以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置1をモデル化して示している。同図に示すように、振動抑制装置1は、第1弾性要素、第1粘性要素、第1慣性接続要素、及び軸力制限機構を備えている。
上記の第1粘性要素及び第1慣性接続要素は、構造物の振動を抑制するために粘性減衰効果及び回転慣性効果をそれぞれ発揮するものであり、軸力制限機構は、振動抑制装置1の軸力(反力)を制限するためのものである。また、第1弾性要素は、第1粘性要素及び第1慣性接続要素と直列に設けられており、第1粘性要素及び第1慣性接続要素は、互いに並列に設けられている。さらに、これらの第1弾性要素、第1粘性要素及び第1慣性接続要素によって第1付加振動系が構成されている。
図2は、上記の振動抑制装置1を具現化して示している。振動抑制装置1は、円筒状のシリンダ2と、シリンダ2に部分的に収容されたロッド3と、シリンダ2内に摺動自在に設けられたピストン4を備えている。
シリンダ2は、軸線方向に互いに対向する一対の側壁2a、2aと、両者2a、2aの間に一体に設けられた周壁2bで構成されている。これらの側壁2a,2a及び周壁2bによって画成された油室は、ピストン4によって第1油室2c及び第2油室2dに分割されており、両油室2c、2dには、作動油HFが充填されている。これらの第1及び第2油室2c、2dは、ピストン4に対して軸線方向の一方の側及び他方の側に、それぞれ配置されている。この作動油HFが、前述した第1粘性要素に相当する。
また、各側壁2aの径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔2eが形成されており、ロッド案内孔2eには、シール5が設けられている。さらに、軸線方向の一方の側(図2の左側)の側壁2aには、軸線方向に突出する凸部2fが一体に設けられており、凸部2fの内側には、収容部2gが画成されている。さらに、凸部2fには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。
前記ロッド3は、上記のロッド案内孔2e、2eに挿入され、軸線方向に延びており、シリンダ2に対して軸線方向に移動自在である。また、ロッド3は、その一端部が上記の収容部2gに収容されており、一端部以外の大部分がシリンダ2に収容されている。また、ロッド3の軸線方向の中央には、一対のフランジ3a、3aが一体に設けられている。さらに、ロッド3の他端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
前記ピストン4は、円柱状に形成されており、その周面には、シール6が設けられている。また、ピストン4の径方向の中央には、軸線方向に貫通する孔(図示せず)が形成されている。このピストン4の孔には、ロッド3が挿入されており、それにより、ピストン4は、ロッド3に対して、軸線方向に移動自在である。
また、ピストン4は、ロッド3の一対のフランジ3a、3aの間に配置されており、軸線方向の他方の側(図2の右側)のフランジ3aとピストン4の間には、第1ばね7が設けられるとともに、一方の側のフランジ3aとピストン4の間には、第2ばね8が設けられている。図2に示すように、ロッド3がシリンダ2に対して中立位置にあるときには、ピストン4は、これらの第1及び第2ばね7、8によって、ロッド3に対して中立位置に保持されている。これらの第1及び第2ばね7、8が、前述した第1弾性要素(図1参照)に相当する。
図3に示すように、第1ばね7は、4つの皿ばね座金7aを直列に配置したものであり、その径方向の中央の孔7bに、ロッド3が挿入されている。第2ばね8は、第1ばね7と同様に構成されている。なお、第1及び第2ばね7、8について、皿ばね座金7aの数と配置の仕方(直列・並列)は、任意である。これらの第1及び第2ばね7、8のばね定数k1、k2は、互いに同じ値に設定されており(図4参照)、両者7、8には、予荷重が付与されていない。
また、ピストン4の両側面には、円柱状のばね保持部材4a、4aが一体に設けられている。これらのばね保持部材4a、4aは、ピストン4から軸線方向に突出するとともに、フランジ3a、3aに、シール9、9をそれぞれ介して係合しており、第1及び第2ばね7、8の外周を覆っている。
さらに、ピストン4の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁11及び第2リリーフ弁12が設けられている。第1リリーフ弁11は、弁体11aと、これを閉弁側に付勢するばね11bで構成されており、第1油室2c内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2油室2c、2dが互いに連通される。
第2リリーフ弁12は、第1リリーフ弁11と同様、弁体12aと、これを閉弁側に付勢するばね12bで構成されており、第2油室2d内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2油室2c、2dが互いに連通される。これらの第1及び第2リリーフ弁11、12が、前述した軸力制限機構(図1参照)に相当する。
振動抑制装置1では、ロッド3が、外力によりシリンダ2に対して中立位置から軸線方向の一方の側(図2の左側)に移動すると、ピストン4は、前述したように第1及び第2ばね7、8によりロッド3に対して中立位置に保持されていることから、ロッド3とともにシリンダ2内を一方の側に摺動する。それに伴い、第1油室2c内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、ピストン4の一端面には、第1油室2c内の作動油HFの反力が作用し、それにより、ピストン4がロッド3に対して中立位置から軸線方向の他方の側に移動することによって、第1ばね7は、ピストン4と他方の側のフランジ3aによって圧縮される。
この場合、予荷重が前述したように第1及び第2ばね7、8に付与されていないため、一方の側へのロッド3の移動に伴って圧縮された第1ばね7の反力のみが、ピストン4を一方の側に付勢するように作用する。ロッド3の変位が大きいほど、第1油室2c内の作動油HFの反力が大きいことで第1ばね7の圧縮度合が大きくなることによって、第1ばね7の反力は、より大きくなる。
上記とは逆に、ロッド3が、シリンダ2に対して中立位置から軸線方向の他方の側(図2の右側)に移動すると、ピストン4は、ロッド3とともにシリンダ2内を他方の側に摺動する。それに伴い、第2油室2d内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、ピストン4の他端面には、第2油室2d内の作動油HFの反力が作用し、それにより、ピストン4がロッド3に対して中立位置から軸線方向の一方の側に移動することにより、第2ばね8は、ピストン4と一方の側のフランジ3aによって圧縮される。
以上により、この場合には、圧縮された第2ばね8の反力のみが、ピストン4を他方の側に付勢するように作用し、他方の側へのロッド3の変位が大きいほど、第2油室2d内の作動油HFの反力が大きくなることで第2ばね8の圧縮度合が大きくなることによって、第2ばね8の反力は、より大きくなる。
