以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
先ず、前記5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類について説明する。すなわち、前記5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類は、下記一般式(1):
[式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは0〜12の整数を示す。]
で表されるものである。なお、以下において、このような一般式(1)で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類を、場合により、単に「ビス(スピロノルボルネン)類」という。
このような一般式(1)中のR1として選択され得るアルキル基は、炭素数が1〜10のアルキル基である。このような炭素数が10を超えると、ポリイミドのモノマーとして用いた場合に、得られるポリイミドの耐熱性が低下する。また、このようなR1として選択され得るアルキル基の炭素数としては、ポリイミドを製造した際により高度な耐熱性が得られるという観点から、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。また、このようなR1として選択され得るアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
前記一般式(1)中のR1としては、ポリイミドを製造した際により高度な耐熱性が得られるという観点から、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であることがより好ましく、中でも、原料の入手が容易であることや精製がより容易であるという観点から、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であることがより好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。また、このような式中の複数のR1は精製の容易さ等の観点から、同一のものであることが特に好ましい。
また、前記一般式(1)中のnは0〜12の整数を示す。このようなnの値が前記上限を超えると、前記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類の精製が困難になる。また、このような一般式(1)中のnの数値範囲の上限値は、よりビス(スピロノルボルネン)類の精製が容易となるといった観点から、5であることがより好ましく、3であることが特に好ましい。また、このような一般式(1)中のnの数値範囲の下限値は、原料の安定性の観点から、1であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。このように、一般式(1)中のnとしては、2〜3の整数であることが特に好ましい。
また、このような一般式(1)中のR2、R3として選択され得る炭素数1〜10のアルキル基は、R1として選択され得る炭素数1〜10のアルキル基と同様のものである。このようなR2、R3として選択され得る置換基としては、精製の容易さの観点から、上記置換基の中でも、水素原子、炭素数1〜10(より好ましくは1〜5、更に好ましくは1〜3)のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。
このような一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類としては、具体的には、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロペンタノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン(別名「5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン」)、メチル−5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロペンタノン−α’−スピロ−2’’−(メチル−5’’−ノルボルネン)、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロヘキサノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン(別名「5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン」)、メチル−5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロヘキサノン−α’−スピロ−2’’−(メチル−5’’−ノルボルネン)、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロプロパノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロブタノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロヘプタノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロオクタノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロノナノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロウンデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロドデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロトリデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロテトラデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロペンタデカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−(メチルシクロペンタノン)−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−(メチルシクロヘキサノン)−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン等が挙げられる。
次に、前記5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類(ビス(スピロノルボルネン)類)を製造する方法として好適な方法について説明する。
前記5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類を製造する方法として好適な方法は、ホルムアルデヒド誘導体を含有し且つ式:HX(式中、Xは、F、Cl、Br、I、CH3COO、CF3COO、CH3SO3、CF3SO3、C6H5SO3、CH3C6H4SO3、HOSO3及びH2PO4からなる群から選択される1種を示す。)で表される酸を0.01mol/L以上含有している酸性溶媒中、下記一般式(2):
