JP3963121B2 - 陽極酸化方法、電気化学酸化方法、電界放射型電子源およびその製造方法 - Google Patents
陽極酸化方法、電気化学酸化方法、電界放射型電子源およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体の陽極酸化を行う陽極酸化方法、半導体の電気化学酸化を行う電気化学酸化方法、電界放射型電子源およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、半導体を多孔質化したり半導体の表面に酸化膜を形成する技術として湿式の陽極酸化方法が知られており、半導体の表面に酸化膜を形成する技術として電気化学反応を利用した電気化学酸化方法が知られており、近年では、湿式の陽極酸化方法および電気化学酸化方法を含むプロセスにより形成された電界放射型電子源が提案されている。
【0003】
この種の電界放射型電子源10は、例えば、図10に示すように導電性基板としてのn形シリコン基板1の主表面(一表面)側に酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる強電界ドリフト層6が形成され、強電界ドリフト層6上に金属薄膜(例えば、金薄膜)よりなる表面電極7が形成されている。また、n形シリコン基板1の裏面にはオーミック電極2が形成されており、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成している。なお、図10に示す例では、n形シリコン基板1と強電界ドリフト層6との間にノンドープの多結晶シリコン層3を介在させてあるが、多結晶シリコン層3を介在させずにn形シリコン基板1の主表面上に強電界ドリフト層6を形成した構成も提案されている。
【0004】
図10に示す構成の電界放射型電子源10から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図10中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、表面電極7の厚さは10〜15nm程度に設定されている。
【0005】
ところで、図10に示した構成の電界放射型電子源10では、n形シリコン基板1とオーミック電極2とで下部電極12を構成しているが、図11に示すように、例えばガラス基板よりなる絶縁性基板11の一表面上に金属材料よりなる下部電極12を形成した電界放射型電子源10も提案されている。ここに、上述の図10に示した電界放射型電子源10と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0006】
図11に示す構成の電界放射型電子源10から電子を放出させるには、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図11中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0007】
上述の各電界放射型電子源10,10では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図10および図11参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。なお、上述の電界放射型電子源10,10では、表面電極7と下部電極12との間に印加する直流電圧Vpsを10〜20V程度の低電圧としても電子を放出させることができ、直流電圧Vpsが大きいほどエミッション電流Ieが大きくなる。
【0008】
また、図11に示した電界放射型電子源10をディスプレイの電子源とし応用する場合には、例えば図12に示す構成を採用すればよい。
【0009】
図12に示すディスプレイは、電界放射型電子源10に対向して平板状のガラス基板よりなるフェースプレート30が配置され、フェースプレート30における電界放射型電子源10との対向面には透明な導電膜(例えば、ITO膜)よりなるコレクタ電極(以下、アノード電極と称す)21が形成されている。また、アノード電極21における電界放射型電子源10との対向面には、画素ごとに形成された蛍光物質と蛍光物質間に形成された黒色材料からなるブラックストライプとが設けられている。ここに、蛍光物質はアノード電極21における電界放射型電子源10との対向面に塗布されており、電界放射型電子源10から放射される電子線によって可視光を発光する。なお、蛍光物質には電界放射型電子源10から放射されアノード電極21に印加された電圧によって加速された高エネルギの電子が衝突するようになっており、蛍光物質としてはR(赤色),G(緑色),B(青色)の各発光色のものを用いている。また、フェースプレート30は図示しない矩形枠状のフレームによって電界放射型電子源10と離間させてあり、フェースプレート30と電界放射型電子源10との間に形成される気密空間を真空にしてある。
【0010】
図12に示した電界放射型電子源10は、ガラス基板よりなる絶縁性基板11と、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極12と、下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3にそれぞれ重なる形で形成された酸化した多孔質多結晶シリコン層よりなる複数の強電界ドリフト層6と、隣り合う強電界ドリフト層6間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離層16と、強電界ドリフト層6および分離層16の上で強電界ドリフト層6および分離層16に跨って下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7とを備えている。
