JP2009173961A - 鍛造用鋼およびこれを用いて得られる鍛造品 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた疲労特性の鍛造品を得るための介在物の微細化された鍛造用鋼、およびこの様な鍛造用鋼を用いて得られる、良好な疲労特性を発揮しうる鍛造品を提供する。
【解決手段】本発明の鍛造用鋼は、規定の成分組成を満たす(特に、固溶Caと固溶Mgが下記(I)〜(IV)のいずれかを満たす)ことを特徴とする。(I)固溶Ca:2〜500ppb(質量ppbの意味。以下同じ)、かつ固溶Mg:0.04〜5ppm(質量ppmの意味。以下同じ)(II)固溶Ca:2〜100ppb、かつ固溶Mg:5〜10ppm(III)固溶Ca:2ppb以下(0ppbを含まない)、かつ固溶Mg:0.04〜5ppm(IV)固溶Ca:2〜500ppb、かつ固溶Mg:0.04ppm以下(0ppmを含まない)
【選択図】なし

Description

本発明は、鍛造用鋼およびこれを用いて得られる鍛造品に関するものである。本発明の鍛造用鋼を用いて鍛造される鍛造品は、機械、船舶、電機等の産業分野で広く有効に活用されるものであるが、以下では代表的な用途例として、船舶用駆動源の伝達部材として用いられるクランク軸に適用する場合を中心に説明を進める。
鍛造用鋼を用いて製造される、例えば船舶用駆動源の伝達部材である大型クランク軸には、過酷な使用環境下でも疲労破壊を生じ難い、優れた疲労特性が要求される。
クランク軸の疲労特性を向上させる方法として、非特許文献1には、加工面での技術を駆使して疲労特性を高めたことが示されており、具体的には、RR(Roedere Ruget)法を採用することにより、自由鍛造法で製造したクランク軸より疲労特性を著しく向上させたことや、冷間ロール加工を施して疲労強度を向上させたことなどが示されている。
また、非特許文献2には、船舶用クランク軸に採用される低合金鋼の疲労特性向上について検討されており、(1)介在物は疲労破壊の起点となりやすく、鋼の高強度化に伴いその傾向が顕著となること、(2)介在物サイズが大きいほど疲労強度は低下すること、(3)伸長した介在物を含む鋼材は疲労強度の異方性が表れやすいこと、などが示されている。そして、鍛造材の疲労特性を向上させるには、介在物形状を球状とし、寸法を小さくすることが有効である旨結論付けられている。
しかしながらこれらの文献には、介在物形状を球状化し、かつ寸法を小さくするための具体的な手段まで示されておらず、制御すべき介在物の種類やサイズ等も明らかにされていない。従って、疲労特性の向上に有効な介在物の形態制御を具現化するには、更なる検討を要すると考えられる。
ところで、鋼中介在物の形態制御法として、様々な方法がこれまでに提案されており、例えば特許文献1には、耐ラメラテイア性と耐水素誘起割れ性の優れた構造用低合金鋼を得るための手段として、硫化物と酸化物をともに減少させ、かつ介在物の形態をコントロールする方法が提案されている。具体的には、耐ラメラテイア性や耐水素誘起割れ性を阻害するMn硫化物の生成を抑制するには、S量およびO量を低減し、かつCaやMgを添加すればよいことが提案されている。
また、特許文献2には、Mg、Ca添加により、熱間圧延により伸び易いMnSやクラスター状に連なるAl23系介在物の生成を抑制し、形状を変えて微細化を図るなどの介在物の形態制御を行うことが示されている。
特許文献3や特許文献4には、酸化物系介在物の超微細化を図ることで、歯車材としての面疲労強度や歯曲げ疲労強度を高めることが示されており、具体的には、酸化物系介在物として、凝集合体し難いMgOやMgO・Al23を生成させることが提案されている。また、硫化物であるMnSの一部を(Mn・Mg)Sとすれば、介在物の延伸性が抑制され、機械的強度の異方性が低減することを明らかにしている。
特許文献5には、被削性に優れた機械構造用鋼を得るべく、硫化物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Ca、Mg、Mn)Sを存在させたことが示されており、特に、REM、CaおよびMgを含有させて硫化物の形態を制御すれば、機械的性質の異方性が抑えられるとともに、S含有快削鋼よりも被削性が高められることを明らかにしている。
しかし、これら介在物の形態制御技術は、船舶用駆動源の伝達部材等の如く過酷な環境下で使用される鍛造品を対象とするものでない。従って、鍛造品の疲労特性を高めるべく、鍛造品の製造に用いる鍛造用鋼を対象に、独自の介在物制御方法を検討して確立することが求められている。
上記船舶用駆動源の伝達部材等の鍛造品に用いられる鍛造用鋼を対象としたものに、特許文献6が挙げられる。この特許文献6には、S、Ca、Mg、AlおよびOの含有量を規定し、かつCaとMgの含有量が式(1)を満たすようにすることで、疲労特性を向上できる旨示されている。しかし、大型鋼塊に存在する介在物の形態を、より具体的に把握して、疲労特性を確実に高めるには、更なる検討が必要であると考えられる。
