JP2016145441A - 高性能な繊維およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の課題は、超高分子量のポリマーを使用せずに、引張強度、引張弾性率の高い物性を有する繊維を提供することにある。【解決手段】本発明の繊維(11)は、極限粘度が1.3〜5.0dL/gであるビニル系重合体より形成される繊維(11)であって、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が90〜98%である繊維(11)である。さらに、引張強度が0.7〜2.5GPaであり、引張弾性率が15〜40GPaであることが好ましい。本発明の繊維(11)は、極限粘度が1.3〜5.0dL/gであるビニル系重合体をイオン液体により溶解した紡糸原液を用いて製造することができ、また、この紡糸原液の温度を20〜150℃とし、ノズル(3)の吐出孔から吐出し、凝固液でビニル系重合体を繊維状に凝固させる方法により製造することができる。【選択図】図1

Description

本発明は、超高分子量でなく、工業的に利用可能な一般的な分子量のアクリル系重合体等のビニル系重合体から得られる力学的に高性能な高強度、高弾性率の繊維、該繊維の製造に用いられる紡糸原液および該紡糸原液を用いた該繊維の製造方法に関する。
アクリル繊維はウールに近い風合いや、優れた弾性回復力、耐収縮性、耐薬品性等の特長を有し、また、抗菌、防臭、静電、発熱等様々な機能を付与することが可能であることから、機能性繊維としても近年注目を集めている。
また、様々な使用用途があり、繊維のさらなる引張強度、引張弾性率の高い物性が求められている。
アクリル繊維は一般的に、ポリアクリロニトリル重合体粉末をジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒や、硝酸、無機塩を溶解した水溶液等を用い溶解することで紡糸原液とし、紡糸、延伸、乾燥等の工程を経て成形することで製造される。
紡糸は湿式紡糸法や乾湿式紡糸法が一般的に用いられ、金型から吐出された紡糸原液は紡浴内凝固液を通過することで凝固やゲル化が進行し、繊維が形成される。紡浴内凝固液は一般的には紡糸原液に用いられる溶媒と水の混合液が用いられ、温度や濃度の調節によって、生産が安定で、かつ均一な繊維構造となるように製造する。
しかし、従来の溶媒を用いた方法では、ノズルを出た直後の初期繊維と凝固浴との境界で急速な相互拡散、およびそれによる凝固形成により、均一な形態の繊維を得ることは容易ではなかった。特に、資材用途のアクリル繊維では基本的にはボイドレスで密な繊維構造が好ましいが、従来の方法では急激な凝固によってボイドが形成されやすいという欠点があった。また、大量の溶媒を回収するために膨大なコストがかかることや、環境汚染等の問題もあった。
この問題に対して、特許文献1では、ポリアクリロニトリル重合体(PAN)とイオン液体とを混合し溶融紡糸をする解決手段を報告している。この方法はアクリル繊維を溶融紡糸するため、多量の溶媒を使わないため環境負荷低減が考えられるが、PANの分解温度に近い高い温度をかける必要があるため熱安定性が悪く、また工業的には従来の湿式および乾湿式紡糸法と比較して物性や生産性の低下という問題が残っていた。
また、非特許文献1ではイオン液体を用いたアクリロニトリルの重合および乾湿式紡糸法を報告している。この報告も従来の湿式紡糸方法と比較して有機溶媒の使用が抑えられるため、環境負荷低減という面でのメリットが大きい。しかし、強度、伸度といった物性面では、従来の産業用アクリル繊維を上回る性能は得られていなかった。
また、非特許文献2では、分子量が230万である超高分子量のポリアクリロニトリル重合体をDMFに溶解しマイナス40℃の凝固浴に乾湿紡糸で押し出し、超延伸することで高物性なアクリル繊維を報告している。しかし、かかる方法はその分子量の高さから溶解が困難であり、紡糸原液中のポリマー濃度を下げなければならず、生産性に問題が残っていた。
特表2012−522142号公報
「ポリマーズ・アドバンスド・テクノロジーズ」(Polym.Adv.Technol),2008年、第20巻,p.857〜862 「ポリマー」(Polymer),2006年、第47巻,p.4445〜4453
前記のように、一般的に湿式紡糸や乾湿式紡糸はその凝固形成過程において、初期繊維と凝固浴との境界で急速な相互拡散、およびそれによる凝固形成が起こり、この際にボイド等の欠陥が発生しやすい。また、これより、続く延伸工程にて高い延伸倍率がかけられなくなり、製品の力学的特性が低下してしまう問題がある。
凝固浴に溶剤を大量に用いることでボイドの発生を抑制する方法も一般的にとられるが、工業的に利用するには環境負荷問題が残される。
また、高配向で高物性なアクリル繊維を得るためには超高分子量のポリマーを摂氏0℃以下の凝固浴の使用によりゲル紡糸する方法等も報告されているが、この方法は生産性および紡糸安定性に問題が残っている。
本発明の課題は、超高分子量のポリマーを使用せずに、引張強度、引張弾性率の高い物性の繊維を提供することにある。
前記課題は本発明によって解決される。
本発明の繊維は、極限粘度が1.3〜5.0dL/gであるビニル系重合体より形成される繊維であって、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が90〜98%である繊維である。
本発明の繊維は、広角X線回折を使用して測定された繊維の子午線方向の回折プロフィール中に観測される
2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I

2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I
との比(I/I)が0.8〜2.0であり、引張強度が0.7〜2.5GPaであり、引張弾性率が15〜40GPaであることが好ましい。
本発明の繊維は、繊維の密度が1.14〜1.22g/cmであることが好ましい。
