しかし、上述したようにケーブルの一部を鋼材に置き換えた場合、例えば、上下方向に延びる鋼材の下端部を地盤に固定するとともに、鋼材の上端部に、第2滑車及びケーブルの一端部を取り付けた場合には、次のような不具合がある。すなわち、鋼材はケーブルよりも剛性が高いので、構造物が振動により変位したときに、ダンパには、鋼材に対する建築物の変位が、ケーブルを介して伝達されることになる。この場合、鋼材が地盤から上方に延びているので、鋼材に対する建築物の上下方向の変位は、地盤に対する建築物の上下方向の変位よりも、鋼材の伸び量だけ小さくなる。
このため、ダンパによる振動エネルギの吸収量を十分に得るには、第1及び第2滑車の数を増やし、それにより、動滑車による変位の増大効果を高めることによって、ダンパに伝達される変位を増大させることが考えられる。しかし、その場合には、ケーブルが長くなり、その剛性が低下することによって、建築物の振動エネルギがケーブルを介してダンパに適切に伝達されなくなり、ひいては、ダンパによる制振効果を適切に得ることができなくなってしまう。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ケーブルの長さを適切に設定でき、それにより、第2マスダンパを含めた装置全体による制振効果を適切に得ることができる構造物の制振装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、支持体に支持された構造物の振動を抑制するための構造物の制振装置であって、上下方向に延びる柱材を有し、構造物の上端部と支持体とのいずれか一方に一端部が連結された支持部材と、回転可能な第1回転マスを有し、構造物の上端部と支持体との他方と、支持部材の他端部とに連結されるとともに、構造物が振動したときに、支持部材を介して伝達される構造物の変位を第1回転マスの回転運動に変換する第1マスダンパと、構造物の上端部と支持体との他方に連結された第1滑車と、支持部材の他端部に取り付けられた第2滑車と、支持部材の他端部に一端部が連結されるとともに、第1及び第2滑車に巻き回されたケーブルと、回転可能な第2回転マスを有し、構造物の上端部と支持体との他方と、ケーブルの他端部とに連結されるとともに、構造物が振動したときに、支持部材及びケーブルを介して伝達される構造物の変位を第2回転マスの回転運動に変換する第2マスダンパと、を備えることを特徴とする。
この構成によれば、柱材などで構成された支持部材の一端部が、構造物の上端部と構造物を支持する支持体とのいずれか一方(以下「一方の部位」という)に連結されており、第1マスダンパが、構造物の上端部と支持体との他方(以下「他方の部位」という)と、支持部材の他端部に連結されている。また、他方の部位には、第1滑車が連結されるとともに、支持部材の他端部には、第2滑車が取り付けられている。さらに、ケーブルの一端部が支持部材の他端部に、他端部が第2マスダンパに、それぞれ連結されており、第2マスダンパはさらに、他方の部位に連結されている。
以上のように、一方の部位と他方の部位には、一方の部位の側から順に、支持部材及び第1マスダンパが直列に連結されており、ケーブル及び第2マスダンパが、第1マスダンパと並列に、かつ、支持部材及び他方の部位に直列に、連結されている。したがって、一方の部位が支持体で、かつ、他方の部位が構造物の上端部である場合には、本発明による制振装置及び構造物のモデル図は、例えば図15のように示される。
地震などにより構造物が振動すると、構造物が高層の場合には特に、構造物のせん断変形よりも曲げ変形が卓越するため、構造物の振動は、その上端側が横斜め上方向と下方向に繰り返し往復動するような態様(以下「構造物の揺動」という)で行われる(後述する図13参照)。図15から明らかなように、構造物が振動すると、支持体に対する構造物の振動による変位は、支持部材を介して第1マスダンパに伝達され、それにより、第1マスダンパの第1回転マスが回転し、支持部材及び第1マスダンパから成る第1付加振動系が振動する。したがって、第1付加振動系の固有振動数を構造物の固有振動数に同調(共振)させることによって、構造物の振動エネルギが第1付加振動系で吸収され、ひいては、構造物の振動が抑制される。
また、上記の第1付加振動系が、その固有振動数が構造物の固有振動数に同調した状態で振動しているときには、図16に示すように、支持部材の他端部と構造物の上端部との間の変位(二点鎖線で図示)の最大値は、支持体と構造物の上端部との間の変位(実線で図示)の最大値よりも共振効果(同調効果)により大きくなるため、第1マスダンパが設けられていない前述した従来の場合よりも大きくなり、また、両者の間の位相は約π/2である。さらに、本発明によれば、この支持部材の他端部と構造物の上端部との間の変位が、第1及び第2滑車に巻き回されたケーブルを介して、第2マスダンパに伝達され、第2回転マスが回転し、ケーブル及び第2マスダンパから成る第2付加振動系が振動する。この場合、第1滑車が構造物の上端部に連結されるとともに、第2滑車が支持部材の他端部に取り付けられていることから、両滑車の一方は他方に対して動滑車として機能する。
前述した第1付加振動系の共振による変位の増大効果と、第1及び第2滑車から成る動滑車による変位の増大効果とによって、構造物の振動に伴って支持部材及びケーブルを介して第2マスダンパに伝達される変位を、より増大させることができ、それにより、ケーブル及び第2マスダンパから成る第2付加振動系で吸収される構造物の振動エネルギを増大させることができる。このように、従来の場合と異なり、動滑車による変位の増大効果のみならず、第1付加振動系の共振による変位の増大効果が得られることから、第1及び第2滑車の数を増大させる必要がないため、ケーブルの長さ、すなわちケーブルの剛性を適切に設定でき、それにより、第2マスダンパを含めた装置全体による制振効果を適切に得ることができる。
