しかし、上述した回転慣性質量ダンパでは、調整弁が電磁弁で構成されているため、地震時の停電などによって電力の供給が停止した場合には、調整弁が作動不能になり、粘性減衰効果を変更できず、所望の粘性減衰効果を得ることができない。また、調整弁が第1連通路において歯車モータの一方の側に配置されているため、ピストンがシリンダに対して一方に移動する場合と他方に移動する場合では、作動流体が流出する流体室から調整弁までの流路距離の相違により圧力損失が異なるため、同等の粘性減衰効果が得られず、粘性減衰効果が非対称になるという課題がある。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電力の供給を必要とすることなく、シリンダに対するピストンの移動方向が異なる場合の対称性を確保しながら、粘性減衰効果を変更することができる回転慣性質量ダンパを提供することを目的とする。
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制する回転慣性質量ダンパであって、作動流体が充填され、第1部位に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、シリンダの内部空間を第1流体室と第2流体室に区画するとともに、第2部位に連結されるピストンと、作動流体が充填され、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられた第1連通路及び第2連通路と、第1連通路に設けられ、第1連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する圧力モータと、圧力モータによって回転駆動される回転マスと、第2連通路に互いに間隔を隔てて配置され、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したとき、及び第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに、それぞれ開弁し、第2連通路を開放する一対の開閉弁と、第2連通路の一対の開閉弁の間に接続され、一対の開閉弁の一方の開弁に伴って第1及び第2流体室の一方から作動流体の圧力が導入される圧力導入路と、第1連通路の圧力モータの両側に設けられ、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって作動し、第1連通路の開度を調整する一対の調整弁と、を備えることを特徴とする。
この回転慣性質量ダンパでは、地震時などに構造物に振動が入力され、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、その相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されることにより、相対変位に応じた方向及び移動量で、ピストンがシリンダ内を摺動する。このピストンの移動に伴い、第1又は第2流体室内の作動流体がピストンで押し出され、第1連通路に流入し、他方の流体室に向かって流動する。この第1連通路内の作動流体の流動が圧力モータにより回転運動に変換され、回転マスが回転駆動されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体が第1連通路を流動する際の粘性抵抗によって粘性減衰効果が発揮される。
本発明では、この粘性減衰効果が、第1連通路に設けられた一対の調整弁によって、以下のように変更される。すなわち、第1又は第2流体室内の作動流体の圧力(以下、適宜「流体室圧力」という)が第1所定圧に達するまでは、第2連通路に設けられた一対の開閉弁が閉弁状態に維持されるため、流体室圧力は圧力導入路に導入されず、調整弁は作動しない。その結果、初期状態の第1連通路の開度に応じた粘性減衰効果が発揮される。
これに対し、流体室圧力が第1所定圧に達すると、一方の開閉弁が開弁することにより、流体室圧力がこの開閉弁を介して圧力導入路に導入され、一対の調整弁に作用する。これにより、両調整弁が作動し、それに応じて第1連通路の開度が調整されることにより、作動流体が第1連通路を流動する際の粘性抵抗が変化し、粘性減衰効果が変更される。このように、構造物の振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体の圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、粘性減衰効果を変更することができる。以下、上記のように圧力導入路に導入され、調整弁に作用する作動流体の圧力を、適宜「導入圧力」という。
また、一対の調整弁が第1連通路の圧力モータの両側に配置されるとともに、導入圧力が圧力導入路を介して一対の調整弁に均等に作用することで、第1連通路の開度が均等に調整されるので、ピストンがシリンダに対して一方の側に移動する場合と他方の側に移動する場合において、粘性減衰効果をその対称性を確保しながら良好に発揮させることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、一対の調整弁の各々は、第1連通路を横切るように設けられ、第1連通路及び圧力導入路に連通する弁体収容室と、弁体収容室内に収容され、圧力導入路内の作動流体の圧力に応じて移動することにより、第1連通路の開度を調整する弁体と、弁体収容室内に設けられ、弁体を圧力導入路側に付勢するセットばねと、弁体に対してセットばねと反対側の所定位置に突出し、弁体を係止するためのストッパと、を有することを特徴とする。
この構成によれば、弁体収容室に調整弁の弁体が収容されており、この弁体は、導入圧力に応じて、導入圧力とセットばねのばね力が釣り合う位置に移動する。これにより、導入圧力に応じて第1連通路の開度を調整し、粘性減衰効果を変更することができる。また、弁体収容室にセットばね及び弁体を収容するとともに、セットばねで付勢された弁体をストッパに係止させるだけで、調整弁の初期設定を容易にかつ精度良く行うことができる。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力導入路は、第1及び第2流体室に連通するとともに一対の調整弁に接続された連通部を有し、連通部の一対の調整弁の外側にそれぞれ配置されるとともに、手動によって開弁され、圧力導入路内の圧力を第1及び第2流体室に逃がすことによって、一対の調整弁を初期状態に復帰させるための一対の復帰弁をさらに備えることを特徴とする。
調整弁が前述したように作動した後には、導入圧力は、圧縮されたセットばねのばね力の分だけ流体室圧力よりも高い状態で、圧力導入路内に残留している。この構成によれば、調整弁の作動後に一対の復帰弁を手動で開弁すると、圧力導入路内の高圧の導入圧力が、復帰弁を介して、第1及び第2流体室にそれぞれ逃がされる。これにより、各調整弁の弁体は、セットばねのばね力によって移動し、ストッパに係止され、初期位置に位置決めされる。このように、調整弁が作動した後、一対の復帰弁を開弁するだけで、各調整弁を初期状態に容易に復帰させることができる。
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したとき、及び第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに、それぞれ開弁し、第1及び第2流体室を互いに連通させる一対のリリーフ弁をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、ピストンに一対のリリーフ弁が設けられており、一方のリリーフ弁は、第1流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、他方のリリーフ弁は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁する。これにより、第1及び第2流体室が互いに連通し、上昇した一方の流体室の流体室圧力が他方の流体室に逃がされる。その結果、流体室圧力の過大化が防止され、回転慣性質量ダンパの制振力(慣性力+粘性力の合力)が頭打ちになることにより、シリンダ及びピストンに作用する軸力を適切に制限することができる。
また、リリーフ弁の設定圧である第2所定圧が、開閉弁の設定圧である第1所定圧よりも大きいので、開閉弁の開弁による調整弁の作動によって粘性減衰効果が変更された後に、リリーフ弁の開弁による軸力制限を行うことができる。
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第1及び第2連通路は、シリンダの軸線方向の両端位置において、シリンダの内部空間に連通していることを特徴とする。
この構成によれば、ピストンで押し出された第1又は第2流体室内の作動流体は、シリンダ内を移動するピストンの位置にかかわらず、シリンダの端位置から第1及び第2連通路に流入する。したがって、ピストンの位置にかかわらず、第1連通路内の作動流体の流動による回転慣性質量効果と可変の粘性減衰効果を得ることができる。
