JP5981330B2 - Vリブドベルト - Google Patents

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本発明は自動車エンジン補機駆動に用いられるVリブドベルトに係り、詳しくは通常走行時(DRY)と注水時(WET)における摩擦伝動面の摩擦係数の差を小さくして耐発音性に優れたVリブドベルトに関するものである。
ゴム工業分野のなかでも、特に自動車用部品においては高機能、高性能化が望まれている。このような自動車用部品に用いられるゴム製品のなかに動力伝動ベルトがあり、例えば、自動車のエアーコンプレッサーやオルタネータ等の補機駆動の動力伝動に広く用いられている。そして、近年、静粛化の厳しい要求があり、特に自動車の駆動装置においてはエンジン音以外の音は異音とされるため、ベルトの発音対策が要請されている。
ベルトにおける発音としては、ベルトの回転速度の大きな変動や高負荷条件下で発生するスリップ音があり、また、リブをベルト長手方向に沿って設けたVリブドベルトでは、粘着摩耗を起こした粘着ゴムがリブ間の溝底に付着することによって発生する騒音なども指摘されている。さらに、プーリが一平面上に正確に配置されない、プーリレイアウトのミスアライメントにより、ベルトが偏倚走行し、この際の偏荷重に基づく異音の発生によって、自動車に乗っている人に不快感を与えることも問題となっている。
また、通常の走行時に限らず、注水時においても高い動力伝達性能を有する伝動ベルトが求められている。例えば、雨天走行時などにおいてエンジンルーム内に水が入り、ベルトとプーリとの間に水が付着した際には、ベルトのスリップ率が高くなって伝達性能が低下したり、騒音が発生したりするなどの問題がある。
このような通常走行時及び雨天走行時における伝達性能の低下や異音の発生を防止するため、例えば、特許文献1には、リブの表面のプーリに接触する摩擦伝動面に短繊維を固着した植毛層を設け、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して溶解度指数が8.3〜10.7(cal/cm1/2の可塑剤を5〜25質量部、固体潤滑剤を5〜50質量部配合したゴム組成物でリブゴム層を形成したVリブドベルトが開示されている。これによると、可塑剤がリブの表面にブリードして発揮される潤滑作用と、固体潤滑剤による潤滑作用によって、注水時(WET)や通常走行時(DRY)におけるスリップや異音の発生を抑制して動力伝動性や静音性を向上させることができると記載されている。
特開2009−281575号公報 特開2010−539394号公報
しかしながら、このVリブドベルトは可塑剤のブリードによる潤滑作用と固体潤滑剤による潤滑作用とでリブ表面の摩擦係数を低くしているため、注水時のようなリブの表面とプーリとの間に水膜が介在する場合には摩擦係数が大きく低下する虞があった。このような摩擦係数の大きな低下(通常走行時の摩擦係数と注水時の摩擦係数との差が大きい場合)は、ベルトのスリップを発生させる要因となる。また、このVリブドベルトは摩擦伝動面をゴム組成物で形成しているため、走行初期と長時間走行させた後とではゴム組成物が摩耗したり劣化したりするなどして摩擦伝動面の表面状態が大きく変化する問題があった。
この摩擦伝動面の表面状態の変化(経時劣化)を抑制するため、例えば、特許文献2には、所定の2方向に伸縮自在とした帆布でリブの表面を被覆したVリブドベルトが開示されている。これによると、リブの表面を帆布で被覆しているのでVリブドベルトのリブの表面の耐久性が向上し、リブ表面状態を持続させることができると記載されている。
しかしながら、単にリブ表面を帆布で被覆しただけではリブ表面(摩擦伝動面)の状態はフラットな状態となるため、注水時においてはリブの表面とプーリとの間に水膜が持続的に形成されることになり、注水時の摩擦係数が通常走行時のものに比べて大きく低下する問題があった。また、所定の2方向に伸縮自在とすべく弾性ヤーンを使用しているためコスト的に不利である。
そこで、本発明は、通常走行時(DRY)と注水時(WET)における摩擦伝動面の摩擦係数の差を小さくして耐発音性に優れ、リブの表面の経時劣化による状態変化を抑制しつつ、コストパフォーマンスに優れたVリブドベルトの提供を目的とする。
上記課題を解決するための第1の発明は、プーリ間に巻き掛けられて使用されるVリブドベルトであって、Vリブドベルト背面を形成する伸張層と、前記伸張層の一方面に設けられ、Vリブドベルト長手方向に沿って互いに平行して延びる複数のリブを有する圧縮層と、前記伸張層と前記圧縮層との間に前記Vリブドベルト長手方向に沿って埋設される心線と、前記リブの表面を被覆する繊維部材とを備え、前記各リブの表面には、少なくとも、前記プーリに対して前記繊維部材を介して当接する第1摩擦伝動面及び第2摩擦伝動面の2つの摩擦伝動面が形成されており、前記繊維部材は、前記Vリブドベルト長手方向に配置される経糸と、前記Vリブドベルト幅方向に配置される緯糸からなる織布で構成され、前記繊維部材の表面には、前記各リブの表面に形成された前記第1摩擦伝動面から前記第2摩擦伝動面に沿って複数の溝状のパターンが設けられており、前記緯糸は少なくとも弾性糸を含み、かつ前記経糸は前記弾性糸を含まず、更に、前記溝状のパターンは、斜文織り又は朱子織りを用いることにより形成されている、ことを特徴としている。
上記構成によれば、Vリブドベルトのリブの表面を織布からなる繊維部材で被覆しているのでリブの表面の経時劣化による状態変化を抑制することができる。
また、この繊維部材の表面には、リブの表面に形成された第1摩擦伝動面から第2摩擦伝動面に沿って複数の溝状のパターンを設けているので、注水時における、リブの表面とプーリとの間に介在する水膜の形成を防止してリブの表面の摩擦係数の低下を防止してスリップ音を抑制するとともに、リブの表面とプーリとの間に介在する水を溝状のパターンから排水することができる。
さらに、Vリブドベルト幅方向には少なくとも弾性糸を含む緯糸を配置して伸縮自在としているので、織布をリブの輪郭に合わせて適正に沿わすことができ、正確なリブ形状とすることができる。一方、Vリブドベルト長手方向に配置する経糸には弾性糸を含まない構成としているので、低コストのVリブドベルトとすることができる。
また、第2の発明は、第1の発明に係るVリブドベルトにおいて、前記緯糸には、セルロース系繊維がさらに含まれることを特徴としている。
上記構成によれば、緯糸には吸水性の高いセルロース系繊維をさらに含有しているので、注水時の水をセルロース系繊維が吸水することでリブの表面とプーリとの間に介在する水を少なくして摩擦係数の低下を防止(伝達性能向上)して、スリップを抑制することで、スリップによる異音の発生を抑制することができる。
また、第3の発明は、第1又は第2の発明に係るVリブドベルトにおいて、前記経糸が、モジュラスの低い材質の糸及び紡績糸の少なくとも一種で構成されることを特徴としている。
上記構成によれば、Vリブドベルト長手方向に配置する経糸は緯糸に比べて大きく伸張させる必要がないため、この経糸をモジュラスの低い材質の糸及び紡績糸の少なくとも一種で構成することで織布自体の伸びを大きくしたり、織布の組織伸びを利用したりして容易にVリブドベルト長手方向に伸張させることができる。従って、弾性糸や伸縮性を付与するための加工(ウーリー加工、巻縮加工など)も不要となり、低コストのVリブドベルトとすることができる。