[式(2)中、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは0〜12の整数を示す。]
で表されるカルボニル化合物と、下記一般式(3):
[式(3)中、R4は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜20の直鎖状の飽和炭化水素基、炭素原子数3〜20の分岐鎖状の飽和炭化水素基、炭素原子数3〜20の飽和環状炭化水素基及び水酸基を有する炭素原子数1〜10の飽和炭化水素基からなる群から選択される1種を示し、2つのR4は互いに結合してピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環及びモルホリン環からなる群から選択される1種の環を形成していてもよく、X−は、F−、Cl−、Br−、I−、CH3COO−、CF3COO−、CH3SO3 −、CF3SO3 −、C6H5SO3 −、CH3C6H4SO3 −、HOSO3 −及びH2PO4 −からなる群から選択される1種を示す。]
で表されるアミン化合物とを反応させて、下記一般式(4):
[式(4)中のR2、R3、nは上記式(2)中のR2、R3、nと同義であり、式(4)中のR4、X−は上記式(3)中のR4、X−と同義である。]
で表されるマンニッヒ塩基を形成せしめ、前記酸性溶媒中に前記マンニッヒ塩基を含有する反応液を得る第一工程と、
前記反応液中に、有機溶媒と、前記酸に対して1.0〜20.0倍当量の塩基と、下記一般式(5):
[式(5)中、R1は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示す。]
で表されるジエン化合物とを添加し、加熱して、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応せしめ、上記一般式(1)で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類を形成せしめる第二工程と、
を含む方法である。なお、このような方法によれば、5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類を十分に高度な収率で効率よく製造することを可能とする5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類の製造方法を提供することが可能となる。以下、第一工程と第二工程とに分けて説明する。
(第一工程)
第一工程は、前記酸性溶媒中、上記一般式(2)で表されるカルボニル化合物と上記一般式(3)で表されるアミン化合物とを反応させて、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基を形成せしめ、前記酸性溶媒中に前記マンニッヒ塩基を含有する反応液を得る工程である。
このような第一工程において用いる酸性溶媒は、ホルムアルデヒド誘導体を含有する。このようなホルムアルデヒド誘導体としては、いわゆるマンニッヒ塩基を製造する際に用いることが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキソール、1,3−ジオキサン、1,3−ジオキシン、1,3−ジオキセパン、ジヒドロ−1,3−ジオキセピン、1,3−ジオキセピン、1,3−ジオキソカン、ジヒドロ−1,3−ジオキソシン、1,3−ジオキソシン、ホルムアルデヒドジメチルアセタール、ホルムアルデヒドジエチルアセタール、ホルムアルデヒドジプロピルアセタール、ホルムアルデヒドジブチルアセタール、ホルムアルデヒドジフェニルアセタール等が挙げられる。
また、このようなホルムアルデヒド誘導体の中でも、入手の容易性の観点から、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、1,3−ジオキソランが好ましく、ホルマリン、パラホルムアルデヒドがより好ましい。また、このようなホルムアルデヒド誘導体は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよいが、精製上の観点からは1種を単独で用いることが好ましい。
このようなホルムアルデヒド誘導体の含有量としては、前記酸性溶媒中に2.0〜50.0質量%であることが好ましく、4.0〜25.0質量%であることがより好ましい。このようなホルムアルデヒド誘導体の含有量が前記下限未満では、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、収率が低下したり、精製が困難になる傾向にある。
また、第一工程において用いる前記酸性溶媒は、前記ホルムアルデヒド誘導体とともに、式:HX(式中、Xは、F、Cl、Br、I、CH3COO、CF3COO、CH3SO3、CF3SO3、C6H5SO3、CH3C6H4SO3、HOSO3及びH2PO4からなる群から選択されるいずれかを示す。)で表される酸を含有する。
このような酸(HX)の種類としては、上記式:HXで表されるものであればよく特に制限されるものではないが、酸性溶媒中における上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の安定性の観点から、前記式中のXがF、Cl、Br、CH3COO、CF3COOである酸がより好ましく、前記式中のXがCl、CH3COOである酸が更に好ましい。
このような酸性溶媒においては、前記酸(HX)の含有量が0.01mol/L以上(より好ましくは0.01〜2.0mol/L、更に好ましくは0.02〜2.0mol/L、特に好ましくは0.04〜1.0mol/L)である必要がある。このような酸の含有量が前記下限未満では、第一工程において調製するマンニッヒ塩基の収率が十分なものとならず、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類を十分に効率よく調製することができなくなる。また、前記酸(HX)の含有量が前記上限を超えると、収率が低下したり、精製が困難となる傾向にある。
また、このような酸性溶媒においては、前記ホルムアルデヒド誘導体及び前記酸の他に溶媒を含んでいてもよい。このような溶媒としては、水、アルコール、グリコール、グリセリン、エーテル、セロソルブ、ニトリル、アミド等が挙げられる。また、このような溶媒の含有量は、酸性溶媒中に20〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。このような溶媒の含有量が前記下限未満では、混合が不均一となり、マンニッヒ塩基の収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、反応速度が低下し収率が減少してしまう傾向にある。
また、第一工程においては、前記ホルムアルデヒド誘導体を含有し且つ前記酸(式:HXで表される酸)を0.01mol/L以上含有している前記酸性溶媒を用いることにより、酸が過剰に存在する酸性条件下において前記カルボニル化合物と前記アミノ化合物とを反応させることが可能となり、これによりビス(スピロノルボルネン)類の調製に用いる反応中間体である上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基を効率よく製造することが可能となる。
また、第一工程に用いられる前記カルボニル化合物は、下記一般式(2):
