以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。本発明の第1実施形態による振動抑制装置は、図1に示す可変回転慣性質量ダンパ1を備えており、高層の建物B(図5参照)に適用されたものである。この建物Bは、複数の柱及び梁を井桁状に組み合わせたラーメン構造を有しており、基礎(図示せず)に立設されている。可変回転慣性質量ダンパ1は、後述する回転マス21が回転するのに伴って発生する慣性質量と減衰係数を連続的に変更可能に構成されており、図1に示すように、シリンダ2と、シリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン3と、ピストン3と一体のピストンロッド4と、シリンダ2に接続された第1連通路5及び第2連通路6を備えている。
シリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた円板状の第1端壁2b及び第2端壁2cを、一体に有している。これらの周壁2a、第1及び第2端壁2b、2cで画成された空間は、ピストン3によって第1流体室2dと第2流体室2eに区画されている。第1及び第2流体室2d、2eには、粘性流体HFが充填されている。粘性流体HFは、粘性を有する適当な流体、例えばシリコンオイルで構成されている。
また、シリンダ2の第1端壁2bには、軸線方向に外方に突出する凸部2fが同心状に一体に設けられており、この凸部2fには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。さらに、上記の第2端壁2cの中心にはロッド案内孔2gが形成されている。ピストンロッド4は、一端部がピストン3に一体に連結され、シリンダ2内に軸線方向に延びるとともに、ロッド案内孔2gにシールを介して液密に挿入されており、第2端壁2cから外方に延びている。ピストンロッド4の他端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
また、ピストン3の外周面は、シールを介して、シリンダ2の周壁2aの内周面に液密に接しており、ピストン3の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔3a及び第2連通孔3b(それぞれ1つのみ図示)が形成されている。第1連通孔3aには第1リリーフ弁11が、第2連通孔3bには第2リリーフ弁12が、それぞれ設けられている。
第1リリーフ弁11は、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねなどで構成されており、第1流体室2d内の粘性流体HFの圧力が所定の上限値よりも小さいときには、第1連通孔3aを閉鎖し、上限値に達したときには、第1連通孔3aを開放する。これにより、第1及び第2流体室2d、2eが第1連通孔3aを介して互いに連通し、第1流体室2d内の圧力が第2流体室2e側に逃がされる。
同様に、第2リリーフ弁12は、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねなどで構成されており、第2流体室2e内の粘性流体HFの圧力が上記の上限値よりも小さいときには、第2連通孔3bを閉鎖し、上限値に達したときには、第2連通孔3bを開放する。これにより、第1及び第2流体室2d、2eが第2連通孔3bを介して互いに連通し、第2流体室2e内の圧力が第1流体室2d側に逃がされる。なお、第1及び第2リリーフ弁11、12の上限値を互いに異なる値に設定してもよい。
前記第1及び第2連通路5、6はそれぞれ、ピストン3をバイパスし、第1及び第2流体室2d、2eに連通するように、シリンダ2に接続されており、互いに並列に設けられている。また、両者5、6の断面積は、シリンダ2の断面積よりも小さな値に設定されており、第1及び第2連通路5、6には、第1及び第2流体室2d、2eと同様、粘性流体HFが充填されている。なお、図1では便宜上、第1及び第2連通路5、6内の粘性流体HFの符号の図示を省略している。
また、可変回転慣性質量ダンパ1は、第1連通路5を流動する粘性流体HFの流動抵抗を調整するための調整弁15と、第1連通路5内の粘性流体HFの流動を回転運動に変換する歯車モータMと、歯車モータMに連結された回転マス21と、第2連通路6を流動する粘性流体HFの流量を調整するための歯車ポンプPをさらに備えている。調整弁15は、例えば常開タイプの電磁弁で構成されており、その開度を連続的に変更可能である。歯車モータMは、外接歯車型のものであり、ケーシング22と、ケーシング22に収容された第1ギヤ23及び第2ギヤ24を有している。なお、歯車モータMとして内接歯車型のものを用いてもよい。
ケーシング22は、第1連通路5の中央部に一体に設けられており、互いに対向する2つの出入口22a、22bを介して、第1連通路5に連通している。また、第1及び第2ギヤ23、24はそれぞれ、スパーギヤで構成され、第1及び第2回転軸25、26に一体に設けられるとともに、互いに噛み合っている。第1及び第2回転軸25、26はそれぞれ、第1連通路5に直交する方向に水平に延び、ケーシング22に回転自在に支持されており、第1回転軸25はケーシング22の外部に突出している(図2参照)。また、第1及び第2ギヤ23、24の互いの噛合い部分は、ケーシング22の出入口22a、22bに臨んでいる。さらに、ケーシング22から突出した第1回転軸25の部分には、上記の回転マス21が同軸状に一体に設けられている。回転マス21は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、円板状に形成されている。
上記の歯車ポンプPは、外接歯車型のものであり、動力源である流量調整モータ31と、ケーシング32と、ケーシング32に収容された第1ギヤ33及び第2ギヤ34を有している。なお、歯車ポンプPとして内接歯車型のものを用いてもよい。ケーシング32は、第2連通路6の中央部に一体に設けられており、互いに対向する2つの出入口32a、32bを介して、第2連通路6に連通している。また、第1及び第2ギヤ33、34はそれぞれ、スパーギヤで構成され、第1及び第2回転軸35、36に一体に設けられるとともに、互いに噛み合っている。第1及び第2回転軸35、36はそれぞれ、第2連通路6に直交する方向に水平に延び、ケーシング32に回転自在に支持されており、第1回転軸35はケーシング32の外部に突出している(図3参照)。また、第1及び第2ギヤ33、34の互いの噛合い部分は、ケーシング32の出入口32a、32bに臨んでいる。
流量調整モータ31は、例えば正逆回転可能なDCモータで構成されている。流量調整モータ31のロータ(図示せず)は、ケーシング32から突出した第1回転軸35の部分に同軸状に連結されており、第1回転軸35及び第1ギヤ33を一体に回転させる。
また、振動抑制装置は、図4に示す制御装置51、電源52及び地震計53をさらに備えている。制御装置51は、CPUや、RAM、ROM、I/Oインターフェース、DC/DCコンバータなどの組み合わせで構成され、電源52は、例えばバッテリで構成されており、調整弁15及び流量調整モータ31は、制御装置51を介して、電源52に接続されている。調整弁15及び流量調整モータ31の動作は、制御装置51で制御される。地震計53は、例えば加速度センサなどで構成され、建物Bが立設された基礎(図示せず)に設けられており、建物Bに入力される地震動を計測し、その計測信号を制御装置51に入力する。
さらに、振動抑制装置は、図5に示す第1弾性部材EM1及び第2弾性部材EM2を備えている。第1及び第2弾性部材EM1、EM2は、弾性を有する比較的剛性の低い鋼材で構成されており、それらの剛性は所定値に設定されている。また、第1及び第2弾性部材EM1、EM2は、建物Bの下梁BD及び上梁BUにそれぞれ固定されるとともに、下梁BDから上方に、上梁BUから下方に、それぞれ延びており、第1及び第2弾性部材EM1、EM2には、前記第1及び第2取付具FL1、FL2がそれぞれ取り付けられている。以上により、可変回転慣性質量ダンパ1は、そのシリンダ2及びピストンロッド4が第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介して下梁BD及び上梁BUにそれぞれ連結されており、両者BD、BUの間に水平に延びている。また、可変回転慣性質量ダンパ1、第1及び第2弾性部材EM1、EM2は、付加振動系を構成している。
さらに、可変回転慣性質量ダンパ1、第1及び第2弾性部材EM1、EM2は、建物Bのすべての層の各々に1組ずつ設けられており、図5はそのうちの1組を示している。なお、図5では便宜上、第1及び第2連通路5、6などの一部の構成要素の図示を省略している。ちなみに、可変回転慣性質量ダンパ1、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を、建物Bのすべての層でなく一部の層だけに設けてもよいことは、もちろんである。
次に、可変回転慣性質量ダンパ1の動作について説明する。建物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BDの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介して、シリンダ2及びピストンロッド4に外力として伝達されることにより、シリンダ2とピストンロッド4が軸線方向に相対的に移動し、ピストン3はシリンダ2内を摺動する。
この場合、ピストン3が第1流体室2d側(図1の左方)に移動したときには、第1流体室2d内の粘性流体HFの一部が、ピストン3によって第1連通路5に押し出されることで、第1連通路5内に第2流体室2e側(右方)への粘性流体HFの流動が生じる。これとは逆に、ピストン3が第2流体室2e側(右方)に移動したときには、第2流体室2e内の粘性流体HFの一部が、ピストン3によって第1連通路5に押し出されることで、第1連通路5内に第1流体室2d側(左方)への粘性流体HFの流動が生じる。
この粘性流体HFの流動は、歯車モータMによって回転運動に変換され、その第1及び第2ギヤ23、24が回転し、第1ギヤ23と一体の第1回転軸25及び回転マス21が回転する結果、可変回転慣性質量ダンパ1、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を含む付加振動系が振動する。
また、上述したように回転マス21が回転するのに伴い、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdが発生する。この慣性質量Mdは、シリンダ2及びピストン3に入力された振動による外力に対する軸線方向の慣性質量であり、回転マス21による慣性質量(回転マス21の回転慣性質量に基づく慣性質量(等価質量))Mrと、第1連通路5内の粘性流体HFによる慣性質量Mhが含まれる。以下に説明するように、このときの回転マス21による慣性質量Mrは、流量調整モータ31を介して歯車ポンプPの動作を制御し、第2連通路6内の粘性流体HFの流量を調整することによって、連続的に変更される。図6は、ピストン3が第1流体室2d側に移動するときに、流量調整モータ31を同図の時計方向に回転駆動することによって、第2連通路6内の粘性流体HFが、ピストン3と同じ第1流体室2d側に流動している状況(以下「第1動作モード」という)を示している。なお、図6では便宜上、一部の構成要素の符号の図示を省略している。
この第1動作モードでは、ピストン3の移動に伴って流動する粘性流体HFの容積(流量)V1と、第2連通路6内で歯車ポンプPにより送出され、流動する粘性流体HFの容積(流量)V2との和が、第1連通路5内で流動し、歯車モータMに流入する粘性流体HFの容積(流量)Vになるため、回転マス21の回転量は大きくなる。
また、このときの回転マス21による慣性質量Mrは、以下のようにして求められる。まず、上記の関係から、次式(1)が成立する。
V=V1+V2 ……(1)
なお、以下では、上記のV1を「ピストン容積」、V2を「ポンプ容積」、Vを「モータ容積」という。ピストン容積V1は次式(2)で表され、ポンプ容積V2は次式(3)で表される。
V1=Ap・X ……(2)
V2=vmd・n ……(3)
ここで、Apは、粘性流体HFに対するピストン3の受圧面積であり、ピストン3が第1流体室2d側に移動しているときには、ピストン3の横断面積になり、ピストン3が第2流体室2e側に移動しているときには、ピストン3の横断面積からピストンロッド4の横断面積を減算した値になる。なお、ピストン3の受圧面積Apを、ピストン3の移動方向に拘わらず、ピストン3の横断面積に、又は、ピストン3の横断面積からピストンロッド4の横断面積を減算した値に設定してもよい。また、Xはピストン3の移動量、vmdは、流量調整モータ31の1回転当たりの送出容積(押しのけ容積)であり、nは、流量調整モータ31の回転数である。
上記の式(1)及び(2)から、第1動作モードにおけるピストン3の移動量Xは、次式(4)で表される。
X=V1/Ap=(V−V2)/Ap ……(4)
また、歯車モータMが1回転する場合を想定し、その1回転に必要なモータ容積Vをvm(押しのけ容積)、このときのポンプ容積V2をvm2とすると、これらのvm、vm2を式(4)のV、V2に代入することによって、このときのピストン3の移動量Xmは、次式(5)で表される。
Xm=(vm−vm2)/Ap ……(5)
このピストン3の移動量Xmは、ボールねじ機構を用いたマスダンパにおけるボールねじのリード長(Ld)に相当する。したがって、第1動作モードにおける回転マス21による慣性質量(等価質量)Mrは、次式(6)で表される。
Mr=(2π/Xm)2・md・D2/8
={(2π・Ap)/(vm−vm2)}2・md・D2/8 ……(6)
ここで、mdは回転マス21の実質量であり、Dは回転マス21の外径である。
この式(6)から明らかなように、第1動作モードにおける慣性質量Mrは、ポンプ容積V2(=vm2)に相当する分だけ増大する。したがって、ポンプ容積V2を流量調整モータ31の回転数の調整によって変化させることで、慣性質量Mrを変更可能である。
一方、上記の第1動作モードに対し、図7は、ピストン3が第1流体室2d側に移動するときに、流量調整モータ31を同図の反時計方向に回転駆動することによって、第2連通路6内の粘性流体HFが、ピストン3とは逆に第2流体室2e側に流動している状況(以下「第2動作モード」という)を示している。なお、図7では便宜上、一部の構成要素の符号の図示を省略している。この第2動作モードでは、ピストン容積V1とポンプ容積V2との差がモータ容積Vになる(次式(1)’)ため、回転マス21の回転量は小さくなる。
