以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1及び図2に示す本発明の第1実施形態による振動抑制装置1は、建物Bの振動を抑制するためのアクティブダンパとして構成されており、円筒状の本体部2と、本体部2に、軸線方向に移動可能に部分的に収容されたロッド3と、本体部2内に摺動可能に、かつロッド3に軸線方向に移動可能に設けられたピストン4を備えている。建物Bは、例えば高層のビルであり、複数の柱PL、PR及び梁BU、BD(それぞれ2つのみ図示)を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有している。
以下、振動抑制装置1について、図2の上側、下側、左側及び右側をそれぞれ、「上」「下」「左」及び「右」として説明する。本体部2は、互いに対向する左壁2a及び右壁2bと、両者2a、2bの間に一体に設けられた周壁2cで構成されている。これらの左右の壁2a、2b及び周壁2cによって画成された油室は、ピストン4によって左側の第1油室2dと右側の第2油室2eに区画されており、両油室2d、2eには、シリコンオイルで構成された作動油HFが充填されている。
また、左右の壁2a、2bの各々の径方向の中央には、左右方向に貫通するロッド案内孔2fが形成されており、ロッド案内孔2fには、シール21が設けられている。さらに、左壁2aには、左方に突出する凸部2gが一体に設けられており、凸部2gの内側には、収容部2hが画成されている。さらに、凸部2gには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。
前記ロッド3は、上記のロッド案内孔2f、2fに、シール21を介して挿入され、左右方向(軸線方向)に延びており、本体部2に対して左右方向に移動可能である。また、ロッド3は、その左端部が上記の収容部2hに収容され、左端部以外の大部分が第1及び第2油室2d、2eに収容されており、本体部2から右方に突出している。また、ロッド3には、左右一対の円板状のフランジ3a、3bが、同心状に一体に設けられており、左フランジ3aは第1油室2dに、右フランジ3bは第2油室2eに、それぞれ収容されている。さらに、ロッド3の右端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
前記ピストン4は、円柱状に形成され、左右のフランジ3a、3bの間に配置されており、その周面には、シール22が設けられている。また、ピストン4の径方向の中央には、左右方向に貫通するロッド案内孔4aが形成されている。このロッド案内孔4aには、シール23を介してロッド3が挿入されており、それにより、ピストン4は、ロッド3に対して左右方向(軸線方向)に移動可能である。
さらに、ピストン4の径方向の外端部には、左右方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁24及び第2リリーフ弁25が設けられている。第1リリーフ弁24は、弁体24aと、これを閉弁側に付勢するばね24bで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン4の移動によって第1油室2d内の作動油HFの圧力が所定の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室2d、2eが互いに連通されることによって、第1油室2d内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁25は、第1リリーフ弁24と同様、弁体25aと、これを閉弁側に付勢するばね25bで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン4の移動によって第2油室2e内の作動油HFの圧力が上記の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室2d、2eが互いに連通されることによって、第2油室2e内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。
また、振動抑制装置1は、左右一対の第1滑車5L、5R、第2滑車6L、6R、及びケーブル7L、7Rをさらに備えている。左側の第1及び第2滑車5L、6Lならびに左ケーブル7Lは、第1油室2dに収容されている。また、右側の第1及び第2滑車5R、6Rならびに右ケーブル7Rは、第2油室2eに収容されており、ピストン4を中心として、左側の第1滑車5L、第2滑車6L及びケーブル7Lと左右対称に設けられている。
左側の第1及び第2滑車5L、6Lは、上下一対の滑車でそれぞれ構成され、第1滑車5Lは本体部2の左壁2aに、第2滑車6Lは左フランジ3aに、それぞれ取り付けられており、互いに対向している。左ケーブル7Lは、第1及び第2滑車5L、6Lに対応して上下一対のケーブルから成り、例えば鋼線で構成されており、弾性を有している。また、左ケーブル7Lは、その一端部が左フランジ3aに取り付けられていて、その途中で第1及び第2滑車5L、6Lに折り返された状態で巻き回され、さらに左フランジ3aのケーブル案内孔3cに挿通されており、他端部がピストン4の左端部に取り付けられている。なお、図2では、便宜上、下側のケーブル案内孔3cのみを示している。
右側の第1及び第2滑車5R、6Rは、左側の第1及び第2滑車5L、6Lと同様、上下一対の滑車でそれぞれ構成され、第1滑車5Rは本体部2の右壁2bに、第2滑車6Rは右フランジ3bに、それぞれ取り付けられており、互いに対向している。右ケーブル7Rは、第1及び第2滑車5R、6Rに対応して上下一対のケーブルから成り、例えば鋼線で構成されており、弾性を有している。また、右ケーブル7Rは、その一端部が右フランジ3bに取り付けられていて、その途中で第1及び第2滑車5R、6Rに折り返された状態で巻き回され、さらに右フランジ3bのケーブル案内孔3dに挿通されており、他端部がピストン4の右端部に取り付けられている。なお、図2では、便宜上、下側のケーブル案内孔3dのみを示している。左右のケーブル7L、7Rには、互いに同じ所定のテンションが付与されている。
また、振動抑制装置1は、第1及び第2油室2d、2eに接続された連通路8と、連通路8の途中に設けられた歯車ポンプ9と、歯車ポンプ9に連結された電気モータ15と、電気モータ15を制御する制御装置31をさらに備えている。なお、図1では、便宜上、これらの連通路8などを省略している。
