JP4347579B2 - 鍛造用鋼およびこれを用いて得られる鍛造品 - Google Patents

鍛造用鋼およびこれを用いて得られる鍛造品 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鍛造用鋼およびこれを用いて得られる鍛造品に関するものであり、特に、鋼材中に存在する介在物を微細化させた鍛造用鋼、およびこれを用いて得られる鍛造品に関するものである。本発明の鍛造用鋼を用いて製造される鍛造品は、機械、船舶、電機等の産業分野で広く有効に活用されるものであるが、以下では代表的な用途例として、船舶用駆動源の伝達部材として用いられるクランク軸に適用する場合を中心に説明を進める。
【0002】
【従来の技術】
鍛造用鋼を用いて製造される、例えば船舶用駆動源の伝達部材である大型クランク軸には、過酷な使用環境下でも疲労破壊を生じ難い、優れた疲労特性が要求される。
【0003】
クランク軸の疲労特性を向上させる方法として、非特許文献1には、加工面での技術を駆使して疲労特性を高めたことが示されており、具体的には、RR(Roederer Ruget)法を採用することにより、自由鍛造法で製造したクランク軸より疲労特性を著しく向上させたことや、冷間ロール加工を施して疲労強度を向上させたことなどが示されている。
【0004】
また、非特許文献2では、船舶用クランク軸に採用される低合金鋼の疲労特性向上について検討されており、▲1▼介在物は疲労破壊の起点となりやすく、鋼の高強度化に伴いその傾向が顕著となること、▲2▼介在物サイズが大きいほど疲労強度は低下すること、▲3▼伸長した介在物を含む鋼材は疲労強度の異方性が表れやすいこと、などが示されている。そして、鍛造材の疲労特性を向上させるには、介在物形状を球状とし、寸法を小さくすることが有効である旨結論付けられている。
【0005】
しかしながら上記報告には、介在物形状を球状化し、かつ寸法を小さくするための具体的な手段まで示されておらず、制御すべき介在物の種類やサイズ等も明らかにされていない。従って、疲労特性の向上に有効な、介在物の形態制御を具現化するには、更なる検討を要すると考えられる。
【0006】
ところで、鋼中介在物の形態制御法としては、これまで様々な方法が提案されており、例えば特許文献1には、耐ラメラテイア性と耐水素誘起割れ性の優れた構造用低合金鋼を得るための手段として、硫化物と酸化物をともに減少させ、かつ介在物の形態をコントロールする方法が提案されている。具体的には、耐ラメラテイア性や耐水素誘起割れ性を阻害するMn硫化物の生成を抑制するには、S量およびO量を低減し、かつCaやMgを添加すればよいことが提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、Mg、Ca添加により、熱間圧延により伸び易いMnSやクラスター状につらなるAl23系介在物の生成を抑制し、形状を変えて微細化を図るなどの介在物の形態制御を行うことが示されている。
【0008】
特許文献3や特許文献4には、酸化物系介在物を超微細化することで、歯車材としての面疲労強度や歯曲げ疲労強度を高めることが示されており、具体的には、酸化物系介在物として、凝集合体し難いMgOやMgO・Al23を生成させることを提案している。また、硫化物であるMnSの一部を(Mn・Mg)Sとすれば、介在物の延伸性が抑制され、機械的強度の異方性が低減することを明らかにしている。
【0009】
特許文献5には、被削性に優れた機械構造用鋼を得るべく、硫化物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Ca、Mg、Mn)Sを存在させたことが示されており、特に、REM、CaおよびMgを含有させて硫化物の形態を制御すれば、機械的性質の異方性が抑えられるとともに、S含有快削鋼よりも被削性が高められることを明らかにしている。
【0010】
しかし、これら介在物の形態制御技術は、船舶用駆動源の伝達部材等の如く過酷な環境下で使用される鍛造品を対象とするものでない。従って、鍛造品の疲労特性を高めるべく、鍛造品の製造に用いる鍛造用鋼を対象に、独自の介在物制御方法を検討して確立することが求められている。
【0011】
【非特許文献1】
「クランク軸の進歩改善」,日本船舶用機関学会誌,昭和48年10月,第8巻, 第10号,p.54−59
