JP2014209028A - Vリブドベルト - Google Patents

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Abstract

【課題】摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルトで、ドライ状態での摩擦伝動面の摩擦係数の増大と、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数の低下を抑制し、ドライ状態とウェット状態での摩擦係数の差を十分に小さくすることである。
【解決手段】摩擦伝動面を被覆する編布6をポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸で編成し、ポリエステル系複合糸を嵩高加工糸とし、セルロース系天然紡績糸の編成比率をポリエステル系複合糸の編成比率以上とすることにより、嵩高加工糸の嵩高さによってベルト本体のゴムが摩擦伝動面に滲み出さないようにして、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数増大とウェット状態での摩擦係数低下を防止するとともに、吸水性のあるセルロース系天然紡績糸の編成比率を多くして、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数低下を防止し、ドライ状態とウェット状態での摩擦係数の差を十分に小さくした。
【選択図】図2

Description

本発明は、摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルトに関する。
自動車のエアコンプレッサやオルタネータなどの補機は、エンジンを駆動源としてベルト伝動装置を用いて駆動されている。このベルト伝動装置の伝動ベルトには、ベルト背面を形成する伸張層と、伸張層の片面側に設けられた圧縮層と、伸張層と圧縮層との間に埋設されたベルト周長方向に延びる心線とを備え、圧縮層にプーリとの摩擦伝動面となるベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部を形成したVリブドベルトが多く用いられている。
前記Vリブドベルトには、リブ部の形成を研磨加工で行うものと、金型で成形するものとがある。リブ部を金型で成形するものは、研磨工程を必要とせず、後述する布帛を成形時に摩擦伝動面に固着できるので、製造工程がシンプルになり、かつ、ベルト本体を形成するゴム等の歩留りも大幅に向上させることができる。
近年、自動車分野では静粛化についての厳しい要求があり、補機駆動用のVリブドベルトについても発音を抑制する対策が要請されている。このベルトの発音の原因としては、ベルト速度の大きな変動や高負荷条件で発生するプーリとのスティックスリップがある。雨天走行時等には、エンジンルーム内に水が入り、ベルトとプーリ間に水が付着してベルトの摩擦係数が低下し、スリップ音が発生することもある。
また、補機駆動用のVリブドベルトは、天候に関わらず、常に高い動力伝達性能を有することが求められる。摩擦伝動面にゴムが露出していると、ドライな状態では摩擦係数が高い問題があり、ウェットな状態になると界面に形成される水膜によって摩擦係数が著しく低下するため、雨天走行時などにエンジンルーム内に水が入ると、ベルトとプーリ間に水が付着してベルトの摩擦係数が低下し、スティックスリップ音が発生するという問題があった。また、ゴムは経時劣化が生じやすい問題もあった。
このような問題に対して、摩擦伝動面を形成する圧縮層に短繊維を配合し、短繊維を摩擦伝動面に露出させる手段や、摩擦伝動面を繊維で形成した布帛で被覆する手段が知られている。摩擦伝動面を布帛で被覆する手段は、リブ部を金型で成形するVリブドベルトでは、成形時に布帛を摩擦伝動面に同時に固着できるので好適である。
前記布帛は、織成した織布としたものと、編成した編布としたものとがあり、編布としたもの(例えば、特許文献1、2参照)は、複数のリブ部によって凹凸が形成された摩擦伝動面に容易に添わせることができる柔軟性を備えるとともに、ベルト本体の変形に追随して伸縮する伸縮性を容易に確保できる利点がある。
特許文献1に記載されたものでは、前記編布を2種の異なる糸で経編したものとして、第一の糸を、5%伸長時で5N/1000dtexより高い率を有するポリアミド等のフィラメントとし、第二の糸を、5%伸長時で5cN/1000dtexより低い率を有する弾性ポリウレタン等のフィラメントとしている。また、綿等の短繊維をフロック加工したフロック層を設けてもよいとしている。
特許文献2に記載されたものでは、前記編布がポリウレタンなどの弾性ヤーンと、少なくとも1種類の非弾性ヤーンを含むものとし、非弾性ヤーンが綿などのセルロースベースのファイバ又はヤーンを含むものとしている。
特許第4942767号公報 特表2010−539394号公報
特許文献1、2に記載された布帛を編布とした従来のVリブドベルトは、編布が伸張してゴムが透過しやすいので、ベルト本体のゴムが摩擦伝動面に滲み出しやすい。このため、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数が増大するとともに、ウェット状態での摩擦係数が低下し、両状態での摩擦係数の差を十分に小さくできず、ドライ状態とウェット状態での動力伝達性能に差が生じるとともに、ウェット状態での耐発音性が悪いという問題がある。
また、特許文献1で綿の短繊維のフロック層を設けたものや、特許文献2で非弾性ヤーンに綿等のセルロースベースのものを用いたものは、綿の吸水性により少量の水は吸収できるが、本降りの雨天走行時のように、摩擦伝動面の界面に浸入する水の量が多くなると、これらの水を十分に吸収することができず、ウェットな状態での摩擦伝動面の摩擦係数が低くなる問題がある。特許文献1に記載されたものは、綿の短繊維のフロック加工に余分な手間がかかる難点もある。
そこで、本発明の課題は、摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルトで、ドライ状態での摩擦伝動面の摩擦係数の増大と、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数の低下を抑制し、ドライ状態とウェット状態での摩擦係数の差を十分に小さくすることである。
上記の課題を解決するために、本発明は、ベルト背面を形成する伸張層と、前記伸張層の片面側に設けられた圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間に埋設されベルト周長方向に延びる心線とを備え、前記圧縮層にプーリとの摩擦伝動面となるベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部を形成し、前記摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルトにおいて、前記編布がポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸で編成されており、前記ポリエステル系複合糸が嵩高加工糸であり、前記セルロース系天然紡績糸の編成比率が前記ポリエステル系複合糸の編成比率以上である構成を採用した。