「クランク軸の進歩改善」,日本船舶用機関学会誌,昭和48年10月,第8巻, 第10号,p.54−59 「高強度クランク軸材の疲労強度特性に関する研究」,Journal ofthe JIME,平成13年,vol.36,No.6,p.385−390 特公昭58−35255号公報 特公昭57−59295号公報 特開平7−188853号公報 特開平7−238342号公報 特開2000−87179号公報 特開2004−225128号公報
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた疲労特性を示す鍛造品を得るための介在物の微細化された鍛造用鋼、およびこうした鍛造用鋼を用いて得られる良好な疲労特性を発揮しうる鍛造品(特に、クランク軸)を提供することにある。
本発明に係る鍛造用鋼とは、
C:0.2〜0.6%(質量%の意味。以下同じ)、
Si:0.05〜0.5%、
Mn:0.2〜1.5%、
Ni:0.1〜3.5%、
Cr:0.9〜4%、
Mo:0.1〜0.7%、
Al:0.005〜0.1%、
S:0.008%以下(0%を含まない)、
O:0.0025%以下(0%を含まない)、
Total Ca:0.0030%以下(0%を含まない)、
Total Mg:0.0015%以下(0%を含まない)
を満たすと共に、固溶Caと固溶Mgが下記(I)〜(IV)のいずれかを満たすところに特徴を有する。
(I)固溶Ca:2〜500ppb(質量ppbの意味。以下同じ)、かつ
固溶Mg:0.04〜5ppm(質量ppmの意味。以下同じ)
(II)固溶Ca:2〜100ppb、かつ固溶Mg:5〜10ppm
(III)固溶Ca:2ppb以下(0ppbを含まない)、かつ
固溶Mg:0.04〜5ppm
(IV)固溶Ca:2〜500ppb、かつ
固溶Mg:0.04ppm以下(0ppmを含まない)
本発明の鍛造用鋼は、更に他の元素として、
(a)V、Nb、TaおよびHfよりなる群から選択される1種以上を、合計で0.005〜0.2%、
(b)Ti:0.05%以下(0%を含まない)、
(c)Cu:1.0%以下(0%を含まない)
を含んでいてもよい。
本発明の鍛造用鋼は、鋼中に存在する最大介在物の円相当直径が100μm未満のものでもある。
本発明には、上記鍛造用鋼を用いて製造された鍛造品(特にクランク軸)も含まれる。
本発明は上記のように構成されており、特に、鋼中の固溶Ca量および固溶Mg量を調整することにより、形成される介在物の形態を制御することができ、介在物の微細化された鍛造用鋼を提供し得ることになった。この様な鍛造用鋼を用いて得られる鍛造品は、優れた疲労特性を期待することができ、特に船舶で用いられるクランク軸等の大型鍛造製品として極めて有用である。
本発明者らは、前述した様な状況の下、過酷な環境下で使用される鍛造品の疲労特性を高めることを最終目標に、様々な角度から検討を行った。特に、凝固温度の遅い大型鋼塊(例えば20トン以上)では、目標とする疲労強度が得られ難いため、これまでとは違う観点からの検討を進めた。
その結果、特に、鋼中の固溶Ca量および固溶Mg量を上記(I)〜(IV)のいずれかの範囲内とすると共に、鋼中のTotal Ca量、Total Mg量、およびS量を制御することにより、鋼中に存在する最大介在物のサイズが著しく小さくなり、疲労特性を十分に高めうることを見出した。以下、本発明について詳述する。
まず本発明では、鋼中の固溶Ca量および固溶Mg量を、上記(I)〜(IV)のいずれかの範囲内とする。各範囲について以下に説明する。
(I)固溶Ca:2〜500ppb、かつ固溶Mg:0.04〜5ppm
鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量を上記範囲内とすることで、酸化物として低融点の(Ca,Al,Mg)O{( )内の元素を全て含む酸化物をいう。以下同じ}が生成する。該酸化物は鍛造時に変形し易いので、鍛造品中の介在物サイズを微細にすることができる。また、硫化物として、低融点の(Ca,Mg,Mn)S{( )内の元素を全て含む硫化物をいう。以下同じ}、または(Ca,Mg)Sが生成する(固溶Caや固溶Mgの含有量が比較的多いと、(Ca,Mg)Sになる傾向にある)。該硫化物はMnSよりも微細分散し易いので、鍛造品中の介在物サイズを微細にすることができる。
(II)固溶Ca:2〜100ppb、かつ固溶Mg:5〜10ppm
鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量を上記範囲内とすることで、酸化物は、高融点のMgOから低融点の(Ca,Al,Mg)Oとなる。また硫化物は、高融点のMgSから、低融点の(Ca,Mg)Sとなる。上記(Ca,Al,Mg)Oは鍛造時に変形し易く、また(Ca,Mg)SはMgSよりも微細分散し易いため、鍛造品中の介在物サイズを微細にすることができる。
(III)固溶Ca:2ppb以下(0ppbを含まない)、かつ固溶Mg:0.04〜5ppm
鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量を上記範囲内とすることで、酸化物として、Alよりも凝集し難いスピネル(Al,Mg)Oが生成し、また、硫化物として、MnSよりも微細分散しやすい(Mg,Mn)Sが生成するため、結果として、粗大な介在物の生成が抑制され、疲労特性を向上させることができる。