連通路8の断面積(軸線方向に直交する面の面積)は、本体部2の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも小さな値に設定されており、第1及び第2油室2d、2eに加えて、連通路8にも、作動油HFが充填されている。歯車ポンプ9は、外接歯車型のものであり、ケーシング10と、ケーシング10に収容された第1ギヤ11及び第2ギヤ12などで構成されている。ケーシング10は、連通路8の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口10a、10aを介して、連通路8に連通している。
また、第1ギヤ11は、スパーギヤで構成され、第1回転軸13に一体に設けられている。第1回転軸13は、連通路8に直交する方向に水平に延び、ケーシング10に回転可能に支持されており、ケーシング10の外部に若干、突出している(図3参照)。第2ギヤ12は、第1ギヤ11と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸14に一体に設けられており、第1ギヤ11と噛み合っている。第2回転軸14は、第1回転軸13と平行に延び、ケーシング10に回転可能に支持されている。また、第1及び第2ギヤ11、12の互いの噛合い部分は、ケーシング10の出入口10a、10aに臨んでいる。
前記電気モータ15は、例えば、発電可能なDCモータであり、そのロータ(図示せず)が、第1回転軸13に同軸状に連結されており、第1ギヤ11及び第1回転軸13と一体に回転可能である。また、図4に示すように、電気モータ15は、制御装置31を介して、建物Bに設けられた交流式の電源32に接続されている。制御装置31は、整流器や、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されている。
さらに、振動抑制装置1は、地震などに伴って発生した下梁BDの振動による加速度(以下「下梁振動加速度ACBD」という)を検出する第1加速度センサ33と、地震などに伴って発生した上梁BUの振動による加速度(以下「上梁振動加速度ACBU」という)を検出する第2加速度センサ34を備えている。第1及び第2加速度センサ33、34は、例えば半導体式のものであり、前者33は下梁BDに、後者34は上梁BUに、それぞれ設けられており、両センサ33、34の検出信号は、制御装置31に入力される(図4参照)。
また、図1に示すように、前述した第1取付具FL1は、上梁BUと左柱PLとの接合部に固定された第1連結部材EN1に取り付けられており、第2取付具FL2は、下梁BDと右柱PRとの接合部に固定された第2連結部材EN2に取り付けられている。これにより、振動抑制装置1は、上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結されている。
以上の構成の振動抑制装置1では、建物Bが静止しているときには、ピストン4は、図2に示す中立位置にある。
また、建物Bの振動時、上梁BUが下梁BDに対して左方に変位したときには、当該変位が本体部2及びロッド3に伝達されることによって、ロッド3及び左右のフランジ3a、3bが本体部2に対して右方に移動し、それに伴い、ピストン4が、ロッド3及び左ケーブル7Lで引っ張られることにより、本体部2に対して左方に移動する。このピストン4の移動に伴い、第1油室2d内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、この作動油HFの一部が、連通路8を通って第2油室2e側に流動する。この作動油HFの流動に伴い、歯車ポンプ9の第1ギヤ11が電気モータ15と一緒に回転させられる。
また、建物Bの振動時、上記とは逆に、上梁BUが下梁BDに対して右方に変位したときには、当該変位が本体部2及びロッド3に伝達されることによって、ロッド3及び左右のフランジ3a、3bが本体部2に対して左方に移動し、それに伴い、ピストン4が、ロッド3及び右ケーブル7Rで引っ張られることにより、本体部2に対して右方に移動する。このピストン4の移動に伴い、第2油室2e内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、この作動油HFの一部が、連通路8を通って第1油室2d側に流動する結果、上記の場合と同様、第1ギヤ11が電気モータ15と一緒に回転させられる。
以上の動作から明らかなように、建物Bの振動中、第1及び第2油室2d、2e内の作動油HFの圧力は、本体部2及びロッド3に上述したように伝達される外力に抗するように作用し、すなわち、建物Bの振動を抑制するための制御力として、建物Bに作用する。振動抑制装置1では、建物Bの振動中、電気モータ15を制御することによって、この制御力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。これらの第1及び第2制御モードでは、電気モータ15に電源32からの電力を供給し、電気モータ15で第1ギヤ11を回転させることにより、連通路8内の作動油HFに流動を生じさせることによって、振動抑制装置1の制御力が調整される。
より具体的には、第1制御モードでは、振動による外力がロッド3及びピストン4に伝達されたときに、電気モータ15による第1ギヤ11の駆動により生じる作動油HFの流動方向(以下「ギヤ駆動流動方向」という)が、振動による外力によりピストン4が移動することで生じる作動油HFの流動方向(以下「振動流動方向」という)と反対方向になるように、電気モータ15の回転方向が制御される。これにより、振動抑制装置1のより大きな制御力が発生する。この場合、電気モータ15の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1の制御力が調整され、電気モータ15の回転数が高いほど、振動流動方向と反対方向に流れる作動油HFの流動量が大きくなることによって、制御力はより大きくなる。
第2制御モードでは、振動による外力がロッド3及びピストン4に伝達されたときに、ギヤ駆動流動方向が振動流動方向と同方向になるように、電気モータ15の回転方向が制御される。これにより、振動抑制装置1のより小さな制御力が発生する。この場合にも、電気モータ15の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1の制御力が調整され、第1制御モードの場合と異なり、電気モータ15の回転数が高いほど、振動流動方向と同方向に流れる作動油HFの流動量が大きくなることによって、制御力はより小さくなる。
