JP2007284414A - テトラカルボン酸又はそのポリエステルイミド、及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract


【課題】 本発明は、有益で新規な脂環式ポリエステルイミドを提供する。
【解決手段】 エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類を原料としてアミンと反応させて得られる脂環式ポリエステルイミド前駆体をイミド化することにより誘導される脂環式ポリエステルイミドが産業分野において有益な材料となることを見出した。
【選択図】 なし

Description

本発明は、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類、さらにはこれらを原料として製造される脂環式ポリエステルイミド前駆体、脂環式ポリエステルイミド及びその製造方法に関する。
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。ポリイミドはまた製造方法の簡便さ、高い膜純度、物性改良のしやすさの点で、非常に有用な材料であり、近年様々な用途毎に適した機能性ポリイミドの材料設計がなされている。
多くのポリイミドは有機溶媒に不溶で、ガラス転移温度以上でも溶融しないため、ポリイミドそのものを成型加工することは通常容易ではない。そのためポリイミドは一般に、無水ピロメリット酸等の芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性有機溶媒中で等モル反応させて、先ず高重合度のポリイミド前駆体を重合し、この溶液を膜などに成形し250℃から350℃程度の温度をかけて加熱し、脱水閉環(イミド化)して製膜される。
ポリイミド/金属基板積層体をイミド化温度から室温へ冷却する過程で発生する熱応力はしばしばカーリング、膜の剥離、割れ等の深刻な問題を引き起こす。最近では電子回路の高密度化に伴い、多層配線基板が採用されるようになってきたが、たとえ膜の剥離や割れにまで至らなくても多層基板における応力の残留はデバイスの信頼性を著しく低下させるので、熱応力を低減することも検討されているが、これら熱応力の低い樹脂は溶媒に対する溶解性が低く操作性が悪いという問題がある。
一方、ポリイミドが有機溶媒に可溶である場合、熱イミド化工程を必要としないため、金属基板上にポリイミドの有機溶媒溶液(ワニス)を塗布後、熱イミド化温度よりずっと低い温度で溶媒を蒸発・乾燥するだけでよく、金属基板/絶縁膜積層体における熱応力を低減することが可能である。しかしながら、有機溶媒に可溶で実用化されたポリイミドはごく限られており、多様な物性を持つポリイミドで溶媒に可溶なものの開発が待ち望まれている。
さらに、ポリイミドは一般に吸水率が高いことが知られている。絶縁層における吸水は絶縁膜の寸法変化や電気特性の低下等の深刻な問題を引き起こす。低吸水率を実現するための分子設計として、ポリイミド骨格へのエステル結合の導入が有効であると報告されている(非特許文献1)。
また近年、特にマイクロプロセッサーの演算速度の高速化やクロック信号の立ち上がり時間の短縮化が情報処理・通信分野で重要な課題になってきているが、そのためには絶縁膜として使用されるポリイミド膜の誘電率を下げることが必要となる。また電気配線長の短縮のための高密度配線および多層基板化にとっても、絶縁膜の誘電率が低いほど絶縁層を薄くできる等の点で有利である。
ポリイミドの低誘電率化には骨格中へのフッ素置換基の導入が有効である(非特許文献2)。しかしながらフッ素化モノマーの使用はコストの点で不利である。
また芳香族単位を脂環族単位に置き換えてπ電子を減少することも低誘電率化に有効な
手段である(非特許文献3)。
しかしながら、低誘電率(目標値として3.0以下)、低吸水性および溶媒可溶性を同時に有し、かつハンダ耐熱性を保持するポリイミドを得ることは分子設計上容易ではなく、このような要求特性を満足する実用的な材料は今のところ知られていない。ポリイミド以外の低誘電率高分子材料や無機材料も検討されているが、誘電率、耐熱性および靭性の点で要求特性が十分に満たされていないのが現状である。
更に近年、光学材料用途へ展開する要望から、可視光領域で高い透明性を示すポリイミドの要求が高まっている。この透明性に加えて、耐熱性、可溶性、適度な靭性を兼ね備えたポリイミドが得られれば、液晶ディスプレーやELディスプレー用フレキシブル基板や、内部に使用される各種光学特性部材として好適に使用することできるが、このような物性を兼ね備えた材料は知られていないのが現状である。
また、絶縁層としてのポリイミドにスルーホール形成や微細加工を施す目的で、ポリイミドあるいはその前駆体自身に感光性能を付与した感光性ポリイミドシステムが盛んに研究されている。一方塩基性物質でポリイミドそのものにエッチングを施し、スルーホール形成等も行われている。しかしながら後者ではアルカリによるポリイミド膜のエッチング速度が通常遅いために、エッチング液はエタノールアミン等特殊な塩基性物質に限られており、エタノールアミンを用いても全てのポリイミドに適用できるわけではない。上記要求特性を有し且つ、汎用の塩基性物質により容易にエッチングできるような材料が開発されれば、上記産業分野において極めて有益な材料を提供しうるが、そのような材料は現在のところ知られていない。
高分子討論会予稿集,53,4115(2004) Macromolecules,24,5001(1991) Macromolecules,32,4933(1999)
本発明は高ガラス転移温度、高透明性、低吸水率およびエッチング特性を併せ持つため、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜や積層板、フレキシブルプリント配線基板などの電子材料分野、液晶ディスプレー用基板、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板などの表示装置分野、レンズや回折格子、光導波路などの光学材料分野、バッファーコート膜や層間絶縁膜などの半導体分野、この他太陽電池用基板、感光材料等において有益な脂環式ポリエステルイミドと、その前駆体、さらにその原料である新規なモノマー及びそれらの製造方法を提供するものである。
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記一般式(1)〜(3)で表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類を原料としてアミンと反応させて得られる脂環式ポリエステルイミド前駆体(4)をイミド化することにより誘導される脂環式ポリエステルイミド(5)が上記産業分野において有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明の第一の要旨は、下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類、に存する。
Figure 2007284414
(式(1)〜(5)中、Aは2価の基を示す。X、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。Bは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。Rは水素原子、炭素数1から12のアルキル基またはシリル基を表す。)
第二の要旨は、上記式(1)〜(3)中のAが芳香族基及び/または脂肪族基を有する2価の基であることを特徴とする上記記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類に存する。
第三の要旨は、上記式(1)〜(3)中のX、X2、X、X4、X5及びX6が水素原子であり、かつAが少なくとも1つの環状構造を含む構造であることを特徴とする上記記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類に存する。
第四の要旨は、核水素化トリメリット酸無水物を酸ハライドに変換し、得られた酸ハライドとジオールを塩基性物質の存在下に反応させることを特徴とする上記記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の製造方法に存する。
第五の要旨は、上記式(1)〜(3)のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類とジアミンから誘導される上記式(4)の脂環式ポリエステルイミド前駆体に存する。
第六の要旨は、上記式(5)で示される脂環式ポリエステルイミドに存する。
第七の要旨は、上記式(1)〜(3)で示されるエステル基含有脂環式テトラカルボン
酸二無水物類とジアミン類を環化イミド化反応させることを特徴とする脂環式ポリエステルイミドの製造方法に存する。
第八の要旨は、上記式(4)で示される脂環式ポリエステルイミド前駆体を環化イミド化反応させることを特徴とする脂環式ポリエステルイミドの製造方法に存する。
第九の要旨は、上記式(4)で示される脂環式ポリエステルイミド前駆体とジアミン類を環化イミド化反応させる際に、環化イミド化反応が加熱及び/又は脱水試薬を用いて行うことを特徴とする脂環式ポリエステルイミドの製造方法に存する。
第十の要旨は、上記式(5)の構成単位を含む樹脂からなるフィルムに存する。
第十一の要旨は、上記式(5)の構成単位を含む樹脂で製造されたフィルムを用いた液晶用部材に存する。
本発明によれば、高ガラス転移温度、高透明性、高い有機溶媒溶解性、低複屈折およびアルカリエッチング特性を併せ持つ樹脂、およびその原料を提供することができる。詳しくは、本発明に係る樹脂の原料であるテトラカルボン酸二無水物において、酸無水物基がシクロヘキサン環上に結合していることに由来して、該ポリエステルイミドにおけるパイ電子共役および分子内・分子間電荷移動相互作用を抑制することで透明性を高め、且つ誘電率を低下する事が可能となる。また該ポリエステルイミド中のエステル結合は、スルーホール形成等の微細加工が必要な場合、アルカリエッチングを可能にする。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定はされない。本発明でいう“類”とは“化合物”を意味するものとする。例えば、テトラカルボン酸類、ジアミン類は、それぞれテトラカルボン酸化合物、ジアミン化合物を意味する。
<エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物、又はそのテトラカルボン酸類>
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物とは、下記式(1)で表されるような両端が無水物であるものを指し、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸類とは、下記式(2)で表されるような一方の端が縮合環を形成し、他方の端がジカルボン酸であるもの、及び下記式(3)で表されるようなテトラカルボン酸を指す。
Figure 2007284414
上記式(1)〜(3)中のAの構造としては、2箇所で上記構造を形成するようにカルボキシ基と結合していればよく特に構造上の制限はない。
具体的には、式(1)〜(3)中、Aは任意の2価の基であればよい。本発明の化合物は、2つのシクロヘキサン環とそれをつなぐ2つのエステル基を有するという構造が特徴であり、この構造を有することにより、本発明の脂環式ポリエステルイミド樹脂とした時に高い透明性、高い靭性、高い溶媒溶解性といった物性を得ることができる。つまり、Aの構造が任意の2価の基であっても、本化合物のこれらの物性に関しては大きくは影響を与えない傾向にある。従って、Aの構造は任意の2価の基であれば、特に制限されない。