以上から、シリンダ2に対するロッド3の変位と、第1及び第2ばね7、8の反力との関係は、例えば図4のように示される。同図において、横軸はロッド3の変位を、縦軸は、第1及び第2ばね7、8の反力を、それぞれ示している。また、値0はロッド3がシリンダ2に対して中立位置にある状態を示し、値0から左側は、ロッド3が中立位置から軸線方向の一方の側(図2の左側)に変位したときの関係を示すとともに、値0から右側は、ロッド3が中立位置から他方の側(図2の右側)に変位したときの関係を示している。以上のように、シリンダ2に対するロッド3の変位は、第1又は第2ばね7、8を介して、ピストン4に伝達される。
また、振動抑制装置1は、第1バイパス通路15、第1スクリュー機構16及び第1回転マス17をさらに備えている。この第1回転マス17が、前述した第1慣性接続要素(図1参照)に相当する。第1バイパス通路15は、互いに対称に設けられた第1通路15a及び第2通路15bで構成され、シリンダ2に、ピストン4をバイパスするように接続されており、第1及び第2油室2c、2dに連通している。
第1通路15aは、シリンダ2の周壁2bの一端部から径方向の外方に延び、直角に屈曲して、軸線方向の他方の側に延びている。第2通路15bは、シリンダ2の周壁2bの他端部から径方向の外方に延び、直角に屈曲して、軸線方向の一方の側に延びている。第1通路15aの軸線方向に延びる部分と、第2通路15bの軸線方向に延びる部分とは、互いに同心状に配置されている。
また、図2及び図5に示すように、前記第1スクリュー機構16は、円筒状の筒部16aと、羽根16bで構成されており、第1及び第2通路15a、15bの間に、両者15a、15bと同心状に設けられている。羽根16bは、螺旋状に形成されており、筒部16aの内側に、一体に設けられるとともに、同心状に配置されている。
第1回転マス17は、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成されており、円筒状に形成されている。また、第1回転マス17は、第1スクリュー機構16と比較して、その径が大きく、その軸線方向の長さが大きい。第1回転マス17の内側には、第1スクリュー機構16が同軸状に固定されている。
さらに、第1回転マス17の一端部及び他端部は、第1バイパス通路15の第1通路15aの他端部、及び第2通路15bの一端部をそれぞれ覆っている。第1回転マス17と第1通路15aの間、及び、第1回転マス17と第2通路15bの間には、シール18及び18がそれぞれ設けられており、これらのシール18、18によって、第1回転マス17の内側の空間が密閉されている。この密閉された空間に、第1スクリュー機構16が配置されている。
また、第1回転マス17は、第1及び第2通路15a、15bの各々に設けられたラジアル軸受19及びスラスト軸受20を介して、第1及び第2通路15a、15bに同軸状に回転自在に支持されている。さらに、第1及び第2通路15a、15bの各々には、羽根21が、第1スクリュー機構16に臨むように取り付けられている。
図6は、振動抑制装置1を構造物(例えば高層の建築物)Bに設置した場合の例を示している。同図に示すように、第1取付具FL1が直接、構造物Bの左側の柱PLと上側の梁BUとの接続部分に連結されるとともに、第2取付具FL2が直接、構造物Bの右側の柱PRと下側の梁BDとの接続部分に連結されており、それにより、振動抑制装置1は、これらの柱PL、PR及び梁BU、BDに対して、斜めに取り付けられている。
地震などによる振動により構造物Bが往復動すると、左右の柱PL、PR及び上下の梁BU、BDの間の変位(以下「構造物Bの変位」という)が、シリンダ2及びロッド3に伝達され、それに伴い、ロッド3が、シリンダ2に対して軸線方向に往復動する。この場合、ロッド3がシリンダ2に対して中立位置から軸線方向の一方の側(図2の左側)に移動すると、前述したようにロッド3の変位が第1ばね7を介してピストン4に伝達されることによって、ピストン4がシリンダ2内を一方の側に摺動し、それに伴い、第1油室2c内の作動油HFが圧縮されるとともに、第2油室2dが拡大する。これにより、第1油室2c内の作動油HFの一部は、第1バイパス通路15の第1通路15aを介して第1スクリュー機構16の内部を流れ、さらに第2通路15bを介して、第2油室2dに流入する。
上記とは逆に、ロッド3がシリンダ2に対して中立位置から軸線方向の他方の側(図2の右側)に移動すると、ロッド3の変位が第2ばね8を介してピストン4に伝達されることによって、ピストン4がシリンダ2内を他方の側に摺動し、それに伴い、第2油室2d内の作動油HFが圧縮されるとともに、第1油室2cが拡大する。これにより、第2油室2d内の作動油HFの一部は、第1バイパス通路15の第2通路15bを介して第1スクリュー機構16の内部を流れ、さらに第1通路15aを介して、第1油室2cに流入する。
作動油HFが上述したように第1スクリュー機構16を通過する際、第1スクリュー機構16の羽根16bが螺旋状に形成されているので、作動油HFの流動は第1スクリュー機構16の回転運動に変換され、それに伴い、第1スクリュー機構16と一体の第1回転マス17が回転する。この場合、作動油HFは、第1スクリュー機構16の羽根16bを通過することによって渦流となり、この渦流が第1通路15a又は第2通路15bに取り付けられた羽根21からの反力を受けることによって、第1スクリュー機構16の回転運動への変換効率が向上する。
以上のように、第1実施形態によれば、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達されるとともに、さらに第1スクリュー機構16を介して第1回転マス17に伝達されることにより、第1回転マス17が回転する。したがって、作動油HFの粘性減衰効果と第1回転マス17の回転慣性効果によって、構造物Bの振動を抑制することができる。
また、前述した従来の場合と異なり、構造物Bの変位がロッド3からピストン4に直接的に伝達されるのではなく、第1又は第2ばね7、8を介して伝達される。図1に示すように、第1及び第2ばね7、8に相当する第1弾性要素は、作動油HFに相当する第1粘性要素、及び第1回転マス17に相当する第1慣性接続要素に対して、直列に設けられているので、これらの第1又は第2ばね7、8、作動油HF及び第1回転マス17によって第1付加振動系を適切に構成することができる。
第1実施形態によれば、第1ばね7のばね定数k1、第2ばね8のばね定数k2、第1バイパス通路15の通路面積(作動油HFの流れ方向と直交する面の面積)、第1スクリュー機構16の筒部16aの径、羽根16bの角度、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス17の質量は、上記の第1付加振動系の固有振動数が構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、設定されている。したがって、第1付加振動系の固有振動数を構造物Bの一次の固有振動数に適切に同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次モードによる振動を適切に抑制することができる。なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。
また、上述した第1付加振動系の固有振動数の調整において、具体的には、第1バイパス通路15の通路面積を変更することによって、作動油HFの流動に対する第1スクリュー機構16の回転運動への変換効率すなわち第1回転マス17の回転慣性効果と、作動油HFの粘性減衰効果を調整することができるとともに、第1スクリュー機構16の筒部16aの径及び羽根16bの角度を変更することによって、作動油HFの流動に対する第1スクリュー機構16の回転運動への変換効率すなわち第1回転マス17の回転慣性効果を、調整することができる。また、作動油HFの粘度を変更することによって、その粘性減衰効果を調整することができるとともに、第1回転マス17の質量を変更することによって、その回転慣性効果を調整することができる。
