JP3748709B2 - 耐応力緩和特性に優れた銅合金板及びその製造方法 - Google Patents

耐応力緩和特性に優れた銅合金板及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気・電子部品用銅合金に関し、さらに詳しくは廉価でかつ耐応力緩和特性に優れた電気・電子部品用銅合金に関する。なお、ここでいう電気・電子部品には自動車車載用ジャンクションブロック通電材料及びその中継部品、端子・コネクタなどの接続部品、ICバーンインソケットのコンタクトピン、スイッチなどの電気接点・摺動部品、モーター・コピードラムなどのブラシ・アース端子などの摺動部品、ダイオード、トランジスター、光電変換素子、サイリスタ、トライアック等の半導体素子用リードフレームも含まれる。
【0002】
【従来の技術】
上記の用途には従来、強度−導電率バランスや廉価であることなどの点からいわゆる黄銅が多用されてきた。しかしながら、例えば近年の自動車エンジン電子制御の進展によって自動車車載用ジャンクションブロック通電材料及びその中継部品、端子・コネクタなどの接続部品にもエンジンルームのような高温環境下で信頼性を確保できる性能が求められるようになってきた。
この高温環境下での信頼性において最も重要な特性のひとつは、接点嵌合力の維持特性、いわゆる耐応力緩和特性である。すなわち銅及び銅合金のばね形状部品に定常の変位を与えた場合、例えばオス端子のタブをメス端子のばね形状をした接点で嵌合しているような場合、これらの接続部品がエンジンルームのような高温環境下に保持されていると、経時とともにその接点嵌合力を失っていくが、それに対する抵抗特性である。
黄銅ではこの耐応力緩和特性が低いという問題があった。
【0003】
これに対して特開平4−154942号公報には耐応力緩和特性に優れるCu−Ni−Sn−P合金が開示されているが、この合金はNi−P金属間化合物を均一微細に分散させて、強度、導電率、ばね限界値、耐応力緩和特性などを向上させる析出型銅合金であった。
コルソン銅合金で知られるCu−Ni−Si合金の析出物であるNi−Si金属間化合物の析出活性化エネルギーが約80kJ/molと比較的高い値であるのに比べると、Ni−P金属間化合物はその析出活性化エネルギーが約25kJ/molと低い。これはNi−P金属間化合物が容易に析出し、さらには凝集粗大化しやすいことをしめしており、特開平4−154942号公報にも、Ni−P化合物の凝集粗大化を防止して、ばね限界値、耐応力緩和特性及び曲げ加工性等の特性を得るためには、熱間圧延の冷却開始、終了温度、その冷却速度、さらにはその後の冷間圧延工程途中で施す5〜720分の熱処理の温度と時間とを厳密に制御する必要性が述べられている。
【0004】
しかしながら、例えば焼鈍の場合では製品の焼鈍炉への挿入に要する時間と昇温に要する時間、さらには5〜720分の保持時間と、製品が不必要な酸化をきたさない温度まで冷却する時間、などを要するために、このような厳密な熱処理工程の制御は生産の非効率性につながり、さらにはそれが製品価格にまで反映されてしまうという問題があった。
一方、特開平5−311288号公報には、P添加量を0.005〜0.5とし、さらに0.005〜0.5のFe,Ni,Coなどを共添してPと金属間化合物を形成せしめ、固溶Pを低減させる方法が開示されている。しかしながら、このような方法では加工・熱処理条件によっては、曲げ加工性やめっき性を劣化させる粗大な金属のりん化合物を形成してしまう可能性が常に残る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、耐応力緩和特性を高めることは、従来は析出硬化やスピノーダル分解硬化など厳密な熱処理を要求される高価な銅合金で実現可能であったが、本発明においては、高度な鋳造あるいは熱処理技術を必要としない固溶型銅合金を用いて、しかもきわめて短時間の焼鈍熱処理で製造可能な廉価で耐応力緩和特性に優れた銅合金を得ることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る耐応力緩和特性に優れた銅合金は、Ni:0.05〜3%、Sn:0.3〜2%、Zn:0.01〜15%、P:0.01%未満、Si:0.01%未満を含有し、さらにCa:0.0001〜0.3%、Mn:0.0001〜0.3%、Mg:0.0001〜0.3%からなる群から選択された1種又は2種以上の成分を総量で0.0001〜0.3%、Pb:0.0005〜0.015%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、不可避不純物のうちBi、As、Sb及びSがそれぞれ個別に0.003%以下、かつこれらの合計が0.005%以下、さらに、O含有量が50ppm以下、H含有量が20ppm以下に制限され、最終冷間圧延後の再結晶までには至らない短時間の安定化焼鈍でセル構造が発現され、その立体的なセル構造を平面に投影した透過型電子顕微鏡像で、その低転位密度領域のセル粒径が結晶粒径の1/1000〜1/2の範囲にあることを特徴とする。この銅合金は、さらにBe、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Hf、Ta、Bの1種又は2種以上を総量で1%以下含むことができる。
