JP2007169741A - 耐応力緩和特性に優れた銅合金 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 Ni:0.1〜3.0%、Sn:0.1〜3.0%、P:0.01〜0.3%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、XAFS解析法による、Ni原子周りの動径分布関数において、Cu中に存在しているNi原子と、このNi原子と最近接原子との距離を示す、ファーストピーク位置が2.16〜2.35Åの範囲とし、Cu中に存在しているNi原子の周りのCuなどの原子との距離を比較的大きくして、銅合金の圧延方向に対して直角方向の耐応力緩和特性を向上させる。
【選択図】なし
Description
図2に、銅合金において、Cu中にNi原子が1個だけCu原子と置換して存在していると仮定した場合の、原子配列状態を模式的に示す。図2において、中心に比較的大きな黒い丸で示す粒子が、Cu中に存在しているNi原子であり、このNi原子の回りの、比較的小さな白い丸で示す、多数のCu原子によって取り囲まれている。
XAFS解析法は、測定対象物のX線の吸収スペクトルを解析することにより、原子構造乃至クラスターに関する情報が得られる。このXAFS解析法を用いて、鋼材表面の耐候性に関連の深いさび層の原子の並び(鉄原子の周りの動径分布)を求めた例が、特開2002-256463 号公報([0012] 〜[0023]) に報告されている。また、液晶表示板配線材料用Al−Nd合金薄膜のNd周りのAl−Ndの構造解析を求めた例が検査技術2000.1. 「第6 回電子材料の局所的構造の解析技術」(36〜39頁) に報告されている。また、XAFS測定装置自体も、特開2002-318208 号公報、特開2001-21507号公報、特開2001-33403号公報などで多数公開されている。
XAFS解析法による材料の構造解析の原理を以下に説明する。X線の光子エネルギを増加させながら、材料の吸収率を測定すると、X線の光子エネルギの増加に対応して減少する。しかし、材料に特定なあるX線の光子エネルギ(X線吸収端)においてその吸収率が急激に増加するX線の光子エネルギが存在する。この際、X線の吸収によって発生した光電子の一部が、複数の原子による散乱と干渉によって、X線の吸収量に対して構造情報として反映される。したがって、材料のX線の吸収量をモニタすれば、材料の原子構造乃至組織中のクラスターに関する情報が得られる。
このような吸収端の光子エネルギで現れる微細構造を、XAFSの中でも、X線吸収端近傍微細構造(XANES: X-ray Absorption Near Edge Structure)と言い、この微細構造のX線吸収スペクトルをXANESスペクトルと言う。そして、蛍光X線収量法によるXAFS測定では、このようなNi原子の吸収端のXANESスペクトルを選択的に測定することができる。
本発明では、この得られたXANES測定データ(スペクトル)から、EXAFS振動関数χ(k) (EXAFS: Extended X-ray Absorption Fine Structure)を抽出し、k3の重みを付けてフ−リエ変換を行い、Ni原子周りの動径分布関数(RDF : Radial Distribution Function)を得る。
本発明では、このXAFS解析法によるNi原子周りの動径分布関数における、Cu中に存在しているNi原子と、このNi原子と最近接原子との原子間距離を示す、ファーストピーク位置を選択する。そして、Cu−Ni−Sn−P系銅合金の耐応力緩和特性向上の観点から、このファーストピーク位置が2.16〜2.35Åの範囲にあることと規定する。
これらCu−Ni−Sn−P系銅合金の、Ni原子周りの動径分布関数の測定は、(財)高輝度光科学研究センター、大型シンクロトロン放射光実験施設SPring−8の産業用専用ビームライン建設利用共同体のサンビームBL16B2のXAFS実験装置にて、透過法による測定を行った。2結晶分光器にはSi( 111) 結晶を採用し、常温でNiのK吸収端測定を行い、Ni原子周りの動径分布関数(RDF)を得た。また、得られたデータ(スペクトル)はカリフォルニア大Thorsten Ressler作のXAFS解析ソフト「WinXAS3.1 」により解析した。
