ところが、接地電極を細化すると、使用時に貴金属チップが傾いてしまったり、貴金属チップが剥離してしまうことがあった。貴金属チップに傾きが生じてしまうと、火花放電間隙の大きさが減少してしまい、着火性の低下を招いてしまうおそれがある。また、貴金属チップが剥離してしまうと、貴金属チップを設けることによる上述の作用効果が何ら発揮されなくなってしまう。
そこで、本願発明者が、貴金属チップの傾きや剥離が生じ得る原因について鋭意検討したところ、次のような事実が明らかとなった。すなわち、貴金属チップの接合時には、貴金属チップと接地電極との接触部分のうち接地電極の基端側に位置する部位の温度と比べて、前記接触部分のうち接地電極の先端側に位置する部位の温度がより高いものとなってしまいやすいところ、細化された接地電極は加熱されやすく、熱が引きにくいため、その傾向がより顕著に現れることとなる。そのため、貴金属チップや接地電極のうち、先端側溶融部(接地電極の先端側に形成された溶融部)の近傍に位置する部位と、基端側溶融部(接地電極の基端側に形成された溶融部)の近傍に位置する部位との間で、接合後において残留する応力に大きな差が生じ得る。
さらに、細化された接地電極は、上述のように熱が引きにくいため、使用時において、より高温となりやすく、ひいては溶融部がより軟化しやすい。ここで、溶融部が軟化すると、貴金属チップや接地電極に残留する応力が解放されることとなるが、先端側溶融部の近傍に位置する部位と基端側溶融部の近傍に位置する部位との間で、残留応力が大きく異なっていると、貴金属チップを接地電極の先端側へと移動させようとする力と、接地電極の基端側へと移動させようとする力とで大きな差が生じてしまう。その結果、貴金属チップの傾きや剥離が生じてしまうこととなる。つまり、接地電極の細化に伴う、貴金属チップや接地電極における残留応力のバランスの悪化と、接地電極の一層の高温化とが、貴金属チップの傾きや剥離の主たる原因であることが明らかとなった。
また、近年では、燃焼効率の向上等の観点から燃焼室内の一層の高温化が要求されており、このような燃焼装置においては、貴金属チップの傾きや剥離がより一層懸念される。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、接地電極が細化されたものであっても、貴金属チップの傾きや剥離をより確実に防止することができるスパークプラグを提供することにある。
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、前記接地電極の断面積が0.5mm2以上3.0mm2以下であり、
前記貴金属チップは、レーザー溶接にて自身と前記接地電極とが溶け込みあった溶融部が自身の基端部周囲に形成されることにより前記接地電極に接合されており、
前記接地電極の長手方向に沿うとともに、前記貴金属チップの中心軸を含む断面において、
前記接地電極の先端側に位置する先端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記貴金属チップの外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記貴金属チップのビッカース硬度をA1(Hv)とし、
前記接地電極の基端側に位置する基端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記貴金属チップの外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記貴金属チップのビッカース硬度をA2(Hv)とし、
A1及びA2のうち低い方の値をAL(Hv)としたとき、
0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55
を満たすことを特徴とする。
尚、中心電極の先端部に貴金属合金(例えば、白金合金等)からなる貴金属部を設けることとしてもよい。この場合、前記間隙は、当該貴金属部と接地電極に接合された貴金属チップとの間に形成されることとなる。また、硬度は、マイクロビッカース硬度計を用いることで計測することができる。
上記構成1のスパークプラグは、接地電極の断面積が3.0mm2以下と細化されており、使用時における貴金属チップの傾きや剥離、また、それに伴う着火性の低下等がより懸念される。
この点、上記構成1によれば、貴金属チップの硬度について、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55を満たすように構成されている。すなわち、貴金属チップのうち先端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度と、貴金属チップのうち基端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度との硬度差が極力小さなものとされている。従って、残留応力の大小と硬度の大小とは対応関係にあるところ、使用時において、貴金属チップのうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力と、貴金属チップのうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力との均等化を図ることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより確実に防止することができ、貴金属チップを設けたことによる着火性や耐火花消耗性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
尚、接地電極をより肉細なものとすることで、火炎核の熱が接地電極によって引かれてしまうことや、火炎の伝播が接地電極により阻害されてしまうことを防止でき、着火性の更なる向上を期待することができる。しかし、接地電極に過度の細化を施すと、燃焼装置の動作に伴う振動などにより接地電極が折損してしまうおそれがある。従って、接地電極の折損を防止すべく、接地電極の断面積を0.5mm2以上とすることが好ましい。
構成2.本構成のスパークプラグは、上記構成1において、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.20
を満たすことを特徴とする。
上記構成2によれば、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.20とされており、貴金属チップのうち先端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度と、貴金属チップのうち基端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度との硬度差がより一層小さくされている。これにより、貴金属チップの傾きや剥離をより一層確実に防止することができる。
