における多孔質炭素材料に吸着、担持させる薬剤として、有機分子、ポリマー分子、蛋白質を挙げることができる。具体的には、例えば、ペントキシフィリン、プラゾシン、アシクロビル、ニフェジピン、ジルチアゼム、ナプロキセン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、インドメタシン、ジクロフェナク、フェンチアザック、吉草酸エストラジオール、メトプロロール、スルピリド、カプトプリル、シメチジン、ジドブジン、ニカルジピン、テルフェナジン、アテノロール、サルブタモール、カルバマゼピン、ラニチジン、エナラプリル、シムバスタチン、フルオキセチン、アルプラゾラム、ファモチジン、ガンシクロビル、ファムシクロビル、スピロノラクトン、5−asa、キニジン、ペリンドプリル、モルフィン、ペンタゾシン、パラセタモール、オメプラゾール、メトクロプラミド、アスピリン、メトフォルミンを挙げることができるし、全身性及び局所性の治療の観点から、各種のホルモン(例えば、インスリン、エストラジオール等)、喘息の治療薬(例えば、アルブテロール等)、結核の治療薬(例えば、リファンピシン、エタンブトール、ストレプトマイシン、イソニアジド、ピラジンアミド等)、癌の治療薬(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、アドリアマイシン、5−FU、パクリタキセル等)、高血圧の治療薬(例えば、クロニジン、プラゾシン、プロプラノロール、ラベタロール、ブニトロロール、レセルピン、ニフェジピン、フロセミド等)を挙げることができるが、これらに限定するものではない。そして、これらの薬剤を溶解可能な有機溶剤に溶解し、その溶液中に本発明における多孔質炭素材料を浸漬し、次いで、溶媒及び余分な溶質を除去することで、多孔質炭素材料/薬剤の複合体を得ることができる。具体的な溶媒として、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、2−クロロメタン、1−クロロメタン、へキサン、テトラヒドロフラン、ピリジン等を挙げることができる。
本発明における多孔質炭素材料は、細孔(ポア)を多く有している。細孔として、孔径が2nm乃至50nmの『メソ細孔』、及び、孔径が2nmよりも小さい『マイクロ細孔』が含まれる。具体的には、メソ細孔として、例えば、20nm以下の孔径の細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径の細孔を多く含んでいる。また、マイクロ細孔として、例えば、孔径が1.9nm程度の細孔と、1.5nm程度の細孔と、0.8nm〜1nm程度の細孔とを多く含んでいる。本発明における多孔質炭素材料にあっては、BJH法及びMP法による細孔の容積は0.1cm3/グラム以上であるが、0.3cm3/グラム以上であることが一層好ましい。
本発明における多孔質炭素材料において、窒素BET法による比表面積の値(以下、単に、『比表面積の値』と呼ぶ場合がある)は、より一層優れた機能性を得るために、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上であることが望ましい。例えば、本発明における多孔質炭素材料をリチウムイオン二次電池といった電池(非水電解液二次電池)や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いる場合、比表面積の値を、10m2/グラム、好ましくは50m2/グラム以上、より好ましくは100m2/グラム以上とすることによって、充放電の際に多孔質炭素材料と電解液との界面に形成される電気二重層の面積が十分に大きくなるので、高い容量を得ることができる。その一方で、比表面積の値を1500m2/グラム以下とすれば、多孔質炭素材料の表面に存在する官能基による不可逆な電気化学反応を抑制することができる結果、充放電効率を向上させることができる。
窒素BET法とは、吸着剤(ここでは、多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより吸着等温線を測定し、測定したデータを式(1)で表されるBET式に基づき解析する方法であり、この方法に基づき比表面積や細孔容積等を算出することができる。具体的には、窒素BET法により比表面積の値を算出する場合、先ず、吸着剤(多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、吸着等温線を求める。そして、得られた吸着等温線から、式(1)あるいは式(1)を変形した式(1’)に基づき[p/{Va(p0−p)}]を算出し、平衡相対圧(p/p0)に対してプロットする。そして、このプロットを直線と見なし、最小二乗法に基づき、傾きs(=[(C−1)/(C・Vm)])及び切片i(=[1/(C・Vm)])を算出する。そして、求められた傾きs及び切片iから式(2−1)、式(2−2)に基づき、Vm及びCを算出する。更には、Vmから、式(3)に基づき比表面積asBETを算出する(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第66頁参照)。尚、この窒素BET法は、JIS R 1626−1996「ファインセラミックス粉体の気体吸着BET法による比表面積の測定方法」に準じた測定方法である。
Va=(Vm・C・p)/[(p0−p){1+(C−1)(p/p0)}] (1)
[p/{Va(p0−p)}]
=[(C−1)/(C・Vm)](p/p0)+[1/(C・Vm)] (1’)
Vm=1/(s+i) (2−1)
C =(s/i)+1 (2−2)
asBET=(Vm・L・σ)/22414 (3)
但し、
Va:吸着量
Vm:単分子層の吸着量
p :窒素の平衡時の圧力
p0:窒素の飽和蒸気圧
L :アボガドロ数
σ :窒素の吸着断面積
である。
窒素BET法により細孔容積Vpを算出する場合、例えば、求められた吸着等温線の吸着データを直線補間し、細孔容積算出相対圧で設定した相対圧での吸着量Vを求める。この吸着量Vから式(4)に基づき細孔容積Vpを算出することができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第62頁〜第65頁参照)。尚、窒素BET法に基づく細孔容積を、以下、単に『細孔容積』と呼ぶ場合がある。
Vp=(V/22414)×(Mg/ρg) (4)
但し、
V :相対圧での吸着量
Mg:窒素の分子量
ρg:窒素の密度
である。
メソ細孔の孔径は、例えば、BJH法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。BJH法は、細孔分布解析法として広く用いられている方法である。BJH法に基づき細孔分布解析をする場合、先ず、吸着剤(多孔質炭素材料)に吸着分子として窒素を吸脱着させることにより、脱着等温線を求める。そして、求められた脱着等温線に基づき、細孔が吸着分子(例えば窒素)によって満たされた状態から吸着分子が段階的に着脱する際の吸着層の厚さ、及び、その際に生じた孔の内径(コア半径の2倍)を求め、式(5)に基づき細孔半径rpを算出し、式(6)に基づき細孔容積を算出する。そして、細孔半径及び細孔容積から細孔径(2rp)に対する細孔容積変化率(dVp/drp)をプロットすることにより細孔分布曲線が得られる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第85頁〜第88頁参照)。
rp=t+rk (5)
Vpn=Rn・dVn−Rn・dtn・c・ΣApj (6)