【0007】
以上述べた銅合金は、最終製品板厚での板面に平行な方向の結晶粒度が、JIS−H0501で規定する切断法に基づいて観察した場合、材料の長手方向に直角に切り出した断面の板厚中心部で0.5〜20μmの範囲内にあり、かつ長手方向に対し平行に切り出した断面の板厚中心部で5〜300μmの範囲内にあることが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
次に本発明に係る銅合金の添加元素の添加理由について説明する。
(Ni)
Cu中に固溶したNiには応力負荷時の転位の移動速度を減少させる効果がある。従って耐クリープ性を向上させる効果がある。さらには積層欠陥エネルギーが低いCu−Sn合金、Cu−Zn合金あるいはCu−Sn−Zn合金のように、強度−伸びを両立可能で、さらにばね特性と成形加工性に優れるが、転位が交差しにくく直線的に堆積して行くために、転位のセル構造を形成しにくい合金の微細構造を劇的に変化させる効果を持つ。すなわち、上述のような合金の冷間圧延材を再結晶温度未満の温度で短時間焼鈍を行った場合、転位林が再配列をおこし、転位のセル構造を形成する。このようなセル構造形成には最低でもNiは0.05%以上の添加量が必要である。これらの特性の面ではNiはCuに対して全率固溶するので、その添加量は多いほど向上する。
一方、はんだ密着性やSnめっき密着性はNi添加量が増加するにつれて低下する。これははんだあるいはSnめっき中のSnと、Cu合金中のCuあるいはNiなどが、界面で合金層を形成するためである。特に自動車エンジンルーム内のように150℃を超える雰囲気の中ではNiSn合金層の成長速度がCu系合金層の成長速度を上回り、急速にその厚みが増加し、はんだ密着性やSnめっき密着性が低下する。従って、Ni添加量ははんだあるいはSnめっきの密着性を阻害しない3%を上限とする。
なお、板材が作製可能ではんだあるいはSnめっきの密着性低下をもたらさず、かつ耐マイグレーション性を向上させるためにはSnを0.5〜1.5、Znを0.5〜2添加することが望ましいが、これらの組成に対し適正なバランスを保ったNi添加量としては0.1〜2が望ましい。
【0009】
(Sn)
Snの添加は材料の機械的性質の向上、特に耐力と伸びのバランス、成形加工性及びばね限界値の向上に効果があるが、0.3%以下の添加量ではこれらの特性向上に十分な寄与はない。一方、Sn添加量が2を越えるとNi共添下であっても積層欠陥エネルギーが低下して、最終冷間圧延時に材料の異方性が大きくなってしまい、さらには加工硬化が激しくなる。このため、最も廉価な製造法である熱延銅板を冷間圧延し、1回の焼鈍後再び冷間圧延する、いわゆるDouble-Reduce(DR)だけでは製品を作製できず、所定の板厚にするために、さらに1回以上の焼鈍が必要となる。従って、Sn添加量の上限は2%とする。
【0010】
(P)
Pは溶湯中の酸素と結合して昇華していくため、溶湯の脱酸を完全に行い、健全な鋳塊を得るための脱酸材となる。脱酸不足を起こさないためには、0.00001%以上残留しているのが望ましい。これ未満の残留量では後述のSi、Zn、Mg、Ca、Mn等をその添加量上限まで同時に添加しても脱酸不足となりやすい。また、Pは脱酸材としての効果以上に溶湯の湯流れ性向上などの効果も担っている。
一方、Pは0.01%以上添加されると容易にNi−P金属間化合物を析出し、それが凝集粗大化し、製品の機械的特性や曲げ性、あるいはめっき性を阻害する。例えば、前述の特開平4−154942号公報の銅合金(Ni:0.5〜3.0、Sn:0.5〜2.0、P:0.005〜0.20)では、熱間圧延後の冷却過程において700℃以上の温度から300℃以下の温度までの温度域を50℃/分以上の冷却速度で冷却しなければ粗大なNi−P金属間化合物が析出する。また、Ni−P金属間化合物を析出しない範囲での熱処理が行われたとしても、0.01%以上添加されるとはんだ及びSnめっきの剥離現象を引き起こす。従って、Pの添加量は0.01%未満とする。特に0.00001〜0.01%未満が望ましく、より望ましい範囲は0.001〜0.005%である。
【0011】
(Si)
Siは溶解鋳造時に添加されて脱酸材としての効果がある。そのためSiを加えることによって、最終製品での材料特性を劣化させるおそれのあるP残存量をそれだけ低減させることが可能となる。また、Siは脱酸材として添加する場合以外にも再結晶温度を上昇させる効果があるので、0.00001%以上残留させるのが好ましいが、小量であれば母材である本発明合金にはなにも悪影響を与えない。