構成3.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、前記接地電極の断面積が0.5mm2以上3.0mm2以下であり、
前記貴金属チップは、レーザー溶接にて自身と前記接地電極とが溶け込みあった溶融部が自身の基端部周囲に形成されることにより前記接地電極に接合されており、
前記接地電極の長手方向に沿うとともに、前記貴金属チップの中心軸を含む断面において、
前記接地電極の先端側に位置する先端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記貴金属チップの外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記貴金属チップのビッカース硬度をA1(Hv)とし、
前記接地電極の基端側に位置する基端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記貴金属チップの外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記貴金属チップのビッカース硬度をA2(Hv)とし、
前記溶融部と前記貴金属チップとの境界線から0.2mmの範囲の外における、前記貴金属チップのビッカース硬度をA0(Hv)とし、
|A1−A0|をH1(Hv)とし、
|A2−A0|をH2(Hv)とし、
H1及びH2のうち高い方の値をHH(Hv)とし、
H1及びH2のうち低い方の値をHL(Hv)としたとき、
1.0≦HH/HL≦2.6
を満たすことを特徴とする。
上記構成3によれば、|A1−A0|をH1、|A2−A0|をH2、H1及びH2のうち高い方の値をHH、H1及びH2のうち低い方の値をHLとしたとき、1.0≦HH/HL≦2.6を満たすように構成されている。すなわち、貴金属チップのうち、先端側溶融部の近傍や基端側溶融部の近傍に位置する両部位(レーザー溶接により応力が残留し、硬度に影響を受ける部位)と、溶融部から離間しており硬度にさほどの影響を受けていない部位との間のそれぞれの硬度差が、比較的近い値となるように構成されている。従って、使用時において、貴金属チップのうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力と、貴金属チップのうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力との均等化を図ることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより確実に防止することができ、着火性等の向上効果をより確実に発揮させることができる。
構成4.本構成のスパークプラグは、上記構成3において、1.0≦HH/HL≦1.7を満たすことを特徴とする。
上記構成4によれば、1.0≦HH/HL≦1.7とされており、貴金属チップのうち、先端側溶融部や基端側溶融部の近傍に位置する両部位と、溶融部から離間した部位との間のそれぞれの硬度差が、より一層近い値となるように構成されている。従って、使用時において、貴金属チップのうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力と、貴金属チップのうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や接地電極に発生する応力との応力バランスをより均等に保つことができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより一層確実に防止することができる。
構成5.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、前記接地電極の断面積が0.5mm2以上3.0mm2以下であり、
前記貴金属チップは、レーザー溶接にて自身と前記接地電極とが溶け込みあった溶融部が自身の基端部周囲に形成されることにより前記接地電極に接合されており、
前記接地電極の長手方向に沿うとともに、前記貴金属チップの中心軸を含む断面において、
前記接地電極の先端側に位置する先端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記接地電極の外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記接地電極のビッカース硬度をB1(Hv)とし、
前記接地電極の基端側に位置する基端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記接地電極の外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記接地電極のビッカース硬度をB2(Hv)とし、
B1及びB2のうち低い方の値をBL(Hv)としたとき、
0.0≦|B1−B2|/BL≦0.3
を満たすことを特徴とする。
上記構成5によれば、接地電極の硬度について、0.0≦|B1−B2|/AL≦0.3を満たすように構成されている。すなわち、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度と、基端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度との硬度差が比較的小さなものとされている。このため、使用時において、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力と、接地電極のうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力との均等化を図ることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより確実に防止することができ、貴金属チップを設けたことによる着火性や耐火花消耗性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
構成6.本構成のスパークプラグは、上記構成5において、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.2
を満たすことを特徴とする。
上記構成6によれば、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.2とされ、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度と、基端側溶融部の近傍に位置する部位の硬度との硬度差がより一層小さくなるように設定されている。従って、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力と、接地電極のうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力とをより均等なものとすることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより効果的に防止することができる。