[式(2)中、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される1種を示し、nは0〜12の整数を示す。]
で表されるカルボニル化合物である。
また、このような一般式(2)中のR2、R3として選択され得る置換基は、一般式(1)中のR2、R3として選択され得る置換基と同様のものである。このようなR2、R3として選択され得る置換基としては、精製の容易さの観点から、上記置換基の中でも、水素原子、炭素数1〜10(より好ましくは1〜5、更に好ましくは1〜3)のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。更に、上記一般式(2)中のnは上記一般式(1)中のnと同様の整数であり、その好適な値も上記一般式(1)中のnと同様である。
このような一般式(2)で表されるカルボニル化合物としては、例えば、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノン、シクロトリデカノン、シクロテトラデカノン、シクロペンタデカノン、3−メチルシクロブタノン、3−メチルシクロペンタノン、3−メチルシクロヘキサノン、3−メチルシクロヘプタノン、3−メチルシクロオクタノン、3−メチルシクロノナノン、3−メチルシクロデカノン、3−メチルシクロウンデカノン、3−メチルシクロドデカノン、3−メチルシクロトリデカノン、3−メチルシクロテトラデカノン、3−メチルシクロペンタデカノン、3−フルオロシクロブタノン、3−フルオロシクロペンタノン、3−フルオロシクロヘキサノン、3−フルオロシクロヘプタノン、3−フルオロシクロオクタノン、3−フルオロシクロノナノン、3−フルオロシクロデカノン、3−フルオロシクロウンデカノン、3−フルオロシクロドデカノン、3−フルオロシクロトリデカノン、3−フルオロシクロテトラデカノン、3−フルオロシクロペンタデカノン、3,4−ジメチルシクロペンタノン、3,4−ジメチルシクロヘキサノン、3,5−ジメチルシクロヘキサノン、3,4,5−トリメチルシクロヘキサノン、3,4−ジフルオロシクロペンタノン、3,4−ジフルオロシクロヘキサノン、3,5−ジフルオロシクロヘキサノン、3,4,5−トリフルオロシクロヘキサノン、3,3,4,4−テトラフルオロシクロペンタノン、3,3,4,4,5,5−ヘキサフルオロシクロヘキサノン等が挙げられる。
また、このような一般式(2)で表されるカルボニル化合物の調製方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、このような一般式(2)で表される化合物は、市販のものを用いてもよい。
また、第一工程に用いられる前記アミン化合物は、下記一般式(3):
[式(3)中、R4は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜20の直鎖状の飽和炭化水素基、炭素原子数3〜20の分岐鎖状の飽和炭化水素基、炭素原子数3〜20の飽和環状炭化水素基及び水酸基を有する炭素原子数1〜10の飽和炭化水素基からなる群から選択されるいずれか1種を示し、2つのR4が互いに結合してピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環及びモルホリン環からなる群から選択される1種の環を形成していてもよく、X−は、F−、Cl−、Br−、I−、CH3COO−、CF3COO−、CH3SO3 −、CF3SO3 −、C6H5SO3 −、CH3C6H4SO3 −、HOSO3 −及びH2PO4 −からなる群から選択される1種を示す。]
で表されるアミン化合物である。
上記一般式(3)中のR4として選択され得る直鎖状の飽和炭化水素基は炭素原子数1〜20のものである。このような直鎖状の飽和炭化水素基は、炭素原子数が1〜10であることがより好ましく、1〜5であることが更に好ましい。このような直鎖状の飽和炭化水素基の炭素原子数が前記上限を超えると精製が困難となる傾向にある。このようなR4として選択され得る直鎖状の飽和炭化水素基としては、精製の容易さの観点から、メチル基、エチル基がより好ましい。
また、このようなR4として選択され得る分岐鎖状の飽和炭化水素基は、炭素原子数が3〜20のものである。このような分岐鎖状の飽和炭化水素基は、炭素原子数が3〜10であることがより好ましく、3〜5であることが更に好ましい。このような分岐鎖状の飽和炭化水素基の炭素原子数が前記上限を超えると精製が困難となる傾向にある。このようなR4として選択され得る分岐鎖状の飽和炭化水素基としては、精製の容易さの観点から、イソプロピル基がより好ましい。
さらに、このようなR4として選択され得る飽和環状炭化水素基は、炭素原子数が3〜20のものである。このような飽和環状炭化水素基は、炭素原子数が3〜10であることがより好ましく、5〜6であることが更に好ましい。このような飽和環状炭化水素基の炭素原子数が前記上限を超えると精製が困難となり、他方、前記下限未満では化学的安定性が低下する傾向にある。このようなR4として選択され得る飽和環状炭化水素基としては、精製の容易さと化学的安定性の観点から、シクロペンチル基、シクロヘキシル基がより好ましい。
このようなR4として選択され得る水酸基を有する飽和炭化水素基は、炭化水素基の炭素原子数が1〜10のものである。このような水酸基を有する飽和炭化水素基においては、炭素原子数が2〜10であることがより好ましく、2〜5であることが更に好ましい。このような水酸基を有する飽和炭化水素基の炭素原子数が前記上限を超えると精製が困難となり、他方、前記下限未満では化学的安定性に劣る傾向にある。このようなR4として選択され得る水酸基を有する飽和炭化水素基としては、精製の容易さ及び化学的安定性の観点から、2−ヒドロキシエチル基がより好ましい。
また、一般式(3)中の2つのR4としては、これらが互いに結合して、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環及びモルホリン環のうちのいずれかの環を形成していてもよい。すなわち、一般式(3)中の2つのR4は、R4同士が互いに結合して、式(3)中の窒素原子(N)と一緒になって、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、又は、モルホリン環を形成していてもよい。このようにR4同士が互いに結合して環を形成する場合においては、臭気上の観点から、モルホリンがより好ましい。
さらに、このような一般式(3)中のR4としては、精製の容易さの観点から、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基、モルホリンがより好ましい。
上記一般式(3)中のX−は、いわゆるカウンターアニオンである。このようなX−は、F−、Cl−、Br−、I−、CH3COO−、CF3COO−、CH3SO3 −、CF3SO3 −、C6H5SO3 −、CH3C6H4SO3 −、HOSO3 −及びH2PO4 −からなる群から選択されるいずれか1種である。このようなX−としては、得られる一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の安定性の観点から、F−、Cl−、Br−、CH3COO−、CF3COO−が好ましく、Cl−、CH3COO−がより好ましい。
