JP4749363B2 - マイルドな酸味を有する酸性乳食品 - Google Patents

マイルドな酸味を有する酸性乳食品 Download PDF

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Description

本発明は、マイルドな酸味を有して口当たりが滑らかであるにも係わらず、離水がなくて安定性に優れる酸性乳食品に関するものである。
従来の酸性乳食品は、乳蛋白の等電点pH4.6よりも低いpHのものが一般的であった。従来のヨーグルトは、乳成分原料に乳酸菌を接種し、pHが乳蛋白の等電点pH4.6以下になるまで発酵させた後に冷却することで製造され、最終商品としてpH4.0〜4.5のヨーグルトとなるのが一般的である。
これに対し、一部の消費者から酸味が強すぎるとの声があり、pH4.6〜5.1付近のマイルドな酸味を有する酸性乳食品が求められていた。しかし、乳蛋白の等電点であるpH4.6以上のpHを有する酸性乳食品は、安定性が悪く既存の安定剤では十分な品質を与えるとは言い難い。pH4.6以上のヨーグルトを得るためには、乳蛋白の等電点pH4.6より高いpH、例えば、pH4.8〜5.3付近で発酵を終了させ冷却させる必要がある。しかしながら、そのようにして製造されたpH4.6〜5.1付近のヨーグルトは、乳蛋白の凝集によるカード形成が充分でなく不安定であるために、系が不均一で保存中に離水が生じてしまい、品質安定性に問題が生じる。さらに、ハードヨーグルトでは保形性が劣り、ソフトヨーグルトではボディ感が劣り商品として好ましくない。
また、従来のpHが4.6より低い酸性乳飲料では、乳蛋白の凝集による離水や沈殿を抑制するために、ペクチンや大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムなどが一般的な安定剤として用いられている。しかし、pH4.6以上では、これらの安定剤では充分な安定性が得られないことがわかっている。例えば、ペクチンは水中で溶解するとマイナスの電荷を有し、pH4.6より低いpHではプラスに帯電している乳蛋白と結合することで、乳蛋白どうしの凝集を抑制し飲料を安定化させることが知られている。ところが、pH4.6〜5.1付近では乳蛋白がマイナス電荷を有し、マイナスの電荷を有するペクチンとは結合しない。そのため、乳蛋白どうしの凝集を抑制できず不安定化する。
特許文献1には、微細な繊維状のセルロースからなる水分散性セルロース、あるいは水分散性複合体をヨーグルトに配合することで、味のマスキングなしに保形性や適度なボディ感を付与する技術が記載されている。しかしながら、これは「均質化処理を行わないか、あるいは弱均質化処理を行った」ヨーグルトに関する技術であり、ヨーグルトのpHの記載がなく、従来よりも高pHにすることで不安定化したヨーグルトを安定化させる効果に関する記載は一切ない。
また、特許文献2には、微細な繊維状のセルロースからなる水分散性セルロースか、あるいは水分散性乾燥組成物をペクチンと併用して酸性乳飲料に配合することで、乳蛋白の再分散性を改善する効果があると記載されている。一方、この酸性乳飲料のpHに関する記載はないが、市販の濃縮酸性乳を原材料として使用していることより、pH4.5以下と考えられる。そのpH領域では、ペクチンが乳蛋白の安定化に寄与するから、水分散性セルロース、あるいは水分散性乾燥組成物は、単に沈殿物の再分散性改善効果のみに寄与していると考えられる。
また、特許文献3には、ミクロフィブリル化された繊維状の不溶性セルロースとハイメトキシルペクチン、大豆多糖類およびカルボキシメチルセルロースから選ばれる1種または2種以上を酸性乳飲料に配合することで、乳の凝集を抑制し、さらに不溶性固形分を均一分散できる技術が記載されている。しかしながら、繊維状の不溶性セルロースは不溶性固形分を均一分散する目的で使用されており、酸性乳飲料中での乳の安定化には全く関与せず、むしろ乳の凝集・沈殿を引き起こす旨が記載されている。また、好ましいpH範囲を3.3〜4.5と記載し、実施例でもpH3.8〜4.2の酸性乳飲料が記載されているから、この系で乳の安定化に寄与しているのはペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロースなどの安定剤であると考えられる。
このように、従来の酸性乳飲料の安定剤(ペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロースなど)が安定化効果を充分に発揮できないpH4.6以上の範囲で、セルロースを併用することで酸性乳飲料の安定性を向上させる技術は、これまで知られていなかった。
特開2005−118001号公報 特開2004−41119号公報 特開2005−245217号公報
本発明は、pHが4.6〜5.1の範囲内のマイルドな酸味を有して、口当たりが滑らかで、離水がなくて安定性に優れる酸性乳食品を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題に取り組み、pH4.6〜5.1の酸性乳食品に、特定のセルロースを使用することで、特定のセルロースが形成するネットワーク構造によって乳蛋白や乳脂肪が安定化され、乳蛋白どうしの凝集を緩和し、系の安定性が向上することを見出して、本発明をなすに至った。すなわち本発明は下記の通りである。
<1>セルロースと水溶性高分子または親水性物質を含有した酸性乳食品であり、前記セルロースと前記の水溶性高分子または親水性物質とがいったん乾燥組成物を形成したものであり、pHが4.6〜5.1であり、前記セルロースは、微細な繊維状で、水中で安定に懸濁する成分を0質量%以上含有し、かつ0.5質量%の水分散液とした時の損失正接が0.6未満のものであることを特徴とする酸性乳食品。
<2>前記セルロースは、植物細胞壁を原料とし、結晶性で、かつ水中で安定に懸濁する成分を0質量%以上含有するものであることを特徴とする上記<1>に記載の酸性乳食品。
<3>ハードヨーグルトであることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の酸性乳食品。
<4>ソフトヨーグルトであることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の酸性乳食品。
<5>さらに増粘多糖類を含有し、酸性乳飲料であることを特徴とする上記<1>または<2>に記載の酸性乳食品。
本発明の酸性乳食品は、強すぎないマイルドな酸味を有して口当たりが滑らかで、かつ、離水がなくて品質安定性に優れる。