構成7.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる棒状の中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられた絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられた主体金具と、
前記主体金具の先端部から延びる接地電極と、
前記接地電極の先端部に接合され、前記中心電極との間で間隙を形成する貴金属チップとを備えるスパークプラグであって、
前記接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、前記接地電極の断面積が0.5mm2以上3.0mm2以下であり、
前記貴金属チップは、レーザー溶接にて自身と前記接地電極とが溶け込みあった溶融部が自身の基端部周囲に形成されることにより前記接地電極に接合されており、
前記接地電極の長手方向に沿うとともに、前記貴金属チップの中心軸を含む断面において、
前記接地電極の先端側に位置する先端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記接地電極の外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記接地電極のビッカース硬度をB1(Hv)とし、
前記接地電極の基端側に位置する基端側溶融部のうち外表面に露出する部位の外形線と、前記接地電極の外形線との交点を中心として半径0.2mmの範囲内における、前記接地電極のビッカース硬度をB2(Hv)とし、
前記溶融部と前記接地電極との境界線から0.2mmの範囲の外における、前記接地電極のビッカース硬度をB0(Hv)とし、
|B1−B0|をJ1(Hv)とし、
|B2−B0|をJ2(Hv)とし、
J1及びJ2のうち高い方の値をJH(Hv)とし、
J1及びJ2のうち低い方の値をJL(Hv)としたとき、
1.0≦JH/JL≦3.8
を満たすことを特徴とする。
上記構成7によれば、|B1−B0|をJ1、|B2−B0|をJ2、J1及びJ2のうち高い方の値をJH、J1及びJ2のうち低い方の値をJLとしたとき、1.0≦JH/JL≦3.8を満たすように構成されている。すなわち、接地電極のうち、先端側溶融部や基端側溶融部の近傍に位置する両部位(レーザー溶接により応力が残留し、硬度に影響を受ける部位)と、溶融部から離間しており硬度にさほどの影響を受けていない部位との間のそれぞれの硬度差が、比較的接近するように接地電極の硬度が規定されている。このため、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力と、接地電極のうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力との応力バランスをほぼ均等なものとすることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離を一層効果的に防止することができる。その結果、着火性等の低下をより確実に抑制することができる。
構成8.本構成のスパークプラグは、上記構成7において、1.0≦JH/JL≦2.0を満たすことを特徴とする。
上記構成8によれば、1.0≦JH/JL≦2.0とされており、接地電極のうち、先端側溶融部や基端側溶融部の近傍に位置する両部位と、溶融部から離間した部位との間のそれぞれの硬度差が、より一層近い値となるように構成されている。従って、使用時において、接地電極のうち先端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力と、接地電極のうち基端側溶融部の近傍に位置する部位及び溶融部や貴金属チップに発生する応力との応力バランスをより均等に保つことができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離をより一層確実に防止することができる。
尚、上記構成1〜8の技術思想を適宜組み合わせることとしてもよい。従って、例えば、上記構成1の要件である「0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55」と、上記構成5の要件である「0.0≦|B1−B2|/BL≦0.3」とが同時に満たされるように、貴金属チップや接地電極の硬度を設定することとしてもよい。この場合には、使用時において、先端側溶融部の近傍に位置する貴金属チップ及び接地電極に発生する応力と、基端側溶融部の近傍に位置する貴金属チップ及び接地電極に発生する応力とのバランスをより均等なものとすることができる。その結果、貴金属チップの傾きや剥離を極めて効果的に防止することができる。
構成9.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至8のいずれかにおいて、前記貴金属チップは、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、或いは、ロジウム(Rh)、又は、これらのうちいずれか1種を主成分とする合金から形成されていることを特徴とする。
上記構成9によれば、貴金属チップを構成する合金は、PtやIr等、耐消耗性に優れた材料により形成されているため、耐久性のより確実な向上を図ることができる。
また、このように耐消耗性に優れた材料を用いた場合には、貴金属チップを細長く形成する(例えば、長さを0.5mm以上、径を1.0mm以下とする)ことで、着火性の更なる向上が期待できる。但し、細長い貴金属チップを用いた場合には、貴金属チップが若干傾いてしまっただけでも、中心電極の先端面に対して貴金属チップの先端面が大きくずれてしまう等、貴金属チップが傾くことによる影響が大きい。しかしながら、上記構成1等を採用することで、貴金属チップの傾きを効果的に抑制できることから、細長い貴金属チップを用いることによる着火性の向上効果がより確実に、かつ、より長期間に亘って発揮されることとなる。換言すれば、上記構成1等は、比較的細長い貴金属チップを用いた場合において、特に有意であるといえる。
構成10.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至9のいずれかにおいて、前記間隙の大きさが1.1mm以下であることを特徴とする。
着火性の向上を図るためには、中心電極と貴金属チップとの間に形成される間隙を比較的大きく確保することが好ましい。ところが、間隙を過度に大きくすると、要求電圧が増大してしまうとともに、失火などの不具合が生じてやすくなってしまう。そのため、要求電圧の増大や失火などをより確実に防止すべく、中心電極と貴金属チップとの間に形成される間隙の大きさを比較的小さなものとすることが行われ得る。ところが、当該間隙の大きさが小さいほど、貴金属チップに傾きが生じた場合に、当初の間隙の大きさに対する間隙の減少割合が極端に大きなものとなってしまう。そのため、間隙を比較的小さくしたスパークプラグにおいては、貴金属チップに傾きが生じてしまった際に、着火性の大幅な低下が懸念される。
