上述した振動抑制装置の振動抑制の対象である機械装置は、一般に、地震時における構造物の振動などと異なり、微小な振幅と短い周期で繰り返し振動する。これに対し、この振動抑制装置では、ボールねじ式の回転慣性質量ダンパが用いられているため、その機構上、ボールとねじ軸及びナットのねじ溝との間にバックラッシュが存在する。また、ねじ軸や回転マスを回転自在に支持する軸受などにおけるガタ(機械的な遊び)を含めると、振動抑制装置全体として、ある程度(例えば0.1〜0.2mm)のガタが存在することは避けられない。このため、機械装置の振動の振幅が振動抑制装置のガタよりも小さい微小振幅領域では、振動による機械装置と基礎との相対変位がねじ軸及び回転マスの回転運動に良好に変換されず、十分な振動抑制効果が得られない。
また、機械装置の振動の振幅がボールねじのピッチよりも小さい場合には、ねじ軸が1回転しないことが多く、それに起因するフレッチングなどによる耐久性の問題を回避するために、ボールねじ全体を潤滑油に浸す(油づけ)などの対策が必要になる。さらに、機械装置の繰返し振動に対して回転慣性質量ダンパの寿命を延ばそうとすると、動定格荷重を確保するために、ねじ軸やナットの断面積などを大きくすることが必要であり、回転慣性質量ダンパ、ひいては振動抑制装置の大型化を招くという問題もある。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、振動部が微小な振幅と短い周期で繰り返し振動するような場合においても、装置の大型化や格別な潤滑対策を必要とすることなく、振動抑制効果を良好に得ることができる振動抑制装置を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、基礎部と当該基礎部に設置される振動部との間に設けられ、振動部の振動を抑制するための振動抑制装置であって、作動流体が充填され、基礎部及び振動部の一方に連結されたシリンダと、ピストンロッドを一体に有し、シリンダの内部空間に軸線方向に摺動自在に設けられ、内部空間を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、ピストンロッドを介して基礎部及び振動部の他方に連結されたピストンと、作動流体が充填され、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する連通路と、連通路にシリンダの軸線を中心として互いに対称に配置され、連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する複数の歯車モータと、複数の歯車モータの回転軸にそれぞれ連結された複数の駆動ギヤと、ピストンロッド及びシリンダの一方に回転自在に嵌合するとともに、外周面にギヤ部を有し、複数の駆動ギヤによりギヤ部を介して回転駆動される回転マスと、を備えることを特徴とする。
この振動抑制装置では、振動部が振動すると、振動部と基礎部の間にこの振動の方向及び振幅に応じた相対変位が発生し、シリンダ及びピストンに伝達されることにより、相対変位に応じた方向及びストロークで、ピストンがシリンダ内を摺動する。このピストンの移動に伴い、第1又は第2流体室内の作動流体がピストンで押し出され、連通路に流入する。この作動流体の流動が、連通路に配置された複数の歯車モータによって回転運動に変換され、複数の歯車モータの回転が、回転軸、駆動ギヤ及び回転マスのギヤ部を介して回転マスに伝達されることによって、回転マスが回転駆動され、回転マスによる回転慣性質量効果(慣性力)が発揮される。また、作動流体が連通路を流動する際の粘性抵抗によって粘性減衰効果(粘性力)が発揮される。
また、歯車モータによる相対変位から回転運動への変換が作動流体を介して行われるとともに、歯車モータから回転マスへの回転の伝達がギヤを介して行われるので、従来のボールねじ式の場合と異なり、ガタの影響を大きく受けることがない。このため、振動部の振動の振幅が微小な場合でも、歯車モータによって回転マスが良好に回転駆動されるので、回転慣性質量効果による振動部の振動抑制効果を良好に得ることができる。同じ理由から、ボールねじを用いる従来の場合と異なり、フレッチングなどによる耐久性の問題が生じるおそれがないので、振動抑制装置を油づけするなどの格別な潤滑対策は不要になる。
