JP2004283135A - ゲル状組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】殺菌や調理等の加熱処理や、加温して食に供する場合において、蛋白質の変性や水不溶性成分の沈降がなく、外観および食感が良好なゼリー状、あるいはプリン状の食品を提供すること。
【解決手段】ゲル状食品に、植物細胞壁を原料とした微細な繊維状のセルロースを主たる成分とする水分散性複合体を配合する。ゲル状食品の製造時には、充分複合体を分散し、食品全体に均一に存在させる。
【選択図】 選択図なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐熱性などの性質を有するゲル状組成物に関わる。
【0002】
【従来の技術】
一般的に広く使用されている、ゼラチン、寒天、カラギーナンなどのゲル化剤を原料としたゲルは熱可逆性であり、加熱するとゾル化あるいは溶解してしまう。そのため、均一性を維持することができず、ゲル中に固形物がある場合は沈降してしまったり、乳化が壊れてしまったり、あるいは形が崩れてしまったりしていた。また、プリンのように、蛋白質成分を多く含むものの場合、殺菌によって蛋白質が変性するので、強い殺菌を施すことができなかった。
【0003】
セルロース性物質をゲル状組成物に配合した例としては、特許文献1、2および非特許文献1に開示がある。しかしながら、きわめて水中での懸濁安定性が良好で、かつ、植物細胞壁を原料とした微細な繊維状のセルロースを主原料とした乾燥組成物を配合することによって、強い殺菌処理にも耐えうるゲル状組成物を作り得ることについては何ら開示がなかった。
【0004】
【特許文献1】
特開昭56−45170号公報
【特許文献2】
特開平11−178520号公報
【非特許文献1】
福井克任、「増粘安定剤としてのMFCの利用」、ニューフードインダストリー、株式会社食品資材研究会、昭和60年6月1日、第27巻、第6号、p.1〜5
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、殺菌や調理等の加熱処理や、加温して食に供する場合において、蛋白質の変性や水不溶性成分の沈降を抑え、外観および食感が良好なゲル状組成物を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、微細な繊維状のセルロースを主たる成分とする水分散性組成物を使用することで課題を解決し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は、「(a)植物細胞壁を原料とした微細な繊維状のセルロース50〜95%と親水性高分子5〜50%を含有する水分散性複合体であって、その0.1%水分散液中に、安定に懸濁する成分を30%以上含有し、かつ、その0.5%水分散液の損失正接が1未満である、水分散性複合体0.01%以上と、(b)ゲル化剤0.02%以上と、(c)水、を含有することを特徴とするゲル状組成物」である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは植物細胞壁を原料とする。具体的には、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹などの植物細胞壁由来の天然セルロースを主成分とするパルプが使用される。特に工業的に使用が可能なものが好ましい。これらは、比較的安価で、かつ、安定的に原料を入手することができるので、経済的に製品を市場に供給することができる。
【0008】
綿花、パピルス草、ビート、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。植物細胞壁を原料としない微生物セルロースは、価格および原料確保の問題を解決できないので、本発明の原料としては含まれない。再生セルロースを原料とした場合は、充分な性能が発揮されないので、再生セルロースもまた本発明の原料としては含まれない。
【0009】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは、原料中に存在するミクロフィブリルをできるだけ短繊維化させることなく取り出したものであることが望ましい。しかしながら、残念ながら現在の技術では引き裂くという作用のみを与えて「微細化」する装置はない。従って多少なりとも「短繊維化」は生じてしまう。原料セルロースの平均重合度が低いと「短繊維化」が生じやすく、粗大な繊維がなくなるまで処理すると、同時に短繊維化も進行し、結果として、後述する水分散液の損失正接値は1以上となりやすい。(以下、本発明においては、「短繊維化」とは繊維を切断等の作用により短くすること、あるいは短くなった状態を意味する。また、「微細化」とは繊維を引き裂くなどの作用により細くすること、あるいは細くなった状態を意味する。)
【0010】
一方、α−セルロース含有量もまた、その値が高いと、「微細化」と「短繊維化」が同時に進行するために、水分散液の損失正接値は1以上となりやすい。ちなみに、α−セルロースとは17.5重量NaOH水溶液に溶解しない成分であり、これは重合度が比較的大きく、かつ、より結晶性の高い成分と考えられる。α−セルロース以外の成分、すなわち、β−セルロース、γ−セルロース、ヘミセルロースなどの含有量が増えると、「短繊維化」よりも「微細化」が優位に進行するらしい。このため、α−セルロース以外の成分の含有量が増えると、水分散液の損失正接値は1未満となりやすくなる。これは、α−セルロース成分は結晶性の高いミクロフィブリル成分を構成し、その他の成分はそれらの周辺に位置するという構造をとっているためではないかと推定する。
【0011】
