上述したように、従来のマスダンパでは、構造物の振動に伴う第1及び第2部位の間の相対変位を、皿ばねユニットを介して回転マスに伝達するために、端部シリンダや蓋部、複数のキーなどの複雑な構成が採用されている。また、ねじ軸及びナットのみならず、回転マスまでもが外装シリンダに収容されている。以上により、マスダンパ全体の構成が非常に複雑になってしまう。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、付加振動系を構成するための回転マス及び弾性体を互いに直列に連結できるとともに、比較的簡単に構成することができるマスダンパを提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制するためのマスダンパであって、筒状の本体部と、本体部に一体に設けられた回転マスと、第1部位に連結され、本体部の軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の一方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されたねじ軸と、ねじ軸にボールを介して螺合するとともに、本体部の一方の部位に取り付けられたナットと、第2部位に連結され、軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の他方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容され、本体部を回転可能に支持するロッドと、ロッドに一体に設けられ、本体部の他方の部位に、軸線方向に移動可能に収容されたフランジと、本体部の他方の部位に収容され、本体部に同軸状に設けられるとともに、フランジの軸線方向の両側にそれぞれ配置された一対のスラスト軸受けと、軸線方向に積層された複数の皿ばねから成り、本体部の他方の部位に収容され、ロッドが挿入されるとともに、フランジと一対のスラスト軸受けの一方との間、及び、フランジと一対のスラスト軸受けの他方との間にそれぞれ配置された一対の皿ばねユニットと、を備え、構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位が、ねじ軸、ナット、ロッド、フランジ、皿ばねユニット及びスラスト軸受けを介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達され、それにより本体部及び回転マスがロッドに対して回転するとともに、皿ばねユニットがフランジ及び本体部で軸線方向に押圧されることを特徴とする。
この構成によれば、筒状の本体部に、回転マスが一体に設けられており、本体部の軸線方向の一方の部位には、ねじ軸が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸は、第1部位に連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸には、本体部の一方の部位に取り付けられたナットが、ボールを介して螺合している。本体部の軸線方向の他方の部位には、ロッドが、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このロッドは、第2部位に連結され、軸線方向に延びており、本体部を回転可能に支持している。また、ロッドには、フランジが一体に設けられており、このフランジは、本体部の他方の部位に、軸線方向に移動可能に収容されている。また、本体部の他方の部位には、一対のスラスト軸受け及び一対の皿ばねユニットが収容されている。これらの一対のスラスト軸受けは、本体部に同軸状に設けられており、フランジの軸線方向の両側にそれぞれ配置されている。上記の一対の皿ばねユニットは、各々が軸線方向に積層された複数の皿ばねで構成され、フランジと一対のスラスト軸受けの一方との間、及び、フランジと一対のスラスト軸受けの他方との間に、それぞれ配置されており、ロッドが挿入されている。
構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位は、ねじ軸及びロッドに伝達され、さらに、ナット、フランジ、皿ばねユニット及びスラスト軸受けを介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達される。これにより、本体部及び回転マスがロッドに対して一緒に回転し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。その際、皿ばねユニットがフランジ及び本体部で押圧され、その剛性を発揮するので、回転マス及び皿ばねユニットによって、付加振動系を構成することができる。
これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパを第1及び第2部位に連結することが可能になる。この場合、回転マスへの第1部位と第2部位の間の相対変位の伝達に伴い、皿ばねユニットと本体部の間に軸線方向の押圧力(アキシャル荷重)が作用するものの、両者の間にスラスト軸受けが設けられているので、本体部及び回転マスをロッドに対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、本発明によるマスダンパは、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための弾性体としての皿ばねユニット及び回転マスを互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことと、回転マスが、本体部に別個ではなく一体に設けられていることから、マスダンパを比較的簡単に構成することができる。
また、従来のマスダンパと異なり、例えば、回転マスを、本体部に収容せずに一体に設けた場合には、回転マスの回転慣性質量を調整するにあたって、本体部から回転マスを取り出さずに、当該調整を容易に行うことができる。さらに、この場合には、同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ全体の小型化を図ることができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のマスダンパにおいて、本体部は、軸線方向に延びる筒状の周壁と、本体部の他方の部位に、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の壁部と、を一体に有し、本体部の他方の部位の内部には、一対の壁部及び周壁によって流体室が画成され、一対の壁部の各々には、軸線方向に貫通する挿入孔が形成されており、ロッドは、挿入孔に挿入されることによって、本体部を回転可能に支持し、フランジは、流体室に、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に設けられるとともに、流体室を第1流体室と第2流体室に区画しており、一対のスラスト軸受けは、一対の壁部にそれぞれ設けられるとともに、第1及び第2流体室にそれぞれ収容され、一対の皿ばねユニットは、第1及び第2流体室にそれぞれ収容されており、第1及び第2流体室に充填された粘性流体と、フランジに設けられ、第1及び第2流体室内の粘性流体の圧力を調整するために、第1及び第2流体室を互いに連通させる調圧弁と、をさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、本体部は、軸線方向に延びる筒状の周壁と、本体部の他方の部位に、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の壁部と、を一体に有している。本体部の他方の部位の内部には、周壁及び一対の壁部によって流体室が画成されており、一対の壁部の各々には、軸線方向に貫通する挿入孔が形成されている。前記ロッドは、挿入孔に挿入されており、それにより、本体部を回転可能に支持している。
また、ロッドと一体のフランジは、流体室に、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に設けられるとともに、流体室を第1流体室と第2流体室に区画している。前記一対のスラスト軸受けは、一対の壁部にそれぞれ設けられるとともに、第1及び第2流体室にそれぞれ収容されており、前記一対の皿ばねユニットは、第1及び第2流体室にそれぞれ収容されている。また、第1及び第2流体室には、粘性流体が充填されており、フランジには、第1及び第2流体室内の粘性流体の圧力を調整するために、両流体室を互いに連通させる調圧弁が設けられている。
上述したように、本体部の他方の部位の内部に画成された流体室に、粘性流体が充填されるとともに、ロッドと一体のフランジが軸線方向に摺動可能に設けられており、フランジで区画された第1及び第2流体室内の粘性流体の圧力が、調圧弁によって調整される。このため、第1部位と第2部位の間の相対変位がロッド及びねじ軸に伝達されるのに伴い、フランジが流体室内を摺動すると、第1及び第2流体室の一方の内部の粘性流体がフランジで押圧されるとともに、その圧力が調圧弁で調整されるので、粘性流体による粘性減衰効果をさらに得ることができ、ひいては、構造物の振動をより適切に抑制することができる。
前記目的を達成するために、請求項3に係る発明は、構造物を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制するためのマスダンパであって、筒状の本体部と、本体部に一体に設けられた回転マスと、第1部位に連結され、本体部の軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の一方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されたねじ軸と、ねじ軸にボールを介して螺合するとともに、本体部の一方の部位に取り付けられたナットと、第2部位に連結され、軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の他方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容され、本体部を回転可能に支持するロッドと、ロッドに一体に設けられ、本体部の他方の部位に、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に収容されたロッドピストンと、本体部の他方の部位に収容されるとともに、ロッドピストンの軸線方向の両側にそれぞれ配置された一対の弾性体と、本体部の他方の部位に、軸線方向に摺動可能に収容され、ロッドピストンと一対の弾性体の一方との間、及び、ロッドピストンと一対の弾性体の他方との間にそれぞれ配置されるとともに、本体部の他方の部位の内部において、ロッドピストンとの間に第1流体室及び第2流体室をそれぞれ画成し、ロッドに対して軸線方向に移動可能で、かつ本体部及びロッドの少なくとも一方に対して回転可能な一対のピストンと、第1及び第2流体室に充填された流体と、を備え、構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位が、ねじ軸、ナット、ロッド、ロッドピストン、流体、ピストン、及び弾性体を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達され、それにより本体部及び回転マスが回転するとともに、弾性体がピストン及び本体部で軸線方向に押圧されることを特徴とする。
