以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1〜図4は、本発明の第1実施形態による振動抑制装置を示している。以下の説明では便宜上、図1の上側、下側、左側、及び右側をそれぞれ、「上」、「下」、「左」及び「右」とする。振動抑制装置は、構造物Bの振動を抑制するためのものであり、左右一対の振動抑制装置1L、1Rで構成されている。構造物Bは、例えば商用又は居住用の高層の建築物であって、複数の柱や梁を互いに井桁状に組み合わせたラーメン構造を有しており、基礎梁BFを含む支持体に立設されている。
左右の振動抑制装置1L、1Rは、互いに同様に構成されており、構造物Bを中心として、左右対称に配置されている点のみが異なっているので、両者1L、1Rを代表して、左側の振動抑制装置1Lについて説明する。
図1〜図4に示すように、振動抑制装置1Lは、円筒状の第1シリンダ11と、第1シリンダ11内に軸線方向に摺動自在に設けられた第1ピストン12と、第1シリンダ11に部分的に収容されたピストンロッド13を備えている。第1シリンダ11は、円筒状の周壁11aと、周壁11aの両端部にそれぞれ同心状に一体に設けられた円板状の第1端壁11b及び第2端壁11cを有しており、構造物Bの外周に配置される。第1シリンダ11内は、第1ピストン12によって、第1端壁11b側の第1流体室11dと、第2端壁11c側の第2流体室11eに区画されており、第1及び第2流体室11d、11eには、作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、粘性を有する適当な流体、例えばシリコンオイルや作動油などで構成されている。
また、第1端壁11b及び第2端壁11cの各々の径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔が形成されており、各ロッド案内孔には、シールが設けられている。さらに、第2端壁11cには、外方(下方)に突出する凸部11fが一体に設けられており、凸部11fの内部には、収容部11gが画成されている。また、凸部11fには、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられている。第1取付具FL1が基礎梁BFに取り付けられることによって、第1シリンダ11は、第1取付具FL1を介して基礎梁BFに連結され、上下方向に延びる。
前記第1ピストン12は、円柱状に形成されており、その径方向の中央にピストンロッド13が一体に設けられている。ピストンロッド13は、第1ピストン12から軸線方向の両側に延びるとともに、第1シリンダ11の第1及び第2端壁11b、11cの各々のロッド案内孔に、シールを介して液密に挿入されている。また、ピストンロッド13は、その一端部が収容部11gに収容されており、一端部以外の大部分が第1シリンダ11に収容されている。さらに、ピストンロッド13の他端部は、第1シリンダ11から突出しており、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられている。第2取付具FL2は、連結部材2の下端部に取り付けられる。
この連結部材2は、上下方向に互いに接合された複数の柱材2aで構成されており、各柱材2aは、比較的剛性が高い鋼材、例えばH形鋼で構成されている。また、連結部材2は、構造物Bの外側に配置され、構造物Bに沿って上下方向に延び、その上端部が、構造物Bの上端部、例えば最上部のブレース階FBの左端部に連結される。以上により、第1ピストン12は、ピストンロッド13、第2取付具FL2及び連結部材2を介して、構造物Bの上端部に連結される。
また、構造物Bには、第1シリンダ11よりも上側の部分に、4つの座屈防止機構BPが設けられる。各座屈防止機構BPは、構造物Bの振動に伴って作用する圧縮荷重による連結部材2の座屈を防止するためのものである。座屈防止機構BPの構成は、本出願の発明者により提案された特許第5149453号に開示されたものと同じであるので、その詳細な説明については省略する。
さらに、第1ピストン12の周面は、シールが設けられており、シールを介して周壁11aの内周面に液密に接触している。第1ピストン12の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されている(2つのみ図示)。これらの孔には、第1リリーフ弁14及び第2リリーフ弁15がそれぞれ設けられている。
第1リリーフ弁14は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、第1流体室11d内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2流体室11d、11eが互いに連通されることによって、第1流体室11d内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁15は、第1リリーフ弁14と同様に構成されており、第2流体室11e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2流体室11d、11eが互いに連通されることによって、第2流体室11e内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
また、振動抑制装置1Lは、第1シリンダ11に接続された導入連通路16と、導入連通路16に設けられた歯車ポンプ17をさらに備えている。導入連通路16は、第1シリンダ11内における第1ピストン12の移動範囲の全体において第1ピストン12をバイパスし、第1及び第2流体室11d、11eに連通するように、第1シリンダ11に接続されている。また、導入連通路16の横断面積は、第1及び第2流体室11d、11eの横断面積よりも小さな値に設定されており、導入連通路16には、作動流体HFが充填されている。なお、図2及び図3では便宜上、導入連通路16内の作動流体HFの符号の図示を省略している。
歯車ポンプ17は、例えば外接歯車型のものであり、ケーシング17aと、ケーシング17aに収容された第1ギヤ17b及び第2ギヤ17cと、動力源としての電気モータ18を有している。なお、歯車ポンプ17として内接歯車型のものを用いてもよい。
ケーシング17aは、導入連通路16の中央部に一体に設けられており、互いに対向する2つの出入口を介して、導入連通路16内に連通している。また、第1及び第2ギヤ17b、17cはそれぞれ、スパーギヤで構成され、第1及び第2回転軸17d、17eに一体に設けられるとともに、互いに噛み合っている。第1及び第2回転軸17d、17eはそれぞれ、導入連通路16に直交する方向に水平に延び、ケーシング17aに回転自在に支持されており、第1回転軸17dはケーシング17aの外部に突出している。また、第1及び第2ギヤ17b、17cの互いの噛合い部分は、ケーシング17aの出入口に臨んでいる。
電気モータ18は、例えばDCモータであり、発電可能かつ正逆転可能に構成されている。電気モータ18のロータ(図示せず)は、ケーシング17aから突出した第1回転軸17dの部分に同軸状に一体に連結されており、第1ギヤ17b及び第1回転軸17dと一体に回転可能である。また、電気モータ18は、図5に示すように、制御装置35を介してバッテリ36に接続されており、バッテリ36との間で電力を授受可能である。制御装置35は、CPUや、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されており、バッテリ36から電気モータ18への供給電力、電気モータ18の発電電力、及び、電気モータ18の回転方向を制御する。
歯車ポンプ17では、電力の供給により電気モータ18のロータが第1ギヤ17bと一体に回転すると、そのケーシング17aの一方の出入口から作動流体HFが吸入されるとともに、吸入された作動流体HFが他方の出入口から吐出されることによって、導入連通路16内に作動流体HFの流動が生じる。この場合、電気モータ18の回転方向を変更することによって、導入連通路16内の作動流体HFの流動方向が変化する。
また、電気モータ18への電力供給が停止されている状態で、作動流体HFが導入連通路16内を流動すると、ケーシング17aに流入した作動流体HFによって、第1及び第2ギヤ17b、17cならびに電気モータ18のロータが回転駆動される。すなわち、導入連通路16内の作動流体HFの流動が、回転動力に変換された状態で電気モータ18に伝達される。電気モータ18は、伝達された回転動力を用いて発電可能である。
さらに、振動抑制装置1Lは、第2シリンダ21と、第2シリンダ21内に軸線方向に摺動自在に設けられた第2ピストン22を備えている。第2シリンダ21は、第1シリンダ11と同様に構成されており、円筒状の周壁21aと、周壁21aの両端部にそれぞれ一体に設けられた円板状の第1端壁21b及び第2端壁21cを有している。また、第2シリンダ21は、前記基礎梁BF、構造物Bの梁BE、及び左右の柱PL、PRによって取り囲まれた空間に配置される。この梁BEは、構造物Bの下部に設けられ、左右方向に水平に延びており、その左端部及び右端部が左右の柱PL、PRにそれぞれ接合されている。
さらに、第2シリンダ21内は、第2ピストン22によって第1端壁21b側の第3流体室21d及び第2端壁21c側の第4流体室21eに区画されており、第3及び第4流体室21d、21eには、作動流体HFが充填されている。また、第1端壁21b及び第2端壁21cの各々の径方向の中央には、軸線方向に貫通するケーブル案内孔(図示せず)が形成されており、ケーブル案内孔には、シール(図示せず)が設けられている。さらに、周壁21aは、連結部材3の取付部3aに取り付けられる。
