JP5266686B2 - 軸受鋼鋼材及びその製造方法 - Google Patents
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スピネル系:3%〜20%の範囲の(MgO)に残部が(Al2O3)である2元系に、15%以内の(CaO)および/または15%以内の(SiO2)が混入する場合があるスピネル型結晶構造のもの。
但し、全圧下比とは、鋳片又は鋼塊の断面積を最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指し、また、1000℃以下の温度域での圧下比とは、前記温度域での圧下前の中間鋼材の断面積を最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指す。
C:0.6〜1.2%
Cは、焼入れ時の硬さを確保して転動疲労寿命を向上させる元素であり、0.6%以上の含有量とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が多くなって、特に1.2%を超えると、耐摩耗性は向上するものの、母材の硬さが高くなりすぎて切削時の工具寿命が低下したり、焼割れの原因となる。したがって、Cの含有量を0.6〜1.2%とした。望ましいC含有量の範囲は、0.6〜1.1%である。
Siは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上含有させなければならない。しかしながら、0.8%を超えてSiを含有させても焼入れ性向上効果が飽和する。更に、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたす。したがって、Siの含有量を0.1〜0.8%とした。好ましいSi含有量の範囲は、0.15〜0.7%である。
Mnは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上含有させなければならない。しかしながら、1.5%を超えてMnを含有させても焼入れ性向上効果が飽和する。しかも、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたし、更には、焼割れの原因ともなる。したがって、Mnの含有量を0.1〜1.5%とした。好ましいMn含有量の範囲は、0.2〜1.15%である。
Pは、結晶粒界に偏析して転動疲労寿命を短くしてしまう。特に、その含有量が0.03%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。したがって、Pの含有量を0.03%以下とした。好ましいP含有量の範囲は0.02%以下である。
Sは、硫化物を形成する元素であり、その含有量が0.010%を超えると、粗大な硫化物が残存するため転動疲労寿命を短くしてしまう。したがって、Sの含有量を0.010%以下とした。なお、転動疲労寿命の向上という観点からは、Sの含有量は低ければ低いほど望ましいが、Sには被削性を高める作用があり、その含有量が0.005%以上で被削性向上効果が確実に得られる。このため被削性を重視する場合には、Sの含有量は0.005%以上とすることが望ましい。
Crは、焼入れ性を高めて転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であり、0.5%以上含有させなければならない。しかしながら、2.0%を超えてCrを含有させても焼入れ性向上効果が飽和する。しかも、母材の硬さが高くなって切削時の工具寿命の低下をきたし、更には、焼割れの原因ともなる。したがって、Crの含有量を0.5〜2.0%とした。好ましいCr含有量の範囲は、0.9〜1.6%である。
Alは、好ましくない元素であり、本発明においては、Alは極力少なくする必要がある。したがって、後述するように酸化精錬後のAl添加による脱酸処理は行わないし、フラックスを投入して新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する際に用いるフラックスもAl2O3の含有量の少ない、実質的にAlを含有しないものを用いる。しかしながら、Alの含有量が多くなり、特に、0.005%を超えてしまうと、Al2O3を主体とする硬質な酸化物の生成量が多くなり、しかも、圧下した後も粗大な酸化物として残存するので、転動疲労寿命が短くなってしまう。したがって、Alの含有量を0.005%以下とした。なお、Alは、0.003%以下の含有量とすることが好ましく、低ければ低いほどよい。
本発明においては、後述するように、酸化精錬で生成したスラグの除滓後に、主成分がCaOであるフラックスを投入して、新たに生成されたスラグと溶鋼を強攪拌する。この際に、Caはフラックスより軟質な酸化物として、鋼中に極微量混入する。ただし、Caの含有量が多くなり、0.0005%を超えると、酸化物組成におけるCaOの割合が高くなりすぎて、粗大な酸化物となってしまう。したがって、Caの含有量を0.0005%以下とした。好ましいCa含有量は、0.0003%以下であり、更に望ましくは0.0002%以下である。なお、含有されるCaの量の下限値は、特に規定するものではなく、鋼材中の酸化物の平均組成におけるCaOが10%以上であればよい。
Oは、好ましくない不純物元素である。Oの含有量が多くなって、特に、0.0020%を超えると、圧下した後に粗大な酸化物として残存し、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.0020%以下とした。なお、好ましいO含有量の範囲は0.0015%以下である。
(B−1)酸化物の平均組成:
本発明においては、非金属介在物について、先ず、酸化物の平均組成が、質量%で、CaO:10〜60%、Al2O3:20%以下、MnO:50%以下及びMgO:15%以下で残部SiO2及び不純物からなるものでなければならない。以下、質量%での酸化物の平均組成における含有量を「濃度」ともいう。
