JP2007092164A - 伸線性と疲労特性に優れた鋼線材およびその製造方法 - Google Patents

伸線性と疲労特性に優れた鋼線材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】伸線性と疲労特性の可及的に高められた鋼線材と、該鋼線材を製造するための有用な方法を提供する。
【解決手段】溶鋼処理時のガス撹拌におけるガス流量を、溶鋼1トンあたり0.0005Nm3/min以上0.004Nm3/min以下とすることによって、規定の成分組成を満たすと共に、鋼線材の軸心線を含む任意の断面に存在する下記X組成を満たす圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物であって、下記A組成の上記酸化物系介在物が1個以上20個以下で、かつ下記B組成の上記酸化物系介在物が1個未満である鋼線材を得るようにする。
A組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
20%≦CaO≦50%、かつAl23≦30%
B組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
CaO>50%
【選択図】図4

Description

本発明は、伸線性と疲労特性に優れた鋼線材およびその製造方法に関するものであり、特に、硬質で延性の極めて小さい非金属系介在物が低減されて伸線性と疲労特性の高められた鋼線材と、該鋼線材を製造するための有用な方法に関するものである。
鋼線材中に、硬質で延性の極めて小さい非金属系介在物(特に酸化物系介在物、以下、単に「介在物」ということがある)が存在すると、タイヤコード等の様な極細鋼線にまで伸線する工程で、上記非金属系介在物が断線の原因となる。また上記鋼線材をばねの製造に適用すると、得られる製品(ばね)に繰り返し応力が負荷する状態で上記非金属系介在物が疲労破壊の起点となり得る。従って、鋼線材の製造過程で、上記非金属介在物を極力低減するか若しくは軟質化により延性を高めて無害化することが重要となる。
鋼線材中に存在する非金属介在物の軟質化・延性化を図るという観点から、これまでにも様々な技術が提案されている。例えば特許文献1〜3には、鋼中の非金属介在物組成をある範囲に制御することによって、該介在物の軟質化・延性化を図る方法が示されている。具体的に特許文献1には、圧延鋼材のL断面において、全酸化物系介在物に対し、厚み5μm以下の酸化物系介在物の個数を所定範囲に制御すれば、疲労特性を確保できる旨示されている。しかし、上記厚み5μm以下の酸化物系介在物の個数は、圧延鋼材のL断面において80%以上との割合でしか規定されておらず、疲労特性を確実に高めるには更なる改善を要するものと考えられる。
特許文献2には、圧延鋼材のL断面において検出される非金属介在物のうち、長径(L)と短径(D)の比L/Dが5超で、かつDが10μm以上である非金属介在物の80%以上が、CaO:10〜40%、SiO2:30〜50%、MnO:1〜5%、Al23:1〜10%、Na2O:5〜20%であるものが規定されているが、該技術では粗大な介在物のみを制御の対象としており、また上記組成は、存在する非金属介在物の平均組成でしか示されておらず、伸線性等を確実に高めるには更なる検討が必要であると思われる。
また特許文献3には、圧延鋼材のL断面において、長さ(l)と幅(d)の比がl/d≦5の非金属介在物の平均組成がSiO2:30〜50%、Al23:1〜10%、CaO:50%以下、MgO:25%以下からなることを特徴とする冷間加工性および疲労特性の優れた高清浄度鋼が開示されている。しかし該技術においても、非金属介在物の組成は平均組成でしか制御されておらず、疲労特性を確実に高めることは難しいと考える。