V=V1−V2 ……(1)’
この関係から、第2動作モードにおけるピストン3の移動量Xは、前記式(4)の(V−V2)を(V+V2)に置き換えることによって、次式(4)’で表される。
X=V1/Ap=(V+V2)/Ap ……(4)’
また、歯車モータMが1回転するときのピストン3の移動量Xmは、前記式(5)の(vm−vm2)を(vm+vm2)に置き換えることによって、次式(5)’で表される。
Xm=(vm+vm2)/Ap ……(5)’
したがって、第2動作モードにおける回転マス21による慣性質量Mrは、次式(6)’で表される。
Mr=(2π/Xm)2・md・D2/8
={(2π・Ap)/(vm+vm2)}2・md・D2/8
……(6)’
この式(6)’から明らかなように、第2動作モードにおける回転マス21による慣性質量Mrは、ポンプ容積V2(=vm2)に相当する分だけ減少する。したがって、ポンプ容積V2を流量調整モータ31の回転数の調整によって変化させることで、慣性質量Mrを変更可能である。
なお、ポンプ容積vm2に正負をもたせ、第2連通路6内の粘性流体HFの流動方向がピストン3の移動方向と同じ場合(第1動作モード)を負値とし、逆の場合(第2動作モード)を正値とすると、上記の式(6)及び式(6)’は式(6)’に統合される。また、この式(6)’をポンプ容積vm2について表すと、次式(7)が得られる。
vm2={(2π・Ap)/sqrt[8Mr/(md・D2)]}−vm
……(7)
また、このポンプ容積vm2の粘性流体HFを流動させるのに必要な流量調整モータ31の回転数nは、前記式(3)から、次式(8)で表される。
n=vm2/vmd ……(8)
以上のように、可変回転慣性質量ダンパ1では、歯車ポンプPを作動させることによって、第2連通路6内に粘性流体HFの流動を強制的に生じさせるとともに、流量調整モータ31の回転数nを制御することによって、ポンプ容積V2(第2連通路6内の粘性流体HFの流量)が調整される。そして、このポンプ容積V2の分、モータ容積V(第1連通路5内の粘性流体HFの流量)が、ピストン容積V1(ピストン3の移動に伴う粘性流体HFの流量)に対して変化し、それに応じて回転マス21の回転量が変化することによって、回転マス21による慣性質量Mrが変更され、ひいては、この慣性質量Mrを含む可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdが変更される。
なお、前記第1連通路5内の粘性流体HFによる慣性質量Mhは、Mh=ρ・Ae1・l1・α12で表され、回転マス21による慣性質量Mrと比較して非常に小さい傾向にある。ここで、ρは、粘性流体HFの密度であり、Ae1及びl1はそれぞれ、第1連通路5の横断面積及び長さ、α1は、第1連通路5の横断面積Ae1に対するピストン3の受圧面積Apの比である。
また、流量調整モータ31の回転方向の切替えにより、第2連通路6内の粘性流体HFの流動方向を、ピストン3の移動方向と同じ方向(第1動作モード)又は逆の方向(第2動作モード)に切り替えることによって、モータ容積Vをピストン容積V1に対して増減することができる。これにより、回転マス21による慣性質量Mrの変更範囲が拡大される。
また、可変回転慣性質量ダンパ1の上述した動作から明らかなように、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF及び調整弁15は、可変回転慣性質量ダンパ1、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を含む付加振動系の振動を減衰させるとともに、その減衰係数を連続的に変更可能な可変減衰ダンパとして機能する。
具体的には、上述したようにピストン3がシリンダ2内を摺動するのに伴い、第1及び第2流体室2d、2eの間で粘性流体HFの圧力差が発生し、この圧力差は、ピストン3に抵抗力(流れにくさ)として作用するとともに、第1及び第2弾性部材EM1、EM2の変位を減衰させ、付加振動系の振動を減衰させるように作用する。この場合、調整弁15の開度を変更することで、第1連通路5内を流動する粘性流体HFの流動抵抗を調整することによって、その減衰係数が連続的に変更され、減衰係数は、調整弁15の開度が小さいほど、第1及び第2流体室2d、2eの間での粘性流体HFの圧力差が大きくなることによって、より大きくなる。
また、制御装置51は、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Md及び減衰係数を制御すべく、流量調整モータ31の動作及び調整弁15の開度を制御するために、図8及び図9に示す同調制御処理を、所定時間ごとに繰り返し実行する。以下、図8及び図9を参照しながら、この同調制御処理について説明する。なお、前述したように可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdに含まれる粘性流体HFによる慣性質量Mhは、回転マス21による慣性質量Mrと比較して非常に小さい傾向にあるため、同調制御処理では、この慣性質量Mhを無視し、回転マス21による慣性質量Mrを可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdとみなして、流量調整モータ31の動作及び調整弁15の開度が制御される。
まず、図8のステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、建物Bが振動中であるか否かを判別する。この判別は、地震計53の計測信号に基づき、計測信号で表される地震動が所定値よりも大きいときに、建物Bが振動中であると判別される。この答がNOで、建物Bが振動中でないときには、図8及び図9に示すように、そのまま今回の処理を終了する。
一方、ステップ1の答がYESで、建物Bが振動中であるときには、建物Bに入力されている地震動のうちの卓越する周波数成分の周波数である卓越周波数fcpを算出する(ステップ2)。この卓越周波数fcpの算出は、例えば次のようにして行われる。すなわち、地震計53で計測された地震動を高速フーリエ変換によって周波数解析し、それにより、地震動のフーリエ振幅スペクトルを、地震動の周波数(振動数)ごとに算出する。そして、算出された複数のフーリエ振幅スペクトルを互いに比較し、それらのうちの最も大きいフーリエ振幅スペクトルに対応する周波数を、卓越周波数fcpとして設定(算出)する。なお、同調制御処理の実行周期である上記の所定時間は、この周波数解析を実行するのに十分な時間に設定されている。また、上記のフーリエ振幅スペクトルの算出方法については、周知であるため、その説明を省略するが、例えば「新・地震動のスペクトル解析入門 著者:大崎順彦 鹿島出版会」などに開示されている。
次に、算出された卓越周波数fcpと建物Bの所定の複数の固有振動数との関係に基づいて、近傍固有振動数fnを設定する(ステップ3)。具体的には、卓越周波数fcpと、制御装置51の前記ROMに記憶された建物Bの所定の複数の固有振動数(1次〜x次モードの固有振動数)とを比較し、これらの複数の固有振動数のうち、卓越周波数fcpに最も近い固有振動数を、近傍固有振動数fnとして設定する。
例えば、卓越周波数fcpが建物Bの所定の1次モードの固有振動数(以下「1次固有振動数」という)を含む第1所定周波数範囲内にあるときには、近傍固有振動数fnは1次固有振動数に設定され、fcpが、建物Bの所定の2次モードの固有振動数(以下「2次固有振動数」という)を含む第2所定周波数範囲(>第1所定周波数範囲)内にあるときには、fnは2次固有振動数に設定される。このような近傍固有振動数fnの設定は、複数の固有振動数に対応してそれぞれ設定された複数の所定周波数範囲を用いて行われる。以上により、近傍固有振動数fnは、1次固有振動数が卓越周波数fcpに最も近いときには1次固有振動数に設定され、2次固有振動数が卓越周波数fcpに最も近いときには2次固有振動数に設定される。
次に、設定された近傍固有振動数fnと第1及び第2弾性部材EM1、EM2の全体の剛性(ばね定数)θsを用い、次式(9)によって、本制御用の慣性質量Mdsを算出する(ステップ4)。この式(9)は、前述した付加振動系の固有振動数を表す式(=sqrt(θs/Md)/2π)を、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdについて展開するとともに、MdをMdsに、付加振動系の固有振動数をfnに、それぞれ置き換えたものである。
Mds=θs/(fn・2π)2 ……(9)
また、上記ステップ4の慣性質量Mdsの算出は、例えば、建物Bのすべての層の各々に設けられた可変回転慣性質量ダンパ1について行われる。以下、建物Bのi層に設けられた可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdsを、適宜、建物Bの層数iを添え字として付して表す(Mdsi 後述する式(11)参照)。さらに、第1及び第2弾性部材EM1、EM2の全体の剛性θsは、前述した所定値であり、ROMに記憶されており、ステップ4の算出においてROMから読み出される。
次いで、算出された慣性質量Mdsを前記式(7)のMrに代入することによって、第2連通路6内の粘性流体HFの流量であるポンプ容積vm2を算出する(ステップ5)。この式(7)におけるピストン3の受圧面積Ap、回転マス21の実質量md、回転マス21の外径D、及び歯車モータMの1回転に必要なモータ容積vmはいずれも、所定値であり、ROMに記憶されており、ステップ5の算出においてROMから読み出される。次に、算出されたポンプ容積vm2に応じ、前記式(8)によって、流量調整モータ31の回転数nを算出する(ステップ6)。この式(8)における流量調整モータ31の1回転当たりの送出容積vmdは、所定値であり、ROMに記憶されており、ステップ6の算出においてROMから読み出される。次いで、算出した回転数nに基づく駆動信号を出力することによって、流量調整モータ31を駆動する(ステップ7)。
このように流量調整モータ31を駆動することで、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdとみなされた回転マス21による慣性質量Mrが、ステップ4で算出された慣性質量Mdsに制御される。その結果、慣性質量Mdと第1及び第2弾性部材EM1、EM2の剛性θsで定まる付加振動系の固有振動数(=sqrt(θs/Md)/2π)が、近傍固有振動数fnと同じになるように制御される。なお、上記の駆動信号は、流量調整モータ31の回転数nが得られるように実験などによって予め求められるとともに、ROMに記憶されている。
上記ステップ7に続く図9のステップ8では、建物Bの広義節点質量
sM
0を、次式(10)によって算出する。この広義節点質量
sM
0は、建物Bのs次モードを1質点系解析モデルで表したときの建物Bの等価な質量である。
ここで、Lは建物Bの層の総数であり、
su
iは、建物Bのs次モードでのi層の固有ベクトル(せん断成分及び曲げ成分を含む)、m
iは建物Bのi層の質量である。この場合、次数sは、前記ステップ3において近傍固有振動数fnとして設定された建物Bの固有振動数の次数に設定される。例えば、近傍固有振動数fnが建物Bの1次固有振動数に設定された場合には、次数sは1に設定される。これらの建物Bの層の総数Lや、建物Bのs次モードでの1層〜L層の固有ベクトル
su
1〜
su
L、建物Bの1層〜L層の質量m
1〜m
Lはいずれも、所定値であり、予め算出されるとともにROMに記憶されており、上記のステップ8の算出においてROMから読み出される。
次いで、前記ステップ4で算出された慣性質量Mdsを用い、次式(11)によって、広義慣性接続要素質量
sMdを算出する(ステップ9)。この広義慣性接続要素質量
sMdは、付加振動系のs次モードでの広義の可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量である。
ここで、
su
i(s)−
su
i-1(s)は、建物Bのs次モードでのi層の固有ベクトルのせん断成分と、建物Bのs次モードでの(i−1)層の固有ベクトルのせん断成分との差であり、
su
1(s)は、建物Bのs次モードでの1層の固有ベクトルのせん断成分である。この場合にも、次数sは、近傍固有振動数fnとして設定された建物Bの固有振動数の次数に設定される。また、建物Bのs次モードでの1層〜L層の固有ベクトルのせん断成分
su
1(s)〜
su
L(s)はいずれも、所定値であり、予め算出されるとともにROMに記憶されており、上記のステップ9の算出においてROMから読み出される。
なお、上記式(11)において、式(10)の場合と異なり、建物Bのs次モードでの1層〜L層の固有ベクトルのせん断成分su1(s)〜suL(s)を用いるのは、可変回転慣性質量ダンパ1は、建物Bの振動により上下の梁BU、BDの間に水平方向の変位が発生するのに伴って作動するためである。
ステップ9に続くステップ10では、算出された広義慣性接続要素質量sMdを、ステップ8で算出された広義節点質量sM0で除算することによって、質量比μを算出する(μ=sMd/sM0)。
次いで、算出された質量比μを用い、次式(12)によって、最適同調振動数比γを算出する(ステップ11)とともに、次式(13)によって、シリンダ2やピストン3等から成る前述した可変減衰ダンパの減衰定数の目標値である目標減衰定数hobjを算出する(ステップ12)。ここで、最適同調振動数比γが1を大きく超える場合には、前記ステップ4に戻り、式(9)における近傍固有振動数fnをγ・fnに置き換えて、慣性質量Mdsを再計算するのが望ましい。このように、最適同調振動数比γが1を大きく超える場合には、本明細書における近傍固有振動数fnを、γ・fnに置き換えてもよい。
次に、算出された最適同調振動数比γ及び目標減衰定数hobj、ならびに前記ステップ3及び4でそれぞれ算出された近傍固有振動数fn及び慣性質量Mdsを用い、次式(14)によって、可変減衰ダンパの減衰係数の目標値である目標減衰係数cobjを算出する(ステップ13)。
cobj=2hobj・Mds・γ・fn・2π ……(14)