この連結部材3は、例えばH形鋼から成るV字状のブレース材であって、上記の取付部3aと、取付部3aから上方に斜めに延びる左右の斜め材3b、3bを一体に有しており、梁BEと基礎梁BFの間に設けられる。左右の斜め材3b、3bは、それらの上端部が左右の柱PL、PRと梁BEとの接合部にそれぞれ取り付けられ、基礎梁BFの付近まで延びる。また、左右の斜め材3b、3bの下端部には、上記の取付部3aが一体に設けられており、取付部3aは、左柱PLと右柱PRとの中間に位置する。以上により、第2シリンダ21は、連結部材3を介して梁BEに連結され、基礎梁BFに沿って左右方向(梁BEの長さ方向)に水平に延びる。
また、第2ピストン22は、第1ピストン12と同様、円柱状に形成され、その周面に、シールが設けられており、第2ピストン22の周面は、シールを介して周壁21aの内周面に液密に接触している。作動流体HFに対する第2ピストン22の受圧面積は、第1ピストン12のそれと同じ大きさに設定されている。また、第2ピストン22の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁24及び第2リリーフ弁25がそれぞれ設けられている。
これらの第1及び第2リリーフ弁24、25はそれぞれ、前述した第1ピストン12の第1及び第2リリーフ弁14、15と同様に構成されている。第1リリーフ弁24は、第2ピストン22の摺動により第3流体室21d内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室21d、21eが互いに連通されることによって、第3流体室21d内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁25は、第2ピストン22の摺動により第4流体室21e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室21d、21eが互いに連通されることによって、第4流体室21e内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
なお、第1及び第2ピストン12、22の一方にのみ、第1及び第2リリーフ弁14、(24)、15、(25)を設けた場合でも、後述する第1及び第2連通路31、32との協働によって、作動流体HFの圧力の過大化が防止されることが分かる。
また、振動抑制装置1Lは、第2シリンダ21に部分的に収容された左右一対のケーブル26L、26Rと、第2シリンダ21に取り付けられた左右一対の第1滑車27L、27Rと、基礎梁BFに連結される左右一対の第2滑車28L、28Rをさらに備えている。左右のケーブル26L、26Rは、例えば鋼線で構成され、弾性を有している。左ケーブル26Lは、その一端部が第1端壁21b側の第2ピストン22の端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第2ピストン22から第1端壁21b側に延びるとともに、第1端壁21bの前記ケーブル案内孔に、シールを介して液密に挿通されている。また、左ケーブル26Lの他端部は、左連結部材4Lに取り付けられる。左連結部材4Lは、例えばH形鋼で構成されており、基礎梁BF及び左柱PLに取り付けられる。
左側の第1滑車27Lは第1端壁21bに取り付けられており、左側の第2滑車28Lは左連結部材4Lに取り付けられる。左ケーブル26Lは、その中間の部分において、第1及び第2滑車27L、28Lに折り返された状態で巻き回されるとともに、所定のテンションが付与される。
右ケーブル26Rは、その一端部が第2端壁21c側の第2ピストン22の端部でかつ径方向の中央に取り付けられており、第2ピストン22から第2端壁21c側に延びるとともに、第2端壁21cの前記ケーブル案内孔に、シールを介して液密に挿通されている。また、右ケーブル26Rの他端部は、右連結部材4Rに取り付けられる。右連結部材4Rは、左連結部材4Lと同様に例えばH形鋼で構成されており、基礎梁BF及び右柱PRに取り付けられる。以上により、第2ピストン22は、左右のケーブル26L、26R及び左右の連結部材4L、4Rを介して、基礎梁BFに連結される。
右側の第1滑車27Rは第2端壁21cに取り付けられており、右側の第2滑車28Rは右連結部材4Rに取り付けられる。右ケーブル26Rは、その中間の部分において、第1及び第2滑車27R、28Rに折り返された状態で巻き回されるとともに、左ケーブル26Lのテンションと同じ大きさのテンションが付与される。
また、振動抑制装置1Lは、第1連通路31及び第2連通路32をさらに備えている。第1連通路31は、可撓性を有する部材、例えばゴムチューブや鋼管などで構成されており、第1シリンダ11内における第1ピストン12の移動範囲の全体において、また、第2シリンダ21内における第2ピストン22の移動範囲の全体において、第1及び第3流体室11d、21dに連通するように、第1及び第2シリンダ11、21に接続されている。
第2連通路32は、可撓性を有する部材、例えばゴムチューブや鋼管などで構成されており、第1シリンダ11内における第1ピストン12の移動範囲の全体において、また、第2シリンダ21内における第2ピストン22の移動範囲の全体において、第2及び第4流体室11e、21eに連通するように、第1及び第2シリンダ11、21に接続されている。また、第1及び第2連通路31、32の横断面積は、第1〜第4流体室11d、11e、21d、21eの各々の横断面積よりも小さな値に設定されており、両連通路31、32には、作動流体HFが充填されている。なお、図3及び図4では便宜上、第1及び第2連通路31、32内の作動流体HFの符号の図示を省略している。
以上の構成の振動抑制装置1Lでは、構造物Bが静止しているときには、第1及び第2ピストン12、22は、図3及び図4に示す中立位置にある。
次に、図1及び図6を参照しながら、構造物Bが1次モードの振動モードで振動したときにおける振動抑制装置1Lの動作について説明する。なお、図6では便宜上、一部の構成要素の符号の図示を省略している。
図1に二点鎖線で示すように、1次モードによる構造物Bの振動は、その上端側が左右方向に繰り返し往復動するような態様で行われる。この場合、構造物Bの曲げ変形による変位の方向と、せん断変形による変位の方向は互いに同じ方向になり、構造物Bの振動に伴って発生した曲げ変形の度合いは、構造物Bの上側の部分であるほど、より大きくなり、構造物Bの振動に伴って発生したせん断変形の度合いは、構造物Bの下側の部分であるほど、より大きくなる。
また、図6に示すように、1次モードの振動に伴って構造物Bの上端部が基礎梁BFに対して右側に変位すると、この構造物Bの上端部と基礎梁BFの間の相対変位が、連結部材2を介して第1シリンダ11及び第1ピストン12に伝達され、それにより、第1ピストン12が第1シリンダ11内を第1流体室11d側に摺動し、第1流体室11dが収縮させられるとともに、第2流体室11eが膨張させられる。また、梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が、連結部材3やケーブル26L、26Rを介して第2シリンダ21及び第2ピストン22に伝達され、それにより、第2ピストン22が第2シリンダ内21を第3流体室21d側に摺動し、第3流体室21dが収縮させられるとともに、第4流体室21eが膨張させられる。図6では、構造物B及び基礎梁BFから第1及び第2ピストン12、22にそれぞれ作用する力を、格子状のハッチング付きの矢印で示している。
上述したように第2ピストン22が摺動することによって、第2シリンダ21の第3流体室21d内の作動流体HFは、第2ピストン22により第1連通路31側に押圧され、それにより第1連通路31内に、第1シリンダ11の第1流体室11d側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第1ピストン12が摺動することによって、第1流体室11d内の作動流体HFが第1ピストン12により押圧され、この第1ピストン12による押圧に起因する作動流体HFの流動は、上述した第2ピストン22による押圧に起因する作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路16内に、第2流体室11e側への作動流体HFの流動が生じる。なお、図6において、導入連通路16、第1及び第2連通路31、32の付近に示した矢印は、各連通路内における作動流体HFの流動方向を示している。
この場合、導入連通路16内の作動流体HFの流量は、第2ピストン22による押圧により第3流体室21dから第1連通路31に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン22の受圧面積・第2ピストン22の移動量)と、第1ピストン12による押圧により第1流体室11dから導入連通路16に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン12の受圧面積・第1ピストン12の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。
さらに、上述したように導入連通路16内を流動した作動流体HFは、第1シリンダ11の第2流体室11eに流入し、それに伴って第2流体室11e内の作動流体HFの一部が第2連通路32に押し出される結果、第2連通路32内に、第4流体室21e側への作動流体HFの流動が生じる。
さらに、図示しないものの、構造物Bが1次モードの振動モードで振動することによりその上端部が基礎梁BFに対して左側に変位したときには、この構造物Bの上端部と基礎梁BFの間の相対変位が第1シリンダ11及び第1ピストン12に伝達されることによって、第1ピストン12が第2流体室11e側に摺動し、第2流体室11eが収縮させられるとともに、第1流体室11dが膨張させられる。また、梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が第2シリンダ21及び第2ピストン22に伝達されることによって、第2ピストン22が第4流体室21e側に摺動し、第4流体室21eが収縮させられるとともに、第3流体室21dが膨張させられる。