この点、上記構成10のスパークプラグは、間隙が1.1mm以下と比較的小さく、貴金属チップに傾きが生じた際に、着火性がより低下しやすいものであるが、上記構成1等を採用することで、貴金属チップの傾きを抑制でき、着火性の低下を効果的に防止することができる。換言すれば、上記各構成は、間隙の大きさが1.1mm以下とされる場合において、特に有意であるといえる。
構成11.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至10のいずれかにおいて、前記接地電極は、内部に放熱促進材を有することを特徴とする。
上記構成11によれば、接地電極の内部に放熱促進材が設けられるため、当該放熱促進材を介して貴金属チップの熱を主体金具側へと効率よく引くことができる。そのため、貴金属チップの耐消耗性をより一層向上させることができる。
一方で、接地電極の内部に放熱促進材を設けた場合には、接地電極のうち基端側に位置する部位の熱は極めて効果的に引かれることとなる。そのため、貴金属チップを接地電極に接合する際に、貴金属チップと接地電極との接触部分のうち接地電極の基端側に位置する部位の温度と比べて、前記接触部分のうち接地電極の先端側に位置する部位の温度がより一層高いものとなってしまいやすい。すなわち、内部に放熱促進材を有する接地電極を用いた場合には、貴金属チップや接地電極のうち、先端側溶融部の近傍に位置する部位と、基端側溶融部の近傍に位置する部位との間で残留する応力に非常に大きな差が生じてしまいやすく、その結果、貴金属チップの傾きや剥離がより一層生じてしまいやすい。
この点、上記構成1等を採用することで、接地電極の内部に放熱促進材を設けた場合であっても、貴金属チップの傾きや剥離をより確実に防止することができる。すなわち、上記各構成は、接地電極の内部に放熱促進材を備える場合において、特に有意であるといえる。
構成12.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至11のいずれかにおいて、前記放熱促進材は、銅又は銅を主成分とする合金を含んで構成されることを特徴とする。
上記構成12のように、前記放熱促進材を、熱伝導性に優れる銅又は銅を主成分とする合金を含んで構成することとしてもよい。この場合においても、基本的には上記構成11と同様の作用効果が奏されることとなる。
構成13.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至12のいずれかにおいて、前記主体金具は、燃焼装置の取付孔に螺合するためのねじ部を有するとともに、
前記ねじ部の外径がM10以下とされることを特徴とする。
上記構成13のように、ねじ部のねじ径がM10以下と小径化された主体金具においては、その先端面の面積が減少するため、接地電極を当該先端面に対して配設するためには、接地電極をより細化することが必要となる。すなわち、上記構成13のスパークプラグは、より細化された接地電極が用いられ得るため、貴金属チップや接地電極内部における残留応力バランスの悪化が生じてしまいやすい。
この点、上記各構成を採用することで、接地電極がより細化されたものであっても、残留応力のバランス悪化を効果的に抑制することができる。換言すれば、上記各構成は、ねじ部のねじ径がM10以下と小径化された主体金具を備えてなるスパークプラグにおいて、特に有意であるといえる。
〔第1実施形態〕
以下に、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁体としての絶縁碍子2、これを保持する筒状の主体金具3などから構成されるものである。
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、脚長部13と中胴部12との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、絶縁碍子2の先端から突出している。また、中心電極5は、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金からなる外層5Bと、前記Ni合金よりも熱伝導性の高い銅、銅合金又は純Niからなる内層5Aとを備えている。さらに、円柱状をなす前記中心電極5の先端部には、貴金属合金(例えば、イリジウム合金)により形成された円柱状の貴金属部31が接合されている。
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
加えて、主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を内燃機関や燃料電池改質器等の燃焼装置に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、スパークプラグ1を燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。尚、本実施形態では、スパークプラグ1の小型化を図るべく、主体金具3が比較的小径化されており、結果として、ねじ部15がねじ径が比較的小径化(例えば、M10以下と)されたものとなっている。
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3の後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定される。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との間の空間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
また、主体金具3の先端部26には、略中間部分が曲げ返されて、その先端側側面が中心電極5の先端部と対向する接地電極27が接合されている。当該接地電極27は、外層27Aと、内層27B(「放熱促進材」に相当する)とからなる2層構造となっている。本実施形態において、前記外層27AはNi合金〔例えば、インコネル600やインコネル601(いずれも登録商標)〕によって構成されている。一方、前記内層27Bは、前記Ni合金よりも良熱導電性金属である銅や銅合金、純Ni等によって構成されている。尚、本実施形態では、接地電極27は外層27A及び内層27Bからなる2層構造となっているが、銅によって構成された内層27Bの更に内部にNiによって構成された芯部を埋設した3層構造としてもよい。また、接地電極27は、自身の長手方向と直交する方向に沿った断面積が0.5mm2以上3.0mm2以下と比較的細化されている。尚、本実施形態において、接地電極27は、長手方向の全域に亘ってほぼ同一の断面積を有している。