また、回転マスが、ピストンロッド又はシリンダの一方に回転自在に嵌合するとともに、複数の駆動ギヤによって互いに反対側から駆動されるので、回転マスを支持するラジアル軸受は基本的に不要になる。
さらに、回転マスが複数の歯車モータで駆動されることによって、より大きな駆動トルクが得られるので、回転マスの回転数を増大させ、より大きな回転慣性質量効果を得ることができる。あるいは、同等の回転慣性質量効果を確保する上で、1基当たりの歯車モータの容量を低減することが可能になり、歯車モータの小型化を図ることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の振動抑制装置において、シリンダは、内部空間の径方向の寸法が軸線方向の寸法よりも大きい短筒状に形成されていることを特徴とする。
この構成によれば、シリンダの内部空間を摺動するピストンの面積が軸線方向長さに対して相対的に大きいことで、ピストンの単位ストローク当たりの作動流体の押し出し量が大きくなり、連通路内の作動流体の流量が大きくなる。これにより、振動部の振動の振幅が微小な場合でも、歯車モータをより確実に作動させ、回転させることによって、回転慣性質量効果を確実に発揮させ、振動抑制効果を良好に得ることができる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の振動抑制装置において、連通路は、互いに並列に設けられた第1連通路及び第2連通路を含み、複数の歯車モータは、第1及び第2連通路にそれぞれ配置された一対の歯車モータを含むことを特徴とする。
この構成によれば、連通路として互いに並列の第1及び第2連通路が設けられ、複数の歯車モータとして一対の歯車モータが設けられている。一対の歯車モータの一方は、第1連通路に配置され、第1連通路内の作動流体の流動によって回転し、他方の歯車モータは、第2連通路に配置され、第2連通路内の作動流体の流動によって回転する。そして、これらの一対の歯車モータで回転マスが回転駆動されることによって、回転慣性質量効果を良好に得ることができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の振動抑制装置において、シリンダは、軸線方向の一端部からピストンロッドと反対側に延びるシリンダロッドを一体に有し、回転マスは、ピストンロッドに回転自在に嵌合する第1回転マスと、シリンダロッドに回転自在に嵌合する第2回転マスを含み、複数の歯車モータは、第1及び第2連通路にそれぞれ配置され、第1回転マスを回転駆動するための第1の一対の歯車モータと、第1及び第2連通路にそれぞれ配置され、第2回転マスを回転駆動するための第2の一対の歯車モータを含むことを特徴とする。
この構成によれば、回転マスとして、ピストンロッドに回転自在に嵌合する第1回転マスと、シリンダロッドに回転自在に嵌合する第2回転マスが設けられている。第1回転マスは、第1及び第2連通路にそれぞれ配置された第1の一対の歯車モータによって回転駆動され、第2回転マスは、第1及び第2連通路にそれぞれ配置された第2の一対の歯車モータによって回転駆動される。このように、第1及び第2回転マスが同時に回転することによって、より大きな回転慣性質量効果を得ることができ、振動抑制効果をさらに向上させることができる。
請求項5に係る発明は、請求項3に記載の振動抑制装置において、回転マスは、リング状に形成され、シリンダの外周部に回転自在に嵌合しており、複数の歯車モータは、第1連通路に配置され、シリンダの軸線方向に互いに対向する第1の一対の歯車モータと、第2連通路に配置され、シリンダの軸線方向に互いに対向する第2の一対の歯車モータを含み、複数の駆動ギヤは、第1の一対の歯車モータの回転軸に共通に連結された駆動ギヤと、第2の一対の歯車モータの回転軸に共通に連結された駆動ギヤを含むことを特徴とする。
