以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されず、種々変形して実施することができる。
[優れた耐熱性、透過性、吸収性等の物性を併せ持つ樹脂]
本発明は、高い耐熱性、高透明性、低誘電性、低吸水性、有機溶媒溶解性およびアルカリエッチング特性を併せ持つ樹脂を提供するものである。
具体的には、以下の条件を満たす樹脂である。
(1) ガラス転移温度について
通常、200℃以上、好ましくは230℃以上、より好ましくは250℃以上、特に好ましくは270℃以上である、
この温度が低すぎると、耐熱性が低下するため加工時のプロセス温度が制約を受けることになり、採用できない工程が生じたりする。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例の項に記載するように、ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、引っ張り測定により、昇温速度10℃/分における引張り伸び量の変化から求めることができる。
(2) 膜厚30μmのフィルムでの400nmの光の透過率について
通常、70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。
この透過率が低すぎると、光学用途での適用が大幅に制限される。
なお、波長400nmの光の光透過率は、後述の実施例の項に記載するように、島津製作所社製紫外可視分光光度計(UV−3100S)を用いて測定することができる。
(3) 膜厚30μmのフィルムを25℃の水に24時間浸漬した後の吸水率について
通常、2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、特に好ましくは1.0重量%以下である。下限は通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上である。
この吸収率が高すぎると、周囲の水分量によって導電性が変化したり、寸法が変化する等の問題が生じる。低すぎると、特定の用途において水分の排除が出来なくなる等の問題が生じる。
なお、この吸水率は、後述の実施例の項に記載するように、膜厚30μmに形成したフィルムを80℃で3時間真空乾燥した後、25℃の水に24時間浸漬し、次いでフィルムを引き上げて乾いた吸水性の良い紙(パルプ100%)にはさみこんで1分間放置し、フィルムの表面に付着した水分を紙にしみこませ、さらに紙を2回交換し、同様の操作を繰り返した後、重量を測定し、浸漬前後の重量増加分から求めることができる。
上記特性を有する樹脂としては、重縮合系高分子、好ましくはアミド基またはイミド基を有する樹脂、さらに好ましくはイミド基を有する樹脂、特に好ましくはイミド基及びエステル基を有する樹脂が挙げられる。
[テトラカルボン酸系化合物]
本発明のテトラカルボン酸系化合物は、下記一般式(1)または(2)で表される、分子内に少なくとも1つのビシクロ[2.2.1]ヘプタン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環を有し、かつ両端がジカルボン酸またはその酸無水物である構造を有する。
(式(1),(2)中、Aは2価の基を示す。
X
1,X
2,X
3は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。ただし、これらの基は更に置換基を有していても良く、また、炭素含有基にあっては、その炭素数は10以下である。
R
1,R
2,R
3,R
4は各々独立にカルボキシル基(−C(O)OH)を表すか、或いは、R
1とR
2および/またはR
3とR
4とで形成された酸無水物基(−C(O)OC(O)−)を表す。
nは1または2の整数を表す。
式(2)中、環Bは置換基を有していても良い3価以上の環状基を表す。)
なお、一般式(1)はより具体的には下記一般式(1a),(1b),(1c)で表され、一般式(2)はより具体的には下記一般式(2a),(2b),(2c)で表される。以下において、X1,X2,X3,A,B,nは一般式(1),(2)におけると同義である。
前記一般式(1)または(2)で表される本発明のテトラカルボン酸系化合物は、ノルボルナン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環に酸無水物が縮環し、これが2価の基Aを介して他の酸無水物と結合している、という構造が特徴であり、この構造が重合物とした時に高い透明性、高い耐熱性、低い吸収性、高い寸法安定性という物性を併せ持つことに起因している。つまり、Aの構造が任意の2価の基であっても、本発明のテトラカルボン酸系化合物のこれらの物性に関しては大きくは影響を与えない傾向にあるため、Aの構造は任意の2価の基であれば、特に制限されない。
一般式(1),(2)において、Aは2価の基であるが、好ましくはAは下記一般式(3)の構造をとる。ここでDは、任意の2価の基をとり得るが、少なくとも1つの環状構造を含む構造であると、本発明のテトラカルボン酸系化合物を原料モノマーとして用いて製造した樹脂の耐熱性が上がるのでより好ましい。
一般式(3)の構造の中でも好ましくは、下記一般式(3A),(3B)の構造を持つものである。
(式(3A),(3B)中、D
1,D
2は2価の基を表す。)
一般式(3A),(3B)において、D1、D2は任意の2価の基である。
Dが一般式(3A)または(3B)で表される場合、前記一般式(1)または(2)で表される本発明のテトラカルボン酸系化合物は、ノルボルナン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環に酸無水物が縮環し、これが(3A)または(3B)で表される基を介して他の酸無水物と結合している、という構造が特徴であり、この構造が重合物とした時に高い透明性と高い耐熱性、低い吸収性、高い寸法安定性、さらには高い靭性、高い溶媒溶解性といった物性を併せ持つことに起因している。つまり、D1またはD2の構造が任意の2価の基であっても、本発明のテトラカルボン酸系化合物のこれらの物性に関しては大きくは影響を与えない傾向にあるため、D1またはD2の構造は任意の2価の基であれば、特に制限されない。
ただし、中でもD1、D2が少なくとも1つの環状構造を含む構造であると、本発明のテトラカルボン酸系化合物を少なくとも一部原料モノマーとして用いて製造した樹脂の耐熱性、寸法安定性が一層向上するのでより好ましい。
上記2価の環状構造としては、芳香族環状構造を含むものでも、脂肪族環状構造を含むものでもどちらでも取り得る。2価の芳香族環状構造を含む構造の具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基などのように芳香環が単独もしくは複数の芳香環が縮環した構造の基、ビフェニレン基(−Ph−Ph−:Phはフェニレン基を表す。以下同様)等のように複数の芳香環が直接連結された構造の基、ジフェニルエーテル基(−Ph−O−Ph−)、ジフェニルスルホン基(−Ph−SO2−Ph−)、メタンジフェニル基(−Ph−CH2−Ph−)、プロパン−2,2−ジフェニル基(−Ph−C(CH3)2−Ph−)、9,9−フルオレン基、フルオレン−9,9−ジフェニル基、(−Ph−Fl−Ph−:Flは、9,9−フルオレン基)、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)基などのように複数の芳香族基が任意の2価の連結基を介して連結された構造の基などが挙げられる。なお、これら構造の芳香環には、任意の置換基が入っていてもかまわない。さらに、2価の脂肪族環状構造を含む構造の具体例としては、シクロへキシレン基、シクロペンチレン基、シクロヘプチレン基、シクロヘキサンジメチレン基、などの単環の脂環式の2価の基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオフニル基などのように環内にヘテロ原子を有する環状基、シクロヘキサンジメチル基(−CH2−Ch−CH2−:Chはシクロへキシレン基を表す)等のように脂環式の基に置換した置換基で結合する構造の基、デカヒドロナフチレン基、ノルボルナン基、ノルボルネン基、アダマンチル基などの多環の脂環式の基、ジシクロヘキシルエーテル基(−Ch−O−Ch−)、メタンジシクロヘキシル基(−Ch−CH2−Ch−)、プロパン−2,2−ジシクロヘキシル基(−Ch−C(CH3)2−Ch−)、ジシクロヘキシルスルホン基(−Ch−SO2−Ch−)などの複数の脂環式の基が任意の連結基により連結された構造の基等が挙げられる。
なお、上記説明中の芳香族基ないし脂肪族基を連結する「任意の2価の連結基」としては、具体例として挙げたものも含めて、メチレン基(−CH2−)、2,2−プロピレン基(−C(CH3)2−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO2−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などが例として挙げられる。
なお、上記した2価のD、D1、D2が環状構造を含む基である場合に関しては、特にその置換位置は問わない。例えばフェニレン基であれば1,4−位で置換すると−D−、−D1−、−D2−の構造が直線となるため、耐熱性が向上し、線膨張係数が小さくなることが期待され、好ましい。一方、フェニレン基において1,3−位で置換した場合には、この部分の構造が屈曲するため、溶媒に対する溶解性の向上が期待されるので、好ましい。従って、置換位置については、必要とされる物性に応じて適宜ふさわしい構造のD、D1、D2を選択することが好ましい。
これらのD、D1、D2の中でも芳香族環状構造を含むものの中では少なくともフェニレン基を含む構造のもの、脂肪族環状構造を含むものの中では少なくとも6員環構造もしくは5員環構造を持つものがより好ましく、この中でもさらに具体的には、フェニレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、プロパン−2,2−ジフェニル基、フルオレン−9,9−ジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)基、シクロへキシレン基、シクロヘキサンジメチル基、プロパン−2,2−ジシクロヘキシル基、2価のノルボルナン基等がより剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
また、D、D1、D2の構造に関しては、これらが相対的に大きな置換基となるほど、樹脂とした時のイミド基の密度が低下するために吸水率が低くなる傾向がある。従って、低吸水性を求める用途にはより大きな構造のD、D1、D2を選ぶのが好ましい。
一般式(2)において、環Bは置換基を有していても良い3価以上の任意の環状基を示す。環Bの環状基の価数の上限は特に制限はないが、通常20価以下、好ましくは10価以下、より好ましくは5価以下、特に好ましくは3価である。
環Bの環構造としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香族環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、ノルボルナン環(ビシクロ[2.2.1]ヘプタン環)、ビシクロ[2.2.2]オクタン環等の脂肪族環などが挙げられる。これらが置換基を有する場合の置換基としては、後述するX4〜X6の置換基の具体例が挙げられる。中でも下記一般式(2A),(2B),(2C)で表されるものが好ましい。
(式(2A),(2B),(2C)中、A,X
1,X
2,X
3,nは、それぞれ一般式(2)におけると同義である。
X
4,X
5,X
6は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。ただし、これらの基は更に置換基を有していても良く、また、炭素含有基にあっては、その炭素数は10以下である。
mは1または2の整数を表す。)
さらには、シクロヘキサン環がメチレン基で架橋された上記一般式(2A),(2B),(2C)において、n=m=1で表されるノルボルナン環は、合成が比較的容易な上に、樹脂としたときに透明性が高く耐熱性が向上するのでより好ましい。
上述の如く、一般式(1),(2),(2A),(2B),(2C)中におけるX1、X2、X3、X4、X5およびX6は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。ただし、これらの基は更に置換基を有し得る場合には任意の置換基を有していても良い。また、炭素含有基にあっては、その炭素数は10以下である。
X1〜X6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基などが挙げられる。
アルケニル基の具体例としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基などが挙げられる。
アルキニル基の具体例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基などが挙げられる。
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基などが挙げられる。
ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。
ニトリル基の具体例としては、シアノ基、アセトニトリル基、プロピオニトリル基などが挙げられる。
アミド基の具体例としては、ホルムアミド基、アセトアミド基などが挙げられる。
また、これらの基が更に置換基を有する場合の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトリル基、アミド基等が挙げられる。
X1〜X6としては、これらの中でも水素原子、ハロゲン原子が原料の入手のし易さの点で好ましい。
一般式(2A),(2B),(2C)において、AとX1、X2、X3、X4、X5およびX6、n、mの組み合わせとして好ましい構造としては、Aが環状構造を有する基であり、X1、X2、X3、X4、X5およびX6がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子で構成されるものであり、n=mで1もしくは2のものある。さらに好ましくは、Aが環状構造を有する基であり、X1、X2、X3、X4、X5およびX6がすべて水素原子で、n=m=1で構成されるものである。
[酸ハライド]
本発明の酸ハライドは下記一般式(4)で表されるものである。
(式(4)中、X
1,X
2,X
