以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1〜図3は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置を示している。振動抑制装置は、建物Bの振動を抑制するためのものであり、左右一対の振動抑制装置1L、1Rで構成されている。建物Bは、例えば高層のビルであり、基礎Fに立設されている。ここで、基礎Fは、建物の基礎に限らず、地下構造物などでもよい。
図1及び図2に示すように、左側の振動抑制装置1Lは、建物Bの外周に配置された第1ダンパ2と、建物Bの内部に配置された第2ダンパ3を備えている。第1ダンパ2は、円筒状の第1シリンダ21と、第1シリンダ21内に摺動自在に設けられた第1ピストン22と、第1シリンダ21に部分的に収容されたピストンロッド23などで構成されている。
第1シリンダ21は、上下方向に延びており、互いに対向する上壁21a及び下壁21bと、両者21a、21bの間に一体に設けられた周壁21cで構成されている。これらの上壁21a、下壁21b及び周壁21cによって画成された油室は、第1ピストン22によって、上側の第1油室21d及び下側の第2油室21eに区画されており、両油室21d、21eには、作動油HFが充填されている。第1シリンダ21の断面積、ならびに作動油HFの密度及び粘性の設定については、後述する。
また、上壁21a及び下壁21bの各々の径方向の中央には、上下方向に貫通するロッド案内孔21fが形成されており、ロッド案内孔21fには、シール21gが設けられている。さらに、下壁21bには、下方に突出する凸部21hが一体に設けられており、凸部21hの内部には、収容部21iが画成されている。さらに、凸部21hには、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられており、第1取付具FL1は、基礎Fに取り付けられている。これにより、第1ダンパ2の第1シリンダ21は基礎Fに連結されている。
前記第1ピストン22は、円柱状に形成されており、その径方向の中央にピストンロッド23が一体に設けられている。また、第1ピストン22の周面には、シール22aが設けられており、第1ピストン22の径方向の外端部には、上下方向に貫通する複数の孔が形成されている(2つのみ図示)。これらの孔には、第1リリーフ弁24及び第2リリーフ弁25がそれぞれ設けられている。
第1リリーフ弁24は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、第1油室21d内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2油室21d、21eが互いに連通される。第2リリーフ弁25は、第1リリーフ弁24と同様に構成されており、第2油室21e内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2油室21d、21eが互いに連通される。
ピストンロッド23は、第1ピストン22から上下に延びるとともに、第1シリンダ21のロッド案内孔21f、21fに挿入されている。また、ピストンロッド23は、その一端部が収容部21iに収容されており、一端部以外の大部分が第1シリンダ21に収容されている。さらに、ピストンロッド23の他端部には、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられており、第2取付具FL2は、第1支持部材4の下端部に取り付けられている。
この第1支持部材4は、上下方向に互いに接合・固定された複数の柱材4aで構成されており、各柱材4aは、例えばH形鋼で構成され、弾性を有している。第1支持部材4の剛性(ばね定数)の設定については、後述する。また、第1支持部材4は、建物Bの外側に配置され、建物Bに沿って上下方向に延びており、その上端部が、建物Bの上端部、例えば最上部のブレース階FBの左端部に連結されている。以上の構成により、第1ダンパ2の第1ピストン22は、第1支持部材4を介して建物Bの上端部に連結されている。
また、建物Bには、第1ダンパ2よりも上側の部分に、4つの座屈防止機構BPが設けられている。各座屈防止機構BPは、建物Bの振動に伴って作用する圧縮荷重による第1支持部材4の座屈を防止するためのものである。座屈防止機構BPの構成は、本出願の発明者により提案された特許第5149453号に開示されたものと同じであるので、その詳細な説明については省略する。
前記第2ダンパ3は、基礎F、建物Bの梁BU及び左右の柱PL、PRによって取り囲まれた空間に配置されている。この梁BUは、建物Bの下部に設けられ、左右方向に延びており、その左端部及び右端部が左右の柱PL、PRにそれぞれ接合されている。また、第2ダンパ3は、円筒状の第2シリンダ31と、第2シリンダ31内に摺動自在に設けられた第2ピストン32などで構成されている。
第2シリンダ31は、左右方向に延びており、互いに対向する左壁31a及び右壁31bと、両者31a、31bの間に一体に設けられた周壁31cで構成されている。第2シリンダ31の断面積の設定については、後述する。また、これらの左壁31a、右壁31b及び周壁31cによって画成された油室は、第2ピストン32によって、左側の第3油室31d及び右側の第4油室31eに区画されており、両油室31d、31eには、作動油HFが充填されている。また、左壁31a及び右壁31bの各々の径方向の中央には、左右方向に貫通するケーブル案内孔(図示せず)が形成されており、ケーブル案内孔には、シール(図示せず)が設けられている。さらに、周壁31cは、第2支持部材5の連結部5bに取り付けられている。
この第2支持部材5は、例えばH形鋼から成るブレース状のものであり、左右の斜め材5a、5aで構成されており、弾性を有している。第2支持部材5の剛性(ばね定数)の設定については、後述する。左右の斜め材5a、5aは、それらの上端部が左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部にそれぞれ連結されており、基礎Fの付近まで延びている。また、左右の斜め材5a、5aの下端部は、互いに連結されており、上記の連結部5bになっている。以上の構成により、第2ダンパ3の第2シリンダ31は、第2支持部材5を介して、建物Bの下部に連結されている。