この構成によれば、筒状の本体部に、回転マスが一体に設けられており、本体部の軸線方向の一方の部位には、ねじ軸が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸は、第1部位に連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸には、本体部の一方の部位に取り付けられたナットが、ボールを介して螺合している。本体部の軸線方向の他方の部位には、ロッドが、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このロッドは、第2部位に連結され、軸線方向に延びており、本体部を回転可能に支持している。また、ロッドには、ロッドピストンが一体に設けられており、このロッドピストンは、本体部の他方の部位に、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に収容されている。
本体部の他方の部位には、一対の弾性体及び一対のピストンが収容されており、これらの一対の弾性体は、ロッドピストンの軸線方向の両側にそれぞれ配置されている。上記の一対のピストンは、ロッドピストンと一対の弾性体の一方との間、及び、ロッドピストンと一対の弾性体の他方との間にそれぞれ配置されており、本体部の他方の部位内を軸線方向に摺動可能で、ロッドに対して軸線方向に移動可能であり、かつ、本体部及びロッドの少なくとも一方に対して回転可能である。また、本体部の他方の部位の内部には、ロッドピストンと、一対のピストンの一方との間、及び一対のピストンの他方との間に、第1流体室及び第2流体室がそれぞれ画成されており、これらの第1及び第2流体室には、流体が充填されている。
構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位は、ねじ軸及びロッドに伝達され、さらに、ナット、ロッドピストン、流体、ピストン、及び弾性体を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達される。これにより、本体部及び回転マスが一緒に回転し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られることによって、構造物の振動を適切に抑制することができる。その際、弾性体が、流体、ピストン及び本体部で押圧され、その剛性を発揮するので、回転マス及び弾性体によって、付加振動系を構成することができる。
これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパを第1及び第2部位に連結することが可能になる。この場合、ねじ軸に対するロッド及びロッドピストンの移動が、周方向に剪断変形可能な流体を介して本体部に伝達されることと、ロッドピストンの移動に伴い流体を介して押圧されるピストンが本体部及び/又はロッドに対して回転可能であることから、本体部及び回転マスをロッドに対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、本発明によるマスダンパは、請求項1に係る発明のマスダンパと同様、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための回転マス及び弾性体を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことと、回転マスが、本体部に別個ではなく一体に設けられていることから、マスダンパを比較的簡単に構成することができる。
また、請求項1に係る発明のマスダンパと同様、従来のマスダンパと異なり、例えば、回転マスを、本体部に収容せずに一体に設けた場合には、回転マスの回転慣性質量を調整するにあたって、本体部から回転マスを取り出さずに、当該調整を容易に行うことができる。さらに、この場合には、同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ全体の小型化を図ることができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に記載のマスダンパにおいて、ロッドピストンに設けられ、第1及び第2流体室内の流体の圧力の過大化を防止するために、第1及び第2流体室を互いに連通させるリリーフ弁をさらに備えることを特徴とする。
前述したように、マスダンパでは、第1部位と第2部位の間の相対変位がねじ軸及びロッドに伝達されるのに伴い、第1及び第2流体室内の流体が、ロッドピストン及びピストンで押圧される。このため、流体の圧力が、荷重となってロッド及びねじ軸に軸線方向に作用するため、流体の圧力が高くなるほど、この荷重(以下「軸荷重」という)は大きくなる。上述した構成によれば、第1及び第2流体室内の流体の圧力の過大化を防止するためのリリーフ弁が、ロッドピストンに設けられているので、軸荷重の過大化を防止することができる。また、リリーフ弁により第1及び第2流体室が互いに連通されることによって、流体による粘性減衰効果をさらに得ることができる。
前記目的を達成するために、請求項5に係る発明は、構造物を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制するためのマスダンパであって、筒状の本体部と、本体部に一体に設けられた回転マスと、第1部位に連結され、本体部の軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の一方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されたねじ軸と、ねじ軸にボールを介して螺合するとともに、本体部の一方の部位に取り付けられたナットと、第2部位に連結され、軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の他方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容され、本体部を回転可能に支持する支持部と、本体部及び支持部の一方に一体に設けられるとともに、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の第1係合部と、本体部及び支持部の他方に一体に設けられるとともに、一対の第1係合部の間に配置された第2係合部と、一対の第1係合部の一方と第2係合部との間、及び、一対の第1係合部の他方と第2係合部との間にそれぞれ配置された一対の弾性体と、を備え、構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位が、ねじ軸、ナット、支持部、第1係合部、弾性体、及び第2係合部を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達され、それにより本体部及び回転マスが支持部に対して回転するとともに、弾性体が第1及び第2係合部で軸線方向に押圧され、第1係合部、弾性体及び第2係合部から成る相対変位の伝達経路上に、本体部と同軸状に設けられたスラスト軸受けをさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、筒状の本体部に、回転マスが一体に設けられており、本体部の軸線方向の一方の部位には、ねじ軸が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸は、第1部位に連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸には、本体部の一方の部位に取り付けられたナットが、ボールを介して螺合している。本体部の軸線方向の他方の部位には、支持部が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。この支持部は、第2部位に連結され、軸線方向に延びており、本体部を回転可能に支持している。本体部及び支持部の一方には、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の第1係合部が一体に設けられており、本体部及び支持部の他方には、一対の第1係合部の間に配置された第2係合部が一体に設けられている。また、一対の第1係合部の一方と第2係合部との間、及び、一対の第1係合部の他方と第2係合部との間には、一対の弾性体がそれぞれ配置されている。
構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位は、ねじ軸及び支持部に伝達され、さらに、ナット、第1係合部、弾性体、及び第2係合部を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達される。これにより、本体部及び回転マスが支持部に対して一緒に回転し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。その際、弾性体が第1及び第2係合部で押圧され、その剛性を発揮するので、回転マス及び弾性体によって、付加振動系を構成することができる。
これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパを第1及び第2部位に連結することが可能になる。この場合、回転マスへの第1部位と第2部位の間の相対変位の伝達に伴い、弾性体、第1及び第2係合部から成る上述した相対変位の伝達経路上において、軸線方向の押圧力(アキシャル荷重)が発生する。前述した構成によれば、この伝達経路上にスラスト軸受けが設けられているので、本体部及び回転マスを支持部に対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、本発明によるマスダンパは、請求項1に係る発明のマスダンパと同様、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための回転マス及び弾性体を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことと、回転マスが、本体部に別個ではなく一体に設けられていることから、マスダンパを比較的簡単に構成することができる。
また、従来のマスダンパと異なり、例えば、回転マスを、本体部に収容せずに一体に設けた場合には、回転マスの回転慣性質量を調整するにあたって、本体部から回転マスを取り出さずに、当該調整を容易に行うことができる。さらに、この場合には、同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ全体の小型化を図ることができる。