一方、添加されたSiの大部分は脱酸後の酸化物として溶湯中から除去されるが、固溶分として母材中に残存したSiが0.01%以上あると、はんだ及びSnめっきの白化あるいは剥離を引き起こす。従って、Siは0.01%未満とする。特に0.00001〜0.01%未満が望ましく、より望ましい範囲は0.001〜0.005%未満である。
【0012】
(Zn)
Znの添加ははんだ及びSnめっきの密着性向上に効果がある。これらの特性向上には最低でも0.01%の添加量が必要であり、1%程度の添加量で十分な効果がある。さらに、Znは最終製品の品質低下を招くPに代わって溶湯を脱酸する効果がある。
一方、Znの添加量が多いほど、耐マイグレーション性(塩水、泥水との接触が想定される自動車用端子・コネクタでは特に重要)が向上していくが、5添加でその寄与は飽和する。しかしながら、Znは固溶強化元素として作用するので、その添加量を増加させればそれだけ貴重なSn元素添加量の低減と節約につながる。また、Ni、SnはCuに添加されると導電率を大きく低下させるが、このような元素が添加された合金にZnをさらに添加してもそれによる導電率低下はほとんどない。しかし、15%を越えると酸洗時に合金構成元素のうちZnのみが失われ、あとに多孔質で脆弱なCu及び固溶元素のSn、Niなどが残るいわゆる脱Zn腐食減少が発生する。従って、Znの含有量上限は15%とする。
【0013】
(Mg、Ca、Mn)
これらの元素はいずれも最終製品の品質低下を招くPに代わって溶湯を脱酸する脱酸剤として添加する。これらは単独で添加する場合もあり、より脱酸を確実に行うため共添する場合もあり、いずれの場合もPに代わって脱酸効果を表すには鋳塊の段階で0.0001%以上の残留があれば十分である。この量では製品品質に及ぼす影響はない。
一方、これらの添加元素のうちMgには耐応力緩和特性を向上させる効果があるために、脱酸用以上に添加する場合もあるが、Mgは粒界反応型析出を生じ機械的性質を損ないやすいので、その添加量上限は0.3%とする。CaはMn、Zn、Mg、Pなどの元素に比べるとやや脱酸効果は劣るものの0.0001の添加量があれば十分脱酸には効果がある。しかしながら、0.3を越えて添加されると鋳造時の湯流れが低下し、またザラメ状の組織をもった鋳塊しか得られない。従って、その添加量は0.0001〜0.3%とする。Mnも同じく0.0001の添加量があれば十分脱酸には効果がある。さらに脱酸剤として残留したSi、Pと金属間化合物を形成し、本合金の導電率をさらに向上させる働きがあるが、0.3%を越えて添加されると粗大な晶出物となって最終製品の品質低下を招く。従って、その添加量は0.0001〜0.3%とする。
さらに、これらの元素を2種以上同時に添加して脱酸をより確実に行なう場合でも、その総量が0.3%を越えて添加されると導電率低下を招く。従って、2種以上同時に添加されても、その添加量総量の上限は0.3%とする。
【0014】
(Pb)
Pbの添加には鋳塊面削時のフライス刃の焼き付き防止、摩耗低減、さらには被削性向上に効果がある。ただし、0.0005%以上添加しなければその効果はない。一方、PbはCuには固溶しないため、0.015%を越えて添加されると、結晶粒界に薄膜状に局部析出し、このために熱間圧延時にこの低融点部から粒界割れを起こし鋳塊に割れが発生してしまう。従って、Pbの含有量は0.0005〜0.015とする。特に望ましい範囲は0.0005〜0.001%である。
【0015】
(Be等の選択元素)
Be、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Hf、Ta、Bには銅合金の再結晶温度上昇の効果がある。再結晶は金属多結晶の内部の弾性歪みエネルギーを駆動力として、転位の移動と合体・消滅を生じさせ、結晶粒界の再配列を行なう現象であることから、再結晶温度が上昇するということは、それだけ熱活性化過程における転位の移動を阻害し、耐応力緩和特性を向上させる働きを持つ。
いずれの元素も本合金の製造方法の範囲内であれば、本合金の主要成分であるNi、Snとは金属間化合物をつくらないが、常温付近での固溶限が低い、あるいは酸素との親和力が強いため、これらの元素の1種又は2種以上が総量で1%を越えて添加されていると、溶解鋳造時、熱間圧延時あるいは加工熱処理中に粗大な酸化物を形成したり、粗大な晶出物が発生し、製品中にめっき性、曲げ性を低下させる粗大な晶出物あるいは酸化物が散在してしまう。従って、これらの選択元素の1種又は2種以上の添加量は1%以下とする。
【0016】
(Bi、As、Sb、S)
これらの元素は高温では単体として、あるいは低融点の金属間化合物又は複合酸化物などとして結晶粒界に融出し、加工性を劣化させる有害な不純物である。本発明の請求範囲を越えてこれらの元素が含有されていると、熱間圧延時にこの低融点部から粒界割れを起こし鋳塊に割れが発生してしまう。従って、Bi、As、Sb及びSをそれぞれ個別に0.003%以下、かつこれらの合計が0.005%以下になるように規制する。
【0017】