本発明の繊維は、前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体は、数平均分子量が10万〜80万であり、アクリルニトリルの共重合率が90モル%以上であることが好ましい。
本発明の繊維の製造に用いられる紡糸原液は、極限粘度が1.3〜5.0dL/gであるビニル系重合体をイオン液体により溶解した紡糸原液である。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種がイミダゾリウム系であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種が1,3−ジアルキルイミダゾリウム系であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のカチオン種が1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムのいずれか1種以上であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体のアニオン種が塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンのいずれか1種以上からなることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記イオン液体が1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドのいずれか1種以上であることが好ましい。
本発明の紡糸原液は、前記ビニル系重合体が、数平均分子量が10万〜80万のポリアクリロニトリル系重合体であり、前記ポリアクリロニトリル系重合体の含有量が、紡糸原液の質量に対して5〜30質量%であることが好ましい。
本発明の繊維の製造方法は、前記紡糸原液の温度を20〜150℃とし、該紡糸原液を紡糸ノズルの吐出孔から吐出し、凝固液でポリアクリロニトリル系重合体を繊維状に凝固させるアクリル繊維の製造方法である。
本発明の繊維の製造方法は、紡糸方法が乾湿式紡糸法であり、吐出孔から凝固液面までの距離が1〜100mmであることが好ましい。
本発明の繊維の製造方法は、前記凝固液の水の含有率が30〜100質量%であり、凝固液の温度が0℃〜40℃であることが好ましい。
本発明の繊維の製造方法は、凝固液内から引き取られた凝固繊維を、水の含有率が30〜100質量%、温度が25〜50℃の第1洗浄液で洗浄し、その後に、水の含有率が30〜100質量%、温度が50〜100℃である第2洗浄液で洗浄し、乾燥後、加熱チャンバーで延伸することが好ましい。
本発明の繊維の製造方法は、前記吐出孔から紡糸原液を、0.1〜49.9倍のジェットストレッチの値で吐出し、凝固浴内の最初のロールから加熱チャンバー直前のロール間での延伸倍率を1.5〜5倍とし、雰囲気温度が130〜220℃の加熱チャンバー内で延伸倍率が5〜15倍で延伸することが好ましい。
本発明の繊維の製造方法は、吐出孔から紡糸原液を、50〜400倍のジェットストレッチの値で吐出し、雰囲気温度が130〜220℃の加熱チャンバー内で延伸倍率が1.1〜5倍で延伸することが好ましい。
本発明では、極限粘度が1.3〜5.0dL/gである、工業的に利用可能な一般的な分子量のアクリル系重合体等のビニル系重合体を用いても、このビニル系重合体をイオン液体により溶解して紡糸原液を作製し、この紡糸原液を乾湿式紡糸法で室温に近い凝固液温度でゲル紡糸することにより、凝固による繊維形成速度を緩やかな速度に抑えることができ、均一な形態で、ボイドの少ない密な構造の繊維を得ることができる。また、凝固浴から引き取る際の張力を低減することができ、これより凝固浴内でのポリマー配向制御と延伸性の向上が可能となり、生産性を格段に上げることが出来る。紡糸初期にポリマー配向制御を行えることで、続く延伸工程でも無理なく延伸がかけられるようになる効果もある。
本発明は我々が鋭意検討した結果生み出された発明であり、この方法により、工業的に利用可能な一般的な分子量のアクリル系重合体等のビニル系重合体から、凝固浴内の凝固液の温度が室温に近いにもかかわらず力学的に高性能な高強度、高弾性率の繊維の製造が可能となる。
本発明において好適に用いることのできる乾湿式紡糸装置の概略図である。実施例1〜5および7〜8、比較例1〜2における紡糸工程ではこの装置を使用した。 本発明において好適に用いることのできる加熱チャンバーの概略図である。実施例1〜8、比較例1〜2における延伸工程ではこの装置を使用した。 本発明において好適に用いることのできる乾湿式紡糸装置の概略図であり、特にジェットストレッチを大きくかける場合に適する。実施例6における紡糸工程ではこの装置を使用した。
本発明の繊維の製造では、好適には、図1又は図3に示すような乾湿式紡糸装置を用いて紡糸工程が行われ、図2に示すような加熱チャンバーを用いて延伸工程が行われる。
図1に示すような装置による紡糸工程は、後に記載する実施例1〜5および7〜8、比較例1〜2で採用されており、図3に示すような装置による紡糸工程は、後に記載する実施例6で採用されている。また、図2に示すような装置による延伸工程は、後に記載する実施例1〜8、比較例1〜2で採用されている。
図1に示す乾湿式紡糸装置では、ヒーター1で適度の温度に加温した原液タンク2に貯えられた紡糸原液を、ノズル3を通して凝固浴5(凝固液の液面は10で示される)内に押出し、繊維状に凝固させる。ロール4Aを経て凝固浴5内を通過させた繊維11は、ロール4Bを経て第1洗浄槽6(洗浄液の液面は10で示される)内を通過し、ロール4Cを経て第2洗浄槽7(洗浄液の液面は10で示される)内を通過して洗浄され、ロール4Dを経て乾燥機8内を通過して乾燥された後、ワインダー9において巻き取られる。
図3に示す乾湿式紡糸装置は、図1に示す乾湿式紡糸装置において、紡糸原液をノズル3の吐出孔から吐出した直後の段階で高速で巻き取り、高い延伸をかけるようにしたものである。凝固浴5で凝固させた繊維は、図1に示す乾湿式紡糸装置と同様に、第1洗浄槽6及び第2洗浄槽7内を通過して洗浄され、乾燥機8内を通過して乾燥された後、ワインダー9において巻き取られる。図2に示す装置では、繊維は、クリール12内のロール4Eを経て、加熱チャンバー13内へ供給され熱板で加熱されて、ワインダー9内のロール4Fに巻き取られるが、ロール4Fの回転速度をロール4Eの回転速度をより早くすることにより、繊維は加熱チャンバー13で延伸される。
