以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1に示す本発明の第1実施形態による振動抑制装置1は、ラック倉庫Rの振動(主に水平方向の振動)を抑制するためのものであり、ラック倉庫Rの上端部に設けられている。図1に示すように、振動抑制装置1は、質量体2、複数の伝達部材3、当接板4、支持体5及び可変減衰ダンパ6を備えている。質量体2は、比較的比重の大きい材料、例えば鉄で構成されており、直方体状に形成されている。なお、図1では、便宜上、細部の構成要素の符号を省略している。
図2に示すように、各伝達部材3は、一般的なゴムタイプの免震装置と同様に構成されており、上下一対の矩形板状のフランジ11、11と、両フランジ11、11の間に、互いに一体に積層された円板状の複数の内部ゴム12と、内部ゴム12の外表を覆う円筒状の被覆ゴム13を有している。内部ゴム12は、上下の内部鋼板14、14をそれぞれ介して、上下のフランジ11、11に取り付けられている。なお、図2では、便宜上、内部ゴム12の一部の符号と、内部ゴム12、被覆ゴム13及び内部鋼板14、14の断面のハッチングを省略している。
各フランジ11の4つの角部の各々には、上下方向に貫通する3つの取付孔11aが形成されており、各取付孔11aには、ボルト(図示せず)が挿入されている。上側のフランジ11の取付孔11aに挿入されたボルトは、質量体2の底面にねじ込まれており、下側のフランジ11の取付孔11aに挿入されたボルトは、ラック倉庫Rの上端部にねじ込まれている。以上により、質量体2は、ラック倉庫Rの上端部に取り付けられた伝達部材3によって支持されている。
前記複数の当接板4の各々は、摩擦係数が安定した材料、例えばステンレスで構成されており、質量体2の底面に貼り付けられている。複数の支持体5は、複数の当接板4に対応して設けられている。図3に示すように、複数の支持体5の各々は、円板状の滑り板21と、矩形板状のフランジ22と、滑り板21とフランジ22の間に、互いに一体に積層された円板状の複数の内部ゴム23と、内部ゴム23の外表を覆う円筒状の被覆ゴム24を有している。内部ゴム23は、上下の内部鋼板25、25をそれぞれ介して、滑り板21及びフランジ22に取り付けられている。滑り板21は、摩擦係数が安定した材料、例えばフッ素樹脂で構成されている。なお、図3では、便宜上、内部ゴム23の一部の符号と、滑り板21、内部ゴム23、被覆ゴム24及び内部鋼板25、25の断面のハッチングを省略している。
フランジ22の4つの角部の各々には、上下方向に貫通する3つの取付孔22aが形成されており、各取付孔22aには、ボルト(図示せず)が挿入されている。これらのボルトはラック倉庫Rの上端部にねじ込まれており、それにより、支持体5は、ラック倉庫Rの上端部に取り付けられている。図1及び図7(a)に示すように、ラック倉庫Rが振動していないときには、支持体5の滑り板21は、当接板4に所定の間隔DIを存した状態で上下方向に対向している。この所定の間隔DIの設定手法については後述する。
また、前記複数の可変減衰ダンパ6の各々は、その減衰係数が無段階に変更可能な、いわゆるアクティブタイプの可変減衰ダンパとして構成されている。図4に示すように、各可変減衰ダンパ6は、円筒状のシリンダ31と、シリンダ31内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン32と、ピストン32に一体に設けられ、シリンダ31内に軸線方向に移動自在に部分的に収容されたロッド33を有している。以下、可変減衰ダンパ6について、図4の左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」として説明する。
シリンダ31は、互いに対向する左壁31a及び右壁31bと、両者31a、31bの間に一体に設けられた周壁31cで構成されている。これらの左右の壁31a、31b及び周壁31cによって画成された油室は、ピストン32によって左側の第1油室31dと右側の第2油室31eに区画されており、両油室31d、31eには、シリコンオイルで構成された作動油HFが充填されている。また、右壁31bの径方向の中央には、左右方向(軸線方向)に貫通するロッド案内孔31fが形成されており、ロッド案内孔31fには、シール41が設けられている。さらに、左壁31aには、左方に突出する凸部31gが一体に設けられており、凸部31gには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。
前記ロッド33は、上記のロッド案内孔31fに、シール41を介して挿入され、軸線方向に延びるとともに、シリンダ31に対して軸線方向に移動自在であり、その左端部がピストン32に取り付けられている。また、ロッド33の右端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
前記ピストン32は、円柱状に形成され、その周面には、シール42が設けられており、ラック倉庫Rが振動していないときには、図4に示すように、シリンダ31内の軸線方向の中央の中立位置に位置している。この中立位置は、これに限らず、シリンダ31内の軸線方向の中央よりも左側又は右側の位置でもよい。また、ピストン32の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁43及び第2リリーフ弁44が設けられている。
第1リリーフ弁43は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、ラック倉庫Rの振動に伴うピストン32の移動によって第1油室31d内の作動油HFの圧力が所定の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室31d、31eが互いに連通されることによって、第1油室31d内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁44は、第1リリーフ弁43と同様、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、ラック倉庫Rの振動に伴うピストン32の移動によって第2油室31e内の作動油HFの圧力が上記の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室31d、31eが互いに連通されることによって、第2油室31e内の作動油HFの圧力の過大化が防止される。
また、可変減衰ダンパ6は、シリンダ31に接続された、断面円形の連通管34と、連通管34に設けられた調整弁35をさらに有している。連通管34の断面積(軸線方向に直交する面の面積)は、シリンダ31の断面積(軸線方向に直交する面の面積)よりも小さな値に設定されている。連通管34は、その一端部及び他端部が左壁31a及び右壁31bにそれぞれ接続され、ピストン32をバイパスしており、第1及び第2油室31d、31eは、連通管34を介して互いに連通している。
調整弁35は、その開度をリニアに変更可能なノーマルオープン式の電磁弁で構成され、連通管34を開閉可能に設けられており、後述する駆動装置51に接続されている(図6参照)。調整弁35の開度は、駆動装置51からの後述する制御信号によって制御され、この制御信号が入力されていないときには、全開状態になる。
また、図5に示すように、可変減衰ダンパ6の前述した第1取付具FL1は第1連結部材EN1に、第2取付具FL2は第2連結部材EN2に、それぞれ取り付けられており、第1連結部材EN1は質量体2の底面に、第2連結部材EN2はラック倉庫Rの上端部に、それぞれ取り付けられている。以上により、可変減衰ダンパ6は、そのシリンダ31が質量体2に連結され、ピストン32がロッド33とともにラック倉庫Rに連結されており、水平方向に延びている。なお、図5では、便宜上、連通管34を省略している。
さらに、ラック倉庫Rの上端部には、地震などに伴って発生したラック倉庫Rの上端部の振動による加速度(以下「上端部振動加速度」という)を検出する加速度センサ52が設けられている。加速度センサ52は、例えば半導体式のものであり、その検出信号は、駆動装置51に入力される(図6参照)。駆動装置51は、バッテリや、電気回路、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されており、ラック倉庫Rとともに建物(図示せず)内に設けられている。
振動抑制装置1では、質量体2、伝達部材3及び可変減衰ダンパ6は、付加振動系を構成しており、付加振動系は、ラック倉庫Rが振動するのに伴って振動(共振)することにより、ラック倉庫Rの振動を吸収し、抑制する。また、可変減衰ダンパ6のピストン32は、ラック倉庫Rの振動に伴って、シリンダ31内を往復移動し、当該移動するピストン32で押圧された作動油HFは、連通管34を介して、第1及び第2油室31d、31eの一方から他方に流動する。この場合、連通管34に設けられた調整弁35の開度が駆動装置51で制御されることによって、可変減衰ダンパ6の減衰係数が無段階に変更され、可変減衰ダンパ6の減衰係数は、調整弁35の開度が小さいほど、より大きくなる。駆動装置51による調整弁35の制御の詳細については後述する。