上述したように第2ピストン22が摺動することによって、第4流体室21e内の作動流体HFは、第2ピストン22により第2連通路32側に押圧され、それにより第2連通路32内に、第1シリンダ11の第2流体室11e側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第1ピストン12が摺動することによって、第2流体室11e内の作動流体HFが第1ピストン12により押圧され、この第1ピストン12による押圧により発生した作動流体HFの流動は、上述した第2ピストン22による押圧により発生した作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路16内に、第1流体室11d側への作動流体HFの流動が生じる。
この場合、導入連通路16内の作動流体HFの流量は、第2ピストン22による押圧により第4流体室21eから第2連通路32に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン22の受圧面積・第2ピストン22の移動量)と、第1ピストン12による押圧により第2流体室11eから導入連通路16に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン12の受圧面積・第1ピストン12の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。また、上述したように導入連通路16内を流動した作動流体HFは、第1シリンダ11の第1流体室11dに流入し、それに伴って第1流体室11d内の作動流体HFの一部が第1連通路31に押し出される結果、第1連通路31内に、第3流体室21d側への作動流体HFの流動が生じる。
以上のように作動流体HFが流動するのに伴い、第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力差(以下「第1シリンダ内圧力差」という)と、第3及び第4流体室21d、21e内の作動流体HFの圧力差(以下「第2シリンダ内圧力差」という)が発生する結果、振動抑制装置1Lの反力が発生する。振動抑制装置1Lでは、構造物Bの振動中、電気モータ18を制御することによって、この反力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。これらの第1及び第2制御モードでは、電気モータ18にバッテリ36からの電力を供給し、歯車ポンプ17による作動流体HFの吸入/吐出を行うことにより、導入連通路16内の作動油HFに流動を生じさせることによって、振動抑制装置1Lの反力(制御力)が調整される。
より具体的には、第1制御モードでは、振動による外力が第1及び第2シリンダ11、21ならびに第1及び第2ピストン12、22に伝達されたときに、歯車ポンプ17による作動流体HFの吸入/吐出により生じる作動流体HFの流動方向(以下「ギヤ駆動流動方向」という)が、振動による外力により第1及び第2ピストン12、22が移動することで生じる作動流体HFの流動方向(以下「振動流動方向」という)と反対方向になるように、電気モータ18の回転方向が制御される。これにより、上記の第1及び第2シリンダ内圧力差の各々が大きくなることによって、振動抑制装置1Lの比較的大きな反力(制御力)が発生する。この場合、電気モータ18の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1Lの反力が調整され、電気モータ18の回転数が高いほど、振動流動方向と反対方向に流れる作動流体HFの流動量が大きくなることによって、反力はより大きくなる。
第2制御モードでは、振動による外力が第1及び第2シリンダ11、21ならびに第1及び第2ピストン12、22に伝達されたときに、ギヤ駆動流動方向が振動流動方向と同方向になるように、電気モータ18の回転方向が制御される。これにより、第1及び第2シリンダ内圧力差が第1制御モードの場合よりも小さくなることによって、振動抑制装置1Lのより小さな反力が発生する。この場合にも、電気モータ18の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1Lの反力が調整され、第1制御モードの場合と異なり、電気モータ18の回転数が高いほど、振動流動方向と同方向に流れる作動流体HFの流動量が大きくなることによって、反力はより小さくなる。
上記の第3制御モードでは、振動による外力により第1及び第2ピストン12、22が移動することで発生した作動流体HFの流動を用いて電気モータ18で発電を行うとともに、その発電電力を変化させることによって、振動抑制装置1Lの反力が調整される。第3制御モード中、電気モータ18の発電電力が大きいほど、作動流体HFが導入連通路16内を流れにくくなることにより、第1及び第2シリンダ内圧力差がより大きくなることによって、振動抑制装置1Lの反力はより大きくなる。電気モータ18で発電した電力は、バッテリ36に充電され、充電されたバッテリ36の電力は、例えば、その後の構造物Bの振動中、第1又は第2制御モードにおいて電気モータ18に供給されたり、構造物Bの照明機器や空調機器などの電気機器に供給されたりする。第1〜第3制御モードの各々で得られる振動抑制装置1Lの反力の大小関係は、第1制御モード>第3制御モード>第2制御モードの順になっている。
以上のように、第1実施形態によれば、振動に伴う構造物Bの上端部と基礎梁BFの間の相対変位が、作動流体HFが充填された第1シリンダ11と第1ピストン12に伝達されることによって、第1ピストン12が第1シリンダ11内を第1及び第2流体室11d、11eの一方側又は他方側に摺動する。さらに、構造物Bの振動に伴う梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が、作動流体HFが充填された第2シリンダ21と第2ピストン22に伝達されることによって、第2ピストン22が第2シリンダ21内を第3及び第4流体室21d、21eの一方側又は他方側に摺動する。また、第1連通路31が第1及び第3流体室11d、21dに連通し、第2連通路32が第2及び第4流体室11e、21eに連通するとともに、導入連通路16が、第1流体室11dを介して第1連通路31に、第2流体室11eを介して第2連通路32に、連通している。これらの連通路16、31、32には、作動流体HFが充填されており、導入連通路16には、歯車ポンプ17が設けられている。
上述したように摺動する第2ピストン22によって、第3又は第4流体室21d、21e内の作動流体HFが対応する第1又は第2連通路31、32側にそれぞれ押圧され、それにより第1又は第2連通路31、32内に、作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように摺動する第1ピストン12によって、第1又は第2流体室11d、11e内の作動流体HFが導入連通路16側に押圧される。この第1ピストン12による押圧により発生した作動流体HFの流動と、上述した第2ピストン22による押圧により発生した作動流体HFの流動は、互いに合流した状態で導入連通路16に導入されるとともに、第1シリンダ内圧力差(第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力差)が第1ピストン12に、第2シリンダ内圧力差(第3及び第4流体室21d、21e内の作動流体HFの圧力差)が第2ピストン22に、それぞれ作用する。
その結果、従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(減衰抵抗力)を、第1及び第2シリンダ11、21ならびに第1及び第2ピストン12、22全体で発生させ、構造物Bの上端部、基礎梁BF、及び梁BEに作用させることができる。また、導入連通路16内の作動流体HFの流動を用いて歯車ポンプ17の電気モータ18で発電することによって、作動流体HFが導入連通路16内を流れにくくなるので、当該発電電力に応じた反力をさらに発生させることができる。
さらに、構造物Bの振動中、歯車ポンプ17で導入連通路16内の作動流体HFを流動させることにより、第1及び第2シリンダ内圧力差が調整され、歯車ポンプ17により発生させた作動流体HFの圧力が、第1及び第2ピストン12、22に作用するので、前述した従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(制御力)を、第1及び第2シリンダ11、21ならびに第1及び第2ピストン12、22全体で発生させることができる。
以上のように、振動抑制装置1では、作動流体HFに対する第1及び第2ピストン12、22の受圧面積を大きくすることなく、振動抑制装置1の反力を十分に発生させることができ、ひいては、構造物Bの振動を適切に抑制することができる。
この場合、上下方向に延びる第1シリンダ11が基礎梁BFに連結され、第1ピストン12が構造物Bの上端部に連結されるので、構造物Bの1次モードの振動に伴って発生した曲げ変形による変位を、第1シリンダ11及び第1ピストン12に適切に伝達することができる。また、水平方向に延びる第2シリンダ21が構造物Bの下部に設けられた梁BEに連結され、第2ピストン22が基礎梁BFに連結されるので、構造物Bの1次モードの振動に伴って発生したせん断変形による変位を、第2シリンダ21及び第2ピストン22に適切に伝達することができる。以上により、構造物Bの1次モードの振動を適切に抑制することができる。
さらに、バッテリ36が歯車ポンプ17の電気モータ18との間で電力を授受可能に構成されるとともに、歯車ポンプ17がバッテリ36からの電力の供給に伴って導入連通路16内の作動流体HFを流動させるように構成されている。このため、構造物Bの振動中に前記第3制御モードで発電した電力を一旦、バッテリ36に充電した後、構造物Bの振動中にバッテリ36の電力を電気モータ18に供給し、導入連通路16内の作動流体HFを流動させることによって、第1及び第2シリンダ内圧力差を調整できるので、当該供給電力に応じた反力(制御力)をさらに作用させることができる。