前記第2ピストン32は、円柱状に形成されており、その周面には、シール32aが設けられている。また、第2ピストン32の径方向の外端部には、左右方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第3リリーフ弁33及び第4リリーフ弁34がそれぞれ設けられている。これらの第3及び第4リリーフ弁33、34はそれぞれ、前述した第1及び第2リリーフ弁24、25と同様に構成されている。第3リリーフ弁33は、第3油室31d内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4油室31d、31eが互いに連通される。第4リリーフ弁34は、第4油室31e内の作動油HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4油室31d、31eが互いに連通される。
また、振動抑制装置1Lは、第2シリンダ31に部分的に収容された左右一対のケーブル6L、6Rと、第2シリンダ31に取り付けられた左右一対の第1滑車7L、7Rと、基礎Fに連結された左右一対の第2滑車8L、8Rをさらに備えている。左右のケーブル6L、6Rは、例えば鋼線で構成され、弾性を有している。左右のケーブル6L、6Rの剛性(ばね定数)は、互いに同じ大きさに設定されており、その設定については後述する。左ケーブル6Lは、その一端部が第2ピストン32の左端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第2ピストン32から左方に延びるとともに、第2シリンダ31の左壁31aの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、左ケーブル6Lの他端部は、左連結部9Lに取り付けられている。左連結部9Lは、例えばH形鋼で構成されており、基礎F及び左柱PLに取り付けられている。
左側の第1滑車7Lは第2シリンダ31の左壁31aに、左側の第2滑車8Lは左連結部9Lに、それぞれ取り付けられている。左ケーブル6Lは、その中間の部分において、第1及び第2滑車7L、8Lに折り返された状態で巻き回されており、所定のテンションが付与されている。
右ケーブル6Rは、その一端部が第2ピストン32の右端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第2ピストン32から右方に延びるとともに、第2シリンダ31の右壁31bの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、右ケーブル6Rの他端部は、右連結部9Rに取り付けられている。右連結部9Rは、左連結部9Lと同様に例えばH形鋼で構成されており、基礎F及び右柱PRに取り付けられている。以上の構成により、第2ダンパ3の第2ピストン32は、左右のケーブル6L、6R及び左右の連結部9L、9Rを介して、基礎Fに連結されている。
右側の第1滑車7Rは第2シリンダ31の右壁31bに、右側の第2滑車8Rは右連結部9Rに、それぞれ取り付けられている。右ケーブル6Rは、その中間の部分において、第1及び第2滑車7R、8Rに折り返された状態で巻き回されており、左ケーブル6Lのテンションと同じ大きさのテンションが付与されている。
さらに、振動抑制装置1Lは、第1連通路10及び第2連通路11を備えている。第1連通路10は、第1油室21dと第3油室31dを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第1連通路10の接続部分は、第1シリンダ21の周壁21cの上端部に位置しており、第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、第2シリンダ31の周壁31cの左端部に位置している。
第2連通路11は、第2油室21eと第4油室31eを互いに連通するように、第1及び第2シリンダ21、31に接続されている。第1シリンダ21との第2連通路11の接続部分は、第1シリンダ21の周壁21cの下端部に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、第2シリンダ31の周壁31cの右端部に位置している。第1及び第2連通路10、11の通路面積の設定については後述する。
以上の構成の振動抑制装置1Lでは、建物Bが静止しているときには、第1及び第2ピストン22、32は、図2に示す中立位置にある。
図1及び図3に示すように、右側の振動抑制装置1Rは、上述した左側の振動抑制装置1Lと同様に構成されており、これと左右対称に配置されている点のみが異なっている。このような相違から、振動抑制装置1Rの第2シリンダ31の第3及び第4油室31d、31eの位置関係は、振動抑制装置1Lの第2シリンダ31の第3及び第4油室31d、31eの位置関係と左右逆の関係になっている。すなわち、振動抑制装置1Rの第2シリンダ31の第3油室31dは、第2ピストン32の右側に位置しており、第4油室31eは、第2ピストン32の左側に位置している。振動抑制装置1Rの第2シリンダ31との第1連通路10の接続部分は、第2シリンダ31の周壁31cの右端部に位置しており、第2シリンダ31との第2連通路11の接続部分は、第2シリンダ31の周壁31cの左端部に位置している。
次に、図1及び図4を参照しながら、建物Bが1次モードの振動モードで振動したときにおける振動抑制装置1Lの動作について説明する。図1に二点鎖線で示すように、1次モードによる建物Bの振動は、その上端側が左右方向に繰り返し往復動するような態様で行われる。この場合、建物Bの曲げ変形による変位の方向と、剪断変形による変位の方向は互いに同じ方向になり、建物Bの振動による曲げ変形の度合いは、建物Bの上側の部分であるほど、より大きくなり、建物Bの振動による剪断変形の度合いは、建物Bの下側の部分であるほど、より大きくなる。
