JP2004288489A - 多孔質炭素電極基材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】炭素短繊維が炭素化物で結着されており、かつ、3点曲げ試験における最大荷重が少なくとも0.5Nであって曲げ弾性率が1〜10GPaの範囲内にあり、厚みが0.1〜0.25mmの範囲内にあり、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2以下である多孔質炭素電極基材を、目付が15〜60g/m2の範囲内にある炭素短繊維と目付が13〜150g/m2の範囲内にある熱硬化性樹脂とを含む帯状のシートを、不活性雰囲気に保った加熱炉内を連続的に走行させながら10〜1,000℃/分の範囲内の速度で少なくとも1,200℃まで昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化した後、ロール状に巻き取ることによって得る。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池のガス拡散電極を構成するのに好適な多孔質炭素電極基材に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子型燃料電池(以下、本明細書において特に断らない限り燃料電池という)のガス拡散電極(以下、本明細書において特に断らない限り電極という)には、導電性が高いこと、集電能に優れていること、電極反応に寄与する物質の拡散が良好であること、といった本来的な機能はもちろんのこと、ハンドリングに耐える機械的強度を有していることが要求される。
【0003】
そのような電極を構成する基材としては、通常、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維とフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂とを含む複合シートを焼成し、熱硬化性樹脂を炭素化することによって得られた、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維を炭素化物で結着してなる炭素繊維・炭素複合材料製のものが用いられている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、そのような電極基材は、一般に、3点曲げ試験における曲げ弾性率が十数GPaと高く、ロール状に巻き取るのが極めて難しい。したがって、焼成はバッチ式によっているが、バッチ式でとり得る昇温速度はせいぜい数℃/分程度までであるため、生産性が低く、製造コストが高い。また、昇降温を繰り返し行うことから加熱炉の消耗も激しい。
【0005】
一方、加熱炉内に、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維と熱硬化性樹脂とを含む複合シートを連続的に走行せしめながら焼成する方法も提案されてはいる(たとえば、特許文献2参照)。この方法は、バッチ式にくらべて昇温速度を大きくとることができるうえに、焼成を連続的に行うことから生産性が高い。しかしながら、一方で、熱硬化性樹脂の目付、昇温速度、最高焼成温度等の条件をバランスよく制御しないと、得られる電極基材は、導電性の低いものとなったり、機械的強度の低いものとなったりする。導電性が低いと、それを用いる燃料電池の発電効率は低いものとなる。また、機械的強度が低いと、ハンドリング性に問題がでてくる。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−48182号公報
【0007】
【特許文献2】
WO 01/56103号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来の技術の上述した問題点を解決し、導電性や機械的強度が高く、ハンドリング性にも優れる、燃料電池の電極を構成するのに好適な多孔質炭素電極基材と、そのような多孔質炭素電極基材を高い生産性で製造する方法を提供するにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が炭素化物で結着されており、かつ、3点曲げ試験における最大荷重が少なくとも0.5Nで曲げ弾性率が1〜10GPaの範囲内にあり、厚みが0.1〜0.25mmの範囲内にあり、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2以下であることを特徴とする多孔質炭素電極基材を提供する。