また、第4の発明は、第1〜第3の発明の何れかに係るVリブドベルトにおいて、前記溝状パターンが、Vリブドベルト長手方向に対して傾斜していることを特徴としている。
上記構成によれば、溝状パターンをVリブドベルト長手方向に対して傾斜させているので、溝状パターンをVリブドベルト幅方向と平行方向に設けているものに比べて、1つの溝状パターンが有する表面積を大きくすることができ、リブの表面とプーリとの間に介在する水を効率よく排水することができる。すなわち、注水時の摩擦係数の低下を一層抑えることができる。
また、第5の発明は、第4の発明の何れかに係るVリブドベルトにおいて、前記溝状パターンの前記Vリブドベルト幅方向に対する傾斜角度は、0°〜80°の範囲であり、前記溝状パターン間の幅方向の間隔は、0.05mm〜1.0mmの範囲であることを特徴としている。
上記構成によれば、溝状パターンをVリブドベルト幅方向に対して0°〜80°の角度で傾斜させているので、1つの溝状パターンが有する表面積を大きくすることができ、しかも、溝状パターン間の幅方向の間隔を0.05mm〜1.0mmの範囲にしているので、溝状パターン間に水を十分に含ませることができるので、リブの表面とプーリとの間に介在する水を効率よく排水することができる。
また、第6の発明は、第1〜第5の発明の何れかに係るVリブドベルトにおいて、前記織布の織り組織が、斜文織り又は朱子織りであることを特徴としている。
上記構成によれば、織布の織り組織を斜文織り又は朱子織りとすることで、平織りにしたものに比べて織布の伸縮性を大きくすることができ、リブ形状を損なわずにリブの表面に沿って織布を被覆することができる。また、斜文織りや朱子織りはそれぞれ織布の表面に斜文線、朱子線が現れるため、複数の溝状パターンをVリブドベルト長手方向に対して容易に傾斜させることができる。
また、第7の発明は、第1〜第6の発明の何れかに係るVリブドベルトにおいて、前記織布が、接着処理されていることを特徴としている。
上記構成によれば、織布を接着処理することで圧縮層との接着性を向上させることができ、Vリブドベルト走行時の織布の剥離を防止することができる。また、例えば、接着処理に関して、ゴム糊などのゴム組成物(特にカーボンブラック等の補強剤を配合したゴム組成物)を織布に含浸、付着させることにより摩擦伝動面の耐摩耗性を向上させることができるなど、摩擦伝動面に所望の性能を付与することができる。
また、第8の発明は、第1〜第7の発明の何れかに係るVリブドベルトにおいて、乾燥時と注水時における前記繊維部材の表面の摩擦係数の差の絶対値が、0〜0.5の範囲にあることを特徴としている。
乾燥時と注水時における繊維部材の表面(摩擦伝動面)の摩擦係数の差の絶対値を上記範囲に設定することにより、通常走行時(DRY)から注水時(WET)にかけての摩擦係数の差を小さくすることができ、摩擦係数の急激な変化による異音の発生や注水時の伝達性能の低下を抑制することができる。
通常走行時(DRY)と注水時(WET)における摩擦伝動面の摩擦係数の差を小さくして耐発音性に優れ、リブの表面の経時劣化による状態変化を抑制しつつ、コストパフォーマンスに優れたVリブドベルトを提供することができる。
本実施形態に係るVリブドベルトの概略説明図である。 本実施形態に係るVリブドベルトのA−A’断面図である。 斜文織り(綾織り)の一例である1/2綾織りの組織図である。 斜文織り(綾織り)の一例である2/2綾織りの組織図である。 斜文織り(綾織り)の一例である1/3綾織りの組織図である。 朱子織りの一例である5枚朱子織りの組織図である。 朱子織りの一例である8枚朱子織りの組織図である。 (A)本実施形態に係る溝状パターンの第1説明図である。(B)本実施形態に係る溝状パターンの第2説明図である。 (A)本実施形態に係る溝状パターンの第3説明図である。(B)本実施形態に係る溝状パターンの第4説明図である。 本実施形態に係るVリブドベルトの製造方法の説明図である。 比較例1に係るVリブドベルトの断面図である。 (A)摩擦係数測定試験における通常走行時(DRY)の試験機レイアウトの説明図である。(B)摩擦係数測定試験における注水走行時(WET)の試験機レイアウトの説明図である。 ミスアライメント発音評価試験における試験機レイアウトの説明図である。 実施例で使用する帆布の仕様をまとめた表である。 実施例で使用するVリブドベルトの構成及び実験結果をまとめた表である。
(実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本願発明に係るVリブドベルトの実施形態を説明する。
本実施形態に係るVリブドベルト1は、図1に示すように、エンジン補機駆動システムなどの動力伝動システムにおいて、例えば、駆動プーリ2と従動プーリ3との間に巻き掛けられて使用される。
(Vリブドベルト1の構成)
本実施形態のVリブドベルト1は、図2の断面図に示すように、Vリブドベルト背面1Aを形成する伸張層11と、伸張層11の一方面に設けられ、Vリブドベルト長手方向Mに沿って互いに平行して延びる3つのリブ13を有する圧縮層12と、伸張層11と圧縮層12との間にVリブドベルト長手方向Mに沿って埋設される心線14と、リブ13の表面を被覆する繊維部材15とを備えている。なお、必要に応じて圧縮層12と伸張層11との間に接着層を設けてもよい。接着層は心線14と伸張層11及び圧縮層12との接着性を向上させる目的で設けられるものであるが、必須のものではない。接着層を設ける形態としては、心線14を埋設する形態でもよく、圧縮層12と接着層又は接着層と伸張層11との間に心線14を埋設する形態であってもよい。
また、図2に示すVリブドベルト1は、ゴム組成物で形成された伸張層11と、この伸張層11の下層に配置され短繊維を含有しないゴム組成物で形成された圧縮層12と、圧縮層12に形成されたリブ13の表面を被覆する繊維部材15により構成されている。また、圧縮層12には、断面が略台形形状でVリブドベルト長手方向Mに延びる3つのリブ13が設けられており、各リブ13の表面には、駆動プーリ2及び従動プーリ3の外周に対して繊維部材15を介して当接する摩擦伝動面13A(第1摩擦伝動面)及び摩擦伝動面13B(第2摩擦伝動面)と、リブ頂面13Cが形成されている。また、図8及び図9に示すように、各リブ13表面を被覆する繊維部材15の表面には、摩擦伝動面13Aからリブ頂面13Cを経由して摩擦伝動面13Bに至るまでその表面に沿って複数の溝状パターン16が設けられている。このように、Vリブドベルト1は、伸張層11、圧縮層12の2層のゴム層と繊維部材15とで構成されている。なお、圧縮層12及び繊維部材15を含めて圧縮層と定義されてもよい。
また、心線14は、Vリブドベルト長手方向Mに沿ってVリブドベルト1本体内に埋設されるように配置されており、その一部が伸張層11に埋設し、残りの部分が圧縮層12に埋設した状態で配置されている。
なお、Vリブドベルト1の形態は図2の形態に限定されず、圧縮層12を形成するゴム組成物に短繊維を配合し、この短繊維をリブ13の形状に沿った流動状態(リブ13の表面近傍においては、短繊維はリブ13の外形に沿って配向した状態)となるように配向させてもよい。また、伸張層11はゴム組成物に限定されず、帆布等(平織り、斜文織り、朱子織り、スダレ等)の繊維素材で形成されていてもよい。さらに、繊維部材15の表面に短繊維(例えば、綿、ナイロン、アラミド等)を植毛(上記溝状パターンを塞がない程度)した形態であってもよく、潤滑剤等をスプレー塗布する形態であってもよい。また、繊維部材15の表面は、圧縮層12を形成するゴム組成物が加硫時に繊維部材15を透過して一部露出したゴム部と繊維部とが共存する形態であってもよく、圧縮層12を形成するゴム組成物が露出せずに繊維部のみで形成される形態(完全に被覆された形態)でもよい。また、乾燥時(DRY)の摩擦係数と注水時(WET)の摩擦係数とのバランス調整や、例えば綿などの耐摩耗性に劣る部材を繊維部材15に用いる場合は、一部露出したゴム部と繊維部とが共存する形態が好ましい。
