JP2008199962A - 組織体形成用基材、組織体形成キット、それを用いた組織体形成法、及び該組織体形成法により形成された三次元組織体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】増殖性の細胞を含む三次元組織体を形成する組織体形成用基材であって、貫通孔を有する多孔質フィルム1表面2に、細胞を保持しうる細胞接着性領域3aが、その周縁部が細胞非接着性領域4aとなるように配置されてなる組織体形成用基材である。該貫通孔を有する多孔質フィルム1における空孔の孔径0.01μm〜100μmのであることが好ましい態様である。
【選択図】図1
Description
また、本発明のさらなる目的は、前記本発明の組織体形成用基材やそれを含むキットを用いることにより、増殖性の細胞を培養した場合においても、従来に比べて高活性かつ長時間活性を維持することが可能な、サイズの制御された三次元組織体を、効率よく形成することができる組織体形成法及びそれにより得られた細胞の三次元組織体を提供することにある。
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 増殖性の細胞を含む三次元組織体の形成に用いる組織体形成用基材であって、貫通孔を有する多孔質フィルム表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域が、その周縁部が細胞非接着性領域となるように配置されてなる組織体形成用基材。
<2> 前記細胞接着性領域が複数個、隣接する細胞接着性領域との間に所定の間隔を介して配置されてなり、前記細胞非接着性領域が連続領域を形成してなる<1>に記載の組織体形成用基材。
<4> 前記貫通孔を有する多孔質フィルムが、三次元網目構造を有する多孔質フィルムであることを特徴とする<3>に記載の組織体形成用基材。
<5> 前記多孔質フィルムが、有機溶媒と高分子化合物を含む液を支持体上にキャストして製膜することで形成された、膜中に空隙が形成された多孔質フィルムからなることを特徴とする<1>乃至<4>のいずれか1項に記載の組織体形成用基材。
<6> <1>乃至<5>のいずれか1項に記載の組織体形成用基材を枠体で保持してなることを特徴とする、増殖性の細胞を含む三次元組織体の形成に用いる組織体形成キット。
<7> 前記枠体が、前記組織体形成用基材表面に形成された細胞接着性領域を分画するための、組織体形成用基材表面に垂直方向に設置された仕切りを有する枠体であることを特徴とする<6>に記載の組織体形成キット。
<9> 前記多孔質フィルムの播種面の裏面に、さらに、三次元組織体を形成させることを特徴とする<7>に記載の組織体形成法。
<10> <8>又は<9>に記載の組織体形成法により増殖性の細胞を培養して得られる三次元組織体。
また、本発明によれば、増殖性の細胞を培養した場合においても、従来に比べて高活性かつ長時間活性を維持することが可能な、サイズの制御された三次元組織体を、効率よく形成することができる組織体形成法及びそれにより形成された三次元組織体を提供することができる。
本実施形態に係る組織体形成方法(以下、「本方法」という)は、特定の多孔質フィルムを用いた本発明の組織体形成用基材(以下、「本基材」と称することがある)を少なくとも1つ準備する工程(以下「準備工程」という)と、該組織体形成用基材表面に配置された細胞接着性領域に細胞を播種して、増殖性および非増殖性の細胞を培養することにより、当該各表面領域に当該細胞を含む三次元組織体(以下、「組織体」という)を形成させる工程(以下、「培養工程」という)と、を含む。
図1は、この準備工程で準備する組織体形成基材を有する組織体形成キットの一態様を示す斜視図である。この組織体形成キットは、後述する多孔質フィルム1表面2上に細胞接着性領域3aを備えてなる組織体形成用基材と、その周縁を支持する枠状の保持材5aとを備える。また、図2は、この準備工程で準備する組織体形成基材を有する組織体形成キットの他の態様を示す斜視図である。この組織体形成キットは、後述する多孔質フィルム1表面2上に細胞接着性領域3bを備えてなる組織体形成用基材に、所定の間隔を介して形成された貫通孔を有し、その貫通孔が細胞接着性領域3bを有する領域を分画するように形成されてなる板状の保持材5bを積層、固定化してなる。
本発明の三次元組織体形成用基材において所望により設けられる保持材としては、後に説明する多孔質フィルムを固定、保持しうる部材として、安定した構造体として機能すれば、形態には制約はないが、例えば、図1に示す如く多孔質フィルム1の周囲に額縁状に設置してなる枠体5aの形状を有するものであってもよく、また、所定の間隔で互いに直行する枠材である格子状の保持材であってもよい。
