JP2022089302A - オーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法 - Google Patents

オーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法 Download PDF

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三月 松本
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Abstract

【課題】耐水素脆化性と耐高温割れ性とに優れたオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法を提供する。【解決手段】化学組成が、質量%で、C:0.10%以下、Si:1.0%以下、Mn:8.0~10.0%、P:0.030%以下、S:0.0030%以下、Cr:15.0~18.0%、Ni:7.0~9.0%、N:0.15~0.25%、Al:0.005~0.20%、Ca:0.0005~0.01%、B:0.0002~0.01%、Mg:0.0001~0.0050%、Cu:1.0%未満、Mo:0.5%以下、O:0.0050%以下、任意元素、残部:Feおよび不純物であり、[Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+7.55N]で算出されるf値が、29.5超32.5未満である、オーステナイト系ステンレス鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法に関する。
近年、二酸化炭素等、温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーとして、水素エネルギーが注目されている。水素エネルギーを活用する上で、水素を製造する、貯蔵する、輸送するといった水素関連技術の確立が求められている。
その一方、水素関連技術の確立には様々な問題がある。その一つとして、水素脆化の問題がある。水素エネルギーは、水素ガスを燃料源とするものである。このため、例えば、水素製造装置、貯蔵装置等の関連機器で、金属材料を使用した場合、水素ガスに起因し、材料が脆化する、いわゆる水素脆化の問題が生じる。
製造コスト、強度、耐食性といった観点から、上記関連機器に使用される金属材料の一つとして、オーステナイト系ステンレス鋼があるが、さらに、水素脆化を抑制すべく、耐水素脆化性を高めたオーステナイト系ステンレス鋼が開発されている。その一例として、特許文献1には、Mn含有量を高め、他の元素の含有量を所定の範囲に調整することで、耐水素脆化特性を向上させたオーステナイト系ステンレス鋼が開示されている。上記鋼は、添加原料として高価なNi等の代わりに、比較的安価であるMn含有量を高めているため、経済性にも優れている。
国際公開第2018/180788号
NEDO「水素社会構築共通基盤整備事業」成果報告書(2010) 福山誠司他"SUS316型ステンレス鋼の低温における水素環境脆化に及ぼす温度の影響" 日本金属学会誌vol.67,No.9(2003)p456
ところで、上述したように、耐水素脆化性を向上させるためにMn含有量を高めた場合、鋳造の際に凝固割れを引き起こす場合がある。また、鋳造後の熱間圧延において、熱間加工割れ等を引き起こす場合もある。そして、鋼板として製造した後、溶接した際に、溶接割れを引き起こすことも予想される。このような割れが発生する結果、鋼板および溶接鋼管において製造時の歩留まりが低下する、さらには所望する耐水素脆化性を得られないという課題がある。したがって、耐水素脆化性を向上させつつも、耐高温割れ性も高める必要がある。
本発明は、上記の課題を解決し、耐水素脆化性と耐高温割れ性とに優れたオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記のオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管ならびにこれらの製造方法を要旨とする。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.10%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:8.0~10.0%、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
Cr:15.0~18.0%、
Ni:7.0~9.0%、
N:0.15~0.25%、
Al:0.005~0.20%、
Ca:0.0005~0.01%、
B:0.0002~0.01%、
Mg:0.0001~0.0050%、
Cu:1.0%未満、
Mo:0.5%以下、
O:0.0050%以下、
Nb:0~0.50%、
Ti:0~0.50%、
V:0~0.50%、
W:0~0.50%、
Zr:0~0.50%、
Co:0~0.50%、
Ga:0~0.010%、
Hf:0~0.10%、
REM:0~0.10%、
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式で算出されるf値が、29.5超32.5未満である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
f値=Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+7.55N ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
(2)前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.01~0.50%、
Ti:0.01~0.50%、
V:0.01~0.50%、
W:0.001~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
Co:0.01~0.50%、
Ga:0.001~0.010%、
Hf:0.01~0.10%、および
REM:0.01~0.10%、
から選択される一種以上を含有する、上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
(3)表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、
偏析度が1.0以下である負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足し、
偏析度が1.0超である正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する、上記(1)または(2)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
Mns>0.85 ・・・(ii)
Nis>0.85 ・・・(iii)
Mns≦5.0 ・・・(iv)
Nis≦5.0 ・・・(v)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析度
Nis:Niの偏析度
Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
Nis:Niの偏析帯幅(μm)
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた鋼管。
(5)表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、
偏析度が1.0以下である負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足し、
偏析度が1.0超である正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する、上記(4)に記載の鋼管。
Mns>0.85 ・・・(ii)
Nis>0.85 ・・・(iii)
Mns≦5.0 ・・・(iv)
Nis≦5.0 ・・・(v)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析度
Nis:Niの偏析度
Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
Nis:Niの偏析帯幅(μm)
(6)上記(3)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
(a)上記(1)または(2)に記載の化学組成を有する熱延鋼板を、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗する、熱延鋼板焼鈍工程と、
(b)前記熱延鋼板に、圧下率20~50%の範囲で、冷間圧延を行い、冷延鋼板とする、第一冷延工程と、