但し、
Rn=rpn 2/(rkn−1+dtn)2 (7)
ここで、
rp:細孔半径
rk:細孔半径rpの細孔の内壁にその圧力において厚さtの吸着層が吸着した場合のコア半径(内径/2)
Vpn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔容積
dVn:そのときの変化量
dtn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの吸着層の厚さtnの変化量
rkn:その時のコア半径
c:固定値
rpn:窒素の第n回目の着脱が生じたときの細孔半径
である。また、ΣApjは、j=1からj=n−1までの細孔の壁面の面積の積算値を表す。
マイクロ細孔の孔径は、例えば、MP法に基づき、その孔径に対する細孔容積変化率から細孔の分布として算出することができる。MP法により細孔分布解析を行う場合、先ず、吸着剤(多孔質炭素材料)に窒素を吸着させることにより、吸着等温線を求める。そして、この吸着等温線を吸着層の厚さtに対する細孔容積に変換する(tプロットする)。そして、このプロットの曲率(吸着層の厚さtの変化量に対する細孔容積の変化量)に基づき細孔分布曲線を得ることができる(日本ベル株式会社製BELSORP−mini及びBELSORP解析ソフトウェアのマニュアル、第72頁〜第73頁、第82頁参照)。
多孔質炭素材料前駆体を酸又はアルカリで処理するが、具体的な処理方法として、例えば、酸あるいはアルカリの水溶液に多孔質炭素材料前駆体を浸漬する方法や、多孔質炭素材料前駆体と酸又はアルカリとを気相で反応させる方法を挙げることができる。より具体的には、酸によって処理する場合、酸として、例えば、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム等の酸性を示すフッ素化合物を挙げることができる。フッ素化合物を用いる場合、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分におけるケイ素元素に対してフッ素元素が4倍量となればよく、フッ素化合物水溶液の濃度は10重量%以上であることが好ましい。フッ化水素酸によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、二酸化ケイ素は、化学式(1)又は化学式(2)に示すようにフッ化水素酸と反応し、ヘキサフルオロケイ酸(H2SiF6)あるいは四フッ化ケイ素(SiF4)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
SiO2+6HF → H2SiF6+2H2O (1)
SiO2+4HF → SiF4+2H2O (2)
また、アルカリ(塩基)によって処理する場合、アルカリとして、例えば、水酸化ナトリウムを挙げることができる。アルカリの水溶液を用いる場合、水溶液のpHは11以上であればよい。水酸化ナトリウム水溶液によって、多孔質炭素材料前駆体に含まれるケイ素成分(例えば、二酸化ケイ素)を除去する場合、水酸化ナトリウム水溶液を熱することにより、二酸化ケイ素は、化学式(3)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。また、水酸化ナトリウムを気相で反応させて処理する場合、水酸化ナトリウムの固体を熱することにより、化学式(3)に示すように反応し、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)として除去され、多孔質炭素材料を得ることができる。そして、その後、洗浄、乾燥を行えばよい。
SiO2+2NaOH → Na2SiO3+H2O (3)
本発明における多孔質炭素材料において、植物由来の材料にはケイ素が5重量%以上含まれるが、植物由来の材料を800゜C乃至1400゜Cにて炭素化することで多孔質炭素材料前駆体あるいは炭素質物質に変換する際、このような範囲内の温度での炭素化を行うことにより、植物由来の材料中に含まれるケイ素が、炭化ケイ素(SiC)とはならずに、二酸化ケイ素(SiOx)や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)となる。それ故、次の工程において酸又はアルカリ(塩基)で処理することにより二酸化ケイ素や酸化ケイ素、酸化ケイ素塩といったケイ素成分(ケイ素酸化物)が除去される結果、大きな窒素BET法による比表面積の値を得ることができる。また、この範囲内の温度で炭素化することにより、難黒鉛性炭素となり、電気化学デバイスに用いた場合に優れたサイクル特性を得ることができる。
また、本発明における多孔質炭素材料にあっては、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上であり、ケイ素の含有率が1重量%以下、BJH法及びMP法による細孔の容積が0.1cm3/グラム以上であるので、優れた機能性が得られる。そして、これにより、本発明の多孔質炭素材料を、例えば、リチウムイオン二次電池といった電池(非水電解液二次電池)や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いた場合、優れた特性が得られる。また、本発明の多孔質炭素材料の製造方法によれば、同様に優れた機能性が得られ、例えば、リチウムイオン二次電池といった電池(非水電解液二次電池)や電気二重層キャパシタ等の電気化学デバイスに用いた場合、優れた特性が得られる。更には、例えば、経口投与吸着剤のための多孔質炭素材料として、また、蛋白質やウイルスの吸着を目的とした多孔質炭素材料として、また、薬剤放出速度を適切に制御し得る薬剤放出剤を構成する多孔質炭素材料として、また、マスクにおける吸着剤、吸着シートにおける吸着剤として、本発明における多孔質炭素材料は最適である。
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
実施例1は、本発明の多孔質炭素材料に関する。実施例1にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を米(稲)の籾殻とした。そして、実施例1の多孔質炭素材料は、原料としての籾殻を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。
実施例1の多孔質炭素材料の製造においては、先ず、粉砕した籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)に対して、不活性ガス中で加熱処理(予備炭素化処理)を施す。具体的には、籾殻を、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温させた。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。そして、最後に乾燥させることにより、実施例1の多孔質炭素材料を得ることができた。
比較例1として、酸処理を行わなかった点を除き、実施例1と同じ原料を用い、実施例1と同様の方法に基づき多孔質炭素材料を得た。
実施例1及び比較例1の多孔質炭素材料について、比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。また、実施例1及び比較例1の多孔質炭素材料について、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径の分布を測定したところ、図1の(A)及び(B)に示す結果が得られた。
