JP2004206975A - 電界放射型電子源 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】電子通過部5は、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数のノンドープの多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3にそれぞれ重なる形で形成された複数の強電界ドリフト層6と、隣り合う強電界ドリフト層6間および隣り合う多結晶シリコン層3間を埋めるノンドープの多結晶シリコン層よりなる分離層16とで構成されている。下部電極12と絶縁性基板11との間に下部電極12から電子通過部5が剥れるのを防止する薄膜(例えば、ノンドープの多結晶シリコン、ノンドープのアモルファスシリコン、酸化シリコン、窒化シリコンなど)からなる剥れ防止層13を介在させてある。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界放射により電子線を放射するようにした電界放射型電子源に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ナノ結晶シリコン(ナノメータオーダのシリコン微結晶)を利用した電子デバイスとして図4や図5に示す構成の電界放射型電子源10’,10”が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図4に示す構成の電界放射型電子源10’は、導電性基板としてのn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されており、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。なお、図4に示す例では、n形シリコン基板1と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3を介在させてあり、多結晶シリコン層3と強電界ドリフト層6とで電子が通過する電子通過部を構成しているが、多結晶シリコン層3を介在させずに強電界ドリフト層6のみで電子通過部を構成したものも提案されている。
【0004】
図4に示す構成の電界放射型電子源10’から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図4中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、表面電極7の厚さは10〜15nm程度に設定されている。
【0005】
ところで、図4に示した構成の電界放射型電子源10’では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成しているが、図5に示すように、例えば絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に金属薄膜よりなる下部電極12を形成した電界放射型電子源10”も提案されている。ここに、上述の図4に示した電界放射型電子源10’と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0006】
図5に示す構成の電界放射型電子源10”から電子を放出させるには、例えば、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。ここに、直流電圧Vpsを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図5中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0007】
上述の各電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図4および図5参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10’,10”では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
【0008】
ところで、図5に示す構成の電界放射型電子源10”を製造する場合には、例えば、絶縁性基板11の一表面上に下部電極12をスパッタ法などにより形成した後、絶縁性基板11の一表面側の全面にプラズマCVD法などによって400℃以上の基板温度でノンドープの多結晶シリコン層3を形成し(図6(a)参照)、その後、多結晶シリコン層3を所定深さまで陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層4’を形成し(図6(b)参照)、多孔質多結晶シリコン層4’を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することで強電界ドリフト層6を形成し(図6(c)参照)、続いて、強電界ドリフト層6上に表面電極7を蒸着法などによって形成している(図6(d)参照)。
【0009】
また、図5に示した電界放射型電子源10”をディスプレイの電子源とし応用する場合には、例えば図7に示す構成を採用すればよい。
【0010】
図7に示すディスプレイは、電界放射型電子源10に対向して平板状のガラス基板よりなるフェースプレート30が配置され、フェースプレート30における電界放射型電子源10との対向面には透明な導電膜(例えば、ITO膜)よりなるコレクタ電極(以下、アノード電極と称す)21が形成されている。また、アノード電極21における電界放射型電子源10との対向面には、画素ごとに形成された蛍光物質と蛍光物質間に形成された黒色材料からなるブラックストライプとが設けられている。ここに、蛍光物質はアノード電極21における電界放射型電子源10との対向面に塗布されており、電界放射型電子源10から放射される電子線によって可視光を発光する。なお、蛍光物質には電界放射型電子源10から放射されアノード電極21に印加された電圧によって加速された高エネルギの電子が衝突するようになっており、蛍光物質としてはR(赤色),G(緑色),B(青色)の各発光色のものを用いている。また、フェースプレート30は図示しない矩形枠状のフレームによって電界放射型電子源10と離間させてあり、フェースプレート30と電界放射型電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
