以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態による流体ダンパ1を示している。流体ダンパ1は、いわゆるアクティブダンパとして構成されており、図1に示すように、シリンダ2と、シリンダ2内に設けられた第1ピストン3、第2ピストン4及びピストンロッド5を備えている。シリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの軸線方向の一端部及び他端部にそれぞれ同心状に一体に設けられた円板状の第1側壁2b及び第2側壁2cなどで構成されている。第1側壁2bには、自在継ぎ手を介して第1取付具FL1が設けられている。また、第2側壁2cには、軸線方向に貫通するロッド案内孔2dが形成されており、ロッド案内孔2dには、ピストンロッド5がリング状のシールを介して挿入されている。ピストンロッド5は、シリンダ2の軸線方向に延びるとともに、第2側壁2cから外方に突出しており、シリンダ2に対して軸線方向に移動自在である。
第1及び第2ピストン3、4は、円柱状に形成されており、第1ピストン3はピストンロッド5の軸線方向の一端部に、第2ピストン4はピストンロッド5の軸線方向の中央に、それぞれ同心状に一体に設けられている。また、第1及び第2ピストン3、4の各々の外周には、リング状のシールが設けられている。シリンダ2内には、周壁2a、第1側壁2b及び第1ピストン3によって、第1流体室2eが画成されており、周壁2a、第1及び第2ピストン3、4によって、第2流体室2fが画成されるとともに、周壁2a、第2ピストン4及び第2側壁2cによって、第3流体室2gが画成されている。第1〜第3流体室2e〜2gには、作動流体HFが充填されており、作動流体HFは、例えばシリコンオイルで構成されている。
また、第1ピストン3は、シリンダ2内の所定の第1ピストン区間DP1において、シリンダ2の軸線方向に摺動自在に設けられている。この第1ピストン区間DP1は、第1側壁2b側の第1所定区間D1内であって、後述する第1連通路10及び第1流体室2eの連通部分と、第1連通路10及び第2流体室2fの連通部分との間の区間に設定されている。第2ピストン4は、シリンダ2内の所定の第2ピストン区間DP2において、シリンダ2の軸線方向に摺動自在に設けられている。この第2ピストン区間DP2は、シリンダ2内の第2側壁2c側の第2所定区間D2内であって、後述する第2連通路11及び第2流体室2fの連通部分と、第2連通路11及び第3流体室2gの連通部分との間の区間に設定されている。さらに、ピストンロッド5の他端部には、自在継ぎ手を介して第2取付具FL2が設けられている。第1及び第2所定区間D1、D2は、軸線方向に互いに重ならないように並んでいる。
さらに、第1ピストン3には、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔3a及び第2連通孔3b(各1つのみ図示)が形成されており、第1及び第2連通孔3a、3bには、第1調圧弁6及び第2調圧弁7がそれぞれ設けられている。第1調圧弁6は、弁体と、これを閉弁方向に付勢するスプリングなどで構成され、この弁体が、第1流体室2e内の作動流体HFの正の圧力で開弁方向に、第2流体室2f内の作動流体HFの正の圧力で閉弁方向に、それぞれ押圧されるように、構成されている。また、第1調圧弁6は、第1流体室2e内の作動流体HFの圧力と第2流体室2f内の作動流体HFの圧力との差が所定値よりも小さいときには、第1連通孔3aを閉鎖し、この所定値に達したときには、第1連通孔3aを開放する。第1連通孔3aが第1調圧弁6で開放されることにより、第1及び第2流体室2e、2fが、第1連通孔3aを介して互いに連通する。
第2調圧弁7は、第1調圧弁6と同様に弁体と、これを閉弁方向に付勢するスプリングなどで構成され、この弁体が、第2流体室2f内の作動流体HFの正の圧力で開弁方向に、第1流体室2e内の作動流体HFの正の圧力で閉弁方向に、それぞれ押圧されるように、構成されている。また、第2調圧弁7は、第2流体室2f内の作動流体HFの圧力と第1流体室2e内の作動流体HFの圧力との差が上記の所定値よりも小さいときには、第2連通孔3bを閉鎖し、所定値に達したときには、第2連通孔3bを開放する。第2連通孔3bが第2調圧弁7で開放されることにより、第2及び第1流体室2f、2eが、第2連通孔3bを介して互いに連通する。
また、第2ピストン4には、第3ピストン3と同様、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔4a及び第2連通孔4b(各1つのみ図示)が形成されており、第1及び第2連通孔4a、4bには、第1調圧弁8及び第2調圧弁9がそれぞれ設けられている。第1調圧弁8は、第1ピストン3の第1調圧弁6と同様に弁体と、これを閉弁方向に付勢するスプリングなどで構成され、この弁体が、第2流体室2f内の作動流体HFの正の圧力で開弁方向に、第3流体室2g内の作動流体HFの正の圧力で閉弁方向に、それぞれ押圧されるように、構成されている。また、第1調圧弁8は、第2流体室2f内の作動流体HFの圧力と第3流体室2g内の作動流体HFの圧力との差が上記の所定値よりも小さいときには、第1連通孔4aを閉鎖し、所定値に達したときには、第1連通孔4aを開放する。第1連通孔4aが第1調圧弁8で開放されることにより、第2及び第3流体室2f、2gが、第1連通孔4aを介して互いに連通する。
第2調圧弁9は、第1調圧弁8と同様に弁体と、これを閉弁方向に付勢するスプリングなどで構成され、この弁体が、第3流体室2g内の作動流体HFの正の圧力で開弁方向に、第2流体室2f内の作動流体HFの正の圧力で閉弁方向に、それぞれ押圧されるように、構成されている。また、第2調圧弁9は、第3流体室2g内の作動流体HFの圧力と第2流体室2f内の作動流体HFの圧力との差が上記の所定値よりも小さいときには、第2連通孔4bを閉鎖し、所定値に達したときには、第2連通孔4bを開放する。第2連通孔4bが第2調圧弁9で開放されることにより、第3及び第2流体室2g、2fが、第2連通孔4bを介して互いに連通する。
以上の構成の第1及び第2調圧弁6〜9によって、第1〜第3流体室2e〜2gにおける作動流体HFの圧力の過大化が防止され、ひいては、流体ダンパ1の軸力(軸線方向に作用する力)の過大化が防止される。なお、第1及び第2調圧弁6〜9が開弁する作動流体HFの差圧を、互いに同じ所定値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。