加えて、接地電極27のうち貴金属部31の先端面と対向する部位には、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、或いは、ロジウム(Rh)、又は、これらのうちいずれか1種を主成分とする合金により形成された円柱状の貴金属チップ41が接合されている。より詳しくは、図2に示すように、貴金属チップ41は、レーザー溶接にて自身と接地電極27とが溶け込み合って形成された溶融部35が自身の基端部周囲に形成されることで接地電極27に接合されている。
また、前記貴金属部31と貴金属チップ41との間には、間隙としての火花放電間隙33が形成されている。そして、当該火花放電間隙33において、軸線CL1方向にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。尚、軸線CL1に沿った火花放電間隙33の大きさGは1.1mm以下とされている。
さて、図3は、本実施形態における貴金属チップ41の構成等を説明するための拡大断面模式図である。但し、図3においては、断面図において一般的に付されるハッチングを説明の便宜上省略してある(図4〜図6においても同様)。
本実施形態においては、図3に示すように、接地電極27の長手方向に沿うとともに、貴金属チップ41の中心軸を含む断面において、円CA1内における貴金属チップ41(図3中、散点模様を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PA1におけるビッカース硬度)がA1(Hv)とされ、円CA2内における貴金属チップ41(図3中、斜線を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PA2におけるビッカース硬度)がA2(Hv)とされている。そして、A1及びA2のうち低い方の値をAL(Hv)としたとき、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55(好ましくは、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.20)を満たすように両者の硬度が設定されている。
尚、「円CA1」とあるのは、接地電極27の先端側に位置する先端側溶融部42のうち外表面に露出する部位の外形線OL2と、貴金属チップ41の外形線OL1との交点を中心とした半径0.2mmの円をいう。また、「円CA2」とあるのは、接地電極27の基端側に位置する基端側溶融部43のうち外表面に露出する部位の外形線OL3と、貴金属チップ41の外形線OL1との交点を中心とした半径0.2mmの円をいう。
次に、上記のように構成されてなるスパークプラグ1の製造方法について説明する。
まず、主体金具3を予め加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えばS17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)に冷間鍛造加工等を施すことで貫通孔を形成するとともに、概形を製造する。その後、切削加工を施し外形を整えることで、主体金具中間体が得られる。
続いて、中央部に銅合金などを配置したNi合金に鍛造加工を施すことで得られた接地電極27を、前記主体金具中間体の先端面に抵抗溶接する。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の溶接された主体金具3が得られる。
さらに、接地電極27の溶接された主体金具3には、亜鉛メッキ或いはニッケルメッキが施される。尚、耐食性向上を図るべく、その表面に、さらにクロメート処理が施されることとしてもよい。加えて、接地電極27のうち貴金属チップ41の接合予定部位のメッキ除去が行われる。
一方、前記主体金具3とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用い、成形用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。得られた成形体に対し、研削加工が施され整形されるとともに、整形されたものが焼成炉へ投入され焼成される。焼成後、種々の研磨加工を施すことで、絶縁碍子2が得られる。
また、前記主体金具3、絶縁碍子2とは別に、中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金等を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。次に、中心電極5の先端面に対して、レーザー溶接等により貴金属部31を接合する。
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2及び中心電極5と、抵抗体7と、端子電極6とが、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に注入された後、後方から端子電極6が先端側へと押圧された状態とした上で、焼成炉内にて焼き固められる。このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10表面に釉薬層が同時に焼成されることとしてもよいし、事前に釉薬層が形成されることとしてもよい。
その後、上記のようにそれぞれ作成された中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが組付けられる。より詳しくは、比較的薄肉に形成された主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定される。
次に、接地電極27の先端部に、貴金属チップ41が接合される。より詳しくは、まず貴金属チップ41を接地電極27上に載置した状態で、抵抗溶接によって接地電極27の所定部位に貴金属チップ41が仮止めされる。そして、レーザー照射手段(図示せず)に対して、貴金属チップ41の中心軸を回転軸として貴金属チップ41を相対回転させつつ、接地電極27と貴金属チップ41との接合面外縁部に対してレーザービームを間欠的に照射する。これにより、貴金属チップ41の先端面側から見て環状に連なる多数の溶融領域からなる溶融部35が形成され、接地電極27と貴金属チップ41とが接合される。
尚、レーザービームの照射に際しては、出力エネルギーを段階的に増減させつつ、前記接合面外縁部に対して所定角度でレーザービームが照射される。詳述すると、接合面外縁部のうち、接地電極27の基端側に位置する部位においては、主体金具3側へと熱が引かれやすい(冷めやすい)ため、当該部位に対しては比較的高エネルギーのレーザービームが照射される。一方で、接地電極27の先端側に位置する部位においては、主体金具3側へと熱が引かれにくい(冷めにくい)ため、当該部位に対しては比較的低エネルギーのレーザービームが照射される。