[ビニル系重合体]
本発明においてビニル系重合体とは以下のモノマーを使用することができる。即ち、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピルなどに代表されるアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ウラリル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデンなどの不飽和モノマー類;p−スルホフェニルメタリルエーテル、メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、及びこれらのアルカリ金属塩などが例示できる。
なかでも、ビニル系重合体を形成するモノマーとしてアクリロニトリルを用いたポリアクリロニトリル系重合体(以下、「PAN系重合体」と略する場合がある)は、繊維にした時の耐光性に優れているので好ましい。
[PAN系重合体]
本発明において、好適に使用できるPAN系重合体について説明する。
PAN系重合体としては、アクリロニトリル(AN)の単独重合体(PAN単独重合体)、又はANと他のモノマーとの共重合体(PAN系共重合体)を用いることができる(以下、PAN単独重合体とPAN系共重合体を合わせて、適宜「PAN系重合体」と略する)。
紡糸安定性を高め、アクリル繊維、およびそれからなる耐炎繊維、炭素繊維の品位並びに性能を向上させるために、PAN系重合体は、AN由来の構造単位を90.0モル%以上含むことが好ましい。AN由来の構造単位が90.0モル%以上であれば高い紡糸安定性と延伸性を確保しやすい。AN由来の構造単位は94.0モル%以上がより好ましい。
共重合するモノマーとしては、ANと共重合可能なモノマーであれば特に制限されず、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド等の不飽和モノマー類;メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属類などが挙げられる。これら他のモノマーは1種単独又は2種以上を併用して使用することができる。
[分子量(極限粘度、数平均分子量)]
本発明の繊維に使用するPAN系重合体などのビニル系重合体の極限粘度は、1.3〜5.0dL/gである。1.3dL/g以上であれば、後述する延伸工程にて高い延伸を達成しやすく、5.0dL/g以下であれば安定的な高い生産性を達成しやすい。前記観点から、極限粘度は1.4〜4.0dL/gがより好ましく、1.5〜3.0dL/gがさらに好ましい。
また、同様に本発明の繊維に使用するPAN系重合体などのビニル系重合体の数平均分子量(Mn)は、10万〜80万であることが好ましい。10万以上であると後述する延伸工程にて高い延伸を達成しやすく、また、80万以下であると安定的な高い生産性を達成しやすい。前記観点から、前記数平均分子量(Mn)は15万〜50万がより好ましく、17万〜40万がさらに好ましい。
[重合方法]
PAN系重合体等のビニル系重合体を重合する方法は、特に限定されるものではなく、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を用いることができる。
[イオン液体]
イオン液体は、100℃以下で液体状態となる、比較的分子サイズの大きな有機イオンなどからなる低温溶融塩の一種である。その特長として、例えば以下のようなことが挙げられる。
(1)不燃性で蒸気圧が極めて低いため、爆発や火災の危険性が低い(2)蒸気圧が極めて低いため、肺への吸引の確率が極めて低い(3)化学的・熱的に安定であるので、リサイクル性が良い(4)アニオン・カチオンの組合せパターンが豊富で、親水疎性や粘度、融点等の特性をチューニングできる(5)様々な物質を溶解することができる(5)イオン液体種により、水と任意に混合・分離させることができる(6)過冷却状態で比較的安定な液体として使用できる。
これらの性質はアクリル繊維開発においても、有用となる。本発明では凝固浴の凝固液として水を用いた場合も急な凝固が起こらず、比較的ゆっくりとした相互拡散と、それと競合しておこるゲル化によりボイド形成を伴う急な凝固が抑制され、均一な繊維を達成している。このことから、従来よりも溶剤使用量を削減でき、また、環境面でも従来の生産方法のように有害な揮発性有機溶剤を吸引・排気することなく製造できるため、排気設備等のコスト低減効果がある。
本発明におけるイオン液体は、カチオン種としてはアンモニウム系、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系等が使用でき、また、アニオン系としてはハロゲン系、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロリン酸、ジシアナミド、ビストリフルオロメチルスルホニルイミド等を用いる事ができるが、これらに特に限定されることなく、これら以外のものであっても良い。その中でも、カチオン種ではイミダゾリウム系、特に1,3−ジアルキルイミダゾリウム系であることが熱安定性やコストの面から好ましい。
また、アニオン種はハロゲン系であることが親水性や融点の面から好ましく、さらには塩素イオンであることがコストの面からより好ましい。
カチオン種がイミダゾリウム系、アニオン種がハロゲン系であるものとして、例えば、1,3−ジアルキルイミダゾリウムクロリド、1,3−ジアルキルイミダゾリウムブロミド、1,3−ジアルキルイミダゾリウムヨージドなどが挙げられる。その中でも、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドやそれらの混合物は熱安定性、コスト面に加え、低い融点であること等から、最も好ましい。
[紡糸原液]