また、流体ダンパ1は、シリンダ2に接続された第1連通路10及び第2連通路11をさらに備えている。第1連通路10は、第1ピストン3をバイパスし、第1流体室2eと、第2流体室2fにおける第1所定区間D1内の部分とに連通するように構成されており、第2連通路11は、第2ピストン4をバイパスし、第2流体室2fにおける第2所定区間D2内の部分と、第3流体室2gとに連通するように構成されている。また、第1及び第2連通路10、11の断面積は、シリンダ2の断面積よりも小さな値に設定されており、第1及び第2ピストン3、4の第1及び第2連通孔3a、3b、4a、4bの断面積よりも大きな値に設定されている。さらに、第1及び第2連通路10、11には、作動流体HFが充填されている。
また、流体ダンパ1は、第1連通路10における作動流体HFの流動量を変化させることによって第1及び第2流体室2e、2fにおける作動流体HFの圧力を調整する第1流体圧調整装置12をさらに備えている。第1流体圧調整装置12は、第1電気モータ13を動力源とする歯車ポンプを有している。歯車ポンプは、外接歯車型のものであり、ケーシング14と、ケーシング14に収容された第1ギヤ15及び第2ギヤ16などで構成されている。ケーシング14は、第1連通路10の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口14a、14aを介して、第1連通路10に連通している。
また、上記の第1ギヤ15は、スパーギヤで構成され、第1回転軸17に一体に設けられている。第1回転軸17は、第1連通路10に直交する方向に水平に延び、ケーシング14に回転自在に支持されており、ケーシング14の外部に若干、突出している(図2参照)。第2ギヤ16は、第1ギヤ15と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸18に一体に設けられており、第1ギヤ15と噛み合っている。第2回転軸18は、第1回転軸17と平行に延び、ケーシング14に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ15、16の互いの噛合い部分は、ケーシング14の出入口14a、14aに臨んでいる。
前記第1電気モータ13は、例えば、発電可能なDCモータであり、そのロータ(図示せず)が、第1回転軸17に同心状に連結されており、第1ギヤ15及び第1回転軸17と一体に回転可能である。また、図3に示すように、第1電気モータ13は、制御装置21を介して、バッテリである電源22に接続されている。制御装置21は、整流器や、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されている。
以上の構成の流体ダンパ1は、例えば、図4に示すように、建物Bの上梁BU及び左柱PLの接合部分と、建物Bの上梁BU及び右柱PRの接合部分とに、V字状のブレース材BRを介して連結されるとともに、建物Bの下梁BD及び右柱PRの接合部分に、連結部材ENを介して連結される。この場合、前記第1取付具FL1がブレース材BRの下端部に、第2取付具FL2が連結部材ENに、それぞれ取り付けられており、流体ダンパ1は、左右方向に延びている。ブレース材BR及び連結部材ENは、例えばH型鋼で構成されている。また、建物Bが振動していないときには、第1及び第2ピストン3、4は、図1に示す中立位置にある。なお、図4では便宜上、第1及び第2連通路10、11の図示を省略している。
さらに、流体ダンパ1では、建物Bの振動により上下の梁BU、BDの間で左右方向に相対変位が発生すると、この相対変位が外力としてシリンダ2及びピストンロッド5に伝達されることによって、ピストンロッド5がシリンダ2に対して軸線方向に移動するとともに、ピストンロッド5と一体の第1及び第2ピストン3、4が、シリンダ2内を軸線方向に摺動する。この場合、第1及び第2ピストン3、4がシリンダ2の第1側壁2b側に摺動したとき(流体ダンパ1が縮んだとき)には、第1流体室2eにおける作動流体HFが第1ピストン3で押圧され、その一部が、第1連通路10を通って第2流体室2f側に流動するとともに、第2流体室2fにおける第2所定区間D2内の部分の作動流体HFが、第2ピストン4で押圧され、その一部が、第2連通路11を通って第3流体室2g側に流動する。
これとは逆に、第1及び第2ピストン3、4がシリンダ2の第2側壁2c側に摺動したとき(流体ダンパ1が伸びたとき)には、第3流体室2gにおける作動流体HFが第2ピストン4で押圧され、その一部が、第2連通路11を通って第2流体室2f側に流動するとともに、第2流体室2fにおける第1所定区間D1内の部分の作動流体HFが、第1ピストン3で押圧され、その一部が第1連通路10を通って第1流体室2e側に流動する。
以上の動作から明らかなように、建物Bの振動中、第1〜第3流体室2e〜2gにおける作動流体HFの圧力は、シリンダ2及びピストンロッド5に上述したように伝達される外力に抗するように作用し、すなわち、建物Bの振動を抑制するための減衰力として、建物Bに作用する。流体ダンパ1では、建物Bの振動中、第1電気モータ13を制御することによって、この減衰力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。これらの第1及び第2制御モードでは、第1電気モータ13に電源22からの電力を供給し、第1電気モータ13で第1ギヤ15を回転させることにより、第1連通路10内の作動流体HFに流動を生じさせることによって、流体ダンパ1の減衰力が調整される。
より具体的には、第1制御モードでは、振動による外力がピストンロッド5、第1及び第2ピストン3、4に伝達されたときに、第1電気モータ13による第1ギヤ15の駆動により生じる作動流体HFの流動方向(以下「ギヤ駆動流動方向」という)が、振動による外力により第1ピストン3が移動することで生じる作動流体HFの流動方向(以下「振動流動方向」という)と反対方向になるように、第1電気モータ13の回転方向が制御される。これにより、流体ダンパ1のより大きな減衰力が発生する。この場合、第1電気モータ13の回転数を変化させることによって、流体ダンパ1の減衰力が調整され、第1電気モータ13の回転数が高いほど、振動流動方向と反対方向に流れる作動流体HFの流動量が大きくなることによって、減衰力はより大きくなる。