この構成によれば、回転マスは、リング状に形成され、シリンダの外周部に回転自在に嵌合している。第1連通路には、シリンダの軸線方向に互いに対向する第1の一対の歯車モータが配置され、それらの回転軸に駆動ギヤが共通に連結されている。また、第2連通路には、シリンダの軸線方向に互いに対向する第2の一対の歯車モータが配置され、それらの回転軸に駆動ギヤが共通に連結されている。回転マスは、これらの駆動ギヤを介して回転駆動される。
以上のように、回転マスが第1及び第2の一対の歯車モータ、すなわち計4つの歯車モータで駆動されることによって、より大きな駆動トルクが得られるので、回転マスの回転数を増大させ、より大きな回転慣性質量効果を得ることができる。また、単一の回転マスがシリンダの外周側に配置されるので、回転マスがピストンロッドやシリンダロッドに嵌合する場合と比較して、軸線方向長さが短縮されることで、振動抑制装置の小型化を図ることができる。
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の振動抑制装置において、基礎部に設置されるとともに、シリンダが載置された状態で連結された架台をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、架台の鉛直剛性が高い場合には、振動部からの荷重に対する架台の変形量が小さいことで、振動部の振動の振幅がほぼそのまま、シリンダとピストンとの相対変位に反映される。これにより、特に振動部の振動の振幅が微小な場合において、可能な限り、歯車モータを回転させながら、回転慣性質量効果を発揮させることができる。あるいは、架台の鉛直剛性を適度な剛性に設定することによって、振動抑制装置の振動周期、例えば固有振動数を調整することが可能である。
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれかに記載の振動抑制装置において、振動抑制装置の振動周期を調整するためのばね要素をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、ばね要素のばね定数を適宜、設定することによって、振動抑制装置の振動周期、例えば固有振動数を調整することができる。
請求項8に係る発明は、請求項1から7のいずれかに記載の振動抑制装置において、振動部は、基礎部の上側に設置され、作動時に上下方向の振動が周期的に発生する機械装置であることを特徴とする。
この構成によれば、機械装置の作動時に周期的に発生する上下方向の振動を、本発明の振動抑制装置によって効果的に抑制でき、前述した本発明の利点を特に有効に得ることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1に示す実施形態の振動抑制装置1は、基礎Fとその上に設置される機械装置Kとの間に設けられ、機械装置Kの上下方向の振動を抑制するものである。振動抑制装置1は、複数の回転慣性質量ダンパ2(1つのみ図示)と複数の支持部材I(2つのみ図示)を備える。なお、機械装置Kは、作動時に上下方向の振動を発生させるものであり、本実施形態では特に、振幅が微小で、繰り返し短い周期で振動する、例えば工作機械などが想定されている。
支持部材Iは、機械装置Kの鉛直荷重の一部を支持するとともに、機械装置Kの振動に応じて上下方向に弾性変形するものであり、例えば皿ばねやコイルばね、積層ゴムなどで構成されている。
図2に示すように、本発明の第1実施形態による回転慣性質量ダンパ(以下「マスダンパ」という)2は、歯車モータ式のものであり、シリンダ3と、シリンダ3内に摺動自在に設けられたピストン4と、ピストン4をバイパスし、シリンダ3内にそれぞれ連通する第1連通路5及び第2連通路6と、第1及び第2連通路5、6にそれぞれ配置された一対の歯車モータM、Mと、各歯車モータMの回転軸7に連結された駆動ギヤ8と、駆動ギヤ8、8を介して回転駆動される回転マス10を備えている。以上の構成要素は、シリンダ3の軸線を中心として互いに対称(図2では左右対称)に配置されている。
シリンダ3は、円筒状の周壁3aと、周壁3aの上下の端部に設けられた円板状の上下の端壁3b、3cを一体に有し、これらの3つの壁3a〜3cによってシリンダ3の内部空間3dが画成されている。シリンダ3は、内部空間3dの径が軸線方向(上下方向)長さよりも大きい短筒状に形成されている。