この2価の基の中でも、好ましいものとしては、環状構造を有する基である。環状構造を有する構造とは、Aに芳香族基を含むもの又は脂環構造を含むものをさす。Aに環状構造があると脂環式ポリエステルイミド樹脂とした時の耐熱性および、寸法安定性の向上がもたらされる。また、脂環構造を含む場合には耐熱性を維持しつつ、UV領域の光吸収を低減させることができる、という特徴も得ることができる。具体的な構造として例を挙げると、芳香族基としてはいずれも2価の基であるフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、メチレンジフェニル基、イソプロピリデンジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)基などが上げられ、脂環構造としては、シクロヘキシレン基、シクロヘキサンジメチレン基、デカヒドロナフチレン基等が挙げられる。さらにこれらの基同士が、あるいは他の基と連結基で複数結合された構造となっていてもかまわない。ここで適用可能な連結基の具体的な例としては、メチレン基(−CH−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などを挙げることができる。なお、上記した2価の環状構造を含む基に関しては、特にその置換位置は問わない。例えばフェニレン基であれば1,4−位で置換すると−A−の構造が直線となるため耐熱性が向上し、線膨張係数が小さくなることが期待され好ましい。一方、フェニレン基において1,3−位で置換した場合には、−A−構造が屈曲するため溶媒に対する溶解性の向上が期待されるので好ましい。従って、置換位置については、必要とされる物性に応じて適宜ふさわしい構造のAを選択することが好ましい。
更に好ましい構造としては、Aが芳香族基を含む基である。芳香族基が含有されると脂環式ポリエステルイミド樹脂としたときの耐熱性および、寸法安定性が一層向上する上に屈折率の向上も達成される。芳香族基の具体的なものとしては、上記したものが適用可能であるが、中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)基等がより剛直な構造を持つ点で特に好ましい。さらには、フェニレン基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)基が原料の入手性、得られる樹脂の物性が良好な点で好ましい。
また、上記式(1)〜(3)中のX、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基の炭素数は、1〜10が好ましい。より具体的には、アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等が例示される。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基などがあげられる。また、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が上げられる。これらの例中でも上記式(1)〜(3)中のX、X2、X、X4、X5及びX6がそれぞれ独立に水素原子又はハロゲン原子であることが、原料の入手のしやすさの点で好ましい。この場合、ハロゲン原子の数、置換位置については特に限定されない。さらに好ましくは 上記式(1)〜(3)中のX、X2、X、X4、X5及びX6がすべて水素原子
の場合である。
AとX、X2、X、X4、X5及びX6の組み合わせとして好ましい構造としては、Aが環状構造を有する基であり、X、X2、X、X4、X5及びX6がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子で構成されるものである。さらに好ましくはAが環状構造を有する基でX、X2、X、X4、X5及びX6がすべて水素原子で構成されるものである。
<脂環式ポリエステルイミド前駆体と脂環式ポリエステルイミド>
本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体と脂環式ポリエステルイミドとは、下記式(4)で表されるようなポリエステルイミド前駆体と下記式(5)で表される脂環式ポリエステルイミドを指す。
Figure 2007284414
上記式(4)および(5)における、A、X、X2、X、X4、X5及びX6は、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の項で記載した内容と同様である。なお、式(4)中の各シクロヘキサン環に結合している−CONH−基と−COOR基は、相互にそ
の結合位置が交換されていてもかまわない。
式(4)および(5)におけるBは任意の2価の基であればよい。本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体(4)と脂環式ポリエステルイミド(5)は、2つのシクロヘキサン環とそれをつなぐ2つのエステル基を有するという構造に特徴があり、この構造を有することにより高い透明性、高い靭性、溶媒溶解性がもたらされる。つまり、Bの構造が任意の2価の基であっても、本化合物のこれらの物性に関しては大きくは影響を与えない傾向にある。従って、Bの構造は2価の基であれば、特に制限されない。
この2価の基の中でも、Bの構造として好ましいものとしては、環状構造を有する基である。環状構造を有する構造とは、Bに芳香族基を含む構造および脂環構造を含む構造をさす。Bに環状構造があると脂環式ポリエステルイミド樹脂とした時の耐熱性および、寸法安定性の向上がもたらされる。また、脂環構造を含む場合には耐熱性を維持しつつ、UV領域の光吸収を低減させることができる、という特徴も得ることができる。
具体的な構造として例を挙げると、芳香族基としてはいずれも2価の基であるフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、メチレンジフェニル基、イソプロピリデンジフェニル基、3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル基、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−1,1’−ビフェニル基などが上げられ、脂環構造としては、シクロヘキシレン基、シクロヘキサンジメチレン基、ジシクロヘキシルエーテル基、メチレンジシクロヘキシル基、デカヒドロナフチレン基等が挙げられる。さらにこれらの基同士が、あるいは他の基と連結基で複数結合された構造となっていてもかまわない。ここで適用可能な連結基の具体的な例としては、メチレン基(−CH−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などを挙げることができる。なお、上記した2価の環状構造を含む基に関しては、特にその置換位置は問わない。例えばフェニレン基であれば1,4−位で置換すると−B−の構造が直線となるため耐熱性が向上し、線膨張係数が小さくなることが期待され好ましい。一方、フェニレン基において1,3−位で置換した場合には、−B−構造が屈曲し、溶媒に対する溶解性の向上が期待されるので好ましい。従って、置換位置については、必要とされる物性に応じて適宜ふさわしい構造のBを選択することが好ましい。
更に好ましい構造としては、Bが芳香族基を含む基である。芳香族基が含有されると脂環式ポリエステルイミド樹脂としたときの耐熱性および、寸法安定性が一層向上する上に屈折率の向上も達成される。芳香族基の具体的なものとしては、上記したものが適用可能であるが、中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル基等がより剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
Rは水素原子、炭素数1から12のアルキル基またはシリル基を表す。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シリル基としては例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基、使用可能な例として挙げられる。中でも、脱離能が高いことからトリメチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基が好ましい。
AとB、X、X2、X、X4、X5及びX6の組み合わせとして好ましい構造としては、AとBがそれぞれ環状構造を有する基であり、X、X2、X、X4、X5及びX6がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子で構成されるものである。さらに好ましくはAとBがそれぞれ環状構造を有する構造でX、X2、X、X4、X5及びX6がすべて水素原子で構成されるものである。なお、この際のAとBの構造は同一であっても異なっていてもかまわない。
<エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の製造方法>
本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類は、例えば芳香環が水素化されたトリメリット酸無水物(以下、核水素化トリメリット酸無水物と称す)とジオールを原料として製造できる。下記に一例としてその製造方法を記載するが、本発明に於いては上記した構造のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類を製造できればよく、その製法は限定されない。
核水素化トリメリット酸無水物の製造方法は、公知公用の方法を採用することができ、特に限定されない。シクロヘキサン環に置換基のある酸無水物(一般式(1)におけるX、X2、X、X4、X5及びX6がそれぞれ独立に水素原子と異なる置換基である場合)を製造する場合においては、あらかじめ置換基の入ったトリメリット酸無水物を原料として核水素化する方法や、核水素化されたトリメリット酸無水物に対して置換基を導入する方法など、特にその製造方法は限定されない。
製造方法の具体例としては、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の原料となる核水素化トリメリット酸無水物は、トリメリット酸、又はトリメリット酸無水物を水素化する事で得ることができる。あるいは、トリメリット酸のエステルを核水素化し、その後エステル部分を加水分解、分子内脱水して酸無水物化する事でも製造する事ができる。具体的には、例えば米国特許出願公開第US5412108号明細書においてトリメリット酸無水物を核水素化する事で製造できることが開示されている。該米国出願公開明細書においては核水素化に使用可能な水素化触媒としてはRh金属がある特定の単体に担持されたRh触媒を用いている事が有利であるとされているが、この他にもPd,Ru,Ni,Ptなどの芳香核を水素化できる金属を使用した触媒であれば特に制限なく使用することができる。これら金属触媒は、担体に担持されていても、金属単独で使用することも可能であり、さらにはこれら金属に必要に応じて他の成分を添加して用いてもよい。
核水素化反応を行うと、通常、シクロヘキサン環上の3つの置換基については4種の立体異性体(光学異性体も含めれば8種)の混合物となる。これらの立体異性体については、このまま混合物のまま次の反応に使用しても良いし、再結晶化などの精製を行うことによって単一、もしくは特定の異性体の濃度を高めてから使用しても良い。また、特定の異性体を選択的に得る方法としては、例えば、米国特許出願公開第US5412108号明細書に記載の方法などを用いると3つの置換基がすべてシスに制御された生成物を主成分として得ることができる。この場合、すべてシスの異性体の純度は、通常90%以上、好
ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
核水素化反応後、水素化触媒の金属が一部溶出することがあるが、用途によっては溶出した金属を除去することが望ましい。溶出した金属は例えば、ゼータ電位フィルターやイオン交換樹脂などを通すことによって除去もしくは減少させることが可能である。こうして得られた水素化トリメリット酸中に含まれる金属量は、通常は1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下である。
トリメリット酸の核水素化反応後の生成物において一部又はすべての1,2−ジカルボン酸無水物環部分が開環して1,2−ジカルボン酸となった場合には、減圧下加熱処理をすることにより1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換しても良い。
その際採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。
その際採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa、好ましくは0.
