JP2010024581A - 耐炎化繊維及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐炎化過程の張力の大きさとかけるタイミングを精密に制御することで、高結晶配向度であり且つ高結晶性の耐炎化繊維を得る。
【解決手段】ポリアクリロニトリル系繊維を耐炎化処理して得られる耐炎化繊維であって、繊維密度が1.33g/cm以上であり、広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度が80%以上である、耐炎化繊維は、耐炎化反応の開始から、繊維の広角X線測定による2θ=17°のピーク強度が最大値を迎えるまでに、繊維にかかる張力を100〜150mg/dtexとし、該ピーク強度が最大値を経た後、繊維密度が1.30g/cmに達するまでの間の少なくとも一部に、繊維にかかる張力を350mg/dtex以上とすることにより得られる。
【選択図】図1

Description

本発明は、本発明は、高強度・高弾性率を有する炭素繊維を製造可能な耐炎化繊維及びその製造方法に関する。
炭素繊維強化複合材料が安定した物性を発現するためには、炭素繊維のグラファイト構造が乱れなく配向していることが重要であり、そのためにはその前駆体となる耐炎化糸の結晶配向度および結晶性が高いことが重要となる。特に広角X線測定による2θ=17°のポリアクリロニトリル(100)反射に反映される結晶構造の指標である結晶配向度(ここで(100)とは結晶方位を示している)は、経験的に炭素繊維の物性と密接に関連することが知られている。また、この結晶配向度や結晶性を炭素繊維の製造過程で一旦低くしてしまうと、元に戻すことは困難となり、炭素繊維物性は発現しなくなる。
なお、結晶配向度が高いとは、後述の式(1)より算出される値が大きくなることであり、結晶性が高いとは、所定の密度となった耐炎化糸において、次の炭素化工程でグラファイト網面形成が可能となる2θ=17°のピーク強度が大きいこと、具体的な数値を用いて表すならば、2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(B/A)が大きいことをいう。
耐炎化繊維の結晶配向度は、耐炎化過程の張力の大きさとかけるタイミングに非常に敏感である。また結晶性は結晶配向度と密接な関係があり、結晶配向度の低下に伴い結晶性は著しく低下する。高結晶配向度を維持できれば、それに伴い高結晶性の耐炎化繊維が得られる可能性がある。
特許文献1では繊維密度が1.22g/cmに達するまでは張力が50〜200mg/dになるように伸張を加えて耐炎化処理することで高性能な炭素繊維が得られることが開示されている。
しかしながら特許文献1では繊維密度が1.22g/cmに達した後の工程の張力は最大で250mg/d(277.8mg/dtex)の張力しかかけておらず、これでは最終的に高結晶配向度の耐炎化繊維を得ることは困難である。
特開平9−143823号公報
本発明は、耐炎化過程の張力の大きさとかけるタイミングを精密に制御することで、高結晶配向度であり且つ高結晶性の耐炎化繊維を得ること及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の第一の主旨は、ポリアクリロニトリル系繊維を耐炎化処理して得られる耐炎化繊維であって、繊維密度が1.33g/cm以上であり、広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度が80%以上である、耐炎化繊維にある。
本発明の第二の主旨は、ポリアクリロニトリル系繊維を耐炎化処理して耐炎化繊維を得る製造方法であって、
耐炎化反応の開始から、繊維の広角X線測定による2θ=17°のピーク強度が最大値を迎えるまでに、繊維にかかる張力を100〜150mg/dtexとし、
該ピーク強度が最大値を経た後、繊維密度が1.30g/cmに達するまでの間の少なくとも一部に、繊維にかかる張力を350mg/dtex以上とする、
耐炎化繊維の製造方法にある。
本発明によれば、高配向度であり、結晶性の高い耐炎化繊維が得られる。