一方、特許文献4〜7および非特許文献1には、溶鋼精錬時のスラグ組成をある範囲に制御し、溶鋼とスラグを撹拌して接触混合することにより、軟質で延性を示す介在物に改質する方法が示されている。介在物制御には溶鋼とスラグとを接触させるための方法も重要であると考えられるが、上記特許文献4や特許文献5には該方法について具体的に示されていない。また非特許文献1には、CaO−SiO系でCaO/SiO2が0.8〜1.2のスラグを用いて溶鋼処理を行うことにより、非延性の介在物が減少することが示されている。しかし溶鋼処理方法、すなわちスラグと溶鋼の接触混合方法が適切でなければ、該介在物を十分に減少させることは難しい。特許文献6や特許文献7には、精錬時に吹き込むガス流量を制御することが記載されているが、いずれも該ガス流量が高く、スラグ起因の介在物が生成され易いものと考えられる。
特許第3504521号公報 特開2003−49244号公報 特公平6−74485号公報 特許第1278664号公報 特開平4−272119号公報 特開2000−212636号公報 特開平10−102132号公報 第182・183回西山記念技術講座「介在物制御と高清浄度鋼製造材技術」、(社)日本鉄鋼協会編、2004年、第138頁)
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、硬質な非延性介在物が低減されて伸線性と疲労特性の高められた鋼線材と、該鋼線材を製造するための有用な方法を提供する。
本発明に係る伸線性と疲労特性に優れた鋼線材とは、
C:0.4〜1.3%(質量%の意味、鋼成分について以下同じ)、
Si:0.1〜2.5%、
Mn:0.2〜1.0%、
Al:0.003%以下(0%を含まない)を含み、
残部Feおよび不可避不純物であり、
鋼線材の軸心線を含む断面に存在する、圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物が、下記X組成を満たす鋼線材において、
X組成:Al23+MgO+CaO+SiO2+MnO=100%(質量%の意味、 介在物について以下同じ)とした場合に、
Al+CaO+SiO2≧70%
下記A組成を満たす上記酸化物系介在物が、上記鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり1個以上20個以下であり、かつ下記B組成を満たす上記酸化物系介在物が、上記鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり1個未満であるところに特徴を有する。
A組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
20%≦CaO≦50%、かつAl23≦30%
B組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
CaO>50%
上記鋼線材は、更に他の元素として、
(a)Ni:0.05〜1%や、
(b)Cu:0.05〜1%および/またはCr:0.05〜1.5%、
(c)Li:0.02〜20ppm、Na:0.02〜20ppm、Ce:3〜100ppm、およびLa:3〜100ppmよりなる群から選択される1種以上
を含むものであってもよい。
本発明は、上記鋼線材の製造方法も規定するものであって、該製造方法は、溶鋼処理時のガス撹拌におけるガス流量を、溶鋼1トンあたり0.0005Nm3(Nはnormalの意;298K、10Paでの体積をいう。以下同じ)/min以上0.004Nm3/min以下とするところに特徴を有する。
尚、上記「鋼線材」とは、熱間圧延後であって伸線加工前のものをいい、伸線加工により得られる「鋼線」とは区別される。
本発明によれば、鋼線材中の硬質な非延性介在物が低減されて、伸線時に優れた伸線性を発揮すると共に、優れた疲労特性を具備する鋼線材が得られ、タイヤコードといった高強度極細線や、高い疲労特性の要求されるばね等の製造に最適な鋼線材を、効率よく提供できる。
本発明者らは、伸線性と疲労特性のより優れた鋼線材、および該鋼線材を得るための製造方法を確立すべく鋭意研究を行った。
上記伸線性と疲労特性のより優れた鋼線材を得るには、該鋼線材中の介在物の形態を制御することが有効であるが、本発明では、従来技術の様に存在する介在物の平均組成ではなく、個々の介在物のサイズ・組成を把握して、一定サイズ・組成の介在物個数を制御すれば、伸線性と疲労特性をより確実に高めうることを見出した。以下、本発明で規定する介在物形態とその規定理由について詳述する。
