JP2009090708A - 車両転舵制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ステアリングの収束性を向上させつつ、車両の収束性をも向上させる。
【解決手段】車両転舵制御装置(10)は、車両の乗員の操舵操作に応じた操舵トルク(MT)に基づいて基本アシスト操舵力(AT)を算出する第1算出手段(30)と、前輪(5、6)及び後輪(7、8)の夫々の横力(F、F)を取得する取得手段(30)と、後輪の横力に基づいて基本アシスト操舵力を低減させる第1の補正操舵力を算出し、且つ前輪の横力に基づいて基本アシスト操舵力を増大させる第2の補正操舵力を算出する第2算出手段(30)と、基本アシスト操舵力に対して第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の夫々を加算することで得られる目標アシスト操舵力(T)を付与する操舵力付与手段(10)とを備える
【選択図】図2

Description

本発明は、例えば車両のパワーステアリング(Power Steering)装置を制御するための車両転舵制御装置(パワーステアリング装置用制御装置)の技術分野に関する。
自動車等の車両において、ドライバー(乗員)によるステアリングの操作により加えられる操舵トルクに応じて電動モータを駆動することで、前輪を含むステアリング機構に操舵アシストトルクを付与する電動式パワーステアリング装置が使用されている。このような電動式パワーステアリング装置においては、特許文献1から3に記載されているように、車両のヨーレートを考慮して、適宜操舵アシストトルクを調整する技術がある。また、特許文献4に記載されているように、付与される操舵アシストトルクに応じて電動モータに供給される基本アシスト電流の目標値に対して、位相補償を行う(つまり、ダンピング制御を行なう)構成がある。この構成により、減衰(ダンピング)成分を考慮することができ、その結果、ステアリングの収束性を向上させることができる。
特開2005−193779号公報 特開2006−131064号公報 特開2006−160180号公報 特開2004−203112号公報
このように車両の収束性を向上させるためには、上記ダンピング制御を大きくする対策が考えられる。しかしながら、ダンピング制御を大きくすると、ドライバーによるハンドルの操舵感が悪化してしまう。より具体的には、ハンドルの操作において粘っこい印象を与えたり、ドライバーの思い通りに車両が旋回しないという印象を与えたりしてしまう。他方で、ダンピング制御を小さくすると、車両の特性(或いは、構造等)によっては、ステアリングの振動と車両のヨー振動とが互いに連成され、車両全体の収束性が悪化してしまいかねない。つまり、ステアリングの振動の位相と車両のヨー振動の位相とが逆相の関係になり、車両全体に与える振動を大きくしかねない。上述したヨーレートを考慮した各構成においても、ステアリングの振動と車両のヨー振動との練成を考慮していないため、係る技術的な問題点は解決されていない。
本発明は、例えば上述した従来の問題点に鑑みなされたものであり、例えばステアリングの収束性を向上させつつ、車両の収束性をも向上させることを可能とならしめる車両転舵制御装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の車両転舵制御装置は、車両の乗員の操舵操作に応じた操舵トルク及び操舵角の少なくとも一方に基づいて、前記操舵操作を補助するための基本アシスト操舵力を算出する第1算出手段と、前記車両の前輪及び後輪の夫々の横力を取得する取得手段と、前記後輪の横力に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第1の補正操舵力を算出し、且つ前記前輪の横力に基づいて前記基本アシスト操舵力を増大させる第2の補正操舵力を算出する第2算出手段と、前記基本アシスト操舵力に対して前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を加算することで得られる目標アシスト操舵力を前記車両に付与する操舵力付与手段とを備える。
本発明の車両転舵制御装置によれば、例えば電動モータ等を含んで構成される操舵力付与手段の動作により、第1算出手段により算出される基本アシスト操舵力がステアリング機構に付与される。基本アシスト操舵力は、典型的には、車両の乗員の操舵操作(つまり、ステアリング操作)に伴って検出される操舵トルクないしは操舵角に基づいて算出される操舵力(いわば、操舵操作を補助するためのベースとなる操舵力)である。これにより、車両の乗員の操舵操作が補助される。つまり、いわゆる電動式パワーステアリング装置(EPS:Electrical Power Steering)の動作が制御される。
本発明では特に、取得手段の動作により、車両の前輪及び後輪の夫々の横力が取得される。ここでは、典型的には、前輪及び後輪の横力の値が適当な周期でサンプリングされることで、前輪及び後輪の夫々の横力が取得される。尚、本発明における「前輪」とは、車両の進行方向に対して相対的に前方側に位置する車輪を示す趣旨であり、本発明における「後輪」とは、車両の進行方向に対して相対的に後方側に位置する車輪を示す趣旨である。典型的には、前輪が、アシスト操舵力が付与されることで転舵される転舵輪となるが、後輪が転舵輪となってもよい。
その後、第2算出手段の動作により、取得手段により取得された後輪の横力(例えば、後に詳述するように、後輪の横力の比例値及び後輪の横力の微分値)に基づいて、第1の補正操舵力が算出される。同様に、第2算出手段の動作により、取得手段により取得された前輪の横力(例えば、後に詳述するように、前輪の横力の比例値)に基づいて、第2の補正操舵力が算出される。第1の補正操舵力は、主として、第1算出手段により算出される基本アシスト操舵力を低減させるように作用する操舵力である。特に、後に詳述するように、第1の補正操舵力は、主として、例えば車両が旋回状態にある場合(特に、過渡旋回状態にある場合)において、車両のヨー振動を収束させる方向に転舵輪を転舵させるように作用する操舵力であることが好ましい。他方、第2の補正操舵力は、主として、第1算出手段により算出される基本アシスト操舵力を増大させるように作用する操舵力である。特に、後に詳述するように、主として、第2の補正操舵力は、例えば車両が旋回状態にある場合(特に、定常旋回状態にある場合)において、第1補正操舵力による基本アシスト操舵力の低減を補うために基本アシスト操舵力を増大させるように作用する操舵力であることが好ましい。そして、操舵力付与手段の動作により、基本アシスト操舵力に対して第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の夫々が加算されることで得られる目標アシスト操舵力がステアリング機構に付与される。言い換えれば、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力に基づく補正ないしは調整が基本アシスト操舵力に対して施された後に、補正ないしは調整された基本アシスト操舵力(つまり、目標アシスト操舵力)が実際にステアリング機構に付与される。
