以下、本発明の動力伝達装置の一実施形態につき図面を参照しつつ詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1から図7を参照して、第1実施形態について説明する。本実施形態は、車両の駆動源である所定の駆動源との間で動力を伝達する入力軸と、入力軸と平行に配置され、車両の駆動輪との間で動力を伝達する出力軸と、入力軸および出力軸のそれぞれと平行に配置され、入力軸と出力軸との間でそれぞれ動力を伝達するカウンタ軸と、入力軸と平行に配置され、所定の駆動源とは異なる駆動源である回転電機のロータが連結された回転電機軸と、入力軸に入力軸と同心状に設けられ、回転電機軸およびカウンタ軸とそれぞれ係合し、かつ、入力軸の動力あるいは回転電機軸の動力のうち少なくともいずれか一方をカウンタ軸に伝達する動力伝達機構とを備える動力伝達装置に関する。
図1は、この発明の一実施形態が適用されたFF(フロントエンジンフロントドライブ;エンジン前置き前輪駆動)形式のハイブリッド車の動力伝達装置100を示すスケルトン図である。図1において、1はエンジン(所定の駆動源)であり、このエンジン1としては内燃機関、具体的にはガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンまたはメタノールエンジンまたは水素エンジンなどを用いることができる。
この実施形態においては、便宜上、エンジン1としてガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジン1は、燃料の燃焼によりクランクシャフト2から動力を出力する装置であって、吸気装置、排気装置、燃料噴射装置、点火装置、冷却装置などを備えた公知のものである。クランクシャフト2は車両の幅方向に、かつ、水平に配置され、クランクシャフト2の後端部にはフライホイール3が形成されている。
エンジン1の外壁には、中空のトランスアクスルケース(ケース)4が取り付けられている。トランスアクスルケース4は、エンジン側ハウジング70と、エクステンションハウジング71と、エンドカバー72とを有している。これらエンジン側ハウジング70およびエクステンションハウジング71およびエンドカバー72は、アルミニウムなどの金属材料を成形加工したもの(ダイカスト部品)である。また、エンジン側ハウジング70の一方の開口端73とエンジン1とが接触した状態で、エンジン1とエンジン側ハウジング70とが相互に固定されている。
また、エンジン側ハウジング70とエンドカバー72との間に、エクステンションハウジング71が配置されている。さらに、エンジン側ハウジング70の他方の開口端74と、エクステンションハウジング71の一方の開口端75とが接触した状態で、エンジン側ハウジング70とエクステンションハウジング71とが相互に固定されている。さらにまた、エクステンションハウジング71の他方の開口端76を塞ぐようにエンドカバー72が取り付けられて、エンドカバー72とエクステンションハウジング71とが相互に固定されている。
トランスアクスルケース4の内部G1には、インプットシャフト(入力軸)5、第1のモータジェネレータ6、動力合成機構(動力伝達機構)7、変速機構8、第2のモータジェネレータ(回転電機)9が設けられている。インプットシャフト5はクランクシャフト2と同心状に配置されている。インプットシャフト5におけるクランクシャフト2側の端部には、クラッチハブ10がスプライン嵌合されている。
トランスアクスルケース4内には、フライホイール3とインプットシャフト5との動力伝達状態を制御するクラッチ11が設けられている。また、フライホイール3とインプットシャフト5との間におけるトルク変動を抑制・吸収するダンパ機構12が設けられている。第1のモータジェネレータ6は、インプットシャフト5の外側に配置され、第2のモータジェネレータ9は、第1のモータジェネレータ6よりもエンジン1から遠い位置に配置されている。
すなわち、エンジン1と第2のモータジェネレータ9との間に第1のモータジェネレータ6が配置されている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9は、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9としては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができる。第1のモータジェネレータ6および第2のモータジェネレータ9に電力を供給する電力供給装置としては、バッテリ、キャパシタなどの蓄電装置、あるいは公知の燃料電池などを用いることができる。
第1のモータジェネレータ6の配置位置および第1のモータジェネレータ6の構成を具体的に説明する。エンジン側ハウジング70の内面には、エンジン1側に向けて延ばされ、ついで、インプットシャフト5側に向けて延ばされた隔壁77が形成されている。さらに、隔壁77に対してケースカバー78が固定されている。このケースカバー78は、エンジン1から離れる方向に延ばされ、ついで、インプットシャフト5側に向けて延ばされた形状を有している。そして、隔壁77とケースカバー78とにより取り囲まれた空間G2に、第1のモータジェネレータ6が配置されている。第1のモータジェネレータ6は、トランスアクスルケース4側に固定されたステータ13と、回転自在なロータ14とを有している。ステータ13は、隔壁77に固定された鉄心15と、鉄心15に巻かれたコイル16とを有している。
ステータ13およびロータ14は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、インプットシャフト5の軸線方向に積層されている。そして、インプットシャフト5の軸線方向における第1のモータジェネレータ6のコイル16の両端間が、インプットシャフト5の軸線方向における第1のモータジェネレータ6の配置領域L1である。一方、インプットシャフト5の外周には、中空シャフト17が取り付けられている。そして、インプットシャフト5と中空シャフト17とが相対回転可能に構成されている。ロータ14は、中空シャフト17の外周側に連結されている。
また、動力合成機構(言い換えれば動力分配機構)7は、第1のモータジェネレータ6と第2のモータジェネレータ9との間に設けられている。動力合成機構7は、いわゆるシングルピニオン形式の遊星歯車機構7Aを有している。すなわち、遊星歯車機構7Aは、サンギヤ18と、サンギヤ18と同心状に配置されたリングギヤ19と、サンギヤ18およびリングギヤ19に係合するピニオンギヤ20を保持したキャリヤ21とを有している。そして、サンギヤ18と中空シャフト17とが連結され、キャリヤ21とインプットシャフト5とが連結されている。なお、リングギヤ19は、インプットシャフト5と同心状に配置された環状部材(言い換えれば円筒部材)22と連結されており、この環状部材22の外周側にはカウンタドライブギヤ23が形成されている。カウンタドライブギヤ23は、インプットシャフト5における軸方向の一方側(エンジン1側)とは反対側(他方側)の端部に設けられている。
第2のモータジェネレータ9は、カウンタドライブギヤ23よりもエンジン1から遠い位置に設けられている。第2のモータジェネレータ9のロータ26がMGシャフト(回転電機軸)45の外周に連結されており、MGシャフト45は車両の幅方向にほぼ水平に配置されている。このMGシャフト45とインプットシャフト5および中空シャフト17とが非同心状に配置されている。
