JP2010272212A - スパークプラグ - Google Patents

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Abstract

【課題】電極チップが、接地電極や中心電極から剥離してしまうことを抑制する。
【解決手段】スパークプラグ100は、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、溶融池23と電極チップ70とのスパークプラグ100の表面上での境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する電極チップ70の硬度をA1[Hv]、半径0.2mmの範囲内に存在する電極チップ70の硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たす。
【選択図】図3

Description

本発明は、電極チップ付きのスパークプラグに関する。
従来、スパークプラグの電極部分の耐消耗性を向上させるため、白金やイリジウム、ルテニウム、ロジウム等の貴金属あるいはこれらの合金からなる電極チップが、接地電極の先端部や中心電極の先端部に設けられている(特許文献1参照)。このような電極チップは、通常、レーザ溶接によって中心電極や接地電極に接合されている。
一般的に、中心電極や接地電極と、電極チップとは、異なる種類の金属により形成されているため、それぞれ熱膨張率が異なる。そのため、これらの溶接状態によっては、冷熱繰り返しを行う熱負荷試験時や内燃機関の運転時等に、電極チップが中心電極や接地電極から剥離してしまうおそれがあった。
特開2006−32185号公報
このような問題を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、電極チップが接地電極や中心電極から剥離してしまうことを抑制することにある。
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
[適用例1]接地電極の先端部に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって、前記接地電極と前記電極チップとの境界部に溶融池が形成されたスパークプラグであって、前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、接地電極に電極チップが直接接合されている構造において、溶融池と電極チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の電極チップの硬度A2と、溶接の影響を受けていない部分の電極チップの硬度A1とを好ましい関係とすることができる。そのため、接地電極に溶接された電極チップが、熱応力に起因して、溶融池との境界部分から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例2]適用例1に記載のスパークプラグであって、前記断面において、前記溶融池と前記接地電極との前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB2としたときに、
0.7≦B2/B1≦2.5
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、接地電極に電極チップが直接接合されている構造において、溶融池と接地電極との境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の接地電極の硬度B2と、溶接の影響を受けていない部分の接地電極の硬度B1とを好ましい関係とすることができる。そのため、熱応力に起因して、電極チップが溶融池ごと接地電極から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例3]適用例1または適用例2に記載のスパークプラグであって、前記接地電極の先端部の一部に、凸状の台座部が形成されており、前記電極チップは、前記台座部に載置され、前記台座部と前記電極チップとの境界部が溶接されることにより前記台座部に接合されているスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、接地電極の先端部の一部に形成された凸状の台座部に電極チップが接合されている構造において、電極チップが台座部から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかに記載のスパークプラグであって、前記接地電極の線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。このように、接地電極の線膨張係数が電極チップの線膨張係数よりも大きい場合であっても、上述した硬度の条件を満たすことにより、熱応力に起因する電極チップの剥離を抑制することができる。
[適用例5]底面に鍔部を有する凸状の中間チップの上面に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって前記中間チップと前記電極チップとの境界部に溶融池が形成された複合チップが、前記鍔部を介して接地電極の先端部に接合されたスパークプラグであって、
前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、中間チップを介して電極チップが接地電極に接合されている構造において、溶融池と電極チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の電極チップの硬度A2と、溶接の影響を受けていない部分の電極チップの硬度A1とを好ましい関係とすることができる。そのため、中間チップに接合された電極チップが、熱応力に起因して、溶融池との境界部分から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例6]適用例5に記載のスパークプラグであって、前記断面において、前記溶融池と前記中間チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中間チップの硬度[Hv]をB2としたときに、
0.5≦B2/B1≦2.5
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、中間チップを介して電極チップが接地電極に接合されている構造において、溶融池と中間チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の中間チップの硬度B2と、溶接の影響を受けていない部分の接地電極の硬度B1とを好ましい関係とすることができる。そのため、熱応力に起因して、電極チップが溶融池ごと中間チップから剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例7]適用例5または適用例6に記載のスパークプラグであって、前記中間チップの線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。このように、中間チップの線膨張係数が電極チップの線膨張係数よりも大きい場合であっても、上述した硬度の条件を満たすことにより、熱応力に起因する電極チップの剥離を抑制することができる。
