JP6908558B2 - Vリブドベルト及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、摩擦伝動面を編布で被覆したVリブドベルト及びその製造方法に関する。
動力を伝達するベルトは、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータ等の補機駆動の動力伝達に広く用いられている。そして、近年、静粛化の厳しい要求があり、特に自動車の駆動装置においてはエンジン音以外の音は異音とされるため、ベルトの発音対策が要請されている。
このベルトの発音の原因としては、ベルト速度の大きな変動や高負荷条件で、ベルトがプーリとの間でスリップする際のスリップ音がある。特に、雨天走行時等には、エンジンルーム内に水が入り、ベルトとプーリとの間に水が付着するとベルトの摩擦係数が低下し、スリップ音が多発することもある。
このような問題に対して、ベルトの摩擦伝動面を帆布で被覆する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、2方向に伸縮自在で、弾性ヤーンとセルロースベースの非弾性ヤーンを含む帆布でリブ表面(ベルトの摩擦伝動面)を被覆したVリブドベルトが開示されている。また、特許文献2には、嵩高加工糸のポリエステル系複合糸とセルロース系天然紡績糸からなる編布で摩擦伝動面を被覆したVリブドベルトが開示されている。これらの文献では、セルロース系の糸(ヤーン)が優れた吸水性(濡れ特性)を示すために、耐発音性に効果があると記載されている。すなわち、セルロース系の糸が、ベルトとプーリとの間に浸入した水を素早く吸収することでウェット時の摩擦係数の低下を抑制することができるので、耐注水発音性を高めることができる。
特表2010−539394号公報 特開2014−209028号公報
しかしながら、耐注水発音性に対して高い効果を発揮するセルロース系の糸は、多くの合成繊維と比較して耐摩耗性が低いという欠点がある。そのため、長期間ベルトを使用するとセルロース系の糸が摩耗してしまい、耐発音性が低下することがある。
また、先行文献2には、嵩高加工糸によりゴムが摩擦伝動面に滲み出すのを抑制することで耐注水発音性が向上することが開示されており、嵩高加工糸としてはコンジュゲート糸、カバリング糸、捲縮加工糸、ウーリー加工糸、タスラン加工糸、インタレース加工糸が例示されている。
しかしながら、このような構成とした場合でも、編布が単層の場合にはゴムの摩擦伝動面への滲み出しを十分に抑えることはできておらず、滲み出しを完全に無くすためには編布を多層に編成する必要があった。
そこで、本発明の課題は、編布を単層とした場合でもゴムの摩擦伝動面への滲み出しを無くすことにより、Vリブドベルトの耐注水発音性を高めることにある。さらに他の目的は、セルロース系の糸を編布中に含まないことにより、Vリブドベルトの耐摩耗性を高め、耐注水発音性を長期間に亘って保持させることにある。また、このようなVリブドベルトを効率よく製造する方法を提供する。
上記課題を解決するための本発明は、摩擦伝動面が編布で被覆されたVリブドベルトであって、
前記編布は、嵩高加工の合成繊維からなる原着糸を含み、当該原着糸の嵩高性により当該編布の繊維間に空隙が形成されていることを特徴としている。
編布に原着糸を採用していることから、紡糸後に染色の必要がなく、編布の嵩高性を高めることができる。これにより、編布の繊維間に多くの空隙を確保することができる。多くの空隙を確保すると、プーリとベルトとの間に水が浸入した際に、繊維間の空隙に水を素早く吸い込むことができる。これにより、プーリとベルトとの間に水膜が形成されにくくなるため、ウェット時の摩擦係数の低下を抑制し、耐注水発音性を高めることができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記原着糸の材質が、ポリアミド、及び、ポリエステルの少なくとも一方を含むことを特徴としている。
原着糸が、合成繊維の中でも耐摩耗性の高い、ポリアミド、及び、ポリエステルの少なくとも一方を含むことで耐注水発音性を長期間に亘って保持することができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記嵩高加工が、タスラン加工、捲縮加工、ウーリー加工、又は、インタレース加工のいずれかにより繊維間に空隙を形成する加工であることを特徴としている。
タスラン加工、捲縮加工、ウーリー加工、又は、インタレース加工によると、繊維間に多くの空隙を形成することができるため、編布の吸水性を高めて、耐注水発音性を高めることができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記嵩高加工の合成繊維からなる原着糸が、ポリウレタンを芯糸とし、ナイロンを浮糸としたタスラン加工糸であることを特徴としている。
上記構成にすることで、編布に十分な伸縮性、嵩高性、耐摩耗性を付与することができる。これにより、金型でベルトにV形状のリブ部を形成するVリブドベルトの製造過程において、V形状のリブ部への編布の適応性を高めることができるとともに、Vリブドベルトの構成要素となるゴムの編布を介した摩擦伝動面側への滲み出しが抑制され、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差を小さくすることができるので、耐注水発音性を高めることができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトの前記編布において、前記原着糸と非原着糸との質量比が、原着糸:非原着糸=30:70〜100:0であることを特徴としている。
原着糸の質量比を30%以上にすることにより、繊維間に形成される空隙を十分に確保して、高い耐注水発音性を保持することができる。なお、原着糸と非原着糸との質量比は、50:50〜100:0、65:35〜100:0などであってもよく、100:0であることが特に好ましい。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記編布が、セルロース系天然紡績糸を含まないことを特徴としている。
