JP5803815B2 - 軸受鋼鋼材の溶製方法 - Google Patents
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Description
また、特許文献3には、転炉で溶製された溶鋼を取鍋に出鋼する際に、脱酸および合金鉄、さらに質量比でSiO2:10%以下、MgO:6〜15%未満、Al2O3:25〜45%、CaO:35〜60%を含有するスラグが取鍋内溶鋼上に形成されるようにフラックスを添加し、次いで、前記フラックスと溶鋼とを混合・撹拌し、しかる後、真空脱ガス処理による溶鋼撹拌処理を行うことを特徴とする清浄鋼の精錬方法が提案されている。この技術は、生石灰(CaO)をフラックスとして添加することにより生成されるCaO−Al2O3系介在物は低融点化するものの粗大化し、却って転動疲労寿命特性を劣化させるので、全ての介在物をAl2O3−MgO系またはAl2O3介在物として微細化させ、この介在物を前記フラックスと溶鋼とを混合・撹拌することによってフラックスに吸収させるという技術である。この技術においても、酸化物系介在物を微細なAl2O3−MgO系介在物にコントロールできており、転動疲労寿命向上に有効であるとは思われる。
(a)硫化物の組成を制御することによって、すなわち硫化物中にCaSを1%以上含有するように組成を制御することによって介在物の長さを短くすることができ、このために転動疲労寿命が著しく向上する。
そこで、そのような硫化物に必要な種類および組成と、そのように硫化物の組成をコントロールするための製造条件について具体的に調査検討した。
硫化物系介在物を制御するためには、何らかの精錬操作の新たな工夫を必要とする。ただし、溶鋼上に形成させたスラグと溶鋼とを反応させる処理が酸化物系介在物の減少および微細化に効果的であることを考えると、その処理の効果を失わないように、硫化物系介在物を制御できる処理を考えることが得策である。
本発明は、上記の着想に基づきバブリングランスを介して溶鋼中にフラックスを吹込む処理を中心に、その後のスラグ精錬を行う工程と溶鋼環流型脱ガス装置で溶鋼環流処理を行う工程とを組み合わせて検討し完成させたもので、その要旨は以下に示す軸受鋼鋼材の溶製方法である。
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有するCaO系精錬フラックスを溶鋼1t当たり1.0〜2.6kg吹き込む工程。
(2)前記工程1において、前記CaO系精錬フラックスを溶鋼1t当たり2.6〜3.6kg吹き込むことを特徴とする(1)項に記載された軸受鋼鋼材の溶製方法。
(A)鋼材の化学組成
「玉軸受」、「コロ軸受」等の転がり軸受の素材として用いるために、本発明の軸受鋼鋼材は、質量%で、Oが0.0010%以下であり、かつSが0.0040%以下であるJIS G4805(2008)に規定された高炭素クロム軸受鋼鋼材の化学組成を満足する鋼材、すなわち、OおよびSの含有量が上記範囲にあるSUJ2〜5でなければならない。本発明の軸受鋼鋼材は、上記のうちでも、その化学組成が、OおよびSの含有量が上記範囲にあるSUJ2であることが特に好ましい。
[SUJ2]
C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.50%以下、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Cr:1.30〜1.60%、残部Feおよび不純物
[SUJ3]
C:0.95〜1.10%、Si:0.40〜0.70%、Mn:0.90〜1.15%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Cr:0.90〜1.20%、残部Feおよび不純物
[SUJ4]
C:0.95〜1.10%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.50%以下、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Cr:1.30〜1.60%、Mo:0.10〜0.25%、残部Feおよび不純物
[SUJ5]
C:0.95〜1.10%、Si:0.40〜0.70%、Mn:0.90〜1.15%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、Cr:0.90〜1.20%、Mo:0.10〜0.25%、残部Feおよび不純物
ただし、不純物として、Ni、Cuともそれぞれ0.25%を超えてはならず、不純物としてSUJ2、3のMoは0.08%を超えてはならず、上記されていない元素は、受渡当事者間の協定がない限り、溶鋼を仕上げる目的以外に意図的に添加してはならず、ただし、受渡当事者間の協定により、上記以外の元素を0.25%以下添加してもよい。
O:0.0010%以下
Oは、酸化物を生成する元素であり、極力低下させる必要がある。Oの含有量が多くなって、特に0.0010%を上回ると、粗大な酸化物として残存し易くなり、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.0010%以下とする。Oの含有量は0.0008%以下であることが好ましい。