3は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。ただし、これらの基は更に置換基を有していても良く、また、炭素含有基にあっては、その炭素数は10以下である。
R
1,R
2は各々独立にカルボキシル基(−C(O)OH)を表すか、或いは、R
1とR
2とで形成された酸無水物基(−C(O)OC(O)−)を表す。
nは1または2の整数を表す。
Xは塩素原子または臭素原子を表す。)
上記一般式(4)において、X1〜X3の具体例および好適例は、それぞれ上記一般式(1),(2)におけるX1〜X3の場合と同様である。
[テトラカルボン酸系化合物を少なくとも一部に含む原料モノマーを重合または共重合させて得られる重合物]
上述のような本発明のテトラカルボン酸系化合物を少なくとも一部に含む原料モノマーを重合または共重合させて得られる重合物には、該原料モノマーを重合して得られるポイリミド前駆体とこの前駆体を脱水処理、もしくは原料モノマーを直接脱水処理して得られるポリイミドの両方が含まれる。
[ポイリミド前駆体、ポリイミド]
本発明のポリイミド前駆体とポリイミドとは、下記一般式(5)で表されるようなポリイミド前駆体と下記一般式(7)で表されるポリイミドを指す。
(式(5)中、D
1は2価の基を示す。
環Bは置換基を有していても良い3価以上の環状基を表す。
X
1、X
2、およびX
3は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。
Qは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。
R
11,R
12は各々独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基またはシリル基を表す。
nは1または2の整数を表す。)
(式(7)中、D
1は2価の基を示す。
環Bは置換基を有していても良い3価以上の環状基を表す。
X
1、X
2、およびX
3は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。
Qは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。
nは1または2の整数を表す。)
上記一般式(5)で表されるポリイミド前躯体は下記一般式(6)で表されることが好ましく、また、上記一般式(7)で表されるポリイミドは下記一般式(8)で表されることが好ましい。
(式(6)中、D
1は2価の基を示す。
X
1、X
2、X
3、X
4、X
5およびX
6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。
Qは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。
R
11,R
12は各々独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基またはシリル基を表す。
nおよびmは各々独立に1または2の整数を表す。)
(式(8)中、D
1は2価の基を示す。
X
1、X
2、X
3、X
4、X
5およびX
6はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、またはアミド基を表す。
Qは2価の芳香族基または脂肪族基を表す。
nおよびmは各々独立に1または2の整数を表す。)
上記一般式(5)ないし(8)における、D1、B、n、X1、X2、X3、X4、X5およびX6は、テトラカルボン酸系化合物の項で記載した内容と同様である。なお、一般式(5)中の各ノルボルナン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環に結合している−CONH−基と−COOR基は、相互にその結合位置が交換されていてもかまわない。
R11,R12は各々独立に水素原子、炭素数1から10のアルキル基またはシリル基を表す。
一般式(5)および(7)におけるQは任意の2価の基であればよい。
一般式(7)で表される本発明のポリイミド(7)は、ノルボルナン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環にイミド基が縮環した部分構造に特徴があり、これが−C(O)−O−D1−O−C(O)−とBを介してQと結合し、重合物を構成している。そして、このノルボルナン環もしくはビシクロ[2.2.2]オクタン環にイミド基が縮環していると言う部分構造が重合物とした時に高い透明性、高い耐熱性、高い寸法安定性という物性を併せ持つことに寄与している。つまり、Qの構造が任意の2価の基であっても、本化合物のこれらの物性に関しては大きくは影響を与えない傾向にあるため、Qの構造は任意の2価の基であれば、特に制限されない。
この2価の基の中でも、Qの構造として好ましいものとしては、環状構造を有する基である。環状構造を有する構造とは、Qに芳香族基を含む構造および脂環構造を含む構造をさす。Qに環状構造があるとポリイミド樹脂とした時の耐熱性および、寸法安定性の向上がもたらされる。また、脂環構造を含む場合には耐熱性を維持しつつ、紫外領域の光吸収を低減させることができる、という特徴も得ることができる。
具体的な構造として例を挙げると、Qの芳香族基としてはいずれも2価の基であるフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9,9−フルオレニリデン)ジフェニル基、メチレンジフェニル基、イソプロピリデンジフェニル基、3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル基、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−1,1’−ビフェニル基などが挙げられ、脂環構造基としては、シクロヘキシレン基、シクロヘキサンジメチレン基、ジシクロヘキシルエーテル基、メチレンジシクロヘキシル基、デカヒドロナフチレン基等が挙げられる。さらにこれらの基同士が、あるいは他の基と連結基で複数結合された構造となっていてもかまわない。ここで適用可能な連結基の具体的な例としては、メチレン基(−CH2−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO2−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などを挙げることができる。
なお、上記した2価の環状構造を含む基に関しては、特にその置換位置は問わない。例えばフェニレン基であれば1,4−位で置換すると、−Q−の構造が直線となるため耐熱性が向上し、線膨張係数が小さくなることが期待され、好ましい。一方、フェニレン基において1,3−位で置換した場合には、−Q−構造が屈曲し、溶媒に対する溶解性の向上が期待されるので、好ましい。従って、置換位置については、必要とされる物性に応じて適宜ふさわしい構造のQを選択することが好ましい。
更に好ましい構造としては、Qが芳香族基を含む基である。Qに芳香族基が含有されると脂環式ポリエステルイミド樹脂としたときの耐熱性および、寸法安定性が一層向上する上に屈折率の向上も達成される。Qの芳香族基の具体的なものとしては、上記したものが適用可能であるが、中でもフェニレン基、ビフェニレン基、ジフェニルエーテル基、ジフェニルスルホン基、4,4’−(9,9−フルオレニリデン)ジフェニル基、3,3’,5,5’−テトラメチル−1,1’−ビフェニル基等がより剛直な構造を持つ点で特に好ましい。
R11,R12は各々独立に水素原子、炭素数1から12のアルキル基またはシリル基を表す。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シリル基としては例えばトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基が使用可能な例として挙げられる。中でも、脱離能が高いことからトリメチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基が好ましい。なお、R11とR12とは同一であっても異なるものであっても良いが、同一であることが好ましい。
B、Q、R11、R12、n、X1、X2、X3、X4、X5およびX6の組み合わせとして好ましい構造としては、B、Qがそれぞれ環状構造を有する基であり、X1、X2、X3、X4、X5およびX6がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子、nが1、R11,R12は水素原子、メチル基、エチル基、トリメチルシリル基、ジメチル−t−ブチルシリル基のいずれかで構成されるものである。さらに好ましくはQが環状構造を有する構造、Bがノルボルナン環、X1、X2、X3、X4、X5およびX6がすべて水素原子、nが1、R11,R12が水素原子、メチル基、トリメチルシリル基のいずれかであるものである。
[テトラカルボン酸系化合物の製造方法]
本発明のテトラカルボン酸系化合物は、例えば、市販されている5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を原料に製造することができる。すなわち、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のオレフィン部分にカルボキシル基を導入し、このカルボキシル基に2価のアルコールまたはアミン、或いはジカルボン酸無水物を有する1価のアルコールまたはアミンと反応させてエステル化もしくはアミド化し、一般式(1)または(2)に示されるテトラカルボン酸無水物を合成することができる。
以下、この方法に関して説明する。
なお、以下においては、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を出発原料としてテトラカルボン酸無水物を製造する場合を示すが、ビシクロ[2.2.2]オクタン環を有するテトラカルボン酸無水物の場合は、シクロヘキサジエンと、無水マレイン酸のディールス・アルダー反応生成物である、ビシクロ[2.2.2]オクタン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物を出発原料として同様に製造することができる。
〈ノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸の製造方法〉
[1]5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物からノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸(2,3,5−ノルボルナンカルボン酸)の合成
まず、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のオレフィン部分をカルボキシル化して2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸を合成する。
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のノルボルネン環のオレフィン部位は活性が高く、各種の付加反応を容易に受ける。これを利用して、例えばHCNを付加させると、5−シアノノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物が得られ、このもののニトリル基を加水分解すればノルボルナントリカルボン酸が得られる。ノルボルネン環のオレフィンへのHCNの付加反応、ならびにニトリル基の加水分解は、例えば特開平5−58946号公報に記載の方法を応用することができる。
また、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のオレフィンへのヒドロエステル化、引き続くエステル基の加水分解によってもカルボキシル基を導入することができる。この反応の条件としては、例えば米国特許3,413,317号公報に記載の方法を採用することができる。これは、窒素雰囲気下、カルボニル源としてNi(CO)4を用いて反応させる方法である。
一方、ヒドロエステル化の他の方法として、加圧された一酸化炭素、アルコールをPd、NiもしくはCo触媒存在下に反応させる方法を採用することも可能である。その際使用されるPd触媒の添加方法としては、Pd−ホスフィン錯体として反応系に添加する方法と、Pdの無機塩や単体に担持されたPd金属とアルキルホスフィンを別途添加して系内でPd−ホスフィン錯体を形成する2通りの添加方法がある。前者Pd−ホスフィン錯体として系に添加する場合のPd化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等のアルキルホスフィンパラジウム錯体、ジクロロビス(トリメチルホスフィン)パラジウム(II)などのハロゲン化アルキルホスフィンパラジウム錯体、カルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等のカルボニルアルキルホスフィンパラジウム錯体などやジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)などが例として挙げられ、後者Pdの無機塩として系に添加する場合のPd化合物としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウムなどのパラジウムの無機酸または有機酸の塩が好適に用いられる。
一方、Ni触媒としては、テトラカルボニルニッケル(0)などのニッケルカルボニル錯体、ジカルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)などのニッケルカルボニルアルキルホスフィン錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(0)等のニッケルアルキルホスフィン錯体などが例として挙げられる。
Co触媒の例としては、コバルトカルボニルなどのコバルトのカルボニル錯体が挙げられる。
ヒドロエステル化反応は通常アルコール溶媒の存在下に行う。アルコール溶媒は、基質や触媒の溶解剤として機能するのみならず、生成するエステル部分を構成する反応試剤としての役割も果たす。本反応で使用可能なアルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの炭素数6以下の低級アルコールが挙げられる。