以下、本願発明について、特にその好ましい形態を中心に具体的に説明する。本発明の酸性乳食品は、そのpHが4.6〜5.1の範囲内である。従来、安定化が困難であったこの範囲内で、品質が安定化する顕著な効果が得られる。この範囲内で、酸性乳食品に適度な酸味が感じられるが、その程度がマイルドとなり、酸味を楽しみながら食しやすい酸性乳食品が得られる。
次に、酸性乳食品では、以下に述べる特性を備えた特定のセルロースを用いる。これによりそのpH範囲内でも、離水がなくて品質が安定化する効果が得られる。
特定のセルロースとしては、微細な繊維状をなしているものを用いる。ここで、微細な繊維状をなしているとは、光学顕微鏡および電子顕微鏡にて観察および測定した場合に、セルロースの長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400であることを意味する。
また、特定のセルロースは、水中で安定に懸濁する成分を10質量%以上含有する。水中で安定に懸濁する成分とは、0.1質量%濃度の水分散液として、これを9800m/s2で5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分である。これを、高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察・測定すると長さ(長径)が0.5〜30μmであり、幅(短径)が2〜600nmであり、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400である繊維状のセルロースからなっていることがわかる。好ましくは、幅が100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。
特定のセルロースは、この水中で安定に懸濁する成分を、全セルロース中に10質量%以上含有する。この成分が多いほど、より低添加量で酸性乳食品の離水防止および保形性あるいは適度なボディ感付与などの機能を発揮することができる。含有量は多いほど好ましく、30質量%以上であればより好ましく、50質量%以上であればさらに好ましい(「水中で安定に懸濁する成分」の測定方法は後述する。)。
また、特定のセルロースは、0.5質量%濃度の水分散液とした時に、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満となる。好ましくは0.6未満である。
一般に、損失正接の値は、測定対象物の動的粘弾性の性質を示すものであり、値が小さいほど測定対象物がゲル的な性質をとることを意味する。この場合、例えば高分子水溶液においては、溶質(高分子鎖)が三次元的なネットワーク構造を形成し、溶媒(水)を不動化(固定化)する状態と考えられている。ゲル形成性水溶性高分子の場合、低濃度でゲルを形成しない状態では損失正接が1以上であるが、濃度が上がるにつれて値が下がり、ゲルを形成する濃度では1未満になるといわれている。
ところが、本発明で用いる特定のセルロースは、上記の条件で水分散液にして流動性があり、真性のゲルではないが、前述の測定条件により測定された損失正接が1未満である。このことは、測定条件に用いられた歪み10%、周波数10rad/sのような低周波数あるいは低歪みの条件において初めて、特定のセルロースが三次元ネットワーク構造を形成した状態になっており、その結果、流動性があるにもかかわらずゲル的性質を有する旨の測定結果になったものと解される。そして、このような性質が酸性乳食品を安定化するために有効であることが判明した(損失正接の測定方法は後述する。)。なお、特定のセルロースの損失正接を1未満にするためには、セルロースミクロフィブリルをできるだけ微細化された状態で、かつ短繊維化させることなく取り出すことが重要である。
特定のセルロースの損失正接を1未満にするためには、セルロースミクロフィブリルをできるだけ微細化された状態で、かつ、短繊維化させることなく取り出すことが重要である。ここでいう、「短繊維化」とは、セルロースミクロフィブリルの繊維長を短く切断すること、あるいは短くなった繊維の状態を意味する。また「微細化」とは、セルロースミクロフィブリルの繊維径を、引き裂くなどの作用により細くすること、あるいは細くなった繊維の状態を意味する。現在の技術では全く「短繊維化」させることなく、引き裂き作用のみを与えて「微細化」のみを進行させる技術はない。
セルロースミクロフィブリルの「短繊維化」を最低限に抑えつつ、「微細化」を進行させ、特定のセルロースを得るために好ましい方法を以下に示すが、これらの方法に限定されるものではない。
まず、特定のセルロースを得るには、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を原料として使用するのが好ましい。具体的には、工業的に使用が可能なものが好ましく、例えば木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹などの天然セルロースを主成分とするパルプが使用される。これら天然セルロースを主成分とするパルプは、コストが低く、安定的に入手することができるので、これを原料として、経済的に製品を市場に供給することができる。
綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料もまた同様である。
特に好ましいのはイネ科植物の細胞壁を起源としたセルロース性物質であり、具体的にはバガスパルプ、稲わらパルプ、麦わらパルプ、竹パルプである。これらのパルプは木材パルプや麻パルプと異なり、極めて容易に微細化されるので、効率よく高性能の製品を作り得ることができる。その他、再生セルロースや発酵セルロースを原料として使用しても良い。
原料として植物細胞壁を起源とするセルロース性物質を選択する場合に、その平均重合度は400以上で、かつ、α−セルロース含有量が60〜100質量%のものを選択するのが好ましく、より好ましくは平均重合度400〜12000で、α−セルロース含有量が60〜85質量%のものを選択することである(平均重合度およびα−セルロース含量の測定方法は後述する。)。
原料は、微細化の促進を目的として、前処理を行ってから使用しても良い。前処理法の例としては、たとえば、希薄なアルカリ水溶液(たとえば、1mol/LのNaOH水溶液)に数時間浸漬したり、希薄な酸水溶液に浸漬したり、酵素処理したり、あるいは爆砕処理することなどがあげられる。
そして、特定のセルロースとするために原料に強力な剪断力を加える。そのために使用する装置としては、高圧ホモジナイザーが好ましい。高圧ホモジナイザーの具体例としては、エマルジフレックス(AVESTIN,Inc.製)、アルティマイザーシステム(株式会社スギノマシン製)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社製)、マイクロフルイダイザー(MFIC Corp.製)、バルブ式ホモジナイザー(三和機械株式会社製、Invensys APV社製、Niro Soavi社製、株式会社イズミフードマシナリー製)などがある。高圧ホモジナイザーの処理圧力としては、60〜414MPa程度が好ましい。