編布の吸水性を高めるためにセルロース系天然紡績糸を含む構成にした場合、セルロース系天然紡績糸の耐摩耗性が低いために耐注水発音性を長期間に亘って保持することができない。そこで、編布を、非セルロース系糸で構成することにより、耐摩耗性を高めて、耐注水発音性を長期間に亘って保持することができる。なお、上記構成のように、編布がセルロース系天然紡績糸を含まないことから吸水性に劣るとも思われるが、原着糸を嵩高加工していることから、編布の繊維間に多くの空隙を確保して吸水性を高めているので、耐注水発音性を高く維持することができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記編布の嵩高性が、2.0cm3/gより大きいことを特徴としている。
編布の嵩高性が2.0cm3/gより大きいので、Vリブドベルトの構成要素となるゴムの編布を介した摩擦伝動面側への滲み出しが抑制され、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差を小さくすることができるので、耐注水発音性を高めることができる。編布の嵩高性が2.0cm3/g以下であると、Vリブドベルトの構成要素となるゴムが編布を介して摩擦伝動面側へ滲み出したり、空隙が少なかったりすることにより、耐注水発音性が低下する。なお、編布の嵩高性が2.5cm3/g以上であれば耐注水発音性向上効果が大きく得られ、嵩高性が3.0cm3/g以上では特に良好な結果を示す。
また、本発明は、上記Vリブドベルトにおいて、前記編布が、多層編であることを特徴としている。
上記構成では、編布に原着糸を用いることで、単層の編布を用いた場合でも耐注水発音性は高いが、多層とすることで、Vリブドベルトの構成要素となるゴムの編布を介した摩擦伝動面側への滲み出しをより確実に防ぐことができるので、耐注水発音性をより高めることができる。また、耐摩耗性も高まるため、耐注水発音性を長期間に亘って保持することができる。
また、本発明は、上記Vリブドベルトの製造方法に関して、
前記編布の両端をジョイントした筒状の当該編布を未加硫の圧縮層用シートに被せる、又は、未加硫の圧縮層用シートの上で前記編布の両端をジョイントする、ことを特徴としている。
筒状のシームレス(ジョイント部がない)編布を圧縮層用シートに被せる場合には、ベルト長さに応じた周長を有する編布を準備する必要があるので、様々なベルト長さに対応するために仕掛品を多く持つ必要がある。一方、上記方法のように編布の両端をジョイントする方法では、ベルト長さに応じてその場で編布の周長を調節することができるので仕掛品を多く持つ必要がない。
編布を単層とした場合でもゴムの摩擦伝動面への滲み出しを無くすことにより、Vリブドベルトの耐注水発音性を高めることができる。また、セルロース系の糸を編布中に含まないことにより、Vリブドベルトの耐摩耗性を高め、耐注水発音性を長期間に亘って保持させることができる。また、このようなVリブドベルトを効率よく製造する方法を提供することができる。
本発明に係るVリブドベルトを用いたベルト伝動装置の例を説明する概略斜視図である。 図1のA−A断面に沿ったVリブドベルトの横断面図である。 Vリブドベルトの製造方法を説明する概念図である。 ドライ状態とウェット状態の摩擦係数測定試験を説明する概念図である。 ミスアライメント発音評価試験を説明する概念図である。
以下、図面に基づき、本発明の実施形態の一例を説明する。図1は、本発明に係るVリブドベルト1を用いた補機駆動用のベルト伝動装置の例を示す。このベルト伝動装置は、1つずつの駆動プーリ21と従動プーリ22とを備え、これらの駆動プーリ21と従動プーリ22との間にVリブドベルト1を巻き掛けた最も簡単な例である。無端状のVリブドベルト1は、内周側にベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部2が形成されており、駆動プーリ21、及び、従動プーリ22の外周面には、Vリブドベルト1の各リブ部2が嵌り込む複数のV字状溝23が設けられている。
(Vリブドベルト1の構成)
図2に示すように、Vリブドベルト1は、外周側のベルト背面を形成する伸張層3と、伸張層3の内周側に設けられた圧縮層4と、伸張層3と圧縮層4との間に埋設されたベルト周長方向に延びる心線5とを備え、圧縮層4にベルト周長方向に延びる複数のV字状リブ部2が形成され、摩擦伝動面となるリブ部2の表面が編布6で被覆されている。伸張層3と圧縮層4とは、後述するように、いずれもゴム組成物で形成されている。なお、必要に応じて、伸張層3と圧縮層4との間に接着層を設けてもよい。この接着層は、心線5の伸張層3及び圧縮層4との接着性を向上させる目的で設けられるが、必須のものではない。接着層の形態としては、接着層に心線5全体を埋設する形態でもよく、接着層と伸張層3との間又は、接着層と圧縮層4との間に心線5を埋設する形態でもよい。
圧縮層4を形成するゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。
これらのうち、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋したものが好ましく、特に、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴムなど)、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体など)などが挙げられる。α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの原料となるジエンモノマーとしては、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが挙げられる。これらのジエンモノマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
エチレン−α−オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(前者/後者の質量比)は、40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15、さらに好ましくは55/45〜80/20の範囲がよい。また、ジエンの割合は、4〜15質量%の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%、好ましくは4.4〜11.5質量%の範囲とするとよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば、3〜40、好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20の範囲とするとよい。ヨウ素価が小さ過ぎると、ゴム組成物の加硫が不十分となって摩耗や粘着が生じやすくなり、ヨウ素価が大き過ぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなるとともに耐熱性が低下する傾向がある。ヨウ素価の測定方法としては、測定試料に対して過剰のヨウ素を加えて完全に反応(ヨウ素と不飽和結合との反応)させ、残ったヨウ素の量を酸化還元適定により定量することで求められる。