【0011】
この電界放射型電子源10では、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数の表面電極7との交点に相当する部位に強電界ドリフト層6の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、強電界ドリフト層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数の表面電極7の群と複数の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3上の強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。なお、上述の記載から分かるように、電子源素子10aは画素ごとに設けられることになる。
【0012】
上述の各電界放射型電子源10の製造プロセスにおいて強電界ドリフト層6を形成するにあたっては、下部電極12の一表面側にノンドープの多結晶シリコン層を形成する成膜工程と、多結晶シリコン層を陽極酸化することにより多結晶シリコンのグレインおよびシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層を形成する陽極酸化処理工程と、多孔質多結晶シリコン層を急速加熱法によって急速熱酸化してグレインおよびシリコン微結晶の表面にそれぞれ薄いシリコン酸化膜を形成する酸化工程とを有している。
【0013】
陽極酸化処理工程では、陽極酸化に用いる電解液としてフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液を用いている。また、酸化工程では、例えば、ランプアニール装置を用い、基板温度を乾燥酸素中で室温から900℃まで短時間で上昇させた後、基板温度を900℃で1時間維持することで酸化し、その後、基板温度を室温まで下降させている。
【0014】
ところで、上述の陽極酸化処理工程において用いられる陽極酸化装置としては、図13(a)に示す構成のものが提案されている。すなわち、フッ化水素水溶液とエタノールとの混合液からなる電解液Bを入れた処理槽41と、処理槽41内の電解液Bに浸漬された格子状の白金電極からなる陰極42とを備え、下部電極12上に多結晶シリコン層が形成された被処理物Cを電解液Bに浸漬し下部電極12を陽極として利用するようになっている。また、この陽極酸化装置は、下部電極12を陽極として陽極と陰極42との間に陽極を高電位側として通電する通電手段としてのガルバノスタットよりなる電源43と、被処理物Cの主表面側(つまり、多結晶シリコン層の表面側)に光を照射するためのタングステンランプよりなる光源(図示せず)とを備えている。ここにおいて、図13(b)に示すように、陰極42の外形寸法は多結晶シリコン層における対象領域Eと同じ外形寸法に設定してある。なお、被処理物Cは半導体層である多結晶シリコン層における所望の対象領域Eのみが電解液Bに接するようにシールないしマスクされている。
【0015】
したがって、この陽極酸化装置を用いて、陽極と陰極42との間に定電流を流す陽極酸化方法を利用することにより、多結晶シリコン層における対象領域Eが表面から深さ方向に向かって多孔質化され多結晶シリコンのグレインおよびシリコン微結晶を含む多孔質多結晶シリコン層が形成される。なお、図12に示す構成の電界放射型電子源10を製造する場合には、図14に示すように絶縁性基板11の一表面側に複数本の下部電極12を列設した後で絶縁性基板11の一表面側に多結晶シリコン層3を形成し、多結晶シリコン層3のうち下部電極12に重なる領域を陽極酸化すればよい。なお、下部電極12には下部電極12から連続一体に延長された電流導入用の配線12aを通して電流が流れる。
【0016】
また、上述の製造方法で説明した酸化工程では、急速加熱法による急速熱酸化を行っているが、全てのシリコン微結晶およびグレインの表面に良好な膜質のシリコン酸化膜を形成することを目的として、硫酸、硝酸などの水溶液からなる電解液(電解質溶液)中にて多孔質多結晶シリコン層を電気化学的に酸化する方法(電気化学酸化方法)を酸化工程に採用することが提案されている。ここに、多孔質多結晶シリコン層を電気化学的に酸化するにあたっては、上述の陽極酸化装置における電解液Bを例えば硫酸の水溶液からなる電解液Bに入れ替えて、陽極と陽極42との間に電源43から電流を流すことによって対象領域Eの多孔質多結晶シリコン層を電気化学的に酸化してシリコン微結晶およびグレインの表面にシリコン酸化膜を形成することができる。
【0017】
なお、多孔質多結晶シリコン層を電気化学的に酸化する方法を採用することにより、多孔質多結晶シリコン層を急速熱酸化して強電界ドリフト層6を形成する場合に比べてプロセス温度を低温化することができ、基板の材料の制約が少なくなり、電界放射型電子源10の大面積化および低コスト化を図れるという利点もある。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の陽極酸化方法および電気化学酸化方法を利用して製造した電界放射型電子源10では、エミッション電流Ieの面内ばらつきが大きいという不具合があった。つまり、上述のような陽極酸化方法および電気化学酸化方法を利用して製造した電子デバイスでは、特性の面内ばらつきが大きいという不具合があった。このような特性の面内ばらつきが大きくなる原因としては、上述の図13に示したように、陰極42の外形寸法を多結晶シリコン層における対象領域Eと同じ外形寸法に設定してあるので、電解液Bを介して図13中の矢印で示すような経路で電流が流れ、対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるためであると考えられる。
