JP2010144225A - 機械構造用鋼材およびその製造方法 - Google Patents

機械構造用鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】疲労による破損に対して良好な耐久性を有し、優れた横目方向の疲労強度、被削性も確保できる機械構造用鋼材の提供。
【解決手段】質量%で、C:0.13〜0.50%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.20〜2.5%、P≦0.040%、S:0.010%超〜0.030%、Cr:0.05〜2.5%、Al≦0.005%、Ca:≦0.0005%、N≦0.020%、O≦0.0020%を含有し、残部はFeと不純物からなる化学成分を有し、非金属介在物について、酸化物の平均組成が、CaO:10〜60%、Al2O3≦35%、MnO≦35%及びMgO≦15%で、鋼材の長手方向縦断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値が、それぞれ、12μm以下及び3.5〜12μmである機械構造用鋼材。
【選択図】なし

Description

本発明は、機械構造用鋼材およびその製造方法に関し、詳しくは、鋼材の長手方向(すなわち、圧延方向)に垂直な方向(以下、「横目方向」という。)の疲労強度および被削性に優れた機械構造用鋼材とその製造方法に関する。
近年、高燃費化等のニーズによって、機械構造用部品に対してさらなる高い疲労特性が求められている。このため、特に、横目方向の疲労強度が要求される機械構造用部品の場合、その素材鋼として、鋼中の非金属介在物(以下、「介在物」ともいう。)、なかでも酸化物による疲労強度の低下を抑制するために、介在物を低減したいわゆる「清浄鋼」が使用されている。
しかしながら、鋼中の酸化物を減らすために、単に酸素の含有量を低減させるだけでは所望の良好な疲労強度を得ることができず、このため、例えば特許文献1に、鋼中の酸化物のサイズを小さくして疲労強度を改善することが提案されている。
すなわち、特許文献1に、「重量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、Cr:0.2〜1.5%、Sol.Al:0.015〜0.05%、Total N:0.0050〜0.0200%、Total O:0.0010%以下および混入するTi、Nb、Zrのいずれも0.005%以下とし、必要に応じて、さらに、Cu:0.1〜0.5%、Ni:0.2〜2.5%、Mo:0.1〜0.5%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Fe及び不可避的不純物元素からなり、鋼中の直径20μm以上の酸化物系介在物と窒化物系介在物を鋼1g当り14個以下とすることを特徴とするショットピーニング処理型の高疲労強度歯車用肌焼鋼」に関する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1で提案された技術は、ショットピーニングによって疲労強度を向上させるものである。このため、ショットピーニングを行なわない場合には、必ずしも優れた疲労強度が得られるというものではなかった。さらに、疲労強度と被削性をともに高めたいという要求に対しては満足できるものではなかった。
そこで、特許文献2に、疲労強度と被削性をともに改善するための技術が提案されている。
具体的には、特許文献2に、「質量%で、C:0.10〜0.30%、Mn:0.30〜2.0%、Si:1.0以下(0%を含む)、S:0.003〜0.070%、Al:0.01〜0.06%、N:0.003〜0.03%、O:0.002%以下(0%を含む)、必要に応じて、さらに、(a)Ni:0.20〜4.5%、Cr:0.20〜2.5%、Mo:0.05〜1.0%、Cu:0.20〜1.0%よりなる群から選択される少なくとも一種、(b)B:0.0003〜0.0050%および/またはTi:0.003〜0.05%、(c)V:0.03〜1.5%および/またはNb:0.005〜1.5%、(d)Ca:0.0005〜0.01%、Pb:0.2%以下(0%を含まない)、Te:0.1%以下(0%を含まない)、Zr:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種、の各グループから選ばれるうちの1種以上の元素を含み、残部Feおよび不可避的不純物の要件を満足する鋼材からなり、線状または棒状圧延材の軸心を通る縦断面において、該軸心と平行で且つ該軸心から1/4・D(Dは圧延材の直径を表す)離れた仮想線を中心線として含む被検面積100mm2中に存在する、酸化物系と硫化物系からなる直径10μm以上の複合介在物が20個以下であり、且つ上記と同一の被検面積中に存在する直径3μm以上10μm未満の硫化物系介在物が50個以上であることを特徴とする疲労特性および被削性に優れた肌焼鋼」に関する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献2で提案された技術は、複合介在物の個数は少ないものの、溶製時にAl脱酸を行なう必要があるので、介在物は硬質なAl23を主体とする酸化物系と硫化物系の複合介在物となってしまう。このため、特に、Cの含有量が0.30%を超えるような鋼の場合には、必ずしも疲労強度と被削性をともに改善できるといえるものではなかった。
特開平2−270935号公報 特開平9−176784号公報
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、近年の過酷な使用環境下においても、疲労破損に対して良好な耐久性を有し、優れた横目方向の疲労強度を確保できるとともに、優れた被削性も併せて確保できる機械構造用鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、先に、酸化物に関して検討した結果、
(a)鋼のいわゆる「二次精錬」の過程におけるスラグの主要構成成分を主にCaOおよびSiO2とし、さらに、Al23が極力少量となるように厳密な制御を行うことで、軟質な酸化物が得られること、さらには、この軟質酸化物は圧下を加えることによって微細化できること、
(b)上記(a)のようにして精錬する方法で製造された鋼の場合、硫化物中にMnOと思われる酸化物が含有されやすくなる傾向があり、この硫化物は従来のAl添加により脱酸処理した軸受鋼中の硫化物とは異なり、圧下によって延伸、分断されることが難しいが、Sの含有量を質量%で、0.010%以下とし、かつ、圧下比、加工温度などの圧下条件を適正に制御すれば、酸化物だけではなく硫化物をも延伸、分断させて微細化することができ、結果として、過酷な使用環境下においても、優れた転動疲労寿命を有する軸受鋼鋼材を得ることができること、
を見出し、特願2007−204872の特許出願で「軸受鋼鋼材およびその製造方法」を提案した。
本発明者らは、その後さらに検討を進めた結果、全圧下比が15以上となる圧下工程のうちで850℃以下の温度域での圧下比を厳しく制御すれば、被削性に必要なSを増量させても、硫化物を延伸、分断させることができるため、高い疲労強度を維持しつつ、優れた切削性を有する鋼材を得ることができることを知見した。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)および(2)に示す機械構造用鋼材、ならびに(3)および(4)に示す機械構造用鋼材の製造方法にある。