第2制御モードでは、振動による外力がピストンロッド5、第1及び第2ピストン3、4に伝達されたときに、ギヤ駆動流動方向が振動流動方向と同方向になるように、第1電気モータ13の回転方向が制御される。これにより、流体ダンパ1のより小さな減衰力が発生する。この場合にも、第1電気モータ13の回転数を変化させることによって、流体ダンパ1の減衰力が調整され、第1制御モードの場合と異なり、第1電気モータ13の回転数が高いほど、振動流動方向と同方向に流れる作動流体HFの流動量が大きくなることによって、減衰力はより小さくなる。
上記の第3制御モードでは、振動による外力により第1ピストン3が移動することで発生した作動流体HFの流動を用いて第1電気モータ13で発電を行うとともに、その発電電力を変化させることによって、流体ダンパ1の減衰力が調整される。この場合、作動流体HFの流動が、第1ギヤ15により回転運動に変換され、さらに第1電気モータ13で電気エネルギに変換(発電)される。第3制御モードにおける流体ダンパ1の減衰力は、第1電気モータ13の発電電力が大きいほど、作動流体HFが流れにくくなることによって、より大きくなる。第1〜第3制御モードの各々で得られる減衰力の大小関係は、第1制御モード>第3制御モード>第2制御モードの順になっている。なお、制御モードとして、第1〜第3制御モードのうちの1つ又は2つの制御モードを設定してもよい。また、第1電気モータ13の発電電力は、電源22に充電される。
制御装置21は、地震などによる建物Bの振動時、上梁BUの振動による加速度(以下「上梁振動加速度」という)ACBU及び下梁BDの振動による加速度(以下「下梁振動加速度」という)ACBDに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、建物Bの振動を抑制すべく、上述した第1〜第3制御モードによる制御を実行するための振動抑制制御処理を実行する。これらの上梁振動加速度ACBU及び下梁振動加速度ACBDは、例えば半導体式の第1及び第2加速度センサ23、24によって検出され、それらの検出信号は、制御装置21に出力される。
本処理では、まず、下梁振動加速度ACBDを2回積分することによって、下梁BDの振動による変位(以下「下梁振動変位DIBD」という)を算出するとともに、上梁振動加速度ACBUを2回積分することによって、上梁BUの振動による変位(以下「上梁振動変位DIBU」という)を算出する。これらの下梁振動変位DIBD及び上梁振動変位DIBUはそれぞれ、絶対座標系を基準とした下梁BD及び上梁BUの変位である。
次いで、算出された上梁振動変位DIBUと下梁振動変位DIBDとの偏差を、梁間振動変位DIUDとして算出する。次に、算出された梁間振動変位DIUDに、所定のフィードバック係数FKを乗算することによって、フィードバック制御項FBCを算出する。次いで、算出されたフィードバック制御項FBCに、所定のフィードフォワード制御項FFCを加算することによって、第1電気モータ13を制御するための制御信号SCを算出する。振動抑制制御処理では、建物Bの振動中、以上の算出動作が、所定の制御周期で繰り返し実行される。
上記の制御信号SCは、シリンダ2に対する第1ピストン3の変位の目標値に相当する。上述したように制御信号SCが算出されると、この制御信号SCに基づいて、前述した第1〜第3制御モードのいずれかが選択されるとともに、ROMに記憶された所定のマップ(図示せず)を検索することにより、第1電気モータ13への供給電力又は発電電力の指令値が算出される。そして、算出された指令値に基づいて第1電気モータ13への供給電力又は発電電力が制御されることにより、第1ピストン3の変位が制御信号SCで表される目標値に調整されることによって、流体ダンパ1の減衰力が調整される。
なお、第1実施形態では、フィードバック制御項FBCとして、いわゆる比例項を用いているが、さらに、積分項や微分項を用いてもよく、このことは、後述する第2〜第5実施形態についても同様に当てはまる。この場合、上記の積分項は、例えば、積分項の前回値に、今回の梁間振動変位DIUDに所定の係数を乗算した値を加算することによって、算出される。積分項の前回値は、建物Bが振動していないときに、値0にリセットされる。また、上記の微分項は、例えば、梁間振動変位DIUDの前回値を今回の梁間振動変位DIUDから減算した値に、所定の係数を乗算することによって算出される。
また、第1実施形態では、上述した制御信号SCの算出手法から明らかなように、梁間振動変位DIUDすなわち上梁振動変位DIBUと下梁振動変位DIBDとの偏差が値0になるように、第1電気モータ13を制御するための制御信号SCを算出しているが、上梁BUの振動速度と、下梁BDの振動速度との偏差が値0になるように、制御信号を算出してもよい。この場合にも、制御信号の算出に用いられるフィードバック制御項として、比例項のみならず、積分項や微分項を用いてもよい。
また、流体ダンパ1では、前述した構成から明らかなように、作動流体HF及び第1電気モータ13から成る慣性要素が、ブレース材BR及び連結部材ENから成る弾性要素に直列に接続された関係にある。このため、例えば建物Bの停電時などで、電源22から第1電気モータ13に電力が供給されていないときに、流体ダンパ1は、付加振動系(動吸振器)として機能する。この場合、付加振動系の諸元は、その固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、付加振動系の固有振動数は、作動流体HFの流動による慣性質量mF、第1流体圧調整装置12の歯車ポンプの影響を考慮した第1電気モータ13の回転慣性質量mM、及びブレース材BRなどの剛性θTによって定まる(=sqrt{θT/(mF+mM)}/2π)。
以上のように、第1実施形態による流体ダンパ1では、シリンダ2内に、第1ピストン3が、第1所定区間D1において軸線方向に摺動自在に設けられており、第2ピストン4が、第1所定区間D1とシリンダ2の軸線方向に並ぶ第2所定区間D2において、軸線方向に摺動自在に設けられている。また、シリンダ2内には、第1ピストン3で区画された、第1ピストン3よりも軸線方向の一方の側に位置する第1流体室2eと、第1及び第2ピストン3、4で区画された、第1及び第2ピストン3、4の間の第2流体室2fと、第2ピストン4で区画された、第2ピストン4よりも軸線方向の他方の側に位置する第3流体室2gとが設けられている。さらに、第1〜第3流体室2e〜2gには、作動流体HFが充填されており、第1流体室2eと第2流体室2fの間で作動流体HFを流動させるための第1連通路10が、第1及び第2流体室2e、2fに連通しており、第2流体室2fと第3流体室2gの間で作動流体HFを流動させるための第2連通路11が、第2及び第3流体室2f、2gに連通している。