また、第1実施形態によれば、第1及び第2ばね7、8がシリンダ2に収容されているので、ピストン4をロッド3に一体に設けるとともに構造物Bへのロッド3の連結を弾性要素を介して行う場合と比較して、振動抑制装置1全体を小型化できるとともに、その設置を容易に行うことができる。
さらに、構造物Bの振動に伴ってピストン4がシリンダ2内を摺動することにより、作動油HFの粘性減衰力と、第1回転マス17の回転慣性力が発生するため、第1及び第2油室2c、2d内の作動油HFの圧力は、作動油HFの粘性減衰力及び第1回転マス17の回転慣性力と密接な相関関係にあり、両者が大きいほど、これらの粘性減衰力及び回転慣性力は、より大きくなる。第1実施形態によれば、前述したように、第1及び第2油室2c、2d内の作動油HFの圧力がそれぞれ所定値に達したときに、すなわち、作動油HFの粘性減衰力及び第1回転マス17の回転慣性力から成る振動抑制装置1の反力(軸力)が比較的大きくなったときに、両油室2c、2dが、第1及び第2リリーフ弁11、12(軸力制限機構)によって連通される。
これにより、ピストン4がシリンダ2内を摺動しても、シリンダ2内で作動油HFの圧縮及び作動油HFの流動がほとんど行われなくなるので、作動油HFの粘性減衰力及び第1回転マス17の回転慣性力が頭打ちになる。また、第1及び第2ばね7、8は、第1及び第2油室2c、2d内の作動油HFの反力がピストン4に作用することによって、ピストン4とフランジ3a、3aで圧縮される。したがって、上述した第1及び第2油室2c、2dの連通によって、ピストン4とフランジ3a、3aによる第1及び第2ばね7、8の圧縮も行われなくなる。以上により、振動抑制装置1の反力(軸力)の過大化を防止することができる。
次に、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、図7に示すように、第1ばね7のばね定数k1を第2ばね8のばね定数k2よりも小さな値に設定した点のみが、異なっている。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第1実施形態で説明したように、第1ばね7は、ロッド3が軸線方向の一方の側(図1の左側)に移動したときに、ピストン4とフランジ3aにより圧縮され、それにより発生した第1ばね7の反力がピストン4に作用することによって、ロッド3に伝達された構造物Bの変位が、ピストン4に伝達される。第2ばね8は、ロッド3が軸線方向の他方の側に移動したときに、ピストン4とフランジ3aにより圧縮され、それにより第2ばね8の反力がピストン4に作用することによって、ロッド3に伝達された構造物Bの変位が、ピストン4に伝達される。
以上により、振動による構造物Bの往復動によりロッド3が軸線方向の一方の側及び他方の側に繰り返し移動したときに、構造物Bの変位は、第1及び第2ばね7、8をそれぞれ介して、ピストン4に伝達される。すなわち、振動による構造物Bの往復動に対して、第1ばね7、作動油HF及び第1回転マス17からなる第1付加振動系と、第2ばね8、作動油HF及び回転マス17から成る第2付加振動系が構成される。
第2実施形態では、第1ばね7のばね定数k1、第1バイパス通路15の通路面積、第1スクリュー機構16の筒部16aの径、羽根16bの角度、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス17の質量は、上記の第1付加振動系の固有振動数が構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、設定されている。また、第2ばね8のばね定数k2、第1バイパス通路15の通路面積、第1スクリュー機構16の筒部16aの径、羽根16bの角度、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス17の質量は、上記の第2付加振動系の固有振動数が構造物Bの二次の固有振動数に同調するように、設定されている。
以上により、第1及び第2付加振動系の固有振動数を、構造物Bの一次及び二次の固有振動数にそれぞれ適切に同調させることができる。これにより、作動油HFや、第1回転マス17、第1及び第2ばね7、8などから成る一基の振動抑制装置によって、構造物Bの一次及び二次モードによる振動を適切に抑制でき、ひいては、装置のさらなる小型化を図ることができる。
なお、第2実施形態では、第1ばね7のばね定数k1を第2ばね8のばね定数k2よりも小さな値に設定しているが、これとは逆に、第2ばね8のばね定数k2を第1ばね7のばね定数k1よりも小さな値に設定してもよい。
次に、図8及び図9を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置1Aについて説明する。図8と図1の比較から明らかなように、この振動抑制装置1Aは、第1実施形態と比較して、2つの第2付加振動系をさらに備える点が主に異なっている。図9において、第1実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付しており、便宜上、第1実施形態で述べた構成要素の一部の符号を省略している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図8は、振動抑制装置1Aをモデル化して示している。同図に示すように、2つの第2付加振動系の各々は、第2弾性要素、第2粘性要素及び第2慣性接続要素で構成されており、第1慣性接続要素及び第1粘性要素に並列に接続されている。
また、図9は、振動抑制装置1Aを具現化して示している。上記の2つの第2付加振動系の各々は、第2慣性接続要素に相当する第2回転マス31を有している。一方の第2回転マス31は第2バイパス通路32Aに、他方の第2回転マス31は第2バイパス通路32Bに、それぞれ設けられている。
図9に示すように、第2バイパス通路32Aは、第1バイパス通路15に接続されており、第1バイパス通路15の一部を介して、ピストン4をバイパスするようにシリンダ2に接続され、第1及び第2油室2c、2dに連通している。また、第2バイパス通路32Aは、第1バイパス通路15と同様、互いに対称に設けられた第1通路32Aa及び第2通路32Abで構成されており、両者32Aa、32Abの間に、第2回転マス31や第2スクリュー機構33が設けられている。
第1通路32Aaは、第1バイパス通路15の第1通路15aの屈曲部に接続されており、この屈曲部から径方向の外方に延び、直角に屈曲して、軸線方向の他方の側(図9の右側)に延びている。第2通路32Abは、第1バイパス通路15の第2通路15bの屈曲部に接続されており、この屈曲部から径方向の外方に延び、直角に屈曲して、軸線方向の一方の側(図9の左側)に延びている。
第2スクリュー機構33は、第1実施形態の第1スクリュー機構16と同様に構成されており、円筒状の筒部33aと、筒部33aの内側に一体に設けられ、螺旋状に形成された羽根33bを有している。第2スクリュー機構33は、第2回転マス31の内側に配置されており、粘弾性ゴム34を介して、第2回転マス31に同軸状に連結されている。粘弾性ゴム34は、粘性及び弾性の双方を有しており、前述した第2弾性要素及び第2粘性要素(図8参照)に相当する。