(圧縮層12)
圧縮層12に用いられるゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。
これらのうち、硫黄や有機過酸化物を含むゴム組成物で未加硫ゴム層を形成し、未加硫ゴム層を加硫又は架橋するのが好ましく、特に、有害なハロゲンを含まず、耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有し、経済性にも優れる点から、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)が好ましい。エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−α−オレフィン系ゴム)としては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどが挙げられる。α−オレフィンは、単独又は2種以上組み合わせて使用できる。ジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。代表的なエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム(エチレン−プロピレンゴム(EPR))、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴム(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど))などが例示できる。エチレン−α−オレフィンゴムにおいて、エチレンとα−オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60〜90/10、好ましくは45/55〜85/15、さらに好ましくは55/45〜80/20程度がよい。また、ジエンの割合は、4〜15質量%程度の範囲から選択でき、例えば、4.2〜13質量%、好ましくは4.4〜11.5質量%程度であってもよい。なお、ジエン成分を含むエチレン−α−オレフィンゴムのヨウ素価は、例えば、3〜40(好ましくは5〜30、さらに好ましくは10〜20)程度であってもよい。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の加硫が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、またヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、ゴム成分(エチレン−α−オレフィンエラストマーなど)100質量部に対して、固形分換算で、1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部程度である。
また、ゴム組成物は、さらに加硫促進剤を含んでいてもよい。加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤、チアゾ−ル系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、ビスマレイミド系促進剤、ウレア系促進剤などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜5質量部程度である。
また、ゴム組成物は、架橋度を高め、粘着摩耗などを防止するために、さらに共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤)を含んでいてもよい。共架橋剤としては、慣用の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(N−N’−m−フェニレンビスマレイミドなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。架橋助剤の割合(複数種を組み合わせる場合は合計量)は、固形分換算で、ゴム100質量部に対して、例えば、0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜8質量部程度である。
また、ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、例えば、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、可塑剤(パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤(グラファイト、二硫化モリブデン、超高分子量ポリエチレンなど)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、ゴム成分100質量部に対して補強剤(カーボンブラック、シリカなど)の割合は10〜200質量部(特に20〜150質量部)程度であってもよく、金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は1〜15質量部(特に2〜10質量部)程度であってもよく、軟化剤(パラフィンオイルなどのオイル類)の割合は1〜30質量部(特に5〜25質量部)程度であってもよく、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(特に0.5〜3質量部)程度であってもよい。
また、ゴム組成物は、必要に応じて、短繊維を含んでいてもよい。短繊維としては、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET、PEN繊維など)、脂肪族ポリアミド繊維(6ナイロン、66ナイロン、46ナイロンなど)、芳香族ポリアミド繊維(p−アラミド、m−アラミドなど)、ビニロン、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などが汎用される。短繊維は、ゴム組成物中での分散性や接着性を向上させるため、慣用の接着処理(又は表面処理)、例えば、RFL液などで処理してもよい。短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば、1〜50質量部、好ましくは5〜40質量部、さらに好ましくは10〜35質量部程度である。
(繊維部材15)
繊維部材15は、図2及び図9に示すように、圧縮層12に形成されたリブ13の表面を被覆するように配置されている。この繊維部材15は、Vリブドベルト長手方向Mに配置される経糸と、Vリブドベルト幅方向Nに配置される緯糸からなる織布で構成されている(図9(A)参照)。ここで、織布とは、糸または糸と類似の材料を、タテ(Vリブドベルト長手方向M)とヨコ(Vリブドベルト幅方向N)に組み合わせ、一定の規則によって交錯し、平面状に仕上げたものであり、織布のタテ方向にある糸は経糸、織布の幅方向にある糸は緯糸と一般的に呼ばれる。