また、図4に示すように、1次モードの振動により建物Bが基礎Fに対して右側に変位すると、この建物Bの変位が、第1支持部材4を介して第1ダンパ2に伝達されるとともに、第2支持部材5やケーブル6L、6Rを介して第2ダンパ3に伝達される。以上により、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に、第1油室21d側に第1ピストン22を移動させる方向の力が作用するとともに、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に、第3油室31d側に第2ピストン32を移動させる方向の力が作用する。図4では、建物B及び基礎Fから第1及び第2ピストン22、32にそれぞれ作用する力を、格子状のハッチング付きの矢印で示している。
この動作例では、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する圧力よりも大きいため、図4に示すように、第2ピストン32が、図2に示す中立位置から第3油室31d側に移動し、第3油室31d内の作動油HLが第2ピストン32で圧縮される。これにより、第3油室31d内の作動油HFの一部は、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する第1流体室21d側に第1ピストン22を移動させる方向の力に抗して、第1連通路10を介して第1油室21dに流入する。これにより、第1ピストン22が、図2に示す中立位置から第2油室21e側に移動することによって、第2油室21e内の作動油HFの一部が、第2連通路11を介して第4油室31eに流入する。図4では、作動油HFの流れの方向を、第1及び第2連通路10、11の付近に付した矢印で示している。
また、図示しないものの、1次モードの振動により建物Bが基礎Fに対して左側に変位したときには、建物Bの変位が第1及び第2ダンパ2、3に伝達されることによって、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に、第2油室21e側に第1ピストン22を移動させる方向の力が作用するとともに、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に、第4油室31e側に第2ピストン32を移動させる方向の力が作用する。
この場合、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する圧力よりも大きいため、第2ピストン32が第4油室31e側に移動し、第4油室31e内の作動油HLが第2ピストン32で圧縮される。これにより、第4油室31e内の作動油HFの一部は、建物B及び基礎Fから第1ピストン21に作用する第2流体室21e側に第1ピストン21を移動させる方向の力に抗して、第2連通路11を介して第2油室21eに流入する。これにより、第1ピストン22が第1油室21d側に移動することによって、第1油室21d内の作動油HFの一部が、第1連通路10を介して第3油室31dに流入する。
また、図示しないものの、以上のような建物Bの振動時における左側の振動抑制装置1Lの動作は、右側の振動抑制装置1Rにおいて同様に行われる。
以上のように、第1実施形態によれば、上下方向に延びる第1シリンダ21が基礎Fに連結されており、第1シリンダ21の内部には、作動油HFが充填されるとともに、第1ピストン22が摺動自在に設けられている。第1ピストン22は、第1シリンダ21内を第1油室21dと第2油室21eに区画しており、建物Bの上端部に連結されている。第1シリンダ21及び第1ピストン22を、上記のように建物B及び基礎Fに設けることによって、建物Bの1次モードの振動により発生した曲げ変形による変位を、第1シリンダ21及び第1ピストン22に適切に伝達することができる。
また、水平方向に延びる第2シリンダ31が、建物Bの下部に設けられた梁BUに連結されており、第2シリンダ31の内部には、作動油HFが充填されるとともに、第2ピストン32が摺動自在に設けられている。第2ピストン32は、第2シリンダ31内を第3油室31dと第4油室31eに区画するとともに、基礎Fに連結されている。第2シリンダ31及び第2ピストン32を、上記のように建物B及び基礎Fに設けることによって、建物Bの1次モードの振動により発生した剪断変形による変位を、第2シリンダ31及び第2ピストン32に適切に伝達することができる。
さらに、図4を参照して説明したように、振動抑制装置は、建物Bが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して右側に変位したときに、建物B及び基礎Fから第1シリンダ21及び第1ピストン22に、第1ピストン22を第1油室21d側に移動させる方向の力が作用するとともに、建物B及び基礎Fから第2シリンダ31及び第2ピストン32に、第2ピストン32を第3油室31d側に移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、第1及び第3油室21d、31dが、第1連通路10を介して互いに連通しており、第2及び第4油室21e、31eが、第2連通路11を介して互いに連通している。また、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が第1ピストン22に作用する圧力よりも大きいため、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する第1油室21d側に第1ピストン22を移動させる方向の力に抗して、第3油室31d内の作動油HFの一部を、第2ピストン32による圧縮により第1連通路10を介して第1油室21dに流入させるとともに、第2油室21e内の作動油HFの一部を、第2連通路11を介して第4油室31eに流入させることができる。したがって、第2及び第1シリンダ31、21内の作動油HFの粘性減衰効果に加え、第1及び第2連通路10、11を介した作動油HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
さらに、振動抑制装置は、建物Bが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側に変位したときに、建物B及び基礎Fから第1シリンダ21及び第1ピストン22に、第1ピストン22を第2油室21e側に移動させる方向の力が作用するとともに、建物B及び基礎Fから第2シリンダ31及び第2ピストン32に、第2ピストン32を第4油室31e側に移動させる方向の力が作用するように構成されている。