【非特許文献2】
「高強度クランク軸材の疲労強度特性に関する研究」,Journal of the JIME,平成13年,vol.36,No.6,p.385−390
【特許文献1】
特公昭58−35255号公報 (第2頁左欄)
【特許文献2】
特公昭57−59295号公報 (第2頁左欄)
【特許文献3】
特開平7−188853号公報 (段落番号[0008],[0009])
【特許文献4】
特開平7−238342号公報 (段落番号[0005])
【特許文献5】
特開平12−87179号公報 (段落番号[0013], [0014])
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた疲労特性の鍛造品を得るための介在物の微細化された鍛造用鋼を提供し、更には、この様な鍛造用鋼を用いて得られる、良好な疲労特性を発揮しうる介在物の微細化された鍛造品(特に、一体型クランク軸)を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る鍛造用鋼とは、
S:0.007%(以下、%は「質量%」を示す)以下(0%を含まない)、
Ca:5ppm(以下、ppmは「質量ppm」を示す)以上、
Mg:5ppm〜0.006%、
Al:0.015〜0.04%、
O:15ppm以下(0ppmを含まない)
を満たし、かつ下記式(1)を満足するところに特徴を有するものである。
【0014】
35×[Ca]≦40×[Mg]+1200 …(1)
{式(1)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示す}
鍛造用鋼や鍛造品として一般に優れた強度や靭性等を確保するには、下記成分組成を満たすようにするのがよい。
【0015】
C :1.0%以下(0%を含まない)、
Si:0.6%以下(0%を含まない)、
Mn:1.5%以下(0%を含まない)、
Ni:4%以下(0%を含まない)、
Cr:12%以下(0%を含まない)、
Mo:1.5%以下(0%を含まない)、
V :0.3%以下(0%を含まない)。
【0016】
また本発明の鍛造用鋼は、更に下記式(2)を満たし、かつ、鋼中に存在する硫化物系介在物が実質的にMnを含有しないものであることを、好ましい形態とする。
【0017】
[Mg]+[Ca]≧(4/3)×[S] …(2)
{式(2)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示し、[S]はS含有量(質量ppm)を示す}
更に本発明の鍛造用鋼は、長径が5μm以上の硫化物系介在物の全個数に占めるCa含有硫化物の割合が、半分以上であることを好ましい形態とする。
【0018】
尚、上記「実質的にMnを含有しない」とは、後述するEDS(Energy Dispersive Xray Spectrometer)で介在物の構成元素を定量したときに、Mn量が5質量%以下であることをいうものとする。また上記各元素量は、各元素の固溶量および析出量の合計であるTotal量を示すものとする。
【0019】
本発明は上記鍛造用鋼を用いて製造された鍛造品も含み、特に、本発明の鍛造用鋼を用いて製造される一体型クランク軸は、優れた疲労特性を発揮する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前述した様な状況のもと、過酷な環境下で使用される鍛造品の疲労特性を高めることを最終目標に、鍛造用鋼中に存在する介在物の微細化に焦点を絞って、制御すべき介在物の種類やサイズについて様々な角度から検討を進めた。
【0021】
その結果、酸化物系と硫化物系の介在物について、従来技術とは異なる観点からの介在物制御が必要であることを見出した。そして、より効果的な介在物制御を具現化すべく更に検討を重ねた結果、鋼材の好適な成分組成を見出し、以下に詳細する如く、上記本発明に想到した。
【0022】
一般に、鋼中の酸化物系介在物であるAl23は凝集して巨大化し易く、また硫化物系介在物であるMnSは容易に変形し易く、展伸されたMnSは、機械的特性の偏りを生じさせる原因になることが確認されている。
【0023】