すなわち、インプットシャフト5は、MGシャフト45と平行に配置されている。言い換えると、インプットシャフト5は、MGシャフト45からMGシャフト45の径方向に離間した位置にMGシャフト45の軸方向に沿って配置されている。インプットシャフト5における軸方向の他方側(エンドカバー72側)の端部を含む軸方向の一部の領域5tと、MGシャフト45における軸方向の一方側(エンジン1側)の端部を含む軸方向の一部の領域45tとが径方向に互いに対向している。言い換えると、軸方向において、MGシャフト45は、動力合成機構7との動力の伝達を行う後述するギヤ46からエンドカバー72方向に向けて延設されており、一方、インプットシャフト5は、動力合成機構7からエンジン1へ向けて延設されている。
第2のモータジェネレータ9の配置位置および第2のモータジェネレータ9の構成を具体的に説明する。エクステンションハウジング71の内面には、MGシャフト45側に向けて延ばされた隔壁79が形成されている。隔壁79は、ギヤ46の側面と対向している。隔壁79は、トランスアクスルケース4内を軸方向の一方側(エンジン1側)に位置する第一収容室G4と、軸方向の他方側(エンドカバー72側)に位置する第二収容室G3とに仕切っている。そして、エクステンションハウジング71と隔壁79とエンドカバー72とにより取り囲まれた第二収容室G3に、第2のモータジェネレータ9が配置されている。すなわち、MGシャフト45は、第二収容室G3に配置されている。また、第一収容室G4には、インプットシャフト5と、後述するフロントドライブシャフト43と、後述するカウンタシャフト34とが配置されている。
第2のモータジェネレータ9は、トランスアクスルケース4に固定されたステータ25と、回転自在なロータ26とを有している。ステータ25は、鉄心27と、鉄心27に巻かれたコイル28とを有している。ステータ25およびロータ26は、所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向に複数枚を積層して構成したものである。なお、複数の電磁鋼板は、MGシャフト45の軸線方向に積層されている。そして、MGシャフト45の軸線方向における第2のモータジェネレータ9のコイル28の両端間が、MGシャフト45の軸線方向における第2のモータジェネレータ9の配置領域L2に相当する。
上記のように、第1のモータジェネレータ6と第2のモータジェネレータ9とは、MGシャフト45およびインプットシャフト5ならびに中空シャフト17の軸線方向において異なる位置に配置されている。より具体的には、軸線方向において、第1のモータジェネレータ6の配置領域L1と、第2のモータジェネレータ9の配置領域L2とが、重ならないように、各モータジェネレータの配置位置が設定されている。また、第1のモータジェネレータ6の回転中心(中心軸線)と、第2のモータジェネレータ9の回転中心(中心軸線)とが各シャフトの半径方向に位置ずれしている。
MGシャフト45における動力合成機構7側の端部にはギヤ46が形成(連結)されている。ギヤ46は、はすば歯車であり、カウンタドライブギヤ23と噛み合って(係合して)いる。カウンタドライブギヤ23とギヤ46とは、ギヤ46からカウンタドライブギヤ23に動力が伝達される場合の変速比が“1”より大きくなるように構成されている。これらのギヤ46およびカウンタドライブギヤ23により、変速機構8が構成されている。第2のモータジェネレータ9の動力がMGシャフト45を介してギヤ46に伝達されると、ギヤ46の回転速度が減速されて環状部材22に伝達される。すなわち、第2のモータジェネレータ9のトルクが増幅されて動力合成機構7に伝達される。
一方、前記トランスアクスルケース4の内部には、インプットシャフト5と平行なカウンタシャフト34が設けられている。カウンタシャフト34には、カウンタドリブンギヤ35およびファイナルドライブピニオンギヤ36が形成されている。そして、カウンタドライブギヤ23とカウンタドリブンギヤ35とが係合されている。さらに、トランスアクスルケース4の内部にはデファレンシャル37が設けられており、デファレンシャル37は、デフケース38の外周側に形成されたファイナルリングギヤ(出力軸回転部材)39と、デフケース38に対してピニオンシャフト40を介して取り付けられた連結された複数のピニオンギヤ41と、複数のピニオンギヤ41に係合されたサイドギヤ42と、サイドギヤ42に連結された2本のフロントドライブシャフト(出力軸)43とを有している。フロントドライブシャフト43は、インプットシャフト5と平行である。各フロントドライブシャフト43には前輪(駆動輪)44が連結されている。このように、トランスアクスルケース4の内部に、変速機構8およびデファレンシャル37を一括して組み込んだ、いわゆるトランスアクスルを構成している。
上記のように構成されたハイブリッド車においては、車速およびアクセル開度などの条件に基づいて、前輪44に伝達するべき要求トルクが算出され、その算出結果に基づいて、エンジン1、クラッチ11、第1のモータジェネレータ6、第2のモータジェネレータ9が制御される。エンジン1から出力されるトルクを前輪に伝達する場合は、クラッチ11が係合される。すると、クランクシャフト2の動力(言い換えればトルク)がインプットシャフト5を介してキャリヤ21に伝達される。
キャリヤ21に伝達されたトルクは、リングギヤ19、環状部材22、カウンタドライブギヤ23、カウンタドリブンギヤ35、カウンタシャフト34、ファイナルドライブピニオンギヤ36、デファレンシャル37を介して前輪44に伝達され、駆動力が発生する。また、エンジン1のトルクをキャリヤ21に伝達する際に、第1のモータジェネレータ6を発電機として機能させ、発生した電力を蓄電装置(図示せず)に充電することもできる。
さらに、第2のモータジェネレータ9を電動機として駆動させ、その動力を動力合成機構7に伝達することができる。第2のモータジェネレータ9の動力がMGシャフト45を介してギヤ46に伝達されると、ギヤ46の回転速度が減速されて環状部材22に伝達される。すなわち、第2のモータジェネレータ9のトルクが増幅されて動力合成機構7に伝達される。このようにして、エンジン1の動力および第2のモータジェネレータ9の動力が動力合成機構7に入力されて合成され、合成された動力が前輪44に伝達される。つまり、動力合成機構7は、エンジン1の動力、あるいは、第2のモータジェネレータ9の動力のうち少なくともいずれか一方を前輪44に伝達する。
次に、動力伝達装置100における各軸の配置について説明する。図2は、動力伝達装置100における各軸の配置の一例について説明するための図である。図3は、本実施形態の動力伝達装置100の各軸の配置を示す図である。図2および図3には、エンジン1側と反対側(エンドカバー72側)から見た動力伝達装置100の断面図が示されている。
まず、図2を参照して各軸の回転方向について説明する。各軸5,45,43,34の回転方向は、図2に矢印A3からA6でそれぞれ示した方向である。インプットシャフト5の回転方向は、図2において反時計方向(矢印A3)である。これに対応して、カウンタシャフト34およびMGシャフト45は、それぞれ時計方向(矢印A6,A4)に回転する。フロントドライブシャフト43は、インプットシャフト5と同じ反時計方向(矢印A5)に回転する。つまり、フロントドライブシャフト43は、中心軸線C5の下方において図2の右方向に回転し、カウンタシャフト34は、中心軸線C6の下方において図2の左方向に回転する。言い換えると、フロントドライブシャフト43の回転方向とカウンタシャフト34の回転方向とが、それぞれの中心軸線よりも下方の領域で互いに離間する方向である。なお、図示の回転方向は、車両の前進時のものである。また、本実施形態の説明における上下方向とは、特にことわりのない限り、車両に搭載された状態における上下方向(鉛直方向)を意味している。