請求項6に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第1連通路は、シリンダの軸線方向の両端位置において、シリンダの内部空間に連通し、第2連通路は、シリンダの軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第1中間位置において、シリンダの内部空間に連通していることを特徴とする。
この構成によれば、第1連通路は、請求項5の場合と同様、シリンダの両端位置において、シリンダの内部空間に連通している。したがって、ピストンの位置にかかわらず、第1連通路内の作動流体の流動による回転慣性質量効果と粘性減衰効果を得ることができる。
一方、第2連通路は、シリンダの中心に対して互いに対称である所定の2つの第1中間位置において、シリンダの内部空間に連通している。このため、ピストンが2つの第1中間位置で規定される所定区間内に位置するときには、ピストンで押し出された作動流体の一部が、第1中間位置から第2連通路に流入する。これに伴い、開閉弁が開弁するのに応じて調整弁が作動することによって、粘性減衰効果が変更される。
この状態から、ピストンがさらに移動し、上記の所定区間から外れ、シリンダの外方に移動する場合には、作動流体が第2連通路に流入しなくなるため、開閉弁は開弁されず、調整弁が作動しないため、粘性減衰効果は変更されない。以上のように、この構成によれば、ピストンが所定区間から外れ、シリンダの外方に移動する場合を除き、可変の粘性減衰効果を得ることができる。
請求項7に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第1及び第2連通路はそれぞれ、シリンダの軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第2中間位置において、シリンダの内部空間に連通していることを特徴とする。
この構成によれば、第1及び第2連通路はそれぞれ、シリンダの軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第2中間位置において、シリンダの内部空間に連通している。このため、ピストンが2つの第2中間位置で規定される所定区間内に位置するときには、ピストンで押し出された作動流体は、第2中間位置から第1及び第2連通路に流入する。したがって、第1連通路内の作動流体の流動による回転慣性質量効果と可変の粘性減衰効果を得ることができる。ピストンがさらに移動し、上記の所定区間から外れた後には、作動流体は第1及び第2連通路のいずれにも流入せず、シリンダ内に閉じ込められた状態になる。このため、第1連通路内の作動流体の流動による回転慣性質量効果及び粘性減衰効果がいずれも得られなくなる一方で、リリーフ弁の開弁によってピストンが移動する特徴から、摩擦ダンパに近似した減衰特性を発揮させることができる。
請求項8に係る発明は、請求項1から7のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、作動流体が充填され、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられた第3連通路及び第4連通路と、第4連通路に互いに間隔を隔てて配置され、第1流体室内の作動流体の圧力が第3所定圧に達したとき、及び第2流体室内の作動流体の圧力が第3所定圧に達したときにそれぞれ開弁し、第4連通路を開放する一対の第2開閉弁と、第3連通路に設けられ、一対の第2開閉弁の一方の開弁に伴って導入された第1又は第2流体室の作動流体の圧力によって作動し、第3連通路の開度を調整する第2調整弁と、をさらに備えることを特徴とする。
この回転慣性質量ダンパでは、第1及び第2連通路とは別個に第3及び第4連通路が設けられており、第3及び第4連通路は、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、互いに並列に設けられている。また、第4連通路には一対の開閉弁と同様の一対の第2開閉弁が設けられ、第3連通路には一対の調整弁と同様の第2調整弁が設けられている。
この構成によれば、ピストンで押し出された作動流体は、第1及び第2連通路に流入するとともに、第3及び第4連通路に流入する。このため、第1連通路に流入する作動流体の流量は、第3連通路への流入分だけ減少する。したがって、第1連通路では、流量が減少した作動流体の流動に応じて、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮されるとともに、調整弁で調整された第1連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。
一方、第3及び第4連通路では、上述した構成要素が設けられていることによって、第3連通路内の作動流体の流動による可変の粘性減衰効果が得られる。具体的には、流体室圧力が第3所定圧に達するまでは、第4連通路に設けられた一対の第2開閉弁が閉弁状態に維持されるため、流体室圧力は第2調整弁に導入されず、第2調整弁は作動しない。このため、第3連通路内の作動流体の流動に伴い、初期状態の第2調整弁及び第3連通路の開度に応じた粘性減衰効果が発揮される。また、流体室圧力が第3所定圧に達すると、一方の第2開閉弁が開弁することによって、流体室圧力が第2調整弁に導入され、第2調整弁が作動する。これにより、第3連通路の開度が調整されることによって、作動流体が第3連通路を流動する際の粘性抵抗が変化し、それに応じて粘性減衰効果が変更される。
このように、第3連通路内の作動流体の流動による粘性減衰効果についても、その変更を、構造物の振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体の圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、行うことができる。また、この粘性減衰効果が、第1連通路内の作動流体の流動による粘性減衰効果に付加されるので、回転慣性質量ダンパ全体として、回転慣性質量効果よりも粘性減衰効果を高めるとともに、粘性減衰効果をよりきめ細かく変更することができる。
なお、第2開閉弁の設定圧である第3所定圧は、開閉弁の設定圧である第1所定圧と同じ値でもよく、あるいは異なる値でもよい。後者の場合には、流体室圧力に応じた開閉弁及び第2開閉弁の開弁タイミングを互いに異ならせ、調整弁及び第2調整弁の作動タイミングを互いに異ならせることによって、粘性減衰効果の変更をさらにきめ細かく行うことができる。
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第1〜第4連通路は、シリンダの軸線方向の両端位置において、シリンダの内部空間に連通していることを特徴とする。
この構成によれば、シリンダ内を移動するピストンの位置にかかわらず、ピストンで押し出された作動流体は、第1〜第4連通路に流入する。したがって、ピストンの位置にかかわらず、第1連通路内の作動流体の流動による回転マスの回転慣性質量効果、調整弁で調整された第1連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果と、第2調整弁で調整された第3連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果を得ることができる。
請求項10に係る発明は、請求項8に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、第1及び第2連通路は、シリンダの軸線方向の両端位置において、シリンダの内部空間に連通し、第3及び第4連通路は、シリンダの軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第3中間位置において、シリンダの内部空間に連通していることを特徴とする。
この構成によれば、第1及び第2連通路がシリンダの両端位置において、シリンダの内部空間に連通しているので、ピストンの位置にかかわらず、第1連通路内の作動流体の流動による回転マスの回転慣性質量効果と、調整弁で調整された第1連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果を得ることができる。
一方、第3及び第4連通路は、シリンダの中心に対して互いに対称である所定の2つの第3中間位置において、シリンダの内部空間に連通している。このため、ピストンが2つの第3中間位置で規定される所定区間内に位置するときには、第1又は第2流体室内の作動流体の一部が第3及び第4連通路に流入することによって、第2調整弁で調整された第3連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果を得ることができる。
ピストンがさらに移動し、上記の所定区間から外れたときには、作動流体は第3連通路に流入しなくなり、その流動が停止されるため、それによる粘性減衰効果は発揮されない。以上のように、この構成によれば、ピストンの移動量が小さく、ピストンが所定区間内に位置する場合、すなわち構造物の振動が小さい場合に限り、第3連通路内の作動流体の流動による可変の粘性減衰効果を得ることができる。