この場合、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が第1ピストン22に作用する圧力よりも大きいため、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する第2油室21e側に第1ピストン22を移動させる方向の力に抗して、第4油室31e内の作動油HFの一部を、第2ピストン32による圧縮により第2連通路11を介して第2油室21eに流入させるとともに、第1油室21d内の作動油HFの一部を、第1連通路10を介して第3油室31dに流入させることができる。したがって、第2及び第1シリンダ31、21内の作動油HFの粘性減衰効果に加え、第1及び第2連通路10、11を介した作動油HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上から明らかなように、建物Bが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側及び右側に繰り返し変位したときに、第2及び第1シリンダ31、21内の作動油HFの粘性減衰効果と、第1及び第2連通路10、11を介した作動油HFの流動による慣性効果とが得られることによって、建物Bの振動を十分に抑制することができる。この場合、振動抑制装置が、左右一対の振動抑制装置1L、1Rで構成されているので、この効果をより有効に得ることができる。
以上のように、第1実施形態によれば、建物Bの振動時、第1シリンダ21及び第1ピストン22を有する第1ダンパ2と、第2シリンダ31及び第2ピストン32を有する第2ダンパ3とを適切に連動させることができ、それにより、建物Bの振動を十分に抑制することができる。
なお、図4は、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が第1ピストン22に作用する圧力よりも大きい場合の例であるが、これとは逆に、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する圧力が第2ピストン32に作用する圧力よりも大きいときには、振動抑制装置は次のように動作する。
すなわち、建物Bが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して右側に変位したときには、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する第3油室31d側に第2ピストン32を移動させる方向の力に抗して、第1油室21d内の作動油HFの一部を、第1ピストン22による圧縮により第1連通路10を介して第3油室31dに流入させるとともに、第4油室31e内の作動油HFの一部を、第2連通路11を介して第2油室21eに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動油HFの粘性減衰効果に加え、第1及び第2連通路10、11を介した作動油HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
また、建物Bが1次モードの振動モードで振動することにより基礎Fに対して左側に変位したときには、建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する第4油室31e側に第2ピストン32を移動させる方向の力に抗して、第2油室21e内の作動油HFの一部を、第1ピストン22による圧縮により第2連通路11を介して第4油室31eに流入させるとともに、第3油室31d内の作動油HFの一部を、第1連通路10を介して第1油室21dに流入させることができる。したがって、第1及び第2シリンダ21、31内の作動油HFの粘性減衰効果に加え、第1及び第2連通路10、11を介した作動油HFの流動による慣性効果がさらに得られる。
以上により、建物B及び基礎Fから第1ピストン22に作用する圧力が第2ピストン32に作用する圧力よりも大きい場合にも、前述した建物B及び基礎Fから第2ピストン32に作用する圧力が第1ピストン22に作用する圧力よりも大きい場合と同様に、第1及び第2ダンパ2、3を適切に連動させることができ、それにより、建物Bの振動を十分に抑制することができる。
また、第1ピストン22が建物Bの上端部に、第1支持部材4を介して連結されている。さらに、第2シリンダ31が建物Bの下部に、第2支持部材5を介して連結されており、第2ピストン32が基礎Fに、左右のケーブル6L、6Rを介して連結されている。以上の構成により、作動油HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する第1支持部材4が、直列に接続された関係になるとともに、作動油HFから成る慣性接続要素及び粘性要素と、弾性を有する第2支持部材5及び左右のケーブル6L、6Rとが、直列に接続された関係になるので、これらの要素によって付加振動系を構成することができる。
また、第1及び第2支持部材4、5ならびに左右のケーブル6L、6Rの剛性(ばね定数)や、作動油HFの密度及び粘度、第1及び第2シリンダ21、31の断面積、第1及び第2連通路10、11の通路面積などの諸元は、上記の付加振動系の固有振動数が建物Bの1次の固有振動数に同調(共振)するように、設定されている。これにより、建物Bの振動エネルギを付加振動系で吸収することによって、建物Bの振動をさらに良好に抑制することができる。
また、第2シリンダ31には、第2ピストン32を間にして左右方向に互いに反対側に配置された一対の第1滑車7L、7Rが設けられており、基礎Fには、第2ピストン32を間にして左右方向に互いに反対側に配置された一対の第2滑車8L、8Rが連結されている。さらに、左右のケーブル6L、6Rの各々の中間の部分は、第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rに巻き回されている。以上の構成により、建物Bの振動時、第1及び第2滑車7L、7R、8L、8Rの一方は他方に対して、いわゆる動滑車として機能し、それにより、建物Bの振動による変位が増大された状態で第2ピストン32に伝達されるので、第2ピストン32の移動量及び作動油HFの流動量を増大でき、ひいては、建物Bの振動抑制効果を高めることができる。
