JP2012193468A - 炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法 - Google Patents

炭素繊維前駆体繊維およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】結晶配向度が高い耐炎化糸を得ることを可能とするために、結晶配向度および結晶性がより向上した炭素繊維前駆体繊維を提供する。
【解決手段】広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークをβ方向に測定することにより求まる結晶配向度が95.0%以上であり、かつ2θ=17°付近の該ピークの半値幅が0.50°以上であるアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。2θ=17°付近において、六方晶由来のシングルピークを有すると共に、そのピークの両側のショルダー部に斜方晶由来の2つのピークを有する炭素繊維前駆体繊維。アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液を紡糸、延伸して得られる繊維を、蒸気圧力300kPa以上、延伸倍率2倍以上でスチーム延伸し、その後、乾燥ロールの蒸気圧力500kPa以下で乾燥処理する、合計延伸倍率5倍以上の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、結晶配向度が高い耐炎化糸を提供可能なアクリロニトリル系炭素繊維前駆体繊維(以下適宜「プレカーサー」という。)およびその製造方法に関する。
炭素繊維強化複合材料が安定した物性を発現するためには、炭素繊維のグラファイト構造がほとんど乱れることなく配向していることが重要であり、そのためには炭素繊維の前駆体である耐炎化糸の結晶配向度および結晶性が高いことが重要となる。さらに耐炎化糸の前駆体であるプレカーサーの結晶配向度や結晶性を、従来よりもあらかじめ高くしておけば、更なるグラファイト構造の高配向化が見込める。しかしプレカーサーの結晶配向度や結晶性を高めようとしてプレカーサーを過剰に延伸すると、繊維を破断させたり傷などのダメージを与えたりすることがあり、高強度化や生産効率の観点からは問題が生じるため、それほど過剰な延伸は行っていないのが現状である。
従来、耐炎化糸の高配向化と結晶性の向上は、耐炎化工程で主にプレカーサーを伸長することで達成されてきた。特許文献1は高配向で高強度の耐炎化糸を得るべく耐炎化工程における延伸方法を提案している。即ち、プレカーサーのガラス転移温度が低下し続ける間は、広角X線測定(回折角17°)における配向度が86.0%より低下しないように延伸し、また、プレカーサーのガラス転移温度が変化しない又は上昇し続ける間でかつ比重が1.26以下である間は、延伸倍率0.95〜1.00の範囲で延伸する方法である。また特許文献2は耐炎化工程において、より詳細な張力制御を行うことで、高配向な耐炎化糸が得られることを開示している。
しかしながら耐炎化糸の結晶配向度は、耐炎化工程における張力の大きさと張力をかけるタイミングに非常に敏感であり、ひとたび耐炎化条件が揺らいで結晶配向度や結晶性を悪くしてしまうと、結晶配向度が悪くなる直前の値に戻すことは困難となり、高強度の炭素繊維が得られなくなることが経験的に知られている。また広角X線測定によって耐炎化糸の結晶配向度を求めるには、耐炎化工程糸を取り出して測定しなければならないという問題がある。つまり耐炎化工程における耐炎化糸の制御はワーキングレンジが非常に狭くて難しいという問題と、その製造現場における測定で耐炎化糸の性能を評価することも難しいという問題がある。
特開2005−54283号公報 特開2010−24581号公報
本発明の課題は、結晶配向度が高い耐炎化糸を得ることを可能とするために、結晶配向度および結晶性がより向上したプレカーサーを提供することおよびその製造方法を提供することにある。
前記課題は、以下の本発明〔1〕〜〔3〕によって解決される。
〔1〕広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークをβ方向に測定することにより求まる結晶配向度が95.0%以上であり、かつ2θ=17°付近の該ピークの半値幅が0.50°以上であるアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。
〔2〕広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルが、六方晶由来のシングルピークを有すると共に、そのピークの両側のショルダー部に斜方晶由来の2つのピークを有するアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。