上記構成により、嵩高加工糸の嵩高さによってベルト本体のゴムが摩擦伝動面に滲み出さないようにして、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数増大とウェット状態での摩擦係数低下を防止するとともに、吸水性のあるセルロース系天然紡績糸の編成比率を多くして摩擦伝動面からの吸水能力を高め、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数低下を防止し、ドライ状態とウェット状態での摩擦係数の差を十分に小さくできるようにした。
前記嵩高加工糸は、繊維にちぢれ(捲縮性)を生じさせたり、芯糸を別の糸でカバリングしたりして、断面の嵩を大きくした加工糸である。なお、編布は緯編と経編のいずれであってもよい。
前記セルロース系天然紡績糸の編成比率は50〜95質量%とするとよい。編成比率が50質量%未満では十分な吸水性を確保することができない場合があり、95質量%を超えると、ポリエステル系複合糸よりも耐摩耗性が劣るセルロース系天然紡績糸の割合が多くなって、編布の耐摩耗性が低下する場合があるからである。
前記ポリエステル系複合糸は、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸(PTT/PETコンジュゲート糸)、又はポリウレタン(PU)糸を芯として、その表面にポリエチレンテレフタレート(PET)をカバリングした複合糸(PET/PUカバリング糸)とするとよい。PTT/PETコンジュゲート糸は、PTTとPETの成分を混じらないように貼り合せた形に紡糸し、両者の熱収縮率の差を利用して、熱処理により捲縮性を生じさせた嵩高加工糸である。また、PET/PUカバリング糸は、PU弾性糸を芯として、その表面にPET糸を巻き付けた嵩高加工糸である。
前記セルロース系天然紡績糸を綿糸とすることにより、吸水性をより高めることができる。
前記編布を多層に編成されたものとすることにより、摩擦伝動面に被覆された編布の嵩高さを増加させ、ベルト本体のゴムの摩擦伝動面への滲み出しをより確実に防止することができる。
前記多層に編成された編布の厚み方向で、前記セルロース系天然紡績糸を前記摩擦伝動面側の層に多く配することにより、摩擦伝動面でのセルロース系天然紡績糸による吸水効果をより高めることができる。
前記摩擦伝動面に前記編布の嵩高い層を設けることにより、ベルト本体のゴムの摩擦伝動面への滲み出しをより確実に防止することができる。嵩高い層を設ける手段としては、編布の層を多くする手段や、嵩高加工糸の嵩を大きくする手段が挙げられる。
前記編布に親水化処理剤を含有又は付着させることにより、編布の水との濡れ性を向上させ、摩擦伝動面に浸入する水を濡れ拡がらせて、セルロース系天然紡績糸による吸水効率を高めることができる。
前記編布は緯編で編成するとよい。緯編の編布は伸縮性に優れるので、リブ部で凹凸が形成された摩擦伝動面により容易に添わせることができる。
本発明に係るVリブドベルトは、編布をポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸で編成し、ポリエステル系複合糸を嵩高加工糸とし、セルロース系天然紡績糸の編成比率をポリエステル系複合糸の編成比率以上としたので、ドライ状態での摩擦伝動面の摩擦係数の増大と、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数の低下を抑制し、ドライ状態とウェット状態での摩擦係数の差を十分に小さくすることができる。
図1は、本発明に係るVリブドベルトを用いたベルト伝動装置の例を説明する概略斜視図である。 図2は、図1のA−A断面に沿ったVリブドベルトの横断面図である。 図3は、編布の親水化処理による摩擦伝動面での吸水効果を説明する概念図である。 図4(a)、(b)及び(c)は、図1のVリブドベルトの製造方法を説明する概念図である。 図5(a)及び(b)は、それぞれドライ状態とウェット状態の摩擦係数測定試験を説明する概念図である。 図6は、ミスアライメント発音評価試験を説明する概念図である。
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係るVリブドベルト1を用いた補機駆動用のベルト伝動装置の例を示す。このベルト伝動装置は、1つずつの駆動プーリ21と従動プーリ22を備え、これらのプーリ21、22間にVリブドベルト1を巻き掛けた最も簡単な例である。無端状のVリブドベルト1は、内周側にベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部2が形成されており、各プーリ21、22の外周面には、Vリブドベルト1の各リブ部2が嵌り込む複数のV字状溝23が設けられている。
図2に示すように、前記Vリブドベルト1は、外周側のベルト背面を形成する伸張層3と、伸張層3の内周側に設けられた圧縮層4と、伸張層3と圧縮層4との間に埋設されたベルト周長方向に延びる心線5とを備え、圧縮層4にベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部2が形成され、摩擦伝動面となるリブ部2の表面が編布6で被覆されている。伸張層3と圧縮層4は、後述するように、いずれもゴム組成物で形成されている。なお、必要に応じて、伸張層3と圧縮層4の間に接着層を設けてもよい。この接着層は、心線5の伸張層3及び圧縮層4との接着性を向上させる目的で設けられるが、必須のものではない。接着層の形態としては、接着層に心線5全体を埋設する形態でもよく、接着層と伸張層3との間又は圧縮層4との間に心線5を埋設する形態でもよい。
前記圧縮層4を形成するゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素化ゴムなどが挙げられる。
これらのうち、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋したものが好ましく、特に、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの原料となるジエンモノマーとしては、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。これらのジエンモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記エチレン−α−オレフィンエラストマーの代表例としては、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム)、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)などが挙げられる。エチレン−α−オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(前者/後者の質量比)は、40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15、さらに好ましくは55/45〜80/20の範囲がよい。また、ジエンの割合は、4〜15質量%の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%、好ましくは4.4〜11.5質量%の範囲とするとよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば、3〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20の範囲とするとよい。ヨウ素価が小さ過ぎると、ゴム組成物の加硫が不十分となって摩耗や粘着が生じやすくなり、ヨウ素価が大き過ぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなるとともに耐熱性が低下する傾向がある。
