JP3621229B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、操向車輪に舵角を与える操舵系に対し、操舵力を軽減する操舵補助力と、操舵力に対抗する操舵抵抗力とを共に与えることができるように構成された電動パワーステアリング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積雪路など、タイヤと路面間の摩擦係数が極めて低い状態の路面では、路面からの操舵抵抗(セルフアライニングトルク)が小さくなるため、場合によっては不用意に切りすぎないように微妙な操舵が必要となり、運転者に大きな負担を与えるという問題があった。
【0003】
このような不都合を改善するために、車速、操舵角、および路面摩擦係数に応じた擬似的な操舵抵抗力を設定し、これによって通常のパワーステアリング装置の操舵補助力を補正するようにした操舵装置を、特願平7−337770号明細書において本出願人は提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、擬似操舵抵抗力をモータに発生させてステアリングホイールを重くすると、この操舵抵抗力を路面からの反力と運転者が誤認し、グリップ力が失われているのにステアリングホイールを無意味に操舵することが考えられる。
【0005】
本発明は、このような問題点を解消し、操向車輪の横方向グリップ力(コーナリングフォース)が限界に達したことを運転者に認識させることができるように改良された電動パワーステアリング装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この目的を果たすために本発明は、電動パワーステアリング装置が発生する操舵抵抗力を、操向車輪が現在発生している横方向グリップ力に対応する値がタイヤの能力限界に近づくに連れて大きくし、横方向グリップ力対応値がタイヤの能力限界を超えた後は小さくするものとした。
これによれば、例えば実コーナリングフォースが摩擦円の範囲内の領域では、操舵抵抗力が加わるのでステアリングホイールの切りすぎが抑制され、かつタイヤがグリップしていることを運転者が認識できる。そして実コーナリングフォースが摩擦円を超えると急に操舵抵抗力が低下してステアリングホイールが軽くなるので、タイヤの横方向グリップ力が失われたことを運転者が認識できる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面に示された実施例を参照して本発明の構成について詳細に説明する。
【0008】
図1及び図2は、本発明に基づく電動パワーステアリング装置の操舵力制御装置の全体構成を示している。本制御装置は、ラック/ピニオン式操舵装置21のラック軸22に作用する軸力Frを算出するラック軸力演算手段1と、路面摩擦係数μを算出する路面摩擦係数演算手段2と、路面摩擦係数μに基づいて等価摩擦円を設定する等価摩擦円設定手段3と、操向車輪(前輪)23の実横力Fyを算出する横力演算手段4と、例えば車速と吸気管負圧との関係から求めた駆動力、並びにブレーキ液圧から求めた制動力に基づいて前輪23の実前後力Fxを算出する前後力演算手段5と、等価摩擦円データ、前輪実横力Fy、および前輪実前後力Fxから、現在の横力利用率ξを算出する横力利用率演算手段6と、横力利用率ξに応じた操舵抵抗トルク指令値Tcを設定するための操舵抵抗トルク設定手段7と、非駆動輪(後輪)24の回転速度センサ25の出力で得た車速V並びに操舵トルクセンサ26の出力で得たステアリングホイール27を介してステアリングシャフト28に作用する手動操舵トルクTsに基づいて操舵補助トルク指令値Taを設定する操舵補助トルク設定手段8と、操舵抵抗トルク指令値Tcおよび操舵補助トルク指令値Taに基づいてモータMの出力を制御するモータ駆動制御手段9とからなっており、操舵補助トルク指令値Taに操舵抵抗トルク指令値Tcを加算した値Tmをもって、通常のパワーステアリング装置のモータMの出力制御を行うようになっている。
なお、各信号の処理や演算は、コンピュータを用いた電子制御装置(ECU)29で一括して行われる。
【0009】
