JP3660106B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、前輪に舵角を与える操舵系に対し、操舵力を軽減する操舵補助力を与えることができるように構成された電動パワーステアリング装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積雪路など、タイヤと路面間の摩擦係数が極めて低い状態の路面(低μ路)では、路面からの操舵抵抗(セルフアライニングトルク)が小さくなるため、場合によっては不用意に切りすぎないように微妙な操舵が必要となり、運転者に大きな負担を与えるという問題があった。
【0003】
このような不都合を改善するために、タイヤと路面間の摩擦係数と車速とに基づいて操向車輪の横力利用率を算出し、横力利用率値に基づいて手動操舵系に加える操舵抵抗を制御するようにした電動パワーステアリング装置を本出願人は提案している(特願平8−309496号明細書参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、前輪駆動車の場合、旋回中にアクセルオフすると、前輪の横力(コーナリングフォース)が増大してオーバーステア傾向となる所謂タックイン現象を生じるが、この現象が雪道のような摩擦係数が極度に低い路面上で起こると、後輪の横力が飽和することがある。つまり従来の手法では後輪のグリップ状況が考慮されていないので、特に低μ路での操縦応答性を向上する上に十分とは言えない面があった。
【0005】
本発明は、このような問題点を解消するべくなされたものであり、その主な目的は、滑り易い路面上での車両挙動が不安定となることをより一層確実に抑制し得るように改良された電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を果たすために、本発明においては、車両の前輪に舵角を与える操舵系に動力を付加するモータと、該モータに発生させる操舵補助力を制御する制御手段とを有する電動パワーステアリング装置において、後輪が現在発生している横方向グリップ力に対応する値を算出し、該横方向グリップ力対応値がタイヤの能力限界に近づくに連れて操舵補助力を相対的に減少させるように制御するものとした。これによると、後輪が摩擦円を逸脱しそうな状態になるとステアリングホイールが重くなる(操舵に要する力が増大する)ので、過度な操舵を抑制できる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面に示された実施例を参照して本発明の構成について詳細に説明する。
【0008】
図1は、本発明が適用された前後輪操舵車両の一例を示している。この車両の前輪1側には、ステアリングホイール2に加えた回転力をピニオン(図示せず)でラック軸3の軸力に変換すると共に、電動モータ4による補助的な軸力をラック軸3に加えるようにしたラック/ピニオン式電動パワーステアリング装置5が設けられている。
【0009】
後輪6に舵角を与える後輪操舵装置7は、車幅方向に延在する操舵ロッド8を電動モータ9で軸方向に駆動し、その軸力を、前輪1側のラック軸3と同様に、左右の後輪6を支持したナックルアーム10にタイロッド11を介して伝達するようになっている。
【0010】
電動パワーステアリング装置5には、ラック軸3の変位から前輪1の舵角δfを検出するための舵角センサ12が設けられ、また後輪操舵装置7には、操舵ロッド8の変位から後輪6の舵角δrを検出するための舵角センサ13が設けられている。そしてステアリングシャフト14には、ステアリングホイール2に加わる手動操舵トルクTsを検知するための操舵トルクセンサ15が設けられている。さらに、各車輪には車速センサ16がそれぞれ設けられ、車体の適所にはヨーレイトセンサ17が設けられ、ブレーキペダルにはブレーキ作動センサ18が設けられている。
【0011】
これらの各センサは、電動パワーステアリング装置5並びに後輪操舵装置7のモータ4・9を駆動制御するコンピュータユニット(ECU)19に電気的に接続されている。
【0012】