請求項11に係る発明は、請求項1から7のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、作動流体が充填された一対の第3連通路をさらに備え、一対の第3連通路の各々は、シリンダの軸線方向の両端位置の一方と、シリンダの軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第4中間位置の一方とにおいて、シリンダの内部空間に連通しており、作動流体が充填され、一対の第3連通路にそれぞれ並列に接続された一対の第4連通路と、一対の第4連通路の各々に互いに間隔を隔てて配置され、第1流体室内の作動流体の圧力が第3所定圧に達したとき、及び第2流体室内の作動流体の圧力が第3所定圧に達したときにそれぞれ開弁し、各第4連通路を開放する一対の第2開閉弁と、一対の第3連通路の各々に設けられ、一対の第2開閉弁の一方の開弁に伴って導入された第1又は第2流体室の作動流体の圧力によって作動し、各第3連通路の開度を変更する第2調整弁と、をさらに備えることを特徴とする。
この回転慣性質量ダンパでは、第1及び第2連通路とは別個に、各一対の第3及び第4連通路が設けられている。各第3連通路は、シリンダの両端位置の一方と、シリンダの中心に対して互いに対称である所定の2つの第4中間位置の一方において、シリンダの内部空間に連通している。各第4連通路は、各第3連通路に並列に接続されている。また、各第4連通路には一対の開閉弁と同様の一対の第2開閉弁が設けられ、各第3連通路には一対の調整弁と同様の第2調整弁が設けられている。
この構成によれば、ピストンが2つの第4中間位置で規定される所定区間内に位置するときには、第3連通路がシリンダの第4中間位置及び端位置を介して一方の流体室に連通しているため、第3連通路に流入する作動流体の流量は小さく、したがって、第3連通路内の作動流体の流動による粘性減衰効果はほとんど発揮されない。また、第1又は第2流体室から第3連通路に流入した作動流体は、もとの流体室に戻されるので、第1連通路に流入する作動流体の流量は、ピストンで押し出された作動流体の流量に等しい。その結果、この流量による第1連通路内の作動流体の流動に応じて、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮されるとともに、調整弁で調整された第1連通路の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。
ピストンがさらに移動し、上記の所定区間から外れた後には、作動流体がシリンダの端位置を介して第3及び第4連通路に流入する。これにより、第3連通路内の作動流体の流動による粘性減衰効果が発揮されるとともに、第2開閉弁に作用する圧力が上昇するのに伴い、第2開閉弁が開弁し、第2調整弁が作動することにより、調整された第3連通路の開度に応じて粘性減衰効果が変更される。以上のように、この構成によれば、上述した請求項10の場合とは逆に、ピストンの移動量が大きく、ピストンが所定区間から外れた場合、すなわち構造物の振動が大きい場合に限り、第3連通路内の作動流体の流動による可変の粘性減衰効果を得ることができる。
請求項12に係る発明は、請求項1ないし11のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、回転マスは、回転軸線に対する径方向に移動自在に設けられ、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって回転マスを径方向に移動させることにより、回転マスによる回転慣性質量効果を変更するための慣性質量可変機構をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、回転マスは、回転軸線に対する径方向に移動自在に設けられており、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって、径方向に駆動される。これにより、回転マスの回転半径が変化することによって、回転慣性質量効果を変更することができる。このように、構造物の振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体の圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、粘性減衰効果を可変とすることに加えて、回転慣性質量効果をも可変とすることができる。
請求項13に係る発明は、請求項1ないし12のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力モータが歯車モータであることを特徴とする。
この構成によれば、第1連通路内の作動流体の流動が歯車モータによって回転運動に変換されることで、回転マスによる回転慣性質量効果を適切に発揮させることができる。
請求項14に係る発明は、請求項1ないし11のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、圧力モータは、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって押し出し容積が変更される可変容量式のピストンモータであることを特徴とする。
この構成によれば、第1連通路内の作動流体の流動がピストンモータによって回転運動に変換されることで、回転マスによる回転慣性質量効果を適切に発揮させることができる。また、圧力導入路に導入された作動流体の圧力によって、ピストンモータの押し出し容積が変更される。これにより、回転マスの回転数が変化することによって、回転慣性質量効果を変更することができる。このように、請求項12に係る発明と同様、構造物の振動時にピストンの移動に伴って発生する作動流体の圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、粘性減衰効果を可変とすることに加えて、回転慣性質量効果をも可変とすることができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1に示す本発明の第1実施形態による回転慣性質量ダンパ1は、シリンダ2と、シリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられたピストン3と、ピストン3と一体のピストンロッド4と、シリンダ2に接続された第1連通路5及び第2連通路6を備えている。
シリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの軸線方向の両端部に設けられた円板状の第1端壁2b及び第2端壁2cを一体に有する。これらの3つの壁2a〜2cで画成されたシリンダ2の内部空間は、ピストン3によって第1流体室2dと第2流体室2eに区画されている。第1及び第2流体室2d、2eには作動流体HFが充填されている。作動流体HFは、適度な粘性を有する流体、例えばシリコンオイルで構成されている。
また、シリンダ2の第1端壁2bには、外方に突出する中空状のロッド収容部2fが同心状に一体に設けられている。ロッド収容部2fの端部には、自在継手を介して、第1取付具FL1が設けられている。さらに、第1及び第2端壁2b、2cの中心には、ロッド案内孔2g、2hがそれぞれ形成されている。
ピストンロッド4は、ピストン3と同心状に一体に設けられ、その両側において軸線方向に延びており、ロッド案内孔2g、2hにシールを介して液密に挿入された状態で、第1及び第2端壁2b、2cの外方に延びている。ピストンロッド4の第1端壁2b側の部分は、ロッド収容部2f内に収容され、ピストンロッド4の第2端壁2c側の端部には、自在継手を介して、第2取付具FL2が設けられている。
また、ピストン3の外周面は、シールを介して、シリンダ2の周壁2aの内周面に液密に接しており、ピストン3には、軸線方向に貫通する複数の第1連通孔3a及び第2連通孔3b(それぞれ1つのみ図示)が形成されている。第1連通孔3aには第1リリーフ弁11が、第2連通孔3bには第2リリーフ弁12が、それぞれ設けられている。
第1リリーフ弁11は、常閉弁として構成されており、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねを有する。第1リリーフ弁11は、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が、設定圧である第2所定圧に達するまでは、第1連通孔3aを閉鎖し、第2所定圧に達したときに、第1連通孔3aを開放する。これにより、第1流体室2d内の作動流体HFの圧力が、第1連通孔3aを介して第2流体室2e側に逃がされることで、第2所定圧以下に制限される。
同様に、第2リリーフ弁12は、弁体と、これを閉弁方向に付勢するばねを有しており、第2流体室2e内の作動流体HFの圧力が第2所定圧に達するまでは、第2連通孔3bを閉鎖し、第2所定圧に達したときに、第2連通孔3bを開放する。これにより、第2流体室2e内の圧力が、第2連通孔3bを介して第1流体室2d側に逃がされることで、設定圧以下に制限される。以下、上記のような第1流体室2d内又は第2流体室2e内の作動流体HFの圧力を、適宜「流体室圧力」という。