【0011】
図7に示した電界放射型電子源10は、絶縁性を有するガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極12と、下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3にそれぞれ重なる形で形成された酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる複数の強電界ドリフト層6と、隣り合う強電界ドリフト層6間および隣り合う多結晶シリコン層3間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離層16と、強電界ドリフト層6および分離層16の上で強電界ドリフト層6および分離層16に跨って下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7とを備えている。ここにおいて、図7に示す電界放射型電子源10では、強電界ドリフト層6と多結晶シリコン層3と分離層16とで電子通過部5を構成しており、図8に示すように、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極12と絶縁性基板11の一表面に平行な面内で下部電極12に直交する方向に列設された複数の表面電極7とで電子通過部5を挟んでいる。なお、強電界ドリフト層6と下部電極12との間に多結晶シリコン層3を介在させずに強電界ドリフト層6と分離層16とで電子通過部5を構成したものも提案されている。
【0012】
この電界放射型電子源10では、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7との交点に相当する部位に強電界ドリフト層6の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、強電界ドリフト層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数の表面電極7の群と複数の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3上の強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。なお、上述の記載から分かるように、電子源素子10aは画素ごとに設けられることになる。
【0013】
図7に示す構成の電界放射型電子源10は、絶縁性基板11の一表面上に複数の下部電極12を形成した後、絶縁性基板11の上記一表面側の全面にプラズマCVD法や減圧CVD法などによって400℃以上(例えば、400℃〜600℃)の基板温度でノンドープの多結晶シリコン層3を成膜し、その後、多結晶シリコン層3のうち下部電極12に重なる部分をフッ化水素水溶液を含む電解液中で陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよび多数のナノメータオーダのシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成し、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法ないし電気化学的な酸化方法によって酸化することで強電界ドリフト層6を形成している。ここに、強電界ドリフト層6は、多結晶シリコンのグレイン、多数のナノメータオーダのシリコン微結晶、各グレインの表面に形成された薄いシリコン酸化膜、各シリコン微結晶の表面に形成されたシリコン酸化膜とを有している。
【0014】
【特許文献1】
特許第2987140号公報(第4頁−第7頁、図1−図3)
【特許文献2】
特許第3112456号公報(第10頁−第14頁、図1、図2、図8、図9)
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、図7に示した構成の電界放射型電子源10では、絶縁性基板11として下部電極12上に成膜する半導体層(多結晶シリコン層3)の材料であるシリコンに比べて熱膨張係数の大きなソーダガラス基板やプラズマディスプレイ用に開発された所謂高歪み点ガラス基板を用いた場合、陽極酸化処理時に多結晶シリコン層3あるいは多孔質多結晶シリコン層4’が下部電極12から剥れてしまい歩留まりが低下してしまうという問題があった。また、製造後にあっても電子通過部5が下部電極12から剥れてしまうことがあり、信頼性が低いという問題があった。
【0016】
このように多結晶シリコン層3や多孔質多結晶シリコン層4’が下部電極12から剥れてしまう原因としては、絶縁性基板11と下部電極12と多結晶シリコン層3との熱膨張係数差に起因した膨張収縮が考えられる。
【0017】
すなわち、絶縁性基板11の一表面側の全面に多結晶シコン層3を成膜している時には絶縁性基板11が熱膨張した状態になっており、多結晶シコン層3の成膜後に基板温度を室温に戻すと絶縁性基板11は元のサイズに縮小するが、多結晶シリコン層3よりも絶縁性基板11の方が収縮量が大きいので、多結晶シリコン層3には圧縮応力が残留することになる。ここに、フッ化水素水溶液を含む電解液中にて多結晶シリコン層3を陽極酸化処理する前は下部電極12と多結晶シリコン層3との密着力によって多結晶シリコン層3は剥れないが、陽極酸化処理を行うと、例えば多結晶シリコン層3の欠陥を通して多結晶シリコン層3の深さ方向へ侵入した電解液により下部電極12が腐食され、その腐食された部分を起点として多結晶シリコン層3の剥れが発生する。また、多結晶シリコン層3に特に欠陥がなくても、陽極酸化処理を行ったことで下部電極12との密着性が低下し、下部電極12から剥がれやすくなる。
【0018】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、電子通過部が下部電極から剥がれるのを防止できる電界放射型電子源を提供することにある。