ポリアクリロニトリル系繊維の耐炎化処理において、適切な一定張力を付与した状態で昇温させながら前記2θ=17°のピーク変化をXRD測定にて追跡すると、耐炎化反応が始まり前記ピーク強度が増大し始めてからはそのピーク形状もシャープになっていき、やがて最大値を迎え、そこを超えると急激に前記ピーク強度が小さくなってくことが確認できる。
前記ピーク強度の最大値は、密度が1.19〜1.21の範囲で確認される。この付与する張力は小さすぎると前記ピーク強度が増加する現象は起こらず、大きすぎると測定途中で繊維が切れてしまう。これは耐炎化初期の段階で適切な張力付与を行えば、環化反応前後に耐炎化繊維がさらに高結晶配向度・高結晶性になることを意味している。
また前記ピーク強度が最大値をすぎた時点で、張力状態が一定であるにも関わらず急激に前記ピーク強度が小さくなる場合、環化反応あるいは脱水素反応が本格的に始まる際に繊維にかかる張力が不十分であることを意味する。すなわちその過程でなるべく高結晶配向度、高結晶性を維持するためにより高い張力が必要となる。ただし密度が1.30g/cmを超えたところでは、繊維が脱水素反応をしてラダー化している箇所が多くなっており、その部分はかなり安定化しているため、この時点で繊維にかかる張力を緩和しても未反応の部分の結晶配向度がそれ程低下しない。
本発明における「結晶配向度」は、以下の方法で求められる値である。
まず、測定の対象である繊維束を任意の箇所で繊維長5cmに切断し、繊維軸が正確に平行になるようにして引き揃えた後、繊維の長手方向に対して垂直方向における幅が1mmで、かつ該幅方向および繊維の長手方向の両方に対して垂直な方向における厚さが均一である繊維束に整える。この繊維束の両端に酢酸ビニル/メタノール溶液を含浸させて形態が崩れないように固定したものを被測定用のサンプル繊維束とする。該サンプル繊維束についてX線回折のβ測定を行う。
X線回折解析のβ測定とは、サンプル繊維束をX線に対して垂直な面上で360°回転させながら回折強度を測定する方法である。具体的には、まずアクリロニトリル系繊維束について、繊維方向に対して垂直方向の2θ測定を行い、ポリアクリロニトリル(100)反射に相当する2θ=17°近傍の回折プロファイルを得る。そしてそのプロファイルで最高ピーク強度となっている2θの角度位置でシンチレーションカウンターを固定し、次に該サンプル繊維束を固定しているホルダーを入射X線に対して垂直な面上で360°回転させながら回折強度を測定する。その回折強度ピークの半値幅をB(単位:°)を求め、下式(1)により結晶配向度(単位:%)を求める。
結晶配向度(単位:%)={(180−B)/180}×100・・・(1)
結晶配向度の測定は、測定対象の繊維束の長手方向において3個のサンプル繊維束を採取し、該3個のサンプル繊維束についてそれぞれ結晶配向度を求め、それらの平均値を算出する。この平均値を本発明における「結晶配向度」の値とする。
なお、測定対象の繊維束を構成するフィラメントの数が多すぎて、一度にXRD測定が行えない場合は、該フィラメントを2〜3000本の範囲内で適宜の本数に分割し、それぞれについて上記の方法で結晶配向度を求め、それらの平均値を算出するものとする。
本発明における「2θ=17°の回折ピーク強度および2θ=25°の回折ピーク強度」は以下の方法で求められる値である。すなわち、まず前記[結晶配向度]の測定と同様にして被測定用のサンプル繊維束を作製し、該サンプル繊維束を広角X線回折試料台に固定し、透過法によって回折強度を測定して回折強度プロファイル(縦軸:回折強度、横軸:2θ(単位:°)を得る。得られたプロファイルからポリアクリロニトリル(100)反射に相当する2θ=17°および2θ=25°近傍の回折強度ピークトップを検出し、そのそれぞれをピークとした2つの波形に分離し、それらの波形の最大値をピーク強度とする。
本発明における「2θ=17°のピーク強度が最大となる点」は以下の方法で求められる値である。すなわち、まずX線測定用の試料高温炉に、測定対象の繊維束が固定できて且つ張力が付与できる試料ホルダーを取り付ける。繊維束の本数は1000本程度が好ましい。その繊維束に任意の張力を付与しながら昇温していき、その過程をin−situでXRD測定する。昇温速度は炉に入っていく実際の繊維束を想定して、230℃付近までは100℃/min程度で昇温して、その後は段階的に10℃ずつ昇温しては、その温度で5〜10分程度ホールドし、トータル処理時間が30〜60分になるようにする。その過程の中で2θ=17°のピーク強度の変化を追跡し、最もピーク強度が大きくなる時間や温度を確認する。