上記の方法により得られる特定のセルロースは、より強固なネットワーク構造を形成するために、さらに結晶性であることが好ましい。具体的には、X線回折法(シーゲル法)で測定されるところの結晶化度が50%を越えることが好ましい。さらに好ましくは55%以上である。特定のセルロース、およびセルロース乾燥組成物が、セルロース以外の成分を含有する場合、それらの成分は非晶性としてカウントされる。よって測定の結果、結晶化度が50%であれば、セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。例えば49%などの場合は、微細な繊維状のセルロースを他の成分から分離し、測定しなければならない。(結晶化度の測定方法は後述する。)
次に、酸性乳食品に用いるには、上記の特定のセルロースをそのまま用いるようにしてもよいが、セルロースをいったん以下に述べる乾燥組成物としてから用いるようにすると、酸性乳食品の品質安定性がより増加するため好ましい。乾燥組成物とするには、特定のセルロースを、水及び水溶性高分子または親水性物質と混合してよく攪拌し、しかるのちいったん乾燥すればよい。なお、水溶性高分子と親水性物質の両方を一緒に用いてもよい。
水溶性高分子とは、冷水または温水に溶解もしくは膨潤する高分子であり、乾燥時におけるセルロースどうしの角質化を防止する作用を有するものである。具体的にはアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
中でも、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムが好ましい。このカルボキシメチルセルロース・ナトリウムとしては、置換度0.5〜1.5が好ましく、より好ましくは0.6〜0.8である。
親水性物質とは、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトールなど)などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。親水性物質は、低分子量物質の方が水中での粒子の崩壊・分散性が良くなる傾向にあり、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどは良好な性質を示すが、製造時の乾燥性や吸湿性、経時安定性に劣る傾向がある。バランスが最も良い物質は、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンである。
乾燥組成物とする場合の組成としては、質量比で、特定のセルロース:水溶性高分子および/または親水性物質=50:50〜95:5の範囲が好ましい。より好ましくは、65:35〜90:10である。さらに、水溶性高分子と親水性物質の両方を同時に用いる場合には、特定のセルロースを57〜78質量%、水溶性高分子を5〜20質量%、親水性物質を12〜28質量%(合計で100質量%)とするのがよい。この範囲で水中での分散性がさらに改善された高分散性の乾燥組成物を得ることができる。
乾燥組成物は、特定のセルロースと、水溶性高分子および/または親水性物質とを所定量配合して、適当な撹拌・混合機を選択して充分に混合し、公知の方法で乾燥することで得られる。乾燥後の水分は、取り扱い性、経時安定性を考慮すれば、15質量%以下が好ましい。より好ましくは10質量%以下である。最も好ましくは6質量%以下である。
乾燥組成物は必要に応じて粉砕する。粉砕機としてはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが使用され、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕することが好ましい。より好ましくは目開き425μmの篩をほぼ全通し、かつ、平均としては10〜250μmとなるように粉砕する。この乾燥組成物は顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、またはシート状などを呈する。
この乾燥組成物は、水性媒体中に投入して機械的な剪断力を与えた時、粒子が容易に崩壊し、微細な繊維状のセルロースが水中によく分散する特徴がある。特に上記の組成範囲内であれば、水性媒体中での粒子の崩壊・分散性が良好で、高温での撹拌や強力な長時間の撹拌というような手間のかかる操作が不要となる。
前記の高分散性の乾燥組成物は、前述した通りに水中での分散性が特に優れ、0.01%塩化カルシウム水溶液中(硬度90相当)にて撹拌した場合にも、容易に粒子が崩壊・分散し、高粘度を発現する。その分散性の程度は、純水中で強力な条件で撹拌して発揮される粘度に対して、0.01%塩化カルシウム水溶液中に実用的な条件で撹拌した時の粘度の割合で表わすことができ、その値が50%以上となる。なお、0.01%塩化カルシウム水溶液での分散性の測定方法は後述する。
この乾燥組成物は、特定のセルロースをそのまま用いた場合と同様に、水中に分散した際に、微細な繊維状のセルロースが分散し、水中で安定に懸濁するセルロース成分が全セルロースに対して10質量%以上となり、さらに、0.5質量%の水分散液とした時の損失正接が1未満となるものである。
特定のセルロースまたは乾燥組成物は、上記成分の他に、懸濁安定性、風味や外観などの改善を目的として、デンプン類、油脂類、蛋白質類、食塩、各種リン酸塩などの塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素などの食品に使用できるその他の成分を、本発明の効果を損ねない範囲で適宜混合して、酸性乳食品に用いても良い。その他の成分の配合量は、合計で10質量%以下が好ましく、製造性、機能、価格などを適宜考慮して決定すればよい。
続いて以下に、酸性乳食品について説明する。本発明に言う酸性乳食品とは、乳成分を含み、乳酸菌で発酵して得られる食品および乳酸、クエン酸などの有機酸で酸性化された食品であり、その形態は固体でも液体でも構わない。特に、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、あるいは酸性乳飲料であることが好ましく、これらを含む食品であればよい。ハードヨーグルト、ソフトヨーグルトは、ブルガリア菌、サーモフィラス菌、ユグルティ菌、ビフィズス菌、アシドフィラス菌など通常使用される乳酸菌を1〜3%程度接種させて、発酵することで得られる。また酸性乳飲料としては、乳酸菌で発酵して得られるドリンクヨーグルト、発酵乳飲料などの乳飲料、あるいは乳原料に、乳酸、クエン酸などの有機酸を直接加えて得られる酸性化した乳飲料などを含む。