前記未加硫ゴム層を架橋する有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150℃〜250℃、好ましくは175℃〜225℃程度のものがよい。
前記未加硫ゴム層の加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、固形分換算で1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部とするとよい。
前記ゴム組成物は加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、チウラム系促進剤、チアゾール系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、ウレア系促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部とするとよい。
また、前記ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗等を防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート(トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなど)、ポリジエン(1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩((メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど)、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど)、ビスマレイミド類(N,N'−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。架橋助剤(複数種を組み合わせる場合は合計量)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部とするとよい。
また、前記ゴム組成物は、必要に応じて、短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、セルロース系繊維(綿、レーヨンなど)、ポリエステル系繊維(PET、PEN繊維など)、脂肪族ポリアミド繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維、46ナイロン繊維など)、芳香族ポリアミド繊維(p−アラミド繊維、m−アラミド繊維など)、ビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などが挙げられる。これらの短繊維は、ゴム組成物中での分散性や接着性を高めるため、慣用の接着処理又は表面処理、例えばRFL液などによる処理を施してもよい。短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部とするとよい。
さらに、前記ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫助剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカ等の酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、可塑剤(パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイル等のオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤(グラファイト、二硫化モリブデン、超高分子量ポリエチレンなど)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。金属酸化物は架橋剤として作用させてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム成分100質量部に対して、補強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200質量部(好ましくは20〜150質量部)、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15質量部(好ましくは2〜10質量部)、可塑剤(パラフィンオイル等のオイル類)の割合は1〜30質量部(好ましくは5〜25質量部)、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(好ましくは0.5〜3質量部)とするとよい。
前記伸張層3は、前記圧縮層4と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマー等のゴム成分を含むゴム組成物)で形成してもよく、帆布等の布帛(補強布)で形成してもよい。補強布としては、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材が挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90°〜130°程度の広角度帆布や編布が好ましい。補強布を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、RFL液で処理(浸漬処理など)した後、コーティング処理などを施してゴム付帆布としてもよい。
前記伸張層3は、圧縮層4と同様のゴム組成物で形成するのが好ましい。このゴム組成物のゴム成分としては、圧縮層4のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用することが多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ圧縮層4のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