まず本発明では、鋼線材の軸心線を含む断面に存在する圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物を制御対象とする。圧延方向に垂直な幅が2μmより小さい介在物は、鋼線材の伸線性や疲労寿命に影響を及ぼさないからである。
また本発明の鋼線材は、脱酸用元素に起因するSiO2や、装入金属原料等に含まれるAlに起因のAl23が存在する溶鋼を、スラグ精錬時にCaO−SiO2−Al23系スラグと混合させることにより精錬させて得られるものである。従って、鋼線材中の酸化物系介在物は、CaO、SiO2およびAl23の3成分を主とするものであり、酸化物系介在物中のMgOは溶鋼耐火物に起因し、MnOは溶鋼成分として添加されるMnに起因するものであって、これらMgOやMnOは介在物中に不可避的に混入する。また、上記酸化物系介在物を構成し得るその他の成分(TiO2やZrO2等)の存在量は微々たるものである。
そこで上記態様で製造される鋼線材の軸心線を含む断面に存在する、圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物が、上記の通りCaO、SiO2およびAl23の3成分を主とするものであって、本発明では該酸化物系介在物を制御対象とすることを明確にするため、上記酸化物系介在物が、下記X組成を満たすものであることを前提とした。
X組成:Al23+MgO+CaO+SiO2+MnO=100%(質量%の意味) とした場合に、
Al23+CaO+SiO2≧70%
そして本発明では、上記X組成の酸化物系介在物の詳細な組成(即ち、Al23、CaO、SiO2の組成比)と、伸線性および疲労特性との関係について検討を行った。
その結果、
・下記A組成を満たす上記酸化物系介在物(この様に、X組成を満たす上記圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物のうち、A組成を満たす酸化物系介在物を、以下、単に「A組成介在物」ということがある)が、鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり1個以上20個以下であると共に、
・下記B組成を満たす上記酸化物系介在物(この様に、X組成を満たす上記圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物のうち、B組成を満たす酸化物系介在物を、以下、単に「B組成介在物」ということがある)が、鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり1個未満であるものが、特に伸線性と疲労特性に優れていることを見出した。
A組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
20%≦CaO≦50%、かつAl23≦30%
B組成:Al+CaO+SiO=100%とした場合に、
CaO>50%
図1は、A組成介在物の個数(鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり)と後述する実施例1の伸線工程での断線回数(鋼線材10tあたりの断線回数)との関係を示したものである。この図1から、鋼線材10tあたりの断線回数を10回以下に抑制するには、A組成介在物の上記個数を20個以下(好ましくは15個以下)に抑える必要があることがわかる。20個を超えると、介在物のサイズが小さくても伸線性や疲労寿命に少なからず悪影響を及ぼすからである。また図1から、A組成介在物の上記個数が少なくても鋼線材10tあたりの断線回数が急激に増加することがわかる。これは、A組成介在物の個数が少ないことは、硬質な介在物が多く存在していることを意味するためと考えられる。本発明では、上記鋼線材10tあたりの断線回数を10回以下に抑えるべく、A組成介在物の上記個数を1個以上(好ましくは2個以上)とした。