[適用例8]適用例1ないし適用例7のいずれかに記載のスパークプラグであって、前記電極チップの中心軸を通り、前記溶融池の前記中心軸に沿った幅が最大となる断面において、前記スパークプラグの表面上における前記溶融池の上端および下端を結ぶ線分の垂直二等分線と、前記中心軸とのなす角θが、
60°≦θ≦150°
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、電極チップを接地電極の先端部に溶接する溶接の角度を好ましい角度に規制することができるので、熱変形によって応力が増加してしまうことを抑制することができる。よって、電極チップの剥離をより効果的に抑制することが可能になる。
[適用例9]中心電極の先端部に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって、前記中心電極と前記電極チップとの境界部に溶融池が形成されたスパークプラグであって、前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、電極チップが中心電極に直接接合される構造において、溶融池と電極チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の電極チップの硬度A2と、溶接の影響を受けていない部分の電極チップの硬度A1とを好ましい関係とすることができる。そのため、中心電極の先端部に溶接された電極チップが、熱応力に起因して、溶融池との境界部分から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例10]適用例9に記載のスパークプラグであって、前記断面において、前記溶融池と前記中心電極との前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB2としたときに、
0.7≦B2/B1≦2.3
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、電極チップが中心電極に直接接合される構造において、溶融池と中心電極との境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の中心電極の硬度B2と、溶接の影響を受けていない部分の中心電極の硬度B1とを好ましい関係とすることができる。そのため、熱応力に起因して、電極チップが溶融池ごと中心電極から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例11]適用例9または適用例10に記載のスパークプラグであって、前記中心電極の線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。このように、中心電極の線膨張係数が電極チップの線膨張係数よりも大きい場合であっても、上述した硬度の条件を満たすことにより、熱応力に起因する電極チップの剥離を抑制することができる。
[適用例12]底面に鍔部を有する凸状の中間チップの上面に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって前記中間チップと前記電極チップとの境界部に溶融池が形成された複合チップが、前記鍔部を介して中心電極の先端部に接合されたスパークプラグであって、前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、中間チップを介して電極チップが中心電極に接合される構造において、溶融池と電極チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の電極チップの硬度A2と、溶接の影響を受けていない部分の電極チップの硬度A1とを好ましい関係とすることができる。そのため、中間チップを介して中心電極の先端部に溶接された電極チップが、熱応力に起因して、溶融池との境界部分から剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例13]適用例12に記載のスパークプラグであって、前記断面において、前記溶融池と前記中間チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中間チップの硬度[Hv]をB2としたときに、
0.7≦B2/B1≦2.3
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、中間チップを介して電極チップが中心電極に接合される構造において、溶融池と中間チップとの境界付近において溶接による熱の影響を受けた部分の中間チップの硬度B2と、溶接の影響を受けていない部分の中心電極の硬度B1とを好ましい関係とすることができる。そのため、熱応力に起因して、電極チップが溶融池ごと中間チップから剥離してしまうことを抑制することができる。
[適用例14]適用例12または適用例13に記載のスパークプラグであって、前記中間チップの線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。このように、中間チップの線膨張係数が電極チップの線膨張係数よりも大きい場合であっても、上述した硬度の条件を満たすことにより、熱応力に起因する電極チップの剥離を抑制することができる。
[適用例15]適用例9ないし適用例14のいずれかに記載のスパークプラグであって、前記電極チップの中心軸を通り、前記溶融池の前記中心軸に沿った幅が最大となる断面において、前記スパークプラグの表面上における前記溶融池の上端および下端を結ぶ線分の垂直二等分線と、前記中心軸とのなす角θが、
30°≦θ≦90°
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、電極チップを中心電極の先端部に溶接する溶接の角度を好ましい角度に規制することができるので、熱変形によって応力が増加してしまうことを抑制することができる。よって、電極チップの剥離をより効果的に抑制することが可能になる。
[適用例16]適用例1ないし適用例15のいずれかに記載のスパークプラグであって、前記電極チップの前記中心軸と直交する方向の幅Dが、
0.4≦D≦1.2
の条件を満たすスパークプラグ。
このような態様のスパークプラグであれば、レーザ溶接を行うために必要な電極チップの幅を確保できるとともに、上述した種々の硬度条件および角度条件による剥離抑制効果を良好に得ることが可能になる。
[適用例17]適用例1ないし適用例16のいずれかに記載のスパークプラグであって、前記電極チップは、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウムのうち少なくともいずれか1つを含有する部材であるスパークプラグ。このようなスパークプラグであれば、接地電極あるいは中心電極の耐消耗性を向上させることができる。
