JP3558889B2 - 被削性に優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は機械構造用炭素鋼や機械構造用合金鋼を対象とし、機械的性質の異方性が小さく、かつ広範な切削方法や切削条件における被削性の優れた熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼に関するものであり、切削加工時の工具費低減および生産性の向上を得ることを可能とする。
【0002】
【従来の技術】
近年の切削加工の高速化、自動化の発展に伴って、機械構造用部品に使用される鋼材の被削性が重要視されるようになり、被削性を改善した鋼いわゆる快削鋼の需要が高まっている。しかも、鋼材の必要強度は厳しくなりつつあり、鋼材を高強度化した場合には被削性は劣化する。すなわち鋼材の高強度化と被削性という相反する特性の改善が要求されている。現在、一般的に使用されている快削鋼として、Pb、S、Caを含有させた鋼材がある。しかし、これらの快削鋼は切削加工方法の種類によっては全く快削性を示さなかったり、あるいは材質劣化の問題があったりするため、その用途および快削物質の量は制限されているのが現状である。
【0003】
すなわち、Pb快削鋼は、基本鋼と比較して機械的性質の劣化が小さく、一般の旋削加工において切粉処理性の改善を示し、ドリル加工、タップ加工、リーマ加工、中ぐり加工等の工具寿命の延長、および(穴深さ/ドリル直径)≧3を深穴とした場合の深穴あけ加工時に切粉の排出を容易にし、突発的な切粉つまりによる工具の折損を防止するのに非常に有効な元素である。しかし、旋削時の工具寿命については高速度鋼工具、超硬工具共にPb添加の有効性は小さく、むしろ軽負荷の切削条件領域では通常鋼よりも劣化する傾向が認められる場合もある。さらに、近年の環境問題への関心の高まりから、Pbの有毒性が問題視されており、今後Pbの使用量は削減される方向にある。本発明鋼においても、環境負荷対策としてPbの添加量を減少させるために、Pbと同等の低融点であり、切削時の剪断域において切粉の生成を容易ならしめるBiを併用する。
【0004】
S快削鋼は、比較的広範な切削加工に対して工具寿命を延長させる改善効果を示すが、Pb快削鋼にくらべて切粉処理性は悪く、特に高速切削領域では改善効果は小さく、また、鋼材の強度面では介在物として存在するMnSが熱間圧延あるいは熱間鍛造中に延伸するため、圧延方向から直角方向に近づくにつれて衝撃強度等の機械的性質が低下する(異方性)という問題がある。したがって、衝撃強度が重要とされる部品を対象とした鋼材はS含有量をできるだけ抑える必要があり、その結果十分な被削性が得られない場合がある。
【0005】
また、Ca脱酸により鋼中の酸化物系介在物を低融点化させた従来のCa快削鋼は、鋼材の強度特性にほとんど影響を及ぼさず、高速切削領域の超硬工具寿命に著しい延長効果を示す。しかし、Ca脱酸快削鋼は、超硬工具寿命以外の被削性改善効果がほとんど認められないため、オールラウンドの被削性を得るためにSあるいはPbとの複合で使用される場合が一般的である。
【0006】
従来のCa脱酸快削鋼とは異なり、S快削鋼の欠点である異方性をCa添加によって鋼中の介在物を均一に分散・分布させることから改善し、同時に被削性も向上させた例として特公平5−15777がある。この場合、Ca脱酸快削鋼のような欠点はないが、十分な被削性を得るには多量のSを添加する必要があり、その場合に硫化物を形態制御させるために必要十分な量のCaを鋼材中に含有させることはCa歩留りが低いため量産鋼としての製造は極めて困難である。
【0007】
この場合のCaと同様な効果を狙った例として特公昭52−7405に記載されたMg、Baの第1群元素の1種または2種を0.1%以下とS、Se、Teよりなる第2群元素の1種以上を0.03%〜0.5%含有し、(第1群元素)/(第2群元素)の原子比が0.01以上となる快削鋼が提案されている。しかし、SeとTeは毒性が強く、環境負荷が大きい。また特開昭51−63312があり、工具鋼にZrを添加し、O+Nの量、Zr化合物の硫化物と共存する量を所定の割合にすることにより、快削工具鋼を得ている。これらはMg、Ba、Sr等を使用しているがいずれもCaと同様な問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Ca、Mg、REM(希土類金属)の複合添加から、上述のような各種の問題点を解消し、さらに深穴あけ加工時の良好な切粉処理性を得るために、PbまたはBiを微量添加し、鋼材の強度特性を大きく低下させることなく、広範な切削方法や切削条件において優れた被削性を有し、特に耐超硬工具摩耗性に、および切粉処理性に優れた効果を発揮する機械構造用鋼を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記のように、現在のS快削鋼では鋼中の非金属介在物が熱間圧延または熱間鍛伸方向に延伸した形状で存在するため、被削性を向上させるために多量のSを添加すると鋼材の衝撃異方性が大きくなり、機械構造用鋼としての使用が困難となる。そこで、発明者らはS快削鋼の欠点を改善し、さらにS快削鋼よりも被削性を向上させるため種々検討した結果、上記の課題を解決するための手段として下記に示す機械構造用鋼を発明した。