本実施形態で使用する織布は、Vリブドベルト幅方向Nに配置される緯糸は少なくとも弾性糸を含んでおり、Vリブドベルト長手方向Mに配置される経糸は弾性糸を含まない糸で構成されている。ここで、弾性糸とは伸縮性の大きい糸のことであり、例えばポリウレタンからなるスパンデックスのように材質自体が伸縮性を有するものや、繊維を伸縮加工(例えばウーリー加工、巻縮加工等)して大きな伸縮性を付与する加工糸が挙げられる。緯糸は少なくとも弾性糸を含んで構成されるが、少なくとも1種の他の繊維を組み合わせて緯糸を構成してもよい。組み合わせ方としては、2倍以上に伸張した弾性糸と他の繊維とを混撚りしたり混紡したりすることができ、また、弾性糸と他の繊維とを平行に引き揃えた形態であってもよく、さらには2倍以上に伸張を与えた弾性糸の周りに他の繊維をカバーリングした形態(カバーリング糸)であってもよい。
上記繊維としては、例えば綿、麻、レーヨン等の天然繊維や、脂肪族ポリアミド繊維(6ナイロン、66ナイロン、46ナイロン等)、ポリエステル繊維(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリエチレン繊維、フッ素繊維、ポリアクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、芳香族ポリアミ繊維(p−アラミド、m−アラミド)等の有機繊維、カーボン繊維、ガラス繊維等の無機繊維が挙げられる。これらの繊維は要求性能に応じて適宜選択されるものであり、例えば、注水時の伝達性能を維持するとともに異音の発生を防止するには水との親和性(吸水性)の高い天然繊維(セルロース系)を用いるのが好ましい。また、繊維部材表面の耐摩耗性向上には脂肪族ポリアミド繊維や芳香族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、PBO繊維等を用いるのが好ましい。さらに、繊維部材表面の摩擦係数の低減にはフッ素繊維を用いるのが好ましい。フッ素繊維はゴムとの接着性に劣り、ベルト走行時に飛散しやすいことから、例えば特開2009−257344に開示されるように、このフッ素繊維の周りに低融点繊維(加硫温度以下で軟化又は融解)を配する形態であってもよい。もちろん、上記複数の効果を付与するために複数の繊維を組み合わせて使用することもできる。
経糸としてはモジュラスの低い材質の糸及び紡績糸の少なくとも一種で構成されるのが好ましく、低モジュラス糸としては脂肪族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維(特にポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート)等、紡績糸としてはセルロース系繊維が好ましい。このような繊維を使用することで、織布自体の伸びを大きくしたり、織布の組織伸びを利用したりして容易にVリブドベルト長手方向Mに伸張させることができる。そのため、弾性糸(スパンデックスや伸縮性を付与した加工糸)を使用する必要がなく、低コストでVリブドベルト1を製造することができる(コストパフォーマンスに優れている)。
経糸、緯糸に使用される繊維の形態としては特に限定されず、モノフィラメント、マルチフィラメント、紡績糸(スパン糸)等を単独又は組み合わせて使用することができる。
本実施形態に係る織布は、緯糸方向(Vリブドベルト幅方向N)の伸びは切伸が130%以上(リブ13の表面を被覆できる程度に伸張すればよく、上限は特に設定されない)であり、伸張してリブ13の表面を被覆するには十分な伸びを備えている。一方、経糸方向(Vリブドベルト長手方向M)の伸びは、経糸が弾性糸(スパンデックス、伸縮性付与加工糸)を含んでいないため、切伸は30〜50%と低く設定される。経糸は、Vリブドベルト長手方向Mに1〜6%程度伸張すればよく、緯糸のようにリブ13の表面を被覆するために必要となる大きな伸張は要求されない。
繊維部材15を形成する織布として平織り、斜文織り(綾織りとも称される)、朱子織りを使用することができるが、織布の伸縮性の観点から伸縮性の大きい斜文織り、朱子織りが好ましい。ここで、斜文織りとは、経糸と緯糸との交差する点(組織点)が布面に連続して斜めに現れる織布のことである。このように布面に連続して斜めに現れる線は斜文線と呼ばれる。また、朱子織りとは、経糸、緯糸が5本以上で、組織点は一定の間隔で隣り合わないようにした織布のことである。朱子織りには経糸と緯糸の密度の関係によって朱子線と呼ばれる斜文線に似た線(朱子線)が現れるものもあるが、本実施形態では織布表面に朱子線が現れる朱子織りを使用するのが好ましい。
斜文織り(綾織り)の織り組織としては、1/2綾織り(図3参照)、2/2綾織り(図4参照)、1/3綾織り(図5参照)等を挙げることができる。朱子織りの織り組織としては、5枚朱子織り(図6参照)、8枚朱子織り(図7参照)等を挙げることができる。また、織布としては、特開2009−257344に開示されるような多重織りを使用することもできる。
また、織布には、圧縮層12を構成するゴム組成物(リブ13の表面を形成するゴム組成物)との接着性を向上させる目的で接着処理を施すのが好ましい。このような接着処理としては、織布をエポキシ又はイソシアネートを有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトン等)に溶解させた樹脂系処理液に浸漬処理したり、レゾルシン-ホルマリン-ラテックス液(RFL液)などの処理液に浸漬処理したりして行なうことができる。織布と圧縮層12を構成するゴム組成物との接着性及び/又は繊維部材表面の性能付与を目的として、例えば、ゴム組成物を上記有機溶媒に溶かしてゴム糊とし、このゴム糊に織布を浸漬処理して織布にゴム組成物を含浸、付着させてもよい。ゴム組成物に配合される部材は付与する性能に応じて適宜選択されるものであり、例えば、耐摩耗性には少なくともカーボンブラック等の補強剤を配合してもよく、注水時走行性能(伝達性能、耐発音性)には少なくとも綿等の吸水性の高いセルロース系繊維(短繊維、粉末状繊維等が挙げられ、形態は特に限定されない)を配合してもよい。このゴム組成物は、必要に応じて、圧縮層12の項目で説明した添加剤を配合してもよい。これらの処理(樹脂系処理液、RFL処理、ゴム糊処理)は単独又は組み合わせて行うことができ、処理順序や処理回数は特に限定されない。
このように織布を接着処理することで圧縮層12との接着性を向上させることができ、Vリブドベルト1の走行時の織布の剥離を防止することができる。また、接着処理をすることで、リブ13の耐摩耗性を向上させることができるなど、リブ13の摩擦伝動面13A・13Bに上記所望の性能を付与することができる。
また、接着処理の方法としては上記浸漬処理に限定されるものではなく、例えば織布とゴム組成物とをカレンダーロールにとおして織布にゴム組成物を刷り込むフリクション処理や織布にゴム組成物を積層するコーティング処理であってもよい。また、圧縮層12の表面に接着剤をスプレー塗布し、この上に織布を積層して加硫時に圧縮層12と織布とを接着させてもよい。
また、接着処理をせずに織布とゴム組成物とを接着させる方法としては、例えば織布と圧縮層12を形成するゴム組成物との間に低融点(加硫温度以下で軟化又は融解)の素材(例えばポリエチレン等)からなるフィルム又はシートを配置し、加硫時に低融点素材を軟化又は融解させて織布に含浸、付着させて織布とゴム組成物とを接着させる方法を挙げることができる。