第1及び第2連通路5、6は、両端部において互いに並列に接続されるとともに、シリンダ2の周壁2aの軸線方向の両端位置にそれぞれ形成された連通口2i、2iを介して、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。第1及び第2連通路5、6には作動流体HFが充填されている。なお、図示の便宜上、図1及び後述する同種の図面では、第1及び第2連通路5、6内の作動流体HFの符号は省略されている。
また、回転慣性質量ダンパ1は、第1連通路5に設けられた歯車モータM及び一対の調整弁8、8と、歯車モータMに連結された回転マス21と、調整弁8、8に作動流体HFの圧力を導入するための圧力導入機構9をさらに備えている。
歯車モータMは、第1連通路5内の作動流体HFの流動を回転運動に変換し、出力するものであり、第1連通路5の中心に配置されている。歯車モータMは、例えば外接歯車型のものであり、ケーシング22と、ケーシング22に収容された第1ギヤ23及び第2ギヤ24を有する。なお、歯車モータMとして内接歯車型のものを用いてもよい。
ケーシング22は、第1連通路5に一体に設けられており、互いに対向する出口22a及び入口22bを介して、第1連通路5に連通している。また、第1及び第2ギヤ23、24はそれぞれ、スパーギヤで構成され、第1及び第2回転軸25、26に一体に設けられるとともに、互いに噛み合っており、その噛み合い部分は、ケーシング22の出入口22a、22bに臨んでいる。第1及び第2回転軸25、26はそれぞれ、第1連通路5に直交する方向に水平に延び、ケーシング22に回転自在に支持されており、第1回転軸25はケーシング22の外部に突出している。
図2に示すように、回転マス21は、ケーシング22から突出した第1回転軸25の部分に、同軸状に一体に連結されており、歯車モータMの作動時、第1回転軸25を介して回転駆動される。回転マス21は、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成され、円板状に形成されている。
一対の調整弁8、8は、第1連通路5の開度を調整することにより、第1連通路5内の作動流体HFの流動による粘性抵抗を変化させるためのものであり、歯車モータMの両側に互いに対称に配置されている。図3(a)に示すように、各調整弁8は、常開タイプのものであり、第1連通路5を横切るように設けられた筒状の弁体収容室31と、弁体収容室31に収容された弁体32と、弁体収容室31内に設けられ、弁体32を付勢するセットばね33と、弁体32を係止するための複数のストッパ34を有する。弁体収容室31は、第1連通路5に連通するとともに、後述する圧力導入路42の接続部42cに接続され、複数のストッパ34は、接続部42cの内周面の所定位置に設けられ、内方に突出している。
弁体32は、円柱状のものであり、弁体収容室31の周壁との間に間隙を存した状態で、軸線方向に移動自在に設けられている。後述するように、セットばね33と反対側である弁体32の背面側(図3の下側)には、圧力導入機構9によって圧力導入路42に導入された作動流体HFの圧力が作用する。以下、この作動流体HFの圧力を、適宜「導入圧力」という。
以上の構成により、導入圧力が作用していないときには、弁体32は、セットばね33によって付勢され、ストッパ34に係止された状態で、図3(a)に示す開放位置(初期位置)に位置している。この開放位置では、弁体32は、第1連通路5の下側に退避し、これを最大限、開放しており、それにより、第1連通路5の開度は最大開度になっている。
この初期状態から導入圧力が作用すると、弁体32は、セットばね33のばね力に抗し、これを圧縮しながら、導入圧力とセットばねのばね力が釣り合う位置まで上方に移動する。
導入圧力がさらに上昇し、セットばね33が圧縮限界に達すると、弁体32は、図3(b)に示す閉鎖位置に位置する。この閉鎖位置では、弁体32は第1連通路5をほぼ閉鎖しており、それにより、第1連通路5の開度は最小開度に調整される。なお、弁体32と弁体収容室31の周壁との間に間隙が存在するため、この最小開度のときでも、第1連通路5は完全には閉鎖されず、この間隙を通って少量の作動流体HFが流動する。以上のように、第1連通路5の開度は、導入圧力が高いほど、より小さくなるように無段階に調整される。
この導入圧力を得るための圧力導入機構9は、第2連通路6に設けられた一対の開閉弁41、41と、第2連通路6と調整弁8、8の間に接続された圧力導入路42と、圧力導入路42に配置された一対の復帰弁43、43を有する。
一対の開閉弁41、41は、第2連通路6の両端部に互いに間隔を隔てて配置されている。各開閉弁41は、常閉弁として構成されており、第2連通路6を開閉する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するばねを有する。第1流体室2d側の開閉弁41は、第1流体室2dの流体室圧力が設定圧である第1所定圧に達するまで、閉弁状態に維持され、第1所定圧に達したときに開弁する。これにより、第1流体室2dの流体室圧力が、開弁した開閉弁41を介して、第2連通路6の中央側(内側)に導入される。
第2流体室2e側の開閉弁41は、同様に構成されており、第2流体室2eの流体室圧力が第1所定圧に達するまで、閉弁状態に維持され、第1所定圧に達したときに開弁する。これにより、第2流体室2eの流体室圧力が、開弁した開閉弁41を介して、第2連通路6の中央側に導入される。
圧力導入路42は、第2連通路6の開閉弁41、41の間から分岐する分岐部42aと、分岐部42aに接続され、第1及び第2流体室2d、2eに連通する連通部42bと、連通部42bから分岐し、調整弁8、8にそれぞれ接続された2つの接続部42c、42cによって構成されている。以上の構成により、開閉弁41の開弁によって第2連通路6の中央側に導入された作動流体HFの圧力は、分岐部42aから圧力導入路42に導入され、さらに連通部42b及び接続部42c、42cを介して調整弁8、8に作用し、両調整弁8、8を作動させる。
一対の復帰弁43、43は、地震時などに作動した調整弁8、8を初期状態に復帰させるためのものであり、圧力導入路42の連通部42bの両端部に設けられ、調整弁8、8の外側に配置されている。各復帰弁43は、例えば手動で操作されるねじ式のものであり、ねじが締め付けられた状態では連通部42bを閉鎖し、ねじが緩められたときに連通部42bを開放するように構成されている。
以上の構成の回転慣性質量ダンパ1は、例えば、図4に示す免震構造の構造物Bに適用され、構造物Bの上下の梁BU、BLに、免震装置(図示せず)と並列に連結される。下梁BLは、構造物Bを支持する基礎に設けられた基礎梁である。また、免震装置は、構造物Bの振動を長周期化させるためのものであり、積層ゴムなどで構成されている。
また、図4に示すように、回転慣性質量ダンパ1の第1及び第2取付具FL1、FL2は、第1及び第2連結部材EN1、EN2にそれぞれ取り付けられる。第1及び第2連結部材EN1、EN2は、鋼材で構成され、上下の梁BU、BLにそれぞれ取り付けられており、上梁BUから下方に、下梁BLから上方に、それぞれ延びている。以上のように、回転慣性質量ダンパ1のシリンダ2及びピストンロッド4はそれぞれ、第1及び第2連結部材EN1、EN2を介して、上梁BU及び下梁BLに連結されており、回転慣性質量ダンパ1は、上下の梁BU、BLの間に水平に設けられている。なお、構造物Bへの回転慣性質量ダンパ1の連結方法は任意であり、他の適当な方法を採用してもよいことは、もちろんである。
次に、上述した構成の回転慣性質量ダンパ1の動作について説明する。構造物Bの振動が発生していない常時には、回転慣性質量ダンパ1は図1に示す初期状態になっている。具体的には、ピストン3は、シリンダ2の内部空間の中心である中立位置に位置し、第1及び第2流体室2d、2eの流体室圧力はいずれも0になっている。各調整弁8は、弁体32が図3(a)の開放位置に位置する初期状態にあり、各開閉弁41、第1及び第2リリーフ弁11、12及び各復帰弁43は、いずれも閉弁状態になっている。
この回転慣性質量ダンパ1の初期状態から、地震時などに構造物Bが振動するのに伴い、上下の梁BU、BLの間に水平方向の相対変位が発生すると、この相対変位が、第1及び第2連結部材EN1、EN2を介して、シリンダ2及びピストンロッド4に伝達されることにより、シリンダ2及びピストンロッド4が軸線方向に相対的に移動し、ピストン3がシリンダ2内を摺動する。
この場合、ピストン3が第1流体室2d側(図1の左方)に移動したときには、第1流体室2d内の作動流体HFが、ピストン3により、第1流体室2d側の連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6側に押し出される。これとは逆に、ピストン3が第2流体室2e側(右方)に移動したときには、第2流体室2e内の作動流体HFが、ピストン3により、第2流体室2e側の連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6側に押し出される。これらの場合、流体室圧力が開閉弁41の設定圧である第1所定圧に達するまでは、開閉弁41が閉弁状態に維持されるため、作動流体HFは第1連通路5内のみを流動する。