上記の式(12)〜式(14)は、定点理論に従い、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるような目標減衰係数cobjを算出できるように、導出されたものであり、その導出方法については、「建築物の変位制御設計 井上範夫/五十子幸樹共著 丸善出版」の第104頁〜第110頁などを参照されたい。
なお、以上のステップ8〜13による目標減衰係数cobjの算出手法から明らかなように、当該算出に用いられる変数は、近傍固有振動数fn及び慣性質量Mdsであるので、両者fn、Mdsと目標減衰係数cobjとの関係をあらかじめ求めてマップ化するともに、このマップを、fn及びMdsに応じて検索することにより、目標減衰係数cobjを算出してもよい。また、目標減衰係数cobjの算出に、前記式(12)〜式(14)を用いているが、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように定点理論に従って導出された他の適当な式を用いてもよい。
ステップ13に続くステップ14では、算出された目標減衰係数cobjに基づく駆動信号を出力することによって、調整弁15を駆動し、今回の処理を終了する。このように調整弁15を駆動することで、シリンダ2やピストン3などから成る可変減衰ダンパの減衰係数が、目標減衰係数cobjになるように制御される。なお、上記の駆動信号は、減衰係数が目標減衰係数cobjになるように実験などによって予め求められるとともに、ROMに記憶されている。また、ステップ1〜14を含む同調制御処理は、前述したように所定時間ごとに繰り返し実行される。
次に、図10を参照しながら、上述した同調制御処理の動作例について説明する。図10(a)は、建物Bに入力される地震動の周波数(以下「地震動周波数」という)feと入力に対する建物Bの所定層の加速度応答倍率(以下「応答倍率」という)RMとの関係を、図10(b)は、地震動周波数feと地震動のフーリエ振幅スペクトル(以下「地震動スペクトル」という)SEとの関係を、図10(c)は地震動周波数feと建物Bの所定層の応答のフーリエ振幅スペクトル(以下「建物振動スペクトル」という)SBとの関係を、卓越周波数fcpが建物Bの1次固有振動数と等しい場合について、それぞれ示している。図10において、fe1及びfe2は、建物Bの1次及び2次固有振動数と同じ大きさの周波数をそれぞれ示している。
また、図10(d)は、地震動周波数feと応答倍率RMとの関係を、図10(e)は、地震動周波数feと地震動スペクトルSEとの関係を、図10(f)は地震動周波数feと建物振動スペクトルSBとの関係を、卓越周波数fcpが建物Bの2次固有振動数と等しい場合について、それぞれ示している。
図8及び図9を参照して説明したように、同調制御処理では、卓越周波数fcp(建物Bに入力される地震動の卓越する周波数成分の周波数)が算出され(ステップ2)、卓越周波数fcpが建物Bの1次固有振動数に近いときには、近傍固有振動数fnが1次固有振動数に設定される一方、2次固有振動数に近いときには、fnが2次固有振動数に設定される(ステップ3)とともに、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、回転マス21による慣性質量Mrを含む可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdが制御される(ステップ4〜7)。また、目標減衰係数cobjが、制御された慣性質量Md(慣性質量Mds)及び近傍固有振動数fnに応じ、定点理論に従って導出された式(12)〜式(14)を用いて算出され(ステップ8〜13)、それにより、cobjは、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように、算出される。また、付加振動系の振動を減衰する可変減衰ダンパの減衰係数が、算出された目標減衰係数cobjになるように制御される(ステップ14)。
卓越周波数fcpが建物Bの1次固有振動数と等しく、図10(b)に示すように1次固有振動数と等しい周波数fe1の地震動スペクトルSBが比較的大きいときには、上述した同調制御処理の実行によって、図10(a)に示すようにfe=fe1での応答倍率RMが小さくなるとともに、図10(c)に示すようにfe=fe1での建物振動スペクトルSBが小さくなり、地震動周波数feの他のいずれの周波数においても、建物振動スペクトルSBが小さくなっている。
また、卓越周波数fcpが建物Bの2次固有振動数と等しく、図10(e)に示すように2次固有振動数と等しい周波数fe2の地震動スペクトルSBが比較的大きいときには、上述した同調制御処理の実行によって、図10(d)に示すようにfe=fe2での応答倍率RMが小さくなるとともに、図10(f)に示すようにfe=fe2での建物振動スペクトルSBが小さくなり、図10(c)の場合と同様、地震動周波数feの他のいずれの周波数においても、建物振動スペクトルSBが小さくなっている。
一方、図11(a)〜図11(c)は、前述した従来の振動抑制装置の動作例を示しており、これらの図において、feC、feC1、feC2、RMC、SEC及びSBCは、図10のfe、fe1、fe2、RM、SE及びSBにそれぞれ対応するパラメータである。前述したように、従来の振動抑制装置では、回転慣性質量ダンパの慣性質量を制御できず、付加振動系の固有振動数を、常に、建物の1次固有振動数に同調させる。
これにより、図11(a)に示すように、1次固有振動数と等しい周波数feC1での建物の加速度応答倍率RMCが、小さくなっているのに対し、2次固有振動数と等しい周波数feC2での建物の加速度応答倍率RMCは、比較的大きくなっている。この場合において、建物に入力される地震動の卓越周波数が建物の2次固有振動数と等しく、図11(b)に示すように2次固有振動数と等しい周波数feC2の地震動のフーリエ振幅スペクトルSECが比較的大きいときには、図11(c)に示すように、feC=feC2での建物応答のフーリエ振幅スペクトルSBCが比較的大きくなっており、建物の2次固有振動数の振動を適切に抑制できないことが、分かる。
また、図11(d)〜図11(f)は、第1実施形態と異なり、付加振動系の固有振動数を、常に、建物の2次固有振動数に同調させた場合の動作例を示しており、これらの図において、fec、fec1、fec2、RMc、SEc及びSBcは、図10のfe、fe1、fe2、RM、SE及びSBにそれぞれ対応するパラメータである。これらの図11(d)〜図11(f)に示すように、付加振動系の固有振動数を、常に、建物の2次固有振動数に同調させた場合において、建物に入力される地震動の卓越周波数が建物の1次固有振動数と等しいときには、fec=fec1での建物のフーリエ振幅スペクトルSBcが比較的大きくなっており、建物の1次固有振動数の振動を適切に抑制できないことが、分かる。
以上のように、図11に示す比較例では、回転慣性質量ダンパの慣性質量を制御(可変)できないことで付加振動系の固有振動数が常に固定されているため、建物に入力されるそのときどきの地震動に応じて建物の振動を適切に抑制できないことが、分かる。
これに対して、上述した第1実施形態では、可変回転慣性質量ダンパ1を用いた同調制御処理を実行することで、建物Bに入力されるそのときどきの地震動に応じて、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Md及び減衰係数を適切に制御でき、ひいては、建物Bの振動を適切に抑制できることが、分かる。
以上のように、第1実施形態によれば、図1〜図7を参照して説明したように、可変回転慣性質量ダンパ1と第1及び第2弾性部材EM1、EM2によって、付加振動系が構成されている。可変回転慣性質量ダンパ1には、建物Bの振動に伴う変位が第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介して伝達され、伝達された建物Bの変位は、シリンダ2、ピストン3、粘性流体HF、第1連通路5及び歯車モータMによって回転マス21の回転運動に変換され、それにより回転マス21が回転する結果、付加振動系が振動する。回転マス21の回転に伴って発生する可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdは、歯車ポンプPを介して第2連通路6内の粘性流体HFの流量を調整することにより、連続的に変更される。
また、図8及び図9を参照して説明したように、建物Bに入力される振動のうちの卓越する周波数成分の周波数である卓越周波数fcpが算出される(ステップ2)。さらに、建物Bの振動中、建物Bの所定の複数の固有振動数のうちの、算出された卓越周波数fcpに最も近い固有振動数である近傍固有振動数fnに、付加振動系の固有振動数が同調するように、より具体的には、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、歯車ポンプPを介して第2連通路6内の粘性流体HFの流量を調整することによって、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdが制御される(ステップ4〜7)。これにより、建物Bの近傍固有振動数fnに付加振動系の固有振動数を同調させることによって、建物Bに入力されるそのときどきの振動に含まれる最も強い卓越周波数fcpでの建物Bの振動を、付加振動系で適切に吸収し、抑制することができる。
また、第1流体室2d内の圧力が上限値に達したときには、第1リリーフ弁11が開弁することによって、第2流体室2e内の圧力が上限値に達したときには、第2リリーフ弁12が開弁することによって、上昇した第1及び第2流体室2d、2eの一方の圧力が他方に逃がされるので、その過大化が防止され、可変回転慣性質量ダンパ1のシリンダ2及びピストン3に作用する軸力を適切に制限することができる。
さらに、付加振動系の振動が、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF、及び調整弁15から成る可変減衰ダンパで減衰され、調整弁15の開度を変化させることによって、可変減衰ダンパの減衰係数が連続的に変更される。また、建物Bの振動中、定点理論に従い、近傍固有振動数fnと、前述したように制御された可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Md(慣性質量Mds)とに応じて、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように、可変減衰ダンパの減衰係数を制御する(ステップ8〜14)ので、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。さらに、可変回転慣性質量ダンパ1が可変減衰ダンパの機能をも兼ね備えており、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、及び粘性流体HFが、可変回転慣性質量ダンパ及び可変減衰ダンパの構成部品として兼用されているので、その分、振動抑制装置を小型化することができる。
さらに、可変回転慣性質量ダンパ1は、基本的に、シリンダ2、ピストン3、第1及び第2連通路5、6を備え、歯車モータMを第1連通路5に設け、歯車ポンプPを第2連通路6に設けた構成であるので、ボールねじ機構や多数の部材から成る錘部保持機構などが必要である特開2016-151287号公報に開示された従来の可変回転慣性質量ダンパと比較して、構成が単純である。同じ理由から、ボールねじ機構、錘部保持機構及びアクチュエータがいずれもケーシング内に収容されるこの従来の可変回転慣性質量ダンパと比較して、組付けを容易に行えるとともに、調整やメンテナンスなどを行う際の作業性を向上させることができる。
なお、第1実施形態では、第1及び第2連通路5、6を、シリンダ2に直接、接続しているが、第2連通路6の両端部を第1連通路5の途中に、歯車モータMをまたぐように並列に接続してもよい(本出願人による特願2016-202281号の図7参照)。また、第1実施形態では、本発明における流動変換機構として、歯車モータMを用いているが、粘性流体HFの流動を回転運動に変換できる他の適当な機構、例えば、本出願人による特許第5191579号の図5などに記載されたスクリュー機構や、本出願人による特許第5161395号の図2などに記載されたピストンがナットに一体に設けられたボールねじ、あるいは、ベーンモータやプランジャモータ(ピストンモータ)などを用いてもよい。流動変換機構としてこのボールねじを用いる場合には、連通路におけるピストンが移動する部分を、シリンダ状に形成してもよいことは、もちろんである。
さらに、第1実施形態では、電磁弁で構成された調整弁15を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの調整弁を用いてもよい。また、第1実施形態では、本発明における流量調整機構を構成する電動ポンプとして、歯車ポンプPを用いているが、他の適当な電動ポンプ、例えば、ベーンポンプやプランジャポンプ(ピストンポンプ)などを用いてもよい。さらに、第1実施形態では、流量調整機構として、歯車ポンプPを用いているが、第2連通路6を流動する粘性流体HF(作動流体)の流量を調整可能な他の適当な機構、例えば、開度の変更によって作動流体の流量を調整する流量調整弁を用いてもよい。また、第1実施形態では、ピストン3に第1及び第2リリーフ弁11、12を設けているが、これらを省略してもよい。
さらに、第1実施形態では、本発明における可変減衰ダンパを、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF及び調整弁15などで構成し、可変回転慣性質量ダンパ1を可変減衰ダンパの機能をも備えるように構成しているが、可変回転慣性質量ダンパ1から調整弁15を削除した構成を有する可変回転慣性質量ダンパと、付加振動系の振動を減衰させるとともにその減衰係数を変更可能な可変減衰ダンパとを、並列に設けてもよい。この場合の可変減衰ダンパとして、後述する第2実施形態の可変減衰ダンパ81や、MR流体(Magneto-Rheological fluid)を用いたタイプの可変減衰ダンパなど、様々な可変減衰ダンパを用いてもよいことは、もちろんである。あるいは、可変減衰ダンパ(調整弁15)を省略するとともに、同調制御処理における減衰係数を制御するための処理(ステップ8〜14)を省略してもよい。