なお、「2θ=25°の回折ピーク強度」は、ポリアクリロニトリル系重合体が環化反応、脱水素反応を起こして平面構造になり、約3.5Åの間隔で分子鎖が規則正しく並んでいる量を表す指標となる。一方、「2θ=17°の回折ピーク強度」は、約5.3Åの間隔で分子鎖が規則正しく並んでいる量を表しており、次の炭素化工程で分子鎖が動いて約3.5Åの間隔に整列しなおすことで、新たなグラファイト網面形成を行うことができる量を表している。従って2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(B/A)が大きいことは、繊維内の全分子鎖に対してグラファイト網面形成可能な分子鎖が多いということになり、耐炎化糸としての結晶性が高いことを意味する。なかでもこの値が2.0よりも大きいと、より多くのグラファイト網面形成可能な分子鎖が存在していることを意味している。
次に本発明の耐炎化繊維の製造方法について説明する。
[紡糸工程]
まずアクリロニトリル系ポリマーを含む紡糸原液を紡浴中に吐出して、凝固糸を得る。
アクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルのホモポリマー又は他のモノマーとの共重合体を用いることができる。共重合体の場合、炭素化を良好に行う目的で、該共重合体を構成する全構成単位のうち、アクリロニトリルから誘導される構成単位の含有量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましい。
アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーとしては、特に制限は無いが、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどに代表されるアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどに代表されるメタクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、スチレン、ビニルトルエンなどに代表される不飽和モノマー類;メタリルスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸及びこれらのアルカリ金属塩;などが挙げられる。これらは、1種でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。
アクリロニトリルと共重合可能な他のモノマーとして、炭素化工程における環化反応を促進する目的で、カルボン酸基を有するモノマーやアクリルアミドを用いることが好ましい。カルボン酸基を有するモノマーとしては、メタクリル酸やイタコン酸が好ましい。溶剤に対する溶解性の向上の観点から、全構成単位のうち、アクリルアミドから誘導される構成単位の含有量は1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましい。
アクリロニトリル系ポリマーは、溶液重合、懸濁重合など公知の重合方法により得ることができる。重合により得られたアクリロニトリル系ポリマーを含む反応生成物に対して、未反応モノマーや重合触媒残渣、その他の不純物類を極力除く処理を施すことが好ましい。
また、紡糸する際の延伸性や炭素繊維の性能発現性等の点から、アクリロニトリル系ポリマーの重合度は、極限粘度〔η〕が1.0以上であること好ましく、1.4以上であることがより好ましい。極限粘度〔η〕は2.0を超えないことが好ましい。