【0010】
炭素短繊維は、平均繊維径が5〜20μmの範囲内にあり、平均繊維長が3〜20mmの範囲内にあるのが好ましい。また、炭素短繊維の目付は15〜60g/m2の範囲内にあるのが好ましく、炭素化物の目付は5〜60g/m2の範囲内にあるのが好ましい。さらに、本発明の電極基材は、空孔率が70〜90%の範囲内にあるのが好ましく、導電性粉末を含んでいるのも好ましい。
【0011】
3点曲げ試験は、JIS K 6911に規定される方法に準拠して行う。このとき、試験片の幅は15mm、長さは40mm、支点間距離は15mmとする。また、支点と圧子の曲率半径は3mm、荷重印加速度は2mm/分とする。なお、最大荷重や曲げ弾性率について電極基材が異方性を有している場合には、曲げ弾性率の最も高い方向を試験片の長さ方向とし、等方性の場合には、後述する方法によって得られる帯状の電極基材の長さ方向を試験片の長さ方向とする。電極基材の最大荷重や曲げ弾性率は、ロール状への巻き取りやすさや、ハンドリング性の良否を示す指標となる。
【0012】
また、厚み方向の電気抵抗は、2.0cm×2.5cmの電極基材を試験片とし、その試験片を金メッキを施したステンレス製の電極で挟み、1.0MPaの加圧下に電極間に1Aの電流を流したときの電圧降下から次式によって求める。
【0013】
R=V×2.0×2.5×1,000
ただし、R:厚み方向の電気抵抗(mΩ・cm2)
V:電圧降下(V)
さらに、電極基材の厚みは、電極基材に0.15MPaの面圧を付与したときの厚みをマイクロメーターを用いて測定することによって求める。
【0014】
炭素短繊維の平均繊維径は、電極基材の5,000倍の電子顕微鏡写真から任意の10本の炭素短繊維を選択してその繊維径を測定し、その単純平均値として求める。横断面の形状が円形でない、たとえば楕円径である場合には、長径と短径の平均値を繊維径とする。
【0015】
また、炭素短繊維の平均繊維長は、電極基材の製造に用いる炭素短繊維シートを大気中にて600℃で加熱し、炭素短繊維を残してそれ以外のバインダ等を焼き飛ばすことによって得られた任意の30本の炭素短繊維について5倍の光学顕微鏡写真を撮影し、写真から各炭素短繊維の長さを測定し、その単純平均値として求める。
【0016】
さらに、炭素短繊維の目付は、電極基材の製造に用いる炭素短繊維シートを大気中にて600℃で加熱し、炭素短繊維を残してそれ以外のバインダ等を焼き飛ばすことによって得られた炭素短繊維の重量から求める。
【0017】
また、炭素化物の目付は、電極基材の目付から上述の方法によって求めた炭素短繊維の目付を差し引くことによって求める。
【0018】
空孔率は、電極基材の真密度と見掛密度とから算出する。真密度の測定は、よく知られた浮遊法やピクノメータ法等によることができる。また、見掛密度は電極基材の厚みと目付とから算出する。
【0019】
本発明は、また、上述した目的を達成するために、目付が15〜60g/m2の範囲内にある、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維と、目付が13〜150g/m2の範囲内にある熱硬化性樹脂とを含む帯状の複合シートを、不活性雰囲気に保たれた加熱炉内を連続的に走行せしめながら10〜1,000℃/分の範囲内の速度で少なくとも1,200℃まで昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化した後、ロール状に巻き取ることを特徴とする多孔質炭素電極基材の製造方法を提供する。800℃までの温度域における昇温速度は、800℃を超える温度域におけるそれよりも低くするのが好ましく、その場合、800℃までの温度域における昇温速度を10〜800℃/分の範囲内とするのが好ましい。また、複合シートを加熱、加圧成形した後に焼成するのも好ましい。
【0020】
昇温速度は、加熱炉入口の温度と、加熱炉内の最高温度と、加熱炉入口から導入されるシートが最高温度域まで移動するのに要する時間(移動時間)とから次式によって求める。ここで、加熱炉入口とは、雰囲気が大気から不活性雰囲気へと切り替わる加熱炉入口側の部位である。
【0021】
V=(T2−T1)/t
ただし、V :昇温速度(℃/分)
T1:加熱炉入口の温度(℃)
T2:加熱炉内の最高温度(℃)