本発明で使用される原料としては、この「微細化」と「短繊維化」の受けやすさのバランスで重要であり、方向としてはより平均重合度が高く、α−セルロース含有量が低い方が好ましい。本発明者らはこの関係を詳細に検討し、原料の平均重合度が400以上で、かつ、α−セルロース含有量が60〜100%の関係にあれば、「短繊維化」よりも「微細化」が優位に進行し、その結果として、水分散液の損失正接値は1未満となりやすい原料であることを見いだした。但し、平均重合度が低く、α−セルロース含有量が高い場合、すなわち平均重合度が1300未満で、かつ、α−セルロース含有量が90%を越える場合は「短繊維化」が「微細化」と同じか、あるいは優位に進行するため、不適当である。また、α−セルロース含有量が60%未満であると、相対的に微細な繊維状のセルロースとなり得る成分が減少してしまうので、不適当である。好ましい原料の具体例は、木材パルプ、コットンリンターパルプ、麦わらパルプ、稲わらパルプ、竹パルプ、バガスバルプなどである。
【0012】
本発明に使用される原料は、微細化の促進を目的として、前処理を行ってから使用してもよい。前処理法の例としてはたとえば、希薄なアルカリ水溶液(たとえば、1mol/LのNaOH水溶液)に数時間浸漬したり、希薄な酸水溶液に浸漬したり、酵素処理したり、あるいは爆砕処理することなどがあげられる。
本発明に使用される原料は、まず、長さ4mm以下の繊維状粒子に加工する。全個数(本数)の50%以上は約0.5mm以上であることが好ましい。より好ましくは全ての粒子が3mm以下、最も好ましくは2.5mm以下である。方法としては、乾式/湿式いずれの方法でも可能である。乾式ならばシュレッダー、ハンマーミル、ピンミル、ボールミルなどが使用できるし、湿式ならば高速回転型ホモジナイザー、カッターミルなどが使用できる。必要に応じて各装置に投入しやすいサイズに加工した後に処理する。複数回処理を行ってもよい。湿式媒体撹拌型粉砕機のような強力な粉砕機にかけると過剰に短繊維化してしまうので好ましくない。
【0013】
好ましい機械はコミトロール(URSCHEL LABORATORIES,Inc.)である。コミトロールを使用する場合は、例えば原料パルプを5〜15mm角に裁断した後、水分72〜85%程度に含水させ、カッティングヘッドあるいはマイクロカットヘッドを装着した装置に投入して処理すればよい。
ついで、これを水に投入し、プロペラ撹拌、回転型ホモジナイザーなどを用いて、繊維状粒子が凝集することのない様に分散する。パルプ化の工程等の作用により繊維状粒子の長さが短い原料(パルプ)の場合は、この分散操作のみで長さ4mm以下の繊維状粒子の水分散液とすることができる場合もある。濃度は0.1〜5%程度が好ましい。この時、繊維状成分の懸濁安定性、凝集防止を目的として、親水性高分子を配合しても良い。カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの配合は望ましい実施態様の一つである。
次いで、この水分散液をある程度の短繊維化と、微細化の処理を施し、0.5%水分散液の沈降体積が70体積%以上になるようにする。好ましくは沈降体積が85体積%以上である。なお沈降体積とは、微細な繊維状のセルロースが均一に懸濁するように水に分散したもの100mL(0.5%)を内径25mmのガラス管に注ぎ込み、数回反転して内容物を撹拌した後、室温で4時間静置した時に観察される白濁した懸濁層の体積を意味する。装置としては高速回転型ホモジナイザー、ピストン型ホモジナイザー、砥石回転型粉砕機などが使用できる。好ましい装置は砥石回転型粉砕機である。
【0014】
砥石回転型粉砕機とは、コロイドミルあるいは石臼型粉砕機の一種であり、例えば、粒度が16〜120番の砥粒からなる砥石をすりあわせ、そのすりあわせ部に前述の水分散液を通すことで、粉砕処理される装置のことである。必要に応じて、複数回処理を行ってもよい。砥石を適宜変更するのは好ましい実施態様の一つである。砥石回転型粉砕機は、「短繊維化」と「微細化」の両作用を有するが、その作用は砥粒の粒度に影響を受ける。短繊維化を目的とする場合は46番以下の砥石が有効であり、微細化を目的とする場合は46番以上の砥石が有効である。46番はいずれの作用も有する。具体的な装置としては、ピュアファインミル(グランダーミル)(株式会社栗田機械製作所)、セレンディピター、スーパーマスコロイダー、セレンマイスター、スーパーグラインデル(以上、増幸産業株式会社)などがあげられる。
【0015】
次いで、この水分散液を高圧ホモジナイザーにて、60〜414MPaの圧力で処理することにより、微細な繊維状のセルロースが調製される。必要に応じて複数回処理を行う。遠心分離等の操作によって分取してもよい。原料の平均重合度が2000以上で、かつ、α−セルロース含有量が90%を越える場合は10回以上あるいは20回以上、高圧ホモジナイザー処理する必要がある場合があるが、生産効率を考慮すると、原料や、砥石回転型粉砕機の処理条件を適当に選択することにより、6回以下にとどめることが好ましい。一般的には、処理回数を増やすと、粘度は上昇した後、徐々に低下してくる。これは、処理回数が増えると細くなる方は限界に近づくが、短くなる方は徐々に進行するため、「微細化」よりも「短繊維化」が優勢となるためと思われる。濃度は低いほど「微細化」が優勢に進むらしく、結果として見かけ粘度の最高到達値が高くなる。処理圧もまた低いほど最高到達粘度が高くなるが、処理回数がたくさん必要となる。その場合、α−セルロース含有量が高いと、最高到達粘度に達しにくい。処理圧が高いとより少ない処理回数で最高到達粘度に到達するが、「短繊維化」が進みやすく、絶対値はより低くなる。損失正接をより低くするためには、低濃度、低圧で処理してもよいが、効率が悪いため、処理濃度と処理圧力は、性能と生産性を考慮して設定する必要がある。処理温度は5〜95℃程度を適宜選択すればよい。より高温で処理する方が、微細化が進みやすいが、原料によっては著しく短繊維化が進む場合があるので、適宜選択する必要がある。具体的な装置としては、圧力式ホモジナイザー(Invensys APV社、株式会社イズミフードマシナリー)、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.)などがある。