上記のアクリロニトリル系ポリマーを溶剤に溶解して、紡糸原液とする。溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤や、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液が使用できる。作製される繊維中に金属を含有せず、また、工程が簡略化される点で有機溶剤が好ましい。有機溶剤の中でも緻密性が高い凝固糸が得られるという点で、ジメチルアセトアミドを溶剤に用いることがより好ましい。
紡糸原液を紡糸した際に、緻密な凝固糸を得るために、紡糸原液中のアクリロニトリル系ポリマー濃度は17質量%以上が好ましく、19質量%以上がより好ましい。該アクリロニトリル系ポリマー濃度の上限は、用いるアクリロニトリル系ポリマーの重合度にもよるが、適度な粘度および流動性を有する紡糸原液とするために、通常25質量%を超えない範囲が好ましい。
紡糸原液を紡糸して凝固糸を得る紡糸法は、湿式紡糸法でも乾湿式紡糸法でもよい。通常、より生産性を高くしたい場合は湿式紡糸法が用いられる。湿式紡糸法における紡糸工程は、まず前記の紡糸原液を、円形断面を有するノズル孔より凝固液中に吐出して凝固糸とする。ノズル孔の数については特に制限はないが、一般的に2000〜50000個の孔を有するノズルが用いられる。ノズル孔の直径は、大きすぎると凝固浴に吐出した際に繊維内外で凝固斑が生じ、小さすぎると少しの延伸が加わるだけで凝固浴切れを起こしてしまうため、通常は0.03〜0.10mmが好ましく、0.45〜0.80mmがより好ましい。
凝固液には、紡糸原液に使用されている溶剤を含む水溶液が好適に使用される。ノズル孔より吐出される紡糸原液が所望の繊維径の凝固糸となるように、凝固液中における溶剤の濃度を調節する。該溶剤の濃度は使用する溶剤の種類にも依存するが、例えば、ジメチルアセトアミドを使用する場合は50〜80質量%が好ましく、60〜70質量%がより好ましい。
凝固液に吐出される直前の紡糸原液の温度は、高すぎるとポリマー同士が架橋して高温ゲル化を誘発し、低すぎると粘度が上昇して紡糸できなくなるため、好ましくは40〜80℃。より好ましくは50〜70℃である。凝固液の温度は、凝固糸の緻密性の観点からは低い方が好ましい。しかしながら、湿式紡糸の場合、凝固液の温度を下げすぎると凝固糸の引き取り速度が低下し、全体的な生産性が低下する点を考慮して、通常50℃以下とされ、より好ましくは20℃以上40℃以下の範囲とされる。
[湿熱延伸工程]
次いで、凝固糸を湿熱延伸する。具体的には凝固糸を延伸浴中で延伸する。凝固糸は複数の単糸(フィラメント)が集合した繊維束の形態で延伸浴に導入される。1つの繊維束を構成する単糸の数は、特に制限されないが、1000〜50000が好ましく、3000〜25000がより好ましい。延伸浴には、主に水が用いられる。延伸浴の温度は、凝固糸の単糸同士が融着しない範囲で、できるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、延伸浴の温度は60℃以上が好ましい。また、多段延伸の場合は、その最終浴を90℃以上とすることが好ましい。延伸浴の温度の上限は特に制限はない。
湿熱延伸倍率は、凝固糸の引き取り速度に対する、湿熱延伸後に乾燥緻密化を行う際の引き取り速度との比により求められる。湿熱延伸倍率が高すぎると繊維内部構造の破壊が起こりやすくなる。この破壊は炭素繊維の欠陥の元となり、炭素繊維性能の低下を招く。かかる繊維内部構造の破壊を防止するうえでは湿熱延伸倍率を低くすることが好ましい。その場合、生産性を低下させないためには、乾燥緻密化後の延伸倍率をより大きくする必要が生じ、そうすると紡糸工程の通過性が悪くなり、紡糸工程の安定性のために紡糸速度を遅くせざるを得ないなど、かえって生産性が低下する可能性がある。これらのことから、湿熱延伸倍率は1.5倍以上6倍以下にすることが好ましく、さらには2倍以上5倍以下がより好ましい。
[油剤処理工程]
湿熱延伸後の繊維束は、必要に応じて洗浄した後、公知の方法によって油剤処理を施してもよい。例えば、油剤を含有する水溶液中に繊維束を浸漬させて、繊維表面と油剤とを接触させる。油剤の種類は特に限定されないが、アミノシリコーン系界面活性剤が好適に使用される。
[乾燥緻密化工程]