【0010】
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、硫化物系の介在物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Mg、Mn)Sの1種または2種以上を含有し、さらに(Ca、Mg)S、(Ca、Mg、Mn)Sの1種または2種を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼である。
【0011】
請求項2の発明では、質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.50%から選択した1種または2種以上を含有することから快削挙動を示す良好な熱処理鋼、または非調質鋼を得るものであり、残部Feおよび不可避不純物からなり、硫化物系の介在物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Mg、Mn)Sの1種または2種以上を含有し、さらに(Ca、Mg)S、(Ca、Mg、Mn)Sの1種または2種を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼である。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1または請求項2に記載の鋼の構成成分元素に加えて、質量%で、Bi:0.01〜0.30%、Pb:0.01〜0.30%、REM:0.001〜0.10%から選択した1種または2種以上を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼である。
【0013】
ここに、BiとPbは他の合金元素に比べて低融点元素のために鋼の凝固時に介在物の外郭部に分布する。切削時の剪断域において切削温度によって両者は溶解し、介在物と地金間に空隙が発生した状態と近似する。その結果、この空隙が切欠き効果を起こすことから介在物の変形が容易となり、切粉生成時の剪断変形を促進させる。このことは深穴あけ加工時に安定な切粉を生成し、切粉つまりを防止し、安定した穿孔挙動を得る。REMはCa、Mgと同じように硫化物系介在物の形状を制御し、機械的性質の異方性の劣化を防ぐ。Ca、MgおよびREMの複合添加から機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる機械構造用鋼である。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、CaおよびMgを同時に鋼中に含有させて硫化物を形態制御し、衝撃特性の劣化、特に衝撃異方性を最小限に抑え、CaあるいはMgの硫化物により従来のS快削鋼よりも被削性を大幅に向上させようとするものである。ただし、CaとMgは一方のみを鋼材中に存在させても被削性および機械的性質の異方性の改善効果は小さく、CaとMgを共存させるとそれらを単独に増量添加させた場合から予想される改善効果を大きく上回る。
【0015】
特に、本発明鋼は従来の快削鋼と比較して耐超硬工具摩耗性が非常に良好である。なお、特にドリル深穴あけ性、切粉処理性を向上させるためには、微量なPb、Bi、REMの1種または2種以上を添加し、さらに、必要に応じてS添加量を増量するとよい。
【0016】
次に、本発明における機械構造用鋼の構成成分の限定理由について述べる。
C:0.10〜0.65%、Cは、機械構造用鋼としての強度を確保するための必須元素であり、0.10%以上添加する。しかし、多すぎると硬さ増加から靱性および被削性の劣化を招くため上限を0.65%とする。
【0017】
Si:0.03〜1.00%、Siは、製鋼時の脱酸剤として不可欠であるため下限を0.03%とする。しかし、過剰に添加すると延性を低下させるほか、鋼中に高硬度の介在物であるSiO2を生成させて被削性も劣化させるため上限を1.00%とする。