(1)質量%で、C:0.13〜0.50%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.20〜2.5%、P:0.040%以下、S:0.010%を超えて0.030%以下、Cr:0.05〜2.5%、Al:0.005%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.020%以下およびO:0.0020%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学成分を有し、非金属介在物について、酸化物の平均組成におけるCaO、Al23、MnOおよびMgOが、質量%で、CaO:10〜60%、Al23:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下であるとともに、鋼材の長手方向縦断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値がそれぞれ、12μm以下および3.5〜12μmであることを特徴とする機械構造用鋼材。
(2)化学成分が、質量%で、さらに、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Mo:0.50%以下、Nb:0.10%以下、V:0.50%以下、B:0.0050%以下およびTi:0.10%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする上記(1)に記載の機械構造用鋼材。
(3)上記(1)または(2)に記載の化学成分および酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比を6以上として圧下することを特徴とする機械構造用鋼材の製造方法。
ただし、全圧下比とは、鋳片または鋼塊の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指し、また、850℃以下の温度域での圧下比とは、前記温度域での圧下前の中間鋼材の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指す。
(4)鋳片または鋼塊が、一次精錬後に、Al脱酸処理を行わずに、実質的にAlを含有しないフラックスを用いて二次精錬を行い、二次精錬終了後の最終的なスラグの塩基度CaO/SiO2の値が0.8〜2.0で、かつスラグ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al23:15%以下になるように制御し、続いて鋳造されたものであることを特徴とする上記(3)に記載の機械構造用鋼材の製造方法。
なお、鋼の化学成分における残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
そして、酸化物の平均組成における「残部」は主としてSiO2であり、さらに微量のCr23、Na2O、ZrO2などである。
鋼材の「長手方向縦断面」(以下、「L断面」という。)とは、鋼材の長手方向に平行に切断した面をいう。
スラグ組成における「残部」は、MnO、FeO、Cr23などである。
また、「実質的にAlを含有しないフラックス」とは、フラックス中のAl23が3%未満であることを指す。
以下、上記(1)および(2)の機械構造用鋼材に係る発明、ならびに(3)および(4)の機械構造用鋼材の製造方法に係る発明を、それぞれ、「本発明(1)」〜「本発明(4)」という。また、総称して「本発明」という。
本発明の機械構造用鋼材は、近年の過酷な使用環境下においても、疲労破損に対して良好な耐久性を有することから、各種の産業機械や自動車等に使用される横目方向の疲労強度が必要な機械構造用部品の素材として利用することができる。また、本発明の機械構造用鋼材は、被削性に優れるため、製造コストを低減することができる。この機械構造用鋼材は本発明の方法によって製造することができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素と酸化物の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)鋼の化学成分:
C:0.13〜0.50%
Cは、鋼を強化する作用を有する元素であり、0.13%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が多くなって、特に0.50%を超えると、母材の硬さが高くなりすぎて切削時の工具寿命の低下をきたすばかりか、焼割れの原因ともなる。したがって、Cの含有量を0.13〜0.50%とした。なお、C含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.45%である。より一層好ましいC含有量の上限は0.42%である。
Si:0.03〜1.00%
Siは、焼入れ性の向上、フェライトの強化、疲労強度の向上に有効な元素であり、0.03%以上含有させなければならない。しかしながら、1.00%を超えてSiを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたす。したがって、Siの含有量を0.03〜1.00%とした。なお、Si含有量の好ましい下限は0.10%であり、0.15%であればさらに好ましい。また、Si含有量の好ましい上限は0.95%であり、0.90%であればさらに好ましい。
Mn:0.20〜2.5%
Mnは、焼入れ性の向上、フェライトの強化、疲労強度の向上に有効な元素であり、0.20%以上含有させなければならない。しかしながら、2.5%を超えてMnを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、Mnの含有量を0.20〜2.5%とした。なお、Mn含有量の好ましい下限は0.50%であり、0.60%であればさらに好ましい。また、Mn含有量の好ましい上限は2.3%であり、2.1%であればさらに好ましい。
P:0.040%以下
Pは、不純物として含有される元素である。粒界に偏析しやすく、粒界を脆化させ、特に、その含有量が0.040%を超えると粒界破壊が顕著となる。したがって、Pの含有量を0.040%以下とした。なお、Pの含有量は、0.035%以下であることが好ましく、0.030%以下であればさらに好ましい。
S:0.010%を超えて0.030%以下
Sは、硫化物を形成して、切削性を向上させるのに有効な元素であり、0.010%を超える量を含有させなくてはならない。しかしながら、Sの含有量が0.030%を超えると、粗大な硫化物が残存するため疲労強度の低下を招いてしまう。したがって、Sの含有量を0.010%を超えて0.030%以下とした。なお、S含有量の好ましい上限は0.028%である。
Cr:0.05〜2.5%
Crは、焼入れ性を高める作用を有する。Crは、フェライトの強化作用および疲労強度の向上作用も有する。これらの効果を得るためには、0.05%以上のCrを含有させなければならない。しかしながら、2.5%を超えてCrを含有させると、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、Crの含有量を0.05〜2.5%とした。なお、Cr含有量の好ましい下限は0.08%であり、0.10%であればさらに好ましい。また、Cr含有量の好ましい上限は2.3%であり、2.1%であればさらに好ましい。
Al:0.005%以下
Alは、好ましくない元素であり、本発明においては、Alは極力少なくする必要がある。したがって、後述するように一次精錬後のAl添加による脱酸処理は行わないし、フラックスを投入して新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する際に用いるフラックスもAl23の含有量の少ない、実質的にAlを含有しないものを用いる。しかしながら、Alの含有量が多くなって、特に、0.005%を超えると、Al23を主体とする硬質な酸化物の生成量が多くなり、しかも、圧下した後も粗大な酸化物として残存するので、疲労強度が低くなってしまう。したがって、Alの含有量を0.005%以下とした。なお、Alの含有量は0.003%以下であることが好ましく、低ければ低いほどよい。
Ca:0.0005%以下