この場合のヒドロエステル化反応は、一酸化炭素の存在下で行う。使用する一酸化炭素の圧力は常圧でもかまわないが、反応速度を高めるために加圧下で行ってもよい。使用される圧力の下限は、0.1MPa以上、好ましくは0.5MPa以上、さらに好ましくは1.0MPa以上である。上限は、特に制限はないものの設備上の問題から通常は30MPa以下、好ましくは20MPa以下、さらに好ましくは15MPa以下が採用される。
採用される反応温度は、通常加熱下であり、下限が20℃以上、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。上限は、装置上の制約もあるので通常300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。
反応時間は、通常は、下限が10分以上、好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。上限は、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、さらに好ましくは25時間以下である。
反応の際に助触媒として銅塩やスズ塩を添加して反応を行ってもよい。その際に用いられる銅塩としては、塩化銅(CuCl2)、酢酸銅などの銅の無機酸の塩が、そしてスズ塩としては、塩化スズ(SnCl2)や臭化スズ(SnBr2)などのスズのハロゲン化物が好ましい。
さらに反応を促進するために酸を添加して反応を行うこともできる。その際に用いることのできる酸は、p−トルエンスルホン酸や、メタンスルホン酸などの有機スルホン酸、塩酸、硫酸などの無機酸などである。
5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のオレフィン部のヒドロエステル化反応の収率は、使用するアルコールの種類にも依存するが、典型的な場合、40%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上である。
また、目的物であるヒドロエステル体の純度は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。
こうしてオレフィン部がヒドロエステル化されたノルボルナン酸無水物の酸無水物環は、溶媒として使用したアルコールのハーフエステルもしくはジエステルに変換されている。この時の具体的な生成物は、下記の通りである。
<エンド−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を原料とした場合>
<エキソ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物を原料とした場合>
なお、これら生成物に加えて、さらにこれらの立体異性体(一部または全部のノルボルナン環上の置換基のエンド−エキソが反転したもの)が生成する。ただし、通常のヒドロエステル化反応においては、上記した構造の化合物の生成が主であり、全生成物中に含まれる上記生成物の合計の割合は、通常50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。
さらに、上記した化合物の中でも新規に導入されるカルボアルコキシ基(5位)の立体は、通常エキソのものが主生成物となる。全生成物中に含まれる5位のカルボアルコキシ基の立体がエキソの物の割合は、通常60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上となる。
ヒドロエステル化により得られたヒドロエステル体、すなわちノルボルナンジエステルカルボン酸もしくはノルボルナントリエステルは、エステル基を加水分解してノルボルナントリカルボン酸とする。その際には、アルカリ性、酸性いずれの条件も採用することができる。
例えばアルカリ条件で加水分解する場合には、水、アルカリ成分の存在下に行う。この際、使用することのできるアルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩などの水溶液である。また、反応はこれらアルカリ化合物の水溶液のみを使用して行っても良いが、有機溶媒を添加して行っても良い。その際に使用可能な溶媒には、特に制限はないが特にメタノール、エタノールなどの低級アルコール、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒などは、水系溶媒と相溶するので好ましい。また、水と相溶しない溶媒、例えば、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒などを使用して二相系で反応を行ってもよい。
加水分解する際の反応温度は、特に制限されないが、下限が−10℃以上、好ましくは0℃以上、さらに好ましくは10℃以上、上限が150℃以下、好ましくは100℃以下、さらに好ましくは80℃以下で反応を行う。
反応時間は、通常は、下限が10分以上、好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。上限は特に制限されないものの、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、さらに好ましくは25時間以下である。
反応後の生成物は、2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸の金属塩となっているのでこれを酸によりカルボン酸として取り出す。このために2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸金属塩の溶液に酸を添加してカルボン酸の金属塩をカルボン酸へと変換する。その際に使用できる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸などの無機酸の水溶液が挙げられる。
一方、酸性条件で行う場合には、水と酸成分の存在下に反応を行えば良く、特にその方法については公知の方法をそのまま採用することができる。使用できる酸成分としては、硫酸、塩酸、硝酸、りん酸などの無機酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸などが挙げられる。
酸成分の使用量としては、基質であるヒドロエステル体の重量に対して、下限が5重量%、好ましくは10重量%、上限は特に制限はないが、200重量%、好ましくは100重量%である。
反応の際には溶媒を使用してもかまわない。その際、採用可能な溶媒としては、特に制限はないがメタノール、エタノールなどの低級アルコール、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルオキシドなどの含硫黄原子溶媒などは、水系溶媒と相溶するので好ましい。また、水と相溶しない溶媒、例えば、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒などを使用して二相系で反応を行ってもよい。
その際の溶媒の使用量は、基質であるヒドロエステル体の重量濃度として、下限が、1%、好ましくは5%、さらに好ましくは10%、上限が80%、好ましくは70%、さらに好ましくは60%となる量である。
反応仕込みの際に使用する水の量は、下限が基質であるヒドロエステル体の重量%ととして、30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは100%以上、上限は特に制限はないが、300%以下、好ましくは200%以下が採用される。
加水分解する際の反応温度は、特に制限されないが、下限が20℃以上、好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上、上限が200℃以下、好ましくは150℃以下、さらに好ましくは120℃以下で反応を行う。
反応時間は、通常は、下限が10分以上、好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。上限は特に制限されないものの、通常100時間以下、好ましくは50時間以下、さらに好ましくは25時間以下である。
なお、反応の途中に、副生するエステル由来のアルコールを除去しながら反応を行うと平衡が生成系(トリカルボン酸)側に移行するので好ましい。また、アルコールを除去する際に反応試剤である水も除去されてしまう場合には、逐次水を補給しながら反応を行うのが好ましい。
こうして得られるノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸の収率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。
また、生成物は以下の構造を有するものが主成分となる。
<エンド−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のヒドロエステル化物を原料とした場合>
<エキソ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物のヒドロエステル化物を原料とした場合>
上記構造の化合物の他にさらにこれらの立体異性体(一部または全部のノルボルナン環上の置換基のエンド−エキソが反転したもの)が混在する。ただし、通常上記した構造の化合物の生成が主であり、全生成物中に含まれる上記生成物の合計の割合は、通常50%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上である。
こうして得られたノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸は、次のエステル化工程にそのまま使用することも可能であるが、精製して純度を高めてから使用してもかまわない。精製の方法は、特に制限なく通常の方法、例えば、昇華法、再結晶法、カラムクロマトグラフィー、抽出精製などが任意に採用可能である。中でも再結晶法が簡便かつコスト的に安価なため好ましい。
再結晶を行う際の溶媒としては、ノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸が溶解する溶媒であれば特に制限なく使用可能である。具体的には、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルオキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などが使用可能である。さらには、これらの良溶媒に加えてトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素などの貧溶媒を添加して使用してもかまわない。貧溶媒を添加すると目的物の回収率を高めることができる。
こうして精製されたノルボルナン−2,3,5−トリカルボン酸の純度は通常80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
[2]2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸から本発明のテトラカルボン酸系化合物の合成
2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸は、例えば2位と3位のカルボキシル基を酸無水物化した後に、5位のカルボキシル基を2価のアルコールまたはアミン、もしくはジカルボン酸の酸無水物基を有するアルコールまたはアミンと縮合させることにより、本発明のテトラカルボン酸系化合物へと誘導することができる。
2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸の2位と3位のカルボキシル基を酸無水物化する方法としては、減圧下に加熱する方法、または有機酸の酸無水物と共に処理する方法を採用することができる。
減圧下に加熱処理をする場合、採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。
また減圧度の下限の制限はなく、上限は0.1MPa以下、好ましくは0.05MPa以下である。
有機酸の無水物と処理する場合に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
その処理の際に採用される温度は、下限が30℃以上、好ましくは50℃以上、上限が200℃以下、好ましくは150℃以下である。
次いで、こうして得られた5−カルボキシノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の5位のカルボキシル基を2価のアルコールまたはアミン、或いはジカルボン酸の酸無水物基を有するアルコールまたはアミンと縮合させる。その際の縮合反応は、通常有機合成的なエステル化反応やアミド化反応として知られた反応を任意に採用できる。例えば、カルボン酸とアルコールとアミンから直接脱水して縮合する方法、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略される)や、ジエチルアゾジカルボキシレート/トリフェニルホスフィンの組み合わせなどの脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法などがある。さらに、カルボン酸をより反応性の高い(求電子性の高い)酸ハライドや酸無水物に変換した後に塩基の存在下にアルコールやアミンとを反応させる方法も採用可能である。また、エステルを合成する方法としては、カルボン酸とカルボン酸のアルコールエステルからエステル交換反応させる方法も利用することが可能である。
上述の方法の中でも、直接脱水する方法とエステル交換法、酸ハライドに変換する方法が、経済性、反応性の点で好ましい。以下は、酸クロリドを経由してノルボルナン構造含有テトラカルボン酸無水物を製造する方法について述べる。
この場合は、5−カルボキシノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の5位のカルボキシル基を酸クロリド化し、これと2価のアルコールまたはアミン、或いはジカルボン酸無水物基を有する1価のアルコールまたはアミンと反応させてエステル化、もしくはアミド化する。
5位のカルボキシル基を酸クロリド化して5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物を合成する方法としては、カルボン酸から対応する酸クロリドを合成する通常の有機合成手法を用いることができる。具体的な例としては、塩化チオニルを用いる方法、オキザリルクロリドを用いる方法、三塩化リンを用いる方法、安息香酸クロリドなどの他の酸クロリドを使用する方法などが挙げられる。中でも過剰に使用した試剤の留去のしやすさの点から塩化チオニルを用いる方法が好ましい。