また、第2スクリュー機構33は、一対のラジアル軸受35、35を介して、第2回転マス31に回転自在に支持されている。第2スクリュー機構33と第2回転マス31の間の空間は、一対のシール36、36によって密閉されており、この密閉された空間に、上記のラジアル軸受35、35及び粘弾性ゴム34が配置されている。
第2回転マス31は、前述した第1回転マス17と同様、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されており、第2スクリュー機構33と比較して、その径が大きく、その軸線方向の長さが大きい。また、第2回転マス31は、第2バイパス通路32Aの第1及び第2通路32Aa、32Abに、ラジアル軸受37及びスラスト軸受38を介して、回転自在に支持されている。さらに、第2回転マス31の内側の空間は、一対のシール39、39によって密閉されており、この密閉された空間に、第2スクリュー機構33が配置されている。また、第1及び第2通路32Aa、32Abの各々には、羽根40が、第2スクリュー機構33に臨むように取り付けられている。
さらに、第2バイパス通路32Bは、第1バイパス通路15と同様、ピストン4をバイパスするようにシリンダ2に接続されており、第1及び第2油室2c、2dに連通している。第2バイパス通路32Bは、互いに対称に設けられた第1通路32Ba及び第2通路32Bbで構成されており、両者32Ba、32Bbの間に、第2回転マス31や第2スクリュー機構33が設けられている。第2バイパス通路32Bに設けられた第2回転マス31や第2スクリュー機構33などの各種の要素は、前述した第2バイパス通路32Aに設けられた各種の要素と同じであるので、図9に符号のみを示し、それらの詳細な説明については省略する。
振動抑制装置1Aでは、地震などにより構造物Bが振動すると、第1実施形態と同様、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達されるとともに、さらに第1スクリュー機構16を介して第1回転マス17に伝達されることにより、第1回転マス17が回転する。
また、構造物Bの変位がピストン4などを介して作動油HFに伝達されることにより、シリンダ2内の作動油HFに流れが生じると、第2バイパス通路32Aが前述したように第1バイパス通路15に接続されているため、シリンダ2の第1又は第2油室2c、2dから第1バイパス通路15に流入した作動油HFの一部は、第2バイパス通路32Aを介して、第2スクリュー機構33の内部を流れ、さらに第2バイパス通路32A及び第1バイパス通路15を介して、第2又は第1油室2d、2cに流入する。第2スクリュー機構33を流れる作動油HFの流動は、回転運動に変換され、その回転運動が、粘弾性ゴム34を介して第2回転マス31に伝達されることにより、第2回転マス31が回転する。
同様に、シリンダ2内の作動油HFに流れが生じると、第2バイパス通路32Bが前述したようにシリンダ2に接続されているので、第1又は第2油室2c、2d内の作動油HFの一部が、第2バイパス通路32Bを介して、第2スクリュー機構33の内部を流れ、さらに第2バイパス通路32Bを介して、第2又は第1油室2d、2cに流入する。この場合にも、第2スクリュー機構33を流れる作動油HFの流動は、回転運動に変換され、その回転運動が、粘弾性ゴム34を介して第2回転マス31に伝達されることにより、第2回転マス31が回転する。その結果、粘弾性ゴム34の粘性減衰効果と第2回転マス31の回転慣性効果によって、構造物Bの振動が抑制される。なお、第2バイパス通路32A及び32Bのいずれにおいても、羽根40によって、第2スクリュー機構33の回転運動への変換効率が向上する。
図8に示すように、第2回転マス31などから成る2つの第2付加振動系はいずれも、第1回転マス17などから成る第1付加振動系の全体に対して並列に設けられておらず、第1回転マス17の動作に対して第2付加振動系の動作が並列に作用する。したがって、第1付加振動系及び2つの第2付加振動系の組合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、3つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
第3実施形態によれば、第1及び第2付加振動系の諸元は、上記の3つの組合わせ固有振動数のうちの1つが構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、他の2つがいずれも構造物Bの二次の固有振動数に同調するように、設定されている。したがって、3つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物Bの一次及び二次の固有振動数に適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次及び二次モードによる振動を適切に抑制することができる。
この場合、上記の第1付加振動系の諸元には、第1ばね7のばね定数k1、第2ばね8のばね定数k2、第1バイパス通路15の通路面積、第1スクリュー機構16の筒部16aの径、羽根16bの角度、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス17の質量が含まれる。また、第2付加振動系の諸元には、粘弾性ゴム34のばね定数、第2バイパス通路32A及び32Bの通路面積、第2スクリュー機構33の筒部33aの径、羽根33bの角度、粘弾性ゴム34の粘度、及び、第2回転マス31の質量が含まれる。
また、図8に示すように、この第2付加振動系を2つ備えているので、構造物Bの二次モードによる振動の抑制効果をより効果的に得ることができる。以上のように、一基の振動抑制装置1Aによって、第1付加振動系及び2つの第2付加振動系を適切に構成できるとともに、三者の組合わせで構成された付加振動系の3つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物Bの一次及び二次の固有振動数に適切に多重同調させることができる。なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次及び二次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。また、3つの組合わせ固有振動数を、構造物の同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる3つの所望の固有振動数に、それぞれ多重同調させてもよい。
また、第3実施形態では、第2付加振動系を2つ、すなわち、第2回転マス31、31、第2スクリュー機構33、33及び第2バイパス通路32A、32Bをそれぞれ2つ設けているが、1つでもよい。この場合、第1及び第2付加振動系の組合わせで構成された付加振動系の固有振動数としてそれぞれ別個に存在する2つの組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる2つの所望の固有振動数に、それぞれ多重同調させてもよい。
さらに、第2付加振動系を3つ以上設けてもよい。この場合、第1付加振動系及び複数の第2付加振動系の組合わせで構成された付加振動系の固有振動数として、第1及び第2回転マス17、31の数だけ別個に存在する複数の組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる複数の所望の固有振動数にそれぞれ多重同調させてもよい。