このように、本発明によれば、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力が基本アシスト操舵力に加算されることで得られる目標アシスト操舵力が付与される。このため、特に基本アシスト操舵力を低減させる第1の補正操舵力が基本アシスト操舵力に加算されることで、ステアリングの振動と車両のヨー振動との連成を好適に抑制することができる。つまり、上述したように、単に操舵トルクや操舵角に応じて算出される基本アシスト操舵力を付与しただけでは、特に過渡旋回状態において車両がヨー振動を起こしかねないところ、本発明ではこのような不都合が生ずることを好適に抑制することができる。従って、前輪の振動を好適に収束させることができ、その結果、車両の収束性を向上させることができる。加えて、本発明では、ダンピング制御を過度に大きくすることなく、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力により、ステアリングの振動と車両のヨー振動との連成を好適に抑制している。従って、ダンピング制御が過度に大きくなることに起因した操舵感の悪化が生ずる不都合を好適に抑制することができる。つまり、本発明によれば、上述の如く車両の収束性を向上させながらも、ステアリングの収束性をも向上させることができる。
他方で、例えば車両が定常旋回状態にある場合には、車両の挙動が安定しているため、ステアリングの振動と車両のヨー振動との連成が発生する可能性は低い。一方で、車両が定常旋回状態にある場合においても、ステアリングの振動と車両のヨー振動との練成を抑制するための(言い換えれば、基本アシスト操舵力を低減させる)第1の補正操舵力が加算されている。このため、単に第1の補正操舵力の加算によってステアリングの振動と車両のヨー振動との練成を抑制することのみを重視すれば、例えば車両が定常旋回状態にある場合には、操舵操作が重いと乗員が認識しかねない。しかるに、本発明によれば、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力(このうち、特に、基本アシスト操舵力を増大させる第2の補正操舵力)が基本アシスト操舵力に加算されることで得られる目標アシスト操舵力が付与される。このため、例えば車両が定常旋回状態にある場合において、操舵操作を補助するために付与される目標アシスト操舵力の低下を好適に抑制することができる。従って、例えば車両が定常旋回状態にある場合においても、乗員に操舵操作の違和感を認識させることは殆どない。
このように、本発明によれば、特に過渡旋回時において発生しやすいステアリングの振動と車両のヨー振動との連成の発生を好適に抑制しつつも(言い換えれば、車両の収束性及びステアリングの収束性を向上させつつも)、特に定常旋回時において発生しやすい操舵力の不足を好適に補うことができる。
本発明の車両転舵制御装置の一の態様では、前記第2算出手段は、前記車両が定常旋回を行っている時に前記第1の補正操舵力と前記第2の補正操舵力との和が略ゼロになるように、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出する。
この態様によれば、第1の補正操舵力による基本アシスト操舵力の低減を、第2の補正操舵力による基本アシスト操舵力の増大によって打ち消すことができる。これにより、例えば車両が定常旋回状態にある場合において、操舵操作を補助するために付与される目標アシスト操舵力の低下を好適に抑制することができる。つまり、乗員は、基本アシスト操舵力によって操舵操作の補助が行われている場合と同様のフィーリングで、操舵操作を行うことができる。
尚、本発明における「略ゼロ」とは、文字通りゼロ(0)である場合に加えて、乗員に感じさせる操舵操作のフィーリングを考慮すれば実質的にゼロであるとみなすことができる場合をも含む広い趣旨である。典型的には、基本アシスト操舵力によって操舵操作の補助が行われている場合と同様のフィーリングで操舵操作を行うことができる程度に第1の補正操舵力と第2の補正操舵力とが打ち消しあう状態であれば、本発明における「略ゼロ」の範囲に含んでもよい。
本発明の車両転舵制御装置の他の態様では、前記第2算出手段は、前記後輪の横力の比例値に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第3の補正操舵力を算出し、且つ前記後輪の横力の微分値に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第4の補正操舵力を算出し、該算出された前記第3の補正操舵力及び前記第4の補正操舵力の和を前記第1の補正操舵力として算出する。
この態様によれば、第3の補正操舵力及び第4の補正操舵力の和である第1の補正操舵力により、上述の如く、車両の収束性を向上させながらも、ステアリングの収束性をも向上させることができる。
上述の如く第3の補正操舵力及び第4の補正操舵力の和を第1の補正操舵力として算出する車両転舵制御装置の態様では、前記第2算出手段は、前記車両が定常旋回を行っている時に前記第3の補正操舵力と前記第2の補正操舵力との和が略ゼロになるように、前記第3の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出するように構成してもよい。
定常旋回時においては、車両の挙動が安定している(言い換えれば、車両の挙動の変化が小さい又は殆どない)ため、後輪の横力の微分値は、後輪の横力の比例値と比較して、小さな値になると考えられる。言い換えれば、車両の挙動が安定している場合には、後輪の横力の微分値は、後輪の横力の比例値と比較して、考慮する必要性がなくなる又は小さくなる。このため、後輪の横力の微分値に基づいて算出される第4の補正操舵力は、後輪の横力の比例値に基づいて算出される第3の補正操舵力と比較して、考慮する必要性がなくなる又は小さくなる。従って、このように構成すれば、第1の補正操舵力(定常旋回時においては、第3の補正操舵力と概ね一致する)による基本アシスト操舵力の低減を、第2の補正操舵力による基本アシスト操舵力の増大によって打ち消すことができる。これにより、例えば車両が定常旋回状態にある場合において、操舵操作を補助するために付与される目標アシスト操舵力の低下を好適に抑制することができる。
本発明の車両転舵制御前記車両の速度及び前記操舵角を検出する検出手段を更に備え、前記取得手段は、前記検出手段により検出された前記車両の速度及び前記操舵角に基づいて推定されるヨーレート及びスリップ角の夫々に基づいて、前記前輪及び前記後輪の夫々の横力を推定することで、前記前輪及び前記後輪の夫々の横力を取得する。