(IV)固溶Ca:2〜500ppb、かつ固溶Mg:0.04ppm以下(0ppmを含まない)
鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量を上記範囲内とすることで、酸化物として、Alよりも凝集し難く、かつ低融点である(Al,Ca)Oが生成し、また、硫化物として、MnSよりも微細分散しやすい(Ca,Mn)Sが生成するため、結果として、粗大な介在物の生成が抑制され、疲労特性を向上させることができる。
鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量が上記(I)〜(IV)以外の範囲にあると、粗大な介在物が生成し易くなるので好ましくない。例えば、固溶Mg量が10ppm超の場合には、固溶Ca量に関係なく、高融点のMgSやMgOが凝固中に多量に生成し、粗大な介在物となって清浄度を低下させるので好ましくない。また、固溶Mg量が10ppm以下であっても固溶Ca量が2ppb未満の場合には、上記MgSやMgOが生成し、これらが凝集して粗大となる。また上記MgSやMgOは、上述の通り高融点であるため、鍛造時に変形し難く、鍛造品中に粗大な介在物として残留する。一方、固溶Mg量が0.04ppm未満で固溶Ca量が2ppb未満の場合には、酸化物として粗大なAlが生成し、また硫化物として粗大なMnSが生成するので好ましくない。
尚、上記鋼中の固溶Caおよび固溶Mgの含有量は、後述する実施例に示す通りSIMS(Secondary Ionization Mass Spectrometer,二次イオン質量分析装置)で測定したものである。
次に、本発明でTotal Ca量、Total Mg量およびS量を規定した理由について説明する。
〔Total Ca:0.0030%以下(0%を含まない)〕
鋼中のTotal Ca量が0.0030%を超えると、粗大なCa含有酸化物(CaO等)やCa含有硫化物(CaS)、また、これらの複合介在物が発生しやすくなる。よって本発明では、Total Ca量を0.0030%以下に抑える。好ましくは0.0020%以下、より好ましくは0.0015%以下である。
〔Total Mg:0.0015%以下(0%を含まない)〕
鋼中のTotal Mg量が0.0015%を超えると、粗大なMg含有酸化物(MgO等)やMg含有硫化物(MgS)、これらの複合介在物が発生しやすくなる。よって本発明では、Total Mg量を0.0015%以下に抑える。好ましくは0.0010%以下、より好ましくは0.0008%以下である。
図1は、本発明で規定する上記Total Ca量およびTotal Mg量の範囲を示したグラフであり、後述する実施例のデータを用いて整理したものである。
〔S:0.008%以下(0%を含まない)〕
Sは、鋼中で粗大な硫化物(MnS、CaS、MgS)を形成し易いため、鍛造用鋼塊の疲労強度を低下させる原因となる元素である。したがって、鋼中のS量は、0.008%以下、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下、更に好ましくは0.001%以下とする。
本発明は、この様に介在物の微細化を図るべく、上記成分を調整したところに特徴を有するが、例えばクランク軸等の鍛造品に求められる強度や靭性、更には本発明で目標とする疲労特性の向上を確実なものとすべく、鋼材が下記成分組成を満たすようにするのがよい。
〔C:0.2〜0.6%〕
Cは強度向上に寄与する元素であり、十分な強度を確保するには、0.2%以上、好ましくは0.25%以上、より好ましくは0.3%以上含有させるのがよい。しかしC量が多過ぎるとクランク軸の靭性を劣化させるので、0.6%以下、好ましくは0.55%以下、より好ましくは0.5%以下に抑える。
〔Si:0.05〜0.5%〕
Siは、強度向上・脱酸に作用する元素である。両効果ともに十分発揮させるには、Si量を0.05%以上、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.15%以上とするのがよい。しかし多過ぎると、逆V偏析が著しくなるので、0.5%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.4%以下とする。
〔Mn:0.2〜1.5%〕
Mnも、焼入れ性を高めると共に強度向上に寄与する元素であり、十分な強度と焼入れ性を確保するには、0.2%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.8%以上含有させるのがよい。しかし、多過ぎると逆V偏析を助長する場合もあるので、1.5%以下、好ましくは1.2%以下とする。
〔Ni:0.1〜3.5%〕
Niは、靭性向上元素として有用な元素であり、0.1%以上含有させる。好ましくは0.2%以上である。しかし、Ni量が過剰になるとコストアップとなるので、3.5%以下、好ましくは3.0%以下とする。
〔Cr:0.9〜4%〕