上記の第3制御モードでは、振動による外力によりピストン4が移動することで発生した作動油HFの流動を用いて電気モータ15で発電を行うとともに、その発電電力を変化させることによって、振動抑制装置1の制御力が調整される。この場合、作動油HFの流動が、第1ギヤ11により回転運動に変換され、さらに電気モータ15で電気エネルギに変換(発電)される。第3制御モードにおける振動抑制装置1の制御力は、電気モータ15の発電電力が大きいほど、作動油HFが流れにくくなることによって、より大きくなる。第1〜第3制御モードの各々で得られる制御力の大小関係は、第1制御モード>第3制御モード>第2制御モードの順になっている。なお、制御モードとして、第1〜第3制御モードのうちの1つ又は2つの制御モードを設定してもよい。
制御装置31は、建物Bの振動時、検出された下梁振動加速度ACBD及び上梁振動加速度ACBUに応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、建物Bの振動を抑制すべく、上述した第1〜第3制御モードによる制御を実行するための振動抑制制御処理を実行する。
本処理では、まず、下梁振動加速度ACBDを2回積分することによって、下梁BDの振動による変位(以下「下梁振動変位DIBD」という)を算出するとともに、上梁振動加速度ACBUを2回積分することによって、上梁BUの振動による変位(以下「上梁振動変位DIBU」という)を算出する。これらの下梁振動変位DIBD及び上梁振動変位DIBUはそれぞれ、絶対座標系を基準とした下梁BD及び上梁BUの変位である。
次いで、算出された上梁振動変位DIBUと下梁振動変位DIBDとの偏差を、梁間振動変位DIUDとして算出する。次に、算出された梁間振動変位DIUDに、所定のフィードバック係数FKを乗算することによって、フィードバック制御項FBCを算出する。次いで、算出されたフィードバック制御項FBCに、所定のフィードフォワード制御項FFCを加算することによって、電気モータ15を制御するための制御信号SCを算出する。振動抑制制御処理では、建物Bの振動中、以上の算出動作が、所定の制御周期で繰り返し実行される。
上記の制御信号SCは、本体部2に対するピストン4の変位の目標値に相当する。上述したように制御信号SCが算出されると、この制御信号SCに基づいて、前述した第1〜第3制御モードのいずれかが選択されるとともに、ROMに記憶された所定のマップ(図示せず)を検索することにより、電気モータ15への供給電力又は発電電力の指令値が算出される。そして、算出された指令値に基づいて電気モータ15への供給電力又は発電電力が制御されることにより、ピストン4の変位が制御信号SCで表される目標値に調整されることによって、振動抑制装置1の制御力が調整される。
なお、第1実施形態では、フィードバック制御項FBCとして、いわゆる比例項を用いているが、さらに、積分項や微分項を用いてもよく、このことは、後述する第2及び第3実施形態についても同様に当てはまる。この場合、上記の積分項は、例えば、積分項の前回値に、今回の梁間振動変位DIUDに所定の係数を乗算した値を加算することによって、算出される。積分項の前回値は、建物Bが振動していないときに、値0にリセットされる。また、上記の微分項は、例えば、梁間振動変位DIUDの前回値を今回の梁間振動変位DIUDから減算した値に、所定の係数を乗算することによって算出される。
また、振動抑制装置1では、前述した構成から明らかなように、作動油HF及び電気モータ15から成る慣性要素が、左右のケーブル7L、7Rから成る弾性要素に直列に接続された関係にある。このため、例えば建物Bの停電時などで、電源32から電気モータ15に電力が供給されていないときに、振動抑制装置1は、付加振動系(動吸振器)として機能する。この場合、付加振動系の諸元は、その固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、付加振動系の固有振動数は、作動油HFの流動による慣性質量mF、歯車ポンプ9の影響を考慮した電気モータ15の回転慣性質量mM及びケーブル7L、7Rの剛性θTによって定まる(=sqrt{θT/(mF+mM)}/2π)。
以上のように、第1実施形態によれば、筒状の本体部2が上梁BUに、ロッド3が下梁BDに、それぞれ連結されており、ロッド3は、本体部2に、軸線方向に移動可能に部分的に収容されている。また、ロッド3には、本体部2に収容された左右のフランジ3a、3bが一体に設けられており、本体部2及びフランジ3a、3bには、第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rがそれぞれ取り付けられている。さらに、本体部2内が、ピストン4によって第1及び第2油室2d、2eに区画されており、ピストン4は、本体部2内に摺動可能に、かつロッド3に軸線方向に移動可能に設けられている。また、第1及び第2油室2d、2eには、作動油HFが充填されている。さらに、ピストン4は、その軸線方向の両側に配置された左右一対のフランジ3a、3bに、左右一対のケーブル7L、7Rをそれぞれ介して連結されており、左右のケーブル7L、7Rは、ピストン4から互いに反対方向に延びている。
振動抑制装置1は、第1及び第2油室2d、2e内の作動油HFの圧力が、ピストン4、左右のケーブル7L、7R、本体部2、左右のフランジ3a、3b、及びロッド3を介して、上下の梁BU、BDに作用するように構成されている。したがって、第1及び第2油室2d、2e内における作動油HFの圧力を、建物Bの振動を抑制するための制御力として、建物Bに作用させることができる。
また、第1及び第2油室2d、2eには、連通路8が接続されており、連通路8には、作動油HFが充填されている。さらに、歯車ポンプ9及び電気モータ15により、連通路8内の作動油HFが、第1又は第2油室2d、2e側に流動させられるとともに、その流動量が変更されることによって、第1及び第2油室2d、2e内における作動油HFの圧力が調整される。これにより、振動抑制装置1は、いわゆるアクティブダンパとして機能する。