(H、O)
本発明合金も溶湯の段階では気体元素であるH及びOを吸収している。これらは凝固時に溶湯中から追い出されてくるため、O含有量を50ppm以下でかつH含有量を20ppm以下に規制しておかなければ、鋳造時の湯流れ性や鋳塊鋳肌が劣化する。特にHの残留は、板材への加工まで至ったとしても、途中工程の圧延及び焼鈍で表面にふくれを生じる原因となり、これは製品としての価値を損なう。従って、O含有量を50ppm以下、かつH含有量を20ppm以下に規制する。
【0018】
続いて、本発明に係る銅合金の製造方法、結晶粒度、セル構造等について説明する。
(製造方法)
本合金は最も廉価である製造法、すなわち銅合金熱延板を冷延して、焼鈍後再度冷延する方式を採用することが可能である。本合金の鋳造は大気中の造塊でなんら支障はなく、熱間圧延性も良好で圧延中の割れなどの発生はない。
また、冷間加工性も良好で、冷間圧延工程で割れなどの問題が生じることはない。この銅合金は析出硬化型合金ではないため熱処理に厳密な管理が要求されず、250〜850℃の範囲の温度で10秒以上、5分未満の時間内であれば、中間焼鈍熱処理には既存の焼鈍設備の使用が可能である。より望ましくは連続方式の焼鈍で目的を達成できる。また、中間焼鈍後の最終圧延加工率によって材料の強度向上が得られるが、延性は低下する。このため、通常は必要とされる強度、伸びのバランスによって加工率が決定されるが、この銅合金では耐応力緩和特性を高めるために50〜90%の加工率を採用するのが望ましい。この最終加工の後、さらにばね限界値の向上や延性の回復、耐応力緩和特性向上を目的とする熱処理(安定化焼鈍)を行うこともある。この熱処理方式として250〜850℃の範囲の温度で10秒以上、5分未満の時間内であれば、既存の焼鈍設備の使用が可能である。より望ましくは連続方式の焼鈍で目的とする最終特性を得ることが可能である。
【0019】
(結晶粒度)
本発明に係る銅合金は、最終冷間圧延で製品の板厚及び調質を調整するが、本合金の主眼は耐応力緩和特性向上にある。一方、合金が弾性歪みエネルギーを多く蓄えた不安定状態、すなわち、金属組織的に見て圧延によるその方向に沿ったファイバー状組織を有していると、高温環境下での熱活性化過程によって、その不安定性を解消しようとする再結晶化が始まり、膨大な数の転位の移動が起こり、容易に応力が緩和してしまう。従って、本合金はα単相の再結晶組織を有していなければならない。
【0020】
さらに、端子・コネクター等の曲げ加工あるいは耐応力緩和特性の点から見て少なくとも最終冷間圧延前にはJIS−H0501比較法で規定されている方法で結晶粒度が特定の方向性あるいは偏りを持たず5〜30μmの範囲内にあることが望ましい。ここで再結晶時の結晶粒度下限の5μmは、工業的に実施可能な熱処理範囲内で比較的容易に実現可能な大きさであり、これ以下の結晶粒径も実現可能であるがきわめて短時間に熱処理を終了せねばならず、実用的でない。一方、再結晶時の結晶粒度が30μmを越えるようになると、連続竪型熱処理炉などの工程を通している際に、自重による変形を受け、結晶粒内と粒界でのひずみの相違が発生し、製品表面に肌荒れが発生し、外観、曲げ加工性、製品特性の均一性が劣化する。
そして、この再結晶組織を有する合金はいわゆる焼きなまし状態であるから、その強度は著しく低下しており、その向上をはかり、製品板厚を調整し、かつ多量の転位を蓄積するために加工率50〜90%の最終冷間加工を施す。ゆえに再結晶組織は不可避的に圧延方向に引き伸ばされたラグビーボール形状となる。この場合、最終製品板厚での板面に平行な方向の結晶粒度は、JIS−H0501で規定する切断法に基づき板面に平行な方向に観察した場合、材料の長手方向に直角に切り出した断面の板厚中心部でほぼ0.5〜20μmの範囲内となり、かつ長手方向に対し平行に切り出した断面の板厚中心部でほぼ5〜300μmの範囲内となる。
なお、切断法に基づく結晶粒度の測定は、材料の長手方向に直角に切り出した断面では、線分を板厚中心部において板面に平行に引きその長さを10〜400μm程度とし、長手方向に対し平行(板面に垂直)に切り出した断面では、線分を板厚中心部に板面に平行に引きその長さを100μm〜6mm程度として粒径を測定する(いずれも線分の長さは結晶粒度に応じて適宜選択する)。
【0021】
(セル構造)
固溶型銅合金では、上述の結晶粒径のように光学顕微鏡で観察されるようなマクロ的構造の調整だけでは十分な耐応力緩和特性は得られない。さらに耐応力緩和特性を向上させるためには、透過型電子顕微鏡で観察可能な結晶粒内部の微視的構造の調整があって初めて可能になる。