また、枠体のように周縁部を保持するものでなくても、それ自体が安定した板状であって、後述する細胞接着性領域を中心に地位させるべく、所定の間隔をもって形成された貫通孔を有する保持材5bを、多孔質フィルム1の表面2に積層して固定化してなる、図2に示す如き形態をとってもよい。
本発明の組織体形成用基材に用いる多孔質フィルム、即ち、本発明における「貫通孔を有する多孔質フィルム」とは、フィルムの表裏面や、フィルム表面の細胞接着性領域及び細胞非接着性領域の如き異種領域間のいずれかあるいは双方における物質移動の透過パスとなる貫通孔或いは連通孔を有するフィルムのことを指す。基材フィルムとしては、このような貫通孔(連通孔である場合も包含する)を有するフィルムであって、かつ、細胞などの組織体を表面に保持できるものあれば、材質、構造、孔の形態および孔径、孔径分布、孔の位置の分布、開孔率(フィルム面積に対する表面開孔部総面積の割合)は特に限定されず、いずれのものも用いることができるが、より具体的な例として、下記の条件のものを例示することができる。
なお、本発明においては、細胞接着性領域とその周縁部の細胞非接着性領域との関係を「異種領域」と称することがある。
なお、微細加工フィルムの例としては、光リソグラフィー技術を用いた、任意のサイズ・形・分布・パターンの孔(例えば10μm径の均一六角柱状孔をハニカムパターンに配置したフィルム、平均直径が1μm〜10μmのランダムな円柱多孔がランダムに配置したフィルムなど)を形成した多孔質フィルム、マイクロ打ち抜き加工や射出成形加工で同様に作製した多孔質フィルムなどが挙げられる。
孔径分布や孔の位置の分布については例えば、精密メッシュフィルターのような単分散なもの、一般的な多孔質フィルムのような多分散なものが挙げられる。
開孔率については、精密メッシュフィルターのように80%を超えるもの、一般的な多孔質フィルムのように50%以下のものなど、いずれも目的に応じて使用することができる。
なお、この多孔質フィルムにおける空孔の孔径は、市販の高倍率顕微鏡やSEM表面観察によって測定することができる。
即ち、図14(A)の模式図で示すように、多孔質フィルム1として孔径が細胞径よりも小さいものを使用してい場合には、細胞播種側の多孔質フィルム1表面2および細胞播種反対側の多孔質フィルム表面(裏面)の両面に組織体50を形成することができ、多孔質フィルム1を、その孔径が細胞径よりも大きいものを用いて同様の培養を行った場合を図14(B)に示すように、細胞播種した多孔質フィルム表面ではなく、その反対側の多孔質フィルム裏面上に組織体50が形成され、多孔質フィルム孔径を制御することで組織体の形成方向を制御できることが本発明者らの検討により明らかとなった。
このようなキャスト法を適用して、樹脂基材、溶剤、添加剤などの原料や製膜雰囲気における湿度、湿潤空気の供給条件などの諸条件を調整することにより、連通孔が形成されたフィルムは、形成された空孔が、貫通孔としてのみならず、フィルムの形成方向と平行な位置に隣接して存在する周囲の空孔と連通して、所謂三次元網目構造の如き空隙を有する多孔質フィルムを、複雑な工程を必要とせずに供給できるため、工程の簡易性からも好ましい態様である。本発明に用いられる多孔質フィルムが、フィルムの垂直方向(厚み方向)のみならず、平面方向へも連通する空孔を有することは、培養細胞の酸素や培養液の供給、老廃物等の排出などの物質交換にとって有利な構造であるといえる。
以下、最も好ましい態様である、三次元的に連通する空孔を有する多孔質フィルム(以下、適宜、特定多孔質フィルムと称する)について解説する。
前記三次元的に連通する空孔を有する多孔質フィルムを始めとする多孔質フィルムの形成に用いる材料には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、疎水性ポリマー及び両親媒性化合物から選択される少なくとも1種が好適である。
両親媒性ポリマーは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。
前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
両親媒性化合物として用いられる界面活性剤としては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物などが挙げられる。
直鎖又は分枝の炭素数1〜40の無置換アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−アミル基、tert−アミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、セチル基、ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、2−オクチルドデシル基、ドコシル基、テトラコシル基、2−デシルテトラデシル基、トリコシル基等が挙げられる。