この態様によれば、前輪及び後輪の横力を直接的に検出することに代えて、前輪及び後輪の横力を推定することができる。つまり、前輪及び後輪の夫々の横力を実際に検出した後に第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を算出する、いわゆるフィードバック制御に代えて、前輪及び後輪の夫々の横力を予め推定した後に第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を算出する、いわゆるフィードフォワード制御を行うことができる。一般に、前輪及び後輪の夫々の横力を実際に検出するタイミングと、該検出された横力に基づいて算出される第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を考慮した目標アシスト操舵力が付与されるタイミングとの間には一定の遅れが生ずる。従って、目標アシスト操舵力が付与された時点で、既に前輪及び後輪の夫々の横力が変動してしまっている可能性が高く、その結果、操舵操作の違和感を引き起こしかねない。しかるに、この態様によれば、前輪及び後輪の夫々の横力を予め推定することができるため、フィードバック制御の遅れによる操舵操作の違和感が生ずる不都合を相応に抑制することができる。
但し、前輪及び後輪の夫々の横力を予め推定した後に第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を算出する場合であっても、推定動作及び算出動作に要する時間があるため、ある程度の遅れが生じかねない。従って、フィードフォワード制御を行う場合であっても(更には、フィードバック制御を行う場合においても)、後述するように、遅れ補償を更に行うことが好ましい。
本発明の車両転舵制御装置の他の態様では、前記第2算出手段は、平面方向における前記車両の運動モデルに基づいて算出される第1の補正係数及び第2の補正係数と、前記後輪の横力及び前記前輪の横力との乗算結果に基づいて、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力を算出する。
この態様によれば、第1の補正操舵力は、第1の補正係数と後輪の横力との乗算結果に基づいて算出される。同様に、第2の補正操舵力は、第2の補正係数と前輪の横力の乗算結果に基づいて算出される。特に、第1の補正係数及び第2の補正係数が車両の運動モデルに基づいて算出されているため、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の夫々を、比較的容易に且つ高精度に算出することができる。
尚、第1の補正係数及び第2の補正係数は、平面方向における前記車両の運動モデルに基づいて算出される。特に、第1の補正係数及び第2の補正係数は、上述したように、(i)ステアリングの振動と車両のヨー振動との連成の抑制、及び(ii)定常旋回状態時における目標アシスト操舵力の低下の抑制の夫々が達成されるべきであることを考慮しながら、運動モデルに基づく方程式(つまり、車両の運動方程式)を解くことで得られることが好ましい。
また、第3の補正操舵力及び第4の補正操舵力の和を第1の補正操舵力として算出する場合には、第1の補正係数は、後輪の横力の比例値にかけ合わせられる第3の補正係数と、後輪の横力の微分値に掛け合せられる第4の補正係数とから構成されることが好ましい。この場合、第3の補正操舵力は、第3の補正係数と後輪の横力の比例値との乗算結果に基づいて算出される。同様に、第4の補正操舵力は、第4の補正係数と後輪の横力の微分値の乗算結果に基づいて算出される。
上述の如く第1の補正係数及び第2の補正係数と前輪の横力及び後輪の横力との乗算結果に基づいて第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を算出する車両転舵制御装置の態様では、前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数は、前記車両の速度に対する依存性を有しており、前記第2算出手段は、前記車両の速度が所定の速度である場合の前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数に対して、前記車両の実際の速度並びに前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数の車速依存性の夫々に基づいて設定される速度係数を掛け合わせることで得られる係数を用いて、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出するように構成してもよい。
このように構成すれば、第1の補正係数及び第2の補正係数の車速依存性を利用して、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の夫々を比較的容易に算出することができる。特に、車両の速度が所定の速度である場合の第1の補正係数及び第2の補正係数の夫々を、例えばメモリ等に予め格納しておけば、補正係数の算出動作を一層簡略化することができる。従って、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の算出動作を大幅に簡略化することができる。
本発明の車両転舵制御装置の他の態様では、前記第2算出手段は、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力を算出するまでに要する時間を考慮した遅れ補償を、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力に対して施し、前記操舵力付与手段は、前記遅れ補償が施された前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を前記基本アシスト操舵力に対して加算することで得られる前記目標アシスト操舵力を付与する。
一般的には、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力の算出動作を開始してから、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を考慮した目標アシスト操舵力が付与されるまでには一定の時間を必要とする。従って、目標アシスト操舵力が付与された時点での車両の挙動が、算出動作を開始した時点における車両の挙動と比較して変動してしまいかねず、その結果、操舵操作の違和感を引き起こしかねない。しかるに、この態様によれば、第1の補正操舵力及び第2の補正操舵力を算出するために要する時間を考慮した遅れ補償が施されるため、遅れによる操舵操作の違和感が生ずる不都合を相応に抑制することができる。
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施の形態から更に明らかにされよう。
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
(1) 基本構成