ところで、介在物の形態を制御する方法として、酸化物を析出核とし、硫化物を該酸化物周辺に析出させる方法が知られている。ところが巨大化し易いAl23を核として、その周囲にMnSを析出させると、たとえば図1(a)に示す通り、介在物が著しく巨大化して疲労破壊の起点となり易く、かつ加工時に展伸されて疲労特性の異方性が顕著となる。
【0024】
そこで本発明者らは、前掲の従来技術を活かし、介在物の核となる酸化物として凝集し難い酸化物:MgO,MgO・Al23を生成させ、MnSより変形し難い(Mg、Ca、Mn)Sを該酸化物の周囲に析出させたところ、図1(b)に略示するとおり、図1(a)に示すものより球状化および微細化の進んだ介在物が得られた。
【0025】
しかしながら、前記図1(b)に示す様な介在物形態制御を行った場合でも、本発明者らが意図するサイズまで必ずしも微細化せず、クランク軸等の鍛造品に要求される高レベルの疲労特性を確保するのは困難であると判明した。
【0026】
そこで本発明者らは、更なる検討を重ねた結果、特に、
(i)単独硫化物、または酸化物との複合介在物(以下、これらを「硫化物系介在物」と総称する)を形成する硫化物が、Ca主成分で、Mn量を低減したものであることが有効であり、特に、CaSが硫化物の中で最も微細であるので、硫化物としてCaSを多く形成させればよいことがわかった。
【0027】
(ii)単独酸化物、または前記複合介在物の核を形成する酸化物としては、凝集し難いMgOやMgO・Al23を生成させる必要があり、凝集し易いAl23や、特に粗大な介在物となり易いCaO・Al23の生成を極力抑制すべきであることがわかった。
【0028】
以下、上記(i)(ii)の介在物制御を具体的に実現するための手段について述べる。
【0029】
(1)上記(i)を達成するための具体的手段
Mn以外に硫化物を形成しやすい元素であるCaとMgについて鋼中含有量を変化させ、該Ca量とMg量の介在物サイズへの影響を調べた。その結果を図2に示す。尚、図2の各記号に付記した数字は、最大介在物の長径を示す。
【0030】
図2から、Ca量と最大介在物の粒径の関係について相関がみられ、鋼中Ca量を増加させることによって、最大介在物の粒径を小さくでき疲労特性の飛躍的な向上を望めることがわかる。最大介在物の粒径を110μm以下に抑えるには、図2から鋼中Ca量を8ppm以上とする必要がある。好ましくはCa量を10ppm以上、より好ましくは15ppm以上含有させるのがよい。
【0031】
この様に硫化物制御を行って、長径が5μm以上の硫化物系介在物の全個数に占めるCa含有硫化物の割合を半分以上とすれば、介在物の微細化を確実に達成でき、優れた疲労特性を発揮させることができる。好ましくはCa含有硫化物が硫化物系介在物の全個数の60%以上、より好ましくは80%以上占めるようにする。
【0032】
一方、Ca量が過剰になると、巨大な酸化物であるCaO・Al23が生成し易くなるので、Ca量は80ppm以下に抑えるのがよく、より好ましくは60ppm以下である。
【0033】
またCa量を増加させて、相対的にMn量を低減させることが有効であると分かった。図3は、成分組成や各成分の添加順序等を変化させて製造した各鋼材中の、介在物のMn濃度と該介在物の面積(後述する実施例と同様にEPMAによるサイズ測定で求めた値)の関係を示したものであり、図4は、同鋼材の介在物の(Ca+Mg)濃度と前記介在物の面積との関係を示したものである。
【0034】
これら図3および図4から、介在物中のCa量とMg量を増加させて、Mn量を極力低減することが介在物の微細化に有効であることがわかる。好ましくは、介在物中のMn量を40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは実質的にMnを含まない硫化物とするのがよく、最も好ましくは硫化物としてCaSのみを形成するのがよい。
【0035】
尚、この様に実質的にMnを含まない硫化物を析出させるにあたり、様々な観点から検討を行ったところ、図5に示す様な結果を得た。
【0036】
図5は、(Ca+Mg)量とS量との関係を示したものであり、図5中の記号に付記した数値は最大介在物の長径を示し、併せて硫化物系介在物の組成を併記している。
【0037】
この実験結果から、最大介在物の微細化を図るには、延伸し易いMnSを形成するMnを含有させないようにすることが大変有効であり、図5から、硫化物としてMnを含まない硫化物を形成するには、図5の境界線(実線)を示す下記式(2)を満たすようMgとCaを含有させればよいことがわかった。