ピストン4は、シリンダ3の内部空間3dに上下方向に摺動自在に設けられ、それにより、内部空間3dは、ピストン4によって、上側の第1流体室3eと下側の第2流体室3fに区画されている。第1及び第2流体室3e、3fには作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、適度な粘性を有する通常の作動油などで構成されている。
ピストン4には、ピストンロッド11が同軸状に一体に設けられ、上方に延びている。ピストンロッド11は、上端壁3bのロッド案内孔3gを液密に貫通し、その上端部には、自在継手12aを介して取付用の第1フランジ12が設けられている。また、シリンダ3の下端壁3cには、シリンダロッド13が同軸状に一体に設けられ、下方に延びており、その下端部には、自在継手14aを介して取付用の第2フランジ14が設けられている。
第1及び第2連通路5、6は、互いに並列に設けられ、同じ通路面積を有する。また、第1及び第2連通路5、6は、それぞれ「コ」字状の正面形状を有するとともに、図3(b)に示すように、平面的に見て、シリンダ3から互いに反対方向に延び、両者を併せて一直線状になるように配置されている。両連通路5、6の各一端部はシリンダ3の第1流体室3eに連通し、各他端部は第2流体室3fに連通している。
また、上記の両連通路5、6の一端部及び他端部の連通位置は、シリンダ3の上下方向の中心に対して互いに対称に設定されており、それにより、ピストン4と両連通位置との間に、想定されるピストン4の片側最大ストロークよりも若干大きな所定の間隔(移動しろ)Dが確保されている。図示しないが、第1及び第2連通路5、6には作動流体HFが充填されている。
歯車モータM、Mは、それぞれ第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流動を回転運動に変換し、出力するものであり、両連通路5、6の各上側通路部に設けられ、シリンダ3の軸線を中心として互いに対称に配置されている。各歯車モータMは、例えば内接式のものであり、ケーシング16と、ケーシング16に収容された回転自在のギヤ17と、出力軸としての回転軸7を有する。なお、歯車モータMとして外接式のものを用いてもよい。
ケーシング16は、第1及び第2連通路5、6にそれぞれ一体に設けられており、それらと連通している(図3(b)参照)。ギヤ17は、スパーギヤで構成されており、ケーシング16に導入された作動流体HFの圧力によって回転する。
なお、2つの歯車モータM、Mは、それらの諸元、例えば押しのけ容積(歯車モータMが1回転するのに必要な作動流体HFの容積)が互いに同じであるとともに、ギヤ17の回転方向が互いに同じになるように設定されている。例えば、作動流体HFがシリンダ3の第1流体室3e側から流入する場合には、ギヤ17、17はいずれも図3(b)の時計方向に回転し、作動流体HFが第2流体室3f側から流入する場合には、ギヤ17、17はいずれも図3(b)の反時計方向に回転するように構成されている。このように複数の歯車モータMの間で諸元及びギヤ17の回転方向が同じに設定されていることは、後述する他の実施形態や変形例のいずれにおいても同様である。
回転軸7は、ギヤ17と同軸状に一体に設けられ、ケーシング16を液密に貫通し、上方に延びている。また、駆動ギヤ8は、回転軸7の上端部に同軸状に一体に設けられ、水平面内に延びている。なお、以下の説明では、歯車モータMと駆動ギヤ8から成るユニットを、適宜「駆動ユニット」という。
回転マス10は、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、大径の円板状の本体部10aと、本体部10aの下側に同心状に一体に設けられた、より小径のギヤ形成部10bを有し、フライホイール状に形成されている。回転マス10は、中心のロッド挿通孔10cを介してピストンロッド11に回転自在に嵌合するとともに、シリンダ3の上端壁3bにスラスト軸受18を介して回転自在に支持され、水平面内に延びている。