【0016】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースの「微細な繊維状」とは、光学顕微鏡および電子顕微鏡にて観察・測定されるところの、長さ(長径)が0.5μm〜1mm程度、幅(短径)が2nm〜60μm程度、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400程度であることを意味する。
【0017】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは、水中で安定に懸濁する成分を含有する。具体的には、0.1%濃度の水分散液状態として、これを1000Gで5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分であり、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察・測定される長さ(長径)が0.5〜30μmであり、幅(短径)が2〜600nmであり、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400である繊維状のセルロースからなる。好ましくは、幅が100nm以下であり、より好ましくは50nmである。通常セルロース粒子の水分散系は白濁することが特徴であり、その白さゆえに食品においてはクラウディ剤として使用されることがある。しかしながら本発明で使用される微細な繊維状のセルロースの好ましい実施態様、すなわちほとんどの成分の幅が100nm以下になると、光の透過性が上がり、透明性を増してくるという特徴を有する。この成分は本発明において非常に重要な要素であり、ゲル状組成物の耐熱安定性を向上させる性質などを発揮する原因となるものである。
【0018】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは、この「水中で安定に懸濁する成分」を30%以上含有する。含有量は多いほど好ましいが、50%以上であればより好ましい。なお、この成分の含有量は特に断らない限り、全セルロース中の存在比率を表すものであり、水溶性成分が含まれている場合であってもそれが含まれないように測定・算出される。
【0019】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは、0.5%濃度の水分散液において、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であり、好ましくは0.6未満である。この値は、水分散液の動的粘弾性を示すものであり、値が低いほど水分散液がゲル的な性質をとる。ゲルとは、たとえば高分子水溶液においては、溶質(高分子鎖)が三次元的な網目構造を形成し、溶媒(水)を不動化(固定化)する状態と考えられている。一般論として、ゲル形成性水溶性高分子の場合、低濃度では損失正接が1以上であるが、濃度が上がるに連れて値が下がり、ゲルを形成する濃度では1未満となるといわれている。一方、本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは、前述の測定条件では損失正接が1未満であるが、流動性があり、真性のゲルではない。すなわち、低周波数あるいは低歪みにおいては分散質(微細な繊維状のセルロース)が三次元網目構造を形成し、分散媒(水)を固定化する性質、すなわちゲル的性質を有する、ということである。損失正接が1以上であると、懸濁安定性等の性質が劣る。0.6未満であるとそれらの性能はさらに秀でたものとなる。
【0020】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースはきわめて水中での懸濁安定性が高い。そのため、従来の微小繊維状セルロースのように、保水度(JAPANTAPPI紙パルプ試験方法No.26)やろ水度(Freeness:JIS P 8121)を測定することができない。
保水度の場合、絶乾0.5g相当量のセルロースを含む水懸濁液を、目開き74μmの金属製ワイヤ(φ20mm)を張った金属製カップろ過器に注ぎ、吸引装置で徐々に吸引した時に均一なマット状とならなければならないが、本発明品は目詰まりを起こしてマット状にならないか、あるいは金属製ワイヤを通り抜けてしまう。目詰まりを起こした場合、その後の操作である3000G(15分)による遠心分離操作にて上部に離水が生じてしまう。
【0021】
また、ろ水度(カナダ標準形)の場合、黄銅製のふるい板(厚さ0.51mm、直径0.51mmの穴が表面1000mm当たり969個ある)で濾過するような操作がある。0.3%のセルロース(パルプ)繊維水分散液を通す時、セルロース繊維がふるい板の上に積層することにより、水の落下速度が変わることを利用し、セルロース繊維の叩解の程度を判定するというものである。本発明品のろ水度を測定すると、水分散性セルロースはふるい板にとどまることなく通過してしまう。詳細を省くが、セルロース繊維の叩解(以下、微小繊維化、という)の程度が進行すると、ろ水度は段々小さくなるが、(製紙用パルプ繊維として)過剰に短く、細くなると、繊維がふるい板を繊維が通過するようになり、ろ水度は段々大きくなってゆく。すなわち微小繊維化が進行すると、ろ水度ははじめは減少するが、その後増加するのである。すなわち、測定の目的と原理から、極端に微細な繊維状になったセルロースの場合、このような測定を行うこと自体が不適当と言える。
【0022】
以上のことより、従来の微小繊維状セルロースは、保水度やろ水度を測定されていることを考えると、微細な繊維状の程度が本発明品ほどに進行していないということがわかる。すなわち本発明品は従来の微小繊維状セルロースとは一線を画するものと言える。
【0023】