また図2は、A組成介在物の個数(鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり)と後述する実施例2の疲労試験時の折損率との関係を示したものである。この図2から、疲労試験時の折損率を60%以下に抑制するには、上述の通りA組成介在物の上記個数を20個以下(好ましくは15個以下)に抑える必要があることがわかる。一方、A組成介在物の上記個数が少なくても疲労試験時の折損率が急激に増加する。このことから、A組成介在物の個数は、上記疲労試験時の折損率を60%以下に抑えて疲労特性を確保する観点からも1個以上(好ましくは2個以上)とする必要があることがわかる。
本発明では、硬質なB組成介在物を抑制する。図3は、B組成介在物の個数と上記疲労試験時の折損率との関係を示したものであるが、該B組成介在物が、鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたり1個以上になると、上記疲労試験時の折損率が60%を超えることがわかる。
上記B組成介在物が生成する主因は、溶鋼処理の前工程(例えば転炉等)から持ち越されたCaOであり、溶鋼処理を適切に行わなければ、該CaOを主成分とするB組成介在物が鋼線材に残存する。該B組成介在物は、そのサイズが5μm以下であっても疲労寿命を低下させるので極力低減する必要がある。従って本発明では、上記B組成介在物の個数を1個未満(好ましくは0.7個以下)とする。
本発明の鋼線材は、成分組成のうち特にAl量が下記に示す通り抑制されたものであって、C、Si、Mnは、下記に示す通り一般的なスチールコード等の伸線加工用鋼材やばね用鋼並みに含まれるものである。該鋼線材は、更なる強度向上等の効果を付与すべく、NiやCu、Cr、Li、Na、Ce、Laを積極的に含むものであってもよい。
<C:0.4〜1.3%>
Cは、強度の向上に有用な元素であることから0.4%以上含有させる。好ましくは0.5%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が脆化して伸線性が損なわれるので1.3%以下(好ましくは1.2%以下)に抑える。
<Si:0.1〜2.5%>
Siは、脱酸作用を有する元素であり、該作用を発揮させるには0.1%以上含有させる必要がある。好ましくは0.2%以上である。但しSi量が過剰になると、脱酸生成物としてSiOが多く生成し伸線性が損なわれるので、2.5%以下(好ましくは2.3%以下)に抑える。
<Mn:0.2〜1.0%>
Mnは、Siと同様に脱酸作用を有すると共に、介在物制御作用を有する元素である。これらの作用を有効に発揮させるべくMnを0.2%以上(好ましくは0.3%以上)含有させる。一方、Mn量が過剰になると、鋼材が脆化して伸線性が損なわれるので1.0%以下(好ましくは0.9%以下)に抑える。
<Al:0.003%以下(0%を含まない)>
Alは介在物制御に有用な元素であり0.001%程度は必要である。しかし、Al含有量が多くなると介在物中のAl23濃度が高くなり、断線の原因となる粗大Al23が生成する可能性があるので、0.003%以下(好ましくは0.002%以下)に抑える。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄及び不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。更に、下記元素を積極的に含有させて特性を一段と高めることも有効である。
<Ni:0.05〜1%>
Niは、伸線材の靭性を高める効果を発揮する元素であり、該効果を発揮させるには、0.05%以上含有させることが好ましく、より好ましく0.06%以上である。しかしNiを過剰に含有させても上記効果は飽和するだけであるので、1%以下(より好ましくは0.9%以下)とすることが好ましい。
<Cu:0.05〜1%および/またはCr:0.05〜1.5%>
Cu、Crは鋼線の高強度化に寄与する元素であり、Cuは、析出硬化作用により鋼線の強度を高めるのに有用な元素である。Cuの上記効果を発揮させるには、0.05%以上含有させることが好ましく、より好ましく0.06%以上である。しかしCuを過剰に含有させると、結晶粒界に偏析し、鋼材の熱間圧延工程で割れやキズが発生し易くなるので、1%以下(より好ましくは0.9%以下)とすることが好ましい。