比表面積及び細孔容積を求めるための測定機器として、BELSORP−mini(日本ベル株式会社製)を用い、窒素吸脱着試験を行った。測定条件として、測定平衡相対圧(p/p0)を0.01〜0.95とした。そして、BELSORP解析ソフトウェアに基づき、比表面積及び細孔容積を算出した。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布は、上述した測定機器を用いた窒素吸脱着試験を行い、BELSORP解析ソフトウェアによりBJH法及びMP法に基づき算出した。尚、後述する実施例、比較例、参考例においても、比表面積及び細孔容積、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布の測定を同様の方法で行った。
表1に示すように、酸処理を行った実施例1の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量は、酸処理を行わなかった比較例1の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量と比較して著しく大きく、比表面積の値は400m2/グラム以上、細孔容積の値は0.1cm3/グラム以上であった。また、図1の(A)に示すように、実施例1の多孔質炭素材料にあっては、比較例1の多孔質炭素材料と比較して、20nm以下の孔径のメソ細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径のメソ細孔を多く含むことが判った。更には、図1の(B)に示すように、実施例1の多孔質炭素材料にあっては、比較例1の多孔質炭素材料と比較して、孔径が1.9nm程度のマイクロ細孔、1.5nm程度のマイクロ細孔、及び、0.8nm〜1nm程度のマイクロ細孔を多く含むことが判った。
また、実施例1及び比較例1の多孔質炭素材料について元素分析を行ったところ、表2に示す結果が得られた。尚、元素分析の測定機器としてエネルギー分散型X線分析装置(日本電子株式会社製のJED−2200F)を用い、エネルギー分散法(EDS)により各元素を定量した後、含有率を重量比(重量%)として算出した。測定条件を、走査電圧15kV、照射電流13μAとした。以下の実施例、比較例においても同様とした。
表2に示すように、酸処理を行った実施例1の多孔質炭素材料においては、酸処理を行わなかった比較例1の多孔質炭素材料よりも、ケイ素(Si)、酸素(O)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)及びナトリウム(Na)の含有率が減少していた。中でも、ケイ素(Si)及び酸素(O)の含有率が、実施例1においては、比較例1より著しく減少し、1重量%以下となっていた。また、リン(P)及び硫黄(S)の含有率は、実施例1の方が、比較例1よりも増加していた。このことから、籾殻を原料として800゜C〜1400゜Cにて炭素化した後、酸での処理を行うことにより製造された多孔質炭素材料にあっては、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、マグネシウム(Mg)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カリウム(K)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カルシウム(Ca)の含有率が0.05重量%以上3重量%以下となることが確認された。また、リン(P)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、硫黄(S)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下となることも確認された。尚、その他の元素として、元素の種類を示していないが、炭素(C)が最も多く、その他の元素の内の90%以上が炭素(C)であった。ここで、ケイ素はアモルファスシリカ成分として籾殻に含まれており、原料である籾殻中のケイ素の含有率は、9.4重量%であった。
また、実施例1の多孔質炭素材料は、比較例1の多孔質炭素材料よりもケイ素(Si)及び酸素(O)の含有率が著しく減少していたことから、また、比較例1の分析結果からも、二酸化ケイ素が炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に多く含まれていたことが示唆された。そして、多孔質炭素材料前駆体を酸で処理することにより、含まれる二酸化ケイ素といったケイ素成分が除去され、比表面積の値の増加に寄与することが示唆された。更には、酸での処理によって、メソ細孔及びマイクロ細孔が増加することが確認された。後述する実施例においても同様である。また、フッ化水素酸水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液といったアルカリ(塩基)にて処理して得られた多孔質炭素材料においても、同様の結果が得られた。
実施例2は実施例1の変形である。実施例2にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲の藁(鹿児島産;イセヒカリ)とした。実施例2の多孔質炭素材料は、原料としての藁を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。尚、多孔質炭素材料の製造方法を、実施例1と同様とした。また、比較例2として、酸処理を行わなかった点を除き、実施例2と同じ材料を原料として用い、実施例1と同様の方法に基づき多孔質炭素材料を得た。
実施例2及び比較例2の多孔質炭素材料について比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布を測定したところ、図2の(A)及び(B)に示す結果が得られた。
表1に示すように、酸処理を行った実施例2の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量は、酸処理を行わなかった比較例2の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量と比較して著しく大きくなり、比表面積の値は100m2/グラム以上、細孔容積の値は0.1cm3/グラム以上となることが判った。また、図2の(A)に示すように、実施例2の多孔質炭素材料にあっては、比較例2の多孔質炭素材料と比較して、20nm以下の孔径のメソ細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径のメソ細孔を多く含むことが判った。更には、図2の(B)に示すように、実施例2の多孔質炭素材料にあっては、比較例2の多孔質炭素材料と比較して、孔径が1.9nm程度のマイクロ細孔、1.5nm程度のマイクロ細孔、及び、0.8nm〜1nm程度のマイクロ細孔を多く含むことが判った。
また、実施例2及び比較例2の多孔質炭素材料について元素分析を行ったところ、表2に示す結果が得られた。