直鎖又は分枝の炭素数1〜40の置換アルキル基における置換基としては、例えば、アルコキシル基、アリール基、ハロゲン原子、カルボンエステル基、カルボンアミド基、カルバモイル基、オキシカルボニル基、燐酸エステル基等が挙げられる。具体的には、例えば、ベンジル基、β−フェネチル基、2−メトキシエチル基、4−フェニルブチル基、4−アセトキシエチル基、6−フェノキシヘキシル基、12−フェニルドデシル基、18−フェニルオクタデシル基、ヘプタデシルフルオロオクチル基、12−(p−クロロフェニル)ドデシル基、2−(燐酸ジフェニル)エチル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルケニル基としては、例えば、2−フェニルビニル基、4−アセチル−2−ブテニル基、13−メトキシ−9−オクタデセニル基、9,10−ジブロモ−12−オクタデセニル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の無置換アルキニル基としては、例えば、アセチレン基、プロパルギル基、3−ブチニル基、4−ペンチニル基、5−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基等が挙げられる。
前記直鎖又は分枝の炭素数2〜40の置換アルキニル基における置換基としては、例えば、アルコキシル基、アリール基等が挙げられる。具体的には、例えば、2−フェニルアセチレン基、3−フェニルプロパルギル基等が挙げられる。
前記芳香族基としては、例えば、置換又は無置換の炭素数6〜50のアリール基等が好ましい。
前記脂環式化合物基における、置換又は無置換の炭素数3〜40のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−フェニルシクロヘキシル基、3−メトキシシクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
前記脂環式化合物基における、置換又は無置換の炭素数4〜40のシクロアルケニル基としては、例えば、1−シクロヘキセニル基、2−シクロヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、2,6−ジメチル−3−シクロヘキセニル基、4−tert−ブチル−2−シクロヘキセニル基、2−シクロヘプテニル基、3−メチル−3−シクロヘプテニル基等が挙げられる。
前記置換又は無置換の炭素数4〜40の環状エーテルとしては、例えば、フリル基、4−ブチル−3−フリル基、ピラニル基、5−オクチル−2H−ピラン−3−イル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基等が挙げられる。
前記置換又は無置換の炭素数4〜40の含窒素環としては、例えば、2H−ピロリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、インドリジニル基、モルホリル基等が挙げられる。
前記炭素数1〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基、セチル基、ヘキサデシル基、2−ヘキシルデシル基、オクタデシル基、エイコシル基、2−オクチルドデシル基、ドコシル基、テトラコシル基、2−デシルテトラデシル基等が挙げられる。
前記炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の無置換アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、2−メチル−2−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、3−シクロヘキセニル基、7−オクテニル基、9−デセニル基、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基等が挙げられる。
前記炭素数2〜24の、直鎖、環状、又は分枝の置換アルケニル基としては、例えば、2−フェニルビニル基、9,10−ジブロモ−12−オクタデセニル基等が挙げられる。
前記炭素数6〜30の置換又は無置換のアリール基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、p−クレジル基、p−エチルフェニル基、p−tert−ブチルフェニル基、p−tert−アミルフェニル基、オクチルフェニル基、p−tert−オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、p−n−ドデシルフェニル基、m−オクチルオキシフェニル基、ビフェニル基、等が挙げられる。
ことが特に好ましい。