以上の構成の流体ダンパ1では、シリンダ2や、第1ピストン3、第2ピストン4に、振動による外力が入力されたことによって、第1及び第2ピストン3、4が、シリンダ2に対して軸線方向の一方の側に移動したときには、第1流体室2e内の作動流体HFが第1ピストン3で押圧され、押圧された作動流体HFは第1連通路10を流動し、その圧力が第2流体室2f側に逃がされるとともに、第2流体室2f内の作動流体HFが第2ピストン4で押圧され、押圧された作動流体HFは、第2連通路11を流動し、その圧力が第3流体室2g側に逃がされる。これとは逆に、第1及び第2ピストン3、4が、シリンダ2に対して軸線方向の他方の側に移動したときには、第3流体室2g内の作動流体HFが第2ピストン4で押圧され、押圧された作動流体HFは第2連通路11を流動し、その圧力が第2流体室2f側に逃がされるとともに、第2流体室2f内の作動流体HFが第1ピストン3で押圧され、押圧された作動流体HFは、第1連通路10を流動し、その圧力が第1流体室2e側に逃がされる。
以上の動作から明らかなように、振動による外力がシリンダ2などに入力されたときに、作動流体HFの粘性抵抗力を第1及び第2ピストン3、4の両方に作用させられるので、第1及び第2ピストン3、4から成る2つのピストンの受圧面積に応じた、より大きな減衰力を得ることができる。また、前述した従来の流体ダンパと異なり、シリンダ2内における第1ピストン3と第2ピストン4の間に、仕切壁が設けられていないので、次に述べるように、その組立て作業を容易に行うことができる。
流体ダンパ1は、例えば次のようにして組み立てられる。すなわち、まず、周壁2aと第1側壁2bを鋳造などにより一体に形成するとともに、第1側壁2bに第1取付具FL1を取り付ける。この場合、周壁2aには、第1及び第2連通路10、11を接続するための連通孔が形成される。次いで、第1及び第2ピストン3、4をピストンロッド5に取り付けるとともに、三者3〜5をシリンダ2に収容する。次に、ピストンロッド5を、第2側壁2cのロッド案内孔2dにリング状のシールを介して挿入し、その状態で、第2側壁2cを、リング状のシール(図示せず)を介して周壁2aに取り付ける。次いで、ピストンロッド5に、第2取付具FL2を取り付ける。次に、第1流体圧調整装置12が設けられた第1連通路10と、第2連通路11とを、周壁2aにリング状のシール(図示せず)を介して接続する。
以上のように、流体ダンパ1の組立てに当たって、周壁2aと、第2側壁2c、第1及び第2連通路10、11との間に、一般的なリング状のシールを設けるだけでよく、シリンダ2として径方向に分割した複雑な形状の一対の分割シリンダを用意したり、一対の分割シリンダの互いの接合面の全体に特別な形状のシールを設けたりせずに、その組立て作業を容易に行うことができる。
また、第1及び第2流体室2e、2fにおける作動流体HFの圧力が、第1及び第2ピストン3、4をシリンダ2内で移動させるように流体圧調整装置12で調整されるので、本発明による流体ダンパ1を、いわゆるアクティブ式の流体ダンパとして機能させることができる。
さらに、第1連通路10は、第1ピストン3をバイパスするとともに、第1流体室2eと、第2流体室2fにおける第1所定区間D1内の部分とに連通するように構成されており、流体圧調整装置12は、第1連通路10に設けられ、第1連通路10における作動流体HFの流動量を変化させることによって、第1及び第2流体室2e、2fにおける作動流体HFの圧力を調整するように構成されている。このように、第1及び第2流体室2e、2fの作動流体HFの圧力を調整するために、第1連通路10に設けた流体圧調整装置12を用いるので、第1及び第2流体室2e、2fに圧力調整用の流体ポンプをそれぞれ別個に接続した場合と比較して、流体ダンパ1全体を小型化することができる。
次に、図5及び図6を参照しながら、本発明の第2実施形態による流体ダンパ31について説明する。この流体ダンパ31は、第1実施形態と比較して、第2流体圧調整装置32が第2連通路11に設けられている点が主に異なっている。図5及び図6において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図5に示す第2流体圧調整装置32は、第2連通路11における作動流体HFの流動量を変化させることによって第2及び第3流体室2f、2gにおける作動流体HFの圧力を調整するものであり、第1流体圧調整装置12と同様に構成されている。具体的には、第2流体圧調整装置32は、第2電気モータ33を動力源とする歯車ポンプを有している。歯車ポンプは、外接歯車型のものであり、ケーシング34と、ケーシング34に収容された第1ギヤ35及び第2ギヤ36などで構成されている。ケーシング34は、第2連通路11の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口34a、34aを介して、第2連通路11に連通している。
また、上記の第1ギヤ35は、スパーギヤで構成され、第1回転軸37に一体に設けられている。第1回転軸37は、第2連通路11に直交する方向に水平に延び、ケーシング34に回転自在に支持されており、ケーシング34の外部に若干、突出している。第2ギヤ36は、第1ギヤ35と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸38に一体に設けられており、第1ギヤ35と噛み合っている。第2回転軸38は、第1回転軸37と平行に延び、ケーシング34に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ35、36の互いの噛合い部分は、ケーシング34の出入口34a、34aに臨んでいる。
第2実施形態による制御装置41は、前述した第1電気モータ13、電源22、第1及び第2加速度センサ23、24に加え、第2電気モータ33に接続されており、第1及び第2電気モータ13、33を制御するための電気回路を別個に有している。また、制御装置41は、第1電気モータ13に加え、第2電気モータ33を前述した第1〜第3制御モード(振動抑制制御処理)によって制御する。この場合、基本的には、第1電気モータ13の制御によって流体ダンパ31の減衰力を変更し、第2電気モータ33については、出力トルク(正のトルク及び負のトルクを含む)が値0になるように制御され、より小さな又は大きな減衰力が必要になったときに、第1電気モータ13に加えて第2電気モータ33が、第1〜第3制御モードで制御される。さらに、流体ダンパ31では、第1及び第2電気モータ13、33を制御するための制御モードとして、第4制御モードが設定されている。