【0038】
[Mg]+[Ca]≧(4/3)×[S] …(2)
{式(2)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示し、[S]はS含有量(質量ppm)を示す}
更に、鋼中のS量を0.007%以下に低減すれば、Mn含有硫化物の形成を有効に抑制できることも確認された。S量は、好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.003%以下とするのがよい。
【0039】
(2)上記(ii)を達成するための具体的手段
次に本発明者らは、凝集して巨大化し易いAl23や、特に粗大な介在物となりやすいCaO・Al23の生成を抑制し、酸化物としてMgOやMgO・Al23主体の酸化物を形成させるため、様々な観点から検討を行ったところ、図6に示す結果を得た。
【0040】
図6は、Mg量とCa量を変化させて溶製した鋼材中の酸化物系介在物の成分組成を調べたものである。実験には、Mg量、Ca量、Al量および酸素量を変化させた鋼材を用い、該鋼材の中心部位から試料を採取し、介在物のサイズ・組成を測定した。尚、図6中の記号に付記した数字は、各鋼材における最大介在物の長径を示す。
【0041】
この図6より、巨大化し易いAl23やCaO・Al23の生成を抑制するには、Mgを5ppm以上含有させ、かつ、下記式(1)を満たすようCaおよびMg量を調整すればよいことがわかる。
【0042】
35×[Ca]≦40×[Mg]+1200 …(1)
{式(1)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示す}
但し、Mgの過剰な添加は、コストアップを招くので、その上限を0.006%とする必要がある。好ましくは0.005%以下であり、より好ましくは0.0045%以下である。
【0043】
(3)本発明では、上記の通りCa含有介在物としてCaSを形成するのがよく、また、Mg含有介在物としてMgOやMgO・Al23といった酸化物を形成させるのがよいが、この様に選択的に介在物を形成させるには、鋼中の溶存酸素を減少させてAl23やCaO・Al23といった巨大な酸化物の生成を抑制することが重要である。そこで本発明では、鍛造用鋼のTotal O(酸素)量を15ppm以下に抑え、Al23やCaO・Al23の如き粗大化しやすい酸化物の生成を確実に抑制し、かつ、この様に溶存酸素を減少させてからMgやCaを添加すれば、適切な介在物形態に制御できることがわかった。好ましくはTotal O(酸素)量を10ppm以下、より好ましくは5ppm以下に抑える。
【0044】
溶存酸素を十分に減少させるには、Alを0.015%以上となるよう含有させて溶製時に脱酸を十分に進めることが大変有効である。好ましくは0.02%以上となるようAlを含有させる。一方、Alが過剰になると、鋼材の機械的性質に悪影響を及ぼすばかりでなく、却ってAl23やCaO・Al23が形成しやすくなる。従ってAl量は、0.04%以下に抑えるべきであり、好ましくは0.035%以下である。
【0045】
本発明は、この様に介在物の微細化を図るべく、上記各元素の含有量を制御したところに特徴を有しており、鍛造用鋼の基本組成は特に制限されないが、例えばクランク軸等として求められる強度や靭性、更には本発明で最終目標とする疲労特性向上を確実なものとするには、鋼材が下記基本組成を満たすことが望ましい。
【0046】
C:1.0%以下(0%を含まない)
Cは、共に強度向上に寄与する元素であり、十分な強度を確保するには、0.3%以上、より好ましくは0.36%以上、更に好ましくは0.38%以上含有させるのがよい。しかし多過ぎると靭性を劣化させるので、1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.45%以下に抑える。
【0047】
Si:0.6%以下(0%を含まない)
Siは強度向上元素として作用し、十分な強度を確保するには0.1%以上、より好ましくは0.15%以上、更に好ましくは0.20%以上含有させるのがよいが、多過ぎると逆V偏析が著しくなって清浄な鋼塊が得られ難くなるので、0.6%以下、より好ましくは0.4%以下に抑えるのがよい。