【0018】
Mn:0.30〜2.50%、Mnは、一般に鋼の強度、靱性、熱間延性、焼入性を確保する上で重要な元素であり、かつ、本発明において、硫化物系介在物生成に不可欠な元素であるため0.30%以上添加する。しかし、多すぎると硬さ増加から被削性が劣化するため上限を2.50%とする。
【0019】
S:0.03〜0.35%、Sは、被削性を改善させる硫化物系介在物の生成元素であり、被削性改善効果を得るためには少なくとも0.03%以上添加する必要があり、Sの増量に伴い被削性は向上する。しかし、多すぎるとCaおよびMgによる硫化物形態制御が困難となり、衝撃異方性が劣化するため、上限を0.35%とする。
【0020】
Al:0.005〜0.060%、Alは、脱酸のために不可欠の元素であり0.005%以上必要であるが、0.060%を超えて含有させてもAl2O3の形成によって被削性を劣化させるため、上限を0.060%とする。
【0021】
Ca:0.0005〜0.020%、Caは、Mn、Mgと共に硫化物の生成元素であり、被削性向上以外にも硫化物形態制御による機械的性質の異方性改善効果がある。その効果を得るためには少なくとも0.0005%以上必要であるが、製鋼段階でのCa歩留りは非常に悪く、必要以上に含有させてもその効果が飽和状態となり、無駄であるためCaの上限を0.020%とする。
【0022】
Mg:0.0005〜0.020%、Mgは、Caと同様の効果を示し、Caと複合で存在させた場合に大きな被削性改善効果および機械的性質の異方性改善効果が得られる。その効果を得るためには少なくとも0.0005%以上必要であるが、必要以上に含有させてもその効果は飽和状態となり無駄であるのでMgの上限を0.020%とする。
【0023】
Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.1〜3.5%、Cr、Mo、Niは、鋼の焼入性および靭性を向上させる元素で、これらの性質をさらに向上させる必要のある場合に添加する。その効果を得るためにCrは0.1%以上、Moは0.05%以上、Niは0.1%以上必要であり、多量に添加した場合には被削材の硬さが増加することから、被削性確保のためにはCrは2.0%以下、Moは1.00% 以下、Niは3.5%以下とする必要がある。
【0024】
V:0.01〜0.50%、Vは、析出強化作用の強い元素であるので、焼入焼戻し処理を省略する場合に添加する。この効果を得るには0.01%以上必要であるが、0.50%を超えて含有させても効果は飽和するので上限を0.50%とする。
【0025】
Bi:0.01〜0.30%、Biは、機械的性質の異方性をほとんど劣化させることなく、切粉処理性および穿孔性を改善するのに有効であるため、そのような特性が特に必要な場合に添加する。この効果を得るには0.01%以上必要であるが、0.30%を超えて含有させても効果は飽和し、またコスト高となるため、上限を0.30%とする。
【0026】
Pb:0.01〜0.30%、Pbは、Biと同様の効果があり、この効果を得るには0.01%以上必要であるが、0.30%を超えて含有させても効果は飽和し、また環境問題も考慮する必要があるため、上限を0.30%とする。
【0027】
REM:0.001〜0.10%、REMは硫化物の形態制御効果が大きいため、Mg、Caの効果を助長させる場合に用いる。つまり、Mg、Caだけで硫化物を形態制御しようとすると、衝撃異方性の点でS含有量にある一定の制限が出きるが、REMをMg、Caと複合添加するとS含有量をさらに増加することがてきるため、その分被削性を向上させることができる。なお、REMは主に、Ce、La、Nd、Pr、Smの混成合金から成るものである。この効果を得るには0.001%以上必要であるが、0.10%を超えて含有させても効果は飽和し、またコスト高となるため、上限を0.10%とする。
本発明において酸化物が被削性を向上させる役割については、工具と切粉間での粘性体潤滑作用、工具刃先被覆作用および一次せん断域での応力集中源としての作用に大別することができる。粘性体潤滑作用および応力集中作用については従来からのMnS快削鋼と同様の効果であるが、本発明鋼中の硫化物は楕円形で存在していることを特徴としており、従来のS快削鋼の硫化物よりも応力集中作用が大きく快削性改善に有利な形状である。また、工具刃先被覆作用も本発明鋼の重要な特徴である。本発明鋼の工具摩耗特性が非常に優れる理由は、X線マイクロアナライザーで調査した結果、工具刃先をMn、Mg、Caの硫化物が被覆するためであることがわかった。
【0028】
【発明の実施の形態】