次に、図10及び図11を参照しながら、本発明の第4実施形態による振動抑制装置1Bについて説明する。図10と図1の比較から明らかなように、この振動抑制装置1Bは、第1実施形態と比較して、第2付加振動系をさらに備える点が主に異なっている。図11において、第1実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付しており、便宜上、第1実施形態で述べた構成要素の一部の符号を省略している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図10は、振動抑制装置1Bをモデル化して示している。同図に示すように、上記の第2付加振動系は、第2弾性要素、第2粘性要素及び第2慣性接続要素で構成されており、第1慣性接続要素及び第1粘性要素に並列に接続されている。
また、図11は、振動抑制装置1Bを具現化して示している。同図に示すように、上記の第2慣性接続要素に相当する第2回転マス51は、第1回転マス17と同様、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されており、第1回転マス17と比較して、その径が大きく、その軸線方向の長さが小さい。
また、第2回転マス51は、第1回転マス17の外周に設けられており、一対のラジアル軸受52、52を介して、第1回転マス17に同軸状に回転自在に支持されている。さらに、第2回転マス51は、一対の渦巻ばね53、53を介して、第1回転マス17に連結されている。第1回転マス17と第2回転マス51の間は、一対のシール54、54によって密閉されており、密閉された両者17、51の間の空間には、シリコンオイルから成る粘性体55が充填されている。
振動抑制装置1Bでは、地震などにより構造物Bが振動すると、第1実施形態と同様、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達されるとともに、さらに第1スクリュー機構16を介して第1回転マス17に伝達されることにより、第1回転マス17が回転する。
また、第1回転マス17の回転に伴い、渦巻ばね53、53を介して連結された第2回転マス51が回転することによって、第2回転マス51の回転慣性効果が付与される。それに加え、渦巻ばね53、53は、第2回転マス51と第1回転マス17との回転変位差に応じた反力を発生させるとともに、粘性体55は、第2回転マス51と第1回転マス17との回転速度差に応じた粘性減衰効果を発揮する。
図10に示すように、第2回転マス51などから成る第2付加振動系は、第1回転マス17などから成る第1付加振動系の全体に対して並列に設けられておらず、第1回転マス17の動作に対して第2付加振動系の動作が並列に作用する。したがって、第1及び第2付加振動系の組み合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、2つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
第4実施形態によれば、第1付加振動系の諸元(第1回転マス17の質量など)及び第2付加振動系の諸元は、上記の2つの組合わせ固有振動数のうちの1つが構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、他の1つが構造物Bの二次の固有振動数に同調するように、それぞれ設定されている。したがって、2つの組合わせ固有振動数を構造物Bの一次及び二次の固有振動数にそれぞれ適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次及び二次モードによる振動を適切に抑制することができる。この場合、上記の第2付加振動系の諸元には、渦巻ばね53、53のばね定数、粘性体55の粘度及び第2回転マス51の質量が含まれる。
以上のように、一基の振動抑制装置1Bによって、第1及び第2付加振動系を適切に構成できるとともに、両者の組合わせで構成された付加振動系の2つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物Bの一次及び二次の固有振動数に適切に多重同調させることができる。
なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次及び二次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。また、2つの組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に多重同調させてもよい。
次に、図12及び図13を参照しながら、本発明の第5実施形態による振動抑制装置1Cについて説明する。この振動抑制装置1Cは、第1実施形態と比較して、第1スクリュー機構16に代えて、第1歯車モータ61を備える点と、第1回転マス62の構成が主に異なっている。図12及び図13において、第1実施形態と同じ構成要素については同じ符号を付しており、便宜上、第1実施形態で述べた構成要素の一部の符号を省略している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図12に示すように、第1歯車モータ61は、外接歯車型のものであり、ケーシング61aと、ケーシング61aに収容された第1ギヤ61b及び第2ギヤ61cを有しており、第1バイパス通路15の途中に設けられている。ケーシング61aは、第1バイパス通路15の第1通路15a及び第2通路15bに接続されており、その内部が、両者15a及び15bをそれぞれ介して、シリンダ2の第1及び第2油室2c、2dに連通している。
また、第1ギヤ61bは、スパーギヤであり、第1回転軸61dに一体に設けられている。第1回転軸61dは、第1バイパス通路15の作動油HFの流れ方向に直交する方向に延びており、ラジアル軸受(図示せず)を介して、ケーシング61aに回転自在に支持されている。これにより、第1回転軸61d及び第1ギヤ61bは、ケーシング61aに対して、互いに一体に回転自在である。また、図13に示すように、第1回転軸61dは、ケーシング61aから若干、突出している。
第2ギヤ61cは、第1ギヤ61bと同様、スパーギヤであり、第2回転軸61eに一体に設けられるとともに、第1ギヤ61bに噛み合っている。第2回転軸61eは、第1回転軸61dと同様、第1バイパス通路15の作動油HFの流れ方向に直交する方向に延びており、ラジアル軸受(図示せず)を介して、ケーシング61aに回転自在に支持されている。これにより、第2回転軸61e及び第2ギヤ61cは、ケーシング61aに対して、互いに一体に回転自在である。また、第1及び第2ギヤ61b、61cは、互いに噛合う部分が第1及び第2通路15a、15bとケーシング61aとの接続部分に臨むように、配置されている。
第1回転マス62は、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成されており、円板状に形成されている。また、第1回転マス62は、第1回転軸61dに同軸状に取り付けられており、第1回転軸61d及び第1ギヤ61bと一体に回転自在である。