なお、織布の形態としては、平面状(シート状)のものであってもよく、袋織り等のシームレスのものであってもよい。平面状の織布の場合にはミシンジョイント等公知の方法を用いて筒状体としてもよく、織布の端面同士を重ね合わせ(オーバラップ)てもよい。
上記のように、繊維部材15に使用される織布の織り組織を斜文織り又は朱子織りとすることで、平織りや平編みにしたものに比べて織布の伸縮性を大きくすることができ、リブ形状を損なわずにリブ13の表面に沿って織布を被覆することができる。
(溝状パターン16)
本実施形態の繊維部材15の表面には、図8及び図9に示すように、摩擦伝動面13Aからリブ頂面13Cを経由して摩擦伝動面13Bに至るまでその表面に沿って複数の溝状パターン16が設けられている。この溝状パターン16は、Vリブドベルト1の製造時(製造方法は後述)の経糸及び緯糸の伸張によって経糸及び緯糸の糸間隔が拡がって形成されるものである。この溝状パターン16はVリブドベルト幅方向Nと平行方向に設けてもよいが、Vリブドベルト長手方向Mに対して傾斜させて設けるのが好ましい。このように傾斜させることで溝状パターン16の表面積を大きくすることができ、例えば、注水時のリブ13の表面と駆動プーリ2又は従動プーリ3との間に介在する水を効率よく排水することができる(注水時の摩擦係数の低下をより抑えることができる)。傾斜した溝状パターン16は、上述した斜文織り又は朱子織りを用いることで容易に形成させることができる。この溝状パターン16の傾斜角度αは、斜文織り又は朱子織りの織り組織(例えば図3〜7)や経糸及び/又は緯糸の密度を変更することで容易に変更することができる。図8(A)に示すように、溝状パターン16の傾斜角度αは、Vリブドベルト幅方向Nに対し0(Vリブドベルト幅方向Nに対して平行)〜80°の範囲、好ましくは10〜70°、より好ましくは15〜60°、更に好ましくは20〜60°(特に、30〜50°)の範囲にするのがよい。上記範囲にする理由としては、例えば、傾斜角度αが80°よりも大きい場合には、溝状パターン16の全長が長くなり過ぎてしまい、溝状パターン16の間に入り込んだ水を排出するのに時間がかかってしまうからである。一方、傾斜角度αが小さくなると、溝状パターン16が有する表面積が小さくなってしまい、溝状パターン16の間に入り込んだ水が排水されにくくなり、耐発音性が低下する傾向にあるからである。溝状パターン16の大きさやVリブドベルト長手方向Mの溝状パターン16の間隔(溝状パターンピッチ16A)は、織布の織り組織や織布を構成する経糸及び/又は緯糸の太さや密度を変えることで調整することができる。また、図8(A)に示すように、溝状パターン16と溝状パターン16と間の幅方向の間隔である溝状パターンピッチ16Bは、0.05〜1.0mmの範囲、好ましくは0.1〜0.8mm、より好ましくは0.15〜0.7mm、更に好ましくは0.2〜0.6mm(特に、0.25〜0.55mm)の範囲にするのがよい。上記範囲にする理由としては、例えば、溝状パターンピッチ16Bが0.05mmより小さい場合、溝状パターン16の間に形成される溝が狭くなって、溝状パターン16の間に入り込んだ水が排水されにくくなり、耐発音性が低下するためである。一方、溝状パターンピッチ16Bが、1.0mmより大きい場合、溝状パターン16の間に形成される溝が広くなりすぎ、溝状パターン16の間に入り込んだ水が全て排水されず、溜まってしまう(残ってしまう)からである。
(伸張層11)
伸張層11は、圧縮層12と同様のゴム組成物(エチレン−α−オレフィンエラストマーなどのゴム成分を含むゴム組成物)で形成してもよく、帆布などの布帛(補強布)で形成してもよい。補強布としては、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布や、経糸と緯糸との交差角が90〜130°程度の広角度帆布や編布などが好ましい。補強布を構成する繊維としては、短繊維と同様の繊維を利用できる。補強布は、RFL液で処理(浸漬処理など)した後、ゴム組成物を擦り込むフリクション又は積層(コーティング)してゴム付帆布を形成してもよい。これらのうち、ゴム組成物で形成された伸張層11が好ましい。伸張層11のゴム組成物において、ゴム成分としては、圧縮層12のゴム組成物のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤などの添加剤の割合も、それぞれ、圧縮層12のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。ゴム組成物には、背面駆動時に背面ゴムの粘着により発生する異音を抑制するために、さらに圧縮層12と同様の短繊維が含まれていてもよい。さらに、背面駆動時の異音を抑制するために、伸張層11の表面(Vリブドベルト背面1A)に凹凸パターン(大きさ、深さは特に限定されない)を設けてもよい。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターン、エンボスパターン(例えばディンプル形状)などが挙げられる。
また、短繊維の形態は直線状でもよく、一部屈曲させた形状(例えば、特開2007−120507のミルドファイバー)のものでもよい。Vリブドベルト1走行時には、伸張層11においてVリブドベルト1の周方向に亀裂が生じてVリブドベルト1が輪断するおそれがあるが、短繊維をVリブドベルト幅方向Nもしくはランダム方向に配向させることでこれを防止することができる。
(心線14)
心線14としては特に限定されず、例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリエステル繊維、6ナイロン繊維、66ナイロン繊維、46ナイロン繊維などの脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、PBO繊維などで形成されたコードを用いることができる。これらの繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの繊維は可撓性ジャケットの膨張率に応じて適宜選択される。例えば、膨張率が2%を超えるような高伸張の場合には弾性率の低いポリエステル繊維(特に低弾性ポリエチレンテレフタレート繊維)、ナイロン繊維(特に66ナイロン繊維、46ナイロン繊維)が好ましい。これは、アラミド繊維、PBO繊維など弾性率の高い繊維では可撓性ジャケットが膨張しても繊維は十分に伸張することができず、Vリブドベルト1に埋設される心線14のピッチラインが安定しなかったり、適正なリブ13形状が形成されなかったりするためである。そのため、弾性率の高い繊維を使用するには可撓性ジャケットの膨張率を低く設定(例えば1%程度)するのが好ましい。
上記のVリブドベルト1によれば、Vリブドベルト1のリブ13の表面を織布からなる繊維部材15で被覆しているのでリブ13の表面の経時劣化による状態変化を抑制することができる。また、この繊維部材15の表面には、リブ13の表面に形成された摩擦伝動面13Aからリブ頂面13Cを経由して摩擦伝動面13Bに至るまでその表面に沿って複数の溝状パターン16を設けているので、注水時における、リブ13の表面と駆動プーリ2・従動プーリ3との間に介在する水膜の形成を防止してリブ13の表面の摩擦係数の低下を防止してスリップ音を抑制するとともに、リブ13の表面と駆動プーリ2・従動プーリ3との間に介在する水を溝状パターン16から排水することができる。さらに、Vリブドベルト幅方向Nには少なくとも弾性糸を含む緯糸を配置して伸縮自在としているので、織布をリブ13の輪郭に合わせて適正に沿わすことができ、正確なリブ形状とすることができる。一方、Vリブドベルト長手方向Mに配置する経糸には弾性糸を含まない構成としているので、低コストのVリブドベルト1とすることができる。