【0048】
Mn:1.5%以下(0%を含まない)
Mnも焼入れ性を高めると共に強度向上に寄与する元素であり、十分な強度と焼入れ性を確保するには0.7%以上、より好ましくは0.8%以上、更に好ましくは0.9%以上含有するものが望ましいが、多過ぎると逆V偏析を助長するので、1.5%以下、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1.1%以下に抑えるのがよい。
【0049】
Ni:4%以下(0%を含まない)
Niは、靭性向上元素として有用な元素であるが、Ni量が過剰になるとコストアップとなるので、4%以下、好ましくは2%以下に抑えるのがよい。
【0050】
Cr:12%以下(0%を含まない)
Crは焼入れ性を高めると共に靭性を向上させる有効な元素であり、それらの作用は1.2%以上、好ましくは1.5%以上、更に好ましくは1.75%以上含有させることによって有効に発揮される。しかし多過ぎると逆V偏析を助長して高清浄鋼の製造を困難にするので、12%以下、より好ましくは4%以下に抑えるのがよい。
【0051】
Mo:1.5%以下(0%を含まない)
Moは、焼入れ性、強度、靭性の全ての向上に有効に作用する元素であり、それらの作用を有効に発揮させるには0.1%以上、より好ましくは0.15%以上、更に好ましくは0.20%以上含有させることが望ましい。しかし、Moは平衡分配係数が小さくミクロ偏析(正常偏析)を生じ易くするので、1.5%以下に抑えるのがよい。
【0052】
V:0.3%以下(0%を含まない)
Vは、析出強化及び組織微細化効果があり、高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、Vを0.05%以上含有させることが推奨される。但し、過剰に含有させても上記効果は飽和してしまい、経済的に無駄であるので、0.3%以下、より好ましくは0.15%以下に抑えるのがよい。
【0053】
本発明で使用される鍛造用鋼の好ましい基本成分は上記の通りであり、残部成分は実質的にFeであるが、該鍛造用鋼中には微量の不可避不純物の含有が許容されることは勿論のこと、前記本発明の作用に悪影響を与えない範囲で更に他の元素を積極的に含有させた鍛造用鋼を使用することも可能である。積極添加が許容される他の元素の例としては、焼入れ性改善効果を有するB、脱酸効果を有するTi、固溶強化元素または析出強化元素であるW,Nb,Ta,Cu,Ce,Zr,Teなどが挙げられ、それらは単独で或いは2種以上を複合添加できるが、合計量で0.1%程度以下に抑えることが望ましい。
【0054】
また本発明は、該鍛造用鋼を用いて得られる鍛造品も包含するものであるが、その製造方法は特に制限されず、例えば、電気炉などで所定成分組成の鋼を溶製する工程→真空精錬などによりSなどの不純元素やOなどのガス成分を除去する工程→造塊する工程→鋼塊を加熱してから素材鍛造を行う工程→中間検査の後加熱して製品形状に鍛造する工程→熱処理により均質化すると共に焼入れ処理して硬質化する工程→仕上げ機械加工を行う工程、を順次実施すればよい。
【0055】
特に、鍛造品としてクランク軸を製造する場合、一体型クランク軸として製造すれば、シャフト表層側を清浄度の高い部分で占めさせることができ、強度や疲労特性に優れたものが得られるので好ましい。この場合、一体型クランク軸の製造方法は特に限定されないが、好ましいのはR.R.およびT.R.鍛造法(鋼塊の軸心がクランク軸の軸心部となる様に鍛造加工し、中心偏析により特性の劣化を起こし易い部分をクランク軸の全ての軸心部となる様に一体に鍛造加工する方法)といった方法で製造することである。
【0056】
尚、その他の鍛造加工法として、自由鍛造法(クランクアームとクランクピンを一体としたブロックとして鍛造し、ガス切断および機械加工によってクランク軸形状に仕上げる方法)などで製造してもよい。
【0057】
また本発明の鍛造用鋼は、介在物を極微細化することによって優れた疲労特性を発揮するので、クランク軸以外にも、船舶用の中間軸、推進軸、組立て型クランク軸のスロー、圧力容器、中空素材といった高強度製品などを鍛造成形するための素材としても有効に活用できる。
【0058】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0059】