前記目的を達成するため、請求項6に係る発明は、構造物を含む系内の第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制するためのマスダンパであって、軸線方向に延びる筒状の連結部と、軸線方向の一方の部位に、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の壁部と、を一体に有する本体部と、本体部に一体に設けられた回転マスと、第1部位に連結され、軸線方向に延びるとともに、本体部の軸線方向の他方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されたねじ軸と、ねじ軸にボールを介して螺合するとともに、本体部の他方の部位に取り付けられたナットと、第2部位に連結され、軸線方向に延びるとともに、本体部の一方の部位に、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容され、本体部を回転可能に支持する支持部と、支持部に一体に設けられ、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置されるとともに、本体部に対して軸線方向に移動可能な一対の押圧部と、一対の押圧部の間に配置された弾性体と、一対の押圧部の一方と弾性体の間、及び、一対の押圧部の他方と弾性体の間にそれぞれ配置され、本体部及び支持部に対して軸線方向に移動可能に構成されており、支持部が本体部に対して軸線方向に移動するのに伴い、押圧部に軸線方向に押圧されるとともに、押圧部の押圧力を、弾性体を介して壁部に伝達する一対の伝達部と、を備え、構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位が、ねじ軸、ナット、支持部、押圧部、弾性体、伝達部、及び壁部を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達され、それにより本体部及び回転マスが支持部に対して回転し、押圧部、弾性体、伝達部及び壁部から成る相対変位の伝達経路上に、本体部と同軸状に設けられたスラスト軸受けをさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、本体部が、軸線方向に延びる筒状の連結部と、その軸線方向の一方の部位に、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された一対の壁部と、を一体に有しており、本体部には、回転マスが一体に設けられている。また、本体部の軸線方向の他方の部位には、ねじ軸が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されており、このねじ軸は、第1部位に連結されるとともに、軸線方向に延びている。また、ねじ軸には、本体部の他方の部位に取り付けられたナットが、ボールを介して螺合している。本体部の軸線方向の一方の部位には、支持部が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。この支持部は、第2部位に連結され、軸線方向に延びており、本体部を回転可能に支持している。
また、支持部には、一対の押圧部が一体に設けられており、これらの一対の押圧部は、本体部に対して軸線方向に移動可能であり、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置されている。一対の押圧部の間には、弾性体が配置されており、一対の押圧部の一方と弾性体の間、及び、一対の押圧部の他方と弾性体の間には、一対の伝達部がそれぞれ配置されている。これらの一対の伝達部は、本体部及び支持部に対して軸線方向に移動可能に構成されており、支持部が本体部に対して軸線方向に移動するのに伴い、支持部と一体の押圧部に軸線方向に押圧されるとともに、押圧部の押圧力を、弾性体を介して壁部に伝達する。
構造物の振動に伴って発生した第1部位と第2部位の間の相対変位は、ねじ軸、ナット、支持部、押圧部、弾性体、伝達部、及び壁部を介して、回転運動に変換された状態で本体部に伝達される。これにより、本体部及び回転マスが支持部に対して一緒に回転し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。その際、上述した支持部の移動に伴う押圧部、弾性体及び伝達部の動作から明らかなように、弾性体が、押圧部、伝達部及び壁部で押圧され、その剛性を発揮するので、回転マス及び弾性体によって、付加振動系を構成することができる。
これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパを第1及び第2部位に連結することが可能になる。この場合、回転マスへの第1部位と第2部位の間の相対変位の伝達に伴い、押圧部、弾性体、伝達部及び壁部から成る相対変位の伝達経路上において、軸線方向の押圧力(アキシャル荷重)が発生する。前述した構成によれば、この伝達経路上にスラスト軸受けが設けられているので、本体部及び回転マスを支持部に対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、本発明によるマスダンパは、請求項1に係る発明のマスダンパと同様、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための回転マス及び弾性体を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことと、回転マスが、本体部に別個ではなく一体に設けられていることから、マスダンパを比較的簡単に構成することができる。
また、従来のマスダンパと異なり、例えば、回転マスを、本体部に収容せずに一体に設けた場合には、回転マスの回転慣性質量を調整するにあたって、本体部から回転マスを取り出さずに、当該調整を容易に行うことができる。さらに、この場合には、同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ全体の小型化を図ることができる。
請求項7に係る発明は、請求項3ないし6のいずれかに記載のマスダンパにおいて、弾性体は、軸線方向に積層された複数の皿ばねから成る皿ばねユニットであることを特徴とする。
この構成によれば、弾性体が軸線方向に積層された複数の皿ばねから成る皿ばねユニットである。このため、請求項3、5及び6に係る発明で説明した付加振動系の固有振動数を調整すべく、弾性体の剛性を設定するに当たり、当該設定を、その皿ばねの数及び積層の仕方を変更するだけで、容易に行うことができる。
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載のマスダンパにおいて、本体部及び回転マスの少なくとも一方に取り付けられ、回転マスの回転慣性質量を調整するための調整用マスをさらに備えることを特徴とする。
この構成によれば、回転マスの回転慣性質量を調整するための調整用マスが、本体部及び回転マスの少なくとも一方に取り付けられているので、回転マスの回転慣性質量をさらに容易に調整することができる。
請求項9に係る発明は、請求項1ないし8のいずれかに記載のマスダンパにおいて、本体部及び回転マスが、互いに共通の部材で構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、本体部及び回転マスが、互いに共通の部材で構成されているので、その分、部品点数を削減でき、ひいては、製造コストを削減することができるとともに、マスダンパをさらに簡単に構成することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるマスダンパ1を示している。以下、便宜上、図1の左側及び右側をそれぞれ「左」及び「右」として説明する。図1に示すように、マスダンパ1は、円筒状の本体部2と、本体部2に一体に設けられた回転マスと、本体部2の左部に設けられ、本体部2を回転可能に支持するロッド3と、本体部2の右部に設けられたボールねじ4を備えている。
本体部2は、比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成され、ドーナツ板状の左右の側壁2a、2bと、両側壁2a、2bの間に設けられ、左右方向(軸線方向)に延びる円筒状の周壁2cを一体に有しており、本体部2及び回転マスは、互いに共通の部材で構成されている。すなわち、本体部2は、回転マスとして兼用されている。周壁2c内の左部には、ドーナツ板状の収容壁2dが一体に設けられている。左右の側壁2a、2b及び収容壁2dには、左右方向に貫通する挿入孔2e、2f、2gがそれぞれ形成されており、これらの挿入孔2e〜2gは、周壁2cと同軸状に配置されている。
上記のロッド3は、本体部2の挿入孔2e、2gに、滑り材5、5を介して挿入されるとともに、左右方向に延びており、本体部2を回転可能に支持している。また、ロッド3は、本体部2の左部に左右方向に移動可能にかつ同軸状に部分的に収容されており、本体部2から左方に突出している。滑り材5、5は、滑性の高い材料、例えばフッ素樹脂などで構成されている。また、ロッド3の中央部には、円板状のフランジ6が同軸状に一体に設けられており、フランジ6は、左側壁2a、周壁2c及び収容壁2dによって画成された収容室2hに、ロッド3と一緒に左右方向に移動可能に収容されている。
ボールねじ4は、ねじ軸4aと、ねじ軸4aに多数のボール4bを介して螺合するナット4cを有している。ねじ軸4aは、右側壁2bの挿入孔2fに、滑り材5を介して挿入されるとともに、左右方向に延びている。また、ねじ軸4aは、本体部2の右部に左右方向に移動可能にかつ同軸状に部分的に収容されており、本体部2から右方に突出している。ナット4cは、右側壁2bの右面に同軸状に取り付けられており、その中央のねじ孔が、挿入孔2fに連通している。
マスダンパ1はさらに、上記の収容室2hに収容され、左側壁2a及び収容壁2dに同軸状にそれぞれ設けられた左右のスラスト軸受け7L、7Rと、収容室2hに収容された左右の皿ばねユニット8L、8Rを備えている。各皿ばねユニット8L(8R)は、左右方向に積層された複数の皿ばね8aで構成され、その中央の孔にロッド3が挿入されている。また、左皿ばねユニット8Lは、フランジ6と左スラスト軸受け7Lとの間に配置されており、右皿ばねユニット8Rは、フランジ6と右スラスト軸受け7Rとの間に配置されている。左右の皿ばねユニット8L、8Rの各々の剛性は、皿ばね8aの数及び積層の仕方によって定まり、図1は、8つの皿ばね8aを直列に積層した場合の例を示している。皿ばね8aの数及び積層の仕方の設定については後述する。
また、ロッド3の左端部及びねじ軸4aの右端部にはそれぞれ、第1取付具FL1及び第2取付具FL2が、自在継ぎ手を介して取り付けられている。これらの自在継ぎ手は、後述するように回転する本体部2の反力によるトルクにより、ロッド3及びねじ軸4aが第1及び第2取付具FL1、FL2に対してそれぞれ回転しない程度の摩擦力を有している。
以上の構成のマスダンパ1は、図2に示すように、例えば、建物Bの上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結される。この場合、上記の第1取付具FL1が、上梁BUと左柱PLとの接合部に固定された第1連結部材EN1に取り付けられ、第2取付具FL2が、下梁BDと右柱PRとの接合部に固定された第2連結部材EN2に取り付けられる。
建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間に相対変位が発生し、それにより、マスダンパ1に引張力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して左方及び右方にそれぞれ移動する。それに伴い、左皿ばねユニット8Lが、ロッド3と一体のフランジ6と、本体部2の左側壁2aに取り付けられた左スラスト軸受け7Lとで押圧されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。このように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ1に引張力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、フランジ6、左皿ばねユニット8L、左スラスト軸受け7L、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転する。
一方、マスダンパ1に圧縮力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して右方及び左方にそれぞれ移動する。それに伴い、右皿ばねユニット8Rが、フランジ6と、本体部2の収容壁2dに取り付けられた右スラスト軸受け7Rとで押圧されるとともに、ナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。このように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ1に圧縮力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、フランジ6、右皿ばねユニット8R、右スラスト軸受け7R、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、本体部2が回転する。