(Vリブドベルト1の製造方法)
次に、Vリブドベルト1の製造方法について図10を参照して説明する。
Vリブドベルト1の製造方法としては以下の公知の方法を用いることができる。まず、外周面に可撓性ジャケット51を装着した内型50に、未加硫の伸張層用シート11Sを巻きつけ、この上に心線14を螺旋状にスピニングし、更に未加硫の圧縮層用シート12Sと繊維部材15としての織布とを順次巻き付けて成形体10を作製する。次に、内周面に複数のリブ型54を刻設した外型53に成形体10を巻き付けた内型50を同心的に設置する。このとき、外型53の内周面と成形体10の外周面との間には所定の間隙が設けられている。
その後、可撓性ジャケット51を外型53の内周面(リブ型54)に向かって膨張(例えば1〜6%)させて成形体10(繊維部材15、圧縮層用シート12S)をリブ型54に圧入し、加硫(例えば160℃、30分)を行なう。
最後に、内型50を外型53より抜き取り、複数のリブ13を有する加硫ゴムスリーブ10Aを外型53より脱型した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブ10AをVリブドベルト長手方向Mに沿って所定の幅でカットしてVリブドベルト1に仕上げる(第1の製造方法)。
なお、Vリブドベルト1の製造方法としては上記方法に限らず、例えば特開2004−82702に開示される方法を採用することもできる。先ず、外周面に可撓性ジャケット51を装着した内型50に未加硫の圧縮層用シート12Sと繊維部材15としての織布とを順次巻き付けて成形体10Bとし、内周面に複数のリブ型54を刻設した外型53に成形体10Bを巻き付けた内型50を同心的に設置する。次に、可撓性ジャケット51を外型53の内周面に向かって膨張させて成形体10Bをリブ型54に圧入し、半加硫状態の予備成形体を作製する。その後、内型50を外型53より抜き取る。このとき、予備成形体は外型53の内周面に密着した状態で残っている。次に、取り出した内型50に未加硫の伸張層用シート11Sを巻きつけ、この上に心線14を螺旋状にスピニングして成形体10Cを作製し、この成形体10Cを巻き付けた内型50を上記外型53に同心的に設置する。次いで、可撓性ジャケット51を膨張させて成形体10Cを上記予備成形体に圧着して加硫一体化する。最後に、内型50を外型53より抜き取り、複数のリブ13を有する加硫ゴムスリーブ10Aを外型53より脱型した後、カッターを用いてこの加硫ゴムスリーブ10AをVリブドベルト長手方向Mに沿って所定の幅でカットしてVリブドベルト1に仕上げる(第2の製造方法)。
(帆布の引張試験、摩擦係数測定試験及びミスアライメント発音評価試験)
上記では、Vリブドベルト1の構成、及び、その製造方法について説明した。次に、Vリブドベルト1における帆布(織布、編布)の引張試験、摩擦係数測定試験及びミスアライメント発音評価試験を行ったのでこれについて説明する。
最初に、上記試験に係る実施例及び比較例で使用するVリブドベルト1について製造方法も踏まえて説明する。まず、実施例及び比較例で使用するVリブドベルト1を構成するゴム組成物として、表1の配合表に記載したゴムを使用して作製する。具体的には、表1の配合表に記載したゴムをバンバリーミキサーなど公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールにとおして所定厚みの圧延ゴムシートである、圧縮層用ゴム1(第1圧縮層用シート)、圧縮層用ゴム2(第2圧縮層用シート)、伸張層用ゴム(伸張層用シート)、接着処理用ゴム(接着処理用シート)を作製した。
また、リブ13の表面を被覆するために使用する8タイプの帆布(織布、編布)1〜8の組織、材質、密度を図14に示す。帆布1は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が6ナイロン(フィラメント糸)、緯糸が綿及びポリウレタン(PU)、繊度/本数は、経糸が235dtex/1本、緯糸は、綿が20番手/2本、ポリウレタンが155dtex/1本、密度は縦糸が110本/3cm、緯糸が76本/3cmである。帆布2は、接着処理(接着処理用シートをトルエンに溶解してゴム糊(固形分濃度8%)とし、このゴム糊に帆布を浸漬、乾燥させた。)をする以外は帆布1と同じである。帆布3は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が6ナイロン(フィラメント糸)、緯糸がm−アラミド及びポリウレタン、繊度/本数は、経糸が235dtex/1本、緯糸は、m−アラミドが20番手/2本、ポリウレタンが155dtex/1本、密度は縦糸が108本/3cm、緯糸が76本/3cmである。帆布4は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が66ナイロン(フィラメント糸)、緯糸が綿及びポリウレタン、繊度/本数は、経糸が155dtex/1本、緯糸は綿が40番手/2本、ポリウレタンが122dtex/1本、密度は縦糸が144本/3cm、緯糸が97本/3cmである。帆布5は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が66ナイロン(フィラメント糸)、緯糸が綿及びポリウレタン、繊度/本数は、経糸が155dtex/1本、緯糸は綿が60番手/1本、ポリウレタンが44dtex/1本、密度は縦糸が148本/3cm、緯糸が183本/3cmである。帆布6は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が66ナイロン(フィラメント糸)、緯糸が綿及びポリウレタン、繊度/本数は、経糸が155dtex/1本、緯糸は綿が80番手/1本、ポリウレタンが22dtex/1本、密度は縦糸が148本/3cm、緯糸が183本/3cmである。帆布7は、形態が織布で組織が2/2綾織り、材質は経糸が66ナイロン(スパン糸)、緯糸が綿及びポリウレタン、繊度/本数は、経糸が40番手/2本、緯糸は綿が60番手/1本、ポリウレタンが44dtex/1本、密度は縦糸が106本/3cm、緯糸が194本/3cmである。帆布8は、形態が編布で組織が平編み、材質は経糸及び緯糸ともに綿、綿の繊度/本数は経糸・緯糸ともに40番手/1本、密度はコース数が34個/3cm、ウェール数が33個/3cmである。ここで、帆布8における平編みとは、緯編(よこあみ)の一種であり、1本の糸でループを横方向に進めながら編地を形成し、編み針を1本ずつ順に上昇させて糸をくわえて下降させることにより編目を作る編み方であり、特に、1列の編み針で編まれ、編地の表面に全てのループの表目が現れることを特徴としている。この平編みを織り組織とする帆布は、単純な構造で伸縮性に優れている。