酸性酸化物であるSiO2を基本組成とする酸化物は、塩基性であるCaOを含むことにより酸化物の液相線温度が下がり、圧延温度域で延性を示すようになる。その効果は、酸化物の平均組成におけるCaO濃度が10%以上で得られるが、60%を超えると相対的にSiO2濃度が低下して却って延性を示さなくなる。したがって、酸化物の平均組成におけるCaO濃度を10〜60%とした。なお、圧延温度域で安定した延性が得られるようにするための上記CaO濃度の望ましい上限は50%である。
両性酸化物であるAl2O3の酸化物の平均組成における濃度が20%を超えると、圧延温度域でAl2O3(コランダム)相が晶出したり、後述するMgOとともにMgO・Al2O3(スピネル)相が晶出する。これらの固相は硬質で圧延でも延伸することなく、晶出した厚みを保つ。したがって、酸化物の平均組成におけるAl2O3濃度は20%以下とする必要がある。なお、前記硬質相の生成を安定かつ確実に抑制するための上記Al2O3濃度の望ましい上限は15%である。
MnOは、酸化物としては塩基性を有し、SiO2系の軟質化を助長するので、比較的高い濃度まで許容できる。しかしながら、MnOは鋼が弱脱酸状態の時に安定な、いわゆる低級酸化物であり、MnO濃度が高いと鋼中のO(酸素)の含有量も高くなる。すなわち、酸化物の平均組成におけるMnO濃度が50%を超えるとO含有量を0.0020%以下とすることができない。したがって、酸化物の平均組成におけるMnO濃度を50%以下とした。なお、前述したOの含有量を0.0015%以下にするために、酸化物の平均組成におけるMnO濃度は40%以下とすることが好ましい。
MgOは塩基性酸化物であり、少量ではSiO2系酸化物の軟質化ができるが、一方でその溶解度が低く、硬質のMgO(ペリクレース)相及びAl2O3とともにMgO・Al2O3(スピネル)相が晶出する。圧延温度域では酸化物の平均組成におけるMgOが15%を超えると、上述した硬質相を晶出する蓋然性が高くなる。したがって、酸化物の平均組成におけるMgO濃度を15%以下とした。なお、前記した硬質相の晶出をより確実に抑制するために、酸化物の平均組成におけるMgO濃度は10%以下とすることが好ましい。
酸化物、硫化物の双方ともに、その厚さが大きい場合には、転動疲労寿命の低下を招く。転動疲労寿命に最も影響を及ぼすものは、軌道面下に存在する最も粗大な介在物である。特に、鋼材のL断面の100mm2の面積中において8.5μmを超えるような最大厚さの酸化物や硫化物が、鋼材中の数多くの部位で存在すると、軌道面に存在する確率が高くなり、転動疲労寿命の著しい低下をきたす。
本発明(1)の軸受鋼鋼材は、例えば、本発明(2)の方法、具体的には、前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片又は鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで1000℃以下の温度域での圧下比を4以上として圧下することによって、製造することができる。また、本発明(2)に係る化学成分と酸化物の平均組成を有する鋳片または鋼塊、つまり前記(A)項で述べた化学成分からなり、非金属介在物について前記(B−1)項で述べた酸化物の平均組成を有する鋳片又は鋼塊は、例えば、前記(B−1)項の〈1〉及び〈2〉で述べた方法を採用した後、続いて常法の連続鋳造法や鋳型法で鋳造することによって得ることができる。
表1に示す種々の化学組成を有する軸受鋼の鋳片1、2および4〜23を製造した。
実施例1で作製した鋼4、鋼6、鋼13、鋼16及び鋼23の300mm×400mmの鋳片を1250℃で均熱した後、1100〜1050℃の温度域で分塊圧延して160×160mmの鋼片にした。
〔2〕鋼片を1050℃に加熱した後、930〜800℃の温度域で棒鋼圧延して、φ70mmの棒鋼を製造、
〔3〕鋼片を950℃に加熱した後、850〜780℃の温度域で棒鋼圧延して、φ70mmの棒鋼を製造、
〔4〕鋼片を1200℃に加熱した後、1100〜1020℃の温度域で棒鋼圧延して、φ110mmの棒鋼を製造、
〔5〕鋼片を1050℃に加熱した後、930〜800℃の温度域で棒鋼圧延して、φ110mmの棒鋼を製造。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.77〜1.2%、Si:0.1〜0.8%、Mn:0.1〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.010%以下、Cr:0.5〜2.0%、Al:0.005%以下、Ca:0.0005%以下、O:0.0020%以下を含有し、残部はFe及び不純物の化学成分からなり、非金属介在物について、酸化物の平均組成が質量%で、CaO:10〜60%、Al2O3:20%以下、MnO:50%以下及びMgO:15%以下で残部SiO2及び不純物からなるとともに、鋼材の長手方向縦断面の10箇所の100mm2の面積中に存在する酸化物の最大厚さの算術平均の値と硫化物の最大厚さの算術平均の値が、それぞれ、8.5μm以下であることを特徴とする軸受鋼鋼材。
- 請求項1に記載の化学成分及び酸化物の平均組成を有する鋳片又は鋼塊に、全圧下比が15以上となる圧下を加え、しかも、その圧下のうちで1000℃以下の温度域での圧下比を4以上として圧下することを特徴とする軸受鋼鋼材の製造方法。
但し、全圧下比とは、鋳片又は鋼塊の断面積を最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指し、また、1000℃以下の温度域での圧下比とは、前記温度域での圧下前の中間鋼材の断面積を最終の圧下によって得られた軸受鋼鋼材の断面積で除した値を指す。 - 鋳片又は鋼塊が、酸化精錬後に、Al脱酸処理を行わずに、実質的にAlを含有しないフラックスを用いて二次精錬を行い、二次精錬終了後の最終的なスラグの塩基度CaO/SiO2の値が0.8〜2.0で、かつスラグ組成が質量%で、MgO:15%以下、F:10%以下、Al2O3:15%以下になるように制御し、続いて鋳造されたものであることを特徴とする請求項2に記載の軸受鋼鋼材の製造方法。
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