また、ギヤ形成部10bの外周面にはギヤ部10dが形成されており、このギヤ部10dに駆動ギヤ8、8が同時に噛み合っている。さらに、駆動ギヤ8とこれに対向する回転マス10の本体部10aとの間には、互いの干渉を回避するための若干の間隙が設けられている。
以上の構成のマスダンパ2は、図1に示すように、基礎Fと機械装置Kの間に設けられ、ピストン4は、ピストンロッド11及び第1フランジ12を介して機械装置Kに連結され、シリンダ3は、シリンダロッド13及び第2フランジ14を介して基礎Fに連結されている。
次に、マスダンパ2の動作について説明する。機械装置Kが停止状態にあり、振動していないときには、マスダンパ2は図2に示す初期状態になっている。具体的には、ピストン4は、シリンダ3の内部空間3dの上下方向の中心である中立位置に位置し、各歯車モータM及び回転マス10は静止している。
この初期状態から、機械装置Kが作動し、上下方向に振動すると、機械装置Kと基礎Fの間にこの振動の方向及び振幅に応じた相対変位が発生し、ピストンロッド11及びシリンダロッド13などを介してピストン4及びシリンダ3に伝達されることにより、相対変位に応じた方向及びストロークで、ピストン4がシリンダ3内を上下方向に移動する。
このピストン4の移動に伴い、第1又は第2流体室3e、3f内の作動流体HFがピストン4で押し出され、第1及び第2連通路5、6に流入する。例えば、ピストン4が上方に移動するときには、作動流体HFは第1流体室3e側から流入し、逆にピストン4が下方に移動するときには、作動流体HFは第2流体室3f側から流入する。この第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流動が、各歯車モータMで回転運動に変換されることによって、歯車モータM、Mが互いに同じ方向に同じ回転数で回転する。
そして、歯車モータM、Mの回転が、駆動ギヤ8、8及び回転マス10のギヤ部10dを介して回転マス10に伝達されることにより、回転マス10が回転駆動され、回転マス10による回転慣性質量効果(慣性力)が発揮される。また、作動流体HFが第1及び第2連通路5、6を流動する際の粘性抵抗によって粘性減衰効果(粘性力)が発揮される。
以上の構成及び動作から、マスダンパ2をモデル化すると、図4に示すように、(a)回転マス10から成る慣性質量要素mdと、(b)作動流体HFから成る粘性要素cdが、互いに並列に接続されたモデルになる。
また、このマスダンパ2では、歯車モータMによる相対変位から回転運動への変換が、作動流体HFを介して行われるとともに、歯車モータから回転マスへの回転の伝達がギヤを介して行われるので、従来のボールねじ式の場合と異なり、ガタの影響を大きく受けることがない。このため、機械装置Kの振動の振幅が微小な場合でも、歯車モータMによって回転マス10が良好に回転駆動されるので、回転慣性質量効果による機械装置Kの振動抑制効果を良好に得ることができる。同じ理由から、ボールねじを用いる従来の場合と異なり、フレッチングなどによる耐久性の問題が生じるおそれがないので、マスダンパ10を油づけするなどの格別な潤滑対策は不要になる。
また、回転マス10が、ピストンロッド11に回転自在に嵌合するとともに、駆動ギヤ8、8によって互いに反対側から駆動されるので、回転マス10を支持するラジアル軸受は基本的に不要になる。
さらに、回転マス10が2つの歯車モータM、Mで駆動されることによって、より大きな駆動トルクが得られるので、回転マス10の回転数を増大させ、より大きな回転慣性質量効果を得ることができる。あるいは、同等の回転慣性質量効果を確保する上で、1基当たりの歯車モータMの容量を低減することが可能になり、歯車モータMの小型化を図ることができる。
また、シリンダ3が短筒状に形成され、ピストン4の面積が軸線方向長さに対して相対的に大きく設定されていることで、ピストン4の単位ストローク当たりの作動流体HFの押し出し量が大きくなり、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流量が大きくなる。これにより、機械装置Kの振動の振幅が微小な場合でも、歯車モータMをより確実に作動させ、回転させることによって、回転慣性質量効果を確実に発揮させ、振動抑制効果を良好に得ることができる。