また、前述した第2付加振動系(ケーブル、第2マスダンパ)は、第1付加振動系(支持部材、第1マスダンパ)の全体に対して並列に設けられておらず、第1付加振動系の第1回転マスの動作に対して、第2付加振動系の動作が並列に作用するので、第1及び第2付加振動系の組合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、2つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
したがって、第1及び第2回転マスの質量や、支持部材及びケーブルのばね定数(以下「第1及び第2付加振動系の諸元」という)を設定することによって、上記の2つの組合わせ固有振動数をそれぞれ、構造物の互いに異なる2つの所望の固有振動数に適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物の互いに異なる2つの所望の振動モードによる振動を適切に抑制することができる。あるいは、第1及び第2付加振動系の諸元の設定によって、2つの組合わせ固有振動数を構造物の同じ1つの所望の固有振動数に適切に多重同調させることができ、ひいては、構造物の所望の1つの振動モードによる振動をより適切に抑制することができる。
なお、以上の作用・効果は、一方の部位が支持体で、かつ、他方の部位が構造物の上端部である場合(図15)に限らず、これとは逆に、一方の部位が構造物の上端部で、かつ、他方の部位が支持体である場合にも、同様に得ることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の制振装置において、構造物に設けられ、支持部材の座屈を防止するための座屈防止機構をさらに備えることを特徴とする。
前述したように、振動時に、構造物が曲げ変形を伴いながら揺動することと、構造物の変位が上下方向に延びる支持部材を介して第1マスダンパに伝達されることから、支持部材には圧縮荷重と引張荷重が交互に作用するので、この圧縮荷重によって支持部材が座屈するおそれがある。上述した構成によれば、構造物に設けられた座屈防止機構によって、支持部材の座屈が防止されるので、構造物の変位を支持部材を介して第1及び第2マスダンパに良好に伝達でき、構造物の制振効果をより適切に得ることができる。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の構造物の制振装置において、座屈防止機構は、構造物及び支持部材の一方に取り付けられるとともに、上下方向に延びるレールと、構造物及び支持部材の他方に取り付けられ、レールに係合するとともに、レールに対してレールの長さ方向にのみ移動自在のスライダとを有することを特徴とする。
請求項1に係る発明で述べた構成から明らかなように、構造物が振動により揺動するのに伴い、支持部材は、上下方向に交互に移動(振動)する。上述した構成によれば、構造物及び支持部材の一方に取り付けられたレールが上下方向に延びており、構造物及び支持部材の他方に取り付けられたスライダが、レールに係合するとともに、レールの長さ方向にのみ移動自在である。これにより、支持部材の座屈を防止しながら、上述した支持部材の上下方向の移動を円滑に行うことができる。その結果、構造物の変位を支持部材を介して第1及び第2マスダンパに良好に伝達でき、構造物の制振効果をさらに適切に得ることができる。
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の構造物の制振装置において、柱材は、一対のH形鋼で構成されており、一対のH形鋼は、鉛直方向に延びる構造物の鉛直面に沿って水平方向に互いに並ぶとともに、一対のH形鋼の一方のフランジの主面が構造物の鉛直面と平行になるように配置されており、支持部材は、一対のH形鋼に接続されるとともに、水平方向に延びる梁材をさらに有することを特徴とする。
周知のように、H形鋼は、強軸回りの曲げモーメントに対しては変形しにくく、弱軸回りの曲げモーメントに対しては変形しやすい。上述した構成によれば、柱材が一対のH形鋼で構成されており、一対のH形鋼は、鉛直方向に延びる構造物の鉛直面に沿って水平方向に互いに並ぶとともに、それらの一方のフランジの主面が構造物の鉛直面と平行になるように配置されている。さらに、一対のH形鋼は、水平方向に延びる梁材により互いに接続されている。このように、一対のH形鋼から成る柱材と、梁材によってラーメン構造が構成されている。
以上の構成により、構造物が振動(曲げ変形)することによって、構造物から支持部材に押圧力が作用しても、柱材のH形鋼の強軸回りに関しては、座屈防止機構により支持部材の座屈を確実に防止することができ、柱材のH形鋼の弱軸回りに関しては、上述した水平方向に延びる梁と一対の柱材で構成されたラーメン構造及び座屈防止機構によって、支持部材の座屈を確実に防止することができる。
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の構造物の制振装置において、構造物に設けられ、支持部材の第1マスダンパとの連結部に近い部分を係止することによって、支持部材のねじれを防止するためのねじれ防止機構をさらに備えることを特徴とする。
請求項1に係る発明の説明から明らかなように、第1回転マスの回転に伴い、第1マスダンパの反力トルクが発生し、支持部材に伝達されることによって、支持部材が大きくねじられるおそれがある。ここで、第1マスダンパが例えばボールねじ式のものである場合、ボールねじの摩擦がない理想的な状態において、第1マスダンパの反力トルクTnは、第1マスダンパの軸方向反力Pnとボールねじのリード長Ld(ピッチ)に比例し、Tn=(Pn×Ld)/(2π)で表される。上述した構成によれば、この反力トルクによる支持部材のねじれは、構造物に設けられたねじれ防止機構により、支持部材を係止し、拘束することによって、防止される。
したがって、支持部材を介して第1マスダンパに伝達される構造物の変位を、第1マスダンパの反力トルクの影響を受けることなく、第1回転マスの回転運動に良好に変換でき、それにより、構造物の振動の抑制を適切に行うことができる。この場合、支持部材の第1マスダンパとの連結部に近い部分が係止されるので、支持部材のねじれ防止を効果的に行うことができる。