なお、酸ブロミドを経由する場合は、臭化チオニル、オキザリルブロミド、三臭化リン、安息香酸ブロミドなどを用いて、同様に実施することができる。
これら塩素化剤を用いて5位のカルボン酸を塩素化する際に、N,N−ジメチルホルムアミドやピリジン等の触媒を用いることもできるが、これらを用いなくても反応の進行に大きな支障はない場合もある。むしろ触媒の存在により得られた塩素化物がかえって著しく着色することもあるので、ポリイミド膜の透明性を重視する用途の場合は生成物の着色に注意が必要で、その場合はこれら触媒を使用しないで製造するのが好ましい。
使用する塩素化試剤の量は、基質と等量、もしくは過剰量が採用されるが、通常下限が1モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。
塩素化剤を用いた酸クロリド化反応は、溶媒を用いて実施してもよい。その際使用できる溶媒は、使用する塩素化剤および生成物である酸無水物クロリドが溶解し、塩素化剤が反応しない溶媒であれば制限なく使用できる。使用可能な溶媒の例としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、ガンマブチロラクトンなどのエステル系溶媒、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、等があげられる。中でも、溶解性、安定性の点からトルエンや、ヘプタン、テトラヒドロフランが好ましい。これら溶媒は単独で用いてもかまわないし、任意の複数の溶媒を混合して使用してもかまわない。溶媒の使用量は、基質である5−カルボキシノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の重量濃度として、通常下限が5重量%、好ましくは10重量%、上限が50重量%、好ましくは40重量%である。
反応は室温でも行うことができるが、通常加熱して行う。採用される温度は、下限が30℃以上、好ましくは50℃以上、上限は使用する塩素化試剤の還流温度である。
反応後は、過剰に使用した塩素化試剤を除去する。除去の方法は特に制限されず、蒸留、抽出などが適用できる。蒸留により留去する場合には、より効率を上げるために塩素化試剤と共沸組成物を形成する溶媒を添加して留去してもよい。例えば、塩化チオニルを留去する場合には、ベンゼンやトルエンを添加して共沸留去させることができる。
得られた酸塩素化物はヘキサンやシクロヘキサン等の無極性溶媒を用いて再結晶することでより純度を高めることができるが、そのような精製操作を行わず、そのまま次の反応工程に使用しても何ら差し支えない。
得られた酸塩素化物を再結晶する場合の無極性溶媒としては、具体的には、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルオキシド、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などが使用可能である。さらには、これらの良溶媒に加えてトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素などの貧溶媒を添加して使用してもかまわない。貧溶媒を添加すると目的物の回収率を高めることができる。
このようにして必要に応じて精製を行って得られる5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物の純度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。主な不純物としては、酸無水環が開環したトリカルボン酸の複数のカルボキシル基が酸クロリド化を受けて生成するジ酸クロリド体、トリ酸クロリド体(立体異性体を含む)、触媒としてジメチルホルムアミドを使用した場合はこの分解物や、2,3,5−ノルボルナントリカルボン酸のジメチルアミド体などがあるが、これらの存在量は少ない方が好ましく、通常は、5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。
なお、上記説明においては、トリカルボン酸からまず酸無水物化し、その後酸クロリド化を段階的に行う方法を述べてきたが、トリカルボン酸を上記した塩素化剤と直接処理することによって5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物へ一気に変換することも可能である。その際の塩素化剤の使用量は、通常下限が2モル等量以上、好ましくは5モル等量以上、さらに好ましくは10モル等量以上である。一方、上限は特に制限はないものの、経済的な観点から100モル等量以下、好ましくは50モル等量以下の量が使用される。塩素化剤の種類、反応温度ならびに反応精製手法は上記の条件をそのまま採用できる。
このようにして得られた本発明の酸ハライドである5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物は、2価のアルコールまたはアミン、もしくはジカルボン酸無水物基を有する1価のアルコールまたはアミンと反応させてエステル化、もしくはアミド化することにより、一般式(1)または(2)に示される本発明の化合物であるノルボルナン構造含有テトラカルボン酸無水物を合成することができる。
これらアルコール類、アミン類と酸クロリドとの反応は以下のようにして行う。
まず、反応試剤の反応容器への導入の方法であるが、アルコール類もしくはアミン類と塩基を溶媒に溶解し、これに同一の溶媒に溶解した5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物をゆっくりと滴下する方法、或いは、逆に必要に応じて溶媒に溶解した5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物中にアルコール類もしくはアミン類と塩基の混合溶液を滴下する方法、さらには、5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とアルコール類もしくはアミン類の混合溶液の中へ塩基を滴下する方法、などが採用可能である。
反応の進行とともに白色沈殿が生じる。これを濾過後、沈殿を水で十分洗浄して生成した塩酸塩を除去し、ジエステルの沈殿を加温して真空乾燥することで、目的のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物の粗生成物を収率よく得ることができる。さらに必要に応じて適当な溶媒で再結晶を行うことにより、純度の高められたテトラカルボン酸二無水物を得ることもできる。
本発明のテトラカルボン酸系化合物を合成する場合に使用可能なジオールとしては特に限定されないが、通常、単核の芳香環に2つの水酸基を有するもの、脂環式骨格に2つの水酸基を有するもの、ビフェニル骨格の両方の核に水酸基を1つずつ持つもの、2個のフェノール残基もしくは脂環式アルコール残基がメチレン基(−CH2−)、エーテル基(−O−)、エステル基(−C(O)O−)、ケト基(−C(O)−)、スルホニル基(−SO2−)、スルフィニル基(−SO−)、スルフェニル基(−S−)、9,9−フルオレニリデン基などの官能基により結合された構造を持つもの、ナフタレン骨格に2つの水酸基を有するもの、鎖状骨格に水酸基を2つ持つものなどが用いられる。
具体的な例を挙げると、例えば、単核の芳香環に2つの水酸基を有するものの例としては、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2−フェニルヒドロキノン等が、ビフェニル構造の両方の核に水酸基を1つずつ持つものの例としては、4,4’−ビフェノール、3,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール等が、芳香核が2価の官能基で結合されたものの例としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシエチル)フルオレン等が、ナフタレン骨格に2つの水酸基を有するものの例としては2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,8−ナフタレンジオール等が、脂環式骨格に2つの水酸基を有するものの例としては、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−アダマンタンジオール、ジシクロペンタジエンの2水和物等が、脂環式骨格に置換した基に水酸基を有するものの例としては、シクロヘキサンジメタノールやトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノール等が、ヘテロ原子を有する環に水酸基を有するものの例としては、2,3−ジヒドロキシテトラヒドロフランやイソソルバイド等が、鎖状骨格に水酸基を2つ持つものの例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。より好ましくは、環状骨格を有するジオールが挙げられ、さらにポリマーとしての要求特性の観点から考えると、ヒドロキノン、4,4’−ビフェノール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ヒドロキシメチル)フルオレン、9,9−ビス(2−ヒドロキシエチル)フルオレンが特に好ましい。また、これらのジオールは2種類以上併用することもできる。
また、本発明のテトラカルボン酸系化合物は、5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とヒドロキシ基を含有するジカルボン酸無水物とを反応させても製造することができる。その際に使用されるヒドロキシ基を含有するジカルボン酸無水物としては、3−ヒドロキシコハク酸無水物、3−ヒドロキシメチルコハク酸無水物、5−ヒドロキシノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、4−ヒドロキシフタル酸無水物などが例として挙げられる。
本発明のテトラカルボン酸系化合物を製造するために使用されるジアミンとしては、基本的には自由に選択可能であるが、具体的に使用可能なジアミンとしては例えば、芳香族ジアミンでは、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチル−5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フツ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニル−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノー2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)へキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が例示でき、これらの2種以上併用することもできる。
脂肪族ジアミンとしては例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられ、これらの2種以上併用することもできるし、先に挙げた芳香族ジアミンと併用することもできる。
これらジアミンの中でも芳香族ジアミンとしては、o−、m−、p−フェニレンジアミンなどのモノフェニルジアミン化合物、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニル化合物などが好ましく、中でも入手の容易性や得られる樹脂の物性が良好なことから、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルがより好ましい。脂肪族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ジアミンが環構造を有し入手も容易なのでより好ましく、さらには、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンが得られる樹脂の物性が良好なことからより好ましい。
これらジオール、もしくはジアミンの使用量は、5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物に対して、通常上限は0.6等量以下、好ましくは、0.5等量以下である。これより多く用いるとジオールまたはジアミンの1つのみしかエステル化されていないハーフエステルもしくはハーフアミドが多く生成するので好ましくない。また下限は、0.3等量以上、好ましくは0.45等量以上である。これより少ないと5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物が系内に余るので好ましくはない。通常、ジオールもしくはジアミンは、5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物に対して0.5等量程度使用される。
5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とアルコール類、アミン類を反応させて該ノルボルナン構造含有テトラカルボン酸無水物を合成する際に使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン-ビス(2−メトキシエチル)エーテル等のエーテル溶媒、ピコリン、ピリジン等の芳香族アミン溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のようなケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の様な芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のような含ハロゲン溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のようなアミド系溶媒、ヘキサメチルホスホンアミド等のような含リン溶媒、ジメチルスルホオキシド等のような含イオウ溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のようなエステル系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のような含窒素溶媒、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール等の水酸基を有する芳香族系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種類以上混合して用いてもよい。