(1)本願の請求項1の発明を実施するには、質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有する機械構造用鋼を溶製し、熱間圧延あるいは熱間鍛造を行う。このようにして得られた鋼材は、機械的性質の異方性が小さく、かつ広範な切削方法や切削条件における被削性が優れ、特に耐超硬工具摩耗性に優れる。
【0029】
(2)本願の請求項2の発明を実施するには、質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.50%から選択した1種または2種以上を含有する機械構造用鋼を溶製し、熱間圧延あるいは熱間鍛造を行う。このようにして得られた鋼材は、機械的性質の異方性が小さく、かつ広範な切削方法や切削条件における被削性が優れ、特に耐超硬工具摩耗性に優れる。
【0030】
(3)本願の請求項3の発明を実施するには、質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、必要によってはCr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.50%から選択した1種または2種以上を含有し、さらにBi:0.01〜0.30%、Pb:0.01〜0.30%、REM:0.001〜0.10%から選択した1種または2種以上を含有する機械構造用鋼を溶製し、熱間圧延あるいは熱間鍛造を行う。このようにして得られた鋼材は、機械的性質の異方性が小さく、かつ広範な切削方法や切削条件における被削性が優れ、特に耐超硬工具摩耗性に優れ、また深穴あけ加工時の切粉処理性に優れる。
【0031】
以下、本発明の実施例について説明する。成分組成が表1からなる本発明鋼と比較鋼(従来鋼を含む)を30kg真空溶解炉にて溶製し、1200℃でφ40mmおよびφ60mmへ鍛伸した。φ40mm材の、A〜F鋼、およびI〜N鋼については1200℃で30分間保持した後、空冷処理を行い、被削性試験、引張試験、鍛伸方向(以下、「L方向」と示す。)の衝撃試験に用いた。また、φ60mm材は1200℃で40×70mm角材に鍛伸し、そのA〜F鋼、およびI〜N鋼については1200℃で30分間保持した後、空冷処理を行い、鍛伸方向とは直角の方向(以下、「T方向」と示す。)の衝撃試験に用いた。
【0032】
【表1】
【0033】
被削性試験方法と切削条件を表2に示す。なお、引張試験片はJIS4号試験片を、衝撃試験片はJIS3号試験片を用いた。表2におけるドリル深穴あけ性の評価基準の安定穿孔深さは図1に示す安定穿孔時間1とドリルの送り量から計算して得られる。なお、図1において、符号の1は安定穿孔時間、2は安定トルク、3は安定トルク×2のトルク高さを示し、安定穿孔時間1は穿孔を開始して安定トルクに達してからこの安定トルクの2倍のトルク高さ3に達するまでの時間をいう。この安定穿孔時間1が長いと切粉処理性に優れて深穴を穿孔することができる。
【0034】
【表2】
【0035】
被削性試験結果を表3に、強度試験結果を表4に示す。ここに示すように、本発明鋼は耐超硬工具摩耗性が特に優れており、切粉処理性、ドリル深穴あけ性、ドリル寿命についても、S量の増加あるいはPb、Bi、REMの微量添加により、比較鋼のPb鋼あるいはPb3元快削鋼と同等以上に改善は可能であることが確かめられた。
【0036】
【表3】
【0037】
図2は発明鋼A中の介在物を観察した結果であり、Mn、Mg、SおよびCaが同一介在物内で検出されており、MnS、(Mg、Ca)Sおよび(Mn、Mg、Ca)Sの存在が確認された。また介在物の形状は、一般的にMnSで代表される硫化物は鍛伸後に棒状になるが、今回の発明鋼では球状である。この事実は、機械的性質の試験時に介在物による切欠き効果を減少させて、表4に示すように機械的性質の衝撃異方性が良好となることをもたらす。
【0038】
【表4】
【0039】
図3および図4は、本発明鋼のA鋼の超硬工具摩耗試験を実施し、そのすくい面摩耗部(クレータ摩耗部)での合金元素の分布を観察した結果である。A鋼は0.04%S、0.0037%Ca、0.005 2%Mgを添加した鋼であり、すくい面摩耗部にはMn、S、Ca、Mgが付着しており、MnSと(Ca、Mg)Sの複合効果による潤滑作用から表3に示すように工具摩耗の進行を抑制したものと思われる。比較鋼Nでの合金元素の分布を図5および図6に示す。N鋼は0.051%S、0.0026%Ca、0.11%Pbを添加した従来鋼であり、摩耗部にはCa、Sが、摩耗部端にはPbが付着している。この結果からCaSの潤滑作用から摩耗の進行が抑制されたものと推定できるが、今回の本発明鋼Aにはおよばない。図7および図8に示す0.058%Sを添加した比較鋼Lでは、Sがわずかに工具摩耗部に分布しているが、FeとOが多量に付着している。Feの酸化物は工具内のCoと置換現象を起こして工具の摩耗を促進させる作用があり、今回の試験結果の表3に示すように、工具横逃げ面摩耗幅は大きい。