さらに、ケーブル7L、7Rが、本体部2に取り付けられた第1滑車5L、5Rと、フランジ3a、3bに取り付けられた第2滑車6L、6Rに巻き回されているので、これらの第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rの一方が他方に対して、いわゆる動滑車として機能する。これにより、作動油HFの圧力による制御力を、ケーブル7L、7Rの巻き回し回数に応じて上下の梁BU、BDに増大した状態で作用させることができるので、建物Bに比較的大きな制御力を作用させることができる。また、前述した従来の振動抑制装置と異なり、本体部2やピストン4の径を大きくしなくても、上述したように第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rによりケーブル7L、7Rの巻き回し回数に応じて制御力を増大させることができるので、振動抑制装置1全体の小型化を図ることができる。この場合、ケーブル7L、7R、第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rが本体部2に収容されており、本体部2と別個に設けられていないので、振動抑制装置1全体のさらなる小型化を図ることができる。
さらに、振動抑制装置1は、電気モータ15に電力が供給されていないときに、付加振動系(動吸振器)として機能するように構成されており、ケーブル7L、7Rの剛性、作動油HFの慣性質量及び電気モータ15の回転慣性質量を含む当該振動抑制装置1の諸元は、建物Bの振動時、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数に同調するように設定されている。これにより、電気モータ15に電力を供給できないことで上下の梁BU、BDに制御力を適切に作用させられないような場合でも、振動抑制装置1が付加振動系として機能するので、建物Bの振動を吸収し、適切に抑制することができる。
また、左右のケーブル7L、7R、第1及び第2滑車5L、6L、5R、6Rが、第1及び第2油室2d、2eに充填された作動油HFに浸されているので、それらの錆び付きを防止することができる。
さらに、所定のテンションが左右のケーブル7L、7Rに付与されているので、振動抑制装置1が付加振動系として機能しているときに、ピストン4の移動量がテンションによる左ケーブル7L又は右ケーブル7Rの引張量に達するまでは、両ケーブル7L、7Rの反力が作用するため、左右のケーブル7L、7R全体のばね定数kは、両ケーブル7L、7Rのばね定数k1、k2の和(=k1+k2)になる。これに対して、ピストン4の移動量がテンションによる左ケーブル7L又は右ケーブル7Rの引張量に達した後には、一方のケーブルのテンションが消失し、他方のケーブルの反力だけが作用するようになるため、左右のケーブル7L、7R全体のばね定数kは、左ケーブル7Lのばね定数k1又は右ケーブル7Rのばね定数k2になる。
このように、左右のケーブル7L、7Rにテンションを予め付与することによって、建物Bの変位に対する両ケーブル7L、7Rから成る弾性要素の剛性の特性として、バイリニアな特性を得ることができる。したがって、例えば、振動による建物Bの変位が大きくなるのに伴って振動抑制装置1の反力が過大にならないうちに、この弾性要素の剛性がより小さな値(k1又はk2)に切り替わるようにすることが可能になる。それにより、付加振動系の固有振動数を建物Bの固有振動数と異ならせることで、振動抑制装置1の反力の過大化を防止することができる。
また、第1及び第2油室2d、2e内の作動油HFの過大化が、第1及び第2リリーフ弁24、25によって防止されるので、振動抑制装置1の制御力の過大化を防止することができる。
次に、図5を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置1Aについて説明する。この振動抑制装置1Aは、第1実施形態と比較して、前述した連通路8及び歯車ポンプ9に代えて、連通路41及びピストン機構51を備える点が主に異なっている。図5において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、図5では便宜上、下側の左右の第1及び第2滑車5L、5R、6L、6R、下側の左右のケーブル7L、7R、シール22、23、ならびに、第1リリーフ弁24の符号を省略している。
連通路41は、第1実施形態の連通路8と同様、第1及び第2油室2d、2eに接続されており、作動油HFが充填されている。また、連通路41は、本体部2を中央として互いに対称に設けられた第1通路42及び第2通路43と、第1及び第2通路42、43の間に設けられ、本体部2と平行に左右方向に延びる第3通路44を一体に有している。これらの第1〜第3通路42〜44は、その断面(軸線方向に直交する面)が円形であり、その断面積(軸線方向に直交する面の面積)が、本体部2の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも小さな値に設定されている。
第1通路42の一端部は、本体部2の左壁2aの径方向の外端部に接続されている。第1通路42は、左壁2aから左方に延びるとともに、直角に屈曲して径方向の外方に延びている。また、第1通路42の他端部は、第3通路44の左端部に接続されている。第2通路43の一端部は、本体部2の右壁2bの径方向の外端部に接続されている。第2通路43は、右壁2bから右方に延びるとともに、直角に屈曲して径方向の外方に延びている。また、第2通路43の他端部は、第3通路44の右端部に接続されている。
さらに、第3通路44の周壁44aの内面には、一対のレール44b、44bが一体に設けられている。便宜上、図5では、レール44b、44bの断面を示すハッチングを省略している。レール44b、44bは、第3通路44の径方向に若干、突出するとともに、径方向において互いに対向するように配置されている。各レール44bは、第3通路44の第1通路42との接続部と第2通路43との接続部の間の全体にわたって、左右方向に延びている。
また、第3通路44の左右の端部の壁部44c、44cの各々には、左右方向に貫通する支持孔44dが形成されている。また、各壁部44cの内面には、軸受け45が取り付けられており、支持孔44dには、シール46が設けられている。これらの支持孔44d、スラスト軸受け45及びシール46は、第3通路44と同軸状に配置されている。