本発明に係る銅合金を最終板厚まで加工するためには少なくとも一回の焼鈍が必要であり、その際は前述のように再結晶組織を有していなければならない。その再結晶組織を有する材料の質別調整のために、さらに最終冷間加工が施されるが、これで板材内部に、さらに再結晶を進行させようとする弾性歪みエネルギーが蓄積される。この状態での透過型電子顕微鏡像ではセル構造は形成されておらず、全面黒く塗りつぶされた状態となる。これは転位が複雑に絡み合い、その像のコントラストがない状態である。この状態の材料を自動車用端子材として使用し、エンジンルーム付近などの高温の雰囲気にさらすと、この弾性歪みエネルギーを駆動力として多数の転位の絡み合いを一挙に解消させようとする。結果として容易に接点嵌合力を消失してしまう。
【0022】
一方、熱処理により最終冷間加工で導入された転位の絡み合いがほとんど消失した状態、つまり再結晶状態では透過型電子顕微鏡で観察すると微細析出物などを除いて何も写っていない状態であるが、材料はなまされた状態であり、室温で使用されたとしても十分な接点嵌合力が得られない。
しかし、ある適正条件で最終冷間圧延材を熱処理すると、その転位の絡み合いを再配列させることが可能であり、この場合、透過型電子顕微鏡では転位のセル構造が観察される。なお、ここでいうセル構造とは転位密度の高い領域(透過型電子顕微鏡像では黒く写る)に囲まれて転位密度の低い領域(透過型電子顕微鏡像では白く写る)が特定の方向への偏りなく均一で島状に分布した構造のことをいう。このようなセル構造が形成されると、すべり線の移動や転位の消失をブロックする障壁として作用する、すなわち、耐応力緩和特性を向上させる作用がある。
【0023】
この場合、その立体的なセル構造を平面に投影した透過型電子顕微鏡像で、低転位密度領域の粒径が結晶粒径の1/1000未満であると、材料中にはまだ、転位を消失・再配列させて、そのセルサイズを拡大させようとする駆動力が働き、材料中の弾性が減少し、十分な耐応力緩和特性が得られない。一方、その立体的なセル構造を平面に投影した透過型電子顕微鏡像で、その低転位密度領域の粒径が結晶粒径の1/2以上にまで成長すると、すべり線の移動と転位の移動の障壁としては不十分であり、耐応力緩和特性向上までには至らない。さらには、セル構造が亜結晶粒へと変化し始める。この変化が始まると、結晶粒内に高速拡散の経路が多数形成されることになり、結果的にはんだの白化あるいははんだの剥離を引き起こす。
従って、最終冷間圧延後に、再結晶までには至らない短時間の連続焼鈍でセル構造を発現させるとき、その立体的なセル構造を平面に投影した透過型電子顕微鏡像で、その低転位密度領域の粒径が結晶粒径の1/1000〜1/2の範囲になくてはならない。
【0024】
(熱処理条件)
本合金は耐応力緩和特性の向上を主眼としているため、最終冷間圧延前に、最も大きく弾性歪みエネルギーを蓄える熱間圧延からの冷間圧延工程で再結晶をさせておく必要がある。すなわちそのための熱処理が少なくとも一回は必要である。さらにその際の結晶粒径は特定方向に偏りを持たずJIS−H0501比較法で測定して5〜30μmの範囲内になければならないことは先に述べたとおりである。そのためには250〜850℃の範囲内の温度で10秒以上5分未満の再結晶焼鈍を行なわなければならない。この範囲よりも低温あるいは短時間の焼鈍では完全再結晶粒材は得られず、この範囲よりも高温あるいは長時間では再結晶粒が30μmを超えて成長する。さらには脱酸材として残留したP、Si等とNiが金属間化合物を形成し始めるため、Niの固溶分が減少し、耐応力緩和特性が劣化する。
【0025】
一方、最終冷間圧延後にはさらに耐応力緩和特性を向上させ、材料の機械的特性を向上・安定化させるための安定化焼鈍を行なう必要があるが、そのためには250〜850℃の範囲内の温度で10秒以上5分未満で行なわなければならない。この範囲よりも低温あるいは短時間では、最終冷間圧延で導入された多量の転位のもつれあったネットワークをセル構造へと変化させるのに十分ではない。しかし、この範囲よりも高温あるいは長時間では、セル構造が結晶粒径の1/2を超えて成長し耐応力緩和特性が劣化する。さらにははんだ白化あるいは剥離を生じる。従って、冷間圧延工程の途中あるいは最終冷間圧延後に少なくとも一回以上250〜850℃の範囲の温度で10秒以上、5分未満の時間内で熱処理を施す必要がある。
【0026】
【実施例】
次に本発明に係わる電気・電子部品用銅合金の実施例を説明する。実施例1では板材の製造可否について、実施例2では添加元素の作用について、実施例3では熱処理条件、結晶粒度及びセル構造粒度の作用について実証する。
【0027】
(実施例1)
銅合金をクリプトル炉において大気中で木炭被覆下に溶解し、表1〜3に示す組成の鋳塊を得た。ここで鋳造可否を判断した。
次いで800℃〜1000℃で30分保持後、加工率50%〜80%の熱間圧延を施し、厚さ15mmの板材を作製するが、ここで熱延時に割れが発生していないか目視及び蛍光探傷法で判定した。なお、蛍光探傷法は、これらの試験材全面にマークテック株式会社製浸透探傷用蛍光染料スーパーグローDN−2800IIを塗布、水洗・乾燥後、同じく現像剤のスーパーグローDN−600Sをスプレーして現像し、この試験材に紫外線光を照射することによって行なった。
【0028】