t :移動時間
なお、加熱炉はただ1個である必要はなく、2個以上の加熱炉による多段焼成を行うこともできる。2個の加熱炉を用いる場合には、1段目の加熱炉の昇温速度は上式から求め、2段目の加熱炉の昇温速度は、上式におけるT1を、前段の加熱炉の最高温度、すなわち1段目の加熱炉の最高温度として求める。3個以上の加熱炉を用いる場合にも同様である。
【0022】
本発明の電極基材は、少なくとも片面に、導電性を有するガス拡散層を形成してガス拡散電極とすることができる。また、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に、ガス拡散電極をガス拡散層側において接合することによって固体高分子型燃料電池ユニットを構成することができる。さらに、その燃料電池ユニットの複数個を積層することによって固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明の多孔質炭素電極基材をその製造方法とともに詳細に説明するに、本発明においては、まず、目付が15〜60g/m2の範囲内にある、炭素短繊維が実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維シートを準備する。
【0024】
炭素短繊維を構成する炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、レーヨン系等の炭素繊維を用いることができる。なかでも、機械的強度に優れ、しかも、適度な柔軟性を有する電極基材が得られることから、PAN系やピッチ系、特にPAN系の炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0025】
そのような炭素繊維は、平均繊維径(単繊維の平均繊維径)が5〜20μmの範囲内にあるものを選択するのが好ましい。平均繊維径が5μm未満のものを用いると、炭素繊維の種類等にもよるが、得られる電極基材の柔軟性が低下することがある。また、平均繊維径が20μmを超えるようなものを用いると、得られる電極基材の機械的強度が低下することがある。より好ましい平均繊維径の範囲は6〜13μmであり、さらに好ましい範囲は6〜10μmである。
【0026】
炭素短繊維は、上述した炭素繊維をカットすることによって得るが、そのとき、平均繊維長が3〜20mmの範囲内になるようにするのが好ましい。平均繊維長が3mm未満のものを用いると、得られる電極基材の、曲げに対する最大荷重や弾性率等の機械的特性が低下することがある。また、平均繊維長が20mmを超えるようなものを用いると、後述する抄造時における分散性が悪くなり、得られる電極基材における炭素短繊維の目付のばらつきが大きくなって品質が悪くなることがある。より好ましい平均繊維長の範囲は4〜17mmであり、さらに好ましい範囲は5〜15mmである。
【0027】
炭素短繊維シートは、乾式抄造法によって得ることもできるが、水を抄造媒体とする湿式抄造法によるのが簡便であり、しかも、炭素短繊維の分散性のよい均質なシートが得られるので好ましい。乾式抄造法、湿式抄造法のいずれによっても、帯状のシートを得ることができる。なお、形態保持性やハンドリング性等を向上させるために必要であれば、炭素短繊維シートに、1〜30重量%程度の範囲内において、ポリビニルアルコール、セルロース、ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等の有機質バインダを付与してもよい。
【0028】
炭素短繊維シートの製造にあたっては、炭素短繊維の目付が15〜60g/m2の範囲内になるようにするのが好ましい。目付が15g/m2未満では、得られる電極基材の機械的強度が不足することがある。また、60g/m2を超えると、得られる電極基材の剛性が高くなり、柔軟性が損なわれることがある。一方、炭素短繊維の目付は、後述する熱硬化性樹脂の目付とともに得られる電極基材の空孔率を決める。空孔率70〜90%という好ましい空孔率を達成するためにも、炭素短繊維の目付は上述の範囲内にするのがよい。より好ましい目付の範囲は17〜50g/m2であり、さらに好ましい範囲は20〜40g/m2である。
【0029】
さて、本発明においては、得られた炭素短繊維シートに、焼成により炭素化し、炭素短繊維同士を結着する熱硬化性樹脂を含浸し、複合シートを得る。