本発明で使用される親水性高分子とは、冷水および/もしくは温水に溶解もしくは膨潤する高分子であり、乾燥時におけるセルロース同士の角質化を防止する作用を有するものである。具体的にはアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質が使用される。中でも、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムが好ましい。このカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、カルボキシメチル基の置換度が0.5〜1.5、1%水溶液の粘度が5〜9000mPa・s程度のものの使用が好ましい。より好ましくは、置換度が0.5〜1.0、1%水溶液粘度が1000〜8000mPa・s程度のものである。
【0024】
本発明に使用される水分散性複合体には微細な繊維状のセルロースと親水性高分子以外に、水分散性、懸濁安定性や風味、外観等の改善を目的として、水溶性物質、デンプン類、油脂類、蛋白質類、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素等の食品に使用できる成分を適宜配合されていても良い。個々の成分の配合量は、計45%を最大とし、製造性、機能、価格等を適宜考慮して決定される。
【0025】
本発明に使用される水溶性物質とは冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)、より選ばれた1種または2種以上の物質である。この物質を乾燥組成物に配合すると、粒子内部へ導水する性質が強化され、乾燥組成物粒子の水崩壊性が促進される。この作用としては特にデキストリン類が強い。
【0026】
本発明に使用されるデキストリン類とは、澱粉を酸、酵素、熱で加水分解することによって生じる部分分解物のことであり、グルコース残基が主としてα−1,4結合およびα−1,6結合からなり、DE(dextrose equivalent)として、2〜42程度のものが使用される。ブドウ糖や低分子オリゴ糖が除去された分枝デキストリンも使用することができる。
【0027】
本発明で使用される水分散性複合体は、微細な繊維状のセルロースに親水性高分子と、必要に応じてその他の成分を配合してスラリー状、あるいはペースト状とした後、乾燥し、必要に応じて粉砕する。親水性高分子およびその他の成分の投入は、水溶液としてから投入してもよいし、粉体のまま投入してもよい。また、微細な繊維状のセルロースを調製する途中の工程で配合しても良い。粉体を投入する場合は、ままこになりやすく、特に固形分濃度が高い場合は流動性が悪いので、適宜、適当な撹拌・混合機を選択して使用する。乾燥は、公知の方法を使用すればよいが、乾燥物が硬いかたまりにならないような方法が望ましく、例えば、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法などが適当である。乾燥後の水分は、取り扱い性、経時安定性を考慮すれば、15%以下が好ましい。より好ましくは10%以下である。最も好ましくは6%以下である。2%未満になると静電気が帯電し、粉末の取り扱いが困難になる場合がある。
【0028】
乾燥物は必要に応じて粉砕する。粉砕機としてはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが使用され、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕する。より好ましくは目開き425μmの篩をほぼ全通し、かつ、平均としては10〜250μmとなるように粉砕する。
【0029】
本発明で使用される水分散性複合体は、微細な繊維状のセルロース50〜95と、親水性高分子5〜50%からなる乾燥組成物であり、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、シート状を呈する。この組成物は水中に投入し、機械的な剪断力を与えた時、粒子が崩壊し、微細な繊維状のセルロースがほとんど乾燥前の状態で水中に分散するようになることが特徴である。微細な繊維状のセルロースが50%未満になると、セルロースの比率が低くなって効果が発揮されない。95%以上になると、相対的にその他の成分の配合比率が下がるので、水中の充分な分散性を確保することができない。機能発揮の程度と水中における分散性を確保するという観点からすると、微細な繊維状のセルロースの好ましい配合量は65〜90%であり、親水性高分子の好ましい配合量は10〜35%である。
【0030】
従来の微小繊維状セルロースにおいては、同様な乾燥組成物を調製する試みがなされている(特開昭59−189141号公報、特開平3−42297号公報、特開昭60−186548号公報、特開平9−59301号公報)。しかしながらこれらはいずれも、微小繊維状セルロースが乾燥前の状態に、充分に復元していなかった。これは、微小繊維化が不充分であり、分岐した束状の繊維が多数存在し、それらが乾燥時に角質化(合一)しやすいためと思われる。一方、本発明の水分散性セルロースは構成単位がきわめて微細な繊維状であり、分岐した束状の繊維が非常に少ないために、親水性高分子の角質化防止効果が有効に作用しやすいものと思われる。おそらくそのために、水中で分散されることにより、容易に乾燥前と同程度の状態に復帰する。
【0031】
本発明の水分散性複合体は、前述の通り、水中に投入し、機械的な剪断力を与えた時、構成単位(粒子)が崩壊し、微細な繊維状のセルロースが水中に分散するようになる。このとき「機械的な剪断力」とは、0.25%水分散液を、回転型のホモジナイザーで、最大でも15000rpmで15分間分散するようなものであり、温度は80℃以下で処理することを意味する。
【0032】
このようにして得られた水分散液(0.1%)は、乾燥前とほとんど同じ状態、すなわち、「水中で安定に懸濁する成分」が全セルロース分に対して30%以上存在する。好ましくは50%以上であり、特に好ましくは80%以上である。水分散液中のセルロースの形状は、やはり乾燥前とほとんど同じ状態、すなわち、長径は0.5〜30μm、短径は2〜600nm、長径/短径比は20〜400程度である。好ましくは、幅が100nm以下であり、より好ましくは50nmである。そして、0.5%水分散液の損失正接は1未満である。好ましくは0.6未満である。(「水中で安定に懸濁する成分」の含有量と損失正接の測定条件は後述する。)これらの性質は、系の中で微細な繊維状のセルロースのネットワークがより微細で緊密に形成されるということを意味する。これによってゲル状組成物の耐熱性が付与される。すなわち、ゲル状組成物が加熱によって溶解することが抑えられ、離水が抑制され、さらにはゲル強度の低下が抑えられるのである。