酸性乳食品に使用される乳成分原料としては、生乳、牛乳、濃縮乳、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、加工乳、クリーム、バターなどの乳製品が挙げられる。これに、本発明の効果に影響を与えない範囲で、一般に使用される他の原料を加えても良い。すなわち、砂糖、エリスリトール、サッカリン、アスパルテーム、スクラロースなどの甘味料、ポリデキストロース、酵素分解グアガムなどの食物繊維、香料、酸味料、色素、乳化剤などを含んでも良いし、その他にも、ココア粉末、抹茶粉末、カルシウム、鉄、マグネシウムなどの粉末、野菜繊維、果肉、野菜汁、果汁、フルーツソース、ごま、ゼリー粒などを含んでいても良い。さらに、ゼラチン、寒天、キサンタンガム、ローカストビンガム、グアーガム、カラギーナン、グルコマンナンなどの増粘多糖類を含んでも良い。
酸性乳食品中の乳成分原料の配合量は、常法に従えば良く、例えば、ハードヨーグルトやソフトヨーグルトであれば、無脂乳固形分8〜15質量%程度、乳脂肪分は0〜8質量%程度であり、酸性乳飲料であれば、無脂乳固形分0.1〜15質量%程度、乳脂肪分は0〜8質量%程度とするのが通常である。
また、酸性乳食品における特定のセルロースまたは乾燥組成物の配合量は、食品の形態、無脂乳固形分の含量などによって適宜変えることができるが、固形分として0.00005〜0.3質量%とするのが好ましい。特にハードヨーグルトやソフトヨーグルトに対しては、0.005〜0.2質量%とするのがより好ましい。0.005質量%以上で、セルロースのネットワーク構造が強くなり、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルトに適度な保形性やボディ感を付与することができる。また0.2質量%以下で、食感が良好となるため好ましい。さらに好ましくは0.01〜0.15質量%である。また、酸性乳飲料とする場合は、0.00005〜0.1質量%とするのが好ましい。0.00005質量%以上で、乳蛋白どうしの凝集を緩和することができ、安定化効果が得られる。また0.1質量%以下で食感が良くなり好ましい。より好ましくは0.0001〜0.05質量%であり、さらに好ましくは0.0005〜0.03質量%である。
酸性乳食品を酸性乳飲料とする場合は、特定のセルロースあるいは乾燥組成物に加え、増粘多糖類を用いる。増粘多糖類とは、冷水および/もしくは温水に溶解もしくは膨潤して粘性を付与する多糖類であり、これらを少量の特定のセルロース、あるいは乾燥組成物と併用して使用することで、酸性乳飲料の安定性を向上させることが可能となる。具体的にはアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ポリデキストロース、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を選択して使用することができる。中でも、アラビアガム、ペクチン、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を用いるのが好ましい。酸性乳飲料に対する増粘多糖類の配合量としては、0.01〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜1質量%である。
酸性乳食品を製造する場合には、特定のセルロースまたは乾燥組成物は、乳酸菌で発酵、あるいは有機酸などで酸性化する前の乳原材料に配合して、一緒に発酵あるいは酸性化工程を行っても良いし、発酵あるいは酸性化した後の乳原材料に後から配合するようにしても良い。
特定のセルロースは、そのままの状態で配合して酸性乳食品を製造する工程を経ればよいし、あらかじめ水あるいは温水中に投入して撹拌し、分散液を調製してから他の原材料に配合してもよい。乾燥組成物については、あらかじめ水あるいは温水中で撹拌して、分散液を調製してから他の原材料に配合するのが好ましい方法である。分散液調製時の方法としては、例えば高速回転型のホモジナイザーやピストン型高圧ホモジナイザー(10MPa以上)を用いることが好ましい。
次に、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。これらにより、ペクチンのような既存の安定剤では安定化できない高pH領域の酸性乳飲料において、特定のセルロースや乾燥組成物を配合することで、乳蛋白どうしの顕著な凝集が緩和され、系が安定化されることがわかる。なお、各種物性の測定は、以下の通りに行った。
<セルロース性物質の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のαセルロース含有量>
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
<セルロース性物質の結晶化度>
JIS K 0131−1996(「X線回折分析通則」)に規定されるX線回折装置で得られたX線回折図の回折強度値から、シーゲル法により算出したもので次式によって定義される。
結晶化度(%)={(Ic−Ia)/Ic}×100
ここで、Ic:X線回折図の回折角2θ=22.5度での回折強度、Ia:同じく回折角2θ=18.5度付近のベースライン強度(極小値強度)である。
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定する。
固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商品名、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散して分散液を調製する。
光学顕微鏡を使用する場合は、前記のセルロース繊維(粒子)の水分散液を適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察する。
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察する。
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察する。