また、左右のケーブル6L、6Rが、第2ピストン32を間にして左右方向に互いに反対側に延びているので、1次モードの振動により建物Bが基礎Fに対して左側及び右側に繰り返し変位したとき(図1の二点鎖線参照)に、建物Bの変位を、両ケーブル6L、6Rを介して第2ピストン32に適切に伝達することができる。
さらに、第1油室21d又は第2油室21eの作動油HFの圧力が所定値に達したときに、第1ピストン22に設けられた第1リリーフ弁24又は第2リリーフ弁25が開弁し、第1及び第2油室21d、21eを互いに連通させることによって、作動油HFの圧力が、両油室21d、21eの一方から他方に逃がされる。さらに、第3油室31d又は第4油室31eの作動油HFの圧力が所定値に達したときに、第2ピストン32に設けられた第3リリーフ弁33又は第4リリーフ弁34が開弁し、第3及び第4油室31d、31eを互いに連通させることによって、作動油HFの圧力が、両油室31d、31eの一方から他方に逃がされる。以上により、作動油HFによる慣性効果及び粘性減衰力を制限することによって、左右のケーブル6L、6Rに弾性限界を超える過大な引張荷重が作用するなどの振動抑制装置の過負荷状態を防止することができる。
さらに、所定のテンションが左右のケーブル6L、6Rに付与されているので、建物Bの振動時、第2ピストン32の移動量がテンションによる左ケーブル6L又は右ケーブル6Rの引張量に達するまでは、両ケーブル6L、6Rの反力が作用するため、左右のケーブル6L、6R全体のばね定数kは、両ケーブル6L、6Rのばね定数k1、k2の和(=k1+k2)になる。これに対して、第2ピストン32の移動量がテンションによる左ケーブル6L又は右ケーブル6Rの引張量に達した後には、一方のケーブルのテンションが消失し、他方のケーブルの反力だけが作用するようになるため、左右のケーブル6L、6R全体のばね定数kは、左ケーブル6Lのばね定数k1又は右ケーブル6Rのばね定数k2になる。
このように、左右のケーブル6L、6Rにテンションを予め付与することによって、建物Bの変位に対する両ケーブル6L、6Rから成る弾性要素の剛性の特性として、バイリニアな特性を得ることができる。したがって、例えば、振動による建物Bの変位が大きくなるのに伴って振動抑制装置の反力が過大にならないうちに、この弾性要素の剛性がより小さな値(k1又はk2)に切り替わるようにすることが可能になる。それにより、付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数と異ならせることで、振動抑制装置の反力の過大化を防止することができる。
また、図5及び図6は、振動抑制装置の第1変形例を示している。この第1変形例は、第1及び第2連通路10、11の途中に、回転慣性による慣性効果を付与するための歯車ポンプ41及び第1回転マス47をそれぞれ設けたものである。なお、図5及び図6では、第1連通路10の構成のみが示されており、第2連通路11のものについては省略されている。
図5及び図6に示すように、歯車ポンプ41は、ケーシング42と、ケーシング42に収容された第1ギヤ43及び第2ギヤ44を有している。ケーシング42は、第1連通路10よりも大きな流路面積を有しており、互いに対向する2つの出入口42a、42aを介して、第1連通路10に連通している。
また、第1ギヤ43は、スパーギヤで構成され、第1回転軸45に一体に設けられている。第1回転軸45は、ケーシング42に回転自在に支持され、第1連通路10に直交する方向に水平に延びており、ケーシング42の外部に若干、突出している。第2ギヤ44は、第1ギヤ43と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸46に一体に設けられており、第1ギヤ43と噛み合っている。第2回転軸46は、ケーシング42に回転自在に支持されており、第1回転軸45と平行に延びている。また、第1及び第2ギヤ43、44の互いの噛合い部分は、ケーシング42の出入口42a、42aに臨んでいる。
第1回転マス47は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、第1回転マス47は、上記の第1回転軸45に同心状に取り付けられており、第1ギヤ43及び第1回転軸45と一体に回転する。
以上の構成により、この第1変形例では、建物Bが振動するのに伴って前述したように作動油HFが第1及び第2連通路10、11を流動する際に、ケーシング42に流入した作動油HFによって第1及び第2ギヤ43、44が回転駆動され、第1ギヤ43と一体の第1回転マス47が回転する。このように、作動油HFの流動を歯車ポンプ41で回転運動に変換し、第1回転マス47を回転させることによって、第1実施形態による作動油HFの慣性効果及び粘性減衰効果に、第1回転マス47の回転慣性による慣性効果が付加されるので、建物Bの振動抑制効果をさらに高めることができる。
また、第1変形例による振動抑制装置では、第1回転マス47から成る慣性接続要素が作動油HFから成る慣性接続要素に並列に付加されている。したがって、この第1変形例の場合、付加振動系の固有振動数を定める諸元には、第1実施形態の場合の前述した諸元に加えて、歯車ポンプ41の容積効率や第1回転マス47の質量や径などが含まれる。したがって、これらの諸元を適切に設定することによって、この付加振動系の固有振動数を建物Bの1次の固有振動数に同調させることができる。
図7は、振動抑制装置1の第2変形例を示している。この第2変形例は、上述した第1変形例の第1回転マス47に対して、第2回転マス51をさらに付加したものである。なお、図7では、図5及び図6に示した第1変形例と同じ構成要素については、同じ符号を付している。
図7に示すように、前述した第1回転軸45は、第1回転マス47を越えてケーシング42と反対側に延びており、その先端部に、粘弾性ゴム52を介して、第2回転マス51が同心状に設けられている。第2回転マス51は、第1回転マス47と同様、例えば鉄から成る円板で構成されており、その径は第1回転マス47よりも小さい。また、粘弾性ゴム52は、粘性及び弾性の双方を有している。