【0030】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。これらの少なくとも1種を含む混合樹脂であってもよい。なかでも、炭素化収率の高いフェノール樹脂を用いるのが好ましい。
【0031】
炭素短繊維シートと熱硬化性樹脂との複合シートを、焼成の前に加熱、加圧して成形しておくのも好ましい。この成形により、厚みや空孔率をより適切化できる。温度は、100〜250℃、好ましくは120〜200℃、さらに好ましくは140〜180℃とする。加圧力は、0.01〜2MPa、好ましくは0.05〜1.5MPa、さらに好ましくは0.1〜1MPaとする。
【0032】
ところで、本発明のような連続焼成においては、昇温速度が速いため、バッチ式による場合にくらべて得られる電極基材にナトリウムやカルシウム等の金属が残留しやすい。これらの金属のイオンは、固体高分子電解質のプロトン伝導性の低下を引き起こす。したがって、フェノール樹脂を用いる場合でも、金属を含まない触媒を用いて製造されたものを選択するのが好ましい。そのようなフェノール樹脂としては、アンモニアレゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂等がある。なお、電極基材に含まれるナトリウムやカルシウムの量は、蛍光X線分析法によって測定することができるが、ナトリウムの量は、2,000ppm以下、好ましくは1,000ppm以下、さらに好ましく500ppm以下になるようにするのがよい。また、カルシウムの量は、100ppm以下、好ましくは70ppm以下、さらに好ましくは50ppm以下となるようにするのがよい。そうすることにより、固体高分子電解質のプロトン伝導性の低下を抑制することができるようになる。
【0033】
熱硬化性樹脂には、得られる電極基材の導電性等の電気的特性をより向上させるために、1〜30重量%程度の範囲で、カーボンブラック、黒鉛粉、膨張黒鉛、炭素質ミルド繊維等の導電性粉末を混入するのも好ましい。なかでも、カーボンブラックや黒鉛粉を用いるのが好ましい。最も好ましいのは黒鉛粉である。
【0034】
上述した熱硬化性樹脂は、炭素短繊維シートに、目付が13〜150g/m2範囲内になるように含浸する。熱硬化性樹脂の目付は、得られる電極基材における、炭素短繊維同士を結着している炭素化物の目付に関連する。この炭素化物の目付は、あまり低いと得られる電極基材の機械的強度が低くなり、また、あまり高いと得られる電極基材の柔軟性が低下するようになるので、5〜60g/m2の範囲内とするのが好ましいが、そうするために、熱硬化性樹脂を目付が13〜150g/m2の範囲内になるように含浸する。炭素化物の目付は、18〜50g/m2の範囲内にあるのがより好ましいが、そうするために必要な熱硬化性樹脂の目付は、45〜125g/m2の範囲内である。最も好ましいのは、炭素化物の目付が20〜40g/m2の範囲内にある場合であるが、そうするために必要な熱硬化性樹脂の目付は、50〜100g/m2の範囲内である。一方、熱硬化性樹脂の目付は、前述の炭素短繊維の目付とともに得られる電極基材の空孔率を決める。空孔率70〜90%という好ましい空孔率を達成するためにも、熱硬化性樹脂の目付は上述の範囲内にするのがよい。
【0035】
さて、本発明においては、帯状の複合シート、すなわち、炭素短繊維と熱硬化性樹脂とを含む帯状の複合シートを、不活性雰囲気に保たれた加熱炉内に導き、その加熱炉内を連続的に走行させながら10〜1,000℃/分の範囲内の速度で少なくとも1,200℃まで昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化する。これにより、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が炭素化物で結着されている多孔質炭素電極基材が得られる。得られる電極基材は、ロール状に巻き取る。
【0036】
加熱炉としては、いわゆる連続焼成炉を用いることができ、炉内の不活性雰囲気は、炉内に窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを流通させることによって得ることができる。
【0037】