【0019】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、請求項1の発明の目的は、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる陽極酸化方法を提供することにあり、請求項2の発明の目的は、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる電気化学酸化方法を提供することにあり、また、請求項3〜6の発明の目的は、従来に比べてエミッション電流の面内ばらつきを小さくすることが可能な電界放射型電子源およびその製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、陽極酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する陽極酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御することを特徴とし、陽極酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0024】
また、請求項1の発明は、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極の形状を変更することなしに陽極酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0025】
請求項2の発明は、電気化学酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する電気化学酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御することを特徴とし、電気化学酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0029】
また、請求項2の発明は、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極の形状を変更することなしに電気化学酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0030】
請求項3の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、急速加熱法により絶縁膜が形成されてなることを特徴とするものであり、エミッション電流の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0031】
請求項4の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極として絶縁膜が形成されてなることを特徴とするものであり、エミッション電流の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0032】
請求項5の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成することを特徴とし、従来に比べてエミッション電流の面内ばらつきが小さな電界放射型電子源を提供することができる。
【0033】
請求項6の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成し、結晶層を酸化する酸化工程において請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極とし絶縁膜を形成することを特徴とし、従来に比べてエミッション電流の面内ばらつきが小さな電界放射型電子源を提供することができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
(参考例1)
本参考例では、陽極酸化方法および電気化学酸化方法を利用して形成される電子デバイスの一例として電界放射型電子源について例示する。
【0035】
本参考例の電界放射型電子源10は、図2に示すように、絶縁性基板(例えば、絶縁性を有するガラス基板、絶縁性を有するセラミック基板など)11の一表面側に電子源素子10aが形成されている。ここにおいて、電子源素子10aは、絶縁性基板11の上記一表面側に形成された下部電極12と、下部電極12上に形成されたノンドープの多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3上に形成された強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上に形成された表面電極7とで構成されている。つまり、電子源素子10aは、表面電極7と下部電極12とが対向しており、表面電極7と下部電極12との間に強電界ドリフト層6が介在している。なお、本参考例では、強電界ドリフト層6と下部電極12との間に多結晶シリコン層3を介在させてあるが、多結晶シリコン層3を介在させずに下部電極12上に強電界ドリフト層6を形成した構成を採用してもよい。
【0036】
ところで、下部電極12は金属材料からなる単層(例えば、Mo,Cr,W,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる単層)の薄膜により構成されているが、多層(例えば、Mo,Cr,W,Ti,Ta,Ni,Al,Cu,Au,Ptなどの金属あるいは合金あるいはシリサイドなど金属間化合物からなる多層)の薄膜により構成してもよいし、不純物をドープした多結晶シリコンなどの半導体材料により形成してもよい。なお、下部電極12の厚さは300nm程度に設定されている。