05MPaである。
1,2−ジカルボン酸部分を酸無水物環に変換する方法としては、上記した減圧下に過熱する方法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが上げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
その際採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限が200℃、好ましくは150℃である。
このようにして得られる酸無水物環を持つ化合物の割合は、通常95モル%以上、好ま
しくは98モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上である。
次に、こうして得られた核水素化トリメリット酸無水物とジオールからジエステルを合成する。その際のエステル化反応(2分子の核水素化トリメリット酸の4位のカルボキシル基とジオールとの反応)は、通常有機合成的なエステル化反応として知られた反応を任意に採用できる。例えば、カルボン酸とアルコールから直接脱水してエステル化する方法、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略される)や、ジエチルアゾジカルボキシレート/トリフェニルホスフィンの組み合わせなどの脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法、カルボン酸とカルボン酸のアルコールエステルからエステル交換反応させる方法、カルボン酸を酸ハライドに変換した後に塩基性物質の存在下にアルコールと反応させる方法、カルボン酸を酸無水物に変換した後に塩基性物質の存在下にアルコールと反応させる方法、脂環式テトラカルボン酸をエステル交換法により製造する方法(J. Polym. Sci. Part A, 4, 1531−1541(1966))などである。
上述の方法の中でも、直接脱水する方法とエステル交換法、酸ハライドに変換する方法が、経済性、反応性の点で好ましい。
以下には、一例として酸ハライドに変換する方法について具体的に記述するが、本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類を製造する方法は特にこれに限定されない。また、酸ハライドとする場合の例として、核水素化トリメリット酸無水物を酸クロリド化しこれとジオールから核水素化トリメリット酸無水物のジエステルを製造する方法を取り上げて以下記述するが、酸クロリドの他に酸ブロミド、酸アイオダイドとする方法も全く同様に採用することができる。
この方法においては、まず核水素化トリメリット酸無水物クロリドを合成する。このものの合成法としては、カルボン酸から対応する酸クロリドを合成する通常の方法を用いることができる。具体的な例としては、塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などがあげられる。中でも過剰に使用した塩素化試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いるのが好ましい。
塩化チオニルを用いて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては例えば、特開2004−203792号公報に開示された方法が知られている。
また、塩素化剤を用いて核水素化トリメリット酸無水物を塩素化する際、N,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等の触媒を用いることもできるが、これらを用いなくても反応に大きな支障はない。触媒の存在により、得られた塩素化物がかえって著しく着色する場合があるので、ポリエステルイミド膜の透明性を重視する用途の場合は生成物の着色に注意が必要で、その場合はこれら触媒を使用しないで製造するのが好ましい。
使用する塩素化試剤の量は、反応等量、もしくは過剰量が採用されるが、通常下限が1モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは
50モル等量以下の量が使用される。
反応は室温でも行えるが、通常過熱して行う。採用される温度は、下限が30℃、好ましくは50℃、上限は使用する塩素化試剤の還流温度である。
反応後は、過剰に使用した塩素化試剤を除去する。除去の方法は特に制限されず、蒸留、抽出などが適用できる。蒸留により留去する場合には、より効率をあげるために塩素化試剤と共沸組成物を形成する溶媒を添加して留去してもよい。例えば、塩化チオニルを留去する場合には、ベンゼンやトルエンを添加して共沸留去させることができる。
得られた酸塩素化物はヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わなくても通常十分高純度なものが得られるので、場合によってはそのまま次の反応工程に使用しても差し支えない。
また、核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する方法としては、上記したトリメリット酸の水素化で得られた1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の1,2−ジカルボン酸部分を一度酸無水物環としてから残りのカルボン酸を酸クロリド化する方法の他に、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に直接塩素化剤を作用させて、酸クロリド化と酸無水物化を同時に行うこともできる。その際は、上記した酸クロリド化の際の塩素化試剤の使用量を変える以外は上記した反応条件をそのまま適用できる。塩素化剤の使用量は、通常下限が2モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。
核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸に塩素化剤を作用させて核水素化トリメリット酸無水物クロリドを製造する際に、溶媒を用いて実施してもよい。その際使用できる溶媒は、使用する塩素化剤および生成物である核水素化トリメリット酸無水物クロリドが溶解し、塩素化剤が反応しない溶媒であれば制限なく使用できる。使用可能な溶媒の例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、等があげられる。中でも、溶解性、安定性の点からトルエンや、ヘプタン、テトラヒドロフランが好ましい。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。溶媒の使用量は、基質である核水素化トリメリット酸無水物、ないし1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸の重量濃度として、通常下限が5重量%、好ましくは10重量%、上限が50重量%、好ましくは40重量%である。
このようにして必要に応じて精製を行って得られる核水素化トリメリット酸無水物クロリドの純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。主な不純物としては、酸無水環が開環したトリカルボン酸の複数のカルボキシル基が酸クロリド化を受けて生成するジ酸クロリド体、トリ酸クロリド体(立体異性体を含む)、触媒としてジメチルホルムアミドを使用した場合はこの分解物や、核水素化トリメリット酸のジメチルアミド体などがあるが、これらの存在量は少ない方が好ましく、通常は、5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
次に本発明においては、このようにして得られた核水素化トリメリット酸無水物の酸クロリドをジオールと反応させてエステル化し、一般式(1)に示されるジエステルを合成
する。ここでジオールではなく、ジアミンと反応させてジアミドとし、得られる二酸無水物を原料としてポリイミド化することは反応上は可能ではあるが、最終的に樹脂とした時に、吸水性が高くなる、靭性が低くなるなどの問題が生ずるのでジオールの方が好ましい。
ジオールと酸クロリドとの反応における試剤の添加の方法には特に制限がなく任意の添加法が採用できる。例えば、ジオールと塩基性物質を溶媒に溶解し、これに溶媒に溶解した上記の核水素化トリメリット酸無水物クロリドをゆっくりと滴下する方法、あるいは、逆に必要に応じて溶媒に溶解した上記の核水素化トリメリット酸無水物クロリド中にジオールと塩基性物質の混合溶液を滴下する方法、核水素化トリメリット酸無水物クロリドとジオールの混合溶液の中へ塩基性物質を滴下する方法、さらには、ジオールの溶液の中に核水素化トリメリット酸無水物クロリドの溶液と塩基性物質の溶液を同時に滴下する、などが採用可能である。
塩基性物質存在下のジオールと酸クロリドの反応では、反応の進行とともに白色沈殿が生じる。これを濾過後、沈殿を水で十分洗浄して塩基性物質が中和して生成した塩酸塩を除去し、ジエステルの沈殿を高温で真空乾燥することで、目的のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の粗生成物が高収率で得られる。さらに必要に応じて適当な溶媒で再結晶を行うことにより、純度の高められたエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物が得られる。
エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を合成する際に使用可能なジオールとしては特に限定されないが、通常、単核の芳香環に2つの水酸基を有するもの、脂環式骨格に2つの水酸基を有するもの、ビフェニル骨格の両方の核に水酸基を1つずつ持つもの、2個のフェノールもしくは脂環式アルコールがメチレン基(−CH−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などの官能基により結合された構造をもつもの、ナフタレン骨格に2つの水酸基を有するもの、鎖状骨格に水酸基を2つ持つものが用いられる。
具体的な例を挙げると、例えば、単核の芳香環に2つの水酸基を有するものの例としては、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2−フェニルヒドロキノン等が、ビフェニル構造の両方の核に水酸基を1つずつ持つものの例としては、4,4’−ビフェノール、3,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール等が、2個のフェノールもしくは脂環式アルコールが2価の官能基で結合されたものの例としては、4,4’−ジフェニルエーテル、4,4’−ジフェニルスルホン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノール等が、ナフタレン骨格に2つの水酸基を有するものの例としては2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,8−ナフタレンジオール等が、脂環式骨格に2つの水酸基を有するものの例としては、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−アダマンタンジオール、ジシクロペンタジエンの2水和物等が、鎖状骨格に水酸基を2つ持つものの例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール等が、またこの他のジオールとしてはシクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらのうちより好ましくは、環状骨格を有するジオールが挙げられ、さらにポリマーとしての要求特性の観点から考えると、ヒドロキノン、4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチルー4,4’−ビフェノール、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノ−ル、4,4’−メチレンビスフェノール、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサンが特に好ましい。またこれらのジオールを2種類以上併用することもできる。
これらジオールの使用量は、核水素化トリメリット酸無水物クロリドに対して、通常上限は0.6等量、好ましくは、0.5等量である。これ以上用いるとジオールの1つのみしかエステル化されていないハーフエステルが多く生成するので好ましくない。また下限は、0.3等量、好ましくは0.45等量を用いることができる。これ以下になると核水素化トリメリット酸無水物クロリドが系内に余るので好ましくはない。通常、0.5等量使用される。
核水素化トリメリット酸無水物クロリドとジオールを反応させて該エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を合成する際に使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メ
トキシエチル)エーテル等のエーテル溶媒、ピコリン、ピリジン等の芳香族アミン溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のようなケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の様な芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のような含ハロゲン溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のようなアミド系溶媒、ヘキサメチルホスホルアミド等のような含リン溶媒、ジメチルスルホオキシド等のような含イオウ溶媒、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶媒、1
,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のような含窒素溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等の水酸基を有する芳香族系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。
エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物を得る反応における溶質の濃度は、下限が5重量%、好ましくは10重量%、上限が50重量%、好ましくは40重量%で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮すると10重量%以上40重量%以下の範囲で行われるのがより好ましい。
本発明に係るエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成の際、採用される反応温度は下限が−10℃、好ましくは−5℃、より好ましくは0℃、上限は80℃、好ましくは50℃、より好ましくは20℃で行われる。反応温度が80℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
また、採用される反応時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。
反応は通常常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。通常反応雰囲気は、窒素下で行う。
反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でもよいが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
塩基性物質は、反応の進行とともに発生する塩化水素を中和するために用いる。この際使用される塩基性物質の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機の塩基性物質を用いることができる。ピリジンや、トリエチルアミンは安価に入手できる点や液体で溶解性に富むため反応操作が容易になる、という点で好ましい。また、無機の塩基性物質は安価に入手できる点で好ましい。
使用される塩基性物質の量は、核水素化トリメリット酸無水物クロリドに対して通常下限が1.0モル倍、好ましくは1.5モル倍、さらに好ましくは2.0モル倍、上限は特に制限はないが過剰に使用しすぎると生成物に混入してきたり、精製負荷が大きくなったりするので通常は30モル倍、好ましくは20モル倍、さらに好ましくは10モル倍が採
用される。塩基性物質の量が多すぎると、目的物の精製負荷が大きくなるので好ましくない。
<エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の精製方法>
例えば、核水素化トリメリット酸無水物クロリドとジオール反応により得られる反応生成物は、目的物と塩酸塩の混合物である。この混合物から塩酸塩を分離除去するために、沈殿物をクロロホルムや酢酸エチル等で抽出溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法も可能であるが、沈殿物を単に十分水洗するだけでも、塩酸塩を完全に除去することができる。塩酸塩の除去は洗浄液を1%硝酸銀水溶液による塩化銀の白色沈殿の生成の有無をもって分析することにより、容易に判断することができる。この時の塩化物
元素の残留量は、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。
水洗操作の際、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物は一部加水分解を受けて、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸に変化するが、これは、減圧下加熱処理をすることにより、一部加水分解して生成したエステル基含有脂環式テトラカルボン酸を容易にエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物に戻すことができる。