前記伸張層3のゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着による異音の発生を抑制するために、圧縮層4と同様の短繊維が含まれていてもよい。短繊維の形態は直線状でもよく、一部屈曲させた形状(例えば、特開2007−120507号公報に記載のミルドファイバー)のものでもよい。Vリブドベルト1の走行時には、伸張層3においてベルト周方向に亀裂が生じ、Vリブドベルト1が輪断する恐れがあるが、短繊維をベルト幅方向又はランダムな方向に配向させることでこれを防止することができる。また、背面駆動時の異音の発生を抑制するためには、伸張層3の表面(ベルト背面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターン、エンボスパターン(例えばディンプル形状)などが挙げられ、大きさや深さは特に限定されない。
前記心線5としては特に限定されず、ポリエステル繊維(ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート繊維など)、脂肪族ポリアミド(ナイロン)繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維、46ナイロン繊維など)、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維(コポリパラフェニレン・3,4‘オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維など)、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、PBO繊維などで形成されたコードを用いることができる。これらの繊維は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの繊維は、後述する可撓性ジャケット51の膨張率に応じて適宜選択される。例えば、膨張率が2%を超えるような高伸張の場合は、弾性率の低いポリエステル繊維(特に低弾性ポリブチレンテレフタレート繊維)、ナイロン繊維(特に66ナイロン繊維、46ナイロン繊維)が好ましい。これは、アラミド繊維、PBO繊維などの弾性率が高い繊維では、可撓性ジャケット51が膨張しても繊維は十分に伸張することができず、Vリブドベルト1に埋設される心線5のピッチラインが安定しなかったり、適正なリブ部2の形状が形成されなかったりするためである。このため、弾性率の高い繊維を使用するには、可撓性ジャケット51の膨張率を低く設定(例えば1%程度)するのが好ましい。
前記編布6は、緯編であっても経編であってもよいが、緯編は伸縮性に優れるので、リブ部2で凹凸が形成された摩擦伝動面により容易に添わせることができる。緯編で単層に編成されたものとしては、平編(天竺編)、ゴム編、タック編、パール編などが挙げられ、多層に編成されたものとしては、スムース編、インターロック編、ダブルリブ編、シングルピケ編、ポンチローマ編、ミラノリブ編、ダブルジャージ編、鹿の子編(表鹿の子、裏鹿の子、両面鹿の子)などが挙げられる。経編で単層に編成されたものとしては、シングルデンビー、シングルコードなどが挙げられ、多層に編成されたものとしては、ハーフトリコット、ダブルデンビー、ダブルアトラス、ダブルコード、ダブルトリコットなどが挙げられる。
また、編布6は、ポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸(例えば綿糸)とで編成されている。ポリエステル系複合糸は嵩高加工糸である。嵩高加工糸は、繊維にちぢれ(捲縮性)を生じさせたり、芯糸を別の糸でカバリングしたりして、断面の嵩を大きくした加工糸である。嵩高加工糸には、複合糸(コンジュゲート糸)、カバリング糸、捲縮加工糸、ウーリー加工糸、タスラン加工糸、インタレース加工糸などがあるが、嵩高加工糸であるポリエステル系複合糸としては、コンジュゲート糸やカバリング糸が好ましい。
前記コンジュゲート糸は、2種類のポリマーを繊維軸方向に貼り合わせた断面構造を持ち、製造時や加工時に熱が加わると、両ポリマーの収縮率の違いにより捲縮が生じて嵩高い糸となる。例えばポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸(PTT/PETコンジュゲート糸)や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸(PBT/PETコンジュゲート糸)がある。また、カバリング糸は、芯糸の周囲を別の糸で覆う(カバリング)することにより、糸全体の断面の嵩を大きくした糸である。例えば、伸縮性に優れたポリウレタン(PU)糸を芯として、その表面にポリエチレンテレフタレート(PET)をカバリングした複合糸(PET/PUカバリング糸)や、PUを芯としてポリアミド(PA)をカバリングした複合糸(PA/PUカバリング糸)がある。これらの複合糸のうち、伸縮性や耐摩耗性に優れる、PTT/PETコンジュゲート糸又はPET/PUカバリング糸が好ましい。
前記セルロース系天然紡績糸は、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維)、羊毛、絹、ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維、バクテリアセルロース繊維、藻類のセルロースなどを紡績した糸が例示できる。このうち、特に吸水性に優れる点で、綿繊維が好ましい。
前記セルロース系天然紡績糸の編成比率は好ましくは50〜95質量%とされている。また、編布組織は単層又は多層の編布6を使用することができ、ベルト本体のゴムの滲み出しをより確実に防止するためには多層の編布組織が好ましい。
前記嵩高加工糸を含んで編布を編成することにより、編布の嵩高性を大きくすることができる。編布6の嵩高性は、2.0cm3/g以上が好ましく、より好ましくは2.4cm3/g以上である。上限は特に限定されないが、例えば4.0cm3/g以下、又は3.5cm3/g以下であってよい。なお、嵩高性(cm3/g)は、編布6の厚み(cm)を単位面積当たりの質量(g/cm2)で除したものである。また、ベルト本体のゴムの摩擦伝動面への滲み出しをより確実に防止するためには、摩擦伝動面に前記編布の嵩高い層を設けることも好ましい。
前記編布6を多層の編布組織とする場合は、編布6の厚み方向で、吸水性のあるセルロース系天然紡績糸を摩擦伝動面側の層に多く配することにより、摩擦伝動面での吸水性をより高めることができる。多層の編布を編成する場合に、一方の層をセルロース系天然紡績糸のみ、又は、セルロース系天然紡績糸とポリエステル系複合糸で編成し、他方の層をポリエステル系複合糸のみで編成することにより、一方の層にセルロース系天然紡績糸を多く配した多層編布を編成することもできる。セルロース系天然紡績糸を多く配した層を摩擦伝動面側に配置することにより、摩擦伝動面での吸水性をより高めることができる。
前記編布6には、親水化処理剤として界面活性剤や親水性柔軟剤を含有又は付着させることができる。図3は、このように親水化処理剤を編布6に含有又は付着させた場合について、摩擦伝動面に付着する水滴の挙動を説明する概念図である。図3(a)に示すように、摩擦伝動面に水滴が付着すると、該水滴は、図3(b)に示すように、親水化処理された編布6の表面に速やかに濡れ拡がって水膜となり、さらに図3(c)に示すように、編布6のセルロース系天然紡績糸に吸水されて、摩擦伝動面上に水膜がなくなる。したがって、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数の低下がより抑制される。