【0040】
BiとPbを微量添加した発明鋼DとEでは、表3から明らかなようにドリル寿命が飛躍的に向上しているが、これは両元素の低融点挙動により介在物の変形を増長させることと、複合硫化物による工具摩耗の進行阻止効果によるものである。
【0041】
また表4から明らかなように、本発明鋼Aと比較鋼Kの機械的性質を対比させると、A鋼はCaとMgの複合添加によって同一S量レベルの比較鋼Kよりも衝撃異方性が良好であり、従来よりもSの増量が可能になり、工具寿命の向上が達成されることがわかった。
【0042】
表5に本実施例の測定値の評価結果を示す。発明鋼は全ての項目において○であるが、比較鋼は少なくとも1つ以上の項目で×が存在する。
【0043】
【表5】
【0044】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の機械構造用鋼は、被削性に優れ、しかも衝撃異方性をはじめとする機械的性質の劣化が小さいため、従来の機械構造用快削鋼の切削加工方法により全く快削性を示さない添加元素の問題や添加元素による材質劣化の問題などの種々の問題点を解決でき、さらに優れた特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】深穴あけ試験の安定な穿孔深さ試験方法における時間によるトルクの変化を示すグラフである。
【図2】発明鋼A中の介在物の観察結果を示すX線マイクロアナライザー写真である。
【図3】発明鋼Aを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその1である。
【図4】発明鋼Aを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその2である。
【図5】比較鋼Nを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその1である。
【図6】比較鋼Nを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその2である。
【図7】比較鋼Lを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその1である。
【図8】比較鋼Lを切削後の工具すくい面摩耗部における合金元素の分布を示すX線マイクロアナライザー写真のその2である。
【符号の説明】
1 安定穿孔時間
2 安定トルク
3 安定トルク×2のトルク高さ
Claims (3)
- 質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、硫化物系の介在物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Mg、Mn)Sの1種または2種以上を含有し、さらに(Ca、Mg)S、(Ca、Mg、Mn)Sの1種または2種を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼。
- 質量%で、C:0.10〜0.65%、Si:0.03〜1.00%、Mn:0.30〜2.50%、S:0.03〜0.35%、Al:0.005〜0.060%、Ca:0.0005〜0.020%、Mg:0.0005〜0.020%を含有し、Cr:0.1〜2.0%、Mo:0.05〜1.00%、Ni:0.1〜3.5%、V:0.01〜0.50%から選択した1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、硫化物系の介在物としてMnS、CaS、MgS、(Ca、Mn)S、(Mg、Mn)Sの1種または2種以上を含有し、さらに(Ca、Mg)S、(Ca、Mg、Mn)Sの1種または2種を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼。
- 請求項1または請求項2に記載の鋼の構成成分元素に加えて、質量%で、Bi:0.01〜0.30%、Pb:0.01〜0.30%、REM:0.001〜0.10%から選択した1種または2種以上を含有し、機械的性質の異方性が小さく、かつ被削性が優れる熱間鍛造のまま使用される機械構造用鋼。
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