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の構造物の制振装置において、支持部材の一端部は、支持体に連結されており、第1マスダンパ、第1滑車及び第2マスダンパは、構造物の上端部に連結されており、支持部材の他端部には、上下方向に貫通する案内孔が形成されており、ケーブルの一端部は、案内孔に上方から挿入され、案内孔の下方に位置しており、ケーブルには、プレテンションが付与されており、ケーブルの一端部には、上側から順に、構造物が振動していないときに支持部材の他端部に下方から当接するストッパー部と、ケーブルにテンションを付与するための錘とが取り付けられていることを特徴とする。
この構成によれば、支持部材の一端部すなわち下端部が、支持体に連結されており、支持部材は、支持体から上方に延びている。また、第1マスダンパ、第1滑車及び第2マスダンパが、構造物の上端部に連結されており、第1マスダンパはさらに、支持部材の他端部すなわち上端部に連結されている。さらに、ケーブルの一端部が支持部材の上端部に、ケーブルの他端部が第2マスダンパに、それぞれ連結されている。
第2マスダンパの反力は、ケーブルに対して、構造物が振動により支持部材と反対側に揺動したときには、ケーブルのテンションを増大させる方向に作用し(すなわち引張力として作用し)、構造物が支持部材側に揺動したときには、ケーブルのテンションを低減させる方向に作用する。このため、ケーブルの一端部を支持部材に直接、取り付けた場合には、構造物が支持部材側に揺動したときに、ケーブルが弛み、第1及び第2滑車から外れるおそれがある。
本発明によれば、支持部材の他端部すなわち上端部に、上下方向に貫通する案内孔が形成されており、ケーブルには、プレテンションが付与され、ケーブルの一端部は、案内孔に上方から挿入されるとともに、案内孔よりも下方に位置している。また、ケーブルの一端部には、上側から順に、構造物が振動していないときに支持部材の上端部に下方から当接するストッパー部と、ケーブルにテンションを付与するための錘とが取り付けられている。このように、ケーブルは、その一端部に取り付けられたストッパー部が支持部材の上端部に当接することによって、支持部材に連結されている。また、構造物が振動により支持部材と反対側に揺動したときには、上述したように第2マスダンパの反力がケーブルに対して引張力として作用することにより、ケーブルのストッパー部が支持部材の上端部に当接した状態が維持され、ケーブルと支持部材との連結状態が保持されるとともに、ケーブルのテンションが増大する。
一方、構造物が振動により支持部材側に揺動したときには、上述したように第2マスダンパの反力がケーブルのテンションを低減させる方向に作用し、それによりケーブルの一端部が支持部材の上端部に対して下方に移動し、ケーブルのストッパー部が支持部材の上端部から離れ、ケーブルと支持部材の間の連結が解かれるようになる。この場合、ケーブルの一端部にテンションを付与するための錘が取り付けられているので、この錘の重力によって、ケーブルを弛ませずにテンション状態に保持でき、したがって、ケーブルが第1及び第2滑車から外れるのを防止することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1に示す構造物Bは、高層のビルであり、地盤に設けられた基礎Fに立設されている。制振装置は、支持部材2及び第1マスダンパ3で構成された複数の第1付加振動系VA1と、第2マスダンパ4及びケーブル5で構成された複数の第2付加振動系VA2を備えている。この制振装置は、この第1及び第2付加振動系VA1、VA2の固有振動数を、地震時などに振動する構造物Bの固有振動数に同調させることによって、構造物Bの振動エネルギを第1及び第2付加振動系VA1、VA2で吸収し、抑制するものである。以下、図1の左側を「左」、右側を「右」、手前側を「前」、奥側を「後」、上側を「上」、下側を「下」として説明する。
図1に示すように、第1付加振動系VA1は、構造物Bの側面に沿うように計2基、設けられている。具体的には、図1の左側及び右側にそれぞれ1基づつ、構造物Bを中心として、互いに対称に配置されている。
図2〜図4に示すように、各支持部材2は、H形鋼で構成された一対の柱材6、6及び計7つの梁材7(図4には2つのみ図示)を有し、これらの柱材6、6及び梁材7によってラーメン構造を構成しており、構造物Bの外側に配置されている。各柱材6は、その下端部が基礎Fに固定され、上下方向に延びており、そのH形鋼の一方のフランジ6aの主面(以下「フランジ対向面FS」という)が構造物Bの側面と平行になるように、配置されている。なお、梁材7の数は7つに限らず、任意である。
また、一対の柱材6、6は、構造物Bの側面に沿って前後方向に並んでおり、両者6、6の上端部には、前後方向に延びる板状の取付部6bが、溶接などで取り付けられている。この取付部6bの前後方向の中央には、上下方向に貫通する案内孔6cが形成されている。さらに、梁材7は、一対の柱材6、6にボルトなどにより接続され、構造物Bの側面に沿って前後方向に水平に延びている。また、梁材7のウェブ7aの主面が、構造物Bの側面に対向している。
第1マスダンパ3は、本発明の発明者が提案した特願2012−158921号に開示されたものと同様に構成されているので、以下、この第1マスダンパ3について簡単に説明する。図5に示すように、第1マスダンパ3は、内筒11、ボールねじ12、第1回転マス13、及び制限機構14を有している。内筒11は、円筒状の鋼材で構成されている。内筒11の一端部は開口しており、他端部は、第1フランジ15に取り付けられている。
また、ボールねじ12は、ねじ軸12aと、ねじ軸12aに多数のボール12bを介して螺合するナット12cを有している。ねじ軸12aの一端部は、上述した内筒11の開口に収容されており、ねじ軸12aの他端部は、第2フランジ16に取り付けられている。また、ナット12cは、軸受け17を介して、内筒11に回転自在に支持されている。