この第1連通路5内の作動流体HFの流動が歯車モータMによって第1回転軸25の回転運動に変換され、第1回転軸25に連結された回転マス21が回転駆動されることによって、回転マス21による回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第1連通路5を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。この場合、両開閉弁41、41が閉弁状態にあり、作動流体HFの圧力が圧力導入路42に導入されないため、調整弁8の弁体32が図3(a)の開放位置に位置し、第1連通路5の開度が最大開度に維持される結果、粘性減衰効果は最小になる。
その後、流体室圧力が上昇し、第1所定値に達すると、一方の開閉弁41が開弁することによって、作動流体HFの圧力が圧力導入路42に導入され、調整弁8、8に作用する。これにより、各弁体32が、セットばね33のばね力に抗し、このばね力と導入圧力が釣り合う位置まで移動することによって、第1連通路5の開度が減少し、粘性減衰効果が増大する。導入圧力がさらに上昇し、セットばね33が圧縮限界に達すると、調整弁8の弁体32が図3(b)の閉鎖位置に移動することによって、第1連通路5の開度は最小開度になり、粘性減衰効果は最大になる。
以上のように、流体室圧力が第1所定圧に達したときに、開閉弁41が開弁し、作動流体HFの圧力が圧力導入路42に導入され、調整弁8が作動することによって、第1連通路5の開度が導入圧力に応じて調整され、第1連通路5の開度に応じた粘性減衰効果が発揮される。このように、構造物Bの振動時にピストン3の移動に伴って発生する作動流体の圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、粘性減衰効果を変更することができる。
また、一対の調整弁41、41が第1連通路5の歯車モータMの両側に配置されるとともに、導入圧力が圧力導入路42を介して調整弁8、8に均等に作用することで、第1連通路5の開度が均等に調整されるので、ピストン3がシリンダ2に対して一方の側に移動する場合と他方の側に移動する場合において、粘性減衰効果をその対称性を確保しながら良好に発揮させることができる。
なお、上記の作用を得る上で、一対の調整弁41、41が第2連通路6の中心に対して互いに対称に配置されることや、圧力導入路42の分岐部42cが第2連通路6の中心に配置されることは、必ずしも要求されない。すなわち、第2連通路6に調整弁41、41が互いに間隔を隔てて配置され、それらの間に分岐部42cが配置されるという条件が満たされていればよい。これは、この条件が満たされている限り、一方の開閉弁41の開弁によって第2連通路6の中央側に導入された作動流体HFの圧力が、1箇所の分岐部42cに集約された後、圧力導入路42を介して調整弁8、8に均等に作用するためである。
流体室圧力がさらに上昇し、第2所定値に達すると、第1又は第2リリーフ弁11、12が開弁することによって、上昇した流体室圧力が他方の流体室2d又は2eに逃がされる。その結果、流体室圧力の過大化が防止され、回転慣性質量ダンパ1の制振力(慣性力+粘性力の合力)が頭打ちになることにより、シリンダ2及びピストン3に作用する軸力を適切に制限することができる。
また、第1及び第2リリーフ弁11、12の設定圧である第2所定圧が、開閉弁41の設定圧である第1所定圧よりも大きいので、開閉弁41の開弁による調整弁8の作動によって粘性減衰効果が変更された後に、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁による軸力制限を行うことができる。
以上の構成及び動作から、回転慣性質量ダンパ1をモデル化すると、図5のように表される。すなわち、回転慣性質量ダンパ1の制振力が、回転マス21の慣性力と調整弁8で調整される可変の粘性力との和になるとともに、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によって制限される。したがって、回転慣性質量ダンパ1は、互いに並列関係にある(a)回転マス21から成る慣性質量要素、及び(b)作動流体HF及び調整弁8から成る可変の粘性要素に、(c)第1及び第2リリーフ弁11、12から成る制限要素が接続されたモデルになる。
また、調整弁8が上述したように作動した後には、導入圧力は、圧縮されたセットばね33のばね力の分だけ流体室圧力よりも高い状態で、圧力導入路内42に残留している。このため、調整弁8の作動後に復帰弁43、43を手動で開弁すると、圧力導入路42内の高圧の導入圧力が、復帰弁43、43を介して、第1及び第2流体室2d、2e側にそれぞれ逃がされる。これにより、各調整弁8の弁体32は、セットばね33のばね力によって移動し、ストッパ34に係止され、開放位置(初期位置)に位置決めされる。このように、復帰弁43、43を開弁するだけで、各調整弁8を初期状態に容易に復帰させることができる。
図6は、調整弁の他の例を示す。図3との比較から明らかなように、前述した調整弁8が常開タイプであるのに対し、この調整弁8Aは常閉タイプとして構成されている。具体的には、調整弁8Aの弁体32Aは、全体として円柱状に形成されるとともに、セットばね33側の中実の閉鎖部32aと、閉鎖部32aに連なり、径方向に貫通する開放部32bを有する。
この構成によれば、導入圧力が作用していないときには、セットばね33で付勢された弁体32Aは、ストッパ34に係止された状態で、図6(a)に示す閉鎖位置(初期位置)に位置している。この閉鎖位置では、弁体32Aの閉鎖部32aが第1連通路5をほぼ閉鎖しており、それにより、第1連通路5の開度が最小開度に維持され、粘性減衰効果は最大になる。
この初期状態から導入圧力が作用すると、弁体32Aは、セットばね33側に移動し、セットばね33が圧縮限界に達したときに、図6(b)に示す開放位置に位置する。この開放位置では、弁体32Aの開放部32bが第1連通路5に合致することによって、第1連通路5の開度が最大開度になり、粘性減衰効果は最小になる。以上のように、この調整弁8Aによれば、調整弁8とは逆に、ピストン3の移動量が増加するにつれて粘性減衰効果が減少するという減衰特性を得ることができる。
図7及び図8は、上述した第1実施形態に対する第1及び第2変形例をそれぞれ示す。これらの変形例は、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1に対し、第1及び第2連通路5、6とシリンダ2との接続(連通)関係などを変更したものである。
図7に示すように、第1変形例による回転慣性質量ダンパ1Aでは、第1実施形態と同様、シリンダ2の周壁2aの軸線方向の両端位置に、連通口2i、2iが形成されており、第1連通路5は、連通口2i、2iを介して第1及び第2流体室2d、2eに連通している。また、シリンダ2の周壁2aには、その軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第1中間位置に、第1連通口2j、2jが形成されている。第2連通路6Aは、第1連通路5よりも短く、両端部において、第1連通口2j、2jを介してシリンダ2の内部空間に連通している。
以上の構成によれば、地震時などにおける構造物Bの振動に伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、シリンダ2の端位置の連通口2iを介して、第1連通路5に流入する。したがって、シリンダ2内を移動するピストン3の位置にかかわらず、第1連通路5内の作動流体HFの流動による回転慣性質量効果と粘性減衰効果を得ることができる。
一方、粘性減衰効果の変更は、ピストン3の位置に応じて限定的に行われる。具体的には、ピストン3が2つの第1連通口2j、2jで規定される図7の区間A1内に位置するときには、第1連通口2jが開放されているため、ピストン3で押し出された作動流体HFの一部が、一方の第1連通口2jを介して第2連通路6Aに流入する。これにより、開閉弁41が開弁し、調整弁8が作動することによって、調整された第1連通路5の開度に応じて、粘性減衰効果が変更される。
この状態から、ピストン3がさらに移動し、区間A1から外れてその外側の区間B1に移行した後には、ピストン3が第1連通口2jを閉鎖し又は通り越した状態になるため、ピストン3がさらにシリンダ2の外方に移動する場合には、作動流体HFが第2連通路6Aに流入しなくなる。その結果、開閉弁41は開弁されず、調整弁8が作動しないため、粘性減衰効果は変更されない。
以上のように、第1変形例の回転慣性質量ダンパ1Aによれば、ピストン3が区間B1内に位置し、シリンダ2の外方に移動する場合を除き、粘性減衰効果が変更される。
次に、図8を参照しながら、第2変形例による回転慣性質量ダンパ1Bについて説明する。この回転慣性質量ダンパ1Bのシリンダ2の周壁2aには、シリンダ2の中心に対して互いに対称である所定の2つの第2中間位置に、第2連通口2l、2lが形成されている。第1及び第2連通路5、6は、それらの両端部において、第2連通口2l、2lを介してシリンダ2の内部空間に連通している。