本発明においては、後述するように、一次精錬で生成したスラグの除滓後に、主成分がCaOであるフラックスを投入して、新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する。この際に、Caは軟質な酸化物として、フラックスから鋼中に極微量混入する。ただし、Caの含有量が多くなり、0.0005%を超えると、酸化物組成におけるCaOの割合が高くなりすぎて、粗大な酸化物となってしまう。したがって、Caの含有量を0.0005%以下とした。好ましいCa含有量は、0.0003%以下であり、さらに好ましくは0.0002%以下である。なお、含有されるCaの量の下限値は、特に規定するものではなく、鋼材中の酸化物の平均組成におけるCaOが10%以上であればよい。
N:0.020%以下
Nは、不純物として含有される元素である。このNには、Nb、V、Tiと窒化物や炭窒化物を形成して組織を微細化し、疲労強度を向上させる作用がある。しかしながら、0.020%を超えてNを含有させると、靱性が劣化し、特に、Tiを含有する場合には、粗大な窒化物を生成し、却って疲労強度の低下を招くおそれがある。したがって、Nの含有量を0.020%以下とした。Nの含有量は0.018%以下であることが好ましい。
なお、前記した疲労強度の向上効果を得るためには、0.008%以上の量のNを意図して含有させることが好ましい。
また、焼入れ時の焼入れ性向上効果を確保して強度を向上させるために、後述する量のBを含有させる場合には、BがNと結合してBNを形成することを極力抑制する必要がある。なお、Bを含有量させる場合に、Tiを複合して含有させればTiによってNが固定されるためBNの形成は抑制されるが、BをTiとの複合で含有させない場合には、Nの含有量は0.008%以下とすることが好ましく、0.006%以下であればより好ましい。
O:0.0020%以下
Oは、好ましくない不純物元素である。Oの含有量が多くなって、特に、0.0020%を超えると、圧下した後に粗大な酸化物として残存し、疲労強度の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.0020%以下とした。なお、好ましいO含有量の範囲は0.0015%以下である。
上記の理由から、本発明(1)に係る機械構造用鋼材は、C、Si、Mn、P、S、Cr、Al、Ca、N、Oを上述した範囲で含有し、残部はFeおよび不純物の化学成分からなることと規定した。なお、既に述べたように、鋼の化学成分における残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石あるいはスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入するものを指す。
本発明に係る機械構造用鋼材は、より大きな強度を確保するという観点から、その化学成分は、前記本発明(1)に係る機械構造用鋼材の化学成分に加えて、Cu、Ni、Mo、Nb、V、BおよびTiについて、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Mo:0.50%以下、Nb:0.10%以下、V:0.50%以下、B:0.0050%以下およびTi:0.10%以下のうちの1種以上をさらに含有することができる。
以下、上記のCu、Ni、Mo、Nb、V、BおよびTiに関して説明する。
Cu:1.0%以下
Cuは、焼入れ性を高め、強度を向上する作用を有する。このため、上記の効果を得るためにCuを含有してもよい。しかしながら、Cuの含有量が1.0%を超えると、母材の硬さが高くなって、切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、含有させる場合のCuの量を1.0%以下とした。なお、Cu含有量の上限は0.50%とすることが好ましく、0.30%とすれば一層好ましい。一方、前記したCuの効果を確実に得るためには、Cu含有量の下限を0.05%とすることが好ましく、0.07%とすれば一層好ましい。
Ni:3.0%以下
Niは、焼入れ性を高め、強度を向上する作用を有する。このため、上記の効果を得るためにNiを含有してもよい。しかしながら、Niの含有量が3.0%を超えると、母材の硬さが高くなって、切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、含有させる場合のNiの量を3.0%以下とした。なお、Ni含有量の上限は2.0%とすることが好ましく、1.0%とすれば一層好ましい。一方、前記したNiの効果を確実に得るためには、Ni含有量の下限を0.05%とすることが好ましく、0.07%とすれば一層好ましい。
Mo:0.50%以下
Moは、焼入れ性を高め、強度を向上する作用を有する。このため、上記の効果を得るためにMoを含有してもよい。しかしながら、Moの含有量が0.50%を超えると、母材の硬さが高くなって、切削時の工具寿命の低下をきたし、さらには、焼割れの原因ともなる。したがって、含有させる場合のMoの量を0.50%以下とした。なお、Mo含有量の上限は0.30%とすることが好ましく、0.25%とすれば一層好ましい。一方、前記したMoの効果を確実に得るためには、Mo含有量の下限を0.02%とすることが好ましく、0.10%とすれば一層好ましい。
Nb:0.10%以下
Nbは、窒化物や炭窒化物形成による組織の微細化および炭化物形成によるフェライト強化によって、強度を向上する作用を有する。このため、上記の効果を得るためにNbを含有してもよい。しかしながら、Nbの含有量が0.10%を超えると、粗大な窒化物を形成して疲労強度を低下させ、さらには、母材の硬さが硬くなって切削時の工具寿命の低下をきたす。したがって、含有させる場合のNbの量を0.10%以下とした。なお、Nb含有量の上限は0.070%とすることが好ましく、0.050%とすれば一層好ましい。一方、前記したNbの効果を確実に得るためには、Nb含有量の下限を0.010%とすることが好ましく、0.012%とすれば一層好ましい。
V:0.50%以下
Vは、窒化物や炭窒化物形成による組織の微細化および炭化物形成によるフェライト強化によって、強度を向上する作用を有する。このため、上記の効果を得るためにVを含有してもよい。しかしながら、Vの含有量が0.50%を超えると、粗大な窒化物を形成して疲労強度を低下させ、さらには、母材の硬さが硬くなって切削時の工具寿命の低下をきたす。したがって、含有させる場合のVの量を0.50%以下とした。なお、V含有量の上限は0.45%とすることが好ましく、0.40%とすれば一層好ましい。一方、前記したVの効果を確実に得るためには、V含有量の下限を0.010%とすることが好ましく、0.030%とすれば一層好ましい。
B:0.0050%以下
Bは、微量を添加するだけで鋼の焼入れ性を大きく向上させ、強度を向上させることができる元素である。このため、上記の効果を得るためにBを含有してもよい。しかしながら、Bの含有量が0.0050%を超えてもその効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Bの含有量を0.0050%以下とした。なお、B含有量の上限は0.0045%とすることが好ましい。一方、前記したBの効果を確実に得るためには、B含有量の下限を0.0005%とすることが好ましい。
Ti:0.10%以下
Tiは、窒化物や炭窒化物を形成することにより組織を微細化したり、炭化物を形成することでフェライトを強化し、強度を向上させるのに有効な元素である。このため、上記の効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、Tiの含有量が0.10%を超えると、粗大なTiNを多量に形成して疲労強度を低下させ、さらには、Tiの強化作用によって母材の硬さが硬くなって切削時の工具寿命の低下をきたす。したがって、含有させる場合のTiの量を0.10%以下とした。なお、Ti含有量の上限は0.050%とすることが好ましい。一方、前記したTiの効果を確実に得るためには、Ti含有量の下限を0.005%とすることが好ましい。
なお、前記したBを含有させる場合には、Bの焼入れ性向上効果を確保して強度向上効果を十分発揮させるために、BよりもNとの親和力が大きく窒化物形成能が強いTiを併せて添加することが好ましく、この場合Tiの含有量は0.010%以上とすることが好ましい。