初めに、図1を参照しながら、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の基本的な構成について説明する。ここに、図1は、本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態を採用した車両の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。
図1に示すように、車両1は、前輪5及び6、並びに後輪7及び8を備えている。前輪及び後輪の少なくとも一方がエンジンの駆動力を得ることにより駆動すると共に、前輪が操舵されることで、車両1は所望の方向に進行することができる。
操舵輪である前輪5及び6は、ドライバーによるステアリングホイール11の操舵に応じて駆動される電動式パワーステアリング装置10により操舵される。具体的には、電動式パワーステアリング装置10は、例えばラックアンドピニオン式の電動式パワーステアリング装置であり、ステアリングホイール11に一方の端部が接続されるステアリングシャフト12と、該ステアリングシャフト12の他方の端部に接続されるラックピニオン機構16と、ステアリングホイール12の回転角度である操舵角θを検出する舵角センサ13と、ステアリングホイール11の操舵によってステアリングシャフト12に加えられる操舵トルクMTを検出するトルクセンサ14と、ドライバーの操舵負担を軽減する補助操舵力を発生させると共に不図示の減速ギアを介してステアリングシャフト12に補助操舵力を与える電動モータ15とを備えている。
このような電動式パワーステアリング装置10においては、ECU30により、舵角センサ13から出力される操舵角θ、トルクセンサ14から出力される操舵トルクMT及び車速センサ41から出力される車速Vに基づいて、電動モータ15が発生するトルクである目標アシストトルクTが算出される。
目標アシストトルクTはECU30から電動モータ15に出力され、目標アシストトルクTに応じた電流が電動モータ15に供給されることで、電動モータ15が駆動される。これにより、電動モータ15からステアリングシャフト12に操舵補助力が加えられ、その結果、ドライバーの操舵負担が軽減される。また、ラックピニオン機構16により、ステアリングシャフト12の回転方向の力が、ラックバー17の往復動方向の力に変換される。ラックバー17の両端は、タイロッド18を介して前輪5及び6に連結されており、ラックバー17の往復運動に応じて、前輪5及び6の向きが変わる。
(2) 動作原理
続いて、図2を参照して、本実施形態に係る電動式パワーステアリング装置10の動作についてより詳細に説明する。ここに、図2は、電動式パワーステアリング装置10の動作全体を概念的に示すフローチャートである。
図2に示すように、ECU30の動作により、電動モータ15から加えられるべき補助操舵力のベースとなる基本アシストトルクATが算出される(ステップS10)。基本アシストトルクATを算出する場合には、まず、ECU30により、基本アシストトルクATを算出するために必要な各種信号(例えば、車速Vや操舵トルクMT等)が読み込まれる。続いて、読み込まれた各種信号に基づいて、基本アシストトルクATが算出される。
ここで、図3を参照して、基本アシストトルクATの算出動作の一具体例について説明する。ここに、図3は、基本アシストトルクATを示すグラフである。
図3に示すように、基本アシストトルクATは、例えば、操舵トルクMTと基本アシストトルクATとの関係を示すグラフ(或いは、マッピング)に基づいて算出されてもよい。より具体的には、ステアリングホイール11のあそびを確保するために、操舵トルクMTが相対的に小さい場合には基本アシストトルクを0として算出する。操舵トルクMTがある程度の大きさになった場合には、操舵トルクMTが大きくなるにつれてより大きい基本アシストトルクATを算出する。操舵トルクMTが所定の値よりも大きくなった場合には、操舵トルクMTの大きさによっても変動しない一定値の基本アシストトルクATを算出する。このとき、車速Vが速くなるほど、基本操舵トルクの値を小さくするように構成してもよい。
尚、ここで例示した基本アシストトルクATの算出動作は、あくまで一例に過ぎず、他の方法を用いて算出してもよいことは言うまでもない。
再び図2において、続いて、ECU30の動作により、車速Vと操舵角θが取得される(ステップS11)。具体的には、車速センサ41において検出された車速V及び舵角センサ13において検出された操舵角θが、ECU30へ出力される。
続いて、ECU30の動作により、ステップS11において取得された車速V及び操舵角θの夫々に基づいて、車両1のヨーレートγ及びスリップ角βが推定(算出)される(ステップS12)。係る推定動作は、車両1の平面方向における運動方程式に基づいて行われる。
具体的には、車両1の重心前軸間距離をLとし、車両1の重心後軸間距離をLとし、車両1のヨー軸周りの慣性モーメントをIとし、車両1のフロントコーナリングパワーをKとし、車両1のリアコーナリングパワーをKとし、車両1の質量をmとし、車両の
舵角をδとすると、車両1の運動方程式は、数式1で示される。
Figure 2009090708
ここで、車両1の重心前軸間距離L、車両1の重心後軸間距離L、車両1のヨー軸周りの慣性モーメントI、車両1のフロントコーナリングパワーK、車両1のリアコーナリングパワーK、及び車両1の質量mの夫々は、車両1に固有の値であるため、該固有の値(共通パラメータ)の具体例を数式1に入力することで、数式1は、車速V及び舵角δの関数となる。また、舵角δは、操舵角θと、ラックアンドピニオン機構のギア比等(言い換えれば、電動式パワーステアリング装置10の仕様)とから求められる。このため、数式1より得られるヨーレートγ及びスリップ角βの夫々の微分値を積分することで、車速V及び操舵角θからヨーレートγ及びスリップ角βが推定される。
続いて、ECU30の動作により、ステップS12において推定されたヨーレートγ及びスリップ角βの夫々に基づいて、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fが推定される(ステップS13)。係る推定動作についても、車両1の平面方向における運動方程式に基づいて行われる。具体的には、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fは、数式2及び数式3を用いて推定される。
Figure 2009090708
Figure 2009090708
続いて、ECU30の動作により、ステップS13において推定された前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fの夫々に基づいて、ステップS10において算出された基本アシストトルクATを補正するための補正トルクFBtrqが算出される(ステップS14)。具体的には、補正FBtrqトルクは、数式4により算出される。尚、数式4中において、車両1のトレールをLとし、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fが推定される周期(言い換えれば、図2に示す動作が行われる周期であって、サンプリング周期)をTsmpとし、1ステップ前に推定された後輪7及び8の横力Fを、Frzとしている。また、k、k及びkは、夫々、数式5から数式7により示される所定の係数である。尚、数式5から数式7中において、正規化された車両1のフロントコーナリングパワーをCとし、正規化された車両1のリアコーナリングパワーをCとする。