また、このような一般式(3)で表されるアミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−sec−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジペンチルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジノナデシルアミン、モルホリン、ジエタノールアミン、アジリジン、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、インドリン、イソインドリン等の2級アミンの塩(上記X−がカウンターアニオンとなる2級アミンの塩)が挙げられる。
このようなアミン化合物の製造方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができる。
また、第一工程においては、前記酸性溶媒中、上記一般式(2)で表されるカルボニル化合物と、上記一般式(3)で表されるアミン化合物とを反応させる。このような反応に用いるカルボニル化合物の量は、酸性溶媒中での濃度が0.01〜5.0mol/Lであることが好ましく、0.1〜2.0mol/Lであることがより好ましい。このようなカルボニル化合物の量が前記下限未満では、前記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の製造効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると副反応による副生成反応物が増加する傾向にある。
また、前記アミン化合物の使用量としては、前記カルボニル化合物に対して2当量以上とすることが好ましく、2〜10当量とすることがより好ましい。このような使用量が前記下限未満ではマンニッヒ塩基の収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると副反応による副生成反応物が増加する傾向にある。
また、前記酸性溶媒中において前記カルボニル化合物と前記アミン化合物とを反応させる際の反応条件は特に制限されるものではなく、用いる溶媒の種類等に応じて、その条件を適宜変更することができる。このような反応条件としては、前記酸性溶媒が接する雰囲気を窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。また、前記反応を促進させるという観点からは、前記反応を加熱条件下において進行させることが好ましい。このような加熱条件としては、30〜180℃(より好ましくは80〜120℃)の温度で0.5〜10時間(より好ましくは1〜5時間)加熱する条件を採用することが好ましい。このような加熱温度及び時間が前記下限未満では、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ビス(ビニルケトン)やビニルケトンダイマー等の副生物が増加し、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基の収率が低下する傾向にある。
このようにして、前記酸性溶媒の存在下、上記一般式(2)で表されるカルボニル化合物と上記一般式(3)で表されるアミン化合物とを反応させることにより、下記一般式(4):
[式(4)中のR2、R3、nは上記式(2)中のR2、R3、nと同義であり、式(4)中のR4、X−は上記式(3)中のR4、X−と同義である。]
で表されるマンニッヒ塩基を形成することができ、これにより、前記酸性溶媒中に前記マンニッヒ塩基を含有する反応液を得ることができる。
また、このような第一工程においては、前記酸性溶媒を用いることで酸(HX)が過剰に存在する酸性条件下(前記酸(HX)が0.01mol/L以上存在する酸性条件下)において前記カルボニル化合物と前記アミン化合物とを反応させることにより、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基を十分に高度な収率で形成することを可能とする。このようにして、第一工程において、反応中間体(マンニッヒ塩基)の製造効率及び収率が十分に向上される。そして、このようにして形成されたマンニッヒ塩基を含有する反応液を第二工程においてそのまま用いるため、効率よくマンニッヒ塩基を利用することができ、この点からも最終目的物の収率が向上するものと推察される。
(第二工程)
第二工程は、前記反応液中に、有機溶媒と、前記酸に対して1.0〜20.0倍当量の塩基と、上記一般式(5)で表されるジエン化合物とを添加し、加熱して、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応せしめ、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類を形成せしめる工程である。
第二工程においては、前記第一工程において得られた反応液を用いる。このように、第二工程において、前記反応液からマンニッヒ塩基を単離することがないため、反応液中に存在する反応中間体である前記マンニッヒ塩基を高効率で利用することができるとともに工程の簡略化が図れ、これにより、十分に効率よくビス(スピロノルボルネン)類を製造することが可能となる。
また、第二工程においては、前記反応液に有機溶媒を添加する。このような有機溶媒としては特に制限されず、いわゆるディールス・アルダー反応(Diels−Alder反応)に利用することが可能な有機溶媒を適宜利用することができる。例えば、アルコール系溶媒(グリコール系溶媒、グリセリン系溶媒、その他の多価アルコール系溶媒を含む)、セロソルブ系溶媒、エーテル系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒が挙げられ、目的とするビス(スピロノルボルネン)類の種類等に応じて好適な有機溶媒を適宜選択して利用できる。
また、このような有機溶媒としては、反応後の抽出工程の簡便化の観点から、炭素原子数5〜30の飽和炭化水素と混和しない有機溶媒が好ましい。このような炭素原子数5〜30の飽和炭化水素と混和しない有機溶媒としては、メタノール、メチルセロソルブ、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等が好ましく、中でも抽出操作の簡便さの観点から、メタノール、メチルセロソルブがより好ましい。
また、前記反応液中に添加する有機溶媒の添加量は特に制限されないが、前記反応液と添加する有機溶媒との総量に対して10〜80質量%(より好ましくは20〜60質量%)とすることが好ましい。このような有機溶媒の添加量が前記下限未満では反応速度が低下し収率が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとビニルケトンダイマー等の副生物が増加し、目的物の収率が低下する傾向にある。
また、第二工程においては、前記反応液に塩基を添加する。このような塩基の種類は特に制限されるものではないが、塩基性の観点から、アミン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物を好適に用いることができる。このような塩基の中でも、精製上の観点から、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミンが好ましく、ジメチルアミンが特に好ましい。