Crは、伸線加工時における加工硬化率を高める作用があり、比較的低い加工率でも容易に高強度を確保できる。しかもCrは鋼の耐蝕性を高める作用も有しており、例えばタイヤ等のゴム補強材(極細鋼)に用いられる場合、該極細鋼の腐食を抑制する上でも有効に作用する。これらの効果を発揮させるには、Crを0.05%以上含有させることが好ましく、より好ましく0.06%以上である。しかしCr量が過剰になると、パーライト変態に対する焼入性が高くなり、パテンティング処理が困難となる。更に二次スケールが著しく緻密になりメカニカルデスケーリング性および酸洗性が劣化する。よってCr量は1.5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1.4%以下である。
<Li:0.02〜20ppm、Na:0.02〜20ppm、Ce:3〜100ppm、およびLa:3〜100ppmよりなる群から選択される1種以上>
これらの元素は、鋼中の非金属介在物をより軟質化する作用を有する。該効果を発揮させるには、Liの場合0.02ppm以上(より好ましくは0.03ppm以上)、Naの場合0.02ppm以上(より好ましくは0.03ppm以上)、Ceの場合3ppm以上(より好ましくは5ppm以上)、Laの場合3ppm以上(より好ましくは5ppm以上)含有させることが好ましい。しかし上記元素を過剰に入れても効果は飽和するだけであるので、Li、Naはそれぞれ20ppm以下(より好ましくは10ppm以下)に抑えるのがよい。またCe、Laはそれぞれ100ppm以下(より好ましくは80ppm以下)に抑えるのがよい。
本発明者らは、上記A組成介在物が1個以上20個以下で、かつ上記B組成介在物が1個未満である鋼線材を得るには、特に、取鍋精錬においてスラグと溶鋼とを撹拌させる際のガス流量を制御すればよいことも見出した。
従来より、適切な組成のスラグを用いた溶鋼処理を施すことにより、鋳片中または鋼片中の介在物は、熱間圧延または伸線の際に軟質化し延伸し易くなることが知られている。しかし上述した通り、溶鋼処理、すなわちスラグと溶鋼の接触混合方法が適切でなければ、非延性の介在物を十分に低減させることは難しい。
本発明者らは、介在物の形態に影響を与える溶製時の様々な製造条件のうち、取鍋精錬においてスラグと溶鋼を撹拌させる際の撹拌ガス流量(以下、単に「ガス流量」ということがある)について、介在物形態との関係を調べた。具体的には、ガス流量を変えて5.5mmφの線材を製造し、上記A組成介在物またはB組成介在物の個数(軸心線を含む断面100mm2あたり)を測定し(その他の製造条件、およびA組成介在物とB組成介在物の個数測定方法は、後述する実施例1と同じ)、上記ガス流量と、上記A組成介在物またはB組成介在物の個数との関係を整理した。その結果を図4に示す。
この図4より、ガス流量が溶鋼1トンあたり0.0005Nm/min未満の場合には、上記A組成介在物が非常に少なく、上記B組成介在物が著しく増加することがわかる。これは、上記ガス流量では、スラグ−溶鋼間の接触が弱いため、脱酸過程で生じたSiOやAl23を多く含む硬質の介在物の他に、溶鋼処理の前工程から持ち越されたCaOを多く含む介在物が多く残存するためと思われる。
本発明では、上記の通りガス流量を、溶鋼1トンあたり0.0005Nm3/min以上にしてスラグと溶鋼を混合させることにより、溶鋼処理の前工程(例えば転炉等)から持ち越されたCaOを多く含む介在物や、溶鋼の脱酸過程で生成したSiO2またはAl23を多く含有する硬質の介在物を、軟質なA組成介在物に改質することができる。
上記A組成介在物を確保して上記B組成介在物の個数を確実に低減させるには、ガス流量を、溶鋼1トンあたり0.0006Nm3/min以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0007Nm3/min以上である。
上記ガス流量が増加すると、これに比例して上記A組成介在物が増加し、相対的にB組成介在物が低減するため好ましいが、上記A組成介在物は軟質であるとはいえ、過剰に存在すると伸線性や疲労強度を低下させる。また上記ガス流量が増加すると、ガス撹拌中の取鍋耐火物の損耗が顕著になり操業上好ましくないばかりでなく、溶鋼中に混入し製品に悪影響を与える。従って上記ガス流量は、溶鋼1トンあたり0.004Nm3/min以下に抑える。好ましくは0.0035Nm3/min以下であり、より好ましくは0.003Nm3/min以下である。