動力伝達装置100内において、図2に示すように、カウンタシャフト34を下方に配置することが検討されている。具体的には、カウンタシャフト34の中心軸線C6は、インプットシャフト5の中心軸線C3よりも下方に位置している。また、カウンタシャフト34の中心軸線C6は、インプットシャフト5の中心軸線C3とフロントドライブシャフト43の中心軸線C5とを結ぶ仮想線L4よりも下方に位置している。さらに、フロントドライブシャフト43の中心軸線C5と比較して、カウンタシャフト34の中心軸線C6は、わずかに下方に位置している。このように、カウンタシャフト34を下方に配置することで、各軸をコンパクトに配置することができる。例えば、MGシャフト45をインプットシャフト5を基準としてその斜め上方に配置した場合、言い換えると、MGシャフト45の中心軸線C4の位置を、仮想線L4の上方の領域で、かつ、インプットシャフト5の中心軸線C3よりも上方とした場合である。MGシャフト45の配置を例えば上記のように設定することにより、各軸をコンパクトに配置することができる。
しかしながら、この場合、第2のモータジェネレータ9がカウンタドライブギヤ23を駆動する場合(アシスト時を含む力行時)において、カウンタドライブギヤ23に中心軸線C3と直交する方向に作用する力(荷重)が、大きなものとなってしまう。符号F1は、第2のモータジェネレータ9がカウンタドライブギヤ23を駆動する場合において、ギヤ46からカウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力を示している。符号F2は、第2のモータジェネレータ9がカウンタドライブギヤ23を駆動する場合において、カウンタドリブンギヤ35からカウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力を示している。
図2に示すように、ギヤ46から作用する力F1の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F2の向きとが、ほぼ同じ方向となっている。言い換えると、ギヤ46から作用する力F1と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F2のそれぞれの向きが、互いに足し合わされる位置関係となる。このため、2つの力F1,F2の合力が大きなものとなり、カウンタドライブギヤ23に対して、中心軸線C3と直交する方向に大きな力が働くこととなる。特に、ハイブリッドシステムの特性として、第2のモータジェネレータ9の出力トルクが、エンジン1の出力トルクと比較して大きい(例えば、エンジン1のトルクの数倍)ため、第2のモータジェネレータ9の力行時に作用する二つの力F1,F2の向きがほぼ同方向となった場合には、強度や剛性に与える影響が大きい。
中心軸線C3と直交する方向に大きな力が働くことにより、カウンタドライブギヤ23(動力合成機構7)を支持するシャフト、軸受、トランスアクスルケース4への入力荷重が大きくなり、カウンタドライブギヤ23のミスアライメントが生じるなどの虞がある。また、シャフト、軸受、トランスアクスルケース4の十分な強度を確保するために動力伝達装置100が大型化してしまう。
これに対して、本実施形態の動力伝達装置100では、図3に示すように、MGシャフト45が、インプットシャフト5の下方に配置されている。具体的には、MGシャフト45の中心軸線C4は、インプットシャフト5の中心軸線C3よりも下方に位置している。これにより、第2のモータジェネレータ9がカウンタドライブギヤ23を駆動する場合において、図3に示すように、ギヤ46からカウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力F3と、カウンタドリブンギヤ35からカウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力F4とが、互いにキャンセルする(打ち消しあう)。言い換えると、ギヤ46から作用する力F3と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4との合力の大きさは、MGシャフト45をインプットシャフト5よりも上方に配置する場合の力F1,F2の合力と比較して低減する。
また、ギヤ46から作用する力F3の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとのなす角度を考慮して、カウンタシャフト34とMGシャフト45とを配置してもよい。
図4は、MGシャフト45のギヤ46から作用する力F3の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとのなす角度を示す図である。例えば、ギヤ46から作用する力F3の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとのなす角度αが鈍角となるように、カウンタドライブギヤ23(動力合成機構7)を基準としたカウンタシャフト34の中心軸線C6とMGシャフト45の中心軸線C4との相対位置を設定することができる。ギヤ46から作用する力F3の向き、および、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きは、それぞれカウンタドライブギヤ23の圧力角や捩れ角等によって決まる。このため、カウンタドライブギヤ23の圧力角や捩れ角に基づいて、上記相対位置を決定することができる。なお、カウンタドライブギヤ23(動力合成機構7)を基準としたカウンタシャフト34の中心軸線C6とMGシャフト45の中心軸線C4との相対位置は、インプットシャフト5の中心軸線C3とMGシャフト45の中心軸線C4とを結ぶ仮想線L5と、インプットシャフト5の中心軸線C3とカウンタシャフト34の中心軸線C6とを結ぶ仮想線L6とのなす角度θとして定めることができる。
ギヤ46から作用する力F3の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとのなす角度αを180度に近づける(略反対方向とする)ように、カウンタシャフト34とMGシャフト45とを配置した場合には、より効果的にギヤ46から作用する力F3と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4とをキャンセルさせることができる。
特に、ギヤ46から作用する力F3の向きと、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとを互いに正反対の向きとした(上記角度αが180度)場合には、力F3,F4の合力を最小とすることが可能である。すなわち、カウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力を最小とすることができる。
カウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力が低減することにより、第2のモータジェネレータ9がカウンタドライブギヤ23を駆動する力行時において、カウンタドライブギヤ23とギヤ46やカウンタドリブンギヤ35との間のミスアライメントを低減させることができる。よって、ギヤ23,35,46の歯元強度の向上や、ギヤノイズの低減などの効果を奏することができる。ギヤノイズの低減により、エンジン1を停止させて第2のモータジェネレータ9で車両を駆動する場合の車室内の静粛性を向上させることができる。また、MGシャフト45がインプットシャフト5の下方に配置されていることにより、トランスアクスルの小型化ができる。
本実施形態の動力伝達装置100では、インプットシャフト5とMGシャフト45とが別軸とされている。軸方向の全長を短くするなど、動力伝達装置100の小型化を図るなどの目的により、カウンタドライブギヤ23やギヤ46が片持ち支持(軸方向の両側のうち片側のみが支持される)の状態とされたり、軸方向の両側の支持点のうち、一方の支持点に近い位置で荷重が入力されたりすることがある。この場合、カウンタドライブギヤ23や、カウンタドライブギヤ23を支持するシャフトあるいは支持部等の強度および剛性への影響が大きくなる。よって、カウンタドライブギヤ23に対して作用する中心軸線C3と直交する方向の力を低減可能とする、本実施形態のシャフト5,34,45の配置が特に有効である。
なお、本実施形態では、インプットシャフト5の回転方向A3において、MGシャフト45が、カウンタシャフト34よりも上流側に配置されているが、MGシャフト45とカウンタシャフト34との位置関係は、これには限定されない。インプットシャフト5の回転方向A3において、MGシャフト45がカウンタシャフト34よりも下流側に配置されてもよい。なお、以下に説明するように、インプットシャフト5の回転方向A3において、MGシャフト45を、カウンタシャフト34よりも上流側に配置した場合には、より効果的にギヤ46から作用する力F3と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4とをキャンセルさせることが可能である。
ギヤ46から作用する力F3の方向と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の方向は、ギヤの噛み合う部分を起点として、それぞれ接線方向に対してカウンタドライブギヤ23の圧力角の分だけ径方向内方寄りの向きとなる。例えば、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の場合について説明すると、インプットシャフト5の中心軸線C3とカウンタシャフト34の中心軸線C6とを結ぶ仮想線L6と、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きとのなす角度δは、直角よりも圧力角の分だけ小さな角度となる。
このため、ギヤ46から作用する力F3の向きがカウンタシャフト34へ向かう方向となり、かつ、カウンタドリブンギヤ35から作用する力F4の向きがMGシャフト45へ向かう方向となる軸配置の場合、すなわち、インプットシャフト5の回転方向A3において、MGシャフト45が、カウンタシャフト34よりも上流側に配置されている場合に、力F3,F4の向きを互いに相反する方向(略反対方向)とし、力F3,F4を効果的にキャンセルさせることが容易となる。特に、MGシャフト45とカウンタシャフト34とをカウンタドライブギヤ23の周方向において隣接して配置した場合には、十分に力F3,F4をキャンセルさせることができる。
次に、図5を参照して、本実施形態の動力伝達装置100における潤滑油の供給方法について説明する。図5には、エンジン1側から見た動力伝達装置100の断面図が示されている。
本実施形態の動力伝達装置100では、トランスアクスルケース4内の下部に溜まった潤滑油は、ファイナルリングギヤ39で掻き揚げられて(矢印Y2参照)トランスアクスルケース4内の上部に設けられた3つのオイルキャッチタンク51,52,53に送られる。言い換えると、オイルキャッチタンク51,52,53は、回転するファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油を貯留する。オイルキャッチタンク51,52,53からは、トランスアクスルケース4内の潤滑箇所(被潤滑部)や冷却箇所に向けて適宜の流量で潤滑油が滴下される。オイルキャッチタンク51,52,53は、トランスアクスルケース4内に形成された軸方向と交差(直交)する内壁(ケースカバー78や隔壁79等)と、内壁から軸方向に突出するリブとで構成される。
オイルキャッチタンク51,52,53は、トランスアクスルケース4におけるファイナルリングギヤ39の外周部に対向する壁面4aに沿ってそれぞれ配置されている。オイルキャッチタンク51,52,53のうち、第一オイルキャッチタンク(第一貯留部)51は、最も下方に位置し、第三オイルキャッチタンク53は、最も上方に位置する。言い換えると、第一オイルキャッチタンク51がファイナルリングギヤ39の外周部に最も近く、第三オイルキャッチタンク53が、ファイナルリングギヤ39の外周部から最も遠い。第二オイルキャッチタンク52は、第一オイルキャッチタンク51と第三オイルキャッチタンク53との中間に位置する。
第一収容室G4には、ファイナルリングギヤ39を収容するデフ室(出力軸室)55と、カウンタドリブンギヤ35およびファイナルドライブピニオンギヤ36を収容するカウンタ室56と、図示しないポンプが接続されたストレーナ室57とが形成されている。デフ室55に溜まった潤滑油は、上述したように、ファイナルリングギヤ39に送り出されてオイルキャッチタンク51,52,53に送られる。オイルキャッチタンク51,52,53に送られた潤滑油は、オイルキャッチタンク51,52,53からトランスアクスルケース4内の各部に供給される。第一オイルキャッチタンク51からは、インプットシャフト5やMGシャフト45に潤滑油が供給される。第二オイルキャッチタンク52からは、隔壁79の裏側に設けられた後述する第四オイルキャッチタンク54へ潤滑油が供給される。また、第三オイルキャッチタンク53からは、第1のモータジェネレータ6へ潤滑油が供給される。
ストレーナ室57は、カウンタシャフト34よりもフロントドライブシャフト43側と反対側に設けられている。言い換えると、ストレーナ室57は、カウンタシャフト34を挟んでデフ室55とは反対側に形成されている。デフ室55とストレーナ室57とは、潤滑油の通路である第一通路58により接続されている。第一通路58は、カウンタドリブンギヤ35とトランスアクスルケース4の底部4bとの間に形成されている。第一通路58は、トランスアクスルケース4の内壁面と、隔壁79とにより形成されている。
トランスアクスルケース4内には、カウンタドリブンギヤ35と第一通路58との間を仕切る仕切り部材59が設けられている。仕切り部材59は、カウンタドリブンギヤ35の周方向に沿って設けられている。周方向における仕切り部材59の設置範囲は、カウンタシャフト34の中心軸線C6の下方(鉛直方向下方)の位置を含む。仕切り部材59よりもカウンタドリブンギヤ35の径方向の内方には、カウンタ室56が形成されている。カウンタ室56と第一通路58とが仕切り部材59により仕切られていることにより、第一通路58からカウンタ室56へ潤滑油が流入することが抑制されている。これにより、カウンタドリブンギヤ35の攪拌抵抗を低減することができる。つまり、カウンタシャフト34をインプットシャフト5の下方に配置することによるトランスアクスルの小型化を実現しつつ、カウンタドリブンギヤ35の攪拌抵抗を低減することができる。