表2に示すように、酸処理を行った実施例2の多孔質炭素材料においては、酸処理を行わなかった比較例2の多孔質炭素材料よりも、ケイ素(Si)、酸素(O)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)及びナトリウム(Na)の含有率が減少していた。中でも、ケイ素(Si)及び酸素(O)の含有率が、実施例2においては、比較例2より著しく減少し、1重量%以下となっていた。また、リン(P)、硫黄(S)及びカルシウム(Ca)の含有率は、実施例2の方が、比較例2よりも増加していた。このことから、藁を原料として800゜C〜1400゜Cにて炭素化した後、酸で処理することにより製造された多孔質炭素材料にあっても、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、マグネシウム(Mg)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カリウム(K)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カルシウム(Ca)の含有率が0.05重量%以上3重量%以下となることが確認された。また、リン(P)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、硫黄(S)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下となることも確認された。尚、その他の元素として、元素の種類を示していないが、炭素(C)が最も多く、その他の元素の内の90%以上が炭素(C)であった。ここで、ケイ素はアモルファスシリカ成分として藁に含まれており、原料である藁中のケイ素の含有率は、6.8重量%であった。
実施例3も実施例1の変形である。実施例3にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を稲科の葦(横浜市青葉区にて2006年12月に採取した、冬枯れしたもの)とした。実施例3の多孔質炭素材料は、原料としての稲科の葦を炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。尚、多孔質炭素材料の製造方法を、実施例1と同様とした。また、比較例3として、酸処理を行わなかった点を除き、実施例3と同じ原料を用い、実施例1と同様の方法に基づき多孔質炭素材料を得た。
実施例3及び比較例3の多孔質炭素材料について比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布を測定したところ図3の(A)及び(B)に示す結果が得られた。
表1に示すように、酸処理を行った実施例3の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量は、酸処理を行わなかった比較例3の多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容量と比較して著しく大きくなり、比表面積の値は100m2/グラム以上、細孔容積の値は0.1cm3/グラム以上となることが判った。また、図3の(A)に示すように、実施例3の多孔質炭素材料にあっては、比較例3の多孔質炭素材料と比較して、20nm以下の孔径のメソ細孔を多く含み、特に、10nm以下の孔径のメソ細孔を多く含むことが判った。更には、図3の(B)に示すように、実施例3の多孔質炭素材料にあっては、比較例3の多孔質炭素材料と比較して、孔径が1.9nm程度のマイクロ細孔、1.5nm程度のマイクロ細孔、1.3nm程度のマイクロ細孔、及び、0.8nm〜1nm程度のマイクロ細孔を多く含むことが判った。
また、実施例3及び比較例3の多孔質炭素材料について元素分析を行ったところ、表2に示す結果が得られた。
表2に示すように、酸処理を行った実施例3の多孔質炭素材料においては、酸処理を行わなかった比較例3の多孔質炭素材料よりも、ケイ素(Si)及び酸素(O)の含有率が減少していた。中でも、ケイ素(Si)及び酸素(O)の含有率が、実施例3においては、比較例3より著しく減少し、1重量%以下となっていた。また、リン(P)、硫黄(S)、カリウム(K)及びカルシウム(Ca)の含有率は、実施例3の方が、比較例3よりも増加していた。このことから、葦を原料として800゜C〜1400゜Cにて炭素化した後、酸で処理することにより製造された多孔質炭素材料にあっても、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下、マグネシウム(Mg)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カリウム(K)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、カルシウム(Ca)の含有率が0.05重量%以上3重量%以下となることが確認された。また、リン(P)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下、硫黄(S)の含有率が0.01重量%以上3重量%以下となることも確認された。尚、その他の元素として、元素の種類を開示していないが、炭素(C)が最も多く、その他の元素の内の90%以上が炭素(C)であった。ここで、ケイ素はアモルファスシリカ成分として葦に含まれており、原料である葦中のケイ素の含有率は、4.8重量%であった。
実施例4も実施例1の変形である。実施例4にあっては、多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料を茎ワカメ(岩手県三陸産)とした。実施例4の多孔質炭素材料は、原料としての茎ワカメを炭素化して炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換し、次いで、酸処理を施すことで得られる。
具体的には、先ず、例えば、茎ワカメを500゜C程度の温度で加熱し、炭化する。尚、加熱前に、例えば、原料となる茎ワカメをアルコールで処理してもよい。具体的な処理方法として、エチルアルコール等に浸漬する方法が挙げられ、これによって、原料に含まれる水分を減少させると共に、最終的に得られる多孔質炭素材料に含まれる炭素以外の他の元素や、ミネラル成分を溶出させることができる。また、このアルコールでの処理により、炭素化時のガスの発生を抑制することができる。より具体的には、茎ワカメをエチルアルコールに48時間浸漬した。尚、エチルアルコール中では超音波処理を施した。次いで、この茎ワカメを、窒素気流中において500゜C、5時間、加熱することにより炭化させ、炭化物を得た。尚、このような処理(予備炭素化処理)を行うことで、次の炭素化の際に生成されるであろうタール成分を減少あるいは除去することができる。その後、この炭化物の10グラムをアルミナ製の坩堝に入れ、窒素気流中(10リットル/分)において5゜C/分の昇温速度で1000゜Cまで昇温させた。そして、1000゜Cで5時間、炭素化して、炭素質物質(多孔質炭素材料前駆体)に変換した後、室温まで冷却した。尚、炭素化及び冷却中、窒素ガスを流し続けた。次に、この多孔質炭素材料前駆体を46容積%のフッ化水素酸水溶液に一晩浸漬することで酸処理を行った後、水及びエチルアルコールを用いてpH7になるまで洗浄した。そして、最後に乾燥させることにより、実施例4の多孔質炭素材料を得ることができた。
実施例4の多孔質炭素材料について比表面積及び細孔容積を測定したところ、表1に示す結果が得られた。また、メソ細孔及びマイクロ細孔の細孔径分布を測定したところ図4の(A)及び(B)に示す結果が得られた。
表1に示すように、実施例4の多孔質炭素材料の比表面積の値は400m2/グラム以上、細孔容積の値は0.1cm3/グラム以上となることが判った。また、図4の(A)に示すように、実施例4の多孔質炭素材料にあっては、20nm〜25nmの孔径のメソ細孔と、15nm以下の孔径のメソ細孔を多く含んでいることが判った。更には、図4の(B)に示すように、実施例4の多孔質炭素材料にあっては、孔径が1.8nm〜2.0nm程度のマイクロ細孔、1.4nm〜1.6nmのマイクロ細孔、及び、0.5nm〜1nm程度のマイクロ細孔を多く含むことが判った。また、実施例4の多孔質炭素材料について元素分析を行ったところ、表2に示す結果が得られた。