焼成にあたっては、昇温速度を10〜1,000℃/分の範囲内とし、その速度で少なくとも1,200℃まで昇温する。昇温速度が10℃/分未満では、生産性が著しく低下して製造コストが上昇するうえに、熱硬化性樹脂が緩やかに炭素化されるために炭素化物の適度なひび割れが起こらなくなり、得られる電極基材は、導電性を維持しつつも柔軟性の極めて低いものとなる。逆に、昇温速度が1000℃/分を超えると、熱硬化性樹脂が急激に炭素化されるために炭素化物の著しいひび割れが発生し、得られる電極基材は、導電性等の電気的特性や強度等の機械的特性の著しく低いものとなり、また、皺や反りの多いものとなる。好ましい昇温速度の範囲は200〜900℃/分であり、さらに好ましい範囲は300〜800℃/分である。
【0038】
また、800℃までの温度域における昇温速度は、800℃を超える温度域におけるそれよりも低くするのが好ましい。というのは、800℃までの温度域における、熱硬化性樹脂が炭素化される過程における重量減少は、800℃を超える温度域におけるそれよりも非常に大きいが、800℃までの温度域における昇温速度を800℃を超える温度域におけるそれより低くすると、得られる電極基材の導電性等の電気的特性や強度等の機械的特性の低下をより一層抑制することができるようになるからである。
【0039】
焼成温度は、少なくとも1,200℃とすることが必要であるが、1,500〜3,000℃の最高焼成温度で焼成するのが好ましい。最高焼成温度が1,500℃以上であると、熱硬化性樹脂の黒鉛化が進み、得られる電極基材中における不純物が減少して導電性等の電気的特性がさらに向上するようになる。一方、最高焼成温度が3,000℃を超えると、運転コストが上昇するばかりでなく、加熱炉の消耗が激しくなってその維持コストが上昇し、生産コストが上昇するようになる。より好ましい最高焼成温度の範囲は1,600〜2,500℃であり、さらに好ましい範囲は1,700〜2、000℃である。なお、黒鉛化の程度は、透過法による広角X線回折により測定される炭素(002)ピークの半値幅から求めた結晶サイズから判断できる。また、黒鉛の結晶サイズは、20オングストローム以上であるのが好ましく、30オングストローム以上であるのがより好ましく、40オングストローム以上であるのが最も好ましい。結晶サイズが20オングストローム以上であるということは、熱硬化性樹脂の黒鉛化が進んでいるということであり、得られる電極基材中の不純物が少なくなって固体高分子電解質のプロトン伝導性の低下を抑制でき、また、得られる電極基材の導電性が向上するようになる。
【0040】
かくして、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が炭素化物で結着されており、かつ、3点曲げ試験における最大荷重が少なくとも0.5Nであって曲げ弾性率が1〜10GPaの範囲内にあり、厚みが0.1〜0.25mmの範囲内にあり、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2以下である、図1に示すような多孔質炭素電極基材が得られる。図1において、線状に見えるのが炭素短繊維であり、それらに付着しているのが熱硬化性樹脂の炭素化物である。
【0041】
本発明の電極基材の3点曲げ試験における最大荷重は、少なくとも0.5Nである。そのような電極基材は、割れにくく、ハンドリング性に優れている。最大荷重は0.6N以上であるのが好ましく、0.7N以上であるのがさらに好ましい。
【0042】
また、3点曲げ試験における曲げ弾性率は、電極基材の対変形性や柔軟性に関係し、曲げ弾性率が1GPa未満であるようなものは、外力が作用したときに容易に変形してしまう。また、10GPaを超えるようなものは、柔軟性が極めて低く、ロール状への巻き取りが難しくなり、ハンドリング性が悪化する。曲げ弾性率の好ましい範囲は3〜9GPaであり、さらに好ましい範囲は5〜8GPaである。
【0043】
電極基材の厚みは、0.1〜0.25mmの範囲内にある。電極基材の厚みは、せん断力が作用したときの割れや柔軟性に関係する。厚みが0.1mm未満では、電極を構成し、燃料電池を構成したとき、セパレータからせん断力を受けたときに容易に割れてしまう。また、0.25mmを超えるようなものは、柔軟性が大きく低下し、ロール状への巻き取りが難しくなったり、ハンドリング性が悪化したりする。好ましい厚みの範囲は0.11〜0.22mmであり、より好ましい範囲は0.12〜0.16mmである。
【0044】