Figure 2009090708
Figure 2009090708
Figure 2009090708
Figure 2009090708
ここで、数式5から数式7に示す係数k、k及びkは、以下に示す補正トルクFBtrqが果たすべき作用を考慮しながら、数式8に示す車両1の平面方向における運動方程式を解くことで求められる。尚、数式8中において、キンピング軸まわりの慣性モーメントをIとし、キンピング軸まわりの減衰モーメント係数をCとする。
Figure 2009090708
まず、数式8において、車両1のヨー振動を抑制する(言い換えれば、車両1の減衰を大きくする)ことを重視しながら目標アシストトルクTを求めると、後輪7及び8の横力F及び該横力Fの微分値に基づいて目標アシストトルクTを設定すればよいことが判明する。具体的には、基本アシストトルクATに対して、後輪7及び8の横力Fに係数kを掛け合わせた値と、後輪7及び8の横力Fの微分値Fsにある係数k(より具体的には、k×k)を掛け合わせた値との和を加算することで得られるトルクを、目標アシストトルクTとして算出すればよいことが判明する。この結果、基本アシストトルクATを補正するための補正トルクFBtrqのうち、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分(つまり、後輪7及び8の横力Fの比例値(F)に基づく補正トルク成分(k)と、後輪7及び8の横力Fの微分値(Fs)に基づく補正トルク成分(ks))を算出するための、係数k及びkが求められる。
このような観点から求められる後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分は、主として、基本アシストトルクATを低減するように作用するトルク成分である。言い換えれば、後輪の7及び8横力Fに基づく補正トルク成分は、例えば車両1が旋回状態にある場合(特に、過渡旋回状態にある場合)において、車両1のヨー振動を収束させる方向に前輪5及び6を転舵させるように主として作用するトルク成分である。
一方で、例えば車両1が定常旋回状態にある場合には、車両1の挙動が安定しているため、車両1にヨー振動が生ずる可能性は低い。他方、車両1が定常旋回状態にある場合においても、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分が基本アシストトルクATに加算されている。このため、単に後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分を基本アシストトルクATに加算するのみでは、例えば車両1が定常旋回状態にある場合において、操舵操作が重いとドライバーが認識しかねない。このため、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分による基本アシストトルクATの低減(特に、例えば車両1が旋回状態にある場合(特に、定常旋回状態にある場合)における低減)を打ち消すためのトルク成分が、基本アシストトルクATに更に加算されることが好ましい。
係る点を鑑みると、本実施形態においては、前輪5及び6の横力Fに基づいて、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分による基本アシストトルクATの低減(特に、例えば車両1が旋回状態にある場合(特に、定常旋回状態にある場合)における低減)を打ち消すためのトルク成分が、基本アシストトルクATに更に加算されればよいことが判明する。つまり、特に車両1が定常旋回状態にある場合において、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分と後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分との和がゼロになることが好ましい。その結果、補正トルクFBtrqのうち前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分(−kの項)を算出するための係数kが求められる。
このような観点から求められる前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分は、主として、基本アシストトルクATを増大するように主として作用するトルク成分である。特に、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分は、特に車両1が定常旋回状態にある場合において、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分による基本アシストトルクATの低減を打ち消すためのトルク成分である。
尚、数4に示す補正トルクFBtrqのうち、後輪7及び8の横力Fの比例値(F)に基づく補正トルク成分(k)が、本発明における「第1の補正操舵力」の一部(つまり、本発明における「第3の補正操舵力」)に相当する。また、数4に示す補正トルクFBtrqのうち、後輪7及び8の横力Fの微分値(Fs)に基づく補正トルク成分(ks)が、本発明における「第1の補正操舵力」の一部(つまり、本発明における「第4の補正操舵力」)に相当する。また、数4に示す補正トルクFBtrqのうち、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分(−kの項)が、本発明における「第2の補正操舵力」に相当する。
再び図2において、このようにして補正トルクFBtrqが算出された後、ECU30の動作により、補正トルクFBtrqに対して遅れ補償が施される(ステップS15)。ここで施される遅れ補償は、ステップS11からステップS15までの動作に要した時間(つまり、車速V及び操舵角θを取得してから、補正トルクFBtrqを算出し終わるまでに要した時間)の遅延を補償する。具体的には、数式9で示すような演算が行われる。その結果、遅れ補償後補正トルクFBout(つまり、補正トルクに対して遅れ補償を施すことで得られる結果)が算出される。尚、数式9中において、補償前補正トルクをFBinとし、補償後補正トルクをFBoutとし、1ステップ前の補償前補正トルクをFBinZとし、1ステップ前の補償後補正トルクをFBoutZとし、遅れ補償時間をT1とし、遅れ補償時間の分母をT2とする。
Figure 2009090708