【0019】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなることを特徴とするものであり、電子通過部が下部電極から剥がれるのを防止できる。
【0020】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記絶縁性基板の熱膨張係数が前記半導体層の熱膨張係数よりも大きく、前記剥れ防止層の熱膨張係数が前記絶縁性基板の熱膨張係数よりも小さいので、前記半導体層内に発生する圧縮応力を緩和することができ、前記下部電極からの前記電子通過部の剥れが発生しにくくなる。
【0021】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記剥れ防止層となる前記薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されてなるので、前記剥れ防止層を前記半導体層よりも低温で成膜する場合に比べて前記剥れ防止層に発生する圧縮応力が大きくなって前記半導体層に発生する圧縮応力が小さくなり、前記下部電極からの前記電子通過部の剥れがより発生しにくくなる。
【0022】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記剥れ防止層は、前記下部電極よりも前記絶縁性基板との密着性が高い材料により形成されてなるので、前記電子通過部の剥れの発生をより抑制することができ、長期的な信頼性を高めることができる。
【0023】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記絶縁性基板がシリコンに比べて熱膨張係数の大きなガラス基板であって、前記剥れ防止層は、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンの群から選択される材料からなるので、前記剥れ防止層を一般的な半導体製造プロセスで形成することができる。
【0024】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記半導体微結晶が前記半導体層であるシリコン層をフッ化水素水溶液を含む電解液中でナノ結晶化することにより形成されたシリコン微結晶であって、前記剥れ防止層は、前記電解液に対して耐腐食性を有する材料により形成されてなるので、前記剥れ防止層が前記半導体微結晶の形成時に前記電解液によって腐食されるのを防止することができ、長期的な信頼性をより高めることができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図7に示した従来構成と略同じであって、図1に示すように、絶縁性を有するガラス基板(例えば、ソーダガラス基板、高歪み点ガラス基板)よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面側において列設された複数の下部電極12と、絶縁性基板11の上記一表面に平行な面内で下部電極12に直交する方向に列設された複数の表面電極7と、絶縁性基板11の上記一表面側に設けられた電子通過部5とを備えている。ここにおいて、電子通過部5は、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数のノンドープの多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3にそれぞれ重なる形で形成された複数の強電界ドリフト層6と、隣り合う強電界ドリフト層6間および隣り合う多結晶シリコン層3間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離層16とで構成されている。
【0026】
下部電極12は金属材料からなる単層(例えば、W,Mo,Cr,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる単層)の金属薄膜をパターニングすることにより構成されているが、多層(例えば、W,Mo,Cr,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる多層)の薄膜をパターニングすることにより構成してもよい。なお、下部電極12の厚さは3000Å程度に設定されている。
【0027】
また、表面電極7の材料には仕事関数の小さな材料(例えば、金)が採用されているが、表面電極7の材料は金に限定されるものではなく、また、表面電極7は単層構造に限らず、多層構造としてもよい。表面電極7の厚さは強電界ドリフト層6を通ってきた電子がトンネルできる厚さであればよく、10〜15nm程度に設定すればよい。なお、各下部電極12および各表面電極7はそれぞれ短冊状に形成されており、絶縁性基板11の厚み方向において表面電極7の一部が下部電極12と対向している。また、各下部電極12の長手方向の両端部上にはパッド28が形成され、各表面電極7の長手方向の両端部上にはパッド27が形成されている。
【0028】
本実施形態の電界放射型電子源10は、図7に示した従来構成と同様に、絶縁性基板11の一表面側において列設された複数の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7との交点に相当する部位に強電界ドリフト層6の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、強電界ドリフト層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数の表面電極7の群と複数の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3上の強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。したがって、表面電極7は必ずしも短冊状に形成する必要はなく、電子源素子10aに対応する部位にのみ形成して下部電極12に直交する方向に並んだ表面電極7を低抵抗のバス電極により電気的に接続するようにしてもよい。
【0029】