本発明のテトラカルボン酸系化合物を得る反応における反応液中の溶質の濃度は、下限が1重量%以上、好ましくは10重量%以上、上限が50重量%以下、好ましくは40重量%以下で行われる。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮すると10重量%以上40重量%以下の範囲で行われるのがより好ましい。
本発明のテトラカルボン酸系化合物の合成の際、採用される反応温度は下限が−10℃以上、好ましくは−5℃以上、より好ましくは0℃以上、上限は30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは10℃以下で行われる。反応温度が30℃よりも高いと一部副反応が起こり、収率が低下する恐れがあり、好ましくない。
反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下または減圧下でも実施できる。また、通常、反応雰囲気は窒素下で行う。
反応容器は密閉型反応容器でも開放型反応容器でも良いが、反応系を不活性雰囲気に保つため、開放型の場合には不活性ガスでシールできるものを用いる。
反応の際、使用する塩基は反応の進行とともに発生する塩化水素を中和するために用いる。
この際使用される塩基の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基を用いることができる。
[本発明のテトラカルボン酸系化合物の精製方法]
上述の反応により生成した沈殿物は目的物と塩酸塩の混合物である。塩酸塩を分離除去するために、沈殿物をクロロホルムや酢酸エチル等で抽出溶解し、分液ロートを用いて有機層を水洗する方法も可能であるが、沈殿物を単に十分水洗するだけでも、塩酸塩を完全に除去することができる。塩酸塩の除去の判定は洗浄液に硝酸銀水溶液を添加し、塩化銀の白色沈殿の生成の有無を確認することで行う。
水洗操作の際、テトラカルボン酸無水物は一部加水分解を受けて、テトラカルボン酸類に変化するが、これは、減圧下加熱処理をすることにより、容易に本発明のテトラカルボン酸二無水物に戻すことができる。
その際採用される温度は、下限が50℃以上、好ましくは120℃以上、上限が250℃以下、好ましくは200℃以下である。
閉環処理に採用される減圧度は、下限の制限はなく、上限は0.1MPa以下、好ましくは0.05MPa以下である。
また、加水分解によりテトラカルボン酸となった場合の再閉環の方法としては、上記した減圧下に加熱する方法の他に、有機酸の酸無水物と処理する方法も採用することができる。その際に使用される有機酸の酸無水物としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられるが、過剰に使用した際の除去の容易さから無水酢酸が好適に用いられる。
こうして得られた本発明のテトラカルボン酸無水物をさらに精製することも可能である。その場合の精製方法としては、再結晶、昇華、洗浄、活性炭処理、カラムクロマトグラフィーなど任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。
再結晶の際に用いることのできる溶媒としては、テトラカルボン酸無水物が溶解する溶媒であれば特に制限なく使用することができる。
具体的には、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、スルホラン、ジメチルスルオキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒などが使用可能である。さらには、これらの良溶媒に加えてトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素などの貧溶媒を添加して使用してもかまわない。貧溶媒を添加すると目的物の回収率を高めることができる。
再結晶の際に、酸無水物環の開環を防ぐために脱水剤を共存させてもよい。その際、使用可能な脱水剤の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
こうして得られる本発明のテトラカルボン酸無水物の純度は例えば示差屈折系検出器付液体高速クロマトグラフィ−などの分析で得られるピークの面積比として、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。
不純物として含まれてくるものとしては、ジオールの片方のみがエステル化されたモノエステル体、精製時に閉環剤として無水酢酸などの酸無水物を使用した場合にはこの閉環剤などがある。これらの不純物は、酸無水物構造を1つ分子内に含有していることから、これらのものは、ジアミンと重合する際に重合停止剤として機能するため、なるべくテトラカルボン酸無水物から除去しておく必要がある。テトラカルボン酸無水物中に含まれる無水酢酸などの酸無水物の含量は、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは2モル%以下である。これらの不純物がこれ以上存在すると、ジアミンとの重合の際に重合度が上がらなくなる可能性がでてくる。
また、上記した5−クロロホルミルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物とジオールのエステル化による本発明のエステル基含有脂環式テトラカルボン酸無水物の合成収率は、精製後で通常10モル%以上、好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上である。
[保存方法]
本発明のテトラカルボン酸系化合物のうち、特にテトラカルボン酸二無水物の保存は、加水分解による酸無水物環の開環を防ぐために高湿を避けた低温下で保存することが望ましい。具体的には、シール性の良い容器で冷蔵庫にて保管すれば長期間の保存に耐える。
本発明のテトラカルボン酸は、特に湿度を管理する必要もなく、室温で長期間保存することができる。
[ポリイミド前駆体の製造方法]
前記一般式(5),(6)で表される本発明のポリイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。通常、重合溶媒中で実質的に等モルのジアミン類と本発明のテトラカルボン酸系化合物を反応させることで、ポリイミド前駆体を容易に製造することができる。この際、テトラカルボン酸二無水物として前記一般式(1)ないし(2)(R1とR2およびR3とR4とは酸無水物基(−C(O)OC(O)−)を形成)で表される化合物を用いることが好ましい。その際、異なる、一般式(1)または(2)で表される酸二無水物を混合して用いても良い。また、一般式(1)または(2)で表される酸二無水物に、一般式(1)または(2)においてn=0の酸二無水物を混合して用いても良い。
また、テトラカルボン酸類として前記一般式(1)より誘導される下記一般式(9)〜(12)のいずれかで表される化合物、ならびに前記一般式(2)より誘導される下記一般式(13)〜(16)のいずれかで表される化合物を用いる事もできる。
上記一般式(9)〜(16)中、R11,R12は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基であり、Xa,Xbは各々独立に水酸基またはハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれか)である。またD1、BおよびX1、X2、X3、nは前記一般式(1),(2)におけると同義である。
D1、B、Xa、Xb、R11、R12、nとX1、X2およびX3の組み合わせとして好ましい構造としては、D1が環状構造を有する基であり、Bは架橋構造を有する環状構造、Xa,Xbは塩素原子または臭素原子、R11,R12は炭素数6以下のアルキル基、nは1、X1、X2、およびX3がそれぞれ独立にハロゲン原子もしくは水素原子で構成されるものである。さらに好ましくはD1が環状構造を有する基、Bはノルボルナン環、Xa,Xbが塩素原子、R11,R12がメチル基、nが1、X1、X2、およびX3がすべて水素原子で構成されるものである。
一般式(9)〜(16)の化合物は、前記一般式(1)または(2)の化合物と予め脱水されたアルコール類を反応させて酸無水物環を開環することにより、ジカルボン酸ジアルキルエステルとして合成することができる(ただし、Xa=Xb=OH)。この際、生成物は通常、一般式(9)〜(12)、あるいは一般式(13)〜(16)で表される化合物の混合物として得られる。さらに、酸無水物環が開いて生成したカルボン酸部位を塩化チオニル等の塩素化剤で塩素化すると酸塩化物を合成することができる(ただし、Xa=Xb=Cl)。
本発明のポリイミド前駆体の重合には、これらの一般式(9)〜(12)で表される化合物、あるいは一般式(13)〜(16)で表される化合物の混合物を用いることができるが、それぞれ単離された化合物を用いても差し支えない。また混合物の使用は、イミド化後の物性には影響を与えない。
本発明に係るポリイミド前駆体を製造するために使用されるジアミンとしては、前駆体製造の際の重合反応性、得られるポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲で自由に選択可能である。具体的に使用可能なジアミン類としては例えば、芳香族ジアミンでは、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチルー5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジクロロー4,4’−ジアミノジフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノジフェニル、ビス(フツ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノジフェニル、ジフェニル−,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−、m−、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノジフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフエノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルフォン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキジ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル〉ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)へキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ジアミノベンズアニリド等が例示でき、これらを2種以上併用することもできる。
脂肪族ジアミンとしては例えば、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできるし、先に挙げた芳香族ジアミンと併用することもできる。
さらには、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン基含有のジアミンも使用することができる。
これらジアミンの中でも芳香族ジアミンとしては、o−、m−、p−フェニレンジアミンなどの単核のフェニレンジアミン化合物、4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフエニルスルフォン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのジアミノジフェニル化合物が好ましく、中でも入手の容易性や得られる樹脂の物性が良好なことから、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルがより好ましい。脂肪族ジアミンとしては、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどの脂環式ジアミンが環構造を有し入手も容易なのでより好ましく、さらには、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンが得られる樹脂の物性が良好なことからより好ましい。
これらジアミンは、反応に供する前に精製を行っても良い。その精製方法としては、再結晶、昇華、活性炭処理、蒸留など任意に行うことができる。またこれら精製法を繰り返しても、組み合わせて実施することも可能である。
これらジアミンは、重合反応性が高まるので高純度であることが好ましい、通常使用されるジアミンの純度は、95%以上、好ましくは、97%以上、さらに好ましくは99%以上である。
本発明のポリイミド前駆体は、前記一般式(1)または(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物と実質的に等モルのジアミンを重合することにより得ることができる。より具体的には、以下の方法により得ることができる。
反応はジアミンと一般式(1)または(2)のテトラカルボン酸二無水物を溶媒の存在下に混合して行う。
この際、使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミンの比率は、モル比で1:0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様にこのモル比が1:1に近いほど得られるポリアミド酸の分子量は大きくなる。
これらジアミンと酸無水物の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これに一般式(1)または(2)のテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸二無水物の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物粉末をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器に同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に添加する方法が試剤の溶媒への溶解性から有利に採用される。