本発明において、紡糸原液は前記のPAN系重合体を、前記のイオン液体に溶解することにより得られる。溶解の方法は特に限定されないが、イオン液体の融点以上の溶融状態、もしくは過冷却液体状態においてPAN系重合体等のビニル系重合体を分散し、スラリーを作製し、その後、高温にすることで紡糸原液とすることが望ましい。
少量であれば自転・公転ミキサー等を用いて溶解することもできる。特に減圧状態でミキサーを利用すると樹脂粉末間の空気を除去することが出来、PAN系重合体の分散が極めて容易となり、高効率である。また、場合によっては溶解時に生じる発熱を利用して重合体を溶解することも可能である。
イオン液体を用いた紡糸原液の作製において、その撹拌方法などは特に限定されない。
一般的に、有機溶媒(例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等)を用いてPAN系重合体等のビニル系重合体を溶解した紡糸原液よりも、同じポリマー濃度、同じ温度である場合は、イオン液体を用いた場合の方が粘度は高くなる。それゆえ、トルクのあるニーダー等で混合撹拌することが好ましい。また、紡糸原液中に気泡が存在する場合は、減圧脱泡処理等を施すことが、後述する紡糸工程での糸切れ抑制の観点から好ましい。また、少量である場合は、市販されている自転・公転ミキサー等を用いる事も、簡便性の観点から好ましい。
紡糸原液の濃度は、5〜30質量%であることが好ましい。5質量%以上であると後述する延伸工程にて、高い延伸倍率を達成しやすく、また、30質量%以下であれば原液タンク内でのゲル化が進行しにくい。
前記観点から、紡糸原液の濃度は10〜20質量%がより好ましい。
また、紡糸原液の温度は20〜150℃であることが好ましい。20℃以上であれば原液粘度の観点から扱いやすく、また、150℃以下であれば原液タンク内でのゲル化の進行を起こしにくい。
前記観点から、紡糸原液の温度は、60〜110℃がより好ましく、75〜100℃がさらに好ましい。
[紡糸手段]
本発明において、紡糸原液は金型(ノズルなど)から押し出され、凝固浴で凝固やゲル化形成が進行することで繊維形成される。紡糸方法は繊維の品質の面で有利な乾湿式紡糸法を採用できる。
[凝固液面までの距離]
乾湿式紡糸法において、吐出孔から凝固液面までの距離は1〜100mmであることが好ましい。1mmより長いことで液面揺れした凝固液がノズルに当たりにくくなり、ノズル詰まり等のトラブルを回避できる。また、100mmより短いことで繊維の余計な揺れを回避でき、これは特にマルチフィラメントでの生産面では融着を防げるため有効となる。同様の理由から7〜20mmがより好ましい。
[凝固浴]
凝固浴内の凝固液の組成は水、もしくは水とイオン液体の混合液であると良く、凝固の観点から、凝固液の水の組成が30〜100質量%であることが好ましい。30質量%以上であれば適度な凝固速度のもとで安定的な紡糸が可能となる。
ビニル系重合体が凝固する際にイオン液体が凝固浴に抽出し、凝固浴のイオン液体の濃度が増加するので、水を供給することにより、凝固液の水の組成を30質量%以上に保つことが好ましい。
前記凝固液の水の含有率は、60質量%以上が好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
凝固浴内の凝固液の温度は0℃以上40℃以下であることが、凝固の観点から好ましい。0℃以上であることで、適度な凝固速度のもとで安定的な紡糸が可能となる。また、40℃以下であることで繊維中のボイドの発生を抑制することができる。
凝固液の安定化の点で、前記温度は1℃以上が好ましく、5℃以上がさらに好ましい。また、繊維中のボイドの発生を抑制する観点から、前記温度は30℃以下がより好ましく、15℃以下がさらに好ましい。
[洗浄と乾燥]
本発明では、紡糸工程に続く後工程として、洗浄槽における洗浄工程と乾燥機における乾燥工程を設ける。洗浄工程は、紡糸工程終了時に繊維内部に残存しているイオン液体を繊維外へ除外するために行われる。また、乾燥工程は洗浄工程で繊維に付着した水等を蒸発させるために行われる。
洗浄槽内の凝固液としては、水の含有率が30〜100質量%である水単独又は水とイオン液体が混合した水溶液を用いることが、洗浄効率の観点から好ましい。水の組成が30質量%以上であることで効率的な洗浄が可能となる。また、洗浄液の温度は20℃以上100℃以下であることが、洗浄効率の観点から好ましい。20℃以上であることで効率的な洗浄が可能となる。また、100℃以下であれば洗浄時のボイドの発生を抑制できる。
洗浄槽は1槽でも良いが、複数槽とし、脱溶媒力に傾斜をつけることで順々に凝固させることがボイドの発生を防ぐ面から好ましい。そのため、複数の洗浄槽における凝固液の温度は、順次高くすることが好ましい。隣り合う各凝固槽の凝固液の温度差は、10℃以上とすることが好ましく、20℃以上とすることがさらに好ましい。
乾燥炉の温度は40℃以上280℃以下であることが好ましい。40℃以上であると乾燥効率が良く、また、280℃以下であればPAN等のビニル系重合体の分解反応を回避できる。
[紡糸工程から延伸工程]
乾燥した繊維はそのまま続く延伸工程に連続して入れるでも良いし、一度ワインダー等で巻き取りプロセスを分離しても良い。また、巻き取った状態で更に乾燥を追加するなどをしても構わない。
[熱板延伸]
本発明では、乾燥した繊維を加熱雰囲気下で延伸する工程を含む。加熱手段としては、各種加熱炉や熱板、蒸気延伸機等を用いることができる。特に、本発明では、紡糸工程においてイオン液体を有効に使用したことによって、繊維の延伸性が大幅に向上しているので、加熱チャンバーによる熱板延伸によっても十分に延伸することができる。繊維を熱板上で熱延伸することは、簡易な装置で行えるので、少ない設備投資と少ない原動費で繊維を高延伸できるというメリットがある。加熱温度は100℃以上280℃以下であることが、延伸安定性の面で好ましい。100℃以上であると延伸性が高く、安定な生産も可能となる。280℃以下であればPANの分解反応を回避できるため、糸切れも少なく安定的に延伸できる。なお、熱板延伸では繊維と接触式であるか非接触式であるかは特に限定されない。
[延伸倍率]