上記撹拌に用いるガスの種類は特に限定されないが、溶鋼と反応を起こさず比較的安価に入手できるアルゴンが適当である。また、ガスの吹き込み方法についても限定されず、溶鋼上部から吹き込む方法や取鍋の底部や側面部から吹き込む方法を採用することができる。
上記スラグとしては、前記特許文献4〜6に開示の様にフラックスを添加してCaO−SiO2−Al23系スラグとすればよく、例えばCaOとSiOが、CaO:35〜55質量%、SiO2:45〜65質量%の割合で混合されたフラックスを添加したり、スラグを、後述する実施例の様な組成とする他、特許文献6に記載の様なCaO/SiO2:0.6〜1.2、Al23:2〜10質量%、CaF2:30質量%以下(0%を含む)、NaF:10質量%以下(0%を含む)を満たすものとすればよい。
本発明の鋼線材は、断面直径が3〜10mmのものであり、例えば伸線工程で高い伸線性の要求されるタイヤコード、ピアノ線等の極細高強度鋼線の製造に有用である。また高い疲労特性の要求されるばね、ワイヤー等の製造に有用である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
<実施例1:伸線性の評価>
溶銑予備処理工程において、Pを0.007〜0.020%、Sを0.002〜0.01%にまで低下させた各種溶銑:240tを、冷銑:0〜5tおよび/または屑鋼:0〜4tとともに転炉に装入した。このとき、溶銑、冷銑および屑鋼は、これらの全鉄源の平均P濃度が0.020%以下となるように配合した。転炉にて、所定の濃度にまで脱C吹錬し、その後、取鍋へ出鋼し、取鍋加熱精錬装置にて成分調整(成分については下記表1参照)とスラグ精錬を実施した。尚、取鍋精錬時のスラグは、CaO/SiO2=0.7〜1.7、Al23=4〜25%のCaO−SiO2−Al23系である。また、取鍋精錬時の撹拌ガスにはArを用い、その流量を溶鋼1tあたり0.0003〜0.012Nm3/minの範囲で変化させた。ガス撹拌時間はいずれも15分以上とした。
上記取鍋精錬に引き続いて連続鋳造を行い、断面が600mm×380mmの鋳片を得た。連続鋳造におけるタンディッシュ内へのパージ用Arガス流量を、溶鋼の再酸化による介在物の総量増加や組成変化を防止する目的で、タンディッシュ内の溶鋼1tあたり0.04〜0.10Nm3/minとした。そして、この鋳片を、1260℃に加熱し、断面が155mm角となるまで分塊圧延を行った後、更に熱間圧延を施して5.5mmφの線材を得た。
得られた鋼線材中の介在物の組成、大きさおよび個数は次の様にして調べた。即ち、得られた線材の軸心を含む断面を観察できるよう切断した後、該断面の全領域(観察面積:108〜280mm2)をEPMA[Electron Probe MicroAnalyzer,日本電子社製(JXA−8000シリーズ)]で観察し、該断面に存在する圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物が、それぞれ下記X組成を満たすものであることを下記に詳述する方法で確認した上で、上記圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物のうち、下記A組成を満たす介在物の個数、および下記B組成を満たす介在物の個数を、それぞれ下記に詳述する方法で計測し、鋼線材の軸心線を含む断面100mm2あたりの個数に換算した。尚、5μmを超える上記酸化物系介在物の存在は極めて少ないため、2μm以上5μm以下の酸化物系介在物を観察対象とした。これらの結果を表1に併記する。
X組成:Al23+MgO+CaO+SiO2+MnO=100%(質量%の意味、
介在物について以下同じ)とした場合に、
Al23+CaO+SiO2≧70%
A組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
20%≦CaO≦50%、かつAl23≦30%
B組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