また、このような塩基の添加量は、前記反応液中に含まれる酸に対して1.0〜20.0倍当量(より好ましくは1.5〜10.0倍当量、更に好ましくは2.0〜5.0倍当量)とする必要がある。このような塩基の添加量が前記下限未満ではマンニッヒ塩基の分解が抑制され目的物の原料となるビス(ビニルケトン)中間体が生成しない、他方、前記上限を超えると精製時に多量の中和剤が必要となり抽出が困難となる。このように、第二工程において前記反応液を中性又は塩基性として、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応せしめることにより、副生成物(例えば、前記マンニッヒ塩基からアミノ化合物が脱離して形成されるビス(ビニルケトン)がヘテロ・ディールス・アルダー反応によって二量化した二量化生成物(ダイマー))の生成を十分に抑制し、目的とするビス(スピロノルボルネン)類を十分に選択率高く製造することを可能とする。
さらに、第二工程においては、前記反応液に下記一般式(5):
[式(5)中、R1は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基及びフッ素原子よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるジエン化合物を添加する。
このような一般式(5)中のR1として選択され得る置換基は、一般式(1)中のR1として選択され得る置換基と同様のものであり、その好適なものも同様である。
このようなジエン化合物の添加量としては、前記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基に対して2当量以上であることが好ましく、2〜10当量であることがより好ましい。このようなジエン化合物の添加量が前記下限未満ではビス(スピロノルボルネン)の収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると副反応による副生成物が増加する傾向にある。
また、前記第二工程においては、前記反応液中に、前記有機溶媒と、前記塩基と、前記ジエン化合物とを添加した後に、得られた混合液を加熱して、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応せしめる。
このような加熱の際の条件は、前記混合液中において、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応させて、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類を製造することが可能な条件であればよい。このようなマンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応させる際の加熱温度としては、30〜180℃(より好ましくは80〜140℃)であることが好ましい。このような加熱温度が前記下限未満ではマンニッヒ塩基の分解速度が低下し、目的物の収率が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ビニルケトンダイマーや、目的物にジエンがもう一分子ディールス・アルダー付加したテトラシクロドデセン等の副生成物が増加し、目的物の選択率が低下する傾向にある。
また、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物とを反応させる際の加熱時間としては、0.01〜5.0時間であることが好ましく、0.1〜1.5時間であることがより好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると副生物が増加する傾向にある。なお、かかる加熱の際の雰囲気は、着色防止や安全性の観点から、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
また、加熱の方法については、予め前記加熱温度に加熱してある反応容器に、前記マンニッヒ塩基と前記ジエン化合物と前記塩基と前記有機溶媒の混合液を滴下する方法を採用してもよい。また、このようにして混合液を滴下する方法を採用する場合においては、前記有機溶媒の一部を反応容器に予め入れておいてもよい。これによって、より安全に反応を進行させ得ることも可能になる。
また、加熱温度よりも沸点の低い有機溶媒を用いる場合は、オートクレーブ等の加圧容器を採用しても良い。この場合、常圧で加熱を開始しても良いし、ある所定圧より加熱を開始しても良い。これによって、様々な種類の有機溶媒が使用できるとともに、溶媒リサイクル時の熱エネルギーを低減させ得ることも可能になる。
このようにして、前記反応液中に、前記有機溶媒と前記塩基と前記ジエン化合物とを添加した後に加熱することにより、上記一般式(1)で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類が得られる。なお、このようなビス(スピロノルボルネン)類を得る際には、前記反応液中に前記有機溶媒と前記塩基と前記ジエン化合物とを添加して得られる混合液を加熱することにより、中性又は塩基性条件下において、先ず、上記一般式(4)で表されるマンニッヒ塩基からアミン化合物が脱離して、下記一般式(6):
[式(6)中のR2、R3、nは上記式(2)中のR2、R3、nと同義である。]
で表されるビス(ビニルケトン)構造を有する化合物が形成され、次いで、そのビス(ビニルケトン)構造を有する化合物と、上記一般式(5)で表されるジエン化合物とが、いわゆるディールス・アルダー反応により反応し、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類が形成される。このように中性又は塩基性条件下において反応を進行させるため、副生成物の生成がより高度な水準で抑制され、より効率よくビス(スピロノルボルネン)類が製造される。
また、このような反応によりビス(スピロノルボルネン)類が形成された後においては、その反応後の前記混合液中における前記ビス(ビニルケトン)構造を有する化合物の存在率がビス(スピロノルボルネン)類(目的物)に対して2mol%以下であることが好ましい。このような前記ビス(ビニルケトン)構造を有する化合物の存在率が前記上限を超えると目的物が着色したり、ダイマー化により製品が粘調化する傾向にある。なお、前記ビス(ビニルケトン)構造を有する化合物の存在率をより確実に2mol%以下とするという観点からは、第二工程において、前記塩基の含有量を前記反応液中に含有されている酸に対して2.0〜5.0倍当量とし、加熱温度を50〜125℃とし且つ前記加熱時間を0.5〜10時間とすることが好ましい。
また、このような反応によりビス(スピロノルボルネン)類が形成された後においては、その反応後の前記混合液中において、前記ビス(ビニルケトン)構造を有する化合物が二量化した二量化生成物(ダイマー)の存在率がビス(スピロノルボルネン)類(目的物)に対して2mol%以下であることが好ましい。このようなダイマーの存在率が前記上限を超えると製品が粘調化する傾向にある。なお、前記ダイマーの存在率をより確実に2mol%以下とするという観点からは、第二工程において、前記塩基の含有量を前記反応液中に含有されている酸に対して2.0〜5.0倍当量とし、加熱温度を50〜125℃とし且つ前記加熱時間を0.5〜10時間とすることが好ましい。なお、このような混合液中のビス(ビニルケトン)構造を有する化合物や二量体の存在率は、いわゆるHPLC分析により測定することができる。このようなHPLC分析に用いる装置等は公知のものを適宜利用することができる。