本発明の第1実施例としてのスパークプラグ100の部分断面図である。 第1実施例の接地電極30の先端部付近を拡大した図である。 第1実施例における接地電極30先端部の断面図である。 第2実施例の接地電極30の先端部を拡大して示す図である。 第2実施例における接地電極30先端部の断面図である。 第3実施例の接地電極30の先端部を拡大して示す図である。 第3実施例の接地電極30先端部の断面図である。 第4実施例の中心電極20の先端部を拡大して示す図である。 第4実施例の中心電極20先端部の断面図である。 第5実施例の中心電極20の先端部を拡大して示す図である。 第5実施例の中心電極20先端部の断面図である。 電極チップ70の断面において境界点PAからの仮想円を示す図である。 各仮想円における硬度の測定結果を示す説明図である。 各仮想円における硬度比をプロットしたグラフである。 第1〜3実施例における剥離判定結果を示す説明図である。 第4,5実施例における剥離判定結果を示す説明図である。 剥離判定の判断基準となる剥離率の概念を示す図である。 溶接角度が90°以上となる接地電極30の断面図である。 第2実施例について溶接角度θを種々変化させた場合の剥離評価結果を示す説明図である。 第4実施例について溶接角度θを種々変化させた場合の剥離評価結果を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態をいくつかの実施例に基づき図面を参照しつつ次の順序で説明する。
A.第1実施例(電極チップ付き接地電極タイプ1):
B.第2実施例(電極チップ付き接地電極タイプ2):
C.第3実施例(電極チップ付き接地電極タイプ3):
D.第4実施例(電極チップ付き中心電極タイプ1):
E.第5実施例(電極チップ付き中心電極タイプ2):
F.各種評価試験:
G.まとめ:
A.第1実施例(電極チップ付き接地電極タイプ1):
図1は、本発明の第1実施例としてのスパークプラグ100の部分断面図である。スパークプラグ100は、絶縁碍子10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備える。絶縁碍子10の一端から突出する棒状の中心電極20は、絶縁碍子10の内部を通じて、絶縁碍子10の他端に設けられた端子金具40に電気的に接続されている。中心電極20の外周は、絶縁碍子10によって保持され、絶縁碍子10の外周は、端子金具40から離れた位置で主体金具50によって保持されている。主体金具50に電気的に接続された接地電極30は、火花を発生させる隙間である火花ギャップを中心電極20の先端との間に形成する。スパークプラグ100は、内燃機関のエンジンヘッド200に設けられた取付ネジ孔201に主体金具50を介して取り付けられる。端子金具40に2万〜3万ボルトの高電圧が印加されると、中心電極20と接地電極30との間に形成された火花ギャップに火花が発生する。
絶縁碍子10は、アルミナを始めとするセラミックス材料を焼成して形成された絶縁体である。絶縁碍子10は、中心電極20および端子金具40を収容する軸孔12が中心に形成された筒状の部材である。絶縁碍子10の軸方向中央には外径を大きくした中央胴部19が形成されている。中央胴部19よりも端子金具40側には、端子金具40と主体金具50との間を絶縁する後端側胴部18が形成されている。中央胴部19よりも中心電極20側には、後端側胴部18よりも外径が小さい先端側胴部17が形成され、先端側胴部17の更に先には、先端側胴部17よりも小さい外径であって中心電極20側へ向かうほど外径が小さくなる脚長部13が形成されている。
主体金具50は、絶縁碍子10の後端側胴部18の一部から脚長部13に亘る部位を包囲して保持する円筒状の金具であり、本実施例では、低炭素鋼から成る。主体金具50は、工具係合部51と、取付ネジ部52と、シール部54とを備える。主体金具50の工具係合部51は、スパークプラグ100をエンジンヘッド200に取り付ける工具(図示しない)が嵌合する。主体金具50の取付ネジ部52は、エンジンヘッド200の取付ネジ孔201に螺合するネジ山を有する。主体金具50のシール部54は、取付ネジ部52の根元に鍔状に形成され、シール部54とエンジンヘッド200との間には、板体を折り曲げて形成した環状のガスケット5が嵌挿される。主体金具50の先端面57は、中空の円状であり、その中央には、絶縁碍子10の脚長部13から中心電極20が突出する。
中心電極20は、有底筒状に形成された電極母材21の内部に、電極母材21よりも熱伝導性に優れる芯材25を埋設した棒状の部材である。本実施例では、電極母材21は、ニッケルを主成分とするニッケル合金から成り、芯材25は、銅または銅を主成分とする合金から成る。中心電極20は、電極母材21の先端が絶縁碍子10の軸孔12から突出した状態で絶縁碍子10の軸孔12に挿入され、セラミック抵抗3およびシール体4を介して端子金具40に電気的に接続されている。
接地電極30は、主体金具50の先端面57に接合され、中心電極20の軸O方向に交差する方向に屈曲されており、その先端部の内面が、中心電極20の先端に対向している。本実施例では、接地電極30は、ニッケルを主成分とするインコネルなどのニッケル合金から成る。
図2は、接地電極30の先端部を拡大して示す図である。この図2に示すように、接地電極30の先端部には、中心電極20と対向する位置に、円柱状の電極チップ70がレーザ溶接により接合されている。図2では、軸線Oの左側にレーザ溶接前の外観を示しており、右側に、レーザ溶接後の断面を示している。電極チップ70は、接地電極30の耐火花消耗性を向上するために設けられた部材であり、高融点の貴金属を主成分として形成されている。この電極チップ70は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)あるいはこれらの合金によって形成され、本実施例ではPt−Ir系合金によって形成されている。
図2に示すように、接地電極30と電極チップ70とは、接地電極30と電極チップ70との境界に向けて、斜め方向からレーザを全周に亘って照射することでレーザ溶接される。このようにレーザ溶接されると、接地電極30と電極チップ70との境界部が溶融し、溶融池23が形成される。接地電極30と電極チップ70とは、異なる線膨張係数を有しており、接地電極30の線膨張係数の方が、電極チップ70の線膨張係数よりも大きい。具体的には、本実施例の接地電極30は、インコネル(商標)601によって形成されており、その線膨張係数は17.8であった。また、電極チップ70はPt−Ir系の合金によって形成されており、その線膨張係数は10.0であった。なお、本実施例および以下の実施例における線膨張係数の値は、1000℃における値であり、その単位は、[×10-6]であるものとする。
図3は、接地電極30先端部の、電極チップ70の中心軸Oを通る断面を示す図である。図中、チップ幅Dと示した寸法は、中心軸Oと直行する方向の電極チップ70の寸法であり、0.4mm以上1.2mm以下とすることができる。本実施例では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ70を採用した。