〔3〕アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液を紡糸、延伸して得られる繊維を、蒸気圧力300kPa以上600kPa以下、延伸倍率2倍以上5倍以下でスチーム延伸し、その後、乾燥ロールの蒸気圧力500kPa以下で乾燥処理する、合計延伸倍率5倍以上20倍以下の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
本発明のプレカーサーによれば、結晶配向度が高い耐炎化糸を得ることができる。
実施例及び比較例における広角X線測定の2θ=17°付近の回折強度プロファイルを示す図である。
〔プレカーサー1〕
本発明のプレカーサーは、結晶配向度が95.0%以上であり、かつ2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークの半値幅が0.5°以上である。
プレカーサーの結晶配向度や結晶性を高める手段として、プレカーサーの主成分であるアクリロニトリル系重合体の結晶構造をより規則性の高い構造にすることが考えられる。ただしポリアクリロニトリルは特殊な方法で重合を行わない限り、立体規則性はアタクチックとなり、ポリエチレンやポリエチレンテレフタレートなどの高分子よりも結晶性は低い。よって通常のポリアクリロニトリルを主成分とする繊維を、単に延伸するだけでは、得られる繊維の結晶性は低いままである。尚、結晶配向度および回折強度プロファイルのピークの半値幅は後に記載する方法によって測定される。
〔プレカーサー2〕
また本発明のプレカーサーは、広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルが、六方晶由来のシングルピークを有すると共に、そのピークの両側のショルダー部に斜方晶由来の2つのピークを有している。
結晶性の低いポリアクリロニトリルにおいては、ポリアクリロニトリルの六方晶由来である(200)反射と(110)反射が重なるので、広角X線測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークはシングルピークとして観測される。一方、ポリアクリロニトリルの結晶性が向上して斜方晶になると、(200)反射と(110)反射が独立して観測されるため、広角X線測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークはダブルピークとなる。
従ってより高配向な耐炎化糸を提供可能なプレカーサーとしては、広角X線測定による2θ=17°付近のピークがダブルピークであることが望ましい。ただし前述の通り、もともとポリアクリロニトリルは結晶性が低いため、2θ=17°付近のピークが完全なダブルピークになる結晶構造を有するプレカーサーを得るのは難しい。
そこで本発明においては、2θ=17°付近において六方晶由来のシングルピークを有すると共に、そのピークの両側のショルダー部に斜方晶由来の2つのピークを有するプレカーサーを提供するものである。
2θ=17°付近のピークとして、シングルピーク以外にダブルピークの反射が観測されるプレカーサーは、従来品よりも高配向となっている。耐炎化、炭素化を経て炭素繊維を製造する上で、プレカーサーの結晶の規則性が高いことは、構造変化をする際に有利であり、より規則的なグラファイト構造になることが予測され、炭素繊維の高強度化が期待できる。
〔結晶配向度の測定〕
本発明における「結晶配向度」は、以下の方法で求められる値である。まず、測定の対象であるプレカーサー(繊維束)を任意の箇所で繊維長5cmに切断し、繊維軸が正確に平行になるようにして引き揃えた後、繊維の長手方向に対して垂直方向における幅が1mmで、かつ該幅方向および繊維の長手方向の両方に対して垂直な方向における厚さが均一である繊維束に整える。この繊維束の両端に酢酸ビニル/メタノール溶液を含浸させて形態が崩れないように固定したものを被測定用のサンプル繊維束とする。このサンプル繊維束についてX線回折のβ方向の測定を行う。即ち、サンプル繊維束をX線に対して垂直な面上で360°回転させながら回折強度を測定する。
具体的には、まずサンプル繊維束について、繊維方向に対して垂直方向の2θ測定を行い、ポリアクリロニトリルの(100)反射に相当する2θ=17°近傍の回折強度プロファイルを得る。そしてそのプロファイルで最高ピーク強度となっている2θの角度位置でシンチレーションカウンターを固定し、次に該サンプル繊維束を固定しているホルダーを入射X線に対して垂直な面上で360°回転させながら回折強度を測定する。その回折強度ピークの半値幅B(単位:°)を求め、数式(1)により結晶配向度(単位:%)を求める。