上記の理由から、本発明(2)に係る機械構造用鋼材は、その化学成分が、前記本発明(1)に係る機械構造用鋼材に、さらに、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Mo:0.50%以下、Nb:0.10%以下、V:0.50%以下、B:0.0050%以下およびTi:0.10%以下のうちの1種以上を含有するものであることと規定した。
また、本発明(3)においても、前述した化学成分からなる鋳片または鋼塊を用いることとした。
(B)非金属介在物:
(B−1)酸化物の平均組成:
本発明においては、非金属介在物について、先ず、酸化物の平均組成におけるCaO、Al23、MnOおよびMgOが、質量%で、CaO:10〜60%、Al23:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下でなければならない。以下、質量%での酸化物の平均組成における含有量を「濃度」ともいう。
本発明でいう「酸化物」は、主としてCaO、SiO2、Al23、MnOおよびMgOの5元系を基本として構成されるものであり、酸化物の平均組成が上記の範囲にある場合には酸化物は全体的に軟質であり、圧延などの圧下工程において容易に延伸、分断されて微細になるため、疲労強度を低下させることがなく、したがって、過酷な使用環境下においても優れた疲労強度を確保できるからである。
以下に、各酸化物組成の限定理由を示す。
CaO:10〜60%
酸性酸化物であるSiO2を基本組成とする酸化物は、塩基性であるCaOを含むことにより酸化物の液相線温度が下がり、圧延などの圧下温度域で延性を示すようになる。上記の効果は、酸化物の平均組成におけるCaO濃度が10%以上で得られるが、60%を超えると相対的にSiO2濃度が低下するため却って延性を示さなくなる。したがって、酸化物の平均組成におけるCaO濃度を10〜60%とした。なお、圧延などの圧下温度域で安定した延性が得られるようにするための上記CaO濃度の好ましい上限は50%である。
Al23:35%以下
両性酸化物であるAl23の酸化物の平均組成における濃度が35%を超えると、Al23(コランダム)相が晶出したり、後述するMgOとともにMgO・Al23(スピネル)相が晶出する。これらの固相は硬質で圧延などの圧下でも延伸することなく、晶出した際の厚みを保つ。したがって、酸化物の平均組成におけるAl23濃度は35%以下とする必要がある。なお、前記硬質相の生成を安定かつ確実に抑制するための上記Al23濃度の好ましい上限は25%である。
MnO:35%以下
MnOは、酸化物としては塩基性を有し、SiO2系の軟質化を助長するので、比較的高い濃度まで許容できる。しかしながら、MnOは鋼が弱脱酸状態の時に安定な、いわゆる「低級酸化物」であり、MnO濃度が高いと鋼中のO(酸素)の含有量も高くなる。すなわち、酸化物の平均組成におけるMnO濃度が35%を超えるとO含有量を0.0020%以下とすることができない場合がある。したがって、酸化物の平均組成におけるMnO濃度を35%以下とした。なお、前述したOの含有量を0.0015%以下にするために、酸化物の平均組成におけるMnO濃度は25%以下とすることが好ましい。
MgO:15%以下
MgOは、塩基性酸化物であり、少量ではSiO2系酸化物の軟質化ができるが、一方でその溶解度が低く、硬質のMgO(ペリクレース)相およびAl23とともにMgO・Al23(スピネル)相が晶出する。酸化物の平均組成におけるMgOが15%を超えると、上述した硬質相を晶出する蓋然性が高くなる。したがって、酸化物の平均組成におけるMgO濃度を15%以下とした。なお、前記した硬質相の晶出をより確実に抑制するために、酸化物の平均組成におけるMgO濃度は10%以下とすることが好ましい。
本発明でいう「酸化物」は、主としてCaO、SiO2、Al23、MnOおよびMgOの5元系を基本として構成されるものであるが、Cr23、Na2O、ZrO2などの酸化物における不純物の総和は5%以下であることが好ましい。
なお、酸化物の平均組成は、CaO:10〜50%、Al23:25%以下、MnO:25%以下およびMgO:10%以下で残部がSiO2および5%以下の不純物であることが好ましい。
また、酸化物の平均組成において、Al23、MnOおよびMgOの下限は、特に規定する必要はない。
上述の理由から、本発明(1)および(2)に係る機械構造用鋼材の酸化物の平均組成におけるCaO、Al23、MnOおよびMgOを、質量%で、CaO:10〜60%、Al23:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下であることと規定した。
また、本発明(3)においても、上記酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊を用いることとした。
なお、酸化物の平均組成は、例えば、鋼材を長手方向に平行に切出したL断面を鏡面研磨した後、エネルギー分散型X線分光法によって、厚さ3μm以上の任意の酸化物を複数個、例えば20個について、測定した組成を算術平均して求めればよい。
なお、上記した酸化物の平均組成は、例えば、次の〈1〉および〈2〉に述べる製鋼方法を採用し、その後、常法の連続鋳造法や鋳型法によって鋳片や鋼塊を作製することによって得ることができる。
〈1〉機械構造用鋼の製鋼過程で、いわゆる「一次精錬炉」である転炉、電気炉などでの一次精錬後に不純物として含まれる酸素を除くために通常実施されるAl添加での脱酸処理を行わない。
〈2〉二次精錬終了後の最終的なスラグについて、塩基度(CaO/SiO2)が0.8〜2.0で、かつ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al23:15%以下になるように制御する。なお、上記のF(フッ素)は造滓剤としてのほたる石の主成分であるCaF2に由来する。
なお、二次精錬終了後の最終的なスラグについて、上記〈2〉の組成とするためには、一次精錬炉から取り鍋へ出鋼した後、「二次精錬」におけるスラグ組成制御を容易にするために、先ず、一次精錬炉から流出した一次精錬で生成したスラグの除滓を実施し、除滓後に、主成分がCaOであり、実質的にAlを含まない、Al23やMgOの含有量の少ないフラックスを投入して、新たに生成したスラグと溶鋼を強攪拌すればよい。既に述べたように、上記のスラグ組成における「残部」は、MnO、FeO、Cr23などである。
強攪拌を得るための手段としては、例えば、減圧下での攪拌、インジェクションによる攪拌、取り鍋底部からの底吹き攪拌などを適用すればよい。インジェクションによる攪拌を行う場合には、上述のフラックスを同時に吹き込むのが好ましい。また、減圧処理を実施する場合には、あくまでも攪拌のための減圧処理に留める必要がある。これは、長時間の減圧処理を実施すれば、却って耐火物からの硬質介在物の混入やスラグの巻き込みを招くことになって、清浄性を低下させることに繋がるからである。
また、鋼のCa含有量が0.0005%を超えない範囲であれば、二次精錬の過程でさらに溶鋼中にCaを添加しても構わない。
(B−2)酸化物の最大厚さと硫化物の最大厚さ:
酸化物、硫化物の双方ともに、その厚さが大きい場合には、疲労強度の低下を招く。疲労強度に最も影響を及ぼすものは、最大応力位置付近に存在する最も粗大な介在物である。
特に、鋼材のL断面10箇所の100mm2の面積中において、最大厚さの算術平均の値で12μmを超えるような酸化物や硫化物が存在すると、最大応力位置付近に存在する確率が高くなり、疲労強度の著しい低下をきたす。
一方、硫化物に関しては、鋼材のL断面10箇所の100mm2の面積中において、最大厚さの算術平均の値で3.5μmを下回るような硫化物が存在すると、切削性の低下をきたす。
上述の理由から、本発明(1)および(2)に係る機械構造用鋼材は、鋼材のL断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値がそれぞれ、12μm以下および3.5〜12μmであることと規定した。