【0037】
また、表面電極7の材料には仕事関数の小さな材料(例えば、金)が採用されているが、表面電極7の材料は金に限定されるものではなく、また、単層構造に限らず、多層構造としてもよい。なお、表面電極7の厚さは強電界ドリフト層6を通ってきた電子がトンネルできる厚さであればよく、10〜15nm程度に設定すればよい。
【0038】
図2に示す構成の電界放射型電子源10から電子を放出させるには、例えば、図3に示すように、表面電極7に対向配置されたコレクタ電極21を設け、表面電極7とコレクタ電極21との間を真空とした状態で、表面電極7が下部電極12に対して高電位側となるように表面電極7と下部電極12との間に直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21が表面電極7に対して高電位側となるようにコレクタ電極21と表面電極7との間に直流電圧Vcを印加する。各直流電圧Vps,Vcを適宜に設定すれば、下部電極12から注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される(図3中の一点鎖線は表面電極7を通して放出された電子e−の流れを示す)。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0039】
本参考例の電界放射型電子源10では、表面電極7と下部電極12との間に流れる電流をダイオード電流Ipsと呼び、コレクタ電極21と表面電極7との間に流れる電流をエミッション電流(放出電子電流)Ieと呼ぶことにすれば(図3参照)、ダイオード電流Ipsに対するエミッション電流Ieの比率(=Ie/Ips)が大きいほど電子放出効率(=(Ie/Ips)×100〔%〕)が高くなる。
【0040】
強電界ドリフト層6は、後述のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを行うことにより形成されており、図4に示すように、少なくとも、下部電極12の上記一表面側に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン(半導体結晶)51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶(半導体微結晶)63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0041】
本参考例の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21と表面電極7との間にコレクタ電極21を高電位側として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極12から強電界ドリフト層6へ熱的励起された電子e−が注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e−はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図4中の矢印の向き(図4における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。
【0042】
以下、本参考例の電界放射型電子源10の製造方法について図5を参照しながら説明する。
【0043】
まず、絶縁性基板11の一表面上に所定膜厚(例えば、300nm程度)の金属膜(例えば、タングステン膜)からなる下部電極12をスパッタ法によって形成した後、絶縁性基板11の一表面側の全面に所定膜厚(例えば、1.5μm)のノンドープの多結晶シリコン層3を例えばプラズマCVD法によって形成することにより、図5(a)に示すような構造が得られる。なお、多結晶シリコン層3の成膜方法は、プラズマCVD法に限らず、LPCVD法、触媒CVD法、スパッタ法、CGS(Continuous Grain Silicon)法などを採用すればよい。
【0044】
ノンドープの多結晶シリコン層3を形成した後、上述のナノ結晶化プロセス(陽極酸化処理工程)を行うことにより、多結晶シリコンの多数のグレイン51(図4参照)と多数のシリコン微結晶63(図4参照)とが混在する複合ナノ結晶層4が形成され、図5(b)に示すような構造が得られる。ここにおいて、ナノ結晶化プロセスでは、図1(a)に示す構成の陽極酸化装置を用いて半導体層である多結晶シリコン層3の陽極酸化を行う。ここにおいて、陽極酸化装置では、規定の電解液Bとして、55wt%のフッ化水素水溶液とエタノールとを略1:1で混合した混合液よりなる電解液が処理槽41に入っており、多結晶シリコン層3の主表面における陽極酸化の対象領域Eに光照射を行いながら所定の条件で陽極酸化処理を行っている。陽極酸化装置の基本構成は図13(a)に示した従来構成と同じであり、陰極42の形状を調整することによって、対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように多結晶シリコン層3の主表面における電流密度を制御する点が相違する。具体的には、図1(a),(b)に示すように、格子状の陰極42の外形寸法を対象領域Eの外形寸法よりも小さく設定することで多結晶シリコン層3の周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制している。言い換えれば、対象領域Eの全域にわたって電流密度が均一になるように陰極42の形状を設定している。なお、本参考例における陽極酸化処理では、例えば、500Wのタングステンランプからなる光源により多結晶シリコン層3の表面(主表面)に光照射を行いながら、ガルバノスタットよりなる電源(図示せず)から陽極と陰極42との間に定電流(例えば、電流密度が12mA/cm2の電流)を所定時間(例えば、10秒)だけ流すことによって複合ナノ結晶層4が形成される。このようにして形成された複合ナノ結晶層4は、多結晶シリコンのグレイン51およびシリコン微結晶63を含んでいる。