また、伝達部材3、支持体5及び可変減衰ダンパ6は、質量体2とラック倉庫Rの間に、次のようにして配置されている。すなわち、図1に示すように、伝達部材3は、質量体2の水平方向の両端部及び中央部に配置されている。支持体5及び可変減衰ダンパ6は、質量体2の水平方向の両端部に配置された伝達部材3と中央部に配置された伝達部材3との間に、質量体2の中央部に向かって、支持体5、可変減衰ダンパ6及び支持体5の順で配置されている。なお、図1に示す伝達部材3、支持体5及び可変減衰ダンパ6の配置は、あくまで一例であり、これに限定されないことはもちろんである。
また、前述した当接板4と支持体5の滑り板21との間の所定の間隔DIは、次のようにして設定されている。すなわち、ラック倉庫Rの振動中、付加振動系が振動するのに伴い、質量体2が水平方向に往復移動することによって、質量体2を支持する伝達部材3は、図7(b)に示すように剪断変形するようになる。この場合、ラック倉庫Rの振動が大きいほど、付加振動系の振動が大きくなるので、伝達部材3の剪断変形の度合いがより大きくなる。
所定の間隔DIは、例えば巨大地震などによりラック倉庫Rの振動が後述する所定変位DREFよりも非常に大きくなったときに、伝達部材3の上述した剪断変形により質量体2がラック倉庫Rに近づくことによって当接板4及び滑り板21が互いに当接するように、設定されている。この場合、ラック倉庫Rの振動が大きいことで伝達部材3の剪断変形の度合いが大きいほど、質量体2がラック倉庫Rにより近づくため、当接板4及び滑り板21の間の当接度合いは、より大きくなる。なお、当接板4及び支持体5の滑り板21が互いに当接している状態では、質量体2は、伝達部材3及び支持体5の両方に支持される。
図8(a)は、伝達部材3の水平方向の変形量(以下「伝達部材変形量DE」という)と、その抵抗力(以下「伝達部材抵抗力RE」という)との関係を示している。図8(b)は、伝達部材変形量DEと、当接板4及び滑り板21の間の摩擦力(以下「当接摩擦力FR」という)との関係を示しており、図8(c)は、伝達部材変形量DEと、伝達部材抵抗力RE及び当接摩擦力FRの和(以下「合同抵抗力UR」という)との関係を示している。
伝達部材3が前述したようにゴムで構成されているため、図8(a)に示すように、伝達部材抵抗力REは、伝達部材変形量DEが大きいほど、リニアにより大きくなる。また、当接板4と滑り板21との間の所定の間隔DIが上述したように設定されていることと、伝達部材変形量DEが大きいほど、両者4、21の間の当接度合いがより大きくなることから、図8(b)に示すように、当接摩擦力FRは、伝達部材変形量DEが比較的小さいときには0になり、伝達部材変形量DEが比較的大きい範囲では、DEが大きくなるほど、リニアにより大きくなる。なお、当接摩擦力FRは、伝達部材変形量DEが増大するときと、減少するときとでは、伝達部材抵抗力REと異なり、その向きが互いに反対方向になる。
また、合同抵抗力URは、伝達部材抵抗力REと当接摩擦力FRとの和であるので、伝達部材変形量DEと合同抵抗力URの間の関係は、図8(a)及び図8(b)に示す関係を互いに足し合わせることによって得られた図8(c)に示すような関係になる。同図に示すように、伝達部材変形量DEが増大しているときには、合同抵抗力URは、DEが大きいほど、図8(c)に示す履歴特性により大きくなる。
また、後述する図9に示すダンパ制御処理によって、可変減衰ダンパ6の減衰係数は、地震などによるラック倉庫Rの振動の中期以後に、所定係数に調整される。この所定係数、質量体2の質量及び伝達部材3の剛性は、ラック倉庫Rの振動中、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数がラック倉庫Rの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、例えば定点理論に基づいて設定されている。ここで、付加振動系の固有振動数は、質量体2の質量md及び伝達部材3の剛性θTによって定まる(=sqrt(θT/md)/2π)。また、所定係数は、より具体的には、制御対象構造物(ラック倉庫R)の共振曲線(図示せず)における2つの定点(P、Q)の付近で、ラック倉庫Rの応答がほぼ最大になるように、設定されている。
次に、図9を参照しながら、駆動装置51によって実行される上記のダンパ制御処理について説明する。本処理は、可変減衰ダンパ6の減衰係数を調整すべく、調整弁35を制御するための処理であり、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。まず、図9のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、ラック倉庫Rが地震などにより振動中であるか否かを判別する。この判別は、例えば、検出された上端部振動加速度が所定加速度よりも大きいときに、ラック倉庫Rが振動中であると判別される。
上記ステップ1の答がNOで、ラック倉庫Rが振動中でないときには、最適制御中フラグF_OPTを「0」にリセットする(ステップ2)とともに、調整弁35への制御信号の入力を停止することによって、調整弁35を全開状態に制御し(ステップ3)、本処理を終了する。この最適制御中フラグF_OPTは、後述する最適制御の実行中であることを「1」で表すものである。
一方、ステップ1の答がYESで、ラック倉庫Rの振動中であるときには、最適制御中フラグF_OPTが「1」であるか否かを判別する(ステップ4)。この答がNO(F_OPT=0)のときには、振動によるラック倉庫Rの上端部の絶対変位(以下「上端部振動変位」という)DISRを、検出された上端部振動加速度を積分することによって算出する(ステップ5)。次いで、算出された上端部振動変位DISRが所定変位DREF以上であるか否かを判別する(ステップ6)。この所定変位DREFは、実験などにより、ラック倉庫Rに所定の地震波を入力した場合において、その振動の中期におけるラック倉庫Rの上端部の絶対変位に設定されている。
上記ステップ6の答がNOで、上端部振動変位DISRが所定変位DREFよりも小さいときには、前記ステップ2及び3を実行し、調整弁35を全開状態に制御した後、本処理を終了する。
一方、ステップ6の答がYESになり、上端部振動変位DISRが所定変位DREFに達したときには、最適制御を実行するために、最適制御中フラグF_OPTを「1」に設定し(ステップ7)、ステップ8に進む。このステップ7の実行により前記ステップ4の答がYESになり、その場合には、上記ステップ5〜7をスキップし、ステップ8に進む。
このステップ8では、調整弁35に制御信号を入力することによって、調整弁35の開度を全開よりも閉じ側の所定開度に制御した後、本処理を終了する。この所定開度は、可変減衰ダンパ6の減衰係数が前述した所定係数になるように設定されており、作動油HFの粘性係数、シリンダ31の断面積、連通管34の断面積及び長さなどに基づいて設定されている。以上により、最適制御の実行中、可変減衰ダンパ6の減衰係数は所定係数に調整される。
以上のように、第1実施形態によれば、質量体2が、ラック倉庫Rの上端部に取り付けられた伝達部材3に、載置された状態で支持されており、可変減衰ダンパ6のシリンダ31が質量体2に、ピストン32がラック倉庫Rに、それぞれ連結されている。また、質量体2、伝達部材3及び可変減衰ダンパ6によって付加振動系が構成されており、付加振動系は、ラック倉庫Rの振動に伴って振動(共振)し、それによりラック倉庫Rの振動が抑制される。可変減衰ダンパ6は、いわゆるアクティブタイプの可変減衰ダンパとして構成されており、その減衰係数が変更可能である。
また、ラック倉庫Rの振動中、上端部振動変位DISRが算出される(ステップ5)とともに、算出された上端部振動変位DISRが所定変位DREFよりも小さいとき(ステップ6:NO)には、調整弁35が全開状態に制御され(ステップ3)、それにより、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数よりも小さな値に調整される。また、上端部振動変位DISRが所定変位DREFに達した以後(ステップ6:YES、ステップ7、ステップ4:YES)には、調整弁35が所定開度に制御されることによって、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数に調整される(ステップ8)。以上により、ラック倉庫Rの振動の初期で、その振動が比較的小さく、それにより上端部振動変位DISRが所定変位DREFよりも小さいときには、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数よりも小さな値に調整される。また、ラック倉庫Rの振動の中期以後で、その振動が比較的大きく、それにより上端部振動変位DISRが所定変位DREFに達した以後には、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数に調整される。