Crは、焼入れ性を高めると共に靭性を向上させる有効な元素であり、それらの作用は0.9%以上、好ましくは1.1%以上、より好ましくは1.3%以上含有させることで有効に発揮される。しかし多過ぎると、逆V偏析を助長する場合があるので、4%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下とする。
〔Mo:0.1〜0.7%〕
Moは、焼入れ性、強度、靭性の全ての向上に有効に作用する元素であり、それらの作用を有効に発揮させるには、0.1%以上、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.25%以上含有させる。しかしMoは、平衡分配係数が小さくミクロ偏析(正常偏析)の原因となり易い元素であるので、0.7%以下、好ましくは0.6%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
〔Al:0.005〜0.1%〕
Alは、製鋼工程における脱酸元素として有効であり、また鋼の耐割れ性にも有効である。従って、Al量(Total Al量をいう。以下同じ)は、0.005%以上、好ましくは0.010%以上含有させる。一方、Alは、AlN等の形でNを固定し、NおよびV等の配合による鋼の強化作用を阻害する他、種々の元素と結合して非金属介在物や金属間化合物を生成し、鋼の靭性を低下させる場合があるので、Al量は、0.1%以下、好ましくは0.08%以下とする。
〔O:0.0025%以下(0%を含まない)〕
O(酸素)は、SiO、Al、MgO、CaO等の酸化物を形成し、介在物となって鋼塊の疲労強度を低下させる元素である。したがって、Oは極力低減することが好ましく、O量(Total O量)は、0.0025%以下、好ましくは0.0015%以下とする。
本発明で使用される鍛造用鋼の成分組成は上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば、PやN等が挙げられ、Pは、0.03%以下であることが好ましく、0.02%以下であることがより好ましい。また、Nは、0.01%以下であることが好ましく、より好ましくは0.008%以下である。
前記本発明の作用に悪影響を与えない範囲で、下記の通り、更に他の元素を積極的に含有させた鍛造用鋼を使用することも可能である。
〔V、Nb、TaおよびHfよりなる群から選択される1種以上:合計で0.005〜0.2%〕
V、Nb、Ta、Hfは、析出強化及び組織微細化効果があり、鋼材の高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、V、Nb、TaおよびHfよりなる群から選択される1種以上を、合計で0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは合計で0.01%以上である。但し、過剰に含有させても上記効果は飽和してしまい、経済的に無駄であるので、合計で0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは合計で0.15%以下である。
〔Ti:0.05%以下(0%を含まない)〕
Tiは、不可避的に不純物として含まれるか、または、鋼の耐水素割れ性の改善効果を期待して含有させる元素である。Ti系介在物は、TiN、TiC、Tiのような微細介在物を構成して鋼中に分散し、固溶限を超えた鋼中の余剰水素を吸蔵捕捉し、鋼の耐水素割れ性を改善する大きな効果がある。このような効果を発現させるには、鋼中のTi量を、0.0002%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.0004%以上、更に好ましくは0.0006%以上である。しかし、不可避的不純物として含まれる場合や上記効果を発現させるべくTiを含有させる場合のいずれの場合にも、Ti量が0.05%を超えると、鋼中で粗大な窒化物を形成し、疲労特性を低下させてしまう場合がある。したがって、鋼中のTi量は、0.05%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.03%以下であり、更に好ましくは0.01%以下である。
〔Cu:1.0%以下(0%を含まない)〕
Cuは、不可避的に不純物として含まれるか、または、靭性向上元素として添加することのある元素である(尚、靭性向上元素としてCuを含有させる場合には、Cu量を0.05%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.1%以上である)。しかし、Cu量が1.0%を超えると、コストアップの原因になると共に熱間割れが生じるおそれがある。よってCu量は、1.0%以下、好ましくは0.5%以下とする。
更に積極添加が許容される他の元素の例として、焼入れ性改善効果を有するBや、固溶強化元素または析出強化元素であるW,Ce,La,Zr,Teなどが挙げられ、それらは単独で或いは2種以上を複合添加できるが、合計量で0.1%程度以下に抑えることが望ましい。