そして、実施例1〜実施例7及び比較例2におけるVリブドベルト1は、上述した第1の製造方法を用いて作製した。また、比較例1におけるVリブドベルト1は、図11に示すように、圧縮層12に、表1の配合表に記載した、圧縮層用ゴム1(伸張層11側に配置される)及び圧縮層用ゴム2(主にリブ13を構成する)の2種類の圧縮層用ゴムを使用している。この比較例1のVリブドベルト1は、上述した第1の製造方法において、圧縮層用ゴム1(第1圧縮層用シート)と圧縮層用ゴム2(第2圧縮層用シート)の2枚の圧縮層用シートを、圧縮層用ゴム2(第2圧縮層用シート)が外型53の内周面側に位置するように積層することにより作製した。なお、内型50に巻き付けた成形体10(実施例1〜実施例7及び比較例2では、伸張層・心線・圧縮層・繊維部材、比較例1では、伸張層・心線・圧縮層)を可撓性ジャケット51にて膨張させて外型53の内周面(リブ型54が刻設された面)に押圧したときの可撓性ジャケット51の膨張率、すなわちVリブドベルト長手方向Mの伸張率は3.0%である。また、リブ13の表面を被覆するための帆布(織布又は編布)の伸張率、すなわちVリブドベルト幅方向Nの伸張率は80%である。作製したVリブドベルト1はベルト長さが1200mm、リブ形状がK型の6リブである。
また、図15に、実施例1〜7におけるVリブドベルト1の構成を示している。実施例1〜7のVリブドベルト1を比較してみると、傾斜角度αは、緯糸が細くなる(綿番手が大きくなる)と小さくなる傾向があることが分かる。また、経糸にスパン糸(紡績糸)を用いた実施例7は、傾斜角度α、溝状パターンピッチ16Bの何れもが最も低くなっていることが分かる。また、織り組織が同じであっても(実施例1〜7で使用する帆布は2/2綾織り)、経糸・緯糸の構成や糸の太さ・密度を変えることにより、傾斜角度αや溝状パターンピッチ16Bを変更することができることが分かる。
(帆布の引張試験方法)
次に、帆布(織布、編布)の引張試験方法について説明する。
上述した8タイプの帆布(織布、編布)1〜8を、経糸(編布ではコース)方向及び緯糸(編布ではウェール)方向にカットして短冊状試験片(長さ400mm、幅50mm)とし、この試験片に2本の標線(標線間隔100mm)を引いた。この試験片をチャック間距離200mmとして室温雰囲気下で弛まない程度にチャックに固定し、引張速度200mm/minで試験片を引張り、上記経糸(編布ではコース)方向及び緯糸(編布ではウェール)方向について50N時伸び、破断伸度、破断強力を測定した。50N時伸び、破断伸度については、50N時又は破断時の標線間隔を読取り、算出((50N時又は破断時標線間隔−初期標線間隔)/初期標線間隔×100)した。
(帆布の引張試験結果)
帆布の引張試験により得られた帆布の引張特性結果(50N時伸び、破断伸度、破断強力)を図14に示す。形態が織布である帆布1〜3は経糸方向の伸び(50N時伸び、破断伸度)は小さいが、弾性糸であるポリウレタンを含有した緯糸は伸びが100%超えており、緯糸方向にのみ伸縮性があるのが分かる。また、帆布4〜7は、帆布1、2に対して緯糸密度を高くしたが、緯糸の太さを小さくしたために、帆布4〜7における50N時伸び、及び、破断伸度は、帆布1、2と比較して大きくなり、破断強度は、帆布1、2と比較して低下した。一方、編布である帆布8はコース方向、ウェール方向の何れも大きな伸びを示しており、2方向に伸縮性があるのが分かる。破断強力は、帆布3の緯糸方向がm−アラミドを含有していることから実施例1、2に比べて高くなった。一方、帆布8は帆布1〜7に比べて破断強力は低い結果となった。
(摩擦係数測定試験方法)
摩擦係数測定試験は、図12(A)に示すように、直径121.6mmの駆動プーリ(Dr.)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径61.0mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径76.2mmのアイドラープーリ(IDL.3)、直径77.0mmのアイドラープーリ(IDL.4)、直径121.6mmの従動プーリ(Dn.)を配置した試験機を用いて行なった。この試験機の各プーリにVリブドベルト1を掛架し、通常走行時(DRY)においては、室温条件下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数を400rpm、従動プーリ(Dn.)へのVリブドベルト巻き付け角度を20°とし、一定荷重(180N/6Rib)を付与してVリブドベルト1を走行させ、従動プーリ(Dn.)のトルクを上げていき、従動プーリ(Dn.)に対するVリブドベルト1の滑り速度が最大(100%スリップ)となったときの従動プーリ(Dn.)のトルク値より、以下の式を用いて摩擦係数μを求めた。

μ=ln(T/T)/α

ここで、Tは張り側張力、Tは緩み側張力、αは従動プーリ(Dn.)へのVリブドベルト巻き付け角度であり、それぞれ以下の式で求めることができる。

=T+Dn.トルク(kgf・m)/(121.6/2000)
=180(N/6Rib)
α=π/9(rad) (※radはラジアン)
注水走行時(WET)は、図12(B)に示すように、駆動プーリ(Dr.)の回転数を800rpm、従動プーリ(Dn.)へのVリブドベルト巻き付け角度を45°(α=π/4)、従動プーリ(Dn.)の入口付近に1分間で300mlの水を注水し続ける以外は通常走行時(DRY)と同じであり、摩擦係数μも上記式を用いて同様に求めた。
(摩擦係数測定試験結果)
摩擦係数測定試験により得られた通常走行時(乾燥時:DRY)と注水走行時(WET)の摩擦係数と、摩擦係数の差(DRY−WET)を図15に示す。緯糸にセルロース系繊維である綿を使用した実施例1、2及び5は乾燥時と注水時の摩擦係数が低く、その差は0であり、注水しても摩擦係数は低下せず伝達性能が優れているのが分かる。また、実施例4、6及び7も、注水時の摩擦係数が0.9〜1.0の範囲にあり、乾燥時と注水時の摩擦係数の差が小さく、注水しても伝達性能が優れていることが分かる。実施例3は、乾燥時の摩擦係数は実施例1、2及び5と差はないが、注水時の摩擦係数は低くなった。これは、m−アラミドが綿に比べて吸水性が低いためと考えられる。比較例1は摩擦伝動面がゴム組成物で形成されているため、実施例1〜7に比べて乾燥時の摩擦係数は高く、注水時の摩擦係数は低くなっており、その差は1.2と最も大きくなった。比較例2は、編布の編み目よりゴムが多く滲み出して摩擦伝動面の大部分をゴムが占めたため、乾燥時の摩擦係数は比較例1と同じであった。一方、注水時の摩擦係数はゴムに覆われずに残った綿による吸水効果により比較例1に比べて高くなった。
(ミスアライメント発音評価試験方法)
ミスアライメント発音評価試験は、図13に示すように、直径90mmの駆動プーリ(Dr.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.1)、直径120mmのミスアライメントプーリ(W/P)、直径80mmのテンションプーリ(Ten.)、直径70mmのアイドラープーリ(IDL.2)、直径80mmのアイドラープーリ(IDL.3)を配置した試験機を用いて行ない、アイドラープーリ(IDL.1)とミスアライメントプーリの軸離(スパン長)を135mmに設定し、全てのプーリが同一平面上(ミスアライメントの角度0°)に位置するように調整した。そして、試験機の各プーリにVリブドベルト1を掛架し、室温条件下で、駆動プーリ(Dr.)の回転数が1000rpm、ベルト張力が300N/6Ribとなるように張力を付与し、駆動プーリ(Dr.)の出口付近においてVリブドベルト1のリブ13の摩擦伝動面に定期的(約30秒間隔)に5ccの水を注水して、ミスアライメント(ミスアライメントプーリを各プーリに対し手前側にずらす:ミスアライメントの角度を上げる)でVリブドベルト1を走行させた時の発音(ミスアライメントプーリの入口付近)が発生するときのミスアライメントの角度(発音限界角度)を求めた。また、通常走行時(注水しない以外は注水走行時と同じレイアウト、走行条件)においても同様に発音限界角度を求めた。発音限界角度の数値が大きいほど耐発音性に優れていることを示すものであり、発音限界角度が2.0°以上であれば、乾燥時及び被水時の耐発音性は良好と判断した。