実施例
高周波溶解炉を使用し、表1に示す化学成分の鋼材を溶製した。溶製の際には、AlやCa、Mgを添加して含有量を調整したが、その際添加する順序は、表2に示す通りとした。溶製した後に鋳造して、表1および表2のNo.1〜11では直径310mm×高さ260mm(押湯除く)の鋼塊(150kg)を得た。またNo.12および13では2.5トンの鋼塊を得た。その後、150kg鋼塊については熱間鍛造を施して直径40mmの鍛造材に仕上げ、2.5トン鋼塊については熱間鍛造を施して直径240mmの鍛造材に仕上げ、各鍛造材中の介在物の組成・サイズを以下のようにして調べた。
【0060】
【表1】
Figure 0004347579
【0061】
<光学顕微鏡による介在物サイズの測定>
前記直径40mmの鍛造材または直径240mmの鍛造材の中心部位から試料を採取し、樹脂に埋め込んで鏡面研磨処理を施した後、400倍の倍率で写真撮影を行った。各試料について、約20mm×20mmの観察視野内の最大介在物を特定し、該最大介在物の長径および短径を測定して、該最大介在物の面積を楕円換算して求めた。さらに最大介在物の長径および短径からアスペクト比:(長径/短径)を求めた。これらの結果を表2に併記する。
【0062】
【表2】
Figure 0004347579
【0063】
表2より、本発明で規定の成分組成を満たすNo.5,7,10,13では、最大介在物のサイズが110μm2を超えておらず、介在物の微細化が達成されている。これらの鍛造用鋼を用いて得られる鍛造品は、優れた疲労特性を発揮することが期待される。
【0064】
これに対し、本発明で定める成分組成を満たさないNo.1〜4,6,8,9,11,12では、110μm2を超える巨大な介在物が観察された。特に、No.1,7,9,12でアスペクト比の高い延伸し易い介在物が確認された。この様な鍛造用鋼を用いて得られた鍛造品では、該巨大介在物を起点に疲労破壊が生じ易く、本発明で意図するような優れた疲労特性は望めない。
【0065】
<EPMAによる介在物のサイズ測定と成分組成分析>
前記光学顕微鏡観察で用いたのと同様に試料を作製し、EPMAで介在物の成分組成を調べた。即ち、EPMA(日本電子株式会社製 JXA-8900RL)に付設のEDS(Energy Dispersive Xray Spectrometer:特性X線のエネルギー分散型X線分光器 日本電子株式会社製 XM-Z0043T)を用い、電子線の照射条件を、加速電圧:15kV、ビーム電流:1.70×10-9A、ビーム径:1μmとして介在物の重心点の1点を定量分析した。分析時間(ビームを当てる時間)は、1点につき10秒、デッドタイムは20%(アナライザーの時定数は20μsec)を目安とした。1mm×1mmの視野の反射電子像を倍率100倍で観察し、定量分析は、長径が5μm以上の介在物であって、Mnが5%以上、その他の元素が1%以上であるものを対象に行った。
【0066】
この様に介在物の組成を決定して分類を行い、介在物の種類別に析出個数を求めた。本発明で対象とする介在物には、単独元素または複数元素からなる硫化物(硫化物系介在物)と、単独元素または複数元素からなる酸化物(酸化物系介在物)と、該酸化物と硫化物の複合介在物が挙げられるが、複合介在物と判断される介在物は、表層を形成する硫化物の種類により分類し、硫化物系介在物とみなしてカウントした。更に、介在物の分類結果から、全硫化物系介在物のうちCaを含む硫化物の占める割合を算出した。また、各試料の10mm×10mmの観察視野内で確認された最大介在物について、成分組成を上記方法で調べた。これらの結果を表3に示す。
【0067】
【表3】
Figure 0004347579
【0068】
表3から次のように考察することができる(以下のNo.は表3における実験No.を示す)。
【0069】
No.5,7,10,13は、上述の通り本発明で規定する要件を満たすため、この様な鍛造用鋼を用いて得られた鍛造品には、優れた疲労特性の発揮を期待することができる。
【0070】