本発明における延伸倍率は、前記の凝固浴および洗浄槽で延伸するいわゆる紡糸工程での延伸倍率と、それを後で熱延伸する際の加熱チャンバーでの延伸倍率に分けられる。また、紡糸工程の延伸倍率と加熱チャンバーの延伸倍率をかけあわせて、総延伸倍率となる。これらの延伸倍率の用語の定義は実施例の項にて、さらに詳しく説明する。
[ジェットストレッチ(JS)紡糸]
本発明の紡糸方法はノズル吐出直後の段階で高速で巻き取り、高い延伸をかけることが可能である特徴もある。ノズル吐出部での線速度と、それを引き取る第一巻き取りロール(図1では4Aロールに該当。図3では4Gロールに該当。)との速度に起因する延伸倍率を一般的にはジェットストレッチ(JS)と呼び、(式1)によって定義される。
Figure 2016145441
なお、ノズル孔での吐出線速度とは、(式2)より算出することができる。
Figure 2016145441
JSで高い延伸をかける場合は、第一巻き取りロールより延伸して採取した繊維でも力学物性的に十分なアクリル繊維として使用することが可能であり、特に衣料用途等では十分な物性が得られる。この場合の紡糸装置は図1及び図3のような多段の槽であっても良いが、凝固浴5、第1洗浄槽6及び第2洗浄槽7を一つの槽とした簡便な装置でも良い。
また、より高い力学物性が必要であれば、後に熱板延伸工程を設けても良い。JSで高い延伸がかかっている場合は、後に設置する熱板延伸工程は比較的小規模な装置でも済ませられるメリットがある。
JSで高い延伸をかける場合は、400倍以下とすることが好ましい。400倍以下であれば水との摩擦の影響を受けにくく、糸切れが発生しにくい。また、乾湿式紡糸法の場合でも、400倍以下であれば凝固液の界面で液跳ねが起こりにくく、安定な生産が可能となる。前記観点から、JSは200倍以下がより好ましく、170倍以下がさらに好ましい。
この場合、その後の繊維の延伸倍率は、5倍以下で良い。
もちろん、JSは控えめにし、続く延伸工程等で延伸をするのでも良い。その場合はJSは0.1〜49.9倍であることが好ましい。0.1倍以上であることで繊維が弛むことなく安定的な紡糸が可能となる。
この場合は、その後の繊維の延伸倍率は、凝固浴内の最初のロールから加熱チャンバー直前のロール間での延伸倍率を1.5〜5倍とし、雰囲気温度が130〜220℃の加熱チャンバー内で延伸倍率が5〜15倍で延伸することが好ましい。
繊維の延伸し易さの点で、加熱チャンバー内の雰囲気温度は140〜190℃がより好ましく、150〜170℃がさらに好ましく、繊維の延伸倍率は12倍以下がより好ましい。
[繊維径、繊維長]
本発明の繊維は、その繊維径に特に制限はないが、繊維形成のし易さから繊維径は5〜50μmが好ましく、15〜40μmがより好ましく、20〜30μmがさらに好ましい。長繊維・短繊維といった形態は特に制限はない。
[結晶配向度]
本発明の繊維の結晶配向度は、90〜98%である。前記結晶配向度が90%以上であれば、結晶配向度は力学的に高物性な繊維を製造する上で基本的には高いことが好ましい。高い引張強度を得る観点から、前記結晶配向度は92%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。
特に、アクリル繊維においては、高い配向度は前記した分子量が230万以上の超高分子量PANのゲル紡糸などで達成されてきたが、工業的には問題があった。工業的に大量生産可能な例えば極限粘度1.3〜5.0dL/gのPAN系重合体においては、結晶配向度=93%程度に大きな壁があり、それを超えることは困難と考えられてきた。しかし本発明では我々の鋭意検討により、それを達成したのである。なお、使用した装置や測定方法等の詳細は実施例項に記載した。
[広角X線のI/I
本発明により製造した繊維は広角X線回折にて測定された子午線方向の回折プロフィール中に観測される
2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I

2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I
との比(I/I)に特徴がある。IおよびIが何を表しているかは未だに議論の余地があるが、例えば、非特許文献2ではIは平面ジグザグ構造をとっているポリマーの回折を、Iはα−へリックス構造をとっているポリマーの回折を示していると報告しており、これが一般的な認識であると考えられる。
本発明の繊維のI/Iは0.8〜2.0以上であることが物性、特に弾性率発現の面で好ましく、本発明のイオン液体を用いた紡糸法では容易にこれを達成することができる。前記観点から、本発明の繊維のI/Iは1.0以上がより好ましく、1.25以上がさらに好ましい。
[引張強度、引張弾性率]
本発明の繊維の引張強度は0.7〜2.5GPaであることが好ましい。引張強度が0.7以上であれば、加工工程の通過性や製品の使用上の問題が少なくなる。前記観点から、引張強度は0.9GPa以上がより好ましく、1.2GPa以上がさらに好ましい。
本発明の繊維の引張弾性率は15〜40GPaが好ましい。引張弾性率が15以上であれば、加工工程の通過性や製品の使用上の問題が少なくなる。前記観点から、引張弾性率は19GPa以上がより好ましく、22GPa以上がさらに好ましい。
[繊維密度]
本発明の繊維はその密度に制限がないが、1.14〜1.22g/cmであることが好ましい。1.14g/cm以上であると繊維内部の構造が密であるため強度、弾性率等の物性発現に有利となる。また、1.22g/cm以下であれば伸度の極端な低下を防げる。
前記観点から、繊維密度は1.17〜1.20g/cmがより好ましく、1.18〜1.19g/cmがさらに好ましい。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例において、各物性値及び特性は以下の方法により測定した。
<共重合体組成の測定>
1H−NMR法(日本電子GSX−400型超伝導FT−NMR)により測定した。
<広角X線回折による結晶配向度の測定>
イメージングプレートシステムによるX線繊維図形は、リガク社製のRA−micro7エックス線発生装置を用いて測定した。出力電圧40kV、出力電流20mAでNiフィルターで単色化したCu−Kα線(波長0.15418nm)を用いて試料にX線を垂直入射させて所定時間露光することで撮影した。