(c)前記冷延鋼板に、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗する、第一焼鈍工程と、
(d)前記冷延鋼板に、圧下率40%以上で、冷間圧延を行う、第二冷延工程と、
(e)前記冷延鋼板を、950~1150℃の温度域で焼鈍する、第二焼鈍工程と、
を有する、オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
(7)上記(5)に記載の鋼管の製造方法であって、
(A)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を管状に成形する、成形工程と、
(B)成形された前記鋼板の端部を溶接し、鋼管とする、溶接工程と、
(C)溶接された前記鋼管を950~1150℃の温度域で熱処理する、熱処理工程と、
を有する、鋼管の製造方法。
(8)上記(5)に記載の鋼管の製造方法であって、
(D)前記(C)の工程の後、冷間で引き抜き加工する、引き抜き加工工程と、
をさらに有する、上記(7)に記載の鋼管の製造方法。
本発明によれば、耐水素脆化性と耐高温割れ性とに優れたオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管を得ることができる。
図1は、EPMA分析により得られるNiの濃度分布をマッピングで示した図である。 図2は、正偏析帯幅を算出するための方法を示した模式図である。
本発明者は、オーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管において、耐水素脆化性と耐高温割れ性の検討を行い、以下の(a)~(c)の知見を得た。
(a)割れを抑制するためには、割れの発生要因となるP、SおよびO含有量を低減するのが有効である。上記Oに関して言えば、微量にAl、Ca、B、およびMgを複合的に含有させることで、脱酸を強化するのが望ましい。この結果、O含有量が低減されるからである。また、Al、Ca、B、およびMgの含有は、低融点元素の粒界偏析を低減する観点からも、割れの抑制に有効である。
(b)耐水素脆化性を高めるためには、後述するf値を一定範囲に制限するのが好ましい。また、鋼管の割れは、溶接時の金属組織、すなわち素材となる鋼板の金属組織に起因するものが多い。このため、鋼板の化学組成および金属組織を適切に制御することで、その後の鋼管において割れを抑制することができる。
(c)加えて、MnおよびNiに関し、周辺の濃度と比較して、濃度が低い領域である負偏析帯が生じると、鋼板および鋼管において、耐水素脆化性を低下させるとともに、溶接時の割れの発生を助長する。特に、凝固時に成長した正偏析帯と隣接する負偏析帯の界面において局所的な濃度低下が生じると、上述した特性の低下が生じやすくなる。そこで、負偏析帯において、濃度低下を抑制し、濃度を所定の範囲に制御するのに加え、正偏析帯の幅を一定範囲に制御するのが望ましい。このためには、鋼板および鋼管の製造において、冷間圧延、焼鈍および熱処理の条件を適切に制御することが重要である。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
1.鋼板
1-1.鋼板の化学組成
鋼板の化学組成における各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.10%以下
Cは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、過剰なCの含有は、Cr系炭化物が粒界析出するのを助長し、溶接時の耐高温割れ性を低下させる。このため、C含有量は、0.10%以下とする。C含有量は、0.08%以下とするのが好ましく、0.07%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、Siを過剰に含有させると、σ相などの金属間化合物の生成を助長し、溶接時の耐高温割れ性を低下させ、割れを生じやすくさせる。このため、Si含有量は、1.0%以下とする。Si含有量は、0.7%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Si含有量は、0.3%以上とするのが好ましい。
Mn:8.0~10.0%
Mnは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上に寄与する。また、Nの固溶限を大きくするため、高価なNiの節減に間接的に寄与する。このため、Mn含有量は、8.0%以上とする。Mn含有量は、8.5%以上とするのが好ましく、9.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、水素脆化感受性の高いε相の生成を助長し、却って耐水素脆化性を低下させる。このため、Mn含有量は、10.0%以下とする。
P:0.030%以下
Pは、不純物として鋼に含有される元素であるが、凝固の最終過程で濃化して鋼の融点を下げ、凝固割れ(高温割れ)を助長する場合がある。このため、P含有量は、0.030%以下とする。P含有量は、耐高温割れ性改善の点から、0.025%以下とするのが好ましく、0.015%以下とするのがより好ましい。一方、Pを過剰に低減すると、製造コストの増加に繋がることから、P含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。
S:0.0030%以下
Sは、不純物として鋼に含有される元素であり、Pと同様に凝固割れ(高温割れ)を助長する場合がある。このため、S含有量は、0.0030%以下とする。S含有量は、0.0020%以下とするのが好ましく、0.0010%以下とするのがより好ましい。しかしながら、S含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
Cr:15.0~18.0%
Crは、ステンレス鋼において一定量含有させる元素であり、耐食性、特に耐候性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、15.0%以上とする。しかしながら、Crは、フェライト形成元素である。このため、Crを過剰に含有させると、オーステナイト相を不安定化させ、耐水素脆化性を低下させる。また、熱間加工性をも低下させる。このため、Cr含有量は、18.0%以下とする。Cr含有量は、17.0%以下とするのが好ましく、16.0%以下とするのがより好ましい。
Ni:7.0~9.0%
Niは、Mnとともに、耐水素脆化性および耐高温割れ性を確保するために必要な元素である。このため、Ni含有量は、7.0%以上とする。しかしながら、過剰にNiを含有させると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、9.0%以下とする。Ni含有量は、8.5%以下とするのが好ましく、8.0%以下とするのがより好ましい。
N:0.15~0.25%
Nは、MnおよびNiと同様に、耐水素脆化性の向上に有効な元素である。このため、N含有量は、0.15%以上とする。しかしながら、Nを過剰に含有させると、溶接時のブローホール等、内部欠陥が発生する場合があり、溶接鋼管の製造性を低下させる。このため、N含有量は、0.25%以下とする。N含有量は、0.22%以下とするのが好ましく、0.20%以下とするのがより好ましい。
Al:0.005~0.20%
Alは、有効な脱酸元素であることに加え、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。この結果、耐高温割れ性等が向上し、割れの発生が低減される。このため、Al含有量は、0.005%以上とする。Al含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。しかしながら、Alを過剰に含有させると、溶接時の溶け込みを阻害して溶接性を低下させる。このため、Al含有量は、0.20%以下とする。Al含有量は、0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。
Ca:0.0005~0.01%
Caは、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。この結果、耐高温割れ性等が向上し、割れの発生が低減される。また、脱酸効果を有し、O含有量の低減に寄与する。このため、Ca含有量は、0.0005%以上とする。Ca含有量は、0.0020%以上とするのが好ましく、0.0025%以上とするのが好ましい。しかしながら、Caを過剰に含有させると、介在物の形成により、却って熱間加工性等が低下し、割れが発生しやすくなる。このため、Ca含有量は、0.01%以下とする。Ca含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。