【0045】
上述のナノ結晶化プロセスが終了した後に、上述の酸化プロセスを行うことによって複合ナノ結晶層4を電気化学的に酸化することで図4のような構成の複合ナノ結晶層からなる強電界ドリフト層6が形成され、図5(c)に示すような構造が得られる。ここに、酸化プロセス(酸化工程)は、上述の図1(a)に示す構成の陽極酸化装置を用いて半導体層(結晶層)である複合ナノ結晶層4の電気化学酸化を行う。したがって、陽極酸化と同様に、陰極42の形状を調整することによって、電気化学酸化の対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように多結晶シリコン層3の主表面における電流密度を制御する点が従来の電気化学酸化方法とは相違する。酸化プロセスでは、処理槽41に入れる規定の電解液Bとして、例えばエチレングリコールからなる有機溶媒中に0.04mol/lの硝酸カリウムからなる溶質を溶かした溶液を用い、電解液B中に複合ナノ結晶層4が形成された被処理物Cを浸漬し、電解液B中において複合ナノ結晶層4に陰極33を対向配置して、下部電極12を陽極とし、電源から陽極(下部電極12)と陰極42との間に定電流(例えば、電流密度が0.1mA/cm2の電流)を流し複合ナノ結晶層4を電気化学的に酸化する酸化処理を行うことによって上述のグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64を含む強電界ドリフト層6を形成するようになっている。なお、本参考例では、上述のナノ結晶化プロセスを行うことによって形成される複合ナノ結晶層4においてグレイン51、シリコン微結晶63以外の領域はアモルファスシリコンからなるアモルファス領域となっており、強電界ドリフト層6においてグレイン51、シリコン微結晶63、各シリコン酸化膜52,64以外の領域がアモルファスシリコン若しくは一部が酸化したアモルファスシリコンからなるアモルファス領域65となっているが、ナノ結晶化プロセス(陽極酸化処理)の条件によってはアモルファス領域65が孔となり、このような場合の複合ナノ結晶層4は従来例と同様に多孔質多結晶シリコン層とみなすことができる。
【0046】
強電界ドリフト層6を形成した後は、例えば蒸着法などによって金薄膜からなる表面電極7を強電界ドリフト層6上に形成することにより、図5(d)に示す構造の電界放射型電子源10が得られる。
【0047】
以上説明した製造方法によれば、強電界ドリフト層6を形成する際のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスにおいて、陽極酸化および電気化学酸化の対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層(多結晶シリコン層3および複合ナノ結晶層4)の主表面における電流密度を制御するので、陽極酸化および電気化学酸化の対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる(つまり、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる)。しかも、陰極42の形状を調整することによって半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極42の形状を調整するだけで、対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0048】
(参考例2)
ところで、参考例1にて説明した陽極酸化方法および電気化学酸化方法では、陰極42の外形寸法を対象領域Eの外形寸法よりも小さくすることによって対象領域Eでの電流密度の面内均一性を高めているが、陰極42を構成する平行線群のピッチが同じなので、対象領域Eと陰極42との間の間隔や電解液Bの比抵抗などによっては対象領域Eの電流密度を十分に均一化することができない場合がある。
【0049】
これに対して、本参考例では、図6(a)に示すような陽極酸化装置を用いて被処理物Cの多結晶シリコン層3からなる半導体層における対象領域Eの陽極酸化を行い、さらに、複合ナノ結晶層4からなる半導体層における対象領域Eの電気化学酸化を行っている。なお、図6に示す陽極酸化装置において参考例1における陽極酸化装置と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、電界放射型電子源10の構成および動作は参考例1と同じなので図示および説明を省略する。
【0050】
本参考例における陽極酸化装置の基本構成は参考例1における陽極酸化装置と同じであって、陰極42の形状が相違している。すなわち、本参考例では、図6(a),(b)に示すように、陰極42の外形寸法を従来同様、対象領域Eの外形寸法と略同じに設定してあり、陰極42の周部での平行線間のピッチを中央部に比べて大きくすることによって、対象領域Eでの電流密度の均一性を高めている。言い換えれば、本参考例では、対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように、格子状の陰極42の平行線間のピッチを変化させてある。つまり、陰極42の単位面積当たりの比表面積が陰極42の周部において陰極42の他の部分に比べて小さくなるように陰極42の形状を調整することによって半導体層(多結晶シリコン層3および複合ナノ結晶層4)の主表面における電流密度を制御している。
【0051】