以上に説明したとおり、表1及び表2の結果から、多孔質炭素材料は、原料とする植物の種類に関係なく、800゜C乃至1400゜Cにて炭素化した後、酸で処理することにより、窒素BET法による比表面積の値が10m2/グラム以上になり、ケイ素(Si)の含有率が1重量%以下になることが確認された。
参考のために、各種の多孔質炭素材料の細孔を水銀圧入法にて測定した。具体的には、水銀ポロシメーター(PASCAL440:Thermo Electron社製)を用いて、水銀圧入法測定を行った。細孔測定領域を10μm〜2nmとした。その結果を図5に示す。ここで、各種の多孔質炭素材料の試料は以下の表3に示すとおりである。水銀圧入法により求めた本発明の多孔質炭素材料における細孔容積は、フッ化水素酸水溶液を用いた酸処理(表中では「フッ酸処理」で表す)を施すことで、大きく増加することが確認された。更には、細孔容積は、市販の活性炭(参考例6−1及び参考例6−2であり、これらについては、実施例6において詳述する)よりも大きく、2.2cm3/グラム以上となることが判った。
更には、各種の多孔質炭素材料を粉末X線回折法にて評価した結果を図6に示す。ここで、株式会社リガク製のX線回折装置(RINT−TTRII)を用い、X線源をCu−Kα線とした。尚、波長は0.15405nmである。また、印加電圧を50キロボルト、走査ステップを0.04°とした。粉末X線回折法による解析の結果、回折角2θが25度付近の回折ピーク[(002)面の回折ピーク]の大きさから、市販の活性炭(参考例6−2)よりも、本発明の多孔質炭素材料(表3に示した試料a,試料b,試料e,試料f,試料g,試料h)は、結晶性が高いことが確認された。
ここで、文献 Weibing Xing, J. S. Xue, Tao Zheng, A. Gibaud and J. R. Dahn, J. Electorochem. Soc. Vol. 143, 3482 (1996) を参考に、グラフェンシート量に相関する経験的パラメータであるR値の算出を行った。具体的には、図7に示すように、フィッテイングを行うことによってR値(=B/A)を求め、R値を多孔質炭素材料のグラフェンシート量に相関するとみなした。即ち、R値が大きいほど、多孔質炭素材料の結晶性が大きい(良い)とみなした。尚、図7は、表3に示した試料aの粉末X線回折(XRD)の結果を用いてR値を求める方法を説明する図である。より具体的には、多孔質炭素材料の粉末X線回折法に基づき得られた(002)面の回折ピークのベースラインBLと(002)面の回折ピークから下した垂線NLとの交点における強度(カウント数)を「A値」、(002)面の回折ピークの強度(カウント数)を「B値」としたとき、R値は、
R=B/A
で表すことができる。表4から、本発明の多孔質炭素材料にあっては、R値は、例えば1.5以上、より具体的には1.8以上になることが判った。
次に、実施例5〜実施例8において、実施例1〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料の使用例について説明する。実施例5にあっては、電気化学デバイスをリチウムイオン二次電池とし、負極活物質層を、実施例1〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料から構成する。リチウムイオン二次電池の模式的な断面図を図8に示し、図8に示す巻回電極体の一部の拡大図を図9に示す。
リチウムイオン二次電池にあっては、負極の容量は、電極反応物質であるリチウムの吸蔵及び放出に基づく容量成分により表され、所謂円筒型と呼ばれる電池構造を有している。具体的には、リチウムイオン二次電池にあっては、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、正極21及び負極22がセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20と、一対の絶縁板12,13とが収納されている。電池缶11は、例えば、ニッケルめっきが施された鉄から作製されており、その一端部は閉鎖され、他端部は開放されて開口端部を構成している。一対の絶縁板12,13は、巻回電極体20を挟み、その巻回周面に対して垂直に位置するように配置されている。
電池缶11の開口端部には、電池蓋14と、その内側に設けられた安全弁機構15及び熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料から作製されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されている。安全弁機構15にあっては、内部短絡あるいは外部からの加熱等に起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板15Aが反転することにより、電池蓋14と巻回電極体20との間の電気的接続が切断される構成となっている。熱感抵抗素子16は、温度の上昇に応じて抵抗が増加することにより、電流を制限して大電流に起因する異常な発熱を防止する。ガスケット17は、例えば絶縁材料から構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20の中心には、例えば、センターピン24が挿入されている。この巻回電極体20においては、アルミニウム等から構成された正極リード25が、正極21に接続されており、ニッケル等から構成された負極リード26が、負極22に接続されている。正極リード25は、安全弁機構15に溶接されることにより、電池蓋14と電気的に接続されている。一方、負極リード26は、電池缶11に溶接されている。
正極21にあっては、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aの両面に、正極活物質層21Bが設けられている。尚、正極集電体21Aの片面のみに正極活物質層21Bを設けてもよい。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレス鋼等の金属材料から構成されている。正極活物質層21Bは、例えば、正極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでいる。正極活物質層21Bは、必要に応じて、導電剤や結着剤等を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵及び放出することが可能な正極材料として、例えば、リチウム含有化合物を挙げることができ、これによって、高いエネルギー密度を得ることができる。リチウム含有化合物として、例えば、リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム複合酸化物、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物を挙げることができ、特に遷移金属元素としてコバルト、ニッケル、マンガン及び鉄の内の少なくとも1種を挙げることができ、これによって、より高い電圧が得られる。その化学式は、例えば、LixM1O2あるいはLiyM2PO4で表される。式中、M1及びM2は1種類以上の遷移金属元素を表す。x及びyの値は電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