その後、ECU30の動作により、ステップS10において算出された基本アシストトルクATに対して、ステップS15において遅れ補償が行われた補正トルクFBtrq(つまり、遅れ補償後補正トルクFBout)が加算されることで得られるトルクが、目標アシストトルクTに設定される(ステップS16)。
以上説明したように、本実施形態によれば、後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分(つまり、基本アシストトルクATを低減させる補正トルク成分)が基本アシストトルクATに加算されることで、ステアリングの振動と車両1のヨー振動との連成を好適に抑制することができる。従って、前輪5及び6の振動を好適に収束させることができ、その結果、車両1の収束性を向上させることができる。加えて、本実施形態では、ダンピング制御を過度に大きくすることなく、補正トルクFBtrqにより、ステアリングの振動と車両1のヨー振動との連成を好適に抑制している。従って、上述の如く車両1の収束性を向上させながらも、ステアリングの収束性をも向上させることができる。
他方で、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分(つまり、基本アシストトルクATを増大させる補正トルク成分)が基本アシストトルクATに加算されるため、例えば車両1が定常旋回状態にある場合において、操舵操作を補助するために付与される目標アシストトルクTの低下を好適に抑制することができる。従って、本実施形態によれば、例えば車両1が定常旋回状態にある場合においても、乗員に操舵操作の違和感を認識させることは殆どないという効果を享受することができる。つまり、操舵フィーリングの向上を図ることができる。
このように、本実施形態によれば、特に過渡旋回時において発生しやすいステアリングの振動と車両1のヨー振動との連成の発生を好適に抑制しつつも(言い換えれば、車両1の収束性及びステアリングの収束性を向上させつつも)、特に定常旋回時において発生しやすい操舵力の不足を好適に補うことができる。
加えて、本実施形態では、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fを予め推定した後に補正トルクFBtrqを算出する、いわゆるフィードフォワード制御を行っている。このため、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fを実際に検出した後に補正トルクFBtrqを算出する、いわゆるフィードバック制御と比較して、遅れによる操舵操作の違和感が生ずる不都合を相応に抑制することができる。
更に、本実施形態では、遅れ補償を施しているため、補正トルクFBtrqの算出動作を開始してから、実際に目標アシストトルクTが付与されるまでに要する時間の遅延による操舵操作の違和感ないしは収束性の悪化を防止することができる。
尚、上述の説明では、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分と後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分とが打ち消し合う態様について説明している。しかしながら、定常旋回時における操舵フィーリングの向上という観点からは、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分と後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分とが完全に打ち消し合っていなくともよい。言い換えれば、少なくとも操舵フィーリングの向上を図ることができるかぎりは、前輪5及び6の横力Fに基づく補正トルク成分と後輪7及び8の横力Fに基づく補正トルク成分との和がゼロでなくともよい。
また、係数k、k及びkについても、上述の具体的な数式(数式5から数式7)はあくまで一具体例であり、車両1の特性や仕様、電動式パワーステアリング装置10の特性や仕様等を含む車両条件を考慮しながら、好適な係数が設定されることが好ましい。
また、特に過渡旋回時において発生しやすいステアリングの振動と車両1のヨー振動との連成の発生を好適に抑制しつつも、特に定常旋回時において発生しやすい操舵力の不足を好適に補うという観点からは、必ずしもフィードフォワード制御を行なう必要はない。つまり、前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fを直接的に検出し、該検出された前輪5及び6の横力F並びに後輪7及び8の横力Fに基づいて、補正トルクを算出するフィードバック制御を行うように構成してもよい。この場合であっても、特に過渡旋回時において発生しやすいステアリングの振動と車両1のヨー振動との連成の発生を好適に抑制しつつも、特に定常旋回時において発生しやすい操舵力の不足を好適に補うことができる。但し、フィードバック制御による遅れを好適に補償することが好ましい。
(3)変形動作例
続いて、図4から図7を参照して、変形動作例について説明する。ここに、図4は、補正トルクFBtrqを算出する際に前輪5及び6の横力Fに掛け合わせられる係数kの車速Vに対する相関を示すグラフであり、図5は、補正トルクFBtrqを算出する際に後輪7及び8の横力の比例値Fに掛け合わせられる係数kの車速Vに対する相関を示すグラフであり、図6は、補正トルクFBtrqを算出する際に後輪7及び8の横力の微分値Fsに掛け合わせられる係数kの車速Vに対する相関を示すグラフであり、図7は、図5に示す係数kと、図6に示す係数kとの乗算値の車速Vに対する相関を示すグラフである。
車両1の重心前軸間距離L、車両1の重心後軸間距離L、正規化された車両1のフロントコーナリングパワーC及び正規化された車両1のリアコーナリングパワーCの夫々は、車両1に固有の値であるため、該固有の値(共通パラメータ)の具体例を数式5から数式7に入力することで、数式5から数式7が示す係数k、k及びkは、車速Vの関数として表される。
この結果、図4及び図5に示すように、係数k及び係数kの夫々は、同様の傾向をとる車速依存性を有していることが分かる。また、図6に示すように、係数kは車速依存性を有していないものの、実際に後輪7及び8の横力Fの微分値に掛け合わせられる乗算値(つまり、k×k)は、図7に示すように、係数k及び係数kの夫々と同様の傾向をとる車速依存性を有していることが分かる。
変形動作例においては、このような係数の車速依存性に着目して、上述した動作の簡略化を図っている。具体的には、変形動作例においては、所定の車速Vにおける係数k0v、k1v及びk2vを予めメモリ等に格納しておく。その後、実際に補正トルクFBtrqを算出する際には、これらの係数k0v、k1v及びk2vに対して、実際の車速Vに応じた速度係数Kを掛け合わせた値を、係数k、k及びkとして用いる。この結果、数式4は、数式10にて表される。
Figure 2009090708