なお、上記の酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値はいずれも、10μm以下であることが好ましい。
上記の酸化物の最大厚さの算術平均の値の下限については、特に規定するものではない。これは、疲労強度を高めるという目的に対して、酸化物は小さければ小さいほど好ましいからである。
なお、「L断面」とは、鋼材の長手方向に平行に切断した面を指すことは既に述べたとおりである。
(C)機械構造用鋼材の製造方法:
本発明(1)および(2)の機械構造用鋼材は、例えば、本発明(3)の方法、具体的には、前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比を6以上として圧下することによって、製造することができる。
また、本発明(3)に係る化学成分と酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊、つまり前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊は、例えば、前記(B−1)項の〈1〉および〈2〉で述べた方法を採用した後、続いて常法の連続鋳造法や鋳型法で鋳造することによって得ることができる。
そして、機械構造用鋼材は、鋳片または鋼塊を1000℃を超える温度域で分塊圧延して得た鋼片を用いて、これに例えば、棒鋼圧延、線材圧延などの圧延加工を行うことによって製造される。
上記工程において、鋳片または鋼塊を最終の棒鋼、線材などの鋼材に加工する場合の全圧下比が15を下回る場合には、たとえ前述の(A)項で述べた化学成分からなり、(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊を用いても、機械構造用鋼材に前記(B−2)項で述べた酸化物の最大厚さと硫化物の最大厚さの条件を満足させることができず、このため、過酷な使用環境下において、所望の優れた疲労強度を確保させることができない。
なお、上記の全圧下比が大きいほど、前記(B−2)項で述べた酸化物の最大厚さと硫化物の最大厚さが小さくなって、機械構造用鋼材の疲労強度は向上する。このため、上記全圧下比の上限は特に規定する必要はなく、鋳片あるいは鋼塊の寸法とそれらを加工して得られる最終の棒鋼、線材など鋼材の寸法や設備面から決定される最大の値であってもよい。
なお、望ましい全圧下比の範囲は30以上である。
しかしながら、機械構造用鋼材に前記(B−2)項で述べた酸化物の最大厚さと硫化物の最大厚さの条件を満足させるためには、全圧下比が15以上を満たすようにするだけでは不十分である。
これは、酸化物の平均組成が前記(B−1)項で述べたものである時、同時に存在する硫化物にはMnOと思われる酸化物が含有されており、Al添加で脱酸処理した場合に比べて硫化物は硬質化しているので、加工によって延伸、分断され難く、したがって、機械構造用鋼材に前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さの条件を満足させることができないからである。
全圧下比が15以上を満たすようにし、しかも、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比を6以上として圧下することによって、初めて、機械構造用鋼材に前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さの条件を満足させることができる。
すなわち、マトリックス(素地)の変形抵抗は硫化物に比較して小さいため、高い温度で加えられる圧下、特に、850℃を超える温度域で加えられる圧下は、マトリックスを優先的に変形させてしまう。そのため、上記温度域における圧下では、硫化物は延伸、分断され難く、前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さの条件を満足することができない。そして、この場合には、過酷な使用環境下において、所望の優れた疲労強度を確保させることができない。
これに対して、圧下を加える温度域を850℃以下に低下させれば、マトリックスと硫化物の変形抵抗の差は小さくなるので、硫化物は延伸、分断されやすくなって前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さの条件を満足するようになる。
なお、圧下を加える温度域は830℃以下が望ましく、800℃以下であればさらに望ましい。
上記の圧下を加える温度域が低ければ低いほど、硫化物の延伸、分断効果が促進されるので前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さは小さくなる。このため、上記圧下を加える温度の下限は特に規定する必要はなく、最終の棒鋼、線材などの鋼材に加工するための負荷やその際の加工性など設備面や材料特性の観点から決定される最小の値であってもよい。
なお、圧下を加える温度域が850℃以下であっても、その温度域における圧下比が低く、特に、6を下回る場合には、硫化物が十分に延伸、分断され難いので、前記(B−2)項で述べた硫化物の最大厚さの条件を満足することができない。
上記850℃以下の温度域における圧下比は、7以上が望ましい。
なお、上記の850℃以下の温度域における圧下比の上限は、特に規定するものではなく、最終の棒鋼、線材などの鋼材に加工するための負荷やその際の加工性など設備面や材料特性の観点から決定される最大の値であってもよい。
なお、既に述べたように、上記の全圧下比とは、鋳片または鋼塊の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指し、また、850℃以下の温度域での圧下比とは、前記温度域での圧下前の中間鋼材の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指す。
上述の理由から、本発明(3)においては、本発明(1)または(2)に記載の化学成分および酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊、換言すれば、前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比を6以上として圧下することと規定した。
また、本発明(4)では、前記(B−1)項で述べたことを基礎に、本発明(3)において、酸化精錬後に、Al脱酸処理を行わずに、実質的にAlを含有しないフラックスを用いて二次精錬を行い、二次精錬終了後の最終的なスラグの塩基度CaO/SiO2の値が0.8〜2.0で、かつスラグ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al23:15%以下になるように制御し、続いて鋳造された鋳片や鋼塊を用いることと規定した。
既に述べたように、「実質的にAlを含有しないフラックス」とは、フラックス中のAl23が3%未満であることを指す。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
(実施例1)
表1に示す種々の化学組成を有する機械構造用鋼の鋳片1〜29を製造した。
なお、表1中の鋼1〜16および鋼24〜27は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、鋼17〜23、鋼28および鋼29は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。比較例の鋼のうち鋼28および鋼29は従来のAlキルド鋼に相当する鋼である。
Figure 2010144225