【0033】
本発明で使用されるゲル化剤とは、水系でゲルを形成する高分子物質のことであり、例としては、寒天、ゼラチン、ιカラギーナン、κカラギーナン、ネイティブジェランガム、ローカストビーンガムとキサンタンガムの併用系、κカラギーナンとグルコマンナンの併用系、などが上げられる。ゲル化剤の配合量は0.02%以上であり、多く配合するほど破断強度が高くなり、種類によってはのびの良いゲルになるが、主に食感に依存して決定される。カルシウムイオン等のカチオンの配合も、公知の技術に従って適宜配合してもよい。また、食感改善等の目的で複数使用しても良いし、その他の増粘多糖類(タラガム、グアーガム等)を配合しても良い。
【0034】
本発明のゲル状組成物は、ゲル化剤の他に、水分散性複合体0.01%以上と水を配合してなることを特徴とする。本発明品は、ゲルが冷却固化するまでの間、あるいは殺菌等の加熱時にゲルが溶解した時でも、懸濁安定性が良好なので、果汁繊維、抹茶、炭酸カルシウム、ココアなどの水不溶性成分を沈降させることなく、均一に存在させることができる。また、乳化安定や、離水防止、蛋白質の熱変性を防止する効果があるので、より強い殺菌処理を施すことができる。そのため、製品の賞味期限が長くなったり、あるいは保存温度を高く設定することができる。また、製品を温めても、強度の低下を抑制することができるので、温食が可能となる。水分散性複合体が0.01%未満であると、そのような効果が十分発揮されない。好ましい配合量は0.02〜1%で、特に好ましくは0.03〜0.07%である。
【0035】
本発明のゲル状組成物の製造は、公知の方法に従う。一例を上げれば、ゲル化剤とその他の粉体原料(砂糖など)を熱湯に加えて撹拌・溶解し、それに果汁、果肉、ヨーグルト、コーヒーエキスなどの原料を配合し、容器に充填し、冷却して製造される。殺菌は製品の原料、形態、希望する保存条件や賞味期限に応じて、HTST殺菌、ホットパック殺菌、レトルト殺菌などの方法を適宜選択して実施される。水分散性複合体は、粉体原料とともにゲル化剤の溶解時に配合するか、あるいは、ゲル化剤溶液調製後に配合される。水分散性複合体はゲル状組成物中で微細な繊維状のセルロースに分散した状態で存在しなければ効果が発揮されないので、高速回転型のホモジナイザー等の強い撹拌機で撹拌する必要がある。あらかじめ水あるいは温水で水分散性複合体を撹拌して、分散液を調製してから配合することは好ましい実施態様の一つである。分散液調製時に、温度を60〜80℃とし、ピストン型高圧ホモジナイザー(10MPa以上)を用いることは特に好ましい。
【0036】
本発明のゲル状組成物は、冷解凍した場合、急速に冷凍すると、冷凍前の食感にきわめて近い状態にもどる。これは冷凍保存・輸送ができるということを意味する。一方、ゆっくりと冷凍すると、離水のない、果肉様の食感になる。通常、ゲルを冷解凍すると、ゲルの一部が収縮し、そして離水してしまうので、商品価値がなくなってしまうが、この現象を積極的に利用して、果肉様食感ゲルを製造する技術がある。本発明品はこのような利用も可能である。
本発明のゲル状組成物は、水分散性複合体を配合しないで製造したものと比べると「のび」の食感が減少し、いわゆるショートなテクスチャーになる。多量に配合するほどその傾向が増す。これはデザート等の食感を改良したり、嚥下障害者用介護食の粘弾性特性の改善に利用できる。
【0037】
本発明のゲル状組成物は、水分散性複合体と、ゲル化剤と、水の他に、食品素材(果肉、果汁、乳製品、穀類、畜肉、魚肉、野菜、油脂等)、調味料(みそ、しょうゆ、砂糖、塩、グルタミン酸ナトリウム等)、甘味料、香料、色素、香辛料、酸味料、乳化剤、増粘安定剤、食物繊維、栄養強化剤(ビタミン、カルシウム等)、フレーバー素材(抹茶、ココア粉末、コーヒー粉末、プリンエッセンス、ミルクフレーバー、ブランデー等)などを配合して、デザート(ゼリー、プリン、杏仁豆腐等)、嚥下障害者用介護食(水分補給ゼリー、栄養補給ゼリー、きざみ食等)、ゲル化した飲料(抹茶飲料、コーヒー飲料、ヨーグルト飲料、ココア飲料、紅茶飲料、ジュース等)等、として使用される。また、医薬品、化粧品、工業製品にも応用が可能である。
【0038】
【実施例】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、測定は以下の通り行った。
<原料(セルロース)の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<原料(セルロース)のα−セルロース含有量>
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
【0039】
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定する。
光学顕微鏡を使用する場合は、適当な濃度に調整したサンプル水分散液をスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察に供する。
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察に供する。
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察に供する。
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているものがあったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nm程度の繊維の観察時に使用したのだが、一本の繊維が長すぎて、一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後、写真を合成して解析した。