リチウムと遷移金属元素とを含むリチウム複合酸化物として、例えば、リチウム・コバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウム・ニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物(LixNi(1-z)CozO2(z<1))、リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(LixNi(1-v-w)CovMnwO2(v+w<1))、あるいは、スピネル型構造を有するリチウム・マンガン複合酸化物(LiMn2O4)等を挙げることができるが、中でも、ニッケルを含むリチウム複合酸化物が好ましく、これによって、高い容量が得られると共に、優れたサイクル特性が得られる。また、リチウムと遷移金属元素とを含むリン酸化合物として、例えば、リチウム・鉄・リン酸化合物(LiFePO4)あるいはリチウム・鉄・マンガン・リン酸化合物(LiFe(1-u)MnuPO4(u<1))を挙げることができる。
また、その他、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムあるいは二酸化マンガン等の酸化物や、二硫化鉄、二硫化チタンあるいは硫化モリブデン等の二硫化物、セレン化ニオブ等のカルコゲン化物、硫黄、ポリアニリンあるいはポリチオフェン等の導電性高分子を挙げることができる。
負極22にあっては、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bが設けられている。尚、負極集電体22Aの片面のみに負極活物質層22Bを設けてもよい。負極集電体22Aは、例えば、銅(Cu)、ニッケルあるいはステンレス鋼等の金属材料から構成されている。負極活物質層22Bは、負極活物質として、電極反応物質であるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料を含んでおり、必要に応じて、更には、導電剤や結着剤等を含んでいてもよい。
負極活物質層22Bは、実施例1〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料から構成されている。実施例1〜実施例4の多孔質炭素材料を用いることによって、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なくなり、高いエネルギー密度が得られる。また、リチウムの受け入れ性が高く、リチウムの析出が抑制されるため、放電容量の低下も抑制される。そして、これによって、サイクル特性及び保存特性の向上を図ることができる。尚、負極活物質層22Bは、実施例1〜実施例4の多孔質炭素材料と共に、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料の1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。
導電剤として、例えば、黒鉛、カーボンブラックあるいはケッチェンブラック等の炭素材料を挙げることができる。これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。あるいは又、導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料であってもよいし、導電性高分子等であってもよい。また、結着剤として、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムあるいはエチレンプロピレンジエン等の合成ゴムや、ポリフッ化ビニリデン等の高分子材料を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
リチウムイオン二次電池にあっては、正極活物質と負極活物質の量を調整することにより、正極活物質による充電容量よりも、負極活物質の充電容量の方が大きくなり、完全充電時においても負極22にリチウム金属が析出しない。
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させる。セパレータ23は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンあるいはポリエチレン等から成る合成樹脂製の多孔質膜、又は、セラミック製の多孔質膜から構成されており、これらの2種以上の多孔質膜を積層した構造としてもよく、中でも、ポリオレフィン製の多孔質膜は、短絡防止効果に優れ、且つ、シャットダウン効果によるリチウムイオン二次電池の安全性向上を図ることができるので好ましい。特に、ポリエチレンは、100゜C以上160゜C以下の温度範囲内でシャットダウン効果を得ることができると共に、電気化学的安定性にも優れているので、好ましい材料である。また、ポリプロピレンも好ましく、他にも、化学的安定性を備えた樹脂であれば、ポリエチレンあるいはポリプロピレンと共重合した樹脂や、ブレンド化した樹脂を用いることもできる。セパレータ23には、液状の電解質として電解液が含浸されている。電解液には、溶媒と、溶媒に溶解された電解質塩とが含まれている。
溶媒は、例えば、有機溶剤等の非水溶媒を含有している。非水溶媒として、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド燐酸を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。中でも、溶媒は、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル及び炭酸エチルメチルから成る群から選択された少なくとも1種を含有していることが好ましく、これによって、十分なサイクル特性が得られる。この場合、特に、炭酸エチレンあるいは炭酸プロピレン等の高粘度(高誘電率)溶媒(例えば、比誘電率εが30以上)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルあるいは炭酸ジエチル等の低粘度溶媒(例えば、粘度が1mPa・s以下)との混合物を用いることが好ましく、これによって、電解質塩の解離性及びイオンの移動度が向上するため、より高い効果が得られる。尚、溶媒には、上記した他に、炭酸ビニレンや炭酸フルオロエチレン等が含まれていてもよい。
電解質塩は、例えば、リチウム塩等の軽金属塩の1種あるいは2種以上を含有している。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6H5)4)、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3SO3)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2SiF6)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
電解質塩の含有率は、溶媒に対して0.3モル/kg以上3.0モル/kg以下の範囲内であることが好ましい。この範囲外ではイオン伝導性が極端に低下するため、容量特性等が十分に得られない虞がある。
リチウムイオン二次電池は、例えば、以下のようにして製造される。