本発明においては、測定対象のプレカーサーの長手方向3箇所からサンプル繊維束を採取し、それぞれについて結晶配向度を求め、それらの平均値Mを「結晶配向度」の値とする。なお、測定対象の繊維束を構成するフィラメントの数が多すぎて、一度に測定できない場合は、該フィラメントを2〜3000本の範囲内で適宜の本数に分割し、それぞれについて上記の方法で結晶配向度とその各平均値m1、m2及びm3を求め、さらにこれらの値から平均値Mを算出するものとする。
また本発明においては、X線源としてリガク社製のCuKα線(Niフィルター使用)X線発生装置(商品名:TTR−III、回転対陰極型X線発生装置)を用い、シンチレーションカウンターにより検出する。出力は50kV−300mAとする。
〔回折強度ピークの半値幅〕
本発明における「2θ=17°の回折強度プロファイルのピークの半値幅」は以下の方法で求められる値である。すなわち、まず結晶配向度の測定の場合と同様にしてサンプル繊維束を作製し、該サンプル繊維束を広角X線回折試料台に固定し、透過法によって回折強度を測定して回折強度プロファイル(縦軸:回折強度、横軸:2θ(単位:°))を得る。得られたプロファイルからポリアクリロニトリルの(200)または(110)反射に相当する2θ=17°付近の回折強度のピークを検出する。そしてそのピークを15°から19°の範囲で切り出し、平滑化、バックグラウンド除去、Kα1、Kα2分離を施した後、Kα1の半値幅を読み取る。本解析には、リガク社製の解析ソフト「積分強度計算」を用いる。
〔アクリロニトリル系重合体〕
アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリルの単独重合体またはアクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体を用いることができる。共重合体の場合、炭素化を良好に行う目的で、該共重合体を構成する全構成単位のうち、アクリロニトリルの含有量は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましい。共重合成分は0.5質量%以上であることが好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーとしては、特に制限は無いが、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどに代表されるアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエンなどに代表される不飽和モノマー類;メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらは、1種でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。
アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーとして、炭素化工程における環化反応を促進する目的で、カルボン酸基を有するモノマーやアクリルアミドを用いることが好ましい。カルボン酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸やイタコン酸が好ましい。溶剤に対する溶解性の向上の観点から、アクリロニトリル系重合体を構成する全構成単位のうち、アクリルアミドから誘導される構成単位が0.5質量%以上含まれていることが好ましく、1.0質量%以上含まれていることがより好ましい。
次に、本発明のプレカーサーの製造方法について説明する。
[紡糸工程]
まず、アクリロニトリル系重合体(以下適宜「重合体」という。)を含む紡糸原液を吐出して凝固糸を得る。紡糸する際の延伸性や炭素繊維の性能発現性等の点から、重合体の重合度の指標となる極限粘度〔η〕は1.0以上が好ましく、1.4以上がより好ましい。ただし、通常は、極限粘度〔η〕は2.0を超えない範囲のものが使用される。
上記の重合体を溶剤に溶解して、紡糸原液とする。溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤や、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液が使用できる。作製される繊維中に金属を含有せず、また、工程が簡略化される点で有機溶剤が好ましい。紡糸原液を用いて紡糸した際に、緻密な凝固糸を得るために、紡糸原液中の重合体濃度は17質量%以上が好ましく、19質量%以上がより好ましい。該重合体濃度の上限は、用いる重合体の重合度にもよるが、適度な粘度および流動性を有する紡糸原液とするために、通常25質量%を超えない範囲が好ましい。
紡糸原液を用いて紡糸して凝固糸を得る紡糸法は、湿式紡糸法でも乾湿式紡糸法でもよい。通常、繊維の断面形状を安定させ、より高性能化を行う場合は乾湿式紡糸法を用いる。乾湿式紡糸法における紡糸工程は、まず前記の紡糸原液を、円形断面を有するノズル孔から空気中に紡出して2〜10mm程度の空間を通過させた後、凝固浴中に吐出して凝固糸とする。凝固浴には、紡糸原液に使用されている溶剤を含む水溶液が好適に使用される。ノズル孔より吐出される紡糸原液が所望の繊維径の凝固糸となるように、凝固浴中における溶剤の濃度を調節する。該溶剤の濃度は使用する溶剤の種類にも依存するが、例えば、ジメチルホルムアミドを使用する場合は50〜80質量%が好ましく70〜80質量%がより好ましい。