第一通路58の断面積は、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3をデフ室55の動的オイルレベルLv1よりも高く維持する絞り作用が生じるように調整されている。なお、動的オイルレベルとは、動力伝達装置100が作動しているとき(走行中)の潤滑油の液面の高さ方向(上下方向)の位置である。仕切り部材59におけるストレーナ室57側の端部59aの鉛直方向の位置は、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3よりも上方に設定されている。これにより、ストレーナ室57からカウンタ室56へ潤滑油が流入することが抑制されている。
また、第二収容室G3には、図3に示すように、第四オイルキャッチタンク(第二貯留部)54が設けられている。第四オイルキャッチタンク54は、第2のモータジェネレータ9の上方に配置されている。第四オイルキャッチタンク54は、トランスアクスルケース4内に形成された軸方向と交差する内壁(隔壁79等)と、内壁から軸方向に突出するリブとで構成される。図3および図5に示すように、第二オイルキャッチタンク52と、第四オイルキャッチタンク54とは、連通路60で連通されている。連通路60は、隔壁79に形成されている。連通路60を介して、第二オイルキャッチタンク52から第四オイルキャッチタンク54へ潤滑油が供給される。
第四オイルキャッチタンク54から第2のモータジェネレータ9の外周部(ステータ25)へ潤滑油が供給(垂れ掛け油冷)される。第2のモータジェネレータ9へ供給された潤滑油は、第2のモータジェネレータ9の外周部に沿って、軸方向および周方向に向けて流れ、第2のモータジェネレータ9を冷却する。本実施形態では、MGシャフト45がインプットシャフト5の下方に配置されていることにより、第2のモータジェネレータ9の冷却が容易となる。MGシャフト45がインプットシャフト5の上方に配置されている場合には、ファイナルリングギヤ39から上方に送り出される潤滑油では十分に第2のモータジェネレータ9を冷却することが困難な場合がある。これに対して、本実施形態では、MGシャフト45がインプットシャフト5の下方に配置されているため、第2のモータジェネレータ9に対して容易に十分な量の潤滑油を供給することができる。
第二収容室G3と、デフ室55とは、第二通路61で連通されている。第二通路61は、隔壁79に形成されており、隔壁79を軸方向に貫通している。第二通路61は、隔壁79の下部に形成されており、第二収容室G3の下部に落下した潤滑油は、第二通路61を介してデフ室55へ流入する。第二通路61の断面積は、第二収容室G3の動的オイルレベルLv4が、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3よりも低くなるように設定されている。これは、次のような理由による。
上記のように、MGシャフト45がインプットシャフト5よりも下方に配置される場合、MGシャフト45の冷却が容易となるものの、第二のモータジェネレータ9が第二収容室G3内に溜まった潤滑油に浸かった状態となりやすい。第2のモータジェネレータ9のロータ26が潤滑油に浸かった場合、ロータ26による潤滑油の攪拌、ロータ26とステータ25との隙間における潤滑油のせん断等により、第2のモータジェネレータ9の伝達効率が低下したり、潤滑油が発熱してオイルレベルが上昇しすぎたりするといった問題が生じる。こうした問題に対して、潤滑油のオイルレベルを下げようとすると、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3が低下しすぎてストレーナ室57に接続されたポンプでエア吸いが生じるなど、背反する課題が存在する。
これに対して、本実施形態によれば、第二収容室G3の動的オイルレベルLv4が、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3よりも低くされる。デフ室55とストレーナ室57とを接続する第一通路58と、デフ室55と第二収容室G3とを接続する第二通路61とが独立しており、第一通路58の断面積および第二通路61の断面積により、第二収容室G3の動的オイルレベルLv4と、ストレーナ室57の動的オイルレベルLv3とがそれぞれ調節される。これにより、第2のモータジェネレータ9による潤滑油の攪拌防止と、ストレーナ室57に接続されたポンプのエア吸いの防止とを両立することができる。
また、本実施形態では、図3に示すように、第四オイルキャッチタンク54の底部54aは、第2のモータジェネレータ9の外周部に沿っている。第四オイルキャッチタンク54の底部54aは、第2のモータジェネレータ9のステータ25の外周部に対応する形状に形成され、かつ、ステータ25に近接して(例えば、ステータ25に接して)いる。第四オイルキャッチタンク54の底部54aが、ステータ25に近接していることにより、貯留された潤滑油に接して低温となった第四オイルキャッチタンク54の底部54aにより、第2のモータジェネレータ9を冷却することができる。また、例えば、第四オイルキャッチタンク54から潤滑油を流して、ステータ25と第四オイルキャッチタンク54の底部54aとの間に潤滑油を充たすことにより、ステータ25と第四オイルキャッチタンク54との間の熱抵抗を低減し、第2のモータジェネレータ9に対する冷却効果をさらに上げることができる。
図6は、第二収容室G3の下部を示す図である。
第二収容室G3において、第2のモータジェネレータ9のステータ25の下部には、油溜り62が設けられている。油溜り62は、ロータ26よりも鉛直方向下方に設けられている。トランスアクスルケース4の底部4bには、油溜り62を構成する第一油溜り構成部63および第二油溜り構成部64が形成されている。第一油溜り構成部63は、トランスアクスルケース4の底部4bから突出し、ステータ25の外周部における車両前方側の部分に沿う形状に形成されている。第二油溜り構成部64は、トランスアクスルケース4の底部4bから突出し、ステータ25の外周部における車両後方側の部分に沿う形状に形成されている。油溜り構成部63,64により、ステータ25の下部を収容する油溜り62が構成されている。言い換えると、油溜り62は、ステータ25と、ステータ25に隣接して設けられた油溜り構成部63,64とで構成されている。
第四オイルキャッチタンク54(図3参照)から第2のモータジェネレータ9に供給された潤滑油は、ステータ25等に沿って流れ、油溜り62に流入する。油溜り62に貯留される潤滑油により、ステータ25が冷却される。油溜り62に貯留される潤滑油にステータ25が浸かった状態とすることで、効率よくステータ25を冷却することができる。
また、油溜り62のオイルレベルLv5が、第2のモータジェネレータ9のロータ26まで上昇することを抑制できるように、油溜り構成部63,64が形成されている。第一油溜り構成部63における周方向の端部(上端部)63a、および、第二油溜り構成部64における周方向の端部(上端部)64aは、それぞれロータ26の下端部26aよりも下方に位置している。これにより、油溜り62のオイルレベルLv5が油溜り構成部63,64の端部63a,64aに達すると、端部63a,64aを越えて潤滑油が排出される。よって、油溜り62のオイルレベルLv5がロータ26まで上昇することが抑制される。言い換えると、油溜り構成部63,64は、油溜り62のオイルレベルLv5がロータ26まで上昇することを抑制する抑制手段として機能している。