また、このような反応によりビス(スピロノルボルネン)類が形成された後において、その反応後の混合液中からビス(スピロノルボルネン)類を抽出する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用してもよい。また、このような抽出方法としては、前記ビス(スピロノルボルネン)類が形成された混合液中から、溶媒を除去した後、得られる混合物をそのまま用いるかあるいは水を適宜添加して用い、炭素原子数3〜30(より好ましくは5〜10)の飽和炭化水素により前記ビス(スピロノルボルネン)類を抽出分離する方法を採用することが好ましい。このような飽和炭化水素を用いてビス(スピロノルボルネン)類を抽出することにより、アミン塩や、重質物などの副生物を簡便に除去することが可能となる。また、このような工程において前記混合物に水を添加する場合、水の添加量は特に制限されず、得られる混合物の量や抽出の際に用いる装置等に応じて、その量を適宜変更すればよい。更に、より効率よく前記ビス(スピロノルボルネン)類を抽出分離するという観点からは、前記反応液中に添加する有機溶媒として、炭素原子数5〜30の飽和炭化水素と混和しない有機溶媒を用いて前記ビス(スピロノルボルネン)類を形成せしめ、その後、その反応後の前記混合液中に、炭素原子数3〜30(より好ましくは5〜30、さらに好ましくは5〜10)の飽和炭化水素を用いて前記ビス(スピロノルボルネン)類を液液抽出分離する方法を採用することが好ましい。なお、このようにして前記ビス(スピロノルボルネン)類を抽出分離して抽出液を得た後に、前記ビス(スピロノルボルネン)類を単離精製する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
また、前記抽出分離工程後に、前記炭素原子数3〜30の飽和炭化水素により前記ビス(スピロノルボルネン)類を抽出分離して得られる前記ビス(スピロノルボルネン)類と前記飽和炭化水素とを含有する抽出液を、アルカリ水溶液及び酸水溶液で洗浄する工程を更に含むことが好ましい。このような洗浄処理においては、前記抽出液をアミン、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等を含有するアルカリ水溶液で洗浄した後、無機酸や有機酸等を含有する酸水溶液で洗浄し、その後、弱アルカリ性又は弱酸性の水で中和し、飽和食塩水等の脱水剤で脱水することが望ましい。
このようなアルカリ水溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム水、水酸化カリウム水、水酸化カルシウム水等が好ましく、水酸化ナトリウム水が特に好ましい。また、このようなアルカリ水溶液中のアルカリ成分の濃度は1〜20質量%程度であることが好ましい。このようなアルカリ水溶液を用いてビス(スピロノルボルネン)類を含む前記抽出液を洗浄することにより、アミン塩や、重質物などの副生物を簡便に除去することが可能となる。
また、前記酸水溶液としては、塩酸水、硫酸水、リン酸水、硝酸水、酢酸水等が好ましく、塩酸水が特に好ましい。また、前記酸水溶液中の酸の濃度としては1〜20質量%程度であることが好ましい。このような酸水溶液を用いてビス(スピロノルボルネン)類を含む抽出液を洗浄することにより、アミン塩や、重質物などの副生物を簡便に除去することが可能となる。
このような洗浄の順番は、アルカリ水溶液による洗浄の前に酸水溶液による洗浄を行ってもよい。また、このような洗浄処理における前記中和に用いる弱アルカリ水としては、炭酸ナトリウム水、炭酸水素ナトリウム水、炭酸カリウム水、酢酸ナトリウム水等が好ましく、特に炭酸水素ナトリウム水が好ましい。このような弱アルカリ水を用いることにより、液のpHを短時間で中性付近にすることが可能となり、その後の蒸留精製時の分解を抑制することができる。また、このような洗浄処理における前記中和に用いる弱酸性水としては、塩化アンモニウム水、硫酸アンモニウム水、硝酸アンモニウム水、リン酸アンモニウム水等が好ましく、特に塩化アンモニウム水が好ましい。このような弱酸性水を用いることにより、液のpHを短時間で中性付近にすることが可能となり、その後の蒸留精製時の分解を抑制することができる。
また、このような洗浄処理において用いられる前記脱水剤としては、飽和食塩水、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、シリカゲル、酸化カルシウム、五酸化二リン等が好ましく、特に、飽和食塩水、無水硫酸マグネシウムが好ましい。さらに、ベンゼン、トルエン等の添加による共沸脱水も可能である。このような脱水剤を用いてビス(スピロノルボルネン)類を含む抽出液を脱水することにより、液中の水分を減少させることが可能となり、その後の抽出液濃縮時における水分析出を抑制することができる。
このような5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類の製造方法によれば、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類を十分な収率で製造することが可能となる。さらに、前記5−ノルボルネン−2−スピロ−α−シクロアルカノン−α’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン類の製造方法によれば、上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類中の置換基の立体配置のendo/exoの比率を10/90〜30/70(より好ましくは15/85〜25/75)とすることが可能となる。このような方法は、第二工程においてマンニッヒ塩基を分解すると同時にディールスアルダー反応を起こさせてビス(スピロノルボルネン)類を製造するものであるが、第二工程での加熱温度(反応温度)を上述の好適な範囲(例えば30〜180℃)とした場合には、可変するendo/exo比は上記の範囲に自ずと収まる。なお、前記ビス(スピロノルボルネン)類はケトン基を有し、命名上、そのケトン基が優先されるため、反応上はendo付加体となるが、反応により得られるビス(スピロノルボルネン)類は命名上exo体となる。
また、このようにして得られる上記一般式(1)で表されるビス(スピロノルボルネン)類は、ポリイミド用の酸二無水物モノマー向け原料として好適であり、このようなビス(スピロノルボルネン)類を出発原料とする無色透明ポリイミドは、フレキシブル配線基板用フィルム、耐熱絶縁テープ、電線エナメル、半導体の保護コーティング剤、液晶配向膜、有機EL用透明導電性フィルム、フレキシブル基板フィルム、フレキシブル透明導電性フィルム、有機薄膜型太陽電池用透明導電性フィルム、色素増感型太陽電池用透明導電性フィルム、フレキシブルガスバリアフィルム、タッチパネル用フィルム等を製造するための材料として特に有用である。さらに、このようなビス(スピロノルボルネン)類は、それを単独でメタセシス反応、付加重合、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等によって、所望の重合体または架橋体とすることができ、さらに必要に応じて任意の共重合可能な化合物と共重合反応させて共重合体または共重合架橋体を得ることも可能である。また、このようなビス(スピロノルボルネン)類より得られる酸二無水物は、ポリイミド用モノマーの他にエポキシ硬化剤、マレイミド原料として有用である。