第1実施例のスパークプラグ100は、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と電極チップ70との境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外における電極チップ70の硬度をA1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における電極チップ70の硬度をA2[Hv]としたときに、
0.8≦A1/A2≦1.9
の条件を満たすように形成されている。この条件のことを、以下では、「チップ側硬度条件」という。第1実施例の接地電極30の構造では、チップ側硬度条件を上記のような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23から剥離することを抑制することができる。なお、硬度[Hv]は、ビッカース硬度であり、日本工業規格(JIS)の「Z 2244」に規定された硬度測定方法によって、試験力を1.961N、保持時間を15秒とした際に得られる値である。
また、第1実施例のスパークプラグ100は、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と接地電極30との境界点PBを中心として、半径0.2mmの範囲外における接地電極30の硬度をB1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における接地電極の硬度をB2[Hv]としたときに、
0.7≦B2/B1≦2.5
の条件を満たすように形成されている。この条件を、以下では、「接地電極側硬度条件」という。第1実施例の接地電極30の構造では、接地電極側硬度条件を上記のような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23ごと接地電極30から剥離してしまうことを抑制することができる。
更に、第1実施例では、電極チップ70の中心軸Oを通り、溶融池23の上下幅が最大となる断面において、境界点PAと境界点PBとを結ぶ線分の垂直二等分線と、中心軸Oとのなす角θ(以下、「溶接角度θ」という)が、
60°≦θ≦150°
の条件を満たすように、電極チップ70と接地電極30とがレーザ溶接されている。この条件のことを、以下では、「溶接角度条件」という。第1実施例の接地電極30の構造では、溶接角度条件を上記のような範囲とすることにより、電極チップ70と接地電極30とが剥離してしまうことを、より効果的に抑制することができる。
上述した第1実施例におけるチップ側硬度条件、接地電極側硬度条件、溶接角度条件のそれぞれの範囲は、後述する種々の評価試験の結果に基づいて決定されている。評価試験の内容については後で詳しく説明する。
B.第2実施例(電極チップ付き接地電極タイプ2):
図4は、第2実施例のスパークプラグ100bの接地電極30の先端部を拡大して示す図である。図4に示すように、第2実施例では、中心電極20に対向する接地電極30の先端部の一部に凸状の台座部31が形成されており、この台座部31の上に電極チップ70がレーザ溶接されている。台座部31は、例えば、接地電極30の母材に対してプレス成形や切削加工を施すことにより形成することができる。第2実施例においても、接地電極30の線膨張係数の方が、電極チップ70の線膨張係数よりも大きい。具体的には、接地電極30は、インコネル601によって形成されており、その線膨張係数は17.8であった。また、電極チップ70はPt−Ni系の合金によって形成されており、その線膨張係数は13.4であった。
図5は、接地電極30先端部の、電極チップ70の中心軸Oを通る断面を示す図である。本実施例においても、チップ幅Dは、第1実施例と同様に、0.4mm以上1.2mm以下とすることができる。本実施例では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ70を採用した。
第2実施例のスパークプラグ100bは、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と電極チップ70との境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外における電極チップ70の硬度をA1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における電極チップ70の硬度をA2[Hv]としたときに、チップ側硬度条件が、第1実施例と同様に、
0.8≦A1/A2≦1.9
となるように形成されている。第2実施例の接地電極30の構造では、チップ側硬度条件をこのような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23から剥離することを抑制することができる。
また、第2実施例のスパークプラグ100bは、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と接地電極30との境界点PBを中心として、半径0.2mmの範囲外における接地電極30の硬度をB1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における接地電極の硬度をB2[Hv]としたときに、接地電極側硬度条件が、第1実施例と同様に、
0.7≦B2/B1≦2.5
となるように形成されている。第2実施例の接地電極30の構造では、接地電極側硬度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23ごと接地電極30の台座部31から剥離してしまうことを抑制することができる。
更に、第2実施例では、溶接角度条件が、第1実施例と同様に、
60°≦θ≦150°
となるように、電極チップ70と接地電極30の台座部31とがレーザ溶接されている。第2実施例の接地電極30の構造では、溶接角度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ70と接地電極30の台座部31とが剥離してしまうことを、より効果的に抑制することができる。
上述した第2実施例におけるチップ側硬度条件、接地電極側硬度条件、溶接角度条件のそれぞれの範囲は、後述する種々の評価試験の結果に基づいて決定されている。評価試験の内容については後で詳しく説明する。
C.第3実施例(電極チップ付き接地電極タイプ3):
図6は、第3実施例のスパークプラグ100cの接地電極30の先端部を拡大して示す図である。図6に示すように、第3実施例では、底面に鍔部32を有する凸状の中間チップ33の上面に電極チップ70がレーザ溶接されることにより複合チップ34が形成され、この複合チップ34が、底面の鍔部32を介して接地電極30の先端部に抵抗溶接されている。中間チップ33は、例えば、接地電極30と同一の材料により形成することができる。中間チップ33の線膨張係数は、電極チップ70の線膨張係数よりも大きい。具体的には、中間チップ33は、インコネル601によって形成されており、その線膨張係数は17.8であった。また、電極チップ70はPt−Ni系の合金によって形成されており、その線膨張係数は15.0であった。