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。下限が−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃、上限が150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは60℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが十分な試剤の変換率を達成するためには、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間である。上限は特に制限はないが反応が終了すれば必要以上に反応時間を延ばす必要はない。例えば、100時間、好ましくは50時間、さらに好ましくは30時間が採用される。
重合反応は、溶媒を用いて行う。この際、使用される溶媒としては、原料モノマーであるジアミンと一般式(1)または(2)のテトラカルボン酸二無水物が溶媒と反応せず、且つこれら原料が溶解する溶媒であれば問題はなく、特にその構造は限定されない。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン、α−メチル−γ−ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、カプロラクタム等のラクタム溶媒、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、4−メトキシフェノール、2,6−ジメチルフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、テトラメチルウレアなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフエノ−ル、o−クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども添加して使用できる。中でも原料の溶解性が高いことからN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、原料であるテトラカルボン酸二無水物とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。すなわちこの濃度は、下限として0.1重量%、好ましくは1重量%、さらに好ましくは5重量%である。上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸二無水物の溶解性の観点から、80重量%、好ましくは50重量%、さらに好ましくは30重量%が採用される。このような濃度範囲で重合を行うことにより、均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
目的とするポリイミドに膜靭性を付与するためには、ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが好ましく、上記濃度範囲よりも低濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の十分な重合度が得られず、最終的に得られるポリイミド膜が脆弱になる恐れがあり好ましくない。特に、ジアミンとして脂環式ジアミンを用いた場合、より高濃度では形成された塩が溶解、消失するまでに長い重合時間を必要とし、生産性の低下を招く恐れがある。
この反応においては、必要に応じて無機塩類を触媒として用いても良い。この際に用いられる無機塩類としては、例えばLiCl、NaCl、LiBrなどのハロゲン化アルカリ金属塩、CaCl2などのハロゲン化アルカリ土類金属、ZnCl2などのハロゲン化金属類が挙げられる。これらのうち、LiCl、CaCl2、ZnCl2などの金属の塩化物が特に好ましい。
また、反応は、進行中、攪拌しながら行うのが好ましい。
こうして得られる本発明のポリイミド前駆体の重量平均分子量は、下限が3000、好ましくは5000、上限は150000、好ましくは100000である。分子量は例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)などで測定できる。
また、得られるポリイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されるものではないが、好ましい対数粘度としては、下限が0.3dL/g、好ましくは0.5dL/g、さらに好ましくは、0.7dL/gである。一方、上限は、5.0dL/gであり、好ましく3.0dL/gであり、より好ましくは2.0dL/gである。対数粘度は、例えばオストワルド粘度計などを用いて測定することができる。
反応により得られたポリイミド前駆体の溶液を濾過することにより、溶液中に含まれる異物粒子を取り除くことが可能である。異物粒子を取り除くことは特に得られる樹脂を光学用途に利用する場合においては重要なことであり、本発明で得られるポリイミド前駆体の異物量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体が、前駆体1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。異物の数は例えば、顕微鏡の画像上で不溶性微粒体の大きさと個数を計測する顕微鏡法によりカウントすることができる。具体的には、キーエンス社製XV−1000などの粒径画像処理装置などを利用すれば容易に計測できる。
また、本発明のポリイミド前駆体の合成は、対応するテトラカルボン酸のジアルキルエステルの二酸ハロゲン化物とジアミンより公知の方法に従って低温溶液重縮合させることによっても可能である(例えば、High Performance Polymers,10,11(1998)などに記載の方法)。具体的には、溶媒の存在下にジアミンと前記一般式(9)〜(16)で表されるテトラカルボン酸誘導体(Xa=Xb=ハロゲン原子)を反応させることで行う。
これらジアミンと前記一般式(9)〜(16)で表されるテトラカルボン酸誘導体(以下「テトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)」と称す。)の反応器への仕込みの方法は任意に選択することができる。例えば、ジアミンを溶媒に溶解しておき、これにテトラカルボン酸誘導体を徐々に添加する方法、逆に、テトラカルボン酸誘導体の溶液にジアミンを徐々に添加する方法、さらには、ジアミンとテトラカルボン酸誘導体をあらかじめ溶媒を仕込んだ反応器にそれぞれ同時に添加する方法などが採用可能である。中でもジアミンを溶媒に溶解しておきテトラカルボン酸誘導体を徐々に添加する方法が反応制御の容易性から有利に採用される。
反応温度は、あまり低すぎると試剤の溶解性が低下することと十分な反応速度が得られないこと、高すぎると反応の進行をコントロールしにくくなることから好ましくない。反応温度は、下限として−20℃、好ましくは−10℃、さらに好ましくは0℃、上限として150℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは80℃が採用される。
反応時間は特に制限なく採用できるが、下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、150時間、好ましくは100時間、さらに好ましくは50時間が採用される。
この重合反応は、溶媒を用いて行う。この際、使用される溶媒としては、上記したジアミンとテトラカルボン酸二無水物の反応で使用される溶媒を用いる事ができる。
溶媒の使用量は、原料であるテトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)とジアミンの総量の重量濃度が以下の範囲に入るような量の溶媒が使用されるのが好ましい。即ち、この濃度の下限は0.1重量%、好ましくは1重量%、さらに好ましくは5重量%、上限は特に制限はないものの、テトラカルボン酸誘導体の溶解性の観点から、80重量%、好ましくは50重量%、さらに好ましくは30重量%が採用される。
この反応の際には、塩基性物質を使用してもよい。ここで、使用可能な塩基性物質は、3級のアミンや無機の塩基性物質である。具体的には、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミンや、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、燐酸のナトリウム塩やナトリウム水素塩等の無機の塩基性物質が使用可能である。中でも、入手の容易性や操作性からピリジンやトリエチルアミンが好ましい。これら塩基性物質は、予め反応の際に使用する溶媒に溶解して添加しておくことが好ましい。塩基性物質の使用量は、テトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)中に含まれる酸の量により任意に変えて使用することができる。もちろん、テトラカルボン酸誘導体中に反応により発生する酸が全くないならば、これら塩基性物質を使用しないことも可能である。酸が発生する場合の塩基性物質の使用量は、重合に使用するテトラカルボン酸誘導体のモル数に対して、下限が2倍モル、好ましくは3倍モル、上限が10倍モル、好ましくは5倍モルである。
また、反応は、進行中、攪拌しながら行うのが好ましい。
このジアミンとテトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)との重合反応は界面重縮合法でも行うことが可能である。界面重縮合法においては、使用する溶媒に特徴がある。即ち、ジアミンは、3級アミン等の塩基性物質を溶解した水溶液に溶解する。一方、テトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)(Xa=Xb=塩素原子の場合)は、水に溶解しない無極性有機溶媒に溶解する。この際、使用される無極性有機溶媒としては、トルエンやキシレンなどの芳香族系溶媒や、シクロヘキサンやヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素溶媒が用いられる。
界面重縮合法により重合反応を行う場合には、これら2つの溶液を混合し、激しく撹拌することでポリイミド前駆体を得ることが可能である。この際、ジアミンとテトラカルボン酸誘導体の仕込量は等モルでなくても支障はない。
さらに本発明のポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)(Xa=Xb=水酸基の場合)と等モルのジアミンを用いて、縮合剤の存在下に製造することができる。例えば、縮合剤としてジアミンと等モルの亜リン酸トリフェニルを用い、ピリジンの存在下に直接重縮合することも可能である。また、他の縮合剤としてN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを用いても同様に直接重縮合可能である。
また、本発明のポリイミド前駆体の製造は、公知の方法(高分子討論会予稿集,49,1917(2000))に従ってジアミンのジシリル化物と式(1)または(2)のテトラカルボン酸二無水物あるいはテトラカルボン酸誘導体(9)〜(16)(Xa=Xb=塩素原子の場合)を上記と同様に低温溶液重縮合することによっても可能である。
本発明のポリイミドを得る際には、本発明のテトラカルボン酸系化合物に加えて他の酸二無水物またはテトラカルボン酸を混合し、ジアミンと共重合させても良い。その際、使用することができる酸二無水物は特に限定はされないが、例えばピロメリット酸などの1つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物(a−ODPA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エ−テル二酸無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二酸無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(BDCF)、2,2’−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物等の2つのベンゼン環を有する芳香族酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等のナフタレン骨格を有する芳香族酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物などのアントラセン骨格を有する芳香族酸二無水物が例として挙げられる。
一方、加えて使用できる脂環式の酸無水物の例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物やエチレンテトラカルボン酸二無水物などの鎖状の脂肪族テトラカルボン酸二無水物や、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物(BPDA水添物)、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などの脂環構造を有するテトラカルボン酸の二無水物などを挙げることができる。
これら酸二無水物と本発明のテトラカルボン酸系化合物との使用割合は得ようとする樹脂の物性により任意に設定可能であるが、本発明のテトラカルボン酸系化合物の使用量が5モル%以上が好ましく、さらに10モル%以上使用することがより好ましい。
なお、必要に応じて溶液状態のポリイミド前駆体を単離することもできる。例えば、ポリイミド前駆体の溶液を、水や、メタノール、アセトン等の貧溶媒に加えることによりポリイミド前駆体を沈澱させ、濾過などにより得られた固体から溶媒を乾燥などにより除去すれば、ポリイミド前駆体を粉末として単離できる。なお、必要に応じてこの粉末を上記した反応溶媒などに溶解させれば再び溶液とすることもでき、この操作を繰り返すことにより本発明のポリイミド前駆体を精製することもできる。
[本発明の重合物の製造方法(イミド化反応)]
前記一般式(7)で表される構造を少なくとも一部に含む重合物を合成する方法は、(i)ポリイミド前駆体から得る方法、および(ii)ポリイミド前駆体を介さずに得る方法が挙げられる。そして、(i)ポリイミド前駆体から得る方法としては、加熱イミド化法および化学イミド化法がある。ただし、本発明の重合物の製造方法は、以下に記載される製法に特に制限されることはない。
(i)ポリイミド前駆体から得る方法
前記一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、上記の方法で得られた本発明のポリイミド前駆体を環化イミド化反応させることで製造することができる。