また、伝達部材3の剛性、質量体2の質量及び上記の所定係数は、ラック倉庫Rの振動中、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数がラック倉庫Rの固有振動数に同調するように、設定されている。以上により、ラック倉庫Rの振動の初期に、可変減衰ダンパ6を含む付加振動系の減衰係数が前述した最適減衰係数よりも小さくなるので、付加振動系の応答性を高めることができ、ひいては、ラック倉庫Rの振動をより適切に抑制することができる。また、ラック倉庫Rの振動の中期以後で、可変減衰ダンパ6の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数をラック倉庫Rの固有振動数に同調させることができるので、ラック倉庫Rの振動を適切に抑制することができる。以上のように、第1実施形態によれば、ラック倉庫Rの振動の初期における付加振動系の応答性を高めることができるとともに、ラック倉庫Rの振動の中期以後における振動を適切に抑制することができる。
さらに、質量体2には当接板4が、ラック倉庫Rには支持体5が、それぞれ取り付けられており、支持体5の滑り板21は、当接板4と所定の間隔DIを存した状態で対向している。前述したように、ラック倉庫Rが振動していないときや、ラック倉庫Rの振動が非常に大きくないときには、当接板4及び滑り板21は互いに当接せず、例えば巨大地震などによりラック倉庫Rの振動が非常に大きくなると、当接板4及び滑り板21は互いに当接するようになる。これにより、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに、当接板4及び滑り板21の間の当接摩擦力FRが得られるので、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに付加振動系の変位の過大化に起因する振動抑制装置1及びラック倉庫Rの破損を、防止することができる。
さらに、振動抑制装置1がラック倉庫Rの上端部に設けられているので、ラック倉庫Rの上端部以外の部分に設けた場合と異なり、ラック倉庫R内の荷物などを別の場所に移動させずに、その設置作業を行うことができる。
また、図10は、第1実施形態の変形例による可変減衰ダンパ6Mを示している。図10において、第1実施形態による可変減衰ダンパ6と同じ構成要素については、同じ符号を付している。図4と図10との比較から明らかなように、この変形例による可変減衰ダンパ6Mは、第1実施形態による可変減衰ダンパ6と比較して、連通管34に代えて第1連通管36を有する点と、左右一対の第2連通管37L、37R及び逆止弁45L、45Rをさらに有する点のみが異なっている。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
第1連通管36は、ピストン32がシリンダ31内の前述した中立位置を含む所定の第1区間IN1に位置しているときに、ピストン32をバイパスし、第1及び第2油室31d、31eを互いに連通させるように、設けられている。より具体的には、第1連通管36は、そのシリンダ31との接続部分における中立位置側の内壁面が第1区間IN1の端と面一になるように、配置されている。第1区間IN1は、通常の地震波がラック倉庫Rに入力されたときに、ピストン32が移動し得る最大の区間に設定されている。この変形例では、第1区間IN1の軸線方向の中心は、中立位置と一致しているが、ずれていてもよい。調整弁35は、第1連通管36の途中に設けられている。
第2連通管37L、37Rは、ピストン32が、シリンダ31内の第1区間IN1よりも軸線方向の両外側の最も外側の所定の第2区間IN2に位置しているときに、ピストン32をバイパスし、第1及び第2油室31d、31eを互いに連通させるように、設けられている。より具体的には、左側の第2連通管37Lは、そのシリンダ31との中立位置側(右側)の接続部分における中立位置側の内壁面が第1区間IN1の端に位置するピストン32の中立位置側の壁面と面一になるように、配置されている。また、左側の第2連通管37Lは、そのシリンダ31との中立位置と反対側(左側)の接続部分における中立位置と反対側の内壁面が左壁31aの内壁面と面一になるように、配置されている。右側の第2連通管37Rは、左側の第2連通管37Lと左右対称に配置されており、上述したような左側の第2連通管37Lの配置は、右側の第2連通管37Rについても同様である。
この変形例では、左側の第2区間IN2の軸線方向の長さと、右側の第2区間IN2のそれとは、互いに同じであるが、異なっていてもよい。
さらに、左右の逆止弁45L、45Rは、左側及び右側の第2連通管37L、37Rにそれぞれ設けられている。左側の逆止弁45Lは、ピストン32が左側の第2区間IN2において中立位置と反対側(左側)に向かって移動しているときに、作動油HFが当該ピストン32で押圧されることで第2連通管37Lを介して第1油室31dから第2油室31eに流動するのを、阻止する。また、逆止弁45Lは、ピストン32が左側の第2区間IN2において中立位置側(右側)に向かって移動しているときに、作動油HFが当該ピストン32で押圧されることで第2連通管37Lを介して第2油室31eから第1油室31dに流動するのを、許容する。
右側の逆止弁45Rは、ピストン32が右側の第2区間IN2において中立位置と反対側(右側)に向かって移動しているときに、作動油HFが当該ピストン32で押圧されることで第2連通管37Rを介して第2油室31eから第1油室31dに流動するのを、阻止する。また、逆止弁45Rは、ピストン32が右側の第2区間IN2において中立位置側(左側)に向かって移動しているときに、作動油HFが当該ピストン32で押圧されることで第2連通管37Rを介して第1油室31dから第2油室31eに流動するのを、許容する。
また、調整弁35は、第1実施形態と同様にして制御される。この場合、前述した所定開度は、作動油HFの粘性係数、シリンダ31の断面積、第1連通管36の断面積及び長さなどに基づいて設定される。
以上の構成の可変減衰ダンパ6Mでは、ラック倉庫Rの振動中、その振動が非常に大きくないときには、ピストン32が第1区間IN1内を移動し、第1実施形態による可変減衰ダンパ6と同様の動作を行う。例えば巨大地震などによりラック倉庫Rの振動が非常に大きくなると、ピストン32は、第1区間IN1を超えて第2区間IN2を往復移動するようになる。ピストン32が第2区間IN2において中立位置と反対側に向かって移動しているときには、上述した逆止弁45L、45Rによって、作動油HFが第2連通管37L、37Rを介して第1及び第2油室31d、31eの一方から他方に流動するのが阻止される。
以上の構成から明らかなように、ピストン32が第2区間IN2において中立位置と反対側に向かって移動しているときには、第1及び第2油室31d、31eは、第1連通管36を介しては互いに連通されず、当該ピストン32で押圧された第1又は第2油室31d、31e内の作動油HFの圧力が前記上限値に達したときに、第1又は第2リリーフ弁43、44が開弁することで互いに連通される。それに伴い、当該移動するピストン32で押圧された作動油HFは、第1又は第2リリーフ弁43、44を介して、第1及び第2油室31d、31eの一方から他方に流動する。
以上により、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに、可変減衰ダンパ6Mの非常に大きな減衰係数が得られるので、付加振動系の変位の過大化に起因する振動抑制装置及びラック倉庫Rの破損を、防止することができる。
一方、ピストン32が第2区間IN2において中立位置側に向かって移動しているときには、逆止弁45L、45Rによって、作動油HFが第2連通管37L、37Rを介して第1及び第2油室31d、31eの他方から一方に流動するのが許容される。これにより、ピストン32が中立位置に戻れなくなるのを防止することができる。この場合、第2連通管37L、37Rが前述したように配置されているので、ピストン32が第1区間IN1と第2区間IN2との境界線(同図に一点鎖線で図示)上に位置しているときに、第2連通管37L、37Rがピストン32で完全にふさがれることがなく、上述した効果を適切に得ることができる。
なお、第1実施形態では、シリンダ31を質量体2に、ピストン32をラック倉庫Rに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、シリンダ31をラック倉庫Rに、ピストン32を質量体2に、それぞれ連結してもよい。また、第1実施形態では、シリンダ31、ピストン32及び連通管34の断面形状は、円形であるが、三角形や四角形などでもよい。さらに、第1実施形態では、単一の連通管34を用いているが、第1及び第2油室31d、31eを互いに連通する複数の連通管を用いてもよい。この場合、調整弁をこれらの連通管の少なくとも1つに設けてもよいことは、もちろんである。この場合において、調整弁をこれらの複数の連通管のいずれか1つに設けるときには、この調整弁として、その開度を無段階に変更可能な調整弁に代えて、その開度を全開状態と全閉状態の2つの状態にのみ変更可能な調整弁を用いてもよい。また、複数の連通管を用いる場合には、これらの複数の連通管を、本出願人による特願第2015-027380号に開示されたものと同様に構成してもよい。