先ず、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを形成することにより、正極21を作製する。正極活物質層21Bを形成する際には、正極活物質の粉末と、導電剤と、結着剤とを混合した正極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の正極合剤スラリーとし、正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布して乾燥させた後、圧縮成形する。また、例えば、正極21と同様の手順に従って、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを形成することにより、負極22を作製する。具体的には、負極活物質層22Bを形成する際には、実施例1〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料と、導電剤と、結着剤とを混合した負極合剤を溶剤に分散させることによりペースト状の負極合剤スラリーとし、負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布して乾燥させた後、圧縮成形する。
次いで、正極集電体21Aに正極リード25を溶接して取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接して取り付ける。その後、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回させることにより巻回電極体20を形成し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接した後、巻回電極体20を一対の絶縁板12,13で挟みながら電池缶11の内部に収納する。そして、電池缶11の内部に電解液を注入して、セパレータ23に電解液を含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15及び熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。こうして、図8及び図9に示したリチウムイオン二次電池を完成させることができる。
リチウムイオン二次電池にあっては、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極22に吸蔵される。一方、放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して正極21に吸蔵される。
リチウムイオン二次電池においては、負極活物質が実施例1〜実施例4の多孔質炭素材料から構成されているので、優れた特性が得られた。
実施例6は本発明の吸着剤に関し、実施例6にあっては、多孔質炭素材料[多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料は、実施例1と同じ籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)]を、体内の様々な不要な分子を選択的に吸着するための多孔質炭素材料として適用した。そして、種々の物質について、多孔質炭素材料の単位重量当たりの吸着量を測定した。
吸着量の測定にあっては、先ず、4種類の数平均分子量の異なる物質、クレアチニン(数平均分子量:131)、アリザリンシアニングリーン(数平均分子量:623)、リゾチーム(数平均分子量:14307)、アルブミン(数平均分子量:約66000)とpH7.3のリン酸緩衝液とを用いて、以下の表5に示す濃度の各溶液(水溶液A、水溶液B、水溶液C、水溶液D)を調製した。尚、吸着前の各水溶液濃度は任意に決めた。そして、調製した水溶液40.0ミリリットルのそれぞれに、0.010グラムの多孔質炭素材料を添加し、37±2゜Cにて1時間振とうした。振とう後、500μmの細孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のメンブレンフィルターを用いて、溶液から多孔質炭素材料を除去した。そして、濾液の吸光度をUV可視吸光度測定により測定し、水溶液モル濃度を求めた。尚、吸着前の初期水溶液モル濃度と比較することにより、吸着量を算出した。多孔質炭素材料1グラム当たりの吸着量を、以下の式に基づき算出した。
(多孔質炭素材料1グラム当たりの吸着量)=
(溶質の分子量)×{(吸着前の水溶液モル濃度)−(吸着後の水溶液モル濃度)}/
(1000ミリリットル当たりの多孔質炭素材料の量)
実施例6にあっては、以下の表6に示す多孔質炭素材料を製造した。尚、表6における実施例6−1は、実施例1と同じ方法(但し、炭素化温度を800゜C、炭素化時間を1時間とした)で製造された多孔質炭素材料であり、実施例6−2、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5は、それぞれ、実施例6−1の多孔質炭素材料に対して、表6に示す賦活処理を施している。尚、実施例6−2にあっては、賦活剤として酸素を用い、空気中で900゜Cにて2時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させている。一方、実施例6−3〜実施例6−5にあっては、賦活剤として水蒸気を用い、水蒸気雰囲気下、900゜Cにて30分、1時間、2時間、多孔質炭素材料を加熱することにより、多孔質炭素材料中の揮発成分や炭素分子により微細構造を発達させている。併せて、表6に、比表面積の測定結果及び細孔容積測定結果を示す。表6から、実施例6−3〜実施例6−5にあっては、賦活処理の時間が長くなるほど、比表面積の値及び細孔容積の値が増加することが判る。
また、参考のために、参考例6−1、参考例6−2、参考例6−3、参考例6−4として、以下の表7に示す活性炭を用いて、1グラム当たりの吸着量を測定した。
多孔質炭素材料あるいは活性炭1グラム当たりのクレアチニン吸着量(グラム)、アリザリンシアニングリーン吸着量(グラム)、リゾチーム吸着量(グラム)、アルブミン吸着量(グラム)を、以下の表8、表9、表10、表11に示す。
表8から、実施例6−1、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5にあっては、多孔質炭素材料1グラム当たりのクレアチニン吸着量は、多孔質炭素材料の比表面積の値及び細孔容積の値が増加するに従い、増加する傾向が認められ、しかも、良い相関が認められた。一方、参考例にあっては、製造方法の相違に由来してか、活性炭1グラム当たりのクレアチニン吸着量と、活性炭の比表面積の値及び細孔容積の値との間に、余り良い相関は認めらなかった。
また、表9から、実施例6−1、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5にあっては、多孔質炭素材料1グラム当たりのアリザリンシアニングリーン吸着量は、多孔質炭素材料の比表面積の値及び細孔容積の値が増加するに従い、増加する傾向が認められ、しかも、良い相関が認められた。また、参考例よりも高い吸着量を示した。
更には、表10から、実施例6−1、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5にあっては、多孔質炭素材料1グラム当たりのリゾチーム吸着量は、多孔質炭素材料の比表面積の値及び細孔容積の値に余り依存することなく、概ね一定の値となっていた。また、参考例よりも高い吸着量を示した。実施例6−2にあっては、他の実施例や参考例と比較して、格段に大きな吸着量を示した。