油溜り62から前方側および後方側にそれぞれ潤滑油を溢れさせることで、登降坂時や加減速時における車体の前後方向の傾きにも対応して油溜り62のオイルレベルLv5がロータ26に達することを抑制できる。その結果、ステータ25に対する冷却効果を高めつつ、ロータ26による潤滑油の攪拌、ロータ26とステータ25との隙間における潤滑油のせん断等に起因する、第2のモータジェネレータ9の伝達効率の低下や、潤滑油の発熱といった問題の発生を抑制することができる。
また、トランスアクスルケース4には、油溜り62の前方側と後方側とを連通する連通路67が形成されている。油溜り62から前方へ溢れた潤滑油は、連通路67を介して油溜り62の後方へ流れる。これにより、第二収容室G3の動的オイルレベルLv4を調節(上昇を抑制)することができる。
また、図5に示すように、第一オイルキャッチタンク51は、ファイナルリングギヤ39に連れ回る潤滑油を剥ぎ取るオイル剥ぎ取りリブ51aを有する。第一オイルキャッチタンク51は、ファイナルリングギヤ39の上方に配置されている。第一オイルキャッチタンク51の底部51bは、ファイナルリングギヤ39の外周部に沿う形状(断面円弧状)に形成され、かつ、下方に向けて突出している。オイル剥ぎ取りリブ51aは、底部51bにおけるファイナルリングギヤ39の回転方向A5の上流側(後方側)の端部に形成されている。言い換えると、第一オイルキャッチタンク51における潤滑油の流入口には、車両の前進時におけるファイナルリングギヤ39の回転方向A5と反対方向に突出する突出部としてのオイル剥ぎ取りリブ51aが形成され、オイル剥ぎ取りリブ51aの先端部は、ファイナルリングギヤ39に近接している。
オイル剥ぎ取りリブ51aは、ファイナルリングギヤ39の外周部に近接して設けられている。また、オイル剥ぎ取りリブ51aは、先端へ向かうほどファイナルリングギヤ39の径方向の厚さが小さくなるテーパ形状をなしている。ファイナルリングギヤ39の外周部に付着し、ファイナルリングギヤ39と共に回転する潤滑油は、オイル剥ぎ取りリブ51aによりファイナルリングギヤ39の外周部から剥ぎ取られる。言い換えると、ファイナルリングギヤ39の外周部に付着している潤滑油の一部が、オイル剥ぎ取りリブ51aによってファイナルリングギヤ39から離され、オイル剥ぎ取りリブ51aに沿って第一オイルキャッチタンク51内へ流入する。オイル剥ぎ取りリブ51aは、ファイナルリングギヤ39の外周部に付着してファイナルリングギヤ39の周方向に運動する潤滑油の運動方向を、径方向の外方へ向かう方向(ファイナルリングギヤ39から径方向に遠ざかる方向)に変更する変更手段、あるいは整流手段として機能する。
動力伝達装置100において、車両停止状態におけるオイルレベル(静的オイルレベル)は、デファレンシャル37(図1参照)やフロントドライブシャフト43挿入部のオイルシールが潤滑油に浸かるように設定される。この場合、本実施形態のように、MGシャフト45がインプットシャフト5の下方に配置されていると、車両停止状態において、第2のモータジェネレータ9が潤滑油に浸かることとなる。第2のモータジェネレータ9における攪拌損失を低減し、燃費を向上させるためには、極力低車速で(走行開始後短時間で)ロータ26が潤滑油に浸からなくなるまで第二収容室G3の動的オイルレベルLv4を下げられることが望ましい。
本実施形態では、低車速の走行状態、言い換えると、潤滑油に作用する遠心力が小さく、ファイナルリングギヤ39によって潤滑油を径方向外方に飛ばすことができないため、潤滑油がファイナルリングギヤ39にまとわりついている走行状態においても、ファイナルリングギヤ39から潤滑油を剥ぎ取り、第一オイルキャッチタンク51に潤滑油を送ることができる。これにより、デフ室55および第二収容室G3の動的オイルレベルLv1,Lv4を速やかに低下させることができる。その結果、低車速の走行状態で第2のモータジェネレータ9における攪拌損失等を低減させ、燃費を向上させることができる。また、デフ室55の動的オイルレベルLv1が低下することにより、カウンタドリブンギヤ35の攪拌損失を低減させることができる。
上述したように、第一オイルキャッチタンク51からは、インプットシャフト5およびMGシャフト45にそれぞれ潤滑油が供給される。低車速の走行状態においてもファイナルリングギヤ39からオイル剥ぎ取りリブ51aを介して第一オイルキャッチタンク51に潤滑油が送られるため、低車速で、かつエンジン負荷が高い条件でも適切にインプットシャフト5に潤滑油を供給できる。よって、従来の動力伝達装置では必要とされたオイルポンプ(エンジン1の動力で駆動されて潤滑油を送るポンプ)の設置を廃止することが可能となる。また、例えば急坂路を走行する場合など、低車速で第2のモータジェネレータ9の負荷が高く、熱的に厳しい条件においても、第一オイルキャッチタンク51からMGシャフト45に潤滑油を供給し、軸心を冷却することができる。
車速が増すに連れて、ファイナルリングギヤ39によって送り出される潤滑油は、第一オイルキャッチタンク51よりも上方の第二オイルキャッチタンク52、さらに上方の第三オイルキャッチタンク53へ流入するようになる。中車速の走行状態では、第二オイルキャッチタンク52から第四オイルキャッチタンク54を経て第2のモータジェネレータ9の上方から潤滑油が掛けられる。よって、MGシャフト45の軸芯油冷に加えて、上方からの垂れ掛け油冷が追加され、第2のモータジェネレータ9に対する冷却性能が向上する。第1のモータジェネレータ6の熱的な条件が厳しくなる高車速の走行状態では、第三オイルキャッチタンク53から供給される潤滑油により、第1のモータジェネレータ6を冷却することができる。このように、高さ方向の位置が互いに異なる複数のオイルキャッチタンクを設け、潤滑油が流入する際の車速領域と、潤滑油の供給が必要となる際の車速領域とが互いに対応するオイルキャッチタンクと潤滑箇所とを接続しておくことにより、特別な制御を必要とすることなく、車速に応じて適切な箇所に潤滑油の供給を行うことができる。
本実施形態では、フロントドライブシャフト43が、インプットシャフト5よりも下方に配置されている。すなわち、カウンタシャフト34、フロントドライブシャフト43、およびMGシャフト45が、全てインプットシャフト5よりも下方に配置されている。これにより、動力伝達装置100を小型化できる。
インプットシャフト5の上方には、インバータ65が設けられている。インバータ65は、トランスアクスルと一体化して配置されている。インバータ65は、モータジェネレータ6,9とバッテリー(図示せず)との間に設けられ、直流電力と交流電力との変換を行うものである。カウンタシャフト34、フロントドライブシャフト43、およびMGシャフト45が、全てインプットシャフト5よりも下方に配置されているため、従来と比較して、トランスアクスルの体格の増加を抑制しつつ、インバータ65をトランスアクスルと一体化してインプットシャフト5の上方に配置できる。
例えば、図7に示すように、第2のモータジェネレータ9の上方の空間を有効利用して、インバータ65を配置することができる。図7は、動力伝達装置100の側面図である。MGシャフト45がインプットシャフト5よりも下方に配置されているため、第2のモータジェネレータ9の上方にスペースを確保してインバータ65を配置することが可能となる。よって、車両を大幅に改造することなく、インバータ65と一体化されたトランスアクスルを搭載することが可能となる。
