JP5803824B2 - 浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法 - Google Patents
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Description
そこで、そのような酸化物、硫化物に必要な種類および組成と、そのように酸化物、硫化物の組成をコントロールするための製造条件について具体的に調査検討した。
次の工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を行うことにより、
酸化物系介在物を小径化したうえで硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が、質量%で、CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上になるように硫化物系介在物を制御し、制御される前記硫化物系介在物は、工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を施した後に溶鋼を連続鋳造し、その後分塊圧延および棒鋼圧延して製造した棒鋼を対象として、該棒鋼の長手方向に平行な断面である長手方向縦断面100mm 2 中の30箇所で測定した最大硫化物であることを特徴とする浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法;
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有するCaO系精錬フラックスを、該CaO系精錬フラックス中のCa量が、Ca純分として溶鋼1t当たり1.0〜2.6kgの範囲で吹き込む工程。
該棒鋼の長手方向に平行な断面である長手方向縦断面100mm2中の最大硫化物径である√AREAmaxの測定を30箇所において行い、極値統計処理を用いて算出される30000mm2中における硫化物の予測最大径である予測√AREAmaxが60μm以下であり、かつ前記30箇所の最大硫化物の平均アスペクト比が5.0以下であるものとすることを特徴とする、上記(1)または上記(2)に記載の浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法。
C:0.05〜0.30%
Cは、本発明の鋼材の強度を左右する重要な元素である。浸炭焼入れしたときの部品の芯部強度(部品の生地の強度)を確保するためには、0.05%以上のCを含有させる必要がある。一方、0.30%を超えるCを含有させると靱性および被削性が低下する。したがって、Cの含有量を0.05〜0.30%とした。Cの含有量は0.15%以上とすることが好ましく、0.18%以上とすれば一層好ましい。また、Cの含有量は0.25%以下とすることが好ましく、0.23%以下とすれば一層好ましい。
Siは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高める効果が大きく、また、転動疲労強度の向上にも効果を有する元素である。しかしながら、Siの含有量が0.05%未満では前記の効果が不十分である。一方、Siの含有量が1.0%を超えると、転動疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、靱性および被削性の低下が顕著になる。したがって、Siの含有量を0.05〜1.0%とした。Siの含有量は0.10%以上とすることが好ましく、0.15%以上とすれば一層好ましい。また、Siの含有量は0.70%以下とすることが好ましく、0.35%以下とすれば一層好ましい。
Mnは、鋼に固溶して鋼の転動疲労強度を高め、鋼の焼入れ性を高める元素である。Mnはさらに、鋼中のSと結合してMnSを形成し、鋼の被削性を高める。これらの効果を得るためには、0.10%以上のMnを含有させる必要がある。しかし、Mnの含有量が過剰になると焼入れ後の表面硬さが高くなりすぎて、靱性および被削性が低下する。このため、上限を設け、Mnの含有量を0.10〜2.0%とした。焼入れ性および強度を向上させたい場合、Mnの含有量は0.60%以上とすることが好ましい。なお、Mnの含有量は0.90%以下とすることが好ましい。
Pは、鋼中に不純物として混入する元素である。Pを過剰に含有すると、熱間加工性の低下を招く。このため、上限を設け、Pの含有量を0.05%以下とした。好ましいP含
有量は0.035%以下であり、さらに好ましくは0.025%以下である。
Sは、硫化物を形成する元素であり、その含有量が0.008%を上回ると硫化物中のCa濃度が低下し、延伸した粗大な硫化物を形成しやすくなって、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Sの含有量を0.008%以下とした。Sの含有量は0.005%以下とすることが好ましい。