Sは、硫化物を形成する元素であり、その含有量が0.0040%を上回ると硫化物中のCa濃度が低下し、延伸した粗大な硫化物を形成し易くなって、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Sの含有量を0.0040%以下とする。Sの含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。
Al:0.040%以下
Alは、精錬工程で脱酸を行うために使用する元素である。しかし、Alの含有量が0.040%を上回ると粗大な酸化物として残存し易くなり、転動疲労寿命の低下を招くことがあるので、Alの含有量は0.040%以下とするのが望ましい。
本発明の軸受鋼鋼材は、上記した化学組成範囲を満たした上で、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が「CaS:1.0質量%以上、MgS:0〜20質量%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95質量%以上」という条件を満たすことにより、延伸した粗大な硫化物の生成が抑制され、優れた転動疲労寿命を確保することが可能になる。
CaSは、脱硫反応によって生成する硫化物である。CaS濃度が1.0%以上になると、延伸した粗大な硫化物の生成を抑制する効果が得られる。硫化物としてCaSだけが存在しても、つまり、CaS濃度が100%であっても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるCaS濃度を、1.0質量%以上とした。
精錬段階にて鋼中にMgが取込まれ、硫化物系介在物中にMgSが混入する場合がある。MgS濃度が20%を上回るような条件では、鋼中に別に存在している酸化物系介在物中のMgO濃度が増加し、点列状の粗大な酸化物の生成を招くため、MgS濃度は20%以下に制限する。なお、硫化物系介在物中にMgSは存在していなくても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるMgS濃度を、0〜20%とした。
前述した硫化物組成は、次に述べる製造方法によって所定の範囲内に制御する。
先ず、転炉または電気炉で酸化精錬を行った後、転炉または電気炉からの出鋼時にAlを添加して脱酸処理を行い、その後さらに除滓処理を実施してから、工程1〜工程3の取鍋精錬処理を順次行う。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともに精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌する。このフラックス吹込み工程で、CaO系精錬フラックスを溶鋼1tあたり1.0〜3.6kg吹き込む。
ε=(0.006183×Q×T)/W×ln[1+(9.8×ρ×H)/P+{1−(TG/T)}]・・・(1)
ε:ガス撹拌に伴う溶鋼1t当たりの撹拌動力密度(W/t)
Q:吹込みガス流量(L(Normal)/min)
T:溶鋼温度(K)
W:溶鋼量(t)
ρ:溶鋼の密度(7000kg/m3)
H:ガス吹込み深さ(m)
P:雰囲気圧力(N/m2)
TG:吹込みガス温度(K)
また、フラックス吹込み時間は、溶鋼脱硫および介在物組成制御の効果と、溶鋼温度低下抑制の観点から5分間程度が適当である。
工程1を終了後、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5を含有するスラグが、溶鋼1トン当たり5〜15kgの範囲で生成されるように、精錬剤を適宜調整して添加し、溶鋼中に浸漬した上吹きランスや取鍋底からArガスを吹き込んで、溶鋼および溶鋼上のスラグを追添加した精錬剤とともに撹拌して精錬処理する。
工程2を終了後、RH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行う。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼を還流させる処理の時間が20分間以上必要であり、それを25分間以上行うことが溶鋼中介在物の存在量を十分低減するために好ましい。
その後、連続鋳造して横断面が300mm×400mm程度の鋳片にし、さらに、鋳片を分塊圧延および棒鋼圧延で、圧下比が10以上の熱間圧延を実施することが好ましい。圧下比とは鋳片の断面積を最終の圧下によって得られた圧延軸受鋼鋼材の断面積で除した値を示す。圧下比を10以上とすることによって、複数からなる群にて存在する介在物間の距離を大きくし、一体として判断される介在物が低減されるからである。
例えば、上記したように製造した棒鋼から、その長手方向横断面(つまり、棒鋼の圧延方向に直角に切断した面)に対して表面と中心の中間位置であるR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)を基準として、圧延方向と平行な方向に適当な形状の板材を切り出して、その板材を、適宜焼きならし、球状化焼きなましを行った後、その板材から適当な形状の超音波疲労試験片を複数作製する。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともにCaO系精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌した。