以上のマスダンパ1の動作から明らかなように、マスダンパ1では、回転マスとして兼用された本体部2と、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)は、互いに直列に連結された関係にある。このため、マスダンパ1のモデル図は、例えば図3のように表される。
このように、マスダンパ1では、本体部2及び左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)によって付加振動系を構成することができ、この付加振動系の固有振動数は、定点理論に基づいて、構造物の固有振動数(例えば1次の固有振動数)に同調(共振)するように(ほぼ同じになるように)、設定される。付加振動系の固有振動数fは、本体部2の回転慣性質量M及び左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kを用いて、f=sqrt{K/M}/(2π)で表され、当該付加振動系の固有振動数fの設定は、本体部2の回転慣性質量M及び左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kを調整することによって、行われる。
この場合、本体部2の回転慣性質量Mの調整は、本体部2の左右の側壁2a、2b、周壁2c及び収容壁2dの径・肉厚、ならびに、ボールねじ4のピッチの少なくとも1つを設定することによって、行われる。また、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kの調整は、皿ばね8aの数及び積層の仕方を設定することによって、行われる。
図4(a)〜(i)は、皿ばね8aの数と積層の仕方(直列/並列)のバリエーションの一例を示しており、図5は、各バリエーションにおける皿ばね8aのたわみ(mm)と荷重(kN)の関係(以下「たわみ−荷重関係」という)を示している。なお、図4(b)〜(i)では便宜上、皿ばね8aの符号を1つのみ付している。また、図5において、Raは、皿ばね8aが1つであるとき(図4(a))のたわみ−荷重関係を表し、Rbは、2つの皿ばね8aを直列に積層したとき(図4(b))のたわみ−荷重関係を、Rcは、3つの皿ばね8aを直列に積層したとき(図4(c))のたわみ−荷重関係を、それぞれ表している。
さらに、図5において、Rdは、2つの皿ばね8aを並列に積層したとき(図4(d))のたわみ−荷重関係を表し、Reは、並列に積層した2つの皿ばね8aを1組として直列に2組、積層したとき(図4(e))のたわみ−荷重関係を表し、Rfは、並列に積層した2つの皿ばね8aを1組として直列に3組、積層したとき(図4(f))のたわみ−荷重関係を表している。また、図5において、Rgは、3つの皿ばね8aを並列に積層したとき(図4(g))のたわみ−荷重関係を表し、Rhは、並列に積層した3つの皿ばね8aを1組として直列に2組、積層したとき(図4(h))のたわみ−荷重関係を表しており、Riは、並列に積層した3つの皿ばね8aを1組として直列に3組、積層したとき(図4(i))のたわみ−荷重関係を表している。
皿ばね8a単体の剛性をksとすると、皿ばね8aを並列にn個、積層したときには、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kは、n・ksとなる。また、皿ばね8aを直列にn個、積層したときには、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kは、ks/(n+1)となる。皿ばね8aの数と積層の仕方(直列/並列)を、図4に示すような各種のバリエーションを適宜、用いて設定することにより、付加振動系の固有振動数fが構造物の固有振動数に同調するように、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)の剛性Kが調整される。
以上のように、第1実施形態によれば、筒状の本体部2が、回転マスとして兼用されており、本体部2の右部には、ねじ軸4aが、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸4aは、下梁BDに連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸4aには、本体部2の右側壁2bに取り付けられたナット4cが、ボール4bを介して螺合している。本体部2の左部には、ロッド3が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このロッド3は、上梁BUに連結され、軸線方向に延びており、本体部2を回転可能に支持している。
また、ロッド3には、フランジ6が一体に設けられており、このフランジ6は、本体部2の左部に、軸線方向に移動可能に収容されている。また、本体部2の左部には、左右のスラスト軸受け7L、7R及び左右の皿ばねユニット8L、8Rが収容されている。これらの左右のスラスト軸受け7L、7Rは、本体部2に同軸状に設けられており、フランジ6の軸線方向の両側にそれぞれ配置されている。左右の皿ばねユニット8L、8Rは、各々が軸線方向に積層された複数の皿ばね8aで構成され、フランジ6と左スラスト軸受け7Lとの間、及び、フランジ6と右スラスト軸受け7Rとの間に、それぞれ配置されており、ロッド3が挿入されている。
建物Bの振動に伴って発生した上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ねじ軸4a及びロッド3に伝達され、さらに、ナット4c、フランジ6、皿ばねユニット8L(8R)及びスラスト軸受け7L(7R)を介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達される。これにより、回転マスとして兼用された本体部2がロッド3に対して回転し、本体部2による回転慣性質量効果が得られるので、建物Bの振動を適切に抑制することができる。その際、皿ばねユニット8L(8R)がフランジ6及び本体部2で押圧され、その剛性を発揮するので、本体部2及び皿ばねユニット8L(8R)によって、付加振動系を構成することができる。これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパ1を上下の梁BU、BDに連結することが可能になる。この場合、本体部2への上下の梁BU、BDの間の相対変位の伝達に伴い、皿ばねユニット8L(8R)と本体部2の間に軸線方向の押圧力(アキシャル荷重)が作用するものの、両者8L(8R)、2の間にスラスト軸受け7L(7R)が設けられているので、本体部2をロッド3に対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、マスダンパ1は、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための本体部2(回転マス)及び皿ばねユニット8L(8R)を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことから、マスダンパ1を比較的簡単に構成することができる。この場合、本体部2及び回転マスが、互いに共通の部材で構成されているので、その分、部品点数を削減でき、ひいては、製造コストを削減することができるとともに、マスダンパ1をさらに簡単に構成することができる。
また、従来のマスダンパと異なり、本体部2及び回転マスが互いに共通の部材で構成されており、回転マスが本体部2に収容されていないので、回転マスの回転慣性質量を容易に調整することができる。同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部2の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ1全体の小型化を図ることができる。
さらに、本発明における弾性体として、軸線方向に積層された複数の皿ばね8aから成る左右の皿ばねユニット8L、8Rを用いるので、前述した付加振動系の固有振動数fを調整すべく、左右の皿ばねユニット8L、8Rの剛性Kを設定するに当たり、当該設定を、その皿ばね8aの数及び積層の仕方を変更するだけで、容易に行うことができる。
次に、図6〜図8を参照しながら、本発明の第2実施形態によるマスダンパ11について説明する。このマスダンパ11は、第1実施形態と比較して、ロッド3に、フランジ6に代えてピストン12が一体に設けられていることと、このピストン12によって、前記左側壁2a、周壁2c及び収容壁2dで画成された収容室2hが、左側の第1油室2iと右側の第2油室2jに区画されていること、これらの第1及び第2油室2i、2jに、粘性流体OIが充填されている点などが異なっている。図6〜図8において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図6に示すピストン12は、円板状に形成され、その外周に一体に設けられたシールsを介して周壁2cの内面に接触するとともに、本体部2に対して回転可能であり、収容室2h内を左右方向に摺動可能である。ピストン12で区画された第1油室2iには、前記左スラスト軸受け7L及び左皿ばねユニット8Lが収容されており、左皿ばねユニット8Lは、ピストン12と左スラスト軸受け7Lの間に配置されている。また、ピストン12で区画された第2油室2jには、前記右スラスト軸受け7R及び右皿ばねユニット8Rが収容されており、右皿ばねユニット8Rは、ピストン12と右スラスト軸受け7Rの間に配置されている。第1及び第2油室2i、2jに充填された粘性流体OIは、シリコンオイルで構成されている。
さらに、ピストン12には、第1調圧弁13及び第2調圧弁14が設けられており、図7に示すように、各調圧弁13、14は、弁体13a、14aとばね13b、14bの組み合わせでそれぞれ構成されている。第1調圧弁13は、第1油室2i内の粘性流体OIの圧力が比較的低い所定圧に達したときに開弁し、第1及び第2油室2i、2jを互いに連通させる。第2調圧弁14は、第2油室2j内の粘性流体OIの圧力が上記の所定圧に達したときに開弁し、第2及び第1油室2j、2iを互いに連通させる。
以上の構成のマスダンパ11は、図示しないものの、第1実施形態のマスダンパ1と同様、例えば、建物Bの上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結される。
建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間に相対変位が発生し、それにより、マスダンパ11に引張力が作用すると、第1実施形態の場合と同様、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して左方及び右方にそれぞれ移動する。それに伴い、左皿ばねユニット8Lが、ロッド3と一体のピストン12と、本体部2の左側壁2aに取り付けられた左スラスト軸受け7Lとで押圧され、第1油室2i内の粘性流体OIがピストン12で押圧されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。その際、ピストン12による押圧により第1油室2i内の粘性流体OIの圧力が所定圧に達すると、第1調圧弁13が開弁することによって、第1及び第2油室2i、2jが互いに連通され、第1油室2i内の粘性流体OIの一部が第2油室2jに流動する。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ11に引張力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、ピストン12、左皿ばねユニット8L、左スラスト軸受け7L、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転する。その際、第1調圧弁13の開弁に伴い、第1油室2i内の粘性流体OIの一部が第2油室2jに流動することによって、粘性流体OIによる粘性減衰効果が得られる。