また、第1ピストン12に設けられた第1及び第2リリーフ弁14、15によって、第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力の過大化を防止でき、第2ピストン22に設けられた第1及び第2リリーフ弁24、25によって、第3及び第4流体室21d、21e内の作動流体HFの圧力の過大化を防止できるので、第1シリンダ11及び第1ピストン12ならびに第2シリンダ21及び第2ピストン22に作用する軸力を適切に制限することができる。なお、第1及び第2ピストン12、22の一方にのみ、第1及び第2リリーフ弁14、(24)、15、(25)を設けた場合でも、第1及び第2連通路31、32との協働によって、作動流体HFの圧力の過大化を防止することができる。
また、振動抑制装置1は、単一の導入連通路16に単一の歯車ポンプ17を設けた構成を備えており、複数のピストンの各々をそれぞれがバイパスする複数の連通路と、これらの連通路の各々にそれぞれが設けられた複数の歯車ポンプとを備えていないので、その所望の反力を得るための歯車ポンプ17の制御を容易に行うことができるとともに、コストパフォーマンスを向上させることができる。
なお、第1実施形態では、第1シリンダ11を基礎梁BFに、第1ピストン12を連結部材2に、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第1ピストンを基礎梁に、第1シリンダを連結部材に、それぞれ連結してもよい。また、第1実施形態では、第1ピストン12を構造物Bの上端部に、連結部材2を介して連結しているが、連結部材2を介さずに直接、連結するとともに、第1シリンダ11を、連結部材を介して基礎梁BFに連結してもよい。これとは逆に、第1シリンダを構造物の上端部に直接、連結するとともに、第1ピストンを、連結部材を介して基礎梁に連結してもよい。
さらに、第1実施形態では、第1シリンダ11を、基礎梁BFに直接、連結しているが、柱材で構成された連結部材を介して連結してもよい。これとは逆に、第1ピストンを、連結部材を介して基礎梁に連結するとともに、第1シリンダを、連結部材を介して建物の上端部に連結してもよい。これらの場合、第1シリンダの位置は任意である。
また、第1実施形態では、第2シリンダ21を、連結部材3を介して梁BEに連結しているが、連結部材3を省略するとともに、第2シリンダを梁に直接、連結してもよい。さらに、第1実施形態では、第2シリンダ21を梁BEに、第2ピストン22を基礎梁BFに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第2ピストンを梁に、第2シリンダを基礎梁に、それぞれ連結してもよい。この場合、第2シリンダを、逆V字状に設けられた連結部材を介して、左右の柱と基礎梁との接合部に連結するとともに、梁の付近に配置してもよく、あるいは、連結部材を省略するとともに、第2シリンダを基礎梁に直接、連結してもよい。これらのいずれの場合にも、第2滑車は、左右の柱と梁との接合部に取り付けられる。
また、第1実施形態では、第2シリンダ21を、基礎梁BFとそのすぐ上側の梁BEとの間に設置し、2層間の層間変位を抑制しているが、3層以上の間の層間変位を抑制してもよいことはもちろんである。また、振動抑制装置による振動抑制効果を高めるために、第2シリンダ21及び第2ピストン22が連結された建物Bの連結部分の剛性を、他の部分の剛性よりも低くなるように設定してもよい。さらに、第1実施形態では、左右のケーブル26L、26Rは、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。
また、第1実施形態では、第1ピストン12を構造物Bに、柱材2aで構成された連結部材2を介して連結しているが、テンションを付与することにより剛性を発揮する部材(例えばケーブル)を介して連結してもよい。この場合、ケーブルを上下方向にまっすぐ延びるように設けてもよく、ケーブルを上下方向に斜めに延びるように設けてもよい。あるいは、構造物Bに第1ピストン12を、本出願人による特開2017−89337号公報に開示された柱材とブレース材の組み合わせで構成された連結部材や、壁などで構成された連結部材を介して連結してもよい。
さらに、第1実施形態では、基礎梁BFに第2ピストン22を、左右のケーブル26L、26Rを介して連結しているが、これに代えて、第2ピストンに一体に設けられたピストンロッドを介して連結してもよい。また、第1実施形態では、第1ピストン12、12を建物Bの上端部の左端部及び右端部にそれぞれ連結するとともに、第2シリンダ22を左右方向に延びる梁BEに連結することによって、構造物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、構造物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。この場合には、第1ピストンは、構造物の上端部の前端部(後端部)に連結されるとともに、第2シリンダは、前後方向に延びる梁に連結される。
さらに、第1実施形態では、左右一対の振動抑制装置1L、1Rを設けているが、両者の一方を省略してもよい。また、第1実施形態では、第1ピストン12を、最上部のブレース階FBに連結しているが、ブレース階FBよりも下側の部位に連結してもよい。さらに、第1実施形態では、第2ピストン22を、基礎梁BFに連結しているが、構造物が立設された支持体に相当する部位であれば、他の適当な部位、例えば、基礎や、地下構造体、構造物の低層部に連結してもよい。
また、第1実施形態では、導入連通路16を第1シリンダ11に、第1ピストン12の移動範囲の全体において、第1及び第2流体室11d、11eに連通するように接続しているが、第1ピストンの移動範囲の一部において、第1及び第2流体室に連通するように接続してもよい。このことは、第1及び第2連通路31、32についても、同様に当てはまる。
さらに、第1実施形態に関し、本出願人による特開2015−206381号公報に開示された連通路を、導入連通路16と並列に設けることによって、振動抑制装置を、第1ピストンの摺動位置に応じてその減衰係数が変化するように構成してもよい。また、本出願人による特願2016−202281号や、特願2017−096599号、特願2017−100059号、特願2017−118577号に開示された連通路やバルブを導入連通路16と並列に設けることによって、振動抑制装置を、その減衰係数を変更可能に構成してもよい。これらのことは、後述する第2及び第3実施形態についても同様に当てはまる。
また、第1実施形態では、振動抑制装置1L、1Rの各々は、第1及び第2シリンダ11、21を備えているが、シリンダの数は3つ以上でもよく、このことは、第1及び第2ピストン12、22についても同様に当てはまる。一例として、第2シリンダ及び第2ピストンを2つずつ設けた場合には、2つの第2シリンダを、連結部材の取付部を中心として互いに対称に配置し、各第2シリンダを取付部に取り付けるとともに、各第2ピストンを基礎梁に連結してもよい。
また、導入連通路を複数、分岐させるとともに、分岐した複数の導入連通路の各々に複数のポンプの各々を設けてもよい。これらのことは、後述する第2及び第3実施形態についても、同様に当てはまる。
さらに、第1実施形態では、導入連通路16を第1シリンダ11に接続しているが、導入連通路16の一端部及び他端部を、第1及び第2連通路31、32にそれぞれ連通するように接続してもよい(図7参照)。あるいは、導入連通路を、第3及び第4流体室に連通するように、第2シリンダに接続してもよい。また、第1実施形態に関してこれまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。
次に、図8を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置51について説明する。この振動抑制装置51は、第1実施形態と比較して、第1シリンダ11及び第1ピストン12の構造物Bへの連結部位や、第2シリンダ52の構成などが主に異なっている。図8において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、以下の説明では便宜上、図8の上側、下側、左側及び右側をそれぞれ、「上」「下」「左」及び「右」とする。
第1シリンダ11は、第1実施形態の場合と異なり、構造物Bの外周に配置されず、構造物Bの左右の柱PL、PR、梁BE、及び基礎梁BFで囲まれた空間内に配置され、第1及び第2シリンダ11、52は、連結部材5の取付部5aを中心として、互いに左右対称に配置される。
この連結部材5は、第1実施形態で説明した連結部材3と同様に構成されたV字状のブレース材であって、上記の取付部5aと、取付部5aから上方に斜めに延びる左右の斜め材5b、5bを一体に有しており、梁BEと基礎梁BFの間に設けられる。左右の斜め材5b、5bは、それらの上端部が左右の柱PL、PRと梁BEとの接合部にそれぞれ取り付けられ、基礎梁BFの付近まで延びる。また、左右の斜め材5b、5bの下端部には、上記の取付部5aが一体に設けられており、取付部5aは、基礎梁BFの付近に位置するとともに、左柱PLと右柱PRの中間に位置する。
第1シリンダ11に設けられた前記第1取付具FL1は、前記左連結部材4Lに取り付けられ、それにより、第1シリンダ11は、第1取付具FL1を介して基礎梁BFに連結される。また、第2取付具FL2は取付部5aに取り付けられる。以上により、第1ピストン12は、ピストンロッド13、第2取付具FL2及び連結部材5を介して、梁BEに連結される。また、第1シリンダ11は、左柱PLと取付部5aの間に位置するとともに、基礎梁BFに沿って左右方向(梁BEの長さ方向)に水平に延びる。