この第4制御モードでは、建物B(図4参照)の振動中、作動流体HFの流動を用いて第1及び第2電気モータ13、33の一方で発電が行われるとともに、発電した電力が第1及び第2電気モータ13、33の他方に供給される。第1及び第2電気モータ13、33のうち、発電電力が供給されるモータでは、その回転方向が、ギヤ駆動流動方向が振動流動方向と同方向又は逆方向になるように、制御される。第4制御モード中には、第1及び第2電気モータ13、33の一方の発電電力が所定の一定値に制御されるとともに、発電電力が供給される第1及び第2電気モータ13、33の他方が、前述した振動抑制制御処理によって制御される。この場合において、発電電力が余るときには、その余剰分が電源22に充電され、発電電力が不足するときには、その不足分が電源22の電力によって補われる。
なお、第4制御モード中、断線や電源22の故障などによって、電源22と第1及び第2電気モータ13、33との間で電力の授受を行えないようなときには、第1及び第2電気モータ13、33の一方の発電電力がそのまま、他方に供給される。
以上のように、第2実施形態によれば、第1及び第2流体室2e、2fにおける作動流体HFの圧力を調整する第1流体圧調整装置12に加え、第2及び第3流体室2f、2gにおける作動流体HFの圧力を調整する第2流体圧調整装置32が設けられているので、流体ダンパ31の減衰力の変更幅を大きくすることができる。その他、第1実施形態による前述した効果、すなわち、流体ダンパ31の組み立て作業を容易に行うことができるという効果などを、同様に得ることができる。
次に、図7を参照しながら、本発明の第3実施形態による流体ダンパ51について説明する。この流体ダンパ51は、第1実施形態と比較して、第2連通路11に設けられた歯車モータ52と、回転自在の回転マス53をさらに備えている点が主に異なっている。図7において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
歯車モータ52は、第1流体圧調整装置12の歯車ポンプと同様、ケーシング54と、ケーシング54に収容された、スパーギヤから成る第1ギヤ55及び第2ギヤ56などで構成されている。ケーシング54は、第2連通路11の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口54a、54aを介して、第2連通路11に連通している。
また、上記の第1ギヤ55は、第1回転軸57に一体に設けられている。第1回転軸57は、第2連通路11に直交する方向に水平に延び、ケーシング54に回転自在に支持されており、ケーシング54の外部に若干、突出している。第2ギヤ56は、第2回転軸58に一体に設けられており、第1ギヤ55と噛み合っている。第2回転軸58は、第1回転軸57と平行に延び、ケーシング54に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ55、56の互いの噛合い部分は、ケーシング54の出入口54a、54aに臨んでいる。
前記回転マス53は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、回転マス53は、上記の第1回転軸57に同心状に取り付けられており、第1ギヤ55及び第1回転軸57と一体に回転する。
以上の構成の流体ダンパ51では、建物B(図4参照)が振動するのに伴って前述したように作動流体HFが第2連通路11を流動する際に、ケーシング54に流入した作動流体HFによって第1及び第2ギヤ55、56が回転駆動され、第1ギヤ55と一体の回転マス53が回転する。
以上のように、第3実施形態によれば、作動流体HFの流動を歯車モータ52で回転運動に変換し、回転マス53を回転させることによって、第1実施形態による作動流体HFの減衰力に、回転マス53による回転慣性効果が付加されるので、流体ダンパ51のより大きな減衰力を得ることができる。
また、流体ダンパ51では、回転マス53から成る慣性要素が作動流体HFから成る慣性要素に並列に付加されている。したがって、この場合、付加振動系の固有振動数を定める諸元には、第1実施形態の場合の前述した諸元に加えて、歯車モータ52の容積効率や回転マス53の質量や径などが含まれる。したがって、これらの諸元を適切に設定することによって、この付加振動系の固有振動数を建物Bの1次の固有振動数に同調させることができる。その他、第1実施形態による前述した効果、すなわち、流体ダンパ51の組み立て作業を容易に行うことができるという効果などを、同様に得ることができる。
次に、図8及び図9を参照しながら、本発明の第4実施形態による流体ダンパ61について説明する。この流体ダンパ61は、第1及び第3実施形態と比較して、第2連通路62の構成が主に異なっている。図8及び図9において、第1及び第3実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1及び第3実施形態と異なる点を中心に説明する。
第2連通路62は、第2ピストン4がシリンダ2内の第3所定区間D3にあるときに、第2ピストン4をバイパスし、第2及び第3流体室2f、2gに連通するように構成されている。第3所定区間D3は、第2ピストン4の摺動区間である前述した第2ピストン区間DP2内の内側の区間に設定されており、第2ピストン4の中立位置を中心として、軸線方向の両側に互いに同じ長さで延びている。なお、第3所定区間D3を、第2ピストン4の中立位置を中心として、軸線方向の両側に互いに異なる長さで延びるように設定してもよい。
また、第2連通路62の中央部には、前述した歯車モータ52のケーシング54が一体に設けられている。
以上の構成の流体ダンパ61では、建物B(図4参照)の振動に伴って第2ピストン4が第3所定区間D3を摺動しているときには、第2ピストン4で押圧された作動流体HFは、第1実施形態と同様に第2連通路62を介して、第2流体室2fと第3流体室2gの間を流動する。それに伴い、第3実施形態で説明したように、第2連通路62における作動流体HFの流動が回転運動に変換された状態で回転マス53に伝達されることによって、回転マス53が回転し、回転マス53による回転慣性効果が付与される。