続いて、この熱延材を次工程の面削機に導入し、面削機のフライス刃の焼き付きの有無を判断した。このときのフライス刃は台金をクロモリ系鋼とし、フライス刃の部分はタングステンカーバイトの超硬チップを銀ろうにて台金にろう付けしてあり、刃の周速は6M/秒、切削量は1mm/一面である。切削油などは用いない。幅650mm×厚さ18mm×長さ30〜40メートルの薄スラブを全面面削後、フライス刃の表面をSEM観察し、表面の焼き付き状況を調査した。刃表面に切り屑の溶着の痕跡があれば、焼き付きがあったものと判断した。
以上の結果を表4に示す。
【0029】
【表1】
Figure 0003748709
【0030】
【表2】
Figure 0003748709
【0031】
【表3】
Figure 0003748709
【0032】
【表4】
Figure 0003748709
【0033】
表4に示すように、No.1〜8は薄スラブが鋳造可能であり、かつ熱延時の割れなども発生せず、さらに刃表面に切り屑の溶着の痕跡が認められない。すなわち、鋳造及び熱間圧延が可能で、フライス刃の焼き付きが発生せず、その寿命の延長が可能なことが実証できた。
一方、No.9は鋳造可能ではあったが、Pb添加量が過剰で熱間圧延で割れが生じた。No.10はH及びOが過剰で湯流れ性が極端に劣化したため、鋳造を断念した。No.11は鋳造は可能であり、かつ熱間圧延も可能であったが、Pb添加量が少ないためフライス刃の焼き付きを防止できなかった。No.12〜15は鋳造は可能であったが、Bi、As、Sb、Sがそれぞれ単体で過剰であったため、またNo.16は鋳造は可能であったが、Bi、As、Sb、Sの総量が過剰であったため、いずれも熱延時に割れを生じた。No.17は鋳造は可能であったが、脱酸剤Caが過剰であったため、鋳塊鋳肌がザラメ状、つまり、脆弱な多孔質状になったため、この時点でそれ以後の工程は断念した。
【0034】
(実施例2)
銅合金をクリプトル炉において大気中で木炭被覆下に溶解し、表5〜8に示す組成の鋳塊を得た。表5〜8に示す銅合金はPb、Bi、As、Sb、S、H、O、Caがすべて規定の範囲内であるため、鋳塊品質及び熱延性も良好で容易に熱間圧延材が得られた。これらの板材を厚さ2.5mm以下までに冷間圧延するが、ここで冷間圧延性を判断した。次いで本発明に規定する結晶粒度になるように、表9〜10に示す条件で冷間加工と熱処理を組み合わせて実施し、0.25mm厚さの板材を得た。
【0035】
【表5】
Figure 0003748709
【0036】
【表6】
Figure 0003748709
【0037】
【表7】
Figure 0003748709
【0038】
【表8】
Figure 0003748709
【0039】
【表9】
Figure 0003748709
【0040】
【表10】
Figure 0003748709
【0041】
これらの板材に対して、下記の要領で導電率測定、はんだ密着性、粒界反応型析出の有無、晶出物発生の有無、脱亜鉛発生の有無、耐応力緩和特性を実測した。その結果を表11〜表12に示す。
(導電率)
導電率測定はJIS−H0505に規定されている非鉄金属材料導電率測定法に準拠して、横川電機製ダブルブリッジ5752を用いた四端子法で行なった。
(耐力)
例えば自動車用端子材として特に重要視される機械的性質である耐力の測定は、JIS5号で規定される引張り試験片を機械加工にて作製し、島津製作所製万能試験機UH−10Bで引張り試験を実施して測定した。なお、ここで耐力とはJIS−Z2241で規定されている永久伸び0.2%に相当する引張り荷重値である。
【0042】
(はんだ密着性)
はんだ密着性ははんだ白化の有無及びはんだ耐剥離性で評価した。はんだ白化とは通称で、表面まで脆くて電気伝導度が低くはんだ濡れ性に劣る合金層に変化してしまう現象のことを指す。具体的方法は、245℃の60Sn/40Pbのはんだ槽に、予め非活性フラックスを塗布した材料を5秒間浸漬してはんだ付けした後、150℃オーブン中で最大1000時間加熱し、その外観を加熱前のはんだ付けされた供試材と比較し白化の有無を目視で確認した。さらにその後、2mmRで180°曲げた後、平板に曲げ戻し、その際の材料からのはんだの剥離の有無を目視で確認した。
【0043】
(粒界反応型析出物等の有無)
粒界反応型析出の有無は、JIS−H0501で規定される切断法で板材の長手方向に対し平行な断面及び長手方向に対し直角方向断面の結晶粒度を測定する際に同時に行なう。具体的には上述の方向断面が観察できるように研磨用樹脂に埋め込み鏡面研磨仕上げしたあと、クロム酸水溶液及び塩化第二鉄水溶液を用いて結晶粒が明瞭に現れるようにエッチングした後、結晶粒界を倍率200倍以上の光学顕微鏡で観察し、粒界に沿った層状の第2相析出の有無を確認した。
(析出物、酸化物の有無)