未加硫ゴム層を架橋する有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による半減期が1分間である温度範囲が150℃〜250℃、好ましくは175℃〜225℃程度のものがよい。
未加硫ゴム層の加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、固形分換算で1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部とするとよい。
ゴム組成物は加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、チウラム系促進剤、チアゾール系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、ウレア系促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。加硫促進剤(複数種を組み合わせる場合は合計量を意味し、以降も複数種を組み合わせる場合は同様)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部とするとよい。
また、ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗等を防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート(トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレートなど)、ポリジエン(1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩((メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど)、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート(エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど)、ビスマレイミド類(N,N'−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。架橋助剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部とするとよい。
また、ゴム組成物は、必要に応じて、短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、セルロース系繊維(綿、レーヨンなど)、ポリエステル系繊維(PET、PEN繊維など)、脂肪族ポリアミド繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維、46ナイロン繊維など)、芳香族ポリアミド繊維(p−アラミド繊維、m−アラミド繊維など)、ビニロン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などが挙げられる。これらの短繊維は、ゴム組成物中での分散性や接着性を高めるため、慣用の接着処理又は表面処理、例えばRFL液などによる処理を施してもよい。短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部とするとよい。
さらに、ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫助剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカ等の酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、可塑剤(パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイル等のオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤(グラファイト、二硫化モリブデン、超高分子量ポリエチレンなど)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。金属酸化物は架橋剤として作用させてもよい。これらの添加剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム成分100質量部に対して、補強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200質量部(好ましくは20〜150質量部)、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15質量部(好ましくは2〜10質量部)、可塑剤(パラフィンオイル等のオイル類など)の割合は1〜30質量部(好ましくは5〜25質量部)、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(好ましくは0.5〜3質量部)とするとよい。
伸張層3は、圧縮層4と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマー等のゴム成分を含むゴム組成物)で形成してもよく、帆布等の布帛(補強布)で形成してもよい。補強布としては、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材が挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90°〜130°程度の広角度帆布や編布が好ましい。補強布を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、RFL液で処理(浸漬処理など)した後、コーティング処理などを施してゴム付帆布としてもよい。