また、第1実施形態では、可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdを、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、制御しているが、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnとほぼ同じになるように、制御してもよい。その場合には、前記式(9)における近傍固有振動数fnに代えて、fnに非常に小さな所定値を加算又は減算した値が用いられる。
さらに、第1実施形態(同調制御処理)では、粘性流体HFによる慣性質量Mhを無視し、回転マス21による慣性質量Mrを可変回転慣性質量ダンパ1の慣性質量Mdとみなして、流量調整モータ31の動作及び調整弁15の開度の制御を行っているが、慣性質量Mhを無視せずに、Md=Mr+Mhとして、当該制御を行ってもよい。この場合、前記ステップ4以降の処理では、式(9)で算出された慣性質量Mdsから慣性質量Mhを減算した値が、慣性質量Mdsとして用いられる。また、第1実施形態に関してこれまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。
次に、図12〜図16を参照しながら、本発明の第2実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と同様に建物B(図15参照)に適用されたものであり、図12に示す可変回転慣性質量ダンパ61と、図13に示す可変減衰ダンパ81と、図14に示す制御装置91、電源92及び地震計53と、図15に示す第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を備えている。可変回転慣性質量ダンパ61は、後述する回転マス68、68が回転するのに伴って発生する慣性質量を2段階に変更可能に構成されており、図12に示すように、ケース状の本体部62と、本体部62内に収容された円筒状の内筒63及び外筒64と、本体部62に対して軸線方向(図12の左右方向)に移動自在に設けられたねじ軸65と、ねじ軸65に複数のボール(図示せず)を介して回転自在に螺合するナット66を有している。
本体部62は、筒状の筒壁62aと、筒壁62aの軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた板状の第1端壁62b及び第2端壁62cを、一体に有しており、第1及び第2端壁62b、62cの互いに対向する面の各々には、スラスト軸受けBE1が取り付けられ、固定されている。これらの一対のスラスト軸受けBE1、BE1は、互いに同軸状に配置されている。第1端壁62bには、厚さ方向の外方に突出する凸部62dが一体に設けられており、凸部62dには、回転マス68、68の回転に伴って作用するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継手を介して、第1取付具FL1’が設けられている。また、第2端壁62cには、厚さ方向に貫通する挿入孔62eが形成されており、凸部62d及び挿入孔62eは、スラスト軸受けBE1、BE1と同軸状に配置されている。また、第1及び第2端壁62b、62cには、厚さ方向に貫通する支持孔62fが、上記の挿入孔62eと平行に並んで形成されており、支持孔62fには、ラジアル軸受けBE2が設けられている。
内筒63は、円筒状の周壁63aと、周壁63aの軸線方向の両端部にそれぞれ設けられた円板状の第1端壁63b及び第2端壁63cを、一体に有しており、本体部62内に、ナット66と同軸状に配置されている。第1端壁63bは本体部62の第1端壁62bの軸受けBE1に、第2端壁63cは本体部62の第2端壁62cの軸受けBE1に、それぞれ係合しており、それにより、内筒63は、軸受けBE1、BE1を介して本体部62に、その軸線を中心として回転自在に支持されており、本体部62に対して移動不能である。また、第2端壁63cの径方向の中央には、軸線方向に貫通する挿入孔(図示せず)が形成されている。外筒64は、円筒状に形成され、その内側に内筒63が同軸状に挿入されていて、ラジアル軸受け(図示せず)を介して内筒63に回転自在に支持されており、内筒63に対して軸線方向に移動不能である。
前記ねじ軸65は、ボール及びナット66とともにボールねじを構成している。また、ねじ軸65は、軸線方向に延びるとともに、内筒63に、その第2端壁63cの挿入孔に挿入された状態で、軸線方向に移動自在に部分的に収容されており、本体部62の第2端壁62cよりも外方に延びている。ねじ軸65の内筒63と反対側の端部には、回転マス68、68の回転に伴って作用するトルクでは回転しない程度の摩擦を有する自在継手を介して、第2取付具FL2’が設けられている。ナット66は、内筒63の第2端壁63cに同軸状に取り付けられ、本体部62の第2端壁62cの挿入孔62eに挿入されており、本体部62に対して、内筒63と一体に回転自在である。
以上の構成により、ねじ軸65が本体部62に対して軸線方向に移動すると、この移動が上記のボールねじで回転運動に変換される結果、ナット66及び内筒63が回転する。
また、可変回転慣性質量ダンパ61は、内筒63と外筒64の間を接続/遮断するためのクラッチ67と、一対の回転マス68、68と、外筒64の回転を変速した状態で回転マス68、68に伝達するための変速機構69をさらに備えている。クラッチ67は、例えば摩擦クラッチであり、内筒63に取り付けられたインナーと、外筒64に取り付けられたアウターと、電磁式のアクチュエータ67a(図14参照)を有している。アクチュエータ67aは、制御装置91を介して電源92に接続されており、クラッチ67の接続/遮断は、アクチュエータ67aを介して、制御装置91により制御される。クラッチ67が接続された状態で、ねじ軸65が本体部62に対して移動するのに伴ってナット66及び内筒63が回転すると、外筒64は内筒63と一体に回転する。なお、アクチュエータ67aとして油圧式のものを用いてもよい。また、クラッチ67として、他の適当なクラッチ、例えば電磁パウダークラッチなどを用いてもよい。
各回転マス68は、比重の比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、円板状に形成されており、その厚さが比較的大きく、一対の回転マス68、68の一方は、変速機構69の後述する回転軸70の一端部に、他方は回転軸70の他端部に、それぞれ同軸状に一体に設けられている。なお、一対の回転マス68、68の一方を省略してもよいことは、もちろんである。
変速機構69は、いわゆる平行軸式の有段変速機構であって、本体部62の前述した挿入孔62f、62fにラジアル軸受けBE2、BE2を介して挿入された回転軸70と、互いに並列に設けられた第1ギヤ列71及び第2ギヤ列72と、シンクロメッシュ機構(同期噛合い機構)73などで構成されており、2段の変速段を有している。回転軸70は、ラジアル軸受けBE2、BE2を介して本体部62に回転自在に支持されており、外筒64と平行に延びている。第1及び第2ギヤ列71、72ならびにシンクロメッシュ機構73は、本体部62内に収容されている。
第1ギヤ列71は、互いに噛み合う第1ギヤ71a及び第2ギヤ71bで構成されており、前者71aは外筒64に同軸状に一体に設けられ、後者71bは、回転軸70に同軸状に回転自在に設けられている。また、第2ギヤ列72は、互いに噛み合う第3ギヤ72a及び第4ギヤ72bで構成されており、前者72aは外筒64に同軸状に一体に設けられ、後者72bは、回転軸70に同軸状に回転自在に設けられている。第1〜第4ギヤ71a、71b、72a、72bの歯数の設定については後述する。
シンクロメッシュ機構73は、第2ギヤ71b及び第4ギヤ72bを回転軸70に選択的に接続/遮断するためのものであり、環状に形成されるとともに内歯が設けられたスリーブ73aや、スリーブ73aに連結されたシフトフォーク73b、シフトフォーク73bを介してスリーブ73aを駆動する電磁式のアクチュエータ73c(図14参照)、第2及び第4ギヤ71b、72bの各々に一体に設けられたクラッチギヤ(図示せず)などを有している。シンクロメッシュ機構73は、車両用の有段変速機構に用いられるような周知のものであるので、その構成及び動作について簡単に説明する。
スリーブ73aは、回転軸70に回転不能かつ軸線方向に移動自在に設けられており、第2ギヤ71bと第4ギヤ72bの間に配置されている。シンクロメッシュ機構73では、スリーブ73aが図12に示す中立位置にあるときには、第2及び第4ギヤ71b、72bと回転軸70との間は、遮断された状態にある。また、アクチュエータ73cによりスリーブ73aが中立位置から第2ギヤ71b側に駆動されると、スリーブ73aは、第2ギヤ71b及び回転軸70の回転を互いに同期させながら第2ギヤ71b側に移動し、スリーブ73aの内歯が第2ギヤ71bと一体のクラッチギヤと噛み合うことによって、第2ギヤ71bが回転軸70に接続されるとともに、第4ギヤ72bと回転軸70の間が遮断される。
一方、アクチュエータ73cによりスリーブ73aが中立位置から第4ギヤ72b側に駆動されると、スリーブ73aは、第4ギヤ72b及び回転軸70の回転を互いに同期させながら第4ギヤ72b側に移動し、スリーブ73aの内歯が第4ギヤ72bと一体のクラッチギヤと噛み合うことによって、第4ギヤ72bが回転軸70に接続されるとともに、第2ギヤ71bと回転軸70の間が遮断される。
アクチュエータ73cは、制御装置91を介して電源92に接続されており、シンクロメッシュ機構73による第2及び第4ギヤ71b、72bの回転軸70への選択的な接続/遮断は、アクチュエータ73cを介して、制御装置91により制御される。これにより、外筒64の回転を回転マス68、68に伝達するための変速機構69のギヤ列として、第1及び第2ギヤ71a、71bから成る第1ギヤ列71と、第3及び第4ギヤ72a、72bから成る第2ギヤ列72の一方が選択される。
また、前記第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’は、弾性を有する比較的剛性の低い鋼材で構成され、それらの剛性が所定値に設定されており、建物Bの上梁BU及び下梁BDにそれぞれ固定されるとともに、上梁BUから下方に、下梁BDから上方に、それぞれ延びている。また、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’には、前記第1及び第2取付具FL1’、FL2’がそれぞれ取り付けられるとともに、可変減衰ダンパ81の後述する第1及び第2取付具FL1、FL2がそれぞれ取り付けられている。以上により、可変回転慣性質量ダンパ61及び可変減衰ダンパ81は、第1弾性部材EM1’を介して上梁BUに互いに並列に連結されるとともに、第2弾性部材EM2’を介して下梁BDに互いに並列に連結されており、両者BD、BUの間に水平に延びている。また、可変回転慣性質量ダンパ61、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’は、付加振動系を構成している。
さらに、可変回転慣性質量ダンパ61、可変減衰ダンパ81、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’は、建物Bのすべての層の各々に1組ずつ設けられており、図15はそのうちの1組を示している。なお、図15では便宜上、一部の構成要素及び符号の図示を省略している。ちなみに、可変回転慣性質量ダンパ61、可変減衰ダンパ81、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を、建物Bのすべての層でなく一部の層だけに設けてもよいことは、もちろんである。
次に、可変回転慣性質量ダンパ61の動作について説明する。建物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BDの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を介して、本体部62及びねじ軸65に外力として伝達されることにより、ねじ軸65が、本体部62に対して軸線方向に移動する。このねじ軸65の移動は、ナット66により回転運動に変換され、ナット66は、内筒63と一緒に本体部62に対して回転する。
この場合、クラッチ67で内筒63と外筒64の間が接続されるとともに、シンクロメッシュ機構73で第1ギヤ列71が選択されているときには、内筒63の回転が、外筒64、第1及び第2ギヤ71a、71bを介して、両ギヤ71a、71bのギヤ比に基づく所定の第1変速比(第2ギヤ71bの歯数/第1ギヤ71aの歯数)で変速された状態で、回転軸70に伝達され、さらに回転マス68、68に伝達される。これにより、回転マス68、68が回転する結果、回転マス68、68の回転に起因する慣性質量による慣性力が発生する。
一方、クラッチ67で内筒63と外筒64の間が接続され、シンクロメッシュ機構73で第2ギヤ列72が選択されているときには、内筒63の回転が、外筒64、第3及び第4ギヤ72a、72bを介して、両ギヤ72a、72bのギヤ比に基づく所定の第2変速比(第4ギヤ72bの歯数/第3ギヤ72aの歯数)で変速された状態で、回転軸70に伝達され、さらに回転マス68、68に伝達される。これにより回転マス68、68が回転する結果、回転マス68、68の回転に起因する慣性質量による慣性力が発生する。
なお、シンクロメッシュ機構73で選択されるギヤ列が第1ギヤ列71と第2ギヤ列72の間で変更され、変速機構69の変速比が第1変速比と第2変速比の間で切り替えられるときには、まず、クラッチ67で内筒63と外筒64の間が遮断された後、その状態でギヤ列の変更が行われ、変更されたギヤ列のギヤの回転軸70への接続が完了した後に、クラッチ67で内筒63と外筒64の間が接続される。
また、第1ギヤ列71が選択されているときには、ねじ軸65に作用する回転マス68、68による慣性質量Md’(等価質量)は、次式(15)で表される。
Md’={2π/(Ld・R1)}2・md’・D’2/8 ……(15)
ここで、R1は、上記の第1変速比(第2ギヤ71bの歯数/第1ギヤ71aの歯数)であり、Ldはねじ軸65のピッチ、md’は回転マス68、68の実質量、D’は回転マス68の径である。
一方、慣性質量Md’は、第2ギヤ列72が選択されているときには、次式(16)で表される。