この前後輪操舵車両は、ステアリングホイール2を運転者が操舵すると、その回転運動がラック/ピニオン機構でラック軸3の直線運動に変換され、それによって前輪1に舵角が与えられる。それと同時に、ラック軸3の移動量が舵角センサ12からECU19に入力される。そして前輪舵角δf、車速V、及びヨーレイトγの各入力値に基づいて、その時の後輪6の最適舵角がECU19で決定され、それに従って後輪操舵装置7のモータ9が駆動されて後輪6に舵角が与えられる。
【0013】
図2は、本発明に基づく前後輪操舵車両の制御系の全体構成を示している。本制御系は、大別して前輪1側に設けられたパワーステアリング装置5の制御系と、後輪6側に設けられた後輪操舵装置7の制御系とからなっている。
【0014】
パワーステアリング装置5は、ラック軸3に作用するラック軸力Frを算出するラック軸力演算手段21と、路面摩擦係数μを算出する路面摩擦係数演算手段22と、路面摩擦係数μに基づいて前輪1並びに後輪6の等価摩擦円を設定する等価摩擦円設定手段23と、ラック軸力Frおよび前輪舵角δfに基づいて前輪1の実横力(コーナリングフォース)Fyfを算出する前輪横力演算手段24と、例えば車速と吸気管負圧との関係から求めた駆動力、並びにブレーキ液圧から求めた制動力に基づいて前輪1の実前後力Fxfを算出する前輪前後力演算手段25と、前輪等価摩擦円データ、前輪実横力Fyf、および前輪実前後力Fxfから、現在の前輪の横力利用率ξfを算出する前輪横力利用率演算手段26と、前輪横力利用率ξfに応じた操舵抵抗トルク指令値Tcを設定するための操舵抵抗トルク設定手段27と、後輪6(非駆動輪)側の車速センサ16の出力で得た車速V並びに操舵トルクセンサ15の出力で得たステアリングホイール2を介してステアリングシャフト14に作用する手動操舵トルクTsに基づいて操舵補助トルク指令値Taを設定する操舵補助トルク設定手段28と、操舵抵抗トルク指令値Tcおよび操舵補助トルク指令値Taに基づいてパワーステアリング装置5のモータ4の出力を制御する前輪用モータ駆動制御手段29とからなっている。
【0015】
パワーステアリング装置5のモータ4に加える操舵抵抗トルク指令値Tcは、後記する後輪横力利用率演算手段が算出した後輪横力利用率ξrに基づいて設定される補正値Tcr(操舵抵抗補正トルク設定手段38で設定する)を加算するようにされており、後輪横力利用率ξrも加味した操舵抵抗トルクを付加し得るようになっている。
【0016】
後輪操舵装置7は、操舵ロッド8に与える後輪6の基本舵角δrを、前輪舵角δf、車速V、およびヨーレイトγに基づいて最適に設定する後輪基本舵角設定手段31と、操舵ロッド8に作用する軸力Flを算出するロッド軸力演算手段32と、後輪6の実横力Fyrを算出する後輪横力演算手段33と、ブレーキ液圧から求めた制動力に基づいて後輪6の実前後力Fxrを算出する後輪前後力演算手段34と、等価摩擦円データ、後輪実横力Fyr、および後輪実前後力Fxrから、現在の後輪6の横力利用率ξrを算出する後輪横力利用率演算手段35と、前輪横力利用率ξfまたは後輪横力利用率ξrに応じた後輪6の補正舵角δcを設定するための後輪補正舵角設定手段36と、後輪基本舵角設定手段31と後輪補正舵角設定手段36との信号の加算値に基づいて操舵ロッド8を駆動するモータ9を制御する後輪用モータ駆動制御手段37とからなっている。
【0017】
次に路面摩擦係数μの算出方法について説明する。タイヤのコーナリングパワーCpは、図3に示すように、路面摩擦係数μが低いほど減少するので、ラック/ピニオン式操舵装置の場合、同一舵角でのラック軸力Frは、路面摩擦係数μの低下に応じて小さくなる。従って路面摩擦係数μは、前輪舵角δfに対する実ラック軸力Frcと、車両の設計値や実験による計測値の同定結果に基づいて内部モデルとして予め設定された基準ラック軸力Frmとを比較すれば推定できる。
【0018】
路面からの操舵抵抗につり合うラック軸力Frは、ステアリングシャフト回りの粘性項、慣性項、フリクション項およびモータ4回りのフリクション項は微小なので省略すると、ステアリングシャフト14からのラック軸力Fpとモータ4からのラック軸力Fmとの和、つまり、
Fr=Fp+Fm
で表されるが、以下に図4を参照してこの推定方法について説明する。