また、このようなビス(スピロノルボルネン)類を用いて、ポリイミドの原料化合物として好適な酸二無水物を製造する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜利用することができ、例えば、1994年に発行されたMacromolecules(27巻)の1117頁に記載されている方法を利用してもよい。
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、各合成例で得られた化合物の分子構造の同定は、IR測定機(日本分光株式会社製、商品名:FT/IR−460、FT/IR−4100)及びNMR測定機(VARIAN社製、商品名:UNITY INOVA−600及び日本電子株式会社製JNM−Lambda500)を用いて、IR及びNMRスペクトルを測定することにより行った。また、実施例で示したガラス転移温度(Tg)は、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 DSC 7020 示差走査熱量計を使用して測定した。
(合成例1)
<第一工程>
先ず、100mlの二口フラスコに50質量%ジメチルアミン水溶液を6.83g(ジメチルアミン:75.9mmol)添加した。次に、100mlの滴下ロートに35質量%塩酸水溶液を8.19g(塩化水素:78.9mmol)添加した。次いで、前記二口フラスコに前記滴下ロートをセットし、氷冷下において前記ジメチルアミン水溶液中に前記塩酸水溶液を滴下し、前記二口フラスコ中でジメチルアミン塩酸塩を調製した。次に、前記二口フラスコ中に、パラホルムアルデヒド2.78g(92.4mmol)と、シクロペンタノン2.59g(30.8mmol)とを更に添加した。次いで、前記二口フラスコに玉付きコンデンサーをセットした後、前記二口フラスコの内部を窒素で置換した。その後、前記二口フラスコを90℃のオイルバスに沈め、3時間加熱攪拌を行なって、上記一般式(4)で表される化合物であって式中のnが2であり、R2及びR3がいずれも水素原子であり且つR4がいずれもメチル基であるマンニッヒ塩基を含有する反応液を得た。なお、このようにして得られた反応液に対してガスクロマトグラフィー分析(GC分析:検出器としてAgilent Technologies社製の商品名「6890N」を使用)を行った結果、シクロペンタノンの転化率は99%であることが確認された。
<第二工程>
次に、前記二口フラスコ中の前記反応液を50℃に冷却した後、前記二口フラスコ中の前記反応液に対してメチルセロソルブ(50ml)と、50質量%ジメチルアミン水溶液1.12g(12.4mmol)と、シクロペンタジエン7.13g(108mmol)とを添加し、混合液を得た。次いで、前記二口フラスコの内部を窒素置換し、前記二口フラスコを120℃のオイルバスに沈め、前記混合液を90分間加熱した。
<抽出処理>
前記加熱後の混合液を室温(25℃)まで冷却した後、200mlの分液ロートに移し変え、n−ヘプタン(80ml)を添加した後、n−ヘプタン層を回収して1回目の抽出操作を行った。次に、残ったメチルセロソルブ層に対して、n−ヘプタン(40ml)を添加し、n−ヘプタン層を回収して2回目の抽出操作を行った。そして、1回目及び2回目の抽出操作により得られたn−ヘプタン層を混合してn−ヘプタン抽出液を得た。
次に、前記n−ヘプタン抽出液を5質量%のNaOH水(25ml)で1回洗浄した後、5質量%の塩酸水(25ml)で1回洗浄した。次いで、前記塩酸水で洗浄した後の前記n−ヘプタン抽出液を、5%の重曹水(25ml)で1回洗浄した後、更に、飽和食塩水(25ml)で1回洗浄した。次いで、このようにして洗浄したn−ヘプタン抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、無水硫酸マグネシウムをろ過することにより、濾液を得た。次いで、得られた濾液をエバポレーターを用いて濃縮し、n−ヘプタンを留去して、粗生成物(5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン)を7.4g(粗収率99%)得た。次に、このようにして得られた粗生成物に対してクーゲルロア蒸留(沸点:105℃/0.1mmHg)を行い、5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンを4.5g(収率61%)得た。
このようにして得られた化合物の構造を確認するために、IR及びNMR(1H−NMR及び13C−NMR)測定を行った。このようにして得られた化合物のIRスペクトルを図1に示し、1H−NMR(CDCl3)スペクトルを図2に示し、13C−NMR(CDCl3)スペクトルを図3に示す。図1〜3に示す結果から、得られた化合物は下記一般式(i):
で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンであることが確認された。また、図1〜3に示す結果から、このような5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンにおいては、endo体とexo体の比率(endo/exo)が10/90であることも分かった。
(合成例2)
<第一工程>
先ず、100mlの二口フラスコに50質量%ジメチルアミン水溶液を6.83g(ジメチルアミン:75.9mmol)添加した。次に、100mlの滴下ロートに35質量%塩酸水溶液を8.19g(塩化水素:78.9mmol)添加した。次いで、前記二口フラスコに前記滴下ロートをセットし、氷冷下において前記ジメチルアミン水溶液中に前記塩酸水溶液を滴下し、前記二口フラスコ中でジメチルアミン塩酸塩を調製した。次に、前記二口フラスコ中に、パラホルムアルデヒド2.78g(92.4mmol)と、シクロヘキサノン3.02g(30.8mmol)とを更に添加した。次いで、前記二口フラスコに玉付きコンデンサーをセットした後、前記二口フラスコの内部を窒素で置換した。その後、前記二口フラスコを90℃のオイルバスに沈め、4時間加熱攪拌を行なって、上記一般式(4)で表される化合物であって式中のnが3であり、R2及びR3がいずれも水素原子であり且つR4がいずれもメチル基であるマンニッヒ塩基を含有する反応液を得た。なお、このようにして得られた反応液に対して、合成例1と同様にGC分析を行った結果、シクロヘキサノンの転化率は99%であることが確認された。
<第二工程>
次に、前記二口フラスコ中の前記反応液を50℃に冷却した後、前記反応液に対してメチルセロソルブ(50ml)と、50質量%ジメチルアミン水溶液1.12g(12.4mmol)と、シクロペンタジエン7.13g(108mmol)とを添加して混合液を得た。次いで、前記二口フラスコの内部を窒素置換した後、前記二口フラスコを120℃のオイルバスに沈め、前記混合液を90分間加熱した。
<抽出処理>