第2シリンダ52は、第1シリンダ11と同様に構成されており、円筒状の周壁52aと、周壁52aの両端部にそれぞれ同心状に一体に設けられた円板状の第1及び第2端壁52b、52cを有している。第2シリンダ52内は、第2ピストン53によって、第1端壁52b側の第3流体室52dと、第2端壁52c側の第4流体室52eに区画されており、第3及び第4流体室52d、52eには、作動流体HFが充填されている。
また、第1端壁52b及び第2端壁52cの各々の径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔が形成されており、各ロッド案内孔には、シールが設けられている。さらに、第2端壁52cには、外方に突出する凸部52fが一体に設けられており、凸部52fの内部には、収容部52gが画成されている。さらに、凸部52fには、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられており、第1取付具FL1は、前記右連結部材4Rに取り付けられる。以上により、第2シリンダ52は、第1取付具FL1及び右連結部材4Rを介して基礎梁BFに連結される。
第2ピストン53は、第1ピストン12と同様、円柱状に形成され、その周面に、シール(図示せず)が設けられており、第2ピストン53の周面は、このシールを介して、周壁52aの内周面に液密に接触している。また、第2ピストン53の径方向の中央には、ピストンロッド54が一体に設けられている。
ピストンロッド54は、第2ピストン53から軸線方向の両側に延びるとともに、第2シリンダ52の第1及び第2端壁52b、52cの各々のロッド案内孔に、シールを介して液密に挿入されている。また、ピストンロッド54は、その一端部が収容部52gに収容されており、一端部以外の大部分が第2シリンダ52に収容されている。さらに、ピストンロッド54の他端部は、第2シリンダ52から突出しており、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられている。第2取付具FL2は前記連結部5aに取り付けられる。以上により、第2ピストン53は、ピストンロッド54、第2取付具FL2及び連結部材5を介して、構造物Bの梁BEに連結される。また、第2シリンダ52は、右柱PRと取付部5aの間に位置するとともに、基礎梁BFに沿って左右方向(梁BEの長さ方向)に水平に延びる。
また、作動流体HFに対する第2ピストン53の受圧面積は、第1ピストン12のそれと同じ大きさに設定されている。さらに、第2ピストン53の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁55及び第2リリーフ弁56がそれぞれ設けられている。
これらの第1及び第2リリーフ弁55、56はそれぞれ、前述した第1ピストン12の第1及び第2リリーフ弁14、15と同様に構成されている。第1リリーフ弁55は、第2ピストン53の摺動により第3流体室52d内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室52d、52eが互いに連通されることによって、第3流体室52d内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁56は、第2ピストン53の摺動により第4流体室52e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室52d、52eが互いに連通されることによって、第4流体室52e内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
また、振動抑制装置51の第1連通路31は、第1シリンダ11内における第1ピストン12の移動範囲の全体において、また、第2シリンダ52内における第2ピストン53の移動範囲の全体において、第1及び第4流体室11d、52eに連通するように、第1及び第2シリンダ11、52に接続されている。また、第2連通路32は、第1シリンダ11内における第1ピストン12の移動範囲の全体において、また、第2シリンダ52内における第2ピストン53の移動範囲の全体において、第2及び第3流体室11e、52dに連通するように、第1及び第2シリンダ11、52に接続されている。第1及び第2連通路31、32の横断面積は、第1〜第4流体室11d、11e、52d、52eの各々の横断面積よりも小さな値に設定されている。
以上の構成の振動抑制装置51では、構造物Bが静止しているときには、第1及び第2ピストン12、53は、図8に示す中立位置にある。
構造物Bの振動に伴い、梁BEが基礎梁BFに対して右方に変位すると、梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が、連結部材5などを介して、第1シリンダ11及び第1ピストン12ならびに第2シリンダ52及び第2ピストン53に伝達される。これにより、第1ピストン12が第1シリンダ11内を第1流体室11d側に摺動し、第1流体室11dが収縮させられるとともに、第2流体室11eが膨張させられ、第2ピストン53が第2シリンダ52内を第4流体室52e側に摺動し、第4流体室52eが収縮させられるとともに、第3流体室52dが膨張させられる。
上述したように第2ピストン53が摺動することによって、第4流体室52e内の作動流体HFは、第2ピストン53により第1連通路31側に押圧され、それにより第1連通路31内に、第1流体室11d側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第1ピストン12が摺動することによって、第1流体室11d内の作動流体HFが第1ピストン12により押圧され、この第1ピストン12による押圧により発生した作動流体HFの流動は、上述した第2ピストン53による押圧により発生した作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路16内に、第2流体室11e側への作動流体HFの流動が生じる。
この場合、導入連通路16内の作動流体HFの流量は、第2ピストン53による押圧により第4流体室52eから第1連通路31に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン53の受圧面積・第2ピストン53の移動量)と、第1ピストン12による押圧により第1流体室11dから導入連通路16に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン12の受圧面積・第1ピストン12の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。さらに、上述したように導入連通路16内を流動した作動流体HFは、第1シリンダ11の第2流体室11eに流入し、それに伴って第2流体室11e内の作動流体HFの一部が第2連通路32に押し出される結果、第2連通路32内に、第3流体室52d側への作動流体HFの流動が生じる。
また、構造物Bの振動に伴い、梁BEが基礎梁BFに対して左方に変位すると、梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が第1シリンダ11及び第1ピストン12に伝達されることによって、第1ピストン12が第1シリンダ11内を第2流体室11e側に摺動し、第2流体室11eが収縮させられるとともに、第1流体室11dが膨張させられる。また、梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が第2シリンダ52及び第2ピストン53に伝達されることによって、第2ピストン53が第2シリンダ52内を第3流体室52d側に摺動し、第3流体室52dが収縮させられるとともに、第4流体室52eが膨張させられる。
上述したように第2ピストン53が摺動することによって、第3流体室52d内の作動流体HFは、第2ピストン53により第2連通路32側に押圧され、それにより第2連通路32内に、第2流体室11e側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第1ピストン12が摺動することによって、第2流体室11e内の作動流体HFが第1ピストン12により押圧され、この第1ピストン12による押圧により発生した作動流体HFの流動は、上述した第2ピストン53による押圧により発生した作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路16内に、第1流体室11d側への作動流体HFの流動が生じる。
この場合、導入連通路16内の作動流体HFの流量は、第2ピストン53による押圧により第3流体室52dから第2連通路32に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン53の受圧面積・第2ピストン53の移動量)と、第1ピストン12による押圧により第2流体室11eから導入連通路16に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン12の受圧面積・第1ピストン12の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。
さらに、上述したように導入連通路16内を流動した作動流体HFは、第1シリンダ11の第1流体室11dに流入し、それに伴って第1流体室11d内の作動流体HFの一部が第1連通路31に押し出される結果、第1連通路31内に、第4流体室52e側への作動流体HFの流動が生じる。
以上のように作動流体HFが流動するのに伴い、第1シリンダ内圧力差(第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力差)と、第3及び第4流体室52d、52e内の作動流体HFの圧力差(以下「第2シリンダ内圧力差」という)が発生する結果、振動抑制装置51の反力が発生する。振動抑制装置51では、構造物Bの振動中、電気モータ18を制御することによって、この反力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。これらの第1〜第3制御モードはそれぞれ、第1実施形態のそれらと同様であるので、それらの説明を省略する。