その際採用される温度は、下限が50℃、好ましくは120℃、上限が250℃、好ましくは200℃である。
その際採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa、好ましくは0.05MPaである。
その際採用される加熱時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは50時間である。
また、加水分解によりエステル基含有脂環式テトラカルボン酸となった場合の再閉環の方法としては、上記した減圧下に過熱する方法の他に有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが上げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
有機酸の酸無水物との採用処理時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。
その際、採用される処理温度は下限が0℃、好ましくは20℃、より好ましくは50℃、上限は250℃、好ましくは200℃、より好ましくは150℃で行われる。
その際、必要に応じて溶媒を使用してもかまわない。その際、使用される溶媒には特に限定はないが、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、酢酸、蟻酸、プロピオン酸などのカルボン酸溶媒などが好適に用いられる。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。
こうして得られた本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物をさらに精製することも可能である。その場合の精製方法としては、再結晶、昇華、洗浄、活性炭処理、カラムクロマトグラフィーなど任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。
こうして得られる本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の純度は例え
ば示差屈折系検出器付液体高速クロマトグラフィ−などの分析で得られるピークの面積比として、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
不純物として含まれてくるものとしては、ジオールの片方のみがエステル化されたモノエステル体、精製時に閉環剤として無水酢酸などの酸無水物を使用した場合にはこの閉環剤などがある。これらの不純物は、酸無水物構造を1つ分子内に含有していることから、これらのものは、ジアミンと重合する際に重合停止剤として機能するためなるべくエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物から除去しておく必要がある。エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物中に含まれる無水酢酸などの一酸無水物の含量は、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。これ以上存在すると、ジアミンとの重合の際に重合度が上がらなくなる可能性がでてくる。
また、上記した水素化トリメリット酸とジオールのエステル化による本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成収率は精製後で通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。
<エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の保存方法>
エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の保存は、加水分解による酸無水物環の開環を防ぐために高湿を避けた低温下で保存することが望ましい。具体的には、シール性の良い容器で冷蔵庫にて保管すれば長期間の保存に耐える。また、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物に関しては吸湿を防ぐために精製後すぐに次の重合反応に使用してもかまわない。その際の保存期間は、通常100時間以内、さらに好ましくは50時間以内、さらに好ましくは24時間以内である。
エステル基含有脂環式テトラカルボン酸は、特に湿度を管理する必要もなく、室温で長期間保存することができる。
<脂環式ポリエステルイミド前駆体の製造方法>
本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。通常、重合溶媒中で実質的に等モルのジアミン類とエステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物又はそのテトラカルボン酸類を反応させることで、脂環式ポリエステルイミド前駆体を容易に製造することができる。この際エステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物として上記式(1)で表される化合物を用いることが好ましい。
また、エステル基含有脂環式テトラカルボン酸類として上記式(1)より誘導される下記式(6)から(8)のいずれかで表される化合物を用いる事もできる。
Figure 2007284414
式(6)から(8)中、Rは炭素数1〜12のアルキル基であり、Xは水酸基又はハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれか)である。またAの構造としては、2箇所で上記構造を形成するようにカルボキシ基と結合していればよく特に構造上の制限はない。具体的には、式(4)から(6)中、Aは任意の2価の基であればよく、好ましくは、芳香族基又は脂肪族基を含む2価の基である。さらにAは、メチレン基(−CH−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などの官能基により芳香族基及び/又は脂肪族基が複数結合された構造であってもよい。これらの中でもAは、少なくとも1つの芳香族もしくは脂肪族の環状構造を含む構造であると、樹脂としたときの耐熱性があがるのでより好ましい。更に好ましくは、それぞれ2価のフェニレン基、ナフチレン基、シクロヘキシレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、メチレンジフェニル基、イソプロピリデンジフェニル基、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェニル基、ジシクロヘキシルエーテル基、直鎖脂肪族基等が挙げられ、これらの中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ビフェニルエーテル基、ビフェニルスルホン基等が剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
また、上記式(6)から(8)中のX、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、アミド基の炭素数は、1〜10が好ましい。より具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基等が例示される。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基などがあげられる。この中でも水素原子、ハロゲン原子が原料入手のし易さの点で好ましい。
AとX、X2、X、X4、X5及びX6の組み合わせとして好ましい構造としては、Aが環状構造を有する基であり、X、X2、X、X4、X5及びX6がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子で構成されるものである。さらに好ましくはAが環状構造を有する基でX、X2、X、X4、X5及びX6がすべて水素原子で構成されるものである。
式(6)から(8)の化合物は、式(1)の化合物とあらかじめ脱水されたアルコール類を反応させて酸無水物環を開環することにより、ジカルボン酸ジアルキルエステルとして合成することができる(X=OH)。この際、生成物は通常、式(6)から(8)で表される化合物の混合物として得られる。さらに、酸無水物環が開いて生成したカルボン酸部位を塩化チオニル等の塩素化剤で塩素化すると酸塩化物を合成することができる(X=Cl)。本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体の重合には、これらの化合物(6)〜(8)の混合物を用いることができるが、それぞれ単離された化合物を用いても差し支えない。また混合物の使用は、イミド化後の物性には影響を与えない。
本発明に係る脂環式ポリエステルイミド前駆体を製造するために使用されるジアミンとしては、先駆体製造の際の重合反応性、脂環式ポリエステルイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で自由に選択可能である。具体的に使用可能なジアミン類としては例えば、芳香族ジアミンでは、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチルー4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチルー5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロー4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモー4,4’−ジアミノジフェニル、ビス (フツ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニルー,4’−ジアミノジフェニル、4,4’ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス (3−アミノフエノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス (4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキジ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノー2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル〉ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2一ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)へキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が例示でき、これらを2種以上併用することもできる。
脂肪族ジアミンとしては例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロ
パン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
さらには、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン基含有のジアミンも使用することができる。
これらジアミンの中でも芳香族ジアミンとしては、o−、m−、p−フェニレンジアミンなどの単核のフェニレンジアミン化合物、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニル化合物が好ましく、中でも入手の容易性や得られる樹脂の物性が良好なことから、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルがより好ましい。脂肪族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが環構造を有し入手も容易なのでより好ましく、さらには、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンが得られる樹脂の物性が良好なことからより好ましい。
これらジアミンを用いる前に精製を行っても良い。精製方法としては、再結晶、昇華、活性炭処理、蒸留など任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。
これらジアミンは、重合反応性が高まるので高純度であることが好ましい、通常使用されるジアミンの純度は、95%以上、好ましくは、97%以上、さらに好ましくは99%以上である。
脂環式ポリエステルイミド前駆体は式(1)のテトラカルボン酸二無水物と実質的に等モルのジアミンより重合することができる。より具体的には、以下の方法により得ることができる。
反応はジアミンと式(1)のテトラカルボン酸二無水物を溶媒の存在下に混合して行う。
この際、使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミンの比率は、モル比で1:0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様にこのモル比が1:1に近いほど得られるポリアミド酸の分子量は大きくなる。
これらジアミンと酸無水物の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これに式(1)のテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸二無水物の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物粉末をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器に同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法が試剤の溶媒への溶解性から有利に採用される。
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。下限が−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃、上限が150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは60℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが十分な試剤の変換率を達成するためには、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが反応が終了すれば必要以上に反応時間を延ばす必要はない。例えば、100時間、好ましくは50
時間、さらに好ましくは30時間が採用される。
重合反応は、溶媒を用いて行う。この際使用される溶媒としては、原料モノマーであるジアミンと本発明の脂環式テトラカルボン酸が溶媒と反応せず、且つこれら原料が溶解する溶媒であれば問題はなく、特にその構造は限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、カプロラクタム等のラクタム溶媒、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、4−メトキシフェノール、2,6−ジメチルフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレアなどが好ましく採用される.さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフエノ−ル、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。中でも原料の溶解性が高いことからN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。すなわち濃度は、0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは5重量%以上、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸二無水物の溶解性の観点から、80重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下が採用される。このテトラカルボン酸二無水物の濃度範囲で重合を行うことにより均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。目的とするポリエステルイミドに膜靭性を付与するためには、ポリエステルイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが好ましく、上記濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の十分な重合度が得られず、最終的に得られるポリイミド膜が脆弱になる恐れがあり好ましくない。ジアミンとして脂環式ジアミンを用いた場合、より高濃度では形成された塩が溶解、消失するまでに長い重合時間を必要とし、生産性の低下を招く恐れがある。
必要に応じて前駆体の製造の際に無機塩類を触媒として用いても良い。この際に用いられる無機塩類としては、たとえばLiCl、NaCl、LiBrなどのハロゲン化アルカリ金属塩、CaCl2などのハロゲン化アルカリ土類金属、ZnCl2などのハロゲン化金属類が挙げられる。これらのうち、LiCl、CaCl2、ZnCl2などの金属の塩化物が特に好ましい。
反応は、進行中攪拌しながら行うのが好ましい。