凝固浴に吐出される直前の紡糸原液の温度は、高すぎるとポリマー同士が架橋して高温ゲル化を誘発し、低すぎると粘度が上昇して紡糸できなくなるため、好ましくは40〜80℃、より好ましくは50〜70℃である。凝固浴の温度は、凝固糸の緻密性の観点からは低い方が好ましい。通常60℃以下とされ、より好ましくは20℃以上50℃以下の範囲とされる。
[湿熱延伸工程]
次いで、凝固糸を湿熱延伸する。具体的には凝固糸を延伸浴中で延伸する。凝固糸は複数の単糸(フィラメント)が集合した繊維束の形態である。延伸浴に導入される1つの繊維束を構成する単糸の数は、特に制限されないが、1000〜50000が好ましく、3000〜25000がより好ましい。延伸浴には、主に水が用いられる。延伸浴の温度は、凝固糸の単糸同士が融着しない範囲で、できるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、延伸浴の温度は60℃以上が好ましい。また、多段延伸の場合は、その最終浴の温度を90℃以上とすることが好ましい。延伸浴の温度の上限は特に制限はない。
湿熱延伸倍率は、高すぎると繊維内部構造の破壊が起こりやすくなる。この破壊は炭素繊維の欠陥の元となり、炭素繊維性能の低下を招く。かかる繊維内部構造の破壊を防止するうえでは湿熱延伸倍率を低くすることが好ましい。その場合、生産性を低下させないためには、乾燥緻密化後の延伸倍率をより大きくする必要が生じる。しかしながら、そうすると紡糸工程の通過性が悪くなり、紡糸工程の安定性のために紡糸速度を遅くせざるを得ないなど、かえって生産性が低下する可能性がある。これらのことから、湿熱延伸倍率は1.5倍以上5倍以下にすることが好ましく、さらには2倍以上4倍以下がより好ましい。
[油剤処理工程]
湿熱延伸後の繊維束は、必要に応じて洗浄した後、公知の方法によって油剤処理を施してもよい。例えば、油剤を含有する水溶液中に繊維束を浸漬させて、繊維表面と油剤とを接触させる。油剤の種類は特に限定されないが、アミノシリコーン系界面活性剤が好適に使用される。
[乾燥緻密化工程]
この後、繊維束を加熱して乾燥緻密化を行う。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超える温度から選択する。実質的には、繊維束自体の状態が含水状態から乾燥状態へと変化することによってガラス転移温度が異なることもあるため、温度が100〜200℃程度の加熱ロールに繊維束を接触させる方法で乾燥緻密化を行うことが好ましい。
[スチーム延伸工程]
本発明では乾燥緻密化後の延伸方法として、加圧スチーム中で延伸するスチーム延伸法が用いられる。スチーム延伸法は、水の可塑化効果により、繊維における分子鎖の可動状態をより大きくできる点で好ましい。
スチーム延伸工程における延伸倍率は、スチーム延伸機の前後にあるロールの速度の比として求められる。また湿熱延伸工程における延伸倍率とスチーム延伸工程における延伸倍率を合わせた合計延伸倍率は、両者の延伸倍率の値をかけ合わせて求められる。合計延伸倍率が低すぎると繊維束の配向が不充分となり炭素繊維束の性能が低下するおそれがある。一方、高すぎると糸切れが生じやすくなり生産上あまり好ましくない。これらの観点から、合計延伸倍率は5倍以上20倍以下が好ましく、7倍以上15倍以下がより好ましい。
スチーム延伸工程における延伸倍率は、合計延伸倍率が好ましい範囲となるように、湿熱延伸工程における延伸倍率に応じて設定することが好ましい。スチーム延伸工程における延伸倍率は、例えば2倍以上5倍以下の範囲が好ましく、2倍以上4倍以下の範囲がより好ましい。
加圧スチームの圧力は、300kPa以上600kPa以下が好ましく、400kPa以上500kPa以下がより好ましい。加圧スチーム圧力が300kPa以上であることで、可塑化効果が十分に得られ、600kPa以下であることで、バタつきによるダメージを抑制することができる。加圧スチーム圧力が300kPa未満であると、スチーム延伸機内で可塑化効果が不十分となり繊維が切れる可能性がある。また加圧スチーム圧力が600kPaを超えるとバタつきが大きくなり、繊維にダメージを与える可能性がある。
[乾燥工程]
