JP2016172916A - 転動疲労特性および冷間鍛造性に優れた軸受用鋼材、および軸受部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の軸受用鋼材は、C:0.8〜1.1%、Si:0.1〜0.8%、Mn:0.1〜1%、Cr:1.3〜1.8%、P:0%超0.05%以下、S:0%超0.05%以下、Ca:0.0002〜0.002%、N:0%超0.010%以下、O:0%超0.005%以下、Al:0.0002〜0.005%、Ti:0.0005〜0.010%、B:0%超0.0050%以下を含有すると共に、N、Al、Ti、Bの含有量が下記式(1)を満足し、残部は鉄及び不可避的不純物である。
[N]−0.52×[Al]−0.29×[Ti]−1.30×[B]≦0.0020・・・(1)
【選択図】なし
Description
[N]−0.52×[Al]−0.29×[Ti]−1.30×[B]≦0.0020・・・(1)
式中、[N]、[Al]、[Ti]、[B]は夫々、N、Al、Ti、Bの含有量(質量%)を意味する。
Cは、基地に固溶してマルテンサイト粒を強化するため、焼入れ焼戻し後の軸受部品の強度を確保するために有効な元素である。軸受部品において、所望の強度を得るためには、C含有量の下限を0.8%以上とする。しかしながら、C含有量が1.1%を超えると、鋳造後に大型の炭化物を生成し、その後の圧延中に割れを生じ易くなるため、C含有量の上限を1.1%以下とする。C含有量の好ましい下限は0.85%以上、より好ましくは0.90%以上である。また、C含有量の好ましい上限は1.05%以下、より好ましくは1.03%以下である。
Siは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。こうした効果を有効に発揮させるため、Si含有量の下限を0.1%以上とする。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると加工性や被削性が著しく低下するので、Si含有量の上限を0.8%以下とする。Si含有量の好ましい下限は0.13%以上、より好ましくは0.15%以上である。また、Si含有量の好ましい上限は0.7%以下、より好ましくは0.6%以下である。
Mnは、鋼材マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させる元素である。Mn含有量が0.1%を下回るとその効果が発揮されないため、Mn含有量の下限を0.1%以上とする。一方、Mn含有量が1%を上回ると、低級酸化物であるMnO含有量が増加し、転動疲労特性を悪化させる他、加工性や被削性が著しく低下するため、Mn含有量の上限を1%以下とする。Mn含有量の好ましい下限は0.2%以上、より好ましくは0.3%以上である。また、Mn含有量の好ましい上限は0.9%以下、より好ましくは0.8%以下である。
Crは、Cと結合して炭化物を形成し、更にオーステナイト中の炭化物を安定化させて炭化物の球状化を促進するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Cr含有量の下限を1.3%以上とする。一方、Cr含有量が1.8%を超えると、粗大な炭化物が生成して転動疲労特性を悪化させるため、Cr含有量の上限を1.8%以下とする。Cr含有量の好ましい下限は1.35%以上、より好ましくは1.40%以上である。また、Cr含有量の好ましい上限は1.7%以下、より好ましくは1.6%以下である。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であり、粒界に偏析して加工性を低下させるため、P含有量の上限を0.05%以下に抑制する。P含有量は少ない程良く、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下である。尚、P含有量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であり、MnSとして析出して転動疲労寿命を低下させるため、S含有量の上限を0.05%以下に抑制する。S含有量は少ない程良く、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.03%以下である。尚、S含有量を0%にすることは、工業生産上、困難である。
Caは、酸化物中のCaO含有量を制御し、酸化物系介在物の結晶化を抑制して転動疲労特性の改善に有効である。このような効果を発揮させるため、Ca含有量の下限を0.0002%以上とする。しかしながら、Ca含有量が過剰になって0.002%を超えると、酸化物組成におけるCaOの割合が高くなり過ぎて、酸化物が結晶化してしまう。そのため、Ca含有量の上限を0.002%以下とする。Ca含有量の好ましい下限は0.0003%以上であり、より好ましくは0.0005%以上である。また、Ca含有量の好ましい上限は0.001%以下であり、より好ましくは0.0008%以下である。