第1回転マス13は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、第1回転マス13は、内筒11及びボールねじ12を覆っており、軸受け18を介して、内筒11に回転自在に支持されている。第1回転マス13と内筒11の間には、一対のリング状のシール材19、19が設けられている。これらのシール材19、19、第1回転マス13及び内筒11によって形成された空間には、シリコンオイルで構成された粘性体20が充填されている。
以上のように構成された第1マスダンパ3では、内筒11とねじ軸12aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ12で回転運動に変換された状態で、制限機構14を介して第1回転マス13に伝達されることによって、第1回転マス13が回転する。以下、このように内筒11とねじ軸12aの間の相対変位を第1回転マス13の回転運動に変換する第1マスダンパ3の動作を、「第1マスダンパ3の回転変換動作」という。
上記の制限機構14は、この第1マスダンパ3の回転変換動作を制限するものであり、リング状の回転滑り材14aと、複数のねじ14b及びばね14c(2つのみ図示)で構成されている。回転滑り材14aは、第1回転マス13とボールねじ12のナット12cとの間に配置されている。この回転滑り材14aが配置された第1回転マス13の部分には、複数のばね収容孔13aが形成されている。これらのばね収容孔13aは、周方向に等間隔に配置され、径方向に貫通している。各ばね収容孔13aには、ねじ14bがねじ込まれるとともに、ねじ14bと回転滑り材14aの間にばね14cが収容されている。
以上の構成により、ねじ14bを強く締め付けると、回転滑り材14aがばね14cの付勢力でナット12cに強く押し付けられることによって、第1回転マス13は、回転滑り材14aを介してナット12cに一体に連結された状態になる。
また、この状態からねじ14bを緩めると、その締付度合が低くなり、第1マスダンパ3の軸線方向に作用する荷重(以下「軸荷重」という)が、ねじ14bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達するまでは、第1回転マス13がナット12cと一体に回転する。一方、第1マスダンパ3の軸荷重が制限荷重に達すると、回転滑り材14aとナット12cまたは第1回転マス13との間に滑りが発生することによって、第1マスダンパ3の回転変換動作が制限される。この状態では、回転滑り材14aとナット12cまたは第1回転マス13との間に発生する摩擦抵抗によって、第1マスダンパ3の回転変換動作の制限により低下した第1回転マス13の回転慣性力が補われる。
以上の構成の第1マスダンパ3の第1フランジ15は、構造物Bの屋上Rから左右の両外側に張り出した上壁WUに、ボルトなどで連結されており、第2フランジ16が、前述した支持部材2の上端部の取付部6bに、ボルトなどで連結されている。これにより、第1マスダンパ3及び支持部材2は、構造物Bの屋上Rと基礎Fに、直列に連結されている。
次に、前記第2付加振動系VA2について説明する。第2付加振動系VA2は、構造物Bの上端部に一基、設けられている。第2付加振動系VA2の第2マスダンパ4は、本発明の発明者などが提案した特許第3830132号に開示されたものと同様に構成されているので、以下、この第2マスダンパ4について簡単に説明する。図6に示すように、第2マスダンパ4は、第1マスダンパ3と基本的には同様に構成されており、外筒21、ボールねじ22、第2回転マス23、粘性体24、及び一対のガイド25、25を有している。
ボールねじ22のねじ軸22aは、外筒21の一対の側壁の径方向の中央に設けられた孔に挿入され、外筒21に部分的に収容されており、外筒21の軸線方向の両端部から外方に突出している。また、ねじ軸22aは、外筒21に対して軸線方向に移動自在であり、ねじ軸22aには、多数のボール22bを介して、ナット22cが螺合している。ナット22c及び第2回転マス23は、互いに一体に固定されており、外筒21に、複数の軸受け26を介して回転自在に支持されるとともに、収容されている。また、外筒21と第2回転マス23の間には空間が形成されており、この空間に、粘性体24が充填されている。
以上の構成の第2マスダンパ4では、外筒21とねじ軸22aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がボールねじ22で回転運動に変換された状態で、第2回転マス23に伝達されることによって、第2回転マス23が回転する。
さらに、ねじ軸22aには、軸線方向に延びるスプライン溝22dが形成されている。上記の一対のガイド25、25は、円筒状のものであり、外筒21の両側壁に同心状にそれぞれ固定されている。各ガイド25の径方向の中央の孔には、ねじ軸22aが挿入されており、ねじ軸22aは、ガイド25から外方に突出している。さらに、ガイド25の内周面には、複数の半球状の溝25aが形成されるとともに、溝25aと同じ数のボール25bが設けられている。これらのボール25bは、その半部が溝25aに係合するとともに、残りの半部が上述したねじ軸22aのスプライン溝22dに係合しており、これらの溝25a,22d内で回転自在である。なお、図6では、ボール22b、溝25a及びボール25bの一部の符号を省略している。
以上の構成のガイド25及びねじ軸22aでは、ねじ軸22aが外筒21に対して軸線方向に往復移動すると、ボール25bは、ガイド25に対して周方向に移動することなく、スプライン溝22d上を転動し、それにより、ねじ軸22aの往復移動が支障なく行われる。また、第2マスダンパ4では、その構成上、外筒21とねじ軸22aの間の相対変位の発生に伴って、第2回転マス23からねじ軸22aに反力トルクが作用する。これに対し、ボール25bが、外筒21に固定されたガイド25の半球状の溝25aと、ねじ軸22aの軸線方向に伸びるスプライン溝22dとに係合しているため、そのような反力トルクがねじ軸22aに作用しても、外筒21に対するねじ軸22aの回転が阻止される。