前記親水化処理剤としては界面活性剤や親水性柔軟剤を用いることができる。これらの親水化処理剤を編布に含有又は付着させる方法としては、編布に親水化処理剤をスプレーする方法、編布に親水化処理剤をコーティングする方法、又は、編布を親水化処理剤に浸漬する方法を採用することができる。また、親水化処理剤を界面活性剤とする場合は、後述するベルトの製造方法において、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型の表面に界面活性剤を塗布して加硫成形することで、界面活性剤を編布に含有させる方法も採用することができる。これらの方法のうち、簡便かつより均一に親水性柔軟剤を含有、付着させることができることから、編布を親水化処理剤に浸漬する方法が好ましい。
前記界面活性剤とは、水となじみ易い親水基と、油となじみ易い疎水基(親油基)とを分子内に持つ物質の総称であり、極性物質と非極性物質とを均一に混合する働きを有する以外に、表面張力を小さくして濡れ性を高めたり、物質と物質との間に界面活性剤が介在して、界面の摩擦を小さくしたりする作用がある。
界面活性剤の種類は特に限定されず、イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などが使用できる。非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤又は多価アルコール型非イオン界面活性剤であってもよい。
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は、高級アルコール、アルキルフェノール、高級脂肪酸、多価アルコール高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリプロピレングリコールなどの疎水基を有する疎水性ベース成分にエチレンオキシドが付加して親水基が付与された非イオン界面活性剤である。
疎水性ベース成分としての高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、テトラデシルアルコール、セチルアルコール、オクタデシルアルコール、アラルキルアルコールなどのC10-30飽和アルコール、オレイルアルコールなどのC10-26不飽和アルコールなどが例示できる。アルキルフェノールとしては、オクチルフェノール、ノニルフェノールなどのC4-16アルキルフェノールなどが例示できる。
疎水性ベース成分の高級脂肪酸としては、飽和脂肪酸(例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸などのC10-30飽和脂肪酸、好ましくはC12-28飽和脂肪酸、さらに好ましくはC14-26飽和脂肪酸、特にC16-22飽和脂肪酸など;ヒドロキシステアリン酸などのオキシカルボン酸など)、不飽和脂肪酸(例えば、オレイン酸、エルカ酸、エルシン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などのC10-30不飽和脂肪酸など)などが例示できる。これらの高級脂肪酸は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
前記多価アルコール高級脂肪酸エステルは、多価アルコールと前記高級脂肪酸とのエステルであって、未反応のヒドロキシル基を有している。多価アルコールとしては、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどのC2-10アルカンジオールなど)、アルカントリオール(グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなど)、アルカンテトラオール(ペンタエリスリトール、ジグリセリンなど)、アルカンヘキサオール(ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビットなど)、アルカンオクタオール(ショ糖など)、これらのアルキレンオキサイド付加体(C2-4アルキレンオキサイド付加体など)などが例示できる。
以下に、「オキシエチレン」、「エチレンオキサイド」又は「エチレングリコール」を「EO」で表し、「オキシプロピレン」、「プロピレンオキサイド」又は「プロピレングリコール」を「PO」で表すと、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリEO高級アルコールエーテル(ポリEOラウリルエーテル、ポリEOステアリルエーテルなどのポリEOC10-26アルキルエーテル)、ポリEOポリPOアルキルエーテルなどのC10-26高級アルコール−EO−PO付加体;ポリEOオクチルフェニルエーテル、ポリEOノニルフェニルエーテルなどのアルキルフェノール−EO付加体;ポリEOモノラウレート、ポリEOモノオレエート、ポリEOモノステアレートなどの脂肪酸−EO付加体;グリセリンモノ又はジ高級脂肪酸エステル−EO付加体(グリセリンモノ又はジラウレート、グリセリンモノ又はジパルミテート、グリセリンモノ又はジステアレート、グリセリンモノ又はジオレートなどのグリセリンモノ又はジC10-26脂肪酸エステルのEO付加体)、ペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体(ペンタエリスリトールジステアレート−EO付加体などのペンタエリスリトールモノ乃至トリC10-26脂肪酸エステル−EO付加体など)、ジペンタエリスリトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビトール高級脂肪酸エステル−EO付加体、ソルビット高級脂肪酸エステル−EO付加体、ポリEOソルビタンモノラウレート、ポリEOソルビタンモノステアレート、ポリEOソルビタントリステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル−EO付加体、ショ糖高級脂肪酸エステル−EO付加体などの多価アルコール脂肪酸エステル−EO付加体;ポリEOラウリルアミノエーテル、ポリEOステアリルアミノエーテルなどの高級アルキルアミン−EO付加体;ポリEO椰子脂肪酸モノエタノールアマイド、ポリEOラウリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOステアリン酸モノエタノールアマイド、ポリEOオレイン酸モノエタノールアマイドなどの脂肪酸アミド−EO付加体;ポリEOヒマシ油、ポリEO硬化ヒマシ油などの油脂−EO付加体;ポリPO−EO付加体(ポリEO−ポリPOブロック共重合体など)などが挙げられる。これらのポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