Nは、含有量が多くなるとTiNを生成し、転動疲労特性を悪化させる他、固溶Nが残存し易くなり、冷間鍛造性を悪化させるため、できる限り低減することが推奨される。よって、N含有量の上限を0.010%以下とする。N含有量の好ましい上限は0.007%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。
Oは、好ましくない不純物元素である。Oの含有量が多くなって、特に0.005%を超えると、粗大な酸化物が生成し易くなり、熱間圧延および冷間圧延後においても粗大な酸化物として残存し、転動疲労特性に悪影響を及ぼす。よって、O含有量の上限を0.005%以下とする。O含有量の好ましい上限は0.004%以下であり、より好ましくは0.003%以下である。
Alは、AlNを形成して固溶Nを低減する能力を有するが、酸化物系介在物組成制御の観点から好ましくない元素であり、本発明では、Al含有量を極力少なくする必要がある。従って、酸化精錬後のAl添加による脱酸処理は行わない。Al含有量が多くなり、特に0.005%を超えると、Al2O3を主体とする硬質な酸化物の生成量が多くなり、しかも圧下した後も粗大な酸化物として残存するので、転動疲労特性が劣化する。従って、Alの含有量の上限を0.005%以下とする。但し、Al含有量を0.0002%未満にすると、酸化物中のAl2O3含有量が少なくなり過ぎ、SiO2を多く含む結晶相が生成する。また、Al含有量を0.0002%未満に制御するためには、Alの混入を抑制するために、鋼中成分のみならず、フラックス中のAl2O3含有量も少なくする必要があるが、高炭素鋼である軸受鋼においてAl2O3含有量の少ないフラックスは非常に高価であり、経済的でない。従って、Al含有量の下限は0.0002%以上とする。Al含有量の好ましい下限は0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。また、Al含有量の好ましい上限は0.002%以下であり、より好ましくは0.0015%以下である。
Tiは、本発明を特徴付ける元素である。Tiは、TiNを形成して固溶Nを低減する能力を有する。一方、酸化物組成制御の観点からは、所定量のTiを添加し、酸化物中のTiO2含有量を適切に制御することにより、Si脱酸鋼で得られるSiO2含有酸化物系介在物の熱間加工時における結晶化、母相の鋼と酸化物系介在物の界面に発生する空洞、多結晶体である酸化物系介在物内部に発生する空洞の問題を解決することができ、転動疲労特性が向上する。このような効果を得るため、Ti含有量の下限を0.0005%以上とする。ただし、Tiの含有量が多くなって0.010%を超えると、TiO2系酸化物が結晶相として単独で生成する。従って、Ti含有量の上限を0.010%以下とする。Ti含有量の好ましい下限は0.0008%以上であり、より好ましくは0.0011%以上である。また、Ti含有量の好ましい上限は0.0050%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。
Bは、本発明を最も特徴付ける元素であり、冷間鍛造性を向上させる上で重要な元素である。詳細にはBはNと結合して窒素化合物を形成することにより鋼中の固溶Nの残存を抑制し、冷間鍛造性の向上に寄与する。このような効果を有効に発揮するためには、B含有量の下限を0.0001%以上とすることが好ましい。B含有量の、より好ましい下限は0.0001%以上であり、更に好ましい下限は0.0002%以上である。しかしながら、B含有量が0.0050%を超えると、粗大なBの炭化物が生成し易くなり、転動疲労特性に悪影響が生じる。よって、B含有量の上限を0.0050%とする。Bの含有量の好ましい上限は0.0045%以下であり、より好ましくは0.004%以下である。
[N]−0.52×[Al]−0.29×[Ti]−1.30×[B]≦0.0020・・・(1)
式中、[N]、[Al]、[Ti]、[B]は夫々、N、Al、Ti、Bの含有量(質量%)を意味する。
Cu、NiおよびCoは、いずれも母相の焼入れ性向上元素として作用し、硬さを高めて転動疲労特性の向上に寄与する元素である。このような効果を有効に発揮させるため、いずれの元素も0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上である。しかしながら、各元素の含有量が1%を超えると、加工性が劣化する。よって、各元素の含有量の好ましい上限は1%以下であり、より好ましくは0.9%以下、更に好ましくは0.8%以下である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