析出物等の有無は、板材の長手方向に対して直角な方向の断面について、代表的部位としてその中央及び両端から10mm×10mm×0.25mmの板材を切り出し、長手方向に直角な断面が観察できるように研磨用樹脂に埋め込み、鏡面研磨したあと、EDX−SEMで断面観察を行ない、異物の検出、寸法測定及び組成同定を行なった。30μm×50μmの範囲でさし渡しの長さが1μm以上の寸法を持つ酸化物又は析出物が一個以上ある場合は酸化物又は析出物ありと判断した。
【0044】
(脱Zn腐食)
酸洗時の脱亜鉛腐食発生の有無は、5質量%フッ化水素酸アンモニウム及び20質量%硫酸からなる40℃の酸洗液に、材料を20秒間浸漬したのちの材料断面を200倍の光学式顕微鏡で観察し、脱亜鉛腐食による多孔質部分が形成されていないか判別することによって行った。
(耐応力緩和特性)
耐応力緩和特性は、片持ち梁方式を用いて測定した。具体的には、材料の長手方向から幅10mmの短冊状試験片を切り出し、その一端を剛体試験台に固定し、試験開始時に試験片を10mmそらせ、材料耐力の80%に相当する表面応力が材料に負荷されるようにする。これを160℃のオーブン中に最大1000時間保持し、除荷後の材料のそりLを測定し、初期の弾性範囲内の10mmのそりにどれだけ近づいたのか、その割合R(=(10−L)/10×100(%))を算出する。
【0045】
【表11】
Figure 0003748709
【0046】
【表12】
Figure 0003748709
【0047】
表11〜12に示すように、No.18〜26は、導電率、はんだ密着性が良好で、粒界反応型析出も発生せず、晶出物、脱亜鉛も発生しない。また耐応力緩和特性は良好である。すなわち、例えば自動車用端子材などに好適な耐応力緩和特性に優れた銅合金であることが実証できた。
一方、No.27はNiが過剰に添加されているため、はんだ密着性が低下し、150℃・500時間ではんだが剥離した。No.28はNi添加量が不足するため残存応力が70%に達しなかった。No.29はSnが過剰に添加されたため、板厚3mmまで冷間圧延された時点で展延性が消失し、それ以後の冷間圧延を断念せざるを得なかった。No.30はSn添加量が不足するため十分な耐力が得られない。No.31はZnが過剰に添加されているため脱亜鉛腐食が発生し、板材品質が低下した。No.32はZn添加量が不足するため、はんだ密着性が低下し150℃・500時間加熱ではんだが剥離した。
【0048】
No.33はPが過剰に添加されているが、本発明に規定する熱処理が実施されたために、Ni−P金属間化合物は晶出あるいは析出していない。しかしながら、はんだが150℃・500時間加熱時点で剥離した。No.34はPが検出限界以下であるため脱酸不足となり、Sn酸化物が発生した。No.35はSiが0.01を越えて添加されているが、本発明に規定する熱処理が実施されたために、Ni−Si金属間化合物は晶出あるいは析出していない。しかしながら、はんだが150℃・750時間加熱時点で剥離した。No.36〜40はSiあるいはCa、Mn、Mgが不足して脱酸不足となり、Sn酸化物が発生した。No.41はMgが0.3を越えて添加されたため、粒界反応型析出が発生し品質が低下した。No.42はMnが過剰に添加されたため、粗大なMn−P及びMn−Si晶出物が発生し、品質が低下した。
No.43はMg、Ca、Mnの総量が過剰に添加されたため、導電率が40%IACS未満となり、例えば自動車用端子材として用いられた場合には自己発熱を抑制できず不適であると判断される。No.44はTi、Cr等の選択元素の総量が過剰であったため、材料中にこれら添加元素の晶出物及び酸化物が散在し、板材品質が低下した。
【0049】
(実施例3)
銅合金をクリプトル炉において大気中で木炭被覆下に溶解し、表13に示す組成の鋳塊を得た。表13に示す合金は各成分の添加量がすべて本発明の規定の範囲内であるため、鋳塊品質及び熱延性も良好で容易に熱間圧延材が得られた。また冷間圧延性も良好である。これらの板材について、表14に示す条件で冷間加工と熱処理を組み合わせて実施し、0.25mm厚さの板材を得た。
【0050】
【表13】
Figure 0003748709
【0051】
【表14】
Figure 0003748709
【0052】
次いで、これらの板材に対して、前記要領で結晶粒径、導電率、はんだ密着性、耐力及び耐応力緩和特性を実測し、また下記要領で曲げ加工性及びセル構造サイズを実測した。その結果を表15〜表16に示す。
(曲げ加工性)
CESM0002金属材料W曲げ試験方法に規定されているB型曲げ治具で、幅10mm、長さ35mmに加工した供試材を挟み、島津製作所製万能試験機RH−30を使って1tonの荷重で曲げ加工を行って測定した。上記曲げ治具の曲げ半径を0.25mmとし、供試材の曲げ部が割れ等を呈していないかどうかルーペで検鏡し、曲げ加工性を判別した。
【0053】
(セル構造サイズ)