Md’={2π/(Ld・R2)}2・md’・D’2/8 ……(16)
ここで、R2は、前記第2変速比(第4ギヤ72bの歯数/第3ギヤ72aの歯数)である。
これらの式(15)及び(16)から明らかなように、可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量Md’は、第1及び第2ギヤ列71、72の一方を選択し、変速機構69の変速比を変化させることによって、2段階に変更される。
次に、第1〜第4ギヤ71a〜72bの歯数の設定について説明する。回転マス68、68、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を含む付加振動系の固有振動数faは、次式(17)で表される。
fa=sqrt(θs’/Md’)/2π ……(17)
ここで、θs’は、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’の全体の剛性(ばね定数)である。
第1及び第2ギヤ71a、71bの歯数は、第1ギヤ列71が選択され、変速機構69の変速比として第1変速比R1が選択されているときに、付加振動系の固有振動数faが例えば建物Bの1次固有振動数(1次モードの固有振動数)f1に同調するように(例えば、fa=f1又はfa≒f1になるように)、設定されている。より具体的には、上記式(15)及び(17)に基づいて、第1変速比R1、1次固有振動数f1、ねじ軸65のピッチLd、回転マス68、68の実質量md’、回転マス68の径D’、ならびに、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’の全体の剛性θs’の間に、次式(18)が成立するように、第1及び第2ギヤ71a、71bの歯数は設定されている。
R1={(2π2・f1・D’)/Ld}・sqrt{md’/(2θs’)}
……(18)
なお、上記式(18)は、fa=f1になるように第1及び第2ギヤ71a、71bの歯数を設定する場合の例であるが、fa≒f1になるように設定する場合には、上記の式(18)の1次固有振動数f1に代えて、f1に非常に小さな所定値を加算又は減算した値が用いられる。
また、第3及び第4ギヤ72a、72bの歯数は、第2ギヤ列72が選択され、変速機構69の変速比として第2変速比R2が選択されているときに、付加振動系の固有振動数faが例えば建物Bの2次固有振動数(2次モードの固有振動数)f2に同調するように(例えば、fa=f2又はfa≒f2になるように)、設定されている。より具体的には、上記式(16)及び(17)に基づいて、第2変速比R2、2次固有振動数f2、ねじ軸65のピッチLd、回転マス68、68の質量md’、回転マス68の径D’、ならびに、第1及び第2連結部材EM1’、EM2’の全体の剛性θs’の間に、次式(19)が成立するように、第3及び第4ギヤ72a、72bの歯数は設定されている。
R2={(2π2・f2・D’)/Ld}・sqrt{md’/(2θs’)}
……(19)
なお、上記式(19)は、fa=f2になるように第3及び第4ギヤ72a、72bの歯数を設定する場合の例であるが、fa≒f2になるように設定する場合には、上記の式(19)の2次固有振動数f2に代えて、f2に非常に小さな所定値を加算又は減算した値が用いられる。
なお、第1及び第2変速比R1、R2はいずれも、値1.0よりも小さな高速側の変速比に設定されており、それにより、可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量Md’は、前記式(15)及び(16)から明らかなように、回転マス68、68の実質量md’よりも大きく増大される。
次に、前記可変減衰ダンパ81について説明する。可変減衰ダンパ81は、その減衰係数を連続的に変更可能に構成されており、図13に示すように、円筒状のシリンダ82と、シリンダ82内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン83と、ピストン83に一体に設けられ、シリンダ82内に軸線方向に移動自在に部分的に収容されたロッド84と、シリンダ82に接続された連通路85と、連通路85に設けられた調整弁86を有している。
シリンダ82は、第1実施形態のシリンダ2と同様に構成されており、周壁82a、第1端壁82b及び第2端壁82cを一体に有している。これらの周壁82a、第1及び第2端壁82b、82cによって画成された流体室は、ピストン83によって第1端壁82b側の第1流体室82dと第2端壁82c側の第2流体室82eに区画されており、両流体室82d、82eには、粘性流体HFが充填されている。また、第1端壁82bには、外方に突出する凸部82fが一体に設けられており、凸部82fには、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。第1取付具FL1は、前述したように第1弾性部材EM1’に取り付けられている(図15参照)。さらに、第2端壁82cの径方向の中央には、軸線方向に貫通するロッド案内孔82gが形成されており、ロッド案内孔82gには、シールが設けられている。
前記ロッド84は、上記のロッド案内孔82gに、シールを介して液密に挿入され、軸線方向に延びるとともに、シリンダ82に対して軸線方向に移動自在であり、その一端部がピストン83に取り付けられている。また、ロッド84の他端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。第2取付具FL2は、前述したように第2弾性部材EM2’に取り付けられている(図15参照)。
前記ピストン83は、円柱状に形成され、その外周面がシールを介してシリンダ82の内周面に液密に接している。また、ピストン83の径方向の外端部には、軸線方向に貫通する複数の孔が形成されており(2つのみ図示)、これらの孔には、前述した第1及び第2リリーフ弁11、12とそれぞれ同様に構成された第1リリーフ弁87及び第2リリーフ弁88が設けられている。
第1リリーフ弁87は、第1端壁82b側へのピストン83の移動によって第1流体室82d内の粘性流体HFの圧力が所定の上限値に達したときに開弁し、それにより、第1及び第2流体室82d、82eが互いに連通されることによって、第1流体室82d内の粘性流体HFの圧力の過大化が防止される。第2リリーフ弁88は、第2端壁82c側へのピストン83の移動によって第2流体室82e内の粘性流体HFの圧力が上記の上限値に達したときに開弁し、それにより、第2及び第1流体室82e、82dが互いに連通されることによって、第2流体室82e内の粘性流体HFの圧力の過大化が防止される。なお、第1及び第2リリーフ弁87、88の上限値を互いに異なる値に設定してもよい。
前記連通路85は、ピストン83をバイパスし、第1及び第2流体室82d、82eに連通するように、シリンダ82に接続されており、粘性流体HFが充填されている。調整弁86は、連通路85を流れる粘性流体HFの流動抵抗を調整するためのものであって、例えば常開タイプの電磁弁で構成されており、その開度を連続的に変更可能である。また、調整弁86は、制御装置91を介して電源92に接続されており、その開度が制御装置91によって制御される。
次に、可変減衰ダンパ81の動作について説明する。建物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BDの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を介して、シリンダ82及びロッド84に外力として伝達されることにより、シリンダ82とロッド84が軸線方向に相対的に移動し、ピストン83はシリンダ82内を摺動する。
この場合、ピストン83が第1流体室82d側(図13の左方)に移動したときには、第1流体室82d内の粘性流体HFの一部が、ピストン83によって連通路85に押し出されることで、連通路85内に第2流体室82e側(右方)への粘性流体HFの流動が生じる。これとは逆に、ピストン83が第2流体室82e側(右方)に移動したときには、第2流体室82e内の粘性流体HFの一部が、ピストン83によって連通路85に押し出されることで、連通路85内に第1流体室82d側(左方)への粘性流体HFの流動が生じる。
また、ピストン83が第1流体室82d側及び第2流体室82e側に移動するいずれの場合においても、このピストン83の移動に伴って、第1及び第2流体室82d、82eの間で粘性流体HFの圧力差が発生し、この圧力差は、ピストン83に抵抗力として作用する。この抵抗力、すなわち、可変減衰ダンパ81の減衰力は、付加振動系の振動を減衰させるように作用し、その減衰係数は、調整弁86の開度を調整し、連通路85を流動する粘性流体HFの流動抵抗を変化させることによって、連続的に変更される。
前記制御装置91及び電源92は、第1実施形態の制御装置51及び電源52とそれぞれ同様に構成されており、制御装置91には、地震計53で計測された、建物Bに入力される地震動を表す計測信号が入力される。制御装置91は、可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量Md’及び可変減衰ダンパ81の減衰係数を制御すべく、変速機構69の変速比を設定するとともに調整弁86の開度を制御するために、図16に示す同調制御処理を、所定時間ごとに繰り返し実行する。
この図16では、第1実施形態の同調制御処理(図8及び図9)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。以下、この同調制御処理について、第1実施形態と異なる実行内容の部分を中心に説明する。
図16の前記ステップ2に続くステップ21では、算出された卓越周波数fcpと、制御装置91のROMに記憶された建物Bの1次及び2次固有振動数f1、f2との関係に基づいて、近傍固有振動数fnを設定する。具体的には、卓越周波数fcpが1次固有振動数f1に所定値を加算した値よりも小さいときには、1次及び2次固有振動数f1、f2のうち、1次固有振動数f1が卓越周波数数fcpに最も近いとして、近傍固有振動数fnを1次固有振動数f1に設定する。一方、卓越周波数fcpが1次固有振動数f1に所定値を加算した値以上であるときには、1次及び2次固有振動数f1、f2のうち、2次固有振動数f2が卓越周波数数fcpに最も近いとして、近傍固有振動数fnを2次固有振動数f2に設定する。
次いで、近傍固有振動数fnに基づいて、変速機構69の変速比を設定(ステップ22)する。このステップ22では、近傍固有振動数fnが1次固有振動数f1に設定されているときには、付加振動系の固有振動数faを建物Bの1次固有振動数f1に同調させるために、変速機構69の変速比は第1変速比R1に設定(制御)される。また、近傍固有振動数fnが2次固有振動数f2に設定されているときには、付加振動系の固有振動数faを建物Bの2次固有振動数f2に同調させるために、変速機構69の変速比は第2変速比R2に設定(制御)される。これに伴い、設定された変速比に従って、アクチュエータ67a、73cの動作が制御される。
次に、設定された近傍固有振動数fnと第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’の全体の剛性θs’を用い、次式(20)によって、ステップ22の変速比の設定により制御された慣性質量Mds’を算出する(ステップ23)。この式(20)は、付加振動系の固有振動数faを表す前記式(17)(fa=sqrt(θs’/Md’)/2π)を、慣性質量Md’について展開するとともに、Md’をMds’に、faをfnに、それぞれ置き換えたものである。
Mds’=θs’/(fn・2π)2 ……(20)
また、この慣性質量Mds’の算出は、例えば、建物Bのすべての層の各々に設けられた回転マス68、68について行われる。以下、建物Bのi層に設けられた回転マス68、68による慣性質量Mds’を、適宜、層数iを添え字として付して表す(Mds’i 後述する式(21)参照)。さらに、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’の全体の剛性θs’は、所定値であり、ROMに記憶されており、上記のステップ23の算出においてROMから読み出される。
次いで、前記ステップ8を実行し、第1実施形態で説明したように、建物Bの広義節点質量
sM
0を算出する。次に、上記ステップ23で算出された慣性質量Mds’を用い、次式(21)によって、広義慣性接続要素質量
sMd’を算出する(ステップ24)。この広義慣性接続要素質量
sMd’は、付加振動系のs次モードでの広義の可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量である。この式(21)における
su
i(s)−
su
i-1(s)及び
su
1(s)については、第1実施形態で説明したとおりである。
次に、算出された広義慣性接続要素質量sMd’を、ステップ8で算出された広義節点質量sM0で除算することによって、質量比μ’を算出(μ’=sMd’/sM0)する(ステップ25)。
次いで、算出された質量比μ’を用い、次式(22)によって、最適同調振動数比γ’を算出する(ステップ26)とともに、次式(23)によって、可変減衰ダンパ81の減衰定数の目標値である目標減衰定数hobj’を算出する(ステップ27)。ここで、最適同調振動数比γ’が1を大きく超える場合には、前記ステップ23に戻り、式(20)における近傍固有振動数fnをγ’・fnに置き換えて、慣性質量Mds’を再計算するのが望ましい。このように、最適同調振動数比γ’が1を大きく超える場合には、本明細書中の近傍固有振動数fnをγ’・fnに置き換えてもよい。
次に、算出された最適同調振動数比γ’及び目標減衰定数hobj’、ならびに前記ステップ21及び22でそれぞれ設定された近傍固有振動数fn及び慣性質量Mds’を用い、次式(24)によって、可変減衰ダンパ81の減衰係数の目標値である目標減衰係数cobj’を算出する(ステップ28)。
cobj’=2hobj’・Mds’・γ’・fn・2π ……(24)
上記の式(22)〜式(24)は、第1実施形態で説明した式(12)〜式(14)と同様、定点理論に従い、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるような目標減衰係数cobj’を算出できるように、導出されたものである。