表2に、本発明と比較例のフラックス吹込み処理条件を纏めて示す。
フラックス吹込み処理を行わなくても、表1に記載したように本発明で規定する化学成分を満たす鋼の溶製は可能であるが、後述するように介在物中のCaS濃度が1%未満の例が発生して、転送疲労寿命が十分改善されないことがあるので、別途注意を必要とする。
その後、VADを用いてスラグメタル反応を伴うスラグ精錬処理を行い、溶鋼組成および介在物組成を調整するとともに、溶鋼温度を調整した。この時、追加する精錬剤として生石灰および工程1で吹き込んだ精錬用フラックスをCaO/Al2O3質量比で2〜3程度になるように調整したものと、CaF2源としての蛍石とを合計して6〜14kg/t添加した。VADではおよそ40分間処理し、その間に溶鋼温度はおよそ1550℃から1580℃で推移させた。
さらにRH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行った。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼環流処理を25〜30分間行い、溶鋼温度調整や成分微調整のための処理を含めて、全部でおよそ40分間であった。この時、溶鋼温度はおよそ1520℃から1550℃で推移させた。
その後、連続鋳造法により鋳込み、300mm×400mmサイズの鋳片を得た。
上記のようにして得た鋳片を均熱炉で1250℃に保持した後、1100℃〜1050℃の温度域で分塊圧延して160mm×160mmの鋼片とし、さらにその鋼片を1200℃に加熱した後、1100℃〜1020℃の温度域で棒鋼圧延して直径70mmの棒鋼を製造した。この分塊圧延および棒鋼圧延を通じた圧下比は、31.2である。
先ず、上記した直径70mmの棒鋼から、その長手方向横断面(つまり、棒鋼の圧延方向に直角に切断した面)に対して表面と中心の中間位置であるR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)を基準として、圧延方向と平行な方向に厚さ14mm、幅45mm、長さ200mmの板材を切り出して、その板材を、860℃で60分間保持した後に大気中で室温まで空冷する焼ならしを行い、さらに、795℃にて6時間保持した後、炉冷して球状化焼なましを行った後に、その板材から超音波疲労試験片を各鋼19本ずつ採取した。
(6)転動疲労試験
その後さらに、直径70mmの棒鋼の中心から、棒鋼の長手方向が素形材の厚みとなるように、直径が60mmで厚みが5.5mmの素形材をスライスして採取した。
表5に転動疲労特性評価および超音波疲労試験の破壊起点となった硫化物組成評価の結果を纏めて示す。表5に記載した「硫化物平均組成」は、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成の意味であり、そのMnS濃度はCaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上であるものに関し、便宜的に「100−(CaS濃度+MgS濃度)」を記載してある。
Claims (2)
- 質量%で、Oが0.0010%以下、かつSが0.0040%以下であるJIS G4805(2008)に規定された高炭素クロム軸受鋼鋼材の化学組成を満足する鋼材の溶製方法であって、
下記工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を行うことにより、
硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が、質量%で、CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上になるように、硫化物系介在物を制御し、制御される前記硫化物系介在物は、工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を施した後に溶鋼を連続鋳造し、その後分塊圧延および棒鋼圧延して製造した棒鋼を対象として超音波疲労破壊試験を行った際に、その破壊起点となる硫化物系介在物であること
を特徴とする高炭素クロム軸受鋼鋼材の溶製方法。
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有する精錬フラックスを、溶鋼1t当たり1.0〜2.6kg吹き込む工程。
工程2:工程2の処理終了時の溶鋼上スラグ組成が、質量%で、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6.0以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5であって、かつ、そのスラグ量が、溶鋼1トン当たり5〜15kgになるように精錬剤を添加し、溶鋼および溶鋼上スラグをその添加した精錬剤とともに撹拌する工程。
工程3:溶鋼環流型真空脱ガス処理装置を用いて、溶鋼成分調整後に溶鋼を還流させる処理を20分間以上行う工程。 - 前記工程1において、前記CaO系精錬フラックスを溶鋼1t当たり2.6〜3.6kg吹き込むことを特徴とする請求項1に記載された軸受鋼鋼材の溶製方法。
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