以上のように、第2実施形態によれば、構造物Bの振動に伴う梁BEと基礎梁BFの間の相対変位が、第1シリンダ11及び第1ピストン12ならびに第2シリンダ52及び第2ピストン53に伝達されることによって、第1ピストン12が第1シリンダ11内を第1及び第2流体室11d、11eの一方側又は他方側に摺動するとともに、第2ピストン53が第2シリンダ52内を第3及び第4流体室52d、52eの一方側又は他方側に摺動する。また、第1連通路31が第1及び第4流体室11d、52eに連通し、第2連通路32が第2及び第3連通路11e、52dに連通するとともに、導入連通路16が、第1流体室11dを介して第1連通路31に、第2流体室11eを介して第2連通路32に、連通している。
上述したように摺動する第2ピストン53によって、第3又は第4流体室52d、52e内の作動流体HFが対応する第1又は第2連通路31、32側にそれぞれ押圧され、それにより第1又は第2連通路31、32内に、作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように摺動する第1ピストン12によって、第1又は第2流体室11d、11e内の作動流体HFが導入連通路16側に押圧される。この第1ピストン12による押圧により発生した作動流体HFの流動と、上述した第2ピストン53による押圧により発生した作動流体HFの流動は、互いに合流した状態で導入連通路16に導入されるとともに、第1シリンダ内圧力差(第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力差)が第1ピストン12に、第2シリンダ内圧力差(第3及び第4流体室52d、52e内の作動流体HFの圧力差)が第2ピストン53に、それぞれ作用する。
その結果、従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(減衰抵抗力)を、第1及び第2シリンダ11、52ならびに第1及び第2ピストン12、53全体で発生させ、梁BE及び基礎梁BFに作用させることができる。また、第1実施形態の場合と同様、導入連通路16内の作動流体HFの流動を用いて歯車ポンプ17の電気モータ18で発電することによって、作動流体HFが導入連通路16内を流れにくくなるので、当該発電電力に応じた反力をさらに発生させることができる。
さらに、構造物Bの振動中、歯車ポンプ17で導入連通路16内の作動流体HFを流動させることにより、第1及び第2シリンダ内圧力差が調整され、歯車ポンプ17により発生させた作動流体HFの圧力が、第1及び第2ピストン12、53に作用するので、前述した従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(制御力)を、第1及び第2シリンダ11、52ならびに第1及び第2ピストン12、53全体で発生させることができる。
以上のように、振動抑制装置51では、作動流体HFに対する第1及び第2ピストン12、53の受圧面積を大きくすることなく、振動抑制装置51の反力を十分に発生させることができ、ひいては、構造物Bの振動による梁BE及び基礎梁BFの間の相対変位を抑制し、構造物Bの振動を適切に抑制することができる。また、第1及び第2シリンダ11、52を、連結部材5の取付部5aの周りにコンパクトに配置することができる。
さらに、第1ピストン12に設けられた第1及び第2リリーフ弁14、15によって、第1及び第2流体室11d、11e内の作動流体HFの圧力の過大化を防止でき、第2ピストン53に設けられた第1及び第2リリーフ弁55、56によって、第3及び第4流体室52d、52e内の作動流体HFの圧力の過大化を防止できるので、第1シリンダ11及び第1ピストン12ならびに第2シリンダ52及び第2ピストン53に作用する軸力を適切に制限することができる。なお、第1及び第2ピストン12、53の一方にのみ、第1及び第2リリーフ弁14、(55)、15、(56)を設けた場合でも、第1及び第2連通路31、32との協働によって、作動流体HFの圧力の過大化を防止することができる。
また、振動抑制装置51は、第1実施形態と同様、単一の導入連通路16に単一の歯車ポンプ17を設けた構成を備えるので、その所望の反力を得るための歯車ポンプ17の制御を容易に行うことができるとともに、コストパフォーマンスを向上させることができる。さらに、第1実施形態で説明したバッテリ36を備えることによる効果を同様に得ることができる。
なお、第2実施形態では、第1及び第2ピストン12、53を梁BEに、第1及び第2シリンダ11、52を基礎梁BFに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、第1及び第2シリンダの少なくとも一方を梁に、対応する第1及び第2ピストンの少なくとも一方を基礎梁に、それぞれ連結してもよい。また、第2実施形態では、本発明における第1及び第2部位はそれぞれ、梁BE及び基礎梁BFであるが、他の適当な部位(例えば、構造物内の任意の層間にある上梁(第1部位)と下梁(第2部位))を採用してもよい。
さらに、第2実施形態では、第1及び第2ピストン12、53を左右方向に延びる梁BEに連結することによって、構造物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、構造物の振動による前後方向の変位や上下方向の変位を抑制してもよい。第1及び第2ピストンは、前後方向の変位を抑制する場合には、前後方向に延びる梁に、これと平行に延びた状態で連結され、上下方向の変位を抑制する場合には、構造物の第1及び第2部位に、上下方向に延びた状態で連結される。
また、第2実施形態では、第1及び第2ピストン12、53をそれぞれ、左右の柱PL、PRと梁BEとの接合部に、ピストンロッド13、54を介して連結しているが、これに代えて、両ピストンの少なくとも一方を、他の適当な部材、例えば、テンションを付与することにより剛性を発揮する部材(例えばケーブルや帯状の鋼板)を介して連結してもよい。さらに、第2実施形態では、導入連通路16を第1シリンダ11に、第1ピストン12の移動範囲の全体において、第1及び第2流体室11d、11eに連通するように接続しているが、第1ピストンの移動範囲の一部において、第1及び第2流体室に連通するように接続してもよく、このことは、第1及び第2連通路31、32についても、同様に当てはまる。
また、第2実施形態では、振動抑制装置51は、第1及び第2シリンダ11、52を備えているが、シリンダの数は3つ以上でもよく、このことは、第1及び第2ピストン12、53についても同様に当てはまる。一例として、振動抑制装置を、2組の第1及び第2シリンダならびに第1及び第2ピストンを備えるように構成し、2組のうちの1組の第1及び第2シリンダを基礎梁に、対応する1組の第1及び第2ピストンを所定の第1梁に、それぞれ連結し、残りの1組の第1及び第2シリンダを基礎梁に、対応する残りの1組の第1及び第2ピストンを上記の第1梁と平行に設けられた第2梁に、それぞれ連結してもよい。
さらに、第2実施形態では、導入連通路16を第1シリンダ11に接続しているが、導入連通路16の一端部及び他端部を、第1及び第2連通路31、32にそれぞれ接続し、連通させてもよい(図9参照)。あるいは、導入連通路を、第3及び第4流体室に連通するように、第2シリンダに接続してもよい。また、第2実施形態に関してこれまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。
次に、図10を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置61について説明する。同図では、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。この振動抑制装置61は、2つの流体室を有するシリンダ62と、2つの流体室にそれぞれ軸線方向に摺動自在に設けられた第1ピストン63及び第2ピストン64と、シリンダ62内に部分的に収容されたピストンロッド65を備えている。
シリンダ62は、円筒状の周壁62aと、周壁62aの両端部にそれぞれ同心状に一体に設けられた円板状の第1端壁62b及び第2端壁62cと、周壁62a内の中央部に同心状に一体に設けられた円板状の区画壁62dを有している。シリンダ62内には、これらの周壁62a、第1端壁62b、第2端壁62c及び区画壁62dによって、上記の2つの流体室が画成されており、これらの流体室の各々には、作動流体HFが充填されている。また、第1端壁62bには、自在継手を介して第1取付具FL1が設けられ、第2端壁62c及び区画壁62dの径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔が形成されており、各ロッド案内孔には、シールが設けられている。
さらに、2つの流体室のうち、第1端壁62bと区画壁62dなどで画成された流体室は、第1ピストン63によって、第1端壁62b側の第1流体室62eと、区画壁62d側の第2流体室62fに区画されている。また、2つの流体室のうち、第2端壁62cと区画壁62dなどで画成された流体室は、第2ピストン64によって、区画壁62d側の第3流体室62gと、第2端壁62c側の第4流体室62hに区画されている。
第1及び第2ピストン63、64は、円柱状に形成され、その周面に、シールが設けられている。第1及び第2ピストン63、64の周面は、このシールを介して、周壁62aの内周面に液密に接触しており、第1及び第2ピストン63、64の横断面積は、互いに同じ値に設定されている。また、第1及び第2ピストン63、64は、図10に示すシリンダ62内の所定の中立位置を初期位置としており、外力が一度も入力されていないときには、この中立位置に位置する。