鋼中のS量、Total Ca量、Total Mg量、固溶Ca量、および固溶Mg量を上記規定の範囲内とするにあたっては、下記の方法が一手段として推奨されるが、本発明は、鍛造用鋼の製造方法まで規定するものではなく、後述するプロセスに限定されない。
S含有量は、2次精錬時のトップスラグ組成を制御することによって調整できる。具体的には、トップスラグ中のCaO濃度とSiO濃度の比(CaO/SiO:以下、「C/S」と記載することがある)を、好ましくは3.0以上と高くすることにより、鋼中のS含有量を低下させることができる。また、補足的手段として、CaO濃度とAl濃度の比(CaO/Al)も高くすることで、鋼中のS含有量を低下させることができる。
トップスラグ中のMgO濃度を5%以上とし、かつCaO濃度を30%以上とすることが推奨される。一方、上記トップスラグ中のMgO濃度およびCaO濃度が高すぎると、スラグが固化して精錬作業自体が困難となるため、トップスラグ中のMgO濃度は25%以下、またトップスラグ中のCaO濃度は65%以下とすることが推奨される。
また、精錬時における溶鋼中の溶存Al濃度は、50〜900ppmの範囲内とすることが推奨される。溶鋼中の溶存Al濃度が50ppm未満だと溶存酸素量が上昇し、凝固中に晶出する酸化物個数が増加して清浄度が悪化するため好ましくない。一方、溶存Al濃度が900ppmを超えると、溶存酸素濃度が低下すると共に、鋼中の固溶Ca量や固溶Mg量が過剰になるので好ましくない。
こうした方法を採用することによって、鋼中の固溶Ca量および鋼中の固溶Mg量を規定範囲内とすることができる。
更に本発明では、転炉又は電気炉から出鋼された溶鋼に対し、1回目の加熱・成分調整を行い、該1回目の加熱・成分調整の終了後の溶鋼に対して脱ガス処理を行い、該脱ガス処理後の溶鋼に対して2回目の加熱・成分調整を行う、といった(加熱・成分調整→脱ガス処理→加熱・成分調整)を含む工程で精錬を行うことが有効である。
1回目の加熱・成分調整は、溶鋼成分を所定の範囲内とする処理であり、また、脱ガス処理は、溶鋼内に存在する水素等のガス成分の除去を行う処理であるため、両処理とも溶鋼表面に浮かぶトップスラグの巻き込みを極力抑制しながらも、攪拌動力密度を大きくする必要がある。
一方、2回目の加熱・成分調整には、上記脱ガス処理で一旦溶鋼中に巻き込んだトップスラグを浮上分離させる機能や成分・温度の微調整を主に担わせており、溶鋼温度を鋳造条件に応じた温度に調整しつつ、新たなトップスラグの巻き込みが発生しないよう低攪拌動力密度で攪拌を行うのがよい。
具体的には、成分調整(Al量調整を含む)後の脱ガス処理時には、当該脱ガス処理の中期(途中)までは、攪拌動力密度(ε;後述する式(1)により求められる。以下同じ):50〜200W/tonで撹拌することが推奨される。この様に攪拌動力密度を好ましくは50W/ton以上、より好ましくは60W/ton以上で、好ましくは200W/ton以下、より好ましくは180W/ton以下となるように、吹き込みガスの流量を調整し、その後の脱ガス処理(中期以降)は、攪拌動力密度が140W/ton以下、好ましくは120W/ton以下(0W/tonを除く)となるように吹き込みガスの流量を調整することが推奨される。
また、2回目の加熱・成分調整では、攪拌動力密度が好ましくは25W/ton以下、より好ましくは20W/ton以下で、好ましくは2.0W/ton以上となるように吹き込みガスの流量を調整することが推奨される。
より詳細には、次の手順による。まず、転炉や電気炉から取鍋に出鋼された溶鋼は、2次精錬装置へ運ばれ、1回目の加熱・成分調整(以降、LF−Iと記載することがある)が施される。具体的には、アーク放電を発生させることにより溶鋼をT=1600℃程度まで加熱しつつ、フラックス供給手段を用いてフラックスを投入し、さらに、ガス吹き込み手段からArガスを吹き込んで溶鋼を攪拌する。
なお、LF−Iにおいて、フラックスの種類や量は、後述する真空脱ガス処理終了後(言い換えれば、2回目の加熱・成分調整スタート時)におけるトップスラグの組成が、
(i)SiOの質量に対してCaOの質量が3.0倍以上となる、
(ii)Alの質量に対してCaOの質量が1.5〜3.5倍となる、
(iii)トップスラグ組成中のT.Feの質量とMnOの質量の総和が、トップスラグの全質量の1.0%以下となる、
の3つの条件を同時に満たすように、加熱温度を制御したり、副原料(フラックス)の投入量を調整したりすることが推奨される。
1回目の加熱・成分調整が完了した溶鋼は、取鍋ごと真空脱ガス装置に搬送され、当該溶鋼に対して真空脱ガス処理(以降、VDと記載することもある)が施される。
詳しくは、排気装置を作動させ、排気管を通じて取鍋内であって溶鋼上方のガスを排気することにより、取鍋内の雰囲気圧力Pを0.5Torr程度の真空状態に近づける。加えて、ガス吹き込み手段からArガスを吹き込んで溶鋼を攪拌する。以上のような方法により、成分調整がほぼ完了した溶鋼から、水素を除去する処理が行われる。
この処理では、溶鋼内へのトップスラグ巻込み防止と脱水素とが両立できる攪拌動力密度εを採用することが好ましい。そこで、VD前半では、攪拌動力密度εが50〜200W/tonとなるように底吹きガスの流量Qを調整すれば、トップスラグの巻込みを最小限に抑えつつ、脱水素を効率よく行うことができる。またVD後半では、攪拌動力密度εが140W/ton以下(0W/tonは除く)となるように底吹きガスの流量Qを調整すれば、巻き込んだトップスラグの浮上分離が促進されるので好ましい。