しかして、本参考例では、参考例1と同様に、強電界ドリフト層6を形成する際のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスにおいて、陽極酸化および電気化学酸化の対象領域Eの周部での電流密度が対象領域Eの他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層(多結晶シリコン層3および複合ナノ結晶層4)の主表面における電流密度を制御するので、陽極酸化および電気化学酸化の対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを小さくすることができる。しかも、陰極42の形状を調整することによって半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極42の形状を調整するだけで、対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。
【0052】
(参考例3)
ところで、参考例1および参考例2では陰極42の形状を調整することによって対象領域Eの電流密度を均一化しているので、対象領域Eの形状に応じて陰極42の形状を設計する必要がある。
【0053】
これに対して、本参考例では、図7(a)に示すような陽極酸化装置を用いて被処理物Cの多結晶シリコン層3からなる半導体層における対象領域Eの陽極酸化を行い、さらに、被処理物Cの複合ナノ結晶層4からなる半導体層における対象領域Eの電気化学酸化を行っている。なお、図7(a)に示す陽極酸化装置において参考例1における陽極酸化装置と同様の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、電界放射型電子源10の構成および動作は参考例1と同じなので図示および説明を省略する。
【0054】
本参考例における陽極酸化装置の基本構成は参考例1における陽極酸化装置と同じであって、図7(a),(b)に示すように、半導体層における対象領域Eの周辺に対象領域Eの周部での電流密度が抑制されるようなダミー領域Dを設けることによって半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極42の形状を変更することなしに対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができる。なお、ダミー領域Dは対象領域Eと同じ材料により構成しているので、対象領域Eと同時に形成すればよい。
【0055】
(実施形態1)
本実施形態の電界放射型電子源10の基本構成は図12に示した従来構成と略同じであって、図8に示すように、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、各下部電極12にそれぞれ重なる形で形成された複数の多結晶シリコン層3と、各多結晶シリコン層3にそれぞれ重なる形で形成された複数の強電界ドリフト層6と、隣り合う強電界ドリフト層6間を埋める多結晶シリコン層よりなる分離層16と、強電界ドリフト層6および分離層16の上で強電界ドリフト層6および分離層16に跨って下部電極12に交差(直交)する方向に列設された複数本の表面電極7とを備えている。なお、強電界ドリフト層6は参考例1にて図4を参照して説明した複合ナノ結晶層により構成されている。
【0056】
本実施形態の電界放射型電子源10では、上記従来構成と同様に、絶縁性基板11の一表面上に列設された複数本の下部電極12と、下部電極12に交差する方向に列設された複数本の表面電極7との交点に相当する部位に強電界ドリフト層6の一部が挟まれているから、表面電極7と下部電極12との組を適宜選択して選択した組間に電圧を印加することにより、強電界ドリフト層6において選択された表面電極7と下部電極12との交点に相当する部位に強電界が作用して電子が放出される。つまり、複数本の表面電極7の群と複数本の下部電極12の群とからなるマトリクス(格子)の格子点に、下部電極12と、下部電極12上の多結晶シリコン層3と、多結晶シリコン層3上の強電界ドリフト層6と、強電界ドリフト層6上の表面電極7とからなる電子源素子10aを配置したことに相当し、電圧を印加する表面電極7と下部電極12との組を選択することによって所望の電子源素子10aから電子を放出させることが可能になる。ここにおいて、各下部電極12は、短冊状に形成され、長手方向の両端部上にそれぞれパッド28が形成されている。また、各表面電極7も、短冊状に形成され、長手方向の両端部から延長された部位上にそれぞれパッド27が形成されている。なお、上述の記載から分かるように、電子源素子10aは画素ごとに設けられることになる。
【0057】
本実施形態の電界放射型電子源10の動作は図12に示した従来構成の動作と略同じであって、表面電極7を真空中に配置するとともに対向配置されるフェースプレート30にコレクタ電極(アノード電極)21を設け、選択した表面電極7を下部電極12に対して正極として直流電圧Vpsを印加するとともに、アノード電極21を表面電極7に対して正極として直流電圧Vcを印加することによって、強電界ドリフト層6に作用する電界により下部電極12から強電界ドリフト層6へ注入された電子が強電界ドリフト層6をドリフトし表面電極7を通して放出される。なお、強電界ドリフト層6は、上述の図4と同様の構成を有している。すなわち、強電界ドリフト層6は、少なくとも、絶縁性基板11の一表面側(つまり、下部電極12における表面電極7側)に列設された柱状の多結晶シリコンのグレイン51と、グレイン51の表面に形成された薄いシリコン酸化膜52と、グレイン51間に介在する多数のナノメータオーダのシリコン微結晶63と、各シリコン微結晶63の表面に形成され当該シリコン微結晶63の結晶粒径よりも小さな膜厚の絶縁膜である多数のシリコン酸化膜64とから構成されると考えられる。なお、各グレイン51は、下部電極12の厚み方向に延びている。