振動抑制装置1Cでは、地震などにより構造物Bが振動すると、第1実施形態と同様、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達される。これにより、シリンダ2内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、第1又は第2油室2c、2d内の作動油HFの一部が、第1バイパス通路15に流入し、さらに第1歯車モータ61のケーシング61a内を流れ、第1バイパス通路15を介して第2又は第1油室2d、2c内に流入する。ケーシング61a内を流れる作動油HFの流動は、第1及び第2ギヤ61b、61cの回転運動に変換され、それに伴い、第1ギヤ61bと一体の第1回転マス62が回転する。
これまでに述べた振動抑制装置1Cの構成及び動作から明らかなように、振動抑制装置1Cをモデル化すると、第1実施形態と同様、例えば図1のように示される。振動抑制装置1Cでは、第1回転マス62が第1慣性接続要素に相当し、その他の要素については、第1実施形態と同様である。
第5実施形態によれば、第1ばね7のばね定数k1、第2ばね8のばね定数k2、第1バイパス通路15の通路面積、第1歯車モータ61の容積効率、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス62の質量は、これらの第1回転マス62などから成る第1付加振動系の固有振動数が構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、設定されている。したがって、第1付加振動系の固有振動数を構造物Bの一次の固有振動数に適切に同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次モードによる振動を適切に抑制することができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。
次に、図14及び図15を参照しながら、本発明の第6実施形態による振動抑制装置1Dについて説明する。この振動抑制装置1Dは、前述した第3実施形態(図8及び図9)と比較して、第1スクリュー機構16及び第2スクリュー機構33、33に代えて、第1歯車モータ61及び第2歯車モータ71、71をそれぞれ備える点と、第1回転マス62及び第2回転マス72の構成が主に異なっている。換言すれば、上述した第5実施形態と比較して、第2回転マス72をそれぞれ有する2つの第2付加振動系をさらに備える点が、主に異なっている。図14において、第3及び第5実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付している。以下、第3及び第5実施形態と異なる点を中心に説明する。
第2歯車モータ71は、第1歯車モータ61と同様に構成されているので、以下、その構成について簡単に説明する。図14に示すように、第2歯車モータ71は、ケーシング71a、第1ギヤ71b及び第2ギヤ71cを有しており、第2バイパス通路32A及び32Bの途中に設けられている。以下、第2バイパス通路32A及び32Bにそれぞれ設けられた第2歯車モータ71及び71を代表して、第2バイパス通路32Aに設けられた第2歯車モータ71についてのみ説明する。
ケーシング71aは、第2バイパス通路32Aの第1通路32Aa及び第2通路32Abに接続されており、その内部が、第1通路32Aa及び第1バイパス通路15の第1通路15aを介して、シリンダ2の第1油室2cに連通するとともに、第2通路32Ab及び第1バイパス通路15の第2通路15bを介して、シリンダ2の第2油室2dに連通している。また、第1ギヤ71bと一体の第1回転軸71dは、ラジアル軸受(図示せず)を介して、ケーシング71aに回転自在に支持されている。また、図15に示すように、第1回転軸71dは、ケーシング71aから若干、突出している。
第2ギヤ71cは、第1ギヤ71bに噛み合っており、第2ギヤ71cと一体の第2回転軸71eは、ラジアル軸受(図示せず)を介して、ケーシング71aに回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ71b、71cは、互いに噛合う部分が第1及び第2通路32Aa、32Abとケーシング71aとの接続部分に臨むように、配置されている。第2回転マス72は、第1回転マス62と同様、例えば鉄で構成されており、円板状に形成されている。また、第2回転マス72は、粘性及び弾性の双方を有する粘弾性ゴム73を介して、第1回転軸71dに同軸状に取り付けられている。
以上の構成により、振動抑制装置1Dでは、地震などにより構造物Bが振動すると、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達され、さらに第1歯車モータ61を介して第1回転マス62に伝達されることにより、第1回転マス62が回転するとともに、第2歯車モータ71、71を介して第2回転マス72、72に伝達されることにより、第2回転マス72、72が回転する。
これまでに述べた振動抑制装置1Dの構成及び動作から明らかなように、振動抑制装置1Dをモデル化すると、第3実施形態と同様、例えば前述した図8のように示される。振動抑制装置1Dでは、第1回転マス62が第1慣性接続要素に相当し、粘弾性ゴム73が、第2弾性要素及び第2粘性要素に相当するとともに、第2回転マス72が第2慣性接続要素に相当する。その他の要素については、第1実施形態と同様である。以上から、第3実施形態と同様、第1付加振動系及び2つの第2付加振動系の組合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、3つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
第6実施形態によれば、第1及び第2付加振動系の諸元は、上記の3つの組合わせ固有振動数のうちの1つが構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、他の2つがいずれも構造物Bの二次の固有振動数に同調するように、設定されている。この場合、第1付加振動系の諸元には、第1ばね7のばね定数k1、第2ばね8のばね定数k2、第1バイパス通路15の通路面積、第1歯車モータ61の容積効率、作動油HFの粘度、及び、第1回転マス62の質量が含まれる。また、第2付加振動系の諸元には、粘弾性ゴム73のばね定数、第2バイパス通路32A、32Bの通路面積、第2歯車モータ71の容積効率、粘弾性ゴム73の粘度、及び、第2回転マス72の質量が含まれる。
以上により、第3実施形態と同様、一基の振動抑制装置1Dによって、第1付加振動系及び2つの第2付加振動系を適切に構成できるとともに、三者の組合わせで構成された付加振動系の3つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物Bの一次及び二次の固有振動数に適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次及び二次モードによる振動を適切に抑制することができる。なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次及び二次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。また、3つの組合わせ固有振動数を、構造物の同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる3つの所望の固有振動数に、それぞれ多重同調させてもよい。