強電界ドリフト層6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図2に示すように、少なくとも、下部電極12の表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜である多数のシリコン酸化膜(絶縁膜)64とから構成されると考えられる。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0030】
本実施形態の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加することにより、下部電極12から強電界ドリフト層6へ電子e−が注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e−はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図2中の矢印の向き(図2における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0031】
ところで、本実施形態の電界放射型電子源10は、下部電極12と絶縁性基板11との間に下部電極12から電子通過部5が剥れるのを防止する薄膜(例えば、ノンドープの多結晶シリコン、ノンドープのアモルファスシリコン、酸化シリコン、窒化シリコンなど)からなる剥れ防止層13を介在させている点に特徴がある。剥れ防止層13については電界放射型電子源10の製造方法を説明した後で更に説明する。
【0032】
以下、本実施形態の電界放射型電子源10の製造方法について図3を参照しながら説明する。ただし、図3には1つの電子源素子10aに対応する部分の断面を示してある。
【0033】
まず、剥れ防止層13を形成するために所定厚さ(例えば、2.8mm)の絶縁性基板11の上記一表面上に所定膜厚(例えば、1000Å)のノンドープの多結晶シリコン層からなる薄膜をプラズマCVD法によって所定の成膜温度(例えば、450℃)で成膜し、次に、下部電極12を形成するために上記薄膜上に所定膜厚(例えば、3000Å)の金属薄膜(例えば、タングステン膜)をスパッタ法によって形成した後、金属薄膜上にフォトレジスト層を塗布形成し、金属薄膜のうち下部電極12となる部分を残すためにフォトレジスト層をフォトリソグラフィ技術を利用してパターニングしてから、フォトレジスト層をマスクとして金属薄膜および上記薄膜を反応性イオンエッチング法によってパターニングすることでそれぞれ金属薄膜の一部からなる複数の下部電極12およびそれぞれ上記薄膜の一部からなる複数の剥れ防止層13を形成し、続いて、フォトレジスト層を除去してから、絶縁性基板11の上記一表面側の全面に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3をプラズマCVD法によって所定の成膜温度(例えば、450℃)で成膜することにより、図3(a)に示す構造が得られる。なお、本実施形態では、多結晶シリコン層3が絶縁性基板11の上記一表面側に成膜した半導体層を構成している。
【0034】
ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、上述のナノ結晶化プロセスを行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図2参照)と多数のシリコン微結晶63(図2参照)とが混在する複合ナノ結晶層(以下、第1の複合ナノ結晶層と称す)4を強電界ドリフト層6の形成予定部位に形成することにより、図3(b)に示す構造が得られる。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において多結晶シリコン層3に白金電極よりなる陰極を対向配置して、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層3の主表面に光照射を行いながら、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm2の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含む第1の複合ナノ結晶層4を多結晶シリコン層3において下部電極12に重なる部位に形成する。
【0035】
ナノ結晶化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことで第1の複合ナノ結晶層4を電気化学的に酸化することによって、図2のような構成の複合ナノ結晶層(以下、第2の複合ナノ結晶層と称す)からなる強電界ドリフト層6を多結晶シリコン層3において下部電極12に重なる部位に形成することにより、図3(c)に示す構造が得られる。酸化プロセスでは、エチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液よりなる電解液を用い、下部電極12を陽極とし、電解液中において第1の複合ナノ結晶層4に白金電極よりなる陰極を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極と陰極との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cm2の電流)を流し陽極と陰極との間の電圧が20Vだけ上昇するまで第1の複合ナノ結晶層4を電気化学的に酸化することによって、上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む第2の複合ナノ結晶層からなる強電界ドリフト層6を形成するようになっている。ここにおいて、多結晶シリコン層3のうち隣り合う強電界ドリフト層6の間を埋める部分が上述の分離層16となる。なお、本実施形態では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される第1の複合ナノ結晶層4においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、強電界ドリフト層6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセスの条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の第1の複合ナノ結晶層4は多孔質多結晶シリコン層4’(図6参照)と同じ構成とみなすことができる。