以上の構成によれば、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3が2つの第2連通口2l、2lで規定される図8の区間A2内に位置するときには、ピストン3で押し出された作動流体HFは、第2連通口2lを介して第1及び第2連通路5、6に流入する。したがって、第1連通路5内の作動流体HFの流動による回転慣性質量効果と可変の粘性減衰効果を得ることができる。
ピストン3がさらに移動し、区間A2から外れてその外側の区間B2に移行した後には、作動流体HFが第1及び第2連通路5、6のいずれにも流入せず、シリンダ2内に閉じ込められた状態になる。このため、第1連通路5内の作動流体HFの流動による回転慣性質量効果及び粘性減衰効果がいずれも得られなくなる一方で、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によってピストン3が移動する特徴から、摩擦ダンパに近似した減衰特性を発揮させることができる。
次に、図9を参照しながら、本発明の第2実施形態による回転慣性質量ダンパ51について説明する。この回転慣性質量ダンパ51は、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1に対して、粘性減衰機構61を付加したものである。この粘性減衰機構61は、前述した第1連通路5内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果とは別個に、第2の粘性減衰効果を発揮させるためのものである。したがって、第1実施形態と同じ又は同等の構成要素については、図9に同じ符号を付し、以下、粘性減衰機構61を中心として説明する。
図9に示すように、粘性減衰機構61は、第3連通路62、第4連通路63、一対の第2開閉弁64、64、第2調整弁65、及び一対の第2復帰弁66、66などを有する。
第3及び第4連通路62、63は、両端部において互いに並列に接続されるとともに、シリンダ2の周壁2aの両端位置にそれぞれ形成された連通口2m、2mを介して、第1及び第2流体室2d、2eに連通している。第3及び第4連通路62、63には、作動流体HFが充填されている。
一対の第2開閉弁64、64は、第4連通路63の両端部に互いに間隔を隔てて配置されている。各第2開閉弁64は、開閉弁41と同様、常閉弁として構成され、第4連通路63を開閉する弁体と、弁体を閉弁方向に付勢するばねを有する。第2開閉弁64は、第1又は第2流体室2d、2eの流体室圧力が、設定圧である第3所定圧に達するまで、閉弁状態に維持され、第3所定圧に達したときに開弁する。これにより、第1又は流体室2d、2eの流体室圧力が、開弁した第2開閉弁64を介して、第4連通路63の中央側に導入される。
第2調整弁65は、第3連通路62の開度を調整することにより、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性抵抗を変化させ、粘性減衰効果を変更するためのものであり、第3連通路62の中心に配置されている。第2調整弁65は、調整弁8と同様に構成されており、第3連通路62を横切るように設けられた筒状の弁体収容室と、弁体収容室に移動自在に収容された弁体と、弁体収容室内に設けられ、弁体を付勢するセットばねと、弁体を係止するための複数のストッパを有する。上記の弁体収容室は、第3連通路62に連通するとともに、弁体側の部分が第4連通路63の接続部63aに接続されている。
以上の構成により、第2開閉弁64が開弁すると、第4連通路63の中央側に流体室圧力が導入され、第2調整弁65が作動することによって、第3連通路62の開度が調整される。なお、第2調整弁65として、図3に示す常閉型又は図6に示す常開型のいずれを用いてもよい。
一対の第2復帰弁66、66は、リリーフ通路67、67にそれぞれ設けられている。各リリーフ通路67は、第4連通路63の第2開閉弁64のすぐ内側の部分と、第4連通路63の端部と連通口2mとの間の中間部とに接続され、第2開閉弁64をバイパスするように設けられている。第2復帰弁66は、復帰弁43と同様、手動で操作されるねじ式のものであり、ねじが締め付けられた状態ではリリーフ通路67を閉鎖し、ねじが緩められたときにリリーフ通路67を開放する。
以上の回転慣性質量ダンパ51の構成によれば、地震時などに構造物Bが振動するのに伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6に流入するとともに、連通口2mを介して第3及び第4連通路62、63に流入する。このため、第1連通路5に流入する作動流体HFの流量は、第3連通路62への流入分だけ減少する。したがって、第1連通路5では、流量が減少した作動流体HFの流動に応じて、回転マス21による回転慣性質量効果が発揮されるとともに、調整弁8で調整された第1連通路5の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。
一方、第3及び第4連通路62、63の側では、上述した構成要素が設けられていることによって、第3連通路62内の作動流体HFの流動により、可変の粘性減衰効果が得られる。具体的には、流体室圧力が第3所定圧に達するまでは、一対の第2開閉弁64、64が閉弁状態に維持されるため、流体室圧力は第2調整弁65に導入されず、第2調整弁65は初期状態に維持される。このため、第3連通路62内の作動流体HFの流動に伴い、初期状態の第2調整弁65及び第3連通路62の開度に応じた粘性減衰効果が発揮される。
また、流体室圧力が第3所定圧に達すると、一方の第2開閉弁64が開弁し、流体室圧力が導入されることによって、第2調整弁65が作動する。これにより、第3連通路62の開度が調整され、第3連通路63内の作動流体HFの流動による粘性抵抗が変化することによって、粘性減衰効果が変更される。
このように、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果についても、その変更を、ピストン3の移動に伴って発生する作動流体HFの圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、行うことができる。また、この粘性減衰効果が、第1連通路5内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果に付加されることによって、回転慣性質量ダンパ全体として、回転慣性質量効果よりも粘性減衰効果を高めるとともに、粘性減衰効果をよりきめ細かく変更することができる。
また、以上の構成及び動作から、回転慣性質量ダンパ51をモデル化すると、図10のように表される。すなわち、第1連通路5に流入する作動流体HFの圧力と第3連通路62に流入する作動流体HFの圧力は、互いに等しい。また、前者の圧力は、第1連通路5内の作動流体HFの流動による、回転マス21の慣性力と調整弁8で調整される可変の粘性力との和に相当し、後者の圧力は、第3連通路62内の作動流体HFの流動による、第2調整弁65で調整される可変の粘性力に相当するとともに、前述した第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によって制限される。
したがって、回転慣性質量ダンパ51は、互いに並列関係にある(a)回転マス21から成る慣性質量要素、及び(b)作動流体HF及び調整弁8から成る可変の粘性要素に、(c)作動流体HF及び第2調整弁65から成る可変の粘性要素が接続され、さらに(d)第1及び第2リリーフ弁11、12から成る制限要素が接続されたモデルになる。
なお、第2開閉弁64の設定圧である第3所定圧は、開閉弁41の設定圧である第1所定圧と同じ値でもよく、あるいは異なる値でもよい。後者の場合には、流体室圧力に応じた開閉弁41及び第2開閉弁64の開弁タイミングを異ならせ、調整弁8及び第2調整弁65の作動タイミングを異ならせることによって、粘性減衰効果をよりきめ細かく変更することができる。
また、第2調整弁65が作動した後には、導入圧力は、圧縮されたセットばねのばね力の分だけ流体室圧力よりも高い状態で、第4連通路63の第2開閉弁64、64の間に残留している。このため、この状態で第2復帰弁66、66を手動で開弁すると、第4連通路63内の高圧の導入圧力が、第2復帰弁66、66を介して、第1及び第2流体室2d、2e側にそれぞれ逃がされる。これに伴い、第2調整弁65の弁体が、セットばねのばね力によって移動し、ストッパに係止され、初期位置に位置決めされる。このように、第2復帰弁66、66を開弁するだけで、第2調整弁65を初期状態に容易に復帰させることができる。
次に、図11を参照しながら、上述した第2実施形態の第1変形例による回転慣性質量ダンパ51Aについて説明する。図9との比較から明らかなように、この回転慣性質量ダンパ51Aは、第2実施形態の回転慣性質量ダンパ51に対し、第3及び第4連通路62、63とシリンダ2との接続(連通)関係を変更したものである。
具体的には、図11に示すように、シリンダ2の周壁2aには、軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第3中間位置に、第3連通口2n、2nが形成されている。第3及び第4連通路62、63は、第2実施形態のそれよりも短く、それらの両端部において、第3連通口2n、2nを介してシリンダ2の内部空間に連通している。