Crは、鋼の焼入れ性、焼入れ焼戻し後の強度および靱性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を得るためには、0.4%以上のCr含有量が必要である。しかしながら、Crを2.0%を超えて含有させると、かえって靱性が低下し、さらには被削性も低下する。したがって、Crの含有量を0.4〜2.0%とした。Crの含有量は0.6%以上とすることが好ましく、また1.5%以下とすることが好ましい。
Alは、精錬工程で脱酸を行うために使用する元素であり、また、AlNを形成して結晶粒を微細化する効果を有する元素である。しかし、Alの含有量が0.010%未満では上記効果が不十分である。一方、0.050%を超えてAlを含有させた場合、粗大な酸化物として残存しやすくなり、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Alの含有量を0.010〜0.050%とした。Alの含有量は、0.020%以上とすることが好ましく、また0.040%以下とすることが好ましい。
Nは、Alと結合してAlNを生成し、結晶粒を微細化する働きをする。しかし、Nの含有量が0.010%未満では上記効果が不十分である。一方、0.025%を超えてNを含有させた場合、かえって鋼の強度を低下させる。したがって、Nの含有量を0.010〜0.025%とした。なお、N含有量の上限は0.020%とすることが好ましい。
Oは、酸化物を生成する元素であるため、極力その含有量を低下させる必要がある。Oの含有量が多くなって、特に0.0015%を上回ると、粗大な酸化物として残存しやすくなり、転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Oの含有量を0.0015%以下とした。Oの含有量は0.0010%以下であることが好ましい。なお、Oの含有量はできる限り少なくすることが好ましいが、製鋼でのコストを考慮すると、その下限は0.0005%程度となる。
なお、残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
以下、任意元素であるMoおよびNiの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Moは、鋼の焼入れ性を高めて、転動疲労強度を高める効果を有する。また、Moには、浸炭後の焼入れ処理において、不完全焼入れ層を抑制する効果もある。このため、Moを含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が過剰になると、鋼の被削性が低下し、さらに、鋼の製造コストも高くなる。したがって、含有させる場合のMoの量に上限を設け、1.0%以下とした。含有させる場合のMoの量は、0.50%以下であることが好ましく、0.30%以下であればさらに好ましい。
Niは、転動疲労強度を高める効果を有する。Niには、焼入れ性および靱性を向上させる効果もある。このため、Niを含有させてもよい。しかしながら、Niの含有量が2.0%を超えても上記効果は飽和するので、鋼の製造コストが嵩むばかりである。したがって、含有させる場合のNiの量に上限を設け、2.0%以下とした。含有させる場合のNiの量は、1.8%以下であることが好ましい。
本発明の浸炭軸受鋼鋼材は、上記した化学組成範囲を満たした上で、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が「CaS:1.0質量%以上、MgS:0〜20質量%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95質量%以上」という条件を満たすことにより、延伸した粗大な硫化物の生成が抑制され、優れた転動疲労寿命を確保することが可能になる。
CaSは、脱硫反応によって生成する硫化物である。CaS濃度が1.0%以上になると、延伸した粗大な硫化物の生成を抑制する効果が得られる。硫化物としてCaSだけが存在しても、つまり、CaS濃度が100%であっても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるCaS濃度を、1.0質量%以上とした。
精錬段階にて鋼中にMgが取込まれ、硫化物系介在物中にMgSが混入する場合がある。MgS濃度が20%を上回るような条件では、鋼中に別に存在している酸化物系介在物中のMgO濃度が増加し、点列状の粗大な酸化物の生成を招くため、MgS濃度は20%以下に制限する。なお、硫化物系介在物中にMgSは存在していなくても構わない。したがって、硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成におけるMgS濃度を、0〜20%とした。