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているものがあったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nmの繊維の観察時に使用したのだが、一本の繊維が長すぎて一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商品名、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)動的粘弾性測定装置にサンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
装置 :ARES(100FRTN1型)
(商品名、Rheometric Scientific,Inc.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度 :25℃
歪み :10%(固定)
周波数 :1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
(1)セルロース濃度が0.1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商品名、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて9800m/s2で5分間遠心分離する。
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の質量(a)を測定する。
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の質量(b)を測定する。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2)[質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース=d/f [配合比率]
w1=19.98−a+b−0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行う。
(3’)上層の液体部分を取得し、重量(a’)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の重量(b’)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
(水溶性高分子+親水性物質)/セルロース=d/f [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
もし、(3)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は適宜セルロース濃度を下げて操作を行う。
<0.01%塩化カルシウム水溶液分散性>
まず、「純水中で強力な条件で撹拌して発揮される粘度(Va)」の測定方法を説明する。
(1)固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商品名、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間(25℃)分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度(Va)を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
次に、「0.01%塩化カルシウム水溶液中に実用的な条件で撹拌した時の粘度(Vb)」の測定方法について説明する。
(4)固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと0.01%塩化カルシウム水溶液を量り取り、T.K.ホモミクサー MARK II(商品名、特殊機化工業(株)製)で8000rpm、10分間(25℃)分散する。
(5)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(6)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度(Vb)を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
(7)上記で得られた値と下記の式とを用いて「0.01%塩化カルシウム水溶液分散性」を算出する。
0.01%塩化カルシウム水溶液分散性[%]=(Vb/Va)×100
<ハードヨーグルトの食感、風味、外観の評価>
食感と風味は専門パネラーの官能試験により、外観は目視により評価した。評価の基準は以下の通りとした。
・食感
◎:口当たりが非常に滑らか
○:口当たりが滑らか
△:口当たりがやや悪い
×:口当たりが悪い
・風味
○:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー良好
△:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー少し薄い
×:全体的に味が薄い
・外観
◎:凝集・離水なし
○:凝集・離水極僅かにあり
△:凝集・離水少しあり
×:凝集・離水あり
<ソフトヨーグルトの食感、風味、外観の評価>
食感と風味は専門パネラーの官能試験により、外観は目視により評価した。評価の基準は以下の通りとした。
・食感
◎:適度なボディ感、口当たりが非常に滑らか
○:適度なボディ感、口当たりが滑らか
△:ボディ感・口当たりがやや悪い
×:ボディ感・口当たりが悪い
・風味
○:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー良好
△:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー少し薄い
×:全体的に味が薄い
・外観
◎:凝集・離水なし
○:凝集・離水極僅かにあり
△:凝集・離水少しあり
×:凝集・離水あり
<酸性乳飲料の食感、風味、外観、沈澱の評価>
食感と風味は専門パネラーの官能試験により、外観と沈澱は目視により評価した。評価の基準は以下の通りとした。
・食感
○:口当たりが滑らか
△:口当たりがやや悪い
×:口当たりが悪い
・風味
○:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー良好
△:酸味がマイルドで、ミルク味・フレーバー少し薄い
×:全体的に味が薄い
・外観
◎:凝集・離水なし
○:凝集・離水極僅かにあり
△:凝集・離水少しあり
×:凝集・離水あり
・沈殿
◎:沈殿なし
○:沈殿極僅かにあり
△:沈殿少しあり
×:沈殿あり
[実験例1]