これにより、熱エネルギーを加えたことにより生じる貴金属チップ41内の残留応力について、貴金属チップ41のうち接地電極27の先端側に位置する部位の残留応力と、貴金属チップ41のうち接地電極27の基端側に位置する部位の残留応力とがほぼ等しいものとなる。その結果、貴金属チップ41の硬度は残留応力に対応するものであるため、前記円CA1内における貴金属チップ41のビッカース硬度A1と、前記円CA2内における貴金属チップ41のビッカース硬度A2とがほぼ等しいものとなり、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55の関係式が満たされることとなる。
尚、上述のように出力エネルギーを増減させることなく、又は、出力エネルギーを増減させつつ、レーザービームの焦点距離を変更することで、溶融部35を形成する際の熱エネルギーを調整することとしてもよい。また、レーザービームを照射することによって、貴金属チップ41や接地電極27等に熱エネルギーが蓄積される。従って、この点も考慮してレーザービームの出力エネルギー等を調整することがより好ましい。
そして最後に、接地電極27の略中間部分を屈曲させるとともに、火花放電間隙33の大きさを調整する加工が実施され、上述のスパークプラグ1が得られる。
以上詳述したように、本実施形態によれば、接地電極27の断面積が3.0mm2以下とされているため、火炎核の熱が接地電極27によって引かれてしまうことや、火炎の伝播が接地電極27により阻害されてしまうことを防止でき、着火性の向上を期待することができる。
さらに、貴金属チップ41の硬度について、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55を満たすように構成されている。すなわち、貴金属チップ41のうち先端側溶融部42の近傍に位置する部位の硬度と、貴金属チップ41のうち基端側溶融部43の近傍に位置する部位の硬度との硬度差が極力小さなものとされている。従って、残留応力の大小と硬度の大小とは対応関係にあるところ、使用時において、貴金属チップ41のうち先端側溶融部42の近傍に位置する部位及び溶融部35や接地電極27に発生する応力と、貴金属チップ41のうち基端側溶融部43の近傍に位置する部位及び溶融部35や接地電極27に発生する応力とをほぼ等しいものとすることができる。その結果、貴金属チップ41の傾きや剥離をより確実に防止することができ、貴金属チップ41を設けたことによる着火性や耐火花消耗性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
また、接地電極27の断面積が0.5mm2以上とされているため、燃焼装置の動作に伴う振動などによる接地電極27の折損をより確実に防止することができる。
〔第2実施形態〕
次いで、第2実施形態について、図面を参照しつつ、上記第1実施形態との相違点を中心に説明する。
上記第1実施形態においては、円CA1内における貴金属チップ41のビッカース硬度A1(Hv)と、円CA2内における貴金属チップ41のビッカース硬度A2(Hv)との関係が所定の数値範囲内となるように規定されている。これに対して、本第2実施形態においては、図4に示すように、両硬度A1,A2と、溶融部35と貴金属チップ41との境界線から0.2mmの範囲の外における貴金属チップ41(図4中、斜線を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PA0のビッカース硬度)A0(Hv)との関係が規定されている。
すなわち、|A1−A0|をH1(Hv)とし、|A2−A0|をH2(Hv)とし、H1及びH2のうち高い方の値をHH(Hv)とし、H1及びH2のうち低い方の値をHL(Hv)としたとき、1.0≦HH/HL≦2.6(好ましくは、1.0≦HH/HL≦1.7)の関係式を満たすように前記硬度A0,A1,A2がそれぞれ設定されている。すなわち、硬度A1及び硬度A0の硬度差と、硬度A2及び硬度A0の硬度差とが、比較的近い値となるように設定されている。
尚、1.0≦HH/HL≦2.6の関係式は、接地電極27に貴金属チップ41をレーザー溶接する際に、貴金属チップ41のうち接地電極27の先端側に位置する部位の残留応力と、貴金属チップ41のうち接地電極27の基端側に位置する部位の残留応力とがほぼ等しくなるようにレーザービームの出力エネルギー等を調節することで実現することができる。
以上、本第2実施形態によれば、基本的には上記第1実施形態と同様の作用効果が奏されることとなる。
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態について、図面を参照しつつ、上記第1、第2実施形態との相違点を中心に説明する。
本第3実施形態においては、図5に示すように、接地電極27の長手方向に沿うとともに、貴金属チップ41の中心軸を含む断面において、円CB1内における接地電極27(図5中、散点模様を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PB1におけるビッカース硬度)がB1(Hv)とされ、円CB2内における接地電極27(図5中、斜線を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PB2におけるビッカース硬度)がB2(Hv)とされている。そして、B1及びB2のうち低い方の値をBL(Hv)としたとき、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.3(好ましくは、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.2)の関係式を満たすように両者の硬度が設定されている。
尚、「円CB1」は、先端側溶融部42のうち外表面に露出する部位の外形線OL2と、接地電極27の外形線OL4との交点を中心とした半径0.2mmの円をいう。また、「円CB2」は、基端側溶融部43のうち外表面に露出する部位の外形線OL3と、接地電極27の外形線OL4との交点を中心とした半径0.2mmの円をいう。
さらに、上記関係式は、レーザー溶接にて接地電極27に貴金属チップ41を接合する際に、例えば、接地電極27の基端側に位置する部位に対して比較的高エネルギーのレーザービームを照射する一方で、接地電極27の先端側に位置する部位に対して比較的低エネルギーのレーザービームが照射することで実現可能である。このようにレーザービームの出力エネルギーを調整することで、接地電極27のうち先端側溶融部42の近傍に位置する部位の残留応力と、接地電極27のうち後端側溶融部43の近傍に位置する部位の残留応力とをほぼ等しいものとすることができる。その結果、残留応力に対応する接地電極27の硬度について、前記円CB1内におけるビッカース硬度B1と、前記円CB2内におけるビッカース硬度B2とがほぼ等しいものとなり、上述した「0.0≦|B1−B2|/BL≦0.3」の関係式が実現されることとなる。
以上、本第3実施形態によれば、使用時において、接地電極27のうち先端側溶融部42の近傍に位置する部位及び溶融部35や貴金属チップ41に発生する応力と、接地電極27のうち基端側溶融部43の近傍に位置する部位及び溶融部35や貴金属チップ41に発生する応力とをほぼ等しいものとすることができる。その結果、貴金属チップ41の傾きや剥離をより確実に防止することができ、貴金属チップ41を設けたことによる着火性や耐火花消耗性の向上効果をより確実に発揮させることができる。