以上の構成により、この第2変形例では、建物Bが振動するのに伴い、第1回転軸45及び第1回転マス47が回転すると、第1回転軸45の回転が粘弾性ゴム52を介して第2回転マス51に伝達される。これにより、第2回転マス51が回転することによって、第2回転マス51の回転慣性による慣性効果がさらに付加されるので、建物Bの制振効果をさらに高めることができる。
以上の構成の第2変形例の振動抑制装置では、第2回転マス51から成る慣性接続要素と粘弾性ゴム52から成る弾性要素及び粘性要素が直列に接続されるとともに、これらの要素が、第1変形例の振動抑制装置の作動油HF及び第1回転マス47などから成る要素に、並列に接続された関係になる。
以上の関係から、この第2変形例の振動抑制装置では、付加振動系として、第1変形例による作動油HF及び第1回転マス47などから成る第1付加振動系と、第2回転マス51などから成る第2付加振動系が、互いに別個に存在することになる。この場合、第2付加振動系の諸元も建物Bの1次の固有振動数に同調するように設定されているので、第1及び第2付加振動系の組合わせ固有振動数を、建物Bの1次の固有振動数に多重同調させることができ、ひいては、建物Bの1次モードによる振動をさらに適切に抑制することができる。この場合、第1付加振動系の諸元は、第1変形例の場合について前述したとおりであり、第2付加振動系の諸元には、第2回転マス51の質量や径、粘弾性ゴム52のばね定数及び粘度などが含まれる。
なお、第2変形例では、粘性及び弾性を有する粘弾性ゴム52を用いているが、弾性のみを有するゴムやばねなどを用いてもよい。また、第1及び第2変形例では、歯車ポンプ41及び第1回転マス47を第1及び第2連通路10、11の両方に設けているが、これらのいずれか一方のみに設けてもよい。
さらに、第1及び第2変形例では、作動油HFの流動を第1回転マス47の回転に変換する機構として、歯車ポンプ41を有する歯車ポンプ機構を用いているが、これに代えて、作動油HFの流動によって回転するスクリュー羽根を有するスクリュー機構を用いてもよい。この場合には、スクリュー羽根の角度などを変えることによって、作動油HFの慣性効果を調整することが可能である。
さらに、第1及び第2変形例では、第2ダンパ3及び第1回転マス47(第2回転マス51)を、いわゆるパッシブ式のダンパとして構成しているが、いわゆるアクティブ式のダンパとして構成し、第1回転マス47(第2回転マス51)を電動機で強制的に回転駆動することによって、建物Bの風揺れを防止するようにしてもよい。
次に、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と比較して、第2ダンパ61の構成が主に異なっている。図8は、左側の振動抑制装置の第2ダンパ61などを拡大して示しており、図8において、第1実施形態で説明した構成要素と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第2ダンパ61は、第2シリンダ62、第2ピストン63、ナット64、ねじ軸65、及び左右一対の回転マス66、66を有している。第2シリンダ62の構成は、第1実施形態の第2シリンダ31の構成と基本的に同じであり、第2シリンダ62は、左右の壁62a、62b及び周壁62cで構成されている。
左壁62a及び右壁62bの各々には、その径方向の中央に、左右方向に貫通するねじ軸案内孔(図示せず)が形成されており、ねじ軸案内孔の上側及び下側に、左右方向に貫通するケーブル案内孔(図示せず)が形成されている。ねじ軸案内孔及びケーブル案内孔にはそれぞれ、シール(図示せず)が設けられている。左壁62a、右壁62b及び周壁62cによって画成された油室は、第2ピストン63によって、左側の第3油室62dと、右側の第4油室62eに区画されており、両油室62d、62eには、作動油HFが充填されている。第3油室62dは、第1連通路10を介して前述した第1シリンダ21の第1油室21dに連通しており、第4油室62eは、第2連通路11を介して前述した第1シリンダ21の第2油室21eに連通している。なお、図8では、便宜上、第1及び第2連通路10、11を途中で省略して示している。
また、第2シリンダ62の周壁62cの内面には、一対のレール62f、62fが一体に設けられている。便宜上、図8では、レール62f、62fの断面を示すハッチングを省略している。図8に示すように、両者62f、62fは、第2シリンダ62の径方向に若干、突出するとともに、径方向において互いに対向するように配置されている。各レール62fは、第2シリンダ62の第1連通路10との接続部と第2連通路11との接続部の間の全体にわたって、左右方向に延びている。
第2ピストン63は、円筒状に形成されており、第2シリンダ62内に摺動自在に設けられている。なお、図8では、便宜上、第2ピストン63のハッチングを省略している。第2ピストン63の径方向の外端部には、左右方向に延びる一対の凹部(図示せず)が形成されており、これらの一対の凹部は、上記のレール62f、62fに、シール(図示せず)を介して、係合している。これらの凹部及びレール62f、62fによって、第2シリンダ62に対する第2ピストン63の回転が阻止される。また、第2ピストン63には、第1実施形態の第3及び第4リリーフ弁33、34とそれぞれ同様に構成された第3及び第4リリーフ弁67、68が設けられている。
前記ナット64は、円筒状に形成されており、第2ピストン63の径方向の中央部に取り付けられている。ねじ軸65は、複数のボール(図示せず)を介してナット64に螺合するとともに、ナット64から左右に延びている。すなわち、ナット64、ボール及びねじ軸65は、ボールねじを構成している。また、ねじ軸65は、第2シリンダ62の左右の壁62a、62bの前記ねじ軸案内孔に、シールを介して挿入されるとともに、左右の連結部69L、69Rに、ラジアル軸受け70、70をそれぞれ介して回転自在に支持されている。
左右の連結部69L、69Rは、第1実施形態の左右の連結部9L、9Rと同様にH形鋼で構成されており、左右の柱PL、PRには取り付けられておらず、基礎Fにのみ取り付けられている。また、左連結部9Lは左柱PLと第2シリンダ62の間に、右連結部9Rは右柱PRと第2シリンダ62の間に、それぞれ配置されている。さらに、左右の連結部69L、69Rには、左右方向に貫通するねじ軸支持孔が形成されており、各ねじ軸支持孔に、上記のラジアル軸受け70が設けられている。