一方、マスダンパ11に圧縮力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して右方及び左方にそれぞれ移動する。それに伴い、右皿ばねユニット8Rが、ピストン12と、本体部2の収容壁2dに取り付けられた右スラスト軸受け7Rとで押圧され、第2油室2j内の粘性流体OIがピストン12で押圧されるとともに、ナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。その際、ピストン12による押圧により第2油室2j内の粘性流体OIの圧力が所定圧に達すると、第2調圧弁14が開弁することによって、第2及び第1油室2j、2iが互いに連通され、第2油室2j内の粘性流体OIの一部が第1油室2iに流動する。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ11に圧縮力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、ピストン12、右皿ばねユニット8R、右スラスト軸受け7R、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより本体部2が回転する。その際、第2調圧弁14の開弁に伴い、第2油室2j内の粘性流体OIの一部が第1油室2iに流動することによって、粘性流体OIによる粘性減衰効果が得られる。
以上のマスダンパ11の動作から明らかなように、マスダンパ11では、回転マスとして兼用された本体部2と、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)は、互いに直列に連結された関係にあり、また、粘性流体OIなどから成る粘性減衰要素VDが、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)に並列に連結された関係にある。このため、マスダンパ11のモデル図は、例えば図8のように表される。
以上のように、マスダンパ11では、第1実施形態のマスダンパ1と同様、本体部2及び左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)によって付加振動系を構成することができ、この付加振動系の固有振動数は、定点理論に基づいて、構造物の固有振動数(例えば1次の固有振動数)に同調(共振)するように、設定される。その設定手法は、第1実施形態の場合と同様にして行われる。また、粘性流体OIの減衰係数は、定点理論に基づき、最適減衰により応答倍率曲線のピークを最小化するように、設定される。
以上のように、第2実施形態によれば、本体部2が、軸線方向に延びる筒状の周壁2cと、本体部2の左部、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置された左側壁2a及び収容壁2dと、を一体に有している。本体部2の左部の内部には、周壁2c、左側壁2a及び収容壁2dによって収容室2hが画成されており、左側壁2a及び収容壁2dの各々には、軸線方向に貫通する挿入孔2e、2gが形成されている。ロッド3は、挿入孔2e、2gに挿入されており、それにより、本体部2を回転可能に支持している。
また、ロッド3と一体のピストン12は、収容室2hに、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に設けられるとともに、収容室2hを、第1油室2iと第2油室2jに区画している。左右のスラスト軸受け7L、7Rは、左側壁2a及び収容壁2dにそれぞれ設けられるとともに、第1及び第2油室2i、2jにそれぞれ収容されており、左右の皿ばねユニット8L、8Rは、第1及び第2油室2i、2jにそれぞれ収容されている。また、第1及び第2油室2i、2jには、粘性流体OIが充填されており、ピストン12には、第1及び第2油室2i、2j内の粘性流体OIの圧力を調整するために、両油室2i、2jを互いに連通させる第1及び第2調圧弁13、14が設けられている。
上述したように、本体部2の左部の内部に画成された収容室2hに、粘性流体OIが充填されるとともに、ロッド3と一体のピストン12が軸線方向に摺動可能に設けられており、ピストン12で区画された第1及び第2油室2i、2j内の粘性流体OIの圧力が、第1及び第2調圧弁13、14によって調整される。このため、上下の梁BU、BDの間の相対変位がロッド3及びねじ軸4aに伝達されるのに伴い、ピストン12が収容室2h内を摺動すると、第1及び第2油室2i、2jの一方の内部の粘性流体OIがピストン12で押圧されるとともに、その圧力が第1及び第2調圧弁13、14で調整されるので、粘性流体OIによる粘性減衰効果をさらに得ることができ、ひいては、建物Bの振動をより適切に抑制することができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第1実施形態では、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、左右の皿ばねユニット8L、8Rの内径部分に接触するように設けているが、図9に示すように、左右の皿ばねユニット8L、8Rの外径部分に接触するように設けてもよい。その場合には、左右のスラスト軸受け7L、7Rのボールの数をより多くできるので、左右方向のより大きな荷重に対応することができる。このことは、第2実施形態についても同様に当てはまる。
また、第1実施形態では、左スラスト軸受け7Lを、左側壁2aに設けているが、左側壁2a、左皿ばねユニット8L及びフランジ6から成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。このことは、右スラスト軸受け7Rについても同様に当てはまり、収容壁2d、右皿ばねユニット8R及びフランジ6から成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。例えば、図15(a)に示すように、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、フランジ6の左面及び右面にそれぞれ設けてもよい。このことは、第2実施形態についても同様に当てはまり、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、図15(b)に示すように、左側壁2a及び収容壁2dに代えて、ピストン12の左面及び右面にそれぞれ設けてもよい。あるいは、第1及び第2実施形態に関し、左スラスト軸受け7Lを、左皿ばねユニット8Lの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間に設けてもよく、右スラスト軸受け7Rを、右皿ばねユニット8Rの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間に設けてもよい。
次に、図10〜図12を参照しながら、本発明の第3実施形態によるマスダンパ21について説明する。このマスダンパ21は、第1実施形態と比較して、ロッド3に、フランジ6に代えてピストン22が一体に設けられるとともに、ピストン22の左右の両側に、左ピストン23L及び右ピストン23Rがそれぞれ設けられていることと、これらのピストン22、23L、23Rによって、左側の第1油室2kと右側の第2油室2lが画成されていること、これらの第1及び第2油室2k、2lに、粘性流体OIが充填されている点などが異なっている。図10〜図12において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図10に示すピストン22は、円板状に形成され、その外周に設けられたシールsを介して周壁2cの内面に接触するとともに、本体部2に対して回転可能であり、収容室2h内を左右方向に摺動可能である。左右のピストン23L、23Rは、ドーナツ板状に形成され、その外周に設けられたシールsを介して、周壁2cの内面に接触するとともに、収容室2hに左右方向に摺動可能に収容されている。また、左右のピストン23L、23Rの各々の中央には、左右方向に貫通する挿入孔23aが同軸状に設けられている。左右のピストン23L、23Rの挿入孔23a、23aにはそれぞれ、シールsを介してロッド3が挿入されており、左右のピストン23L、23Rは、ロッド3に対して回転可能かつ左右方向に移動可能である。
収容室2h内には、第1油室2kが、ピストン22と左ピストン23Lによって区画されており、第2油室2lが、ピストン22と右ピストン23Rによって区画されている。第1及び第2油室2k、2lに充填された粘性流体OIは、第2実施形態と同様、シリコンオイルで構成されている。また、第3実施形態では、前記左右のスラスト軸受け7L、7Rは省略されており、前記左皿ばねユニット8Lは、左ピストン23Lと前記左側壁2aの間に配置され、前記右皿ばねユニット8Rは、右ピストン23Rと前記収容壁2dの間に配置されている。
さらに、ピストン22には、第1リリーフ弁24及び第2リリーフ弁25が設けられている。図11に示すように、各リリーフ弁24、25は、第2実施形態の第1及び第2調圧弁13、14と同様、弁体24a、25aとばね24b、25bの組み合わせでそれぞれ構成されている。第1リリーフ弁24は、第1油室2k内の粘性流体OIの圧力が比較的高い所定の上限圧に達したときに開弁し、第1及び第2油室2k、2lを互いに連通させる。第2リリーフ弁25は、第2油室2l内の粘性流体OIの圧力が上記の上限圧に達したときに開弁し、第2及び第1油室2l、2kを互いに連通させる。
以上の構成のマスダンパ21は、図示しないものの、第1実施形態のマスダンパ1と同様、例えば、建物Bの上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結される。
建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間に相対変位が発生し、それにより、マスダンパ21に引張力が作用すると、第1実施形態の場合と同様、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して左方及び右方にそれぞれ移動する。それに伴い、第1油室2k内の粘性流体OIが、ロッド3と一体のピストン22と、左ピストン23Lとで押圧され、左皿ばねユニット8Lが、左ピストン23Lと本体部2の左側壁2aで押圧されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。その際、ピストン22及び左ピストン23Lによる押圧により第1油室2k内の粘性流体OIの圧力が上限圧に達すると、第1リリーフ弁24が開弁することによって、第1及び第2油室2k、2lが互いに連通され、第1油室2k内の粘性流体OIの一部が第2油室2lに流動する。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ21に引張力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、ピストン22、粘性流体OI、左ピストン23L、左皿ばねユニット8L、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転する。その際、第1リリーフ弁24の開弁に伴い、第1油室2k内の粘性流体OIの一部が第2油室2lに流動することによって、粘性流体OIによる粘性減衰効果が得られる。