また、第1実施形態では、シリンダ31に接続された連通管34を用いているが、シリンダの周壁に形成された連通路を用いてもよい。この場合、連通路は、周壁の内部において軸線方向に延びるとともに、その両端で径方向に延びて第1及び第2油室に連通する孔状の通路で構成される。このような連通路の数も、連通管34と同様に任意である。
さらに、第1実施形態では、作動油HFをシリコンオイルで構成しているが、粘性を有する他の適当な流体で構成してもよい。また、第1実施形態では、可変減衰ダンパ6は、シリコンオイルを用いたタイプのものであるが、MR流体(Magneto-Rheological fluid)を用いたタイプのものでもよい。さらに、第1実施形態では、電磁弁で構成された調整弁35を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの調整弁を用いてもよい。
また、第1実施形態では、積層ゴムで構成された伝達部材3を介して、質量体2をラック倉庫Rに連結しているが、弾性を有する他の適当な伝達部材、例えば、鋼線などで構成されたワイヤを介して、質量体をラック倉庫に振り子状に連結してもよい。さらに、第1実施形態では、質量体2をラック倉庫Rの上端部に連結しているが、他の適当な部分に連結してもよい。
また、第1実施形態では、当接板4を質量体2に、支持体5をラック倉庫Rに、それぞれ取り付けているが、これとは逆に、当接板をラック倉庫に、支持体を質量体に、それぞれ取り付けてもよい。さらに、第1実施形態では、支持体5の滑り板21に当接される被当接体として、質量体2に取り付けられた当接板4を用いているが、質量体に一体に設けられた被当接体を用いてもよく、あるいは、質量体の一部を被当接体として兼用してもよい。また、第1実施形態では、支持体5を積層ゴムで構成しているが、他の適当な材料、例えば鋼材で構成してもよい。さらに、第1実施形態では、第1及び第2リリーフ弁43、44が開弁する作動油HFの圧力を、互いに同じ上限値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。
また、第1実施形態では、本発明における変位パラメータは、上端部振動変位DISRであるが、振動によるラック倉庫Rの変位を表す他の適当なパラメータ、例えば上端部振動加速度などでもよい。さらに、第1実施形態は、本発明による振動抑制装置1を、ラック倉庫Rに適用した例であるが、他の適当な構造物、例えば高層の建築物などに適用してもよい。以上の第1実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて採用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
次に、図11〜図13を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置61について説明する。図11に示すように、この振動抑制装置61は、基礎(図示せず)に立設された高層の建物Bの振動を抑制するためのものであり、建物Bの上下の梁BU、BDの間に設けられている。振動抑制装置61は、上下の梁BU、BDにそれぞれ取り付けられた第1伝達部材TM1及び第2伝達部材TM2と、可変減衰マスダンパ62を備えている。第1及び第2伝達部材TM1、TM2は、弾性を有する柱材、例えばH型鋼で構成されている。
可変減衰マスダンパ62は、マスダンパと、減衰係数を無段階に変更可能なアクティブタイプの可変減衰ダンパを一体に組み合わせたものである。図12に示すように、可変減衰マスダンパ62は、円筒状のシリンダ63と、シリンダ63内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン64と、ピストン64に一体に設けられ、シリンダ63内に軸線方向に移動自在に部分的に収容されたロッド65を有している。以下、可変減衰マスダンパ62について、図11の左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」として説明する。
シリンダ63は、第1実施形態で説明したシリンダ31と同様、互いに対向する左壁63a及び右壁63bと、両者63a、63bの間に一体に設けられた周壁63cで構成されている。これらの左右の壁63a、63b及び周壁63cによって画成された油室は、ピストン64によって左側の第1油室63dと右側の第2油室63eに区画されており、両油室63d、63eには、シリコンオイルで構成された作動油HOが充填されている。また、右壁63bの径方向の中央には、左右方向(軸線方向)に貫通するロッド案内孔63fが形成されており、ロッド案内孔63fには、シール71が設けられている。さらに、左壁63aには、左方に突出する凸部63gが一体に設けられており、凸部63gには、自在継手を介して、第1取付具FL1’が設けられている。
前記ロッド65は、上記のロッド案内孔63fに、シール71を介して挿入され、軸線方向に延びるとともに、シリンダ63に対して軸線方向に移動自在であり、その左端部がピストン64に取り付けられている。また、ロッド65の右端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2’が設けられている。
前記ピストン64は、円柱状に形成され、その周面には、シール72が設けられており、建物Bが振動していないときには、図12に示すように、シリンダ63内の軸線方向の中央の中立位置に位置している。この中立位置は、これに限らず、シリンダ63内の軸線方向の中央よりも左側又は右側の位置でもよい。また、ピストン64の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、第1リリーフ弁73及び第2リリーフ弁74が設けられている。
これらの第1及び第2リリーフ弁73、74は、第1実施形態で説明した第1及び第2リリーフ弁43、44と同様に構成されている。第1リリーフ弁73は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン64の移動によって第1油室63d内の作動油HOの圧力が所定の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室63d、63eが互いに連通されることによって、第1油室63d内の作動油HOの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁74は、弁体と、これを閉弁側に付勢するばねで構成されており、建物Bの振動に伴うピストン64の移動によって第2油室63e内の作動油HOの圧力が上記の上限値に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2油室63d、63eが互いに連通されることによって、第2油室63e内の作動油HOの圧力の過大化が防止される。
また、可変減衰マスダンパ62は、シリンダ63に接続された、断面円形の連通管66と、連通管66の途中に設けられた調整弁67及び歯車モータ81と、歯車モータ81に連結された回転マス87をさらに有している。連通管66の断面積は、シリンダ63の断面積よりも小さな値に設定されている。連通管66は、その一端部及び他端部が左壁63a及び右壁63bにそれぞれ接続され、ピストン64をバイパスしており、第1及び第2油室63d、63eは、連通管66を介して互いに連通している。なお、図11では、便宜上、連通管66や歯車モータ81を省略している。
調整弁67は、第1実施形態の調整弁35と同様、その開度をリニアに変更可能なノーマルオープン式の電磁弁で構成され、連通管66を開閉可能に設けられており、後述する駆動装置91に接続されている(図13参照)。調整弁67の開度は、駆動装置91からの後述する制御信号によって制御され、この制御信号が入力されていないときには、全開状態になる。
前記歯車モータ81及び回転マス87は、本出願人による特許第5191579号の図12などに記載されたものと同様に構成されている。具体的には、歯車モータ81は、外接歯車型のものであり、ケーシング82と、ケーシング82に収容された第1ギヤ83及び第2ギヤ84などで構成されている。ケーシング82は、連通管66の中央部に一体に設けられており、その内部が互いに対向する2つの出入口82a、82aを介して、連通管66に連通している。