アクリル繊維束の赤道方向の回折角2θ=17°付近の回折につき、方位角方向の回折プロファイルを得て、曲線のフィッティングは2本の擬フォークト関数と1本のベースラインによって近似を行いピークの半価幅(°)の合計Wtotalより次式で計算した。
配向度=(360−Wtotal)/(360)
<広角X線回折によるI/Iの決定>
理学電機(株)製のRU−200型X線発生装置を用い、線源はNiフィルターで単色化したCu−kα線(0.15418nm)を使用した(出力電圧40kV、電流150mA)測定には理学電機(株)製のゴニオメーターPMG−GAを用いた。測定は子午線方向についておこなった。子午線方向回折角2θ=36°、40°付近の回折にそれぞれIとIピークが観察された。回折角方向のプロファイルを得て、曲線のフィッティングは2本のガウス関数と1本のベースラインによって近似を行い、I/Iを決定した。
<繊度測定>
測定はサーチ(株)製のDENICONDC−21を用いた。測定は恒温恒湿室(20℃,65%)で行った。測定試験長は2.5cmで、重りは0.4gである。
<引張強度、引張弾性率、引張伸度>
引張特性の測定は、(株)島津製作所製の島津小型卓上試験機EZTestEZ−S引張り試験機を用いて、20℃,65%RHの標準状態で行った。試料は、試験前に24時間以上標準状態に保ったものを使用した。試験条件は50Nのロードセルを用い、初期試料長は20mm、引張速度は20mm/分で行った。得られた応力−歪曲線から破断強度、破断伸度、初期弾性率を求めた。
<極限粘度測定>
約10gの試料を雰囲気温度が80℃の乾燥機に120分保持して乾燥後、精秤し、DMFを加え室温で完全に溶解し、3〜4種類の濃度cのPAN/DMF溶液を調製する(本発明において、実施例1〜6および比較例1〜2に用いたポリアクリロニトリルは0.25g/dL、0.50g/dL、0.75g/dL、1.00g/dLの4種類を、実施例7〜8に用いたポリアクリロニトリルは0.17g/dL、0.33g/dL、0.50g/dLの3種類を調整した)。25℃にコントロールされた恒温槽中でウベローデ粘度計を使用して、ブランクDMF液と試料を溶解したサンプルDMF溶液の落下時間をそれぞれ測定する。それぞれ5回の測定値の平均値を求めた後、ブランクDMFの落下時間をt0、サンプルDMF溶液の落下速度をtとして比粘度ηspを式(1)で求める。続いて、各濃度のηsp/cと濃度cの関係をプロットし、ハギンズの式(2)に基づいて、c→0に外挿したときの切片から極限粘度[η]を求めた。
ηsp=(t/t0)−1 ・・・(1)
ηsp/c=[η]+k’[η]2c ・・・(2)
<数平均分子量測定>
数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値である。数平均分子量とはMiの分子量を持つ高分子がNi個存在する場合、以下の計算式
数平均分子量(Mn)=Σ(NiMi)/Σ(Ni)
で表される値である。数平均分子量はポリスチレン換算での相対値を用いる。
<密度測定>
25℃、トルエン−四塩化炭素系にて浮沈法を用いて繊維の密度を測定した。
長さ5mmの繊維を1mg程度量りとり、繊維の大部分がガラス容器の中心付近で浮遊するようにトルエン−四塩化炭素混合液を調整し、そのときの液体密度を、ピクノメータを用いて、繊維の密度とした。
<紡糸工程での延伸倍率>
紡糸原液を巻き取る第一巻き取りロールのロール速度とワインダーの巻き取り速度との比(例として、図1では[4Dロール速度/4Aロール速度]に対応)を、紡糸工程での延伸倍率とした。
<加熱チャンバーでの延伸倍率>
加熱チャンバーへの供給するクリールの速度と加熱チャンバーを出た後のワインダーの速度の比(例として図2では[4Fロール速度/4Eロール速度]に対応)を、加熱チャンバーでの延伸倍率とした。
<総延伸倍率>
上記の紡糸工程での延伸倍率と、同じく上記の加熱チャンバーでの延伸倍率を掛け合わせることで総延伸倍率とした。それゆえ、ジェットストレッチの倍率は本発明では総延伸倍率に加味されない。
[実施例1]
まず、図1に示すような乾湿式紡糸装置により、紡糸工程を行った。
ポリアクリロニトリル(極限粘度=1.56dL/g、数平均分子量=190,000、AN組成≧99%)を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCL)に溶解し、固形分濃度が15質量%のPAN系重合体含有溶液を調製した。該PAN系重合体含有溶液を90℃まで加温し、ヒーター1で同じく90℃に加温した原液タンク2に詰め、紡糸原液とした。紡糸原液は、ノズル3の直径0.52mmの1ホールの吐出孔から0.30g/分で定量吐出され、凝固浴5を通過させることで凝固させた。凝固直後のロール4Aの巻き取り速度を2.6m/minとして、ジェットストレッチによる延伸倍率を2.2倍とした。ノズル3の吐出孔から凝固浴5の液面10までは10mmのエアギャップを設けて、乾湿式紡糸とした。凝固浴5の凝固液は10℃の水とし、続く第1洗浄槽6の洗浄液は32℃の水、第2洗浄槽7の洗浄液は60℃の水として繊維を洗浄した。
凝固浴5に入った後も繊維内外でのBmimCLと水の相互拡散は遅く、凝固浴5内では繊維は透明で、顕微鏡観察からも透明均一な繊維形状が確認された。続く第1洗浄槽6及び第2洗浄槽7にて拡散が進み、BmimCLは繊維外へと完全に拡散する様子が確認された。
第2洗浄槽7の後には、内部の雰囲気温度が60℃である乾燥機8を用意し、繊維を連続で乾燥させ、ワインダーにて巻き取った。凝固浴中のロール4Aと第2洗浄槽のロール4C間の紡糸工程の延伸倍率は3倍とした。
次に、図2に示すような加熱チャンバーにより、延伸工程を行った。
巻き取った乾燥した繊維を、長さ2mの加熱チャンバー13内で延伸した。チャンバーの温度は160℃で、この工程での延伸倍率は10倍で安定的に紡糸でき、総延伸倍率30倍を達成した。