さらに、第1ピストン63の径方向の中央の区画壁62d側の端部には、ピストンロッド65の一端部が、第2ピストン64の径方向の中央には、ピストンロッド65の中央部が、それぞれ一体に設けられている。ピストンロッド65は、第1ピストン63から区画壁62d側に延び、区画壁62dのロッド案内孔にシールを介して液密に挿入されており、また、第2ピストン64から第2端壁62c側に延び、第2端壁62cのロッド案内孔にシールを介して液密に挿入されるとともに、第2端壁62cから外方に延びている。また、ピストンロッド65の他端部には、自在継手を介して第2取付具FL2が設けられている。
さらに、第1及び第2ピストン63、64の各々の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されている(2つのみ図示)。各々のピストン63、64のこれらの孔には、第1及び第2リリーフ弁66(68)、67(69)がそれぞれ設けられており、これらの第1及び第2リリーフ弁66(68)、67(69)はそれぞれ、第1実施形態で説明した第1及び第2リリーフ弁14、15と同様に構成されている。
第1ピストン63に設けられた第1リリーフ弁66は、第1ピストン63の摺動により第1流体室62e内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2流体室62e、62fが互いに連通されることによって、第1流体室62e内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第1ピストン63に設けられた第2リリーフ弁67は、第1ピストン63の摺動により第2流体室62f内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第1及び第2流体室62e、62fが互いに連通されることによって、第2流体室62f内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
第2ピストン64に設けられた第1リリーフ弁68は、第2ピストン64の摺動により第3流体室62g内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室62g、62hが互いに連通されることによって、第3流体室62g内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。第2ピストン64に設けられた第2リリーフ弁69は、第2ピストン64の摺動により第4流体室62h内の作動流体HFの圧力が所定値に達したときに開弁し、それにより第3及び第4流体室62g、62hが互いに連通されることによって、第4流体室62h内の作動流体HFの圧力の過大化が防止される。
なお、第1及び第2ピストン63、64の一方にのみ、第1及び第2リリーフ弁66、(68)、67、(69)を設けた場合でも、後述する第1及び第2連通路72、73との協働によって、作動流体HFの圧力の過大化が防止されることが分かる。
また、振動抑制装置61は、シリンダ62に接続されるとともに、作動流体HFが充填された導入連通路71、第1連通路72及び第2連通路73と、前記歯車ポンプ17をさらに備えている。なお、図10では便宜上、各連通路71〜73内の作動流体HFの符号の図示を省略している。導入連通路71は、シリンダ62の第2端壁62c側の流体室における第2ピストン64の移動範囲の全体において、第2ピストン64をバイパスし、第3及び第4流体室62g、62hに連通するように、シリンダ62に接続されている。また、導入連通路71の横断面積は、第3及び第4流体室62g、62hの横断面積よりも小さな値に設定されている。
上記の第1連通路72は、シリンダ62の2つの流体室の各々における第1及び第2ピストン63、64の各々の移動範囲の全体において、第1及び第3流体室62e、62gに連通するように、シリンダ62に接続されている。また、第2連通路73は、シリンダ62の2つの流体室の各々における第1及び第2ピストン63、64の各々の移動範囲の全体において、第2及び第4流体室62f、62hに連通するように、シリンダ62に接続されている。
また、歯車ポンプ17は導入連通路71に設けられている。第1実施形態の場合と同様、歯車ポンプ17の電気モータ18のロータが、電力の供給により第1ギヤ17bと一体に回転すると、導入連通路71内に作動流体HFの流動が生じる。この場合、電気モータ18の回転方向を変更することによって、導入連通路71内の作動流体HFの流動方向が変化する。また、電気モータ18への電力供給が停止されている状態で、作動流体HFが導入連通路71内を流動すると、この作動流体HFの流動が、回転動力に変換された状態で電気モータ18に伝達される。電気モータ18は、伝達された回転動力を用いて発電可能である。さらに、図示しないものの、第1実施形態の場合と同様、電気モータ18は、制御装置35を介してバッテリ36に接続されている(図5参照)。
以上の構成の振動抑制装置61のシリンダ62は、例えば図11に示すように、連結部材6を介して、構造物Bの上梁BUに連結され、ピストンロッド65は、連結部材7を介して、構造物Bの下梁BDに連結される。
連結部材6は、第1実施形態の連結部材3と同様、V字状のブレース材で構成され、下側の取付部6aと、連結部6aから上方に斜めに延びる一対の斜め材6b、6bを一体に有しており、上下の梁BU、BDの間に設けられる。取付部6aは、下梁BDの付近に位置し、一対の斜め材6b、6bの上端部は、上梁BUと左柱PLの接合部、及び、上梁BUと右柱PRの接合部にそれぞれ取り付けられる。連結部材7は、剛性が比較的高い鋼材、例えばH形鋼で構成されている。
また、取付部6a及び連結部材7には、振動抑制装置61の第1及び第2取付具FL1、FL2がそれぞれ取り付けられ、振動抑制装置61は、下梁BDに沿ってその長さ方向に延びる。なお、図11では便宜上、導入連通路71、第1及び第2連通路72、73の図示を省略している。また、振動抑制装置61を連結する部位として、上下の梁BU、BDに限らず、他の適当な部位を採用してもよく、さらに、構造物への振動抑制装置の連結手法として、他の適当な手法を採用してもよい。
構造物Bの振動に伴い、下梁BDが上梁BUに対して左方に変位すると、これらの上下の梁BU、BDの間の相対変位が、連結部材6、7などを介して、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64に伝達される。これにより、第1ピストン63がシリンダ62内を第1流体室62e側に摺動し、第1流体室62eが収縮させられるとともに、第2流体室62fが膨張させられ、第2ピストン64がシリンダ62内を第3流体室62g側に摺動し、第3流体室62gが収縮させられるとともに、第4流体室62hが膨張させられる。
上述したように第1ピストン63が摺動することによって、第1流体室62e内の作動流体HFは、第1ピストン63により第1連通路72側に押圧され、それにより第1連通路72内に、第3流体室62g側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第2ピストン64が摺動することによって、第3流体室62g内の作動流体HFが第2ピストン64により押圧され、この第2ピストン64による押圧により発生した作動流体HFの流動は、上述した第1ピストン63による押圧により発生した作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路71内に、第4流体室62h側への作動流体HFの流動が生じる。
この場合、導入連通路71内の作動流体HFの流量は、第1ピストン63による押圧により第1流体室62eから第1連通路72に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン63の受圧面積・第1ピストン63の移動量)と、第2ピストン64による押圧により第3流体室62gから導入連通路71に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン64の受圧面積・第2ピストン64の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。なお、第1ピストン63が第1流体室62e側に摺動しているときには、第1ピストン63の受圧面積は、第1ピストン63の横断面積になり、第2ピストン64の受圧面積は、第2ピストン64の摺動方向に拘わらず、第2ピストン64の横断面積からピストンロッド65の横断面積を減算した値になる。
さらに、上述したように導入連通路71内を流動した作動流体HFは、第4流体室62hに流入し、それに伴って第4流体室62h内の作動流体HFの一部が第2連通路73に押し出される結果、第2連通路73内に、第2流体室62f側への作動流体HFの流動が生じる。
また、構造物Bの振動に伴い、下梁BDが上梁BUに対して右方に変位すると、これらの上下の梁BU、BDの間の相対変位がシリンダ62、第1及び第2ピストン63、64に伝達されることによって、第1ピストン63が第2流体室62f側に摺動し、第2及び第1流体室62f、62eがそれぞれ収縮及び膨張させられるとともに、第2ピストン64が第4流体室62h側に摺動し、第4及び第3流体室62h、62gがそれぞれ収縮及び膨張させられる。
上述したように第1ピストン63が摺動することによって、第2流体室62f内の作動流体HFは、第1ピストン63により第2連通路73側に押圧され、それにより第2連通路73内に、第4流体室62h側への作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように第2ピストン64が摺動することによって、第4流体室62h内の作動流体HFが第2ピストン64により押圧され、この第2ピストン64による押圧により発生した作動流体HFの流動は、上述した第1ピストン63による押圧により発生した作動流体HFの流動と合流し、それにより、導入連通路71内に、第3流体室62g側への作動流体HFの流動が生じる。