図7は、接地電極30先端部の、電極チップ70の中心軸Oを通る断面を示す図である。本実施例においても、チップ幅Dは、第1実施例等と同様に、0.4mm以上1.2mm以下とすることができる。本実施例では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ70を採用した。
第3実施例のスパークプラグ100cは、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と電極チップ70との境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外における電極チップ70の硬度をA1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における電極チップ70の硬度をA2[Hv]としたときに、チップ側硬度条件が、第1実施例や第2実施例と同様に、
0.8≦A1/A2≦1.9
となるように形成されている。第3実施例の接地電極30の構造では、チップ側硬度条件をこのような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23から剥離することを抑制することができる。
また、第3実施例のスパークプラグ100cは、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池23と中間チップ33との境界点PBを中心とし、半径0.2mmの範囲外における接地電極30の硬度をB1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における中間チップ33の硬度をB2[Hv]としたときに、接地電極側硬度条件が、
0.5≦B2/B1≦2.5
となるように形成されている。第3実施例の接地電極30の構造では、接地電極側硬度条件を上記のような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23ごと中間チップ33から剥離してしまうことを抑制することができる。
更に、第3実施例では、溶接角度条件が、第1実施例や第2実施例と同様に、
60°≦θ≦150°
となるように、電極チップ70と中間チップ33とがレーザ溶接されている。第3実施例の接地電極30の構造では、溶接角度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ70と中間チップ33とが剥離してしまうことを、より効果的に抑制することができる。
上述した第3実施例におけるチップ側硬度条件、接地電極側硬度条件、溶接角度条件のそれぞれの範囲は、後述する種々の評価試験の結果に基づいて決定されている。評価試験の内容については後で詳しく説明する。
D.第4実施例(電極チップ付き中心電極タイプ1):
図8は、第4実施例のスパークプラグ100dの中心電極20の先端部を拡大して示す図である。図8には、中心電極20の先端部を、図1に示したスパークプラグ100を180°回転させた状態で示している。図示するように、第4実施例では、接地電極30ではなく、中心電極20の先端面の中心に円柱状の電極チップ71が接合されている。中心電極20と電極チップ70とは、中心電極20と電極チップ71との境界に向けて、レーザを全周に亘って照射することでレーザ溶接されている。中心電極20の線膨張係数は、電極チップ71の線膨張係数よりも大きい。具体的には、中心電極20は、インコネル600によって形成されており、その線膨張係数は16.4であった。電極チップ71はIr−Pt系の合金によって形成されており、その線膨張係数は8.9であった。
図9は、中心電極20先端部の、電極チップ71の中心軸Oを通る断面を示す図である。図中、チップ幅Dと示した寸法は、中心軸Oと直交する方向の電極チップ71の寸法であり、0.4mm以上1.2mm以下とすることができる。本実施例では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ71を採用した。
第4実施例のスパークプラグ100dは、電極チップ71の中心軸Oを通る断面におおいて、プラグ表面上での溶融池24と電極チップ71との境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外における電極チップ71の硬度をA1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における電極チップ71の硬度をA2[Hv]としたときに、チップ側硬度条件が、上述した種々の実施例と同様に、
0.8≦A1/A2≦1.9
となるように形成されている。第4実施例の中心電極20の構造では、チップ側硬度条件をこのような範囲とすることにより、電極チップ71が溶融池24から剥離することを抑制することができる。
また、第4実施例のスパークプラグ100dは、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池24と中心電極20との境界点PBを中心として、半径0.2mmの範囲外における中心電極20の硬度をB1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における中心電極20の硬度をB2[Hv]としたときに、
0.7≦B2/B1≦2.3
の条件を満たすように形成されている。この条件を以下では、「中心電極側硬度条件」という。第4実施例の中心電極20の構造では、中心電極側硬度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ71が溶融池23ごと中心電極20から剥離してしまうことを抑制することができる。
更に、第4実施例では、電極チップ71の中心軸Oを通り、溶融池23の上下幅が最大となる断面において、境界点PAと境界点PBとを結ぶ線分の垂直二等分線と、中心軸Oとのなす角θ(溶接角度θ)が、
30°≦θ≦90°
の溶接角度条件を満たすように、電極チップ71と中心電極20とがレーザ溶接されている。第4実施例の中心電極20の構造では、溶接角度条件を上記のような範囲とすることにより、電極チップ71と中心電極20とが剥離してしまうことを、より効果的に抑制することができる。
上述した第4実施例におけるチップ側硬度条件、接地電極側硬度条件、溶接角度条件のそれぞれの範囲は、後述する種々の評価試験の結果に基づいて決定されている。評価試験の内容については後で詳しく説明する。
E.第5実施例(電極チップ付き中心電極タイプ2):