また、第6実施形態では、第2付加振動系を2つ、すなわち、第2回転マス72、72、第2歯車モータ71、71及び第2バイパス通路32A、32Bをそれぞれ2つ設けているが、1つでもよい。この場合、第1及び第2付加振動系の組合わせで構成された付加振動系の固有振動数としてそれぞれ別個に存在する2つの組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる2つの所望の固有振動数に、それぞれ多重同調させてもよい。
さらに、第2付加振動系を3つ以上設けてもよい。この場合、第1付加振動系及び複数の第2付加振動系の組合わせで構成された付加振動系の固有振動数として、第1及び第2回転マス62、72の数だけ別個に存在する複数の組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に、あるいは、互いに異なる複数の所望の固有振動数にそれぞれ多重同調させてもよい。
次に、図16及び図17を参照しながら、本発明の第7実施形態による振動抑制装置1Eについて説明する。この振動抑制装置1Eは、前述した第4実施形態(図10及び図11)と比較して、第1スクリュー機構16、第1回転マス17及び第2回転マス51に代えて、第1歯車モータ61、第1回転マス62及び第2回転マス81をそれぞれ備える点が、主に異なっている。換言すれば、前述した第5実施形態と比較して、第2回転マス81を有する第2付加振動系をさらに備える点が、主に異なっている。図16において、第4及び第5実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第4及び第5実施形態と異なる点を中心に説明する。
図17に示すように、第1回転軸61dは、第1回転マス62からケーシング61aと反対側に若干、突出している。第2回転マス81は、第1回転マス62と同様、例えば鉄で構成されており、円板状に形成されている。また、第2回転マス81は、粘弾性ゴム82を介して、第1回転軸61dに同軸状に取り付けられている。粘弾性ゴム82は、粘性及び弾性の双方を有している。
以上の構成により、振動抑制装置1Eでは、地震などにより構造物Bが振動すると、振動による構造物Bの変位は、ロッド3、第1又は第2ばね7、8及びピストン4を介して作動油HFに伝達され、さらに第1歯車モータ61を介して第1回転マス62に伝達されることにより、第1回転マス62が回転するとともに、粘弾性ゴム82を介して第2回転マス81に伝達されることにより、第2回転マス81が回転する。
これまでに述べた振動抑制装置1Eの構成及び動作から明らかなように、振動抑制装置1Eをモデル化すると、第4実施形態と同様、例えば前述した図10のように示される。振動抑制装置1Eでは、第1回転マス62が第1慣性接続要素に相当し、粘弾性ゴム82が、第2弾性要素及び第2粘性要素に相当するとともに、第2回転マス81が第2慣性接続要素に相当する。その他の要素については、第1実施形態と同様である。以上から、第4実施形態と同様、第1及び第2付加振動系の組み合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、2つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
第7実施形態によれば、第1回転マス62の質量などの第1付加振動系の諸元及び第2付加振動系の諸元は、上記の2つの組合わせ固有振動数のうちの1つが構造物Bの一次の固有振動数に同調するように、他の1つが構造物Bの二次の固有振動数に同調するように、設定されている。この場合、第2付加振動系の諸元には、粘弾性ゴム82のばね定数及び粘度と、第2回転マス81の質量が含まれる。
以上により、第4実施形態と同様、一基の振動抑制装置1Eによって、第1及び第2付加振動系を適切に構成できるとともに、両者の組合わせで構成された付加振動系の2つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物Bの一次及び二次の固有振動数に適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物Bの一次及び二次モードによる振動を適切に抑制することができる。なお、同調させる構造物Bの固有振動数は、一次及び二次の固有振動数に限らず、他の任意の固有振動数でもよい。また、2つの組合わせ固有振動数を、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に多重同調させてもよい。
さらに、第3、第6及び第7実施形態では、粘性及び弾性の双方を有する粘弾性ゴム34、73、82を用いているが、弾性のみを有する他の適当な弾性体、例えばゴムやばねを用いてもよい。また、第4実施形態では、渦巻ばね53を用いているが、他の適当な弾性体、例えばゴムなどを用いてもよい。さらに、第4実施形態では、粘性体55は、シリコンオイルであるが、他の適当な粘性体を用いてもよく、あるいは、粘性体55を省略してもよい。
さらに、第3〜第7実施形態では、第1及び第2ばね7、8のばね定数k1、k2を互いに同じ値に設定しているが、第2実施形態と同様、互いに異なる値に設定してもよい。例えば、第3実施形態による振動抑制装置1Aの第1及び第2ばね7、8のばね定数k1、k2を互いに異なる値に設定した場合には、ロッド3が軸線方向の一方の側及び他方の側にそれぞれ移動したときに、互いに異なる固有振動数を有する付加振動系を構成することができるため、トータルで3×2=6つの付加振動系を適切に構成することができる。
また、第1〜第7実施形態では、予荷重を、第1及び第2ばね7、8に付与していないが、付与してもよい。図18は、第1及び第2ばね7、8のばね定数k1、k2が互いに同じ値に設定されている場合(第1、第3〜第7実施形態)において、両者7、8に予荷重を付与したときにおけるロッド3の変位と、第1及び第2ばね7、8の反力の合力との関係を示している。以下、この関係について説明する。
ロッド3が中立位置にある場合、第1及び第2ばね7、8への予荷重の付与により両者7、8が圧縮された状態では、それによる第1及び第2ばね7、8の双方の反力は、ピストン4を中立位置に保持するように互いに反対方向に作用し、釣り合った状態にある。
また、第1実施形態で述べたように、ロッド3が、シリンダ2に対して中立位置から軸線方向の一方の側(図2の左側)に移動すると、ピストン4の一端面に、第1油室2c内の作動油HFの反力が作用する。これにより、ピストン4がロッド3に対して軸線方向の他方の側に移動することにより、第1ばね7がさらに圧縮されて、その反力がさらに増大する一方、第2ばね8が伸びて、予荷重による第2ばね8の反力が減少する。そして、ロッド3に対するピストン4の軸線方向の他方の側への移動量が、予荷重による第2ばね8の圧縮量よりも大きくなり、それにより第2ばね8の予荷重がなくなると、ピストン4には、第1ばね7の反力のみが作用するようになる。
これとは逆に、ロッド3が、シリンダ2に対して中立位置から軸線方向の他方の側(図2の右側)に移動すると、ピストン4の他端面に、第2油室2d内の作動油HFの反力が作用する。これにより、ピストン4がロッド3に対して軸線方向の一方の側に移動することによって、第2ばね8がさらに圧縮されて、その反力が増大する一方、第1ばね7が伸びて、予荷重による第1ばね7の反力が減少する。そして、ロッド3に対するピストン4の軸線方向の一方の側への移動量が、予荷重による第1ばね7の圧縮量よりも大きくなり、それにより第1ばね7の予荷重がなくなると、ピストン4には、第2ばね8の反力のみが作用するようになる。