B:0.0002~0.01%
Bは、粒界を強化し、強度を向上させるとともに、割れの発生を抑制する効果を有する。このため、B含有量は、0.0002%以上とする。B含有量は、0.0003%以上とするのが好ましく、0.0005%以上とするのが好ましい。しかしながら、Bを過剰に含有させてもその効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して耐高温割れ性も低下する。このため、B含有量は、0.01%以下とする。B含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。
Mg:0.0001~0.0050%
Mgは、脱酸効果に有効な元素であり、鋼管の溶接性を向上させる効果を有する。このため、Mg含有量は、0.0001%以上とする。Mg含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、精錬などの製造性等が低下し、製造コストが増加する。このため、Mg含有量は、0.0050%以下とする。効果と製造性の兼ね合いから、Mg含有量は、0.0020%以下とするのが好ましい。
Cu:1.0%未満
Cuは、スクラップ等の原料から混入する元素であり、オーステナイト相を安定化させて耐水素脆化性の向上に有効な元素である。その一方、Cuは、低融点元素であり、粒界に偏析し、PおよびSによる高温割れを助長し、割れを生じやすくさせる。このため、Cu含有量は、1.0%未満とする。Cu含有量は、0.5%以下とするのが好ましい。しかしながら、Cu含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Cu含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Mo:0.5%以下
Moは、スクラップ等の原料から混入する元素であるが、強度および耐食性を向上させる効果を有する。その一方、過剰に含有させると、δフェライト相の生成を促進させ、耐水素脆化性を低下させる。このため、Mo含有量は、0.5%以下とする。一方、Mo含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Mo含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
O:0.0050%以下
Oは、鋼に不純物として含有される元素であり、溶接金属表面に非剥離性のスラグを生成しやすくする。この結果、Oは、溶接性を低下させる。O含有量は、溶接金属表面でのMn、Si、Alの酸化に影響するため、O含有量を一定以下に制限する必要がある。これにより、溶接性が向上し、耐高温割れ性も改善されるからである。このため、O含有量は、0.0050%以下とする。O含有量は、0.0040%以下とするのが好ましく、0.0030%以下とするのがより好ましい。しかしながら、O含有量を過剰に低減すると、鋼の脱酸効率の観点から製造コストを増加させる。このため、O含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
上記の元素に加えて、さらにNb、Ti、V、W、Zr、Co、Ga、Hf、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。各元素の限定理由について説明する。
Nb:0~0.50%
Nbは、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、粒界を強化する効果を有する。この結果、溶接時の割れの発生を抑制する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、熱間圧延時の製造性および加工性が低下する。このため、Nb含有量は、0.50%以下とする。Nb含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Nb含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Ti:0~0.50%
Tiは、炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、粒界を強化する効果を有する。この結果、Tiは、溶接時の割れの発生を抑制する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiを過剰に含有させると、熱間圧延時の製造性が低下する。このため、Ti含有量は、0.50%以下とする。Ti含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
V:0~0.50%
Vは、鋼中に固溶または炭窒化物として析出し、強度を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、炭窒化物が過剰に形成し、熱間圧延時の製造性を低下させる。このため、V含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、V含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
W:0~0.50%
Wは、強度および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、W含有量は、0.50%以下とする。W含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
Zr:0~0.50%
Zrは、脱酸効果を有し、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、精錬などでの製造性が低下する。このため、Zr含有量は、0.50%以下とする。Zr含有量は、0.30%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Zr含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Co:0~0.50%
Coは、耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coを過剰に含有させると、製造コストが増加する。このため、Co含有量は、0.50%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Ga:0~0.010%
Gaは、熱間加工性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、製造性を低下させる。このため、Ga含有量は、0.010%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は、0.001%以上とするのが好ましい。
Hf:0~0.10%
Hfは、脱酸効果を有し、溶接性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、Hfを過剰に含有させると、精錬などでの製造性が低下する。このため、Hf含有量は、0.10%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Hf含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
REM:0~0.10%
REMは、脱酸効果を有し、溶接性を向上させる効果を有する。また、耐食性を向上させる効果も有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、REMを過剰に含有させると、その効果が飽和するばかりか、精錬などでの製造性が低下する。このため、REM含有量は、0.10%以下とする。一方、上記効果を得るためには、REM含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REM含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。REMは、工業的には、ミッシュメタルの形で添加されることがある。
本発明に係る鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、オーステナイト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
f値
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板では、オーステナイト相の安定性を表す指標として、以下に示されるf値を所定の範囲に制限する。具体的には、下記(i)式で算出されるf値を、29.5超32.5未満とする。
f値=Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+7.55N ・・・(i)