こうして得られる本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体の重量平均分子量は、下限が3000、好ましくは、5000、上限は150000、好ましくは100000である。分子量は例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などで測定できる。
また、得られる脂環式ポリエステルイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されるものではないが、好ましい対数粘度としては、下限が0.3dL/g、好ましくは0.5dL/
g、さらに好ましくは、0.7dL/gである。一方、上限は、5.0dL/gであり、好ましく3.0dL/gであり、より好ましくは2.0dL/gである。対数粘度は、例えばオストワルド粘度計などを用いて測定することができる。
脂環式ポリエステルイミド前駆体の溶液をろ過することにより含まれる異物粒子を取り除くことが可能である。異物粒子を取り除くことは特に樹脂を光学用途に利用する場合においては重要なことであり、本発明で得られる脂環式ポリエステルイミド前駆体の異物量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体は、前駆体1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。異物の数は例えば、顕微鏡の画像上で不溶性微粒体の大きさと個数を計測する顕微鏡法によりカウントすることができる。具体的にはたとえばキーエンス社製XV−1000などの粒径画像処理装置などを利用すれば容易に計測できる。
また、本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体の合成は、対応するテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物とジアミンより公知の方法に従って低温溶液重縮合させることによっても可能である(例えば、High Performance Polymers,10,11(1998)などに記載の方法)。具体的には、溶媒の存在下にジアミンと式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体(Xはハロゲン原子)を反応させることで行う。
これらジアミンと式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これにテトラカルボン酸誘導体を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸誘導体の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸誘導体をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器にそれぞれ同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸誘導体を徐々に添加する方法が反応制御の容易性から有利に採用される。
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。下限が−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃、上限が150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは80℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、150時間、好ましくは100時間、さらに好ましくは50時間が採用される。
この重合反応は、溶媒を用いて行う。この際使用される溶媒としては、上記したジアミンとテトラカルボン酸二無水物の反応で使用される溶媒を用いる事ができる。
溶媒の使用量は、原料である式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。濃度の下限が0.1重量%、好ましくは1重量%、さらに好ましくは5重量%、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸二無水物の溶解性の観点から、80重量%、好ましくは50重量%、さらに好ましくは30重量%が採用される。
反応の際には、塩基性物質を使用してもよい。本発明において使用可能な塩基性物質は、3級のアミンや無機の塩基性物質である。具体的には、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミンや、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、燐酸のナトリウム塩やナトリウム水素塩等の無機の塩基性物質が使用可能である。中でも、入手の容易性や操作性からピリジンやトリエチルアミンが好ましい。これら塩基性物質は、あらかじめ反応の際に使用する溶媒に溶解して添加しておくことが
好ましい。塩基性物質の使用量は、式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体中に含まれる酸の量により任意に変えて使用することができる。もちろん、テトラカルボン酸誘導体中に反応により発生する酸が全くないならば塩基性物質を使用しないことも可能である。酸が発生する場合の塩基性物質の使用量は、重合に使用するテトラカルボン酸誘導体のモル数に対して、下限が2倍モル、好ましくは3倍モル、上限が、10倍モル、好ましくは5倍モルである。
反応は、進行中攪拌しながら行うのが好ましい。
このジアミンと式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体との重合反応は界面重縮合法でも行うことが可能である。界面重縮合法においては、使用する溶媒に特徴がある。即ち、ジアミンは、3級アミン等の塩基性物質を溶解した水溶液に溶解する。一方、式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体(Xが塩素原子の場合)は、水に溶解しない無極性有機溶媒に溶解する。この際使用される無極性溶媒としては、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶媒や、シクロヘキサンやヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素溶媒が用いられる。
界面重縮合法におい重合反応を行う場合には、これら2つの溶液を混合し、激しく撹拌することでポリエステルイミド前駆体を得ることが可能である。この際ジアミンとテトラカルボン酸誘導体の仕込量は等モルでなくても支障はない。
さらに本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体は、式(6)から式(8)で表されるテトラカルボン酸誘導体(Xが水酸基の場合)と等モルのジアミンを用いて、縮合剤の存在下に製造することができる。例えば、縮合剤としてジアミンと等モルの亜リン酸トリフェニルを用い、ピリジンの存在下に直接重縮合することも可能である。また、他の縮合剤としてN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いても同様に直接重縮合可能である。
また、本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体の製造は、公知の方法(高分子討論会予稿集,49,1917(2000))に従ってジアミンのジシリル化物と式(1)のテトラカルボン酸二無水物あるいは式(6)から式(8)のテトラカルボン酸誘導体(Xが
塩素原子の場合)を上記と同様に低温溶液重縮合することによっても可能である。
本発明における脂環式ポリエステルイミド又はその前駆体は、本発明の特徴である上記一般式(4)〜(5)のユニットが少なくとも1つ以上含有していればよい。具体的には、本発明の脂環式ポリエステルイミドを得る際には、本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類に加えて他の酸二無水物又はテトラカルボン酸を混合し、共重合させても良い。その際使用することができる酸二無水物は特に限定はされないが、例えばピロメリット酸などの1つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、3,3’’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、3,3’,4,4’-ベン
ゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、
ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物(a−ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二酸無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(BDCF)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水
物等の2つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等のナフタレン骨格を有する芳香族酸二無
水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物などのアントラセン骨格を有する芳香族酸二無水物が例として挙げられる。
一方、加えて使用できる脂環式の酸無水物の例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物やエチレンテトラカルボン酸二無水物などの鎖状の脂肪族テトラカルボン酸二無水物や、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシク
ロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3‘,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA水添物)、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などの脂環構造を有するテトラカルボン酸の二無水物などを挙げることができる。
これら酸二無水物と本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物との使用割合は得ようとする樹脂の物性により任意に設定可能であるが、本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の使用量が5モル%以上が好ましく、さらに10モル%以上使用することがより好ましい。
必要に応じて溶液状態の脂環式ポリエステルイミド前駆体を単離することもできる。例えば、脂環式ポリエステルイミド前駆体の溶液を、水や、メタノール、アセトン等の貧溶媒に加えることにより脂環式ポリエステルイミド前駆体を沈澱させ、ろ過などにより得られた固体から溶媒を乾燥などにより除去すれば、脂環式ポリエステルイミド前駆体を粉末として単離できる。なお、必要に応じてこの粉末を上記した反応溶媒などに溶解させれば再び溶液とすることもでき、この操作を繰り返すことにより本発明の脂環式ポリエステルイミド前駆体を精製することもできる。
<脂環式ポリエステルイミドの製造方法>
本発明の脂環式ポリエステルイミドを合成する方法は、(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法、および(ii)脂環式ポリエステルイミド前駆体を介さずに得る方法が挙げられる。そして、(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法としては、加熱イミド化法および化学イミド化法がある。ただし、本発明の脂環式ポリエステルイミドの製造方法は、以下に記載される製法に特に制限されることはない。
(i)脂環式ポリエステルイミド前駆体から得る方法
本発明の脂環式ポリエステルイミドは、上記の方法で得られた脂環式ポリエステルイミド前駆体を環化イミド化反応させることで製造することができる。
この際脂環式ポリエステルイミドの製造可能な形態は、フィルム、粉末、成型体および溶液である。
脂環式ポリエステルイミドのフィルムは、例えば以下の様にして製造を行うことができる。まず、該脂環式ポリエステルイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコン、石英板、ステンレス板、カプトンフィルム等の基板上に流延して塗布する。塗布の方法としては、前述のようにして得られた脂環式ポリエステルイミド溶液を、上記した基板上に滴下し高さを固定した支持体などの上をなぞり溶液を伸ばすことにより均一な高さに塗布することができる。この際、ドクターブレードなどの機器を使用して行ってもかまわない。またこの他の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法など、溶液を所定の厚みで塗布できる手法であれば制限なく採用できる。
脂環式ポリエステルイミド前駆体を基板上に塗布する際には溶媒を用いるが、塗布に適した粘度に調整する。その際の粘度は、下限が、1ポアズ、好ましくは5ポアズで、上限は、100ポアズ、好ましくは80ポアズである。
こうして塗布された塗膜には、溶媒が含まれているので、次に乾燥する。その際に採用される乾燥の温度は、通常下限が20℃、好ましくは40℃、さらに好ましくは、60℃である。一方、上限は、200℃、好ましくは150℃、さらに好ましくは100℃である。
乾燥の時間は、溶媒がある程度除去されるならば特に制限なく採用できるが、下限が10 分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、50時
間、好ましくは30時間、さらに好ましくは10時間が採用される。
乾燥は減圧下に行っても良い。その際に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
通常、乾燥後の溶媒の残存量は、70重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
こうして得られた乾燥された脂環式ポリエステルイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中高温度加熱してイミド化する。この方法を加熱イミド化と言う。
この時採用される温度は、下限が180℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃である。一方、上限は500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃で加熱する。加熱温度は180℃以下であると環化イミド化反応の環化反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成した脂環式ポリイミドエステルフィルムが着色したりする可能性があるため好ましくない。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化反応の温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えはない。加熱イミド化を減圧下に行う場合に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
加熱時間は環化イミド化が十分に進行する時間が採用されるが、通常、下限が5分、好ましくは10分、さらに好ましくは20分、上限は特に制限はないが、20時間、好ましくは10時間、さらに好ましくは5時間が採用される。
また、脂環式ポリエステルイミド前駆体のフィルムを、脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって化学イミド化反応を行うことも可能である。この反応は、好ましくは3級アミン存在下で反応を行うことが好ましい。
この時使用できる3級アミンは、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミンがあげられる。この中でもピリジン、およびトリエチルアミンが入手の容易性、良好な反応性が得られる点で好ましい。
使用する3級アミンの使用量は、通常下限がアミド酸基の0.1モル倍、好ましくは0.5モル倍、さらに好ましくは1.0モル倍以上、下限は通常30モル倍、好ましくは20モル倍、さらに好ましくは10モル倍である。
また、使用可能な脱水試薬としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等の酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類、があげられ、この中でも無水酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類が好ましく、さらには、無水酢酸が入手の容易性、経済性の点でより好ましい。
その際、使用される脱水試薬の量は脂環式ポリエステルイミド前駆体に含まれるアミド酸のモル数に対して通常下限が1.0モル倍、好ましくは2.0モル倍、さらに好ましくは4.0モル倍であり、上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍、さらに好ましくは20モル倍である。これらの脱水試薬との処理は常温で行っても良いし、反応の進行が遅い場合には加熱して使用しても良い。
このように環化イミド化反応では、加熱や脱水試薬を用いることが好ましいが、加熱と脱水試薬を併用して反応を行う事もできる。