なお、以上のステップ8、及び24〜28による目標減衰係数cobj’の算出手法から明らかなように、当該算出に用いられる変数は、近傍固有振動数fn及び慣性質量Mds’であるので、両者fn、Mds’と目標減衰係数cobj’との関係をあらかじめ求めてマップ化するともに、このマップを、fn及びMds’に応じて検索することにより、目標減衰係数cobj’を算出してもよい。また、目標減衰係数cobj’の算出に、前記式(22)〜式(24)を用いているが、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように定点理論に従って導出された他の適当な式を用いてもよい。
次いで、算出された目標減衰係数cobj’に基づく駆動信号を出力することによって、調整弁86を駆動し(ステップ29)、今回の処理を終了する。このように調整弁86を駆動することで、可変減衰ダンパ81の減衰係数が、目標減衰係数cobj’になるように制御される。なお、上記の駆動信号は、減衰係数が目標減衰係数cobj’になるように実験などによって予め求められるとともに、ROMに記憶されている。また、ステップ1、2、8及び21〜29を含む同調制御処理は、前述したように所定時間ごとに繰り返し実行される。
以上のように、第2実施形態によれば、図12、図14及び図15を参照して説明したように、可変回転慣性質量ダンパ61と第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’によって、付加振動系が構成されている。可変回転慣性質量ダンパ61には、建物Bの振動に伴う変位が第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を介して伝達され、伝達された建物Bの変位は、ねじ軸65及びナット66を含むボールねじによって回転動力に変換され、変換された回転動力は、有段式の変速機構69によって、所定の第1及び第2変速比R1、R2から選択した1つの変速比で変速した状態で回転マス68、68に伝達され、それにより回転マス68、68が回転する結果、付加振動系が振動する。可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量Md’は、変速機構69の変速比を変化させることによって、2段階に変更される。
また、第1及び第2変速比R1、R2は、建物Bの振動中、第1及び第2変速比がそれぞれ選択されている場合に得られる付加振動系の固有振動数が建物Bの1次及び2次固有振動数f1、f2にそれぞれ同調するように、設定されている。さらに、図16を参照して説明したように、卓越周波数fcp(建物Bに入力される振動のうちの卓越する周波数成分の周波数)が算出され(ステップ2)、建物Bの振動中、近傍固有振動数fn(建物Bの1次及び2次固有振動数f1、f2のうちの、卓越周波数fcpに最も近い固有振動数)に付加振動系の固有振動数が同調するように、慣性質量Md’が制御される(ステップ21及び22)。これにより、建物Bの近傍固有振動数fnに付加振動系の固有振動数を同調させることによって、建物Bに入力されるそのときどきの振動に含まれる最も強い卓越周波数fcpでの建物Bの振動を、付加振動系で適切に吸収し、抑制することができる。
また、図13及び図15を参照して説明したように、可変減衰ダンパ81が付加振動系の振動を減衰させるとともに、その減衰係数が、調整弁86の開度を変更することによって、連続的に変更される。また、図16を参照して説明したように、建物Bの振動中、近傍固有振動数fnと、制御された可変回転慣性質量ダンパ61の慣性質量Md’(慣性質量Mds’)とに応じ、調整弁86の開度を変更することによって、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように、可変減衰ダンパ81の減衰係数を制御する(ステップ8及び23〜29)ので、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。
次に、図17を参照しながら、本発明の第3実施形態による振動抑制装置の可変回転慣性質量ダンパ101について説明する。この可変回転慣性質量ダンパ101は、上述した第2実施形態と比較して、回転マス102、102の構成と、各回転マス102と回転軸70の間に摩擦材103が設けられていることが、異なっている。図17において、第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
回転マス102は、第2実施形態の回転マス68と比較して、その軸線方向に貫通する嵌合孔102aが形成されている点のみが異なっている。上記の摩擦材103は、摩擦係数が比較的安定している材料、例えばテフロン(登録商標)などで構成され、環状に形成されるとともに回転軸70の両端部にそれぞれ取り付けられており、回転マス102の嵌合孔102aに嵌合している。この嵌合によって、回転マス102は回転軸70に連結されている。摩擦材103の摩擦係数は、建物Bの振動が非常に大きいことで回転マス102の回転トルクが非常に大きくなったときに、回転マス102が摩擦材103に対して滑るように、設定されている。なお、摩擦材103を、環状に形成せずに、回転軸70の周面に不連続に取り付けてもよい。
また、回転軸70における回転マス102の軸線方向の両側にはそれぞれ、フランジ70aが一体に設けられており、回転マス102は、これらのフランジ70a、70aに挟み込まれている。
なお、図示しないものの、可変回転慣性質量ダンパ101は、第2実施形態の場合と同様にして、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’をそれぞれ介して建物Bの下梁BD及び上梁BUに、可変減衰ダンパ81と並列に連結されている(図15参照)。可変回転慣性質量ダンパ101は、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’とともに付加振動系を構成している。
以上のように、第3実施形態によれば、摩擦材103が、回転軸70に取り付けられており、回転マス102は、その嵌合孔102aに摩擦材103が嵌合することにより、摩擦材103を介して回転軸70に連結されている。また、摩擦材103の摩擦係数が上述したように設定されているので、建物Bの振動が非常に大きいことで回転マス102の回転トルクが非常に大きくなったときに、回転マス102が摩擦材103に対して滑り、それにより、回転マス102、102の回転に伴って発生する慣性質量による慣性力を制限することができる。
なお、建物Bの振動中、回転マス102、102の回転に伴って発生する慣性質量による慣性力の制限を、クラッチ67を遮断することによって行ってもよい。
なお、第2及び第3実施形態では、回転軸70への第2及び第4ギヤ71b、72bの接続/遮断を行う単一のシンクロメッシュ機構73を用いているが、互いに別個に設けられた第2ギヤ71b用及び第4ギヤ72b用のシンクロメッシュ機構を用いてもよい。また、第2及び3実施形態では、第1ギヤ71aを外筒64に一体に、第2ギヤ71bを回転軸70に回転自在に、それぞれ設けているが、これとは逆に、第1ギヤ71aを外筒64に回転自在に、第2ギヤ71bを回転軸70に一体に、それぞれ設けてもよい。このことは、第3及び第4ギヤ72a、72bについても、同様に当てはまる。
さらに、第2及び第3実施形態では、変速機構69の変速段の段数は、2であるが、3以上でもよい。その場合、3段以上の複数の変速比が、これらの各々に対応してそれぞれ得られる付加振動系の複数の固有振動数が建物Bの3次モード以上の複数の固有振動数にそれぞれ対応して同調するように、設定される。また、第2及び第3実施形態では、変速機構69は、平行軸式の有段変速機構であるが、他の適当な有段変速機構、例えば、車両などで用いられている遊星歯車装置や、ブレーキ、クラッチの組み合わせで構成された有段変速機構でもよい。
さらに、第3実施形態では、摩擦材103を、回転軸70に取り付けるとともに、回転マス102の嵌合孔102aに嵌合させているが、回転マスの嵌合孔の内周面に摩擦材を取り付けるとともに、摩擦材の内側に回転軸を嵌合させてもよい。あるいは、摩擦材を、回転軸及び嵌合孔の内周面のいずれにも取り付けずに(固定せずに)、両者の間に嵌合させてもよい。その場合、回転マスに、その径方向に貫通するとともに嵌合孔に連通する複数の収容孔を形成し、各収容孔に摩擦材に接触するスプリングを設けるとともに、回転マスの径方向の外方から収容孔にねじをねじ込むことで、スプリングの圧縮度合を変化させ、それにより回転軸及び嵌合孔の内周面に対する摩擦材の嵌合度合(摩擦係数)を調整してもよい。
次に、図18〜図21を参照しながら、本発明の第4実施形態による振動抑制装置の可変回転慣性質量ダンパ111について説明する。この可変回転慣性質量ダンパ111は、第2実施形態と比較して、外筒64及びクラッチ67が設けられていないことと、変速機構112の構成が異なっている。図18〜図20において、第1及び第2実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1及び第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
図18に示す可変回転慣性質量ダンパ111の変速機構112は、変速比を無段階に変更可能な金属ベルト式の無段変速機構であり、車両などで用いられるような周知のものであるので、以下、その構成及び動作について簡単に説明する。変速機構112は、駆動プーリ113、従動プーリ114、伝達ベルト115、第1電磁弁116、及び第2電磁弁117(図19参照)などで構成されており、駆動プーリ113は、互いに対向する円錐台形状の固定部113a及び可動部113bを有している。
固定部113aは、内筒63の周壁63aに固定されており、可動部113bは、内筒63の周壁63aに、その軸線方向に移動可能でかつ相対的に回転不能に設けられている。また、固定部113aと可動部113bの間には、伝達ベルト115を巻き掛けるためのV字状のベルト溝が形成されている。可動部113bには、油圧ポンプ(図示せず)が接続されており、油圧ポンプから可動部113bに供給される油圧は、第1電磁弁116の開度を変更することによって、調整される。これにより、駆動プーリ113のプーリ幅が変更されることによって、駆動プーリ113の有効径が無段階に変化する。図19に示すように、第1電磁弁116は、後述する制御装置121を介して電源122に接続されている。
従動プーリ114は、上記駆動プーリ113と同様に構成されており、互いに対向する円錐台形状の固定部114a及び可動部114bを有している。固定部114aは、回転軸70に固定されており、可動部114bは、回転軸70に、その軸線方向に移動可能にかつ回転不能に設けられている。また、固定部114aと可動部114bの間には、V字状のベルト溝が形成されている。可動部114bには、油圧ポンプ(図示せず)が接続されており、油圧ポンプから可動部114bに供給される油圧は、第2電磁弁117の開度を変更することによって、調整される。これにより、従動プーリ114のプーリ幅が変更されることによって、従動プーリ114の有効径が無段階に変化する。図19に示すように、第2電磁弁117は、制御装置121を介して電源122に接続されている。
伝達ベルト115は、金属板で構成された多数のエレメントを互いに重ね合わせた状態で帯状の金属リングで連結したものであり、駆動プーリ113及び従動プーリ114のベルト溝に巻き掛けられている。
以上の構成の変速機構112では、制御装置121により第1及び第2電磁弁116、117の開度が制御されることによって、駆動プーリ113及び従動プーリ114の有効径が無段階に変化する結果、その変速比が無段階に制御される。変速機構112の変速比は、いずれも値1.0よりも小さな第1上限変速比と第2下限変速比の間で、無段階に変更可能である。
また、図20に示すように、可変回転慣性質量ダンパ111は、第2実施形態の場合と同様にして、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’をそれぞれ介して建物Bの上梁BU及び下梁BDに、可変減衰ダンパ81と並列に連結されている。可変回転慣性質量ダンパ111は、第1及び第2連結部材EN1’、EN2’とともに付加振動系を構成している。また、可変回転慣性質量ダンパ111、可変減衰ダンパ81、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’は、第2実施形態と同様、例えば、建物Bのすべての層の各々に1組ずつ設けられており、図20はそのうちの1組を示している。なお、図20では便宜上、一部の構成要素及び符号の図示を省略している。ちなみに、可変回転慣性質量ダンパ111、可変減衰ダンパ81、第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を、建物Bのすべての層でなく一部の層だけに設けてもよいことは、もちろんである。
次に、可変回転慣性質量ダンパ111の動作について説明する。建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間で相対変位が発生すると、この相対変位が本体部62及びねじ軸65に伝達されることによって、ねじ軸65が、本体部62に対して軸線方向に移動する。このねじ軸65の移動は、ナット66により回転運動に変換され、ナット66は、内筒63と一緒に本体部62に対して回転する。内筒63の回転は、変速機構112で変速された状態で回転軸70に伝達され、さらに回転マス68、68に伝達される。これにより、回転マス68、68が回転する結果、回転マス68、68の回転に起因する慣性質量Md’による慣性力が発生する。
この場合、変速機構112は、第2実施形態の変速機構69と異なり、その変速比を無段階に変更可能であるため、可変回転慣性質量ダンパ111では、変速機構112の変速比を変化させることによって、慣性質量Md’を連続的に変更可能である。
制御装置121及び電源122は、第1実施形態の制御装置51及び電源52とそれぞれ同様に構成されており、地震計53で計測された地震動を表す計測信号が入力される。図19に示すように、制御装置121にはさらに、第1回転数センサ123から駆動プーリ113の回転数を表す検出信号が、第2回転数センサ124から従動プーリ114の回転数を表す検出信号が、入力される。制御装置121は、第1及び第2回転数センサ123、124から入力された検出信号に基づいて、変速機構112の変速比(駆動プーリ113の回転数/従動プーリ114の回転数)を算出する。