タイヤのコーナリングパワーCpは、図3に示すように、路面摩擦係数μが低いほど減少するので、ラック/ピニオン式操舵装置の場合、同一舵角でのラック軸力Frは、路面摩擦係数μの低下に応じて小さくなる。従って路面摩擦係数μは、前輪舵角δに対する実ラック軸力Frcと、車両の設計値や実験による計測値の同定結果に基づいて内部モデルとして予め設定された基準ラック軸力Frmとを比較すれば推定できる。
【0010】
路面からの転舵抵抗につり合うラック軸力Frは、ステアリングシャフト28回りの粘性項、慣性項、フリクション項およびモータM回りのフリクション項は微小なので省略すると、ピニオンからのラック軸力Fpとモータからのラック軸力Fmとの和、つまり、
Fr=Fp+Fm
で表されるが、以下に図4を参照してこの推定方法について説明する。
【0011】
先ず、ピニオンからのラック軸力Fpは、操舵トルクTsをピニオンのピッチ円半径rpで割った値、つまり、
Fp=Ts/rp
で表されるので、ピニオン軸力演算手段10に操舵トルクセンサ26の出力Tsを入力して得る。
【0012】
次にモータMからのラック軸力Fmは、モータMの出力軸トルクTmにモータ出力ギヤ比Nをかけた値、つまり、
Fm=N・Tm
で表されるので、モータの電流Imを検出する電流センサ30、並びに電圧Vmを検出する電圧センサ31の出力をモータ軸力演算手段11に入力して得る。
【0013】
ここでモータの出力軸トルクTmは次式で与えられる。
Tm=Kt・Im−Jm・θm”−Cm・θm’±Tf
但し、Kt:モータトルク定数
Im:モータ電流(電流センサ30の出力)
Jm:モータの回転部分の慣性モーメント(設計値・定数)
θm’:モータ角速度
θm”:モータ角加速度(モータ角速度θm’の微分値)
Cm:モータ粘性係数
Tf:フリクショントルク
【0014】
なお、モータ角速度θm’は、モータ逆起電力から次式により求める。
θm’=(Vm−Im・Rm)/Km
但し、Vm:モータ電圧(電圧センサ31の出力)
Rm:モータ抵抗(設計値・定数)
Km:モータの誘導電圧定数
【0015】
または、ステアリングシャフト28の回転角度を検出する操舵角センサ32の出力θsの微分値θs’から次式により求める。
θm’=(θs’−Ts’/Ks)N
但し、Ks:トルクセンサ26のばね定数
Ts’:操舵トルクの微分値
【0016】
以上により求めたピニオンからのラック軸力Fpとモータからのラック軸力Fmとは、実用上は位相補償フィルタ12を通すことにより、Fp・Fm間の位相ずれを補正すると良い。
【0017】
上記のようにして求めた実ラック軸力値Frcと予め設定されたモデルラック軸力値Frmとから、ステアリングホイール舵角θsの増加に対する実並びにモデルラック軸力の増加率を求め(図5参照)、車両の応答が線形に近似した舵角範囲内において、実ラック軸力増加率ΔFrc/Δθsと、モデルラック軸力増加率ΔFrm/Δθsとの比ΔFrc/ΔFrmから、予め設定された路面摩擦係数判定マップ(図6参照)を参照して路面摩擦係数μを推定することができる。
【0018】
タイヤの最大グリップ力Fmaxは、タイヤと路面との間の摩擦係数μとタイヤの接地面に加わる垂直荷重Wとの積(Fmax=μW)で与えられる。従って、路面摩擦係数μが分かれば、タイヤの特性に基づいて予め設定しておいた摩擦円基本形状と、横加速度値で補正された旋回時の輪重値とに基づいて、摩擦円の大きさが設定できる。この摩擦円上に前後力Fxを置けば、その時の最大横力Fymaxが得られる。
【0019】
次に図7、8を参照して前輪23の接地点に加わる実横力Fyの推定方法について説明する。先ず、実ラック軸力Frcと実横力Fyとのつり合いは、次式で与えられる。
Frc・La=Fy・T・cosδ
すなわち、
Fy=Frc・La/T・cosδ
但し、La:ラック軸22とキングピン軸33との軸心間距離(設計値・定数)
T:トレール
δ:前輪舵角(舵角センサ34の出力)
【0020】
ここでトレールTは、ホイールアライメントの機械的な設定で定まるキャスタートレールTcに、車速Vに応じて変化するニューマチックトレールTp成分を加えた値であり、予め設定したマップ13をECU29のメモリーに格納しておき、車速Vに基づいて検索する。
【0021】
このようにして求めた実横力Fyと上記の摩擦円から求めた最大横力Fymaxとから、横力利用率演算手段6で次式から前輪の横力利用率ξを算出する。
ξ=Fy/Fymax
【0022】