なお、上述した実施形態では、回転マス10を駆動する駆動ユニットUD(歯車モータM及び駆動ギヤ8)が計2つ設けられているが、これを増設してもよい。図5はそのような変形例を示す。この例では、増設用の2つの連通路20、20が、平面的に見て、第1及び第2連通路5、6に直交するように配置されている。各連通路20は、第1及び第2連通路5、6と同様、シリンダ3の第1及び第2流体室3e、3fにそれぞれ連通している。また、各連通路20に歯車モータMが同様に配置され、駆動ギヤ8が同様に設けられている。
この構成によれば、回転マス10が4つの歯車モータMで駆動されることによって、さらに大きな駆動トルクが得られるので、回転マス10の回転数をさらに増大させ、より大きな回転慣性質量効果を得ることができる。なお、駆動ユニットUDの増設数は、上記の2つに限らず、さらに増やしてもよい。また、このような駆動ユニットUDの増設は、後述する他の実施形態や変形例においても同様に適用することが可能である。
図6は、第1実施形態に対する他の変形例を示す。この変形例は、基礎F上に架台21を設置するとともに、架台21にシリンダ3を直接、載置し、連結したものである。架台21は、剛性の高い部材、例えば鋼材で構成されている。また、架台21は、中空状に形成されており、その上壁部21aにおいてシリンダ3の下端壁3cにねじ22で固定され、下側の基部21bにおいて基礎Fにねじ22で固定されている。
以上のように架台21の鉛直剛性が高い場合には、機械装置Kからの鉛直荷重に対する架台21の変形量が小さいことで、機械装置Kの振動の振幅がほぼそのまま、シリンダ3とピストン4との相対変位に反映される。これにより、特に機械装置Kの振動の振幅が微小な場合において、可能な限り、歯車モータMを回転させながら、回転慣性質量効果を発揮させることができる。
あるいは、架台21の鉛直剛性を、上記のような高剛性に代えて、より柔らかい適度な剛性に設定してもよい。この場合、マスダンパ2及び架台21をモデル化すると、図7に示すように、互いに並列の接続関係にある(a)回転マス10から成る慣性質量要素mdと(b)作動流体HFから成る粘性要素cdに、(c)架台21から成るばね要素kbが直列に接続されたモデルになる。
したがって、架台21の鉛直剛性(ばね定数)を適宜、設定することによって、振動抑制装置1の振動周期、例えば固有振動数を、機械装置Kの固有振動数に同調するように調整することが可能である。また、図示しないが、同じ目的のために、架台21と基礎Fの間や架台21とシリンダ3の間に、皿ばねなどを鉛直剛性の調整材として設けてもよい。
次に、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態によるマスダンパ52について説明する。図2との比較から明らかなように、第1実施形態のマスダンパ2では、2つの駆動ユニットUD(歯車モータM及び駆動ギヤ8)と1つの回転マス10との組み合わせ(以下「第1回転マスユニットUM1」という)が、マスダンパ上部に設けられている。これに加えて、第2実施形態のマスダンパ52は、同じ構成の第2回転マスユニットUM2を、マスダンパ下部に設けたものである。したがって、第2回転マスユニットUM2の構成要素に、第1回転マスユニットUM1と同じ符号を付するとともに、以下、要点を中心として説明する。
図8に示すように、第2回転マスユニットUM2は、第1回転マスユニットUM1と同じ構成を有するとともに、上下対称に配置されている。具体的には、第2回転マスユニットUM2の一対の歯車モータM、Mは、第1及び第2連通路5、6の各下側通路部の中央に設けられ、シリンダ3の軸線を中心として互いに対称に配置されている。回転軸7は、各歯車モータMのギヤ17と同軸状に一体に設けられ、下方に延びている。また、駆動ギヤ8は、各回転軸7の下端部に同軸状に一体に設けられ、回転マス10のギヤ部10dに噛み合っている。回転マス10は、中心のロッド挿通孔10cを介してシリンダロッド13に回転自在に嵌合し、シリンダ3の下端壁3cにスラスト軸受18を介して回転自在に支持されている。