図10は、第5実施例のスパークプラグ100eの中心電極20の先端部を拡大して示す図である。図10に示すように、第5実施例のスパークプラグ100eの中心電極20の先端面には、中間チップ33と電極チップ71とからなる複合チップ34が抵抗接合されている。複合チップ34の構造は、第3実施例と同じである。中間チップ33の線膨張係数は、電極チップ71の線膨張係数よりも大きい。具体的には、中間チップ33は、中心電極20と同じ材料であるインコネル600によって形成されており、その線膨張係数は16.4であった。また、電極チップ71はIr−Pt系の合金によって形成されており、その線膨張係数は8.9であった。
図11は、中心電極20先端部の、電極チップ71の中心軸Oを通る断面を示す図である。本実施例においても、チップ幅Dは、第4実施例と同様に、0.4mm以上1.2mm以下とすることができる。本実施例では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ71を採用した。
第5実施例のスパークプラグ100eは、電極チップ71の中心軸Oを通る断面におけるプラグ表面上での溶融池24と電極チップ71との境界点PAを中心として、半径0.2mmの範囲外における電極チップ71の硬度をA1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における電極チップ71の硬度をA2[Hv]としたときに、チップ側硬度条件が、上述した種々の実施例と同様に、
0.8≦A1/A2≦1.9
となるように形成されている。第5実施例の中心電極20の構造では、チップ側硬度条件をこのような範囲とすることにより、電極チップ71が溶融池24から剥離することを抑制することができる。
また、第5実施例のスパークプラグ100eは、電極チップ71の中心軸Oを通る断面において、プラグ表面上での溶融池24と中間チップ33との境界点PBを中心とし、半径0.2mmの範囲外における中心電極20の硬度をB1[Hv]、この半径0.2mmの範囲内における中間チップ33の硬度をB2[Hv]としたときに、中心電極側硬度条件が、
0.7≦B2/B1≦2.3
となるように形成されている。第5実施例の接地電極30の構造では、中心電極側硬度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ70が溶融池23ごと中間チップ33から剥離してしまうことを抑制することができる。
更に、第5実施例のスパークプラグ100eは、溶接角度条件が、第4実施例と同様に、
30°≦θ≦90°
となるように、電極チップ71と中間チップ33とがレーザ溶接されている。第5実施例の中心電極20の構造では、溶接角度条件を、上記のような範囲とすることにより、電極チップ71と中間チップ33とが剥離してしまうことを、より効果的に抑制することができる。
F.各種評価試験:
F−1.境界点から0.2mmの範囲に着目した根拠:
以下、上述した各実施例におけるチップ側硬度条件、接地電極側硬度条件、中心電極側硬度条件、溶接角度条件の範囲の根拠を評価試験の結果に基づき説明する。まず、チップ側硬度条件と接地電極側硬度条件と中心電極側硬度条件とにおいて、溶融池の上端および下端に位置する境界点PAおよび境界点PBから、半径0.2mmの内外における各材料の硬度に着目した根拠を説明する。
図12には、電極チップ70の中心軸Oを通る断面において、境界点PAから、半径を0.1mmずつ変化させた仮想円を示している。ここで、まず、溶融池23と電極チップ70との間の境界線と、電極チップ70の側面とがなす角を2等分する直線上での電極チップ70の硬度の分布を各仮想円内の中間地点である測定ポイントA,B,C,Dについて調べた。なお、電極チップ70のサンプルとしては、Pt合金からなる電極チップ70を用いた。図中、「E」と示した測定ポイントは、電極チップ70の中心軸O上に位置するポイントであり、溶融池から十分離れた位置に存在するポイントである。このポイントEで測定する硬度が、電極チップ70そのものの硬度を示す。
図13は、各仮想円における硬度の測定結果を示す説明図である。この図13には、各測定ポイントにおける硬度に加え、チップそのものの硬度と各測定ポイントにおける硬度との比(以下、「硬度比」という)を示している。また、図14は、各仮想円における硬度比をプロットしたグラフである。これらの図に示すように、境界点PAからの距離が離れるに従い、電極チップ70内の硬度および硬度比は徐々に高くなっていく。そして、ポイントC、すなわち、半径0.2mmを超えると、急激に硬度および硬度比が高くなり、硬度比が「1」に収束する。つまり、レーザ溶接の熱の影響によるチップ硬度の変化は、溶融池の端点から0.2mm内で概ね収まり、0.2mmを超えると、レーザ溶接の熱による影響をほとんど受けないことがわかった。そのため、以下に説明する各種実験では、レーザ溶接の熱の影響を受けた部分(境界点から0.2mmの範囲内)と、受けていない部分(境界点から0.2mmの範囲外)の硬度の違い(硬度比)が、電極チップ70の剥離性に与える影響を調べることで、各硬度条件の最適な範囲を決定した。
F−2.各硬度条件の範囲の根拠:
次に、上述した各硬度条件の範囲の根拠を示す。まず、上述した各実施例の態様をとるスパークプラグのサンプルを各実施例についてそれぞれ6〜7個用意し、それらについて、溶融池の端点から半径0.2mm内外における各部材の硬度を測定した。図15および図16にこの測定結果を示す。硬度の測定ポイントA1,A2,B1,B2は、第1実施例については図3に、第2実施例については図5に、第3実施例については図7に、第4実施例については図8に、第5実施例については図10に示している。
図15および図16には、各測定ポイントにおける硬度の測定結果と併せて、境界点PAについての硬度比(A2/A1)と、境界点PBについての硬度比(B1/B2)を示し、さらに、剥離が生じたか否かを示す剥離判定結果を「○」あるいは「×」で示した。「○」が剥離が生じていないと判断した結果を示し、「×」が剥離が生じたと判断した結果を示す。
剥離が生じたか否かは、次のような手法によって判断した。まず、各サンプルについて、バーナーにより電極チップ付近を2分間、1000℃に加熱し、その後、大気に晒して1分間、熱を冷ます。この一連のサイクルを1000回行った後、各サンプルについて、中心軸Oを通る断面を出す。図17には、こうして得られた電極チップの断面を示すとともに、剥離判定の判断基準となる剥離率の概念を示した。
続いて、電極チップの断面において、電極チップの両側面から、溶融池と電極チップの境界線に沿って生じているクラックの水平方向の幅T1,T2をそれぞれ測定する。そして、このクラックの幅の合計値が、溶融池の水平方向の幅S1,S2の合計値に占める割合を求める。こうして求めた割合のことを、以下、「剥離率」という。剥離率が50%以上であれば、剥離が生じていると判断し、剥離率が50%未満であれば、剥離が生じていないと判断した。50%を判断基準としたのは、剥離率が50%未満であれば、実用上、電極チップが接地電極30や中心電極20から脱落してしまうことがないからである。
図15に示した第1実施例のサンプルについてみると、剥離評価結果が「○」となるサンプルの、境界点PAについての硬度比A1/A2と、境界点PBについての硬度比B2/B1の範囲は、それぞれ、