また、表11から、実施例6−1、実施例6−2、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5にあっては、多孔質炭素材料1グラム当たりのアルブミン吸着量は、多孔質炭素材料の比表面積の値及び細孔容積の値に依存することなく、実施例6−1、実施例6−2の多孔質炭素材料が格別に大きな吸着量を示し、また、参考例よりも高い吸着量を示した。
表8〜表11に示した結果に基づき、参考例6−4のクレメジン原体1グラム当たりの吸着量を「1.0」としたときの、クレアチニン吸着量、アリザリンシアニングリーン吸着量、リゾチーム吸着量、及び、アルブミン吸着量の規格化された値を、表12に示す。表12から、実施例6における多孔質炭素材料は、特に、数平均分子量が1×103乃至1×104の有機物を効果的に吸着することが判る。
以上に説明したとおり、多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容積といったパラメータの違い、多孔質炭素材料の物理的表面状態や化学的表面状態の違い、多孔質炭素材料と被吸着物質との間の化学的相互作用の違い、多孔質炭素材料の製造方法の違いに依存して、分子の吸着特性が異なることが判った。そして、特に、分子量の小さな分子の吸着に関する多孔質炭素材料の挙動と、分子量の大きな分子の吸着に関する多孔質炭素材料の挙動とに相違が認められ、比較例の活性炭と比べて、本発明における多孔質炭素材料は、中程度の分子量あるいは大きな分子量を有する物質をより一層良く吸着することが判った。従って、吸着させるべき分子の分子量と多孔質炭素材料の比表面積及び細孔容積といったパラメータとの間の関係や製造方法との関係等を種々の試験に基づき求めることで、多孔質炭素材料によって選択的に分子を吸着することが可能となり、吸着を必要とする様々な医療用途において大きな効果が期待される。
実施例7は本発明の薬剤を担持するための担持体に関し、実施例7にあっては、多孔質炭素材料[多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料は、実施例1と同じ籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)]を、薬剤放出速度を適切に制御し得る薬剤放出剤における薬剤の担持体として用いた。そして、イブプロフェン(非ステロイド系消炎鎮痛剤,NSAID)の放出速度を測定した。
具体的には、実施例1と同じ方法(但し、炭素化温度を800゜C、炭素化時間を1時間とした)にて得られた多孔質炭素材料0.10グラムを、イブプロフェン0.10グラム/へキサン10ミリリットルの溶液に一晩含浸させた後、メンブレンフィルターにより濾過し、40゜Cにおいて真空乾燥を行った。次に、得られた多孔質炭素材料/イブプロフェン複合体を40ミリリットルのリン酸緩衝液(pH7.3)中に混入し、各時間におけるイブプロフェンの濃度を、紫外線分光により測定して算出した。尚、実施例7における多孔質炭素材料の比表面積の値及び細孔容積の値は、表6の実施例6−1に示したとおりである。
表7に示した参考例6−1の活性炭0.10グラムを用いて、実施例7と同じ方法で、活性炭/イブプロフェン複合体を得た。そして、比較例7として、得られた活性炭/イブプロフェン複合体を40ミリリットルのリン酸緩衝液(pH7.3)中に混入し、各時間におけるイブプロフェンの濃度を、紫外線分光により測定して算出した。尚、係る活性炭の比表面積の値及び細孔容積の値は、以下のとおりである。
実施例7の多孔質炭素材料 比較例7の活性炭
比表面積: 589m2/グラム 1321m2/グラム
細孔容積: 0.60cm3/グラム 0.57cm3/グラム
各時間におけるイブプロフェンの濃度の測定結果を図10に示すが、比較例7と比べて、実施例7にあっては、イブプロフェンの放出量が大きいことが判る。
実施例8は本発明のマスク及び吸着シートに関し、実施例8にあっては、多孔質炭素材料[多孔質炭素材料の原料である植物由来の材料は、実施例1と同じ籾殻(鹿児島県産、イセヒカリの籾殻)]を、花粉症対策マスクにおける吸着剤に適用した。花粉症対策マスクの模式図を図11の(A)に示し、花粉症対策マスクの本体部分(吸着シート)の模式的な断面構造を図11の(B)に示すが、この花粉症対策マスクの本体部分は、セルロースから成る不織布と不織布との間に、シート状にした多孔質炭素材料が挟み込まれた構造を有する。実施例1の多孔質炭素材料をシート状とするためには、例えば、カルボキシニトロセルロースをバインダーとした炭素/ポリマー複合体を形成するといった方法を採用すればよい。一方、実施例8の吸着シートは、実施例1と同じ籾殻から製造された多孔質炭素材料から成るシート状部材(具体的には、カルボキシニトロセルロースをバインダーとした炭素/ポリマー複合体)、並びに、シート状部材を支持する支持部材(具体的には、シート状部材を挟み込んだ支持部材である不織布)から成る。花粉症対策マスクといった各種のマスクにおける吸着剤に、本発明における多孔質炭素材料を適用することで、例えば、花粉の蛋白部位が多孔質炭素材料に吸着することで、花粉を効果的に吸着することができると考えられる。
以上、好ましい実施例に基づき本発明を説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施例にあっては、多孔質炭素材料の原料として、籾殻、藁、葦あるいは茎ワカメを用いる場合について説明したが、他の植物を原料として用いてもよい。ここで、他の植物として、例えば、陸上に植生する維管束植物、シダ植物、コケ植物、藻類及び海草等を挙げることができ、これらを、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
また、本発明における多孔質炭素材料に関して、窒素BET法に基づく比表面積や種々の元素の含有率について適切な範囲を説明したが、その説明は、比表面積の値や種々の元素の含有率が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。即ち、上記の適切な範囲は、あくまでも本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であり、本発明の効果が得られるのであれば、比表面積の値等が上記の範囲から多少外れてもよい。
また、本発明における多孔質炭素材料の一使用例としてリチウムイオン二次電池を例にとり説明したが、本発明における多孔質炭素材料の使用用途は、必ずしも電池に限らず、電池以外の他の電気化学デバイスであってもよく、例えば、電気二重層キャパシタ等を挙げることができる。また、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウムあるいはカリウム等の他の短周期型周期表における第1A族元素や、マグネシウムあるいはカルシウム等の第2A族元素、アルミニウム等の軽金属を用いてもよい。この場合においても、負極活物質として、本発明における多孔質炭素材料を用いることができる。
また、実施例6−1にて説明した多孔質炭素材料を、実施例5あるいは実施例8において適用することができるし、実施例6−2、実施例6−3、実施例6−4、実施例6−5にて説明した賦活処理を施された多孔質炭素材料を、実施例5、実施例7あるいは実施例8において適用することができるし、実施例1〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料を、実施例6あるいは実施例7において適用することができるし、実施例2〜実施例4にて説明した多孔質炭素材料を、実施例8において適用することができる。