また、図1及び図6に示すように、第2マスダンパ4は、その外筒21が構造物Bの屋上Rの左右方向の中央に一体に設けられた取付部Tに固定されることによって、構造物Bの屋上Rに連結されており、外筒21及びねじ軸22aが左右方向に延びている。
第2付加振動系VA2のケーブル5は、左ケーブル5a及び右ケーブル5bから成り、両ケーブル5a、5bは、構造物Bを中心として、左右対称に配置されている。また、左右のケーブル5a、5bはいずれも、鋼線で構成され、それらのばね定数が互いに同じ値に設定されており、両ケーブル5a、5bには、後述するように設定されたプレテンションが付与されている。
図7に示すように、右ケーブル5bは、その一端部が右側の支持部材2の取付部6bの前述した案内孔6cに上方から挿入されている。また、右ケーブル5bの一端部は、案内孔6cよりも下方に位置しており、この一端部には、上側から順に、構造物Bが振動していないときに取付部6bに下方から当接するストッパー部31と、右ケーブル5bにテンションを付与するための錘32とが取り付けられている。ストッパー部31は、ダブルナットなどで構成されており、案内孔6cよりも大きな径を有している。また、錘32には、その振れを防止するための振止め防止機構(図示せず)が設けられている。
また、図1、図7及び図8に示すように、右ケーブル5bは、その途中で第1滑車8及び第2滑車9に巻き回されており、右ケーブル5bの他端部は、第2マスダンパ4の前述したねじ軸22aの右端部に連結されている(図6参照)。
第1滑車8は、2つの滑車で構成され、構造物Bの前述した上壁WUの右端部に取り付けられており、上壁WUから右方に突出している。また、第1滑車8を構成する2つの滑車は、互いに前後方向に並んでおり、前後方向に延びる軸線を中心として回転自在である。第2滑車9は、1つの滑車で構成され、支持部材2の取付部6bの上面に取り付けられており、前後方向に延びる軸線を中心として回転自在である。
右ケーブル5bは、支持部材2の案内孔6cから上方に延び、前側の第1滑車8に巻き回されて下方に延び、さらに、第2滑車9に巻き回されて上方に延び、後ろ側の第1滑車8に巻き回され、第2マスダンパ4に向かって左方に延びている。
以上の右ケーブル5b、ストッパー部31、錘32、第1及び第2滑車8、9についての説明は、左ケーブル5aについても、左右が逆なだけで同様に当てはまるので、その詳細な説明を省略する。また、左右のケーブル5a、5bが第2マスダンパ4を中心として左右対称に設けられているので、両ケーブル5a、5bのプレテンションによる引張力は、第2マスダンパ4のねじ軸22aに対して、互いに反対方向に作用する。これにより、ねじ軸22aは、外筒21に対して、図6に示す中立位置に保持される。
制振装置はさらに、ねじれ防止機構41及び座屈防止機構51を備えている。ねじれ防止機構41は、前述した第1マスダンパ3の回転変換動作に伴って第1マスダンパ3から作用する大きな反力トルクによる支持部材2のねじれを防止するためのものである。また、座屈防止機構51は、構造物Bの振動による揺動に伴って作用する圧縮荷重による支持部材2(柱材6、6)の座屈を防止するためのものである。
図1、図9及び図10に示すように、ねじれ防止機構41は、第1マスダンパ3の直下に配置されており、構造物Bに設けられた拘束用のスラブ42と、スラブ42に取り付けられた滑り板43などで構成されている。
スラブ42は、構造物Bに一体に設けられたコンクリート製のものであり、構造物Bの外周に沿って水平に延びている(図1及び図2参照)。スラブ42には、支持部材2の柱材6、6に対応する位置に、複数の矩形の拘束孔42aが形成されており、各拘束孔42aに柱材6が挿入されている。
滑り板43は、滑性を有する材料、例えばフッ素樹脂で構成されており、拘束孔42aの四方の壁面にそれぞれ貼り付けられている。また、柱材6のフランジ対向面FS及び他方のフランジ6aの主面には、拘束孔42aに対応する位置に、ステンレスなどで構成された当接板2aがそれぞれ貼り付けられており、これらの当接板2aは、若干の隙間をもって滑り板43に対向している。
座屈防止機構51は、1つの支持部材2に対して4個づつ(図1には3個のみ図示)、計8個設けられており、4つの座屈防止機構51は、ねじれ防止機構41よりも下側の4箇所に、互いに等間隔に配置されている。
図3及び図11に示すように、各座屈防止機構51は、一対のレール52、52及びスライダ53、53を有している。各レール52は、棒状に形成されており、柱材6のフランジ対向面FSにボルトなどで取り付けられており、上下方向に延びている。また、レール52には、上下方向に延びる前後一対の案内溝52aが形成されており(図11に一方のみ図示)、各案内溝52aには、複数のボール(図示せず)が転動自在に嵌合している。
各スライダ53は、その平面からみた断面がコ字状になっており、その凹部53aが支持部材2側に開口している。スライダ53は、凹部53aの側面がレール52の側面に当接するとともに、上記のボールを介してレール52の案内溝52aに係合しており、レール52の長さ方向にのみ移動自在である(前後方向及び左右方向には移動不能である)。また、スライダ53の構造物B側の側面が、取付部材53bを介して構造物Bの側面に取り付けられている。
以上の構成の制振装置では、図12に示すように、構造物Bが地震などにより揺動すると、構造物Bの変位が、支持部材2、2を介して第1マスダンパ3、3に伝達されるとともに、支持部材2、2及び左右のケーブル5a、5bを介して第2マスダンパ4に伝達される。それに伴い、第1マスダンパ3の回転変換動作によって、第1回転マス13が回転するとともに、支持部材2に圧縮荷重及び引張荷重が交互に繰り返し作用し、支持部材2及び第1マスダンパ3から成る第1付加振動系VA1が振動する。これにより、構造物Bの振動エネルギが第1付加振動系VA1で吸収されることによって、構造物Bの振動が抑制される。