【0058】
したがって、本実施形態の電界放射型電子源10では、次のようなモデルで電子放出が起こると考えられる。すなわち、表面電極7と下部電極12との間に表面電極7を高電位側として直流電圧Vpsを印加するとともに、コレクタ電極21と表面電極7との間にコレクタ電極21を高電位側として直流電圧Vcを印加することにより、直流電圧Vpsが所定値(臨界値)に達すると、下部電極12から強電界ドリフト層6へ熱的励起された電子e−が注入される。一方、強電界ドリフト層6に印加された電界の大部分はシリコン酸化膜64にかかるから、注入された電子e−はシリコン酸化膜64にかかっている強電界により加速され、強電界ドリフト層6におけるグレイン51の間の領域を表面に向かって図4中の矢印の向き(図4における上向き)へドリフトし、表面電極7をトンネルし真空中に放出される。しかして、強電界ドリフト層6では下部電極12から注入された電子がシリコン微結晶63でほとんど散乱されることなくシリコン酸化膜64にかかっている電界で加速されてドリフトし、表面電極7を通して放出され、強電界ドリフト層6で発生した熱がグレイン51を通して放熱されるから、電子放出時にポッピング現象が発生せず、安定して電子を放出することができる。なお、強電界ドリフト層6の表面に到達した電子はホットエレクトロンであると考えられ、表面電極7を容易にトンネルし真空中に放出される。また、表面電極7を通して放出される電子線の放出方向が表面電極7の法線方向に揃いやすいので、複雑なシャドウマスクや電子収束レンズを設ける必要がなく、ディスプレイの薄型化を図れるという利点がある。
【0059】
ところで、本実施形態の電界放射型電子源10は参考例1にて説明した製造方法に準拠して製造することができる。すなわち、強電界ドリフト層6は、下部電極12が形成された絶縁性基板11の上記一表面側の全面にノンドープの多結晶シリコン層を堆積させた後に、当該多結晶シリコン層のうち強電界ドリフト層6に対応した部位を参考例1と同様のナノ結晶化プロセスにて陽極酸化することで複合ナノ結晶層を形成し、複合ナノ結晶層を参考例1と同様の酸化プロセスにて電気化学的に酸化することにより形成することができる。なお、ここでは、強電界ドリフト層6を形成する際のナノ結晶化プロセスおよび酸化プロセスを参考例1と同様にしているが、参考例2あるいは参考例3と同様にしてもよい。
【0060】
また、図9に示すように、半導体層である多結晶シリコン層3の周部に位置する下部電極12への電流導入用の配線12aの幅を他の下部電極12への電流導入用の配線12aの幅に比べて狭くすることによって陽極酸化時および電気化学酸化時に半導体層の主表面における電流密度を制御するようにすれば、陰極42の形状を変更することなしに対象領域Eでの電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電界放射型電子源10のエミッション電流Ieの面内ばらつきを小さくすることができる。
【0061】
ところで、上記各参考例および上記実施形態では、酸化プロセスとして、電気化学的な酸化方法を採用しているが、基板の耐熱温度が比較的高い場合には、酸化プロセスとして、急速加熱法により急速熱酸化する方法を採用してもよい。
【0062】
【発明の効果】
請求項1の発明は、陽極酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する陽極酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陽極酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0066】
また、請求項1の発明は、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極の形状を変更することなしに陽極酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0067】
請求項2の発明は、電気化学酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する電気化学酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御するので、電気化学酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができ、電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0071】
また、請求項2の発明は、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御するので、陰極の形状を変更することなしに電気化学酸化の対象領域での電流密度の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるから、低コストで電子デバイスの特性の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0072】
請求項3の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、急速加熱法により絶縁膜が形成されてなるものであり、エミッション電流の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0073】
請求項4の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極として絶縁膜が形成されてなるものであり、エミッション電流の面内ばらつきを従来に比べて小さくすることができるという効果がある。