【0036】
強電界ドリフト層6および分離層16を形成した後は、例えば蒸着法などによって金薄膜からなる表面電極7を形成することにより、図3(d)に示す構造(つまり、図1に示す構造)の電界放射型電子源10が得られる。
【0037】
以上説明した製造方法にて製造した本実施形態の電界放射型電子源10は、下部電極12と絶縁性基板11との間に剥れ防止層13を介在させてあることにより、製造時に電子通過部5ないし電子通過部5となる部分が従来に比べて剥がれにくくなるので、製造時の歩留まりが向上し、製造コストを低減することができ、電界放射型電子源10の低コスト化を図ることができる。また、製造後においても電子通過部5が下部電極12から剥がれるのを防止することができ、長期的な信頼性を高めることができる。
【0038】
ここにおいて、本実施形態の電界放射型電子源10では、絶縁性基板11としてソーダガラス基板や高歪み点ガラスを採用した場合、絶縁性基板11の熱膨張係数が半導体層たる多結晶シリコン層3の熱膨張係数よりも大きくなっており、下部電極12と絶縁性基板11との間に剥れ防止層13を介在させることにより電子通過部5ないし電子通過部5となる部分の剥れが防止される要因としては、下部電極12と絶縁性基板11との間に剥れ防止層13を介在させたことで半導体層たる多結晶シリコン層3に発生する圧縮応力が剥れ防止層13を介在させていない場合に比べて緩和されていることが考えられる。つまり、剥れ防止層13が電子通過部5ないし電子通過部5となる部分に発生する応力を緩和する応力緩和層として機能していることが考えられ、剥れ防止層13の熱膨張係数を絶縁性基板11の熱膨張係数よりも小さくすることで半導体層たる多結晶シリコン層3内に発生する圧縮応力を緩和することができ、電子通過部5が下部電極12から剥れるのを防止することができるものと考えられる。なお、剥れ防止層13の膜厚は薄すぎると剥れ防止の効果が少ないので、500Å以上に設定することが望ましい。
【0039】
また、本実施形態では、剥れ防止層13を半導体層たる多結晶シリコン層3の成膜温度(基板温度)と同じ成膜温度で成膜しているので、剥れ防止層13を多結晶シリコン層3に比べて低温で成膜する場合に比べて剥れ防止層13に発生する圧縮応力が大きくなって多結晶シリコン層3に発生する圧縮応力が小さくなり、下部電極12からの電子通過部5の剥れがより発生しにくくなる。ここに、剥れ防止層13の成膜温度を半導体層たる多結晶シリコン層3の成膜温度よりも高くしてもよく、この場合にも下部電極12からの電子通過部5の剥れがより発生しにくくなる。また、剥れ防止層13は、下部電極12よりも絶縁性基板11との密着性が高い材料(例えば、酸化シリコン)により形成することが好ましく、このような材料を採用することにより、電子通過部5の剥れの発生をより抑制することができ、長期的な信頼性を高めることができる。また、剥れ防止層13の材料として、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンの群から選択される材料を採用することで、剥れ防止層13を一般的な半導体製造プロセス(例えば、CVD法など)で形成することができる。また、本実施形態では、半導体微結晶たるシリコン微結晶63が上記半導体層であるシリコン層(多結晶シリコン層3)をフッ化水素水溶液を含む電解液中でナノ結晶化することにより形成されており、ナノ結晶化プロセス中に多結晶シリコン層3の欠陥から侵入した電解液によって剥れ防止層13が侵食される恐れがあるので、剥れ防止層13の材料としては、上記電解液に対して耐腐食性を有する材料を採用することが好ましく、剥れ防止層13の材料として上記電解液に対して耐腐食性を有する材料を採用することにより、シリコン微結晶63を形成するナノ結晶化プロセス中に上記電解液によって剥れ防止層13が腐食されるのを防止することができ、長期的な信頼性をより高めることができる。
【0040】
なお、下部電極12を不純物がドーピングされた多結晶シリコン層により形成するようにすれば、下部電極12が金属薄膜により形成されている場合に比べて、下部電極12から電子通過部5が剥がれにくくなるが、一般的に不純物をドーピングした多結晶シリコン層は金属薄膜に比べれば同一膜厚での抵抗が高いので、下部電極12を不純物がドーピングされた多結晶シリコン層により形成すると、下部電極12での電圧降下が大きくなって、電界放射型電子源10の中央部と周辺部とで電子源素子10aの強電界ドリフト層6にかかる電圧にばらつきが発生してしまい、ディスプレイの電子源として応用した場合にディスプレイの輝度の面内ばらつきの原因となる。これに対して、本実施形態では、下部電極12を金属薄膜により形成しながらも電子通過部5の剥れを防止することができるので、下部電極12での電圧降下を抑制することができ、電界放射型電子源10をディスプレイの電子源として応用した場合にディスプレイの輝度の面内ばらつきを抑制することが可能となる。
【0041】
ところで、本実施形態では、多結晶シリコン層3に対してナノ結晶化プロセスを行って、その後、酸化プロセスを行うことにより強電界ドリフト層6を形成しているが、多結晶シリコン層3の代わりに他の半導体層を採用してもよい。また、本実施形態では、シリコン酸化膜64が絶縁膜を構成しており絶縁膜の形成に酸化プロセスを採用しているが、酸化プロセスの代わりに窒化プロセスないし酸窒化プロセスを採用してもよく、窒化プロセスを採用した場合には図2にて説明した各シリコン酸化膜52,64がいずれもシリコン窒化膜となり、酸窒化プロセスを採用した場合には各シリコン酸化膜52,64がシリコン酸窒化膜となる。
【0042】
【発明の効果】
請求項1の発明は、絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなるものであり、電子通過部が下部電極から剥がれるのを防止できるという効果がある。