Pb、BiおよびTeは、いずれも被削性向上元素である。このような効果を有効に発揮させるため、Pb、Biの各含有量を0.01%以上、Teの含有量を0.00001%以上とすることが好ましい。より好ましい含有量の下限は、Pb、Biのそれぞれで0.02%以上、Teで0.00002%以上である。しかし、Pb、Biの各含有量が0.5%を超えるか、Teの含有量が0.1%を超えると、圧延疵の発生等、製造上の問題が生じる。よって、各元素の好ましい含有量の上限を、Pb、Biではそれぞれ、0.5%以下、Teでは0.1%以下とする。Pb、Biについて、より好ましい含有量の上限はそれぞれ、0.3%以下、更に好ましくは0.2%以下である。また、Teについて、より好ましい含有量の上限は0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下である。これらの元素は、夫々単独でまたは適宜組み合わせて含有させても良い。
Caは塩基性酸化物であり、酸性酸化物であるSiO2に含まれると、酸化物の液相線温度が下がり、酸化物の結晶化を抑制する効果がある。このような効果は、酸化物の平均組成におけるCaO含有量を、好ましくは20%以上に制御することによって得られる。しかしながら、CaO含有量が高すぎると、酸化物が結晶化してしまうため、CaO含有量の上限を、好ましくは50%以下とする。酸化物中におけるCaO含有量の、より好ましい下限は22%以上であり、更に好ましくは25%以上である。また、CaO含有量の、より好ましい上限は43%以下であり、更に好ましくは41%以下である。
Al2O3は両性酸化物であり、酸性酸化物であるSiO2に含まれると、酸化物の液相線温度が下がり、酸化物の結晶化を抑制する効果がある。このような効果は、酸化物の平均組成におけるAl2O3含有量を、好ましくは20%以上に制御することによって得られる。一方、酸化物の平均組成におけるAl2O3含有量が50%を超えると、溶鋼中および凝固過程でAl2O3(コランダム)結晶相が晶出したり、MgOとともにMgO・Al2O3(スピネル)結晶相が晶出する。あるいは、圧延温度域でこれらの結晶相が生成する。これらの固相は硬質であり、粗大な介在物として存在し、加工中に空洞が生成し易くなり、転動疲労特性を悪化させる。こうした観点から、酸化物の平均組成におけるAl2O3含有量は50%以下とすることが好ましい。酸化物におけるAl2O3含有量の、より好ましい下限は22%以上であり、更に好ましくは25%以上である。また、Al2O3含有量の、より好ましい上限は43%以下であり、更に好ましくは41%以下である。
SiO2は酸性酸化物であり、酸化物系介在物を非晶質化させるために不可欠の成分である。このような効果を有効に発揮させるためには、酸化物中にSiO2を20%以上含有させることが好ましい。しかしながら、SiO2含有量が70%を超えると、SiO2を多く含む結晶相が生成して空洞が形成されるため、転動疲労特性が悪化する。酸化物中におけるSiO2含有量の、より好ましい下限は25%以上であり、更に好ましくは30%以上である。また、SiO2含有量の、より好ましい上限は50%以下であり、更に好ましくは45%以下である。
TiO2は、転動疲労特性の更なる向上に寄与する酸化物成分である。TiO2が酸性酸化物であるSiO2に含まれると、TiO2濃化相(A相)とSiO2濃化相(B相)の2相に分離でき、両相とも結晶質化を抑制することができる。その結果、Si脱酸鋼で得られるSiO2含有酸化物系介在物の熱間加工時の結晶化の抑制、母相の鋼と酸化物系介在物との界面に発生する空洞の抑制、多結晶体である酸化物系介在物内部にも発生する空洞の抑制を実現でき、転動疲労特性が一層向上する。このような効果は、酸化物の平均組成におけるTiO2含有量を、好ましくは3%以上に制御することによって得られる。しかしながら、TiO2含有量が高すぎると、TiO2系酸化物が結晶相として単独で生成し、空洞が形成され、転動疲労特性が低下するため、10%以下とすることが好ましい。酸化物中におけるTiO2含有量の、より好ましい下限は4%以上であり、更に好ましくは5%以上である。また、TiO2含有量の、より好ましい上限は8%以下であり、更に好ましくは7%以下である。
容量150kg/1chの小型溶解炉用い、下記表1に示す各種化学成分組成の供試鋼(残部は鉄および不可避的不純物)を溶製し、直径がφ245mm、高さが480mmの鋳片を作製した。溶製時にMgO系耐火物の取鍋を用い、通常実施されるAl脱酸処理を行わず、Si脱酸処理を行った。具体的にはC、Si、Mn、およびCrを用いて溶鋼の溶存酸素量を調整した後、Ti→Caの順序で投入し、Ti含有量、Ca含有量を制御した。なお、本実施例では、溶鋼に添加するCaとしてNi−Ca合金を、Ti源としてFe−Ti合金を、それぞれ用いた。このようにして得られた鋳片の化学成分を表1に示す。