前記R4及びR5における置換基としては、アリール基、アルコキシル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
これらの中では、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CON(R3)−(R3は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基を表す。)、−N(R4)CO−、−SO2N(R4)−、−N(R4)SO2−等が特に好ましい。
前記sとしては、1〜5の整数が好ましく、1〜3の整数が特に好ましい。前記a及びbとしては、それぞれ独立に、0〜20の整数が好ましく、0〜10の整数が特に好ましい。
前記アニオン性基としては、−COOM、−SO3M、−OSO3M、−PO(OM)2−OPO(OM)2が特に好ましい。なお、前記Mは、対カチオンを表し、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等)、アルカリ土類金属イオン(例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオン等)、及びアンモニウムイオンのいずれかが好ましい。これらの中でも、ナトリウムイオン、カリウムイオンが特に好ましい。
前記カチオン性基としては、例えば、−NH3 +・X−、−NH2(R6)+・X−、−NH(R6)2 +・X−、−N(R6)3 +・X−が挙げられる。
前記R6は、炭素数1〜3のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基等)を表し、メチル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
前記X−としては、対アニオンを表し、例えば、ハロゲンイオン(例えば、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン等)、複合無機アニオン(例えば、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン等)、及び有機化合物アニオン(例えば、シュウ酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン等)が好ましく、塩素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、酢酸イオンが特に好ましい。
また、両親媒性化合物が界面活性剤の如き低分子量の化合物である場合の分子量としては、300〜600の範囲であることが好ましい。
疎水性ポリマーと両親媒性化合物との組成比率(質量比率)は、前記両親媒性化合物が両親媒性ポリマーである場合は、99.9:0.1〜50:50が好ましく、95:5〜75:25がより好ましい。前記両親媒性化合物の比率が上記範囲において、均一な連通多孔質構造体が得られ、且つ、膜の安定性、特に力学的な安定性を十分に得ることができる。
また、前記両親媒性化合物が両親媒性ポリマーでない場合は、前記疎水性ポリマーと前記両親媒性化合物との組成比率(質量比率)は、99.9:0.1〜80:20が好ましい。前記両親媒性化合物が両親媒性の低分子量化合物である場合、この組成比率において、均一な連通多孔質構造体が得られ、フィルム強度を適切に維持することができる。
なお、両親媒性化合物として、両親媒性ポリマーと両親媒性の低分子化合物を任意の比率で混合して用いてもよい。
これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、疎水性ポリマー及び両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
このようなキャスト法により製膜した場合、空孔の配列状態が、平面視により互いにヘキサゴナル状に位置するように規則配列してハニカム状構造を形成する。また、隣接する空孔同士は、所定の距離よりも近接した場合、互いに接合して連通することがある。
空孔の大きさは使用する溶媒、疎水性ポリマー、両親媒性化合物の種類や量によって異なるが、主にキャスト雰囲気の湿度と湿潤空気の供給時間でコントロールすることができる。本発明におけるキャスト法によるフィルム形成は、キャスト液の気化熱により周囲の空気の温度低下にともなう凝結により生じた水滴を鋳型として利用しており、例えば相対的に湿度を高くすることで凝結水滴を大きくすることができ、すなわちフィルム形成後の空孔のサイズを大きくすることができる。また、溶媒が蒸発するまでの間は湿潤空気を水分子の供給源として凝結水の成長が進むことから、湿潤空気の供給時間を長くすることにより、凝結水滴を大きくすることができ、すなわち、フィルム形成後の空孔サイズを大きくすることができる。具体的には一般に、湿度60%RH〜95%RH、乾燥までの湿潤空気の供給時間を1分間から5分間の間でコントロールすることにより、空孔径1μmから30μmの空孔径を制御することができる。貫通構造の特徴を活かすには、やはり使用する溶媒、疎水性ポリマー、両親媒性化合物の種類や量によって異なるが、凝結水滴の集積を促す条件、具体的には、疎水ポリマーの濃度や溶剤選定によりキャスト液の粘度を下げたり、キャスト面を乱さぬ程度に乾燥風量を上げたり、基材を加温することにより対流を促進することが有効である。