次ぎに、本発明銅合金の成分組成につき、以下に説明する。本発明では、銅合金の成分組成を、前提として、前記した通り、シャフト炉造塊が可能で、その高生産性ゆえに大幅な低コスト化が可能なCu−Ni−Sn−P系合金とする。
Niは、Pとの微細な析出物を形成して、強度や耐応力緩和特性を向上させるのに必要な元素である。0.1%未満の含有では、最適な本発明製造方法によっても、0.1μm 以下の微細なNi化合物量が不足する。このため、Niの効果を有効に発揮させるには、0.1%以上の含有が必要である。
Snは、銅合金中に固溶して強度を向上させる。Sn含有量が0.1%未満では、強度が低下する。一方、3.0%を超えると導電率が低下し、30%IACS以上を達成できない。したがって、Snの含有量は0.1〜3.0%の範囲とする。好ましくは、0.3〜2.0%の範囲とする。
Pは、Niと微細な析出物を形成して、強度や耐応力緩和特性を向上させるのに必要な元素である。0.01%未満の含有ではP系の微細な析出物粒子が不足するため、0.01%以上の含有が必要である。また、特に、圧延方向に対して直角方向の高い耐応力緩和特性を安定的に得るためには、Pは0.04%以上の含有が好ましい。但し、0.3%を超えて過剰に含有させると、Ni−P金属間化合物析出粒子が粗大化し、強度や耐応力緩和特性だけでなく、導電率や曲げ加工性、熱間加工性も低下する。したがって、Pの含有量は0.01〜0.3%の範囲とし、好ましくは0.04%〜0.2%以下の範囲とする。
Fe、Zn、Mn、Si、Mgは、スクラップなどの溶解原料から混入しやすい。これらの元素は、各々の含有効果があるものの、総じて導電率を低下させる。また、含有量が多くなると、シャフト炉で造塊しにくくなる。したがって、30%IACS以上の導電率を得る場合には、各々、Fe:0.5%以下、Zn:1%以下、Mn:0.1%以下、Si:0.1%以下、Mg:0.3%以下とする。言い換えると、本発明では、これら上限値以下の含有は許容する。
本発明銅合金は、更に、Ca、Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Co、Au、Ptを、これらの元素の合計で1.0%以下含有することを許容する。これらの元素は、結晶粒の粗大化を防止する作用があるが、これらの元素の合計で1.0%を越えた場合、導電率が低下して30%IACSを達成できない。また、シャフト炉で造塊しにくくなる。
次に、本発明銅合金の製造方法について以下に説明する。本発明銅合金は工程自体は常法により製造できる。即ち、成分組成を調整した銅合金溶湯の鋳造、鋳塊面削、均熱、熱間圧延、そして冷間圧延と焼鈍の繰り返しにより最終(製品)板を得る。
なお、最終冷延での圧下率は、Ni原子周りの動径分布関数におけるファーストピーク位置(Ni原子と最近接原子との原子間距離)に影響する。最終冷延での圧下率が30%より小さいと、次の焼鈍で、Ni原子周りのCuなどの原子が安定配置に移動する駆動力が不足する。このため、前記ファーストピーク位置が2.16Å未満となりやすく、Cu−Ni−Sn−P系銅合金の耐応力緩和特性が低下する。また、加工による強度の増加量が少ないため、最終板における強度が低くなる。一方、最終冷延での圧下率が80%より大きいと、蓄積ひずみ量が大きくなりすぎて、曲げ性が低下する。
最終冷間圧延後に行う低温焼鈍も、その冷却条件や昇温条件が、Ni原子周りの動径分布関数におけるファーストピーク位置(Ni原子と最近接原子との原子間距離)に、大きく影響する。低温焼鈍自体は、連続焼鈍炉(実体温度300〜500℃で10〜60秒程度)、バッチ焼鈍炉(実体温度200〜400℃で1〜20時間程度)のどちらでも可能である。
前記銅合金薄板から試験片を採取し、試験片長手方向が板材の圧延方向に対し直角方向となるように、機械加工にてJIS5号引張試験片を作製した。そして、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、機械的な特性を測定した。なお、耐力は永久伸び0.2%に相当する引張り強さである。
前記銅合金薄板から試料を採取し、導電率を測定した。銅合金板試料の導電率は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mm の短冊状の試験片を加工し、JIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により導電率を算出した。