上記の各鋼のうち、鋼1〜27については、転炉で一次精錬を行った後、除滓し、フラックスを投入した。そして、フラックスインジェクション法によるフラックスの吹き込みを行った後、溶鋼中にフラックスを混入させた状態で、アーク式加熱装置付き真空溶鋼攪拌設備(以下、「VAD」という。)により、Ar雰囲気下で、Ar流量40〜60L/分の溶鋼攪拌を40分間行った。その後、連続鋳造して300mm×400mmの鋳片にした。なお、鋼19および鋼23については、転炉からの出鋼時にAlを添加し、軽く脱酸処理を行ったが、鋼1〜18、鋼20〜22および鋼24〜27については、Al添加の脱酸処理を行わなかった。
鋼28および鋼29については、転炉で一次精錬を行った後、転炉からの出鋼時にAl添加による脱酸処理を行ってから、除滓し、フラックスを投入した。そして、VADにより、Ar雰囲気下で、Ar流量40〜60L/分の溶鋼攪拌を40分間行い、さらにRH真空脱ガス装置による処理を40分間行って、Al23を主体とする硬質な酸化物を除去した。その後、連続鋳造して300mm×400mmの鋳片にした。
表2に、鋼1〜29の除滓後に投入したフラックスの組成、および鋼1〜27のフラックスインジェクション法で使用したフラックスの組成を示す。
また、表3に、鋼1〜29のVAD処理後の質量%でのスラグの組成と塩基度(CaO/SiO2)を示す。
Figure 2010144225
Figure 2010144225
このようにして得た鋼1〜29の鋳片のT/4部(ただし、「T」は鋳片の厚みを表す。)から、すなわち、鋳片の外面と中心の中間部位から、酸化物組成測定用のブロックを切出し、そのブロックを樹脂に埋め込んでL断面を鏡面研磨した後、エネルギー分散型X線分光法によって、厚さ3μm以上の任意の酸化物を20個選び、それぞれの組成を測定した。
そして、20個の酸化物について測定した組成を算術平均して、各鋳片における酸化物の「平均組成」を求めた。
表4に、鋼1〜29の各鋳片について上記のようにして測定した酸化物の平均組成を示す。なお、酸化物の平均組成における残部はCr23、Na2O、ZrO2などである。
Figure 2010144225
上記鋼1〜27の鋳片については、これらを1250℃で均熱した後、1100〜1050℃の温度域で分塊圧延して160mm×160mmの鋼片とし、さらに、その鋼片を860℃に加熱した後、830〜780℃の温度域で棒鋼圧延して、直径65mm(以下、「φ65mm」という。)の棒鋼を製造した。
一方、鋼28および鋼29の鋳片については、これらを1250℃で均熱した後、1100〜1050℃の温度域で分塊圧延して160mm×160mmの鋼片とし、さらにその鋼片を1200℃に加熱した後、1100〜1020℃の温度域で棒鋼圧延して、φ65mmの棒鋼を製造した。
上記のようにして得た鋼1〜29のφ65mmの棒鋼のR/2部(ただし、「R」は棒鋼の半径を表す。)から、酸化物組成測定用のブロックを切出し、そのブロックを樹脂に埋め込んでL断面を鏡面研磨した後、エネルギー分散型X線分光法によって、厚さ3μm以上の任意の酸化物を20個選び、それぞれの組成を測定した。
そして、20個の酸化物について測定した組成を算術平均して、各φ65mmの棒鋼における酸化物の「平均組成」を求めた。
また、鋼1〜29のφ65mmの棒鋼のR/2部から、縦断方向に100mm2のブロックを10個切出してL断面が被検面になるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨し、次いで、100mm2の各L断面中に存在する酸化物の最大厚さおよび硫化物の最大厚さを光学顕微鏡を用いて測定し、それぞれ、算術平均した。
具体的には、光学顕微鏡観察の倍率を400倍として、先ず、100mm2のL断面中で最も厚さの大きい酸化物と硫化物をそれぞれ検出し、次いで、倍率を1000倍としてそれぞれの厚さを測定し、この測定を10個のブロックについて行い、それぞれ10個の算術平均値を求めた。
なお、酸化物と硫化物が分離せずに複合している場合は、酸化物および硫化物の厚さをそれぞれ測定し、それらの厚さが測定したL断面中で最も大きかった場合に、それぞれを、対象とする100mm2のL断面中で最も厚さの大きい酸化物および硫化物として、算術平均した。
表5に、鋼1〜29の各φ65mmの棒鋼について上記のようにして測定した酸化物の平均組成ならびに10個の100mm2のL断面中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値を示す。なお、酸化物の平均組成における残部はCr23、Na2O、ZrO2などである。
表5においては、上記の酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値をそれぞれ、「酸化物の最大厚さ」および「硫化物の最大厚さ」と表記した。以下の説明においても、酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値をそれぞれ、「酸化物の最大厚さ」および「硫化物の最大厚さ」ということがある。
Figure 2010144225
また、上記のようにして得た鋼1〜29のφ65mmの棒鋼をいずれも、図1に模式的に示すとおり、長手方向と垂直の方向が素形材の厚みとなるように、棒鋼の中心を基準としてスライスし、幅が65mm、厚みが11mmで長さが150mmの素形材を採取した。
上記の幅が65mm、厚みが11mmで長さが150mmの素形材を、850℃で30分加熱した後、油焼入れし、その後さらに、ビッカース硬さが340〜360となるように、種々の温度で1時間加熱して大気中で放冷する焼戻しを行った。
このようにして焼入れ−焼戻しした素形材から、図2に示す形状の超音波疲労試験片を、試験片の長手方向が素形材の幅方向と平行となり、なおかつ、試験片の中心が上記素形材の幅の中心に位置するように作製して、超音波疲労試験に供した。
なお、超音波疲労試験は、株式会社島津製作所製の超音波疲労試験機「USF−2000」を用いて、試験片の長手方向に対して引張−圧縮の応力を付加し、応力比−1、周波数20kHzにて各鋼について8本ずつ疲労試験を行った。
上記の超音波疲労試験の結果は、繰り返し数1.0×107における時間強度を「疲労強度」として評価した。
前記の表5に、上記のようにして求めた疲労強度を併せて示した。
さらに、上記のようにして得た鋼1〜29のφ65mmの各棒鋼をピーリング加工して、φ32mmで長さ300mmの熱処理素材を作製した。そして、これらの熱処理素材を、850℃で30分加熱した後、油焼入れし、その後さらに、ビッカース硬さが280〜300となるように、種々の温度で1時間加熱して大気中で放冷する焼戻しを行った。
上記の焼入れ−焼戻しを施したφ32mm×300mm材は、酸化スケールを除去するためにφ30mmにピーリング加工し、その後、切削性試験に供した。
切削性試験については、切削速度150m/分、切り込み量2mm、送り量0.2mm/revで、汎用の超硬工具を用いて、乾式にて外周旋削を行った。
なお、切削性試験の結果は、フランク摩耗量が0.2mmに達する時間を「工具寿命」として評価した。
前記の表5に、上記のようにして求めた工具寿命を併せて示した。
表5から明らかなように、鋼の化学成分および非金属介在物(つまり、酸化物の平均組成および鋼材のL断面の10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値)が本発明(1)および(2)の規定を満たす試験番号1〜16の場合には、525MPa以上の高い疲労強度が得られており、なおかつ、7.9分以上の長い工具寿命も得られている。
これに対して、鋼の化学成分が本発明の規定を満たしても、本発明(4)の規定から外れる方法で製造し、非金属介在物が本発明(1)および(2)で規定する条件から外れる試験番号24〜27の場合には、疲労強度が低い。
すなわち、上記の各試験番号の場合、非金属介在物について、硫化物の最大厚さは本発明(1)および(2)で規定する条件を満たすものの、酸化物の平均組成が本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるため、酸化物が硬質なものとなり、その結果、酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、430MPa、445MPa、460MPaおよび450MPaと低いものである。