具体的にはキャスト液粘度が0.1Pa・s以下、乾燥風はキャスト面と垂直方向に風速0.05〜0.3m/秒、基板温度をキャスト液の表面温度(市販の放射温度計で測定可能)に対し1〜10℃高く保持することで、本発明に好ましい貫通孔構造を有する多孔質フィルムを形成することができる。
次に、前記多孔質フィルムの表面に細胞接着性の領域を形成する方法について説明する。
図1に示す多孔質フィルム1の表面2には細胞接着性領域3aを有する。ここで、細胞接着性領域3aとは、培養しようとする細胞に対して親和性を有する領域を指し、このような細胞接着性領域3aを形成することで、例えば、培養液等の溶液中において、該細胞接着性領域3aに沈降した細胞は、その形状を、培養時間の経過に伴って、球形から比較的扁平な形状に変化させつつ、当該領域3aに接着することになる。
また、合成された細胞接着性物質としては、例えば、細胞接着性を示す特定のアミノ酸配列(例えば、アルギニン・グリシン・アスパラギン酸配列(いわゆるRGD配列)等)や特定の糖鎖配列(例えば、ガラクトース側鎖等)を有する化合物等を好ましく用いることができる。
これら細胞接着性物質の誘導体としては、例えば、当該細胞接着性物質に任意の官能基や高分子鎖等を、所定の化学反応(例えば、カルボキシル基やアミノ基等の間の縮合反応)等によって結合させたものを好ましく用いることができる。
ここで、細胞非接着面の表面とは、例えば、培養液等の水溶液中において、細胞の接着に不適切な特性を示す表面である。したがって、例えば、培養液中において図1における周辺の細胞非接着性領域4a表面、或いは、図2におけるキャビティの細胞接着性領域3aの周辺領域(細胞非接着性領域)4aに沈降した細胞は、その形状を球状からほとんど変化させず、当該周辺表面4aまたは周辺領域4b表面には実質的に接着できない。すなわち、周辺表面4aまたは周辺領域4bに沈降した細胞は、当該周辺表面4aまたは表面領域4bに全く接着できずに培養液中で浮遊し、またはいったん接着したとしても、所定の培養時間経過後には培養液の流れ等によって容易に脱着する。
細胞非接着性物質またはその誘導体は、例えば、当該細胞非接着性物質またはその誘導体を含む水溶液中において、当該細胞非接着性物質またはその誘導体が有する官能基と、多孔質フィルム表面2のうち細胞接着性領域3aを囲む部分(4a)、または図2に示す各細胞非接着性領域4bおよび周辺の枠体5b表面に露出している官能基とを所定の化学反応等によって結合させることにより、当該細胞接着性領域3aを囲む部分(4a)、または図2における当該各周辺領域4bおよび枠体5b表面に固定できる。
本発明においては、多孔質フィルム1表面2に、細胞非接着性領域4aに囲まれて細胞接着性領域3aが1つのみ存在すればよいが、細胞培養や三次元組織体の形成、或いは、それらを評価するという目的を考慮すれば、多孔質フィルム表面には複数の細胞接着性領域3aが形成されることが好ましく、培養や評価の効率といった観点からは、その細胞接着性領域3aは等間隔で複数個設けられることが好ましい。
このような複数の細胞接着性領域3aとその周辺部の細胞非接着性領域4からなる領域を、以下、領域セットと称する。領域セットに含まれる複数の隣接する細胞接着性領域3aは、その各々の重心点(円形の隣接領域における円の中心点、四角形の隣接領域における対角線の交点等)から、当該領域セットに含まれる特定領域の重心点までの距離(以下、「重心間隔」という)が互いに等しくなるように配置されている。
このようにして、多孔質フィルム1の表面2に細胞接着性領域3aを形成することで、本発明の組織体形成用基材を得ることができる。
この組織体形成用基材は、細胞培養における三次元組織体の形成に有用である。
この培養工程においては、多孔質フィルム1表面2のうち、各領域セット10に含まれる複数の細胞接着性領域3aで増殖性の細胞を培養する。ここで、培養する細胞としては、所定の培養条件下で、細胞同士が三次元的に集合して立体的な組織体を形成するものであれば、由来する動物種や臓器・組織の種類等や、細胞の増殖性・非増殖性を問わず任意の細胞を用いることができる。具体的な例としては、ヒトまたはヒト以外の動物(例えば、サル、ブタ、イヌ、ラット、マウス等)由来の肝臓、膵臓、腎臓、神経、皮膚等から採取される初代細胞、未分化な幹細胞、胚由来のES細胞(Embryonic Stem Cell)、樹立されている株化細胞、またはこれらに遺伝子操作等を施した細胞等であって、増殖可能な細胞を好ましく用いることができる。また、一種類の細胞を単独で用いることもできるし、二種類以上の細胞を任意の比率で混在させて用いることもできる。