【0040】
<水分散液粘度>
(1)0.25%の水分散液となるようにサンプルと水を量り取り、エクセルオートホモジナイザー(日本精機株式会社製、ED−7型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計、BL形)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
【0041】
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
(1)セルロース濃度が0.1%の水分散液となるようにサンプルと水を量り取り、エクセルオートホモジナイザー(日本精機株式会社製、ED−7型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて1000Gで5分間遠心分離する。
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の重量(a)を測定する。
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の重量(b)を測定する。
【0042】
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [%]
サンプルが水溶性高分子(および親水性物質)を含まない場合は、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b
k2={k1×(a−b)}/(19.98−a+b)
また、サンプルが水溶性高分子(および親水性物質)を含む場合は、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
セルロース/水溶性高分子(親水性物質)=f/d [配合比率]
w1=19.98−a+b+0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
【0043】
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行う。
(3’)上層の液体部分を取得し、重量(a’)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の重量(b’)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [%]
サンプルが水溶性高分子(および親水性物質)を含まない場合は、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’
k2=k1×(19.98−a’+b’)/(a’−b’)
【0044】
また、サンプルが水溶性高分子(および親水性物質)を含む場合、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
セルロース/水溶性高分子(親水性物質)=f/d [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
もし、(3’)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は全体の上部1/3量(約7g)を取得し、以降は(4’)、(5’)に従って操作する。
【0045】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
市販木材パルプ(平均重合度=1510、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、水分が80%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(URSCHEL LABORATORIES,Inc.製「コミトロール」、モデル1700、カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通したところ、繊維長が0.75〜3.75mmになった。
【0046】
セルロース濃度が2%、そしてカルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度が0.0706%になるようにカッターミル処理品とカルボキシメチルセルロースナトリウムと水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌・分散した。この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で2回処理した。
【0047】
次いで得られた水分散液を高圧ホモジナイザー(MFIC Corp.製「マイクロフルイダイザー」M−110Y型、処理圧力:95MPa)で4パスし、微細な繊維状のセルロースの水分散液を得た。水分散液粘度は68mPa・sだった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜400μm、短径が1〜5μm、長径/短径比が10〜300の微細な繊維状のセルロースが観察された。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は43%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜150nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0048】