また、第1ギヤ83は、スパーギヤで構成され、第1回転軸85に一体に設けられている。第1回転軸85は、連通管66に直交する方向に水平に延び、ケーシング82に回転自在に支持されており、ケーシング82の外部に若干、突出している。第2ギヤ84は、第1ギヤ83と同様、スパーギヤで構成され、第2回転軸86に一体に設けられており、第1ギヤ83と噛み合っている。第2回転軸86は、第1回転軸85と平行に延び、ケーシング82に回転自在に支持されている。また、第1及び第2ギヤ83、84の互いの噛合い部分は、ケーシング82の出入口82a、82aに臨んでいる。
回転マス87は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄から成る円板で構成されている。また、回転マス87は、第1回転軸85に同軸状に固定されており、第1ギヤ83及び第1回転軸85と一体に回転自在である。
また、可変減衰マスダンパ62の前述した第1取付具FL1’は第1伝達部材TM1に、第2取付具FL2’は第2伝達部材TM2に、それぞれ取り付けられており、可変減衰マスダンパ62は、水平に延びている。以上により、可変減衰マスダンパ62のシリンダ63は上梁BUに、ピストン64は下梁BDに、それぞれ連結されている。
さらに、上梁BUには、地震などに伴って発生した上梁BUの振動による加速度(以下「上梁振動加速度」という)を検出する第1加速度センサ92が設けられており、下梁BDには、地震などに伴って発生した下梁BDの振動による加速度(以下「下梁振動加速度」という)を検出する第2加速度センサ93が設けられている。第1及び第2加速度センサ92、93は、例えば半導体式のものであり、それらの検出信号は、駆動装置91に入力される(図13参照)。駆動装置91は、バッテリや、電気回路、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されており、建物B内に設けられている。
振動抑制装置61では、回転マス87を含む可変減衰マスダンパ62、第1及び第2伝達部材TM1、TM2は、付加振動系を構成しており、付加振動系は、建物Bが振動するのに伴って振動(共振)することにより、建物Bの振動を吸収し、抑制する。また、可変減衰マスダンパ62のピストン64は、建物Bの振動に伴って、シリンダ63内を往復移動し、当該移動するピストン64で押圧された作動油HOは、連通管66を介して、第1及び第2油室63d、63eの一方から他方に流動する。この場合、連通管66に設けられた調整弁67の開度が駆動装置91で制御されることによって、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が変更され、可変減衰マスダンパ62の減衰係数は、調整弁67の開度が小さいほど、より大きくなる。
具体的には、駆動装置91は、図14に示すマスダンパ制御処理を実行することによって、調整弁67の開度を制御し、それにより、可変減衰マスダンパ62の減衰係数は、地震などによる建物Bの振動の中期以後に、所定係数に調整される。この所定係数、回転マス87の質量、第1及び第2伝達部材TM1、TM2の剛性は、建物Bの振動中、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数(例えば1次モードの固有振動数)に同調するように、例えば定点理論に基づいて設定されている。ここで、付加振動系の固有振動数は、回転マス87の質量、第1及び第2伝達部材TM1、TM2の剛性によって定まる。また、所定係数は、より具体的には、制御対象構造物(建物B)の共振曲線(図示せず)における2つの定点(P、Q)の付近で、建物Bの応答がほぼ最大になるように、設定されている。
次に、図14を参照しながら、駆動装置91によって実行される上記のダンパ制御処理について説明する。本処理は、所定時間(例えば100msec)ごとに繰り返し実行される。まず、図14のステップ11では、建物Bが地震などにより振動中であるか否かを判別する。この判別は、例えば、検出された上梁振動加速度及び下梁振動加速度の少なくとも一方が所定加速度よりも大きいときに、建物Bが振動中であると判別される。
上記ステップ11の答がNOで、建物Bが振動中でないときには、最適制御中フラグF_OPT’を「0」にリセットする(ステップ12)とともに、調整弁67への制御信号の入力を停止することによって、調整弁67を全開状態に制御し(ステップ13)、本処理を終了する。この最適制御中フラグF_OPT’は、後述する最適制御の実行中であることを「1」で表すものである。
一方、ステップ11の答がYESで、建物Bの振動中であるときには、最適制御中フラグF_OPT’が「1」であるか否かを判別する(ステップ14)。この答がNO(F_OPT’=0)のときには、振動による上梁BUと下梁BDとの間の相対変位(以下「梁間振動変位」という)DISBを、検出された上梁振動加速度及び下梁振動加速度に基づいて算出する(ステップ15)。具体的には、梁間振動変位DISBは、上梁振動加速度を積分することによって算出された振動による上梁BUの絶対変位と、下梁振動加速度を積分することによって算出された振動による下梁BDの絶対変位との差の絶対値として算出される。
次いで、算出された梁間振動変位DISBが所定変位DREF’以上であるか否かを判別する(ステップ16)。この所定変位DREFは、実験などにより、建物Bに所定の地震波を入力した場合において、その振動の中期における梁間振動変位に設定されている。
上記ステップ16の答がNOで、梁間振動変位DISBが所定変位DREF’よりも小さいときには、前記ステップ12及び13を実行し、調整弁67を全開状態に制御した後、本処理を終了する。
一方、ステップ16の答がYESになり、梁間振動変位DISBが所定変位DREF’に達したときには、最適制御を実行するために、最適制御中フラグF_OPT’を「1」に設定し(ステップ17)、ステップ18に進む。このステップ17の実行により前記ステップ14の答がYESになり、その場合には、上記ステップ15〜17をスキップし、ステップ18に進む。
このステップ18では、調整弁67に制御信号を入力することによって、調整弁67の開度を所定開度に制御した後、本処理を終了する。この所定開度は、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が前述した所定係数になるように設定されており、作動油HOの粘性係数、シリンダ63の断面積、連通管66の断面積及び長さなどに基づいて設定されている。以上により、最適制御の実行中、可変減衰マスダンパ62の減衰係数は所定係数に調整される。
以上のように、第2実施形態によれば、可変減衰マスダンパ62のシリンダ63及びピストン64がそれぞれ、第1及び第2伝達部材TM1、TM2を介して、建物Bの上梁BU及び下梁BDに連結されている。また、可変減衰マスダンパ62、第1及び第2伝達部材TM1、TM2によって付加振動系が構成されており、付加振動系は、建物Bの振動に伴って振動(共振)し、それにより建物Bの振動が抑制される。
建物Bの振動中、上梁BUと下梁BDの間の相対変位は、第1及び第2伝達部材TM1、TM2を介して、シリンダ63及びピストン64に伝達され、それによりピストン64がシリンダ63内を往復移動する。それに伴い、シリンダ63の第1及び第2油室63d、63e内の作動油HOは、ピストン64で押圧されることにより、連通管66を介して、第1及び第2油室63d、63eの一方から他方に流動する。連通管66内の作動油HOの流動は、歯車モータ81によって回転運動に変換された状態で回転マス87に伝達され、それにより回転マス87が回転する。この回転マス87による回転慣性質量効果が得られることによって、付加振動系による建物Bの振動抑制効果が高められる。以上のように、上梁BUと下梁BDの間の相対変位は、第1及び第2伝達部材TM1、TM2、シリンダ63、ピストン64ならびに作動油HOを介して歯車モータ81に伝達される。歯車モータ81に伝達された上梁BUと下梁BDの間の相対変位は、回転運動に変換された状態で回転マス87に伝達される。
また、連通管66に設けられた調整弁67の開度が、駆動装置91によって変更され、それにより可変減衰マスダンパ62の減衰係数が調整される。この場合、調整弁67の開度が小さいほど、可変減衰マスダンパ62の減衰係数がより大きくなる。さらに、建物Bの振動中、梁間振動変位DISBが算出される(ステップ15)とともに、算出された梁間振動変位DISBが所定変位DREF’よりも小さいとき(ステップ16:NO)には、調整弁67が全開状態に制御され(ステップ13)、それにより、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数よりも小さな値に調整される。また、梁間振動変位DISBが所定変位DREF’に達した以後(ステップ16:YES、ステップ17、ステップ14:YES)には、調整弁67が所定開度に制御されることによって、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数に調整される(ステップ18)。