本発明の組織体形成キットの他の適用態様について述べれば、例えば、本キットによれば、所望のサイズの組織体を形成するための重心間隔を簡便かつ正確にスクリーニングできる。また、本キットにおける多孔質フイルムの細胞接着性の表面領域に組織体を接着させた状態で保持することができる。さらに、本キットに含まれる多孔質フィルムを回収してシート試料として扱うこともできる。多孔質フィルムは従来セルチップに比較して相対的に細胞接着性が低いので、各表面領域で形成された組織体は溶液中に浮遊させることにより容易に回収して取り扱うことも可能である。
(実施例1)
<多孔質フィルムの作製>
ポリ(ε―カプロラクトン)(PCL、Wako製 重量平均分子量 70,000から100,000)と両親媒性ポリアクリルアミドポリマー(下記構造、重量平均分子量 49,000)を重量比10:1で0.5mg/mLとなるように塩化メチレンに溶解した。この溶液をガラスシャーレ(Φ90)上にキャストし、相対湿度80%の雰囲気下で塩化メチレンを蒸発させることで、開孔径7〜15μmのフィルム表裏面で貫通した孔がハニカム状に配置された貫通型ハニカム状多孔質フィルムAを得た。
また比較試料として、以下のフィルムを作製した。
直径10μm、高さ15μmの円柱が、隣接する円柱同士の中心間距離15μm間隔でヘキサゴナル状に規則配列した平板金型(サイズ20mm×20mm)を作製し、前記フラットフィルムに40℃に保温しながら前記平板金型を0.1Paの荷重で30秒間押し当て、前記金型から剥がすことで、表面に直径約10μm、深さ約15μmの有底キャビティ(非貫通空孔)が中心間距離約15μmでヘキサゴナル状に配置された非貫通型ハニカム状フィルムBを得た。
ポリメチルメタクリレート(Poly Methyl MethAcrylate:PMMA)製の平板(24mm×24mm、厚さ400μm)を保持材5bとして用い、図2に示すような組成体形成キットAを作製した。すなわち、キャビティ100の底面が細胞接着性領域3aおよび細胞非接着性領域4bからなる六角セットが複数形成された多孔質フィルムからなるプレキットAを作製した。
まず、初代ラット肝細胞を調製するために0.5mg/mLのコラゲナーゼ(和光純薬工業社製)溶液150mLを用意した。7週齢の雄ウィスター系ラット(体重250g)の門脈(肝臓に入る血管)にカニューレを導入し、脱血液を30mL/minで5分間流した後、37℃に加温したコラゲナーゼ溶液を15mL/minで10分間流した。コラゲナーゼによって処理された肝臓を培養液に入れ、メスとピペットを使って肝細胞を分散させた。得られた肝細胞懸濁液を3回洗浄し、肝細胞以外の細胞を取り除いた(95%以上の純度)。このようにして単離した肝細胞を以下の培養実験の種細胞として使用した。
また、比較用試料として貫通型多孔質フィルムAの代わりに前記のようにして得られた非貫通型フラットフィルムBを用いた以外はまったく同じ方法で作製した組織体形成キットBを使って同様の実験を行った。
増殖性の細胞として、ヒト肝芽腫由来の細胞株であるHepG2細胞(RCB1648、理化学研究所セルバンク)を用いた。また、培養液としては、ウィリアムズE培地(Williams’s Medium E、シグマ社製)10.8g/Lに、58.8mg/Lのペニシリン(明治製菓社製)、100mg/Lのストレプトマイシン(明治製菓社製)、2.2g/Lの炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)、10%の牛胎児血清(FBS、インビトロジェン社製)、を加えた血清添加培養液を調製して用いた。
上記の点以外は、実施例1と同じ方法にて培養および評価実験を実施した。また、上記の点以外は、比較例1と同じ方法にて比較用の培養および評価実験を実施した。
増殖性の細胞として、ヒト肝ガン由来細胞株のHuH7細胞(RCB1366、理化学研究所セルバンク)を用いた以外は(実施例2)と同じ方法にて培養および評価実験を実施した。また、上記の点以外は(比較例2)と同じ方法にて比較用の培養および評価実験を行った。
膵臓系の増殖性細胞として、ラットランゲルハンス島由来の細胞株であるRIN−5F細胞(大日本住友製薬社)を用いた。また、培養液としては、RPMI−1640培地(シグマ社製)8.4g/Lに、58.8mg/Lのペニシリン(明治製菓社製)、100mg/Lのストレプトマイシン(明治製菓社製)、2.2g/Lの炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)、10%の牛胎児血清(FBS、インビトロジェン社製)、を加えた血清添加培養液を調製して用いた。実施例1と同じ方法にて細胞形態およびスフェロイド粒径の変化を評価した。