【0019】
先ず、ステアリングシャフト14からのラック軸力Fpは、操舵トルクTsをピニオンのピッチ円半径rpで割った値、つまり、
Fp=Ts/rp
で表されるので、ピニオン軸力演算手段21aに操舵トルクセンサ15の出力Tsを入力して得る。
【0020】
次にモータ4からのラック軸力Fmは、モータ4の出力軸トルクTmにモータ出力ギヤ比Nをかけた値、つまり、
Fm=N・Tm
で表されるので、モータ4の電流値Im、並びに電圧値Vmをモータ軸力演算手段21bに入力して得る。
【0021】
ここでモータ4の出力軸トルクTmは次式で与えられる。
Figure 0003660106
但し、Kt:モータトルク定数
Im:モータ電流
Jm:モータの回転部分の慣性モーメント(設計値・定数)
θm’:モータ角速度
θm”:モータ角加速度(モータ角速度θm’の微分値)
Cm:モータ粘性係数
Tf:フリクショントルク
【0022】
なお、モータ角速度θm’は、モータ逆起電力から次式により求める。
θm’=(Vm−Im・Rm)/Km
但し、Vm:モータ電圧
Rm:モータ抵抗(設計値・定数)
Km:モータの誘導電圧定数
【0023】
以上により求めたステアリングシャフト14からのラック軸力Fpとモータ4からのラック軸力Fmとは、実用上は位相補償フィルタ21cを通すことにより、Fp・Fm間の位相ずれを補正すると良い。
【0024】
上記のようにして求めた実ラック軸力値Frcと予め設定されたモデルラック軸力値Frmとから、前輪舵角δfの増加に対する実並びにモデルラック軸力の増加率を求め(図5参照)、車両の応答が線形に近似した舵角範囲内において、実ラック軸力増加率ΔFrc/Δδfと、モデルラック軸力増加率ΔFrm/Δδfとの比ΔFrc/ΔFrmから、予め設定された路面摩擦係数判定マップ(図6参照)を参照して路面摩擦係数μを推定することができる。
【0025】
タイヤの最大グリップ力Fmaxは、タイヤと路面との間の摩擦係数μとタイヤの接地面に加わる垂直荷重Wとの積(Fmax=μW)で与えられる。従って、路面摩擦係数μが分かれば、タイヤの特性に基づいて予め設定しておいた摩擦円基本形状と、横加速度値で補正された旋回時の輪重値とに基づいて、摩擦円の大きさが設定できる。この摩擦円上に前後力Fxfを置けば、その時の最大横力Fyfmaxが得られる。
【0026】
次に図7を参照して前輪1の接地点に加わる実横力Fyfの推定方法について説明する。先ず、実ラック軸力Frcと実横力Fyfとのつり合いは、次式で与えられる。
Frc・La=Fyf・T・cosδf
すなわち、
Fy=Frc・La/T・cosδ
但し、La:ラック軸3とキングピン軸Kとの軸心間距離(設計値・定数)
T:トレール
δf:前輪舵角(舵角センサの出力)
【0027】
ここでトレールTは、ホイールアライメントの機械的な設定で定まるキャスタートレールTcに、車速Vに応じて変化するニューマチックトレールTp成分を加えた値であり、予め設定したマップ39をECU19のメモリーに格納しておき、車速Vに基づいて検索する。
【0028】
このようにして求めた実横力Fyfと上記の摩擦円から求めた最大横力Fyfmaxとから、横力利用率演算手段26で次式から前輪1の横力利用率ξfを算出する。
ξf=Fyf/Fyfmax
【0029】
次いで、操舵抵抗トルク設定手段27、並びに操舵抵抗補正トルク設定手段38に予め設定されたマップを参照し、前輪横力利用率ξf並びに後輪横力利用率ξrに対応した操舵抵抗トルクTcf並びに操舵抵抗補正トルクTcrを求める。
【0030】
なお、後輪最大横力Fyrmax、および後輪実横力Fyrも、上記のラック軸力が操舵ロッド8に対して加わるモータ9からの軸力に代わるだけで、基本的な求め方は前輪のそれと全く同様である。なお、実ラック軸力Frcは、上記の計算によらずに操舵系の適所にロードセルを設け、その出力から求めるようにしても良い。
【0031】