この後、繊維束を加熱して乾燥緻密化を行う。乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超える温度から選択する。実質的には、繊維束自体の状態が含水状態から乾燥状態へと変化することによってガラス転移温度が変化することもあるため、温度が100〜200℃程度の加熱ローラーに繊維束を接触させる方法で乾燥緻密化を行うことが好ましい
[スチーム延伸工程]
乾燥緻密化後の延伸方法としては、加圧スチーム中で延伸するスチーム延伸法を用いることができる。スチーム延伸法は、水の可塑化効果により、繊維における分子鎖の可動状態をより大きくできる点で好ましい。スチーム延伸工程における延伸倍率Pは、スチーム延伸機の前後にあるロールの速度の比として求められる。また前記湿熱延伸工程における延伸倍率とスチーム延伸工程における延伸倍率Pを合わせた合計延伸倍率は、両者の延伸倍率の値を掛け合わせて求められる。
合計延伸倍率が低すぎると繊維束の配向が不充分となり炭素繊維束の性能が低下するおそれがある。一方、高すぎると糸切れが生じやすくなり生産上あまり好ましくない。これらの観点から、合計延伸倍率は5倍以上20倍以下が好ましく、7倍以上15倍以下がより好ましい。スチーム延伸工程における延伸倍率Pは、合計延伸倍率が好ましい範囲となるように、前記湿熱延伸工程における延伸倍率に応じて設定することが好ましい。スチーム延伸工程における延伸倍率Pは、例えば2倍以上5倍以下の範囲が好ましく、3倍以上4倍以下の範囲がより好ましい。
加圧スチームと接触する直前の繊維束の温度は、80℃以上120℃以下が好ましく、90℃以上100℃以下がより好ましい。したがって乾燥緻密化工程後、必要に応じて繊維束を例えば空冷により冷却する。加圧スチームと接触する直前の繊維束の温度が80℃未満であると、スチーム延伸機内で温度が上がりきらないうちに延伸されるために望ましい延伸状態が得られない場合がある。一方、120℃を超えると繊維束の温度が高すぎるため、スチーム延伸機内で可塑化効果を引き起こす水が繊維内に充分に拡散しなくなる場合がある。
以上の工程によりアクリロニトリル系繊維束が得られる。
[耐炎化繊維束およびその製造方法]
上記アクリロニトリル系繊維束を次のような耐炎化処理を行うことで、高結晶配向度・高結晶性耐炎化繊維速を得ることができる。
通常アクリロニトリル系繊維の密度は1.19g/cmである。耐炎化処理は、200〜300℃の酸化性雰囲気中、緊張あるいは延伸条件下で、密度が好ましくは1.25g/cm以上、より好ましくは1.32g/cm以上になるまで加熱する処理方法である。耐炎化処理時間は30〜90分程度が好ましく、繊維構造の変化に合わせて伸張率や張力を精度良く制御するために40〜60分であることがさらに好ましい。耐炎化処理が不充分であると、この後に前炭素化処理する際に単糸間接着などを起こしやすくなる。酸化性雰囲気としては、空気、酸素、二酸化窒素など、公知の酸化性雰囲気を採用できるが、経済性の面から空気が好ましい。
この耐炎化工程において、まず2θ=17°のピーク強度が最大値をとる点を、昇温過程にて50〜200mg/dtexの間で張力を付与したin−situ XRD測定にて求めておく。トータルの耐炎化処理時間を45分と想定して、図1のような温度プロファイルとなるようにして測定を行うと、このピーク強度の最大値は測定開始から8〜10分程度(図1での第1ゾーンを出る直前)のところに現れた。その間は収縮しない程度の張力である100〜150mg/dtexを付与しておく必要がある。張力が100mg/dtex以下の場合、繊維は収縮し、その後いくら延伸しても高配向耐炎化繊維は得られない。一方150mg/dtex以上の張力の場合、耐炎化処理開始と同時に繊維は伸張し始め、やがて切れてしまう。
また耐炎化処理における繊維密度は、図1の温度プロファイルの場合にほぼ直線的に増加し、耐炎化糸の密度が1.30g/cmを超えるのは、耐炎化処理の終盤の8〜10分程度(図1での第4ゾーンを出る直前)に相当する。ここで前記ピーク強度が最大値を経た後、繊維密度が1.30g/cmに達するまでの間の少なくとも一部(図1の第2〜第4ゾーンに相当)に、繊維にかかる張力を350mg/dtex以上とすることで、結晶配向度や結晶性の向上が行えることになる。この張力をかけるタイミングは上記の範囲内であればいつでも良いが、通常前半ゾーンでは処理温度が低く、高張力をかけると繊維が切れてしまう可能性がある。従って繊維にかかる張力は、前記ピーク強度が最大値を経た後、徐々に増加させていくことが好ましい。