未分化細胞として、マウスES細胞株である129SV細胞(大日本住友製薬社)を用いた。また、培養液としては、ES細胞用培地(大日本住友製薬社)を用いた。実施例1と同じ方法にて細胞形態およびスフェロイド粒径の変化を評価した。
ポリメチルメタクリレート(Poly Methyl MethAcrylate:PMMA)製の平板(24mm×24mm、厚さ400μm)を保持材5aとして用い、図1に示すようなプレキットCを作製した。すなわち、5mm×5mmのサイズで格子状に打ち抜き、実施例1と同じ方法で作製した多孔質フィルムを熱圧着した。多孔質フィルムの表面に細胞接着性領域3aを以下のように形成しうる六角セットが複数形成されたプレキットCを作製した。
このプレキットCにおいては、多孔質フィルム1は、保持材5aの高さ方向の中興近傍に固定化されることにより、多孔質フィルム1の裏面に空間が形成されるように保持される。
また、このときのスフェロイド50の形成状態を図14の模式図で示す。HepG2の細胞径は約10μmであるが、図14(A)に示すように、多孔質フィルム1として孔径が細胞径よりも小さいものを使用している場合には、細胞播種側の多孔質フィルム1表面2および細胞播種反対側の多孔質フィルム表面(裏面)の両面にスフェロイド50が形成された。このときの表面(細胞播種面)におけるスフェロイド形成状態を図13(A)に示す。
このとき、多孔質フィルム1を、その孔径が細胞径よりも大きいものを用いて同様の培養を行った場合を図14(B)に示す。このときの表面(細胞播種面)におけるスフェロイド形成状態を図13(B)に示す。この場合には、細胞播種した多孔質フィルム1表面2ではなく、その反対側の多孔質フィルム表面(裏面)上にスフェロイド50が形成された。これらの結果は、多孔質フィルム孔径によってスフェロイド50の形成方向を制御できることを示し、培養環境の異方性に関する研究や共培養システムへの応用が可能である。
2 多孔質フィルム表面
3a 細胞接着性領域
4a、4b 細胞接着性領域周辺に位置する細胞非接着性領域
5a、5b 保持材
10 領域セット表面
50 組織体(スフェロイド)
100 キャビティ
Claims (10)
- 増殖性の細胞を含む三次元組織体の形成に用いる組織体形成用基材であって、
貫通孔を有する多孔質フィルム表面に、細胞を保持しうる細胞接着性領域が、その周縁部が細胞非接着性領域となるように配置されてなる組織体形成用基材。 - 前記細胞接着性領域が複数個、隣接する細胞接着性領域との間に所定の間隔を介して配置されてなり、前記細胞非接着性領域が連続領域を形成してなる請求項1に記載の組織体形成用基材。
- 前記貫通孔を有する多孔質フィルムが、孔径0.01μm〜100μmの空孔が互いに連通するように形成されてなる多孔質フィルムからなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の組織体形成用基材。
- 前記貫通孔を有する多孔質フィルムが、三次元網目構造を有する多孔質フィルムであることを特徴とする請求項3に記載の組織体形成用基材。
- 前記多孔質フィルムが、有機溶媒と高分子化合物を含む液を支持体上にキャストして製膜することで形成された、膜中に空隙が形成された多孔質フィルムからなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の組織体形成用基材。
- 請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の組織体形成用基材を枠体で保持してなることを特徴とする、増殖性の細胞を含む三次元組織体の形成に用いる組織体形成キット。
- 前記枠体が、前記組織体形成用基材表面に形成された細胞接着性領域を分画するための、組織体形成用基材表面に垂直方向に設置された仕切りを有する枠体であることを特徴とする請求項6に記載の組織体形成キット。
- 請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の組織体形成用基材を準備する基材準備工程と、該組織体形成用基材表面に増殖性の細胞を播種し、培養、増殖させて三次元組織体を形成させる培養工程とを含むことを特徴とする組織体形成法。
- 前記多孔質フィルムの播種面の裏面に、さらに、三次元組織体を形成させることを特徴とする請求項7に記載の組織体形成法。
- 請求項8又は請求項9に記載の組織体形成法により増殖性の細胞を培養して得られる三次元組織体。
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