多価アルコール型非イオン界面活性剤は、前記多価アルコール(特に、グリセロール、ペンタエリスリトール、ショ糖、ソルビトールなどのアルカントリオール乃至アルカンヘキサオール)に高級脂肪酸などの疎水基が結合した非イオン界面活性剤である。多価アルコール型非イオン界面活性剤としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエートなどのグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリストールモノステアレート、ペンタエリストールジ牛脂脂肪酸エステルなどのペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレートなどのソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトールモノステアレートなどのソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、椰子脂肪酸ジエタノールアマイドなどのアルカノールアミン類の脂肪酸アミド、アルキルポリグリコシドなどが挙げられる。これらの多価アルコール型非イオン界面活性剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、前記ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤と組み合わせて使用してもよい。
なお、イオン界面活性剤は、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、長鎖脂肪酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリEOアルキルエーテル硫酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルリン酸塩などのアニオン界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩などのカチオン界面活性剤、アルキルベタイン、イミダゾリン誘導体などの両性界面活性剤などであってもよい。
好ましい界面活性剤は、非イオン界面活性剤、特に、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤(例えば、ポリEOC10-26アルキルエーテル、アルキルフェノール−EO付加体、多価アルコールC10-26脂肪酸エステル−EO付加体など)である。
前記親水化処理剤としての親水性柔軟剤は、編布、織布等の繊維部材に柔軟性を持たせるために使用される柔軟剤に親水性を付与したものである。一般的な柔軟剤は、繊維部材をしなやかにする、滑りを良くする、しわを防止する、縮みを防止するといった様々な効果がある。親水性柔軟剤は、ベルト被水時の耐発音性では、前記界面活性剤にやや劣るものの、編布の柔軟性を向上させることができるので、編布のしわ防止やベルト製造時に巻き付けやすくなる、リブ部2で凹凸が形成された摩擦伝動面により容易に添わせることができる等の効果がある。
前記親水性柔軟剤としては、特に限定されないが、ポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤や、ポリエステル系柔軟剤を使用することができる。ポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤は、親水性のポリエーテル基で変性したシリコーンを含む柔軟剤である。ポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤は、シリコーンを界面活性剤とともに水に分散させたエマルジョンであってもよい。
前記ポリエステル系柔軟剤は、親水性ポリエステル樹脂を界面活性剤とともに水に分散させたエマルジョンの柔軟剤であり、ポリエステル繊維と親和性が高いので、前記編布中のポリエステル系複合糸の親水性を高めることができる。
本実施形態では、一部の編布6について、前記親水化処理剤に編布6を浸漬する浸漬処理によって、界面活性剤又は親水性柔軟剤を含有、付着させるようにした。界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤を用い、処理液の濃度は0.5〜30質量%とした。また、親水性柔軟剤としては、ポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤とポリエステル系柔軟剤を用い、処理液の濃度は1〜10質量%とした。親水化処理剤を含む処理液の溶媒は特に限定されず、水、炭化水素類、エーテル類、ケトン類などの汎用の溶媒が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は混合溶媒としてもよい。
前記いずれの浸漬処理の場合も、浸漬時間は特に限定されない。浸漬処理温度も特に限定されず、常温下又は加温下で行ってもよい。また、浸漬処理後、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、例えば50℃以上、好ましくは100℃以上程度の加温下で行ってもよい。
前記編布6には、圧縮層4を構成するゴム組成物(リブ部2の表面を形成するゴム組成物)との接着性を向上させる目的で、接着処理を施すことができる。このような編布6の接着処理としては、エポキシ化合物又はイソシアネート化合物を有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン等)に溶解させた樹脂系処理液への浸漬処理、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)への浸漬処理、ゴム組成物を有機溶媒に溶かしたゴム糊への浸漬処理が挙げられる。この他の接着処理の方法として、例えば、編布6とゴム組成物とをカレンダーロールに通して編布6にゴム組成物を刷り込むフリクション処理、編布6にゴム糊を塗布するスプレディング処理、編布6にゴム組成物を積層するコーティング処理等も採用することができる。このように編布6を接着処理することにより、圧縮層4との接着性を向上させて、Vリブドベルト1の走行時の編布6の剥離を防止することができる。また、接着処理をすることで、リブ部2の耐摩耗性を向上させることもできる。
以下に、図4に基づいてVリブドベルト1の製造方法を説明する。まず、図4(a)に示すように、外周面に可撓性ジャケット51を装着した内型52に、未加硫の伸張層用シート3Sを巻き付けて、この上に心線5を螺旋状にスピニングし、さらにその上に未加硫の圧縮層用シート4Sと編布6とを順次巻き付けて、成形体10を作成する。この後、内周面に複数のリブ型53aを刻設した外型53の内周側に、成形体10を巻き付けた内型52を同心状にセットする。このとき、外型53の内周面と成形体10の外周面との間には所定の間隙が設けられる。
つぎに、図4(b)に示すように、前記可撓性ジャケット51を外型53の内周面に向かって所定の膨張率(例えば1〜6%)で膨張させ、成形体10の圧縮層用シート4Sと編布6を外型53のリブ型53aに圧入して、その状態で加硫処理(例えば160℃、30分)を行う。
最後に、図4(c)に示すように、内型52を外型53から抜き取り、複数のリブ部2を有する加硫ゴムスリーブ10Aを外型53から脱型した後、カッターを用いて加硫ゴムスリーブ10Aを周長方向に沿って所定の幅にカットして、Vリブドベルト1に仕上げる。なお、Vリブドベルト1の製造方法は上記方法に限らず、例えば、特開2004−82702号公報等に開示された他の公知の方法を採用することもできる。