また、図9(a)及び(b)に示すように、外力の入力により第2ピストン4が、第2ピストン区間DP2における第3所定区間D3よりも軸線方向の両外側の区間(以下「所定外側区間DO」という)に位置するようになると、第2ピストン4で押圧された作動流体HFは、第2連通路62を流動しなくなり、第1又は第2調圧弁8、9が開弁するのに伴って、第1又は第2連通孔4a、4bを流動するとともに、第2ピストン4が所定外側区間DOを摺動するようになる。この場合、第2ピストン4を、所定外側区間DOを第1側壁2b側に摺動させるような外力が入力されているときには、第2流体室2f内の作動流体HFの圧力と第3流体室2g内の作動流体HFの圧力との差が所定値に達したときに、前述したように第1調圧弁8が開弁し(図9(a)参照)、第2流体室2f内の作動流体HFの一部が、第1連通孔4aを通って第3流体室2gに流動する。これにより、作動流体HFのより大きな粘性減衰力が第2ピストン4に作用することによって、流体ダンパ61の減衰力はより大きくなる。
一方、第2ピストン4を、所定外側区間DOを第2側壁2c側に摺動させるような外力が入力されているときには、第3流体室2g内の作動流体HFの圧力と第2流体室2f内の作動流体HFの圧力との差が所定値に達したときに、前述したように第2調圧弁9が開弁し(図9(b)参照)、第3流体室2g内の作動流体HFの一部が、第2連通孔4bを通って第2流体室2fに流動する。これにより、作動流体HFのより大きな粘性減衰力が第2ピストン4に作用することによって、流体ダンパ61の減衰力はより大きくなる。
以上のように、第4実施形態によれば、第2ピストン4が第2所定区間D2内の第3所定区間D3を移動しているときに、第2連通路62が、第2流体室2fと第3流体室2gの間で作動流体HFを流動させるように、構成されている。また、第2ピストン4が第2所定区間D2内の第3所定区間D3よりも外側の所定外側区間DOを位置するようになると、作動流体HFは、第2連通路62を流動しなくなり、第2ピストン4への外力の作用により第2及び第3流体室2f、2gにおける作動流体HFの圧力差が所定値に達したときに、第1又は第2調圧弁8、9により第1又は第2連通孔4a、4bが開放される結果、第1又は第2連通孔4a、4bを通って、第2流体室2fと第3流体室2gの間で流動するとともに、第2ピストン4が所定外側区間DOを移動するようになる。以上により、第2ピストン4が内側の第3所定区間D3を移動しているときには、流体ダンパ61のより小さな減衰力を得ることができ、第2ピストン4が所定外側区間DOを移動しているときには、流体ダンパ61のより大きな減衰力を得ることができる。その他、第1実施形態による前述した効果、すなわち、流体ダンパ61の組み立て作業を容易に行うことができるという効果などを、同様に得ることができる。
なお、第4実施形態では、第1及び第2連通孔4a、4bが、本発明における複数の連通路に相当する。
次に、図10及び図11を参照しながら、本発明の第5実施形態による流体ダンパ71について説明する。この流体ダンパ71は、第4実施形態と比較して、歯車モータ52に代えて、調整弁72が設けられている点が主に異なっている。図10及び図11において、第1及び第4実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1及び第4実施形態と異なる点を中心に説明する。
調整弁72は、例えばリニア電磁弁で構成されており、その開度が制御装置81によりリニアに変更され、それにより、第2連通路62における作動流体HFの流動量が変化する。
以上の構成により、第5実施形態によれば、建物B(図4参照)の振動中、前述した上梁振動変位DIBU及び下梁振動変位DIBDに応じて調整弁72の開度を制御することによって、流体ダンパ71の減衰力の増大側の変更幅を大きくすることができる。その他、第1及び第4実施形態による前述した効果、すなわち、流体ダンパ31の組み立て作業を容易に行うことができるという効果などを、同様に得ることができる。
なお、第5実施形態に関し、調整弁72として、油圧駆動式の開閉弁など、他の適当な弁を用いてもよいことは、もちろんである。
次に、図12を参照しながら、本発明の第6実施形態による流体ダンパ91について説明する。この流体ダンパ91は、いわゆるパッシブダンパとして構成されており、第4実施形態と比較して、第1連通路10に、第1流体圧調整装置12に代えて、歯車モータ92及び回転マス93が設けられている点と、第2連通路62の歯車モータ52が省略されている点が主に異なっている。図12において、第1及び第4実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1及び第4実施形態と異なる点を中心に説明する。
歯車モータ92は、第3実施形態で説明した歯車モータ52と同様、ケーシング94と、ケーシング94に収容された、スパーギヤから成る第1ギヤ95及び第2ギヤ96などで構成されている。ケーシング94は、第1連通路10の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口94a、94aを介して、第1連通路10に連通している。
また、上記の第1ギヤ95は、第1回転軸97に一体に設けられている。第1回転軸97は、第1連通路10に直交する方向に水平に延び、ケーシング94に回転自在に支持されており、ケーシング94の外部に若干、突出している。第2ギヤ96は、第2回転軸98に一体に設けられており、第1ギヤ95と噛み合っている。第2回転軸98は、第1回転軸97と平行に延び、ケーシング94に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ95、96の互いの噛合い部分は、ケーシング94の出入口94a、94aに臨んでいる。
前記回転マス93は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、回転マス93は、上記の第1回転軸97に同心状に取り付けられており、第1ギヤ95及び第1回転軸97と一体に回転する。
以上の構成の流体ダンパ91では、建物B(図4参照)が振動するのに伴って前述したように作動流体HFが第1連通路10を流動する際に、ケーシング94に流入した作動流体HFによって第1及び第2ギヤ95、96が回転駆動され、第1ギヤ95と一体の回転マス93が回転する。
以上のように、第6実施形態によれば、作動流体HFの流動を歯車モータ92で回転運動に変換し、回転マス93を回転させることによって、第1実施形態による作動流体HFの減衰力に、回転マス93による回転慣性効果が付加されるので、流体ダンパ91のより大きな減衰力を得ることができる。その他、第1及び第4実施形態による前述した効果、すなわち、流体ダンパ31の組み立て作業を容易に行うことができるという効果などを、同様に得ることができる。