次に、上記構成のマスダンパ52の動作について説明する。機械装置Kが作動し、上下方向に振動すると、第1実施形態のマスダンパ2と同様、ピストン4は、図8に示す中立位置から、機械装置Kと基礎Fとの間の相対変位に応じて、シリンダ3内を上下方向に移動する。これに伴い、第1又は第2流体室3e、3f内の作動流体HFがピストン4で押し出され、第1及び第2連通路5、6に流入する。この作動流体HFの流動が各歯車モータMで回転運動に変換されることによって、4つの歯車モータMが互いに同じ方向に同じ回転数で回転する。
そして、第1及び第2回転マスユニットUM1、UM2のそれぞれにおいて、歯車モータM、Mの回転が、駆動ギヤ8、8及びギヤ部10dを介して回転マス10に伝達されることにより、2つの回転マス10、10が互いに同じ方向に同じ回転数で回転駆動され、回転マス10、10による回転慣性質量効果が同時に発揮される。また、作動流体HFが第1及び第2連通路5、6を流動する際の粘性抵抗によって粘性減衰効果が発揮される。
以上のように、本実施形態のマスダンパ52によれば、第1及び第2回転マスユニットUM1、UM2のそれぞれにおいて、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流動が一対の歯車モータM、Mで回転運動に変換されることによって、2つの回転マス10、10が同時に回転する。これにより、第1実施形態のマスダンパ2と比較して、より大きな回転慣性質量効果を得ることができ、振動抑制効果をさらに向上させることができる。また、本実施形態のマスダンパ52は、第2回転マスユニットUM2を有すること以外は、基本的に第1実施形態と同じ構成を有するので、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
次に、図9及び図10を参照しながら、本発明の第3実施形態によるマスダンパ62について説明する。前述した第1及び第2実施形態では、回転マス10がシリンダ3に対して軸線方向の外側に配置されているのに対し、本実施形態のマスダンパ62は、回転マス70をリング状に形成し、シリンダ3の外周側に配置した点が、基本的に異なる。したがって、第1及び第2実施形態と同じ又は同等のマスダンパ62の構成要素に同じ符号を付するとともに、以下、異なる点を中心として説明する。
図9に示すように、このマスダンパ62では、第1連通路5の上側通路部及び下側通路部の外端部に、一対の歯車モータM、Mが上下方向に互いに対向するように配置され、第2連通路6の上側通路部及び下側通路部の外端部に、一対の歯車モータM、Mが上下方向に互いに対向するように配置されている。第1及び第2連通路5、6の各一対の歯車モータM、Mの回転軸7、7は各ギヤ17から内方に延び、それらに共通の1つの駆動ギヤ68が同軸状に一体に設けられている。
回転マス70は、第1及び第2実施形態の回転マス10と同様、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成されている。図10(b)に示すように、回転マス70は、リング状に形成され、シリンダ3の外周側を取り囲むように配置されており、その外周部に回転自在に嵌合している。また、回転マス70は、スラスト軸受(図示せず)を介して、シリンダ3の下部に回転自在に支持されている。回転マス70の外周面にはギヤ部70aが形成され、このギヤ部70aに2つの駆動ギヤ68が噛み合っている。
次に、上記構成のマスダンパ62の動作について説明する。機械装置Kが作動し、上下方向に振動すると、第1及び第2実施形態と同様、ピストン4は、図9に示す中立位置から、機械装置Kと基礎Fとの間の相対変位に応じて、シリンダ3内を上下方向に移動する。これに伴い、第1又は第2流体室3e、3f内の作動流体HFがピストン4で押し出され、第1及び第2連通路5、6に流入する。この作動流体HFの流動が各歯車モータMで回転運動に変換されることによって、4つの歯車モータMが互いに同じ方向に同じ回転数で回転する。
そして、第1連通路5の歯車モータM、Mの回転及び第2連通路6の歯車モータM、Mの回転が、それぞれの駆動ギヤ68とギヤ部70aを介して回転マス70に伝達されることによって、回転マス70が回転駆動され、回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第1及び第2連通路5、6を流動する際の粘性抵抗によって粘性減衰効果が発揮される。