また加熱イミド化の別な形態として、脂環式ポリエステルイミド前駆体の重合溶液をそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後溶液中で加熱することでも本発明の脂環式ポリエステルイミドの溶液(ワニス)を容易に製造することもできる。
加熱イミド化する際の溶液の濃度には特に制限はないが、通常下限が脂環式ポリエステルイミド前駆体の重量%で1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%であり、上限は80重量%、好ましくは60重量%、さらに好ましくは50重量%である。
この際の加熱温度は、下限が100℃、好ましくは120℃、さらに好ましくは、150℃である。一方、上限は目的物の着色が起こらない温度であれば自由に設定可能であるが、300℃、好ましくは250℃、さらに好ましくは200℃で加熱する。この際、環化イミド化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等の共沸溶媒を添加し、これら溶媒とともに生成する水を留去しながら反応を行っても差し支えない。
環化イミド化反応の触媒として塩基性物質を添加して反応を行ってもよい。本発明において使用可能な塩基触媒の例としては、ピリジン、γ―ピコリン、ピラジン等の芳香族系アミン類をあげることができる。
一方、脂環式ポリエステルイミド前駆体の溶液中に脱水試薬を添加することにより化学イミド化を行うことができる。反応は通常、脱水試薬と塩基性物質の存在下に行う。化学イミド化において使用可能な脱水剤としては、無水酢酸、やトリフルオロ無水酢酸などの低級カルボン酸の酸無水物や、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族ジカルボン酸の無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのアルキルカルボジイミドなどである。その際、使用される脱水試薬の量は脂環式ポリエステルイミド前駆体に含まれるアミド酸のモル数に対して通常下限が1.0モル倍、好ましくは2.0モル倍、さらに好ましくは4.0モル倍であり、上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍、さらに好ましくは20モル倍である。脱水試薬が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると目的物中に残存してしまう、という問題を生ずる。
一方、使用可能な塩基性物質の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルアミノピリジン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機の塩基性物質を用いることができる。中でもピリジンや、トリエチルアミンは安価に入手できる点や液体で溶解性に富むため反応操作が容易になる、という点で好ましい。
使用する塩基性物質の使用量は、通常下限がアミド酸基の0.1モル倍、好ましくは0.5モル倍、さらに好ましくは1.0モル倍以上、下限は通常30モル倍、好ましくは20モル倍、さらに好ましくは10モル倍である。塩基性物質が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると目的物中に残存してしまう、という問題を生ずる。反応溶媒としては前述した脂環式ポリエステルイミド前駆体合成時に用いる溶媒を使用することができる。
採用される反応温度は下限が−10℃、好ましくは−5℃、より好ましくは0℃、上限は80℃、好ましくは60℃、より好ましくは40℃で行われる。反応時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。 反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。
通常反応雰囲気は、窒素下で行う。このイミド化反応によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
上記の方法により得られる脂環式ポリエステルイミドを溶液とし、あるいは反応で得られる溶液に、ベンゾイルクロリドや無水酢酸とピリジンのような試薬を加えて末端アミノ基をアミド基として保護することもできる。こうすると、ポリイミドの着色が防がれ、安定性も向上するので好ましい。
上記の様にして脱水試薬と塩基性物質存在下にイミド化する方法においては、ポリエステルイミドの異性体であるポリエステルイソミドが混合することがある。ポリエステルイソミドの混合割合は、通常90%以下であり、好ましくは80%以下である。なおこのポリテステルイソミドが混合したポリエステルイミドは、粉末とした後、あるいは再度溶媒に溶かして基盤などにコーティングしてフィルムとした後に加熱することにより混合したポリエステルイソミドをポリエステルイミドへ異性化させることができる。この際の温度は、下限が100℃、好ましくは200℃、 さらに好ましくは300℃が採用可能であ
る。一方上限は、500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃で採用可能である。また、その際の反応時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。
(ii)脂環式ポリエステルイミド前駆体を介さずに得る方法
脂環式ポリエステルイミド前駆体を介さずに得る方法としては、上記式(1)〜(3)のいずれかで表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類を原料としてジアミン類と反応させて直接環化イミド化反応を行い、本発明の脂環式ポリエステルイミドを製造することも可能である。
この方法は、中間体である脂環式ポリエステルイミド前駆体を途中単離せずに、直接環化イミド化まで行う方法であるが、その際の反応条件としては、上述した脂環式ポリエステルイミド前駆体から脂環式ポリエステルイミドを製造する加熱イミド化の条件を適宜採用することができる。
<脂環式ポリエステルイミドの形態の変換方法>
上記のようにして得られる本発明の脂環式ポリエステルイミドは、これを溶媒に溶解して溶液(ワニス)とすると、これから種々形態を変えた脂環式ポリエステルイミドを容易に製造できる。例えば、大量の貧溶媒中に滴下・濾過すると脂環式ポリエステルイミドを粉末として単離することができる。この際に使用可能な貧溶媒としては特に限定されないが、水、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させた特定重合体は濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥して粉末とすることが出来る。また、粉末とした脂環式ポリエステルイミドを、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2〜10回繰り返すと、脂環式ポリエステルイミド中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として例えばアルコール類、ケトン類、炭化水素など3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
こうして得られた粉末の脂環式ポリエステルイミドは、再び溶媒に溶解させることで溶
液(ワニス)とすることができる。
その際に使用可能な溶媒としては、脂環式ポリエステルイミド前駆体を合成する際に用いた溶媒が使用できる。
さらにこれに加え、塗膜均一性向上を目的として、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどの低表面張力を有する溶媒も用いることができる。これら溶媒は1種類でも複数種類を混合して用いても良い。
また、これら塗膜均一性向上を目的とした溶媒の混合量としては、好ましくは全溶媒中の10〜80重量%、より好ましくは20〜60重量%である。また、この時の脂環式ポリエステルイミドの濃度は、下限が通常1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%、上限は通常80重量%、好ましくは60重量%、さらに好ましくは50重量%である。このようにして得られた脂環式ポリエステルイミド溶液(ワニス)は、各種材料のコーティング材として製膜用、皮膜用として使用することができる。
また、この脂環式ポリエステルイミドの溶液をろ過することにより含まれる異物粒子を取り除くことが可能である。異物粒子を取り除くことは光学用途においては重要なことであり、本発明で得られる脂環式ポリエステルイミドの異物量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体は、前駆体1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。測定の方法は上記した通りである。
本発明の脂環式ポリエステルイミド粉末を加熱圧縮することで所望の形の脂環式ポリエステルイミドの成型体とすることができる。その際に加熱する温度は、下限が150℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃で行うことができ、一方、上限は450℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃で加熱する。また、一旦単離した脂環式ポリエステルイミド粉末を例えば、重合の際に使用した溶媒に再溶解するとポリエステルイミドワニスに戻すこともできる。
さらにこの脂環式ポリエステルイミドワニスを、基板上に塗布して乾燥すると脂環式ポリエステルイミドフィルムを形成することができる。塗布を行うその方法に特に制限はないが、例えば脂環式ポリエステルイミド溶液を石英板、ステンレス板、カプトンフィルムなどの光学用基板に滴下し高さを固定した支持体上をなぞり溶液を伸ばすことにより均一な高さに塗布することができる。この際、ドクターブレードなどの機器を使用して行ってもかまわない。
またこの他の塗布方法としては、スプレー法、ディップコート法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられるが、生産性の面から工業的には転写印刷法が広く用いられており、本発明の液晶配向処理剤においても好適に用いられる。
このようにして塗布された脂環式ポリエステルイミドはまだ多量の溶媒を含んでいる。そこで、加熱して溶媒を除去する。その際の温度は、通常下限が70℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは150℃であり、上限は通常350℃、好ましくは300℃さらに好ましくは250℃である。加熱は、段階的に昇温しても良いし連続的に昇温してもかまわない。これらの工程の雰囲気は、減圧下もしくは不活性雰囲気中でおこなってもよい
減圧下に行う場合に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
これらのフィルムは必要に応じてウェットエッチング、ドライエッチング、レーザーアブレーションなどの方法によりパターニングされ所定の形に形成され光部品とすることもできる。このようにして得られる本発明の脂環式ポリエステルイミドを用いたフィルム、光部品等の光学用素子は、複屈折も小さく無色透明であるために、厚膜であってもそれらの物性は極めて良好である。
脂環式ポリエステルイミドのフィルムを形成する際の厚みは、塗布する溶液の厚みを変えることにより制御することができ、通常下限が通常0.1μm、好ましくは1μm、さらに好ましくは5μm、上限は通常1000μm、好ましくは700μm、さらに好ましくは500μmである。
さらに、本発明の脂環式ポリエステルイミドは、溶媒溶解性に優れるため、その溶液からシートや、繊維などその形態は用途に応じて自由に加工することができる。また、フィルは単層ばかりでなく多層として使用することも可能である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドおよびその前駆体中に、必要に応じて酸化安定剤、フイラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物を加えることができる。また、強度向上、耐熱性の増強、吸水性の低下、など樹脂に要求される物性を達成するために、本発明の脂環式ポリエステルイミドに他の樹脂を混合することも可能である。
その際に使用される樹脂は、本発明の脂環式ポリエステルイミドと均一に混合することができれば問題なく、特に制限はされないが、例えばポリイミドや、ポリエーテルイミド、他の組成のポリエステルイミド、ポリエーテルスルホン、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリシクロオレフィンなどの光学用透明性樹脂などを混合して用いてもかまわない。
<脂環式ポリエステルイミドの物性>
本発明の脂環式ポリエステルイミドのガラス転移温度Tg(℃)は、通常下限が150℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃であり、上限は通常500℃、好ましくは450℃、さらに好ましくは400℃の範囲内であり、高い耐熱性を有する。
また耐熱性を表す別の指標としての5%重量減少温度は、不活性ガス雰囲気では通常350℃以上、好ましくは400℃以上、さらに好ましくは420℃以上、空気雰囲気では、通常、350℃以上、好ましくは380℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。
さらに本発明の脂環式ポリエステルイミドは、透明性が高いという特徴を持つ。厚さ30μmのポリイミドフィルムにして測定した紫外線・可視光吸収スペクトルのグラフにおいて、250〜800nmの波長の範囲内における平均透過率が、通常は50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上であることを特徴とする。また、400nmの単色光の透過率は、通常、40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。また、カットオフ波長は通常350nm以下、好ましくは330nm以下、さらに好ましくは310nm以下である。カットオフ波長の下限は通常220nm以上、好ましくは250nm以上である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドは、光学的等方性に優れており複屈折が小さいという特徴を持つ。通常複屈折は、0.05以下、好ましくは0.01以下、さらに好ましく
は0.005以下となる。
本発明の脂環式ポリエステルイミドの鉛筆硬度(JIS−K5400)は、通常B〜7Hの範囲内であり、好ましくはH〜4Hの範囲内である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドの屈折率は、上限が通常1.75、好ましくは1.70、さらに好ましくは0.68、下限が1.50、好ましくは1.53、さらに好ましくは1.55である。なお、樹脂中にフッ素原子を導入すると屈折率が低下することはよく知られているが、本発明の脂環式ポリエステルイミドにもフッ素原子を導入すると誘電率は下がり、その場合通常上限が1.65、好ましくは1.63、さらに好ましくは1.60であり、下限は1.45、好ましくは1.48、さらに好ましくは1.50である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドの1MHzにおける誘電率は通常3.2以下であり、好ましくは、3.0以下である。さらに好ましくは、2.9以下である。また、樹脂中にフッ素原子を導入すると誘電率が低下することはよく知られているが、本発明の脂環式ポリエステルイミドにもフッ素原子を導入すると誘電率は下がり、その場合通常3.0以下、好ましくは2.8以下、さらに好ましくは2.7以下となる。さらに、1〜20GHzの範囲において誘電正接についても周波数依存性が低く、0.005〜0.020の範囲でほぼ一定の値を示すという特徴も有しており、極めて優れた高周波特性を持つ。
脂環式ポリエステルイミド中に含まれる異物粒子の量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体は、脂環式ポリエステルイミド樹脂1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドの25℃の水に24時間浸漬した際の吸水率は、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドの線熱膨張率は、通常100ppm/K以下、好ましくは50ppm/K以下、さらに好ましくは30ppm/Kである。
本発明のポリエステルイミドは、溶剤に対して高い溶解性を示す。特に上記した脂環式ポリエステルイミド前駆体を合成する際に用いた溶媒にはよく溶解し、容易に溶液とすることができる。
本発明の脂環式ポリエステルイミドは、上記したフィルムとした時、しなやかで折り曲げることができ、元に戻した時には平らなフィルムに戻るという高い復元性がある特徴を持つ。通常、本発明の脂環式ポリエステルイミドのフィルムは180°の折り曲げを行っても割れてしまわないものも製造可能である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドをフィルムとした時の、引っ張り強度は、通常、10MPa以上、好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは50MPa以上である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドをフィルムとした時の、引っ張り弾性率は、通常、0.1GPa以上、好ましくは0.5GPa以上、さらに好ましくは1.0GPa以上である。
