JP2007248562A - 光学物品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】被覆層Fが基板Sの表面に形成された光学物品Pであって、被覆層Fは、酸窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、および酸化ケイ素からなる群より選択される材料からなる薄膜を積層したものである。このように、薄膜を酸窒化ケイ素、酸窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、および酸化ケイ素からなる群より選択するため、二酸化チタンおよび二酸化ケイ素の2種類のみからなる従来の光学物品と比較して、光学的,物理的特性のバリエーションに富んだ光学物品を提供することが可能となる。
【選択図】図1
Description
また、同様の性質を有する他の光学物品として、赤外線ランプの反射板や暗視撮影用の赤外線透視フィルタ、防曇用の窓ガラス等に用いられる熱線反射膜などがある。
このような光学リフレクタを備えることで、光源装置の発光体からの光線のうち主として可視光を反射し、赤外線領域の光を透過することが可能となる。
また、光学フィルタが赤外線領域の光を透過しやすい性質を有しているため、光学フィルタを透過した赤外線がガラス基板で吸収されて、その熱効果によりガラス基体が加熱され、光学リフレクタ全体の温度が高くなるという性質がある。また、光源装置の光学リフレクタとして使用する場合、光源からの放射熱により光学リフレクタ全体の温度が高くなることがある。従って、光学リフレクタを構成する光学フィルタは、耐熱性に優れた性質を有することが必要とされる。
さらに、光学リフレクタは、自動車のランプや道路標識などに用いられることが多いが、これらの使用される環境では、光学リフレクタが風雨や飛来物に曝されることが多く、このため表面に損傷を負いやすい。従って、光学リフレクタの表面の光学フィルタは、耐摩耗性に優れた性質を備えていることが好ましい。
加えて、二酸化ケイ素の融点は1660℃、二酸化チタンの融点は1840℃と、いずれの材料も低融点である。このため、このような低融点材料で形成された光学フィルタは、耐熱性が低く、熱により容易に損傷したり光学的特性に変化が生じたりする不都合があった。
また、二酸化ケイ素のビッカース硬さは640Hv、二酸化チタンは1100Hvといずれも硬度が低い。このため、このような低硬度材料で形成された光学フィルタは耐摩耗性に乏しく、表面への衝撃などに対して容易に破損するという不都合があった。
また、本発明の他の目的は、特に耐熱性,耐摩耗性に優れた光学物品を提供することにある。
さらにまた、本発明の他の目的は、上記のようなバリエーションに富んだ光学物品の製造方法を提供することにある。
このように、本発明の光学物品によれば、基体の表面に形成される被覆層が、酸窒化ケイ素,酸窒化アルミニウム,窒化ケイ素,窒化アルミニウム,酸化アルミニウム,および酸化ケイ素からなる群より選択される材料を積層して形成される。このため、二酸化ケイ素と二酸化チタンの2種類のみからなる従来の光学物品と比較して、光学的,物理的特性のバリエーションに富んだ光学物品を提供することが可能となる。
従って、従来のような耐熱性や耐磨耗性の低い材料を用いた場合と比較して、熱による光学的・物理的特性が変化しにくく、かつ表面に損傷を受けにくい、安定した光学的特性を備えた光学物品を提供することが可能となる。
従って、従来のような耐熱性や耐磨耗性の低い材料を用いた場合と比較して、熱による光学的・物理的特性が変化しにくく、かつ表面に損傷を受けにくい、安定した光学的特性を備えた光学物品を提供することが可能となる。
さらにこの場合、具体的には、前記フィルタは光学リフレクタであることが好ましい。
このため、成膜時間の経過に伴ってターゲットの表面に酸化ケイ素の割合が高くなることで、膜質が変化したり、ターゲットに高周波電圧を印加する際に異常放電が発生したりするといった不都合を防止することが可能となる。
ここで、酸窒化ケイ素は、次の一般式で:SiOx1Ny1(ここで、0<x1<2であり、0<y1<1.33であって、x1=0のときy1=1.33であり、x1=2のときy1=0である)で示される化合物である。
また、酸窒化アルミニウムは、次の一般式:AlOx2Ny2(ここで、0<x2<1.5であり、0<y2<1であって、x2=0のときy2=1であり、x2=1のときy2=0である)で示される化合物である。