また、電極基材の厚み方向の電気抵抗は12mΩ・cm2以下である。厚み方向の電気抵抗は、電極を構成し、燃料電池を構成したとき、発電効率に関係する。そして、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2を超えると、オーム損による電圧降下が大きくなり、発電効率が大きく低下する。電気抵抗は9mΩ・cm2以下であるのが好ましく、6mΩ・cm2以下であるのがさらに好ましい。
【0045】
本発明の電極基材は、また、空孔率が70〜90%の範囲内にあるのが好ましい。空孔率がこの範囲にあると、電極を構成し、燃料電池を構成したとき、燃料電池内部の水の蒸発をより抑制することができて、固体高分子電解質が乾燥してプロトン伝導性が低下するのを抑制することができるようになるとともに、ガス拡散性が向上し、発電効率が向上するようになる。より好ましい空孔率の範囲は72〜88%であり、さらに好ましい範囲は75〜85%である。
【0046】
また、電極基材の表面に撥水加工を施すのも好ましい。表面が撥水性を有すると、電極を構成し、燃料電池を構成したとき、発電反応の生成水による目詰まりを抑制することができるようになり、反応に必要な物質を十分に供給することができるようになって発電効率が向上する。そのような撥水加工は、電極基材の表面に、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、フッ化エチレンプロピレン樹脂(FEP)、フッ化エチレンテトラフルオロエチレン樹脂(ETFE)等のフッ素系樹脂を、1〜50重量%程度、好ましく5〜40重量%程度、さらに好ましくは10〜30重量%程度付与することによって行うことができる。
【0047】
さて、本発明の電極基材は、少なくとも片面に導電性を有するガス拡散層を形成してガス拡散電極とすることができる。ガス拡散層を設けると、表面の凹凸が覆われ、平滑となるため、電極を構成し、燃料電池を構成したとき、触媒層との電気的接触を確保しやすくなる。また、固体高分子電解質膜の損傷もより確実に防止することができるようになる。そのようなガス拡散層は、電極基材の表面に、上述した撥水加工で用いたのと同様のフッ素系樹脂と、上述した熱硬化性樹脂に混入したのと同様の導電性粉末との混合物を付与することによって行うことができる。導電性粉末の混入量は、10〜50重量%程度、好ましくは15〜45重量%程度、さらに好ましくは20〜40重量%程度である。
【0048】
そのようなガス拡散電極は、ガス拡散層側において、それを、両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に接合することで燃料電池ユニットを構成することができる。また、そのような燃料電池ユニットの複数個を積層することによって燃料電池を構成することができる。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持カーボンを含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子を材料とするものが好ましく用いられる。かかる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【0049】
【実施例および比較例】
実施例1:
東レ株式会社製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ”T−300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を12mmの長さにカットし、水を抄造媒体として抄造し、さらにポリビニルアルコールの10重量%水性分散液に浸漬し、乾燥して、炭素繊維の目付が約50g/m2の帯状炭素短繊維シートを得た。ポリビニルアルコールの付着量は、約20重量%に相当する。
【0050】
次に、上記炭素短繊維シートに、フェノール樹脂の10重量%メタノール溶液を、炭素短繊維シート100重量部に対してフェノール樹脂が125重量部になるように含浸し、90℃で乾燥した後、1.5MPaの加圧下に150℃で30分加熱し、フェノール樹脂を硬化させた。フェノール樹脂としては、アルカリレゾール型フェノール樹脂100重量部と同重量部のノボラック型フェノール樹脂との混合樹脂を用いた。炭素短繊維シートに付着しているフェノール樹脂の目付は、約63g/m2となる。
【0051】