得られた鋳片を1250℃に加熱して1時間保持した後、1200℃で分塊圧延し、室温まで冷却した。次いで1000℃まで再加熱して900〜1000℃の温度で熱間圧延して丸棒鋼を得た。
上記試験片の断面を研磨した後、日本電子データム製の電子線マイクロプローブX線分析計(Electron Probe X−ray Micro Analyzer:EPMA 商品名「JXA−8500F」)を用いて観察し、短径が1μm以上の酸化物系介在物について成分組成を定量分析した。このとき、観察面積を100mm2(研磨面)とし、介在物の中央部での成分組成を特性X線の波長分散分光により定量分析した。分析対象元素は、Ca、Al、Si、Ti、Ce、La、Mg、Mn、Zr、Na、K、Cr、O(酸素)とし、既知物質を用いて各元素のX線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、分析対象とする上記介在物から得られたX線強度と上記検量線から各試料に含まれる元素量を定量し、その結果を算術平均することで平均の介在物組成を求めた。このようにして得られた定量結果のうち、酸素含量が5%以上の介在物を酸化物とした。このとき、一つの介在物から複数の元素が観察された場合には、それらの元素の存在を示すX線強度の比から各元素の単独酸化物に換算して酸化物の組成を算出した。本発明では、上記単独酸化物として質量換算したものを平均して、酸化物の平均組成とした。なお、REMの酸化物は、金属元素をMで表すと、鋼材中にM2O3、M3O5,MO2などの形態で存在するが、本実施例では、観察される全ての酸化物をM2O3に換算してREM酸化物の平均組成を算出した。これらの結果を算術平均することで、酸化物の平均組成を求めた。
上記(2)で得られた丸棒鋼を770℃で6時間保持した後、10℃/時の平均冷却速度で680℃まで冷却した後、放冷して軟化させることにより球状化焼鈍材を得た。このようにして得られた球状化焼鈍材からφ60mm、厚さ6mmの円盤状のスラスト転動疲労試験用試験片を切り出し、840℃で30分加熱後に油焼入れをし、次いで160℃の温度で120分間焼き戻しを行った。最後に仕上げ研磨を施して、表面粗さRa0.1μmのスラスト転動疲労試験片を作製した。
上記(2)で得られた丸棒鋼を770℃で6時間保持した後、10℃/時の平均冷却速度で680℃まで冷却し、その後、放冷して軟化させることにより球状化焼鈍材を得た。このようにして得られた球状化焼鈍材の中心部から、直径:10mm、厚さ:16mmの円盤を切出して試験片を得た。この試験片を用い、プレス試験機(神戸製鋼所製のLCH1600リンク式1600tonプレス機)で加工率(圧縮率):80%にて冷間鍛造したときの変形抵抗(MPa)を測定し、冷間鍛造性の評価を行った。本実施例では、上記変形抵抗が850MPa以下のものを合格(冷間鍛造性に優れる)と評価した。なお、上記加工率は、下式で表されるものである。
{1−(L/L0)}×100(%)
ここで、L:鍛造前の試験片長さ(mm)、L0:鍛造後の試験片長さ(mm)を意味する。
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.8〜1.1%、
Si:0.1〜0.8%、
Mn:0.1〜1%、
Cr:1.3〜1.8%、
P :0%超0.05%以下、
S :0%超0.05%以下、
Ca:0.0002〜0.002%、
N :0%超0.010%以下、
O :0%超0.005%以下、
Al:0.0002〜0.005%、
Ti:0.0005〜0.010%、
B :0%超0.0050%以下
を含有すると共に、
下式(1)を満足し、
残部は鉄及び不可避的不純物であることを特徴とする転動疲労特性および冷間鍛造性に優れた軸受用鋼材。
[N]−0.52×[Al]−0.29×[Ti]−1.30×[B]≦0.0020・・・(1)
式中、[N]、[Al]、[Ti]、[B]は夫々、N、Al、Ti、Bの含有量(質量%)を意味する。 - 更に、質量%で、
Cu:0%超1%以下、Ni:0%超1%以下、およびCo:0%超1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の軸受用鋼材。 - 更に、質量%で、
Pb:0%超0.5%以下、Bi:0%超0.5%以下、およびTe:0%超0.1%以下よりなる群から選択される少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の軸受用鋼材。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の軸受用鋼材を用いて得られる軸受部品。
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