前述した硫化物組成は、次に述べる製造方法によって所定の範囲内に制御する。
先ず、転炉または電気炉で酸化精錬を行った後、転炉または電気炉からの出鋼時にAlを添加して脱酸処理を行い、その後さらに除滓処理を実施してから、工程1〜工程3の取鍋精錬処理を順次行う。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともに精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌する。このフラックス吹込み工程で、CaO系精錬フラックスを、該CaO系精錬フラックス中のCa量が、Ca純分として溶鋼1tあたり1.0〜2.6kgの範囲で吹き込む。
ε:ガス撹拌に伴う溶鋼1t当たりの撹拌動力密度(W/t)
Q:吹込みガス流量(L(Normal)/min)
T:溶鋼温度(K)
W:溶鋼量(t)
ρ:溶鋼の密度(7000kg/m3)
H:ガス吹込み深さ(m)
P:雰囲気圧力(N/m2)
TG:吹込みガス温度(K)
工程1を終了後、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5を含有するスラグが、溶鋼1トン当たり5〜15kgの範囲で生成されるように、精錬剤を適宜調整して添加し、溶鋼中に浸漬した上吹きランスや取鍋底からArガスを吹き込んで、溶鋼および溶鋼上のスラグを該添加した精錬剤とともに撹拌して精錬処理する。
工程2を終了後、RH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行う。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼を還流させる処理の時間が10分間以上必要であり、それを15分間以上行うことが溶鋼中介在物の存在量を十分低減するために好ましい。
その後、連続鋳造して横断面が300mm×400mm程度の鋳片にし、さらに、鋳片を分塊圧延および棒鋼圧延で、圧下比が10以上の熱間圧延を実施することが好ましい。圧下比とは鋳片の断面積を最終の圧下によって得られた圧延軸受鋼鋼材の断面積で除した値を示す。圧下比を10以上とすることによって、複数からなる群にて存在する介在物間の距離を大きくし、一体として判断される介在物が低減されるからである。
鋼材の長手方向縦断面における硫化物の予測√AREAmaxおよび最大硫化物の平均アスペクト比:
「玉軸受」、「コロ軸受」等の転がり軸受の素材として用いるために、本発明の浸炭軸受鋼鋼材は、鋼材の長手方向縦断面100mm2中の最大硫化物径である√AREAmaxの測定を30箇所において行い、極値統計処理を用いて算出される30000mm2中における酸化物の予測最大径である予測√AREAmaxが50μm以下であり、硫化物の予測最大径である予測√AREAmaxが60μm以下で、かつ前記30箇所の最大硫化物の平均アスペクト比がそれぞれ5.0以下であることが好ましい。
〈4〉測定した√AREAmaxを小さい順に並べ直し、それを√AREAmax,j(j=1〜n)とする。
yj=−ln[−ln{j/(n+1)}]。
y=−ln[−ln{(T−1)/T}]。・・・(2)
まず、エネルギー分散型分光器(EDS)によって、硫化物中のCa、Mg、MnおよびSの含有量を「mol%」で定量する。ついで、[Ca]、[Mg]、[Mn]からそれぞれ、CaS、MgSおよびMnSの濃度を求める。
取鍋内の溶鋼を粉体吹込み装置まで搬送した後、溶鋼にバブリングランスを介してArガスとともにCaO系精錬フラックスを吹込み、溶鋼を撹拌した。
ここで、「CaO系精錬フラックス」は、CaOを45〜55質量%、Al2O3を30質量%以下含み、最大粒径が1.0mm以下の粉末のものを使用した。
表2に、本発明と比較例のフラックス吹込み処理条件を纏めて示す。
その後、VADを用いてスラグメタル反応を伴うスラグ精錬処理を行い、溶鋼組成および介在物組成を調整するとともに、溶鋼温度を調整した。この時、追加する精錬剤として生石灰および工程1で吹き込んだ精錬用フラックスをCaO/Al2O3質量比で2〜3程度になるように調整したものと、CaF2源としての蛍石とを合計して6〜14kg/t添加した。VADではおよそ40分間処理し、その間に溶鋼温度はおよそ1600℃から1650℃で推移させた。
さらにRH(溶鋼環流型真空脱ガス処理装置)を用いて、溶鋼の脱ガスおよび介在物量低減を図る溶鋼環流処理を行った。RHでの処理時間は、溶鋼成分を微調整するための合金鉄等の添加完了後に溶鋼環流処理を15〜20分間行い、溶鋼温度調整や成分微調整のための処理を含めて、全部でおよそ30分間であった。この時、溶鋼温度はおよそ1550℃から1600℃で推移させた。