また、ねじ軸65は、左連結部69Lよりも左側に延びるとともに、右連結部69Rよりも右側に延びている。さらに、ねじ軸65の左端部及び右端部には、摩擦材71が取り付けられており、摩擦材71は、摩擦係数が比較的安定している材料、例えばテフロン(登録商標)などで構成されている。左側の摩擦材71と左連結部69Lの間及び右側の摩擦材71と右連結部69Rの間にはそれぞれ、スラスト軸受け72が設けられている。
前記回転マス66、66の各々は、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成されており、ドーナツ板状に形成されている。回転マス66の中央の孔には、上記の摩擦材71が同心状に嵌合している。摩擦材71の摩擦係数は、回転マス66の回転トルクが所定値以上になったときに、回転マス66が摩擦材71に対して滑るように設定されている。これにより、回転マス66は、その回転トルクが所定値に達するまでは、ねじ軸65と一緒に回転する。
また、ねじ軸65には、回転マス66、66の左右方向(軸線方向)への移動を規制するフランジが設けられている。以上のように、ねじ軸65に左右方向に移動不能に設けられた左右の回転マス66、66の間に、左右の連結部69L、69Rが挟み込まれていることによって、ねじ軸65は、左右の連結部69L、69Rから抜けないようになっている。
また、第2実施形態による振動抑制装置は、左右一対のケーブル73L、73R、第1滑車74L、74R及び第2滑車75L、75Rを、それぞれ上下に2組づつ備えており、これらの左右のケーブル73L、73R、第1滑車74L、74R及び第2滑車75L、75Rはそれぞれ、第1実施形態の左右のケーブル6L、6R、第1滑車7L、7R及び第2滑車8L、8Rと同様に構成されている。
具体的には、左ケーブル73Lは、第2シリンダ62に部分的に収容されており、その一端部が第2ピストン63の左端部に取り付けられていて、第2ピストン63から左方に延びるとともに、第2シリンダ62の左壁62aの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、左ケーブル73Lの他端部は、左連結部69Lに取り付けられている。
左側の第1滑車74Lは第2シリンダ62の左壁62aに、左側の第2滑車75Lは左連結部69Lに、それぞれ取り付けられている。左ケーブル73Lは、その中間の部分において、第1及び第2滑車74L、75Lに折り返された状態で巻き回されており、所定のテンションが付与されている。
右ケーブル73Rは、第2シリンダ62に部分的に収容されており、その一端部が第2ピストン63の右端部に取り付けられていて、第2ピストン63から右方に延びるとともに、第2シリンダ62の右壁62bの前記ケーブル案内孔に、シールを介して挿通されている。また、右ケーブル73Rの他端部は、右連結部69Rに取り付けられている。
右側の第1滑車74Rは第2シリンダ62の右壁62bに、右側の第2滑車75Rは右連結部69Rに、それぞれ取り付けられている。右ケーブル73Rは、その中間の部分において、第1及び第2滑車74R、75Rに折り返された状態で巻き回されており、左ケーブル73Lのテンションと同じ大きさのテンションが付与されている。
なお、右側の振動抑制装置の第2ダンパは、上述した左側の振動抑制装置の第2ダンパ61と同様に構成されており、これと左右対称に配置されていることが異なるだけなので、その詳細な説明については省略する。
以上のように、第2実施形態によれば、ナット64が、第2ピストン63に一体に取り付けられており、回転自在のねじ軸65が、ボールを介して、ナット64に螺合している。また、ねじ軸65には、回転マス66、66が設けられている。以上の構成により、建物Bの振動時、第2ピストン63がナット64と一緒に第2シリンダ62に対して移動するのに伴い、ねじ軸65が回転マス66、66と一緒に回転するので、回転マス66、66の回転慣性による慣性効果が付加されることによって、建物Bの振動抑制効果をさらに高めることができる。
また、摩擦材71がねじ軸65と回転マス66の間に設けられており、回転マス66の回転トルクが所定値に達したときに、回転マス66がねじ軸65に対して滑り、ねじ軸65と一緒に回転しなくなる。これにより、回転マス66による慣性効果を制限することによって、左右のケーブル73L、73Rに弾性限界を超える過大な引張荷重が作用するなどの振動抑制装置の過負荷状態を防止することができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第2実施形態では、回転マス66、66を用いているが、第1実施形態の第2変形例と同様に、ねじ軸65に、粘弾性ゴムを介して、あるいは、弾性を有するゴムやばねを介して、第2回転マスを設けてもよい。この場合、各種の要素の諸元を第2変形例で説明したように設定することによって、作動油HF及び回転マス66などから成る第1付加振動系と、第2回転マスなどから成る第2付加振動系との組合わせ固有振動数を、建物Bの1次の固有振動数に多重同調させることができ、ひいては、建物Bの1次モードによる振動をさらに適切に抑制することができる。
なお、本発明は、説明した第1及び第2実施形態ならびに変形例(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、第1シリンダ21を基礎Fに、第1ピストン22を第1支持部材4に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第1ピストンを基礎に、第1シリンダを第1支持部材に、それぞれ連結してもよい。
また、実施形態では、第1ピストン22を建物Bの上端部に、第1支持部材4を介して連結しているが、第1支持部材4を介さずに直接、連結するとともに、第1シリンダを、第1支持部材を介して基礎に連結してもよい。これとは逆に、第1シリンダを建物の上端部に直接、連結するとともに、第1ピストンを、第1支持部材を介して基礎に連結してもよい。