但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
ここで、f値が29.5以下であると、オーステナイト相の安定性が低く、耐水素脆化性が低下する。このため、f値は、29.5超とする。f値は、30.0以上とするのが好ましい。しかしながら、f値が32.5以上であると、高合金化により、製造性および溶接性が低下し、耐高温割れ性も低下する。また、原料コストおよび製造コストが増加する。このため、f値は、32.5未満とする。製造性、溶接性、および経済性の観点から、f値は、31.5以下とするのが好ましい。
1-2.偏析
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板においては、良好な耐水素脆化性および耐高温割れ性を得るために、偏析の状態を制御する。偏析とは、凝固の際、溶質元素の濃度が不均一になる現象のことをいう。そして、この偏析の状態が、後々、鋼板として製造された後も、金属組織において、一部、残存することで、耐水素脆化性および耐高温割れ性に悪影響を及ぼす。
このように、耐水素脆化性および耐高温割れ性を向上させる上で、偏析状態を制御することは重要であり、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板では、後述するが、EPMAによる面分析に基づいた偏析度および偏析帯幅を要件とする。
なお、偏析には、平均濃度よりも高く元素が分布する正偏析と、平均濃度よりも低く元素が分布する負偏析とがある。以下では、正偏析における要件と、負偏析における要件とを分けて説明する。
1-2-1.負偏析
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足する。
Mns>0.85 ・・・(ii)
Nis>0.85 ・・・(iii)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析度
Nis:Niの偏析度
なお、偏析度とは、所定の元素の平均濃度に対する偏析部の濃度であり、例えば、Mnの偏析度であれば、(Mn偏析部のMn濃度)/(鋼板のMn含有量)で算出することができる。ここで、鋼板のMn含有量とは、鋼板の全厚における平均のMn濃度のことである。また、負偏析帯とは、偏析度が1.0以下である偏析部のことをいう。さらに、上記のtとは、鋼板の全厚のことを意味し、t/4とは、鋼板の全厚に対し、1/4の厚さであることを意味する。
負偏析帯において、Mnの偏析度(「Mns」とも記載する。)が0.85以下である、すなわち(ii)式を満足しない場合、耐水素脆化性が低下する。また、耐高温割れ性も低下する。このため、上記Mnsは、0.85超とするのが好ましい。上記Mnsは、0.90以上とするのがより好ましく、0.95以上とするのがさらに好ましい。
同様に、負偏析帯において、Niの偏析度(「Nis」とも記載する。)が0.85以下である、すなわち(iii)式を満足しない場合、耐水素脆化性が低下する。また、耐高温割れ性も低下する。このため、上記Nisは、0.85超とするのが好ましい。上記Nisは、0.90以上とするのがより好ましく、0.95以上とするのがさらに好ましい。
なお、上記MnsおよびNisは、上述した条件で、EPMAを用いた面分析により得られるマッピングデータに基づき、測定を行えばよい。この際の観察倍率は、2000倍とするのがよい。
1-2-2.正偏析
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板は、1-2-1に記載した偏析度に加え、正偏析帯幅についても要件とする。具体的には、表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する。なお、正偏析帯とは、偏析度が1.0超である偏析部のことをいう。
Mns≦5.0 ・・・(iv)
Nis≦5.0 ・・・(v)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
Nis:Niの偏析帯幅(μm)
正偏析帯において、Mnの偏析帯幅(「WMns」とも記載する。)が、5.0μm超である、すなわち(iv)式を満足しない場合、正偏析帯と、正偏析帯に隣接する負偏析帯との界面付近で、水素脆化に起因する亀裂が発生しやすくなる。また、上述した界面付近の負偏析帯で、局所的な濃度低下、具体的には、偏析度が0.85以下となるような濃度低下を生じる場合もある。この結果、耐水素脆化性および耐高温割れ性が低下する。このため、上記WMnsは、5.0μm以下とするのが好ましい。上記WMnsは、3.0μm以下とするのがより好ましい。上記WMnsは、小さければ小さい程、好ましい。
同様に、正偏析帯において、Niの偏析帯幅(「WNis」とも記載する。)が、5.0μm超である、すなわち(v)式を満足しない場合、正偏析帯と、正偏析帯に隣接する負偏析帯との界面付近で、水素脆化に起因する亀裂が発生しやすくなる。また、上述した界面付近の負偏析帯で、局所的な濃度低下、具体的には、偏析度が0.85以下となるような濃度低下を生じる場合もある。この結果、耐水素脆化性および耐高温割れ性が低下する。このため、上記WNisは、5.0μm以下とするのが好ましい。上記WNisは、3.0μm以下とするのがより好ましい。上記WNisは、小さければ小さい程、好ましい。
なお、上記WMnsおよびWNisは、上述した条件で、偏析度の測定と同様、EPMAにより得られるマッピングデータに基づき、測定を行えばよい。この際の観察倍率は、2000倍とするのがよい。そして、WMnsおよびWNisは、例えば、図1の矢印の方向のように、負偏析と正偏析とが交互に生じている領域に対し、垂直に、MnおよびNiの濃度分布を測定したときに、図2に示されるように、平均の元素濃度より高い領域の距離を算出することで測定される。なお、図1および図2は、WNisを測定した際の一例を示したものである。
2.鋼管
本発明に係る鋼管は、上記1の鋼板を用いて、製造する鋼管である。なお、鋼管として、鋼板を用いて成形、溶接、熱処理し、さらに必要に応じて、冷間で引き抜き加工した溶接鋼管が想定される。鋼管が溶接鋼管である場合は、溶加材(「フィラー」ともいう。)を用いずに溶接した鋼管が想定されるが、フィラーを使用しても構わない。
2-1.化学組成
本発明に係る鋼管においては、溶接を行った場合であっても、化学組成は、上記1の鋼板と同様のものとなる。したがって、各元素の限定理由は、1に記載したものと同様であり、以下に記載するとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、鋼板の場合と同様、「質量%」を意味する。
C:0.10%以下
Cは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、過剰なCの含有は、Cr系炭化物が粒界析出するのを助長し、溶接時の耐高温割れ性を低下させる。このため、C含有量は、0.10%以下とする。C含有量は、0.08%以下とするのが好ましく、0.07%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、C含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、脱酸に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上にも寄与する。しかしながら、Siを過剰に含有させると、σ相などの金属間化合物の生成を助長し、溶接時の耐高温割れ性を低下させ、割れを生じやすくさせる。このため、Si含有量は、1.0%以下とする。Si含有量は、0.7%以下とするのが好ましい。一方、上記効果を得るためには、Si含有量は、0.3%以上とするのが好ましい。
Mn:8.0~10.0%
Mnは、オーステナイト相の安定化に有効な元素であり、耐水素脆化性の向上に寄与する。また、Nの固溶限を大きくするため、高価なNiの節減に間接的に寄与する。このため、Mn含有量は、8.0%以上とする。Mn含有量は、8.5%以上とするのが好ましく、9.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、水素脆化感受性の高いε相の生成を助長し、却って耐水素脆化性を低下させる。このため、Mn含有量は、10.0%以下とする。
P:0.030%以下
Pは、不純物として鋼に含有される元素であるが、凝固の最終過程で濃化して鋼の融点を下げ、凝固割れ(高温割れ)を助長する場合がある。このため、P含有量は、0.030%以下とする。P含有量は、耐高温割れ性改善の点から、0.025%以下とするのが好ましく、0.015%以下とするのがより好ましい。一方、Pを過剰に低減すると、製造コストの増加に繋がることから、P含有量は、0.005%以上とするのが好ましい。
S:0.0030%以下