セル構造サイズ(セル粒径)の測定は、板材をりん酸10mlと無水クロム酸1gの比率の電解研磨液で電解研磨して薄膜を形成、歪みを与えないようにさらにこの薄膜から小片を切り出し、この薄膜試験片の透過電子顕微鏡写真を撮影する。加工・熱処理条件に応じて撮影倍率は1000倍から10万倍まで変化させた。この際、セル構造が形成されているならば、黒い多数の転移線に囲まれて白い低転位密度領域が島状に点在する。この領域に内接する円を描き、この円の直径の平均値をセル構造サイズとして測定した。この値を、材料長手方向に直角に切り出した断面の結晶粒径と比較した。
【0054】
【表15】
Figure 0003748709
【0055】
【表16】
Figure 0003748709
【0056】
表15〜16に示すように、本発明に規定する冷間加工及び熱処理を行ったNo.45〜48は、結晶粒径、セル構造のサイズが規定の範囲内となり、耐応力緩和特性、はんだ密着性、曲げ加工性も良好である。すなわち、例えば自動車用端子材などに好適な、耐応力緩和特性に優れた銅合金であることが実証された。
一方、No.49は冷間圧延途中の熱処理の温度及び時間が本発明の規定を越えるため、結晶粒径が粗大化し、曲げ加工性が劣化した。No.50は冷間圧延途中の熱処理温度が本発明の規定を下回り、再結晶が起こらず、自動車用端子材等として不適であると判断される。比較例No.51は冷間圧延途中の熱処理時間が本発明の規定を越えるため、結晶粒径が粗大化し、曲げ加工性が劣化した。No.52は冷間圧延途中の熱処理時間が本発明の規定を下回り、再結晶が起こらず、自動車用端子材等として不適であると判断した。
【0057】
No.53はセル構造が形成されておらず、耐応力緩和特性が劣る。これは冷間圧延後、転位再配列のための低温焼鈍がなされなかったためである。No.54はセル構造サイズが本発明の規定よりも小さく、耐応力緩和特性が劣る。これは最終冷間圧延後の熱処理時間が短すぎたためである。No.55はセル構造サイズが本発明の規定より小さく、耐応力緩和特性が劣る。これは最終冷間圧延後の熱処理温度が低すぎたためである。No.56はセル構造サイズが本発明の規定より大きい。これは最終冷間圧延後の熱処理時間が長すぎたためである。そのため亜結晶粒が明瞭に形成され始め、はんだ密着性を低下させるP、Siなどの拡散が活発になり、150℃・500時間加熱時点ではんだが剥離する。また耐応力緩和特性が劣る。No.57は冷間圧延途中の焼鈍が本発明の規定を外れ、低温焼鈍もないため、セル構造が形成されておらず耐応力緩和特性が劣る。
【0058】
【発明の効果】
本発明に係わる電気・電子部品用銅合金は、はんだ密着性などを劣化させるりん添加量を最小限にとどめ、かつきわめて廉価かつ生産性良く製造できることが特徴であり、その機械的性質、導電率及び耐応力緩和特性は黄銅よりもはるかに優れ、特に自動車用配線材料用銅合金としての品質を全て満足するという優れた効果を有している。

Claims (4)

  1. Ni:0.05〜3%(質量%、以下同じ)、Sn:0.3〜2%、Zn:0.01〜15%、P:0.01%未満、Si:0.01%未満を含有し、さらにCa:0.0001〜0.3%、Mn:0.0001〜0.3%、Mg:0.0001〜0.3%からなる群から選択された1種又は2種以上の成分を総量で0.0001〜0.3%、Pb:0.0005〜0.015%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなり、不可避不純物のうちBi、As、Sb及びSの含有量がそれぞれ個別に0.003%以下、かつこれらの合計が0.005%以下、さらに、O含有量が50ppm以下、H含有量が20ppm以下であり、最終冷間圧延後の再結晶までには至らない安定化焼鈍でセル構造が発現しており、その立体的なセル構造を平面に投影した透過型電子顕微鏡像で、その低転位密度領域のセル粒径が材料の長手方向に直角に切り出した断面の結晶粒径の1/1000〜1/2の範囲にあることを特徴とする耐応力緩和特性に優れた銅合金
  2. Be、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Hf、Ta、Bの1種又は2種以上を総量で1%以下含むことを特徴とする請求項1に記載された耐応力緩和特性に優れた銅合金
  3. 最終製品板厚での板面に平行な方向の結晶粒度が、材料の長手方向に直角に切り出した断面の板厚中心部で0.5〜20μmの範囲内にあり、かつ長手方向に対し平行に切り出した断面の板厚中心部で5〜300μmの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載された耐応力緩和特性に優れた銅合金
  4. 請求項1又は2に記載された銅合金に対し、熱間圧延後、冷間圧延工程の途中で1回以上250〜850℃の範囲の温度で10秒以上、5分未満の時間内で熱処理して再結晶させ、さらに最終冷間圧延後に、少なくとも1回以上250〜850℃の範囲の温度で10秒以上、5分未満の時間内で安定化焼鈍を施すことを特徴とする耐応力緩和特性に優れた銅合金の製造方法。
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