この場合、第1回転マス13の質量や支持部材2のばね定数は、第1付加振動系VA1の固有振動数が構造物Bの一次固有振動数(振動モードが一次モードのときの固有振動数)に同調するように、設定されている。
また、上記の第1付加振動系VA1が、その固有振動数が構造物Bの一次固有振動数に同調した状態で振動しているときには、図16を用いて前述したように、支持部材2の上端部と構造物Bの屋上Rとの間の変位の最大値は、基礎Fと屋上Rとの間の変位の最大値よりも大きくなるため、第1マスダンパ3が設けられていない前述した従来の場合よりも大きくなり、また、両者の間の位相は約π/2である。
本実施形態によれば、この支持部材2の上端部と屋上Rとの間の変位が、第1及び第2滑車8、9に巻き回された左右のケーブル5a、5bを介して、第2マスダンパ4に伝達され、第2回転マス23が回転し、左右のケーブル5a、5b及び第2マスダンパ4から成る第2付加振動系VA2が振動する。この場合、第1滑車8が屋上Rに連結されるとともに、第2滑車9が支持部材2の上端部に取り付けられていることから、両滑車8、9の一方は他方に対して動滑車として機能する。これにより、左右のケーブル5a、5bを介して第2マスダンパ4に伝達される変位は、第1及び第2滑車8、9における各ケーブルの折り返しの数(値3、図8参照)だけ、倍増する。
前述した第1付加振動系VA1の共振による変位の増大効果と、第1及び第2滑車8、9から成る動滑車による変位の増大効果とによって、構造物Bの振動に伴って支持部材2及び左右のケーブル5a、5bを介して第2マスダンパ4に伝達される変位を、より増大させることができ、それにより、左右のケーブル5a、5b及び第2マスダンパ4から成る第2付加振動系VA2で吸収される構造物Bの振動エネルギを増大させることができる。このように、従来の場合と異なり、動滑車による変位の増大効果のみならず、第1付加振動系VA1の共振による変位の増大効果が得られることから、第1及び第2滑車8、9の数を増大させる必要がないため、左右のケーブル5a、5bの長さ、すなわち左右のケーブル5a、5bの剛性(ばね定数)を適切に設定でき、それにより、第2マスダンパ4を含めた制振装置全体による制振効果を適切に得ることができる。
また、本実施形態における第1及び第2付加振動系VA1、VA2は、その動作から明らかなように、モデル化すると、前述した図15と同様に示される。このモデル図から明らかなように、第2付加振動系VA2は、第1付加振動系VA1の全体に対して並列に設けられておらず、第1付加振動系VA1の第1回転マス13の動作に対して、第2付加振動系VA2の動作が並列に作用する。したがって、第1及び第2付加振動系VA1、VA2の組合わせにより構成された付加振動系の固有振動数として、2つの組合わせ固有振動数がそれぞれ別個に存在する。
本実施形態によれば、第1及び第2回転マス13、23の質量や、支持部材2及び左右のケーブル5a、5bのばね定数(以下「第1及び第2付加振動系VA1、VA2の諸元」という)は、上記の2つの組合わせ固有振動数がそれぞれ構造物Bの一次固有振動数及び二次固有振動数(振動モードが二次モードのときの固有振動数)に多重同調するように、設定されている。これにより、構造物Bの一次及び二次振動モードによる振動を適切に抑制することができる。なお、第1及び第2付加振動系VA1、VA2の諸元の設定によって、2つの組合わせ固有振動数を構造物の同じ1つの所望の固有振動数に多重同調させてもよい。
また、構造物Bの揺動に伴い、支持部材2に圧縮荷重が作用しても、支持部材2の柱材6に取り付けられた座屈防止機構51のレール52に、構造物Bに取り付けられたスライダ53が上下方向にのみ移動自在に係合しているので、この圧縮荷重による支持部材2の座屈を防止することができる。
さらに、一対の柱材6、6は、それぞれがH形鋼で構成され、構造物Bの側面(鉛直方向に延びる構造物Bの鉛直面)に沿って前後方向に互いに並ぶとともに、それらのフランジ対向面FSが構造物Bの側面と平行になるように、配置されている。さらに、一対の柱材6、6は、水平方向に延びる梁材7によって互いに接続されている。このように、一対の柱材6、6と、梁材7とによってラーメン構造が構成されている。
以上の構成により、構造物Bが振動(曲げ変形)することによって、構造物Bから支持部材2に押圧力が作用しても、柱材6のH形鋼の強軸回りに関しては、座屈防止機構51による座屈防止により、支持部材2の座屈を確実に防止することができる。また、柱材6のH形鋼の弱軸回りに関しては、水平方向に延びる梁7と一対の柱材6、6で構成されたラーメン構造により、座屈防止機構51による座屈防止と相まって、支持部材2の座屈を確実に防止することができる。
また、第1マスダンパ3の回転変換動作に伴い、第1マスダンパ3から支持部材2の柱材6、6に反力トルクが作用することにより、柱材6、6がねじれそうになると、各柱材6が、ねじれ防止機構41の拘束孔42aの縁部で係止されることによって、拘束される。これにより、第1マスダンパ3の大きな反力トルクが作用した場合でも、それによる支持部材2全体のねじれを確実に防止することができる。また、ねじれ防止機構41が第1マスダンパ3の直下に配置され、支持部材2の第1マスダンパ3との連結部に近い部分を係止するので、支持部材2のねじれ防止を効果的に行うことができる。
以上のように支持部材2の座屈及びねじれが防止される結果、構造物Bの変位を、支持部材2を介して第1及び第2マスダンパ3、4にロスなく伝達しながら、第1及び第2回転マス13、23の回転運動に良好に変換でき、したがって、構造物Bの振動を適切に抑制することができる。
また、前述した構成から明らかなように、構造物Bが振動により揺動するのに伴い、支持部材2は、上下方向に交互に移動(振動)するのに対し、座屈防止機構51のレール52が上下方向に延びるとともに、スライダ53がレール52の長さ方向に移動自在であるので、支持部材2の座屈を防止しながら、この支持部材2の上下方向の移動を円滑に行うことができる。さらに、支持部材2(柱材6)がねじれ防止機構41の当接板2aを介して滑り板43に当接するので、支持部材2が拘束孔42aに対して上下方向に相対的に移動するときの摩擦抵抗が低減され、それにより、支持部材2の移動を円滑に行うことができる。以上のように、レール52、スライダ53、当接板2a及び滑り板43によって、支持部材2の上下方向の移動を円滑に行えるので、構造物Bの変位の伝達ロスをさらに抑制することができる。