これにより、係数k、k及びkを算出するために、補正トルクFBtrqを算出する都度数式5から数式7を用いて係数k、k及びkを算出する必要はなく、固定値である係数k0v、k1v及びk2vに対して、車速Vに応じた速度係数Kを掛け合わせれば足りる。従って、係数k、k及びkを算出するための処理負荷を大幅に低減することができる。従って、補正トルクFBtrqの算出動作を相対的に簡略化することができる。
尚、本実施形態では、以下に示す態様で、補正トルクFBtrqを更に補正するように構成してもよい。
例えば、悪路係数Kが設定されるように構成してもよい。悪路係数Kは、0から1の間の数値に設定される。車両1が悪路(例えば、低μ路や、凹凸路等の車速Vが大きく、不規則に又は意図せず変動する路面)を走行している場合には、悪路係数Kを0に設定する。或いは、車両1が悪路を走行している場合には、悪路係数Kを0よりも大きく且つ1未満の値に設定してもよい。他方、車両1が悪路を走行していない場合(即ち、舗装路等の通常路を走行している場合)には、悪路係数Kを1に設定する。
この悪路係数Kは、上述の係数kに掛け合わせられる。これにより、車両1が悪路を走行している場合には、ノイズが大きい後輪7及び8の横力Fの微分値Fsの、補正トルクFBtrqの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、ノイズが小さい後輪7及び8の横力Fに基づいて補正トルクFBtrqを算出する)ことができる。その結果、悪路による影響を極力排除しながら、補正トルクFBtrqを好適に算出することができる。
また、前後加速度係数Kが設定されるように構成してもよい。前後加速度係数Kは、0から1の間の数値に設定される。具体的には、前後加速度係数Kは、図8に示すグラフに応じて設定される。図8は、前後加速度αの絶対値に対する前後加速度係数Kの値を示すグラフである。図8に示すように、車両1の前後加速度αの絶対値が所定値以下の場合には、前後加速度係数Kを1に設定する。車両1の前後加速度αの絶対値が所定値以下の場合には、車両1の前後加速度αの絶対値が大きければ大きいほど、前後加速度係数Kをより小さな値に設定する。或いは、前後加速度αの絶対値が所定値以上である場合には又は車両1にピッチが生じている場合には、前後加速度係数Kを0に設定してもよい。
また、図9に示すように、前後加速度αが変化し始めてからの経過時間に応じて前後加速度係数Kを設定するように構成してもよい。図9は、前後加速度αが変化し始めてからの経過時間に対する前後加速度係数Kの値を示すグラフである。図9に示すように、前後加速度αが変化し始めた場合には、車両1に固有のピッチ周期に相当する時間が経過するまでは、前後加速度係数Kを0に設定しておき、ピッチ周期に相当する時間が経過した後は、時間の経過と共に徐々に大きな値に設定するように構成してもよい。
この前後加速度係数Kは、上述の係数kに掛け合わせられる。これにより、車両1が加減速している場合には、加減速に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力の比例値Fの、補正トルクFBtrqの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、加減速によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力の微分値Fsに基づいて補正トルクFBtrqを算出する)ことができる。その結果、加減速による影響を極力排除しながら、補正トルクFBtrqを好適に算出することができる。
また、ABS係数KX1及びKX2が設定されるように構成してもよい。ABS係数KX1及びKX2は、0から1の間の数値に設定される。具体的には、ABS係数KX1及びKX2は、図10に示すグラフに応じて設定される。図10は、時間に対するABS係数KX1及びKX2の値を示すグラフである。図10に示すように、ABS制御が行われている場合には、ABS係数KX1及びKX2の夫々を0に設定する。ABS制御が行われているか否かは、不図示のABS制御回路から出力される制御信号により判定することができる。その後、ABS制御が終了した場合には、まずABS係数KX2を徐々に大きな値に設定していく。ABS制御が終了してから一定時間が経過した後には、続いてABS係数KX1を徐々に大きな値に設定していく。このとき、ABS係数KX2の単位時間当たりの増分は、ABS係数KX1の単位時間当たりの増分よりも大きい。言い換えれば、図10に示すABS係数KX1に係るグラフの傾きは、図10に示すABS係数KX2に係るグラフの傾きよりも緩やかである。
尚、ABS制御が終了した後に、ABS係数KX1及びABS係数KX2を徐々に大きくしていく動作に代えて、ABS制御が終了した後の一定期間はABS係数KX2を1に設定し且つABS係数KX1を0に設定し、その後更に一定期間経過した後にABS係数KX1を1に設定するように構成してもよい。
また、VSCやTRC等の前後力制御が行われている場合についても、ABS制御の場合と同様の態様で、ABS係数KX1及びKX2を設定することが好ましい。
このABS係数KX1は、上述の係数kに掛け合わせられ、且つABS係数KX2は、上述の係数kに掛け合わせられる。これにより、前後力制御に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力の比例値Fの、補正トルクFBtrqの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、前後力制御によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力の微分値Fsに基づいて補正トルクFBtrqを算出する)ことができる。その結果、前後力制御による影響を極力排除しながら、補正トルクFBtrqを好適に算出することができる。
また、サス係数Kが設定されるように構成してもよい。サス係数Kは、0から1の間の数値に設定される。具体的には、サスペンション制御が行われていない場合には、サス係数Kは1に設定される。サスペンション制御が行われているか否かは、サス制御回路34から出力される制御信号S3により判定することができる。他方、サスペンション制御が行われている場合には、サス係数Kは0又は0より大きく且つ1未満の値に設定される。
また、スタビライザ制御等の接地荷重可変制御が行われている場合についても、サスペンション制御の場合と同様の態様で、サス係数Kを設定することが好ましい。
この指す係数Kは、上述の係数kに掛け合わせられる。これにより、接地荷重制御に起因して大きく変動する後輪7及び8の横力の比例値Fの、補正トルクFBtrqの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、接地荷重可変制御によってもそれほど大きく変動しない後輪7及び8の横力Fの微分値Fsに基づいて補正トルクFBtrqを算出する)ことができる。その結果、接地荷重可変制御による影響を極力排除しながら、補正トルクFBtrqを好適に算出することができる。