このアクリル繊維の直径は26μm、引張強度は0.97GPa、弾性率は23.0GPa、伸度は11.0%、密度は1.19g/cm、結晶配向度は96.6%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.29であった。
[実施例2]
加熱チャンバー内で延伸を9倍(総延伸倍率27倍)にした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は27μm、引張強度は1.11GPa、弾性率は23.0GPa、伸度は10.8%、密度は1.18g/cm、結晶配向度は96.8%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.33であった。
[実施例3]
溶媒を1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(EmimCL)に変えた点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。繊維の直径は33μm、引張強度は1.03GPa、弾性率は19.4GPa、伸度は10.3%、密度は1.20g/cm、結晶配向度は94.2%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.00であった。
[実施例4]
原液温度を95℃に、凝固浴の温度を30℃に、加熱チャンバーでの延伸倍率を6倍とし、総延伸倍率を18倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。本方法では凝固浴中で繊維がわずかに白濁した。このアクリル繊維の直径は31μm、引張強度は1.03GPa、弾性率は21.6GPa、伸度は10.3%、密度は1.18g/cm、結晶配向度は92.9%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.19であった。
[実施例5]
原液温度を95℃に、凝固浴の温度を2℃に、加熱チャンバーでの延伸倍率を8倍とし、総延伸倍率を24倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は26μm、引張強度は1.45GPa、弾性率は25.2GPa、伸度は9.9%、密度は1.19g/cm、結晶配向度は96.6、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.49であった。
[実施例6]
原液温度を95℃に、紡糸工程を、図1に示すような乾湿式紡糸装置に代えて図3に示すような乾湿式紡糸装置により行うようにして、凝固浴直後のロール4Gの巻き取り速度を193.0m/minに上げてジェットストレッチによる延伸倍率を160.8倍に変更し、紡糸工程での延伸は行わず、乾燥機8の内部雰囲気温度を60℃から25℃に変更し、加熱チャンバー13での延伸倍率を3倍とし、総延伸倍率を9倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は9μm、引張強度は1.26GPa、弾性率は18.9GPa、伸度は11.9%、密度は1.18g/cmであった。なお、サンプル量が少量であったため、結晶配向度及び子午線方向のX線回折強度比(I/I)は測定しなかった。
[比較例1]
溶媒をジメチルホルムアミド(DMF)とし、エアギャップを5mmとし、第1洗浄槽の洗浄温度を35℃とし、加熱チャンバーでの延伸倍率を4倍とし、総延伸倍率を12倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。凝固浴に入った瞬間に白濁した繊維が形成され、顕微鏡観察からは多数のボイドが見受けられた。加熱チャンバーでの延伸倍率4倍は最大延伸倍率であり、この倍率で糸が切れはじめたため、総延伸倍率は12倍が限界であった。
このアクリル繊維の直径は38μm、引張強度は0.56GPa、弾性率は8.9GPa、伸度は13.0%、密度は1.13g/cm、結晶配向度は87.2%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は0.32であった。
[比較例2]
溶媒をジメチルアセトアミド(DMAc)とし、エアギャップを5mmとし、第1洗浄槽の洗浄温度を35℃とし、加熱チャンバーでの延伸倍率を3倍とし、総延伸倍率を9倍とした点以外は実施例1と同様の方法でアクリル繊維を得た。凝固浴に入った瞬間に白濁した繊維が形成され、顕微鏡観察からは多数のボイドが見受けられた。加熱チャンバーでの延伸倍率3倍は最大延伸倍率であり、この倍率で糸が切れはじめたため、総延伸倍率は9倍が限界であった。
このアクリル繊維の直径は40μm、引張強度は0.47GPa、弾性率は7.7GPa、伸度は16.0%、密度は1.13g/cm、結晶配向度は88.2%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は0.34であった。
[実施例7]
まず、図1に示すような乾湿式紡糸装置により、紡糸工程を行った。
ポリアクリロニトリル(極限粘度=3.90dL/g、数平均分子量=380,000、AN組成≧99%)を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド(BmimCL)に溶解し、固形分濃度が10質量%のPAN系重合体含有溶液を調製した。該PAN系重合体含有溶液を100℃まで加温し、ヒーター1で同じく100℃に加温した原液タンク2に詰め、紡糸原液とした。紡糸原液は、ノズル3の直径0.52mmの1ホールの吐出孔から0.30g/分で定量吐出され、凝固浴5を通過させることで凝固させた。凝固直後のロール4Aの巻き取り速度を2.6m/minとして、ジェットストレッチによる延伸倍率を2.2倍とした。ノズル3の吐出孔から凝固浴5の液面10までは10mmのエアギャップを設けて、乾湿式紡糸とした。凝固浴5の凝固液は2℃の水とし、続く第1洗浄槽6の洗浄液は30℃の水、第2洗浄槽7の洗浄液は60℃の水として繊維を洗浄した。
凝固浴5に入った後も繊維内外でのBmimCLと水の相互拡散は遅く、凝固浴5内では繊維は透明で、顕微鏡観察からも透明均一な繊維形状が確認された。続く第1洗浄槽6及び第2洗浄槽7にて拡散が進み、BmimCLは繊維外へと完全に拡散する様子が確認された。