特定のセルロースである微細な繊維状のセルロースAの調製例。市販木材パルプ(平均重合度=1710、α−セルロース含有量=93質量%)を、6×12mm角の矩形に裁断し、水で浸してカッターミル(URSCHEL LABORATORIES,Inc.製「コミトロール」、モデル1700、マイクロカットヘッド/ブレード間隙:2.029mm、インペラー回転数:9000rpm)に1回通した。
次いで2質量%になるようにカッターミル処理品と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は4回で、グラインダークリアランスを200→60→40→40μmと変えて処理した。
次いで得られた水分散液を水で希釈して1質量%にし、高圧ホモジナイザー(MFIC Corp.製「マイクロフルイダイザー」M−110Y型、処理圧力:110MPa)で8パスした。これを35000Gで30分間遠心分離し、上澄みを捨てて得た沈降物を濾紙に挟んで脱水し、水を82質量%含む微細な繊維状のセルロースAを得た。
微細な繊維状のセルロースAの結晶化度は82%、損失正接は0.21だった。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜400μm、短径が1〜10μm、長径/短径比が10〜300の微細な繊維状のセルロースが観察された。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は95質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が0.9〜20μm、短径が5〜100nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
[実験例2]
乾燥組成物Bの調製例。市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断した。次いでセルロース濃度が3質量%、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.176質量%となるように、それぞれと水を量り取り、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(商品名、「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で3回処理した。
次いで得られた水分散液を水で希釈して2質量%にし、高圧ホモジナイザー(商品名、「マイクロフルイダイザー」M−140K型、処理圧力110MPa)で4パスし、微細な繊維状のセルロースA’を得た。
微細な繊維状のセルロースA’の結晶化度は73%以上だった。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.32だった。「水中で安定に懸濁する成分」は99質量%だった。
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム=85:15(質量比)となるように、微細な繊維状のセルロースA’にカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:1700mPa・s)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名:T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、乾燥組成物Bを得た。
乾燥組成物Bの結晶化度は73%以上、損失正接は0.38、「水中で安定に懸濁する成分」は98質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜17μm、短径が10〜350nm、長径/短径比が20〜250のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は21%だった。
[実験例3]
高分散性の乾燥組成物Cの調製例。セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=64:17:18.7:0.3(質量比)となるように、実験例2で得た微細な繊維状のセルロースA’にカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s)とデキストリン(DE:28)とを添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名、T.K.オートホモミクサー M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPa、1パス処理した。
これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商品名、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性の乾燥組成物Cを得た。
高分散性の乾燥組成物Cの結晶化度は54%以上、損失正接は0.50、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。光学顕微鏡にて観察したところ、長径が10〜800μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の繊維状のセルロースが観察された。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が15〜200のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は63%だった。
比較例7、実施例2、3]
酸性乳食品としてハードヨーグルトを調整した。実験例1〜3で得られた微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれ用いて、3種類のハードヨーグルトを作成した。
まず水に、微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれ加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名、T.K.ホモミクサー MARK II)6000rpmで10分間(25℃)撹拌し、1質量%水分散液Aを3種類調製した。