Figure 2014209028
表1に示すように、Vリブドベルト1の実施例として、前記編布6のセルロース系天然紡績糸に綿糸を用いて、その編成比率を50〜95質量%とし、ポリエステル系複合糸にPTT/PETコンジュゲート糸を用いたもの(実施例1〜3、5、6)、ポリエステル系複合糸にPET/PUカバリング糸を用いたもの(実施例4、7)、及び実施例6の編布6に、親水化処理剤として非イオン界面活性剤であるポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤を含有、付着させたもの(実施例8)と、親水性柔軟剤であるポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤とポリエステル系柔軟剤をそれぞれ含有、付着させたもの(実施例9、10)を用意した。実施例1〜4の編布組織は単層とし、実施例5〜10の編布組織は多層として、摩擦伝動面側(ベルト表面側)の層に綿糸を多く配した。
また、比較例として、編布6にセルロース系天然紡績糸の綿糸と非セルロース系のPU糸を用いて編布組織を単層とし、綿糸の編成比率を60質量%としたもの(比較例1)、編布6に綿糸とPTT/PETコンジュゲート糸を用いて編布組織を多層とし、綿糸の編成比率を30質量%としたもの(比較例2)、及び実施例6の多層の編布6においてベルト表面と反対側のゴム側(圧縮層側)に綿糸を多く配したもの(比較例3)を用意した。なお、実施例1〜10及び比較例1〜3の編布6は、いずれも緯編で編成した。
また、表1には、これらの編布6の嵩高性も表示した。実施例1〜10の嵩高性は2.0〜3.2cm3/g、比較例1は1.6cm3/g、比較例2は2.6cm3/g、比較例3は3.2cm3/gとなっている。
Figure 2014209028
表2に示すように、実施例1〜10及び比較例1〜3の伸張層用ゴム、圧縮層用ゴム及び編布6の接着処理用ゴムのゴム組成は互いに同じ配合のものとし、それぞれ図4に示した同じ製造方法で各Vリブドベルト1を製造した。なお、伸張層3と圧縮層4に用いるゴムシート3S、4Sは、表2に示した配合のゴムをバンバリーミキサ等の公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みとした。また、接着処理用ゴムは、表2に示した配合のゴム組成物を有機溶媒に溶かしてゴム糊とし、このゴム糊に編布6を浸漬処理した。
上記実施例1〜10及び比較例1〜3の各Vリブドベルト1について、摩擦伝動面へのゴムの滲み出しの有無を観察するゴム滲み出し観察試験、摩擦係数測定試験、ミスアライメント発音評価試験及び耐摩耗性試験を行った。
前記摩擦係数測定試験は、図5に示すように、直径121.6mmの駆動プーリ(Dr.)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径61.0mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.3)、直径77.0mmのアイドラープーリ(IDL.4)、直径121.6mmの従動プーリ(Dn.)を配置した試験機を用い、これらの各プーリにVリブドベルト1を掛架して行った。
図5(a)に示すように、通常走行時を想定したドライ状態の試験では、室温条件下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を400rpm、従動プーリ(Dn.)へのベルト巻き付け角度αをπ/9ラジアン(20°)とし、一定荷重(180N/6rib)を付与してVリブドベルト1を走行させて、従動プーリ(Dn.)のトルクを上げていき、従動プーリ(Dn.)に対するVリブドベルト1の滑り速度が最大(100%スリップ)となったときの従動プーリ(Dn.)のトルク値から、(1)式を用いて摩擦係数μを求めた。
μ=ln(T1/T2)/α (1)
ここに、T1は張り側張力、T2は緩み側張力である。従動プーリ(Dn.)出側の緩み側張力T2は一定荷重(180N/6rib)と等しくなり、入側の張り側張力T1は、この一定荷重に従動プーリ(Dn.)のトルクによる張力を加えたものとなる。
図5(b)に示すように、雨天走行時を想定したウェット状態の試験では、駆動プーリ(Dr.)の回転数を800rpm、従動プーリ(Dn.)へのベルト巻き付け角度αをπ/4ラジアン(45°)とし、従動プーリ(Dn.)の入口付近に1分間に300mlの水を注水した。その他の条件はドライ状態の試験と同じであり、(1)式を用いて摩擦係数μを求めた。
前記ミスアライメント発音評価試験は、図6に示すように、直径90mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径80mmのテンションプーリ(Ten.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.3)を配置した試験機を用い、アイドラープーリ(IDL.1)とミスアライメントプーリ(W/P)の軸間スパンを135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。
そして、試験機の各プーリにVリブドベルト1を掛架して、室温条件下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を1000rpm、ベルト張力を300N/6ribとし、駆動プーリ(Dr.)の出口付近でVリブドベルト1の摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメントプーリ(W/P)を他の各プーリに対して手前側へずらす(ミスアライメントの角度を徐々に大きくする)ミスアライメントでVリブドベルト1を走行させ、ミスアライメントプーリ(W/P)の入口付近で発音が発生するときのミスアライメントの角度(発音限界角度)を求めた。また、通常走行時を想定して、注水を行わないドライ状態についても、同様に発音限界角度を求めた。なお、この発音限界角度は大きいほど、耐発音性が優れていることを示すものであり、発音限界角度が2°以上であれば、ドライ状態及びウェット状態の耐発音性が良好であると判定した。
前記耐摩耗性試験は、図示は省略するが、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径75mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径60mmのテンションプーリ(Ten.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)を順に配置した試験機を用いた。これらの各プーリにVリブドベルト1を掛架し、120℃の雰囲気下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を4900rpmとし、初荷重としてテンションプーリ(Ten.)に91kgfの軸荷重を負荷して、24時間走行させた試験前後のベルト質量を測定し、(2)式を用いて摩耗率を求めた。
摩耗率=(試験前質量−試験後質量)/試験前質量×100(%) (2)