一方、マスダンパ21に圧縮力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して右方及び左方にそれぞれ移動する。それに伴い、第2油室2l内の粘性流体OIが、ロッド3と一体のピストン22と、右ピストン23Rとで押圧され、右皿ばねユニット8Rが、右ピストン23Rと本体部2の収容壁2dで押圧されるとともに、ナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。その際、ピストン22及び右ピストン23Rによる押圧により第2油室2l内の粘性流体OIの圧力が上限圧に達すると、第2リリーフ弁25が開弁することによって、第2及び第1油室2l、2kが互いに連通され、第2油室2l内の粘性流体OIの一部が第1油室2kに流動する。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ21に圧縮力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、ピストン22、粘性流体OI、右ピストン23R、右皿ばねユニット8R、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより本体部2が回転する。その際、第2リリーフ弁25の開弁に伴い、第2油室2l内の粘性流体OIの一部が第1油室2kに流動することによって、粘性流体OIによる粘性減衰効果が得られる。
以上のマスダンパ21の動作から明らかなように、マスダンパ21では、回転マスとして兼用された本体部2と、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)は、互いに直列に連結された関係にある。また、第1及び第2油室2k、2l内の粘性流体OIの圧力が上限圧よりも低いときには、第1及び第2リリーフ弁24、25が閉弁状態に保持されることによって、粘性流体OIが流動しないため、粘性流体OIによる粘性減衰効果は得られない。このため、この場合には、マスダンパ21のモデル図は、例えば図12(a)のように表される。
一方、第1及び第2油室2k、2l内の粘性流体OIの圧力が上限圧以上であるときには、第1及び第2リリーフ弁24、25が開弁し、粘性流体OIが流動することによって、粘性流体OIによる粘性減衰効果が得られる。この場合には、上述した動作から明らかなように、粘性流体OIなどから成る粘性減衰要素VDが、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)に直列に連結される関係にあるため、マスダンパ21のモデル図は、例えば図12(b)のように表される。
以上のように、マスダンパ21では、第1実施形態のマスダンパ1と同様、本体部2及び左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)によって付加振動系を構成することができ、この付加振動系の固有振動数は、定点理論に基づいて、構造物の固有振動数(例えば1次の固有振動数)に同調(共振)するように、設定される。その設定手法は、第1実施形態の場合と同様にして行われる。また、粘性流体OIの減衰係数は、定点理論に基づき、最適減衰により応答倍率曲線のピークを最小化するように、設定しても良い。
以上のように、第3実施形態によれば、筒状の本体部2が、回転マスとして兼用されており、本体部2の右部には、ねじ軸4aが、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸4aは、下梁BDに連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸4aには、本体部の右部に取り付けられたナット4cが、ボール4bを介して螺合している。本体部2の左部には、ロッド3が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このロッド3は、上梁BUに連結され、軸線方向に延びており、本体部2を回転可能に支持している。また、ロッド3には、ピストン22が一体に設けられており、このピストン22は、本体部2の左部に、回転可能にかつ軸線方向に摺動可能に収容されている。
本体部2の左部には、左右の皿ばねユニット8L、8R及び左右のピストン23L、23Rが収容されている。これらの左右の皿ばねユニット8L、8Rは、軸線方向に積層された複数の皿ばね8aで構成されるとともに、ピストン22の左右両側にそれぞれ配置されており、ロッド3が挿入されている。左右のピストン23L、23Rは、ピストン22と左皿ばねユニット8Lとの間、及び、ピストン22と右皿ばねユニット8Rとの間にそれぞれ配置されており、本体部2の左部内を軸線方向に摺動可能で、ロッド3に対して軸線方向に移動可能であり、かつ、ロッド3に対して回転可能である。また、本体部2の左部の内部には、ピストン22と、左ピストン23Lとの間、及び右ピストン23Rとの間に、第1油室2k及び第2油室2lがそれぞれ画成されており、これらの第1及び第2油室2k、2lには、粘性流体OIが充填されている。
建物Bの振動に伴って発生した上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ねじ軸4a及びロッド3に伝達され、さらに、ナット4c、ピストン22、粘性流体OI、ピストン23L(23R)、及び皿ばねユニット8L(8R)を介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達される。これにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転し、本体部2による回転慣性質量効果が得られることによって、建物Bの振動を適切に抑制することができる。その際、皿ばねユニット8L(8R)が、粘性流体OI、ピストン23L(23R)及び本体部2で押圧され、その剛性を発揮するので、本体部2及び皿ばねユニット8L(8R)によって、付加振動系を構成することができる。これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパ21を上下の梁BU、BDに連結することが可能になる。この場合、ねじ軸4aに対するロッド3及びピストン22の移動が、周方向に剪断変形可能な粘性流体OIを介して本体部2に伝達されることと、ピストン22の移動に伴い粘性流体OIを介して押圧されるピストン23L(23R)がロッド3に対して回転可能であることから、本体部2をロッド3に対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、マスダンパ21は、第1実施形態によるマスダンパ1と同様、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための弾性体としての皿ばねユニット8L(8R)及び本体部2(回転マス)を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことから、マスダンパ21を比較的簡単に構成することができる。この場合、本体部2及び回転マスが、互いに共通の部材で構成されているので、その分、部品点数を削減でき、ひいては、製造コストを削減することができるとともに、マスダンパ21をさらに簡単に構成することができる。
また、第1実施形態によるマスダンパ1と同様、従来のマスダンパと異なり、本体部2及び回転マスが互いに共通の部材で構成されており、回転マスが本体部2に収容されていないので、回転マスの回転慣性質量を容易に調整することができる。同じ理由により、回転マスの大きな回転慣性質量効果を得るために、その軸線方向に直交する面の面積を大きくしても、従来のマスダンパと異なり、本体部2の軸線方向に直交する面の面積を回転マスよりも大きくしなくてもよいので、マスダンパ21全体の小型化を図ることができる。
また、マスダンパ21では、上下の梁BU、BDの間の相対変位がねじ軸4a及びロッド3に伝達されるのに伴い、第1及び第2油室2k、2l内の粘性流体OIが、ピストン22及び左右のピストン23L、23Rで押圧される。このため、粘性流体OIの圧力が、荷重となってロッド3及びねじ軸4aに軸線方向に作用するため、粘性流体OIの圧力が高くなるほど、この荷重(以下「軸荷重」という)は大きくなる。第1及び第2油室2k、2l内の粘性流体OIの圧力の過大化を防止するための第1及び第2リリーフ弁24、25が、ピストン22に設けられているので、軸荷重の過大化を防止することができる。また、第1及び第2リリーフ弁24、25により第1及び第2油室2k、2lが互いに連通されることによって、流体による粘性減衰効果をさらに得ることができる。
なお、第3実施形態では、左右のスラスト軸受け7L、7Rを省略しているが、図13に示すように、両者7L、7Rを設けてもよいことは、もちろんである。この場合、前述した図9に示すように、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、左右の皿ばねユニット8L、8Rの外径部分に接触するように設けてもよい。その他、図15を参照して説明した左右のスラスト軸受け7L、7Rに関するバリエーションを適宜、採用可能である。また、第3実施形態では、左右のピストン23L、23Rを、ロッド3に対して回転可能に設けているが、ロッド3に対して回転不能かつ本体部2に回転可能に設けてもよく、ロッド3及び本体部2の双方に対して回転可能に設けてもよい。さらに、第3実施形態では、第1及び第2リリーフ弁24、25を設けているが、省略してもよい。
また、図14は、本発明の第4実施形態によるマスダンパ31を示している。このマスダンパ31は、第1実施形態と比較して、本体部2に、その回転慣性質量を調整するための調整用マス32が取り付けられている点のみが異なっている。図14において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
調整用マス32は、本体部2と同様に比重の比較的大きい材料、例えば鉄で構成され、リング状に形成されており、本体部2の外側に同軸状に設けられている。また、調整用マス32には、径方向に貫通する複数の挿入孔32a(2つのみ図示)が形成されている。各挿入孔32aには、ボルト33が外側から挿入されており、ボルト33は、本体部2の周壁2cにねじ込まれている。これにより、調整用マス32は本体部2に取り付けられている。
以上のように、第4実施形態によれば、本体部2の回転慣性質量を調整するための調整用マス32が、本体部2に取り付けられているので、その回転慣性質量をさらに容易に調整することができる。
なお、第4実施形態では、第1実施形態と同様、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、左右の皿ばねユニット8L、8Rの内径部分に接触するように設けているが、前述した図9に示すように、左右の皿ばねユニットの外径部分に接触するように設けてもよい。また、第4実施形態では、第1実施形態と同様、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、左側壁2a及び収容壁2dにそれぞれ設けているが、前述した図15(a)に示すように、フランジ6の左面及び右面にそれぞれ設けてもよい。あるいは、左スラスト軸受け7Lを、左皿ばねユニット8Lの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間に設けてもよく、右スラスト軸受け7Rを、右皿ばねユニット8Rの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間に設けてもよい。さらに、第4実施形態では、マスダンパ31として、第1実施形態によるマスダンパ1に調整用マス32を設けた構成を採用しているが、第2又は第3実施形態によるマスダンパ11、21に調整用マス32を設けた構成を採用してもよいことは、もちろんである。この場合にも、上述した左右のスラスト軸受け7L、7Rに関するバリエーションを適宜、採用可能である。