また、制御装置121は、可変回転慣性質量ダンパ111の慣性質量Md’及び可変減衰ダンパ81の減衰係数を制御すべく、変速機構112の変速比を設定するとともに調整弁86の開度を制御するために、図21に示す同調制御処理を、所定時間ごとに繰り返し実行する。この図21では、第1及び第2実施形態の同調制御処理(図8及び図9、図16)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。
図21と図16との比較から明らかなように、第2実施形態と比較して、前記ステップ21及び22に代えて、前記ステップ3及び31をそれぞれ実行する点のみが異なっており、近傍固有振動数fnはステップ3により第1実施形態の場合と同様に設定され、変速機構112の変速比は、ステップ31の実行によって、第2実施形態とは異なる手法で設定される。このため、以下、このステップ31の実行内容についてのみ説明する。
ステップ31では、設定された近傍固有振動数fnに基づいて、変速機構112の変速比を設定(制御)する。具体的には、まず、近傍固有振動数fnに基づき、前記式(18)や(19)に基づく次式(25)によって、目標変速比Rcmdを算出する。次に、目標変速比Rcmdに基づく駆動信号を出力することによって、第1及び第2電磁弁116、117の開度を制御する。これにより、変速比が、算出された目標変速比Rcmdになるように制御される。
Rcmd={(2π2・fn・D’)/Ld}・sqrt{md’/(2θs’)}
……(25)
この式(25)における回転マス68の径D’、ねじ軸65のピッチLd、回転マス68、68の実質量md’第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’の全体の剛性θs’はいずれも、所定値であり、制御装置121のROMに記憶されており、ステップ31においてROMから読み出される。また、上記の駆動信号は、変速比が目標変速比Rcmdになるように実験などによって予め求められるとともに、ROMに記憶されている。
式(18)、(19)及び(25)から明らかなように、上述したように変速比を設定することによって、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、可変回転慣性質量ダンパ111の慣性質量Md’が制御される。
なお、第4実施形態に関し、第2実施形態で説明した目標減衰係数cobj’の算出手法のバリエーションを採用してもよいことは、もちろんである。すなわち、近傍固有振動数fn及び慣性質量Mds’と目標減衰係数cobj’との関係をあらかじめ求めてマップ化するともに、このマップを、fn及びMds’に応じて検索することにより、目標減衰係数cobj’を算出してもよい。また、目標減衰係数cobj’の算出に、前記式(22)〜式(24)を用いているが、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように定点理論に従って導出された他の適当な式を用いてもよい。
以上のように、第4実施形態によれば、図18〜図20を参照して説明したように、可変回転慣性質量ダンパ111と第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’によって、付加振動系が構成されている。可変回転慣性質量ダンパ111には、建物Bの振動に伴う変位が第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’を介して伝達され、伝達された建物Bの変位は、ねじ軸65及びナット66を含むボールねじによって回転動力に変換され、変換された回転動力は、無段式の変速機構112によって変速した状態で回転マス68、68に伝達され、それにより回転マス68、68が回転する結果、付加振動系が振動する。可変回転慣性質量ダンパ111の慣性質量Md’は、変速機構112の変速比を変化させることによって、連続的に変更される。
また、図21を参照して説明したように、卓越周波数fcp(建物Bに入力される振動のうちの卓越する周波数成分の周波数)が算出され(ステップ2)、建物Bの振動中、建物Bの近傍固有振動数fn(建物Bの所定の複数の固有振動数のうちの、卓越周波数fcpに最も近い固有振動数)に付加振動系の固有振動数が同調するように、変速機構112の変速比を設定することによって、慣性質量Md’が制御される(ステップ3及び31)。これにより、建物Bの近傍固有振動数fnに付加振動系の固有振動数を同調させることによって、建物Bに入力されるそのときどきの振動に含まれる最も強い卓越周波数fcpでの建物Bの振動を、付加振動系で適切に吸収し、抑制することができる。
また、第2実施形態と同様、可変減衰ダンパ81が付加振動系の振動を減衰させるとともに、その減衰係数が、調整弁86の開度を変更することによって、連続的に変更される。さらに、建物Bの振動中、近傍固有振動数fnと、制御された可変回転慣性質量ダンパ111の慣性質量Md’(慣性質量Mds’)とに応じ、調整弁86の開度を変更することによって、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように、可変減衰ダンパ81の減衰係数を制御する(ステップ8、24〜29)ので、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。
なお、第4実施形態では、第2及び第3実施形態の外筒64及びクラッチ67を省略しているが、これらを採用してもよく、その場合、駆動プーリ113の固定部113a及び可動部113bは、外筒64に設けられる。また、第4実施形態に関し、回転マス68、68及び回転軸70を第3実施形態で説明したように構成し、すなわち、各回転マスを、摩擦材を介して回転軸に連結してもよい。この場合にも、回転マス及び摩擦材に関し、上述したバリエーションを採用してもよいことは、もちろんである。
さらに、第4実施形態では、変速機構112は、金属ベルト式の無段変速機構であるが、他の適当な無段変速機構、例えば、車両などで用いられているトラクションドライブ式(トロイダル式)の無段変速機構などでもよい。また、第4実施形態では、慣性質量Md’を、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、制御しているが、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnとほぼ同じになるように、制御してもよい。その場合には、前記式(25)における近傍固有振動数fnに代えて、fnに非常に小さな所定値を加算又は減算した値が用いられる。
さらに、第2〜第4実施形態では、本発明における変換機構として、ねじ軸65及びナット66を含むボールねじを用いているが、伝達された構造物の変位を回転動力に変換する他の適当な機構、例えば、互いに噛み合うラック及びピニオンで構成された機構や、第1実施形態のシリンダ2、ピストン3、第1連通路5及び歯車モータMなどで構成された機構を用いてもよい。この場合、歯車モータMに代えて、前述した特許第5191579号のスクリュー機構などを用いてもよいことは、もちろんである。
また、第2〜第4実施形態では、可変減衰ダンパ81は、シリコンオイルで構成された粘性流体HFを用いたタイプのものであるが、作動油やMR流体を用いたタイプのものでもよい。さらに、第2〜第4実施形態では、電磁弁で構成された調整弁86を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの調整弁を用いてもよい。また、第2〜第4実施形態では、可変減衰ダンパ81を設けているが、これを省略するとともに、同調制御処理における減衰係数を制御するための処理(ステップ8及び24〜29)を省略してもよい。さらに、第2〜第4実施形態では、ピストン83に第1及び第2リリーフ弁87、88を設けているが、これらを省略してもよい。
次に、図22〜図25を参照しながら、本発明の第5実施形態による振動抑制装置について説明する。この振動抑制装置は、第1実施形態と同様に建物B(図24参照)に適用されたものであり、図22に示す可変回転慣性質量ダンパ131と、図23に示す制御装置141、電源142及び地震計53と、図24に示す第1及び第2弾性部材EM1、EM2を備えている。図22及び図24において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図22と図1の比較から明らかなように、可変回転慣性質量ダンパ131は、第1実施形態の可変回転慣性質量ダンパ1と比較して、第2連通路6及び歯車ポンプPを備えていないことと、歯車モータMに代えて、可変容量型の流体圧モータ132を備えていることが、異なっている。
流体圧モータ132は、例えば周知の斜板式の可変容量型油圧モータであるため、以下、その構成及び動作について簡単に説明する。流体圧モータ132は、回転軸132aや、アクチュエータ132b(図23参照)、斜板、シリンダブロック、ピストン、シュー(いずれも図示せず)などを有するとともに、第1連通路5の途中に設けられている。このシリンダブロックには、流入ポート及び流出ポートが設けられており、これらの流入ポートと流出ポートは、第1連通路5及びチェック弁(図示せず)などを介して第1及び第2流体室2d、2eに、互いに並列に接続されている。
流体圧モータ132では、この流入ポートに粘性流体HFが流入すると、流入した粘性流体HFの圧力エネルギが、上記のシリンダブロックや、ピストン、シュー、斜板により回転軸132aの回転エネルギに変換され、回転軸132aが回転する。斜板の傾転角は、アクチュエータ132bで連続的に変更されるように構成されており、斜板の傾転角の変更により、流体圧モータ132の押しのけ容積VM(回転軸132aの1回転当たりに押しのける幾何学的容積)が連続的に変更されることによって、同じ粘性流体HFの圧力に対する回転軸132aの回転量が連続的に変化する。
アクチュエータ132bは、例えば電磁式のものであり、図23に示す制御装置141に接続されている。制御装置141は、前記制御装置51と同様、CPUや、RAM、ROM、I/Oインターフェースなどの組み合わせで構成されるとともに、電源142に接続されており、アクチュエータ132bを介して斜板の傾転角を変更することによって、流体圧モータ132の押しのけ容積VMを調整する。なお、アクチュエータ132bとして、流体圧式のものなどを用いてもよいことは、もちろんである。
また、回転軸132aには、前記回転マス21が同軸状に一体に設けられている。流体圧モータ132で粘性流体HFの圧力エネルギが回転軸132aの回転エネルギに変換されると、回転マス21は、回転軸132aと一体に回転する。
図24に示すように、以上の構成の可変回転慣性質量ダンパ131は、第1実施形態の可変回転慣性質量ダンパ1と同様、そのシリンダ2及びピストンロッド4が前記第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介して下梁BD及び上梁BUにそれぞれ連結されるとともに、両者BD、BUの間に水平に延びており、第1及び第2弾性部材EM1、EM2とともに付加振動系を構成している。また、可変回転慣性質量ダンパ131、第1及び第2弾性部材EM1、EM2は、建物Bのすべての層の各々に1組ずつ設けられており、図24はそのうちの1組を示している。
なお、図24では便宜上、第1連通路5などの一部の構成要素の図示を省略している。ちなみに、可変回転慣性質量ダンパ131、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を、建物Bのすべての層でなく一部の層だけに設けてもよいことは、もちろんである。
次に、可変回転慣性質量ダンパ131の動作について説明する。建物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BDの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介して、シリンダ2及びピストンロッド4に外力として伝達されることにより、シリンダ2とピストンロッド4が軸線方向に相対的に移動し、ピストン3がシリンダ2内を摺動する。
この場合、ピストン3が第1流体室2d側(図22の左方)に移動したときには、第1流体室2d内の粘性流体HFの一部が、ピストン3によって第1連通路5に押し出されることで、第1連通路5内に第2流体室2e側(右方)への粘性流体HFの流動が生じる。これとは逆に、ピストン3が第2流体室2e側(右方)に移動したときには、第2流体室2e内の粘性流体HFの一部が、ピストン3によって第1連通路5に押し出されることで、第1連通路5内に第1流体室2d側(左方)への粘性流体HFの流動が生じる。
この流動による粘性流体HFの圧力エネルギは、流体圧モータ132により回転軸132aの回転エネルギに変換され、回転軸132aが回転マス21とともに回転する。以上の粘性流体HFの流動及び回転マス21の回転に伴い、第1実施形態の場合と同様、回転マス21による慣性質量(回転マス21の回転慣性質量に基づく慣性質量)MRと、第1連通路5内の粘性流体HFによる慣性質量Mhとを含む慣性質量MD(シリンダ2及びピストン3に入力された振動による外力に対する軸線方向の慣性質量)が発生する。
この場合、回転マス21による慣性質量MRは、次式(26)により表され、粘性流体HFによる慣性質量Mhは第1実施形態で説明したとおりである。また、粘性流体HFによる慣性質量Mhは、回転マス21による慣性質量MRと比較して非常に小さい傾向にある。
MR=(2π/XM)2・md・D2/8
={(2π・Ap)/VM}2・md・D2/8 ……(26)
式(26)において、XMは、粘性流体HFの流動により流体圧モータ132の回転軸132aが1回転するのに要する、シリンダ2に対するピストン3の移動量であり、ボールねじ機構を用いた回転慣性質量ダンパにおけるボールねじのリード長Ldに相当する。また、VMは、前述したように流体圧モータ132の押しのけ容積であり、その他のパラメータ(md、D、Ap)は第1実施形態で説明したとおりである。