この水分散液Aのいずれか5部(質量部。以下同じ)と、牛乳75部、脱脂粉乳3部、砂糖5部、水12部とを混合し、40℃に加温しながらプロペラ300rpmで10分撹拌し、ピストン型高圧ホモジナイザーで均質化処理(一次均質圧:10MPa、二次均質圧:5MPa)した。その後、80℃に加熱しながら30分間維持し(加熱殺菌処理)、さらに30℃まで冷却した。市販ダイレクトスターターの0.1%希釈液を3.2部配合し、スパチラで手撹拌し(乳酸菌接種)、容量100mlのプラスチックカップに充填した。これを40℃、8時間静置発酵し、pH4.9となった時点で10℃以下に冷却し発酵を終了させた。その後10℃以下で1週間冷蔵保存して、微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cにそれぞれ対応する3種類のハードヨーグルトa〜cを得た。ハードヨーグルトa〜c中の、微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cの配合量はいずれも固形分として0.05質量%、無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。
ハードヨーグルトa〜cをそれぞれ用いて、押し込み強度(不動工業(株)製「RHEO METER(NRM−2002J型)」、10mmφ球状アダプター使用、押し込み速度6cm/min)を測定し、離水の状況等を外観観察し、また、パネラーにより食感(なめらかさ、口溶け等)および風味(酸味、ミルク感等)について官能評価した。結果を表1に示す。ハードヨーグルトa〜cは、酸味がマイルドでミルク味やフレーバーが良好であり、かつ、保形性があって品質安定性に優れることがわかる。
[比較例1]
微細な繊維状のセルロースAを用いず、代わりに水を用いた以外は比較例7と同様にして、比較ハードヨーグルトdを試作した。ハードヨーグルトdの無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。これを用いて比較例7と同様に評価を行った。結果を表1に示す。ハードヨーグルトdでは、ヨーグルトのカード形成が充分でないために形状が保てず、食感も不均一で凝集や離水が生じた。
[比較例2]
安定剤としてゼラチンを用いて比較ハードヨーグルトeを作成した。まず温水にゼラチンを加え、プロペラ300rpmで10分間(60℃)撹拌し、5質量%ゼラチン水溶液を調製した。この5質量%ゼラチン水溶液6部を配合し、後は微細な繊維状のセルロースAを用いなかった以外は比較例7と同様にしてハードヨーグルトeを作成した。ハードヨーグルトe中のゼラチンの配合量は0.3質量%、無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。比較例7と同様に評価を行った。結果を表1に示す。ハードヨーグルトeでは、ゼラチンのゲル化効果により品質安定性は改善するものの、安定剤の配合量が多いために口当たりが重く、味が薄くなってしまった。
比較例8、実施例5、6]
酸性乳食品としてソフトヨーグルトを調整した。実験例1〜3で得られた微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれを用いて、3種類のソフトヨーグルトを作成した。
まず、水に微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれ加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名T.K.ホモミクサー MARK II)6000rpmで10分間(25℃)撹拌し、1質量%水分散液Bを3種類調製した。
この水分散液Bのいずれか5部と、牛乳75部、脱脂粉乳3部、砂糖5部、水12部とを混合し、40℃に加温しながらプロペラ300rpmで10分撹拌し、ピストン型高圧ホモジナイザーで均質化処理(一次均質圧:10MPa、二次均質圧:5MPa)した。その後、80℃に加熱しながら30分間維持し(加熱殺菌処理)、さらに30℃まで冷却した。市販ダイレクトスターターの0.1%希釈液を3.2部配合し、スパチラで手撹拌し(乳酸菌接種)、40℃、8時間静置発酵し、pH4.9となった時点で10℃以下に冷却して発酵を終了させると同時に、プロペラ300rpmで10分撹拌してカードを壊しソフトヨーグルトを作成した。その後10℃以下で1週間冷蔵保存して、ソフトヨーグルトa〜cを得た。ソフトヨーグルトa〜c中の微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cの配合量はいずれも固形分として0.05質量%、無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。
ソフトヨーグルトa〜cの粘度を、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計、60rpm)を用いて測定した。また離水などの外観を評価し、さらに専門パネラーにより食感(滑らかさ)および風味(酸味やミルクの味等)について官能評価した。結果を表2に示す。ソフトヨーグルトa〜cは、酸味がマイルドでミルク味やフレーバーが良好で、かつ、適度なボディ感があり品質安定性に優れることが分かる。
[実施例7]
ソフトヨーグルトの調整例。安定剤として実験例3で得た高分散性の乾燥組成物Cとゼラチンの両方を用いてソフトヨーグルトを作成した。まず、水に高分散性の乾燥組成物Cを加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名、T.K.ホモミクサー MARK II)6000rpmで10分間(25℃)撹拌し、1質量%水分散液Cを調製した。次に、温水にゼラチンを加え、プロペラ300rpmで10分間(60℃)撹拌し、5質量%ゼラチン水溶液を調製した。
この水分散液C3部とゼラチン水溶液2部を配合し、後は比較例8と同様にしてソフトヨーグルトdを作成した。ソフトヨーグルトd中の高分散性の乾燥組成物Cの配合量は、固形分として0.03質量%、ゼラチンは0.1質量%、無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。比較例8と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。ソフトヨーグルトdは、酸味がマイルドでミルク味やフレーバーが良好で、かつ、適度なボディ感があり品質安定性に優れることが分かる。
[比較例3]
微細な繊維状のセルロースAの代わりに水を用いた以外は比較例8と同様にして、比較ソフトヨーグルトeを作成した。ソフトヨーグルトeの無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。比較例8と同様にして評価を行った。結果を表2に示す。ソフトヨーグルトeは、ヨーグルトのカード形成が充分でないためにボディ感がなくシャバシャバしすぎとなり、食感も不均一で凝集や離水が生じた。
[比較例4]