【0043】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記絶縁性基板の熱膨張係数が前記半導体層の熱膨張係数よりも大きく、前記剥れ防止層の熱膨張係数が前記絶縁性基板の熱膨張係数よりも小さいので、前記半導体層内に発生する圧縮応力を緩和することができ、前記下部電極からの前記電子通過部の剥れが発生しにくくなるという効果がある。
【0044】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記剥れ防止層となる前記薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されてなるので、前記剥れ防止層を前記半導体層よりも低温で成膜する場合に比べて前記剥れ防止層に発生する圧縮応力が大きくなって前記半導体層に発生する圧縮応力が小さくなり、前記下部電極からの前記電子通過部の剥れがより発生しにくくなるという効果がある。
【0045】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3の発明において、前記剥れ防止層は、前記下部電極よりも前記絶縁性基板との密着性が高い材料により形成されてなるので、前記電子通過部の剥れの発生をより抑制することができ、長期的な信頼性を高めることができるという効果がある。
【0046】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記絶縁性基板がシリコンに比べて熱膨張係数の大きなガラス基板であって、前記剥れ防止層は、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンの群から選択される材料からなるので、前記剥れ防止層を一般的な半導体製造プロセスで形成することができるという効果がある。
【0047】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項4の発明において、前記半導体微結晶が前記半導体層であるシリコン層をフッ化水素水溶液を含む電解液中でナノ結晶化することにより形成されたシリコン微結晶であって、前記剥れ防止層は、前記電解液に対して耐腐食性を有する材料により形成されてなるので、前記剥れ防止層が前記半導体微結晶の形成時に前記電解液によって腐食されるのを防止することができ、長期的な信頼性をより高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態を示し、一部破断した概略斜視図である。
【図2】同上の要部概略構成図である。
【図3】同上の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図4】従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図5】他の従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図6】同上の電界放射型電子源の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図7】同上を応用したディスプレイの概略構成図である。
【図8】同上を応用したディスプレイにおける電界放射型電子源の概略斜視図である。
【符号の説明】
3 多結晶シリコン層
5 電子通過部
6 強電界ドリフト層
7 表面電極
10 電界放射型電子源
11 絶縁性基板
12 下部電極
13 剥れ防止層
16 分離層
63 シリコン微結晶
64 シリコン酸化膜
Claims (6)
- 絶縁性基板と、絶縁性基板の一表面側においてパターニングされた金属材料からなる下部電極と、絶縁性基板の厚み方向において下部電極に対向する表面電極と、絶縁性基板の前記一表面側に設けられ下部電極と表面電極とで挟まれた部分に多数のナノメータオーダの半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成された半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の多数の絶縁膜を有する電子通過部とを備え、半導体微結晶が絶縁性基板の前記一表面側に成膜した半導体層の一部をナノ結晶化することにより形成され、下部電極と絶縁性基板との間に下部電極から電子通過部が剥れるのを防止する薄膜からなる剥れ防止層を介在させてなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 前記絶縁性基板の熱膨張係数が前記半導体層の熱膨張係数よりも大きく、前記剥れ防止層の熱膨張係数が前記絶縁性基板の熱膨張係数よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の電界放射型電子源。
- 前記剥れ防止層となる前記薄膜は、前記半導体層の成膜温度と同じか或いはより高い成膜温度で成膜されてなることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電界放射型電子源。
- 前記剥れ防止層は、前記下部電極よりも前記絶縁性基板との密着性が高い材料により形成されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電界放射型電子源。
- 前記絶縁性基板がシリコンに比べて熱膨張係数の大きなガラス基板であって、前記剥れ防止層は、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、酸化シリコン、窒化シリコンの群から選択される材料からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電界放射型電子源。
- 前記半導体微結晶が前記半導体層であるシリコン層をフッ化水素水溶液を含む電解液中でナノ結晶化することにより形成されたシリコン微結晶であって、前記剥れ防止層は、前記電解液に対して耐腐食性を有する材料により形成されてなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電界放射型電子源。
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