以上の構成によれば、構造物Bの振動に伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、シリンダ2の端位置の連通口2iを介して、第1及び第2連通路5、6に流入する。したがって、第2実施形態と同様、ピストン3の位置にかかわらず、第1連通路5内の作動流体HFの流動による回転慣性質量効果と可変の粘性減衰効果を得ることができる。
一方、粘性減衰機構61の第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果は、ピストン3の位置に応じて限定的に発揮される。具体的には、ピストン3が2つの第3連通口2n、2nで規定される図11の区間A3内に位置するときには、第3連通口2nが開放されているため、ピストン3で押し出された作動流体HFの一部が、第3連通口2nを介して、第3及び第4連通路62、63に流入する。これにより、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果が発揮されるとともに、第2開閉弁64の開弁に応じて第2調整弁65が作動することにより、調整された第3連通路62の開度に応じて、粘性減衰効果が変更される。したがって、この状態における回転慣性質量ダンパ51Aのモデルは、図10のように表される。
ピストン3がさらに移動し、区間A3から外れてその外側の区間B3に移行した後には、ピストン3が第3連通口2nを閉鎖し又は通り越した状態になるため、作動流体HFは、第3及び第4連通路62、63に流入しなくなる。その結果、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果は、発揮されない。したがって、この状態における回転慣性質量ダンパ51Aのモデルは、図5のように表される。
以上のように、第1変形例の回転慣性質量ダンパ51Aによれば、ピストン3の移動量が小さく、ピストン3が区間A3内に位置する場合、すなわち構造物Bの振動が小さい場合に限り、第3連通路62内の作動流体HFの流動による可変の粘性減衰効果を得ることができる。
次に、図12を参照しながら、第2実施形態の第2変形例による回転慣性質量ダンパ51Bについて説明する。同図に示すように、この回転慣性質量ダンパ51Bは、粘性減衰機構61、61が一対で設けられている点が、第2実施形態の回転慣性質量ダンパ51と異なるものである。
一対の粘性減衰機構61、61は、シリンダ2の軸線方向の中心に対して互いに対称に配置されている。各粘性減衰機構61の構成は、第2実施形態の粘性減衰機構61と同じであり、第3及び第4連通路62、63、一対の第2開閉弁64、64、第2調整弁65、一対の復帰弁66、66と、一対のリリーフ通路67、67が、同様に設けられている。
一方、シリンダ2の周壁2aには、両端位置に連通口2m、2mが形成され、軸線方向の中心に対して互いに対称である所定の2つの第4中間位置に、第4連通口2p、2pが形成されている。各粘性減衰機構61の第3及び第4連通路62、63は、それらの両端部において、連通口2m及び第4連通口2pを介してシリンダ2の内部空間に連通している。
以上の構成によれば、構造物Bの振動に伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、シリンダ2の端位置に形成された連通口2iを介して、第1及び第2連通路5、6に流入する。したがって、第2実施形態と同様、ピストン3の位置にかかわらず、第1連通路5内の作動流体HFの流動による回転慣性質量効果と可変の粘性減衰効果を得ることができる。
一方、各粘性減衰機構61の第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果は、ピストン3の位置に応じて限定的に発揮される。具体的には、ピストン3が2つの第4連通口2p、2pで規定される図12の区間A4内に位置するときには、第3連通路62がシリンダ2の第4連通口2p及び連通口2mを介して一方の流体室に連通しているため、第3連通路62に流入する作動流体HFの流量は小さく、したがって、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果はほとんど発揮されない。
また、第1又は第2流体室2d、2eから第3連通路62に流入した作動流体HFは、もとの流体室に戻されるので、第1連通路5に流入する作動流体HFの流量は、ピストン3で押し出された作動流体HFの流量に等しい。その結果、この流量による第1連通路5内の作動流体HFの流動に応じて、回転慣性質量効果が発揮されるとともに、調整弁8で調整された第1連通路5の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。したがって、この状態における回転慣性質量ダンパ51Bのモデルは、図5のように表される。
ピストン3がさらに移動し、上記の区間A4から外れてその外側の区間B4に移行した後には、作動流体HFの一部が、連通口2mを介して第3及び第4連通路62、63に流入する。これにより、第3連通路62内の作動流体HFの流動による粘性減衰効果が発揮されるとともに、第2開閉弁64に作用する圧力が上昇するのに伴い、第2開閉弁64が開弁し、第2調整弁65が作動することによって、調整された第3連通路62の開度に応じて粘性減衰効果が変更される。したがって、この状態における回転慣性質量ダンパ51Bのモデルは、図10のように表される。
以上のように、第2変形例の回転慣性質量ダンパ51Bによれば、前述した第1変形例の回転慣性質量ダンパ51Aとは逆に、ピストン3の移動量が大きく、ピストン3が区間B4内に位置する場合、すなわち構造物Bの振動が大きい場合に限り、第3連通路62内の作動流体HFの流動による可変の粘性減衰効果を得ることができる。
次に、図13を参照しながら、本発明の第3実施形態による回転慣性質量ダンパ71について説明する。この回転慣性質量ダンパ71は、第1実施形態の回転慣性質量ダンパ1に対して、回転慣性質量効果を変更するための慣性質量可変機構81を付加したものである。したがって、第1実施形態と同じ又は同等の構成要素については、図13に同じ符号を付し、以下、慣性質量可変機構81を中心として説明する。
図13に示すように、慣性質量可変機構81は、歯車モータMと回転マス72の間に設けられている。本実施形態では、歯車モータMの回転軸(出力軸)73は、鉛直上方に延びている。また、回転マス72は、ブロック状の複数の(2つのみ図示)付加錘で構成され、比重が比較的大きな材料、例えば鉄で構成されている。
慣性質量可変機構81は、回転軸73の上下に設けられた可動フランジ82及び固定フランジ83と、複数のリンク部材84と、可動フランジ82の上側に順に配置された連結部材85及び駆動ロッド86などを有する。
固定フランジ83は回転軸73に固定されている。一方、可動フランジ82は、回転軸73にスプライン結合されており、それにより、回転軸73に対して軸線方向に移動自在であるとともに、回転軸73と一体に回転する。複数のリンク部材84は、可動フランジ82及び固定フランジ83と複数の回転マス72の間に、パンタグラフ状に回動自在に連結されている。この構成により、可動フランジ82が上下方向に移動するのに伴い、回転マス72が径方向に移動することによって、その回転半径が変化する。
連結部材85は、筒状のものであり、可動フランジ82に同軸状に一体に連結され、上方に延びている。駆動ロッド86は、上下方向に延びる軸部86a、下端部のつば状の支持部86b及び上端部のつば状の受圧部86cを一体に有し、連結部材85と同軸状に配置されている。連結部材85は、スラスト軸受け87を介して、駆動ロッド86の支持部86bに回転自在に支持されている。
一方、圧力導入路42には、駆動ロッド88に作動流体HFの圧力を導入するための第2圧力導入路88が連設されている。第2圧力導入路88は、圧力導入路42の連通部42bの調整弁8、8よりも内側からそれぞれ分岐し、上方に延びるとともに、上端部において集合しており、その中央にロッド収容部88aが形成されている。
駆動ロッド86は、受圧部86cがロッド収容部88aの内周面に液密に接し、軸部86aがロッド収容部88aの底部の孔(図示せず)に液密に挿入された状態で、ロッド収容部88aに上下方向に移動自在に収容されるとともに、その底部から下方に突出している。また、駆動ロッド86の受圧部86cとロッド収容部88aの底部との間には、駆動ロッド86を上方に付勢するセットばね89が設けられている。
以上の回転慣性質量ダンパ71の構成によれば、構造物Bの振動に伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6に流入する。第1連通路5内の作動流体HFの流動に伴って歯車モータMが作動し、回転軸73、可動及び固定フランジ82、83及びリンク部材84を介して、回転マス72が回転駆動されることによって、回転マス72による回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第1連通路5を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。