第2洗浄槽7の後には、内部の雰囲気温度が60℃である乾燥機8を用意し、繊維を連続で乾燥させ、ワインダーにて巻き取った。凝固浴中のロール4Aと第2洗浄槽のロール4C間の紡糸工程の延伸倍率は3倍とした。
次に、図2に示すような加熱チャンバーにより、延伸工程を行った。
巻き取った乾燥した繊維を、長さ2mの加熱チャンバー13内で延伸した。チャンバーの温度は185℃で、この工程での延伸倍率は9倍で安定的に紡糸でき、総延伸倍率27倍を達成した。
このアクリル繊維の直径は20μm、引張強度は1.83GPa、弾性率は25.8GPa、伸度は13.6%、密度は1.18g/cm、結晶配向度は97.1%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.54であった。
[実施例8]
固形分濃度を12質量%、原液温度を120℃、加熱チャンバーの温度を190℃に、加熱チャンバー内で延伸を10倍とし、総延伸倍率を30倍とした点以外は実施例7と同様の方法でアクリル繊維を得た。このアクリル繊維の直径は22μm、引張強度は1.88GPa、弾性率は25.8GPa、伸度は12.8%、密度は1.18g/cm、結晶配向度は97.0%、子午線方向のX線回折強度比(I/I)は1.50であった。
Figure 2016145441
Figure 2016145441
1 ヒーター
2 原液タンク
3 ノズル
4A ロール(A速度)
4B ロール(B速度)
4C ロール(C速度)
4D ロール(D速度)
4E ロール(E速度)
4F ロール(F速度)
4G ロール(G速度)
5 凝固浴
6 第1洗浄槽
7 第2洗浄槽
8 乾燥機
9 ワインダー
10 凝固液または洗浄液の液面
11 繊維
12 クリール
13 加熱チャンバー

Claims (17)

  1. ビニル系重合体より形成される繊維であって、前記ビニル系重合体の極限粘度が1.3〜5.0dL/gであり、広角X線回折を使用して測定された結晶配向度が90〜98%である繊維。
  2. 広角X線回折を使用して測定された繊維の子午線方向の回折プロフィール中に観測される
    2θ=36±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I

    2θ=40±1°内に頂点をもつ回折ピーク頂点の強度(I
    との比(I/I)が0.8〜2.0であり、引張強度が0.7〜2.5GPaであり、引張弾性率が15〜40GPaである請求項1に記載の繊維。
  3. 繊維の密度が1.14〜1.22g/cmである請求項1または2に記載の繊維。
  4. 前記ビニル系重合体がポリアクリロニトリル系重合体であり、
    前記ポリアクリロニトリル系重合体は、数平均分子量が10万〜80万であり、アクリルニトリルの共重合率が90モル%以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維。
  5. 極限粘度が1.3〜5.0dL/gであるビニル系重合体をイオン液体により溶解したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維の製造に用いられる紡糸原液。
  6. 前記イオン液体のカチオン種がイミダゾリウム系である請求項5に記載の紡糸原液。
  7. 前記イオン液体のカチオン種が1,3−ジアルキルイミダゾリウム系である請求項6に記載の紡糸原液。
  8. 前記イオン液体のカチオン種が1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムのいずれか1種以上である請求項7に記載の紡糸原液。
  9. 前記イオン液体のアニオン種が塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンのいずれか1種以上からなる請求項5に記載の紡糸原液。
  10. 前記イオン液体が1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリドのいずれか1種以上である請求項5〜9のいずれか一項に記載の紡糸原液。
  11. 前記ビニル系重合体が、数平均分子量が10万〜80万のポリアクリロニトリル系重合体であり、
    前記ポリアクリロニトリル系重合体の含有量が、紡糸原液の質量に対して5〜30質量%である請求項5〜10に記載の紡糸原液。
  12. 請求項5〜11のいずれかに記載の紡糸原液の温度を20〜150℃とし、該紡糸原液を紡糸ノズルの吐出孔から吐出し、凝固液でビニル系重合体を繊維状に凝固させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維の製造方法。
  13. 紡糸方法が乾湿式紡糸法であり、吐出孔から凝固液面までの距離が1〜100mmである請求項12に記載の繊維の製造方法。
  14. 前記凝固液の水の含有率が30〜100質量%であり、凝固液の温度が0〜40℃である請求項12または13に記載の繊維の製造方法。
  15. 凝固液内から引き取られた凝固繊維を、水の含有率が30〜100質量%、温度が25〜50℃の第1洗浄液で洗浄し、その後に、水の含有率が30〜100質量%、温度が50〜100℃である第2洗浄液で洗浄し、乾燥後、加熱チャンバーで延伸する請求項12〜14のいずれかに記載の繊維の製造方法。
  16. 前記吐出孔から紡糸原液を、0.1〜49.9倍のジェットストレッチの値で吐出し、凝固浴内の最初のロールから加熱チャンバー直前のロール間での延伸倍率を1.5〜5倍とし、雰囲気温度が130〜220℃の加熱チャンバー内で延伸倍率が5〜15倍で延伸する請求項12〜15のいずれかに記載の繊維の製造方法。
  17. 前記吐出孔から紡糸原液を、50〜400倍のジェットストレッチの値で吐出し、雰囲気温度が130〜220℃の加熱チャンバー内で延伸倍率が1.1〜5倍で延伸する請求項12〜15のいずれかに記載の繊維の製造方法。
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