Sは、不純物として鋼に含有される元素であり、Pと同様に凝固割れ(高温割れ)を助長する場合がある。このため、S含有量は、0.0030%以下とする。S含有量は、0.0020%以下とするのが好ましく、0.0010%以下とするのがより好ましい。しかしながら、S含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。このため、S含有量は、0.0001%以上とするのが好ましい。
Cr:15.0~18.0%
Crは、ステンレス鋼において一定量含有させる元素であり、耐食性、特に耐候性を向上させる効果を有する。このため、Cr含有量は、15.0%以上とする。しかしながら、Crはフェライト形成元素である。このため、Crを過剰に含有させると、オーステナイト相を不安定化させ、耐水素脆化性を低下させる。また、熱間加工性をも低下させる。このため、Cr含有量は、18.0%以下とする。Cr含有量は、17.0%以下とするのが好ましく、16.0%以下とするのがより好ましい。
Ni:7.0~9.0%
Niは、Mnとともに、耐水素脆化性および耐高温割れ性を確保するために必要な元素である。このため、Ni含有量は、7.0%以上とする。しかしながら、過剰にNiを含有させると、製造コストが増加する。このため、Ni含有量は、9.0%以下とする。Ni含有量は、8.5%以下とするのが好ましく、8.0%以下とするのがより好ましい。
N:0.15~0.25%
Nは、MnおよびNiと同様に、耐水素脆化性の向上に有効な元素である。このため、N含有量は、0.15%以上とする。しかしながら、Nを過剰に含有させると、溶接時のブローホール等、内部欠陥が発生する場合があり、溶接鋼管の製造性を低下させる。このため、N含有量は、0.25%以下とする。N含有量は、0.22%以下とするのが好ましく、0.20%以下とするのがより好ましい。
Al:0.005~0.20%
Alは、有効な脱酸元素であることに加え、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。この結果、耐高温割れ性等が向上し、割れの発生が低減される。このため、Al含有量は、0.005%以上とする。Al含有量は、0.010%以上とするのが好ましい。しかしながら、Alを過剰に含有させると、溶接時の溶け込みを阻害して溶接性を低下させる。この結果、鋼管において、高温割れが発生しやすくなる。このため、Al含有量は、0.20%以下とする。Al含有量は、0.08%以下とするのが好ましく、0.06%以下とするのがより好ましい。
Ca:0.0005~0.01%
Caは、低融点元素の粒界偏析を抑制して、粒界を強化する効果を有する。この結果、耐高温割れ性等が向上し、割れの発生が低減される。また、脱酸効果を有し、O含有量の低減に寄与する。このため、Ca含有量は、0.0005%以上とする。Ca含有量は、0.0020%以上とするのが好ましく、0.0025%以上とするのが好ましい。しかしながら、Caを過剰に含有させると、介在物の形成により却って熱間加工性等が低下し、割れが発生しやすくなる。このため、Ca含有量は、0.01%以下とする。Ca含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。
B:0.0002~0.01%
Bは、粒界を強化し、強度を向上させるとともに、割れの発生を抑制する効果を有する。このため、B含有量は、0.0002%以上とする。B含有量は、0.0003%以上とするのが好ましく、0.0005%以上とするのが好ましい。しかしながら、Bを過剰に含有させてもその効果が飽和するばかりか、ボロン化合物(BN、BC、CrB)の粒界析出を促進して耐高温割れ性も低下する。このため、B含有量は、0.01%以下とする。B含有量は、0.0050%以下とするのが好ましい。
Mg:0.0001~0.0050%
Mgは、脱酸効果に有効な元素であり、鋼管の溶接性を向上させる効果を有する。このため、Mg含有量は、0.0001%以上とする。Mg含有量は、0.0003%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、精錬などの製造性等が低下し、製造コストが増加する。このため、Mg含有量は、0.0050%以下とする。効果と製造性の兼ね合いから、Mg含有量は、0.0020%以下とするのが好ましい。
Cu:1.0%未満
Cuは、スクラップ等の原料から混入する元素であり、オーステナイト相を安定化させて耐水素脆化性の向上に有効な元素である。その一方、Cuは、低融点元素であり、粒界に偏析し、PおよびSによる高温割れを助長し、割れを生じやすくさせる。このため、Cu含有量は、1.0%未満とする。Cu含有量は、0.5%以下とするのが好ましい。しかしながら、Cu含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Cu含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
Mo:0.5%以下
Moは、スクラップ等の原料から混入する元素であるが、強度および耐食性を向上させる効果を有する。その一方、過剰に含有させると、δフェライト相の生成を促進させ、耐水素脆化性を低下させる。このため、Mo含有量は、0.5%以下とする。一方、Mo含有量を過剰に低減すると、溶解原料の制約を招き、製造コストが増加する。このため、Mo含有量は、0.01%以上とするのが好ましい。
O:0.0050%以下
Oは、鋼に不純物として含有される元素であり、溶接金属表面に非剥離性のスラグを生成しやすくする。この結果、溶接性が低下する。O含有量は、溶接金属表面でのMn、Si、Alの酸化に影響するため、O含有量を一定以下に制限する必要がある。これにより、溶接性が向上し、耐高温割れ性も改善されるからである。このため、O含有量は、0.0050%以下とする。O含有量は、0.0040%以下とするのが好ましく、0.0030%以下とするのがより好ましい。しかしながら、O含有量を過剰に低減すると、鋼の脱酸効率の観点から製造コストを増加させる。このため、O含有量は、0.0005%以上とするのが好ましい。
上記の元素に加えて、鋼板の場合と同様、さらにNb、Ti、V、W、Zr、Co、Ga、Hf、およびREMから選択される一種以上を、以下に示す範囲において含有させてもよい。
上記元素を含有させる場合は、Nb:0.01~0.50%、Ti:0.01~0.50%、V:0.01~0.50%、W:0.001~0.50%、Zr:0.01~0.50%、Co:0.01~0.50%、Ga:0.001~0.010%、Hf:0.01~0.10%、REM:0.01~0.10%の範囲となる。なお、本発明に係る鋼管の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。
f値
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼管では、上述した(i)式で算出されるf値を、29.5超32.5未満とする。鋼板の場合と同様、f値が29.5以下であると、オーステナイト相の安定性が低く、耐水素脆化性が低下する。このため、f値は、29.5超とする。f値は、30.0以上とするのが好ましい。しかしながら、f値が32.5以上であると、高合金化により、製造性および溶接性が低下し、耐高温割れ性も低下する。また、原料コストおよび製造コストが増加する。このため、f値は、32.5未満とする。製造性、溶接性、および経済性の観点から、f値は、31.5以下とするのが好ましい。
2-2.偏析
本発明に係る鋼管では、耐水素脆化性および耐高温割れ性を向上させるため、上述した鋼板の場合と同様、EPMAによる面分析に基づいた偏析度および偏析帯幅を要件とする。
溶接を行って鋼管を製造する場合、鋼管は、溶融金属が凝固し、接合部となった溶接金属と、母材とを、有する。ここで、母材は、溶接により入熱の影響を受ける溶接熱影響部を含む。また、溶接熱影響部を除いた母材は、上記の鋼板の特性を受け継ぐ。そして、溶接金属を含む鋼管全体において、下記の偏析度および偏析帯幅の要件を満足すればよい。一般的には、鋼板において残存した偏析が、溶接する際、溶融、凝固が生じることにより、さらに大きくなる。このため、溶接鋼管においては、通常、溶接金属において、下記の偏析度および偏析帯幅の要件を満足すればよい。
2-2-1.負偏析
本発明に係る鋼管は、表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足する。なお、偏析度、負偏析帯およびtの定義は、上述した鋼板における定義と同様である。
Mns>0.85 ・・・(ii)
Nis>0.85 ・・・(iii)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析度
Nis:Niの偏析度
負偏析帯において、Mnsが0.85以下である、すなわち(ii)式を満足しない場合、耐水素脆化性が低下する。また、耐高温割れ性も低下する。このため、上記Mnsは、0.85超とするのが好ましい。上記Mnsは、0.90以上とするのがより好ましく、0.95以上とするのがさらに好ましい。