安定剤としてゼラチンを用いて比較ソフトヨーグルトを作成した。まず温水にゼラチンを加え、プロペラ300rpmで10分間(60℃)撹拌し、5質量%ゼラチン水溶液を調製した。この5質量%ゼラチン水溶液6部配合して、後は微細な繊維状のセルロースAを用いなかった以外は比較例8と同様にしてソフトヨーグルトfを作成した。ソフトヨーグルトf中のゼラチンの配合量は0.3質量%、無脂乳固形分は9.2%、乳脂肪分は2.6%、pHは4.7だった。比較例8と同様に評価を行った。結果を表2に示す。ソフトヨーグルトfは、ゼラチンの増粘効果により品質安定性は改善するものの、安定剤の配合量が多いために口当たりが重く、味が薄くなり好ましくない。
比較例9、実施例9、10]
酸性乳飲料の調整例。実験例1〜3で得られた微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれ用いて、3種類の酸性乳飲料を作成した。
まず、水に微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cをそれぞれ加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業(株)製、商品名、T.K.ホモミクサー MARK II)6000rpmで10分間(25℃)撹拌し、1質量%水分散液Dを3種類調製した。次いで水にハイメトキシルペクチンを加え、10分間(80℃)加熱撹拌し、1.5質量%ペクチン水溶液を調製した。さらに水に脱脂粉乳と砂糖を混合して加え、10分間(60℃)加熱撹拌し、10質量%脱脂粉乳と20質量%砂糖の混合水溶液を調製した。
この水分散液Dのいずれかを0.1部、水19.9部、ペクチン水溶液20部、脱脂粉乳と砂糖の混合水溶液30部を混合し、次いで0.7質量%乳酸水溶液30部を加えて、プロペラ300rpmで10分撹拌(25℃)し、ピストン型高圧ホモジナイザーで均質化処理(一次均質圧:15MPa)した。その後、攪拌しながら90℃まで加熱し、酸性乳飲料a〜cを作成した。酸性乳飲料a〜c中の微細な繊維状のセルロースA、乾燥組成物B、高分散性の乾燥組成物Cの配合量はいずれも固形分として0.001質量%、ペクチンは0.3質量%、無脂乳固形分は3.0%だった。
10℃以下で1日冷蔵保存後の酸性乳飲料a〜cのpHは、いずれも4.9だった。次いで酸性乳飲料を振って均一にした後に、それぞれ以下の方法で粘度と粒径を測定した。まず粘度測定は、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計、60rpm)を用いて粘度を測定した。また、粒径測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−910、相対屈折率は1.20)を用いて粒度分布を測定し、積算体積50v%の粒径で表した。また、10℃以下で1週間冷蔵保存後の離水などの外観を評価し、さらに専門パネラーにより食感(滑らかさ)および風味(酸味やミルクの味等)について官能評価した。結果を表3に示す。
酸性乳飲料a〜cは、酸味がマイルドでミルク味やフレーバーが良好で、かつ、顕著な粘度増加もなくすっきりとした食感を有した。さらに、酸性乳飲料の粒径が小さく、離水・凝集・沈殿もなく非常に品質安定性に優れることが分かる。
[実施例11]
酸性乳飲料の他の調整例。実施例10における高分散性の乾燥組成物Cの配合量を、表3に記載のように0.01質量%に増加して酸性乳飲料を作成した。高分散性の乾燥組成物Cの水分散液Dを1部、水19部、ペクチン水溶液20部、脱脂粉乳と砂糖の混合水溶液30部を混合して、後は実施例10と同様にして酸性乳飲料dを作成した。酸性乳飲料d中の高分散性の乾燥組成物Cの配合量は、固形分として0.01質量%、ペクチンは0.3質量%、無脂乳固形分は3.0%だった。10℃以下で1日冷蔵保存後の酸性乳飲料dのpHは4.9だった。実施例10と同様にして評価を行った。結果を表3に示す。
酸性乳飲料dも、酸味がマイルドでミルク味やフレーバーが良好で、かつ、顕著な粘度増加もなくすっきりとした食感を有した。さらに、酸性乳飲料の粒径が小さく、離水・凝集・沈殿もなく非常に品質安定性に優れることが分かる。
[比較例5]
比較酸性乳飲料の例。微細な繊維状のセルロースAに代えて水を加えた以外は比較例9と同様に、水20部、ペクチン水溶液20部、脱脂粉乳と砂糖の混合水溶液30部を混合して比較酸性乳飲料eを作成した。酸性乳飲料e中のペクチンの配合量は0.3質量%、無脂乳固形分は3.0%だった。10℃以下で1日冷蔵保存後の酸性乳飲料eのpHは4.9だった。比較例9と同様にその他の評価を行った。結果を表3に示す。酸性乳飲料eは、pH4.9では乳蛋白どうしの凝集を防止できずに、系が不均一となり、食感が劣り、品質安定性が悪くなった。
[比較例6]
比較酸性乳飲料の例。微細な繊維状のセルロースAを配合せずに、ペクチン配合量を変えた以外は比較例9と同様にして、比較酸性乳飲料を作成した。ペクチン水溶液40部、脱脂粉乳と砂糖の混合水溶液30部を混合して酸性乳飲料fを作成した。酸性乳飲料f中のペクチンの配合量は0.6質量%、無脂乳固形分は3.0%だった。10℃以下で1日冷蔵保存後の酸性乳飲料fのpHは4.9だった。比較例9と同様にその他の評価を行った。結果を表3に示す。酸性乳飲料fは、ペクチンの配合量を増やしたにも係わらず、乳蛋白どうしの凝集を防止できなかった。さらにペクチンの顕著な増粘効果により、口当たりが非常に重く、味も悪くなり商品としては不適切なものとなった。
Figure 0004749363
Figure 0004749363
Figure 0004749363

Claims (5)

  1. セルロースと水溶性高分子または親水性物質を含有した酸性乳食品であり、前記セルロースと前記の水溶性高分子または親水性物質とがいったん乾燥組成物を形成したものであり、pHが4.6〜5.1であり、前記セルロースは、微細な繊維状で、水中で安定に懸濁する成分を0質量%以上含有し、かつ0.5質量%の水分散液とした時の損失正接が0.6未満のものであることを特徴とする酸性乳食品。
  2. 前記セルロースは、植物細胞壁を原料とし、結晶性で、かつ水中で安定に懸濁する成分を0質量%以上含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の酸性乳食品。
  3. ハードヨーグルトであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸性乳食品。
  4. ソフトヨーグルトであることを特徴とする請求項1または2に記載の酸性乳食品。
  5. さらに増粘多糖類を含有し、酸性乳飲料であることを特徴とする請求項1または2に記載の酸性乳食品。
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