ピストン機構51は、本出願人による特願2012-250465号の図2〜図4などに開示されたものと同様に構成されており、ねじ軸52及びピストン53を有している。ねじ軸52は、上記の支持孔44d、44dに挿入され、スラスト軸受け45、45に回転可能に支持されるとともに、第3通路44に部分的に収容されており、左右方向に延びている。ねじ軸52の左部及び右部には、フランジ52a、52aがそれぞれ一体に設けられており、これらのフランジ52a、52aは、左右方向の内側から、スラスト軸受け45、45にそれぞれ接触している。以上の構成により、ねじ軸52は、第3通路44に対して回転可能であり、かつ軸線方向に移動不能である。
上記のピストン53は、円筒状のナット53a、左右一対の押圧部53b、53bで構成されており、第3通路44に収容されている。ナット53aは、ボール(図示せず)を介して、ねじ軸52に螺合しており、ねじ軸52に対して回転可能である。このように、ねじ軸52、ナット53a及びボールは、ボールねじを構成している。ねじ軸52及びナット53aのリード角は、比較的小さな値に設定されている。
左右の押圧部53b、53bは、その各々がドーナツ板状に形成され、ナット53aよりも大きな外径を有しており、ナット53aの左右の端部に同軸状に一体にそれぞれ固定されている。各押圧部53bには、その外周部に一対の凹部(図示せず)が形成されており、その外周面にシール54が取り付けられている。また、押圧部53bの径方向の中央には、軸線方向に貫通する案内孔(図示せず)が形成されており、この案内孔には、シール(図示せず)が取り付けられている。さらに、押圧部53bは、第3通路44の内周面に、シール54を介して嵌合するとともに、その一対の凹部が、第3通路44のレール44b及び44bに、シール54を介してそれぞれ係合している。また、押圧部53bの案内孔には、ねじ軸52が、シール(図示せず)を介して回転可能に嵌合している。
以上の構成により、ピストン53は、ねじ軸52に対して回転可能であり、また、ねじ軸52に沿って第3通路44内を摺動可能で、かつ第3通路44に対して回転不能である。
また、ねじ軸52の左端部は、第3通路44の壁部44cよりも左方に突出する突出部52bになっており、突出部52bには、前述した電気モータ15のロータが同軸状に連結されている。
以上の構成の振動抑制装置1Aは、第1実施形態と同様にして、建物Bの上下の梁BU、BD(図1参照)に連結されており、建物Bが静止しているときには、ピストン4は、図5に示す中立位置にある。
また、建物Bの振動時、上梁BUが下梁BDに対して左方に変位したときには、第1実施形態の場合と同様、当該変位が本体部2及びロッド3に伝達されることによって、ロッド3及び左右のフランジ3a、3bが本体部2に対して右方に移動し、それに伴い、ピストン4が、ロッド3及び左ケーブル7Lで引っ張られることにより、本体部2に対して左方に移動する。このピストン4の移動に伴い、第1油室2d内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、この作動油HFの一部が、第1通路42を通って第3通路44側に流動する。この作動油HFの流動に伴い、第3通路44内のピストン53が、作動油HFで押圧され、第2通路43側に移動することによって、ピストン53のナット53aに螺合するねじ軸52が、電気モータ15と一緒に回転させられる。
また、建物Bの振動時、上記とは逆に、上梁BUが下梁BDに対して右方に変位したときには、第1実施形態の場合と同様、当該変位が本体部2及びロッド3に伝達されることによって、ロッド3及び左右のフランジ3a、3bが本体部2に対して左方に移動し、それに伴い、ピストン4が、ロッド3及び右ケーブル7Rで引っ張られることにより、本体部2に対して右方に移動する。このピストン4の移動に伴い、第2油室2e内の作動油HFがピストン4で圧縮されることによって、この作動油HFの一部が、第2通路43を通って第3通路44側に流動する。この作動油HFの流動に伴い、第3通路44内のピストン53が、作動油HFで押圧され、第1通路42側に移動することによって、上記の場合と同様、ねじ軸52が電気モータ15と一緒に回転させられる。
以上の動作から明らかなように、建物Bの振動中、第1及び第2油室2d、2e内の作動油HFの圧力は、第1実施形態と同様、本体部2及びロッド3に上述したように伝達される外力に抗するように作用し、すなわち、建物Bの振動を抑制するための制御力として、建物Bに作用する。振動抑制装置1Aでは、第1実施形態と同様に、電気モータ15の制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。第1及び第2制御モードでは、電気モータ15に電源32からの電力を供給し、電気モータ15でねじ軸52を回転させ、それにより連通路41に対してピストン53を移動させることで、連通路41内の作動油HFに流動を生じさせることによって、振動抑制装置1Aの制御力が調整される。
より具体的には、第1制御モードでは、振動による外力がロッド3及びピストン4に伝達されたときに、電気モータ15によるピストン53の駆動により生じる作動油HFの流動方向(以下「ピストン駆動流動方向」という)が、振動流動方向(振動による外力によりピストン4が移動することで生じる作動油HFの流動方向)と反対方向になるように、電気モータ15の回転方向が制御される。これにより、振動抑制装置1Aのより大きな制御力が発生する。この場合、電気モータ15の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1Aの制御力が調整され、電気モータ15の回転数が高いほど、振動流動方向と反対方向に流れる作動油HFの流動量が大きくなることによって、制御力はより大きくなる。
第2制御モードでは、振動による外力がロッド3及びピストン4に伝達されたときに、ピストン駆動流動方向が振動流動方向と同方向になるように、電気モータ15の回転方向が制御される。これにより、振動抑制装置1Aのより小さな制御力が発生する。この場合にも、電気モータ15の回転数を変化させることによって、振動抑制装置1Aの制御力が調整され、第1制御モードの場合と異なり、電気モータ15の回転数が高いほど、振動流動方向と同方向に流れる作動油HFの流動量が大きくなることによって、制御力はより小さくなる。
上記の第3制御モードでは、振動による外力によりピストン4が移動することで発生した作動油HFの流動を用いて電気モータ15で発電を行うとともに、その発電電力を変化させることによって、振動抑制装置1Aの制御力が調整される。この場合、作動油HFの流動が、ピストン53及びねじ軸52により回転運動に変換され、さらに電気モータ15で電気エネルギに変換(発電)される。第3制御モードにおける振動抑制装置1Aの制御力は、電気モータ15の発電電力が大きいほど、作動油HFが流れにくくなることによって、より大きくなる。第1〜第3制御モードの各々で得られる制御力の大小関係は、第1実施形態と同様、第1制御モード>第3制御モード>第2制御モードの順になっている。なお、制御モードとして、第1〜第3制御モードのうちの1つ又は2つの制御モードを設定してもよい。