同様に、負偏析帯において、Nisが0.85以下である、すなわち(iii)式を満足しない場合、耐水素脆化性が低下する。また、耐高温割れ性も低下する。このため、上記Nisは、0.85超とするのが好ましい。上記Nisは、0.90以上とするのがより好ましく、0.95以上とするのがさらに好ましい。
なお、鋼管におけるMnsおよびNisも、上述した条件で、鋼板の場合と同様の倍率で、EPMAを用いた面分析により得られるマッピングデータに基づき、測定を行えばよい。ここで、測定を行う鋼管が溶接鋼管である場合、面分析に供する試料は、溶接金属を含む試料とする必要がある。これは、上述したように、溶接金属が、溶接鋼管において、最も偏析が生じる部分だからである。
2-2-2.正偏析
本発明に係る鋼管は、2-2-1に記載した偏析度に加え、正偏析帯幅についても要件とする。具体的には、表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する。なお、偏析帯幅の定義は、上述した鋼板における定義と同様である。
Mns≦5.0 ・・・(iv)
Nis≦5.0 ・・・(v)
但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
Nis:Niの偏析帯幅(μm)
正偏析帯において、WMnsが、5.0μm超である、すなわち(iv)式を満足しない場合、正偏析帯と、正偏析帯に隣接する負偏析帯との界面付近で、水素脆化に起因する亀裂が発生しやすくなる。また、上述した界面付近の負偏析帯で、局所的な濃度低下、具体的には、偏析度が0.85以下となるような濃度低下を生じる場合もある。この結果、耐水素脆化性および耐高温割れ性が低下する。このため、上記WMnsは、5.0μm以下とするのが好ましい。上記WMnsは、3.0μm以下とするのがより好ましい。上記WMnsは、小さければ小さい程、好ましい。
同様に、正偏析帯において、WNisが、5.0μm超である、すなわち(v)式を満足しない場合、正偏析帯と、正偏析帯に隣接する負偏析帯との界面付近で、水素脆化に起因する亀裂が発生しやすくなる。また、上述した界面付近の負偏析帯で、局所的な濃度低下、具体的には、偏析度が0.85以下となるような濃度低下を生じる場合もある。この結果、耐水素脆化性および耐高温割れ性が低下する。このため、上記WNisは、5.0μm以下とするのが好ましい。上記WNisは、3.0μm以下とするのがより好ましい。上記WNisは、小さければ小さい程、好ましい。
なお、鋼管におけるWMnsおよびWNisも、上述した条件で、鋼板の場合と同様、EPMAにより得られるマッピングデータに基づき、測定を行えばよい。この際の観察倍率は、2000倍とするのがよい。また、2-2-1に記載した偏析度の場合と同様、面分析に供する試料は、溶接金属を含む試料とする必要がある。
3.用途
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管は、高圧水素等の水素用機器および同機器の配管に用いられるのが好ましい。なお、上記用途を想定し、鋼板の板厚は、2.5mm以下とするのが好ましく、鋼管の肉厚は、2.0mm以下とするのが好ましい。
4.製造方法
本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管の好ましい製造方法について説明する。本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、安定して製造することができる。
4-1.鋼板の製造方法
4-1-1.鋳造工程
上述の化学組成に調整した鋼を溶製、鋳造するのが好ましい。鋳造後、得られる鋳片について1000℃以上、1400℃未満の温度域で水スプレーによる冷却を行うのが好ましい。この温度域で水スプレーによる冷却を行うことで、表面から圧縮応力を付与するのと同等の効果を鋳片に及ぼし、内部割れを抑制することができる。加えて、冷却が遅くなる内部の凝固を促進し、負偏析帯の成長を抑制することができるからである。なお、この際、得られた鋼材を適宜、切断等を行い、寸法形状を整えてもよい。例えば、スラブにするのがよい。以下、スラブの場合を例に採り、説明する。
4-1-2.熱間圧延工程
続いて、得られたスラブを、後述する熱間圧延温度で熱間圧延するために、1150~1250℃の範囲に加熱し、熱間圧延に供する。熱間圧延温度は、800~1200℃の範囲とし、総圧下率90%超の熱間圧延を行い、巻取り温度が900℃以下となるよう巻取りをするのが好ましい。
熱間圧延温度が800℃未満であると、偏析が解消しにくく、耐水素脆化性および耐高温割れ性が低下する。このため、熱間圧延温度が800℃以上とするのが好ましい。一方、熱間圧延温度は、1200℃を超えると、熱間圧延で、導入された加工歪が、焼失しやすくなり、粗粒になりやすくなる。このため、熱間圧延温度は、1200℃以下とするのが好ましい。
また、熱間圧延の際の総圧下率が、90%以下であると、負偏析帯および正偏析帯を細分化し、続く熱延鋼板焼鈍工程で、負偏析帯の濃度低下を解消しにくくなる。このため、熱間圧延の総圧下率90%超とするのが好ましい。ここで、熱間圧延後の巻取り温度は、900℃以下とするのが好ましい。上記巻取り温度が900℃超であると、熱間圧延において、導入された加工歪が消失し、続く熱延鋼板焼鈍工程において、負偏析帯の濃度低下を解消しにくくなるからである。
4-1-3.熱延鋼板焼鈍工程
続いて、(ii)~(v)式を満足するために、得られた熱延鋼板を、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗するのが好ましい。熱延鋼板を焼鈍する温度(以下、「熱延鋼板焼鈍温度」と記載する。)が、1000℃未満であると、拡散が十分に生じず、鋳造、凝固の際に生じた負偏析帯の濃度低下を解消することができず、偏析が残存しやすくなる。この結果、(ii)~(v)式を満足しにくくなり、耐水素脆化性および高温割れ性が低下する。このため、熱延鋼板焼鈍温度は、1000℃以上とするのが好ましい。
一方、熱延鋼板焼鈍温度が、1200℃を超えると、酸化に起因した歩留まりの低下および結晶粒の粗大化が生じる。この結果、製造時に割れ、疵等が生じやすくなり、製造性が低下する。このため、熱延鋼板焼鈍温度は、1200℃以下とするのが好ましい。なお、焼鈍時間については、特に限定しないが、1~10分の範囲とするのが好ましい。
4-1-4.第一冷延工程
ここで、(ii)~(v)式を満足する鋼板を得るためには、後述するように、冷間圧延工程と、焼鈍工程とを、2回繰り返して製造するのが好ましい。なお、冷間圧延工程と、焼鈍工程とを、必要に応じて、2回以上繰り返しても良いが、生産性の観点からは、冷間圧延工程と、2回行うのが望ましい。最初の冷間圧延の工程を、第一冷延工程とし、2回目の冷間圧延の工程を、第二冷延工程とする。同様に、最初の冷延鋼板の焼鈍および酸洗工程を、第一焼鈍工程とし、2回目の冷延鋼板の焼鈍および酸洗工程を第二焼鈍工程とする。最初に、第一冷間圧延工程について記載する。
第一冷延工程では、焼鈍および酸洗された熱延鋼板に、圧下率20~50%の範囲で、冷間圧延を行い、冷延鋼板とするのが好ましい。冷間圧延を行う際の圧下率が20%未満であると、正偏析帯を解消しにくくなる。この結果、(ii)~(v)式を満足しにくくなる。このため、上記圧下率は、20%以上とするのが好ましい。一方、上記圧下率が50%を超えると、第二冷延工程において、圧下率を確保することが難しくなり、粗粒化し、結晶粒の大きさを調整しにくくなる。この結果、製造性が低下する。このため、上記圧下率は、50%以下とするのが好ましい。
4-1-5.第一焼鈍工程
第一焼鈍工程では、得られた冷延鋼板に、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗するのが好ましい。第一焼鈍工程における焼鈍温度が1000℃未満であると、偏析が十分解消せず、(ii)~(v)式を満足しにくくなる。この結果、耐水素脆化性および高温割れ性が低下しやすくなる。このため、第一焼鈍工程における焼鈍温度は、1000℃以上とするのが好ましい。
一方、第一焼鈍工程における焼鈍温度が1200℃を超えると、上述したような歩留まりと、結晶粒の粗粒化を生じる。このため、第一焼鈍工程における焼鈍温度は、1200℃以下とする。なお、この際の焼鈍時間については、特に限定しないが、10~600秒の範囲とするのが好ましい。第一焼鈍工程において、上記温度で焼鈍後、脱スケールのため、酸洗するのが好ましい。
4-1-6.第二冷延工程
第一焼鈍工程を経た後、第二冷延工程において、冷延鋼板に、圧下率40%以上で、冷間圧延を行うのが好ましい。第二冷延工程における冷間圧延は、仕上げのための冷間圧延であり、この際の圧下率を40%未満とすると、続く第二焼鈍工程において、結晶粒が粗粒化し、結晶粒の大きさを制御しにくくなり、整粒組織を得にくくなる。この結果、製造性が低下する。このため、第二冷延工程における冷間圧延の圧下率は、40%以上とするのが好ましい。