このようにして決定された操舵抵抗トルクTcfと操舵抵抗補正トルクTcrとの加算値からなる操舵抵抗トルク指令値Tcを、操舵補助トルク設定手段38に予め設定されたマップを車速Vと手動操舵トルクTsとに基づいて検索して得られる通常のパワーステアリング装置の補助操舵トルク指令値Taに加算することによって得られた制御指令値Tmでモータ4を制御することにより、低μ路でコーナリングフォースが限界を超えるような(横力利用率ξf・ξrが1以上)過大な操舵を運転者が不用意に行うことを防止するための擬似的な操舵抵抗トルクを発生させるようにモータ4が駆動され、つまりステアリングホイール2が相対的に切り難くなるようにされる。
【0032】
さて、後輪6の横力利用率ξrが1を超えると、車体は旋回円の接線に対して内側を向く、つまりスピン傾向となる。そこで本発明では、上述したように、後輪6の横力利用率ξrが1に近づくに連れてパワーステアリング装置に操舵抵抗力を発生させ、操舵補助力を相対的に減らすものとした。これにより、運転者がステアリングホイール2の切り過ぎを認識して前輪舵角を戻すので、ヨーイングモーメントが減少し、オーバーステア傾向が解消される。
【0033】
ところで、後輪も操舵する車両においては、上記のように後輪舵角δrに基づいて後輪横力Fyrを算出し得るが、後輪が操舵されない車両の場合は、後輪の支持部材の適所にロードセルを設けて後輪の軸方向荷重、つまりサイドフォースを検出すると共に、車速V、横加速度Gy、及びヨーレイトγを元に車体スリップ角βを以下の式で算出し、
β=∫(γ−G/V)dt
サイドフォースと車体スリップ角βとからベクトル計算して後輪横力Fyrを得れば良い。
【0034】
なお、上記は路面μに対する横方向グリップ力の指標としてコーナリングフォースを用いる例を述べたが、これは摩擦円の大きさによって安定に旋回可能な横加速度の許容値が定まるので、実横加速度値の許容値に対する割合を用いることもできる。
【0035】
【発明の効果】
このように本発明によれば、滑り易い路面上での車両挙動の安定性をより一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される前後輪操舵車両の機械系の概略構成図。
【図2】本発明による制御系の概略構成図。
【図3】コーナリングパワーと路面摩擦係数との関係線図。
【図4】ラック軸力演算手段のブロック図。
【図5】舵角に対するラック軸力の増加線図。
【図6】路面摩擦係数の判定マップ。
【図7】横力演算手段のブロック図。
【図8】横力演算に関わる説明図。
【符号の説明】
1 前輪
2 ステアリングホイール
3 ラック軸
4 電動モータ
5 電動パワーステアリング装置
6 後輪
7 後輪操舵装置
8 操舵ロッド
9 電動モータ
10 ナックルアーム
11 タイロッド
12・13 舵角センサ
14 ステアリングシャフト
15 操舵トルクセンサ
16 車速センサ
17 ヨーレイトセンサ
18 ブレーキ作動センサ
19 コンピュータユニット
21 ラック軸力演算手段
22 路面摩擦係数演算手段
23 等価摩擦円設定手段
24 前輪横力演算手段
25 前輪前後力演算手段
26 前輪横力利用率演算手段
27 操舵抵抗トルク設定手段
28 ステアリングシャフト
29 前輪用モータ駆動制御手段
31 後輪基本舵角設定手段
32 ロッド軸力演算手段
33 後輪横力演算手段
34 後輪前後力演算手段
35 後輪横力利用率演算手段
36 後輪補正舵角設定手段
37 後輪用モータ駆動制御手段
38 操舵抵抗補正トルク設定手段
39 トレールマップ

Claims (2)

  1. 車両の前輪に舵角を与える操舵系に動力を付加するモータと、該モータに発生させる操舵補助力を制御する制御手段とを有する電動パワーステアリング装置であって、
    前記制御手段は、後輪が現在発生している横方向グリップ力に対応する値を算出する演算手段を備え、該横方向グリップ力対応値がタイヤの能力限界に近づくに連れて前記操舵補助力を相対的に減少させるように制御するものであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 後輪も操舵される車両に搭載されるものであることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
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