(ミスアライメント発音評価試験結果)
ミスアライメント発音評価試験により得られた乾燥時と注水時の発音限界角度を図15に示す。実施例1〜7の乾燥時発音限界角度に関しては、リブズレが発生(ミスアライメントの角度としては3.5〜4°の範囲)するまで発音はしなかった。実施例1〜7の注水時発音限界角度に関しては、実施例2では、リブズレが発生するまで発音はなく、実施例1、3及び4では、3.5°と高かった。また、実施例5〜7では、注水時発音限界角度の範囲が3.0〜3.3と比較的高い値を維持している。比較例1は、乾燥時では発音しなかったが、注水時では発音限界角度が1.8°と低く、注水時の耐発音性が劣っているのが分かる。比較例2は、乾燥時の発音限界角度は3.0°であり耐発音性に問題はなかったが、注水時では発音限界角度が1.5°と最も低く、比較例1に劣る結果となった。この理由としては、比較例2のVリブドベルトは、編布の編み目よりリブを構成するゴム組成物(圧縮層用ゴム1)が多く滲み出して、プーリと接する面の大部分をこのゴム組成物(圧縮層用ゴム1)が占めているため、注水時の発音限界角度においても、ゴム組成物(圧縮層用ゴム1)の材質が大きく影響するものと考えられる。よって、比較例2のVリブドベルトではゴム組成物(圧縮層用ゴム1)に、水との親和性が高いエーテルエステル系可塑剤が配合されていないことから注水時の発音限界角度の値が低いものになったと考えられる。
また、乾燥時において(乾燥時発音限界角度に関して)、実施例4〜7は、リブズレが発生するまで発音はせず、耐発音性は良好であった。一方、注水時においても発音限界角度は2.0°以上となっており問題はないが、傾斜角度α、溝状パターンピッチ16Bが小さくなる(溝状パターン16間の間隔の大きさが小さくなる)と耐発音性は低下する傾向にあることが分かる。
また、上記摩擦係数測定試験結果及びミスアライメント発音評価試験結果から、実施例1〜7に係るVリブドベルト1のように、通常走行時(乾燥時:DRY)と注水走行時(WET)における摩擦係数の差(絶対値)を、0〜0.5の範囲にすることができれば、通常走行時(DRY)から注水走行時(WET)にかけての摩擦係数の差を小さくして、摩擦係数の急激な変化による異音の発生や注水時のVリブドベルト1の伝達性能の低下を抑制することができることが分かった。
また、実施例4〜6の溝状パターンピッチ16Bは、実施例1、2に対して小さくなるが、これらの間では、乾燥時と注水時の摩擦係数の差が小さく、摩擦係数測定試験結果に顕著な差は見られなかった。また、注水時に十分な耐発音性能を示した。
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上述の実施形態・実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
例えば、上記実施形態及び実施例では、リブ13は、断面が略台形状をしており、リブ13の表面には、駆動プーリ2及び従動プーリ3の外周に対して繊維部材15を介して当接する摩擦伝動面13A(第1摩擦伝動面)、及び、摩擦伝動面13B(第2摩擦伝動面)の2つの摩擦伝動面が形成されているが、これに限らず、摩擦伝動面は、3つ以上でもよい。また、摩擦伝動面を2つとした場合、リブ13のVリブドベルト幅方向Nの断面をV字形状としてもよく、リブ13表面を被覆する繊維部材15の表面には、一方の第1摩擦伝動面から他方の第2摩擦伝動面に沿って複数の溝状パターン16が設けられた構造とすることができる。
また、本実施形態及び実施例では、リブ頂面13Cは、駆動プーリ2及び従動プーリ3などのプーリと直接当接しない面としているが、このリブ頂面13Cを、プーリと直接当接する3つ目の摩擦伝動面に代えて設けてもよい。
1 Vリブドベルト
1A Vリブドベルト背面
2 駆動プーリ
3 従動プーリ
11 伸張層
12 圧縮層
13 リブ
13A・13B 摩擦伝動面
13C リブ頂面
14 心線
15 繊維部材
16 溝状パターン
M Vリブドベルト長手方向
N Vリブドベルト幅方向

Claims (8)

  1. プーリ間に巻き掛けられて使用されるVリブドベルトであって、
    Vリブドベルト背面を形成する伸張層と、
    前記伸張層の一方面に設けられ、Vリブドベルト長手方向に沿って互いに平行して延びる複数のリブを有する圧縮層と、
    前記伸張層と前記圧縮層との間に前記Vリブドベルト長手方向に沿って埋設される心線と、
    前記リブの表面を被覆する繊維部材と
    を備え、
    前記各リブの表面には、少なくとも、前記プーリに対して前記繊維部材を介して当接する第1摩擦伝動面及び第2摩擦伝動面の2つの摩擦伝動面が形成されており、
    前記繊維部材は、前記Vリブドベルト長手方向に配置される経糸と、前記Vリブドベルト幅方向に配置される緯糸からなる織布で構成され、
    前記繊維部材の表面には、前記各リブの表面に形成された前記第1摩擦伝動面から前記第2摩擦伝動面に沿って複数の溝状のパターンが設けられており、
    前記緯糸は少なくとも弾性糸を含み、かつ前記経糸は前記弾性糸を含まず、
    更に、前記溝状のパターンは、斜文織り又は朱子織りを用いることにより形成されている、
    ことを特徴とするVリブドベルト。
  2. 前記緯糸は、セルロース系繊維がさらに含まれることを特徴とする請求項1に記載のVリブドベルト。
  3. 前記経糸は、モジュラスの低い材質の糸及び紡績糸の少なくとも一種で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のVリブドベルト。
  4. 前記溝状パターンは、Vリブドベルト長手方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のVリブドベルト。
  5. 前記溝状パターンの前記Vリブドベルト幅方向に対する傾斜角度は、0°〜80°の範囲であり、前記溝状パターン間の幅方向の間隔は、0.05mm〜1.0mmの範囲であることを特徴とする請求項4に記載のVリブドベルト。
  6. 前記織布の織り組織は、斜文織り又は朱子織りであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のVリブドベルト。
  7. 前記織布は、接着処理されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のVリブドベルト。
  8. 乾燥時と注水時における前記繊維部材の表面の摩擦係数の差の絶対値が、0〜0.5の範囲にあることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のVリブドベルト。
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