ここで高融点とは、融点が1750℃以上であることを言うものとする。また、高硬度とは、ビッカース硬さ試験の結果、ビッカース硬さが1100Hv以上であることを言う。
融点が1750℃以上の場合、二酸化ケイ素や二酸化チタンよりも融点が高いため、従来の光学物品と比較して、耐熱性に優れたものとなる。
また、ビッカース硬さが1100Hv以上の場合、二酸化ケイ素や二酸化チタンよりも硬度が高いため、従来の光学物品と比較して、耐摩耗性に優れたものとなる。
具体的には、四角錘のダイヤモンド圧子を試験片の表面に押し込み、その試験力を解除した後に表面に残ったくぼみの対角線長さを測定し、試験力とくぼみの表面積の商に所定の定数を掛けた値としてビッカース硬さを得ることができる。
また、アルミニウム系化合物では、酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2:ここで、0<x2<1.5であり、0<y2<1であって、x2=0のときy2=1であり、x2=1のときy2=0である),窒化アルミニウム(AlN),および酸化アルミニウム(Al2O3)が挙げられる。
なお、ここでの屈折率とは、波長550nmにおける屈折率を言う。以下の説明においても同じである。
図2は酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)を構成する酸素および窒素の組成比と、酸窒化ケイ素を材料とする薄膜の融点および硬度の関係を示したグラフである。グラフの横軸は酸窒化ケイ素の窒素の組成比y1(0<y1<1.33)を示し、グラフの右側縦軸は融点(℃)、グラフの左側縦軸はビッカース硬さ(Hv)を示している。
なお、x1=2.00、y1=0.00のときは酸化ケイ素(SiO2)であり、x1=0.00、y1=1.33のときは窒化ケイ素(Si3N4)である。
このように、酸素の組成比x1が0<x1≦0.5であり、窒素の組成比y1が1.0≦y1<1.33の場合には、従来の二酸化ケイ素および二酸化チタンを積層した場合と比較して、融点,硬度共に高く、耐熱性,耐摩耗性に優れた被覆層Fが形成される。
さらに、酸素の組成比x1が0<x1≦0.15であり、窒素の組成比y1が1.23≦y1<1.33であると、融点が1850℃以上であり、かつビッカース硬さが1500Hv以上となり、硬度および融点共により優れたものとなる。
図3は酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2)を構成する酸素および窒素の組成比と、酸窒化アルミニウムを材料とする薄膜の融点および硬度の関係を示したグラフである。グラフの横軸は酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2)の窒素の組成比y2(0<y2<1.0)を示し、グラフの右側縦軸は融点(℃)、左側縦軸はビッカース硬さ(硬度:Hv)を示している。
なお、x2=1.50、y2=0.00のときは酸化アルミニウム(Al2O3)であり、x2=0.00、y2=1.00のときは窒化アルミニウム(AlN)である。
さらに、酸素の組成比x2が0.86≦x2<1.50であり、窒素の組成比y2が0<y≦0.43の場合には、融点が2000℃以上であり、かつビッカース硬さが1500Hv以上と、融点,硬度共に優れたものとなり好ましい。
特に、酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)あるいは酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2)を材料とした場合、薄膜中に含まれる酸素および窒素の組成比に応じて屈折率,融点,ビッカース硬さといった光学的・物理的特性が変化する。このため、これらの材料の酸素および窒素の組成比を変更することで、製造される光学物品Pの光学的・物理的特性にバリエーションを持たせることが可能となり、特に好ましい。
より好ましくは、耐熱性,耐摩耗性という観点から、酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2)が好適である。酸窒化アルミニウムの融点は2045〜2250℃であり、ビッカース硬さは1230〜2100Hvであり、いずれの数値も高い。このため、製造される光学物品Pの耐熱性,耐摩耗性についても顕著に向上する。
なお、第2の薄膜F2は、上記した第1の薄膜F1とは異なり、必ずしも高硬度,高融点材料で形成される必要は無いが、光学物品Pの耐摩耗性,耐熱性の観点からはF1と同じく高硬度,高融点材料で形成されることが好ましい。