次いで、操舵抵抗トルク設定手段7に予め設定されたマップを参照し、横力利用率ξに対応した操舵抵抗トルクTcを求める。このマップは、横力利用率ξが1までは横力利用率ξと共に増大し、横力利用率ξが1を超えると急激に減少する特性が与えられている。
【0023】
このようにして決定された操舵抵抗トルク指令値Tcを、操舵補助トルク設定手段8に予め設定されたマップを車速Vと手動操舵トルクTsとに基づいて検索して得られる通常のパワーステアリング装置の補助操舵トルク指令値Taに加算することによって得られた制御指令値TmでモータMを制御することにより、路面状況に応じてコーナリングフォースが限界に至る以前(横力利用率ξが1以下)の領域は、ステアリングホイールを重くするなどして運転者が不用意に過大な舵角で転舵することを防止し得る最適な補助操舵トルクが発生するようにモータMが駆動される。そしてコーナリングフォースが限界を超えると(横力利用率ξが1以上)操舵抵抗トルクTcを減じることにより、いわゆる「抜け感」を擬似的に与え、タイヤのコーナリングフォースが限界に達したことを運転者に認識させることができる。
【0024】
なお、実ラック軸力Frc並びに実横力Fyは、上記の計算によらずに操舵系の適所にロードセルを設け、その出力から求めるようにしても良い。また路面μに対する旋回性の限界の指標としてコーナリングフォースを用いる例を述べたが、これは横加速度値や前輪横滑り角によっても判断できる。
【0025】
【発明の効果】
このように本発明によれば、タイヤのコーナリングフォースがタイヤの摩擦円内に止まる範囲は、運転者の操舵力に対する抵抗付与制御が行えるので、路面状況に応じた最適な操舵力制御を実行して、操縦安定性を高め、運転者の負担を軽減する上に多大な効果を奏することができる。そしてタイヤのコーナリングフォースが限界を超えた時点で操舵抵抗力を減じることによっていわゆる「抜け感」を擬似的に与え、タイヤのグリップ力不足を運転者に認識させることができるので、運転者の誤認による無意味な操舵を防止し得る。なお、タイヤがグリップ力を失っている状態では、抜けによる転舵角の増大は車両挙動自体に大きな影響を及ぼさない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるパワーステアリング装置の制御系の概略構成図。
【図2】本発明が適用された車両のパワーステアリング装置に関わる機器の配置図。
【図3】コーナリングパワーと路面摩擦係数との関係線図。
【図4】ラック軸力演算手段のブロック図。
【図5】舵角に対するラック軸力の増加線図。
【図6】路面摩擦係数の判定マップ。
【図7】横力演算手段のブロック図。
【図8】横力演算に関わる説明図。
【符号の説明】
1 ラック軸力演算手段
2 路面摩擦係数演算手段
3 等価摩擦円設定手段
4 横力演算手段
5 前後力演算手段
6 横力利用率演算手段
7 操舵抵抗トルク設定手段
8 操舵補助トルク設定手段
9 モータ駆動制御手段
10 ピニオン軸力演算手段
11 モータ軸力演算手段
12 位相補償フィルタ
13 トレールマップ
21 ラック/ピニオン式操舵装置
22 ラック軸
23 前輪
24 後輪
25 回転速度センサ
26 操舵トルクセンサ
27 ステアリングホイール
28 ステアリングシャフト
29 電子制御装置(ECU)
30 電流センサ
31 電圧センサ
32 操舵角センサ
33 キングピン軸
34 舵角センサ
Claims (1)
- 操向車輪に舵角を与える操舵系に動力を付加するモータと、前記操舵系に作用する手動操舵力を検出する操舵力検出手段と、少なくとも前記操舵力検出手段の出力に基づいて操舵補助力と操舵抵抗力とを前記モータに発生させるための制御手段とを有する電動パワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、前記操向車輪が現在発生している横方向グリップ力に対応する値を算出する演算手段を備え、該横方向グリップ力対応値がタイヤの能力限界に近づくに連れて前記操舵抵抗力を増大させ、該横方向グリップ力対応値がタイヤの能力限界を超えた後は前記操舵抵抗力を減少させるように制御するものであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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