伸張層3は、圧縮層4と同様のゴム組成物で形成するのが好ましい。このゴム組成物のゴム成分としては、圧縮層4のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用することが多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ圧縮層4のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。
伸張層3のゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着による異音の発生を抑制するために、圧縮層4と同様の短繊維が含まれていてもよい。短繊維の形態は直線状でもよく、一部屈曲させた形状のもの(例えば、特開2007−120507号公報に記載のミルドファイバー)でもよい。Vリブドベルト1の走行時には、伸張層3においてベルト周方向に亀裂が生じ、Vリブドベルト1が輪断する恐れがあるが、短繊維をベルト幅方向又はランダムな方向に配向させることでこれを防止することができる。また、背面駆動時の異音の発生を抑制するためには、伸張層3の表面(ベルト背面)に凹凸パターンを設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターン、エンボスパターン(例えばディンプル形状)などが挙げられ、大きさや深さは特に限定されない。
心線5としては特に限定されず、ポリエステル繊維(ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維など)、脂肪族ポリアミド(ナイロン)繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維、46ナイロン繊維など)、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維(コポリパラフェニレン・3,4'オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維など)、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、PBO繊維などで形成されたコードを用いることができる。これらの繊維は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの繊維は、後述する可撓性ジャケット51の膨張率に応じて適宜選択される。例えば、膨張率が2%を超えるような高伸張の場合は、弾性率の低いポリエステル繊維(特に低弾性ポリブチレンテレフタレート繊維)、ナイロン繊維(特に66ナイロン繊維、46ナイロン繊維)が好ましい。これは、アラミド繊維、PBO繊維などの弾性率が高い繊維では、可撓性ジャケット51が膨張しても繊維は十分に伸張することができず、Vリブドベルト1に埋設される心線5のピッチラインが安定しなかったり、適正なリブ部2の形状が形成されなかったりするためである。このため、弾性率の高い繊維を使用するには、可撓性ジャケット51の膨張率を低く設定(例えば1%程度)するのが好ましい。
編布6は、嵩高加工の合成繊維からなる原着糸を含むように編成されている。また、編布6は、緯編であっても経編であってもよいが、緯編は伸縮性に優れるので、リブ部2で凹凸が形成された摩擦伝動面により容易に添わせることができる。緯編で単層に編成されたものとしては、平編(天竺編)、ゴム編、タック編、パール編などが挙げられ、多層に編成されたものとしては、スムース編、インターロック編、ダブルリブ編、シングルピケ編、ポンチローマ編、ミラノリブ編、ダブルジャージ編、鹿の子編(表鹿の子、裏鹿の子、両面鹿の子)などが挙げられる。経編で単層に編成されたものとしては、シングルデンビー、シングルコードなどが挙げられ、多層に編成されたものとしては、ハーフトリコット、ダブルデンビー、ダブルアトラス、ダブルコード、ダブルトリコットなどが挙げられる。
編布6を編成する合成繊維は、有機高分子を原料とする化学繊維である。原料となる有機高分子としては、脂肪族ポリアミド(ナイロン)、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)など)、ポリアクリロニトリル、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタンなどが挙げられる。これらの繊維は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの合成繊維のうち、編布6に大きな伸縮性を与えることができる点から少なくともポリウレタンを含むことが好ましい。さらに、耐摩耗性を向上できる点から、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステルの少なくとも一つを含むことが好ましい。
編布6を編成する合成繊維は嵩高加工された嵩高加工糸が使用されている。嵩高加工糸は、合成繊維にちぢれ(捲縮性)を生じさせたり、芯糸の周りに鞘糸や浮糸を配したりして、断面の嵩を大きくした加工糸である。嵩高加工糸の嵩高性により編布6の繊維間に空隙を形成することができる。嵩高加工糸には、コンジュゲート糸、カバリング糸、捲縮加工糸、ウーリー加工糸、タスラン加工糸、インタレース加工糸などがあるが、入手性やコストや吸水性の点からタスラン加工糸、捲縮加工糸、ウーリー加工糸、インタレース加工糸が好ましく、嵩高性が高く、繊維間の空隙を大きくできることから特にタスラン加工糸が好ましい。
タスラン加工糸は、繊維フィラメントの束に圧縮空気を吹き当てることによりフィラメント同士をループ状に結束させることで得られる。繊維フィラメントは単一の材質であってもよく、異なる材質であってもよいが、本実施形態の用途においては伸縮性と耐摩耗性が求められるため、ポリウレタンを芯糸とし、そのまわりにポリアミド(ナイロン等)などの浮糸を交絡させるのが好ましい。このような構成とすることで、ポリウレタンによる伸縮性が付与されて編布6の伸びが大きくなるのでVリブドベルト1の製造が容易となり、糸の周辺部分を構成するポリアミドの高い耐摩耗性により編布6の摩耗が抑えられて、耐注水発音性を長期間に亘って保持することができる。また、後述する金型(内型52、外型53)でVリブドベルト1にV形状のリブ部2を形成する製造過程において、V形状のリブ部2への編布6の適応性を高めることができるとともに、圧縮層4のゴム成分の編布6を介した摩擦伝動面側(駆動プーリ21や従動プーリ22と当接する面側)への滲み出しが抑制され、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差を小さくすることができるので、耐注水発音性を高めることができる。