この場合、導入連通路71内の作動流体HFの流量は、第1ピストン63による押圧により第2流体室62fから第2連通路73に押し出された作動流体HFの流量(=第1ピストン63の受圧面積・第1ピストン63の移動量)と、第2ピストン64による押圧により第4流体室62hから導入連通路71に押し出された作動流体HFの流量(=第2ピストン64の受圧面積・第2ピストン64の移動量)とを互いに足し合わせた大きさになる。なお、第1ピストン63が第2流体室62f側に摺動しているときには、第1ピストン63の受圧面積は、第1ピストン63の横断面積からピストンロッド65の横断面積を減算した値になる。
さらに、上述したように導入連通路71内を流動した作動流体HFは、第3流体室62gに流入し、それに伴って第3流体室62g内の作動流体HFの一部が第1連通路72に押し出される結果、第1連通路72内に、第1流体室62e側への作動流体HFの流動が生じる。
以上のように作動流体HFが流動するのに伴い、第1及び第2流体室62e、62f内の作動流体HFの圧力差(以下「第1シリンダ内圧力差」という)と、第3及び第4流体室62g、62h内の作動流体HFの圧力差(以下「第2シリンダ内圧力差」という)が発生する結果、振動抑制装置61の反力が発生する。振動抑制装置61では、構造物Bの振動中、電気モータ18を制御することによって、この反力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。これらの第1〜第3制御モードはそれぞれ、第1実施形態のそれらと同様であるので、それらの説明を省略する。
以上のように、第3実施形態によれば、作動流体HFがそれぞれ充填されたシリンダ62の2つの流体室に、第1及び第2ピストン63、64が軸線方向に摺動自在に設けられており、一方の流体室が第1ピストン63によって第1及び第2流体室62e、62fに、他方の流体室が第2ピストン64によって第3及び第4流体室62g、62hに、それぞれ区画されている。また、構造物Bの振動に伴って発生した上下の梁BU、BDの間の相対変位が、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64に伝達されることによって、第1ピストン63が、対応する流体室を第1及び第2流体室62e、62fの一方側又は他方側に摺動するとともに、第2ピストン64が、対応する流体室を第3及び第4流体室62g、62hの一方側又は他方側に摺動する。
さらに、第1連通路72が第1及び第3流体室62e、62gに連通し、第2連通路73が第2及び第4流体室62f、62hに連通するとともに、導入連通路71が、第3流体室62gを介して第1連通路72に、第4流体室62hを介して第2連通路73に、連通している。各連通路71〜73には、作動流体HFが充填されている。
上述したように摺動する第1ピストン63によって、第1又は第2流体室62e、62f内の作動流体HFが対応する第1又は第2連通路72、73側にそれぞれ押圧され、それにより第1又は第2連通路72、73内に、作動流体HFの流動が生じる。また、上述したように摺動する第2ピストン64によって、第3又は第4流体室62g、62h内の作動流体HFが導入連通路71側に押圧される。この第2ピストン64による押圧により発生した作動流体HFの流動と、上述した第1ピストン63による押圧により発生した作動流体HFの流動は、互いに合流した状態で導入連通路71に導入されるとともに、第1シリンダ内圧力差(第1及び第2流体室62e、62f内の作動流体HFの圧力差)が第1ピストン63に、第2シリンダ内圧力差(第3及び第4流体室62g、62h内の作動流体HFの圧力差)が第2ピストン64に、それぞれ作用する。
その結果、従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(減衰抵抗力)を、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64全体で発生させ、上下の梁BU、BDに作用させることができる。また、第1実施形態の場合と同様、導入連通路71内の作動流体HFの流動を用いて歯車ポンプ17の電気モータ18で発電することによって、作動流体HFが導入連通路71内を流れにくくなるので、当該発電電力に応じた反力をさらに発生させることができる。
さらに、構造物Bの振動中、歯車ポンプ17で導入連通路71内の作動流体HFを流動させることにより、第1及び第2シリンダ内圧力差が調整され、歯車ポンプ17により発生させた作動流体HFの圧力が、第1及び第2ピストン63、64に作用するので、前述した従来のように1組のシリンダ及びピストンを設けた場合よりも大きな反力(制御力)を、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64全体で発生させることができる。
以上のように、振動抑制装置61では、作動流体HFに対する第1及び第2ピストン63、64の受圧面積を大きくすることなく、振動抑制装置61の反力を十分に発生させることができ、ひいては、構造物Bの振動による上下の梁BU、BDの間の相対変位を抑制し、構造物Bの振動を適切に抑制することができる。
さらに、第1ピストン63に設けられた第1及び第2リリーフ弁66、67によって、第1及び第2流体室62e、62f内の作動流体HFの圧力の過大化を防止でき、第2ピストン64に設けられた第1及び第2リリーフ弁68、69によって、第3及び第4流体室62g、62h内の作動流体HFの圧力の過大化を防止できるので、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64に作用する軸力を適切に制限することができる。なお、第1及び第2ピストン63、64の一方にのみ、第1及び第2リリーフ弁66、(68)、67、(69)を設けた場合でも、第1及び第2連通路72、73との協働によって、作動流体HFの圧力の過大化を防止することができる。
また、振動抑制装置61は、第1実施形態と同様、単一の導入連通路71に単一の歯車ポンプ17を設けた構成を備えるので、その所望の反力を得るための歯車ポンプ17の制御を容易に行うことができるとともに、コストパフォーマンスを向上させることができる。さらに、第1実施形態で説明したバッテリ36を備えることによる効果を同様に得ることができる。
なお、第3実施形態では、導入連通路71をシリンダ62に、第3及び第4流体室62g、62hに連通するように接続しているが、第1及び第4流体室62e、62hに連通するように接続してもよい(図12参照)。あるいは、第1及び第2流体室62e、62fに連通するように、又は、第2及び第3流体室62f、62gに連通するように、接続してもよい。あるいは、導入連通路71の一端部及び他端部を、第1及び第2連通路72、73にそれぞれ連通するように接続してもよい(図13参照)。
また、第3実施形態では、本発明における複数のピストンを互いに連結する連結部材として、ピストンロッド65を用いているが、他の適当な部材、例えば、テンションを付与することにより剛性を発揮する部材(例えばケーブルや帯状の鋼板)を用いてもよい。さらに、第3実施形態では、振動抑制装置61は、2つの流体室と第1及び第2ピストン63、64を備えているが、流体室及びピストンの数はそれぞれ3つ以上でもよい。また、シリンダ62、第1及び第2ピストン63、64を、本出願人による特願2016−015130号の図15などに記載されたように構成してもよい。
また、第3実施形態では、導入連通路71をシリンダ62内の第2ピストン64の移動範囲の全体において、第3及び第4流体室62g、62hに連通するように接続しているが、第2ピストンの移動範囲の一部において、第3及び第4流体室に連通するように接続してもよく、このことは、第1及び第2連通路72、73についても、同様に当てはまる。さらに、第3実施形態に関してこれまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。
また、本発明は、説明した第1〜第3実施形態(以下、総称して「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、歯車ポンプ17の電気モータ18を、力行(電力供給により回転動力を出力)可能かつ発電可能に構成しているが、力行のみ可能に構成してもよい。あるいは、電気モータ18を、制御装置35により発電を行わないように制御してもよい。また、実施形態では、本発明におけるポンプとして、動力源として電気モータ18を有する歯車ポンプ17を用いているが、他の適当なポンプ、例えばプランジャポンプや、ベーンポンプなどを用いてもよく、また、他の適当な動力源(例えば流体圧モータなど)を有するポンプを用いてもよい。
さらに、実施形態では、本発明におけるエネルギ変換機構として、発電可能な電気モータ18を有する歯車ポンプ17、すなわち、歯車モータと電気モータを組み合わせた機構を用いているが、作動流体の流動を用いて発電可能な他の適当な機構、例えば、プランジャモータやベーンモータなどと電気モータを組み合わせた機構を用いてもよい。また、電気モータ18は、DCモータであるが、ACモータでもよい。また、実施形態では、本発明における蓄電装置として、バッテリ36を用いているが、他の適当な装置、例えばキャパシタを用いてもよい。あるいは、バッテリ36を省略するとともに、電気モータ18で発電した電力を、構造物の照明機器などの電気機器に供給してもよい。
さらに、実施形態では、第1及び第2ピストン12、63、22、53、64の両方に、第1及び第2リリーフ弁14、24、55、66、68、15、25、56、67、69を設けているが、複数のピストンのすべてではなく、それらのいくつかに設けてもよく、あるいは、省略してもよい。また、実施形態では、構造物Bは、商用や居住用の建築物であるが、他の適当な構造物、例えば、橋梁や、鉄塔などでもよい。さらに、これまでに述べたバリエーション(各実施形態で説明したバリエーションを含む)を適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。