一方、化学成分が本発明の規定から外れる鋼を用いた場合のうちでは、Sの含有量が本発明で規定する下限値を下回る場合の被削性が悪い。
すなわち、試験番号20および試験番号21は、非金属介在物について、酸化物の平均組成および酸化物の最大厚さはともに本発明(1)および(2)で規定する条件を満たすものの、用いた鋼20および鋼21のS含有量が、それぞれ、0.003%および0.002%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、硫化物の最大厚さが小さくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、工具寿命はそれぞれ、3.5分および4.1分と短いものである。
また、化学成分が本発明の規定から外れる鋼を用いた場合のうち、上記の試験番号20および試験番号21を除いたものは、疲労強度が低い。
すなわち、試験番号17および試験番号22は、非金属介在物について、酸化物の平均組成および酸化物の最大厚さはともに本発明(1)および(2)で規定する条件を満たすものの、用いた鋼17および鋼22のS含有量が、それぞれ、0.043%および0.038%と高く、本発明で規定する値を超えるものである。このため、硫化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、450MPaおよび445MPaと低いものである。
試験番号18は、非金属介在物について、酸化物の平均組成および硫化物の最大厚さは本発明(1)および(2)で規定する条件を満たすものの、用いた鋼18のO含有量が0.0029%と高く、本発明で規定する値を超えるものである。このため、酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度は475MPaと低い。
試験番号19および試験番号23は、非金属介在物について、硫化物の最大厚さは本発明(1)および(2)で規定する条件を満たすものの、用いた鋼19および鋼23のAl含有量がそれぞれ、0.011%および0.010%と高く、本発明で規定する値を超えるものである。このため、酸化物の平均組成が本発明(1)および(2)で規定する条件から外れて、硬質な酸化物となり、その結果、酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、450MPaおよび455MPaと低い。
また、試験番号28および試験番号29は、従来のAlキルド鋼に相当する鋼28および鋼29を用いたので、Al含有量がそれぞれ、0.031%および0.025%と高く、本発明で規定する値を超えるため、酸化物の平均組成が本発明(1)および(2)で規定する条件から外れて、硬質な酸化物となり、その結果、酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れている。このため、疲労強度はそれぞれ、470MPaおよび430MPaと低いものである。なお、上記の試験番号のうちで試験番号28は、用いた鋼28のS含有量が0.003%と低く、本発明で規定する値を下回るものである。このため、硫化物の最大厚さが小さくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、工具寿命は3.8分と短いものである。
(実施例2)
実施例1で作製した鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29の300mm×400mmの鋳片を1250℃で均熱した後、1100〜1050℃の温度域で分塊圧延して160×160mmの鋼片にした。
次いで、上記の鋼片を用いて、次の〔1〕〜〔5〕に示す条件で棒鋼圧延し、φ65mmまたはφ110mmの棒鋼を製造した。
〔1〕鋼片を1200℃に加熱した後、1100〜1020℃の温度域で棒鋼圧延して、φ65mmの棒鋼を製造、
〔2〕鋼片を860℃に加熱した後、830〜780℃の温度域で棒鋼圧延して、φ65mmの棒鋼を製造、
〔3〕鋼片を800℃に加熱した後、750〜700℃の温度域で棒鋼圧延して、φ65mmの棒鋼を製造、
〔4〕鋼片を1200℃に加熱した後、1100〜1020℃の温度域で棒鋼圧延して、φ110mmの棒鋼を製造、
〔5〕鋼片を860℃に加熱した後、830〜780℃の温度域で棒鋼圧延して、φ110mmの棒鋼を製造。
また、上記の実施例1で作製した鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29の300mm×400mmの鋳片を1250℃で均熱した後、1100〜1050℃の温度域で分塊圧延して140×140mmの鋼片とし、さらに、その鋼片を用いて、次の〔6〕に示す条件で棒鋼圧延し、φ100mmの棒鋼を製造した。
〔6〕鋼片を860℃に加熱した後、830〜780℃の温度域で棒鋼圧延して、φ100mmの棒鋼を製造。
表6に、上記した各棒鋼の製造条件の詳細を示す。
Figure 2010144225
上記のようにして製造した鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29のφ65mm、φ100mmおよびφ110mmの棒鋼のR/2部から、酸化物組成測定用のブロックを切出し、そのブロックを樹脂に埋め込んでL断面を鏡面研磨した後、エネルギー分散型X線分光法によって、厚さ3μm以上の任意の酸化物を20個選び、それぞれの組成を測定した。
そして、20個の酸化物について測定した組成を算術平均して、φ65mm、φ100mmおよびφ110mmの棒鋼における酸化物の「平均組成」を求めた。
また、鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29のφ65mm、φ100mmおよびφ110mmの棒鋼のR/2部から、縦断方向に100mm2のブロックを10個切出してL断面が被検面になるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨し、次いで、100mm2の各L断面中に存在する酸化物の最大厚さおよび硫化物の最大厚さを光学顕微鏡を用いて測定し、それぞれ、算術平均した。
具体的には、光学顕微鏡観察の倍率を400倍として、先ず、100mm2のL断面中で最も厚さの大きい酸化物と硫化物をそれぞれ検出し、次いで、倍率を1000倍としてそれぞれの厚さを測定し、この測定を10個のブロックについて行い、それぞれ10個の算術平均値を求めた。
なお、酸化物と硫化物が分離せずに複合している場合は、酸化物および硫化物の厚さをそれぞれ測定し、それらの厚さが測定したL断面中で最も大きかった場合に、それぞれを、対象とする100mm2のL断面中で最も厚さの大きい酸化物および硫化物として、算術平均した。
表7に、前記の各棒鋼について上記のようにして測定した酸化物の平均組成ならびに10個の100mm2のL断面中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値を示す。なお、先にも述べたように、酸化物の平均組成における残部はCr23、Na2O、ZrO2などである。また、「酸化物の最大厚さ」および「硫化物の最大厚さ」は、それぞれ、酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値を指す。
Figure 2010144225
また、上記のようにして得た鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29のφ65mm、φ100mmおよびφ110mmの棒鋼をいずれも、図1に模式的に示すとおり、長手方向と垂直の方向が厚みとなるように、棒鋼の中心を基準としてスライスし、それぞれ、幅が65mm、100mm、110mmであって、厚みが11mm、長さが150mmの素形材を採取した。