コンジュゲート糸は、2種類のポリマーを繊維軸方向に貼り合わせた断面構造を持ち、製造時や加工時に熱が加わると、両ポリマーの収縮率の違いにより捲縮が生じて嵩高い糸となる。例えばポリトリメチレンテレフタレート(PTT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸(PTT/PETコンジュゲート糸)や、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリエチレンテレフタレート(PET)をコンジュゲートした複合糸(PBT/PETコンジュゲート糸)がある。また、カバリング糸は、芯糸の周囲を別の糸で覆う(カバリング)することにより、糸全体の断面の嵩を大きくした糸である。例えば、伸縮性に優れたポリウレタン(PU)糸を芯として、その表面にポリエチレンテレフタレート(PET)をカバリングした複合糸(PET/PUカバリング糸)や、PUを芯としてポリアミド(PA)をカバリングした複合糸(PA/PUカバリング糸)がある。
編布6は、嵩高加工の合成繊維からなる原着糸を使用している。一般に、合成繊維の製造において、着色剤を含有しない原料を溶融紡糸し、糸を製造した後に染料などにより染色を行う。一方、原料を溶融した原液の段階で顔料などの着色剤を混合して着色した後に紡糸することで糸を製造する方法もあり、そのような方法で製造された糸を原着糸と呼ぶ。なお、ここでは、原着糸に対して、糸を製造した後に染料などにより染色を行った糸を非原着糸と呼ぶこととする。嵩高加工糸を使用する場合、糸を製造した後に染色を行うと糸(非原着糸)に処理剤が付着したり、フィラメント同士の交絡が外れたりするために嵩高性が低下してしまう場合がある。一方、染色工程を経ない原着糸の場合は、糸の嵩高性が損なわれないため、紡糸後に染色を行った非原着糸と比べて嵩高性を高めることができる。このように、編布6に原着糸を採用していることから、編布6の繊維間に多くの空隙を確保することができる。多くの空隙を確保すると、駆動プーリ21・従動プーリ22とVリブドベルト1との間に水が浸入した際に、繊維間の空隙に水を素早く吸い込むことができる。これにより、駆動プーリ21・従動プーリ22とVリブドベルト1との間に水膜が形成されにくくなるため、ウェット時の摩擦係数の低下を抑制し、耐注水発音性を高めることができる。
編布6において、原着糸と非原着糸との質量比は、30:70〜100:0の範囲にしている。編布6における原着糸の質量比を30%以上にすることにより、繊維間に形成される空隙を十分に確保して、高い耐注水発音性を保持することができる。なお、原着糸と非原着糸との質量比は、50:50〜100:0、65:35〜100:0などであってもよく、100:0であることが特に好ましい。
また、編布6は、セルロース系天然紡績糸(例えば綿糸)を含まないことが好ましい。編布6の吸水性を高めるためにセルロース系天然紡績糸を含む構成にした場合、セルロース系天然紡績糸の耐摩耗性が低いために耐注水発音性を長期間に亘って保持することができなくなる。そこで、編布6を、非セルロース系糸で構成することにより、耐摩耗性を高めて、耐注水発音性を長期間に亘って保持することができるようにしている。なお、このように、編布6がセルロース系天然紡績糸を含まないことから吸水性に劣るとも思われるが、原着糸を嵩高加工していることから、編布6の繊維間に多くの空隙を確保して吸水性を高めているので、耐注水発音性を高く維持することができる。
なお、編布6において、嵩高加工の合成繊維からなる原着糸に加えてセルロース系の糸も含む構成にしてもよい。この場合、特に耐注水発音性が良好である一方、耐摩耗性という点では劣る。そのため、特に耐注水発音性が重視される場合には嵩高加工の合成繊維からなる原着糸に加えてセルロース系の糸も含む構成とし、逆に耐摩耗性(耐注水発音性の持続性)が重視される場合にはセルロース系の糸を含まずに嵩高加工の合成繊維からなる原着糸のみからなる構成にするとよい。つまり、セルロース系の糸の混合割合により、耐注水発音性と耐摩耗性のバランスをとる事ができる。
また、嵩高加工糸を含んで編成された編布6は、嵩高性を大きくすることができる。この編布6の嵩高性は、2.0cm3/gより大きいことが好ましい。編布6の嵩高性が2.0cm3/gより大きいので、圧縮層4のゴム成分の編布6を介した摩擦伝動面側(駆動プーリ21や従動プーリ22と当接する面側)への滲み出しが抑制され、摩擦伝動面のドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差を小さくすることができるので、耐注水発音性を高めることができる。編布6の嵩高性が2.0cm3/g以下であると、圧縮層4のゴム成分が編布6を介して摩擦伝動面側へ滲み出したり、空隙が少なかったりすることにより、耐注水発音性が低下する。なお、編布6の嵩高性が2.5cm3/g以上であれば耐注水発音性向上効果が大きく得られ、嵩高性が3.0cm3/g以上では特に良好な結果を示す。なお、嵩高性(cm3/g)は、編布6の厚み(cm)を単位面積当たりの質量(g/cm2)で除したものである。
上記編布6は、単層である場合について説明したが、編布6は、摩擦伝動面側と圧縮層4側とで糸の露出割合を変えることで所望の特性を得るために多層編を適用してもよい。編布6に原着糸を用いることで、単層の編布6を用いた場合でも耐注水発音性は高いが、多層とすることで、圧縮層4のゴム成分の編布6を介した摩擦伝動面側への滲み出しをより確実に防ぐことができるので、耐注水発音性をより高めることができる。また、耐摩耗性も高まるため、耐注水発音性を長期間に亘って保持することができる。
また、編布6には、親水化処理剤として界面活性剤や親水性柔軟剤を含有又は付着させることができる。このように親水化処理剤を編布6に含有又は付着させた場合、摩擦伝動面(編布6)に水滴が付着すると、該水滴は、親水化処理された編布6の表面に速やかに濡れ拡がって水膜となり、さらに、編布6に吸水されて、摩擦伝動面上に水膜がなくなる。したがって、ウェット状態での摩擦伝動面の摩擦係数の低下がより抑制される。