また、流体ダンパ91では、作動流体HF及び回転マス93から成る慣性要素が、ブレース材BRなどから成る弾性要素に直列に接続された関係にあるため、流体ダンパ1を、付加振動系(動吸振器)として機能させることができる。この場合、付加振動系の諸元は、その固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定され、当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、付加振動系の固有振動数は、作動流体HFの流動による慣性質量mF、歯車モータ92の影響を考慮した回転マス93の回転慣性質量mR及びブレース材BRの剛性θTによって定まる(=sqrt{θT/(mF+mR)}/2π)。
次に、図13を参照しながら、本発明の第7実施形態による流体ダンパ101について説明する。この流体ダンパ101は、第6実施形態と同様、いわゆるパッシブダンパとして構成されており、第6実施形態と比較して、第1及び第2連通路10、62に代えて、連通溝3c、4cが第1及び第2ピストン3、4にそれぞれ設けられている点が主に異なっている。図13において、第6実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第6実施形態と異なる点を中心に説明する。
連通溝3c及び4cの各々は、軸線方向に延びる複数の溝(各1つのみ図示)で構成され、前者3cは第1及び第2流体室2e、2fに連通しており、後者4cは、第2及び第3流体室2f、2gに連通している。
以上の構成の流体ダンパ101では、建物B(図4参照)の振動に伴って、第1及び第2ピストン3、4がシリンダ2内を第1側壁2b側に摺動したときには、第1流体室2eにおける作動流体HFが第1ピストン3で押圧され、その一部が、連通溝3cを通って第2流体室2f側に流動するとともに、第2流体室2fにおける作動流体HFが第2ピストン4で押圧され、その一部が、連通溝4cを通って第3流体室2g側に流動する。
これとは逆に、第1及び第2ピストン3、4がシリンダ2内を第2側壁2c側に摺動したときには、第3流体室2gにおける作動流体HFが第2ピストン4で押圧され、その一部が、連通溝4cを通って第2流体室2f側に流動するとともに、第2流体室2fにおける作動流体HFが第1ピストン3で押圧され、その一部が、連通溝3cを通って第1流体室2e側に流動する。
以上のように、第7実施形態によれば、第1実施形態の場合と同様、振動による外力がシリンダ2などに入力されたときに、作動流体HFの粘性抵抗力を第1及び第2ピストン3、4の両方に作用させられるので、第1及び第2ピストン3、4から成る2つのピストンの受圧面積に応じた、より大きな減衰力を得ることができる。また、前述した従来の流体ダンパと異なり、シリンダ2内における第1ピストン3と第2ピストン4の間に、仕切壁が設けられていないので、流体ダンパ101の組立てに当たって、シリンダ2として径方向に分割した複雑な形状の一対の分割シリンダを用意したり、一対の分割シリンダの互いの接合面の全体に特別なシールを設けたりせずに、組立て作業を容易に行うことができる。第7実施形態では、第1実施形態と異なり、第1及び第2連通路10、11が設けられていないので、その分、流体ダンパ101をより容易に組み立てることができる。
なお、第7実施形態に関し、第1及び第2ピストン3、4に、連通溝3c、4cに代えて、軸線方向に貫通する連通孔を設けてもよい。あるいは、シリンダ2の周壁2aに、軸線方向に延びる連通溝を形成してもよく、第1及び第2ピストン3、4の外径をシリンダ2の内径よりも小さく設定することによって、両ピストンとシリンダとの間に連通路を形成してもよい。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1実施形態に関し、第1流体圧調整装置12を、第1連通路10に設けているが、第2連通路11に設けてもよい。また、第2実施形態に関し、第2連通路11に、第2流体圧調整装置32に加え、歯車モータ52及び回転マス53を設けてもよい。さらに、第3及び第4実施形態に関し、第2連通路11、62に、歯車モータ52及び回転マス53に加えて、調整弁72を設けてもよい。また、第1、第3、第4及び第6実施形態に関し、第2連通路11、62に、絞り(オリフィス)を設けてもよく、第5実施形態に関し、調整弁72に代えて、絞りを設けてもよい。
さらに、第6実施形態に関し、第2連通路62に、歯車モータ52及び回転マス53や、調整弁72を設けてもよい。また、第6実施形態に関し、歯車モータ92及び回転マス93を省略してもよい。
さらに、第1〜第6実施形態に関し、第1及び第2ピストン3、4の少なくとも一方に、第7実施形態の対応する連通溝3c、4cの少なくとも一方を設けてもよい。また、第4〜第6実施形態に関し、第2ピストン4に連通溝4cを設けた場合には、連通溝4cが、本発明における複数の連通路に相当する。これらのいずれの場合にも、連通溝3c、4cに関する前述したバリエーションを適用してもよいことは、もちろんである。
さらに、第1〜第6実施形態では、第2ピストン4をバイパスして第2及び第3流体室2f、2gに連通する第2連通路11、62は、1つであるが、2つ以上でもよい。この場合、第2連通路としての複数の連通路は、第2ピストンが第2所定区間内の複数の所定区間をそれぞれ移動しているときに、第2流体室と第3流体室の間で作動流体を流動させるように構成される。例えば、流体ダンパに、第2連通路11、62の両方を設けてもよいことはもちろんであり、第2連通路として、図14に示すような2つの連通路PA1、PA2を設けてもよい。同図に示すように、第1側壁2b側の連通路PA1は、第2ピストン4が内側の第3所定区間D3と第1側壁2b側の所定外側区間DOを移動しているときに、第2流体室2fと第3流体室2gの間で作動流体HFを流動させるように、シリンダ2に接続される。また、第2側壁2c側の連通路PA2は、第2ピストン4が内側の第3所定区間D3と第2側壁2c側の所定外側区間DOを移動しているときに、第2流体室2fと第3流体室2gの間で作動流体HFを流動させるように、シリンダ2に接続される。