なお、攪拌動力密度εの計算において、底吹きガスの吹き込み前温度T(Arガスの吹き込み前温度)は常温(298K)とし、底吹きガスの吹き込み後温度T(Arガスの吹き込み後温度)は溶鋼温度Tとしている。
Figure 2009173961
ε:攪拌動力密度(W/ton)
:底吹きガスの吹き込み前温度(常温(298K))
:溶鋼温度(K)
:溶鋼量(ton)
ρ:溶鋼密度(kg/m
:底吹きガス流量(Nl/min)
:底吹きガスの吹き込み後温度(K)
P:雰囲気圧力(torr)
:溶鋼深さ(m)
例えば、1回目の加熱・成分調整(LF−I)において、取鍋のサイズや実際の溶鋼装入量M等、幾つか条件は異なるものの、Q/Mを0.30〜3.75Nl/min・tonとすることで、攪拌動力密度εが4.7〜67.2W/tonとなっている。
さらに、VD後の溶鋼に対して、2回目の加熱・成分調整(以降、LF−IIと記載することがある)を行うことにより高清浄鋼を製造できる。
すなわち、真空脱ガス処理が完了した溶鋼を、取鍋ごと2次精錬装置に搬送し、溶鋼に対して2回目の加熱・成分調整を施す。具体的には、例えばアーク放電を発生させることにより溶鋼をT=1600℃程度まで加熱しつつ、ガス吹き込み手段からArガスを吹き込んで溶鋼を攪拌することが挙げられる。溶鋼の攪拌強度としては、上記式(1)で計算される攪拌動力密度εが25W/ton以下で2.0W/ton以上となるようにArガスの流量Qを調整することが推奨される。上記攪拌動力密度εを25W/ton以下とすることで新たなトップスラグ巻き込みを防止することができる。このLF−IIでは、成分分析を行って、必要に応じた成分微調整を行ってもよい。
このように、再度LF処理(LF−II)を行うことにより、VD途中から行った「巻き込んだトップスラグおよび脱酸生成物の浮上分離」をさらに促進させることができる。
なお、前述した如く、LF−IIにおけるトップスラグ成分は、
(i)塩基度、すなわちCaO/SiO≧3.0
(ii)CaO/Al=1.5〜3.5、
(iii)T.Fe+MnO≦1.0質量%、
として、トップスラグ中の酸化物による溶鋼成分の再酸化を確実に防げることが好ましい。
上記の通り、精錬工程において、(加熱・成分調整→脱ガス処理→加熱・成分調整)の工程を含めばよく、その前後の工程については限定されない。よって、例えば上記(加熱・成分調整→脱ガス処理→加熱・成分調整)工程の後に、上記条件または上記以外の条件で(脱ガス処理→加熱・成分調整)または(脱ガス処理→加熱)を、1回行う工程を加えるか、どちらか一方または両方を複数回繰り返す工程を加えたり、上記(加熱・成分調整→脱ガス処理→加熱・成分調整)工程の後に、上記条件または上記以外の条件で脱ガスのみを再度行うような工程等を設けてもよい。
本発明は、上記鍛造用鋼を用いて得られる鍛造品も包含するものであるが、その製造方法は特に制限されず、例えば、上記鍛造用鋼を加熱してから素材鍛造を行う工程、中間検査の後加熱して製品形状に鍛造する工程、熱処理により均質化すると共に焼入れ・焼ならし処理して硬質化する工程、仕上げ機械加工を行う工程、を含む工程で製造すればよい。
該方法により得られる鍛造品としては、クランク軸(一体型クランク軸・組立型クランク軸)や、優れた疲労特性を発揮するので、クランク軸以外に、船舶用の中間軸、推進軸、組立型クランク軸のスロー、一般機械部品、圧力容器、中空素材といった高強度製品が挙げられる。
鍛造品としてクランク軸を製造する場合には、一体型クランク軸として製造すれば、シャフト表層側を清浄度の高い部分で占めさせることができ、強度や疲労特性に優れたものが得られるので好ましい。この場合、一体型クランク軸の製造方法は特に限定されないが、好ましいのはR.R.およびT.R.鍛造法(鋼塊の軸心がクランク軸の軸心部となる様に鍛造加工し、中心偏析により特性の劣化を起こし易い部分をクランク軸の全ての軸心部となる様に一体に鍛造加工する方法)といった方法で製造することである。
尚、その他の鍛造加工法として、自由鍛造法(クランクアームとクランクピンを一体としたブロックとして鍛造し、ガス切断および機械加工によってクランク軸形状に仕上げる方法)などで製造してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
電気炉内で20〜100トン(ton)のスクラップ原料を溶解し、取鍋に出鋼した。その後、底吹き攪拌装置を備えた取鍋加熱式精錬装置を用いて、溶鋼処理を行った。この溶鋼処理工程では、転炉又は電気炉から出鋼された溶鋼に対し、1回目の加熱・成分調整(LF−I)を行い、該1回目の加熱・成分調整終了後の溶鋼に対して脱ガス処理(VD)を行い、該脱ガス処理後の溶鋼に対して2回目の加熱・成分調整(LF−II)を行った。