親水化処理剤としては界面活性剤や親水性柔軟剤を用いることができる。これらの親水化処理剤を編布6に含有又は付着させる方法としては、編布6に親水化処理剤をスプレーする方法、編布6に親水化処理剤をコーティングする方法、又は、編布6を親水化処理剤に浸漬する方法を採用することができる。また、親水化処理剤を界面活性剤とする場合は、内周面に複数のリブ型が刻設された筒状外型の表面に界面活性剤を塗布して加硫成形することで、界面活性剤を編布6に含有させる方法も採用することができる。これらの方法のうち、簡便かつより均一に親水化処理剤を含有、付着させることができることから、編布6を親水化処理剤に浸漬する方法が好ましい。
界面活性剤とは、水となじみ易い親水基と、油となじみ易い疎水基(親油基)とを分子内に持つ物質の総称であり、極性物質と非極性物質とを均一に混合する働きを有する以外に、表面張力を小さくして濡れ性を高めたり、物質と物質との間に界面活性剤が介在して、界面の摩擦を小さくしたりする作用がある。
界面活性剤の種類は特に限定されず、イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤などが使用できる。非イオン界面活性剤は、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤又は多価アルコール型非イオン界面活性剤であってもよい。
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は、高級アルコール、アルキルフェノール、高級脂肪酸、多価アルコール高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、ポリプロピレングリコールなどの疎水基を有する疎水性ベース成分にエチレンオキシドが付加して親水基が付与された非イオン界面活性剤である。
また、編布6には、圧縮層4を構成するゴム組成物(リブ部2の表面を形成するゴム組成物)との接着性を向上させる目的で、接着処理を施すことができる。このような編布6の接着処理としては、エポキシ化合物又はイソシアネート化合物を有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン等)に溶解させた樹脂系処理液への浸漬処理、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)への浸漬処理、ゴム組成物を有機溶媒に溶かしたゴム糊への浸漬処理が挙げられる。この他の接着処理の方法として、例えば、編布6とゴム組成物とをカレンダーロールに通して編布6にゴム組成物を摺り込むフリクション処理、編布6にゴム糊を塗布するスプレディング処理、編布6にゴム組成物を積層するコーティング処理等も採用することができる。このように編布6を接着処理することにより、圧縮層4との接着性を向上させて、Vリブドベルト1の走行時の編布6の剥離を防止することができる。また、接着処理をすることで、リブ部2の耐摩耗性を向上させることもできる。
なお、上記接着処理により、編布6に圧縮層4を構成するゴム組成物を接着させた結果、編布6の摩擦伝動面(駆動プーリ21や従動プーリ22と当接する面側)にゴム組成物の滲み出しが無いようにすることが好ましい。編布6から摩擦伝動面側へのゴム組成物の滲み出しが有ると、吸水性が低下するので、ウェット時の摩擦係数の低下が大きくなり、耐注水発音性が低下してしまう。そこで、編布6の摩擦伝動面へのゴム組成物の滲み出しを無くすことにより、十分な吸水性が確保できるため、耐注水発音性を向上させることができる。
(Vリブドベルト1の製造方法)
以下に、図3に基づいてVリブドベルト1の製造方法を説明する。まず、図3(a)に示すように、外周面に可撓性ジャケット51を装着した筒状の内型52に、未加硫の伸張層用シート3Sを巻き付けて、この上に心線5を螺旋状にスピニングし、さらにその上に未加硫の圧縮層用シート4Sと編布6とを順次巻き付けて(被せて)、成形体10を作成する。この後、内周面に複数のリブ型53aを刻設した外型53の内周側に、成形体10を巻き付けた内型52を同心状にセットする。このとき、外型53の内周面と成形体10の外周面との間には所定の間隙が設けられる。
ここで、上記のように、Vリブドベルト1を成形する際に、編布6は圧縮層用シート4Sの外周に添うように円筒状に成形する必要がある。そのために、丸編機などを用いてジョイントのないシームレス編布6を用意する方法があるが、その場合にはVリブドベルト1の長さ(周長)に対応したシームレス編布6を準備する必要がある。このとき、Vリブドベルト1の長さに対して長すぎる(周長の大きすぎる)編布6を用いた場合には、編布6がダブつくのでオーバーラップして、品質異常を起こす虞があり、逆に、短すぎる(周長の小さすぎる)編布6を用いた場合には、成形されるリブ部2の形状が不良となったり、圧縮層用シート4Sのゴム組成物が摩擦伝動面に滲み出して耐注水発音性が低下したりといった不具合が予想される。そのため、様々な長さのVリブドベルト1を製造しようとすると、それと同じ数だけの仕掛品を持つ必要があり、無駄が生じやすい。
そこで、編布6を圧縮層用シート4Sの外周に添うように円筒状に成形するために、Vリブドベルト1の長さに応じて、四角形状の編布6の両端をジョイントして筒状の編布6を作製する方法を採用するのが好ましい。この場合、どのようなVリブドベルト1の長さであっても最適な周長の編布6を準備(調節)することができるので、品質が安定する。さらに、丸編機の他横編機も使用できるので自由度が高く、仕掛品も1種類でよいため無駄がなくなる。
編布6の両端をジョイントする方法としては、編布6を構成する糸の融点付近に加熱した刃で切断しながら同時にその切断面を溶着する方法(ホットメルト、熱溶着)、超音波振動させた刃で押圧することにより切断と溶着を同時に行う方法(超音波溶着)、ミシンジョイント、かがり縫い、突き合わせなどが例示できる。編布6の両端をジョイントするタイミングとしては、Vリブドベルト1の成形前にあらかじめ行っておいてもよく、Vリブドベルト1の成形中に行ってもよい(例えば、内型52に巻き付けた圧縮層用シート4Sの上で編布6の両端をジョイントする)。Vリブドベルト1の成形前に行う場合にはホットメルト、超音波溶着、ミシンジョイント、かがり縫いが都合よく適用でき、Vリブドベルト1の成形中に行う場合には突き合わせが都合よく適用できる。なかでも、編布6の継ぎ目の外観がよいことから、超音波溶着や突き合わせが好ましい。また、編布6のジョイント箇所は1箇所であってもよく、複数箇所であってもよい。工数低減や外観向上の点から、編布6のジョイント箇所は1箇所又は2箇所であることが好ましい。