また、振動抑制装置1Aでは、第1〜第3制御モードによる制御を実行するための振動抑制制御処理が、第1実施形態と同様に実行される。
さらに、振動抑制装置1Aでは、第1実施形態と同様、作動油HF及び電気モータ15から成る慣性要素が、左右のケーブル7L、7Rから成る弾性要素に直列に接続された関係にある。このため、例えば建物Bの停電時などで、電源32から電気モータ15に電力が供給されていないときに、振動抑制装置1Aは、付加振動系(動吸振器)として機能する。この場合、付加振動系の諸元は、その固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、付加振動系の固有振動数は、作動油HFの流動による慣性質量mF、ねじ軸52などから成るボールねじの影響を考慮した電気モータ15の回転慣性質量mM及びケーブル7L、7Rの剛性θTによって定まる(=sqrt{θT/(mF+mM)}/2π)。
以上により、第2実施形態によれば、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
次に、図6を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置1Bについて説明する。この振動抑制装置1Bは、第1実施形態と比較して、単一のフランジ3i、左右一対のピストン62L、62R及びシリンダCYL、CYRを備える点が主に異なっている。図6において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
本体部61は、第1実施形態の本体部2と同様に円筒状に構成されており、周壁61aと、周壁61aの左右の端部に設けられた左右の端壁61b、61cと、左端壁61bと右端壁61cの間に左側から順に設けられた円板状の第1壁部61d、第2壁部61e及び第3壁部61fを一体に有している。本体部61内は、第1〜第3壁部61d〜61f及び右端壁61cによって、左油室と、中央の収容室61gと、右油室に区画されている。以上のように、本体部61は、周壁61aの左部、第1及び第2壁部61d、61eから成る左シリンダCYLと、周壁61aの右部、第3壁部61f及び右端壁61cから成る右シリンダCYRを有している。
また、左右のシリンダCYL、CYR内の左右の油室にはそれぞれ、円柱状の左右のピストン62L、62Rが摺動可能に収容されており、上記の収容室61gには、ロッド3の中央に一体に設けられたフランジ3iと、第1及び第2滑車5L、6L、5R、6Rと、左右のケーブル7L、7Rが収容されている。また、左右の油室はそれぞれ、左右のピストン62L、62Rによって、フランジ3i側の第1油室C1L、C1Rと、フランジ3iと反対側の第2油室C2L、C2Rに区画されており、これらの第1及び第2油室C1L、C1R、C2L、C2Rには、作動油HFが充填されている。
第1〜第3壁部61d〜61f及び右端壁61cの径方向の中央には、左右方向に貫通するロッド案内孔61h、61i、61j、61kがそれぞれ形成されており、ロッド案内孔61h、61i、61j、61kの各々には、シール63が設けられている。第2及び第3壁部61e、61fの各々には、左右のケーブル7L、7Rにそれぞれ対応して、ケーブル案内孔(図示せず)が形成されており、各ケーブル案内孔には、シール(図示せず)が設けられている。
ロッド3は、上記のロッド案内孔61h〜61kにシール63を介して挿入され、左右方向(軸線方向)に延びるとともに、その大部分が本体部61に収容されており、本体部61から右方に突出している。また、ロッド3は、本体部61に対して、フランジ3iと一緒に左右方向に移動可能である。
また、左右のピストン62L、62Rの各々の周面には、シール64が設けられており、各ピストンの径方向の中央には、左右方向に貫通するロッド案内孔62aが形成されている。各ピストンのロッド案内孔62aには、ロッド3がシール65を介して挿入されている。左右のピストン62L、62Rは、ロッド3に対して左右方向(軸線方向)に移動可能であり、左右のシリンダCYL、CYR内(左右の油室)をそれぞれ左右方向に摺動可能である。また、左右のピストン62L、62Rの各々には、前述した第1及び第2リリーフ弁24、25が設けられている。第1リリーフ弁24によって、対応するピストンが収容された第1油室C1L(C1R)内の作動油HFの過大化が防止され、第2リリーフ弁25によって、対応するピストンが収容された第2油室C2L(C2R)内の作動油HFの過大化が防止される。
左側の第1滑車5Lは第2壁部61eに、左側の第2滑車6Lはフランジ3iの左端部に、それぞれ取り付けられており、両滑車5L、6Lは、互いに対向している。左ケーブル7Lは、その一端部がフランジ3iの左端部に取り付けられていて、その途中で第1及び第2滑車5L、6Lに折り返された状態で巻き回され、さらに第2壁部61eの前記ケーブル案内孔にシールを介して挿通されており、他端部が左ピストン62Lの右端部に取り付けられている。
また、右側の第1及び第2滑車5R、6Rならびに右ケーブル7Rは、フランジ3iを中心として、左側の第1及び第2滑車5L、6Lならびに左ケーブル7Lと左右対称にそれぞれ設けられている。第1滑車5Rは第3壁部61fに、第2滑車6Rはフランジ3iの右端部に、それぞれ取り付けられており、両滑車5R、6Rは、互いに対向している。また、右ケーブル7Rは、その一端部がフランジ3iの右端部に取り付けられていて、その途中で第1及び第2滑車5R、6Rに折り返された状態で巻き回され、さらに第3壁部61fの前記ケーブル案内孔にシールを介して挿通されており、他端部が右ピストン62Rの左端部に取り付けられている。
また、振動抑制装置1Bは、左右の第1油室C1L、C1Rに接続された第1連通路66と、左右の第2油室C2L、C2Rに接続された第2連通路67をさらに備えている。第1連通路66には、作動油HFが充填されるとともに、前述した歯車ポンプ9が設けられている。
以上の構成の振動抑制装置1Bは、第1実施形態と同様にして、建物Bの上下の梁BU、BD(図1参照)に連結されており、建物Bが静止しているときには、左右のピストン62L、62Rは、図6に示す中立位置にある。