4-1-7.第二焼鈍工程
第二冷延工程を経た後、第二焼鈍工程において、冷延鋼板を、950~1150℃の温度域で焼鈍するのが好ましい。第二焼鈍工程における焼鈍温度が950℃未満であると、偏析が十分解消せず、(ii)~(v)式を満足しにくくなる。この結果、耐水素脆化性および高温割れ性が低下しやすくなる。このため、第二焼鈍工程における焼鈍温度は、950℃以上とするのが好ましい。
一方、第二焼鈍工程における焼鈍温度が1150℃を超えると、上述したような歩留まりの低下と、結晶粒の粗粒化とを生じる。この結果、製造性が低下する。このため、第二焼鈍工程における焼鈍温度は、1150℃以下とする。なお、この際の焼鈍時間については、特に限定しないが、10~300秒の範囲とするのが好ましい。その後、適当な冷却速度で冷却し、オーステナイト系ステンレス鋼板を得る。なお、第二焼鈍工程において、上記温度で焼鈍後、脱スケールのため、酸洗するのが好ましい。
4-2.鋼管の製造方法
本発明に係る鋼管は、溶接鋼管以外の鋼管等も含むが、以下の説明においては、水素用機器に一般的に用いられる溶接鋼管の製造方法について記載する。
4-2-1.成形工程
4-1に記載した方法で得られたオーステナイト系ステンレス鋼板を、管状に成形するのが好ましい。成形方法は、特に限定されないが、通常、種々の曲率を有するロールを用いて、曲げ加工し、管状に成形する、所謂、ロールフォーミングを用いる。なお、鋼管の外径は例えば、ASTM A269規格に準拠する1/8~1/2インチ、すなわち、およそ2~14mmであるのが好ましい。
4-2-2.溶接工程
続いて、管の形状に成形された鋼板の板幅方向の端部を溶接し、鋼管とするのが好ましい。溶接方法は、特に限定しないが、例えば、高周波電気抵抗溶接(「ERW」ともいう。)、イナートガスアーク溶接(「TIG溶接」ともいう。)、またはレーザー溶接とすればよい。その他、溶接条件は、適宜、調整すればよい。
4-2-3.熱処理工程
続いて、溶接された鋼管を、950~1150℃の温度域で熱処理するのが好ましい。鋼管の熱処理温度が950℃未満であると、残留した加工歪および偏析の解消が十分に行えない。この結果、(ii)~(v)式を満足しにくくなる。このため、鋼管の熱処理温度は、950℃以上とするのが好ましい。一方、鋼管の熱処理温度が1150℃超であると、歩留まりが低下し、かつ結晶粒が整粒組織とならない。このため、鋼管の熱処理温度は、1150℃以下とするのが好ましい。上記熱処理後、適切な範囲の冷却速度で冷却し、オーステナイト系ステンレス鋼管とする。
4-2-4.引き抜き加工工程
上記熱処理工程の後、必要に応じて、冷間で引き抜き加工を行ってもよい。引き抜き加工の際、肉厚の減少率が20%超であると、延性および耐水素脆化性が低下しやすくなる。このため、肉厚の減少率は、20%以下とするのが好ましい。
以下、実施例によって本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼板および鋼管をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に記載の化学組成を有する鋼を溶製し、鋳造し、250mm厚のスラブを得た。なお、スラブは、1000℃以上1400℃未満の温度域において、水スプレーにより冷却した。
Figure 2022089302000001
その後、スラブを1230℃で加熱し、900℃以上の温度域で、熱間圧延を行い、850℃で巻取りを行い、6.0mm厚の熱延鋼板を得た。続いて、得られた熱延鋼板について、1120℃で5分、焼鈍を行い、その後、酸洗し、脱スケールを行った(熱延鋼板焼鈍工程)。
その後、3.6mm厚まで冷間圧延し(第一冷延工程)、1100℃で、30~60秒焼鈍を行い、その後、酸洗し、脱スケールを行った(第一焼鈍工程)。続いて、1.5mm厚まで、再度、冷間圧延を行った(第二冷延工程)。その後、1080℃で10~30秒、焼鈍を行った(第二焼鈍工程)。なお、一部の例については、最終の板厚は、1.5mmとしたが、第一冷延工程および第一焼鈍工程を行わなかった。得られた鋼板について、後述するように負偏析帯におけるMnおよびNiの偏析度、正偏析帯幅、耐水素脆化性、および耐高温割れ性について調べた。なお、表2の一部の例については、熱延鋼板焼鈍工程の焼鈍温度を980℃とし、第一焼鈍工程の焼鈍温度を980℃とした(表2参照。)。
(MnおよびNiの偏析度および正偏析帯幅)
MnおよびNiの偏析度および正偏析帯幅については、以下の手順で測定した。具体的には、EPMAを用いて、50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、濃度分布を調べた。この際の分析試料は、表面から板厚方向にt/4まで研磨した、幅5mm、長さ10mm小片のサンプルであり、分析面が鏡面研磨仕上されたものとした。
その後、観察面をカーボン蒸着し、面内中央付近の50μm各エリアを幅方向に、倍率2000倍で、EPMA分析し、濃度をマッピングした。マッピングの結果に基づいて、負偏析帯におけるMnおよびNi偏析度および正偏析帯幅を測定した。なお、上述したように、正偏析帯幅とは、濃度の高低が見られる領域において、平均の元素濃度より高い領域の距離を濃度分布から算出することで測定される。
(耐水素脆化性)
耐水素脆化性については、以下の手順で特性評価を行った。具体的には、得られた1.5mm厚の鋼板から平行部長さ20mm、幅4.0mmの板状引張試験片を採取した。続いて、上記引張試験片を300℃、10MPa水素中で、72h保持して、35ppmの水素をチャージした。この引張試験片について、-40℃および-70℃で、歪速度10-3/sの条件で引張試験を実施した。なお、チャージした水素量は、非特許文献1にある約30ppmの水素量が、90℃、70~85MPaH中でのオーステナイト系ステンレス鋼の固溶限界に相当するという記載に基づくものである。また、引張試験の温度は、非特許文献2で示されているように、オーステナイト系ステンレス鋼の水素脆化が、-40℃から-70℃にかけて増大する点に基づくものである。
ここで、引張試験においては、引張破断強さ(TS)と引張破断伸び(EL)とを測定した。そして、300℃、大気中、72h保持したものを基準材とし、耐水素脆化性について、下記(a)式の強度・伸びバランス(TS×EL)を用いて評価した。
評価値={(水素チャージ材のTS×EL)/(基準材のTS×EL)} ・・・(a)
上記式から算出された評価値が、-40℃における引張試験で、0.95以上を達成したものを、良好な耐水素脆化性であるとして、〇と記載した。さらに、-70℃での引張試験の評価値も0.95以上である場合を、さらに良好な耐水素脆化性であるとして、◎と記載した。一方、-40℃における引張試験の評価値が0.95に満たない場合を耐水素脆化性が不良であるとして、×と記載した。
(耐高温割れ性)
耐高温割れ性については、以下の手順で特性評価を行った。具体的には、1.5mm厚の鋼板において、溶接鋼管と同条件のTIGを行い、冷間圧延・熱処理・酸洗処理を実施した試験片を準備した。冷間圧延は鋼管のロールフォーミングに相当する歪を冷間圧延で導入した。溶接で発生する高温割れは、TIG溶接した鋼板を10トンプレス機で、Vブロック曲げ加工を行い、溶接金属の割れを観察して評価した。溶接金属に割れが観察されない場合は、耐高温割れ性を達成したものとして〇と記載した。その一方、割れが発生したものは、耐高温割れ性が不良だったとして、×と記載した。以下、結果を纏めて、表2に示す。
Figure 2022089302000002
鋼板の試験No.1~8は、本発明に係る製造条件を満足し、耐水素脆化割れ性および耐高温割れ性が良好であった。一方、本発明の要件を満足しないNo.9および10は、耐水素脆化性および耐高温割れ性の少なくとも一方が劣る結果となった。また、No.1~8の中で、1、3および4の例が、耐水素脆化性が特に良好であった。これは、f値の値が好ましい範囲内であり、かつ、本発明に係る製造条件を満足したからである。
また、上記方法で、得られた1.5mm厚の鋼板を、以下の手順で要せる鋼管にした。具体的には、鋼板を、ロールフォーミングにより管状に成形した。この際、管の外径は、6.5mmとした。成形した鋼板の端部をTIG溶接した。TIG溶接では、シールドガスをArとし、入熱は700~900J/cmの範囲とした。なお、入熱の値はHI(J/cm)=60×E(V)×I(A)/V(cm/min)の簡易計算値であり、上記記号は、E:アーク電圧、I:溶接電流、V:溶接速度を意味する。このように、作製した溶接鋼管は、溶加材を用いずに製造されているため、その化学組成は、素材とした鋼板の化学組成と同じである。なお、No.26~28については、表2の試験No.6~8を用いて、鋼管を作成し、それ以外の例については、上記条件で、かつ本発明に係る製造条件を満足する製造方法で、作製した鋼板を用いた。