また、第2連通路として複数の連通路を設ける場合、第4〜第6実施形態では、第2ピストン4が内側の第3所定区間D3を移動しているときよりも、所定外側区間DOを移動しているときの方が、流体ダンパ61、71、91の減衰力がより大きくなるように、複数の連通路を構成しているが、これとは逆に、所定外側区間を移動しているときの方が、流体ダンパの減衰力がより小さくなるように、複数の連通路を構成してもよい。さらに、シリンダへの複数の連通路の接続位置として、これまでに述べた例に限らず、第2ピストンの移動位置に応じた流体ダンパの所望の減衰力が得られるような適当な位置を採用することができる。さらに、第2ピストンをバイパスする複数の連通路を流体ダンパに設ける場合、これらの複数の連通路の少なくとも1つに、歯車モータ52及び回転マス53や、調整弁72、絞りを設けてもよいことは、もちろんである。これまでに述べた第2連通路に関するバリエーションは、第1連通路10についても同様に当てはまる。
また、第1〜第5実施形態では、第1及び第2流体圧調整装置12、32の駆動源として、電気モータ13、33を用いているが、油圧モータを用いてもよい。さらに、第1〜第5実施形態では、第1及び第2流体圧調整装置12、32として、歯車ポンプ式のものを用いているが、他の適当な流体圧調整装置、例えば、ベーンポンプ式のものや、本出願人による特願2015-147612号の図5などに記載されたピストンポンプ式のもの、本出願人による特許第5191579号の段落[0049]や図2、図5に記載されたスクリューポンプ式のものなどを用いてもよい。また、第1〜第5実施形態では、第1及び第2連通路10、11にそれぞれ設けられた第1及び第2流体圧調整装置12、32を用いているが、他の適当な装置、例えば、第1〜第3流体室にそれぞれ接続されるとともに、互いに別個に設けられた第1〜第3流体圧ポンプなどを用いてもよい。
さらに、第3、第4及び第6実施形態では、本発明における動力変換機構として、歯車モータ52、92を用いているが、作動流体HFの流動を回転運動に変換し、回転マスに伝達する他の適当な機構、例えば、本出願人による特許第5161395号の図2などに記載されたピストンがナットに一体に設けられたボールねじや、ベーンモータ、羽根車機構などを用いてもよい。
また、第1〜第6実施形態では、第1及び第2連通路10、11、62を、シリンダ2の周壁2aに接続しているが、周壁の内部に形成してもよい。さらに、第1〜第7実施形態(以下、総称して「実施形態」という)では、シリンダ2や、第1及び第2ピストン3、4の断面形状は、円形状であるが、角形状でもよい。また、実施形態では、作動流体HFは、シリコンオイルであるが、他の適当な流体でもよい。
さらに、実施形態では、ピストンロッド5を、シリンダ2の第2側壁2cから外方に延びるように構成しているが、これに代えて、第1側壁から外方に延びるように設けてもよく、あるいは、第1及び第2側壁の双方から外方に延びるように構成してもよい。また、実施形態では、第1及び第2ピストン3、4に外力を伝達するための伝達部材として、ピストンロッド5を用いているが、他の適当な部材、鋼線などで構成された一対のケーブルを用いてもよい。その場合には、シリンダの第1及び第2側壁に、軸線方向に貫通するケーブル案内孔が形成されるとともに、一対のケーブルの一方が、第1ピストンから第1側壁のケーブル案内孔を通って外方に延びるように設けられ、一対のケーブルの他方が、第2ピストンから第2側壁のケーブル案内孔を通って外方に延びるように設けられる。さらに、この場合、第1及び第2ピストンを、ロッド又はケーブルを用いて連結してもよく、ケーブルを用いて連結する場合には、第1及び第2ピストンを連結するケーブルと、両ピストンに外力を伝達するためのケーブルを、単一のケーブルで構成してもよい。
さらに、実施形態では、流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101を、V字状のブレース材BRを介して、上下の梁BU、BDに左右方向に延びるように設けているが、逆V字状のブレース材を介して、上下の梁に左右方向に延びるように設けてもよく、これらのいずれの場合にも、一対の流体ダンパを、ブレース材の集合部分から互いに反対側に延びるように設けてもよい。あるいは、流体ダンパを、上下の梁にブレース状に設けてもよく、振動による上下の梁の間の上下方向の変位を抑制するために、上下方向に延びるように設けてもよい。あるいは、2つの流体ダンパを、上下の梁にV字状又は逆V字状に設けてもよい。
また、実施形態では、流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101を連結する対象として、上下の梁BU、BDをそれぞれ採用し、2層間の層間変位を抑制しているが、他の適当な部位を採用してもよい。例えば、流体ダンパを連結する対象として、互いの間に1つ以上の梁が設けられた上下の梁をそれぞれ採用し、3層以上の間の層間変位を抑制してもよく、あるいは、建物Bが立設された基礎、及び梁をそれぞれ採用してもよい。さらに、実施形態では、流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101を左右方向に延びる梁BU、BDに連結することによって、建物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、前後方向に延びる梁に連結することによって、建物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。
また、実施形態は、本発明による流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101を高層の建物Bに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔や橋梁などにも適用可能である。さらに、実施形態では、流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101を、建物Bの層間に設置し、制振装置として用いているが、これに限らず、構造物とこれを支持する支持体の間に設置し、免震装置として用いてもよい。
また、実施形態では、流体ダンパ1、31、51、61、71、91、101に、第1及び第2ピストン3、4と、第1及び第2連通路10、11又は連通溝3c及び4cとから成る2組のピストンと連通路を設けているが、3組以上のピストンと連通路を設けてもよい。この場合、これらの連通路に、流体圧調整装置や、動力変換機構、調圧弁、絞りを設けてもよいことは、もちろんである。さらに、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。