また、建物Bの振動時、下梁BDが上梁BUに対して左方に変位したときには、当該変位が本体部61及びロッド3に伝達されることによって、ロッド3及びフランジ3iが本体部61に対して左方に移動し、それに伴い、右ピストン62Rが、ロッド3及び右ケーブル7Rで引っ張られることにより、本体部61に対して左方に移動する。この右ピストン62Rの移動に伴い、右側の第1油室C1R内の作動油HFの一部が、第1連通路66を通って左側の第1油室C1L側に流動する。この作動油HFの流動に伴い、歯車ポンプ9の第1ギヤ11が電気モータ15と一緒に回転させられる。
また、第1油室C1L側に流動した作動油HFの圧力により、左ピストン62Lが本体部61に対して左方に移動する。これにより、左ケーブル7Lは、左ピストン62Lで左方に引っ張られることにより、緩みのない状態に保たれる。さらに、この左ピストン62Lの左方への移動に伴い、左側の第2油室C2L内の作動油HFの一部が、第2連通路67を通って右側の第2油室C2R側に流動する。
また、建物Bの振動時、上記とは逆に、下梁BDが上梁BUに対して右方に変位したときには、左右のピストン62L、62Rが上記とは逆に右方に移動し、第1及び第2連通路66、67における作動油HFの流動方向が逆になるだけで、上記と同じ動作が得られる。
以上の動作から明らかなように、建物Bの振動中、左右の第1油室C1L、C1R内の作動油HFの圧力は、本体部2及びロッド3に上述したように伝達される外力に抗するように作用し、すなわち、建物Bの振動を抑制するための制御力として、建物Bに作用する。振動抑制装置1Bでは、第1実施形態と同様、建物Bの振動中、電気モータ15を制御することによって、この制御力が調整され、その制御モードとして、第1〜第3制御モードが設定されている。また、第1〜第3制御モードによる制御を実行するための振動抑制制御処理が、第1実施形態と同様に実行される。これにより、第1実施形態と同様、第1連通路66内における作動油HFの流動量が変更されることで、左右の第1油室C1L、C1R内の作動油HFの圧力が調整されることによって、振動抑制装置1Bがアクティブダンパとして機能する。
また、振動抑制装置1Bでは、第1実施形態と同様、作動油HF及び電気モータ15から成る慣性要素が、左右のケーブル7L、7Rから成る弾性要素に直列に接続された関係にある。このため、例えば建物Bの停電時などで、電源32から電気モータ15に電力が供給されていないときに、振動抑制装置1Bは、付加振動系(動吸振器)として機能する。この場合、付加振動系の諸元は、その固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、設定されている。当該設定は、例えば定点理論に基づいて行われる。ここで、付加振動系の固有振動数は、作動油HFの流動による慣性質量mF、歯車ポンプ9の影響を考慮した電気モータ15の回転慣性質量mM及びケーブル7L、7Rの剛性θTによって定まる(=sqrt{θT/(mF+mM)}/2π)。
以上のように、第3実施形態によれば、本体部61の左右一対のシリンダCYL、CYRが、ロッド3の中央に位置するフランジ3iの軸線方向の両側に、それぞれ別個に設けられており、左右一対のピストン62L、62Rは、左右のシリンダCYL、CYR内にそれぞれ摺動可能に、かつロッド3に軸線方向に移動可能に設けられている。左右のシリンダCYL、CYR内はそれぞれ、ピストン62L、62Rによって、フランジ3i側の第1油室C1L、C1Rと、フランジ3iと反対側の第2油室C2L、C2Rに区画されており、これらの第1及び第2油室C1L、C2L、C1R、C2Rには、作動油HFが充填されている。また、左右のピストン62L、62Rは、左右のケーブル7L、7Rをそれぞれ介してフランジ3iに連結されており、左右のケーブル7L、7Rは、左右のピストン62L、62Rの間に配置されたフランジ3iから、互いに反対方向に延びている。
また、第1油室C1L、C1Rに、第1連通路66が接続されており、第1連通路66に、作動油HFが充填されている。さらに、歯車ポンプ9及び電気モータ15によって、第1連通路66内の作動油HFが、第1油室C1L又は第1油室C1R側に流動させられるとともに、その流動量が変更されることによって、ピストン62L、62RをシリンダCYL、CYR内で移動させるように、第1油室C1L、C1R内における作動油HFの圧力が調整される。これにより、上下の梁BU、BDに作用する作動油HFの圧力が変更されることによって、振動抑制装置1Bは、いわゆるアクティブダンパとして機能する。
この場合、第1実施形態と同様、ケーブル7L、7Rが、本体部61に取り付けられた第1滑車5L、5Rと、フランジ3iに取り付けられた第2滑車6L、6Rに巻き回されているので、これらの第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rの一方が他方に対して、いわゆる動滑車として機能する。これにより、作動油HFの圧力による制御力を、ケーブル7L、7Rの巻き回し回数に応じて上下の梁BU、BDに増大した状態で作用させることができるので、比較的大きな制御力を建物Bに作用させることができる。また、前述した従来の振動抑制装置と異なり、本体部61やピストン62L、62Rの径を増大させなくても、上述したように第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rによりケーブル7L、7Rの巻き回し回数に応じて制御力を増大させることができるので、振動抑制装置1B全体の小型化を図ることができる。この場合、ケーブル7L、7R、第1及び第2滑車5L、5R、6L、6Rが本体部61に収容されており、本体部61と別個に設けられていないので、振動抑制装置1B全体のさらなる小型化を図ることができる。
また、歯車ポンプ9及び電気モータ15により作動油HFを一方の第1油室C1L、C1R側に流動させるのに伴い、シリンダCYL、CYR内をピストン62L、62Rが移動することによって、一方の第1油室C1L(C1R)の容積が増大し、他方の第1油室C1R(C1L)の容積が減少するとともに、一方の第2油室C2L(C2R)の容積が減少し、他方の第2油室C2R(C2L)の容積が増大する。これに対して、第2油室C2L、C2Rが、第2連通路67を介して互いに連通しているので、ピストン62L、62Rを支障なく移動させることができ、ひいては、作動油HFの圧力を上下の梁BU、BDに適切に作用させることができる。