上記1回目の加熱・成分調整における成分調整の際には、CaO,Al23およびMgO等の造滓剤を溶鋼表面に添加し、表1に示す量のCaOやMgOを含むトップスラグを形成した。次に、Alを添加して溶鋼を脱酸し、更に蓋脱ガス装置による真空処理によって、脱水素を行った。溶鋼処理中には適宜、溶鋼をサンプリングして溶鋼中の溶存Al濃度を測定し、この溶存Al濃度が推奨される範囲内となるように、必要に応じてAlを更に添加した。溶鋼中の溶存Al濃度を表1に示す。尚、下記表1に示すS含有合金、Mg含有合金、Ca含有合金は、LF−IIの際に添加した。また、上記脱ガス処理(VD)の中期まで(VD前半)の攪拌動力密度、その後(中期以降,VD後半)の脱ガス処理の攪拌動力密度、およびLF−IIにおける攪拌動力密度は、表1に示す通りとした。
上記溶鋼処理が完了した後は、トップスラグのサンプルを採取すると共に、下注ぎ造塊法によって鋼塊(20〜100トン)を鋳造した。鋼塊の凝固が完了した後、鋳型内から鋼塊を抜き出し、1150℃以上に加熱して熱間鍛造を施し、各種大きさの丸棒状鍛造品を製造した。このとき、20トン鋼塊については熱間鍛造を施して直径250〜450mmの丸棒状に仕上げ、50トン鋼塊については熱間鍛造を施して直径350〜700mmの丸棒状に仕上げた。100トン鋼塊については熱間鍛造を施して直径600〜1200mmの丸棒状に仕上げた。尚、上記トップスラグのサンプルから、ICP発光分光分析によってトップスラグ中のCaO濃度およびMgO濃度を調査した。その結果を表1に示す。
また、各鍛造材における化学成分組成を化学分析によって調査した結果を表2に示す。更に、鋼塊中の固溶Ca量および固溶Mg量を測定すると共に、鍛造品中の介在物組成分析、疲労試験を下記の方法で行った。尚、表2における鋼中のTotal Ca量およびTotal Mg量は、ICP−質量分析法(ICP−MS法)によって求めた。
[鋼中の固溶Ca(Sol.Ca)量および固溶Mg(Sol.Mg)量の測定]
鋼塊から採取したサンプルを研磨し、二次イオン質量分析装置(「ims5f」 CAMECA社製)に装填し、各サンプルについて、500×500(μm2)の領域でCa、Mgの二次イオン像を観察し、その領域内でCa、Mgが局所的に濃化していない場所を3箇所選び、深さ方向に分析を行った。このときの一次イオン源はO2+である。そして、深さ方向の濃度分布が一定である場合には、その値を固溶濃度とした。深さ方向分析の過程で介在物が存在する場合には、濃度分布が大きく変動するが、介在物が存在しない深さまで分析を進め、濃度分布が一定となった段階で、その値を固溶濃度とした。尚、濃度の定量方法については、標準試料として24Mg(150keV,1×1014atoms/cm2)、27Al(200keV,1×1014atoms/cm2)をイオン注入した純鉄を測定し、得られた相対感度係数(RSF)を用いて原子濃度を測定した。これらの測定結果を表2に併記する。
[介在物組成分析]
鍛造後の丸棒において、鋼塊底部相当位置の中心部から、サンプルを切り出し、EPMAにより介在物の組成分析を行った。このとき、各サンプルについて、50個以上の介在物を無作為に選んで組成分析を行った。その結果を表3に示す。また表3には、上記50個以上の介在物の中で最大の介在物の円相当直径も示す。
尚、表3の「鍛造品中の介在物」の項目における「微細」とは、上記介在物のいずれもが、円相当直径:100μm未満である場合をいい、併せて示す介在物組成は、酸化物系の場合、上記分析を行った全酸化物系介在物のうち5割以上の個数を占める酸化物の組成を示し、硫化物系の場合、上記分析を行った全硫化物系介在物のうち5割以上の個数を占める硫化物の組成を示している。また「粗大」とは、円相当直径:100μm以上である粗大介在物が1個以上検出される場合をいい、併せて示す介在物組成は上記粗大介在物の組成を示している。また、上記「鍛造品中の介在物」には、酸化物と硫化物がそれぞれ単独に存在する場合の他、酸化物と硫化物が隣接形態または複合形態(例えば、酸化物を核とし硫化物が周囲に存在する形態)をとる場合(複合介在物の場合)も含まれるが、複合介在物であっても、該複合介在物中の酸化物と硫化物のサイズを個別に求めて評価している。
[疲労試験および介在物サイズ測定]
鍛造後の丸棒において、鋼塊底部相当位置の中心部から半径方向に直径:10mm×長さ:30mmの平滑試験片を採取し、下記の条件にて疲労試験を実施した。また、疲労試験片と同じ位置から、採取した試験片を用いて常温で引張試験を実施した。そして、疲労限度の指標として、耐久限度比(疲労強度σw/引張強度σB)を求めた。この試験を5本の試験片で行って、耐久限度比の平均値を求め、この耐久限度比が0.42超のものを疲労特性に優れると評価した。その結果を表3に示す。
試験方法:回転曲げ疲労試験(応力比=−1,回転数:3600rpm)
疲労強度評価方法:階差法
階差応力:20MPa
初期応力:300MPa
試験片本数:各5本
各試験片の疲労強度=(破断応力)−(階差応力)
Figure 2009173961
Figure 2009173961
Figure 2009173961
表1〜3より次の様に考察できる(下記No.は、表1〜3中の実験No.を示す)。