例えば、第1の薄膜F1および第2の薄膜F2として、上記した窒化ケイ素(Si3N4),酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1:ここで、0<x1<2であり、0<y1<1.33であって、x1=0のときy1=1.33でありx1=2のときy1=0である),酸化アルミニウム(Al2O3),酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2:ここで、0<x2<1.5であり、0<y2<1であって、x2=0のときy2=1であり、x2=1のときy2=0である),または窒化アルミニウム(AlN)から選択される材料を用い、第3の薄膜として酸化ケイ素(SiO2)を用いた合計3種類の薄膜を順次積層して被覆層Fを形成するようにしてもよい。
このような光学物品Pのうち、特に、赤外線領域の光に対する透過率が高く可視光領域の光に対して反射率が高い光学リフレクタとして好適に使用される。光学リフレクタは、基体の表面に被覆層F(すなわち、光学フィルタ)を被覆して形成された光学物品である。この被覆層Fは赤外線を透過しやすい性質を備えている。ここで、赤外線領域の光に対する透過率が高いとは、赤外線領域(800〜1100nm)の光に対する平均透過率が80%以上を言うものとする。
このように、被覆層Fは赤外線領域の光を透過しやすいため、赤外線による熱効果で光学リフレクタ自身が熱せられやすい。そこで、この被覆層Fを上記高融点,高硬度材料の薄膜で形成することで、フィルタ自身が高温となっても光学的・物理的特性が変化しにくく、安定した特性を備えた光学物品Pを提供することが可能となる。
本発明の光学物品は、真空蒸着やイオンプレーティング等の公知の薄膜形成技術により製造することが可能であるが、特に光学物品の光学的特性向上や製造の歩留まり向上の観点から、以下に説明する反応性スパッタリングにより製造することが好ましい。
以下に説明する薄膜形成装置は、スパッタにより基板の表面に膜原料物質を付着させる成膜プロセス領域と、この膜原料物質をプラズマ処理する反応プロセス領域を分離している点を特徴としている。そして、成膜プロセス領域内には窒素ガスや酸素ガスなどの反応性ガスを導入しないように構成されている。
このため、ターゲットの表面の金属が反応性ガスと反応することによる異常放電の発生を防止することが可能となる。
具体的には、スパッタ処理とプラズマ処理によって組成変換後における膜厚の平均値が0.01〜1.5nm程度の中間薄膜を基板表面に形成する工程を、回転ドラムの回転毎に繰り返すことにより、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚を有する最終薄膜を形成している。
図4に示すように、本実施形態の薄膜形成装置1は、真空容器11と、回転ドラム13と、モータ17(図5参照)と、スパッタ手段20と、スパッタガス供給手段30と、プラズマ発生手段60と、反応性ガス供給手段70と、を主要な構成要素としている。
なお、図中では、スパッタ手段20は破線、スパッタガス供給手段30は一点鎖線、プラズマ発生手段60は破線、反応性ガス供給手段70は一点鎖線で表示している。
また、ロードロック室11Bには排気用の配管16bが接続され、この配管16bには真空容器11の内部を排気するための真空ポンプ15bが接続されている。
なお、本実施形態の真空容器11は、ロードロック室11Bを備えるロードロック方式を採用しているが、ロードロック室11Bを設けないシングルチャンバ方式を採用することも可能である。また、複数の真空室を備え、それぞれの真空室で独立に薄膜形成を行うことが可能なマルチチャンバ方式を採用することも可能である。
基板保持板13aはステンレススチール製の平板状部材で、基板Sを保持するための複数の基板保持孔を、基板保持板13aの長手方向に沿って板面中央部に一列に備えている。基板Sは、基板保持板13aの基板保持孔に収納され、脱落しないようにネジ部材等を用いて基板保持板13aに固定されている。また、基板保持板13aの長手方向の両端部には、後述する締結具13cを挿通可能なネジ穴が板面に設けられている。
なお、本実施形態における回転ドラム13は、平板状の基板保持板13aを複数配置しているため横断面が多角形をした多角柱状をしているが、このような多角柱状のものに限定されず、円筒状や円錐状のものであってもよい。
以下に、成膜プロセス領域20Aについて説明する。
図6に示すように、成膜プロセス領域20Aにはスパッタ手段20が設置されている。