続いて、図3(b)に示すように、前記可撓性ジャケット51を外型53の内周面に向かって所定の膨張率(例えば1〜6%)で膨張させ、成形体10の圧縮層用シート4Sと編布6を外型53のリブ型53aに圧入して、その状態で加硫処理(例えば160℃、30分)を行う。
最後に、図3(c)に示すように、内型52を外型53から抜き取り、複数のリブ部2を有する加硫ゴムスリーブ10Aを外型53から脱型した後、カッターを用いて加硫ゴムスリーブ10Aを周長方向に沿って所定の幅にカットして、Vリブドベルト1に仕上げる。なお、Vリブドベルト1の製造方法は上記方法に限らず、例えば、特開2004−82702号公報等に開示された他の公知の方法を採用することもできる。
上記Vリブドベルト1では、編布6に原着糸を採用していることから、紡糸後に染色の必要がなく、編布6の嵩高性を高めることができる。これにより、編布6の繊維間に多くの空隙を確保することができる。多くの空隙を確保すると、駆動プーリ21及び従動プーリ22とVリブドベルト1との間に水が浸入した際に、繊維間の空隙に水を素早く吸い込むことができる。これにより、駆動プーリ21・従動プーリ22とVリブドベルト1との間に水膜が形成されにくくなるため、ウェット時の摩擦係数の低下を抑制し、耐注水発音性を高めることができる。
次に、表1に示すように、実施例1〜7、及び、比較例1〜3に係るVリブドベルトを作製し、摩擦伝動面へのゴムの滲み出しの有無を観察するゴム滲み出し観察試験、摩擦係数測定試験、ミスアライメント発音評価試験(発音限界角度測定)及び耐摩耗性試験を行った。
実施例1〜5、7のVリブドベルト1に係る編布6は、全て天竺編の緯編単層編布であり、ポリウレタンを芯糸、ナイロンを浮糸としたタスラン加工の原着糸を含んでいる。実施例1は、原着糸のみで構成された編布である。実施例2〜4、7は、原着糸に加えて、紡糸後に染色を行ったタスラン加工糸の非原着糸も含んでいる。実施例5は、原着糸に加えて、綿糸を含んでいる。実施例6は、原着糸のみで構成されたダブル鹿の子編の緯編多層編布である。
比較例1は、PTT/PETコンジュゲート糸の非原着糸と綿糸で編成されたダブル鹿の子編の緯編多層編布である。比較例2は、ポリウレタンを芯糸、綿を鞘糸としたカバリング加工の非原着糸で編成された天竺編の緯編単層編布である。比較例3は、ポリウレタンを芯糸、ナイロンを浮糸としたタスラン加工の非原着糸で編成された天竺編の緯編単層編布である。
(ゴム滲み出し観察試験)
ゴム滲み出し観察試験では、マイクロスコープにてVリブドベルト1の摩擦伝動面を20倍に拡大して撮影し、画像解析ソフトを用いてゴムが摩擦伝動面に露出している面積割合を計算した。任意の5箇所を測定した平均値より、ゴムが摩擦伝動面に露出している面積割合が5%未満である場合はゴム滲み出しが「無し」、5%以上である場合はゴム滲み出しが「有り」と判断した。
(摩擦係数測定試験)
摩擦係数測定試験は、図4に示すように、直径121.6mmの駆動プーリ(Dr.)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径61.0mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.3)、直径77.0mmのアイドラープーリ(IDL.4)、直径121.6mmの従動プーリ(Dn.)を配置した試験機を用い、これらの各プーリにVリブドベルト1を掛架して行った。
図4(a)に示すように、通常走行時を想定したドライ状態の試験では、室温条件下(23℃)で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を400rpm、従動プーリ(Dn.)へのベルト巻き付け角度αをπ/9ラジアン(20°)とし、一定荷重(180N/6rib)を付与してVリブドベルト1を走行させて、従動プーリ(Dn.)のトルクを上げていき、従動プーリ(Dn.)に対するVリブドベルト1の滑り速度が最大(100%スリップ)となったときの従動プーリ(Dn.)のトルク値から、(1)式を用いて摩擦係数μを求めた。
μ=ln(T1/T2)/α (1)
ここに、T1は張り側張力、T2は緩み側張力である。
従動プーリ(Dn.)入側の緩み側張力T2は一定荷重(180N/6rib)と等しくなり、出側の張り側張力T1は、この一定荷重に従動プーリ(Dn.)のトルクによる張力を加えたものとなる。
図4(b)に示すように、雨天走行時を想定したウェット状態の試験では、駆動プーリ(Dr.)の回転数を800rpm、従動プーリ(Dn.)へのベルト巻き付け角度αをπ/4ラジアン(45°)とし、従動プーリ(Dn.)の入口付近に1分間に300mlの水を連続的に注水した。その他の条件はドライ状態の試験と同じであり、(1)式を用いて摩擦係数μを求めた。
(ミスアライメント発音評価試験)
ミスアライメント発音評価試験は、図5に示すように、直径90mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径80mmのテンションプーリ(Ten.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.3)を配置した試験機を用い、アイドラープーリ(IDL.1)とミスアライメントプーリ(W/P)の軸間スパンを135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。
そして、試験機の各プーリにVリブドベルト1を掛架して、室温条件下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を1000rpm、ベルト張力を300N/6ribとし、駆動プーリ(Dr.)の出口付近でVリブドベルト1の摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメントプーリ(W/P)を他の各プーリに対して手前側へずらす(ミスアライメントの角度を徐々に大きくする)ミスアライメントでVリブドベルト1を走行させ、ミスアライメントプーリ(W/P)の入口付近で発音が発生するときのミスアライメントの角度(発音限界角度)を求めた。また、通常走行時を想定して、注水を行わないドライ状態についても、同様に発音限界角度を求めた。なお、この発音限界角度は大きいほど、耐発音性が優れていることを示す。