上記のそれぞれ、幅が65mm、100mm、110mmであって、厚みが11mm、長さが150mmの素形材を、850℃で30分加熱した後、油焼入れし、その後さらに、ビッカース硬さが340〜360となるように種々の温度で1時間加熱して大気中で放冷する焼戻しを行った。
このようにして焼入れ−焼戻しした素形材から、図2に示す形状の超音波疲労試験片を、試験片の長手方向が素形材の幅方向と平行となり、なおかつ、試験片の中心が上記素形材の幅の中心に位置するように作製して、超音波疲労試験に供した。
なお、超音波疲労試験は、株式会社島津製作所製の超音波疲労試験機「USF−2000」を用いて、試験片の長手方向に対して引張−圧縮の応力を付加し、応力比−1、周波数20kHzにて各鋼について8本ずつ疲労試験を行った。
上記の超音波疲労試験の結果は、繰り返し数1.0×107における時間強度を「疲労強度」として評価した。
前記の表7に、上記のようにして求めた疲労強度を併せて示した。
さらに、上記のようにして得た鋼3、鋼13、鋼17、鋼26および鋼29のφ65mm、φ100mmおよびφ110mmの各棒鋼をピーリング加工し、いずれもφ32mmで長さ300mmの熱処理素材に仕上げた。そして、これらの熱処理素材を、850℃で30分加熱した後、油焼入れし、その後さらに、ビッカース硬さが280〜300となるように、種々の温度で1時間加熱して大気中で放冷する焼戻しを行った。
上記の焼入れ−焼戻しを施したφ32mm×300mm材は、酸化スケールを除去するためにφ30mmにピーリング加工し、その後、切削性試験に供した。
切削性試験については、切削速度150m/分、切り込み量2mm、送り量0.2mm/revで、汎用の超硬工具を用いて、乾式にて外周旋削を行った。
なお、切削性試験の結果は、フランク摩耗量が0.2mmに達する時間を「工具寿命」として評価した。
前記の表7に、上記のようにして求めた工具寿命を併せて示した。
表7から、鋼の化学成分および酸化物の平均組成が本発明(3)の規定を満たす鋳片を、本発明(3)の方法で圧下した試験番号31、試験番号32、試験番号37および試験番号38の場合には、棒鋼における酸化物の平均組成および酸化物の最大厚さおよび硫化物の最大厚さが本発明(1)および(2)の規定を満たしており、550MPa以上という高い疲労強度が得られ、9.1分以上という長い工具寿命も得られていることが明らかである。
これに対して、鋼の化学成分および酸化物の平均組成が本発明(3)の規定を満たす鋳片に全圧下比が15以上となる圧下を加えた場合であっても、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比が本発明(3)の条件から外れた方法で圧下した試験番号30、試験番号35、試験番号36および試験番号41の場合には、棒鋼における硫化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れる。このため、疲労強度は、490MPa、480MPa、485MPaおよび470MPaと低い。
また、鋼の化学成分および酸化物の平均組成が本発明(3)の規定を満たす鋳片を用いた場合であっても、全圧下比が本発明(3)の条件から外れた方法で圧下した試験番号33、試験番号34、試験番号39および試験番号40の場合には、棒鋼における硫化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、495MPa、490MPa、490MPaおよび465MPaと低いものである。
さらに、酸化物の平均組成が本発明(3)の規定を満たしても、鋼の化学成分としてのS含有量が本発明(3)の規定上限から外れる鋳片を用いた試験番号42〜47の場合には、圧下条件に拘わらず棒鋼における硫化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、440MPa、450MPa、450MPa、430MPa、440MPaおよび440MPaと低い。
鋼の化学成分が本発明(3)の規定を満たしても、酸化物の平均組成が本発明(3)の規定から外れる鋳片を用いた試験番号48〜53の場合には、圧下条件に拘わらず棒鋼における酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、460MPa、460MPa、455MP、450MPa、450MPaおよび445MPaと低いものである。
従来のAlキルド鋼に相当する鋼の化学成分および酸化物の平均組成が本発明(3)の規定から外れる鋳片を用いた試験番号54〜59の場合には、圧下条件に拘わらず棒鋼における酸化物の最大厚さが大きくなって本発明(1)および(2)で規定する条件から外れるので、疲労強度はそれぞれ、430MPa、440MPa、450MPa、410MPa、400MPaおよび405MPaと低いものである。
本発明の機械構造用鋼材は、近年の機械構造用部品の過酷な使用環境下においても、横目方向の疲労による破損に対して良好な耐久性を有し、なおかつ、被削性に優れることから、各種の産業機械や自動車などに使用される機械構造用部品の素材として利用することができる。この機械構造用鋼材は本発明の方法によって製造することができる。
実施例における幅が棒鋼の直径に等しく、厚みが11mmで長さが150mmの素形材の採取方法を説明する図である。 実施例で用いた超音波疲労試験片の形状を示す図である。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.13〜0.50%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.20〜2.5%、P:0.040%以下、S:0.010%を超えて0.030%以下、Cr:0.05〜2.5%、Al:0.005%以下、Ca:0.0005%以下、N:0.020%以下およびO:0.0020%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学成分を有し、非金属介在物について、酸化物の平均組成におけるCaO、Al23、MnOおよびMgOが、質量%で、CaO:10〜60%、Al23:35%以下、MnO:35%以下およびMgO:15%以下であるとともに、鋼材の長手方向縦断面10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値および硫化物の最大厚さの算術平均の値がそれぞれ、12μm以下および3.5〜12μmであることを特徴とする機械構造用鋼材。
  2. 化学成分が、質量%で、さらに、Cu:1.0%以下、Ni:3.0%以下、Mo:0.50%以下、Nb:0.10%以下、V:0.50%以下、B:0.0050%以下およびTi:0.10%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の化学成分および酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで850℃以下の温度域での圧下比を6以上として圧下することを特徴とする機械構造用鋼材の製造方法。
    ただし、全圧下比とは、鋳片または鋼塊の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指し、また、850℃以下の温度域での圧下比とは、前記温度域での圧下前の中間鋼材の断面積を最終の圧下によって得られた機械構造用鋼材の断面積で除した値を指す。
  4. 鋳片または鋼塊が、一次精錬後に、Al脱酸処理を行わずに、実質的にAlを含有しないフラックスを用いて二次精錬を行い、二次精錬終了後の最終的なスラグの塩基度CaO/SiO2の値が0.8〜2.0で、かつスラグ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al23:15%以下になるように制御し、続いて鋳造されたものであることを特徴とする請求項3に記載の機械構造用鋼材の製造方法。
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