スパッタ手段20は、一対のターゲット22a,22bと、ターゲット22a,22bを保持する一対のマグネトロンスパッタ電極21a,21bと、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに電力を供給する交流電源24と、交流電源24からの電力量を調整する電力制御手段としてのトランス23により構成される。
真空容器11の壁面は外方に突出しており、この突出部の内壁にマグネトロンスパッタ電極21a,21bが側壁を貫通した状態で配設されている。このマグネトロンスパッタ電極21a,21bは、接地電位にある真空容器11に不図示の絶縁部材を介して固定されている。
本実施形態では、ターゲット22a,22bとしてケイ素(Si)またはアルミニウム(Al)を用いている。
スパッタガスとしては、例えばアルゴンやヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。本実施形態ではアルゴンガスを使用している。
続いて、反応プロセス領域60Aについて説明する。上述したように、反応プロセス領域60Aでは、成膜プロセス領域20Aで基板Sの表面に付着した膜原料物質をプラズマ処理して、膜原料物質の反応物からなる薄膜の形成を行う。
このような構成を備えることで、反応プロセス領域60A内に、窒素ガスボンベ71から窒素ガスを、酸素ガスボンベ73から酸素ガスを供給することが可能となっている。
本実施形態の薄膜形成装置1では、高周波電源65からアンテナ63に周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60Aに反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。
アンテナ63は、導線部を介してマッチングボックス64に接続されている。導線部はアンテナ63と同様の素材からなる。ケース体61には、導線部を挿通するための挿通孔が形成されており、アンテナ収容室61A内側のアンテナ63と、アンテナ収容室61A外側のマッチングボックス64とは、挿通孔に挿通される導線部を介して接続される。導線部と挿通孔との間にはシール部材が設けられ、アンテナ収容室61Aの内外で気密が保たれる。
なお、窒素ガスボンベ71と酸素ガスボンベ73は、成膜プロセス領域20Aのスパッタガスボンベ32と同様の装置とすることが可能である。また、マスフローコントローラ72とマスフローコントローラ74は、成膜プロセス領域20Aのマスフローコントローラ31と同様の装置を採用することが可能である。
反応性ガス供給手段70から窒素ガスのみが供給される場合は、基板Sの表面に形成された膜原料物質の窒化物が形成され、酸素ガスのみが供給される場合は、酸化物が形成される。また、窒素ガスと酸素ガスの混合ガスが供給される場合は、膜原料物質の酸窒化物が形成される。
具体的には、ターゲット22a,22bの材料がケイ素の場合、膜原料物質の窒化物は窒素ケイ素(Si3N4)、酸化物は酸化ケイ素(SiO2)、酸窒化物は酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)である。また、ターゲット22a,22bの材料がアルミニウムの場合、膜原料物質の窒化物は窒化アルミニウム(AlN)、酸化物は酸化アルミニウム(Al2O3)、酸窒化物は酸窒化アルミニウム(AlOx2Ny2)である。
まず、回転ドラム13を回転して基板Sを成膜プロセス領域20Aに、そして、成膜プロセス領域20Aでターゲット22a,22bをスパッタして基板Sの表面にケイ素を付着させる(第1のスパッタ工程)。次に、回転ドラム13を回転して、基板Sを反応プロセス領域60Aに搬送する(第1の基体搬送工程)。続いて、反応プロセス領域60Aに酸素ガスを導入する(第1の反応性ガス供給工程)。そして、反応プロセス領域60Aにて酸素ガスのプラズマを発生させて基板Sの表面に付着したケイ素を酸化ケイ素(SiO2)に変換する(第1のプラズマ処理工程)。この工程を所定回数繰り返して酸化ケイ素(SiO2)からなる薄膜を形成する(以上、第1の薄膜形成工程)。