0.80≦A1/A2≦1.90
0.70≦B2/B1≦2.50
となった。
また、第2実施例のサンプルについてみると、剥離評価結果が「○」となるサンプルの、硬度比A1/A2および硬度比B2/B1の範囲は、それぞれ、
0.78≦A1/A2≦1.92
0.62≦B2/B1≦2.51
となった。
また、第3実施例のサンプルについてみると、剥離評価結果が「○」となるサンプルの、硬度比A1/A2および硬度比B2/B1の範囲は、それぞれ、
0.82≦A1/A2≦1.91
0.50≦B2/B1≦2.50
となった。
以上の評価結果から、第1実施例および第2実施例については、チップ側硬度条件の硬度比A1/A2の範囲を、上述のように、
0.8≦A1/A2≦1.9
と決定し、
接地電極側硬度条件の硬度比B2/B1の範囲を、
0.7≦B2/B1≦2.5
と決定した。
また、第3実施例については、チップ側硬度条件の硬度比A1/A2の範囲を、第1実施例および第2実施例と同様に、
0.8≦A1/A2≦1.9
と決定し、
接地電極側硬度条件の硬度比B2/B1の範囲を、
0.5≦B2/B1≦2.5
と決定した。
続いて、図16に示した第4実施例のサンプルについてみると、剥離評価結果が「○」となるサンプルの、硬度比A1/A2および硬度比B2/B1の範囲は、それぞれ、
0.80≦A1/A2≦1.90
0.70≦B2/B1≦2.32
となった。
また、第5実施例のサンプルについてみると、剥離評価結果が「○」となるサンプルの、硬度比A1/A2および硬度比B2/B1の範囲は、それぞれ、
0.80≦A1/A2≦1.91
0.70≦B2/B1≦2.33
となった。
以上の評価結果から、第4実施例および第5実施例については、チップ側硬度条件の硬度比A1/A2の範囲を、
0.8≦A1/A2≦1.9
と決定し、
中心電極側硬度条件の硬度比B2/B1の範囲を、
0.7≦B2/B1≦2.3
と決定した。
一般に、電極チップと母材(接地電極、中間チップあるいは中心電極)とをレーザ溶接すると、電極チップと溶融地との境界付近に、溶接後に残留応力が発生する。そのため、高温化における電極チップの剥離を防止するという観点からは、電極チップそのものの硬度A2よりも電極チップと溶融地との境界付近の硬度A1を高くしておくことが望ましいと考えられる。しかし、あまりに硬度A1が高い場合には、溶接直後に、溶融部の境界にクラックが生じてしまう。このような観点に基づき、上述した評価試験では、硬度比A1/A2の上限として、1.9という値が得られた。しかし、上述した評価試験では、硬度比A1/A2の下限が、0.8という値が得られたため、硬度A2の方が硬度A1よりも高い場合においても、実用上、電極チップの脱落を抑制することが可能であることが判明した。
また、溶融池と母材との関係で見れば、溶融池と母材との境界付近の硬度B2が低い方が、高温化において圧縮応力の効果が得られることになり、母材からの溶融池の剥離が生じにくくなると考えられる。このような観点に基づき、上述した評価試験では、硬度比B2/B1の下限として、0.7あるいは0.5という値が得られた。一方、溶融池と母材との境界付近の硬度B2が過度に高くなると、溶接直後に、溶融部の境界にクラックが生じてしまう。上述した評価試験によれば、硬度比B2/B1の上限が、2.5あるいは2.3であれば、実用上、大きなクラックが生じず、電極チップの脱落が抑制可能であることが判明した。
F−3.溶接角度θの範囲の根拠:
最後に、溶接角度θの範囲の根拠を示す。まず、溶接角度θを43°から163°まで変化させた第2実施例の形態を有するスパークプラグのサンプルを7つ用意し、これらについて、剥離率に基づく剥離評価試験を行った。この試験では、チップ幅Dが0.8mmの電極チップ70を用いつつ、接地電極30上に形成する台座部31の径を種々変更することで、溶接角度θを調節した。なお、図5には、溶接角度θが90°未満の場合の接地電極30の断面を示しているが、溶接角度が90°以上になると、図18に示すように、台座部31の幅が、チップ幅Dよりも狭くなる。
図19は、第2実施例について溶接角度θを種々変化させた場合の剥離評価結果を示す説明図である。この図には、溶接角度θとともに、測定ポイントB1,B2における硬度と、硬度比B2/B1と、剥離評価結果を示している。この図に示すように、剥離評価結果として「○」と判定されたのは、溶接角度θが60°から150°までのサンプルであった。そのため、接地電極上に電極チップ70を有する第1〜3実施例における溶接角度条件を、上述のように、
60°≦θ≦150°
と決定した。なお、本実験では、溶接角度の調整が容易であることから、第2実施例の形態を有するサンプルに基づいて評価を行ったが、この評価は、第1実施例と第3実施例の形態についても適用可能である。
続いて、溶接角度θを28°から127°まで変化させた第4実施例の形態を有するスパークプラグのサンプルを7つ用意し、これらについて、剥離率に基づく剥離評価試験を行った。この試験では、チップ幅Dが0.6mmの電極チップ71を用いつつ、中心電極20の先端部の径を種々変更することで、溶接角度θを調節した。
図20は、第4実施例について溶接角度θを種々変化させた場合の剥離評価結果を示す説明図である。この図に示すように、剥離評価結果として「○」と判定されたのは、溶接角度θが30°から90°までのサンプルであった。そのため、中心電極上に電極チップ71を有する第4,5実施例における溶接角度条件を、上述のように、
30°≦θ≦90°
と決定した。なお、本実験では、溶接角度の調整が容易であることから、第4実施例の形態を有するサンプルに基づき評価を行ったが、この評価は、第5実施例の形態についても適用可能である。
G.まとめ:
以上で説明した各実施例のスパークプラグによれば、異なる線膨張係数を有する電極チップと母材(接地電極、中間チップあるいは中心電極)とをレーザ溶接しても、溶融池付近の硬度と母材の硬度とを良好な関係とすることができる。そのため、内燃機関の運転時等に各部材の熱応力によって、母材から電極チップが剥離あるいは脱落してしまうことを抑制することができる。この結果、スパークプラグの耐消耗性を向上させることができ、更に、ギャップ拡大による失火の発生を抑制することが可能になる。また、上述した各実施例では、溶融池付近の硬度だけではなく、溶接角度θをも規定することで、熱変形によって応力が増加してしまうことを抑制することができる。よって、電極チップの剥離や脱落をより効果的に抑制することが可能になる。
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。例えば、電極チップは、中心電極20と接地電極30とのいずれか一方に接合されているものとしてもよいし、中心電極20と接地電極30の両方に接合されているものとしてもよい。
3…セラミック抵抗
4…シール体
5…ガスケット
10…絶縁碍子
12…軸孔
13…脚長部
17…先端側胴部
18…後端側胴部
19…中央胴部
20…中心電極
21…電極母材
22…電極母材台座