続いて、得られた鋼管を、1050℃で熱処理し、その後、酸洗処理を行い、オーステナイト系ステンレス溶接鋼管とした。また、一部、ダイスにより冷間で引き抜き加工した溶接引き抜き鋼管も作製した。この際の加工は、肉厚の減肉率が5%の加工とした。
得られた溶接鋼管についても、鋼板と同様、MnおよびNiの偏析度、正偏析帯幅、耐水素脆化性、および耐高温割れ性について調べた。MnおよびNiの偏析度ならびに正偏析帯を測定するための試験片は、溶接金属を含む分析試料とした。それ以外の測定条件は、鋼板で測定した場合と同様とした。
耐水素脆化性については、1.5mm厚の鋼板において、溶接鋼管と同条件のTIGを行い、冷間圧延・熱処理・酸洗処理を実施した試験片を準備した。冷間圧延は鋼管のロールフォーミングに相当する歪を冷間圧延で導入した。さらに、溶接引き抜き鋼管を模擬するために酸洗処理後、5%の冷間圧延を施した試験片を作製し、評価した。引張試験条件および評価方法は、上述した方法と同様である。
溶接で発生する高温割れは、製造した溶接鋼管および溶接引き抜き鋼管を10トンプレス機で、R=50mmとして、U曲げ加工を行い、溶接金属の割れを観察して評価した。溶接金属に割れが観察されない場合は、耐高温割れ性を達成したものとして、溶接鋼管の場合を〇、引き抜き鋼管の場合を特に耐高温割れ性に優れるものとして◎と記載した。その一方、割れが発生したものは、耐高温割れ性が不良だったとして、×と記載した。以下、結果を纏めて、表3に示す。
Figure 2022089302000003
本発明に係る鋼管の要件を満足する、No.11~28は、耐水素脆化性および耐高温割れ性のいずれも良好であった。その一方、本発明に係る鋼管の要件を満足しないNo.29~36は、耐水素脆化性および耐高温割れ性の少なくとも一方が劣る結果になった。
特に、No.29~36は、本発明の好ましい製造方法を実施しても、Cu、B、Al、Ca、Mg、O、またはSの含有量が本発明に係る鋼管で規定する範囲を満足しなかったため、耐水素脆化性と耐高温割れ性の少なくとも一方が不良であった。No.29~33は、溶接性に係るのいずれかが本発明の規定を満足しなかったため、耐高温割れ性は低下した。No.35は、f値が高かったため、耐高温割れ性が低下した。No.34は、f値が低かったため、耐水素脆化性が低下した。No.36は、Ni含有量が低かったため、耐水素脆化性が低下した。
本発明に係る鋼板ならびにそれを用いた溶接鋼管は、耐水素脆化性と耐高温割れ性とに優れ、高圧水素ガス用途の鋼板、鋼管として好適である。

Claims (8)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.10%以下、
    Si:1.0%以下、
    Mn:8.0~10.0%、
    P:0.030%以下、
    S:0.0030%以下、
    Cr:15.0~18.0%、
    Ni:7.0~9.0%、
    N:0.15~0.25%、
    Al:0.005~0.20%、
    Ca:0.0005~0.01%、
    B:0.0002~0.01%、
    Mg:0.0001~0.0050%、
    Cu:1.0%未満、
    Mo:0.5%以下、
    O:0.0050%以下、
    Nb:0~0.50%、
    Ti:0~0.50%、
    V:0~0.50%、
    W:0~0.50%、
    Zr:0~0.50%、
    Co:0~0.50%、
    Ga:0~0.010%、
    Hf:0~0.10%、
    REM:0~0.10%、
    残部:Feおよび不純物であり、
    下記(i)式で算出されるf値が、29.5超32.5未満である、オーステナイト系ステンレス鋼板。
    f値=Ni+0.72Cr+0.88Mo+1.11Mn-0.27Si+12.93C+7.55N ・・・(i)
    但し、上記(i)式中の各元素記号は、鋼中に含まれる各元素の含有量(質量%)を表し、含有されない場合はゼロとする。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Nb:0.01~0.50%、
    Ti:0.01~0.50%、
    V:0.01~0.50%、
    W:0.001~0.50%、
    Zr:0.01~0.50%、
    Co:0.01~0.50%、
    Ga:0.001~0.010%、
    Hf:0.01~0.10%、および
    REM:0.01~0.10%、
    から選択される一種以上を含有する、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
  3. 表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、
    偏析度が1.0以下である負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足し、
    偏析度が1.0超である正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する、請求項1または2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板。
    Mns>0.85 ・・・(ii)
    Nis>0.85 ・・・(iii)
    Mns≦5.0 ・・・(iv)
    Nis≦5.0 ・・・(v)
    但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
    Mns:Mnの偏析度
    Nis:Niの偏析度
    Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
    Nis:Niの偏析帯幅(μm)
  4. 請求項1~3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を用いた鋼管。
  5. 表面から板厚方向にt/4で、任意に選択された50μm四方の観察視野に対して、ビーム径0.1μm、加速電圧15kV、照射電流2.0×10-9Aの条件で、EPMAを用いた面分析を行った場合に、
    偏析度が1.0以下である負偏析帯において、MnおよびNiの偏析度が、下記(ii)および(iii)式を満足し、
    偏析度が1.0超である正偏析帯において、MnおよびNiの偏析帯幅が、下記(iv)および(v)式を満足する、請求項4に記載の鋼管。
    Mns>0.85 ・・・(ii)
    Nis>0.85 ・・・(iii)
    Mns≦5.0 ・・・(iv)
    Nis≦5.0 ・・・(v)
    但し、上記式中の各記号は、以下のように定義される。
    Mns:Mnの偏析度
    Nis:Niの偏析度
    Mns:Mnの偏析帯幅(μm)
    Nis:Niの偏析帯幅(μm)
  6. 請求項3に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
    (a)請求項1または2に記載の化学組成を有する熱延鋼板を、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗する、熱延鋼板焼鈍工程と、
    (b)前記熱延鋼板に、圧下率20~50%の範囲で、冷間圧延を行い、冷延鋼板とする、第一冷延工程と、
    (c)前記冷延鋼板に、1000~1200℃の温度域で焼鈍し、酸洗する、第一焼鈍工程と、
    (d)前記冷延鋼板に、圧下率40%以上で、冷間圧延を行う、第二冷延工程と、
    (e)前記冷延鋼板を、950~1150℃の温度域で焼鈍する、第二焼鈍工程と、
    を有する、オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
  7. 請求項5に記載の鋼管の製造方法であって、
    (A)請求項1~3のいずれか1項に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板を管状に成形する、成形工程と、
    (B)成形された前記鋼板の端部を溶接し、鋼管とする、溶接工程と、
    (C)溶接された前記鋼管を950~1150℃の温度域で熱処理する、熱処理工程と、
    を有する、鋼管の製造方法。
  8. 請求項5に記載の鋼管の製造方法であって、
    (D)前記(C)の工程の後、冷間で引き抜き加工する、引き抜き加工工程と、
    をさらに有する、請求項7に記載の鋼管の製造方法。
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