〔第4実施形態〕
次いで、第4実施形態について、上記第1〜3実施形態との相違点を中心に説明する。
本第4実施形態においては、図6に示すように、両硬度B1,B2と、溶融部35と接地電極27との境界線から0.2mmの範囲の外における接地電極27(図6中、斜線を付した部位)のビッカース硬度(例えば、部位PB0のビッカース硬度)B0(Hv)との関係が規定されている。
すなわち、|B1−B0|をJ1(Hv)とし、|B2−B0|をJ2(Hv)とし、J1及びJ2のうち高い方の値をJH(Hv)とし、J1及びJ2のうち低い方の値をJL(Hv)としたとき、1.0≦JH/JL≦3.8(好ましくは、1.0≦JH/JL≦2.0)を満たすように設定されている。
尚、1.0≦JH/JL≦3.8の関係式は、接地電極27のうち先端側溶融部42の近傍に位置する部位の残留応力と、接地電極27のうち後端側溶融部43の近傍に位置する部位の残留応力とがほぼ等しくなるようにレーザービームの出力エネルギー等を調節することで実現できる。
以上、本第4実施形態によれば、基本的には上記第3実施形態と同様の作用効果が奏されることとなる。
次に、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、レーザー溶接の条件を種々変更することで、貴金属チップの硬度A1,A2を種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて着火性評価試験を行った。着火性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを直列6気筒2.0Lエンジンに取付けた上で、空燃比を20.0として、アイドリングと4000回転の冷熱サイクルとを交互に計100時間に亘って行い、サンプルに負荷を与えた。その後、負荷を加えたサンプルを1000回に亘って火花放電させるとともに、それぞれの火花放電時における筒内圧を測定した。そして、測定された筒内圧が、正常な火花放電がなされた際の筒内圧の50%以下となったときの回数(失火回数)を算出した。
図7に、|A1−A2|/AL(上述の通り、A1及びA2のうち値の低い方がALである)の値を種々変更したサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示す。また、図8に、HH/HL(上述の通り、|A1−A0|及び|A2−A0|のうち値の大きい方がHHであり、低い方がHLである)の値を種々変更したサンプルにおける着火性評価試験の結果を示す。尚、負荷を加える前におけるサンプルの火花放電間隙の大きさは、0.7mm、0.9mm、1.1mm、又は、1.3mmとし、図7,8においては、火花放電間隙の大きさを0.7mmとしたサンプルの試験結果を○(丸印)でプロットし、火花放電間隙の大きさを0.9mmとしたサンプルの試験結果を△(三角)でプロットした。また、火花放電間隙の大きさを1.1mmとしたサンプルの試験結果を□(四角)でプロットし、火花放電間隙の大きさを1.3mmとしたサンプルの試験結果を×(バツ印)でプロットした。尚、各サンプルともに、接地電極の厚さを1.1mmとし、幅を2.5mmとした(すなわち、接地電極の断面積を2.75mm2とした)。
図7及び図8に示すように、|A1−A2|/ALを0.55よりも大きくしたサンプルや、HH/HLを2.6よりも大きくしたサンプルは、失火が発生してしまいやすく、着火性に劣ることが明らかとなった。これは、負荷が加えられた際に、貴金属チップのうち接地電極の先端側に位置する部位及び接地電極等に発生する応力と、貴金属チップのうち接地電極の基端側に位置する部位及び接地電極等に発生する応力との差が比較的大きなものとなってしまい、その結果、貴金属チップが傾き、火花放電間隙が狭くなってしまったためであると考えられる。
これに対して、|A1−A2|/ALを0.55以下としたり、HH/HLを1.0以上2.6以下としたサンプルは、失火の発生を効果的に抑制でき、優れた着火性を有することがわかった。これは、負荷が加えられた際に、貴金属チップのうち接地電極の先端側に位置する部位及び接地電極等に発生する応力と、貴金属チップのうち接地電極の基端側に位置する部位及び接地電極等に発生する応力との差が比較的小さなものとなり、その結果、貴金属チップの傾きを抑制できたことによると考えられる。
また特に、|A1−A2|/ALを0.20以下としたり、HH/HLを1以上1.7以下としたサンプルは、失火がほとんど発生することなく、極めて優れた着火性を実現できることが確認された。
次いで、レーザー溶接の条件を種々変更することで、接地電極の硬度B1,B2を種々変更したスパークプラグのサンプルを作製し、各サンプルについて上述の着火性評価試験を行った。
図9に、|B1−B2|/BL(上述の通り、B1及びB2のうち値の低い方がBLである)の値を種々変更したサンプルにおける、着火性評価試験の結果を示す。また、図10に、JH/JL(上述の通り、|B1−B0|及び|B2−B0|のうち値の大きい方がJHであり、低い方がJLである)の値を種々変更したサンプルにおける着火性評価試験の結果を示す。尚、負荷を加える前におけるサンプルの火花放電間隙の大きさは、0.7mm、0.9mm、1.1mm、又は、1.3mmとし、図9,10においても、図7,8と同様に、火花放電間隙の大きさを0.7mmとしたサンプルの試験結果を○(丸印)でプロットし、火花放電間隙の大きさを0.9mmとしたサンプルの試験結果を△(三角)でプロットし、火花放電間隙の大きさを1.1mmとしたサンプルの試験結果を□(四角)でプロットし、火花放電間隙の大きさを1.3mmとしたサンプルの試験結果を×(バツ印)でプロットした。また、各サンプルともに、接地電極の厚さを1.1mmとし、幅を2.5mmとした。
図9及び図10に示すように、|B1−B2|/BLを0.3よりも大きくしたサンプルや、HH/HLを3.8よりも大きくしたサンプルは、失火が発生しやすく、着火性が不十分となってしまうことが明らかとなった。これは、負荷が加えられた際に、貴金属チップを挟むように位置する接地電極の先端側部位と基端側部位との間で、貴金属チップに対して加わる応力に比較的大きな差が生じてしまい、その結果、貴金属チップが傾いてしまったことに起因すると考えられる。
これに対して、|B1−B2|/BLを0.3以下としたり、JH/JLを1.0以上3.8以下としたサンプルは、失火の発生をより確実に抑制でき、着火性に優れることがわかった。これは、貴金属チップを挟むように位置する接地電極の先端側部位と基端側部位との間で、貴金属チップに対して加わる応力をほぼ等しいものとすることができ、その結果、貴金属チップの傾きを抑制できたためであると考えられる。