以上の動作から、この場合におけるシリンダ2に対するロッド3の変位と、第1及び第2ばね7、8の反力の合力との関係は、例えば図18のように示される。同図において、値0はロッド3がシリンダ2に対して中立位置にある状態を示し、値0から左側は、ロッド3が中立位置から軸線方向の一方の側(図2の左側)に変位したときの関係を示すとともに、値0から右側は、ロッド3が中立位置から他方の側(図2の右側)に変位したときの関係を示している。
また、図18において、αで示す範囲は、予荷重による第1ばね7の反力が作用する範囲を示しており、βで示す範囲は、予荷重による第2ばね8の反力が作用する範囲を示している。この場合、第1及び第2ばね7、8のばね定数k1、k2が互いに等しいことから、これらの範囲α及びβは、互いに同じ大きさになる。
また、図19は、第1ばね7のばね定数k1が第2ばね8のばね定数k2よりも小さな値に設定されている場合(第2実施形態)において、両者7、8に予荷重を付与したときにおけるロッド3の変位と、第1及び第2ばね7、8の反力の合力との関係を示している。この場合、第1ばね7のばね定数k1が第2ばね8のばね定数k2よりも小さいことにより、中立位置での予荷重による第1ばね7の圧縮量が第2ばね8のそれよりも大きいことから、予荷重による第1ばね7の反力が作用する範囲αは、予荷重による第2ばね8の反力が作用する範囲βよりも大きくなる。
上述した図18及び図19に示すように、第1及び第2ばね7、8に予荷重を付与することによって、ロッド3の変位すなわち構造物Bの変位に対する第1及び第2ばね7、8から成る第1弾性要素の剛性の特性として、バイリニアな特性を得ることができる。したがって、例えば、振動による構造物Bの変位が大きくなるのに伴って振動抑制装置の反力が過大にならないうちに、第1弾性要素のより小さな剛性(k1又はk2)を得ることが可能になり、それにより、第1付加振動系などの固有振動数を構造物Bの固有振動数と異ならせることができるので、振動抑制装置の反力の過大化を防止することができる。
また、振動による構造物Bの変位が比較的小さいときに、第1弾性要素のより大きな剛性(k1+k2)を得ることが可能になる。それにより、例えば風力により構造物Bが振動した場合であって、それによる構造物Bの変位が比較的小さいときでも、構造物Bの変位を、第1及び第2ばね7、8の弾性変形により不要に吸収されるのを抑制しながら、作動油HFや第1回転マス17などに適切に伝達することができ、ひいては、構造物Bの振動を適切に抑制することができる。
あるいは、振動による構造物Bの変位が大きいときと、小さいときとで、互いに異なる第1付加振動系の固有振動数を得ることができるので、それによる多重同調を行うことも可能である。
なお、本発明は、説明した第1〜第7実施形態(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明のピストン用弾性体として、皿ばね座金7aで構成された第1ばね7(第2ばね8)を用いているが、他の適当な弾性体、例えば圧縮コイルばねや、引張コイルばね、ゴムなどを用いてもよい。
また、実施形態では、本発明における動力変換機構として、第1スクリュー機構16や第1歯車モータ61を用いているが、作動流体の流動を回転運動に変換可能な他の機構、例えばベーンモータやプランジャモータなどを用いてもよい。さらに、実施形態では、本発明の作動流体として、作動油HFを用いているが、粘性を有する他の適当な流体を用いてもよい。
また、実施形態では、第1及び第2リリーフ弁11、12を、ピストン4に設けているが、シリンダ2に、ピストン4をバイパスして第1及び第2油室2c、2dを互いに連通するバイパス通路をさらに設けるとともに、このバイパス通路に、第1及び第2リリーフ弁を設けてもよい。さらに、第1及び第2リリーフ弁11、12の一方又は双方を省略してもよい。また、実施形態では、一対のフランジ3aを用いて制振装置1、1A〜1Eを構成しているが、例えば、図20に示す単一のフランジ3bを用いて構成してもよい。以下、この構成について説明する。
ピストン91は、軸線方向に互いに対向する一対の側壁91a、91aと、両者91a、91aの間に一体に設けられた肉厚の周壁91bで構成され、円筒状に形成されており、シリンダ2内に摺動自在に設けられている。各側壁91aの径方向の中央には、軸線方向に貫通する孔(図示せず)が形成されている。両側壁91a、91aの孔には、ロッド3が挿入されており、それにより、ピストン91は、ロッド3に対して、軸線方向に移動自在である。また、周壁91bの外周面には、シール6が設けられている。さらに、図示しないが、周壁91bには、前述した第1及び第2リリーフ弁11、12が設けられている。
また、フランジ3bは、ロッド3に一体に設けられている。フランジ3b、第1及び第2ばね7、8は、ピストン91に収容されており、第1ばね7は一方の側壁91aとフランジ3bの間に、第2ばね8は他方の側壁91aとフランジ3bの間に、それぞれ配置されている。図20に示すように、ロッド3がシリンダ2に対して中立位置にあるときには、ピストン91は、第1及び第2ばね7、8によって、ロッド3に対して中立位置に保持されている。
さらに、実施形態では、振動抑制装置1、1A〜1Eを、構造物Bの層間に設置し、いわゆる制振装置として用いているが、構造物Bとこれを支持する支持体との間に設置し、いわゆる免震装置として用いてもよい。また、実施形態は、本発明を高層の建築物である構造物Bに適用した例であるが、本発明による振動抑制装置は、他の適当な構造物、例えば橋梁や鉄塔などにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の2つの部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制するための振動抑制装置であって、2つの部位の一方に連結されるとともに、作動流体が充填されたシリンダと、2つの部位の他方に連結され、シリンダに部分的に収容されるとともに、シリンダに対して軸線方向に移動自在のロッドと、ロッドと一体のフランジと、シリンダ内を軸線方向に摺動自在で、かつロッドに対して軸線方向に移動自在のピストンと、シリンダに収容されるとともに、フランジとピストンの間に設けられ、シリンダに対するロッドの変位をピストンに伝達するためのピストン用弾性体と、ピストンをバイパスするようにシリンダに接続されたバイパス通路と、回転自在の回転マスと、バイパス通路に設けられ、バイパス通路内における作動流体の流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する動力変換機構と、を備え、ピストン用弾性体、作動流体及び回転マスで構成される付加振動系の固有振動数が構造物の固有振動数に同調するように、ピストン用弾性体のばね定数及び回転マスの質量が設定されていることを特徴とする。
また、前述した従来の場合と異なり、構造物の変位が、ロッドからピストンに直接的に伝達されるのではなく、ピストン用弾性体を介して伝達される。このように、ピストン用弾性体から成る弾性要素は、作動流体から成る粘性要素及び回転マスから成る慣性接続要素に対して直列に設けられているので、これらのピストン用弾性体、作動流体及び回転マスによって付加振動系を適切に構成することができる。本発明によれば、この付加振動系の固有振動数が構造物の固有振動数に同調するように、ピストン用弾性体のばね定数及び回転マスの質量を設定するので、この付加振動系の固有振動数を構造物の所望の固有振動数に適切に同調させることができ、ひいては、構造物の振動を適切に抑制することができる。