CaO>50%
上記介在物組成、大きさおよび個数の定量には、上記EPMAにNoran&Reeds社製の自動画像解析装置を組み合わせたものを用いた。観察倍率は500倍(直径2〜5μmの物体が、直径1〜2.5mmで観察される程度)とし、1視野を300μm×300μmとして1200〜3000視野(観察面積が108〜280mm)を観察した。定量分析は、倍加速電圧:20kV、試料電流:0.01μAの条件で特性X線のエネルギー分散分光により行った。定量対象元素は、Al、Mn、Si、Mg、Ca、Ti、Zr、K、Na、S、Oとした。定量方法は、上記元素濃度が既知の物質のX線強度を測定して、X線強度と元素濃度の関係を検量線として予め作成し、該検量線を用いて観察対象介在物のX線強度から各元素の存在濃度を求めた。そしてAl、Mn、Si、Mg、Ca、Ti、Zr、K、Na、Sの各々の元素が、Al23、MnO、SiO2、MgO、CaO、TiO2、ZrO2、KO、Na2O、Sの形で存在すると仮定し、上記定量により求めた各元素濃度を基に、介在物中のAl23、MnO、SiO2、MgO、CaO、TiO2、ZrO2、K2O、Na2O、Sの存在濃度を算出した。そして上記A組成またはB組成に該当するかを判断した上で各組成の介在物の個数を求めた。その結果を上記鋼線材の化学成分組成を示した表1に併記する。
尚、上記介在物形態の詳細な測定結果の一例として、表1に示すNo.3の測定結果を表2に、またNo.7の測定結果を表3に示す。その他の例についても同様の測定を行った。
次に、タイヤコードに適用した場合の伸線性を下記要領で評価した。
[評価方法]
5.5mmφ→0.2mmφへ伸線時の断線回数
[伸線方法]
上記5.5mmφの鋼線材の酸化皮膜を塩酸で除去した後、連続伸線機(昭和機械社製:型式 CD−610−7+BD610)で1.2mmφまで乾式伸線を行った。この伸線工程で用いた伸線ダイスの径は、4.8、4.2、3.7、3.26、2.85、2.5、2.2、1.93、1.69、1.48、1.3(いずれも単位:mm)である。また1.2mmφでの線引き速度は400m/minである。伸線に際し、線材の表面には、予めリン酸亜鉛の皮膜処理を行い、潤滑剤はステアリン酸ナトリウム主体のものを用いた。
1.2mmφまで伸線した線材は、1230Kまで加熱した後、830Kの鉛浴中でパテンティング処理を施し、微細パーライト組織としたのち、Cu:Zn=7:3(質量比)のブラスめっき(膜厚:約1.5μm)を行った。そして最後に、湿式伸線機(KOCH社製:型式KPZIII/25−SPZ250)を用いて、0.2mmφとなるまで引き抜き加工を行った。線引き中の浸漬浴は、水を75質量%含み、天然脂肪酸、アミン塩、界面活性剤を混合させた溶液を用いた。この伸線工程で用いた伸線ダイスの径は、1.176、0.959、0.880、0.806、0.741、0.680、0.625、0.574、0.527、0.484、0.444、0.408、0.374、0.343、0.313、0.287、0.260、0.237、0.216(いずれも単位:mm)である。また0.2mmφでの線引き速度は500m/minである。
これらの結果を上記表1に併記する。
Figure 2007092164
Figure 2007092164
Figure 2007092164
表1から次のように考察することができる(尚、下記のNo.は、表1中の実験No.を示す)。
No.1〜10は、本発明の規定を満たしているので、伸線加工時の断線回数が少なく伸線性に優れていることがわかる。これに対しNo.11〜15は、本発明の規定を満たしていないので、伸線加工時の断線回数が多く、伸線性に劣る結果となった。詳細には、No.11,12は、A組成の介在物が不足し、B組成の介在物が存在するため、優れた伸線性を確保できなかった。No.13〜15は、A組成の介在物が過剰に存在するため伸線性に劣っている。
<実施例2:疲労特性の評価>
上記実施例1と同様に、溶銑予備処理、転炉操業、スラグ精錬、連続鋳造、分塊圧延および熱間圧延を行って8mmφの線材を得た後、得られた線材の介在物組成、大きさおよび個数の測定を、上記実施例1と同様の方法で測定した。尚、介在物形態の詳細な測定結果の一例として、No.18の測定結果を表5に、またNo.22の測定結果を表6に示す。その他の例についても同様の測定を行った。