また特に、|B1−B2|/BLを0.20以下としたり、JH/JLを1以上2.0以下としたサンプルは、失火がほとんど発生することなく、極めて優れた着火性を実現できることが確認された。
次に、接地電極の断面積や放熱促進材の有無を種々変更するとともに、レーザー溶接の条件を変更することで、貴金属チップや接地電極の硬度(A1,A2,B1,B2等)を種々変更したスパークプラグのサンプル1(実施例)及びサンプル2(比較例)を作製し、各サンプルについてチップ傾き評価試験を行った。チップ傾き評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを直列6気筒2.0Lエンジンに取付けた上で、空燃比を20.0として、アイドリングと4000回転の冷熱サイクルとを交互に計100時間に亘って行い、サンプルに負荷を与えた。その後、貴金属チップを観察し、試験前における貴金属チップの中心軸に対する、試験後における貴金属チップの中心軸のなす角度(チップ傾き角度)を測定した。表1に、チップ傾き評価試験の結果を示す。尚、サンプル1,2については、同一のレーザー溶接条件にて試験用のサンプルと硬度測定用のサンプルとをそれぞれ作製した。また、硬度測定用のサンプルにおけるサンプル1,2の硬度A1,A2等は、表2に示す通りであった。
さらに、接地電極の断面積を種々変更したスパークプラグのサンプルについて耐折損性評価試験を行った。耐折損性評価試験の概要は次の通りである。すなわち、各サンプルを250cc、2ストロークエンジン(バイク用エンジンであり、特に振動が強いものである)に取付けた上で、エンジンを全開状態(=9000rpm)で100時間に亘って動作させた。そして、100時間経過後に、接地電極に折損が生じているか否かを確認した。表3に、耐折損評価試験の試験結果を示す。
表2に示すように、|A1−A2|/ALやHH/HL等について、上記構成のいずれをも満たしていない比較例に係るサンプル2であって、特に接地電極の断面積を3.0mm2以下としたものは、表1に示すように、使用に伴い、貴金属チップが大きく傾いてしまうことが明らかとなった。これは、細化された接地電極は、より高温となりやすく、ひいては溶融部がより軟化しやすいところ、貴金属チップや接地電極のうち、先端側溶融部の近傍に位置する部位と基端側溶融部の近傍に位置する部位との間で硬度(残留応力)が大きく異なっていたサンプル2については、加熱により残留応力が解放された際に、貴金属チップを接地電極の先端側へと押す力と接地電極の基端側へと押す力との差が極めて大きなものとなってしまったためであると考えられる。
また特に、放熱促進材を有するものについては、貴金属チップの傾きがより一層生じやすいことがわかった。
これに対して、実施例に係るサンプル1は、接地電極の断面積が3.0mm2以下とされ、貴金属チップの傾きがより懸念される場合であっても、貴金属チップの傾きを極めて効果的に抑制できることが明らかとなった。また、放熱促進材を備えた場合であっても、チップの傾きを効果的に抑制できることが確認された。
一方で、表3に示すように、接地電極の断面積を0.5mm2未満としたサンプルは、使用に伴い接地電極に折損が生じ得ることが明らかとなった。従って、接地電極の折損を防止すべく、接地電極の断面積を0.5mm2以上とすることが好ましいといえる。
以上、各試験の結果を総合的に勘案して、接地電極の断面積が3.0mm2以下とされ、貴金属チップの傾きが特に生じやすいスパークプラグにおいては、貴金属チップの傾きを防止すべく、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.55、1.0≦HH/HL≦2.6、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.3、或いは、1.0≦JH/JL≦3.8を満たすように、貴金属チップや接地電極の硬度を設定することが好ましいといえる。
また、貴金属チップの傾きをより確実に防止するという観点からは、0.00≦|A1−A2|/AL≦0.20、1.0≦HH/HL≦1.7、0.0≦|B1−B2|/BL≦0.2、又は、1.0≦JH/JL≦2.0を満たすように、貴金属チップや接地電極の硬度を設定することがより好ましいといえる。
加えて、上記試験の結果から火花放電間隙の大きさが小さいほど、負荷が加えられた際に、失火が生じやすくなってしまうことが確認された。換言すれば、貴金属チップや接地電極の硬度について上述の関係式を満たすように構成することは、火花放電間隙の大きさが1.1mm以下や0.9mm以下とされたスパークプラグにおいて、特に有意であるといえる。
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
(a)上記実施形態では、接地電極27を主体金具3に接合した後、貴金属チップ41が接地電極27に接合されているが、接地電極27に貴金属チップ41を接合した後に、接地電極27を主体金具3に接合することとしてもよい。また、貴金属チップ41の溶接を、主体金具3と絶縁碍子2との固定前に行うこととしてもよい。
(b)上記実施形態では、接地電極27と貴金属チップ41とのレーザー溶接に先立って、両者が抵抗溶接されているが、抵抗溶接を行わないこととしてもよい。従って、例えば、押さえピンなどで貴金属チップ41を支持しつつ、接地電極27に貴金属チップ41をレーザー溶接することとしてもよい。
(c)上記実施形態においては、接地電極27の断面積がその長手方向の全域に亘ってほぼ同一とされているが、接地電極27は、その断面積が長手方向に沿って変化するものであってもよい。尚、この場合において、「接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、接地電極の断面積」とあるのは、「接地電極の長手方向と直交する方向に沿った、接地電極の先端部(例えば、接地電極の先端と先端側溶融部との間に位置する部分)の断面積」を意味する。
(d)上記実施形態では、火花放電間隙33の大きさGが1.1mm以下とされているが、火花放電間隙33の大きさはこれに限定されるものではない。
(e)上記実施形態におけるねじ部15は、比較的小径化(例えば、M10以下)とされているが、ねじ部15のねじ径はこれに限定されるものではない。
(f)上記実施形態において、接地電極27は、内部に内層27B(放熱促進材)を有しているが、内層27Bを設けることなく、接地電極27を構成することとしてもよい。
(g)上記実施形態においては、中心電極5の先端部に貴金属部31が接合されているが、貴金属部31を設けないこととしてもよい。この場合、火花放電間隙33は、中心電極5の先端部と貴金属チップ41の先端部との間に形成されることとなる。
(h)上記実施形態では、主体金具3の先端部26に、接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
(i)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。