本発明の製造方法によれば、結晶配向度が高く高結晶性の耐炎化繊維が得られる。したがって該耐炎化繊維をさらに焼成して得られる炭素繊維束は高強度・高弾性率物性を発現することができる。
次に本発明の実施例を挙げてより具体的に説明する。
<実施例1>
アクリロニトリル96質量%、メタクリル酸1質量%、アクリルアミド3質量%を共重合したアクリロニトリル系重合体(極限粘度〔η〕=1.7)を、ジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液(重合体濃度:21.2質量%、温度:60℃)を調製した。この紡糸原液を、直径0.06mm、孔数6000のノズル孔を有する口金を用いて、温度38℃、濃度67質量%のジメチルアセトアミド水溶液中に吐出して、凝固糸とした。この凝固糸を、まず65℃の温水中で延伸し、続いて95℃の温水中で延伸する多段延伸法により湿熱延伸した。湿熱延伸倍率は3.4倍とした。次いで、湿熱延伸後の繊維束を、アミノシリコーン系油剤の1質量%を含む水溶液中に浸漬して油剤処理を施した後、180℃の加熱ローラーに接触させて乾燥緻密化した。続いてスチーム圧が220kPaのスチーム延伸機内で延伸してアクリロニトリル系繊維束を得た。このスチーム延伸工程における延伸倍率Pは3.0倍とし、スチーム延伸機に導入される直前の繊維束の温度は100℃前後であった。湿熱延伸倍率とスチーム延伸倍率Pを合わせた合計延伸倍率は3.4×3で求められ、10.2倍である。
得られたアクリロニトリル系繊維束について、まず前述のin−situ XRD測定を行うことにした。温度プロファイルは図1に示してある通りで、まず室温から230℃までは100℃/minで昇温する。その温度で7分間ホールドした後に10℃/minで240℃に昇温して、以後10℃毎にこの操作を繰り返して270℃まで行う。本測定においては、X線源としてリガク社製のCuKα線(Niフィルター使用)X線発生装置(商品名:TTR−III、回転対陰極型X線発生装置)を用いた。また試料高温炉はリガク社製のSHT−1500を用い、試料ホルダー部は繊維が固定できて任意の張力が賦与できるように改造を施した。回折強度プロファイルはリガク社製の検出器(D-TEX25)を用いて得た。また出力は50kV−300mAであった。
XRD測定にて、2θ=17°のピーク強度が最大となる時間を確認すると約8分後という結果になった。そこで実際の耐炎化処理は、各温度設定を第1ゾーンから第5ゾーンでそれぞれの温度が230℃から270℃まで10℃毎高くなるように設定し、各ゾーンの処理時間をそれぞれ8分として行うことにした。このようにすると2θ=17°のピーク強度が最大となる瞬間は、第1ゾーン内の終盤であると推測できる。また密度はin−situ XRD測定の途中段階で繊維を取り出して測定し、第1ゾーン出に相当する箇所では1.22g/cm、第4ゾーン出に相当する箇所では1.31g/cmであることを確認し、in−situ XRD測定にて実際の耐炎化処理での密度上昇と同等の結果が得られていることを確認した。
そこで第1ゾーンでは、150mg/dtexの張力を付与し、第2ゾーン、第3ゾーン、第4ゾーンではそれぞれ200mg/dtex、300mg/dtex、400mg/dtexと張力を増加させた。第5ゾーンでは100mg/dtexの張力を付与した。最終的な密度は1.34g/cmであった。
広角X線測定のため、X線源としてリガク社製のCuKα線(Niフィルター使用)X線発生装置(商品名:Ru−200B、回転対陰極型X線発生装置)を用い、回折強度プロファイルの測定はリガク社製のゴニオメータを用い、シンチレーションカウンターにより検出した。出力は40kV−100mAとした。この測定による2θ=17°における結晶配向度は80%であった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(B/A)が2.3であった。