この際、一般式(7)で表される構造を少なくとも一部に含む重合物の製造可能な形態は、フィルム、粉末、成型体および溶液である。
前記一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物のフィルムは、例えば以下の様にして製造することができる。
まず、前記ポリイミド前駆体の重合溶液(ワニス)をガラス、銅、アルミニウム、シリコン、石英板、ステンレス板、カプトンフィルム等の基板上に流延して塗布する。塗布の方法としては、前述のようにして得られたポリイミド溶液を、上記した基板上に滴下し高さを固定した支持体などの上をなぞり溶液を伸ばすことにより均一な高さに塗布する方法が挙げられる。この際、ドクターブレードなどの機器を使用して行ってもかまわない。また、この他の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法など、溶液を所定の厚みで塗布できる手法であれば制限なく採用できる。
ポリイミド前駆体を基板上に塗布する際には溶媒を用いるが、溶媒の使用量を調整することにより、塗布に適した粘度に調整する。その際の粘度は、下限が、1ポアズ、好ましくは5ポアズで、上限は、100ポアズ、好ましくは80ポアズである。
こうして塗布された塗膜には、溶媒が含まれているので、次に乾燥する。その際に採用される乾燥の温度は、通常下限が20℃、好ましくは40℃、さらに好ましくは、60℃である。一方、上限は通常200℃、好ましくは150℃、さらに好ましくは100℃である。
乾燥の時間は、溶媒がある程度除去されるならば特に制限なく採用できるが、下限が通常10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間、上限は特に制限はないが、通常50時間、好ましくは30時間、さらに好ましくは10時間が採用される。
乾燥は減圧下に行っても良い。その際に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
通常、乾燥後の溶媒の残存量は、通常70重量%以下、好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。
こうして得られた乾燥されたポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中高温度加熱してイミド化する。この方法を加熱イミド化と言う。
この時採用される温度は、下限が通常180℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃である。一方、上限は通常500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃で加熱する。加熱温度は180℃以下であると環化イミド化反応の環化反応が不完全であったりするため好ましくなく、また高すぎると生成したポリイミドフィルムが着色したりする可能性があるため好ましくない。
また、イミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化反応の温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えはない。
加熱イミド化を減圧下に行う場合に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
加熱時間は環化イミド化が十分に進行する時間が採用されるが、通常、下限が5分、好ましくは10分、さらに好ましくは20分、上限は特に制限はないが、通常20時間、好ましくは10時間、さらに好ましくは5時間が採用される。
また、ポリイミド前駆体のフィルムを、脱水試薬を含有する溶液に浸漬することによって化学イミド化反応を行うことも可能である。この反応は、好ましくは3級アミン存在下で反応を行うことが好ましい。この時使用できる3級アミンは、ピリジンなどの芳香族3級アミン、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。この中でもピリジン、およびトリエチルアミンが、入手の容易性、良好な反応性が得られる点で好ましい。
使用する3級アミンの使用量は、通常下限がポリイミド前躯体に含まれるアミド酸基の0.1モル倍、好ましくは0.5モル倍、さらに好ましくは1.0モル倍、下限は通常30モル倍、好ましくは20モル倍、さらに好ましくは10モル倍である。
また、使用可能な脱水試薬としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物等の酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類が挙げられ、この中でも無水酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド類が好ましく、さらには、無水酢酸が入手の容易性、経済性の点でより好ましい。
その際、使用される脱水試薬の量はポリイミド前駆体に含まれるアミド酸基のモル数に対して通常下限が1.0モル倍、好ましくは2.0モル倍、さらに好ましくは4.0モル倍であり、上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍、さらに好ましくは20モル倍である。これらの脱水試薬との処理は常温で行っても良いし、反応の進行が遅い場合には加熱して使用しても良い。
このように環化イミド化反応では、加熱や脱水試薬を用いることが好ましいが、加熱と脱水試薬を併用して反応を行う事もできる。
また、加熱イミド化の別な形態として、本発明のポリイミド前駆体の重合溶液をそのままあるいは同一の溶媒で適度に希釈した後溶液中で加熱することでも、前記一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の溶液(ワニス)を容易に製造することができる。
この加熱イミド化する際の溶液の濃度には特に制限はないが、通常下限が本発明のポリイミド前駆体の重量%で1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%であり、上限は通常80重量%、好ましくは60重量%、さらに好ましくは50重量%である。
また、この際の加熱温度は、下限が通常100℃、好ましくは120℃、さらに好ましくは、150℃である。一方、上限は目的物の着色が起こらない温度であれば自由に設定可能であるが、通常300℃、好ましくは250℃、さらに好ましくは200℃である。
この際、環化イミド化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、トルエンやキシレン等の共沸溶媒を添加し、これら溶媒とともに生成する水を留去しながら反応を行っても差し支えない。
環化イミド化反応の触媒として塩基性物質を添加して反応を行ってもよい。本発明において使用可能な塩基触媒の例としては、ピリジン、γ−ピコリン、ピラジン等の芳香族系アミン類を挙げることができる。
また、ポリイミド前駆体の溶液中に脱水試薬を添加することにより化学イミド化を行うこともできる。この反応は通常、脱水試薬と塩基性物質の存在下に行う。
化学イミド化において使用可能な脱水試薬としては、無水酢酸、やトリフルオロ無水酢酸などの低級カルボン酸の酸無水物や、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族ジカルボン酸の無水物、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのアルキルカルボジイミドなどが挙げられる。その使用量は、ポリイミド前駆体に含まれるアミド酸基のモル数に対して通常下限が1.0モル倍、好ましくは2.0モル倍、さらに好ましくは4.0モル倍であり、上限は特に制限はないが、通常は50モル倍、好ましくは30モル倍、さらに好ましくは20モル倍である。脱水試薬が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると目的物中に残存してしまう、という問題を生ずる。
一方、使用可能な塩基性物質の種類としては特に限定されないが、ピリジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ジメチルアミノピリジン等の有機3級アミン類、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の無機の塩基性物質を用いることができる。中でもピリジンや、トリエチルアミンは安価に入手できる点や液体で溶解性に富むため反応操作が容易になる、という点で好ましい。
塩基性物質の使用量は、通常下限がポリイミド前躯体のアミド酸基の0.1モル倍、好ましくは0.5モル倍、さらに好ましくは1.0モル倍、上限は通常30モル倍、好ましくは20モル倍、さらに好ましくは10モル倍である。塩基性物質が少なすぎると反応の進行が遅くなり、多すぎると目的物中に残存してしまう、という問題を生ずる。
反応溶媒としては前述したポリイミド前駆体合成時に用いる溶媒を使用することができる。
採用される反応温度は下限が通常−10℃、好ましくは−5℃、より好ましくは0℃、上限は通常80℃、好ましくは60℃、より好ましくは40℃である。
反応時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。
反応は通常、常圧で行われるが、必要に応じて加圧下、または減圧下でも実施することができる。
反応雰囲気は、通常窒素雰囲気とされる。
このイミド化反応によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
上記の方法により得られる一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物を溶液とし、あるいは反応で得られる溶液に、ベンゾイルクロリドや無水酢酸とピリジンのような試薬を加えて末端アミノ基をアミド基として保護することもできる。こうすると、ポリイミドの着色が防がれ、安定性も向上するので好ましい。
上記の様にして脱水試薬と塩基性物質存在下にイミド化する方法においては、ポリイミドの異性体であるポリイソミドが混合することがある。ポリイソミドの混合割合は、通常50%以上であり、好ましくは80%以上である。なおこのポリイソミドが混合したポリイミドは、粉末とした後、あるいは再度溶媒に溶かして基板などに塗布してフィルムとした後に加熱することにより混合したポリイソミドをポリイミドへ異性化させることができる。
この際の温度は、下限として通常100℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは300℃が採用可能である。一方上限は、通常500℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃が採用可能である。また、その際の反応時間は、通常下限が5分、好ましくは10分、上限は特に制限はないが通常は100時間、好ましくは24時間である。
(ii)ポリイミド前駆体を介さずに得る方法
ポリイミド前駆体を介さずに得る方法としては、上記一般式(1)または(2)で表されるテトラカルボン酸系化合物を原料として、これをジアミン類と反応させて直接環化イミド化反応を行い、本発明の重合物を製造する方法が挙げられる。
この方法は、中間体であるポリイミド前駆体を途中単離せずに、直接環化イミド化まで行う方法であるが、その際の反応条件としては、上述したポリイミド前駆体から一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物を製造する加熱イミド化の条件を適宜採用することができる。
[本発明の重合物の形態の変換方法]
上記のようにして得られる前記一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、これを溶媒に溶解して溶液(ワニス)とすると、これから種々形態を変えた重合物を容易に製造できる。
例えば、大量の貧溶媒中に滴下・濾過すると、前記一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物を粉末として単離することができる。この際に使用可能な貧溶媒としては特に限定されないが、水、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させた特定重合体は濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥して粉末とすることが出来る。
また、粉末とした重合物を、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2〜10回繰り返すと、重合物中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として例えばアルコール類、ケトン類、炭化水素など3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
こうして得られた粉末の重合物は、再び溶媒に溶解させることで溶液(ワニス)とすることができる。
その際に使用可能な溶媒としては、ポリイミド前駆体を合成する際に用いた溶媒が使用できる。
さらにこれに加え、塗膜均一性向上を目的として、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどの低表面張力を有する溶媒も用いることができる。これら溶媒は1種類でも複数種類を混合して用いても良い。
また、これら塗膜均一性向上を目的とした溶媒の混合量としては、好ましくは全溶媒中の10〜80重量%、より好ましくは20〜60重量%である。また、この時の重合物の濃度は、下限が通常1重量%、好ましくは5重量%、さらに好ましくは10重量%、上限は通常80重量%、好ましくは60重量%、さらに好ましくは50重量%である。
このようにして得られたポリイミド溶液(ワニス)は、各種材料のコーティング材として製膜用、皮膜用として使用することができる。