No.1〜17は、本発明で規定する成分組成を満たしているので、鋼中に存在する最大介在物が小さく、結果として、高い耐久限度比が得られていることがわかる。
これに対し、No.18〜28は、鋼材の化学成分が本発明の規定要件を外れているため、鋼中に存在する最大介在物が下記の通り粗大なものとなり、結果として、耐久限度比が低下した。
詳細には、No.18は、S含有合金、Mg含有合金およびCa含有合金を添加した例であり、かつ精錬時の撹拌も強すぎるため、S量、Total Ca量、Total Mg量、固溶Ca量、および固溶Mg量の全てが上限を外れており、その結果、酸化物および硫化物が共に粗大となった。
No.19は、精錬時の撹拌が強すぎるため、トップスラグ中のMgO、CaOを巻き込み、結果として、Total Ca量、Total Mg量、および固溶Ca量が上限を超え、酸化物および硫化物が共に粗大となった。
No.20は、Mg含有合金を添加することにより、Total Mg量および固溶Mg量が上限を超えたため、粗大なMg含有介在物が形成された。
No.21は、Ca含有合金を添加することにより、Total Ca量および固溶Ca量が上限を超えたため、粗大なCa含有介在物が形成された。
No.22は、Mg含有合金を添加し、かつLF−II時の撹拌が弱い例である。この場合、固溶Mg量は規定範囲内であるがTotal Mg量が上限を超えたため、粗大なMg含有介在物が生じた。
No.23は、Ca含有合金を添加し、かつLF−II時の撹拌が弱い例である。この場合、固溶Ca量は規定範囲内であるが、Total Ca量が上限を超えたため、粗大なCa含有介在物が生じた。
No.24は、S含有合金を添加することにより、S量が上限を超え、結果として硫化物が粗大となった。
No.25は、VD前半の撹拌強度が小さく、かつLF−II時の撹拌も弱い例である。この場合、固溶Ca量および固溶Mg量が規定下限値に満たないため、結果として、粗大Alや粗大MnSが生じた。
No.26は、溶鋼中の溶存Al濃度が推奨される範囲を上回り、固溶Ca量が上限を超えたため、粗大なCa含有介在物が生じた。
No.27は、溶鋼中の溶存Al濃度が推奨される範囲を下回り、固溶Ca量および固溶Mg量が規定下限値に満たないため、粗大Alや粗大MnSが形成された。
No.28は、トップスラグ中の成分を推奨される範囲内とせず、固溶Ca量が規定下限値に満たないため、粗大Alや粗大MnSが形成された。
図2は、EPMAで検出された鋼中に存在する上記最大介在物の円相当直径と耐久限度比の関係を整理したグラフであるが、この図2より、耐久限度比と上記最大介在物の円相当直径は非常に良い相関がみられることがわかる。また、上記最大介在物の円相当直径が100μm未満の場合に、耐久限度比が0.42超の優れた疲労特性を実現できることがわかる。
本発明で規定するTotal Ca量およびTotal Mg量の範囲を示したグラフである。 鋼中に存在する最大介在物の円相当直径と耐久限度比の関係を示したグラフである。

Claims (7)

  1. C:0.2〜0.6%(質量%の意味。以下同じ)、
    Si:0.05〜0.5%、
    Mn:0.2〜1.5%、
    Ni:0.1〜3.5%、
    Cr:0.9〜4%、
    Mo:0.1〜0.7%、
    Al:0.005〜0.1%、
    S:0.008%以下(0%を含まない)、
    O:0.0025%以下(0%を含まない)、
    Total Ca:0.0030%以下(0%を含まない)、
    Total Mg:0.0015%以下(0%を含まない)
    を満たすと共に、固溶Caと固溶Mgが下記(I)〜(IV)のいずれかを満たすことを特徴とする鍛造用鋼。
    (I)固溶Ca:2〜500ppb(質量ppbの意味。以下同じ)、かつ
    固溶Mg:0.04〜5ppm(質量ppmの意味。以下同じ)
    (II)固溶Ca:2〜100ppb、かつ
    固溶Mg:5〜10ppm
    (III)固溶Ca:2ppb以下(0ppbを含まない)、かつ
    固溶Mg:0.04〜5ppm
    (IV)固溶Ca:2〜500ppb、かつ
    固溶Mg:0.04ppm以下(0ppmを含まない)
  2. 更に他の元素として、
    V、Nb、TaおよびHfよりなる群から選択される1種以上を、合計で0.005〜0.2%含む請求項1に記載の鍛造用鋼。
  3. 更に他の元素として、
    Ti:0.05%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の鍛造用鋼。
  4. 更に他の元素として、
    Cu:1.0%以下(0%を含まない)を含む請求項1〜3のいずれかに記載の鍛造用鋼。
  5. 鋼中に存在する最大介在物の円相当直径が100μm未満である請求項1〜4のいずれかに記載の鍛造用鋼。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の鍛造用鋼を用いて製造されたものである鍛造品。
  7. クランク軸である請求項6に記載の鍛造品。
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