<実施例2>
第1ゾーンでの張力を100mg/dtexとした以外は、実施例1と同様にして耐炎化繊維の製造を行った。最終的な繊維密度は1.33g/cmであった。
広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度測定を行うと、その結晶配向度は81%でであった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(B/A)が2.8であった。
<比較例1>
第1ゾーンでの張力を50mg/dtexとした以外は、実施例1と同様にして耐炎化繊維の製造を行った。最終的な繊維密度は1.34g/cmであった。
広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度測定を行うと、その結晶配向度は74%であった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(=B/A)は1.4であった。
<比較例2>
第1ゾーンでは50mg/dtexの張力付与、第2ゾーン〜第5ゾーンでは300mg/dtexの張力付与とした以外は、実施例1と同様にして耐炎化繊維の製造を行った。最終的な密度は1.34g/cmであった。
広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度測定を行うと、その結晶配向度は73%であであった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(=B/A)は1.2であった。
<比較例3>
第1ゾーンでの張力を100mg/dtexとした以外は、比較例2と同様にして耐炎化繊維の製造を行った。最終的な繊維密度は1.35g/cmであった。
広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度測定を行うと、その結晶配向度は77%であった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(=B/A)は1.5であった。
<比較例4>
第1ゾーンでの張力を150mg/dtexとした以外は、比較例2と同様にして耐炎化繊維の製造を行った。最終的な繊維密度は1.35g/cmであった。
広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度測定を行うと、その結晶配向度は78%であった。また広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(=B/A)は1.6であった。
<比較例5>
第1ゾーンでの張力を200mg/dtexとした以外は、比較例2と同様にして耐炎化繊維の製造を行おうとしたが、処理中に繊維が伸びて切れてしまった。
上記の結果をまとめて表1に示す。以上、実施例及び比較例から、本願発明の製造方法により得られた耐炎化繊維は結晶配向度及び結晶性が高いことがわかる。
Figure 2010024581
本発明の耐炎化繊維の製造方法における耐炎化処理プロファイルの一例を示す模式図である。

Claims (3)

  1. ポリアクリロニトリル系繊維を耐炎化処理して得られる耐炎化繊維であって、繊維密度が1.33g/cm以上であり、広角X線測定による2θ=17°における結晶配向度が80%以上である、耐炎化繊維。
  2. 広角X線測定による2θ=25°のピークAと2θ=17°のピークBの強度比(B/A)が2.0以上である請求項1に記載の耐炎化繊維。
  3. ポリアクリロニトリル系繊維を耐炎化処理して耐炎化繊維を得る製造方法であって、
    耐炎化反応の開始から、繊維の広角X線測定による2θ=17°のピーク強度が最大値を迎えるまでに、繊維にかかる張力を100〜150mg/dtexとし、
    該ピーク強度が最大値を経た後、繊維密度が1.30g/cmに達するまでの間の少なくとも一部に、繊維にかかる張力を350mg/dtex以上とする、
    耐炎化繊維の製造方法。
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