スチーム延伸を施した繊維は、その後乾燥ロールにて乾燥する。この乾燥ロールの蒸気圧力は100kPa以上500kPa以下であることが好ましく、200kPa以上400kPa以下であることがより好ましい。乾燥ロールの蒸気圧力が100kPa以上であることで、繊維が十分に乾燥し、500kPa以下であることで過剰な加熱による結晶相転移などの構造変化を抑制することができる。乾燥ロールの蒸気圧力が100kPa未満の場合、繊維が十分に乾燥しないので好ましくない。また乾燥ロールの蒸気圧力が500kPaを越える場合、繊維は乾燥した上にさらに加熱されることにより結晶構造の相転移が起こり、その結果、結晶の規則性が低下すると共に、結晶配向度が大きく低下するので好ましくない。このような過程を経て、本発明のプレカーサーが得られる。
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
アクリロニトリルとメタクリル酸を水系懸濁重合により重合し、アクリロニトリル単位/メタクリル酸単位=98質量%/2質量%のアクリロニトリル系重合体を得た。この重合体をジメチルホルムアミドに溶解して濃度23.5質量%の紡糸原液を調製した。この紡糸原液を径0.13mm、数2000のノズル孔を配置した紡糸口金から空気中に紡出して約4mmの空間を通過させた後、15℃に調温した79.5質量%ジメチルホルムアミドを含有する水溶液を満たした凝固液中に吐出して凝固させ、凝固糸を引取った。
次いで空気中で1.1倍から1.3倍延伸後、60℃に調温した30質量%ジメチルホルムアミドを含有する水溶液を満たした延伸槽中にて1.1倍から2.9倍延伸した。延伸後、溶剤を含有している繊維束を清浄な水で洗浄し、次に、95℃の熱水中で1.2倍から2.2倍の延伸を行った。引き続き、繊維束にアミノ変性シリコーンを主成分とする油剤を1.1質量%となるよう付与し170℃の複数の乾熱ロールを用いて乾燥緻密化した。
乾燥緻密化後の繊維束を、加圧スチーム圧力450kPaにて2.6倍延伸し、その後、蒸気圧力200kPaの乾燥ロールにて十分に乾燥を行い、巻き取って繊維束(プレカーサー)を得た。この繊維束のフィラメントの繊度は、0.77dtexであった。尚、トータルの延伸倍率は10.0倍であった。
得られた繊維の広角X線測定による2θ=17°における配向度測定を行うと、その配向度は95.7%であり、非常に高配向であった。また広角X線測定による2θ=17°のピークの半値幅は0.57°であり、さらにピークの両側のショルダー部に2つのピークも確認された(図1の(1)参照)。
(実施例2)
スチーム延伸後の乾燥ロールの蒸気圧力を300kPaとしたこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸した。得られたプレカーサーの配向度は95.2%であり、2θ=17°のピークの半値幅は0.59°であった。またピークの両側のショルダー部に2つのピークも確認された。
(比較例1)
スチーム延伸後の乾燥ロールの蒸気圧力を700kPaとしたこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸した。得られたプレカーサーの配向度は94.2%と低く、また2θ=17°のピークの半値幅は0.44°であった。ピークの両側に2つのピークは確認されなかった(図1の(2)参照)。
(比較例2)
スチーム延伸後の乾燥ロールの蒸気圧力を900kPaとしたこと以外は、実施例1と同じ条件で紡糸した。得られたプレカーサーの配向度は94.0%と低く、また広2θ=17°のピークの半値幅は0.46°であった。ピークの両側に2つのピークは確認されなかった(図1の(3)参照)。

Claims (5)

  1. 広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルのピークをβ方向に測定することにより求まる結晶配向度が95.0%以上であり、かつ2θ=17°付近の該ピークの半値幅が0.50°以上であるアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。
  2. 広角X線回折測定にて観測される2θ=17°付近の回折強度プロファイルが、六方晶由来のシングルピークを有すると共に、そのピークの両側のショルダー部に斜方晶由来の2つのピークを有するアクリロニトリル系重合体からなる炭素繊維前駆体繊維。
  3. アクリロニトリル系重合体が0.5質量%以上の共重合成分を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の炭素繊維前駆体繊維。
  4. 乾湿式紡糸法にて製造されることを特徴とする請求項3に記載の炭素繊維前駆体繊維。
  5. アクリロニトリル系重合体を含有する紡糸原液を紡糸、延伸して得られる繊維を、蒸気圧力300kPa以上600kPa以下、延伸倍率2倍以上5倍以下でスチーム延伸し、その後、乾燥ロールの蒸気圧力500kPa以下で乾燥処理する、合計延伸倍率5倍以上20倍以下の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
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