(第1実施形態の第1変形例)
第1実施形態の第1変形例について説明する。
上記第1実施形態では、オイル剥ぎ取りリブ51aは、ファイナルリングギヤ39の外周部に付着した潤滑油を剥ぎ取るものであった。本変形例のオイル剥ぎ取りリブ151では、これに加えて、ファイナルリングギヤ39の側面に付着した潤滑油を剥ぎ取ることが可能である。
図8は、本変形例のオイル剥ぎ取りリブを示す斜視図である。
図8に示すように、本変形例のオイル剥ぎ取りリブ151は、ファイナルリングギヤ39の外周部と対向する外周部構成部151aと、外周部構成部151aと接続され、ファイナルリングギヤ39の側面と対向する側面部構成部151bと、側面部構成部151bと接続され、潤滑油の流路として機能する油路構成部151cとを有する。
外周部構成部151aは、ファイナルリングギヤ39の外周部に沿って形成されており、外周部構成部151aにおけるファイナルリングギヤ39の回転方向A5の下流側の端部151dは、ファイナルリングギヤ39の外周部に近接している。ファイナルリングギヤ39の外周部に付着した潤滑油は、外周部構成部151aにより剥ぎ取られて第一オイルキャッチタンク51に流入する。
側面部構成部151bは、ファイナルリングギヤ39の側面に近接しており、側面に沿って形成されている。ファイナルリングギヤ39の側面に付着した潤滑油は、側面部構成部151bにより剥ぎ取られる。油路構成部151cは、側面部構成部151bの下端部に接続されており、側面部構成部151bからファイナルリングギヤ39の軸方向に向けて図示しないトランスアクスルケース4の内壁面まで伸ばされている。側面部構成部151bによりファイナルリングギヤ39から剥ぎ取られた潤滑油は、側面部構成部151b、および油路構成部151cに沿って流れ、第一オイルキャッチタンク51に流入する。
本変形例によれば、ファイナルリングギヤ39の外周部に付着した潤滑油のみならず、側面に付着した潤滑油をオイル剥ぎ取りリブ151によりファイナルリングギヤ39から離間させ、第一オイルキャッチタンク51に流入させることができる。よって、低車速の走行状態であっても、より速やかにデフ室55および第二収容室G3の動的オイルレベルLv1,Lv4を低下させることができる。
(第1実施形態の第2変形例)
第1実施形態の第2変形例について説明する。
上記第1実施形態では、第四オイルキャッチタンク54の底部54aを第2のモータジェネレータ9のステータ25に近接させることで、ステータ25に対する冷却効果を高めたが、これに代えて、あるいは、これに加えて、第四オイルキャッチタンク54の底部54aの一部をステータ25で構成することができる。第四オイルキャッチタンク54に貯留される潤滑油が直接ステータ25に接することにより、ステータ25に対する冷却効果をさらに高めることが可能である。
図9は、本変形例に係る装置の断面図である。
図9に示すように、本変形例では、第四オイルキャッチタンク54の底部54aの一部が、ステータ25の外周部で構成されている。底部54aには、開口部54bが形成され、開口部54bにステータ25が嵌合している。言い換えると、ステータ25が開口部54bを閉塞している。これにより、第四オイルキャッチタンク54に貯留される潤滑油は、ステータ25に接触し、ステータ25を直接冷却することができる。また、開口部54bとステータ25の外周部との間に隙間を設けることにより、この隙間から潤滑油をステータ25に供給するようにしてもよい。この場合、容易にステータ25の外周部の広範囲に潤滑油を流すことができる。
(第2実施形態)
図10から図12を参照して、第2実施形態について説明する。第2実施形態については、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
本実施形態では、上記第1実施形態に加えて、オイルキャッチタンクの潤滑油を冷却する冷却装置が設けられている。冷却装置において、冷却水を流す通路は、トランスアクスルケース4とは別体の部材で構成されている。これにより、鋳造不良の発生によるコストの増加を低減することができる。
図10は、本実施形態に係る動力伝達装置100を示す図である。図10には、図3と同様に、エンジン1側と反対側(エンドカバー72側)から見た動力伝達装置100の断面図が示されている。図11は、エンジン1側から見た動力伝達装置100の断面図である。図12は、動力伝達装置100の側面図である。
図10において、符号154は、第二収容室G3に設けられた第四オイルキャッチタンクを示す。上記第1実施形態の第四オイルキャッチタンク54と同様に、第四オイルキャッチタンク154は、トランスアクスルケース4内に形成された軸方向と交差する内壁(隔壁79等)と、内壁から軸方向に突出するリブとで構成される。第四オイルキャッチタンク154には、潤滑油を冷却する冷却装置80が設けられている。冷却装置80は、中間プレート(冷却装置構成部材)81と、ウォータージャケットカバー82と、オイルレベル調整リブ(調整手段)83を含んで構成されている。
中間プレート81は、第四オイルキャッチタンク154の上部に配置され、第四オイルキャッチタンク154の上部の開口部を閉塞している。ウォータージャケットカバー82は、中間プレート81の上部に配置される。言い換えると、ウォータージャケットカバー82は、中間プレート81における潤滑油側と反対側に配置される。中間プレート81およびウォータージャケットカバー82は、ボルト85によりトランスアクスルケース4に共締めされている。中間プレート81とトランスアクスルケース4との合わせ面において、潤滑油がシールされている。また、中間プレート81とウォータージャケットカバー82との合わせ面において、冷却水がシールされている。
ウォータージャケットカバー82は、上方に向けて突出する凸形状に形成されており、中間プレート81とウォータージャケットカバー82との間には、ウォータージャケット(冷却水の通路)84が形成されている。ウォータージャケット84には、図示しない冷却水の供給通路および排出通路がそれぞれ接続されている。
中間プレート81における潤滑油側の面には、潤滑油へ向けて(下方に)突出する潤滑油側突出部81aが所定の間隔で複数形成されている。一方、中間プレート81における潤滑油側と反対側の面には、ウォータージャケットカバー82へ向けて突出する冷却水側突出部81bが所定の間隔で複数形成されている。冷却水側突出部81bが設けられていることにより、冷却水と中間プレート81との熱交換が効率的に行われる。また、第四オイルキャッチタンク154には、中間プレート81へ向けて突出するオイルレベル調整リブ83が形成されている。オイルレベル調整リブ83の先端(上端)は、潤滑油側突出部81aの下端(符号Lv7参照)よりも上方に位置している。言い換えると、鉛直方向における潤滑油側突出部81aの設置領域と、オイルレベル調整リブ83の設置領域とが重なっている。