まず、第1の薄膜が形成された基板Sを成膜プロセス領域20Aに再度搬送する(再搬送工程)。次に、成膜プロセス領域20Aでターゲット22a,22bをスパッタしてすでに基板S上に形成されている酸化ケイ素薄膜の表面にケイ素を付着させる(第2のスパッタ工程)。次に、回転ドラム13を回転して、基板Sを反応プロセス領域60Aに搬送する(第2の基体搬送工程)。そして、反応プロセス領域60Aにて酸素ガスと窒素ガスのプラズマを発生させてこのケイ素を酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)に変換する(第2のプラズマ処理工程)。この工程を所定回数繰り返して酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)からなる薄膜を形成する(以上、第2の薄膜形成工程)。
以下、酸化ケイ素薄膜を形成する第1の薄膜形成工程と酸窒化ケイ素薄膜を形成する第2の薄膜形成工程を順次繰り返して被覆層Fを形成し、所望の光学物品Pを製造する。
なお、ケイ素の反応物ではなくアルミニウムの反応物を被覆とする場合は、ターゲットをケイ素ではなくアルミニウムに換えて上記の手順で成膜を行えばよい。
図8は他の実施形態の薄膜形成装置を上面から見た説明図である。この図に示すように、回転ドラム13の回転軸を中心として成膜プロセス領域20Aと対称となる真空容器11の内部の領域には、第2の成膜プロセス領域としての成膜プロセス領域40Aが形成されている。そして、成膜プロセス領域40Aには、第2のスパッタ手段としてのスパッタ手段40が配設されている。
なお、このスパッタ手段40は、第1のスパッタ手段としてのスパッタ手段20と同様の構成であるため、詳細な説明はここでは省略する。
まず、成膜プロセス領域20Aでターゲット22a,22bをスパッタして基板Sの表面にケイ素を付着させ、次に反応プロセス領域60Aにて酸素ガスと窒素ガスのプラズマを発生させてケイ素を酸窒化ケイ素に変換する。この工程を所定回数繰り返して酸窒化ケイ素(SiOx1Ny1)からなる薄膜を形成する。
以下、酸窒化ケイ素薄膜を形成する工程と酸窒化アルミニウム薄膜を形成する工程を順次繰り返して、光学物品を製造する。
次に、実際に光学物品を製造した実施例について説明する。更に、この光学物品Pを使用して耐熱性試験を行った結果について示す。
なお、光学物品の一種である可視光領域の光を反射する光学リフレクタを作成して耐熱性試験を行った。
まず、光学リフレクタとして、窒化ケイ素(Si3N4)と酸化ケイ素(SiO2)を交互に積層した例について説明する。
光学リフレクタの製造は、真空容器11の内部に成膜プロセス領域20Aおよび反応プロセス領域60Aをそれぞれ1つずつ備えた薄膜形成装置1を用いて行った(図8参照)。基板Sとして、直径4cm、厚さ1mmの円板状の石英ガラス基板を使用した。スパッタのターゲット22a,22bとしてケイ素を使用し、反応プロセス領域60A内には酸素ガスと窒素ガスを供給できるようにした。反応プロセス領域60Aには、窒化ケイ素(Si3N4)を積層する場合には窒素ガスのみ、酸化ケイ素を積層する場合には酸素ガスのみを供給して、石英ガラス基板上に堆積したケイ素をプラズマ処理した。石英ガラス基板上に窒化ケイ素(Si3N4)と酸化ケイ素(SiO2)を交互に積層して合計13層とした。
<成膜プロセス領域20A>
スパッタ電力:5kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:150sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:5kW
周波数:13.56MHz
窒素ガスの流量:100sccm
<成膜プロセス領域20A>
スパッタ電力:5kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:150sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:5kW
周波数:13.56MHz
酸素ガスの流量:120sccm
熱安定性試験は、製造した光学リフレクタを純水中で約1時間煮沸して、煮沸前と煮沸後の吸収スペクトルを比較することで行った。
このグラフからわかるように、煮沸前および煮沸後で光学リフレクタの吸収スペクトルがほとんど変化していないことがわかる。特に可視光領域では、両グラフがほぼ一致している。すなわち、煮沸前と煮沸後で光学リフレクタの光学的特性がほとんど変化していないことがわかる。