以上により、建物Bの振動の初期で、その振動が比較的小さく、それにより梁間振動変位DISBが所定変位DREF’よりも小さいときには、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数よりも小さな値に調整される。また、建物Bの振動の中期以後で、その振動が比較的大きく、それにより梁間振動変位DISBが所定変位DREF’に達した以後には、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数に調整される。
また、第1及び第2伝達部材TM1、TM2の剛性、回転マス87の質量及び上記の所定係数は、建物Bの振動中、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数が建物Bの固有振動数に同調するように、設定されている。以上により、建物Bの振動の初期に、可変減衰マスダンパ62を含む付加振動系の減衰係数が前述した最適減衰係数よりも小さくなるので、付加振動系の応答性を高めることができ、ひいては、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。また、建物Bの振動の中期以後で、可変減衰マスダンパ62の減衰係数が所定係数に調整されているときに、付加振動系の固有振動数を建物Bの固有振動数に同調させることができるので、建物Bの振動を適切に抑制することができる。以上のように、第2実施形態によれば、建物Bの振動の初期における付加振動系の応答性を高めることができるとともに、建物Bの振動の中期以後における振動を適切に抑制することができる。
さらに、マスダンパ及び可変減衰ダンパを互いに別個に構成せずに(後述する図16参照)、両者を互いに一体に構成した可変減衰マスダンパ62を用いているので、振動抑制装置61全体として小型化を図ることができる。
また、図15は、第2実施形態の変形例による可変減衰マスダンパ62Mを示している。図15において、第2実施形態による可変減衰マスダンパ62と同じ構成要素については、同じ符号を付している。図12と図15との比較から明らかなように、この変形例による可変減衰マスダンパ62Mは、第2実施形態による可変減衰マスダンパ62と比較して、連通管66に代えて第1連通管68を有する点と、左右一対の第2連通管69L、69R及び逆止弁75L、75Rをさらに有する点のみが異なっている。以下、第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
第1連通管68は、ピストン64がシリンダ63内の前述した中立位置を含む所定の第1区間IN1’に位置しているときに、ピストン64をバイパスし、第1及び第2油室63d、63eを互いに連通させるように、設けられている。より具体的には、第1連通管68は、そのシリンダ63との接続部分における中立位置側の内壁面が第1区間IN1’の端と面一になるように、配置されている。第1区間IN1’は、通常の地震波が建物Bに入力されたときに、ピストン64が移動し得る最大の区間に設定されている。この変形例では、第1区間IN1’の軸線方向の中心は、中立位置と一致しているが、ずれていてもよい。調整弁67は、第1連通管68の途中に設けられている。
第2連通管69L、69Rは、ピストン64が、シリンダ63内の第1区間IN1’よりも軸線方向の両外側の最も外側の所定の第2区間IN2’に位置しているときに、ピストン64をバイパスし、第1及び第2油室63d、63eを互いに連通させるように、設けられている。より具体的には、左側の第2連通管69Lは、そのシリンダ63との中立位置側(右側)の接続部分における中立位置側の内壁面が第1区間IN1’の端に位置するピストン64の中立位置側の壁面と面一になるように、配置されている。また、左側の第2連通管69Lは、そのシリンダ63との中立位置と反対側(左側)の接続部分における中立位置と反対側の内壁面が左壁63aの内壁面と面一になるように、配置されている。右側の第2連通管69Rは、左側の第2連通管69Lと左右対称に配置されており、上述したような左側の第2連通管69Lの配置は、右側の第2連通管69Rについても同様である。
この変形例では、左側の第2区間IN2’の軸線方向の長さと、右側の第2区間IN2’のそれとは、互いに同じであるが、異なっていてもよい。
さらに、左右の逆止弁75L、75Rは、左側及び右側の第2連通管69L、69Rにそれぞれ設けられている。左側の逆止弁75Lは、ピストン64が左側の第2区間IN2’において中立位置と反対側(左側)に向かって移動しているときに、作動油HOが当該ピストン64で押圧されることで第2連通管69Lを介して第1油室63dから第2油室63eに流動するのを、阻止する。また、逆止弁75Lは、ピストン64が左側の第2区間IN2’において中立位置側(右側)に向かって移動しているときに、作動油HOが当該ピストン64で押圧されることで第2連通管69Lを介して第2油室63eから第1油室63dに流動するのを、許容する。
右側の逆止弁75Rは、ピストン64が右側の第2区間IN2’において中立位置と反対側(右側)に向かって移動しているときに、作動油HOが当該ピストン64で押圧されることで第2連通管69Rを介して第2油室63eから第1油室63dに流動するのを、阻止する。また、逆止弁75Rは、ピストン64が右側の第2区間IN2’において中立位置側(左側)に向かって移動しているときに、作動油HOが当該ピストン64で押圧されることで第2連通管69Rを介して第1油室63dから第2油室63eに流動するのを、許容する。
以上の構成の可変減衰マスダンパ62Mでは、建物Bの振動中、その振動が非常に大きくないときには、ピストン64が第1区間IN1’内を移動し、第2実施形態による可変減衰マスダンパ62と同様の動作を行う。例えば巨大地震などにより建物Bの振動が非常に大きくなると、ピストン64は、第1区間IN1’を超えて第2区間IN2’を往復移動するようになる。ピストン64が第2区間IN2’において中立位置と反対側に向かって移動しているときには、上述した逆止弁75L、75Rによって、作動油HOが第2連通管69L、69Rを介して第1及び第2油室63d、63eの一方から他方に流動するのが阻止される。
以上の構成から明らかなように、ピストン64が第2区間IN2’において中立位置と反対側に向かって移動しているときには、第1及び第2油室63d、63eは、第1連通管68を介しては互いに連通されず、当該ピストン64で押圧された第1又は第2油室63d、63e内の作動油HOの圧力が前記上限値に達したときに、第1又は第2リリーフ弁73、74が開弁することで互いに連通される。それに伴い、当該移動するピストン64で押圧された作動油HOは、第1又は第2リリーフ弁73、74を介して、第1及び第2油室63d、63eの一方から他方に流動する。
以上により、建物Bの振動が非常に大きいときに、可変減衰マスダンパ62Mの非常に大きな減衰係数が得られるので、付加振動系の変位の過大化に起因する振動抑制装置及び建物Bの破損を、防止することができる。
一方、ピストン64が第2区間IN2’において中立位置側に向かって移動しているときには、逆止弁75L、75Rによって、作動油HOが第2連通管69L、69Rを介して第1及び第2油室63d、63eの他方から一方に流動するのが許容される。これにより、ピストン64が中立位置に戻れなくなるのを防止することができる。この場合、第2連通管69L、69Rが前述したように配置されているので、ピストン64が第1区間IN1’と第2区間IN2’との境界線(同図に一点鎖線で図示)上に位置しているときに、第2連通管69L、69Rがピストン64で完全にふさがれることがなく、上述した効果を適切に得ることができる。
なお、第2実施形態では、マスダンパ及び可変減衰ダンパを互いに一体に構成した可変減衰マスダンパ62を用いているが、図16に示すように、マスダンパ101及び可変減衰ダンパ102を互いに別個に構成するとともに、両者101、102を互いに並列に、上梁BU及び下梁BDに連結してもよい。このマスダンパ101は、本出願人による特許第5314201号に開示されたマスダンパと同様に構成されており、回転マス(図示せず)を有している。また、可変減衰ダンパ102は、第2実施形態による可変減衰マスダンパ62と比較して、歯車モータ及び回転マスが設けられていない点のみが異なっており、可変減衰ダンパ102の連通管(図示省略)などの他の構成要素は、可変減衰マスダンパ62のそれと同様に構成されている。すなわち、この可変減衰ダンパ102は、第1実施形態による可変減衰ダンパ6と同様に構成されている。ちなみに、マスダンパ101を可変減衰マスダンパ62と並列に設けてもよい。
また、第2実施形態では、シリンダ63を上梁BUに、ピストン64を下梁BDに、それぞれ連結しているが、これとは逆に、シリンダ63を下梁BDに、ピストン64を上梁BUに、それぞれ連結してもよい。さらに、第2実施形態では、シリンダ63、ピストン64及び連通管66の断面形状は、円形であるが、三角形や四角形などでもよい。また、第2実施形態では、単一の連通管66を用いているが、第1及び第2油室63d、63eを互いに連通する複数の連通管を用いてもよい。この場合、調整弁をこれらの連通管の少なくとも1つに設けてもよいことは、もちろんである。この場合において、調整弁をこれらの複数の連通管のいずれか1つに設けるときには、この調整弁として、その開度を無段階に変更可能な調整弁に代えて、その開度を全開状態と全閉状態の2つの状態にのみ変更可能な調整弁を用いてもよい。また、複数の連通管を用いる場合には、これらの複数の連通管を、本出願人による特願第2015-027380号に開示されたものと同様に構成してもよい。