この場合において、流体室圧力が第1所定圧に達するまでは、開閉弁41、41が閉弁状態に維持され、圧力導入路42に流体室圧力が導入されず、調整弁8は作動しない。このため、初期状態の第1連通路5の開度に応じた粘性減衰効果が得られる。また、この場合、第2圧力導入路88に流体室圧力が導入されないため、駆動ロッド86は作動せず、慣性質量可変機構81は図13に示す初期状態に維持される。このため、初期状態の回転マス72の回転半径に応じた回転慣性質量効果が得られる。
流体室圧力が第1所定圧に達すると、開閉弁41が開弁し、圧力導入路42に流体室圧力が導入されることによって、調整弁8が作動する。これにより、調整弁8で調整された第1連通路5の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。
また、この場合、第2圧力導入路88に流体室圧力が導入され、この導入圧力が駆動ロッド86の受圧部86cに作用する。これにより、駆動ロッド86は、セットばね89のばね力に抗し、このばね力と導入圧力が釣り合う位置まで押し下げられ、連結部材85及び可動フランジ82を下方に駆動する。この可動フランジ82の移動に伴い、リンク部材84を介して回転マス72が径方向外方に駆動される。これにより、回転マス72の回転半径が増加することによって、回転マス72による回転慣性質量効果を増加させることができる。
以上のように、本実施形態の回転慣性質量ダンパ71によれば、構造物Bの振動時にピストン3の移動に伴って発生する作動流体HFの圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、作動流体HFの圧力に応じて、可変の粘性減衰効果を得ることに加えて、回転慣性質量効果をも可変とすることができる。
また、以上の構成及び動作から、回転慣性質量ダンパ71をモデル化すると、図14のように表される。すなわち、回転慣性質量ダンパ71の制振力は、慣性質量可変機構81で変更される回転マス72の可変の慣性力と調整弁8で調整される可変の粘性力との和になるとともに、第1又は第2リリーフ弁11、12の開弁によって制限される。したがって、回転慣性質量ダンパ71は、互いに並列関係にある(a)回転マス72及び慣性質量可変機構81から成る可変の慣性質量要素、及び(b)作動流体HF及び調整弁8から成る可変の粘性要素に、(c)第1及び第2リリーフ弁11、12から成る制限要素が接続されたモデルになる。
また、調整弁8及び慣性質量可変機構81が上述したように作動した後に、復帰弁43、43を手動で開弁すると、圧力導入路42及び第2圧力導入路88に残留していた高圧の導入圧力が、復帰弁43、43を介して、第1及び第2流体室2d、2e側にそれぞれ逃がされる。これにより、前述したように各調整弁8が初期状態に復帰するとともに、慣性質量可変機構81の駆動ロッド86がセットばね89のばね力と釣り合う位置に戻されることによって、慣性質量可変機構81を初期状態に容易に復帰させることができる。
次に、図15を参照しながら、本発明の第4実施形態による回転慣性質量ダンパ91について説明する。この回転慣性質量ダンパ91は、作動流体HFの流動を回転運動に変換する圧力モータとして、第1実施形態の歯車モータMに代えて、ピストンモータMPを用いたものである。したがって、第1実施形態と同じ又は同等の構成要素については、図15に同じ符号を付し、以下、ピストンモータMPを中心として説明する。
ピストンモータMPは、歯車モータMと同様、第1連通路5の中心に配置されている。ピストンモータMPは、例えばアキシャル型の可変容量式のものであり、回転自在のシリンダバレルと、シリンダバレルの複数のボアにそれぞれ摺動自在に設けられた複数のピストンと、ピストンの先端が当接する斜板(いずれも図示せず)と、シリンダバレルに一体に設けられ、水平に延びる回転軸92などを有する。回転軸92には、円板状の回転マス21が一体に連結されている。また、圧力導入路42には、連通部42bの中央から分岐するモータ接続部42dが設けられており、モータ接続部42dはピストンモータMPに接続されている。
以上の構成により、第1連通路5に作動流体HFが流入すると、その流動による圧力によって複数のピストンが斜板に当接しながら往復動し、その往復動がシリンダバレル及び回転軸92の回転運動に変換されることによって、回転マス21が回転駆動される。また、圧力導入路42に流体室圧力が導入されると、その導入圧力がモータ接続部42dを介してピストンモータMPに導入されることによって、斜板の角度が変更され、それに応じて、回転軸92を1回転させるのに必要な押し出し容量が変更される。
以上の回転慣性質量ダンパ91の構成によれば、構造物Bの振動に伴い、ピストン3がシリンダ2に対して中立位置から移動すると、ピストン3で押し出された作動流体HFは、連通口2iを介して第1及び第2連通路5、6に流入する。第1連通路5内の作動流体HFの流動に伴い、ピストンモータMPが作動し、回転マス21が回転駆動されることによって、回転マス21による回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体HFが第1連通路5を流動する際の粘性抵抗によって、粘性減衰効果が発揮される。
この場合において、流体室圧力が第1所定圧に達するまでは、開閉弁41、41が閉弁状態に維持され、圧力導入路42に流体室圧力が導入されず、調整弁8は作動しない。このため、初期状態の第1連通路5の開度に応じた粘性減衰効果が得られる。また、この場合、ピストンモータMPに流体室圧力が導入されないため、その押し出し容量は初期状態に維持される。このため、初期状態の押し出し容量による回転マス21の回転速度に応じた回転慣性質量効果が得られる。
流体室圧力が第1所定圧に達すると、開閉弁41が開弁し、圧力導入路42に流体室圧力が導入されることによって、調整弁8が作動する。これにより、調整弁8で調整された第1連通路5の開度に応じた可変の粘性減衰効果が得られる。
また、この場合、圧力導入路42に導入された流体室圧力がピストンモータMPに導入され、その押し出し容量が変更されることによって、変更された押し出し容量による回転マス21の回転速度に応じて、回転慣性質量効果が変更される。
以上のように、本実施形態の回転慣性質量ダンパ91によれば、第3実施形態の回転慣性質量ダンパ71と同様、構造物Bの振動時にピストン3の移動に伴って発生する作動流体HFの圧力を利用し、電力の供給を必要とすることなく、作動流体HFの圧力に応じて、可変の粘性減衰効果を得ることに加えて、回転慣性質量効果をも可変とすることができる。また、回転慣性質量ダンパ91をモデル化すると、回転慣性質量ダンパ71と基本的に同じであり、図14と同様に表される。
なお、図15に示すように、回転慣性質量ダンパ91では、ピストンロッド4の一端部にサブピストン93が一体に設けられている。サブピストン93は、軸線方向に貫通する複数の連通孔93aを有し、シリンダ2のロッド収容部2fに摺動自在に設けられている。ロッド収容部2fには作動流体HFが充填されている。この構成により、ピストン3の移動に伴ってサブピストン93がロッド収容部2fを摺動する際、作動流体HFが複数の連通孔93aを流動するときの粘性抵抗によって、粘性減衰効果を付加的に発揮させることができる。
また、連通孔93aに適当な調圧弁やリリーフ弁を設けることも可能である。さらに、このようなサブピストンや調圧弁などを、第1〜第3実施形態の回転慣性質量ダンパ1、51、71に適用してもよいことはもちろんである。
なお、本発明は、説明した第1〜第4実施形態(以下、総称する場合には「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1〜第3実施形態では、圧力モータとして、歯車モータMを用いているが、第1連通路5内の作動流体HFの流動を回転運動に変換することが可能である限り、他の形式のもの、例えば、ベーンモータやねじモータ、さらには定容量式のピストンモータを用いることができる。
また、第2実施形態(図9)とその第1及び第2変形例(図11及び図12)は、それぞれの構成の粘性減衰機構61を、第1実施形態(図1)と組み合わせたものであるが、これに限らず、第1実施形態の第1及び第2変形例(図7及び図8)と組み合わせてもよい。それにより、ピストン3の位置に応じて、粘性減衰効果の変更をさらにきめ細かく行うことができる。
また、実施形態で示した各種の構成部品の構成、例えば歯車モータM、開閉弁41及び第2開閉弁64、調整弁8及び第2調整弁65、復帰弁43、66、慣性質量可変機構81やピストンモータMPなどの構成は、あくまで例示であり、要求されるそれぞれの機能を果たす限り、任意の構成を採用することが可能である。さらに、図4には、本発明の回転慣性質量ダンパを構造物の免震構造に適用した事例を示したが、これに限らず、例えば、構造物の任意の層に設置される制震構造に適用してもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成(形状、個数及び配置など)を適宜、変更することが可能である。