その後、連続鋳造法により鋳込み、300mm×400mmサイズの鋳片を得た。
前記した棒鋼から介在物を調査するため、表面と中心の中間位置であるR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)から、10mm×10mm(鋼材の長手方向に平行に切断した面)のミクロ試料を30個作製した。上記のようにして採取したミクロ試料100mm2中に存在する介在物について、まず、酸化物であるのか硫化物であるのかを調査した。
すなわち、硫化物については、エネルギー分散型分光器(EDS)によって、硫化物中のCa、Mg、Mn、Sの含有量を「mol%」で定量し、前述の方法でCaS、MgSおよびMnSの濃度を求め、30個それぞれの試料におけるCaS、MgSおよびMnSの濃度から、最大酸化物の質量%での平均組成を算出した。
前記した化学組成を有する溶鋼を連続鋳造して得た鋳片を分塊圧延し、さらに棒鋼圧延して直径120〜70mm程度の棒鋼の長手方向が素形材の厚みとなるように、直径が60mmで厚みが5.5mmの素形材をスライスして採取した。
表4に、転動疲労試験の詳細条件を示す。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.30%、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.10〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.008%以下、Cr:0.4〜2.0%、Al:0.010〜0.050%、N:0.010〜0.025%およびO:0.0015%以下を含有し、残部はFeおよび不純物の化学組成からなる浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法であって、
下記工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を行うことにより、
硫化物系介在物を構成するS含有化合物の平均組成が、質量%で、CaS:1.0%以上、MgS:0〜20%、かつ、CaS、MgSおよびMnSの3成分の合計が95%以上になるように、硫化物系介在物を制御し、制御される前記硫化物系介在物は、工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を施した後に溶鋼を連続鋳造し、その後分塊圧延および棒鋼圧延して製造した棒鋼を対象として、該棒鋼の長手方向に平行な断面である長手方向縦断面100mm 2 中の30箇所で測定した最大硫化物であることを特徴とする浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法。
工程1:転炉または電気炉から取鍋に出鋼した溶鋼中に、バブリングランスを介して、質量%で、CaO:40〜70%、Al2O3:30%以下を含有するCaO系精錬フラックスを、該CaO系精錬フラックス中のCa量が、Ca純分として溶鋼1t当たり1.0〜2.6kgの範囲で吹き込む工程。
工程2:工程2の処理終了時の溶鋼上スラグ組成が、質量%で、CaO:35〜65%、Al2O3:10〜35%、SiO2:10%以下(0%を含まない)、MgO:0〜15%、CaF2:0〜30%、CaO/SiO2:6.0以上およびCaO/Al2O3:1.8〜3.5であって、かつ、そのスラグ量が、溶鋼1トン当たり5〜15kgになるように精錬剤を添加し、溶鋼および溶鋼上スラグをその添加した精錬剤とともに撹拌する工程。
工程3:溶鋼環流型真空脱ガス処理装置を用いて、溶鋼成分調整後に溶鋼を還流させる処理を10分間以上行う工程。 - Feの一部に代えて、質量%で、Mo:1.0%以下およびNi:2.0%以下のうちの1種以上を含有する、請求項1に記載の浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法。
- 制御される硫化物系介在物は、工程1〜工程3の順に取鍋精錬処理を施した後に溶鋼を連続鋳造し、その後分塊圧延および棒鋼圧延して製造した棒鋼を対象として、
該棒鋼の長手方向に平行な断面である長手方向縦断面100mm2中の最大硫化物径である√AREAmaxの測定を30箇所において行い、極値統計処理を用いて算出される30000mm2中における硫化物の予測最大径である予測√AREAmaxが60μm以下であり、かつ前記30箇所の最大硫化物の平均アスペクト比が5.0以下であるものとすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の浸炭軸受鋼鋼材の溶製方法。
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