さらに、第2実施形態では、シリンダ63に接続された連通管66を用いているが、シリンダの周壁に形成された連通路を用いてもよい。この場合、連通路は、周壁の内部において軸線方向に延びるとともに、その両端で径方向に延びて第1及び第2油室に連通する孔状の通路で構成される。このような連通路の数も、連通管66と同様に任意である。
また、第2実施形態では、本発明における作動流体として、シリコンオイルで構成された作動油HOを用いているが、粘性を有する他の適当な流体を用いてもよい。さらに、第2実施形態では、可変減衰マスダンパ62は、シリコンオイルを用いたタイプのものであるが、MR流体(Magneto-Rheological fluid)を用いたタイプのものでもよい。また、第2実施形態では、電磁弁で構成された調整弁67を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの調整弁を用いてもよい。
さらに、第2実施形態では、第1及び第2伝達部材TM1、TM2を、H型鋼で構成しているが、弾性を有する他の適当な材料、例えばゴムなどで構成してもよい。また、第2実施形態では、シリンダ63を、第1伝達部材TM1を介して上梁BUに連結するとともに、ピストン64を、第2伝達部材TM2を介して下梁BDに連結しているが、シリンダ及びピストンの一方を、当該一方が連結される上梁及び下梁の一方に伝達部材を介さずに直接、連結するとともに、シリンダ及びピストンの他方を、当該他方が連結される上梁及び下梁の他方に伝達部材を介して連結してもよい。さらに、第2実施形態では、第1及び第2リリーフ弁73、74が開弁する作動油HOの圧力を、互いに同じ上限値に設定しているが、互いに異なる値に設定してもよい。
また、第2実施形態では、本発明における動力変換機構として、外接歯車型の歯車モータ81を用いているが、作動流体の流動を回転運動に変換した状態で回転マスに伝達する他の適当な機構を用いてもよい。例えば、内接歯車型の歯車モータや、本出願人による特許第5191579号の図5などに記載されたスクリュー機構、本出願人による特許第5161395号の図2などに記載されたピストンがナットに一体に設けられたボールねじ、あるいは、ベーンモータなどを用いてもよい。動力変換機構としてこのボールねじを用いる場合には、連通路におけるピストンが移動する部分を、シリンダ状に形成してもよいことは、もちろんである。さらに、第2実施形態では、ロッド65をピストン64に直接、連結しているが、本出願人による特許第5191579号の図2などに記載されているように、皿ばねを介して連結してもよい。この場合、シリンダの一端部に設けられた第1取付具及びロッドの一端部に設けられた第2取付具をそれぞれ、第1及び第2伝達部材を介さずに、上梁及び下梁に直接、ブレース状に連結してもよい。あるいは、本出願人による特願2014-197837号の図2などに記載されているように、ロッドをピストンに、ケーブル、定滑車及び動滑車を介して連結してもよい。また、第2実施形態では、ピストン64を下梁BDに、ロッド65を介して連結しているが、本出願人による特願2014-183201号の図2などに記載されているように、ケーブル、定滑車及び動滑車を介して連結してもよい。
さらに、第2実施形態では、本発明における変位パラメータは、梁間振動変位DISBであるが、振動による上梁BUと下梁BDの間の相対変位を表す他の適当なパラメータ、例えば、上梁振動加速度と下梁振動加速度との差の絶対値などでもよい。また、第2実施形態では、本発明における第1及び第2部位はそれぞれ、上梁及び下梁であるが、建物Bが立設された基礎及び建物Bを含む系内の他の適当な所定の2つの部位、例えば基礎及び建物の上端部でもよい。さらに、第2実施形態は、本発明による振動抑制装置61を、建物Bに適用した例であるが、他の適当な構造物、例えばラック倉庫などに適用してもよい。以上の第2実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて採用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
次に、図19〜図23を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置111について説明する。図19〜図22に示すように、この振動抑制装置111は、第1実施形態と比較して、支持体5とラック倉庫Rの間に設けられたフラットジャッキ112と、フラットジャッキ112の動作を制御するための制御装置121を備える点が主に異なっている。図19〜図23において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。なお、図19では、図1と同様に便宜上、細部の構成要素の符号を省略している。
図20及び図21に示すように、フラットジャッキ112は、上下一対の円板状の押圧板113、113と、両押圧板113、113の間に設けられた中空の伸縮部114を一体に有しており、上下方向に伸縮可能に構成されている。伸縮部114は、互いに接合された上下一対の比較的薄い軟鋼板で構成されており、その内側には、流体圧(例えば油圧)を供給可能な流体室114aが画成されている。また、伸縮部114は、その内周部分が円板状に形成され、その外周部分が、リング状に形成されるとともに、全体として押圧板113、113と同心状に配置されており、押圧板113、113から径方向の外方に突出している。
また、上側の押圧板113の上面には矩形板状の上フランジ115が、下側の押圧板113の底面には矩形板状の下フランジ116が、それぞれ同心状に一体に設けられている。上フランジ115には、前述した支持体5が載置された状態で、支持体5のフランジ22の取付孔22aに挿入された前記ボルトがねじ込まれており、それにより、支持体5のフランジ22は、フラットジャッキ112の上フランジ115に取り付けられている。
さらに、下フランジ116の4つの角部の各々には、上下方向に貫通する取付孔(図示せず)が形成されている。下フランジ116の取付孔には、ボルト(図示せず)が挿入されていて、これらのボルトはラック倉庫Rの上端部にねじ込まれており、それにより、フラットジャッキ112の下フランジ116は、ラック倉庫Rの上端部に取り付けられている。以上の構成により、支持体5は、フラットジャッキ112を介してラック倉庫Rに、水平方向に移動不能にかつ上下方向に移動可能に設けられている。
また、図20に示すように、第1実施形態と同様、支持体5の滑り板21は、質量体2の当接板4に、上下方向に間隔を存した状態で対向している。この間隔は、前記間隔DIよりも若干、大きな値に設定されている。さらに、伸縮部114は、流体室114aに連通する注入管及び排出管をそれぞれ介して、ポンプ及びドレン(いずれも図示せず)に接続されている。注入管及び排出管の途中には、例えばリニア電磁弁で構成された第1制御弁117及び第2制御弁118がそれぞれ設けられている(図22参照)。
フラットジャッキ112では、第1制御弁117が開弁状態にあるときには、ポンプからの流体圧が伸縮部114に供給され、第1制御弁117が閉弁状態にあるときには、ポンプから伸縮部114への流体圧の供給が停止される。また、第2制御弁118が開弁状態にあるときには、伸縮部114内の流体圧がドレンに排出され、第2制御弁118が閉弁状態にあるときには、伸縮部114からドレンへの流体圧の排出が停止される。
また、フラットジャッキ112では、第1及び第2制御弁117、118の制御モードとして、ジャッキアップモードとジャッキダウンモードが設定されている。このジャッキアップモードでは、第1制御弁117が開弁されるとともに、第2制御弁118が全閉されることによって、ポンプからの流体圧が伸縮部114に供給されるとともに、伸縮部114からドレンへの流体圧の排出が停止される。これにより、図21に示すように、伸縮部114が上下方向に膨らむ結果、上下のフランジ115、116の間隔が大きくなり、フラットジャッキ112が伸長させられる(ジャッキアップ)。また、フラットジャッキ112の伸長によって、支持体5は、押し上げられ、当接板4側に押圧される。この場合、ポンプから伸縮部114に供給される流体圧は、第1制御弁117の開度が大きいほど、より大きくなり、それにより、フラットジャッキ112の伸長量がより大きくなる。
上記のジャッキダウンモードでは、第1制御弁117が全閉されるとともに、第2制御弁118が全開されることによって、ポンプから伸縮部114への流体圧の供給が停止されるとともに、伸縮部114からドレンに流体圧が排出される。これにより、図20に示すように、伸縮部114が上下方向に縮む結果、上下のフランジ115、116の間隔が小さくなり、フラットジャッキ112が短縮させられる(ジャッキダウン)。