【0074】
請求項5の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成するので、従来に比べてエミッション電流の面内ばらつきが小さな電界放射型電子源を提供することができるという効果がある。
【0075】
請求項6の発明は、下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成し、結晶層を酸化する酸化工程において請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極とし絶縁膜を形成するので、従来に比べてエミッション電流の面内ばらつきが小さな電界放射型電子源を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は参考例1における陽極酸化装置の概略構成図、(b)は陽極酸化装置の要部概略斜視図である。
【図2】 同上における電界放射型電子源の概略断面図である。
【図3】 同上における電界放射型電子源の動作説明図である。
【図4】 同上における電界放射型電子源の動作説明図である。
【図5】 同上における電界放射型電子源の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図6】 (a)は参考例2における陽極酸化装置の概略構成図、(b)は陽極酸化装置の要部概略斜視図である。
【図7】 (a)は参考例3における陽極酸化装置の概略構成図、(b)は陽極酸化装置の要部概略斜視図である。
【図8】 実施形態における電界放射型電子源の一部破断した斜視図である。
【図9】 同上における電界放射型電子源の製造方法の一例を説明するための主要工程斜視図である。
【図10】 従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である。
【図11】 他の従来例を示す電界放射型電子源の動作説明図である
【図12】 同上を応用したディスプレイの概略構成図である。
【図13】 (a)は従来例における陽極酸化装置の概略構成図、(b)は陽極酸化装置の要部概略斜視図である。
【図14】 同上における電界放射型電子源の製造方法の一例を説明するための主要工程斜視図である。
【符号の説明】
41 処理槽
42 陰極
B 電解液
C 被処理物
E 対象領域
Claims (6)
- 陽極酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する陽極酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御するようにし、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御することを特徴とする陽極酸化方法。
- 電気化学酸化の対象となる半導体層の主表面とは反対側の電極を陽極として、電解液中で半導体層の主表面側に対向配置される陰極との間に通電する電気化学酸化方法であって、半導体層における対象領域の周部での電流密度が対象領域の他の部分に比べて大きくなるのを抑制するように半導体層の主表面における電流密度を制御するようにし、前記電極が複数本であって前記半導体層の主表面とは反対側に互いに平行に列設されており、前記対象領域の周部に重なる電極への電流導入用の配線の幅を他の部分に重なる電極への電流導入用の配線の幅に比べて狭くすることによって前記半導体層の主表面における電流密度を制御することを特徴とする電気化学酸化方法。
- 下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、急速加熱法により絶縁膜が形成されてなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源であって、強電界ドリフト層は、請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層が形成され、請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極として絶縁膜が形成されてなることを特徴とする電界放射型電子源。
- 下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフトし表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成することを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
- 下部電極と、下部電極に対向する表面電極と、下部電極と表面電極との間に介在しナノメータオーダの多数の半導体微結晶および各半導体微結晶それぞれの表面に形成され半導体微結晶の結晶粒径よりも小さな膜厚の酸化膜よりなる多数の絶縁膜を有する強電界ドリフト層とを備え、下部電極と表面電極との間に表面電極を高電位側として電圧を印加することにより下部電極から注入された電子が強電界ドリフト層をドリフト し表面電極を通して放出される電界放射型電子源の製造方法であって、強電界ドリフト層を形成するにあたっては、ナノメータオーダの多数の半導体微結晶を形成するナノ結晶化工程において請求項1記載の陽極酸化方法により下部電極を陽極としてナノメータオーダの多数の半導体微結晶を有する結晶層を形成し、結晶層を酸化する酸化工程において請求項2記載の電気化学酸化方法により下部電極を陽極とし絶縁膜を形成することを特徴とする電界放射型電子源の製造方法。
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