前記銅合金薄板の、圧延方向に対して直角方向の応力緩和率を測定し、この方向の耐応力緩和特性を評価した。具体的には、前記銅合金薄板から試験片を採取し、図3に示す片持ち梁方式を用いて測定した。幅10mmの短冊状試験片1(長さ方向が板材の圧延方向に対し直角方向になるもの)を切り出し、その一端を剛体試験台2に固定し、図3(a)に示すように、試験片1のスパン長Lの部分に、d(=10mm)の大きさのたわみ量を与える。このとき、材料耐力の80%に相当する表面応力が材料に負荷されるようにLを決める。これを180℃のオーブン中に30時間保持した後に取り出し、図3(b)に示すように、たわみ量dを取り去ったときの永久歪みδを測定し、RS=(δ/d)×100で応力緩和率(RS)を計算する。なお、180℃×30時間の保持は、ラーソン・ミラーパラメーターで計算すると、ほぼ150℃×1000時間の保持に相当する。
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm、長さ30mmに切出し、曲げ半径0.5mmでGood Way(曲げ軸が圧延方向に直角)曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察した。割れの無いものを○、割れが生じたものを×と評価した。
発明例9〜13は、各々、Fe、Zn、Mn、Si、Mgが、表1の合金番号6〜10の通り、前記した好ましい上限を越えて高い。
発明例14は、Ca、Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Co、Au、Ptの元素の合計が、表1の合金番号11の通り、前記した好ましい上限1.0質量%を越えて高い。
発明例15は、Hf、Th、Li、Na、K、Sr、Pd、W、S、C、Nb、Al、V、Y、Mo、Pb、In、Ga、Ge、As、Sb、Bi、Te、B、ミッシュメタルの合計が、表1の合金番号12の通り、前記した好ましい上限0.1質量%を越えて高い。
比較例22は最終冷延での圧下率が小さ過ぎる。比較例23は、最終冷延後に行う連続焼鈍による低温焼鈍の平均冷却速度が遅過ぎる(小さ過ぎる)。比較例24は、この低温焼鈍の平均昇温速度が遅過ぎる(小さ過ぎる)。比較例25は、最終冷延後の低温焼鈍を省いている。
比較例17の銅合金はNiの含有量が上限を高めに外れている(表1の合金番号14)。このため、強度、導電率、耐応力緩和特性、曲げ加工性が低い。
比較例18の銅合金はSnの含有量が下限を低めに外れている(表1の合金番号15)。このため、強度が低い。
比較例19の銅合金はSnの含有量が上限を高めに外れている(表1の合金番号16)。このため、導電率が低い。
比較例20の銅合金はPの含有量が下限を低めに外れている(表1の合金番号17)。このため、強度、耐応力緩和特性が低い。
比較例21の銅合金はPの含有量が上限を高めに外れている(表1の合金番号18)。このため、強度、導電率、耐応力緩和特性、曲げ加工性が低い。
Claims (4)
- 質量%で、Ni:0.1〜3.0%、Sn:0.1〜3.0%、P:0.01〜0.3%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、XAFS解析法による、Ni原子周りの動径分布関数において、Cu中に存在しているNi原子と、このNi原子と最近接原子との距離を示す、ファーストピーク位置が2.16〜2.35Åの範囲にあることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた銅合金。
- 前記銅合金が、更に、質量%で、Fe:0.5%以下、Zn:1%以下、Mn:0.1%以下、Si:0.1%以下、Mg:0.3%以下とした請求項1に記載の耐応力緩和特性に優れた銅合金。
- 前記銅合金が、更に、Ca、Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Co、Au、Ptの含有量を、これらの元素の合計で1.0質量%以下とした請求項1〜3に記載の耐応力緩和特性に優れた銅合金。
- 前記銅合金が、更に、Hf、Th、Li、Na、K、Sr、Pd、W、S、C、Nb、Al、V、Y、Mo、Pb、In、Ga、Ge、As、Sb、Bi、Te、B、ミッシュメタルの含有量を、これらの元素の合計で0.1質量%以下とした請求項1〜4に記載の耐応力緩和特性に優れた銅合金。
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