第1及び第2制御弁117、118は、前記制御装置121に接続されており、両者117、118の開度は、制御装置121によって制御される。制御装置121は、バッテリや、電気回路、CPU、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されており、ラック倉庫Rとともに建物(図示せず)内に設けられている。
また、質量体2には、変位センサ122が設けられている。変位センサ122は、例えばレーザー式のものであり、ラック倉庫Rに対する質量体2の水平方向の変位(以下「質量体変位」という)DISMを検出し、その検出信号を制御装置121に出力する。制御装置121は、ラック倉庫Rの振動中、検出された質量体変位DISMに基づいて、第1及び第2制御弁117、118の開度を制御し、それにより、フラットジャッキ112を制御する。
図23は、フラットジャッキ112を制御するために、制御装置121によって実行される処理を示している。本処理は、所定時間(例えば10msec)ごとに、繰り返し実行される。まず、図23のステップ21では、検出された質量体変位DISMが第1所定変位DREM1以上であるか否かを判別する。この第1所定変位DREM1は、前記合同区間IUの1/2よりも大きく、かつ、合同区間IUの1/2と第3区間IN3との和よりも小さい値に設定されている。
上記ステップ21の答がNO(DISM<DREM1)のときには、第1及び第2制御弁117、118をジャッキダウンモードで制御し(ステップ22)、本処理を終了する。これにより、前述したように、第1及び第2制御弁117、118が全閉状態及び全開状態にそれぞれ制御されることによって、フラットジャッキ112が短縮される。
一方、ステップ21の答がYESで、ラック倉庫Rの振動により変位した質量体2の質量体変位DISMが第1所定変位DREM1以上であるときには、第1及び第2制御弁117、118をジャッキアップモードで制御し(ステップ23)、本処理を終了する。これにより、前述したように、第1及び第2制御弁117、118が開弁状態及び全閉状態にそれぞれ制御されることによって、フラットジャッキ112が伸長される。
また、ステップ23によるジャッキアップモードの実行中、質量体変位DISMが第1所定変位DREM1以上でかつ第2所定変位DREM2(>DREM1)よりも小さいときには、第1制御弁117の開度は所定の第1開度に制御される。この第1開度は、フラットジャッキ112の伸長により支持体5の滑り板21が当接板4に当接するような値に設定されている。以上により、支持体5がフラットジャッキ112で当接板4側に押圧されることによって、滑り板21が当接板4に当接する。上記の第2所定変位DREM2は、合同区間IUの1/2と第3区間IN3との和よりも小さい値に設定されている。
さらに、ステップ23によるジャッキアップモードの実行中、質量体変位DISMが第2所定変位DREM2以上であるときには、第1制御弁117の開度は、第1開度よりも大きな所定の第2開度に制御される。これにより、フラットジャッキ112の伸長量がより大きくなることによって、フラットジャッキ112による当接板4側への滑り板21の押圧力がより大きくなる。以上のように、ステップ23によるジャッキアップモードの実行中には、質量体変位DISMが大きいほど、フラットジャッキ112による当接板4側への滑り板21の押圧力は、段階的により大きくなるように制御される。この場合の段数は1段であるが、複数段でもよい。
以上のように、第3実施形態によれば、質量体2は、ラック倉庫Rに取り付けられた伝達部材3に、載置された状態で支持されていて、質量体2には、当接板4が一体に設けられており、ラック倉庫Rには、支持体5が、フラットジャッキ112を介して水平方向に移動不能にかつ上下方向に移動可能に設けられている。支持体5は、当接板4と上下方向に間隔を存した状態で対向しており、フラットジャッキ112によって、支持体5が当接板4側に押圧される。また、振動によるラック倉庫Rに対する質量体2の水平方向の変位である質量体変位DISMが、変位センサ122によって検出され、検出された質量体変位DISMが第1所定変位DREM1よりも小さいとき(図23のステップ21:NO)には、第1及び第2制御弁117、118が制御装置121によりジャッキダウンモードで制御される(ステップ22)。これにより、ラック倉庫Rが振動していないときや、ラック倉庫Rの振動が比較的小さく、それにより質量体変位DISMが小さいときには、支持体5の滑り板21は、フラットジャッキ112で当接板4側に押圧されず、当接板4に当接しないように保持される(図20参照)。
一方、ラック倉庫Rの振動により質量体2がラック倉庫Rに対して水平方向に変位し、質量体変位DISMが第1所定変位DREM1に達したとき(ステップ21:YES)には、第1及び第2制御弁117、118がジャッキアップモードで制御されることによって、支持体5の滑り板21を当接板4に当接させるように、フラットジャッキ112が制御され(ステップ23)、その結果、滑り板21が当接板4に当接する(図21参照)。これにより、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに、第1実施形態の説明で述べた可変減衰ダンパ6のより大きな減衰力に加え、当接板4及び滑り板21の間の摩擦による抵抗力がさらに得られる。したがって、第1実施形態による効果、すなわち、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに付加振動系の変位(質量体2の変位)の過大化に起因する振動抑制装置111及びラック倉庫Rの破損を防止できるという効果を、確実に得ることができる。
また、ジャッキアップモードの実行中、質量体変位DISMが大きいほど、フラットジャッキ112による当接板4側への滑り板21の押圧力が、より大きくなるように制御される。これにより、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいことで質量体変位DISMが第1所定変位DREM1以上であるときに、質量体変位DISMが大きいほど、当接板4及び滑り板21の間の摩擦によるより大きな抵抗力を得ることができるので、ラック倉庫Rの振動が非常に大きいときに付加振動系の変位の過大化に起因する振動抑制装置111及びラック倉庫Rの破損を防止できるという効果を、より有効に得ることができる。
さらに、伝達部材3を交換する際、フラットジャッキ112の伸長により滑り材21を当接板4に当接させることによって、質量体2を支持体5で支持した状態で、当該交換を容易に行うことができる。その他、第3実施形態によれば、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第3実施形態では、当接板4を質量体2に、支持体5をラック倉庫Rに、それぞれ設けているが、これとは逆に、当接板をラック倉庫に、支持体を質量体に、それぞれ設けてもよい。また、第3実施形態では、振動抑制装置111を、フラットジャッキ112によって支持体5を当接板4に押圧して当接させるように構成しているが、これとは逆に、当接板4を支持体5に押圧して当接させるように構成してもよい。さらに、第3実施形態では、当接体としての支持体5を被当接体としての当接板4側に押圧するための押圧機構として、フラットジャッキ112を用いているが、当接体を被当接体側に押圧可能な他の適当な機構、例えば、ピストン式のジャッキや、ギヤ式のジャッキなどを用いてもよい。
また、第3実施形態では、変位センサ122は、レーザー式のものであるが、超音波式のものなどを用いてもよい。さらに、第3実施形態では、質量体変位DISMを、変位センサ122で検出しているが、構造物に対する質量体の相対速度を超音波式などのセンサで検出するとともに、検出された相対速度を積分することによって、算出してもよい。また、第3実施形態では、ラック倉庫Rに対する質量体2の水平方向の変位を表す変位パラメータとして、質量体変位DISMを検出しているが、他の適当なパラメータ、例えば、可変減衰ダンパ6のシリンダ31に対するピストン32の変位を検出してもよい。
さらに、第3実施形態では、ジャッキアップモードにおいて、フラットジャッキ112の押圧力を、質量体変位DISMが大きいほど、段階的により大きくなるように制御しているが、連続的に(例えばリニアに)より大きくなるように制御してもよく、あるいは、一定値に制御してもよい。また、第3実施形態では、前記調整弁35を駆動装置51で制御するとともに、第1及び第2制御弁117、118を制御装置121で制御しているが、互いに共通の制御装置で制御してもよい。さらに、第3実施形態に関し、前述した第1実施形態に関するバリエーションを採用してもよいことは、もちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。