次に、上記炭素短繊維とフェノール樹脂との複合シートを、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2,000℃の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、800℃までは110℃/分、800℃を超える温度では150℃/分の昇温速度で焼成し、ロール状に巻き取った。得られた多孔質炭素電極基材の諸元を、既述のものも含めて以下に示す。
【0052】
炭素短繊維の平均繊維径 :7μm
炭素短繊維の平均繊維長 :12mm
炭素短繊維の目付 :50g/m2
3点曲げ試験における最大荷重 :1.1N
3点曲げ試験における曲げ弾性率:6.6GPa
厚み :0.21mm
厚み方向の電気抵抗 :8mΩ・cm2
炭素化物の目付 :40g/m2
空孔率 :80%
黒鉛結晶サイズ :43オングストローム
ナトリウム量 :40ppm
カルシウム量 :50ppm
実施例2:
実施例1において、フェノール樹脂を硬化させるときの圧力を0.5MPaとするとともに、昇温速度を、800℃までは380℃/分、800℃を超える温度では500℃/分とした。得られた多孔質炭素電極基材の諸元を、既述のものも含めて以下に示す。
【0053】
炭素短繊維の平均繊維径 :7μm
炭素短繊維の平均繊維長 :12mm
炭素短繊維の目付 :50g/m2
3点曲げ試験における最大荷重 :0.8N
3点曲げ試験における曲げ弾性率:5.0GPa
厚み :0.22mm
厚み方向の電気抵抗 :10mΩ・cm2
炭素化物の目付 :40g/m2
空孔率 :80%
黒鉛結晶サイズ :44オングストローム
ナトリウム量 :50ppm
カルシウム量 :30ppm
実施例3:
実施例1において、炭素繊維の目付が24/m2の炭素短繊維シートを用い、その炭素短繊維シートに、フェノール樹脂の10重量%メタノール溶液を、炭素短繊維シート100重量部に対してフェノール樹脂が125重量部になるように含浸し、90℃で乾燥した後、0.5MPaの加圧下に150℃で30分加熱し、フェノール樹脂を硬化させた。フェノール樹脂としては、アルカリレゾール型フェノール樹脂100重量部と、同重量部のノボラック型フェノール樹脂と、これらのフェノール樹脂100重量部に対して75重量部の黒鉛粉と、これらのフェノール樹脂100重量部に対して75重量部のカーボンブラックとを混合してなる混合樹脂を用いた。炭素短繊維シートに付着しているフェノール樹脂の目付は、約26g/m2となる。
【0054】
次に、上記炭素短繊維とフェノール樹脂との複合シートを、窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2,000℃の加熱炉に連続的に導入し、800℃までは380℃/分、800℃を超える温度では500℃/分の昇温速度で焼成し、ロール状に巻き取った。得られた多孔質炭素電極基材の諸元を、既述のものも含めて以下に示す。
【0055】
炭素短繊維の平均繊維径 :7μm
炭素短繊維の平均繊維長 :12mm
炭素短繊維の目付 :24g/m2
3点曲げ試験における最大荷重 :0.9N
3点曲げ試験における曲げ弾性率:9.0GPa
厚み :0.17mm
厚み方向の電気抵抗 :4mΩ・cm2
炭素化物の目付 :15g/m2
空孔率 :80%
黒鉛結晶サイズ :48オングストローム
ナトリウム量 :20ppm
カルシウム量 :40ppm
比較例:
実施例1において、フェノール樹脂を硬化させるときの圧力を0.5MPaに変更した。また、焼成にはバッチ式の加熱炉を用い、昇温速度を800℃までは1℃/分、800℃を超える温度では2℃/分とした。得られた多孔質炭素電極基材の諸元を、既述のものも含めて以下に示す。
【0056】
炭素短繊維の平均繊維径 :7μm
炭素短繊維の平均繊維長 :12mm
炭素短繊維の目付 :50g/m2
3点曲げ試験における最大荷重 :1.3N
3点曲げ試験における曲げ弾性率:12.0GPa
厚み :0.19mm
厚み方向の電気抵抗 :5mΩ・cm2
炭素化物の目付 :40g/m2
空孔率 :80%
黒鉛結晶サイズ :49オングストローム
ナトリウム量 :10ppm
カルシウム量 :40ppm
上記実施例1〜3の多孔質炭素電極基材は、3点曲げ試験における最大荷重が大きく、曲げ弾性率は適度でハンドリング性に優れ、しかも、導電性が高い。これに対して、比較例の多孔質炭素電極基材は、曲げ弾性率が大きすぎて柔軟性を欠き、ハンドリング性に劣る。
【0057】
【発明の効果】