(耐摩耗性試験)
耐摩耗性試験では、図示は省略するが、直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径75mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径60mmのテンションプーリ(Ten.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)を順に配置した試験機を用いた。これらの各プーリにVリブドベルト1を掛架し、120℃の雰囲気下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を4900rpmとし、初荷重としてテンションプーリ(Ten.)に890Nの軸荷重を負荷して、200時間走行させた試験前後のベルト質量を測定し、(2)式を用いて摩耗率を求めた。
摩耗率=(試験前質量−試験後質量)/試験前質量×100(%) (2)
なお、摩耗率は低い値ほど、耐摩耗性が優れていることを示す。
(編布の厚みについて)
作製した実施例1〜7、及び、比較例1〜3に係るVリブドベルトをベルト幅方向に切断し、その断面をマイクロスコープによって撮影して摩擦伝動面を被覆する編布6の平均厚みを測定した。
Figure 0006908558
(各試験結果の考察)
いずれも原着糸を含む実施例1〜7のVリブドベルト1では、圧縮層4のゴム成分の編布6を介した摩擦伝動面側への滲み出しがなく、ドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差Δμが小さく、耐注水発音性が高かった。さらに、200h耐久後摩耗率が低く、耐摩耗性にも優れていた。
次に、編布6中の原着糸と非原着糸の質量比を段階的に変更した実施例1〜4、7を比較して、耐注水発音性と耐摩耗性に及ぼす影響について考察する。原着糸の質量比が33%である実施例4は耐注水発音性と耐摩耗性が良好であり、原着糸の質量比が高くなる実施例3、2、1の順で耐注水発音性が向上する傾向にあった。一方、原着糸の質量比が最も低い20%である実施例7は耐摩耗性が実施例1〜4と同程度に高く、ゴムの摩擦伝動面への滲み出しも「無し」と判断されたが、ドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数との差Δμ(0.4)は実施例1〜4に比べて大きく、発音限界角度も実施例1〜4に比べて小さい結果であった。これは、原着糸の質量比が高い程、圧縮層4のゴム成分の編布6を介した摩擦伝動面側への滲み出しがより確実に抑えられるためと考えられる。より高度な耐注水発音性が要求される場面では、原着糸の質量比を高くし、理想的には原着糸のみで編成するのがよいといえる。また、実施例1〜4、7に用いた編布6の嵩高性は、2.6cm3/g以上であり、この嵩高性により耐注水発音性と耐摩耗性が高められたと考えられる。
実施例5の編布6は、原着糸に加えて綿を含む構成であるが、ドライ状態での摩擦係数とウェット状態での摩擦係数の差Δμは小さく、耐注水発音性には優れていたものの、200h耐久後摩耗率が高く、耐摩耗性が劣る結果であった。耐摩耗性よりも耐注水発音性が重視される場面で効果を発揮する構成といえる。
実施例6の編布6は、原着糸のみで多層編布とした構成であるが、耐注水発音性と耐摩耗性は最も高かった。編布6に原着糸を含む構成は耐注水発音性と耐摩耗性に優れるため、単層の編布6であっても良好な結果を示すが、多層とすることでさらにこれらの特性が向上することが分かった。
一方、原着糸を含まない比較例1〜3では、編布6が単層、多層いずれの場合においても耐注水発音性や耐摩耗性が低く、実用には不十分なレベルであった。
1 Vリブドベルト
2 リブ部
3 伸張層
4 圧縮層
5 心線
6 編布
10 成形体
21 駆動プーリ
22 従動プーリ
23 V字状溝
51 可撓性ジャケット
52 内型
53 外型
53a リブ型

Claims (9)

  1. 摩擦伝動面が編布で被覆されたVリブドベルトであって、
    前記編布は、嵩高加工の合成繊維からなる原着糸を含み、当該原着糸の嵩高性により当該編布の繊維間に空隙が形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
  2. 前記原着糸の材質は、ポリアミド、及び、ポリエステルの少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1に記載のVリブドベルト。
  3. 前記嵩高加工は、タスラン加工、捲縮加工、ウーリー加工、又は、インタレース加工のいずれかにより繊維間に空隙を形成する加工であることを特徴とする請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
  4. 前記嵩高加工の合成繊維からなる原着糸は、ポリウレタンを芯糸とし、ナイロンを浮糸としたタスラン加工糸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
  5. 前記編布において、前記原着糸と非原着糸との質量比が、原着糸:非原着糸=30:70〜100:0であることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載のVリブドベルト。
  6. 前記編布は、セルロース系天然紡績糸を含まないことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載のVリブドベルト。
  7. 前記編布の嵩高性は、2.0cm3/gより大きいことを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載のVリブドベルト。
  8. 前記編布は、多層編であることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載のVリブドベルト。
  9. 請求項1〜8の何れか一項に記載のVリブドベルトの製造方法において、
    前記編布の両端をジョイントした筒状の当該編布を未加硫の圧縮層用シートに被せる、又は、圧縮層用シートの上で前記編布の両端をジョイントする、ことを特徴とするVリブドベルトの製造方法。
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