次に、図16を参照しながら、本発明の第5実施形態によるマスダンパ41について説明する。このマスダンパ41は、第1実施形態と比較して、ロッド3に、前述したフランジ6に代えて、左右一対のフランジ6L、6Rが一体に設けられていることと、周壁2cに一体に設けられたドーナツ板状の係合壁2mが、左右のフランジ6L、6Rの間に配置されていることが、主に異なっている。図16において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図16に示すように、係合壁2mには、左右方向に貫通する挿入孔2nが形成されており、この挿入孔2nは、周壁2cと同軸状に配置されている。ロッド3は、この挿入孔2nに、前記滑り材5を介して挿入されるとともに、左右方向に延びている。左スラスト軸受け7Lは左フランジ6Lの右面に、右スラスト軸受け7Rは右フランジ6Rの左面に、それぞれ設けられている。また、左皿ばねユニット8Lは、左スラスト軸受け7Lと係合壁2mの間に配置されており、右皿ばねユニット8Rは、右スラスト軸受け7Rと係合壁2mの間に配置されている。
以上の構成のマスダンパ41は、図示しないものの、第1実施形態のマスダンパ1と同様、例えば、建物Bの上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結される。
建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間に相対変位が発生し、それにより、マスダンパ41に圧縮力が作用すると、第1実施形態と同様、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して右方及び左方にそれぞれ移動する。それに伴い、左皿ばねユニット8Lが、ロッド3と一体の左フランジ6Lに設けられた左スラスト軸受け7Lと、本体部2の係合壁2mとで押圧されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。このように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ41に圧縮力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、左フランジ6L、左スラスト軸受け7L、左皿ばねユニット8L、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転する。
一方、マスダンパ41に引張力が作用すると、第1実施形態と同様、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して左方及び右方にそれぞれ移動する。それに伴い、右皿ばねユニット8Rが、ロッド3と一体の右フランジ6Rに設けられた右スラスト軸受け7Rと、本体部2の係合壁2mとで押圧されるとともに、ナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。このように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ41に引張力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、右フランジ6R、右スラスト軸受け7R、右皿ばねユニット8R、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、本体部2が回転する。
以上のマスダンパ41の動作から明らかなように、マスダンパ41では、第1実施形態と同様、回転マスとして兼用された本体部2と、左皿ばねユニット8L(右皿ばねユニット8R)は、互いに直列に連結された関係にある。このため、マスダンパ41のモデル図は、例えば前述した図3のように表される。
以上より、第5実施形態によれば、第1実施形態による前述した効果を同様に得ることができる。
なお、第5実施形態では、第1実施形態と同様、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、左右の皿ばねユニット8L、8Rの内径部分に接触するように設けているが、前述した図9に示すように、左右の皿ばねユニット8L、8Rの外径部分に接触するように設けてもよい。
また、第5実施形態では、左スラスト軸受け7Lを、左フランジ6Lに設けているが、左フランジ6L、左皿ばねユニット8L及び係合壁2mから成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。このことは、右スラスト軸受け7Rについても同様に当てはまり、右スラスト軸受け7Rを、右フランジ6R、右皿ばねユニット8R及び係合壁2mから成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。例えば、左右のスラスト軸受け7L、7Rを、係合壁2mの左面及び右面にそれぞれ設けてもよく、あるいは、左皿ばねユニット8Lの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間、及び、右皿ばねユニット8Rの複数の皿ばね8aの1つと他の1つとの間に、それぞれ設けてもよい。
さらに、第5実施形態に関し、左右のフランジ6L、6Rに代えて、第2実施形態のピストン12と同様に構成された左右のピストンを用い、前述した粘性流体OIによる粘性減衰効果を得るように構成してもよい。あるいは、ピストン12と同様に構成されたピストンを、ロッドの右端部又はねじ軸の左端部に設けるとともに、当該ピストン及び粘性流体が収容された流体室を本体部内に画成することによって、粘性流体による粘性減衰効果を得るように構成してもよい。また、第5実施形態に関し、第4実施形態の調整用マス32が設けられた構成を採用してもよいことは、もちろんである。
次に、図17を参照しながら、本発明の第6実施形態によるマスダンパ51について説明する。このマスダンパ51は、第1実施形態と比較して、皿ばねユニット8に関連する構成が主に異なっている。図17において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を付している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図17に示すように、本体部2の周壁2cの左端部に一体に設けられた左側壁2oは、第1実施形態の左側壁2aと同様、ドーナツ板状に形成されており、左側壁2oには、左右方向に貫通する挿入孔2pと、挿入孔2pに連続する凹部2qが設けられている。これらの挿入孔2p及び凹部2qは、周壁2cと同軸状に配置されており、凹部2qは、右方に開口するとともに、後述する左フランジ52Lよりも大きな径を有している。また、周壁2cの左部には、ドーナツ板状の収容壁2rが一体に設けられており、収容壁2rには、左側壁2oと同様、左右方向に貫通する挿入孔2sと、挿入孔2sに連続する凹部2tが設けられている。これらの挿入孔2s及び凹部2tは、周壁2cと同軸状に配置されており、凹部2tは、左方に開口するとともに、後述する右フランジ52Rよりも大きな径を有している。ロッド3は、挿入孔2p、2sに滑り材5、5を介して挿入されるとともに、左右方向に延びており、第1実施形態と同様、本体部2を回転可能に支持している。
また、周壁2c、左側壁2o及び収容壁2rによって画成された収容室2uには、左右一対のスラスト軸受け7L、7R、フランジ52L、52R及びプレート53L、53Rと、複数の皿ばね8aを左右方向に積層した皿ばねユニット8が収容されている。左右のスラスト軸受け7L、7Rはそれぞれ、左右のフランジ52L、52Rよりも大きな内径を有するとともに、左側壁2o及び収容壁2rに設けられており、周壁2cと同軸状に配置されている。
左右のフランジ52L、52Rは、ロッド3よりも大きな径の円柱状に形成され、ロッド3に一体に設けられていて、収容室2u内をロッド3と一緒に左右方向に移動可能であり、左右方向に互いに間隔を存した状態で配置されている。また、ロッド3が図17に示す中立位置にあるときには、左右のフランジ52L、52Rは、左右のスラスト軸受け7L、7Rの内側にそれぞれ位置し、左フランジ52L及び左スラスト軸受け7Lの右面は、互いに面一になっており、右フランジ52R及び右スラスト軸受け7Rの左面は、互いに面一になっている。
左右のプレート53L、53Rは、ドーナツ板状に形成され、それらの左右方向に貫通する径方向の中央の挿入孔(図示せず)にロッド3が挿入されており、本体部2及びロッド3に対して左右方向に移動可能である。左右のプレート53L、53Rの挿入孔の径は、左右のフランジ52L、52Rの径よりも小さい。また、左右のプレート53L、53Rは、左右のフランジ52L、52Rの間に配置されており、ロッド3が上記の中立位置にあるときには、左プレート53Lの左面は、左フランジ52L及び左スラスト軸受け7Lの右面に当接し、右プレート53Rの右面は、右フランジ52R及び右スラスト軸受け7Rの左面に当接している。上記の皿ばねユニット8は、左右のプレート53L、53Rの間に配置されており、それらの複数の皿ばね8aの中央の孔には、ロッド3が挿入されている。
以上の構成のマスダンパ51は、図示しないものの、第1実施形態のマスダンパ1と同様、例えば、建物Bの上梁BU及び下梁BDにブレース状に連結される。
建物Bの振動に伴って上下の梁BU、BDの間に相対変位が発生し、それにより、マスダンパ51に圧縮力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して右方及び左方にそれぞれ移動する。それに伴い、図18に示すように、ロッド3と一体の左フランジ52Lが左プレート53Lを右方に押圧し、当該左フランジ52Lの押圧力が、左プレート53Lから皿ばねユニット8、右プレート53R及び右スラスト軸受け7Rを介して、収容壁2rに伝達され、皿ばねユニット8が圧縮されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。また、右フランジ52Rが右プレート53Rから右方に離れ、右フランジ52Rの移動は、収容壁2rの凹部2tによって確保される。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ51に圧縮力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、左フランジ52L、左プレート53L、皿ばねユニット8、右プレート53R、右スラスト軸受け7R、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、回転マスとして兼用された本体部2が回転する。
一方、マスダンパ51に引張力が作用すると、ロッド3及びねじ軸4aが、本体部2に対して左方及び右方にそれぞれ移動する。それに伴い、ロッド3と一体の右フランジ52Rが右プレート53Rを左方に押圧し、当該右フランジ52Rの押圧力が、右プレート53Rから皿ばねユニット8、左プレート53L及び左スラスト軸受け7Lを介して、左側壁2oに伝達され、皿ばねユニット8が圧縮されるとともに、ねじ軸4aに螺合するナット4cが、本体部2と一緒に、ロッド3及びねじ軸4aに対して回転する。また、左フランジ52Lが左プレート53Lから左方に離れ、左フランジ52Lの移動は、左側壁2oの凹部2qによって確保される。