本発明は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が炭素化物で結着されており、かつ、3点曲げ試験における最大荷重が少なくとも0.5Nであって曲げ弾性率が1〜10GPaの範囲内にあり、厚みが0.1〜0.25mmの範囲内にあり、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2以下である多孔質炭素電極基材を、目付が15〜60g/m2の範囲内にある、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維と、目付が13〜150g/m2の範囲内にある熱硬化性樹脂とを含む帯状のシートを、不活性雰囲気に保たれた加熱炉内を連続的に走行せしめながら10〜1,000℃/分の範囲内の速度で少なくとも1,200℃まで昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化した後、ロール状に巻き取ることによって得るものであり、実施例と比較例との対比からも明らかなように、導電性や機械的強度が高く、ハンドリング性に優れている。そのため、燃料電池のガス拡散電極を構成するのに好適である。また、連続焼成を行うので生産性が高く、生産コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一形態に係る多孔質炭素電極基材の電子顕微鏡写真(倍率:60倍)である。
Claims (13)
- 実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維が炭素化物で結着されており、かつ、3点曲げ試験における最大荷重が少なくとも0.5Nで曲げ弾性率が1〜10GPaの範囲内にあり、厚みが0.1〜0.25mmの範囲内にあり、厚み方向の電気抵抗が12mΩ・cm2以下であることを特徴とする多孔質炭素電極基材。
- 炭素短繊維は、平均繊維径が5〜20μmの範囲内にあり、平均繊維長が3〜20mmの範囲内にある、請求項1に記載の多孔質炭素電極基材。
- 炭素短繊維の目付が15〜60g/m2の範囲内にある、請求項1または2に記載の多孔質炭素電極基材。
- 炭素化物の目付が5〜60g/m2の範囲内にある、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材。
- 空孔率が70〜90%の範囲内にある、請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材。
- 導電性粉末を含んでいる、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材。
- 目付が15〜60g/m2の範囲内にある、実質的に二次元平面内において無作為な方向に分散せしめられた炭素短繊維と、目付が13〜150g/m2の範囲内にある熱硬化性樹脂とを含む帯状の複合シートを、不活性雰囲気に保たれた加熱炉内を連続的に走行せしめながら10〜1,000℃/分の範囲内の速度で少なくとも1,200℃まで昇温し、焼成して熱硬化性樹脂を炭素化した後、ロール状に巻き取ることを特徴とする多孔質炭素電極基材の製造方法。
- 800℃までの温度域における昇温速度を、800℃を超える温度域におけるそれよりも低くする、請求項7に記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
- 800℃までの温度域における昇温速度を10〜800℃/分の範囲内とする、請求項8に記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
- 加熱、加圧成形した複合シートを焼成する、請求項7〜9のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の製造方法。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質炭素電極基材の少なくとも片面に、導電性を有するガス拡散層を形成してなることを特徴とするガス拡散電極。
- 両面に触媒層を有する固体高分子電解質膜の少なくとも片面に、請求項11に記載のガス拡散電極をガス拡散層側において接合してなることを特徴とする燃料電池ユニット。
- 請求項12に記載の燃料電池ユニットの複数個を積層してなることを特徴とする燃料電池。
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