さらに、振動抑制装置1Bは、電気モータ15に電力が供給されていないときに、付加振動系(動吸振器)として機能するように構成されており、ケーブル7L、7Rの剛性、作動油HFの慣性質量及び電気モータ15の回転慣性質量を含む当該振動抑制装置1Bの諸元は、建物Bの振動時、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数に同調するように設定されている。これにより、電気モータ15に電力を供給できないことで上下の梁BU、BDに制御力を適切に作用させられないような場合でも、振動抑制装置1Bが付加振動系として機能するので、建物Bの振動を吸収し、適切に抑制することができる。その他、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
なお、第3実施形態では、第2油室C2L、C2Rに、作動油HFを充填しているが、充填しなくてもよい。また、第3実施形態では、第1油室C1L、C1R内における作動油HFの圧力を調整するために、第1連通路66、歯車ポンプ9及び電気モータ15を用いているが、第1油室C1L及びC1Rにそれぞれ接続されるとともに、互いに別個に設けられた第1及び第2流体圧ポンプを用いてもよい。
なお、本発明は、説明した第1〜第3実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、ケーブル7L、7Rをピストン4、62L、62Rに、直接、連結しているが、ばねやゴムなどで構成された弾性体を介して連結してもよい(本出願人による特願2014-197837号の図11などを参照)。また、実施形態では、ケーブル7L、7Rをフランジ3a、3b、3iに、直接、連結しているが、弾性体を介して連結してもよい。
上記のように弾性体を設けた場合には、これまでに説明した付加振動系は、その弾性要素として左右のケーブル7L、7Rと、弾性体を有する。このため、この付加振動系の固有振動数を構造物の所望の固有振動数に同調(共振)させるために弾性要素全体の剛性を調整するにあたり、当該調整を、弾性体の剛性を介して自由に行うことができる。
さらに、第1及び第2実施形態に関し、上述したように弾性体を設ける場合には、左右のケーブル7L、7Rを、ピストン4に次のようにして連結してもよい。すなわち、左右のケーブル7L、7Rを共通の単一のケーブルで構成し、このケーブルをピストンに形成されたケーブル案内孔に挿通するとともに、ケーブルに一体に設けられた一対のナットでピストンを両側から弾性体を介して挟み込み、それにより、ケーブルをピストンに連結する。また、実施形態では、ケーブル4L、4Rは、鋼線であるが、テンションを付与することにより剛性を発揮するものであればよく、例えば帯状の鋼板でもよい。なお、第1及び第2滑車5L、6L、5R、6Rへのケーブル7L、7Rの巻き数は、任意に設定可能であり、当該設定により、伝達される建物Bの変位の増幅倍率を自由に設定することができる。
さらに、実施形態では、本体部2、61やピストン4、62L、62Rの断面形状は、円形状であるが、他の適当な形状、例えば矩形状や、多角形状でもよい。このことは、第2実施形態の連通路41及びピストン53についても同様に当てはまり、そのように両者41、53を構成した場合には、前述した押圧部53bの凹部及び第3通路44のレール44bを省略しても、ピストン53を第3通路44に対して回転不能に設けることができる。
また、実施形態では、本発明における作動流体として、作動油HFを用いているが、他の適当な流体を用いてもよい。さらに、実施形態では、本発明における流量可変装置の駆動源として、電気モータ15を用いているが、油圧モータを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における流体駆動機構として、第1及び第3実施形態では歯車ポンプ9を、第2実施形態ではピストン機構51を、それぞれ用いているが、他の適当な機構、例えば、ベーンポンプや、本出願人による特許第5191579号の段落[0049]や図2、図5に記載されたスクリュー機構などを用いてもよい。さらに、第3実施形態に関し、歯車ポンプ9に代えて、ピストン機構51を用いてもよいことは、もちろんである。
また、実施形態では、1つの振動抑制装置1、1A、1Bを、上下の梁BU、BDにブレース状に設けているが、振動による両者BU、BDの間の上下方向の変位を抑制するために、上下方向に延びるように設けてもよく、あるいは、2つの振動抑制装置を、上下の梁にV字状又は逆V字状に設けてもよい。さらに、実施形態では、本発明における第1及び第2部位として、上下の梁BU、BDをそれぞれ採用し、2層間の層間変位を抑制しているが、他の適当な部位を採用してもよい。例えば、第1及び第2部位として、互いの間に1つ以上の梁が設けられた上下の梁をそれぞれ採用し、3層以上の間の層間変位を抑制してもよく、あるいは、建物Bが立設された基礎、及び梁をそれぞれ採用してもよい。また、実施形態では、振動抑制装置1、1A、1Bを左右方向に延びる梁BU、BDに連結することによって、建物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、前後方向に延びる梁に連結することによって、建物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。
さらに、実施形態は、本発明による振動抑制装置1、1A、1Bを高層の建物Bに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔や橋梁などにも適用可能である。また、実施形態では、振動抑制装置1、1A、1Bを、建物Bの層間に設置し、制振装置として用いているが、これに限らず、構造物とこれを支持する支持体の間に設置し、免震装置として用いてもよい。さらに、第1及び第2実施形態では、本発明における流体圧調整装置として、連通路8、歯車ポンプ9及び電気モータ15を組み合わせた装置を用いているが、第1及び第2油室2d、2eにそれぞれ接続されるとともに、互いに別個に設けられた第1及び第2流体圧ポンプを用いてもよい。また、第1及び第2実施形態に関し、本体部2などの構成として、本出願人による特願2014-197837号の図4〜図6などに示されたような構成を採用してもよい。さらに、以上の実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。