さらに、支持部材2の上端部に設けられた取付部6bに、上下方向に貫通する案内孔6cが形成されており、左右のケーブル5a、5bの各々の一端部は、案内孔6cに上方から挿入されるとともに、案内孔6cよりも下方に位置している。また、左右のケーブル5a、5bには、プレテンションが付与されており、両ケーブル5a、5bの各々の一端部には、上側から順に、構造物Bが振動していないときに取付部6bに下方から当接するストッパー部31と、両ケーブル5a、5bの各々にテンションを付与するための錘32とが取り付けられている。このように、左右のケーブル5a、5bは、その一端部に取り付けられたストッパー部31が取付部6bに当接することによって、支持部材2、2にそれぞれ連結されている。
また、図12に二点鎖線で示すように、構造物Bが振動により左方に揺動したときには、第2マスダンパ4の反力が右ケーブル5bに対して引張力として作用することにより、右ケーブル5bのストッパー部31が右側の支持部材2の上端部の取付部6bに当接した状態が維持され(図7参照)、右ケーブル5bと支持部材2との連結状態が保持されるとともに、右ケーブル5bのテンションが増大する。
一方、図12に実線で示すように、構造物Bが振動により右方に揺動したときには、第2マスダンパ4の反力が右ケーブル5bのテンションを低減させる方向に作用する。これにより、右ケーブル5bのプレテンションがなくなることで、その一端部が右側の支持部材2の取付部6bに対して下方に移動し、その結果、図13に示すように、右ケーブル5bのストッパー部31が右側の支持部材2の取付部6bから離れ、右ケーブル5bと支持部材2の間の連結が解かれるようになる。この場合、右ケーブル5bの一端部にテンションを付与するための錘32が取り付けられているので、この錘32の重力によって、右ケーブル5bを弛ませずにテンション状態に保持でき、したがって、右ケーブル5bが第1及び第2滑車8、9から外れるのを防止することができる。
以上の図7、図12及び図13を用いて説明した作用・効果は、左ケーブル5aについても同様に得ることができる。
また、左右のケーブル5a、5bのプレテンションは、次のように設定されている。すなわち、図14は、両ケーブル5a、5bの全体の変位(変形量、以下「ケーブル変位」という)と、両ケーブル5a、5bの反力の合力(以下「ケーブル反力F」という)との関係を示している。また、同図において、kは、両ケーブル5a、5bの各々のばね定数である。前述したように、プレテンションによる左右のケーブル5a、5bの反力は、ねじ軸22aに対して互いに反対方向に作用し、それによりねじ軸22aが中立位置に保持されている。
構造物Bが振動により右方に揺動すると、第2マスダンパ4の反力によって、左ケーブル5aの伸びが増大し、その反力が増大する一方、プレテンションによる右ケーブル5bの伸びが減少し、その反力も減少する。そして、プレテンションによる右ケーブル5bの伸びがなくなると、ケーブル反力Fは、左ケーブル5aの反力のみとなる。
これとは逆に、構造物Bが振動により左方に揺動すると、第2マスダンパ4の反力によって、右ケーブル5bの伸びが増大し、その反力が増大する一方、プレテンションによる左ケーブル5aの伸びが減少し、その反力も減少する。そして、プレテンションによる左ケーブル5aの伸びがなくなると、ケーブル反力Fは、右ケーブル5bの反力のみとなる。
以上の動作から、ケーブル変位とケーブル反力Fの関係は、例えば図14のように示される。両者の関係が同図のように示されることと、構造物Bの変位が大きいほど、ケーブル変位がより大きくなることから、左右のケーブル5a、5b全体のばね定数(接線剛性)は、構造物Bの変位に対して、バイリニアな特性を有する。
本実施形態では、左右のケーブル5a、5bの各々のばね定数kは、より具体的には、両ケーブル5a、5bがテンション状態にあることによって、左右のケーブル5a、5b全体のばね定数がk+k=2kであるときに、前述した2つの組合わせ固有振動数が構造物Bの一次及び二次の固有振動数にそれぞれ多重同調するように、設定されている。また、左右のケーブル5a、5bのプレテンションは、構造物Bの変位が所定値よりも大きくなったときに左右のケーブル5a、5bの一方のプレテンションがなくなるように、設定されている。
以上の左右のケーブル5a、5bのばね定数k及びプレテンションの設定により、構造物Bの変位が大きくなるのに伴って第1及び第2マスダンパ3、4の反力が構造物Bの振動に同調して過大にならないうちに、両ケーブル5a、5b全体のばね定数がより小さくなり、それにより2つの組合わせ固有振動数が構造物Bの一次及び二次固有振動数とそれぞれ異なるようになるので、第1及び第2マスダンパ3、4の反力を抑制することができる。したがって、構造物B、左右のケーブル5a、5b、支持部材2、第1及び第2マスダンパ3、4に過大な応力が発生するのを防止することができる。あるいは、左右のケーブル5a、5bの各々のばね定数kを、両ケーブル5a、5b全体のばね定数がk+k=2kであるときに、2つの組合わせ固有振動数が構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に多重同調するように、設定してもよい。
あるいは、左右のケーブル5a、5bのばね定数k及びプレテンションを次のように設定してもよい。すなわち、左右のケーブル5a、5bのプレテンションを、錘32の重さ程度の比較的小さな値に設定するとともに、両ケーブル5a、5bのばね定数kを、両ケーブル5a、5bの一方がテンション状態にあることによって、左右のケーブル5a、5b全体のばね定数がkであるときに、2つの組合わせ固有振動数が構造物Bの一次及び二次の固有振動数にそれぞれ多重同調するように、あるいは、構造物Bの同じ1つの所望の固有振動数に多重同調するように、設定してもよい。その場合には、左右のケーブル5a、5bとして、より強度の低い、安価なものを採用することができる。