前記加熱後の混合液を室温(25℃)まで冷却した後、200mlの分液ロートに移し変え、n−ヘプタン(80ml)を添加した後、n−ヘプタン層を回収して1回目の抽出操作を行った。次に、残ったメチルセロソルブ層に対して、n−ヘプタン(40ml)を添加し、n−ヘプタン層を回収して2回目の抽出操作を行った。そして、1回目及び2回目の抽出操作により得られたn−ヘプタン層を混合してn−ヘプタン抽出液を得た。
次に、前記n−ヘプタン抽出液を5質量%のNaOH水(25ml)で1回洗浄した後、5質量%の塩酸水(25ml)で1回洗浄した。次いで、前記塩酸水で洗浄した後の前記n−ヘプタン抽出液を、5%の重曹水(25ml)で1回洗浄した後、更に、飽和食塩水(25ml)で1回洗浄した。次いで、このようにして洗浄したn−ヘプタン抽出液を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、無水硫酸マグネシウムをろ過することにより、濾液を得た。次いで、得られた濾液をエバポレーターを用いて濃縮し、n−ヘプタンを留去して、粗生成物(5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネン)を7.8g(粗収率99%)得た。次に、このようにして得られた粗生成物に対してクーゲルロア蒸留(沸点:120〜145℃/0.1mmHg)を行い、5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンを4.4g(収率56%)得た。
このようにして得られた化合物の構造を確認するために、IR及びNMR(1H−NMR及び13C−NMR)測定を行った。このようにして得られた化合物のIRスペクトルを図4に示し、1H−NMR(CDCl3)スペクトルを図5に示し、13C−NMR(CDCl3)スペクトルを図6に示す。図4〜6に示す結果から、得られた化合物は下記一般式(ii):
で表される5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンであることが確認された。また、このような5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンにおいては、スピロ縮合環のシス、トランス異性体にそれぞれendo体とexo体があることが確認され、オレフィンの数より5種類の異性体の混合物であることが分かった。
(実施例1:ポリイミドの調製)
合成例1で得られた5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロペンタノン−5’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンを用い、1994年に発行されたMacromolecules(27巻)の1117頁に記載の方法に従って、テトラカルボン酸二無水物を製造した。このようにしてテトラカルボン酸二無水物を製造した結果、全収率88%で、ノルボルナン−2−スピロ−α−シクロペンタノン−α’−スピロ−2’’−ノルボルナン−5,5’’,6,6’’−テトラカルボン酸二無水物を得た。
次に、30mlの三口フラスコをヒートガンで加熱乾燥させた。そして、十分に乾燥させた前記三口フラスコに、先ず、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(固体)を0.200g(1.00mmol)入れた後、ジメチルアセトアミドを2.7g添加し、攪拌することにより、前記固体を溶解させて溶解液を得た。次いで、前記溶解液に、前述のようにして得られたノルボルナン−2−スピロ−α−シクロペンタノン−α’−スピロ−2’’−ノルボルナン−5,5’’,6,6’’−テトラカルボン酸二無水物を0.384g(1.00mmol)を添加し、前記三口フラスコ内の雰囲気を窒素雰囲気とした後、窒素雰囲気下、室温(25℃)で12時間攪拌し、反応液を得た。
次いで、前記反応液をガラス板上に流延してガラス板上に塗膜を形成した後、前記塗膜の形成されたガラス板を減圧オーブンに投入し、1mmHgの圧力下において、80℃で1時間、170℃で1時間、250℃で1時間、順次加熱して塗膜を硬化せしめて、ガラス板上にフィルムを形成した。そして、前記フィルムの形成されたガラス板を減圧オーブンから取り出し、70℃の熱水に浸け、ガラス板上からフィルムを回収した。このようにして得られたフィルムのIRスペクトルを測定した結果、1778及び1709cm−1にイミドカルボニルのC=O伸縮振動が見られることから、得られたフィルムがポリイミドからなることが確認された。なお、このようなポリイミドの製造過程の反応の概略を下記反応式(III)に示す。
このようにして得られたフィルム状のポリイミドの示差走査熱分析(DSC)を行なった結果、ガラス転移温度は438℃であった。このような熱分析の結果から、合成例1で得られたビス(スピロノルボルネン)に由来して製造されたポリイミドは、十分に高度な耐熱性を有するものとなることが確認された。また、このようなフィルムは、無色透明であり、十分に高い光透過率を示すことが分かった。
(実施例2:ポリイミドの調製)
合成例2で得られた5−ノルボルネン−2−スピロ−2’−シクロヘキサノン−6’−スピロ−2’’−5’’−ノルボルネンを用い、1994年発行のMacromolecules(27巻)の1117頁に記載の方法に従って、テトラカルボン酸二無水物を製造した。このようにしてテトラカルボン酸二無水物を製造した結果、全収率87%で、ノルボルナン−2−スピロ−α−シクロヘキサノン−α’−スピロ−2’’−ノルボルナン−5,5’’,6,6’’−テトラカルボン酸二無水物を得た。
次に、30mlの三口フラスコをヒートガンで加熱乾燥させた。そして、十分に乾燥させた前記三口フラスコに、先ず、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(固体)を0.200g(1.00mmol)入れた後、ジメチルアセトアミドを2.7g添加し、攪拌することにより、前記固体を溶解させて溶解液を得た。次いで、前記溶解液に、前述のようにして得られたノルボルナン−2−スピロ−α−シクロヘキサノン−α’−スピロ−2’’−ノルボルナン−5,5’’,6,6’’−テトラカルボン酸二無水物を0.398g(1.00mmol)を添加し、前記三口フラスコ内の雰囲気を窒素雰囲気とした後、窒素雰囲気下、室温(25℃)で12時間攪拌し、反応液を得た。
次いで、前記反応液をガラス板上に流延してガラス板上に塗膜を形成した後、前記塗膜の形成されたガラス板を減圧オーブンに投入し、1mmHgの圧力下において、80℃で1時間、170℃で1時間、250℃で1時間、順次加熱して塗膜を硬化せしめて、ガラス板上にフィルムを形成した。そして、前記フィルムの形成されたガラス板を減圧オーブンから取り出し、70℃の熱水に浸け、ガラス板上からフィルムを回収した。このようにして得られたフィルムのIRスペクトルを測定した結果、1779及び1702cm−1にイミドカルボニルのC=O伸縮振動が見られることから、得られたフィルムがポリイミドからなるものであることが確認された。なお、このようなポリイミドの製造過程における反応の概略を下記反応式(IV)に示す。
このようにして得られたフィルム状のポリイミドの示差走査熱分析(DSC)を行なった結果、ガラス転移温度は440℃であった。このような熱分析の結果から、合成例2で得られたビス(スピロノルボルネン)に由来するポリイミドは、十分に高度な耐熱性を有するものとなることが確認された。また、このようなフィルムは、無色透明であり、十分に高い光透過率を示すことが分かった。