次に、ばねに適用した場合の疲労特性を下記要領で評価した。
[評価方法]
8.0mmφの鋼線材の中村式回転曲げ疲労試験
[試料の調製方法および試験方法]
8.0mmφの線材に、オイルテンパー→歪取焼鈍→ショットピーニング処理→再度歪取焼鈍を施した後、中村式回転曲げ疲労試験機を用いて下記条件で疲労試験を行い、折損率を求めて疲労特性の評価を行った。
これらの結果を、上記鋼線材の化学成分組成を示した表4に併記する。
[疲労試験条件]
試験片長さ:650mm
試験片本数:30本
試験荷重:95.8kgf/mm2(940MPa)
回転速度:4500rpm
試験中止回数:2×107
折損率の算出式:破損率=折損本数/(全ての供試験片) ×100(%)
Figure 2007092164
Figure 2007092164
Figure 2007092164
表4から次のように考察することができる(尚、下記のNo.は、表4中の実験No.を示す)。
No.16〜25は、本発明の規定を満たしているので、伸線加工時の断線回数が少なく伸線性に優れていることがわかる。これに対し、No.26〜30は、本発明の規定を満たしていないので、疲労試験時の折損が多く、疲労特性に劣っている。詳細には、No.26,27は、A組成の介在物が不足し、B組成の介在物が存在するため、優れた疲労特性を確保できなかった。No.28〜30は、A組成の介在物が過剰に存在するため疲労特性に劣っている。
A組成介在物の個数と鋼線材10tあたりの断線回数との関係を示したグラフである。 A組成介在物の個数と疲労試験時の折損率との関係を示したグラフである。 B組成介在物の個数と疲労試験時の折損率との関係を示したグラフである。 取鍋精錬時の撹拌ガス流量がA組成介在物の個数とB組成介在物の個数に及ぼす影響を示したグラフである。

Claims (5)

  1. C:0.4〜1.3%(質量%の意味、鋼成分について以下同じ)、
    Si:0.1〜2.5%、
    Mn:0.2〜1.0%、
    Al:0.003%以下(0%を含まない)を含み、
    残部Feおよび不可避不純物であり、
    鋼線材の軸心線を含む任意の断面に存在する、圧延方向に垂直な幅が2μm以上の酸化物系介在物が、下記X組成を満たす鋼線材において、
    X組成:Al23+MgO+CaO+SiO2+MnO=100%(質量%の意味、
    介在物について以下同じ)とした場合に、
    Al23+CaO+SiO2≧70%
    下記A組成を満たす上記酸化物系介在物が、上記断面100mmあたり1個以上20個以下であり、かつ下記B組成を満たす上記酸化物系介在物が、上記断面100mm2あたり1個未満であることを特徴とする伸線性と疲労特性に優れた鋼線材。
    A組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
    20%≦CaO≦50%、かつAl23≦30%
    B組成:Al23+CaO+SiO2=100%とした場合に、
    CaO>50%
  2. 更に他の元素として、
    Ni:0.05〜1%を含む請求項1に記載の鋼線材。
  3. 更に他の元素として、
    Cu:0.05〜1%および/またはCr:0.05〜1.5%
    を含む請求項1または2に記載の鋼線材。
  4. 更に他の元素として、
    Li:0.02〜20ppm、
    Na:0.02〜20ppm、
    Ce:3〜100ppm、および
    La:3〜100ppm
    よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線材。
  5. 前記請求項1〜4のいずれかに記載の鋼線材の製造方法であって、
    溶鋼処理時のガス撹拌におけるガス流量を、溶鋼1トンあたり0.0005Nm3/min以上0.004Nm3/min以下とすることを特徴とする伸線性と疲労特性に優れた鋼線材の製造方法。
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