また、第1及び第2滑車8、9の少なくとも一方の滑車の回転を減衰させるための減衰機構を設けてもよい。この減衰機構は、例えば、この少なくとも一方の滑車に同軸状に一体に設けられたギヤと、このギヤを収容するとともに回転自在に支持するケースと、ケース内に充填された粘性体などで構成される。ケースは、少なくとも一方の滑車が第1滑車8のときには上壁WUに、第2滑車9のときには支持部材2の取付部6bに、それぞれ取り付けられる。
以上の構成の減衰機構では、構造物Bの振動による変位に伴って左右のケーブル5a、5bが引っ張られ、第1及び第2滑車8、9が回転すると、ギヤが少なくとも一方の滑車とともにケースに対して回転し、ケース内の粘性体がギヤでかき回される。その結果、粘性体の減衰力が、ギヤ、少なくとも一方の滑車及び左右のケーブル5a、5bを介して、構造物Bに作用することにより、制振装置の制振効果をより有効に得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、支持部材2の下端部を基礎Fに連結しているが、構造物Bの下端部や地下階を介して、基礎Fに連結してもよい。また、実施形態では、支持部材2の下端部を基礎Fに連結するとともに、第1滑車8、第1及び第2マスダンパ3、4を、構造物Bの屋上Rに連結しているが、支持部材2と、第1滑車8、第1及び第2マスダンパ3、4との位置関係を、上下逆にしてもよい。その場合には、支持部材の上端部が構造物の屋上に連結され、第1滑車、第1及び第2マスダンパが基礎に連結される。また、支持部材の下端部に、第1マスダンパ及びケーブルの一端部が連結されるとともに、第2滑車が取り付けられる。また、この場合、第1滑車、第1及び第2マスダンパを、構造物の下端部や地下階を介して、基礎に連結してもよい。
さらに、実施形態では、支持部材2や第1マスダンパ3を、構造物Bの左方及び右方に配置しているが、前方及び後方に配置してもよく、その場合には、ケーブルは、前後一対のケーブルで構成される。また、実施形態では、第1付加振動系VA1を2基、第2付加振動系VA2を1基、設けているが、第1及び第2付加振動系の数は任意である。さらに、実施形態では、第1滑車8を2つの滑車で、第2滑車9を1つの滑車で、それぞれ構成しているが、第1及び第2滑車の数は任意である。
また、実施形態では、1つの第2マスダンパ4を、左右のケーブル5a、5bを介して左右の支持部材2、2に連結しているが、第2マスダンパを2つ設け、一方の第2マスダンパを左ケーブルを介して左側の支持部材に連結するとともに、他方の第2マスダンパを右ケーブルを介して右側の支持部材に連結してもよい。その場合には、第2マスダンパのねじ軸を中立位置に保持するためのスプリングが、第2マスダンパに設けられる。
さらに、実施形態では、座屈防止機構51のレール52を支持部材2に、スライダ53を構造物Bに、それぞれ取り付けているが、これとは逆に、レール52を構造物Bに、スライダ53を支持部材2に、それぞれ取り付けてもよい。また、実施形態では、座屈防止機構51として、レール52及びスライダ53で構成されたものを採用しているが、支持部材2の座屈を防止可能な他の適当な機構、例えば、ねじれ防止機構41と同様にスラブ42や拘束孔42aなどで構成された機構を採用してもよい。あるいは、本発明者によって提案された特願2012−158921号に開示された機構を採用してもよい。
さらに、実施形態では、柱材6を、H形鋼で構成しているが、他の任意の鋼材で構成してもよい。また、実施形態では、支持部材2を、一対の柱材6、6及び梁材7を用いてラーメン構造で構成しているが、柱材のみで構成してもよい。さらに、実施形態では、ねじれ防止機構41として、スラブ42や拘束孔42aなどで構成された機構を採用しているが、支持部材2のねじれを防止可能な他の適当な機構、例えば、本発明者によって提案された特願2012−158921号に開示された機構を採用してもよい。
また、実施形態では、左右のケーブル5a、5bの一端部をそれぞれ、支持部材2の案内孔6cに挿入するとともに、この一端部に取り付けられたストッパー部31を支持部材2の取付部6bに当接させることによって、支持部材2に連結しているが、取付部6bに直接、取り付けることによって、支持部材2に連結してもよい。
さらに、実施形態では、左右の支持部材2、2のばね定数を互いに同じ値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。その場合には、左側の支持部材及び第1マスダンパから成る第1付加振動系の固有振動数と、右側の支持部材及び第2マスダンパから成る第1付加振動系の固有振動数とを、互いに異ならせることができるので、それぞれの固有振動数を、構造物の互いに異なる2つの固有振動数に多重同調させることができる。
また、実施形態では、左右のケーブル5a、5bのばね定数kを互いに同じ値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。その場合には、前述した図14に示すケーブル変位とケーブル反力Fの関係から明らかなように、構造物が右方に揺動した場合においてケーブル反力が左ケーブルの反力のみになったときの第2付加振動系の固有振動数と、構造物が左方に揺動した場合においてケーブル反力が右ケーブルの反力のみになったときの第2付加振動系の固有振動数とを、互いに異ならせることができるので、それぞれの固有振動数を、構造物の互いに異なる2つの固有振動数に多重同調させることができる。
さらに、実施形態は、制振装置を、高層のビルである構造物Bに適用した例であるが、他の構造物、例えば鉄塔などに適用してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。