その水分散液にカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加し、セルロース:カルボキシメチルセルロースナトリウム=80:20(重量部)としてから攪拌型ホモジナイザーで、15分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、カッターミル(不二パウダル株式会社製「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、水分散性複合体A(以下、複合体Aという)を得た。
【0049】
複合体Aの水分散液粘度は66mPa・sであった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜400μm、短径が1〜5μm、長径/短径比が10〜300の微細な繊維状セルロースが観察された。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は40%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜150nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0050】
複合体Aが1%となるように量り取り、温水に加え、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で分散(15000rpm、10分間、80℃)した。この分散液10部に水とグレープフルーツ果汁(5倍濃縮)7.5部を加えて85℃に加温した後、砂糖10部、難消化性デキストリン4部、脱アシル型ジェランガム0.2部、乳酸カルシウム0.1部を加えて撹拌・混合し、ゼリー溶液を得た。なお、各粉体原料は乾燥物換算で仕込んだ。そして全体で100部となるように水を使用した。
【0051】
ついで当該ゼリー液を100mL容のガラス製耐熱ビンに充填し、5℃雰囲気にて1時間冷却後、80℃30分もしくは105℃30分の加熱殺菌を行い、ゲル状組成物(グレープフルーツ果汁入りゼリー)を得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、80℃30分殺菌品は、離水やクラックがなく、すなわち均一な外観を呈していた。ゲル強度は533mNだった。105℃、30分殺菌品もまた均一な外観であり、ゲル強度は510mNだった。食感は後述する比較例1、すなわち複合体Aを添加しない場合に比べて、果汁の味がやや強く感じられ、ややのびのある破断パターンであり、崩れ方はきめが細かく、そして滑らかだった。
【0052】
なお、ゲル強度は、ゲル状組成物を容器から取り出す事なく、蓋をあけてそのまま、レオメーター(不動工業株式会社製「RHEO METER」NRM−2002J型、押し込み治具:10mmφ球状治具、押し込み速度:6cm/min)で測定した。
【0053】
[実施例2]
市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断した。次いでセルロース濃度が3%、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.176%となるように、それぞれと水を量り取り、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で3回処理した。
【0054】
次いで得られた水分散液を水で希釈して2%にし、高圧ホモジナイザー(MFIC Corp.製「マイクロフルイダイザー」M−140K型、処理圧力110MPa)で4パスし、微細な繊維状のセルロースの水分散液を得た。粘度は120mPa・sだった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状のセルロースが観察された。「水中で安定に懸濁する成分」は99%だった。
【0055】
セルロース:カルボキシメチルセルロースナトリウム=85:15(重量部)となるように、水分散液にカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加し、攪拌型ホモジナイザーで、15分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、水分散性複合体B(以下、複合体Bという)を得た。複合体Bの水分散液粘度は143mPa・s、「水中で安定に懸濁する成分」は98%だった。
【0056】
次に、複合体Aのかわりに複合体Bを用いて、あとは実施例1と同様にして、ゲル状組成物(グレープフルーツ果汁入りゼリー)を得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、80℃、30分殺菌品は、離水やクラックのない、均一な外観を呈していた。ゲル強度は672mNだった。105℃、30分殺菌品もまた均一な外観であり、ゲル強度は589mNだった。食感は後述する比較例1に比べて、果汁の味がやや強く感じられ、ややのびのある破断パターンであり、崩れ方はきめが細かく、滑らかだった。
【0057】
[実施例3]
市販麦わらパルプ(平均重合度=930、α−セルロース含有量=68%)を、6×12mm角の矩形に裁断し、4%となるように水を加え、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。これを高速回転型ホモジナイザー(ヤマト科学、ULTRA−DISPERSER、LK−U型)で1時間分散した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で2回処理した。
【0058】
次いで得られた水分散液を水で希釈して2%にし、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製「アルティマイザーシステム」HJP25030型、処理圧力:175MPa)で8パスし、微細な繊維状のセルロースの水分散液を得た。粘度は69mPa・sだった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜700μm、短径が1〜30μm、長径/短径比が10〜150の微細な繊維状のセルロースが観察された。「水中で安定に懸濁する成分」は89%だった。