以上のように、建物Bの振動に伴ってマスダンパ51に引張力が作用する場合には、上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ロッド3、右フランジ52R、右プレート53R、皿ばねユニット8、左プレート53L、左スラスト軸受け7L、ねじ軸4a及びナット4cを介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達され、それにより、本体部2が回転する。
以上のマスダンパ51の動作から明らかなように、第1実施形態と同様、マスダンパ51では、回転マスとして兼用された本体部2と、皿ばねユニット8は、互いに直列に連結された関係にある。このため、マスダンパ51のモデル図は、例えば前述した図3と同様に表される。
このように、マスダンパ51では、本体部2及び皿ばねユニット8によって付加振動系を構成することができ、この付加振動系の固有振動数は、定点理論に基づいて、構造物の固有振動数(例えば1次の固有振動数)に同調(共振)するように(ほぼ同じになるように)、設定される。付加振動系の固有振動数f’は、本体部2の回転慣性質量M及び皿ばねユニット8の剛性K’を用いて、f’=sqrt{K’/M}/(2π)で表され、当該付加振動系の固有振動数f’の設定は、本体部2の回転慣性質量M及び皿ばねユニット8の剛性K’を調整することによって、行われる。この場合、本体部2の回転慣性質量Mの調整及び皿ばねユニット8の剛性K’の調整は、第1実施形態と同様にして行われる。
以上のように、第6実施形態によれば、第1実施形態と同様、筒状の本体部2が、回転マスとして兼用されており、本体部2の右部には、ねじ軸4aが、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このねじ軸4aは、下梁BDに連結されており、軸線方向に延びている。また、ねじ軸4aには、本体部2の右側壁2bに取り付けられたナット4cが、ボール4bを介して螺合している。本体部2の左部には、ロッド3が、軸線方向に移動可能に部分的にかつ同軸状に収容されている。このロッド3は、上梁BUに連結され、軸線方向に延びており、本体部2を回転可能に支持している。
また、ロッド3には、左右一対のフランジ52L、52Rが一体に設けられており、これらのフランジ52L、52Rは、本体部2の左側壁2oと収容壁2rの間に、軸線方向に移動可能に収容されるとともに、軸線方向に互いに間隔を存した状態で配置されている。一対のフランジ52L、52Rの間には、皿ばねユニット8が配置されており、左フランジ52Lと皿ばねユニット8の間、及び、右フランジ52Rと皿ばねユニット8の間には、左右のプレート53L、53Rがそれぞれ配置されている。これらのプレート53L、53Rは、本体部2及びロッド3に対して軸線方向に移動可能に構成されており、ロッド3が本体部2に対して軸線方向に移動するのに伴い、フランジ52L(52R)に軸線方向に押圧されるとともに、フランジ52L(52R)の押圧力を、皿ばねユニット8を介して左側壁2o及び収容壁2rの一方に伝達する。
構造物の振動に伴って発生した上下の梁BU、BDの間の相対変位は、ねじ軸4a、ナット4c、ロッド3、フランジ52L(52R)、皿ばねユニット8、プレート53L(53R)、及び収容壁2r(左側壁2o)を介して、回転運動に変換された状態で本体部2に伝達される。これにより、第1実施形態と同様、回転マスとして兼用された本体部2がロッド3に対して回転し、回転マスによる回転慣性質量効果が得られるので、構造物の振動を適切に抑制することができる。その際、上述したロッド3の移動に伴うフランジ52L(52R)、皿ばねユニット8及びプレート53L(53R)の動作から明らかなように、皿ばねユニット8が、フランジ52L(52R)、プレート53L、53R及び収容壁2r(左側壁2o)で押圧され、その剛性を発揮するので、本体部2及び皿ばねユニット8によって、付加振動系を構成することができる。
これにより、回転マスとともに付加振動系を構成するために一般的に用いられる鋼材などのばね機能を有する取り付け部材を介さずに、マスダンパ51を上下の梁BU、BDに連結することが可能になる。この場合、本体部2への上下の梁BU、BDの間の相対変位の伝達に伴い、フランジ52L(52R)、皿ばねユニット8、プレート53L、53R及び収容壁2r(左側壁2o)から成る相対変位の伝達経路上において、軸線方向の押圧力(アキシャル荷重)が発生する。第6実施形態によれば、この伝達経路上にスラスト軸受け7L(7R)が設けられているので、本体部2をロッド3に対して適切に回転させることができる。
また、上述した説明から明らかなように、マスダンパ51は、第1実施形態によるマスダンパ1と同様、前述した従来のマスダンパと同じ機能を有しており、付加振動系を構成するための本体部2及び皿ばねユニット8を互いに直列に連結することができる。一方、従来のマスダンパと異なり、端部シリンダや蓋部、複数のキーといった複雑な構成を必要としないことから、マスダンパ51を比較的簡単に構成することができる。この場合、本体部2及び回転マスが、互いに共通の部材で構成されているので、その分、部品点数を削減でき、ひいては、製造コストを削減することができるとともに、マスダンパ51をさらに簡単に構成することができる。その他、第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、第6実施形態では、左スラスト軸受け7Lを、左側壁2oに設けているが、左フランジ52L、左プレート53L、皿ばねユニット8及び右プレート53Rから成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。このことは、右スラスト軸受け7Rについても同様に当てはまり、右スラスト軸受け7Rを、右フランジ52R、右プレート53R、皿ばねユニット8及び左プレート53Lから成る相対変位の伝達経路上における他の適当な部位に設けてもよい。
例えば、左スラスト軸受け7Lを、左フランジ52Lと左プレート53Lの間に設けてもよく、右スラスト軸受け7Rを、右フランジ52Rと右プレート53Lの間に設けてもよい。この場合には、左右のプレート53L、53Rが、左側壁2o及び収容壁2rにそれぞれ当接する。ちなみに、上記の伝達経路上のうち、スラスト軸受け7L(7R)を左プレート53L、皿ばねユニット8及び右プレート53Rから成る伝達経路上に設ける場合には、単一のスラスト軸受けを設ければよい。これらのいずれの場合にも、左右のプレート53L、53Rは、ロッド3に対して回転可能に設けられる。
また、第6実施形態に関し、左右のプレート53L、53Rに代えて、第2実施形態のピストン12と同様に構成された左右のピストンを用い、前述した粘性流体OIによる粘性減衰効果を得るように構成してもよい。ただし、この場合のピストンは、ピストン12と異なり、ロッドに対して軸線方向に移動可能に設けられる。あるいは、ピストン12と同様に構成されたピストンを、ロッドの右端部又はねじ軸の左端部に設けるとともに、当該ピストン及び粘性流体が収容された流体室を本体部内に画成することによって、粘性流体による粘性減衰効果を得るように構成してもよい。また、第6実施形態に関し、第4実施形態の調整用マス32が設けられた構成を採用してもよいことは、もちろんである。
さらに、第6実施形態では、本発明における一対の押圧部としての左右のフランジ52L、52Rを、左側壁2oと収容壁2rの間に配置しているが、軸線方向(左右方向)に延長し、左側壁及び収容壁の挿入孔にそれぞれ挿入するとともに、左側壁及び収容壁からそれぞれ突出させてもよい。
なお、本発明は、説明した第1〜第6実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、第1〜第5実施形態では、左右の皿ばねユニット8L、8Rに、あらかじめ圧縮力を付与していないが、付与してもよい。この場合、本体部から左右の皿ばねユニットに作用する軸線方向の反力(以下「ダンパ反力」という)がこの圧縮力に達するまでは、左右の皿ばねユニットの双方の剛性が発揮され、圧縮力に達した後に、左右の皿ばねユニットの一方が伸び、その圧縮力が解放される結果、左右の皿ばねユニットの他方の剛性のみが発揮される。
すなわち、この場合には、左右の皿ばねユニット全体がバイリニアな剛性特性を有する。このため、例えば、左右の皿ばねユニットの双方の剛性が発揮されるときに、付加振動系の固有振動数が構造物の固有振動数に同調するように、本体部の回転慣性質量及び左右の皿ばねユニットの剛性を調整することによって、ロッド及びねじ軸に入力される相対変位が大きくなったときに、付加振動系の固有振動数が構造物の固有振動数に同調しなくなるので、ロッド及びねじ軸に作用する軸荷重の過大化を防止することができる。この場合、左右の皿ばねユニットに付与される圧縮力が大きいほど、ロッド及びねじ軸に入力される相対変位がより大きくなるまで、すなわち、ダンパ反力がより大きくなるまで、左右の皿ばねユニットの双方の剛性が発揮される。
また、実施形態では、滑り材5を設けているが、省略してもよいことはもちろんである。さらに、第2及び第3実施形態では、シリコンオイルで構成された粘性流体OIを用いているが、他の適当な流体を用いてもよい。また、実施形態では、本体部2及び回転マスを、互いに共通の部材で構成しているが、互いに別個の部材で構成してもよい。この場合、回転マスを本体部の外側に一体に設けることによって、回転マスの回転慣性質量の調整の容易化といった前述した効果が得られる。また、回転マスを本体部の内側に一体に設けてもよく、本発明はこのような構成を排除するものではない。
さらに、実施形態では、本体部2の軸線方向に直交する断面は、円形状であるが、角形状でもよい。また、第1及び第4〜第6実施形態では、本発明における連結部を周壁2cで構成しているが、本体部2及び回転マスを上記のように互いに別個の部材で構成する場合には、連結部を、軸線方向に延びるとともに、周方向に並んだ複数のボルトなどで構成するとともに、これらのボルトに、左右の側壁2a、2bなどを一体に設けてもよい。さらに、実施形態では、本発明における弾性体は、皿ばねユニット8L、8R、8であるが、コイルばねやゴムなどでもよい。また、実施形態では、本発明による1つのマスダンパ1、11、21、31、41、51を、上下の梁BU、BDにブレース状に設けているが、振動による両者BU、BDの間の上下方向の変位を抑制するために、上下方向に延びるように設けてもよく、あるいは、本発明による2つのマスダンパを、上下の梁にV字状又は逆V字状に設けてもよい。
さらに、実施形態では、本発明における第1及び第2部位として、上下の梁BU、BDをそれぞれ採用し、2層間の層間変位を抑制しているが、他の適当な部位を採用してもよい。例えば、第1及び第2部位として、互いの間に1つ以上の梁が設けられた上下の梁をそれぞれ採用し、3層以上の間の層間変位を抑制してもよく、あるいは、建物Bが立設された基礎、及び梁をそれぞれ採用してもよい。また、実施形態では、マスダンパ1、11、21、31、41、51を左右方向に延びる梁BU、BDに連結することによって、建物Bの振動による左右方向の変位を抑制しているが、前後方向に延びる梁に連結することによって、建物の振動による前後方向の変位を抑制してもよい。さらに、実施形態は、本発明によるマスダンパ1、11、21、31、41、51を建物Bに適用した例であるが、本発明は他の適当な構造物、例えば、鉄塔や橋梁などに適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。