以上のように、本実施形態のマスダンパ62によれば、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの流動が、各一対の歯車モータM、Mで回転運動に変換され、これらの4つの歯車モータMによって回転マス70が回転駆動される。これにより、大きな駆動トルクが得られるので、回転マス70の回転数を増大させ、より大きな回転慣性質量効果を得ることができる。
また、単一の回転マス70がシリンダ3の外周側に配置されるので、第1及び第2実施形態と比較して、マスダンパ62の上下方向長さが短縮されることで、マスダンパ62ひいては振動抑制装置1の小型化を図ることができる。さらに、本実施形態のマスダンパ62は、回転マス70がシリンダ3の外周側に配置されること以外は、基本的に第1実施形態と同じ構成を有するので、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
図11は、第3実施形態に対する変形例を示す。この変形例は、上述したマスダンパ62に対し、第1フランジ12とシリンダ3の上端壁3bとの間に、ピストンロッド11を取り囲むように複数の皿ばね72を配置したものである。
このマスダンパ62をモデル化すると、図12に示すように、(a)回転マス70から成る慣性質量要素mdと、(b)作動流体HFから成る粘性要素cdと、(c)皿ばね72から成るばね要素kbが、互いに並列に接続されたモデルになる。したがって、例えば皿ばね72及び支持部材Iの剛性を適宜、設定することによって、機械装置Kの固有振動数を調整することが可能である。
なお、本発明は、説明した第1〜第3実施形態及び変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1〜第3実施形態のいずれにおいても、連通路として第1及び第2連通路が設けられているが、これに限らず、単一の連通路を設けてもよい。
図13は、そのようなマスダンパ2の例を示している。この例では、連通路75は、一端部においてシリンダ3の第1流体室3eに連通し、2つの歯車モータM、Mの位置を通るように、径方向に延びるとともに両外側の2箇所で折り返されており、他端部においてシリンダ3の第2流体室3fに連通している。この構成においても、連通路75内の作動流体HFの流動に伴い、2つの歯車モータM、Mが回転し、回転マス10が回転駆動されるので、第1実施形態と同様の動作及び効果を得ることができる。
また、第1及び第2実施形態では、回転マス10の本体部10aとギヤ形成部10bが一体に構成されているが、両者10a、10bを別体で構成し、互いに連結するようにしてもよい。さらに、第3実施形態における回転マス70の回転慣性質量効果を高めるために、付加錘を、他の構成部品と干渉しないように配置し、回転マス70に一体に取り付けてもよい。
また、実施形態では、振動抑制装置を機械装置Kに適用し、主として上下方向の周期的な微小振動を抑制するものとして説明したが、本発明は、これに限定されず、同様の振動特性で振動する構造物、例えばエアロビクスの練習場などに用いられる鋼製下地の床システムや、風などにより振動する鉄骨フレームに適用してもよい。後者の場合、振動抑制装置は、振動を抑制すべき鉄骨フレームの部位を振動部とし、その下層部を基礎部として、それらの間に設置される。また、本発明は、上記のような振動特性を有する装置や構造物に限らず、広く適用でき、例えば水平方向の振動や振幅が比較的大きな振動などの抑制に適用してもよいことは、もちろんである。
また、実施形態で示した各種の構成部品の構成、例えば第1及び第2連通路5、6、歯車モータM、駆動ギヤ8、68や、回転マス10、70などの構成は、あくまで例示であり、要求されるそれぞれの機能が得られる限り、任意の構成を採用することが可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成(形状、個数及び配置など)を適宜、変更することができる。