なお、耐摩耗性の判定は、摩耗率が2.5%以下を◎、2.5%超3.5%以下を○、3.5%超を×とした。
上述した各試験の結果を表1に併せて示す。前記ゴム滲み出し観察試験では、編布6に嵩高加工糸を用いて編布組織を単層とし、嵩高性が2.0〜2.3cm3/gとなった実施例1〜4と、嵩高性が2.6cm3/gで、親水化処理剤としてポリエステル系柔軟剤を用いた実施例10では、わずかにゴムの滲み出しが認められ、編布組織を多層とし、嵩高性が2.4〜3.2cm3/gとなった実施例5〜9及び比較例2、3では、ゴムの滲み出しが全く認められなかった。これに対して、編布に嵩高加工糸を用いず、かつ編布組織を単層とし、嵩高性が1.6cm3/gとなった比較例1では、顕著なゴムの滲み出しが認められた。この試験結果より、編布6の嵩高性は、好ましくは2.0cm3/g以上、さらに好ましくは2.4cm3/g以上とするのがよい。
前記摩擦係数測定試験では、実施例1、2、4〜10では、ドライ状態とウェット状態の摩擦係数μの差Δμがいずれも0.3以下となり、良好な結果が得られた。実施例3は、差Δμが0.6と他の実施例に比べやや大きくなった。このうち、嵩高性が2.4cm3/g以上でゴムの滲み出しが全くなく、綿糸の編成比率を60〜80質量%として、綿糸を摩擦伝動面側の層に多く配した実施例5〜9は、摩擦係数μの差Δμが0.1以下と非常に小さく、特に、嵩高性を3.2cm3/gとした実施例6と、さらに編布6に親水化処理剤を含有、付着させた実施例8、9は、差Δμがなくなるという良好な結果が得られた。これに対して、ゴムの滲み出しが多い比較例1は、ドライ状態での摩擦係数μが大きくなるとともにウェット状態での摩擦係数μが小さくなり、差Δμが1.2と非常に大きくなった。また、ゴムの滲み出しはないが、綿糸の編成比率を30質量%と少なくした比較例2及び編布組織を多層とし、綿糸をゴム側(摩擦伝動面と反対側)の層に多く配した比較例3は、ウェット状態での摩擦係数μが小さくなり、差Δμが0.6〜0.7とやや大きくなった。
前記ミスアライメント発音評価試験では、ドライ状態での試験では、いずれも発音限界角度が3.7°以上と大きくなり、良好な耐発音性が得られたが、ウェット状態の試験では、比較例1〜3は発音限界角度が2.0°を下回り、十分な耐発音性が得られなかった。これに対して、実施例1〜10は、いずれもウェット状態でも発音限界角度も2.0°以上と大きくなり、良好な耐発音性が得られた。特に、編布6の親水化処理剤として非イオン性界面活性剤を用いた実施例8は、ウェット状態でもリブすれまで発音しないという非常に良好な耐発音性が得られた。
前記耐摩耗性試験では、編布6にポリエステル系複合糸を用いた実施例1〜10及び比較例2、3は、いずれも良好な耐摩耗性が得られた。綿糸の編成比率を80質量%と多くした実施例1、4は耐摩耗性がやや低下する傾向が認められたが、問題ない耐摩耗性が得られた。これに対して、編布6にポリエステル系複合糸を用いない比較例1は、十分な耐摩耗性が得られなかった。
なお、表1には表示していないが、編布6に親水化処理剤として親水性柔軟剤であるポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤とポリエステル系柔軟剤を含有、付着させた実施例9、10は、編布6の柔軟性が向上してしわが防止できるとともに、ベルト製造時に金型に巻き付けやすくなるといった効果が見られた。
上述した実施形態では、編布を編成するポリエステル系複合糸の嵩高加工糸をPTT/PETコンジュゲート糸又はPET/PUカバリング糸とし、セルロース系天然紡績糸を綿糸としたが、ポリエステル系複合糸の嵩高加工糸は他の複合糸とすることもでき、セルロース系天然紡績糸も絹糸や麻糸等の他の天然紡績糸とすることができる。
また、上述した実施形態では、浸漬処理によって編布に親水化処理剤を含有、付着させるようにしたが、スプレー法、コーティング法等の他の方法で親水化処理剤を編布に含有又は付着させるようにしてもよい。親水化処理剤を界面活性剤とする場合は、ベルト製造時に、リブ型が刻設された筒状外型の表面に界面活性剤を塗布して加硫成形することで、界面活性剤を編布に含有させるようにしてもよい。
また、上述した実施形態では、編布の親水化処理に用いる界面活性剤を非イオン性界面活性剤であるポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤(ポリオキシアルキルエーテル)としたが、界面活性剤は他の非イオン性界面活性剤やイオン性界面活性剤とすることもできる。また、同じく親水化処理に用いる親水性柔軟剤をポリエーテル変性シリコーン系柔軟剤とポリエステル系柔軟剤としたが、他の親水性柔軟剤を用いてもよい。
1 Vリブドベルト
2 リブ部
3 伸長層
4 圧縮層
5 心線
6 編布
10 成形体
21 駆動プーリ
22 従動プーリ
23 V字状溝
51 可撓性ジャケット
52 内型
53 外型
53a リブ型

Claims (9)

  1. ベルト背面を形成する伸張層と、
    前記伸張ゴム層の片面側に設けられた圧縮層と、
    前記伸張層と前記圧縮層との間に埋設されたベルト周長方向に延びる心線とを備え、
    前記圧縮層にプーリとの摩擦伝動面となるベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部を形成し、
    前記摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルトにおいて、
    前記編布がポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸で編成されており、
    前記ポリエステル系複合糸が嵩高加工糸であり、
    前記セルロース系天然紡績糸の編成比率が前記ポリエステル系複合糸の編成比率以上であることを特徴とするVリブドベルト。
  2. 前記セルロース系天然紡績糸の編成比率を50〜95質量%とした請求項1に記載のVリブドベルト。
  3. 前記嵩高加工糸としたポリエステル系複合糸を、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸、又はポリウレタン(PU)糸を芯として、その表面にポリエチレンテレフタレート(PET)をカバリングした複合糸とした請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
  4. 前記セルロース系天然紡績糸を綿糸とした請求項1乃至3のいずれかに記載のVリブドベルト。
  5. 前記編布を多層に編成されたものとした請求項1乃至4のいずれかに記載のVリブドベルト。
  6. 前記多層に編成された編布の厚み方向で、前記セルロース系天然紡績糸を前記摩擦伝動面側の層に多く配した請求項5に記載のVリブドベルト。
  7. 前記摩擦伝動面に前記編布の嵩高い層を設けた請求項1乃至6のいずれかに記載のVリブドベルト。
  8. 前記編布に親水化処理剤を含有又は付着させた請求項1乃至7のいずれかに記載のVリブドベルト。
  9. 前記編布を緯編で編成した請求項1乃至8のいずれかに記載のVリブドベルト。
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