また、この重合物の溶液を濾過することにより含まれる異物粒子を取り除くことが可能である。異物粒子を取り除くことは光学用途においては重要なことであり、本発明で得られる一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物の異物量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体として、前駆体1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。この不溶性微粒体量の測定の方法は前述の通りである。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の粉末を加熱圧縮することにより、所望の形の重合物の成型体とすることができる。その際に加熱する温度は、下限が通常150℃、好ましくは200℃、さらに好ましくは250℃であり、一方、上限は通常450℃、好ましくは400℃、さらに好ましくは350℃である。また、一旦単離した重合物の粉末を例えば、重合の際に使用した溶媒に再溶解すると一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物のワニスに戻すこともできる。
さらにこの一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物のワニスを、基板上に塗布して乾燥すると一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物のフィルムを形成することができる。
この場合の塗布方法に特に制限はないが、例えば重合物の溶液を石英板、ステンレス板、カプトンフィルムなどの光学用基板に滴下し、高さを固定した支持体上をなぞり溶液を伸ばすことにより均一な高さに塗布する方法が挙げられる。この際、ドクターブレードなどの機器を使用して行ってもかまわない。
また、この他の塗布方法としては、スプレー法、ディップコート法、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられるが、生産性の面から工業的には転写印刷法が広く用いられており、本発明においても好適に用いられる。
このようにして塗布された一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む重合物はまだ多量の溶媒を含んでいる。そこで、加熱して溶媒を除去する。その際の温度は、通常下限が70℃、好ましくは100℃、さらに好ましくは150℃であり、上限は通常350℃、好ましくは300℃、さらに好ましくは250℃である。加熱は、段階的に昇温しても良いし連続的に昇温してもかまわない。
これらの工程は、減圧下もしくは不活性雰囲気中で行っても良い。
減圧下に行う場合に採用される減圧度は、通常0.05MPa以下、好ましくは0.01MPa以下、さらに好ましくは0.001MPa以下である。
また、このようにして得られたフィルムは必要に応じてウェットエッチング、ドライエッチング、レーザーアブレーションなどの方法によりパターニングして、所定の形に形成した光部品とすることもできる。
このようにして得られる一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物を用いたフィルム、光部品等の光学用素子は、複屈折も小さく無色透明であるために、厚膜であってもそれらの物性は極めて良好である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物のフィルムを形成する際の厚みは、塗布する溶液の厚みを変えることにより制御することができ、下限が通常0.1μm、好ましくは1μm、さらに好ましくは5μm、上限は通常1000μm、好ましくは700μm、さらに好ましくは500μmである。
さらに、一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、溶媒溶解性に優れるため、その溶液からシートや、繊維などその形態は用途に応じて自由に加工することができる。また、フィルムは単層ばかりでなく多層として使用することも可能である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物およびその前駆体には、必要に応じて酸化安定剤、無機および/又は有機のフイラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、難燃剤および増感剤等の添加物を加えることができる。
また、強度向上、耐熱性の増強、吸水性の低下、など樹脂に要求される物性を達成するために、他の樹脂を混合することも可能である。
その際に使用される樹脂は、一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物と均一に混合することができれば問題なく、特に制限はされないが、例えばポリイミドや、ポリエーテルイミド、他の組成のポリエステルイミド、ポリエーテルスルホン、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリシクロオレフィンなどの光学用透明性樹脂などが挙げられる。
[本発明の重合物の物性]
上述した優れた耐熱性、透過性、吸収性等の物性を併せ持つ樹脂の中でも、一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の具体的な物性を下記に示す。
この重合物のガラス転移温度Tg(℃)は、通常下限が200℃、好ましくは250℃であり、上限は通常500℃、好ましくは450℃、さらに好ましくは400℃の範囲内であり、高い耐熱性を有する。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、後述の実施例の項に記載するように、ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、引っ張り測定により、昇温速度10℃/分における引張り伸び量の変化から求めることができる。
また、耐熱性を表す別の指標としての5%重量減少温度は、不活性ガス雰囲気では通常350℃以上、好ましくは400℃以上、さらに好ましくは420℃以上、空気雰囲気では、通常350℃以上、好ましくは380℃以上、さらに好ましくは400℃以上である。
さらに一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、透明性が高いという特徴を持つ。その透明性は、厚さ30μmのポリイミドフィルムにして測定した紫外線・可視光吸収スペクトルのグラフにおいて、250〜800nmの波長の範囲内における平均透過率が、通常は50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。また、400nmの単色光の透過率は、通常70%以上、好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは85%以上である。また、カットオフ波長は通常350nm以下、好ましくは330nm以下、さらに好ましくは310nm以下である。カットオフ波長の下限は通常220nm、好ましくは250nmである。
なお、カットオフ波長は、後述の実施例の項に記載するように、島津製作所社製紫外可視分光光度計(UV−3100S)を用いて、膜厚が30μmのフィルムについて、波長200nmから800nmの可視・紫外線透過率を測定し、透過率が0.5%以下となる波長(カットオフ波長)を調べることにより、求めることができる。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、光学的等方性に優れており複屈折が小さいという特徴を持つ。通常、その複屈折は、0.05以下、好ましくは0.01以下、さらに好ましくは0.005以下となる。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の鉛筆硬度(JIS−K5400)は、通常B〜7Hの範囲内であり、好ましくはH〜4Hの範囲内である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の屈折率は、上限が通常1.75、好ましくは1.70、さらに好ましくは1.68、下限が1.50、好ましくは1.53、さらに好ましくは1.55である。なお、樹脂中にフッ素原子を導入すると屈折率が低下することはよく知られているが、本発明の重合物にもフッ素原子を導入すると屈折率は下がり、その場合の屈折率は、通常上限が1.65、好ましくは1.63、さらに好ましくは1.60であり、下限は通常1.45、好ましくは1.48、さらに好ましくは1.50である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の1MHzにおける誘電率は通常3.2以下であり、好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.9以下である。また、樹脂中にフッ素原子を導入すると誘電率が低下することはよく知られているが、本発明の重合物にもフッ素原子を導入すると誘電率は下がり、その場合の誘電率は、通常3.0以下、好ましくは2.8以下、さらに好ましくは2.7以下となる。さらに、1〜20GHzの範囲において誘電正接についても周波数依存性が低く、0.005〜0.020の範囲でほぼ一定の値を示すという特徴も有しており、極めて優れた高周波特性を持つ。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物中に含まれる異物粒子の量は通常、投影面積円相当径が5〜20μmである不溶性微粒体としては、前述の如く、重合物1g当り5000個以下であり、好ましくは3000個以下、さらに好ましくは1000個以下である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の25℃の水に24時間浸漬した際の吸水率は、通常2.0重量%以下、好ましくは1.5重量%以下、さらに好ましくは1.0重量%以下である。
なお、この吸水率は、後述の実施例の項に記載するように、膜厚30μmに形成したフィルムを80℃で3時間真空乾燥した後、25℃の水に24時間浸漬し、次いでフィルムを引き上げて乾いた吸水性の良い紙(パルプ100%)にはさみこんで1分間放置し、フィルムの表面に付着した水分を紙にしみこませ、さらに紙を2回交換し、同様の操作を繰り返した後、重量を測定し、浸漬前後の重量増加分から求めることができる。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物の線熱膨張率は、通常100ppm/K以下、好ましくは50ppm/K以下、さらに好ましくは30ppm/K以下である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、溶剤に対して高い溶解性を示す。特に上記したポリイミド前駆体を合成する際に用いた溶媒にはよく溶解し、容易に溶液とすることができる。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物は、上記したフィルムとした時、しなやかで折り曲げることができ、元に戻した時には平らなフィルムに戻るという高い復元性がある特徴を持つ。通常、一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物のフィルムは、180°の折り曲げを行っても割れることのない柔軟性に優れたものとして製造することも可能である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物をフィルムとした時の引っ張り強度は、通常10MPa以上、好ましくは30MPa以上、さらに好ましくは50MPa以上である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物をフィルムとした時の引っ張り弾性率は、通常0.1GPa以上、好ましくは0.5GPa以上、さらに好ましくは1.0GPa以上である。
一般式(7)の構造を少なくとも一部に含む本発明の重合物をフィルムとした時の引っ張り伸びは、通常下限が0.1%、好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、上限は、通常100%以下、好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。
[用途]
本発明の重合物は、高ガラス転移温度、低複屈折性、無色透明性、低吸水性、低誘電性を同時に満たすものであり、これらの優れたバランスのとれた特性を生かして、半導体分野、光学材料分野、光通信分野、表示装置分野、電気電子機器分野、輸送機器分野、航空宇宙分野などにおける素材として使用できる。
例えば、光学材料分野としては、レンズ、回析格子などの精密光部品、ホログラム、CD、MD、DVD、光ディスク等のディスク基板、光学用接着剤、表示装置用途としては、LCD用基板、偏光板用支持フィルム、透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、LCD用接着剤、LCD用スペーサ、LCD用電極基板、カラーフィルター用透明保護膜、カラーフィルター、透明保護膜等、LCD以外の表示材料用途としてはプロジェクター用のスクリーン、プラズマディスプレイ用の基板やフィルム、光学フィルター、有機EL用コーティング材料等、光通信分野や光学素子分野では、光ファイバー、光導波路、光分岐器、光合波器、光スイッチング素子、光変調器、光フィルター、波長分割器、光増幅器、光減衰器、光波長変換器、電気電子機器分野では、絶縁テープ、各種積層板、フレキシブルプリント回路基板、多層プリント回路基板用接着フィルム、プリント回路基板用カバーフィルム、半導体集積回路素子の表面保護膜、電線用被覆剤、などや、フラッシュメモリー、CCD、PD、LD等の光半導体の封止材、半導体分野ではバッファーコート膜、パッシベーション膜、層間絶縁膜等、感光性ポリマーのベースポリマー半導体コーティング剤、アンダーフィル剤、航空宇宙分野では、ソーラーセル、熱制御システム等の特別な航空宇宙用コンポーネントコーティング材等、この他本剤の特性を生かして、太陽電池の被覆材やベースフィルム基材、接着剤、その他のコーティング材料用などが挙げられる。
本発明の重合物をこれら用途に適用する場合には、該当する技術分野における当業者の知見の範囲内で適用することができる。具体的には、各種材料のコーティングや単層及び多層フィルム、シート、繊維、成型体といった形態での使用や、またこれらに対する酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、難燃剤及び増感剤等の添加、他の樹脂との混合等である。
中でも、本発明の重合物は、溶媒に可溶で塗布により低温でフィルム化でき、また光学的に透明で光透過率が高く複屈折が極めて小さいという他の光学用樹脂にはない特性バランスを有することから液晶ディスプレイ用の各種部材として使用することに適している。例えば、配向膜、粘着剤、偏光板、カラーフィルター、樹脂ブラックマトリックス材料、視野角補償フィルムなどの液晶ディスプレイ用部材を作成する際の原料樹脂として利用することが可能である。