これに対し、No.1〜4,6,8,9,11,12は、本発明で規定する要件を満足するものでなく、好ましくない介在物が形成された。即ち、No.1では、展伸しやすい介在物であるMnSが形成された。また、No.2、11では、粗大な介在物であるCaO・Al23が最大介在物として確認された。No.3、4、6、8では、Caを含有していない介在物が最大介在物として確認され、No.9では、粗大な介在物を形成しやすいAl23が最大介在物として析出した。従ってこの様な鍛造用鋼を用いて得られた鍛造品には、優れた疲労特性を望むことができない。
【0071】
次に、No.12および13の鍛造材を用い下記条件で疲労試験を行った。その結果を表4に示す。
【0072】
試験片:直径10mm平滑試験片
試験方法:回転曲げ疲労試験(応力比=−1,回転数:3600rpm)
疲労強度評価方法:階差法
階差応力:20MPa
初期応力:360MPa(No.12)、420MPa(No.13)
試験片本数:各4本
各試験片の疲労強度=(破断応力)−(階差応力)
【0073】
【表4】
Figure 0004347579
【0074】
表4の結果から、No.13は本発明で規定された要件を満たすものであるため、実材サイズの鋼材に適用した場合であっても、疲労特性に優れていることがわかる。これに対し、No.12は本発明の要件を外れるものであり、疲労特性に劣っていることがわかる。鋼塊のサイズが大きくなれば、介在物のサイズもそれに比例して大きくなると考えられ、実際のクランク軸規模(40トン程度)の鋼塊における介在物サイズは、本実施例で用いた2.5トン鋼塊中の介在物サイズより大きいことが予測されるが、この様な場合であっても、上記のような傾向が認められるものと考えられる。
【0075】
【発明の効果】
本発明は上記のように構成されており、鋼材の成分組成を調整することによって、形成される介在物の形態を制御することができ、介在物の微細化された鍛造用鋼を提供し得ることになった。この様な鍛造用鋼を用いて得られる鍛造品は、優れた疲労特性を期待することができ、特に船舶で用いられるクランク軸等の大型鍛造製品として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】介在物の形態制御状態を模式的に示した図である。
【図2】鋼中Ca量とMg量が、介在物サイズに与える影響を調べたグラフである。
【図3】介在物中のMn濃度と介在物サイズの関係を調べたグラフである。
【図4】介在物中の(Ca+Mg)濃度と介在物サイズの関係を調べたグラフである。
【図5】鋼中(Ca+Mg)量とS量の関係が、介在物サイズおよび介在物中のMn有無に与える影響を調べたグラフである。
【図6】鋼中Ca量とMg量の関係が、形成される酸化物系介在物の種類およびサイズに与える影響を調べたグラフである。

Claims (4)

  1. S:0.003%(以下、%は「質量%」を示す)以下(0%を含まない)、
    Ca:ppm(以下、ppmは「質量ppm」を示す)以上、
    Mg:5ppm〜0.006%、
    Al:0.015〜0.04%、
    O:15ppm以下(0ppmを含まない)
    を満たすと共に、
    C :1.0%以下(0%を含まない)、
    Si:0.6%以下(0%を含まない)、
    Mn:1.5%以下(0%を含まない)、
    Ni:4%以下(0%を含まない)、
    Cr:12%以下(0%を含まない)、
    Mo:1.5%以下(0%を含まない)、
    V :0.3%以下(0%を含まない)
    を満たし、
    かつ下記式(1)および下記式(2)を満たし、更に鋼中に存在する硫化物系介在物は、Mn量が5質量%以下であることを特徴とする鍛造用鋼。
    35×[Ca]≦40×[Mg]+1200 …(1)
    {式(1)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示す}
    [Mg]+[Ca]≧(4/3)×[S] …(2)
    {式(2)中、[Ca]はCa含有量(質量ppm)を示し、[Mg]はMg含有量(質量ppm)を示し、[S]はS含有量(質量ppm)を示す}
  2. 長径が5μm以上の硫化物系介在物の全個数に占めるCa含有硫化物の割合が、半分以上である請求項1に記載の鍛造用鋼。
  3. 請求項1または2に記載の鍛造用鋼を用いて製造された鍛造品。
  4. 一体型クランク軸である請求項に記載の鍛造品。
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