次に、光学リフレクタとして酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)を交互に積層した例について説明する。本実施例の光学リフレクタは、図8で示した薄膜形成装置1、すなわち、真空容器11の内部に2箇所の成膜プロセス領域20A,40Aと1箇所の反応プロセス領域60Aを備えた薄膜形成装置1を用いて作成した。基板Sは実施例1で使用した石英ガラス基板と同じものを用いた。成膜プロセス領域20Aに設置するターゲット22a,22bとしてアルミニウム、成膜プロセス領域60Aに設置するターゲット44a,44bとしてケイ素を用い、反応プロセス領域60Aの内部には酸素ガスを供給してプラズマ処理を行った。上記成膜を順次繰り返し、石英ガラス基板上に酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ケイ素(SiO2)を交互に積層して合計28層とした。
<成膜プロセス領域20A>
スパッタ電力:6kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量250sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:2kW
周波数:13.56MHz
酸素ガスの流量:100sccm
<成膜プロセス領域40A>
スパッタ電力:5kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:150sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:5kW
周波数:13.56MHz
酸素ガスの流量:120sccm
熱安定性試験は、実施例1と同様に、作成した光学リフレクタを純水中で約1時間煮沸して煮沸前と煮沸後の吸収スペクトルを比較することで行った。
このグラフから、実施例1と同様に煮沸前と煮沸後で光学リフレクタの吸収スペクトルがほとんど変化していないことがわかる。すなわち、可視光の全領域で吸収スペクトルがほぼ一致している。すなわち、煮沸前と煮沸後で光学リフレクタの光学的特性がほとんど変化していないことがわかる。
このように、実施例2の光学リフレクタは、上述したように可視光の全領域においても吸収スペクトルがほぼ一致している。一方で、実施例1(酸化ケイ素と窒化ケイ素からなる光学リフレクタ)の場合には可視光のうち低波長側(380〜450nm)では、煮沸前と煮沸後で吸収スペクトルに多少の差が生じている。従って、酸化ケイ素と窒化ケイ素からなる光学リフレクタと比較して、実施例2の酸化アルミニウムと窒化アルミニウムからなる光学リフレクタの方が安定した光学的特性を備えていることがわかる。これは、酸化アルミニウムの方が窒化ケイ素よりも耐熱性が高いためと考えられる(表3参照)。
次に、上の実施例1で作成した光学リフレクタについて紫外線耐性試験を行った結果について示す。
紫外線耐性試験は、実施例1で作成した光学リフレクタに紫外線光源からの紫外線を照射して、照射前および照射後の光学リフレクタの吸収スペクトルを比較することで行った。
紫外線光源として、高圧水銀ランプ(セン特殊光源株式会社製HL400B)を使用し、紫外領域における波長が253.7nmと365.0nm、ランプ入力パワーが400Wで、照射なし,10分照射,30分照射,60分照射,180分照射の5つの条件で試験を行い、試験後の光学リフレクタの吸収スペクトルをそれぞれ測定した。以下のその結果を示す。
このグラフから、紫外線照射によって光学リフレクタの吸収スペクトルがほとんど変化していないことがわかる。すなわち、紫外線照射前と紫外線照射後で光学リフレクタの光学的特性がほとんど変化していないことがわかる。
従って、このような光学リフレクタは、紫外線を大量に放射するメタルハライドランプや超高圧水銀ランプ,キセノンランプ等のプロジェクター用ランプに使用しても、紫外線による光学的特性の変化が生じにくいため好ましい。
次に、実施例1および実施例2で作成した光学リフレクタの破壊試験を行った結果について示す。
光学リフレクタの破壊試験は、実施例1および実施例2で作成した光学リフレクタに対して、DLC(Diamond Like Carbon)コーティングしたカッターを用いて1kgの力を加えて表面をスクラッチすることで行った。このスクラッチ後の光学リフレクタの表面を光学顕微鏡にて撮影した。
酸化ニオブ(Nb2O5)は以下の通りである。なお、成膜レートは0.4nm/sである。
<成膜プロセス領域20A>
スパッタ電力:4kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:100sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:4kW
周波数:13.5MHz
酸素ガスの流量:120sccm
<成膜プロセス領域40A>
スパッタ電力:4kW