これにより、連通路60を介して第二オイルキャッチタンク52から潤滑油が流入すると、オイルレベル調整リブ83よりも連通路60側の部分に潤滑油が貯留される。第四オイルキャッチタンク154のオイルレベルLv6は、潤滑油側突出部81aまで上昇することができる。これにより、中間プレート81と潤滑油との間で効果的に熱交換が行われる。オイルレベルLv6がさらに上昇すると、オイルレベル調整リブ83を超えて連通路60側と反対側にオーバーフローする。第四オイルキャッチタンク154の上部(中間プレート81の下方)に空気や潤滑油の泡が溜まると、中間プレート81と潤滑油との間の熱抵抗が大きなものとなり、効果的に潤滑油を冷却することができない。本実施形態では、第四オイルキャッチタンク154の上部に溜まった空気や潤滑油の泡は、オイルレベル調整リブ83から溢れて、第四オイルキャッチタンク154の下部に形成された排出口からトランスアクスルケース4内(空気室)に排出される。従って、中間プレート81によって効果的に潤滑油を冷却することができる。なお、潤滑油の冷却効率を高める観点からは、潤滑油側突出部81aに潤滑油が多く接するように、オイルレベル調整リブ83をできるだけ高くする(中間プレート81とオイルレベル調整リブ83の上端との間隔を小さくする)ことが好ましい。
また、図11および図12を参照して説明するように、第一収容室G4には、第二オイルキャッチタンク52の動的なオイルレベルLv8が潤滑油側突出部81aの下端(符号Lv7参照)を超えるように調整するオイルレベル調整リブ86、87が設けられている。オイルレベル調整リブ86,87は、第二オイルキャッチタンク52の側壁を構成するリブであり、トランスアクスルケース4内の互いに対向する内壁(図12の符号88参照)を接続している。内壁88と、オイルレベル調整リブ86,87とで第二オイルキャッチタンク52が構成されている。図11に示すように、オイルレベル調整リブ86,87の上端は、いずれも潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上方に位置している。よって、第二オイルキャッチタンク52の動的なオイルレベルLv8は、潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上昇することができる。従って、図12に示すように、第二オイルキャッチタンク52と連通路60を介して連通された第四オイルキャッチタンク154のオイルレベルLv6は、潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上昇することができる。
本実施形態では、オイルポンプ等で強制的に第四オイルキャッチタンク154に潤滑油を供給する方法とは異なり、ファイナルリングギヤ39で送り出された潤滑油を重力に頼って供給する方法であるが、オイルレベル調整リブ86,87が設けられていることにより、第四オイルキャッチタンク154のオイルレベルLv6を潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上昇させ、潤滑油と中間プレート81との間で効果的に熱交換させることができる。すなわち、第四オイルキャッチタンク154に潤滑油を供給するためのオイルポンプを設けることなく、効率的に潤滑油を冷却することができる。
本実施形態によれば、以下に説明するように、トランスアクスルケース4の鋳造不良の発生に伴うコストの増加を低減することができる。冷却水は、潤滑油と比較して低粘度であるため、ダイカスト部品の鋳巣等の鋳造欠陥部から漏れやすい。特に、トランスアクスルケース4のような大型のダイカスト部品では、鋳巣等の鋳造欠陥が発生しやすい。このため、ウォータージャケット84をトランスアクスルケース4と一体に形成する場合には、水漏れが生じた際にトランスアクスルケース4が不良品として廃却されることとなり、損失(コスト)が大きくなる。これに対して、本実施形態では、ウォータージャケット84は、トランスアクスルケース4とは別体の中間プレート81およびウォータージャケットカバー82で構成される。トランスアクスルケース4には冷却水を接触させず、小物部品である中間プレート81およびウォータージャケットカバー82によってウォータージャケット84を構成するため、鋳造不良発生によるコストの増加を低減することができる。
なお、従来のようにトランスアクスルケース4とウォータージャケットカバー82とでウォータージャケット84を構成する場合と比較して、中間プレート81を用いることで部品数は増加するものの、ボルト85で中間プレート81およびウォータージャケットカバー82が共締めされるため、ボルト85の締結数は増加しない。よって、トランスアクスルケース4の組付けコストの増大を最小限に抑えられる。
本実施形態では、第四オイルキャッチタンク154は、第2のモータジェネレータ9の上方に設けられている。ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油は、第四オイルキャッチタンク154でウォータージャケット84と熱交換し、重力により第2のモータジェネレータ9に滴下されて第2のモータジェネレータ9を冷却する。車両の走行に伴い、第2のモータジェネレータ9を適切に冷却することができるため、第2のモータジェネレータ9の強制冷却用のオイルポンプが不要となる。よって、動力伝達装置100の低コスト化・小型化・高効率化が可能となる。
本実施形態では、上記第1実施形態と同様に、カウンタシャフト34、フロントドライブシャフト43、およびMGシャフト45が、全てインプットシャフト5よりも下方に配置されている。よって、ファイナルリングギヤ39により送り出された潤滑油を第四オイルキャッチタンク154に溜めて第2のモータジェネレータ9を冷却することや、第四オイルキャッチタンク154の上方にウォータージャケット84を配置することに適した構造である。ハイブリッド車両以外の従来のトランスアクスルと同様な位置にマウント66(図10参照)を配置することができるため、ハイブリッド専用にプラットフォームを改造することなく、動力伝達装置100を車両に搭載することができる。
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の変形例について説明する。
上記第2実施形態では、第四オイルキャッチタンク154のオイルレベルLv6を調整する手段として、オイルレベル調整リブ83が設けられていた。本変形例では、オイルレベル調整リブ83に代えて、オイルレベル調整穴(図13の符号89参照)により第四オイルキャッチタンク154のオイルレベルLv6が調整される。
図13は、本変形例の冷却装置80を示す図である。
図13に示すように、第四オイルキャッチタンク154には、オイルレベル調整穴89が設けられている。オイルレベル調整穴89は、第四オイルキャッチタンク154の側壁に形成された穴であり、第四オイルキャッチタンク154の内部と外部とを連通している。オイルレベル調整穴89は、潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上方に設けられている。具体的には、オイルレベル調整穴89は、下端部89aが、潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上方となるように設けられている。
潤滑油が連通路60を介して第四オイルキャッチタンク154に供給されると、潤滑油側突出部81aの下端Lv7よりも上方まで潤滑油のオイルレベルLv6が上昇することができる。その際、第四オイルキャッチタンク154内の空気は、オイルレベル調整穴89から排出される。オイルレベルLv6がオイルレベル調整穴89に達すると、オイルレベル調整穴89から潤滑油や潤滑油の泡が排出される。よって、空気や潤滑油の泡が溜まって中間プレート81と潤滑油との間の熱抵抗が大きなものとなることを抑制し、効果的に潤滑油を冷却することができる。