さらに、実施形態では、第1シリンダ21を、基礎Fに直接、連結しているが、柱材で構成された支持部材を介して連結してもよい。これとは逆に、第1ピストンを、支持部材を介して基礎に連結するとともに、第1シリンダを、第1支持部材を介して建物の上端部に連結してもよい。これらの場合、第1ダンパの位置は任意である。
また、実施形態では、第2シリンダ31、62を、第2支持部材5を介して左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部に連結しているが、第2支持部材5を省略するとともに、第2シリンダを梁に直接、連結してもよい。
さらに、実施形態では、第2シリンダ31、62を左右の柱PL、PRと梁BUとの接合部に、第2ピストン32、63を基礎Fに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第2ピストンを左右の柱と梁との接合部に、第2シリンダを基礎に、それぞれ連結してもよい。この場合、第2シリンダを、逆V字状に設けられた第2支持部材を介して、左右の柱と基礎との接合部に連結するとともに、梁の付近に配置してもよく、あるいは、第2支持部材を省略するとともに、第2シリンダを基礎に直接、連結してもよい。これらのいずれの場合にも、第2滑車は、左右の柱と梁との接合部に取り付けられる。
また、実施形態では、第2ダンパ3、61を、基礎Fとそのすぐ上側の梁BUとの間に設置し、2層間の層間変位を抑制しているが、3層以上の間の層間変位を抑制してもよいことはもちろんである。この場合にも、上述した第2シリンダ及び第2ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。また、振動抑制装置による振動抑制効果を高めるために、第2ダンパ3、61が連結された建物Bの連結部分の剛性を、他の部分の剛性よりも低くなるように設定してもよい。さらに、実施形態では、左右のケーブル6L、6R、73L、73Rは、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。
また、実施形態では、第1ダンパ2を建物Bに、柱材4aで構成された第1支持部材4を介して連結しているが、ケーブルCAを介して連結してもよい。この場合、図9及び図10に示すように、ケーブルCAを上下方向にまっすぐ延びるように設けてもよく、図11及び図12に示すように、ケーブルCAを上下方向に斜めに延びるように設けてもよい。これらのいずれの場合においても、ケーブルCAを、複数の滑車PUを用いて案内するのが好ましい。
また、図10及び図12に示すように、ケーブルCAの中間の部分を、上下2つの滑車PU、PUに折り返した状態で巻き回してもよい。この場合には、建物Bの振動時、これらの上下の2つの滑車PU、PUの一方が他方に対して動滑車として機能し、それにより、建物Bの振動による変位が増大された状態で第1ダンパ2の第1ピストンに伝達されるので、第1ピストンの移動量及び作動油HFの流動量を増大でき、ひいては、建物Bの振動抑制効果を高めることができる。
なお、図9〜図12では、ケーブルCA及び第1ダンパ2は、建物Bの外周に配置されているが、建物Bの内部に配置してもよい。この場合、ケーブル及び第1ダンパを配置するスペースとして、例えば、建物のエレベータの配置スペースや、水道管などの配置スペースを利用してもよい。また、上記のようにケーブルを用いて第1ダンパを建物に連結する場合にも、前述した第1シリンダ及び第1ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。また、ケーブルCAは、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば鋼線でもよく、帯状の鋼板でもよい。
なお、滑車PUへのケーブルCAの巻き数、及び、実施形態の第1及び第2滑車7L、7R、8L、8R、74L、74R、75L、75Rへの左右のケーブル6L、6R、73L、73Rの巻き数は任意に設定可能であり、当該設定により、第1及び第2ダンパ2、3、61に伝達される建物Bの変位の増幅倍率を自由に設定することができる。
さらに、実施形態では、第2ピストン32、63を基礎Fに、左右のケーブル6L、6R、73L、73Rを介して連結しているが、これに代えて、第2ピストンに一体に設けられたピストンロッドを介して連結してもよい。この場合にも、前述した第2シリンダ及び第2ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。
また、実施形態では、第1ダンパ2、2を建物Bの上端部の左端部及び右端部にそれぞれ連結するとともに、第2ダンパ3を左右方向に延びる梁BUに連結することによって、建物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、建物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。この場合には、第1ダンパは、建物の上端部の前端部(後端部)に連結されるとともに、第2ダンパは、前後方向に延びる梁に連結され、第2ダンパの第2シリンダは、左右方向に延びるように設けられる。この場合にも、前述した第1及び第2シリンダならびに第1及び第2ピストンの連結の仕方に関するバリエーションが同様に当てはまることは、もちろんである。
さらに、実施形態では、第1及び第2シリンダ21、31、62ならびに第1及び第2ピストン22、32、63の断面形状は、円形状であるが、他の適当な形状、例えば矩形状や、多角形状でもよい。このように第2実施形態の第2シリンダ62及び第2ピストン63の断面形状を矩形状や多角形状に設定した場合には、前述した凹部及びレール62f、62fを省略することができる。また、実施形態では、本発明における作動流体は、作動油HFであるが、粘性を有する他の適当な流体でもよい。
さらに、実施形態では、左右一対の振動抑制装置1L、1Rを設けているが、両者のいずれか一方を省略してもよく、また、本発明の第1ピストン連結対象としてのブレース階FBは、最上階でなくてもよい。また、実施形態は、本発明による振動抑制装置を高層の建物Bに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔などにも適用可能である。また、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。