本発明の脂環式ポリエステルイミドをフィルムとした時の、引っ張り伸びは、通常下限が0.1%、好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、上限は、通常150%以下、好ましくは100%以下、さらに好ましくは80%以下である。
<用途>
本発明の脂環式ポリエステルイミドは、高ガラス転移温度、低複屈折性、無色透明性、低誘電性を同時に満たすものでありこれらの優れたバランスのとれた特性を生かして、半導体分野、光学材料分野、光通信分野、表示装置分野、電気電子機器分野、輸送機器分野、航空宇宙分野などにおける素材として使用できる。例えば、光学材料分野としては、レ
ンズ、回析格子などの精密光部品、ホログラム、CD、MD、DVD、光ディスク等のディスク基板、光学用接着剤、表示装置用途としては、LCD用基板、偏光板用支持フィルム、透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、LCD用接着剤、LCD用スペーサ、LCD用電極基板、カラーフィルター用透明保護膜、カラーフィルター、透明保護膜等、LCD以外の表示材料用途としてはプロジェクター用のスクリーン、プラズマディスプレイ用の基板やフィルム、光学フィルター、有機EL用コーティング材料等、光通信分野や光学素子分野では、光ファイバー、光導波路、光分岐器、光合波器、光スイッチング素子、光変調器、光フィルター、波長分割器、光増幅器、光減衰器、光波長変換器、電気電子機器分野では、絶縁テープ、各種積層板、フレキシブルプリント回路基板、多層プリント回路基板用接着フィルム、プリント回路基板用カバーフィルム、半導体集積回路素子の表面保護膜、電線用被覆剤、などや、フラッシュメモリー、CCD、PD、LD等の光半導体の封止材、半導体分野ではバッファーコート膜、パッシベーション膜、層間絶縁膜等、感光性ポリマーのベースポリマー半導体コーティング剤、アンダーフィル剤、航空宇宙分野では、ソーラーセル、熱制御システム等の特別な航空宇宙用コンポーネントコーティング材等、この他本剤の特性を生かして、太陽電池の被覆材やベースフィルム基材、接着剤、その他のコーティング材料用などが挙げられる。
中でも、本発明の脂環式ポリエステルイミドは、溶媒に可溶で塗布により低温でフィルム化でき、また光学的に透明で光透過率が高く複屈折が極めて小さいという他の光学用樹脂にはない特性バランスを有することから液晶ディスプレイ用の各種部材として使用することに適している。例えば、配向膜、粘着剤、偏光板、カラーフィルター、樹脂ブラックマトリックス材料、視野角補償フィルムなどの液晶ディスプレイ用部材を作成する際の原料樹脂として利用することが可能である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限りこれら実施例に限定されるものではない。
(1) モノマーの物性値の測定
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計を用い、KBr法にて生成物の赤外吸収スペクトルを測定した。
<プロトンNMRスペクトル>
生成物を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、プロトンの共鳴周波数400MHzNMR分光計を用いてプロトンNMRスペクトルを測定した。
<融点>
示差走査熱量分析装置にて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分での昇温過程における融解の吸熱ピークより融点を求めた。
(2) 重合物の物性値の測定
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、透過法にて脂環式ポリエステルイミド前駆体および脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを測定した。
<固有粘度>
0.5重量%の脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定
により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから脂環式ポリエステルイミド膜のガラス転移温度を求めた。 または、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製
示差走査熱量分析計(DSC6220)を用いて10℃/分で昇温しそのベースラインシフトから求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、脂環式ポリエステルイミド膜の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを表す。
<カットオフ波長(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−520)を用いて、200nmから900nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、脂環式ポリエステルイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
<光透過率(透明性)>
日本分光社製紫外可視分光光度計(V−520)を用いて、400nmにおける光透過率を測定した。透過率が高い程、脂環式ポリエステルイミド膜の透明性が良好であることを意味する。
<複屈折>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、脂環式ポリエステルイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
<誘電率>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、脂環式ポリエステルイミド膜の平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて、次式により1MHzにおける脂環式ポリエステルイミド膜の誘電率(ε)を算出した。ε=1.1×nav
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥した脂環式ポリエステルイミド膜(膜厚20〜30μm)を25℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から吸水率(%)を求めた。
<線熱膨張係数:CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値として脂環式ポリエステルイミド膜の線熱膨張係数を求めた。
<弾性率、破断伸び>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて、ポリイミド膜の試験片(3mm×30mm)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、膜が破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほど膜の靭性が高いことを意味する。
1) ヒドロキノン水素化トリメリット酸ジエステルの製造
(実施例1)
核水素化トリメリット酸無水物の塩素化は以下のように行った。窒素導入菅およびコンデンサー付反応容器中に、核水素化トリメリット酸無水物7.93g(40mmol)を入れ、これに塩化チオニル80mL(1.1mol)を加え、窒素雰囲気中80℃で2時間還流した。その後、反応溶液に無水ベンゼン加え、オイルバス中で溶媒を減圧留去した。更に無水ベンゼンを加えて留去し、残留塩化チオニルを完全に除去した。生成物を室温で15時間真空乾燥し、核水素化トリメリット酸無水物クロリドの白色針状結晶を定量的に得た。
次に反応容器中で核水素化トリメリット酸無水物クロリド8.66g(40mmol)に無水テトラヒドロフラン23mLを加えて溶解させ、セプタムキャップでシールした。また別な反応容器に、ハイドロキノン2.20g(20mmol)およびピリジン13mL(160mmol)を無水テトラヒドロフラン6mLに溶解し、セプタムキャップでシールした。氷浴中で0℃に保持したこの溶液へ、無水テトラヒドロフラン溶解した上記核水素化トリメリット酸無水物クロリドの溶液をシリンジにて1時間かけて滴下し、更に9時間撹拌して白色沈殿を得た。これを濾別後、水で十分洗浄して塩酸塩を完全に除去し、生成物を150℃で20時間真空乾燥して、83%の収率で白色粉末を得た。この化合物は示差走査熱量分析により、鋭い吸熱ピーク(融点256℃)を示した。また赤外吸収スペクトルおよびプロトンNMRスペクトルより、得られた生成物は下記式(9)の構造の目的とする脂環式テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。その結果を図1〜3に示す。また、実施例1で得られたヒドロキノン水素化トリメリット酸ジエステルの構造を下記式(9)に示す。
Figure 2007284414
2) ヒドロキノン水素化トリメリット酸ジエステルを原料とした脂環式ポリエステルイミドの製造
(実施例2)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にp−フェニレンジアミン1.08g(10mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド19.3gに溶解し、この溶液に実施例1で製造したテトラカルボン酸二無水物粉末4.70g(10mmol)を徐々に加え室温で22時間撹拌して、透明で粘稠な脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。重合は溶質濃度30重量%から開始し、途中溶媒を添加しながら反応し、最終的に17重量%まで希釈した。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定した脂環式ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.34dL/gであり、極めて高重合体であった。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して脂環式ポリエステルイミド前駆体膜を得た。得られたポリエステルイミド前駆体膜の赤外吸収スペクトルを図4に示す。この前駆体膜を基板上、減圧下320℃で1時間熱処理してイミド化を行い、脂環式ポリエステルイミド膜を得た。残留歪を除去するために、基板から膜を剥がして更にガラス転移温度直下の235℃で1時間熱処理し、膜厚30μmの透明なフィルムを得た。このフィルム
の赤外吸収スペクトルを図5に示す。このフィルムは180°折り曲げ試験により、破断せず、靭性を示した。膜物性は、ガラス転移温度253℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長312nm、400nmでの透過率72.1%と、極めて高い透明性を示した。
またこの樹脂は、複屈折Δn=0.0002と極めて小さい値を示し光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.83と比較的低い値であった。更にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、m−クレゾール等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、加工性が良好であることがわかった。その他の物性として吸水率3.1%、5%重量減少温度は窒素中で424℃、空気中で412℃、線熱膨張係数は70.1ppm/K、弾性率は1.2GPa、破断伸びは、4.3%であった。なお、実施例2で得られたポリエステルイミドの構造を、下記式(10)に示す。
Figure 2007284414
(実施例3)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に4,4’−オキシジアニリン2.00g(10mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド22.3gに溶解し、この溶液に実施例1で製造したテトラカルボン酸二無水物粉末4.70g(10mmol)を徐々に加え室温で22時間撹拌して、透明で粘稠な脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。重合は溶質濃度30重量%から開始し、最終的に13重量%まで希釈した。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定した脂環式ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は2.32dL/gであり、極めて高重合体であった。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して脂環式ポリエステルイミド前駆体膜を得た。得られた脂環式ポリエステルイミド前駆体膜の赤外吸収スペクトルを図6に示す。この前駆体の膜を基板上、減圧下320℃で1時間熱処理してイミド化を行い、脂環式ポリエステルイミド膜を得た。残留歪を除去するために、基板から膜を剥がして更にガラス転移温度直下の218℃で1時間熱処理し、膜厚30μmの透明なフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクト ルを図7に示す。このフィルムは180°折り曲げ試験により、破断せず、靭性を示した。膜物性は、ガラス転移温度225℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長301nm、400nmでの透過率81.3%と、極めて高い透明性を示した。この樹脂の複屈折は、Δn=0.0005と極めて小さく光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.83と比較的低い値であった。更にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、m−クレゾール等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、加工性が良好であることがわかった。その他の物性として吸水率1.1%、5%重量減少温度は窒素中で428℃、空気中で418℃、線熱膨張係数は76.4ppm/Kであった。なお、実施例3で得られたポリエステルイミドの構造を下記式(11)に示す。
Figure 2007284414
(実施例4)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル3.20g(10mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド22.3gに溶解し、この溶液に実施例1で製造したテトラカルボン酸二無水物粉末4.70g(10mmol)を徐々に加え室温で22時間撹拌して、透明で粘稠な脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。重合は溶質濃度30重量%から開始し、最終的に19重量%まで希釈した。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、極めて高い溶液貯蔵安定を示した。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃で測定した脂環式ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は1.29dL/gであり、高重合体であった。この脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して脂環式ポリエステルイミド前駆体膜を得た。この前駆体の膜を基板上、減圧下350℃で1時間熱処理してイミド化を行い、脂環式ポリエステルイミド膜を得た。残留歪を除去するために、基板から膜を剥がして更にガラス転移温度直下の235℃で1時間熱処理し、膜厚30μmの透明なフィル
ムを得た。このフィルムは180°折り曲げ試験により、破断せず、靭性を示した。膜物性は、ガラス転移温度250℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長304nm、400nmでの透過率80.1%と、極めて高い透明性を示した。この樹脂の複屈折は、Δn=0.002と極めて小さく光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.67と極めて低い値であった。更にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、m−クレゾール等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、加工性が良好であることがわかった。その他の物性として吸水率1.29%、5%重量減少温度は窒素中で441℃、空気中で407℃、線熱膨張係数は82.1ppm/Kであった。なお、実施例4で得られたポリエステルイミドの構造を下記式(12)に示す。
Figure 2007284414
(実施例5)
実施例2のジアミンを、t−1,4−シクロヘキサンジアミン(10mmol)とした以外は同様の方法で脂環式ポリエステルイミドフィルムを得た。このものの途中前駆体の
固有粘度は1.15dL/gであり高重合体であった。膜物性は、ガラス転移温度243℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長263nm、400nmでの透過率70.0%と、極めて高い透明性を示した。この樹脂の複屈折は、Δn=0.0011と極めて小さく光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.70と極めて低い値であった。その他の物性として5%重量減少温度は窒素中で408℃、空気中で399℃、線熱膨張係数は90.8ppm/Kであった。なお、実施例5で得られたポリエステルイミドの構造を下記式(13)に示す。