23,24…溶融池
25…芯材
30…接地電極
31…台座部
32…鍔部
33…中間チップ
34…複合チップ
40…端子金具
50…主体金具
51…工具係合部
52…取付ネジ部
54…シール部
70,71…電極チップ
100,100b,100c,100d,100e…スパークプラグ
200…エンジンヘッド
201…取付ネジ孔

Claims (17)

  1. 接地電極の先端部に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって、前記接地電極と前記電極チップとの境界部に溶融池が形成されたスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
    0.8≦A1/A2≦1.9
    の条件を満たすスパークプラグ。
  2. 請求項1に記載のスパークプラグであって、
    前記断面において、前記溶融池と前記接地電極との前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB2としたときに、
    0.7≦B2/B1≦2.5
    の条件を満たすスパークプラグ。
  3. 請求項1または請求項2に記載のスパークプラグであって、
    前記接地電極の先端部の一部に、凸状の台座部が形成されており、
    前記電極チップは、前記台座部に載置され、前記台座部と前記電極チップとの境界部が溶接されることにより前記台座部に接合されているスパークプラグ。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスパークプラグであって、
    前記接地電極の線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。
  5. 底面に鍔部を有する凸状の中間チップの上面に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって前記中間チップと前記電極チップとの境界部に溶融池が形成された複合チップが、前記鍔部を介して接地電極の先端部に接合されたスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
    0.8≦A1/A2≦1.9
    の条件を満たすスパークプラグ。
  6. 請求項5に記載のスパークプラグであって、
    前記断面において、前記溶融池と前記中間チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記接地電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中間チップの硬度[Hv]をB2としたときに、
    0.5≦B2/B1≦2.5
    の条件を満たすスパークプラグ。
  7. 請求項5または請求項6に記載のスパークプラグであって、
    前記中間チップの線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。
  8. 請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通り、前記溶融池の前記中心軸に沿った幅が最大となる断面において、前記スパークプラグの表面上における前記溶融池の上端および下端を結ぶ線分の垂直二等分線と、前記中心軸とのなす角θが、
    60°≦θ≦150°
    の条件を満たすスパークプラグ。
  9. 中心電極の先端部に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって、前記中心電極と前記電極チップとの境界部に溶融池が形成されたスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
    0.8≦A1/A2≦1.9
    の条件を満たすスパークプラグ。
  10. 請求項9に記載のスパークプラグであって、
    前記断面において、前記溶融池と前記中心電極との前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB2としたときに、
    0.7≦B2/B1≦2.3
    の条件を満たすスパークプラグ。
  11. 請求項9または請求項10に記載のスパークプラグであって、
    前記中心電極の線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。
  12. 底面に鍔部を有する凸状の中間チップの上面に略柱状の電極チップが溶接され、該溶接によって前記中間チップと前記電極チップとの境界部に溶融池が形成された複合チップが、前記鍔部を介して中心電極の先端部に接合されたスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通る断面において、前記溶融池と前記電極チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記電極チップの硬度をA1[Hv]、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記電極チップの硬度をA2[Hv]としたときに、
    0.8≦A1/A2≦1.9
    の条件を満たすスパークプラグ。
  13. 請求項12に記載のスパークプラグであって、
    前記断面において、前記溶融池と前記中間チップとの前記スパークプラグの表面上での境界点を中心として、半径0.2mmの範囲外に存在する前記中心電極の硬度[Hv]をB1、前記半径0.2mmの範囲内に存在する前記中間チップの硬度[Hv]をB2としたときに、
    0.7≦B2/B1≦2.3
    の条件を満たすスパークプラグ。
  14. 請求項12または請求項13に記載のスパークプラグであって、
    前記中間チップの線膨張係数が、前記電極チップの線膨張係数よりも大きいスパークプラグ。
  15. 請求項9ないし請求項14のいずれかに記載のスパークプラグであって、
    前記電極チップの中心軸を通り、前記溶融池の前記中心軸に沿った幅が最大となる断面において、前記スパークプラグの表面上における前記溶融池の上端および下端を結ぶ線分の垂直二等分線と、前記中心軸とのなす角θが、
    30°≦θ≦90°
    の条件を満たすスパークプラグ。
  16. 請求項1ないし請求項15のいずれかに記載のスパークプラグであって、
    前記電極チップの前記中心軸と直交する方向の幅Dが、
    0.4≦D≦1.2
    の条件を満たすスパークプラグ。
  17. 請求項1ないし請求項16のいずれかに記載のスパークプラグであって、
    前記電極チップは、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウムのうち少なくともいずれか1つを含有する部材であるスパークプラグ。
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