尚、車速Vが異常な場合(例えば、ハイドロプレーニング現象等が発生している場合等)には、上述した係数kを0に設定することが好ましい。これにより、車速Vの以上に起因して変動が大きくなる後輪7及び8の横力の比例値Fの、補正トルクFBtrqの算出への寄与率を下げる又は0にする(言い換えれば、変動が小さい後輪7及び8の横力の微分値Fsに基づいて補正トルクFBtrqを算出する)ことができる。その結果、車速Vの異常による影響を極力排除しながら、補正トルクFBtrqを好適に算出することができる。
尚、上述した実施形態は、操舵トルクMT及び目標操舵トルクTに基づいて前輪5及び6の操舵を行っている。しかしながら、操舵角θに基づいて前輪5及び6の転舵をアクチュエータにより行う、いわゆるアクティブステアの場合であっても、上記動作と同様の態様で転舵を行うことにより、上述した各種利益を享受することができることは言うまでもない。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両転舵制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
本発明の車両転舵制御装置に係る実施形態の基本的な構成を概念的に示す概略構成図である。 電動式パワーステアリング装置の動作全体を概念的に示すフローチャートである。
基本アシストトルクを示すグラフである。 補正トルクを算出する際に前輪の横力に掛け合わせられる係数の車速に対する相関を示すグラフである。 補正トルクを算出する際に後輪の横力の比例値に掛け合わせられる係数の車速に対する相関を示すグラフである。 補正トルクを算出する際に後輪の横力の微分値に掛け合わせられる係数の車速に対する相関を示すグラフである。 図5に示す係数と、図6に示す係数との乗算値の車速に対する相関を示すグラフである。 前後加速度の絶対値に対する前後加速度係数の値を示すグラフである。 前後加速度が変化し始めてからの経過時間に対する前後加速度係数の値を示すグラフである。 時間に対するABS係数の値を示すグラフである。
符号の説明
1 車両
5、6 前輪
7、8 後輪
10 電動式パワーステアリング装置
11 ステアリングホイール
13 舵角センサ
14 トルクセンサ
15 電動モータ
30 ECU
41 車速センサ

Claims (8)

  1. 車両の乗員の操舵操作に応じた操舵トルク及び操舵角の少なくとも一方に基づいて、前記操舵操作を補助するための基本アシスト操舵力を算出する第1算出手段と、
    前記車両の前輪及び後輪の夫々の横力を取得する取得手段と、
    前記後輪の横力に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第1の補正操舵力を算出し、且つ前記前輪の横力に基づいて前記基本アシスト操舵力を増大させる第2の補正操舵力を算出する第2算出手段と、
    前記基本アシスト操舵力に対して前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を加算することで得られる目標アシスト操舵力を前記車両に付与する操舵力付与手段と
    を備えることを特徴とする車両転舵制御装置。
  2. 前記第2算出手段は、前記車両が定常旋回を行っている時に前記第1の補正操舵力と前記第2の補正操舵力との和が略ゼロになるように、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両転舵制御装置。
  3. 前記第2算出手段は、前記後輪の横力の比例値に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第3の補正操舵力を算出し、且つ前記後輪の横力の微分値に基づいて前記基本アシスト操舵力を低減させる第4の補正操舵力を算出し、該算出された前記第3の補正操舵力及び前記第4の補正操舵力の和を前記第1の補正操舵力として算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両転舵制御装置。
  4. 前記第2算出手段は、前記車両が定常旋回を行っている時に前記第3の補正操舵力と前記第2の補正操舵力との和が略ゼロになるように、前記第3の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出することを特徴とする請求項3に記載の車両転舵制御装置。
  5. 前記車両の速度及び前記操舵角を検出する検出手段を更に備え、
    前記取得手段は、前記検出手段により検出された前記車両の速度及び前記操舵角に基づいて推定されるヨーレート及びスリップ角の夫々に基づいて、前記前輪及び前記後輪の夫々の横力を推定することで、前記前輪及び前記後輪の夫々の横力を取得することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両転舵制御装置。
  6. 前記第2算出手段は、平面方向における前記車両の運動モデルに基づいて算出される第1の補正係数及び第2の補正係数と、前記前輪の横力及び前記後輪の横力との乗算結果に基づいて、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力を算出することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の車両転舵制御装置。
  7. 前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数は、前記車両の速度に対する依存性を有しており、
    前記第2算出手段は、前記車両の速度が所定の速度である場合の前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数に対して、前記車両の実際の速度並びに前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数の車速依存性の夫々に基づいて設定される速度係数を掛け合わせることで得られる係数を用いて、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を算出することを特徴とする請求項6に記載の車両転舵制御装置。
  8. 前記第2算出手段は、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力を算出するまでに要する時間を考慮した遅れ補償を、前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力に対して施し、
    前記操舵力付与手段は、前記遅れ補償が施された前記第1の補正操舵力及び前記第2の補正操舵力の夫々を前記基本アシスト操舵力に対して加算することで得られる前記目標アシスト操舵力を付与することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の車両転舵制御装置。
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