Figure 2007284414
(実施例6)
実施例2のジアミンを、t、t−メチレンビスシクロヘキシルアミン(10mmol)とした以外は同様の方法で脂環式ポリエステルイミドフィルムを得た。このものの途中前駆体の固有粘度は1.20dL/gであり高重合体であった。得られた脂環式ポリエステルイミドフィルムの膜物性は、ガラス転移温度210℃と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長271nm、400nmでの透過率68.2%と、極めて高い透明性を示した。この樹脂の複屈折は、Δn=0.00012と極めて小さく光学材料に適していることがわかった。誘電率は2.63と極めて低い値であった。更にN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、m−クレゾール等の有機溶媒に室温で高い溶解性を示し、加工性が良好であることがわかった。その他の物性として5%重量減少温度は窒素中で412℃、空気中で391℃、線熱膨張係数は75.0ppm/Kであった。なお、実施例6で得られたポリエステルイミドの構造を下記式(14)に示す。
Figure 2007284414
(実施例7)
50mL三つ口フラスコ中にp−フェニレンジアミン0.400g(3.70mmol)をN,N−ジメチルアセトアミド8.19gに溶解し、この溶液に実施例1で製造したテトラカルボン酸二無水物粉末1.76g(3.74mmol)を加え室温で14時間攪拌して、透明で粘調な脂環式ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。重合は溶質濃度26重量%から開始し、最終的に13重量%まで希釈した。(固有粘度1.53dL/g)その後、N,N−ジメチルアセトアミド9.40gで希釈し、更にピリジン2.34gおよび無水酢酸4.91gを加え50℃で7時間攪拌した。内容物をメタノール150mlに加え、析出した固体をろ過、メタノール洗浄し、100℃で真空乾燥した後、1.65gのポリエステルイミド粉末を得た。フィルム化は、合成したポリエステルイミド粉末をNMPに溶解し(約15重量%)、ガラス基板に塗布した。80℃で1時間乾燥した後、減圧
下200℃で1時間熱処理し、ガラス基板から剥がして膜厚20μmの透明なフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクトルを図14に示す。得られた脂環式ポリエステルイミドフィルムの膜物性は、ガラス転移温度230℃(DSC測定値)と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長275nm、400nmでの透過率86.2%と、極めて高い透明性を示した。なお、本実施例で得られたポリエステルイミドの構造は実施例2の式(10)と同じである。
(実施例8)
使用するジアミンを4,4‘−オキシジアニリンとした以外は実施例7と同様の方法で脂環式ポリエステルイミドフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクトルを図15に示す。得られた脂環式ポリエステルイミドフィルムの膜物性は、ガラス転移温度207℃(DSC測定値)と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長289nm、400nmでの透過率88.0%と、極めて高い透明性を示した。なお、本実施例で得られたポリエステルイミドの構造は実施例3の式(11)と同じである。
3) 1,4−シクロヘキサンジオールの水素化トリメリット酸ジエステルの製造
(実施例9)
核水素化トリメリット酸無水物クロリド4.99g(23.1mmol)にテトラヒドロフラン10mLを加えて溶解させた。また、1,4−シクロヘキサンジオール1.31g(11.3mmol)およびピリジン1.82g(23.1mmol)をテトラヒドロフラン15mLに溶解した。氷浴中で4℃に保持したこの溶液へテトラヒドロフランに溶解した上記核水素化トリメリット酸無水物クロリドの溶液を15分間かけて滴下し、更に16時間室温で撹拌した。析出した白色沈殿を濾別後、水で十分洗浄し、減圧下100℃で5時間乾燥し、白色固体1.97g得た。これを無水酢酸/酢酸(2/3体積比)25mlで再結後、150℃で7時間真空乾燥して0.88g(収率16.4%)で白色粉末を得た。この化合物は示差走査熱量分析により、鋭い吸熱ピーク(融点238℃)を示した。また赤外吸収スペクトルおよびプロトンNMRスペクトルより、得られた生成物は下式(15)の構造の目的とする脂環式テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。その結果をそれぞれ図16、17に示す。本実施例で得られた1,4−シクロヘキサンジオール水素化トリメリット酸ジエステルの構造を下記式(15)に示す。
Figure 2007284414
4) 上記(15)式に示す酸二無水物を原料とした脂環式ポリエステルイミドの製造
(実施例10)
使用するテトラカルボン酸二無水物を実施例9で製造したもの、ジアミンを4,4‘−オキシジアニリンとした以外は実施例7と同様の方法でポリエステルイミドを製造した。さらに得られたポリエステルイミドのフィルム化を溶解溶媒としてm−クレゾールを用いた以外は実施例7と同様の方法で行い、脂環ポリエステルイミドフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクトルを図18に示す。得られた脂環式ポリエステルイミドフィルムの膜物性は、ガラス転移温度164℃(DSC測定値)と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長288nm、400nmでの透過率85.3%と、極めて高い透明性を示した。なお、実施例10で得られたポリエステルイミドの構造は下記式(16)に示す。
Figure 2007284414
5) 3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル−4,4’−ジオールの水素化トリメリット酸ジエステルの製造
(実施例11)
核水素化トリメリット酸無水物クロリド5.04g(23.1mmol)にテトラヒドロフラン10mLを加えて溶解させた。また、3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル−4,4’−ジオール2.74g(11.3mmol)およびピリジン1.82g(23.1mmol)をテトラヒドロフラン15mLに溶解した。氷浴中で4℃に保持したこの溶液へテトラヒドロフラン溶解した上記核水素化トリメリット酸無水物クロリドの溶液を10分間かけて滴下し、更に16時間室温で撹拌した。析出した白色沈殿を濾別後、水で十分洗浄した。その後、150℃で7時間真空乾燥して5.52g(収率81.2%)で白色粉末を得た。この化合物は示差走査熱量分析により、鋭い吸熱ピーク(融点329℃)を示した。また赤外吸収スペクトルおよび質量スペクトルより、得られた生成物は下式(17)の構造の目的とする脂環式テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。その結果を図19に示す。また、実施例11で得られたヒドロキノン水素化トリメリット酸ジエステルの構造を下記式(17)に示す。
Figure 2007284414
6) 上記(17)式に示す酸二無水物を原料とした脂環式ポリエステルイミドの製造
(実施例12)
使用するテトラカルボン酸二無水物を実施例11で製造したもの、ジアミンをp−フェニレンジアミンとした以外は実施例7と同様の方法でポリエステルイミドを製造した。さらに得られたポリエステルイミドのフィルム化を実施例7と同様の方法で行い、脂環ポリエステルイミドフィルムを得た。このフィルムの赤外吸収スペクトルを図20に示す。得られた脂環式ポリエステルイミドフィルムの膜物性は、ガラス転移温度255℃(DSC測定値)と比較的高い耐熱性およびカットオフ波長299nm、400nmでの透過率74.3%と、極めて高い透明性を示した。なお、実施例12で得られたポリエステルイミドの構造は下記式(18)に示す。
Figure 2007284414
7) 4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノールの水素化トリメリット酸ジエステルの製造
(実施例13)
反応容器中で核水素化トリメリット酸無水物クロリド4.33g(20mmol)に無水テトラヒドロフラン15mLを加え溶解させ、セプタムキャップでシールした。また、別な反応容器に9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン3.51g(10mmol)およびピリジン3.24mL(40mmol)を無水テトラヒドロフラン12mLに溶解し、セプタムキャップでシールした。氷浴中で0℃に保持したこの溶液を、無水テトラヒドロフラン溶解した上記核水素化トリメリット酸無水物クロリドの溶液にシリンジにて1時間かけて滴下し、更に室温で24時間撹拌して白色沈殿を得た。これを濾別して塩酸塩を除去し、濾液をエバポレータで溶媒留去した。最後に得られた生成物を120℃で24時間真空乾燥して、89.3%の収率で白色粉末を得た。この化合物は示差走査熱量分析により、吸熱ピーク(融点209.5℃)を示した。また赤外吸収スペクトルおよびプロトンNMRスペクトルより、得られた生成物は下記式(19)に示す構造を有するフルオレニル基含有テトラカルボン酸二無水物であることが確認された。分析結果を図21〜23に示す。また、実施例7で得られたフルオレニル基含有テトラカルボン酸二無水物の構造を下記式(19)に示す。
Figure 2007284414
(比較例)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に、p−フェニレンジアミン1.08g(10mmol)を入れ、N,N−ジメチルアセトアミド15mLに溶解した後、この溶液に実施例1に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物に対応するエステル基含有芳香族テトラカルボン酸二無水物粉末4.58g(10mmol)を徐々に加えた。溶液粘度が急激に増加したため、適宜溶媒で希釈して一時間後に52mLを加え希釈した。更に室温で24時間撹拌し、透明、均一で粘稠な芳香族ポリエステルイミド前駆体溶液を得た。N,N−ジメチルアセトアミド中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定した芳香族ポリエステルイミド前駆体の固有粘度は5.19dL/gであった。この芳香族ポリエステルイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で乾燥して得た芳香族ポリエステルイミド前駆体膜を基板上、減圧下250℃で2時間熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして更に350℃で1時間、熱処理を行い、膜厚20μmの芳香族ポリエステルイミド膜を得た。この芳香族ポリエステ
ルイミド膜は如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。膜物性を測定したところ、ガラス転移温は450℃まで未検出であった。またカットオフ波長は369nm、400nmでの透過率22%と、実施例2に記載の脂環式ポリエステルイミドと比較すると透明性が著しく低かった。これはモノマーとしてエステル基含有芳香族テトラカルボン酸二無水物を用いたため、UV領域の吸収が大きいことが原因である。この樹脂の複屈折は、Δn=0.219と極めて大きく光学材料に全く適していないことがわかった。誘電率は3.22と比較的高い値であった。その他の物性として吸水率1.4%、5%重量減少温度は窒素中で480.7℃、空気中で463.2℃であった。なお、比較例で得られたポリエステルイミドの構造を下記式(20)に示す。
Figure 2007284414
実施例1に記載の脂環式テトラカルボン酸の赤外吸収スペクトルを表す。 実施例1に記載の脂環式テトラカルボン酸のDMSO中で測定したNMRスペクトルを表す。 実施例1に記載の脂環式テトラカルボン酸の示差走査熱量曲線を表す。 実施例2に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例2に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例3に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例3に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例4に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例4に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例5に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例5に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例6に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例6に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例7に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例8に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例9に記載の脂環式テトラカルボン酸の赤外吸収スペクトルを表す。 実施例9に記載の脂環式テトラカルボン酸のDMSO中で測定したNMRスペクトルを表す。 実施例10に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例11に記載の脂環式テトラカルボン酸の赤外吸収スペクトルを表す。 実施例12に記載の脂環式ポリエステルイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを表す。 実施例13に記載の脂環式テトラカルボン酸の赤外吸収スペクトルを表す。 実施例13に記載の脂環式テトラカルボン酸のDMSO中で測定したNMRスペクトルを表す。 実施例13に記載の脂環式テトラカルボン酸の示差走査熱量曲線を表す。

Claims (11)

  1. 下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表されるエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類。
    Figure 2007284414
    (式(1)〜(3)中、Aは2価の基を示す。X、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。)
  2. 上記式(1)〜(3)中のAが芳香族基及び/または脂肪族基を有する2価の基であることを特徴とする請求項1に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類。
  3. 上記式(1)〜(3)中のX、X2、X、X4、X5及びX6が水素原子であり、かつAが少なくとも1つの環状構造を含む構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類。
  4. 核水素化トリメリット酸無水物を酸ハライドに変換し、得られた酸ハライドとジオールを塩基性物質の存在下に反応させることを特徴とする請求項3に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物又はそのテトラカルボン酸類の製造方法。
  5. 下記一般式(4)で表される構成単位を含む脂環式ポリエステルイミド前駆体。
    Figure 2007284414
    (式(4)中、Aは2価の基を示す。X、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。Bは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。Rは水素原子、炭素数1から10のアルキル基またはシリル基を表す。)
  6. 一般式(5)で表される構成単位を含む脂環式ポリエステルイミド。
    Figure 2007284414
    (式(5)中、Aは2価の基を示す。X、X2、X、X4、X5及びX6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、又はアミド基を表す。Bは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。)
  7. 請求項1から3のいずれか1項に記載のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸二無水物類とジアミン類を反応させた後、環化イミド化反応させることを特徴とする、請求項6に記載の脂環式ポリエステルイミドの製造方法。
  8. 請求項5に記載の脂環式ポリエステルイミド前駆体を環化イミド化反応させることを
    特徴とする、請求項6に記載の脂環式ポリエステルイミドの製造方法。
  9. 環化イミド化反応が、加熱及び/又は脱水試薬を用いて行うことを特徴とする、請求
    項7又は8に記載の脂環式ポリエステルイミドの製造方法。
  10. 請求項6に示す一般式(5)の構成単位を含む樹脂より製造されたフィルム。
  11. 請求項10に記載のフィルムを用いた液晶用部材。
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