【0059】
セルロース:カルボキシメチルセルロースナトリウム=85:15(重量部)となるように、水分散液にカルボキシメチルセルロースナトリウムを添加し、攪拌型ホモジナイザーで、15分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製「フラッシュミル」)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、水分散性複合体C(以下、複合体Cという)を得た。組成物Cの0.25%粘度は61mPa・s、「水中で安定に懸濁する成分」は75%だった。
【0060】
次に、複合体Aのかわりに複合体Cを用いて、あとは実施例1と同様にしてゲル状組成物(グレープフルーツ果汁入りゼリー)を得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、80℃、30分殺菌品は、離水やクラックのない、均一な外観を呈していた。ゲル強度は620mNだった。105℃、30分殺菌品もまた均一な外観であり、ゲル強度は615mNだった。食感は後述する比較例1に比べて、果汁の味がやや強く感じられ、ややのびのある破断パターンであり、崩れ方はきめが細かく、滑らかだった。
【0061】
[比較例1]
複合体Aを用いない以外は実施例1と同様にして、グレープフルーツ果汁入りのゲルを得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、80℃、30分殺菌品は、離水やクラックのない、均一な外観を呈していた。ゲル強度は599mNだった。しかしながら、105℃、30分殺菌品は上表面に離水が発生し、いくつかクラックが発生し、かつ、グレープフルーツ果汁成分の濃淡が生じ、不均一な外観を呈した。ゲル強度は654mNだった。(強度が上がったのは、離水したことを考慮すると、ゲルが多少収縮したためと思われる。)食感はいずれの場合も、ジェランガム特有の硬くて脆い(サクい)感じだった。舌や歯茎で押しつぶそうとした場合、完全に細かく崩すことが難しかった。
【0062】
[実施例4〜6]
複合体A、B、Cが1%となるように量り取り、温水に加え、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で分散(15000rpm、10分間、80℃)した。この分散液5部に温水と砂糖10部、脱脂粉乳8部、ヤシ油3部、卵黄1部、ゼラチン0.5部、寒天0.2部、グリセリン脂肪酸エステル0.2部を加え、85℃で15分間撹拌・混合後、ピストン型ホモジナイザーで、15MPaで1パス処理し、プリン液を得た。なお、各粉体原料は乾燥物換算で仕込んだ。そして全体で100部となるように温水を使用した。
【0063】
次いで当該プリン液を100mLのガラス製耐熱ビンに充填し、5℃雰囲気にて1時間冷却後、105℃で30分の加熱殺菌を行い、ゲル状組成物(プリン)を得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価した。その結果、いずれのサンプルにおいても、乳蛋白の凝集や、乳成分が分離して透明なゲルになった部分のない、均一な外観を呈した。食感は後述する比較例2に比べ、ザラツキのないきめの細かいなめらかな食感を呈した。
【0064】
[比較例2]
複合体を使用しない以外は実施例4と同様にして、プリンを得た。5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、乳蛋白が細かく凝集し、容器の底部あるいは上部に少量の透明ゲルが発生した。食感は、ややザラツキのあるきめの粗い食感であった。
[実施例7]
複合体Bが1%となるように量り取り、温水に加え、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で分散(15000rpm、10分間、80℃)した。この分散液5部に温水と砂糖12部、脱脂粉乳7部、ヤシ油3部、抹茶粉末1.2部、卵黄1部、κカラギーナン0.25部、ローカストビーンガム0.2部、キサンタンガム0.2部、グリセリン脂肪酸エステル0.2部を加え、85℃で15分間撹拌・混合後、ピストン型ホモジナイザーで、15MPaで1パス処理し、抹茶プリン液を得た。なお、各粉体原料は乾燥物換算で仕込んだ。そして全体で100部となるように温水を使用した。
【0065】
次いで当該プリン液を100mLのガラス製耐熱ビンに充填し、室温雰囲気にて1時間冷却し、ゲル状組成物(抹茶プリン)を得た。そして、これをさらに105℃で30分間加熱殺菌した。両サンプルを5℃雰囲気にて24時間静置後、外観、食感について評価したところ、いずれのサンプルも抹茶粉末がプリン全体に存在した均一な外観を呈していた。食感はきめが細かく、ザラツキのないものであり、最後まで食べても味が一定していた。
【0066】
[比較例3]
複合体Bを使用しない以外は実施例7と同様にして、抹茶プリンを得た。殺菌前のサンプルは、抹茶が一部容器底部に沈降していた。食感はきめが細かく良好だったが、食べる部分によって味にバラツキがあった。殺菌後のサンプルは、抹茶がほとんど沈んでしまっていた。
【0067】
【発明の効果】
本発明のゲル状組成物は、殺菌や調理等の加熱処理や、加温して食に供する場合において、蛋白質の変性や水不溶性成分の沈降を抑えるので、外観および食感が良好なゼリー状、あるいはプリン状の食品を提供することができる。

Claims (1)

  1. (a)植物細胞壁を原料とした微細な繊維状のセルロース50〜95%と親水性高分子5〜50%を含有する水分散性複合体であって、その0.1%水分散液中に、安定に懸濁する成分を30%以上含有し、かつ、その0.5%水分散液の損失正接が1未満である、水分散性複合体0.01%以上と、(b)ゲル化剤0.02%以上と、(c)水、を含有することを特徴とするゲル状組成物。
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