上記の式(26)から明らかなように、制御装置141により流体圧モータ132の押しのけ容積VMが調整されることによって、回転マス21による慣性質量MRを含む可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDが制御される。この場合、押しのけ容積VMの調整により、慣性質量MDは連続的に変更され、また、押しのけ容積VMが小さいほど、同じ粘性流体HFの圧力エネルギに対して回転軸132a及び回転マス21の回転量が大きくなるため、慣性質量MDはより大きくなる。このことは、式(26)からも明らかである。
また、第1実施形態の場合と同様、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF及び調整弁15は、可変回転慣性質量ダンパ131、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を含む付加振動系の振動を減衰させるとともに、その減衰係数を連続的に変更可能な可変減衰ダンパとして機能する。この場合、調整弁15の開度を変更することで、第1連通路5内を流動する粘性流体HFの流動抵抗を調整することによって、可変減衰ダンパの減衰係数が連続的に変更され、減衰係数は、調整弁15の開度が小さいほど、第1及び第2流体室2d、2eの間での粘性流体HFの圧力差が大きくなることによって、より大きくなる。
また、制御装置141は、可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MD及び減衰係数を制御すべく、流体圧モータ132の押しのけ容積VM及び調整弁15の開度を制御するために、図25に示す同調制御処理を、所定時間ごとに繰り返し実行する。図25では、第1実施形態の同調制御処理(図8及び図9)と同じ実行内容の部分については、同じステップ番号を付している。
図25と図8及び図9との比較から明らかなように、第1実施形態と比較して、前記ステップ5〜7に代えて、ステップ41及び42を実行する点のみが異なっている。このため、以下、これらのステップ41及び42の実行内容についてのみ説明する。なお、前述したように可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDに含まれる粘性流体HFによる慣性質量Mhは、回転マス21による慣性質量MRと比較して非常に小さい傾向にある。このため、同調制御処理では、この慣性質量Mhを無視し、回転マス21による慣性質量MRを可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDとみなして、流体圧モータ132の押しのけ容積VM及び調整弁15の開度が制御される。
ステップ41では、前記ステップ4で算出された本制御用の慣性質量Mdsを用い、次式(27)によって、押しのけ容積VMの目標値である目標押しのけ容積VMobjを算出する。この式(27)は、前記式(26)を、押しのけ容積VMについて展開するとともに、押しのけ容積VMを目標押しのけ容積VMobjに、回転マス21による慣性質量MRを慣性質量Mdsに、それぞれ置き換えたものである。
VMobj=(2π・Ap)/sqrt{8Mds/(md・D2)} ……(27)
ステップ41に続くステップ42では、算出された目標押しのけ容積VMobjに基づく駆動信号をアクチュエータ132bに出力することによって、アクチュエータ132bを駆動する。これにより、流体圧モータ132の押しのけ容積VMが目標押しのけ容積VMobjになるように制御される。これにより、可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDとみなされた回転マス21による慣性質量MRが、前記ステップ4で算出された慣性質量Mdsに制御される。その結果、慣性質量MDと第1及び第2弾性部材EM1、EM2の剛性θsで定まる付加振動系の固有振動数(=sqrt(θs/MD)/2π)が、近傍固有振動数fnと同じになるように制御される。なお、上記の駆動信号は、目標押しのけ容積VMobjが得られるように実験などによって予め求められるとともに、ROMに記憶されている。
また、ステップ42に続くステップ8以降では、第1実施形態の場合と同様にして、調整弁15の開度が制御され、それにより、シリンダ2やピストン3などから成る可変減衰ダンパ(可変回転慣性質量ダンパ131)の減衰係数が、目標減衰係数cobjになるように制御される。
以上のように、第5実施形態によれば、可変回転慣性質量ダンパ131と第1及び第2弾性部材EM1、EM2によって、付加振動系が構成されている。また、建物Bの振動に伴う上下の梁BU、BDの間の相対変位が第1及び第2弾性部材EM1、EM2を介してシリンダ2及びピストン3に伝達され、それにより、ピストン3がシリンダ2内を摺動し、第1及び第2流体室2d、2eの一方の側に移動すると、その一方の流体室内の粘性流体HFがピストン3で第1連通路5に押し出されることによって、第1連通路5内に、他方の流体室側への粘性流体HFの流動が生じる。
この粘性流体HFの圧力エネルギは、可変容量型の流体圧モータ132により回転エネルギに変換され、変換された回転エネルギが回転マス21に伝達されることによって、回転マス21が回転する。それに伴い、回転マス21の回転慣性質量に応じた慣性質量MDが発生する。この場合、可変容量型の流体圧モータ132の押しのけ容積VMを変更することによって、同じ粘性流体HFの圧力エネルギに対する回転マス21の回転量を連続的に変化させることができ、それにより、回転21マスの回転に伴って発生する可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDを連続的に変更することができる。
また、第1実施形態の場合と同様、建物Bに入力される振動のうちの卓越する周波数成分の周波数である卓越周波数fcpが算出される(図25のステップ2)。さらに、建物Bの振動中、建物Bの所定の複数の固有振動数のうちの、算出された卓越周波数fcpに最も近い固有振動数である近傍固有振動数fnに、付加振動系の固有振動数が同調するように、より具体的には、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、アクチュエータ132bを介して押しのけ容積VMを調整することによって、可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDが制御される(ステップ34〜42)。これにより、建物Bの近傍固有振動数fnに付加振動系の固有振動数を同調させることによって、建物Bに入力されるそのときどきの振動に含まれる最も強い卓越周波数fcpでの建物Bの振動を、付加振動系で適切に吸収し、抑制することができる。
さらに、第1実施形態の場合と同様、付加振動系の振動が、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF、及び調整弁15から成る可変減衰ダンパで減衰され、調整弁15の開度を変化させることによって、可変減衰ダンパの減衰係数が連続的に変更される。また、建物Bの振動中、定点理論に従い、近傍固有振動数fnと、前述したように制御された可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MD(慣性質量Mds)とに応じて、建物Bの応答倍率の最大値が最小になるように、可変減衰ダンパの減衰係数を制御する(ステップ8〜14)ので、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。さらに、可変回転慣性質量ダンパ131が可変減衰ダンパの機能をも兼ね備えており、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、及び粘性流体HFが、可変回転慣性質量ダンパ及び可変減衰ダンパの構成部品として兼用されているので、その分、振動抑制装置を小型化することができる。その他、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
なお、第5実施形態では、流体圧モータ132は、斜板式のものであるが、他の適当な可変容量型の流体圧モータ、例えば、斜軸式のものや、ベーン式のものなどでもよく、また、流体圧モータ132は、押しのけ容積VMを連続的に変更可能に構成されているが、段階的に変更可能に構成されていてもよい。また、第5実施形態では、電磁弁で構成された調整弁15を用いているが、油圧や空気圧で駆動されるタイプの調整弁を用いてもよい。さらに、第5実施形態では、ピストン3に第1及び第2リリーフ弁11、12を設けているが、これらを省略してもよい。
また、第5実施形態では、本発明における可変減衰ダンパを、シリンダ2、ピストン3、第1連通路5、粘性流体HF及び調整弁15などで構成し、可変回転慣性質量ダンパ131を可変減衰ダンパの機能をも備えるように構成しているが、可変回転慣性質量ダンパ131から調整弁15を削除した構成を有する可変回転慣性質量ダンパと、付加振動系の振動を減衰させるとともにその減衰係数を変更可能な可変減衰ダンパとを、並列に設けてもよい。この場合の可変減衰ダンパとして、前記可変減衰ダンパ81や、MR流体(Magneto-Rheological fluid)を用いたタイプの可変減衰ダンパなど、様々な可変減衰ダンパを用いてもよいことは、もちろんである。あるいは、可変減衰ダンパ(調整弁15)を省略するとともに、同調制御処理における減衰係数を制御するための処理(ステップ8〜14)を省略してもよい。
さらに、第5実施形態では、可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDを、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnと同じになるように、制御しているが、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数fnとほぼ同じになるように、制御してもよい。その場合には、前記式(9)における近傍固有振動数fnに代えて、fnに非常に小さな所定値を加算又は減算した値が用いられる。
また、第5実施形態(同調制御処理)では、粘性流体HFによる慣性質量Mhを無視し、回転マス21による慣性質量MRを可変回転慣性質量ダンパ131の慣性質量MDとみなして、押しのけ容積VM及び調整弁15の開度の制御を行っているが、慣性質量Mhを無視せずに、MD=MR+Mhとして、当該制御を行ってもよい。この場合、図25の前記ステップ4以降の処理では、式(9)で算出された慣性質量Mdsから慣性質量Mhを減算した値が、慣性質量Mdsとして用いられる。さらに、第5実施形態に関してこれまでに述べたバリエーションを適宜、組み合わせて適用してもよいことは、もちろんである。
なお、本発明は、説明した第1〜第5実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1及び第5実施形態では、鋼材で構成された第1及び第2弾性部材EM1、EM2を用いているが、他の適当な弾性部材、例えば、ばねや、ゴムを用いてもよい。また、第1実施形態では、第1及び第2弾性部材EM1、EM2を、上下方向に延びるように設けているが、前者EM1を逆V字のブレース状に設けてもよく、また、後者EM2をV字のブレース状に設けてもよい。これらのことは、第2〜第4実施形態の第1及び第2弾性部材EM1’、EM2’についても同様に当てはまる。さらに、実施形態では、シリコンオイルで構成された粘性流体HFを用いているが、作動油や粘性を有する他の適当な流体を用いてもよい。
また、実施形態の可変回転慣性質量ダンパ1、61、101、111、131は、あくまで例示であり、その慣性質量を変更可能な他の適当な可変回転慣性質量ダンパを用いてもよいことは、もちろんである。例えば、互いに同軸状に軸線方向に並んだ複数の回転マスと、弾性部材を介して伝達された構造物の振動に伴う変位を回転運動に変換した状態で、前記複数の回転マスのうちの軸線方向の端部に位置する1つの回転マスに伝達する変換機構と、複数の回転マスのうちの互いに隣り合う2つの回転マスの間を接続/遮断する複数のクラッチ(クラッチの数=回転マスの数−1)を有する可変回転慣性質量ダンパを用いてもよい。
上記構成の可変回転慣性質量ダンパでは、その変換機構側から反対側に向かって順に、隣り合う2つの回転マスの間をクラッチで接続することによって、変換機構に作用する回転マス全体による慣性質量が、段階的により大きくなる。この場合、例えば、回転マスの数が3つであるときには、各回転マスの実質量や径は次のように設定される。すなわち、2組の回転マスの間がクラッチで接続されているとき(慣性質量が最大)には、付加振動系の固有振動数が構造物の1次モードの固有振動数に同調し、変換機構と反対側の1組の回転マスの間が遮断されるとともに残りの1組の回転マスの間が接続されているとき(慣性質量が中)には、付加振動系の固有振動数が構造物の2次モードの固有振動数に同調し、2組の回転マスの間がクラッチで遮断されているとき(慣性質量が最小)には、付加振動系の固有振動数が構造物の3次モードの固有振動数に同調するように、各回転マスの実質量や径が設定される。
また、上記構成の可変回転慣性質量ダンパを用いた場合には、クラッチの接続/遮断を制御することによって、付加振動系の固有振動数が近傍固有振動数に同調するように、慣性質量が制御される。この場合の変換機構として、実施形態や前述したバリエーションで説明したような種々の変換機構を用いてもよいことは、もちろんである。あるいは、特開2016-151287号公報に開示された可変回転慣性質量ダンパを用いてもよい。
さらに、実施形態で説明した同調制御処理の制御手法は、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で、他の適当な制御手法を採用してもよいことは、もちろんである。また、第1及び第5実施形態では可変回転慣性質量ダンパ1、131を、第2〜第4実施形態では、可変回転慣性質量ダンパ61、101、111及び可変減衰ダンパ81を、上梁BU及び下梁BDに連結しているが、構造物が立設された基礎及び構造物を含む系内の他の適当な所定の2つの部位、例えば基礎及び構造物の上端部に連結してもよく、あるいは、構造物と基礎に連結してもよい。さらに、実施形態では、本発明における構造物は、建物Bであるが、他の適当な構造物、例えば、橋梁や、鉄塔、ラック倉庫などでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。