周波数:40kHz
アルゴンガスの流量:200sccm
<反応プロセス領域60A>
アンテナに印加される電力:4kW
周波数:13.56MHz
酸素ガスの流量:120sccm
この実験結果から、本発明の実施例の薄膜は、比較例に示す従来の薄膜よりも硬度が高く、傷や磨耗に対して耐久性が高いことが示された。
11 真空容器
11a 開口
11A 薄膜形成室
11B ロードロック室
11C 扉
11D 扉
12 仕切壁
13 回転ドラム
13a 基板保持板
13b フレーム
13c 締結具
14 仕切壁
15a 真空ポンプ
15b 真空ポンプ
16a−1 配管
16a−2 配管
16b 配管
17 モータ
17a モータ回転軸
18 ドラム回転軸
20 スパッタ手段
20A 成膜プロセス領域
21a マグネトロンスパッタ電極
21b マグネトロンスパッタ電極
22a ターゲット
22b ターゲット
23 トランス
24 交流電源
30 スパッタガス供給手段
31 マスフローコントローラ
32 スパッタガスボンベ
35a 配管
35b 導入口
35c 配管
40 スパッタ手段
40A 成膜プロセス領域
42a ターゲット
42b ターゲット
60 プラズマ発生手段
60A 反応プロセス領域
61 ケース体
61A アンテナ収容室
62 誘電体板
63 アンテナ
64 マッチングボックス
65 高周波電源
66 グリッド
70 反応性ガス供給手段
71 窒素ガスボンベ
72 マスフローコントローラ
73 酸素ガスボンベ
74 マスフローコントローラ
75a 配管
S 基板(基体)
V1 バルブ
V2 バルブ
V3 バルブ
Z 回転軸線
P 光学物品
F 被覆層
F1 第1の薄膜
F2 第2の薄膜
Claims (6)
- 異なる材料からなる2種類以上の薄膜を積層した被覆層が基体の表面に形成された光学物品であって、前記薄膜は、酸窒化ケイ素,酸窒化アルミニウム,窒化ケイ素,窒化アルミニウム,酸化アルミニウム,および酸化ケイ素からなる群より選択される材料で形成されたことを特徴とする光学物品。
- 前記薄膜のうち少なくとも1つが、酸窒化アルミニウム,窒化アルミニウム,および酸化アルミニウムからなる群より選択される材料からなることを特徴とする請求項1に記載の光学物品。
- 前記薄膜のうち少なくとも1つが、次の一般式:SiOx1Ny1(ここで、0<x1≦0.5、1≦y1<1.33であり、x1=0のときy1=1.33、x1=2のときy1=0である)で示される酸窒化ケイ素,または窒化ケイ素からなることを特徴とする請求項1に記載の光学物品。
- 前記光学物品は、赤外線領域の光を透過する性質を有するフィルタであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の光学物品。
- 前記フィルタは光学リフレクタであることを特徴とする請求項4に記載の光学物品。
- 異なる材料からなる第1の薄膜および第2の薄膜を交互に積層した被覆層が基体の表面に形成された光学物品の製造方法であって、
真空容器内の成膜プロセス領域内でアルミニウムまたはケイ素からなるターゲットをスパッタして前記基体の表面にアルミニウムまたはケイ素からなる第1の膜原料物質を付着させる第1のスパッタ工程と、
前記成膜プロセス領域と離間した位置に形成された反応プロセス領域に前記基体を搬送する第1の基体搬送工程と、
前記反応プロセス領域に少なくとも窒素ガスおよび酸素ガスから選択される少なくとも1種類の反応性ガスを供給する第1の反応性ガス供給工程と、
前記反応プロセス領域内で前記反応性ガスのプラズマを発生させて前記第1の膜原料物質の反応物を生成させる第1のプラズマ処理工程と、からなる第1の薄膜形成工程により第1の薄膜を形成し、
前記成膜プロセス領域に前記基体を再度搬送する再搬送工程と、
前記成膜プロセス領域内でアルミニウムまたはケイ素からなるターゲットをスパッタして前記基体の表面にアルミニウムまたはケイ素からなる第2の膜原料物質を付着させる第2のスパッタ工程と、
前記反応プロセス領域に前記基体を搬送する第2の基体搬送工程と、
前記反応プロセス領域内で前記反応性ガスのプラズマを発生させて前記第2の膜原料物質の反応物を生成させる第2のプラズマ処理工程と、からなる第2の薄膜形成工程により第2の薄膜を形成し、
前記第1の薄膜形成工程と前記第2の薄膜形成工程を順次繰り返すことにより前記被覆層を形成することを特徴とする光学物品の製造方法。
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